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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159731
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】三次元積層造形装置
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/18 20060101AFI20231025BHJP
   B22F 12/44 20210101ALI20231025BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20231025BHJP
【FI】
H01J37/18
B22F12/44
B33Y30/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069626
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000004271
【氏名又は名称】日本電子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 淳
【テーマコード(参考)】
4K018
5C101
【Fターム(参考)】
4K018CA44
5C101AA35
5C101BB05
5C101CC05
5C101EE69
5C101EE76
(57)【要約】
【課題】オリフィスの交換等に容易に対応できる三次元積層造形装置を提供する。
【解決手段】三次元積層造形装置は、造形室に向けて荷電粒子ビームを出射するための部品を収容するとともに、鏡筒真空室を形成する鏡筒を備える。鏡筒は、鏡筒真空室を上流側真空室と下流側真空室とに仕切るとともに、それらの真空室間で気体の出入りを抑制するオリフィスを有する差動排気用部材と、差動排気用部材を着脱自在に受け入れる凹部を有する隔壁と、上流側真空室に通じる開口部が形成された外壁と、基端部が開口部の近傍に着脱可能に固定され、先端部に差動排気用部材を押さえる押さえ部を有する押さえ部材と、開口部を塞ぐ蓋体と、を備える。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
造形室に向けて荷電粒子ビームを出射するための部品を収容するとともに、前記荷電粒子ビームが通過する鏡筒真空室を形成する鏡筒を備える三次元積層造形装置において、
前記鏡筒は、前記荷電粒子ビームの出射方向で前記鏡筒真空室を上流側真空室と下流側真空室とに仕切るとともに、前記上流側真空室と前記下流側真空室との間で気体の出入りを抑制するオリフィスを有する差動排気用部材と、前記差動排気用部材を着脱自在に受け入れる凹部を有する隔壁と、前記上流側真空室に通じる開口部が形成された外壁と、基端部が前記開口部の近傍に着脱可能に固定され、先端部に前記差動排気用部材を押さえる押さえ部を有する押さえ部材と、前記開口部を塞ぐように前記外壁に着脱可能に取り付けられる蓋体と、を備える
三次元積層造形装置。
【請求項2】
前記押さえ部材の前記基端部は、前記外壁に固定されている
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項3】
前記押さえ部材の前記基端部は、前記蓋体に固定されている
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項4】
前記押さえ部材の少なくとも前記押さえ部は、弾性体によって構成されている
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項5】
前記押さえ部材は、板バネによって構成されている
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項6】
前記オリフィスは、前記差動排気用部材の中心部に設けられ、
前記押さえ部材には、切り欠きまたは孔が形成され、
前記押さえ部は、前記切り欠きまたは前記孔により前記オリフィスを露出させた状態で前記差動排気用部材を押さえる
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【請求項7】
前記押さえ部は、前記オリフィスの中心を通る仮想中心線上に配置される
請求項6に記載の三次元積層造形装置。
【請求項8】
前記凹部の深さ寸法は、前記差動排気用部材の厚み寸法よりも小さい
請求項1に記載の三次元積層造形装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三次元積層造形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ステージ上に敷き詰められた金属粉末に荷電粒子ビームを照射して金属粉末を溶融および凝固させるとともに、凝固させた層をステージの移動により順に積み上げて三次元の造形物を形成する三次元積層造形装置が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015-174423号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
三次元積層造形装置は、三次元の造形物を形成するための造形室と、造形室に向けて荷電粒子ビームを出射するための部品を収容する鏡筒とを備える。鏡筒は、荷電粒子ビームが通過する鏡筒真空室を形成する。荷電粒子ビームは、鏡筒真空室を経由して造形室に入射する。三次元の造形物を形成する場合、造形室および鏡筒真空室は、それぞれ真空状態に維持される。また、上述したステージは、造形室の内部に配置される。そして、ステージ上に敷き詰められた金属粉末は、荷電粒子ビームの照射によって溶融および凝固する。その際、金属粉末の溶融によって発生した金属蒸気やガスが原因で、造形室の真空度が悪化する。また、鏡筒真空室と造形室は互いにつながっているため、造形室の真空度が悪化すると、その影響で鏡筒真空室の真空度も悪化してしまう。鏡筒真空室の真空度の悪化は、荷電粒子ビームを発生する発生器の寿命が短くなるなどの不具合を招く。
【0005】
そこで、本出願人が開発した三次元積層造形装置では、荷電粒子ビームの出射方向で鏡筒真空室を第1真空室、第2真空室および第3真空室に区分し、上記発生器が配置される第1真空室を最上流、第3真空室を最下流に配置している。また、差動排気を実現するために、第1真空室と第2真空室との間(境界部)にオリフィスを設けるとともに、第2真空室と第3真空室との間(境界部)にもオリフィスを設けている。そして、第1真空室の真空度を第2真空室の真空度よりも高く設定するとともに、第2真空室の真空度を第3真空室の真空度よりも高く設定している。
【0006】
上記構成の三次元積層造形装置においては、第1真空室、第2真空室および第3真空室の相互間で、気体の出入りがオリフィスによって抑制される。このため、造形室の真空度が悪化した場合に、その影響で第1真空室の真空度が悪化することを抑制することができる。
【0007】
しかしながら、本発明者は、上記構成の三次元積層造形装置に新たな課題が存在することを見出した。以下、詳しく説明する。
鏡筒の内部には、荷電粒子ビームの照射位置等を制御するために、複数の電子レンズが第3真空室を囲むように直列に配置される。一方、造形室には、ステージ上に金属粉末を敷き詰めるために、粉末供給機構が配置される。このため、鏡筒における第3真空室の高さ寸法は、上記複数の電子レンズを配置するために長く確保され、造形室におけるステージの上方には、粉末供給機構を配置するために広い空間が確保される。したがって、造形室に配置されたステージと鏡筒の第2真空室との間には、十分に長い距離が確保されている。
【0008】
また、差動排気のために設けられるオリフィスは、荷電粒子ビームを絞るために設けられるアパーチャとは異なる設計思想で設計される。具体的には、オリフィスの孔径は、オリフィスを通過する荷電粒子ビームのビーム径よりも大きな値に設定され、アパーチャの孔径は、アパーチャを通過する荷電粒子ビームのビーム径よりも小さな値に設定される。このため、アパーチャの場合は、荷電粒子ビームの衝突によって孔近傍に汚れが生じるおそれがあるが、オリフィスの場合は、荷電粒子ビームが当たらないため、そのような汚れが生じるおそれはない。
以上のことから、本出願人が開発した三次元積層造形装置の設計に関わった技術者ら(本発明者を含む)は、鏡筒の隔壁にオリフィスを直に形成しても特に問題はないと認識していた。
【0009】
ところが実際に三次元積層造形装置を稼働し、その後、所定の期間が経った段階で鏡筒の内部を分解してみたところ、オリフィスの周囲に汚れが付着していることが判明した。さらに、その汚れについて調査したところ、その汚れが金属の蒸着物であることが判明した。金属の蒸着物は、金属粉末の溶融によって発生した金属蒸気が、上記技術者らの想定を超えて第3真空室の奥深くまで侵入してオリフィスの周囲に付着し、そこで冷えて固まったものと推定された。このような事実に鑑みて、本発明者は、オリフィスのメンテナンスや交換などが必要であるという新たな知見を得て本願発明を想到した。
【0010】
本発明の目的は、オリフィスのメンテナンスや交換などに容易に対応することができる三次元積層造形装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、造形室に向けて荷電粒子ビームを出射するための部品を収容するとともに、前記荷電粒子ビームが通過する鏡筒真空室を形成する鏡筒を備える三次元積層造形装置である。鏡筒は、荷電粒子ビームの出射方向で鏡筒真空室を上流側真空室と下流側真空室とに仕切るとともに、上流側真空室と下流側真空室との間で気体の出入りを抑制するオリフィスを有する差動排気用部材と、差動排気用部材を着脱自在に受け入れる凹部を有する隔壁と、上流側真空室に通じる開口部が形成された外壁と、基端部が開口部の近傍に着脱可能に固定され、先端部に差動排気用部材を押さえる押さえ部を有する押さえ部材と、開口部を塞ぐように外壁に着脱可能に取り付けられる蓋体と、を備える。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、オリフィスのメンテナンスや交換などに容易に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の一部を拡大した縦断面図である。
図3】差動排気用部材と押さえ部材の配置状態を示す平面図である。
図4】本発明の第2実施形態に係る三次元積層造形装置の一部を拡大した縦断面図である。
図5】本発明の第3実施形態に係る三次元積層造形装置の一部を拡大した縦断面図である。
図6】本発明の第4実施形態に係る三次元積層造形装置の一部を拡大した縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0015】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の全体構成を示す概略図である。
図1に示すように、三次元積層造形装置10は、三次元の造形物を形成するための造形室12と、造形室12に向けて荷電粒子ビーム14を出射するための部品を収容する鏡筒16と、を備えている。荷電粒子ビーム14は、例えば電子ビームである。造形室12には真空ポンプ18が接続され、鏡筒16には真空ポンプ20,22が接続されている。
【0016】
造形室12は、真空ポンプ18によって造形室12内の空気を排気することにより、真空状態を作り出すためのチャンバー、すなわち真空チャンバーである。造形室12には、粉末供給機構24と、造形テーブル26と、造形ボックス28と、回収ボックス30と、ステージ32と、ステージ移動機構34とが配置されている。
【0017】
粉末供給機構24は、造形物の原材料となる粉末材料としての金属粉末36を造形テーブル26上に供給する機構である。粉末供給機構24は、ホッパー24aと、粉末投下器24bと、スキージ24cとを有している。ホッパー24aは、金属粉末を貯蔵するための容器である。粉末投下器24bは、ホッパー24aに貯蔵されている金属粉末を造形テーブル26上に投下する機器である。スキージ24cは、図1の奥行き方向に長い長尺状の部材である。スキージ24cは、粉末投下器24bによって投下された金属粉末を、造形テーブル26およびステージ32の上に敷き詰める。スキージ24cは、造形テーブル26およびステージ32の全面に金属粉末を均一に敷き詰めるために、図1の左右方向に往復移動可能に設けられている。
【0018】
造形テーブル26は、造形室12の内部に水平に配置されている。造形テーブル26は、粉末供給機構24よりも下方に配置されている。造形テーブル26の中央部は開口している。造形テーブル26の開口形状は、平面視円形または平面視角形である。
【0019】
造形ボックス28は、筒状に形成されている。造形ボックス28は、ステージ32を囲む状態に配置されている。造形ボックス28の横断面形状は、造形テーブル26の開口形状と同じ形状である。たとえば、造形テーブル26の開口形状が平面視円形であれば、造形ボックス28の横断面形状は円形となる。造形ボックス28の上端部は、造形テーブル26の開口縁に接続されている。
【0020】
回収ボックス30は、粉末供給機構24によって造形テーブル26上に供給された金属粉末36のうち、余剰の金属粉末36を回収するボックスである。回収ボックス30は、スキージ24cの移動方向の一方と他方に1個ずつ設けられている。
【0021】
ステージ32は、上下方向に移動可能に設けられている。ステージ32は、造形ボックス28の内周面に沿って上下方向に移動する。ステージ32の外周部にはシール部材38が取り付けられている。シール部材38は、ステージ32の外周部と造形ボックス28の内周面との間で、摺動性および密閉性を保持する部材である。シール部材38は、耐熱性および弾力性を有する材料によって構成される。
【0022】
ステージ移動機構34は、ステージ32を上下方向に移動させる機構である。ステージ移動機構34は、シャフト34aと、駆動部34bとを備えている。シャフト34aは、ステージ32の下面に接続されている。駆動部34bは、図示しないモータと動力伝達機構とを備え、モータを駆動源として動力伝達機構を駆動することにより、ステージ32をシャフト34aと一体に上下方向に移動させる。動力伝達機構は、たとえば、ラックアンドピニオン機構、ボールネジ機構などによって構成される。
【0023】
上記構成からなる造形室12の内部では、次のような手順で造形物が形成される。
まず、粉末供給機構24は、ステージ32上に金属粉末36を層状に敷き詰める。次に、鏡筒16内の部品は、ステージ32上の金属粉末36に荷電粒子ビーム14を照射する。その際、鏡筒16内の部品は、目的とする造形物の三次元CAD(Computer-Aided Design)データを一定の厚みにスライスした二次元データに基づいて荷電粒子ビーム14を走査する。これにより、1層分の金属粉末36が溶融および凝固する。
【0024】
次に、ステージ32は、ステージ移動機構34の駆動によって1層分だけ下降する。その後、次の層についても、金属粉末36の敷き詰めと荷電粒子ビーム14の照射を順に実行する。これにより、金属粉末36の凝固層が積層される。以降は、造形物の造形が終了するまで上記動作を繰り返す。造形物の造形は、造形物の造形に必要な層の数だけ金属粉末36の溶融および凝固が行なわれた段階で終了となる。このような手順で、目的とする造形物が得られる。
【0025】
鏡筒16は、造形室12の上に搭載されている。鏡筒16には、荷電粒子ビーム14を発生する発生器40と、発生器40が発生した荷電粒子ビーム14を制御する電子レンズ群42とが収容されている。発生器40は、例えば荷電粒子ビーム14が電子ビームである場合は、電子銃によって構成される。電子レンズ群42は、磁場または電場を用いて、荷電粒子ビーム14の屈折、収束、走査等を制御する。
【0026】
電子レンズ群42は、第1電子レンズ44と、第2電子レンズ46と、第3電子レンズ48と、第4電子レンズ50とを備えている。発生器40、第1電子レンズ44、第2電子レンズ46、第3電子レンズ48および第4電子レンズ50は、造形室12に向けて荷電粒子ビーム14を出射するための部品に相当する。第1電子レンズ44は、鏡筒16の第1レンズ収容室41に収容されている。第2電子レンズ46、第3電子レンズ48および第4電子レンズ50は、鏡筒16の第2レンズ収容室43に収容されている。
【0027】
また、鏡筒16は、荷電粒子ビーム14が通過する鏡筒真空室52を形成している。鏡筒真空室52は、上述した第1レンズ収容室41および第2レンズ収容室43と共に、鏡筒16の本体部分(後述)によって形成される空間である。鏡筒真空室52は、造形室12と空間的につながっている。鏡筒真空室52は、荷電粒子ビーム14の出射方向Z(図中、矢印で示す方向)で複数(本実施形態では3つ)の真空室、すなわち第1真空室54、第2真空室56および第3真空室58に区分されている。荷電粒子ビーム14の出射方向Zにおいて、第1真空室54は最も上流側に配置され、第3真空室58は最も下流側に配置されている。
【0028】
上述した発生器40は、第1真空室54に収容されている。また、真空ポンプ20は第1真空室54に接続され、真空ポンプ22は第2真空室56に接続されている。また、第1電子レンズ44は、オリフィス60の下方で第2真空室56を囲むように配置されている。第2電子レンズ46、第3電子レンズ48および第4電子レンズ50は、オリフィス62の下方で第3真空室58を囲むように配置されている。また、第1電子レンズ44、第2電子レンズ46、第3電子レンズ48および第4電子レンズ50は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zに直列に並んで配置されている。
【0029】
第1真空室54と第2真空室56との間(境界部)にはオリフィス60が設けられ、第2真空室56と第3真空室58との間(境界部)にはオリフィス62が設けられている。2つのオリフィス60,62は、上述した2つの真空ポンプ20,22と共に、鏡筒16の鏡筒真空室52を差動排気するために設けられている。第2真空室56は、2つのオリフィス60,62の間に配置されている。すなわち、第2真空室56は、差動排気のための中間室である。オリフィス60は、第1真空室54と第2真空室56との間で気体の出入りを抑制し、オリフィス62は、第2真空室56と第3真空室58との間で気体の出入りを抑制する。オリフィス62の孔径は、荷電粒子ビーム14がオリフィス62を通過するときに、荷電粒子ビーム14がオリフィス62に当たらない程度の寸法に設定されている。この点は、オリフィス60についても同様である。
【0030】
鏡筒真空室52は、電子レンズ群42内を貫通するように形成される。また、鏡筒真空室52は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zにおいて、上流側の真空室が下流側の真空室よりも高い真空度になるように差動排気される。具体的には、第1真空室54は、真空ポンプ20によって第2真空度よりも高い第1真空度になるように排気され、第2真空室56は、真空ポンプ22によって第3真空度よりも高い第2真空度になるように排気される。第3真空室58は、真空ポンプ18によって造形室12と同等の第3真空度になるように排気される。
【0031】
鏡筒16の本体部分は、主に、外壁71と、上壁72と、3つの隔壁73,74,75と、2つの内壁76,77とによって構成されている。外壁71と上壁72は、鏡筒16の内部に形成される真空空間と鏡筒16の外部に存在する大気空間とを隔てる壁である。外壁71は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zと平行な向きに配置され、上壁72は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zと直交する向きに配置されている。外壁71は、鏡筒16の内部を取り囲むように配置されることから、側壁または周壁と言い換えることができる。上壁72は、外壁71の上部開口を塞ぐように鏡筒16の最上部に配置されている。
【0032】
隔壁73は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zにおいて、第1真空室54と第1レンズ収容室41とを隔てる壁である。隔壁74は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zにおいて、第1レンズ収容室41と第2真空室56とを隔てる壁である。隔壁75は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zにおいて、第2真空室56と第2レンズ収容室43とを隔てる壁である。
【0033】
内壁76は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zと直交する方向において、第2真空室56と第1レンズ収容室41とを隔てる壁である。内壁76は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zと平行な向きに配置されている。内壁77は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zと直交する方向において、第3真空室58と第2レンズ収容室43とを隔てる壁である。内壁77は、内壁76と同様に、荷電粒子ビーム14の出射方向Zと平行な向きに配置されている。
【0034】
上記構成からなる鏡筒16の内部では、発生器40が発生した荷電粒子ビーム14が、鏡筒真空室52を通過する。さらに詳述すると、発生器40が発生した荷電粒子ビーム14は、第1真空室54からオリフィス60を通り抜けて第2真空室56に進入し、さらにオリフィス62を通り抜けて第3真空室58および造形室12に進入する。造形室12において、荷電粒子ビーム14は、ステージ32上のビーム照射位置でビームスポットを形成するとともに、このビームスポットが上記二次元データに基づいてステージ32上を移動(走査)するよう、電子レンズ群42によって制御される。
【0035】
ここで、仮に、鏡筒16の隔壁75にオリフィス62を直に形成した場合は、オリフィス62の周囲が金属蒸着物の付着によって汚れたときに、その汚れを取り除くために鏡筒16を少なくとも半分程度、分解する必要がある。また、鏡筒16は造形室12の上に搭載され、鏡筒16自体も重いため、鏡筒16の分解作業は高所で重量物を扱う作業になる。したがって、三次元積層造形装置10のメンテナンス等に係る当該装置のダウンタイムが長くなってしまう。
そこで本発明の第1実施形態においては、以下のような構成を採用している。
【0036】
図2は、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置の一部を拡大した縦断面図である。
図2に示すように、第2真空室56は、主に、外壁71と隔壁74,75と内壁76とによって区画されている。隔壁75には差動排気用部材78が取り付けられ、この差動排気用部材78にオリフィス62が形成されている。差動排気用部材78は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zで鏡筒真空室52(図1参照)を第2真空室56と第3真空室58とに仕切る部材である。この場合、第2真空室56は上流側真空室に相当し、第3真空室58は下流側真空室に相当する。
【0037】
差動排気用部材78は、隔壁75とは別体の部材であり、好ましくは、モリブデン、タングステンなどの高融点金属によって構成される。差動排気用部材78は、所定の厚み寸法Tを有するとともに、平らな板状に形成されている。また、差動排気用部材78は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zから見て円形に形成されている。
【0038】
図3に示すように、オリフィス62は、差動排気用部材78の中心部に形成されている。また、オリフィス62は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zから見て円形に形成されている。オリフィス62の孔径については、前述したとおりである。
【0039】
一方、隔壁75には凹部80が形成されている。凹部80は、差動排気用部材78を位置決めした状態に着脱自在に受け入れる部分である。凹部80は、隔壁75の上面75aに形成されている。凹部80は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zから見て円形、すなわち差動排気用部材78と同じ形状に形成されている。凹部80の内径は、差動排気用部材78の外径よりも僅かに大きい。
【0040】
凹部80の内径と差動排気用部材78の外径との寸法差は、少なくとも下記の(a)および(b)の条件を満たすように設定される。
(a)凹部80に差動排気用部材78を嵌合させることにより、荷電粒子ビーム14がオリフィス62を通過するように、差動排気用部材78を位置決めできること。
(b)凹部80への差動排気用部材78の取り付け、および、凹部80からの差動排気用部材78の取り外しが、ピンセットまたは専用の治具などを用いてできること。
なお、凹部80には、差動排気用部材78を受け入れやすくするために、図示しない面取り部またはテーパー部を形成してもよい。
(c)オリフィス62以外を通過する気体の流量を可能な限り少なくするため、差動排気用部材78下面と凹部80の差動排気用部材78着座面とが一定の面積以上で密着できること。
【0041】
隔壁75の上面75aを基準とした凹部80の深さ寸法(凹み寸法)Dは、差動排気用部材78の厚み寸法Tよりも小さい。このため、凹部80に差動排気用部材78を取り付けた状態では、差動排気用部材78の一部が隔壁75の上面75aから突き出して配置される。したがって、差動排気用部材78を隔壁75から取り外す場合は、差動排気用部材78の突き出し部分をピンセットまたは専用の治具などで把持することにより、差動排気用部材78を凹部80から簡単に取り出すことができる。
【0042】
凹部80に差動排気用部材78を取り付けた状態では、図2のF部において、差動排気用部材78の下面と凹部80の底面が互いに密着した状態となる。このため、第2真空室56と第3真空室58との間では、気体の通り道がオリフィス62に限定される。また、オリフィス62は、第3真空室58の内径に比べて十分に小さい孔径で形成されている。このため、第2真空室56と第3真空室58との間では、オリフィス62によって気体の出入りが抑制される。したがって、真空ポンプ22によって第2真空室56を排気することにより、第2真空室56の真空度を第3真空室58の真空度よりも高く維持することができる。また、第1真空室54と第2真空室56との間でも、気体の通り道がオリフィス60に限定され、かつ、気体の出入りがオリフィス60によって抑制される。このため、真空ポンプ20によって第1真空室54を排気することにより、第1真空室54の真空度を第2真空室56の真空度よりも高く維持することができる。その結果、鏡筒真空室52の真空度を差動排気によって段階的に異なる真空度に維持することができる。
【0043】
一方、外壁71には、外壁71を貫通する状態で開口部81が形成されている。開口部81は、第2真空室56に通じるように形成されている。開口部81は、図示しないピンセット、治具等によって把持した差動排気用部材78を第2真空室56に出し入れできる程度の大きさに形成されている。ちなみに、開口部81が人の手を差し込むことができる程度の大きさに形成されている場合は、ピンセット等を使用しなくても、開口部81を通して差動排気用部材78を隔壁75の凹部80に取り付けたり取り外したりすることが可能である。
【0044】
外壁71には、押さえ部材82と、蓋体83とが取り付けられている。押さえ部材82は、外壁71の開口部81から差動排気用部材78まで延在している。押さえ部材82は、押さえ部84を一体に有している。押さえ部84は、隔壁75の凹部80に取り付けられた差動排気用部材78を押さえる部分である。押さえ部材82は、板バネによって構成されている。押さえ部84は、図2に示すように、側方から見て略V字形に折り曲げて形成されている。押さえ部84は、押さえ部材82のバネ性を利用して差動排気用部材78を弾性的に押さえる。
【0045】
押さえ部材82には切り欠き85が形成されている。押さえ部84は、図3に示すように、押さえ部材82の幅方向Yにおいて、切り欠き85の両側に配置されている。つまり、押さえ部84は二股状に分かれて形成されている。押さえ部材82は、切り欠き85によりオリフィス62を露出させた状態で、一対の押さえ部84により差動排気用部材78を上から押さえている。これにより、オリフィス62を通る荷電粒子ビーム14と差動排気用部材78を押さえる押さえ部材82との干渉を避けることができる。
【0046】
また、上述のように押さえ部材82によって差動排気用部材78を押さえた状態では、図3に示すように、押さえ部材82の幅方向Yと平行で、かつ、オリフィス62の中心を通る仮想中心線88上に押さえ部84が配置される。
【0047】
また、押さえ部84は、押さえ部材82の長さ方向X(図3参照)において、押さえ部材82の先端部に形成され、その反対側に基端部86が形成されている。押さえ部84の基端部86は、ボルト87によって外壁71に固定されている。また、押さえ部材82の長さ方向Xにおいて、押さえ部材82の先端部は第2真空室56の中心側に配置され、押さえ部材82の基端部86は第2真空室56の外周側に配置されている。押さえ部材82の基端部86は、略直角に折り曲げて形成されている。基端部86には貫通孔86aが設けられている。貫通孔86aは、ボルト87の雄ネジ部分を通すための孔である。
【0048】
外壁71にはネジ孔71aが設けられている。ネジ孔71aは、押さえ部材82の基端部86をボルト87によって外壁71に固定するための孔である。ネジ孔71aは、開口部81の近傍に配置されている。基端部86の貫通孔86aは外壁71の外面側でネジ孔71aに位置合わせされ、その状態でボルト87の雄ネジ部分が貫通孔86aを通してネジ孔71aに噛み合っている。また、ボルト87の頭部は、スパナやレンチなどの工具をボルト87の頭部に嵌合しやすいよう、外向きに配置されている。押さえ部材82の基端部86は、ボルト87を締め付けた場合は外壁71に固定され、ボルト87を緩めた場合は外壁71への固定が解除される。これにより、押さえ部材82の基端部86は開口部81の近傍に着脱可能に固定されている。また、押さえ部材82は、基端部86から押さえ部84に向かって斜め下方に延出している。
【0049】
なお、押さえ部材82の基端部86が固定される開口部81の近傍とは、荷電粒子ビーム14の出射方向Zと直交する差動排気用部材78の径方向において、オリフィス62の中心から外壁71の外面までの距離をL(mm)とした場合に、好ましくはオリフィス62の中心から「L×1/2」の距離を隔てた位置よりも径方向外側の位置をいい、より好ましくはオリフィス62の中心から「L×2/3」の距離を隔てた位置よりも径方向外側の位置をいう。
【0050】
本実施形態のように、押さえ部材82の基端部86をボルト87によって外壁71に固定する場合は、開口部81の近傍に基端部86を固定することにより、基端部86の着脱作業を容易に行うことができる。ここで記述する基端部86の着脱作業とは、ボルト87を締め付けたり緩めたりする作業をいう。
【0051】
蓋体83は、開口部81を塞ぐように外壁71に取り付けられている。蓋体83は、複数(図2では2つのみ表示)のボルト89によって外壁71に固定されている。蓋体83には貫通孔83aが設けられている。貫通孔83aは、ボルト89の雄ネジ部分を通すための孔である。一方、外壁71にはネジ孔71bが設けられている。ネジ孔71bは、前述したネジ孔71aと同様に、開口部81の近傍に配置されている。蓋体83の貫通孔83aは外壁71の外面側でネジ孔71bに位置合わせされ、その状態でボルト89の雄ネジ部分が貫通孔83aを通してネジ孔71bに噛み合っている。蓋体83は、ボルト89を締め付けた場合は外壁71に固定され、ボルト89を緩めた状態では外壁71への固定が解除される。これにより、蓋体83は、外壁71に着脱可能に取り付けられている。
【0052】
外壁71の外面には段付き部71cが形成されている。上述したネジ孔71a,71bは、段付き部71cによって凹んだ面に形成されている。また、蓋体83は、段付き部71cに嵌め入れられている。また、段付き部71cには溝71dが形成され、この溝71dにシール部材90が取り付けられている。シール部材90は、外壁71に蓋体83を取り付けた場合に、第2真空室56を気密状態に保持する部材である。シール部材90としては、例えば、ゴム製のOリングが用いられる。
【0053】
上記構成からなる三次元積層造形装置10において、何らかの理由によりオリフィス62を交換する必要が生じた場合は、次のような作業手順で対応することができる。なお、ここでは説明の便宜上、交換前のオリフィス62を有する差動排気用部材78の参照符号を「78a」とし、交換後のオリフィス62を有する差動排気用部材78の参照符号を「78b」とする。
【0054】
(蓋体83の取り外し作業)
まず、作業者は、第2真空室56の圧力をベントによって大気圧に戻す。次に、作業者は、蓋体83を固定しているボルト89を取り外す。次に、作業者は、蓋体83を外壁71から取り外す。これにより、開口部81が外部に露出した状態になる。
【0055】
(押さえ部材82の取り外し作業)
次に、作業者は、押さえ部材82の基端部86を固定しているボルト87を取り外す。次に、作業者は、開口部81を通して押さえ部材82を第2真空室56の外に取り出す。これにより、開口部81の取り外しが完了する。
【0056】
(差動排気用部材78aの取り外し作業)
次に、作業者は、図示しないピンセットまたは専用の治具などで差動排気用部材78aを把持した後、開口部81を通して差動排気用部材78aを第2真空室56の外に取り出す。これにより、差動排気用部材78aの取り外しが完了する。
【0057】
(差動排気用部材78bの取り付け作業)
次に、作業者は、図示しないピンセットまたは専用の治具などで差動排気用部材78bを把持した後、開口部81を通して差動排気用部材78bを第2真空室56に挿入する。次に、作業者は、差動排気用部材78bをピンセット等で把持したまま、隔壁75の凹部80に差動排気用部材78bを嵌合させる。そうすると、差動排気用部材78bの位置決めがなされる。これにより、差動排気用部材78bの取り付けが完了する。
【0058】
(押さえ部材82の取り付け作業)
次に、作業者は、開口部81を通して押さえ部材82を第2真空室56に挿入する。このとき、作業者は、押さえ部材82の押さえ部84を差動排気用部材78bの上面に接触させ、その状態で、押さえ部材82の基端部86の貫通孔86aを外壁71のネジ孔71aに位置合わせする。これにより、押さえ部材82は弾性変形してバネ力を発生させ、このバネ力によって押さえ部84が差動排気用部材78bを押さえる。
【0059】
次に、作業者は、基端部86の貫通孔86aを通してボルト87をネジ孔71aに噛み合わせる。次に、作業者は、ボルト87を所定の力で締め付けることにより、押さえ部材82の基端部86を外壁71に固定する。この段階で押さえ部材82の取り付けが完了する。このとき、作業者は、第2真空室56における差動排気用部材78bおよび押さえ部材82の配置状態を、開口部81を通して目視で確認することができる。
【0060】
(蓋体83の取り付け作業)
次に、作業者は、外壁71の段付き部71cに蓋体83を嵌め入れることにより、開口部81を蓋体83によって閉じる。次に、作業者は、蓋体83の貫通孔83aを通してボルト89をネジ孔71bに噛み合わせる。次に、作業者は、ボルト89を所定の力で締め付けることにより、蓋体83を外壁71に固定する。このとき、シール部材90が蓋体83に押されて弾性変形することにより、第2真空室56が密閉される。これにより、蓋体83の取り付けが完了する。
【0061】
以上述べた作業手順により、オリフィス62の交換が完了する。オリフィス62の交換は、主に、オリフィス62の周囲が金属蒸着物の付着によって汚れた場合に必要になるが、それ以外の理由で行ってもよい。また、上述した手順で第2真空室56から取り出した差動排気用部材78を洗浄して金属蒸着物などの汚れを落とし、その後、上述した手順で第2真空室56に差動排気用部材78を戻してもよい。また、オリフィス62の周囲の汚れ具合を含めて、差動排気用部材78に何らかの異常が生じていないかどうかを点検するために、差動排気用部材78の着脱を実施してもよい。つまり、差動排気用部材78の着脱は、オリフィス62の交換に限らず、オリフィス62を含む差動排気用部材78の洗浄や点検などのメンテナンス、あるいは他の目的のために実施してもよい。
【0062】
以上説明したとおり、本発明の第1実施形態に係る三次元積層造形装置10においては、第2真空室56と第3真空室58とを仕切る差動排気用部材78にオリフィス62を形成するとともに、その差動排気用部材78を着脱自在に受け入れる凹部80を鏡筒16の隔壁75に形成している。また、三次元積層造形装置10においては、凹部80に取り付けられた差動排気用部材78を押さえ部材82によって押さえるとともに、押さえ部材82の基端部86を開口部81の近傍でボルト87により固定している。そして、開口部81を塞ぐように蓋体83を外壁71に着脱可能に取り付けている。これにより、押さえ部材82の着脱作業や蓋体83の着脱作業だけで、差動排気用部材78と共にオリフィス62を交換したり、オリフィス62の洗浄や点検などのメンテナンスを実施したりすることができる。このため、三次元積層造形装置10によれば、オリフィス62のメンテナンスや交換などに容易に対応することができる。また、オリフィス62を有する差動排気用部材78を短時間で交換することができる。このため、三次元積層造形装置10のメンテナンス等に係る当該装置のダウンタイムを大幅に短縮することができる。さらに、三次元積層造形装置10によれば、オリフィス62の孔径および/または形状が異なる差動排気用部材78を用意することにより、オリフィス62の孔径および/または形状の変更にも容易に対応することができる。
【0063】
また、第1実施形態に係る三次元積層造形装置10においては、押さえ部材82の基端部86をボルト87によって外壁71に固定している。このため、押さえ部材82の取り付け作業を行う作業者は、その取り付け作業中および/または取り付け作業後に、押さえ部材82の押さえ部84が差動排気用部材78を適切に押さえているかどうかを、開口部81を通して目視で確認することができる。また、作業者は、例えば、押さえ部材82の向きがずれるなどして差動排気用部材78が適切に押さえられていない場合は、押さえ部材82の取り付け作業をやり直すことができる。
【0064】
また、第1実施形態に係る三次元積層造形装置10においては、弾性体である板バネによって押さえ部材82を構成している。このため、押さえ部材82の押さえ部84が差動排気用部材78を押さえるときの力のバラツキを抑制することができる。
【0065】
また、第1実施形態に係る三次元積層造形装置10において、押さえ部材82の押さえ部84は、オリフィス62の中心を通る仮想中心線88上に配置されている。これにより、差動排気用部材78を押さえ部材82によってバランスよく安定した状態で押さえることができる。
【0066】
また、第1実施形態に係る三次元積層造形装置10においては、凹部80の深さ寸法Dが、差動排気用部材78の厚み寸法Tよりも小さいため、差動排気用部材78の一部が隔壁75の上面75aから突き出して配置される。これにより、差動排気用部材78の突き出し部分をピンセット等で把持することで、差動排気用部材78を凹部80から簡単に取り出すことができる。
【0067】
なお、オリフィス60の上流側に位置する第1真空室54は、発生器40などのメンテナンスのために開放できる構成になっており、また、オリフィス60はオリフィス62よりも造形室12から離れているために蒸着物などの汚れが付着しにくい。したがって、オリフィス60に関しては、オリフィス62の場合と同様に差動排気用部材に形成してもよいし、隔壁73に直に形成してもよい。また、オリフィス60を差動排気用部材に形成した場合は、この差動排気用部材をボルト等によって隔壁73に取り付けてもよいし、上記第1実施形態の場合と同様に押さえ部材によって押さえてもよい。この点は、後述する他の実施形態においても同様である。
【0068】
<第2実施形態>
図4は、本発明の第2実施形態に係る三次元積層造形装置の一部を拡大した縦断面図である。
本発明の第2実施形態に係る三次元積層造形装置は、上述した第1実施形態の場合と比較して、押さえ部材の取り付け構造が異なる。具体的には、図4に示すように、押さえ部材820の基端部860は蓋体830に固定されている。蓋体830の内面にはネジ孔830aが形成されている。ネジ孔830aは、押さえ部材820の基端部860をボルト870によって蓋体830に固定するための孔である。ネジ孔830aは、蓋体830を貫通しないように形成されている。また、ネジ孔830aは、開口部81の近傍に配置されている。
【0069】
一方、押さえ部材820の基端部860には貫通孔860aが設けられている。貫通孔860aは、ボルト870の雄ネジ部分を通すための孔である。基端部860の貫通孔860aは蓋体830のネジ孔830aに位置合わせされ、その状態でボルト870の雄ネジ部分が貫通孔860aを通してネジ孔830aに噛み合っている。そして、押さえ部材820の基端部860は、ボルト870の締め付けによって蓋体830に固定されている。また、押さえ部材820の先端部には、押さえ部840と切り欠き850とが形成されている。押さえ部840および切り欠き850の形状等は、上記第1実施形態における押さえ部84および切り欠き85と同様である。
【0070】
第2実施形態に係る三次元積層造形装置において、オリフィス62を交換する必要が生じた場合は、次のような作業手順で対応することができる。
【0071】
まず、作業者は、第2真空室56の圧力をベントによって大気圧に戻す。次に、作業者は、蓋体830を固定しているボルト89を取り外す。次に、作業者は、蓋体830を外壁71から取り外す。本実施形態においては、押さえ部材820の基端部860が蓋体830に固定されている。このため、作業者は、押さえ部材820と蓋体830を同時に取り外すことができる。
【0072】
次に、作業者は、上記第1実施形態の場合と同様に、差動排気用部材78の取り外し作業と取り付け作業を順に行う。
【0073】
次に、作業者は、開口部81を通して押さえ部材820を第2真空室56に挿入するとともに、外壁71の段付き部71cに蓋体830を嵌め入れることにより、開口部81を蓋体830によって閉じる。次に、作業者は、蓋体830の貫通孔83aを通してボルト89をネジ孔71bに噛み合わせる。次に、作業者は、ボルト89を所定の力で締め付けることにより、蓋体830を外壁71に固定する。これにより、押さえ部材820および蓋体830の取り付けが完了する。
【0074】
このように第2実施形態に係る三次元積層造形装置においては、押さえ部材820の基端部860がボルト87によって蓋体830に固定されている。このため、作業者は、押さえ部材820と蓋体830とを一体に取り扱うことができる。したがって、オリフィス62のメンテナンスや交換などに要する作業工数を減らすことができる。
【0075】
<第3実施形態>
図5は、本発明の第3実施形態に係る三次元積層造形装置の一部を拡大した縦断面図である。
本発明の第3実施形態に係る三次元積層造形装置は、上述した第1実施形態の場合と比較して、押さえ部材の構成が異なる。以下、詳しく説明する。
図5に示すように、押さえ部材821は、長さ方向の一端に基端部861を有し、この基端部861に貫通孔861aが設けられている。この点は第1実施形態の場合と同様である。ただし、押さえ部材821は、第1実施形態の場合とは異なり、片持ち梁91とコイルバネ92とによって構成されている。
【0076】
片持ち梁91は、例えば金属製の板によって構成される。押さえ部材821の基端部861は、片持ち梁91の一端に形成されている。また、押さえ部材821の基端部861は、上記第1実施形態と同様に、ボルト87によって外壁71に固定されている。片持ち梁91の他端側(自由端側)には切り欠き93が形成されている。切り欠き93は、上記第1実施形態における切り欠き85(図3参照)と同様の目的で形成されている。
【0077】
コイルバネ92は、弾性体の一例として設けられている。コイルバネ92の上端は、片持ち梁91の先端部(自由端部)に、例えば溶接、ネジ止め等によって固定されている。コイルバネ92は、凹部80に取り付けられた差動排気用部材78を押さえる押さえ部として機能する。コイルバネ92の下端部は、コイルバネ92自身のバネ力によって差動排気用部材78の上面に接触している。また、コイルバネ92は、荷電粒子ビーム14の出射方向Zから見て、オリフィス62と同心円状に配置されている。これにより、差動排気用部材78をバランスよく安定した状態で押さえることができる。コイルバネ92の内径は、荷電粒子ビーム14がコイルバネ92に当たらないよう、オリフィス62の孔径に比較して十分に大きな寸法に設定されている。
【0078】
本発明の第3実施形態に係る三次元積層造形装置によれば、上記第1実施形態の場合と同様の効果が得られる。
【0079】
なお、コイルバネ92の下端部については、例えば溶接、ネジ止め等によって差動排気用部材78の上面に固定してもよい。この構成を採用した場合、作業者は、片持ち梁91およびコイルバネ92からなる押さえ部材821と、差動排気用部材78とを一体に取り扱うことができる。このため、作業者は、鏡筒16から押さえ部材821を取り外すときに、押さえ部材821と一緒に差動排気用部材78を取り外すことができる。また、作業者は、鏡筒16に押さえ部材821を取り付けるときに、押さえ部材821と一緒に差動排気用部材78を取り付けることができる。このため、作業者は、差動排気用部材78をピンセット等で把持する必要がなくなる。また、作業者は、差動排気用部材78を単体で取り外したり取り付けたりする必要もなくなる。
【0080】
<第4実施形態>
図6は、本発明の第4実施形態に係る三次元積層造形装置の一部を拡大した縦断面図である。
本発明の第4実施形態に係る三次元積層造形装置は、上述した第1実施形態の場合と比較して、押さえ部材の構成が異なる。具体的には、図6に示すように、押さえ部材822は、押さえ部842と基端部862とを有する一体構造になっている。押さえ部材822は、例えば金属によって構成される。押さえ部842は、差動排気用部材78の上面に接触することにより、差動排気用部材78を押さえている。また、押さえ部材822には、荷電粒子ビーム14が押さえ部材822に当たらないよう、切り欠き852が形成されている。一方、押さえ部材822の基端部862には貫通孔862aが設けられている。基端部862は、上記第1実施形態と同様に、ボルト87によって外壁71に固定されている。
【0081】
本発明の第4実施形態に係る三次元積層造形装置によれば、上記第1実施形態の場合と同様に、オリフィス62のメンテナンスや交換などに容易に対応することができる。
【0082】
なお、押さえ部842については、例えば溶接、ネジ止め等によって差動排気用部材78の上面に固定してもよい。この構成を採用した場合、作業者は、押さえ部材822と差動排気用部材78とを一体に取り扱うことができる。このため、作業者は、鏡筒16から押さえ部材822を取り外すときに、押さえ部材822と一緒に差動排気用部材78を取り外すことができる。また、作業者は、鏡筒16に押さえ部材822を取り付けるときに、押さえ部材822と一緒に差動排気用部材78を取り付けることができる。このため、作業者は、差動排気用部材78をピンセット等で把持する必要がなくなる。また、作業者は、差動排気用部材78を単体で取り外したり取り付けたりする必要もなくなる。
【0083】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0084】
たとえば、上記第1実施形態においては、弾性体の一例として板バネを挙げ、上記第2実施形態においては、弾性体の一例としてコイルバネ92を挙げたが、弾性体は、例えば図示はしないが、波形のバネ板を複数層に積み重ねた積層タイプのバネであってもよいし、バネ以外の弾性体、例えば、ゴム状弾性体などであってもよい。
【0085】
また、上記第1実施形態においては、押さえ部材82の先端部に切り欠き85を形成しているが、この切り欠き85の代わりに、例えば図示しない孔を形成してもよい。この点は、他の実施形態についても同様である。
【0086】
また、上記各実施形態においては、オリフィス62を円形に形成しているが、これに限らず、オリフィス62を多角形に形成してもよい。つまり、オリフィス62の形状は任意に変更可能である。この点は、差動排気用部材78の形状についても同様である。
【0087】
また、上記第1実施形態においては、押さえ部材82の基端部86をボルト87によって外壁71に固定しているが、本発明はこれに限らず、基端部86を外壁71に固定できる構造であれば、どのような構造を採用してもよい。例えば、図示はしないが、外壁71にソケット部を形成し、このソケット部に所定の力で基端部86を差し込むことで、基端部86を外壁71に固定してもよい。あるいは、外壁71にソケット部を形成し、このソケット部に差し込まれた基端部86の貫通孔86aに固定用ピンを差し込むことで、基端部86を外壁71に固定してもよい。この点は、上記第3実施形態および第4実施形態についても同様である。
【0088】
また、上記実施形態においては、外壁71に溝71dを形成し、この溝71dにシール部材90を取り付けているが、シール部材90については、蓋体83に取り付けてもよいし、外壁71と蓋体83の両方に取り付けてもよい。
【0089】
また、上記実施形態においては、鏡筒真空室52に2つのオリフィス60,62を配置することにより、鏡筒真空室52を3つの真空室(第1真空室54、第2真空室56および第3真空室58)に区分しているが、本発明はこれに限らない。すなわち、鏡筒真空室52をオリフィスによって幾つの真空室に区分するかは、必要に応じて変更可能であり、鏡筒16に設けるオリフィスの個数も変更可能である。
【符号の説明】
【0090】
10…三次元積層造形装置
12…造形室
14…荷電粒子ビーム
16…鏡筒
52…鏡筒真空室
54…第1真空室
56…第2真空室
58…第3真空室
60,62…オリフィス
71…外壁
75…隔壁
78…差動排気用部材
80…凹部
81…開口部
82,820,821,822…押さえ部材
84,840,842…押さえ部
85,93,850,852…切り欠き
86,860,861,862…基端部
92…コイルバネ(押さえ部)
88…仮想中心線
Z…出射方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6