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特開2023-159764生物処理システム、生物処理装置、水浄化システム、生物処理方法及び水浄化方法
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  • 特開-生物処理システム、生物処理装置、水浄化システム、生物処理方法及び水浄化方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159764
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】生物処理システム、生物処理装置、水浄化システム、生物処理方法及び水浄化方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 3/00 20230101AFI20231025BHJP
【FI】
C02F3/00 Z
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069679
(22)【出願日】2022-04-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-19
(71)【出願人】
【識別番号】517039483
【氏名又は名称】WOTA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田中 育
(72)【発明者】
【氏名】山戸 芽依
(72)【発明者】
【氏名】小林 恵太
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 雄太
【テーマコード(参考)】
4D027
【Fターム(参考)】
4D027CA07
(57)【要約】
【課題】生物処理の効率及び安定性に優れる生物処理システム、生物処理装置、水浄化システム、生物処理方法及び水浄化方法の提供。
【解決手段】生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽1と、前記混合物の温度を監視する監視部2と、前記混合物の温度を調節する調節部3と、前記混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部4と、を備える生物処理システム。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽と、
前記混合物の温度を監視する監視部と、
前記混合物の温度を調節する調節部と、
前記混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部と、を備える生物処理システム。
【請求項2】
前記混合物の温度の予測値は、前記監視部で監視される前記混合物の温度と、前記混合物の温度変化に関する情報とに基づいて決定される、請求項1に記載の生物処理システム。
【請求項3】
前記槽の周囲に配置される断熱材を備える、請求項1に記載の生物処理システム。
【請求項4】
生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽と、
前記混合物の温度を監視する監視部と、
前記混合物の温度を調節する調節部と、
前記混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部と、を備える生物処理装置。
【請求項5】
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の生物処理システム又は請求項4に記載の生物処理装置を備える、水浄化システム。
【請求項6】
生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽に含まれる前記混合物の温度を監視する工程と、
前記混合物の温度を調節する工程と、を備え、
前記温度の調節は、前記混合物の温度の予測値に基づいて制御される、生物処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の生物処理方法を実施する工程を含む、水浄化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、生物処理システム、生物処理装置、水浄化システム、生物処理方法及び水浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物を利用して汚水を浄化する仕組みが種々の分野で応用されている。
例えば、特許文献1には、水洗トイレから排出される汚水を浄化して水洗便器に循環させる機構を備える循環式水洗トイレが記載されている。
【0003】
特許文献1に記載された循環式水洗トイレは、汚水中の有機物を分解するとともに硝化及び脱窒処理する生物処理システムと、生物処理システムで生物処理された生物処理水を固液分離するろ過槽と、ろ過槽で固液分離されたろ過水を脱色する脱色槽と、を有し、脱色槽で脱色処理された処理水を水洗トイレの洗浄水として再利用するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004-132037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年の生活スタイルや居住環境の多様化に伴い、微生物を利用した水浄化システムが家屋のような比較的小規模な施設に導入される事例が増加している。このような小規模な水浄化システムにおいては、生物処理システムに供給される汚水の量や供給のタイミングが不規則になりやすい。また、生物処理システムの容量が小さいために内部の温度が供給される汚水の量や供給のタイミングによって変動しやすい。そして、生物処理システム内の温度の変動、特に温度の低下が原因となって微生物の生物処理能力が低下し、処理効率の低下を招くおそれがある。
小規模な循環式の水処理システムにおいては、少ない水をユーザーのニーズに応じた水質に達するように生物処理を行う必要があり、処理効率の低下は大きな問題となる。特に、生物処理能力をギリギリに設定している小型化された循環式の水処理装置においては、生物処理能力の余力を予め確保する上で、処理対象物の温度の予測及び制御が重要である。
そこで本開示は、生物処理の効率及び安定性に優れる生物処理システム、水浄化システム、生物処理方法及び水浄化方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1>生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽と、
前記混合物の温度を監視する監視部と、
前記混合物の温度を調節する調節部と、
前記混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部と、を備える生物処理システム。
<2>前記混合物の温度の予測値は、前記監視部で監視される前記混合物の温度と、前記混合物の温度変化に関する情報とに基づいて決定される、<1>に記載の生物処理システム。
<3>前記槽の周囲に配置される断熱材を備える、<1>に記載の生物処理システム。
<4>生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽と、
前記混合物の温度を監視する監視部と、
前記混合物の温度を調節する調節部と、
前記混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部と、を備える生物処理装置。
<5><1>~<3>のいずれか1項に記載の生物処理システム又は<4>に記載の生物処理装置を備える、水浄化システム。
<6>生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽に含まれる前記混合物の温度を監視する工程と、
前記混合物の温度を調節する工程と、を備え、
前記温度の調節は、前記混合物の温度の予測値に基づいて制御される、生物処理方法。
<7><6>に記載の生物処理方法を実施する工程を含む、水浄化方法。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、生物処理の効率及び安定性に優れる生物処理システム、生物処理装置、水浄化システム、生物処理方法及び水浄化方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】生物処理システムの構成の一例を示す概念図である。
図2】制御部の構成の一例を示す概念図である。
図3】制御部が監視部から受信した監視結果に基づいて調節部に対する指令を決定する工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示において、「~」を用いて示された数値範囲は、「~」の前後に記載される数値をそれぞれ最小値および最大値として含む範囲を示す。
本開示に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値または下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値または下限値に置き換えてもよく、また、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0010】
<生物処理システム>
本開示の生物処理システムは、
生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽と、
前記混合物の温度を監視する監視部と、
前記混合物の温度を調節する調節部と、
前記混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部と、を備える。
【0011】
生物処理システムの処理効率は、生物処理システム内の温度変化の影響を受ける。例えば、生物処理システム内の温度が微生物の活動に適した範囲内にないと微生物による有機物分解速度の低下、死滅等が生じて生物処理システムの処理能力が低下する。
いったん低下した処理能力を回復するためには微生物の馴致、増殖等のための時間を要し、微生物の種類によってはもとの状態に戻るまでに数か月かかる場合がある。
したがって、生物処理を安定的に実施するためには生物処理システム内の温度の変動を小さくすることが有効である。
【0012】
生物処理システム内の温度の変動を小さくする方法としては、生物処理システムに供給される生物処理の対象物の温度を平準化することが考えられる。しかしながら、生物処理システムの使用形態によっては生物処理の対象物の温度の平準化が難しい場合がある。
生物処理システム内の温度の変動を小さくする別の方法としては、生物処理システムにヒーターなどの温度を調節する装置を設けることが考えられる。しかしながら、生物処理システムの容量によっては生物処理の対象物の供給によって変化した温度がもとの状態に戻るまでのタイムラグが大きい場合がある。
本開示の生物処理システムは1日あたりの処理能力が1,000m以下など、きわめて小さい規模での利用に特に有効である。
【0013】
本開示の生物処理システムは、監視部、調節部及び制御部からなる機構を備えることで、槽内の温度を所望の精度でコントロールすることができる。このため、生物処理の対象物の温度の変動が大きい場合であっても安定した生物処理を実施することができる。
【0014】
図1は本開示の生物処理システムの概略構成図である。図1において散気装置、撹拌装置、ポンプ等の生物処理システムに一般的に備え付けられる装置類は図示を省略している。
図1に示す生物処理システムは、生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽1と、
混合物の温度を監視する監視部2と、
混合物の温度を調節する調節部3a及び3bと、
混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部4と、を備えている。
調節部3aは、槽内の温度を上昇させる機能を持つ。例えば、槽内の温度を上昇させる加温装置である。
調節部3bは、槽内の温度上昇を抑制する機能を持つ。例えば、槽内の温度を低下させる冷却装置である。
調節部3a及び3bを備えることにより、本開示の生物処理システムが設置される地域や場所、周辺環境の影響を受けることなく、微生物にとって最適な温度に制御することが可能となる。調節部3a及び3bは、本開示の生物処理システムが設置される場所によって適宜選択的に機能し、連続又は不連続に稼働してよい。また、調節部3a及び3bが調節部3b又は3aの機能を兼ね備えていてもよい(例えば、調節部3aに温水や冷水を循環させることによって槽内の温度を加温、冷却する機能を兼ね備えていてもよい)。
【0015】
監視部2は、槽内の混合物の温度を監視し、監視結果を制御部4に信号伝達手段11によって伝達する。
制御部4は、信号伝達手段12a又は12bによって調節部3a又は3bの駆動装置5a又は5bに対して指令を伝達する。
駆動装置5aが制御部4からの指令を受信すると、調節部3aは槽内の混合物を加温する。
駆動装置5bが制御部4からの指令を受信すると、調節部3bは槽内の混合物を冷却する。
【0016】
図1に示す構成は生物処理システムの構成を概念的に示す一例であって、本開示の具体的な構成は図1に示す構成に限定されない。
例えば、槽1に備え付けられる監視部2は複数であってもよい。また、調節部3は混合物の温度を上昇又は低下させる機能のいずれかのみを備えるものであってもよいし、一つで両方の機能を兼ね備えるものであってもよい。例えば、混合物の温度が微生物の活動を妨げるほどに高温にならない地域においては、調節部3は混合物の温度を上昇させる機能のみを有していてもよい。
【0017】
本開示の生物処理システムは独立した物体であっても、独立した物体でなくてもよい。
独立した物体である場合の生物処理システムは、移動可能な状態であってもよい。たとえば、キャンプ時、災害避難時などに所定の場所に運搬して使用できる状態であってもよい。また、本開示の生物処理システムは、水処理システムを構成するモジュール(組み換えを容易にする規格化された構成単位)であってもよい。
独立した物体でない場合の生物処理システムとしては、建造物や建造物以外の対象物の一部として生物処理システムが組み込まれる場合が挙げられる。
建造物以外の対象物としては自動車、列車、船舶、航空機、トレーラーハウス等が例示されるが、これらに限定されない。
【0018】
(槽)
本開示の生物処理システムが備える槽としては、所望のサイズの容器が挙げられる。容器の材質は特に制限されず、樹脂、金属、セラミックス等から選択できる。
槽に収容される混合物の量の上限は特に制限されず、生物処理システムの用途に応じて選択できる。例えば、槽に収容される混合物の量の上限は10,000リットル、5,000リットル、1,000リットル、500リットル、300リットル、150リットル又は50リットルのいずれかであってもよい。
槽に収容される混合物の量の下限は特に制限されず、生物処理システムの使用方法等に応じて設定できる。生物処理を効果的に行う観点からは、槽に収容される混合物の量の下限は10リットルであってもよい。
【0019】
槽に収容される混合物は、生物処理の対象物と微生物とを少なくとも含む。
生物処理の対象物は液体成分と固体成分とを含むものであっても、液体成分のみを含むものであってもよい。
混合物に含まれる生物処理の対象物は、特に制限されない。例えば、トイレ、台所、浴室等の家庭や小規模集落から排出される生活排水、都市排水、商業施設排水、農業排水、工業排水等が挙げられる。
混合物に含まれる微生物の種類は特に制限されない。例えば、微生物は好気性菌、嫌気性菌のいずれであってもよく、これらの組み合わせであってもよい。
混合物に含まれる微生物として具体的には、硝化菌、酵母、大腸菌、脱窒菌、脱リン菌、脱窒性リン蓄積細菌等が挙げられる。
【0020】
(監視部)
本開示の生物処理システムは、混合物の温度を監視する監視部を備える。
監視部が混合物の温度を監視する手段は特に制限されず、温度計、赤外線センサ、放射温度計、サーモグラフ、サーミスタ等の公知の手段を用いることができる。温度を監視する手段は接触型であっても非接触型であってもよい。
監視部による監視結果は、混合物の温度の実測値であっても指数、変化率等の変換された値であってもよい。
【0021】
監視部による温度の監視は連続的に行っても、断続的に行ってもよい。
監視部が温度の監視を断続的に行う場合、監視を実施しない期間の長さは特に制限されず、例えば1時間~1週間の範囲から選択してもよい。
【0022】
監視部は、混合物の温度の監視を完全に自動で行うものであっても自動と手動の組み合わせにより行うものであってもよい。
温度の監視を完全に自動で行う場合としては、温度を自動的に監視する機能を備える装置を用いる場合が挙げられる。また、本開示の生物処理システムの利用傾向から学習した学習済みデータに基づいて設定される頻度、タイミングにて温度を自動的に監視してもよい。
温度の監視を自動と手動の組み合わせにより行う場合としては、監視部自体は監視を実施せず、温度を監視すべきことを操作者に通知する場合が挙げられる。
【0023】
(調節部)
本開示の生物処理システムは、混合物の温度を調節する調節部を備える。
調節部による混合物の温度の調節には、混合物の温度を上昇させることと、混合物の温度を低下させることとが含まれる。
混合物の温度が設定範囲の下限値を下回る場合には温度を上昇させ、設定範囲の上限値を上回る場合には温度を低下させることで、混合物の温度が適切な範囲内に保たれ、安定した生物処理を実現できる。
【0024】
混合物の温度を上昇させる操作としては、槽内に配置した加温装置で混合物を加温する操作が挙げられる。
混合物の温度を低下させる操作としては、槽内に水等の冷却剤を投入する操作が挙げられる。
【0025】
調節部による温度の調節は連続的に行っても、断続的に行ってもよい。
調節部が温度の調節を断続的に行う場合、調節を実施しない期間の長さは特に制限されず、例えば1時間~1週間の範囲から選択してもよい。
【0026】
調節部は、混合物の温度の調節を完全に自動で行うものであっても自動と手動の組み合わせにより行うものであってもよい。
温度の調節を完全に自動で行う場合としては、温度を自動的に調節する機能を備える装置を用いる場合が挙げられる。また、本開示の生物処理システムの利用傾向や外気温等の周辺環境の変動から学習した学習済みデータに基づいて設定される頻度、タイミングにて温度を調節したり、或いは当該タイミングを見計らって予め温度を調節してもよい。
温度の調節を自動と手動の組み合わせにより行う場合としては、調節部自体は調節を実施せず、温度を調節すべきことを操作者に通知する場合が挙げられる。
【0027】
(制御部)
本開示の生物処理システムは、混合物の温度の予測値に基づいて調節部を制御する制御部を備える。
【0028】
制御部は、例えば、混合物の温度の予測値が設定範囲の下限値を下回る場合には混合物の温度を上昇させるように調節部を制御し、混合物の温度の予測値が設定範囲の上限値を上回る場合には混合物の温度を低下させるように調節部を制御する。
【0029】
制御部としては、コンピュータ等の演算処理機能を持つ装置が挙げられる。図2は制御部の構成の一例を示す概念図である。
図2に示す制御部4は、CPUと、RAMと、ROMと、不揮発メモリとから構成されている。制御部4において、CPUは、プログラムをROMから読み出してRAMに展開し、プログラムが有するプロセスを実行する。プログラムは、CD、DVD、USBメモリ等の不揮発メモリを介して制御部に提供される。あるいは、プログラムはネットワークを介して制御部に提供されてもよい。
【0030】
図2に示す制御部4は、測定部2に含まれるセンサ及びサーミスタ、並びに調節部3に含まれる加温装置及び冷却装置と接続されている。
図2に示す制御部4はさらに、リレー(オン/オフを切り替える装置)を介してポンプ類及びブロワ類と接続されている。
ポンプ類及びブロワ類は、制御部4と異なるシステムで制御されてもよい。
【0031】
本開示において、制御部が「混合物の温度の予測値に基づいて調節部を制御する」とは、制御部が調節部を制御する時点よりも後の時点における混合物の温度として予測される値に基づいて調節部を制御することを意味する。
【0032】
制御部が混合物の温度の予測値に基づいて調節部を制御する場合としては、例えば、現在からn時間後の混合物の温度の予測値Tnが設定範囲の上限値を上回るか下限値を下回る場合が挙げられる。
この場合、制御部は、監視部で監視された現在の温度T0を上昇又は低下させるように調節部を制御する。例えば、n時間後の混合物の温度の予測値Tnが設定範囲の下限値を下回る場合は、制御部は現在の温度T0を上昇させるように調節部を制御する。その結果、n時間後の温度が設定範囲内の温度となる。
【0033】
制御部が混合物の温度の予測値に基づいて調節部を制御する操作を行うことで、混合物の現在の温度のみに基づいて加温や冷却を行う場合に比べ、生物処理システム内で生じる温度の変動をより小さくすることができる。このため、温度の変化が微生物の活性に与える影響をより低減でき、生物処理をより安定化するとともに処理能力を最大化することができる。
【0034】
制御部が調節部の制御に用いる混合物の温度の予測値は、例えば、監視部で監視される混合物の温度(現在の温度)と、前記混合物の温度変化に関する情報とに基づいて決定される。
前記混合物の温度変化に関する情報としては、生物処理の対象物の供給に関する情報、周囲環境に関する情報等が少なくとも挙げられる。
生物処理の対象物の供給に関する情報としては、生物処理の対象物が供給される時刻、供給量、供給時の対象物の温度等が挙げられる。
生物処理の対象物の供給に関する情報は、生物処理の対象物が生物処理システムに供給されるパターンを含んでもよい。例えば、生物処理の対象物の供給量が時間(或いは時間帯)、曜日、季節、地域等によって一定のサイクルで規則的に変化する場合、当該変化のパターンを情報に含んでもよい。
変化のパターンとしては、例えば、冬季は対象物の供給が大量かつ高温(浴槽使用のため)であり、夏季は対象物の供給が少量かつ低温(シャワー使用のため)であるという浴室からの排水の変化のパターンや、トイレの使用や料理による有機成分等を多く含む排水等が集中する時間帯のパターンなどが挙げられる。更に、家庭や小規模集落から排出される生活排水と、都市排水、商業施設排水、農業排水、工業排水等とでは、変化のパターンも異なり、個別の変化のパターンを情報として含んでもよい。
周囲環境に関する情報としては、本開示の生物処理システムが設置される場所の設置空間内の気温や外気温、湿度、気象情報、取水・補給水情報等が挙げられる。
【0035】
混合物の温度の予測値は、制御部に予測値を算出するための情報を入力し、当該情報に基づいて制御部に予測値を算出させてもよい。
例えば、制御部は監視部で監視された混合物の温度(現在の温度)と、制御部に入力された予測値を算出するための情報とに基づいて予測値を算出してもよい。
制御部に入力する情報としては、上述した混合物の温度変化に関する情報が挙げられる。
制御部に入力する情報は、生物処理の対象物が生物処理システムに供給されるパターンを含んでもよい。例えば、生物処理の対象物の供給量、供給時の温度等が一定のサイクルで規則的に変化する場合、当該変化のパターンを制御部に入力してもよい。
【0036】
制御部に入力される情報は、機械学習により得られる情報を含んでもよい。
例えば、上述したような混合物の温度に関する情報を学習済モデルに入力して得られる出力データを制御部に入力してもよい。学習済モデルより得られる出力データとしては、混合物の温度の変化率、混合物の温度の所定時間後の予測値などが挙げられる。
【0037】
制御部は、過去の制御に関するデータを学習用データとしつつ、制御の精度を向上させる機能を備えていてもよい。すなわち、制御部は学習済モデルを生成する機能(機械学習機能)を備えていてもよい。
機械学習機能は、例えば、学習用データ記憶部と、学習部と、学習済モデル記憶部と、により達成される。
学習部は、学習用データ記憶部に格納されている学習用データを読み出す。そして、学習部は、読み出した学習用データに基づいて、所定の機械学習モデルを教師あり機械学習アルゴリズムを用いて学習させることにより、学習済モデルを生成する。学習済モデル記憶部には、学習部によって生成された学習済モデルが格納される。
【0038】
制御部が混合物の温度の予測値に基づいて調節部に対する指令を決定する工程の一例を図3に示す。ここで、温度の予測値とは現在時刻から所定時間(n時間)後の温度を意味し、調節部による混合物の温度の調節が所定時間後に適切に維持されるように設定する。
図3に示す例では、まず、制御部の演算処理部により混合物の温度の予測値Rが算出される(ステップS1)。
次いで、制御部は予測値Rが設定範囲の下限値を下回るか否かを判定する(ステップS2)。予測値Rが設定範囲の下限値を下回る場合は、制御部は混合物の温度を上昇させる指令を決定する(ステップS3)。
次いで、制御部は予測値Rが設定範囲の上限値を上回るか否かを判定する(ステップS4)。予測値Rが設定範囲の上限値を上回る場合は、制御部は混合物の温度を低下させる指令を決定する(ステップS5)。
予測値Rが設定範囲の下限値を下回らず、かつ、上限値を上回らない場合には、制御部は混合物の温度を維持する決定をする。すなわち、制御部は調節部に対する指令を出さずに監視部とともに混合物の温度の監視を続けてもよい。或いは、温度維持のためにヒーターの点灯幅を微調整してもよい(ステップS6)。
【0039】
制御部が判定を行う際の設定範囲は特に制限されず、任意に設定できる。
例えば、生物処理に利用される主要な微生物の活動に適した温度範囲である20℃~40℃、好ましくは25℃~35℃の範囲内で設定してもよい。
制御部が判定を行う際の設定範囲は一定であっても変動してもよい。設定範囲は温度の実測値により定めても、それ以外の方法(例えば、微生物の活動に適した温度範囲からの逸脱度合い)により定めてもよい。
【0040】
制御部は、混合物の温度の予測値に基づいて調節部を制御することに加え、監視部で監視された混合物の温度に基づいて調節部を制御してもよい。
すなわち、制御部は現在の混合物の温度に基づいて調節部を制御してもよい。例えば、現在の混合物の温度が設定範囲の下限値を下回る場合には混合物の温度を上昇させるように調節部を制御し、現在の混合物の温度が設定範囲の上限値を上回る場合には混合物の温度を低下させるように調節部を制御してもよい。
【0041】
制御部が監視部で監視された混合物の温度に基づいて調節部に対する指令を決定する工程の一例としては、図3に示した例において「温度の予測値Rの算出(ステップS1)」を「監視部で監視された温度Rの入力(ステップS1)」と読み替えた場合の工程が挙げられる。
【0042】
(断熱材)
本開示の生物処理システムは、槽の周囲に配置される断熱材(断熱効果を有する設備、断熱効果を有する材料等)を備えていてもよい。
生物処理システムが断熱材を備えることで、槽内の混合物の温度の変動をより小さくすることができる。
断熱効果を有する材料の種類は特に制限されず、樹脂発泡体等の公知の断熱材料から選択できる。
断熱材は槽の周囲の全体を覆うように配置されても、槽の周囲の一部(底面など)を覆うように配置されてもよい。
【0043】
(散気装置)
本開示の生物処理システムは、混合物を収容する槽に空気を供給する散気装置を備えてもよい。
混合物を収容する槽に空気を供給することで、微生物の活動及び生存に必要な酸素が確保され、微生物の活性低下及び死滅を抑制することができる。
散気装置により供給される空気の量は特に制限されず、混合物に含まれる生物の対象物及び微生物の量などに応じて設定できる。
散気装置を設置する場所は、混合物を収容する槽に空気を供給できる場所であれば特に制限されない。例えば、散気は槽の底部に設置されてもよい。
【0044】
散気装置は、混合物を収容する槽に連続的に空気を供給しても、断続的に空気を供給してもよい。
散気装置が混合物を収容する槽に断続的に空気を供給する場合としては、例えば、空気の供給によって好気性条件を好む微生物の活動(硝化反応など)を促進する時間帯と、空気の供給の停止によって嫌気性条件を好む微生物の活動(脱窒反応など)を促進する時間帯とを交互に繰り返す場合が挙げられる。
あるいは、生物処理システムの利用頻度が高い時期には空気の供給によって微生物の活動及び増殖を促進し、生物処理システムの利用頻度が低い時期には空気の供給を停止して微生物の活動を抑制する場合が挙げられる。
【0045】
(撹拌装置)
本開示の生物処理システムは、混合物を撹拌する撹拌機能を備えてもよい。
混合物を撹拌することで、生物処理の対象物と微生物との接触が促進され、生物処理の効率が向上する。
【0046】
撹拌装置の構造は特に制限されない。例えば、撹拌装置は撹拌子を回転させて撹拌を行うものであっても、空気の供給により撹拌を行うものであってもよい。
撹拌装置を設置する場所は、枠体の外側の混合物を撹拌できる場所であれば特に制限されない。例えば、撹拌装置は槽の底部に設置されてもよい。
【0047】
(フィルター)
生物処理システムは、混合物をろ過するフィルターを備えてもよい。
生物処理システムがフィルターを備えることで、例えば、生物処理後の混合物を生物処理システムから取り出す際に混合物中の微生物と生物処理後の対象物とを分離することができる。
【0048】
フィルターの構造は特に制限されない。例えば、多孔質体、中空糸の集合体等であってもよい。
【0049】
(その他の装置)
必要に応じ、生物処理システムは上述した装置以外の装置を備えてもよい。
例えば、生物処理システムは、混合物の温度以外の情報を取得するための装置を備えていてもよい。
混合物の温度以外の情報として具体的には、混合物の微生物濃度、アンモニア濃度、亜硝酸濃度、硝酸濃度、溶存酸素濃度、有機物濃度、pH等が挙げられる。
混合物の温度以外の情報は、混合物の温度の監視結果とともに制御部に伝達されてもよく、制御部とは別の装置に伝達されてもよい。
【0050】
<生物処理装置>
本開示の生物処理装置は、
生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽と、
前記混合物の温度を監視する監視部と、
前記混合物の温度を調節する調節部と、
前記混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部と、を備える。
【0051】
本開示の生物処理装置の詳細及び好ましい態様は、本開示の生物処理システムの詳細及び好ましい態様と同様であってもよい。
すなわち、本開示の生物処理装置の詳細及び好ましい態様については上述した生物処理システムに関する記載において「生物処理システム」を「生物処理装置」に読み替えて参照することができる。
【0052】
<水浄化システム>
本開示の水浄化システムは、上述した生物処理システム又は生物処理装置を備える。
水浄化システムは、生物処理システム又は生物処理装置のみからなっても、生物処理システム又は生物処理装置と生物処理システム以外の機構とを備えてもよい。
生物処理システム又は生物処理装置以外の機構として具体的には、生物処理の対象物に含まれる固体成分と液体成分とを分離するための槽、生物処理後の対象物に含まれる微生物と生物処理後の対象物とを分離するための槽、生物処理後の対象物を貯留するための槽等が挙げられる。
【0053】
生物処理の対象物に含まれる固体成分と液体成分とを分離するための槽は、例えば、生物処理システム又は生物処理装置に供給される対象物に含まれる有機物の濃度を調節して生物処理システム又は生物処理装置の生物処理の効率を良好に維持する。対象物に含まれる固体成分と液体成分とを分離する方法としては、固体成分を沈殿させる方法、フィルターを通過させる方法などが挙げられる。
生物処理システム又は生物処理装置が生物処理の対象物に含まれる固体成分と液体成分とを分離する機能を備えていてもよい。
【0054】
生物処理後の対象物に含まれる微生物と生物処理後の対象物とを分離するための槽は、例えば、生物処理後の対象物とともに微生物が水浄化システムの外に流出するのを防止する。対象物に含まれる微生物と生物処理後の対象物とを分離する方法としては、微生物を沈殿させる方法、フィルターを通過させる方法などが挙げられる。
生物処理システム又は生物処理装置が生物処理後の対象物に含まれる微生物と処理後の対象物とを分離する機能を備えていてもよい。
【0055】
生物処理後の対象物を貯留するための槽は、例えば、生物処理後の対象物を放出するタイミングを調節する。
生物処理システムが生物処理後の対象物を貯留する機能を備えていてもよい。
【0056】
水浄化システムは、生物処理後の対象物を脱色する機構を備えてもよい。
生物処理後の対象物を脱色する機構としては、オゾン発生装置、活性炭等が挙げられる。
生物処理後の対象物を脱色する機構は、例えば、生物処理後の対象物を貯留するための槽に設けられてもよい。
【0057】
水浄化システムは、生物処理後の対象物を消毒する機構を備えてもよい。例えば、生物処理後の対象物に塩素等の薬品を添加する機構、オゾンによる処理を行う機構等を備えてもよい。
生物処理後の対象物を消毒する機構は、例えば、生物処理後の対象物を貯留するための槽に設けられてもよい。
【0058】
水浄化システムは、生物処理の対象物に微生物又は微生物の栄養源を添加する機構を備えてもよい。
【0059】
水浄化システムは、生物処理後の対象物を浄化する機構を備えてもよい。
生物処理後の対象物を浄化することで、生物処理後の対象物の不純物含有率を所望の基準まで低下させることができる。
生物処理後の対象物を浄化する機構の種類は特に制限されず、生物処理後の対象物の用途、要求される純度等に応じて選択できる。具体的には、逆浸透膜(RO膜)、限外ろ過膜(UF膜)、精密ろ過膜(MF膜)、活性炭等が挙げられる。
水浄化システムは、上記機構で浄化された対象物を貯留するための槽を備えていてもよい。
【0060】
水浄化システムは、循環式であっても循環式でなくても利用可能である。
本開示において水浄化システムが循環式であるとは、生物処理の対象となる対象物の供給元に生物処理後の対象物の全部又は一部を戻すことを意味する。
循環式の水浄化システムとして具体的には、台所、浴室、トイレ等の家屋の設備からの排水を生物処理した後に、生物処理後の排水を水洗トイレの洗浄水として再利用するシステム(循環式水洗トイレ)等が挙げられる。
【0061】
<生物処理方法>
本開示の生物処理方法は、
生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽に含まれる前記混合物の温度を監視する工程と、
前記混合物の温度を調節する工程と、を備え、
前記温度の調節は、前記混合物の温度の予測値に基づいて制御される、生物処理方法である。
【0062】
本開示の生物処理方法によれば、生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽内の温度を所望の精度でコントロールすることができる。このため、生物処理の対象物の供給量、供給時の温度、供給のタイミングなどの変動が大きい場合であっても効率的かつ安定した生物処理を実施することができる。
【0063】
本開示の生物処理方法を実施する方法は、特に制限されない。たとえば、上述した本開示の生物処理システム又は生物処理装置を用いて実施してもよい。この場合、生物処理方法を実施する際の詳細及び好ましい態様は、上述した本開示の生物処理システムを実施する際の詳細及び好ましい態様と同様である。
【0064】
<水浄化方法>
本開示の水浄化方法は、上述した本開示の生物処理方法を実施する工程を含む、水浄化方法である。
【0065】
水浄化方法は、生物処理の対象物に含まれる固体成分と液体成分とを分離する工程を備えてもよい。対象物に含まれる固体成分と液体成分とを分離する方法としては、固体成分を沈殿させる方法、フィルターを通過させる方法などが挙げられる。
【0066】
水浄化方法は、生物処理後の対象物に含まれる微生物と生物処理後の対象物とを分離する工程を備えてもよい。対象物に含まれる微生物と生物処理後の対象物とを分離する方法としては、微生物を沈殿させる方法、フィルターを通過させる方法などが挙げられる。
【0067】
水浄化方法は、生物処理後の対象物を貯留する工程を備えてもよい。
【0068】
水浄化方法は、生物処理後の対象物を脱色する工程を備えてもよい。生物処理後の対象物を脱色する方法としては、オゾンを生物処理後の対象物に供給する方法、生物処理後の対象物を活性炭に接触させる方法等が挙げられる。
【0069】
水浄化方法は、生物処理後の対象物を消毒する工程を備えてもよい。例えば、生物処理後の対象物に塩素等の薬品を添加する工程、オゾンを供給する工程等を備えてもよい。
【0070】
水浄化方法は、生物処理の対象物に微生物又は微生物の栄養源を添加する機構を備えてもよい。
【0071】
水浄化方法は、循環式であっても循環式でなくても利用可能である。
循環式の水浄化方法として具体的には、台所、浴室、トイレ等の家屋の設備からの排水を生物処理した後に生物処理後の排水を水洗トイレの洗浄水として再利用する方法等が挙げられる。
【符号の説明】
【0072】
1:槽
2:監視部
3a、3b:調節部
4:制御部
5a、5b:駆動装置
11、12a、12b:信号伝達手段
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-04-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽と、
前記混合物の温度を監視する監視部と、
前記混合物の温度を調節する調節部と、
前記混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部と、を備え、
前記混合物の温度の予測値は、前記監視部で監視される前記混合物の温度と、前記混合物の温度変化に関する情報とに基づいて決定され、
前記混合物の温度変化に関する情報は、生物処理の対象物の供給のパターンを含む、生物処理システム。
【請求項2】
前記槽の周囲に配置される断熱材を備える、請求項1に記載の生物処理システム。
【請求項3】
生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽と、
前記混合物の温度を監視する監視部と、
前記混合物の温度を調節する調節部と、
前記混合物の温度の予測値に基づいて前記調節部を制御する制御部と、を備え、
前記混合物の温度の予測値は、前記監視部で監視される前記混合物の温度と、前記混合物の温度変化に関する情報とに基づいて決定され、
前記混合物の温度変化に関する情報は、生物処理の対象物の供給のパターンを含む、生物処理装置。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の生物処理システム又は請求項に記載の生物処理装置を備える、水浄化システム。
【請求項5】
生物処理の対象物と微生物との混合物を収容する槽に含まれる前記混合物の温度を監視する工程と、
前記混合物の温度を調節する工程と、を備え、
前記温度の調節は、前記混合物の温度の予測値に基づいて制御され、
前記混合物の温度の予測値は、前記監視する工程で監視される前記混合物の温度と、前記混合物の温度変化に関する情報とに基づいて決定され、
前記混合物の温度変化に関する情報は、生物処理の対象物の供給のパターンを含む、生物処理方法。
【請求項6】
請求項に記載の生物処理方法を実施する工程を含む、水浄化方法。