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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159721
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】リスク評価システム
(51)【国際特許分類】
   G16H 50/00 20180101AFI20231025BHJP
【FI】
G16H50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069611
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】折谷 忠人
(72)【発明者】
【氏名】大岡 眞行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 奈緒之
【テーマコード(参考)】
5L099
【Fターム(参考)】
5L099AA04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】幅広い患者が全身疾患のリスク評価を簡便に行いやすく、かつ、患者への負担を軽減することができるリスク評価システムを提供する。
【解決手段】患者の全身疾患に関するリスク評価システム100であって、収集部と、記憶部と、演算部と、を備える。記憶部は、収集部が端末から受け付けた口腔内環境に関するリスク情報に基づいて、全身疾患に関するリスクを評価するためのデータを記憶している。演算部は、リスク情報と、記憶部に記憶されているデータとに基づいて、リスクを評価し、リスクの評価結果を出力する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の全身疾患に関するリスク評価システムであって、
記憶部と、演算部と、を備え、
前記記憶部には、口腔内環境に関するリスク情報に基づいて、全身疾患に関するリスクを評価するためのデータが記憶されており、
前記演算部は、前記リスク情報と、前記記憶部に記憶されている前記データとに基づいて、前記リスクを評価し、前記リスクの評価結果を出力する、
リスク評価システム。
【請求項2】
前記リスク情報が、以下の(a)~(c)の少なくとも1つの情報を含む、請求項1に記載のリスク評価システム。
(a)患者の歯周ポケットの検査結果
(b)患者の口腔内から採取された検体の観察結果
(c)患者の歯周病菌の核酸増幅検査結果
【請求項3】
前記リスク情報は、少なくとも前記(b)又は前記(c)の一方を含有する、請求項2に記載のリスク評価システム。
【請求項4】
前記リスク情報は、少なくとも前記(b)及び前記(c)の両方を含有する、請求項2に記載のリスク評価システム。
【請求項5】
前記リスク情報は、少なくとも前記(a)、前記(b)、及び前記(c)を含有する、請求項2に記載のリスク評価システム。
【請求項6】
前記リスク情報は、少なくとも前記(b)を含み、
前記(b)における口腔内から採取された検体の観察結果は、少なくとも、口腔内の菌の量、及び活動状態の結果を含む、請求項2に記載のリスク評価システム。
【請求項7】
前記リスク情報は、少なくとも前記(c)を含み、
前記(c)における歯周病菌の核酸増幅検査結果は、少なくとも、所定の菌種の量に関する結果を含む、請求項2又は請求項6に記載のリスク評価システム。
【請求項8】
前記リスク情報が、さらに以下の(d)を含む、請求項2に記載のリスク評価システム。
(d)患者の咬合力の検査結果
【請求項9】
前記リスク情報は、患者の問診に関する情報としてさらに以下の(e)~(l)の少なくとも1つを含む、請求項2に記載のリスク評価システム。
(e)患者の妊娠の有無
(f)患者が糖尿病に罹患しているか否か
(g)患者の食事時における咀嚼の程度
(h)患者の嚥下機能の適否
(i)患者の歯の動揺の程度
(j)患者の睡眠時間
(k)患者の喫煙の有無及び程度
(l)患者の口臭の程度
【請求項10】
前記全身疾患に関するリスクが、早産、糖尿病、嚥下障害、睡眠時無呼吸症候群、ブラキシズム及び肥満からなる群から選択される1つ以上の疾患のリスクである、請求項2又は請求項9に記載のリスク評価システム。
【請求項11】
前記演算部は、前記リスクの評価結果に基づいて、患者の全身疾患に関する予防又は全身疾患の治療のための医療機関の受診に係るフィードバック情報をさらに出力する、請求項1又は請求項2に記載のリスク評価システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リスク評価システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、全身疾患に関するリスク評価が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、在胎22週0日から33週6日までのヒト妊婦から採取された血液、血漿又は血清である検体のガレクチン-3濃度を測定し、その測定結果が所定の値であることに基づいて早産要注意と判定する、早産リスクの判定方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-34502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のような早産等の全身疾患のリスク判定は、リスク判定できる対象・時期が限定されるなど、リスク判定の方法として汎用性に欠ける。また、検査方法等も特殊な方法が使用されるため、検査機関が限定的になるという問題がある。
【0006】
また、全身疾患のリスク判定には患者から血液を採取することがあるが、血液を採取するのに手間が掛かり、また、患者に負担が掛かるという問題がある。
【0007】
本開示の課題は、幅広い患者が全身疾患のリスク評価を簡便に行いやすく、かつ、患者への負担を軽減できる、リスク評価システムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のリスク評価システムは、患者の全身疾患に関するリスク評価システムであって、記憶部と、演算部と、を備え、前記記憶部には、口腔内環境に関するリスク情報に基づいて、全身疾患に関するリスクを評価するためのデータが記憶されており、前記演算部は、前記リスク情報と、前記記憶部に記憶されている前記データとに基づいて、前記リスクを評価し、前記リスクの評価結果を出力する。
【発明の効果】
【0009】
本開示のリスク評価システムによれば、幅広い患者が全身疾患のリスク評価を簡便に行いやすく、かつ、患者への負担を軽減することができる、という効果を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】歯科医療分野の歯周病検診・予防に係る検査結果及び問診を入力とするリスク情報として用いた、全身疾患に関するリスク評価の概念図である。
図2】本実施形態のリスク評価システムの構成の一例を示すブロック図である。
図3】本実施形態のリスク評価装置として機能するコンピュータの概略ブロック図である。
図4】リスクの評価結果の出力の一例を示す図である。
図5】リスク評価装置によって実行されるリスク評価処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本実施形態について詳細に説明する。本実施形態では、歯科医療分野における患者の種々の検査結果を用いて、全身疾患に関するリスク(以下、単にリスクと記載する)を評価する。図1は、歯科医療分野の歯周病検診・予防に係る検査結果及び問診を入力とするリスク情報として用いた、全身疾患に関するリスク評価の概念図である。本実施形態のリスク評価装置は、入力とするリスク情報として、歯科医院等で行われた患者の検査結果、及び歯科医院等で行われた患者の問診を用いる。リスク評価装置は、リスク情報と、リスク情報に基づいてリスクを評価するためのデータとに基づいて、リスクの評価結果を出力する。なお、図1に記載される入力と出力の内容は、それぞれ例示であり、これらに限定されない。本実施形態で扱われる全身疾患は、例えば、早産、糖尿病、嚥下障害、睡眠時無呼吸症候群、ブラキシズム、肥満、及び歯周病、等の全身の身体部位からの影響を受ける疾患を指す。歯周病検診・予防に係る検査は、歯周ポケット、検体の採取等、多角的に行われており、複数の検査結果を用いることができる。このような歯周病検診・予防に係る検査は、簡便に行える検査であるため、患者の検査負担を増やすことなく、幅広い患者に対してリスク評価が行える。なお、リスク情報として用いる検査結果及び問診の詳細については後述する。
【0012】
<リスク評価システムの構成>
【0013】
図2は、本実施形態のリスク評価システムの構成の一例を示すブロック図である。リスク評価システム100は、リスク評価装置110と、複数の端末120とがネットワークNを介して接続されている。
【0014】
リスク評価装置110のハードウェアとしての構成を図3に示す。CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0015】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12又はストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12又はストレージ14に記憶されているプログラムに従って、上記各構成の制御及び各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12又はストレージ14には、解析処理のためのプログラムが格納されている。
【0016】
ROM12は、各種プログラム及び各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラム又はデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)又はSSD(Solid State Drive)等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、及び各種データを格納する。
【0017】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、及びキーボード又は音声入力用のマイクを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0018】
表示部16は、例えば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能してもよい。
【0019】
通信インタフェース17は、端末等の他の機器と通信するためのインタフェースである。当該通信には、例えば、イーサネット(登録商標)若しくはFDDI等の有線通信の規格、又は、4G、5G、若しくはWi-Fi(登録商標)等の無線通信の規格が用いられる。
【0020】
端末120は、リスク評価の管理主体である企業等に設置されている端末である。端末120は、リスク情報をリスク評価装置110に送信する。また、端末120は、リスク評価装置110から出力されたリスクの評価結果を表示する機能を有する。
【0021】
リスク評価装置110は、機能的には、図2に示されるように、収集部112と、演算部114と、記憶部116とを備えている。
【0022】
収集部112は、端末120から受け付けたリスク情報を記憶部116に格納する。また、リスク情報のうち、解析等が必要な情報に関しては演算部114で必要な演算して取得してもよい。また、収集部112は、患者のリスク評価に必要なリスク情報のうちの個別の情報を端末120に通知するようにしてもよい。
【0023】
記憶部116は、リスク情報に基づいて全身疾患に関するリスクを評価するためのデータを予め記憶しており、収集部112が受け付けたリスク情報が記憶される。リスクを評価するためのデータとしては、例えば、リスク評価の各基準、又は、学習済みモデルが利用できる。以下では基準を用いる例を説明する。リスク情報の種類は、(A)患者の検査結果に関する情報と、(B)患者の問診に関する情報とに大きく分けられ、それぞれについての以下(a)~(l)の各項目の個別の情報をリスク情報として用いる。(A)患者の検査結果に関する情報は、(a)患者の歯周ポケットの検査結果、(b)患者の口腔内から採取された検体の観察結果、(c)患者の歯周病菌の核酸増幅検査結果、及び(d)患者の咬合力の検査結果、等の情報である。(b)における口腔内から採取された検体の観察結果は、少なくとも、口腔内の菌の量、及び活動状態の結果を含む。(c)における歯周病菌の核酸増幅検査結果は、少なくとも、リアルタイムPCR検査による所定の菌種の量に関する結果を含む。菌種としては、例えば、レッドコンプレックス(具体的には、プロフィロモナス・ジンジバリス(P.g.菌)、タネレラ・フォーサイシア(T.f.菌)、トレポネーマ・デンティコーラ(T.d.菌))、オレンジコンプレックス(具体的には、プレボテーラ・インテルメディア(P.i.菌)、アクチノバチルス・アクチノマイセテムコミタンス(A.a.菌)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(F.n.菌))等の主な歯周病菌が挙げられる。(B)患者の問診に関する情報は、(e)患者の妊娠の有無、(f)患者が糖尿病に罹患しているか否か、(g)患者の食事時における咀嚼の程度、(h)患者の嚥下機能の適否、(i)患者の歯の動揺の程度、(j)患者の睡眠時間、(k)患者の喫煙の有無及び程度、及び(l)患者の口臭の程度、等の情報である。
【0024】
リスクを評価するためのデータとして学習済みモデルを用いる場合について説明する。学習済みモデルは、例えば、深層学習の手法により、ニューラルネットワークモデルのパラメータの重みを学習したモデルであって、リスク情報を入力としてリスクの評価結果を出力するように予め学習されたモデルである。学習データは、実際に取得されたリスク情報(a)~(l)と、後述するリスク評価の各基準を元にした正解となるリスク評価の結果とを用いる。モデルの学習は、例えば、リスク情報の各項目の個別の情報をニューラルネットワークのパラメータとして、実際に取得されたリスク情報が入力されたときに、正解となるリスクの評価結果を出力するように、パラメータの重みを学習する。深層学習は、他クラス分類問題に適用可能な任意の手法を用いればよい。
【0025】
演算部114は、上記(a)~(l)のリスク情報と、リスク情報に対する各基準に基づいて、患者の全身疾患に関するリスクを評価し、リスクの評価結果を端末120に出力する。また、演算部114は、リスクの評価結果に基づいて、患者の全身疾患に関する予防又は全身疾患の治療のための医療機関の受診に係るフィードバック情報を生成し、フィードバック情報を端末120に出力する。
【0026】
リスク評価をするためのデータのリスク情報に対する基準の例を説明する。リスク情報のうち、(A)患者の検査結果に関する情報については、直接的には歯周病のリスク評価そのものを示す情報とも言える。一方、歯周病と相関してリスクが高くなる他の疾患(以下、単に他の疾患と記載する)との相関性が研究により確認されている。すなわち、上記に挙げた早産、糖尿病、嚥下障害、睡眠時無呼吸症候群、ブラキシズム、及び肥満といった全身疾患は、歯周病に関連する他の疾患である。歯周病と他の疾患との関連性については後述する。そのため、(A)患者の検査結果に関する情報から、他の疾患についてリスク評価をするための基準(リスクを評価するためのデータ)を設けて、リスク評価を行うことができる。このように、演算部114が評価する全身疾患に関するリスクは、早産、糖尿病、嚥下障害、睡眠時無呼吸症候群、ブラキシズム及び肥満からなる群から選択される1つ以上の疾患のリスクとすることができる。また、(B)患者の問診に関する情報については、問診内容が、歯周病を含む様々な全身疾患に繋がるリスク要因として関連付けられる。そのため、(B)については、全身疾患と問診内容との相関を示す研究や統計情報から、関連付けられる全身疾患と問診内容との組み合わせを設定し、当該組み合わせについてリスク評価のための基準を設ける。
【0027】
本実施形態では、少なくとも、(A)患者の検査結果に関する情報の(a)~(d)ごとの基準を設ける。(B)患者の問診に関する情報の(e)~(l)は、基準を設けてもよいし、基準を設けずに、(A)患者の検査結果に関する情報の基準で求めたリスク評価の重みとしても良い。また、出力対象の全身疾患を選択するフラグとして利用してもよい。例えば、(e)患者の妊娠の有無は、早産の全身疾患の出力のフラグとすることができる。演算部114は、個別の情報ごとに対応する全身疾患のリスクを求める。そして、演算部114は、個別の情報ごとに求めた全身疾患のリスクを、重みづけ等により統合し、統合した全身疾患のリスクを求め、及びリスクの評価結果として出力する。
【0028】
(A)患者の検査結果に関する情報の基準を説明する。(a)患者の歯周ポケットの検査結果は、歯周病の進行度が数値化されている。そのため、(a)については、進行度が高いほど、歯周病及び他の疾患のリスクが高くなるように、リスク評価の基準を設ける。(b)患者の口腔内から採取された検体の観察結果は、歯周ポケット等で患者の口腔内から採取された検体を位相差顕微鏡で観察することで得られた、歯周病菌のおおよその量、動き等の観察結果である。そのため、(b)については、歯周病菌のおおよその量が多く動きが活発であるほど、歯周病及び他の疾患のリスクが高くなるように、リスク評価の基準を設ける。(c)患者の歯周病菌の核酸増幅検査結果は、検体についてリアルタイムPCR法を用いた解析により、歯周病菌の量を定量的に測定したものである。(c)では歯周病菌の量を正確に測定可能であり、歯周病菌に対する基準値との比較により歯周病であるかを判断できる。そのため、(c)については、歯周病菌の量が基準を超えて多いほど、歯周病及び他の疾患のリスクが高くなるように、リスク評価の基準を設ける。また、(d)患者の咬合力の検査結果については、患者の噛む力がどの程度であるかを数値化したものである。噛む力が弱いほど、咀嚼が不十分で唾液の分泌に影響し歯周病になりやすいと考えられる。そのため(d)については、咬合力が弱いほど、歯周病及び他の疾患のリスクが高くなるように、リスク評価の基準を設ける。
【0029】
リスク情報のうち、(b)患者の口腔内から採取された検体の観察結果、(c)患者の歯周病菌の核酸増幅検査結果は、患者への負担が少ないにもかかわらず、実際に患者が保有する菌に関する情報を用いることでより正確なリスク評価もすることができる。この観点から、リスク情報は(b)又は(c)の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、リスク情報が(b)及び(c)の両方を含むことは、簡便かつより正確なリスク評価ができる点で好ましい。
【0030】
(B)患者の問診に関する情報の基準を説明する。(e)患者の妊娠の有無については、早産のフラグとすると共に、妊娠している場合に影響する早産以外の全身疾患のリスクが高くなるように、リスク評価の基準を設ける。(f)患者が糖尿病に罹患しているか否かについては、糖尿病に罹患している場合に影響する糖尿病以外の他の全身疾患のリスクが高くなるように、リスク評価の基準を設ける。(g)患者の食事時における咀嚼の程度については、咀嚼と関連する全身疾患のリスクが、咀嚼が不十分であるほど高くなるように、リスク評価の基準を設ける。(h)患者の嚥下機能の適否については、嚥下機能と関連する全身疾患のリスクが、嚥下機能が低下して不適であるほど高くなるように、リスク評価の基準を設ける。(i)患者の歯の動揺の程度については、歯の動揺と関連する全身疾患のリスクが、歯の動揺が大きいほど高くなるように、リスク評価の基準を設ける。(j)患者の睡眠時間については、睡眠時間と関連する全身疾患のリスクが、睡眠時間が不十分であるほど高くなるように、リスク評価の基準を設ける。(k)患者の喫煙の有無及び程度については、喫煙と関連する全身疾患のリスクが、喫煙頻度が多いほど高くなるように、リスク評価の基準を設ける。(l)患者の口臭の程度については、口臭と関連する全身疾患のリスクが、睡眠時間が不十分であるほど高くなるように、リスク評価の基準を設ける。
【0031】
(B)患者の問診に関する情報は、特に、患者に対する負担が少なくかつ、簡便である点で好ましく、さらに、上記(e)~(l)に関する問診は、全身疾患に関してより正確なリスク評価ができる点で好ましい。
【0032】
ここでリスク評価を行うための指標として、リスク情報と全身疾患との関連性を示す参考文献を例示する。リスク評価をするためのデータの基準はこれらの関連性を元に定めることができる。
【0033】
歯周病と早産との関係については、参考文献1において相関が確認されている。また、歯周病と糖尿病との関係についても参考文献1において相関が確認されている。
[参考文献1]特定非営利活動法人 日本歯周病学会 編:歯周病と全身の健康(2015)
【0034】
また、咬合力、嚥下機能に関して、参考文献1には、高齢者や神経学的な障害がある者では、歯周病に罹患していることが口腔内細菌を増加させ、かつ、誤嚥を起こしやすい状態なので、歯周病で誤嚥性肺炎(嚥下障害を有する)のリスクが高まるとの見解が示されている。また、肥満について、参考文献1には、歯周病と同様に、2型糖尿病、脂質異常症、胆石症、心血管病変、高血圧、ある種の癌、及び慢性疾患の主なリスク因子と指摘されている。また、歯周病の罹患と肝機能の低下に相関が指摘されている。
【0035】
歯周病と睡眠時間との関係について、参考文献2及び参考文献3において相関が指摘されており、睡眠時無呼吸症候群のリスク要因となる。
[参考文献2]"睡眠と歯科って、なにか関係があるの?",オーラルヘルスオンライン,URL:"https://www.dent-kng.or.jp/colum/basic/1873/"
[参考文献3]"睡眠時無呼吸症における歯科の役割"、高倉育子、耳展 60:1;41~48,2017
【0036】
歯周病と喫煙の関係については、参考文献4において、喫煙者及び非喫煙者においてプラーク付着量、細菌の総菌数ともに同程度であっても、喫煙者では歯周組織の破壊が促進される可能性が示唆されている。また、歯周病の原因菌がガス(メチルメルカプタンや硫化水素)を発生させ、口臭の原因となることは公知といえる。また、これらの例示した参考文献以外の組み合わせについても、種々の関連性を示す情報を元にリスク情報からリスクを評価するためのデータの基準として適用すればよい。
[参考文献4]日本歯周病学会誌,日歯周誌 53(1):40―49、2011
【0037】
図4は、リスクの評価結果の出力の一例を示す図である。図4に示す例では、全身疾患のリスクの評価結果を表示している。評価段階は、Aが問題なし、Bが概ね問題なし、Cがやや問題あり、Dが問題ありとしている。例では、やや問題ありとリスク評価された項目について、フィードバック情報として「食生活の習慣を見直しましょう」といった内容を出力している。またフィードバック情報には、問診内容を元にした具体的な情報を含めるようにしてもよく、詳細ボタンから確認できるようにしてもよい。
【0038】
<リスク評価システムの作用>
【0039】
次に、リスク評価システム100の作用を説明する。
【0040】
図5は、リスク評価装置110によって実行されるリスク評価処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14からリスク評価プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、リスク評価処理が行なわれる。
【0041】
ステップS100において、CPU11は収集部112として、端末120から受け付けたリスク情報を記憶部116に格納する。
【0042】
ステップS102において、CPU11は演算部114として、リスク情報と、リスク情報に対する各基準に基づいて、患者の全身疾患に関するリスクを評価し、リスクの評価結果を端末120に出力する。
【0043】
ステップS104において、CPU11は演算部114として、リスクの評価結果に基づいて、患者の全身疾患に関する予防又は全身疾患の治療のための医療機関の受診に係るフィードバック情報を生成し、フィードバック情報を端末120に出力する。
【0044】
以上説明したように、本実施形態に係るリスク評価システム100は、幅広い患者が全身疾患のリスク評価を簡便に行いやすく、かつ、患者への負担を軽減することができる。
【0045】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0046】
例えば、リスク評価システム100は、リスク情報として、少なくとも(b)又は(c)の一方又は両方を含有するようにしてもよい。また、リスク評価システム100は、リスク情報として、少なくとも(a)、(b)、及び(c)を含有するようにしてもよい。
【0047】
また、本願明細書中において、プログラムが予めインストールされている実施形態として説明したが、当該プログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。
【符号の説明】
【0048】
100 リスク評価システム
110 リスク評価装置
112 収集部
114 演算部
116 記憶部
120 端末
図1
図2
図3
図4
図5