IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ファンケルの特許一覧

特開2023-159768ピラノベンゾピランを基本骨格とする化合物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159768
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ピラノベンゾピランを基本骨格とする化合物
(51)【国際特許分類】
   C07D 493/04 20060101AFI20231025BHJP
   A61K 31/352 20060101ALI20231025BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231025BHJP
   A61P 25/00 20060101ALN20231025BHJP
   A61K 36/73 20060101ALN20231025BHJP
【FI】
C07D493/04 106A
A61K31/352
A23L33/105
A61P25/00
A61K36/73
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069684
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】593106918
【氏名又は名称】株式会社ファンケル
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 剛史
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 知倫
【テーマコード(参考)】
4B018
4C071
4C086
4C088
【Fターム(参考)】
4B018MD08
4B018MD61
4B018ME14
4B018MF01
4C071AA01
4C071AA07
4C071BB01
4C071CC12
4C071EE07
4C071FF17
4C071GG03
4C071HH05
4C071HH08
4C071HH09
4C071KK17
4C071LL01
4C086AA03
4C086CA01
4C086GA15
4C086GA16
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA55
4C086NA14
4C086ZA02
4C088AB51
4C088AC01
4C088BA11
4C088CA06
4C088CA14
4C088MA52
4C088MA55
4C088NA14
4C088ZA02
(57)【要約】
【課題】キンミズヒキ抽出物由来の新規化合物を提供することを課題とする。
【解決手段】化学式1で表される化合物
【化1】
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式1で表される化合物。
【化1】
(化学式1)
【請求項2】
化学式2で表される化合物。
【化2】

(化学式2)
【請求項3】
化学式3で表される化合物。
【化3】
(化学式3)
【請求項4】
化学式4で表される化合物。
【化4】
(化学式4)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラノベンゾピランを基本骨格とする新規化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
キンミズヒキ(金水引、学名:Agrimonia pilosa var. japonica )は、バラ科キンミズヒキ属の多年草である。キンミズヒキは、漢方生薬として古くから利用されており、様々な薬理活性が知られている。また安全性も熟知されている。
キンミズヒキの抽出物は、アレルゲン不活化剤としての利用(特許文献1)、抗男性ホルモン剤および乳頭細胞増殖促進剤(特許文献2)、美白及び抗皮膚老化剤(特許文献3)、ドーパオキシダーゼ活性抑制剤(特許文献4)、β-グルクロニダーゼ阻害剤(特許文献5)、中性エンドペプチダーゼ阻害剤(特許文献6)など、様々な医薬用途が提案されている。
しかし、上記に例示した先行技術にあっては、いずれも、その活性物質が何であるか特定していない。
【0003】
本願の発明者らは、キンミズヒキの抽出物を用いて薬理作用の研究を行っている。その過程で、キンミズヒキの水又はエタノール抽出物に神経活性化作用を見出し、神経活性化剤として特許出願を行った(特許文献7)。キンミズヒキ抽出物は、神経伝達に関与する神経細胞中のリン酸化CaMKII(pCaMKII)及びリン酸化ERK1/2(pERK1/2)の増加をもたらし、c-fos、ArcなどのIEG (immediate early gene 最初期遺伝子)の発現を増強して、記憶に関わる神経を活性化し、記憶を改善する作用を有する(特許文献7参照)ことが確認されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-174529号公報
【特許文献2】特開2010-65008号公報
【特許文献3】特開2010-65009号公報
【特許文献4】特開2010-195731号公報
【特許文献5】特開2010-220641号公報
【特許文献6】特開2011-190214号公報
【特許文献7】特開2018-8888号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、神経活性化物質を特定するため、研究を行い、新規化合物を見出した。
本発明は、新規化合物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の主な構成は次の通りである。
(1)化学式1で表される化合物。
【0007】
【化1】
(化学式1)
【0008】
(2)化学式2で表される化合物。
【0009】
【化2】
(化学式2)
【0010】
(3)化学式3で表される化合物。
【0011】
【化3】

(化学式3)
【0012】
(4)化学式4で表される化合物。
【0013】
【化4】
(化学式4)
【発明の効果】
【0014】
本発明により、ピラノベンゾピラン(Pyranobenzopyran)を基本骨格に持つ新規化合物が提供される。本発明の化合物は、c-fosなどのIEG (immediate early gene 最初期遺伝子)の発現を増強して、記憶に関わる神経を活性化し、記憶を改善する作用を有する。
したがって、本発明の化合物は、記憶に関わる神経系の活性化に有用であり、さらに神経系活性研究の試薬として利用できる。また記憶や神経活性化剤を得るための化学合成医薬品の出発物質、あるいは研究用試薬として利用できる。さらには、本発明の化合物を含有する飲食品や医薬品として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】KM1-1のキラルカラムを用いたHPLC分析結果
図2】KM1-2のキラルカラムを用いたHPLC分析結果
図3】KM2-1のキラルカラムを用いたHPLC分析結果
図4】KM2-2のキラルカラムを用いたHPLC分析結果
図5】KM3-1のキラルカラムを用いたHPLC分析結果
図6】KM3-2のキラルカラムを用いたHPLC分析結果
図7】KM4-1のキラルカラムを用いたHPLC分析結果
図8】KM4-2のキラルカラムを用いたHPLC分析結果
図9】KM1-1を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたKM1-1、溶媒は省略)
図10】KM1-1の相対立体構造
図11】KM1-2を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたKM1-2、溶媒は省略)
図12】KM1-2の相対立体構造
図13】KM2-1を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたKM2-1、溶媒は省略)
図14】KM2-1の相対立体構造
図15】KM2-2を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたKM2-2、溶媒は省略)
図16】KM2-2の相対立体構造
図17】KM3-1を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたKM3-1、溶媒は省略)
図18】KM3-1の相対立体構造
図19】KM3-2を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたKM3-2、溶媒は省略)
図20】KM3-2の相対立体構造
図21】KM4-1を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたKM4-1、溶媒は省略)
図22】KM4-1の相対立体構造
図23】KM4-2を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたKM4-2、溶媒は省略)
図24】KM4-2の相対立体構造
図25】R13を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたR13溶媒は省略)
図26】R13の絶対立体構造
図27】R14を取込んだ結晶スポンジの非対称単位構造(点線内が取り込まれたR14溶媒は省略)
図28】R14の絶対立体構造
図29】R1~R16の絶対立体構造
図30】KM1-1~KM4-1の最初期遺伝子発現増強作用
図31】キンミズヒキから抽出精製、単離全体の分離・精製フローチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の各新規化合物は、キンミズヒキ(金水引、学名:Agrimonia pilosa var. japonica)を原料として抽出・精製工程を経ることにより得ることができる。また、化学合成によって得ることも可能である。さらにまた、キンミズヒキ以外の植物であっても、本発明の化合物を含有することが確認できた他の植物体からの抽出物や粗精製物、又は植物体の乾燥物や植物体のペーストを用いて、発明の化合物を単離精製することも可能である。
【0017】
キンミズヒキから本発明の化合物を抽出・精製する場合、通常工業的に用いるいずれの抽出・精製工程であっても適宜組み合わせて用いることができる。原料である植物の葉、茎、根、花等を、適切な時期に採取した後、そのまま、若しくは通常通風乾燥等の乾燥工程に付し、抽出原料とする。上記の乾燥した植物体から抽出を行う場合は、公知の抽出方法を採用することができる。
【0018】
すなわち、原料を粉砕若しくは細切した後、溶媒を用いて抽出を行う。抽出溶媒としては、水、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類、ヘキサン、クロロホルム等の親油性の溶媒を、単独若しくは混合溶媒として用いることができる。好ましくはエタノールと水の混合溶媒である。抽出温度は、通常0~100℃、好ましくは5~50℃である。抽出時間は、1時間~10日間程度であり、溶媒量は、乾燥原料あたり通常1~30倍重量、好ましくは5~10倍重量である。抽出操作は、攪拌によっても、浸漬放置によっても良い。
抽出操作は、必要に応じて2~3回繰り返しても良い。また市販されているキンミズヒキの抽出エキス品を化合物の単離・精製の原料としても良い。
上記の操作で得られた粗抽出液から、不溶性残渣を濾過若しくは遠心分離により取り除いた抽出液、あるいは植物の搾汁液からの各化合物の精製は、公知の生薬の分離精製方法であればどのようなものでも良い。通常は、二相溶媒分配法、向流分配法、カラムクロマトグラフィー法、分取高速液体クロマトグラフィー法等を単独又は組み合わせて用いることが好ましい。
例えば二相溶媒分配法としては、前記の抽出液からn-ヘキサン、クロロホルム、メチルエチルケトン、酢酸エチル、酢酸メチル等の溶媒と水との分配により、溶媒相へ目的化合物を回収する方法等があげられる。カラムクロマトグラフィー法としては、イオン交換カラムクロマトグラフィー法、担体として順相系、又は逆相系シリカゲルを用いる方法、ダイヤイオンHP-20等を用いる吸着カラムクロマトグラフィー法、担体としてセファデックスLH-20等の修飾デキストランゲルを用いるゲルろ過法等があげられる。これらを単独若しくは組み合わせて、また、反復して実施する。分取高速液体クロマトグラフィー法としては、オクタデシルシリカ等を用いる逆相系のカラムを用いる方法、シリカゲル等を用いる順相系のカラムを用いる方法等があげられる。
【0019】
本発明の化合物を含む飲食の形態としては、キンミズヒキ乾燥物を用いたお茶、各化合物の純品、当該新規化合物の部分精製品、キンミズヒキからの粗抽出物を配合した食品などがあげられる。
【0020】
お茶としては、単独又は他の茶原料と混合して用いても良い。他の茶原料としては、緑茶、ウーロン茶、プーアル茶、紅茶、ほうじ茶、玄米茶、杜仲茶、柿の葉茶、桑の葉茶など、通常お茶として食されるものであれば、どのようなものであっても用いることができる。
【0021】
本発明の化合物を含む飲食品の形態としては、お茶のほか、ドリンク剤、ゼリー、ビスケット、錠剤、丸剤、ソフトカプセル剤、ハードカプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤等、通常食品として提供可能な形態であれば、いずれの形態も用いることができる。副原料として、賦形剤、結合剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤、細菌抑制剤等の添加剤を用いることもできる。
【0022】
本発明の化合物を含有する食品による各新規化合物の有効摂取量は、摂取形態、対象者の健康状態、対象者の年齢等により異なるが、通常成人一日あたり通常0.001~100 mg、好ましくは0.01~10 mg、さらに好ましくは0.1~1 mgである。
【0023】
本発明の化合物を含有する医薬品の投与経路としては、特に限定されない。経口投与・直腸内投与等の経腸投与、経鼻投与などの粘膜投与、静脈内投与・皮下投与などの注射投与等を例示できる。本発明の医薬品の剤型としては、投与方法に適した製剤の形態をとることができる。錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末、丸剤、トローチ剤等の固形剤、溶液、懸濁剤、乳剤、シロップ剤、注射剤などの液剤、ゲル状の製剤などが例示できる。各化合物の純品、精製物、粗精製物等をそのまま投与しても良いが、薬理的に許容される賦形剤とともに投与しても良い。また記憶等に係る神経の活性化に関する有効成分として、本発明の化合物のみを含有させることができる。そして、さらにその他の神経系の活性化に関する有効成分を併用できる。
賦形剤としては、単糖類、二糖類、多糖類、無機塩、油脂、蒸留水などの製剤として一般に使用可能なものであればいずれも用いることができる。製剤化する際には、結合剤、滑沢剤、分散剤、懸濁剤、乳化剤、希釈剤、緩衝剤、抗酸化剤等の添加剤を用いることもできる。
【0024】
本発明の各化合物を含む医薬品としての投与量は、投与経路、剤形、疾患の症状、対象者の年齢等により異なる。一般的に、成人一日あたり0.1~1000 mg、好ましくは0.5~300 mg、さらに好ましくは1~100 mgである。
【実施例0025】

以下に、本発明の各化合物をキンミズヒキから抽出精製し、単離した化合物を特定した実施例を示す。また精製した各化合物を用いた神経細胞の活性化試験例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明する。
【0026】
抽出・分離・精製
乾燥キンミズヒキ(Agrimonia pilosa var. japonica)の粉砕物5 kgを10倍量の99.5%エタノールにて2時間還流抽出を行った。得られた抽出液を減圧濃縮し、エタノール抽出固形750 gを得た。エタノール抽出固形をDIANION HP-20(三菱ケミカル)を充填したオープンカラム(35cm×11cm I.D.)に供し、水、80%メタノール、メタノール、アセトンの順に通液した。メタノール、アセトン溶出部をまとめて減圧濃縮し、メタノール+アセトン溶出固形(62 g)を得た。クロロフィルを除去するため、メタノール+アセトン溶出固形を95%エタノール1 Lに再溶解し、活性炭30 gを加え、45℃下で30分間撹拌した。その後、濾液を減圧濃縮し活性炭処理物24 gを得た。活性単処理物をChromatorex ODS(富士シリシア)を充填したオープンカラム(50 cm×5 cm I.D.)に供し、メタノール-水混液(メタノール: 水=60: 40 → 100: 0)を通液し、80%メタノール溶出画分4.4 gを得た。80%メタノール溶出画分をSilica gel 60(Merck Millipore)を充填したオープンカラム(10 cm×5 cm I.D.)に供し、ヘキサン-酢酸エチル混液(ヘキサン: 酢酸エチル=80: 20 → 0:100)を通液し、ヘキサン:酢酸エチル=80: 20溶出画分2.4 gを得た。ヘキサン:酢酸エチル=80: 20溶出画分を分取HPLCに供し、KM 1-4を得た。全体の分離・精製フローチャートを図31に示す。分取HPLCの条件は下記の通りである。
【0027】
[分取HPLC条件]]

得られたKM 1-4をリサイクル分取HPLCに供し、各KM1-1~KM4-2を得た。リサイクル分取HPLCの条件は下記の通りである。
【0028】
[KM 1、KM 2のリサイクル分取HPLC条件]
【0029】
[KM 3、KM 4のリサイクル分取HPLC条件]

得られたKM1-1~KM 4-2を更にキラルカラムを用いて光学純度を調査した。その結果、KM 1-1はR1、R2からなるラセミ体、KM1-2はR3、R4からなるラセミ体、KM2-1はR5、R6からなるラセミ体、KM2-2はR7、R8からなるラセミ体、KM3-1はR9、R10からなるラセミ体、KM3-2はR11、R12からなるラセミ体、KM4-1はR13、R14からなるラセミ体、KM4-2はR15、R16からなるラセミ体であることが明らかとなった(図1-8)。HPLC条件は下記の通りである。
【0030】
[KM 1-1~KM 4-2のキラルカラムを用いたHPLC分析条件]
【0031】
平面構造決定
KM-1-1~KM 4-2の平面構造は質量分析法(エレクトロスプレーイオン-飛行時間型質量分析計(ESI-TOFMS)、ACQUITY UPLC / Xevo G2 Tof、Waters)と核磁気共鳴分光法(NMR、JNM-ECS 400、日本電子)により決定した。
分離、精製した各化合物の1次元NMR(H-NMR、13C-NMR)、二次元NMR(COSY、HSQC、HMBC、NOESY)、高分解能ESI-TOFMS(positive)データより決定した平面構造式を以下に示す。
【0032】
【化5】
KM 1-1
Molecular formula: C2530
HR positive-ion ESI-MS: calculated for C2531 : m/z 475.1968 [M+H] , found: 475.1953
【0033】
【化6】
KM 1-2
Molecular formula: C2530
HR positive-ion ESI-MS: calculated for C2531 : m/z 475.1968 [M+H] , found: 475.1967
【0034】
【化7】
KM 2-1
Molecular formula: C2530
HR positive-ion ESI-MS: calculated for C2531 : m/z 475.1968 [M+H] , found: 475.1971
【0035】
【化8】
KM 2-2
Molecular formula: C2530
HR positive-ion ESI-MS: calculated for C2531 : m/z 475.1968 [M+H] , found: 475.1967
【0036】
【化9】
KM 3-1
Molecular formula: C2632
HR positive-ion ESI-MS: calculated for C2633 : m/z 489.2125 [M+H] , found: 489. 2137
【0037】
【化10】
KM 3-2
Molecular formula: C2632
HR positive-ion ESI-MS: calculated for C2633 : m/z 489.2125 [M+H] , found: 489.2135
【0038】
【化11】
KM 4-1
Molecular formula: C2632
HR positive-ion ESI-MS: calculated for C2633 : m/z 489.2125 [M+H] , found: 489.2146
【0039】
【化12】
KM 4-2
Molecular formula: C2632
HR positive-ion ESI-MS: calculated for C2633 : m/z 489.2125 [M+H] , found: 489.2136
【0040】
相対立体構造決定
ラセミ体であるKM1-1~KM4-2について、それぞれ結晶スポンジ法を用いて相対立体構造を決定した。結晶スポンジは、2,4,6-トリ(4-ピリジル)-1,3,5-トリアジンと塩化亜鉛からChem. Eur. J. 2017, 23, 15035-15040に記載の方法に従って作製した。結晶スポンジへの各化合物の取込(ソーキング)はIUCrJ 2016, 3, 139-151に記載の方法に準じた。すなわち、結晶スポンジ1粒をn-hexane 45μLとともに1.2 mL V底マイクロバイアルに添加し、そこに各化合物を溶解したジメトキシエタン溶液を5μL添加した。バイアルにキャップをし50℃でインキュベートした。このときバイアルに針を刺して1~4日かけて緩やかに溶媒を揮発させた。各化合物のソーキング条件を表1に示す。
【0041】
表1 各化合物の結晶スポンジ法分析時のソーキング条件エラー! リンクが正しくありません。ソーキング後の結晶スポンジを単結晶X線回折装置(Synergy-R、Rigaku)にマウントし、100 Kにて回折測定を実施した。データ解析はIUCrJ 2016, 3, 139-151に記載の方法に準じた。いずれの化合物も結晶スポンジに取り込まれ、その構造を観測することが可能であった。各化合物を取り込んだ結晶スポンジを解析した際の結晶データを表2および3にまとめた。
【0042】
表2 KM1-1、KM1-2、KM2-1、KM2-2を結晶スポンジ法で解析した際の結晶データ
【0043】
表3 KM3-1、KM3-2、KM4-1、KM4-2を結晶スポンジ法で解析した際の結晶データ
【0044】
KM1-1を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図9に、取り込まれたKM1-1の相対立体構造を図10に示す。
KM1-2を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図11に、取り込まれたKM1-2の相対立体構造を図12に示す。
KM2-1を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図13に、取り込まれたKM2-1の相対立体構造を図14に示す。
KM2-2を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図15に、取り込まれたKM2-2の相対立体構造を図16に示す。
KM3-1を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図17に、取り込まれたKM3-1の相対立体構造を図18に示す。
KM3-2を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図19に、取り込まれたKM3-2の相対立体構造を図20に示す。
KM4-1を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図21に、取り込まれたKM4-1の相対立体構造を図22に示す。
KM4-2を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図23に、取り込まれたKM4-2の相対立体構造を図24に示す。
【0045】
絶対立体構造決定
ラセミ体KM4-1を図7に記載したR13およびR14の各エナンチオマーに分割し、エナンチオピュアなR13およびR14、それぞれを同様に結晶スポンジ法で分析した。R13もしくはR14を取り込むことで、結晶スポンジの空間群がアキラルなC2/cからキラルなC2へ変化した。各化合物を取り込んだ結晶スポンジを解析した際の結晶データを表4にまとめた。
【0046】
【0047】
R13を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図25に、取り込まれたR13の絶対立体構造を図26に示す。
R14を取込んだ結晶スポンジを解析した際の非対称単位を図27に、取り込まれたR14の絶対立体構造を図28に示す。
以上の結果より、図1図8に記載したキラルカラムを用いた分析条件にて、ピラノベンゾピラン環が4aR,10aS配置のエナンチオマーが溶出時間の早いピーク、4aS,10aR配置のエナンチオマーが溶出時間の遅いピークであることが分かった。R1~R16の絶対立体構造をまとめると図29の通りである。
【0048】
最初期遺伝子発現増強作用の検証
妊娠17日目のSDラット(日本エスエルシー)から胎仔を取り出し、大脳皮質と海馬を単離した後、神経細胞分散液キット(住友ベークライト)を用いて添付の説明書に従い、初代神経細胞を調製した。調製したラット初代神経細胞を2% B27(Gibco)、0.5 mM L-グルタミン(Gibco)、1% ペニシリン-ストレプトマイシン(Sigma)を含むニューロベイサル培地(Gibco)で4x10 cells/mlの濃度になるように縣濁し、ポリ-L-リジンコートの48ウエルプレート(住友ベークライト)に350 μlずつ播種し、37℃、5% CO下で7日間培養した。
KM1-1 (3 μM)、KM1-2 (30 μM)、KM2-1 (10 μM)、KM2-2 (1 μM) 、KM3-1(3 μM)、KM3-2 (3 μM)、KM4-1 (3 μM)、KM4-2 (3 μM)になるように添加し1時間、または2時間(KM1-1、1-2)培養した後、RNeasy Mini kit(QIAGEN)を用い添付の説明書に従ってRNAを調製した。約50 ngの調製したRNAは、PrimeScript RT reagent kit(Takara)を使用し、添付の説明書に従いcDNAを作製した。
c-fos発現量は、Applied Biosystems TaqMan Gene Expression Assayを用い、内在性コントロールにはラットGAPDH Taqman probeを用いて、次の方法で定量した。1 μl cDNA、ラットGAPDH Taqman probe、ラットc-fos Taqman probe、Premix Ex Taqを所定の割合で混合し、計10 μLとなるように混合したものを反応液とした。
調製した反応液は、Qunti Studio 5(Applied Biosystems)を用い、[(95℃、20秒)→(95℃、1秒)→(60℃、20秒)]x 45サイクルの反応条件で測定を行った。測定より得られたCt値からGAPDHを内部標準としてΔΔCt法により、各サンプルの相対的遺伝子発現量を求めた。
【0049】
測定結果を図30に示した。以上のラット初代神経系培養細胞を用いた試験から、各化合物は、最初期遺伝子であるc-fosの発現を増加することから神経を活性化することが判明した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31