(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159833
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】脳機能改善用組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/10 20160101AFI20231025BHJP
【FI】
A23L33/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069780
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】304040441
【氏名又は名称】江南化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108280
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大谷 淨治
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 匡博
【テーマコード(参考)】
4B018
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB09
4B018LB10
4B018LE02
4B018MD27
4B018ME14
(57)【要約】
【課題】 脳機能改善効果を有する新規な組成物を提供すること。
【解決手段】 硫酸化多糖類を含有することを特徴とする脳機能改善用組成物によって達成される。このとき、硫酸化多糖類はラムナン硫酸であることが好ましい。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
硫酸化多糖類を含有することを特徴とする脳機能改善用組成物。
【請求項2】
前記硫酸化多糖類が、ラムナン硫酸である請求項1に記載の脳機能改善用組成物。
【請求項3】
前記組成物が、経口投与用のものである請求項2に記載の脳機能改善用組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の脳機能改善用組成物を含有する脳機能改善用食品組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脳機能改善用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
認知症は特定の疾患名ではなく、何らかの疾患や障害によって脳の働き(認知機能)が悪くなり、もの忘れによって日常生活や仕事に支障をきたすようになった状態のことを意味する。近年では、生活や仕事に支障をきたさないような軽い症状であっても、軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)等の診断が行われるようになってきた。
老化によって物覚えが悪くなったり、人の名前を忘れてしまったりすることは、誰でも経験する。この状態は脳の老化によるものであり、認知症とは異なる。これに対し、認知症によるもの忘れは、脳の神経細胞が壊れてしまうことに依るものであり老化とは異なる。認知症が進行すると、体験したことをまるごと忘れてしまい、ヒントを与えても思い出すことができなくなる。
【0003】
我が国においては、認知症の患者数は年々増大されており、現在、300万人以上の認知症患者がいると推定されている。認知症の治療剤としては、抗コリンエステラーゼ阻害薬がアルツハイマー型認知症の治療に用いられているが、症状の進行を多少とも抑制するに過ぎず、決定的な治療剤を欠いている。
近年の研究においては、食物や食物由来成分が脳機能の維持、発達、改善に効果があることが知られてきている。例えば、コーヒー豆などから抽出されるクロロゲン酸を含有する経口組成物(特許文献1)や、ニンニク皮から抽出された物質(特許文献2)が脳機能改善に有効であることが明らかとなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-39797号公報
【特許文献2】特開2021-153571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このように認知症患者の増加が大きな社会問題となっていることから、脳機能改善に効果のある新たな組成物が求められていた。
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、脳機能改善効果を有する新規な組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、硫酸化多糖類には、脳機能改善効果があることを見出し、基本的には本発明を完成するに至った。
こうして、本発明に係る組成物は、硫酸化多糖類を含有し、脳機能改善効果を示すことを特徴とする。
上記発明において、硫酸化多糖類は、ラムナン硫酸であることが好ましい。
本発明の組成物は、経口投与用のものであることが好ましい。
ラムナン硫酸の投与量としては、一日あたり10mg~1000mgが好ましく、30mg~500mgが更に好ましく、50mg~300mgが更に好ましい。
また、本発明の組成物は、脳機能改善用食品組成物として提供できる。ここで脳機能とは主に認知機能を意味し、特に神経認知インデックス(NCI)、反応時間、総合注意力、認知柔軟性、実行機能、論理思考であることが好ましい。
【0007】
組成物は、脳機能を改善するために有効な量のラムナン硫酸に加えて、薬学的に許容される担体・添加剤を配合することにより提供される。この組成物は、医薬品または医薬部外品として提供される。医薬組成物は、内用的または外用的に用いられる。この医薬組成物は、内服剤、静脈注射、皮下注射、皮内注射、筋肉注射及び/又は腹腔内注射等の注射剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤等の製剤形態で使用できる。特に、ラムナン硫酸は、経口投与または経皮投与によっても効果があるので、内服剤、経粘膜適用剤、経皮適用剤として好ましく用いられる。
また、医薬組成物の剤型としては、適当に設定できるが、例えば錠剤、顆粒剤、カプセル剤、粉末剤、散剤などの固形製剤、液剤、懸濁剤などの液状製剤、軟膏剤、またはゲル剤等の半固形剤が例示される。
【0008】
食品分野では、ラムナン硫酸を食品素材として、各種食品に配合することにより、食品組成物を提供できる。このとき、食品分野において、脳機能改善用などと表示された食品組成物を提供できる。食品組成物としては、一般の食品に加え、特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品、病院患者用食品、サプリメント等が例示される。加えて、食品添加物として用いられる。
食品組成物としては、例えば飲料(清涼飲料、アルコール飲料、炭酸飲料、乳飲料、果汁飲料、茶、コーヒー、栄養ドリンク、濃縮飲料など)、粉末飲料(粉末ジュース、粉末スープなど)、菓子(キャンディ(のど飴)、クッキー、ビスケット、ガム、グミ、チョコレート等)、パン、シリアル、調味料などが例示される。
【0009】
特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品などの場合には、カプセル、トローチ、シロップ、顆粒、粉末などの形状としても提供できる。特定保健用食品とは、生理学的機能等に影響を与える保健機能成分を含む食品であって、消費者庁長官の許可を得て特定の保健の用途に適する旨を表示可能なものである。本発明では、特定の用途として脳機能改善効果などと表示して販売される食品となる。栄養機能食品とは、栄養成分(ビタミン、ミネラル)の補給のために利用される食品であって、栄養成分の機能を表示するものである。栄養機能食品として販売するためには、一日当たりの摂取目安量に含まれる栄養成分量が定められた上限値、下限値の範囲内にある必要があり、栄養機能表示だけでなく注意喚起表示等もする必要がある。
【0010】
機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品である。販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られたものである。
本発明は、ラムナン硫酸を有効成分として含み、健常者及び軽度認知障害(MCI)者(軽症者を含む)用の特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品として用いられる。
本発明は、ラムナン硫酸を有効成分として含み、ヒトを対象とした脳機能改善用機能性表示食品(特に、認知機能改善用機能性表示食品)として用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、新規な脳機能改善用組成物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施形態の試験参加者の追跡フローチャートである。
【
図2】被験者群とプラセボ群との間で有意差を認めたスコアの結果を示す棒グラフである。(A)は実際のデータの平均値±標準偏差を示す棒グラフを、(B)は、差分データの平均値±標準偏差を示す棒グラフをそれぞれ示す(ここまで、
図3~
図7においても同じ)。NCIの標準化スコアデータの結果を示すグラフである。
【
図3】反応時間の標準化スコアデータの結果を示すグラフである。
【
図4】総合注意力の標準化スコアデータの結果を示すグラフである。
【
図5】認知柔軟性の標準化スコアデータの結果を示すグラフである。
【
図6】実行機能の標準化スコアデータの結果を示すグラフである。
【
図7】論理思考の標準化スコアデータの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態について、図表を参照しつつ説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を変更することなく様々な形態で実施することができる。
<ラムナン硫酸の調製>
ラムナン硫酸としては、天然由来のどのような物でも用いることができる。本実施形態では、ヒトエグサから熱水抽出して得たものを用いた。乾燥した海藻を水で洗浄し、熱水で抽出し、得られた熱水抽出液をろ過し、ラムナン硫酸を主成分(60%~90%(平均的に約70%))とする抽出物(ラムノックス100)を得た。これを発明の試料として用いた。
なお、本発明に使用可能な硫酸化多糖類(例えば、ラムナン硫酸)は、上記方法以外にも各種方法によって調製できる。また、原料としては、ヒトエグサに限られず、アナアオサ、リボンアオサなどを用いることができる。
【0014】
<試験方法>
1.被験者
(1)適格基準
被験者の登録基準として、40歳~65歳の日本人(男女両性)健常者とした。
除外基準として、悪性腫瘍・心不全・心筋梗塞の治療中もしくは既往歴がある者、ペースメーカーや植え込み型除細動器を埋め込んでいる者、不整脈・肝障害・腎障害・脳血管障害・リウマチ・糖尿病・脂質異常症・高血圧症・その他の慢性疾患で治療中の者、特定保健用食品・機能性表示食品・その他の機能性が考えられる食品または飲料を日頃から摂取している者、海藻または海藻由来の成分が含まれる製品を日常的に摂取している者、医薬品(漢方薬を含む)・サプリメントを常用している者、アレルギー(医薬品・試験食品関連食品)がある者、妊娠中・授乳中または試験期間中に妊娠する意思のある者、同意書取得日以前の28日間において他の臨床試験に参加していた者または試験期間中に参加予定のある者、喫煙している者、その他に試験責任医師が本試験の対象として不適切と判断した者とした。
【0015】
(2)被験者の管理
被験者については、来院の際に問診により被験者の体調を把握した。
試験期間中は、試験食品摂取の有無、生理の有無(女性のみ)を受託臨床試験機関指定の日誌に毎日記録した。日誌は1週間毎に郵送にて提出し、最終検査時に未提出の日誌がある場合は来院時に持参して提出した。最終検査時の日誌は来院の際に提出した。来院時に提出出来なかった場合は、その場で記入した。
被験者には、試験参加中の遵守事項として、以下の点を徹底するよう求めた。(a)試験食品を定められた用法・用量の通り摂取すること、(b)試験食品を摂取率80%以上となるよう摂取すること、(c)試験の同意書取得日から最終検査(摂取8週間後検査)までは、暴飲暴食を避け、それまでの生活習慣を変えないこと、(d)各検査前日から当日の検査終了までは飲酒と過度の運動を行わないこと、(e)採血を行う6時間前から飲食を禁止すること(試験食品の摂取も禁止とした。但し、水のみ摂取可能とした。機能水・茶は不可とした)、(f)試験期間中に体調の変化が生じた場合は、直ちに受託臨床試験機関に連絡し、以後の対応の指示を仰ぐこと、(g)試験期間中は、特定保健用食品・機能性表示食品・その他の機能性が考えられる食品/飲料をなるべく摂取しないこと。
【0016】
(3)脱落・中止規定
以下の項目に該当する被験者は、試験から脱落したものとみなした。なお、安全性の評価を行う場合は、個別に評価・確認した。(a)被験者の都合により試験が中断された場合、(b)試験責任医師または試験運営者の指示に従っていないことが判明した場合、(c)プロトコルに定めた遵守事項から著しく逸脱した場合、(d)その他、試験責任医師が脱落させることが妥当と判断した場合。
また、以下の項目に該当する被験者は、中止とした。(a)重篤な有害事象が発現し、試験責任医師が当該被験者の試験参加を中止すべきと判断した場合、(b)他覚症状により、試験責任医師が当該被験者の試験の継続が困難であると判断した場合、(c)その他、試験責任医師の判断により、試験継続を困難と判断した場合。
その他に、予測できない重篤な有害事象が発生した場合や、倫理指針またはプロトコルの重大な違反または不遵守が発生した場合には、試験を中止することとした。
【0017】
2.試験食品
被験食品群として、海藻由来抽出物(ラムナン硫酸含有)を使用し、プラセボ群として、海藻由来抽出物を含有しないプラセボとした。
3.試験期間
被験食品またはプラセボの摂取期間を8週間とした。摂取開始前及び摂取終了後の2回について、認知機能を確認した。
4.用量
下記の通りとした。
被験食品群:1日1カプセルを摂取
プラセボ群:1日1カプセルを摂取
但し、1日の用量はその日のうちに摂取し、飲み忘れた場合は気が付いたときに摂取することとした。
試験食品については、直射日光、高温多湿を避け、常温で保存した。
試験食品は、江南化工株式会社のものを用いた。試験食品は、外観、形状、色、におい、味において識別不能である。試験食品の組成(1カプセルあたり)を表1に示した。「ラムノックス100」は、ラムナン硫酸を主成分(70%程度)とするヒトエグサ抽出物」を意味する。被験食品のカプセル(120mgのラムノックス100を含有)は、約90mgのラムナン硫酸を含有している。「マックス1000」は、デキストリンを意味している。
【0018】
【0019】
5.測定項目
認知機能検査として、下記項目を測定した。
(1)実施内容として、Cognitraxを用い、10種類のテスト(言語記憶テスト、視覚記憶テスト、指たたきテスト、SDCテスト、ストループテスト、注意シフトテスト、持続処理テスト、表情認知テスト、論理思考テスト、4パート持続処理テスト)を実施した。
(2)調査項目として、総合記憶力の標準化スコア、その他の認知領域(神経認知インデックス(NCI)、言語記憶力、視覚記憶力、認知機能速度、反応時間、総合注意力、認知柔軟性、処理速度、実行機能、社会的認知、論理思考、ワーキングメモリー、持続的注意力、単純注意力、運動速度)の標準化スコアを用いた。
(3)評価方法として、スクリーニング兼摂取前検査、摂取8週間後検査に測定した。
(4)身体測定として、身長、体重、体脂肪率、体温を測定した。BMIは、体重(kg)を身長(m)の二乗で除して算出した。
スクリーニング兼摂取前検査、摂取8週間後検査に実施した。但し、身長は説明会時にのみ測定した。
【0020】
(5)その他に、理学検査として、血圧(収縮期血圧、拡張期血圧)、脈拍数を測定した。また、尿検査(蛋白質、ブドウ糖、ウロビリノーゲン、ビリルビン、ケトン体、pH、潜血)及び末梢血液検査(白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット値、血小板数、MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均赤血球色素量)、MCHC(平均赤血球色素濃度)、白血球像(好中球率、リンパ球率、単球率、好酸球率、好塩基球率、好中球数、リンパ球数、単球数、好酸球数、好塩基球数)、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ-GT(γ-GTP)、ALP、LD(LDH)、LAP、総ビリルビン、直接ビリルビン、間接ビリルビン、コリンエステラーゼ(ChE)、総蛋白、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、CK、カルシウム、血清アミラーゼ、総コレステロール、HDL-コレステロール、LDL-コレステロール、トリグリセリド (TG: 中性脂肪)、グリコアルブミン、血清鉄 (Fe)、ナトリウム (Na)、カリウム (K)、クロール (Cl)、無機リン (IP)、グルコース、ヘモグロビンA1c (HbA1c: NGSP)、非特異的IgEを測定した。
【0021】
(6)被験者の募集と割付、二重盲検化
スクリーニング症例数を15名、目標症例数を10名、実施症例数を12名とした。試験参加者は、受託臨床試験機関が運営するモニター募集サイトに募集された者とした。12名を6名づつ2群に分け、被験食品群またはプラセボ群に割り付けた。
被験者の割付は、登録された症例数がプロトコルに設定した目標症例数に達成した後、全員同一日に割り付けた。コンピューター上で乱数を生成し、定められた変数を因子とした完全無作為法により割付表を作成し、割付表に基づき、試験参加者を組み入れた。割付比は1:1とした。
試験は二重盲検法で行った。盲検化は、識別不能な試験食品を用いることにより行った。受託臨床試験機関の試験食品発送担当者は、試験食品の識別不能性の確認及びスクリーニング検査のデータ入力・確認を行った後、割付責任者に識別番号を伝えた。
【0022】
(7)データの収集と管理
身体測定、理学検査の測定データは、試験実施機関のスタッフが紙カルテに記入した。アンケートは試験参加者本人にアンケート用紙へ記入させ試験実施機関のスタッフが回収した。紙ベースの測定結果(カルテ及びアンケート用紙)は、モニタリング担当者が取得した。尿検査及び末梢血液検査の測定結果は株式会社LSIメディエンスが運営するm-Line(http://www.medience.co.jp/mline/)より「.txt」データ(電子データ)で取得した。
データ管理は受託臨床試験機関が主導で行った。モニタリング担当者が回収した「.csv」データ及びm-Lineによって取得した電子データは、受託臨床試験機関でAccessへインポートして保存した。紙ベースの測定結果は、1名のスタッフがMicrosoft Accessに入力した。入力されたデータは、2名のスタッフによって、誤りがないことを確認した。
【0023】
試験実施医療機関、倫理審査委員会設置機関、受託臨床試験機関及び主宰者は、それぞれの機関において保存すべき文書を試験終了後2年間保存することとした。保存に当たっては、個人情報の漏えい、混交、盗難、紛失等が起こらないよう適切に管理することとした。また、保存期間を過ぎた場合には、匿名化して廃棄することとした。
試験参加者から採取した生体試料(血液及び尿)は、測定以外には一切用いず、測定後匿名化したまま医療廃棄物として廃棄することとした。なお、試料の保管及び廃棄は株式会社LSIメディエンスに委託した。
【0024】
(8)統計学的手法
全登録集団セットは、インフォームドコンセントを提供し、当該試験に組み入れられた症例とした。
Full analysis set(FAS)は、全登録集団セットで以下の条件に1つ以上当てはまる症例を除外した集団とした。(a)割り付けられた介入の提供を受けていない症例、(b)対象集団の条件を満たさない症例(確定診断によりなんらかの疾患が判定された症例、明確に定義された客観的に判定可能な重要な選択・除外基準に抵触する症例)、(c)割り付け後に介入を一度も受けていない症例、(d)割り付け後のデータが全くない症例。
Per protocol analysis set(PPS)は、FASで以下の条件に1つ以上当てはまる症例を除外した集団とした。(a)試験食品の摂取率が80%未満の症例、(b)日誌記録の欠損など、試験結果の信頼性を損なう行為が顕著な症例、(c)除外基準に該当していたことが試験組み入れ後に明らかになった症例、(d)試験期間中の遵守事項違反が判明した症例、(e)試験期間中に試験結果に著しく影響がでる事が想定される食事や医薬品を摂取した症例、(f)試験登録時の生活習慣と著しく異なる活動を行った症例、(g)その他、除外することが適当と考えられる明らかな理由があった症例。
【0025】
安全性解析対象集団(Safety analysis population; SAF)は、全登録集団のうち以下の条件に1つ以上当てはまる症例を除外した集団とした。(a)割り付けられた介入の提供を受けていない症例、(b)割り付け後に介入を一度も受けていない症例、(c)割り付け後に安全性評価項目を一度も測定していない症例。
試験参加者背景は、全登録集団セットまたはその他の解析データセットで人口統計学的に集計し、性別はカイ二乗検定、その他の項目はStudentのt検定を用いて群間比較した。
有効性評価項目の統計解析として、一次的アウトカムの解析データセットとしてPPSを用いた。平均と標準偏差で示し、ベースラインを共変量としたANCOVAを用いて群間比較した。対応のないt検定等多角的見地から他の検定が必要となった場合は、それらを採用し、有効性の評価を行った。
次に、二次的アウトカムの解析データセットとしてPPSを用いた。平均と標準偏差で示し、実測値はベースラインを共変量としたANCOVAを用いて群間比較した。スクリーニング検査時からの変化量、摂取前検査時からの変化量は、対応のないt検定を用いて群間比較した。上述の解析手法以外でも多角的見地から他の検定が必要となった場合は、それらを採用し、有効性の評価を行った。
【0026】
安全性評価項目の統計解析には、主要な安全性評価項目として、解析データセットにSAFを用いた。発現した副作用や有害事象について、試験参加者ごとに集計した。副作用や有害事象の発現率を群別に集計し、群別の発現率及び群間の発現率の差の95%信頼区間を算出した。また、各群の副作用発現率と有害事象発現率をカイ二乗検定などで比較した。
副次的な安全性評価項目として、解析データセットにSAFを用いた。スクリーニング兼摂取前検査時に基準値内であった尿検査および末梢血液検査の各測定値が介入後において基準値外に変動した症例の割合を算出し、カイ二乗検定により時点ごとに群間比較を行った。また、多角的見地から他の検定が必要となった場合は、それらを採用し、安全性の評価を行った。
その他の安全性評価項目として、試験参加者ごとにデータの一覧表を作成した。加えて、試験責任医師または分担医師が個人単位で安全性評価項目を確認し、試験食品の摂取に伴う医学的に問題のある変動が生じていないことを確認した。
その他に、症例検討会など多角的見地から他の検定や層別解析が必要と認められた場合に、適切な他の検定または層別解析を実施した。
すべての統計解析は両側検定で行い、有意水準は5%に設定した。ソフトウェアとして、SPSS Statisticsのバージョン23以上とし、必要に応じて他の統計ソフトウェアを使用した。本試験は主要アウトカム重視の解析とし、多仮説的に設定した副次的アウトカムにおいて発生する多重性は考慮しないこととした。
【0027】
<試験結果>
略称用語と、正式名称として、下記のものを用いた。ITT:Intention to treat、PPS:Per protocol set、SAF:Safety analysis population、VISIT1:スクリーニング兼摂取前検査時(ベースライン)、VISIT2:摂取8週間後検査時、変化量:摂取8週間後検査時におけるスクリーニング兼摂取前検査時からの変化量、Mean:平均値、SD:標準偏差、SE:標準誤差、95%CI-及び95%CI+:95%信頼区間であった。
図1には、試験参加者の追跡フローチャートを示した。本試験は40歳以上65歳未満の健常な日本人男女を対象とした。試験参加に同意した23名のうち、適格基準を満たす12名を本試験に組入れ、被験食品群とプラセボ群に6名ずつ割り付けた。全員が試験を完遂し、遵守事項を違反した者はいなかった。解析データセットは試験計画時に定めたPPSおよびSAFであり、それぞれ12名であった。試験参加者の背景を表2に示した。
【0028】
【表2】
認知機能検査のMeanとSD、群間差とそのSEおよび95%CI-、95%CI+、統計解析結果を表3~表4に示した。
【0029】
【0030】
【0031】
表3及び表4に示すように、総合記憶力の標準化スコア、言語記憶力の標準化スコア、視覚記憶力の標準化スコア、認知機能速度の標準化スコア、社会的認知の標準化スコア、ワーキングメモリーの標準化スコア、持続的注意力の標準化スコア、単純注意力の標準化スコア及び運動速度の標準化スコア、処理速度の標準スコアには、被験食品群とプラセボ群との間に有意差は認められなかった。
これに対し、NCIの標準化スコア、反応時間の標準化スコア、総合注意力の標準化スコア、認知柔軟性の標準化スコア、実行機能の標準化スコア及び論理思考の標準化スコアについては、被験者群とプラセボ群との間に有意差(P<0.05)が認められた。具体的には、VISIT2において、順にP=0.004、P=0.049、P=0.043、P=0.019及びP=0.042であった。また論理思考の差分で改善傾向が認められた(P=0.070)。
図2~
図7には、NCIの標準化スコア、反応時間の標準化スコア、総合注意力の標準化スコア、認知柔軟性の標準化スコア、実行機能の標準化スコア及び論理思考の標準化スコアについて、(A)実際のデータの平均値±標準偏差を示す棒グラフ、及び(B)差分データの平均値±標準偏差を示す棒グラフをそれぞれ示した。
なお、被験者群においては、副作用発現率、有害事象発現率、副次的な安全性評価項目について有意差は認められなかった。加えて、身体測定・理学検査の個別データの結果を確認したところ、試験食品の摂取に伴う医学的に問題のある変動が生じていないことを確認した。
【0032】
<考察>
本試験では40歳以上65歳未満の健常な日本人成人男女を対象に、ラムナン硫酸を関与成分とした海藻由来抽出物含有食品を8週間継続摂取した際の認知症に与える影響について検証した。
認知機能検査では、摂取8週間後において、総合的な認知機能の指標である神経認知インデックス(NCI)が被験食品群でプラセボ群と比べて有意に高値を示した。NCIは総合記憶力、言語記憶力、視覚記憶力、認知機能速度、反応時間、総合注意力、認知柔軟性、処理速度、実行機能、単純注意力、運動速度の11個のドメインで構成される点数である。本試験では、摂取8週間後の反応時間、総合注意力、認知柔軟性、実行機能においても被験食品群でプラセボ群と比べて有意に高値を示した。認知機能検査の標準化スコアは、平均値を100点、標準偏差を15点に正規化された同年代の基準データに基づいて採点され、高値であるほど良好であることを意味する。いずれの標準化スコアも被験食品群ではプラセボ群と比べ介入後に同年代の平均値を上回る傾向にあったことから、被験食品の摂取は臨床的意義をもって認知機能の向上に寄与したと考えられた。健常者においてラムナン硫酸の摂取による認知機能向上効果を検討した先行研究はほとんどなく、その作用機序は明らかになっていない。ラムナン硫酸は血液凝固抑制機能や血栓溶解機能を有するため、血流改善効果を示す可能性がある。
【0033】
加齢は脳の血流低下を招く因子であり、先行研究から加齢に伴う脳の血流量の低下と認知機能の低下の関連性が示唆されている。このことから、本試験の認知機能向上効果において想定される作用機序として、ラムナン硫酸の摂取によって血流の抑制因子が減少したことで脳における血流量が増加し、認知機能が向上した可能性が考えられた。その他に想定される作用機序として、ラムナン硫酸には、腸内細菌叢関連ニコチンアミド代謝系の促進を含む腸内環境改善効果が示唆されていることから、腸内環境やニコチンアミド/ニコチンアミド代謝物は認知機能の向上に寄与することが報告されていることから、ラムナン硫酸が腸内環境の改善を介して認知機能の向上に寄与した可能性も考えられた。
このように、本実施形態によれば、安全かつ脳機能改善効果を有する新規な組成物を提供できた。