(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159783
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】鉄道車両用の台車
(51)【国際特許分類】
B61F 5/00 20060101AFI20231025BHJP
B61F 5/12 20060101ALI20231025BHJP
B61F 5/02 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
B61F5/00
B61F5/12
B61F5/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069706
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】干鯛 正隆
(72)【発明者】
【氏名】合田 憲次郎
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 亜土武
(72)【発明者】
【氏名】石川 将大
(57)【要約】
【課題】
台車に新たな装置を載せることなく、曲線軌道の通過時に発生する横圧を低減する。
【解決手段】
鉄道車両用の台車2は、鉄道車両の車体1を複数の台車2によって弾性支持する。複数の台車2には、鉄道車両の進行方向の前側に装備される第1の台車と、進行方向の後ろ側に装備される第2の台車と、が含まれる。第1及び第2の台車はそれぞれ、台車の中心位置に対して進行方向の前側と後ろ側とに、支持剛性を切替可能な機構(切替式ダンパ29)を、車体1及び台車2において進行方向の左右水平方向に働く荷重が掛かるように配置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄道車両の車体を複数の台車によって弾性支持する鉄道車両用の台車であって、
前記複数の台車には、前記鉄道車両の進行方向の前側に装備される第1の台車と、前記進行方向の後ろ側に装備される第2の台車と、が含まれ、
前記第1及び第2の台車はそれぞれ、
前記台車の中心位置に対して前記進行方向の前側と後ろ側とに、支持剛性を切替可能な機構を、前記車体及び前記台車において前記進行方向の左右水平方向に働く荷重が掛かるように配置する
ことを特徴とする鉄道車両用の台車。
【請求項2】
前記鉄道車両が所定の曲率以上の曲線軌道を通過するとき、
前記第1の台車に配置された少なくとも何れかの前記機構を、支持剛性が通常よりも高い動作状態にする
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用の台車。
【請求項3】
前記鉄道車両が前記曲線軌道を通過するとき、
前記第1の台車において前記進行方向の後ろ側に配置された前記機構を、支持剛性が通常の動作状態にする
ことを特徴とする請求項2に記載の鉄道車両用の台車。
【請求項4】
前記鉄道車両が前記曲線軌道を通過するとき、
前記第2の台車に配置された前記機構を、支持剛性が通常の状態にする
ことを特徴とする請求項3に記載の鉄道車両用の台車。
【請求項5】
前記鉄道車両が前記所定の曲率よりも大きい特定の曲率以上の急曲線軌道を通過するとき、
前記第2の台車において前記進行方向の後ろ側に配置された前記機構を、支持剛性が通常よりも高い動作状態にする
ことを特徴とする請求項3に記載の鉄道車両用の台車。
【請求項6】
前記機構は、流路のオリフィス径を変更可能な油圧式ダンパである
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用の台車。
【請求項7】
前記第1及び前記第2の台車において、
各前記機構は、前記台車の中心位置の近傍に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用の台車。
【請求項8】
前記第1及び前記第2の台車において、
前記進行方向の前側に配置される前記機構は、前記台車の中心位置の近傍に配置され、
前記進行方向の後ろ側に配置される前記機構は、前記台車の後端側に配置される
ことを特徴とする請求項1に記載の鉄道車両用の台車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両用の台車に関し、鉄道車両において車体を支持する台車に適用して好適なものである。
【背景技術】
【0002】
一般的な鉄道車両用の台車は、車軸の両端部に車輪が固定された輪軸と、輪軸を回転自由に保持する軸箱体と、台車枠と、から構成されている。輪軸は、勾配の付いた踏面部及びレールからの逸脱を防止するためのフランジ部を有する。軸箱体は、軸箱支持装置によって、台車枠に対して弾性支持されている。台車枠の上面と車体の下面との間には空気ばねが備えられることにより、車体は台車に対して前後、左右、上下の各方向に弾性支持されている。このような構造により、台車は車体に対して、台車の中心位置の鉛直軸の周りに旋回可能な構成となっている。
【0003】
一般的に、曲率が大きい(曲率半径が小さい)曲線区間を鉄道車両が走行する場合、車体に対して台車が旋回する際に、空気ばねが弾性変形して復元力が作用し、この復元力が台車の旋回への抵抗モーメントとなることで、台車の進行方向が曲線の接線方向に沿いきれずに、車輪のフランジ部とレールとが接触するまでに至る場合がある。これにより、車輪とレールの間に、進行方向に対して左右方向に荷重、すなわち横圧が発生する。この横圧が大きくなると、対脱線安全性能の低下、車輪フランジ部とレール間でのきしり音の発生、軌道保守費増加の一因となり得るため、横圧を低減することが重要な課題となっている。
【0004】
従来知られた横圧の低減方法の1つとして、例えば特許文献1が挙げられる。特許文献1に記載された鉄道車両は、空気ばねの前後方向の剛性を制御する空気ばね変位抑制装置と、車両の進行方向を検知して、空気ばね変位抑制装置を制御可能な制御装置と、を備えた構成となっている。上記構成を備えることにより特許文献1の鉄道車両は、曲線通過時に、進行方向の前側の台車において、空気ばねの前後方向の剛性を小さくし、空気ばねによる旋回抵抗モーメントを小さくし、横圧を低減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に開示された構成では、横圧の低下を実現したい対象台車の全てに、空気ばね変位抑制装置を追設する必要があり、搭載のための設計検討及び追設の費用が生じるという問題があった。
【0007】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、台車に新たな装置を載せることなく、曲線軌道の通過時に発生する横圧を低減することが可能な鉄道車両用の台車を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる課題を解決するため本発明においては、鉄道車両の車体を複数の台車によって弾性支持する鉄道車両用の台車であって、前記複数の台車には、前記鉄道車両の進行方向の前側に装備される第1の台車と、前記進行方向の後ろ側に装備される第2の台車と、が含まれ、前記第1及び第2の台車はそれぞれ、前記台車の中心位置に対して前記進行方向の前側と後ろ側とに、支持剛性を切替可能な機構を、前記車体及び前記台車において前記進行方向の左右水平方向に働く荷重が掛かるように配置することを特徴とする鉄道車両用の台車が提供される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、台車に新たな装置を載せることなく、曲線軌道の通過時に発生する横圧を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1の実施形態に係る鉄道車両用の台車2を備えた鉄道車両の側面図である。
【
図2】
図1に示した鉄道車両用の台車2の上面の断面図である。
【
図3】従来の鉄道車両用の台車5が右カーブの急曲線を通過する際に車輪とレールとの間で生じる接触力を説明するための模式図である。
【
図4】本実施形態に係る鉄道車両用の台車2が右カーブの急曲線を通過する際に車輪とレールとの間で生じる接触力を説明するための模式図である。
【
図5】右カーブの急曲線を通過する際の切替式ダンパ29の動作状態を説明するための模式図である。
【
図6】第2の実施形態に係る鉄道車両用の台車6の上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳述する。なお、以下の説明において「前後」、「左右」、「上下」といった方向の表現を用いる場合、鉄道車両(台車と読み替えてもよい)の進行方向を基準とした方向を意味する。すなわち、「前後」は鉄道車両の進行方向(レールの敷設方向)であり、「左右」は枕木の敷設方向であり、「上下」は鉛直方向である。
【0012】
なお、以下の記載及び図面は、本発明を説明するための例示であって、説明の明確化のため、適宜、省略及び簡略化がなされている。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。本発明が実施形態に制限されることは無く、本発明の思想に合致するあらゆる応用例が本発明の技術的範囲に含まれる。本発明は、当業者であれば本発明の範囲内で様々な追加や変更等を行うことができる。本発明は、他の種々の形態でも実施する事が可能である。特に限定しない限り、各構成要素は複数でも単数でも構わない。
【0013】
(1)第1の実施形態
図1は、第1の実施形態に係る鉄道車両用の台車2を備えた鉄道車両の側面図である。
図1に示した鉄道車両は、乗客や貨物を搭載する車体1と、この車体1を支持する台車2とを備えて構成される。車体1と台車枠22との間は、空気ばね3、牽引装置(不図示)、及び切替式ダンパ29(
図2参照)を介して、弾性支持される。
図1では図示を省略しているが、1つの車体1は、進行方向の前後に少なくとも1つずつ台車2を装備する。それぞれの台車2は、共通する構造を有すると考えてよい。
【0014】
台車2は、第1の実施形態に係る鉄道車両用の台車であり、軸箱体21、台車枠22、輪軸23、及び軸箱支持装置24を備える。
【0015】
軸箱体21は、輪軸23を回転可能に保持し、軸箱支持装置24によって台車枠22との間で弾性支持される。台車枠22は、台車2の骨格を形成する。輪軸23は、1つの台車2に複数個(例えば
図1の場合は2つ)設けられる回転軸の構造体であって、それぞれの輪軸23の両端部には、レール4上を走行する車輪26が固定されている。車輪26は、勾配の付いた踏面部27と、レール4からの逸脱を防止するためのフランジ部28とを有する。それぞれの輪軸23は、軸箱体21に対して回転可能に保持される。軸箱支持装置24は、一般的な軸箱支持装置であり、従来知られた様々な方式の軸箱支持装置を利用することができる。
【0016】
図2は、
図1に示した鉄道車両用の台車2の上面の断面図である。詳しくは、
図2は、
図1に示したA-Aの断面で鉄道車両を上側から見た断面図である。
【0017】
図2に示すように、台車枠22は、台車2の中心部付近において、車体1に固定された中心ピン11及び牽引装置(不図示)によって前後方向に連結される。牽引装置の両端部には、上下方向の軸周りに、剛性が低いゴムブッシュ等の弾性体が備えられ、一端側の弾性体が車体1に連結され、他端側の弾性体が台車枠22と連結される。
【0018】
さらに、台車枠22に形成された繋ぎ梁25と、車体1に固定された中心ピン11との間は、切替式ダンパ29によって連結される。台車2において、切替式ダンパ29は、中心ピン11を中心位置として、前後方向に1本ずつの合計2本が装備される。それぞれの切替式ダンパ29は、車体1及び台車2において左右水平方向に働く荷重が掛かるように、
図2に示したように左右方向に配置される。
【0019】
切替式ダンパ29は、例えば油圧式ダンパであって、油流路にオリフィスを設けており、そのオリフィスを電磁弁などにより流路径の大きさを制御可能な構成となっている。切替式ダンパ29は、流路径を小さくした場合、切替式ダンパ29の減衰係数は大きい状態となり、また油の圧縮性により剛性要素としても機能する。なお、切替式ダンパ29は、サスペンションの剛性の状態を可変とできる構成であれば、油圧式ダンパに限定されず、例えば電磁式ダンパや空圧式ダンパ等であってもよい。
【0020】
切替式ダンパ29における流路径の大きさの制御は、例えば、切替式ダンパ29に内蔵、あるいは切替式ダンパ29に接続される不図示の制御装置によって行われるが、これは一般的な切替式ダンパの制御であり、特に限定されない。上記制御装置は、鉄道車両が走行する地点を検出する地点検出装置(不図示)からの信号に基づいて、曲線軌道の通過時に切替式ダンパ29における流路径を切り替える。例えば、制御装置は、急曲線区間への進入時には、地点検出装置から急曲線区間の開始地点の検出を示す信号を受信したことを契機として、特定の切替式ダンパ29の動作状態(オリフィス径の流路径の大きさ)を切り替え、急曲線区間の終了時には、地点検出装置から急曲線区間の終了地点の検出を示す信号を受信したことを契機として、特定の切替式ダンパ29の動作状態(オリフィス径の流路径の大きさ)を元に戻す。切替式ダンパ29の動作状態の切り替えの詳細については、
図4を参照しながら後述する。また、地点検出装置は、鉄道車両(例えば台車2また車体1)に装備される一般的な装置であり、詳細な説明を省略する。
【0021】
以上のように構成されることにより、本実施形態に係る鉄道車両用の台車2は、車体1と台車2との間に掛かる左右方向の力に対する支持剛性を切替可能な機構を装備し、かつ、その支持剛性を制御可能な構成となっている。
【0022】
次に、
図3及び
図4を参照しながら、本実施形態に係る鉄道車両用の台車2において急曲線の軌道(レール4)を通過する際に発生する横圧を低減する原理を説明する。なお、本説明において「急曲線」は、レール4の曲率が所定の基準値以上に大きい区間、換言すると、レール4の曲率半径が所定の基準値以下に小さい軌道区間、を意味する。上記基準値は、鉄道車両の運行管理者等が適宜設定することができる。
【0023】
図3は、従来の鉄道車両用の台車5が右カーブの急曲線を通過する際に車輪とレールとの間で生じる接触力を説明するための模式図である。なお、
図3に示す従来の台車5の内部構成について、本実施形態に係る台車2の内部構成と共通するものについては、同一の符号を付してその説明を省略する。本実施形態に係る鉄道車両用の台車2が油圧式ダンパ18を備えるのに対して、
図3に示す従来の鉄道車両用の台車5は、固定式ダンパ51を備える。
【0024】
図3に示すように、従来の鉄道車両用の台車5が急曲線の区間を走行する場合、台車5は曲線の接線方向に沿って進もうとするため、1つの車両(車体1)に2台の台車5が装備されているとするとき、2台の台車5は、車体1に対して、それぞれの台車5の中心位置の鉛直軸周りに旋回する。進行方向の前側の台車5では、台車5が旋回すると、車体1の側面に対する法線40に対して、台車5が時計回りに旋回することで、空気ばね3が前後方向に弾性変形し、その復元力が
図3の矢印P1の向きに作用する。
【0025】
ここで、車体1と台車5との間の左右方向には、油圧式の支持剛性および減衰係数が一定の固定式ダンパ51が、中心ピン11を中心位置として、前後方向にそれぞれ1本ずつ等間隔に装備されているため、台車5の旋回中心軸は、台車中央部の位置R1となる。そして、空気ばね3による復元力が、この旋回中心軸(位置R1)周りに、台車の旋回を元に戻そうとする向きに作用する。すなわち、台車5全体には、曲線の接線方向に沿わせる向きとは反対方向に旋回させる反時計回り向きのモーメント(以下、反操舵モーメント)が作用する。
【0026】
この反操舵モーメントにより、輪軸23に固定された車輪26のフランジ部28がレール4と接触するまで押し付けられ、フランジ部28がレール4を曲線の外側に押し付ける向きに、荷重(横圧)が作用する。台車5側からみると、反作用でレール4から車輪26のフランジ部28を曲線の内側に押し戻す向きに、横圧Q1が作用する。
【0027】
そして、台車の旋回中心軸の位置R1から横圧が作用する位置までの距離L1と、横圧Q1とを乗じたモーメントで、時計回りの向きのモーメント(以下、操舵モーメント)が生じて、上述した反操舵モーメントと対抗することで、台車5は急曲線を転走することができる。
【0028】
図4は、本実施形態に係る鉄道車両用の台車2が右カーブの急曲線を通過する際に車輪とレールとの間で生じる接触力を説明するための模式図である。
図4に示した鉄道車両用の台車2の内部構成は
図2と同じであるが、切替式ダンパ29は、その動作状態に応じて、通常の動作状態29A、またはオリフィスの流路径を小さくした動作状態29Bの何れかで示される。
【0029】
図4には、鉄道車両の進行方向に対して車体1の前側に装備された台車2が示されている。この台車2が急曲線の区間を走行する場合、前述した地点検出装置からの信号に基づいて、前述した制御装置がそれぞれの切替式ダンパ29における流路径の制御を実行する。具体的には、進行方向に対して前側の切替式ダンパ29は、通常のショックアブソーバとしての動作状態29Aとされ、進行方向に対して後ろ側の切替式ダンパ29は、オリフィスの流路径を小さくした動作状態29Bとされる。動作状態29Bの切替式ダンパ29では、左右方向の剛性を、空気ばね3の左右方向の剛性よりも十分に高くすることができる。すなわち、動作状態29Bは、通常の動作状態29Aよりも支持剛性が高い状態である。2つの切替式ダンパ29が上記のような動作状態となることにより、車体1に対する台車2の旋回中心軸は、左右方向の剛性が高い状態(動作状態29B)の切替式ダンパ29の位置R2となる。
【0030】
上記の状態で本実施形態に係る鉄道車両用の台車2が急曲線の区間に進入した場合にも、
図3で説明した従来の台車5と同様に、空気ばね3が前後方向に弾性変形し、その復元力(
図4の矢印P2)による反操舵モーメントが作用する。しかし、本実施形態に係る台車2の場合は、台車2の旋回の中心位置(位置R2)が、従来の台車5における旋回の中心位置(
図3の位置R1)よりも進行方向の後ろ側にずれることから、台車2の旋回の中心位置(位置R1)から横圧が作用する位置までの距離L2を、従来の台車5における距離L1よりも長くできる。この結果、
図4では、車輪26のフランジ部28がレール4を外側に押す力(横圧Q2)を、
図3の横圧Q1よりも小さくすることができる。
【0031】
以上のように、本実施形態に係る台車2では、車輪26のフランジ部28がレールを外側に押す横圧Q2を従来の台車5の場合よりも小さくできることにより、車輪26がレール4に乗り上がる脱線のリスクを低減することができるほか、車輪26のフランジ部28とレール4との間で生じる「きしり音」を低減することができる。さらに、レール4への負荷荷重を低減できることにより、軌道保守費を低減する効果にも期待できる。
【0032】
次に、1つの車体1に装備される複数の台車2における動作状態について
図5を参照しながら説明する。
【0033】
図5は、右カーブの急曲線を通過する際の切替式ダンパ29の動作状態を説明するための模式図である。
図5には、右カーブの急曲線を通過しようとする1つの車体1において、進行方向の前後に装備された2台の台車2が示されている。
【0034】
図5に示すように、進行方向の前側の台車2では、進行方向の後ろ側の切替式ダンパ29が、オリフィスの流路径を小さくした動作状態29Bとされる。これは
図4で説明した通りである。一方、進行方向の前側の台車2における前側の切替式ダンパ29、及び進行方向の後ろ側の台車2における前後側の2つの切替式ダンパ29は、いずれも、通常のショックアブソーバとしての動作状態29Aとされる。
【0035】
以上に説明したように、本実施形態に係る台車2では、急曲線の通過時に切替式ダンパ29の状態が切り替えられ、一車両に4本装備される切替式ダンパ29のうち、1本は左右方向の支持剛性を高い動作状態29Bとすることで、車輪26とレール4の間の左右方向に生じる横圧を低減する効果が得られる。さらに、残りの3本は通常のショックアブソーバとしての動作状態29Aとすることで、車体1の乗り心地を振動によって悪化させない効果が得られる。
【0036】
したがって、本実施形態に係る台車2を進行方向の前側と後ろ側とに装備した鉄道車両では、曲線区間の走行時に、車体振動の低減のために台車2に装備される防振機構(切替式ダンパ29)を適切な動作状態に設定することにより、新たな装置を搭載することなく、曲線区間通過時に発生する横圧を低減し、対脱線安全性能を向上することができる。
【0037】
なお、曲率が極端に大きい急曲線を通過する場合には、進行方向の後ろ側に装備された台車2においても、進行方向の前側の輪軸23の車輪26のフランジ部28がレール4に接触してしまう場合がある。そこで、本実施形態では、前述した「所定の基準値」よりも大きい特定の曲率以上の急曲線区間を鉄道車両が通過する場合には、進行方向の後ろ側に装備された台車2においても、進行方向の前側に装備された台車2と同様に、進行方向の後ろ側の切替式ダンパ29を、オリフィスの流路径を小さくした動作状態29Bに切り替えるようにしてもよい。
【0038】
また、鉄道車両が逆方向(
図5の右から左)に走行する場合には、これまで述べた通りの考え方で、進行方向の前側及び後ろ側の台車2のそれぞれにおいて各切替式ダンパ29の動作状態を切り替えるように設定することで、同様の効果を得ることができる。
【0039】
(2)第2の実施形態
図6は、第2の実施形態に係る鉄道車両用の台車6の上面図である。第1の実施形態で
図2に示した台車2と共通する構成については、同一の符号を付して詳細な説明を省略する。
【0040】
本実施形態に係る台車6を第1の実施形態に係る台車2と比較すると、進行方向の後ろ側の切替式ダンパ29の配置及び連結構造の点で相違する。具体的には、
図6に示すように、本実施形態に係る台車6において、進行方向の後ろ側に配置される切替式ダンパ29は、その一端が、台車6の後端部に設けられた梁部材61に連結され、他端が、車体1に設けられたダンパ受け12に連結される。
図6に示すように、この切替式ダンパ29は、進行方向の前側に配置される切替式ダンパ29と同じく、車体1及び台車6において左右水平方向に働く荷重が掛かるように、左右方向に配置される。
【0041】
図6に示した台車6を進行方向の前後に装備した鉄道車両(車体1)が急曲線区間を走行する場合、台車6が備える切替式ダンパ29の動作状態は、実施形態1と同様に切り替えられる。すなわち、台車6が急曲線区間に進入する地点に到達した際、地点検出装置(不図示)からの検出信号に基づいて、進行方向の前側に装備された台車6における後ろ側の切替式ダンパ29(台車6の後端部の切替式ダンパ29)が、オリフィス径を小さくした動作状態29Bに制御される。その他の切替式ダンパ29(すなわち、前側の台車6の前側の切替式ダンパ29、後ろ側の台車6の前側及び後ろ側の切替式ダンパ29)は、ショックアブソーバとして通常の動作状態29Aが維持される。
【0042】
以上のように、第1の実施形態と同様に急曲線の通過時に切替式ダンパ29の動作状態が切り替えられることにより、第2の実施形態では、台車6の旋回の中心軸が後端部の切替式ダンパ29の位置となる。そして台車6の旋回の中心位置が、従来の台車5における旋回の中心位置(
図3の位置R1)よりも進行方向の後ろ側にずれることから、台車6の旋回の中心位置から横圧が作用する位置までの距離を、従来の台車5における距離L1よりも長くできる。この結果、車輪26のフランジ部28がレール4を外側に押す力(横圧)を、従来の台車5で発生する横圧(
図3の横圧Q1)よりも小さくすることができる。かくして、第2の実施形態では第1の実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0043】
また、第1の実施形態に係る台車2は、中心ピン11に対して2つの切替式ダンパ29及び牽引装置を連結するため、両方の設置スペースを確保する必要があり、切替式ダンパ29の設置高さに制約があったが、第2の実施形態に係る台車6は、台車後端部の梁部材61の位置に1つの切替式ダンパ29のみを配置する(牽引装置は配置不要である)ため、切替式ダンパの設置高さの設計自由度を増やすことができる。
【0044】
また、
図6に示した台車6では、梁部材61は台車枠22の片方から端部梁を延伸させた形状としているが、台車枠22の左右の側梁をつなぐ形状としてもよい。
【0045】
また、
図6に示した台車6では、台車端部の梁部材61の位置に切替式ダンパ29を配置した構成を示したが、変形例として、台車端部の梁部材61に穴部を設け、穴部に対向する車体1の側に、上下動可能なシリンダを鉛直方向に設け、急曲線区間を通過する際にシリンダが穴部に挿入するような構造とすることで、車体1と台車との間の左右方向の支持剛性を高くする構成としてもよい。もしくは、上記穴部を車体1の側に設け、上記シリンダを台車端部の梁部材61において穴部に対向する位置に設けるとしてもよい。
【符号の説明】
【0046】
1 車体
2,5,6 台車
3 空気ばね
4 レール
11 中心ピン
12 ダンパ受け
21 軸箱体
22 台車枠
23 輪軸
24 軸箱支持装置
25 繋ぎ梁
26 車輪
27 踏面部
28 フランジ部
29 切替式ダンパ
29A,29B 動作状態
51 固定式ダンパ
61 梁部材