(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159837
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】耐力壁および構造物
(51)【国際特許分類】
E04B 2/56 20060101AFI20231025BHJP
E04B 1/04 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
E04B2/56 604A
E04B2/56 621A
E04B1/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069787
(22)【出願日】2022-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(72)【発明者】
【氏名】小河 雅広
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 英義
(72)【発明者】
【氏名】杉山 智昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 智也
(72)【発明者】
【氏名】河本 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】村松 晃次
【テーマコード(参考)】
2E002
【Fターム(参考)】
2E002EA02
2E002FB03
2E002FB14
2E002HA02
(57)【要約】
【課題】耐力壁の柱部の幅を小さくしつつ、耐力と変形性能に優れた耐力壁を提供すること。
【解決手段】耐力壁10は、鉄筋コンクリート造であり、壁部20と、壁部20の水平方向端部に設けられて鉛直方向に延びる柱部30と、を備える。壁部20および柱部30のコンクリート体21、31は、繊維がコンクリート体積に対して0.3%以上1.5%以下混入された繊維補強コンクリートで形成されている。柱部30の壁部20の壁厚方向の幅は、壁部20の壁厚の1倍以上2倍未満である。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄筋コンクリート造の耐力壁であって、
鉄筋コンクリート造の壁部と、
前記壁部の水平方向端部に設けられる鉄筋コンクリート造の柱部と、を備え、
前記壁部および前記柱部のコンクリート体は、繊維がコンクリート体積に対して0.3%以上1.5%以下混入された繊維補強コンクリートで形成され、
前記柱部の幅は、前記壁部の壁厚の1倍以上2倍未満であることを特徴とする耐力壁。
【請求項2】
前記繊維は、両端部が折り曲げられた鋼繊維であることを特徴とする請求項1に記載の耐力壁。
【請求項3】
請求項1または2に記載の鉄筋コンクリート造の耐力壁を備える構造物であって、
前記耐力壁の上側または下側には、別の耐力壁が配置され、
前記別の耐力壁は、繊維が混入されていない鉄筋コンクリート造の壁部と、前記壁部の水平方向端部に設けられる、繊維が混入されていない鉄筋コンクリート造の柱部と、を備え、
前記耐力壁の壁部の縦筋は、前記別の耐力壁の壁部の縦筋に接合され、
前記耐力壁の柱部の柱主筋は、前記別の耐力壁の柱部の柱主筋に接合されていることを特徴とする構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維が混入された鉄筋コンクリート造の耐力壁、および、この耐力壁を備える構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、鉄筋コンクリート造(RC造)の壁部と、この壁部の一端側に設けられたRC造の柱部と、を備える耐力壁がある(特許文献1、2参照)。
特許文献1には、高層建造物における連層耐震壁構造が示されている。連層耐震壁は、壁板部と付帯柱とを備え、上下に連続して複数配置されている。
特許文献2には、補強壁と、この補強壁に接合されたコンクリート建築物の柱と、を含む建築物の補強構造が示されている。補強壁は、繊維含有水硬性組成物の硬化体からなるパネルと、パネルと柱との間に形成された接合部と、からなる。
非特許文献1には、一般的なコンクリートを用いたRC造耐力壁の塑性変形能力について判別方法が記載されている。付帯柱を有するRC造耐力壁の場合、付帯柱が無いRC造耐力壁に比べて、靭性能を高く評価可能である反面、前記判別方法に基づき高い塑性変形能力を期待するには付帯柱の幅を壁厚の2倍以上とする必要があった。よって、付帯柱を有するRC造耐力壁では、付帯柱の幅を壁厚の2倍以上とする場合が多く、建築物の床面積が削減されることで、使い勝手の良い室内空間が確保出来ない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平02-248582号公報
【特許文献2】特開2007-32192号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】2020年版 建築物の構造関係技術基準解説書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐力壁の柱部の幅を小さくしつつ、耐力と変形性能に優れた耐力壁、および、その耐力壁を用いた構造物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、耐力壁の壁部および柱部を形成するコンクリートに、繊維をコンクリート体積の0.3%以上1.5%以下混入することで、繊維によりせん断補強筋と同等以上の補強効果が得られて、壁部や柱部にせん断補強筋を過密に配筋する必要がない点に着眼して、本発明に至った。
第1の発明の耐力壁(例えば、後述の耐力壁10)は、鉄筋コンクリート造の耐力壁であって、鉄筋コンクリート造の壁部(例えば、後述の壁部20)と、前記壁部の水平方向端部に設けられる鉄筋コンクリート造の柱部(例えば、後述の柱部30)と、を備え、前記壁部および前記柱部のコンクリート体(例えば、後述のコンクリート体21、31)は、繊維がコンクリート体積に対して0.3%以上1.5%以下混入された繊維補強コンクリートで形成され、前記柱部の幅は、前記壁部の壁厚の1倍以上2倍未満であることを特徴とする。
【0007】
この発明によれば、壁部および柱部を含んで耐力壁を構成し、これら壁部および柱部を、繊維がコンクリート体積に対して0.3%以上1.5%以下混入された繊維補強コンクリートで形成した。よって、繊維がせん断補強筋と同等以上の補強効果を発揮するため、壁部や柱部にせん断補強筋を過密に配筋する必要がない。
その結果、柱部の幅を壁部の壁厚の1倍以上2倍未満と小さくして、使い勝手の良い室内空間を確保しつつ、耐力と変形性能に優れた耐力壁を実現できる。
また、普通コンクリートではなく繊維補強コンクリートを用いて、壁部および柱部のコンクリート体を構築したので、施工性が良い。
また、柱部を繊維補強コンクリートで形成したので、柱部の変形性能が向上するため、柱部の幅を壁部の壁厚の1倍以上2倍未満としても優れた変形性能を確保できる。よって、非特許文献1に示すような従来の規定に従って柱幅を壁厚の2倍以上とする必要がなくなった。その結果、整形な平面形状の室を計画しやすくなり、建築物の床面積を従来よりも大きくすることができるので、使い勝手の良い室内空間を確保することが可能となった。
また、繊維補強コンクリートは、普通コンクリートに繊維を加えるのみでよいため、コンクリート練り混ぜ時に繊維を混入し攪拌することで製造できる。これは、特許文献1のように、靭性能や耐力確保のための部材を別に施工する場合に比べて、簡易であり、施工性が良い。
例えば、壁部の断面積に対する横筋および縦筋の断面積の割合(鉄筋比)を0.3%または0.59%とし、壁部および柱部を、コンクリート体積に対して鋼繊維を0.5%または1.0%混入した繊維補強コンクリートで形成した場合、繊維が混入されていない普通コンクリートで壁部および柱部を形成した場合に比べて、せん断耐力を約1.1~1.18倍に増大させることができるうえに、最大耐力後の耐力の急減な低下を防止でき、変形性能を向上させることができる。
【0008】
第2の発明の耐力壁は、前記繊維は、両端部が折り曲げられた鋼繊維であることを特徴とする。
この発明によれば、繊維補強コンクリートに混入する繊維として、両端部が折り曲げられた鋼繊維を用いたので、鋼繊維の折り曲げ部でコンクリートと鋼繊維との間の付着性能が高まる。
また、鋼繊維の熱膨張係数は、コンクリートとほぼ等しいので、温度変化により生じる内部応力を低減可能であり、鋼繊維とコンクリートの一体性を確保することができる。
【0009】
第3の発明の構造物(例えば、後述の建物1)は、上述の鉄筋コンクリート造の耐力壁を備える構造物であって、前記耐力壁の上側または下側には、別の耐力壁(例えば、後述の耐力壁10A)が配置され、前記別の耐力壁は、繊維が混入されていない鉄筋コンクリート造の壁部(例えば、後述の壁部20)と、前記壁部の水平方向端部に設けられる、繊維が混入されていない鉄筋コンクリート造の柱部(例えば、後述の柱部30)と、を備え、前記耐力壁の壁部の縦筋(例えば、後述の縦筋22)は、前記別の耐力壁の壁部の縦筋に接合され、前記耐力壁の柱部の柱主筋(例えば、後述の柱主筋32)は、前記別の耐力壁の柱部の柱主筋に接合されていることを特徴とする。
【0010】
ここで、耐力壁および別の耐力壁は、構造物の地上階または地下階のいずれに設けてもよい。
この発明によれば、繊維補強コンクリートで形成された耐力壁の上側または下側に、繊維が混入されていないコンクリートで形成された別の耐力壁を設けるとともに、双方の壁の縦筋および柱主筋同士を接合した。よって、構造物の全ての階に繊維補強コンクリートで形成された耐力壁を設けなくても、大きい荷重を受ける部位や靭性能が求められる部位に繊維補強コンクリートで形成された耐力壁を用いることで、せん断耐力および変形性能に優れた構造物を実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、耐力壁の柱部の幅を小さくしつつ、耐力と変形性能に優れた耐力壁、および、その耐力壁を用いた構造物を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係る耐力壁が適用された建物の平面図である。
【
図5】
図3の耐力壁のC-C断面図およびD-D断面図である。
【
図6】加力試験に用いたNo.1~No.3試験体の構造を示す正面図、横断面図、および縦断面図である。
【
図7】
図6の試験体の壁部および柱部の縦断面の拡大図である。
【
図8】
図6の試験体の壁部および柱部の横断面の拡大図である。
【
図10】加力試験の試験結果(水平荷重Qと水平変位量δとの関係)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、繊維が混入された鉄筋コンクリート造の壁部および柱部を有する耐力壁であり、これら壁部および柱部のコンクリート体を、繊維をコンクリート体積に対して0.3%以上1.5%以下混入された繊維補強コンクリートで形成することで、柱部の幅を壁部の壁厚の1倍以上2倍未満にした(
図1~
図6)。また、本発明の耐力壁を備える構造物では、繊維が混入された鉄筋コンクリート造の耐力壁の上側または下側に、繊維が混入されていない鉄筋コンクリート造の別の耐力壁が配置され、双方の耐力壁を形成する柱主筋および壁縦筋が互いに接合されている。
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る耐力壁10が適用された構造物としての建物1の所定階の平面図である。
図2は、
図1の建物1のA-A断面図である。
建物1は、複数層を有する鉄筋コンクリート造の建物であり、鉛直方向に延びる複数の柱2と、複数の柱2の頂部同士を連結する複数の梁3と、複数の梁3に支持された図示しない床と、を備える。
平面視で、建物1の中央部であるコア部には、上下に連続して複数の耐力壁10、10Aが配置されている。これら耐力壁10、10Aは、複数層に亘って配置されて、連層耐震壁となっている。
各耐力壁10は、壁部20と、壁部20の端部に沿って鉛直方向に延びる柱部30と、を備える。つまり、コア部に配置された柱2は、壁部20に接合された柱部30となっている。
【0014】
図3は、耐力壁10の正面図である。
図4は、
図3の耐力壁10のB-B断面図である。
図5は、
図3の耐力壁10のC-C断面図およびD-D断面図である。
壁部20は、繊維が混入された繊維補強コンクリートで形成されたコンクリート体21と、コンクリート体21に埋設されて鉛直方向に延びる縦筋22と、コンクリート体21に埋設されて水平方向に延びる横筋23と、を備える。
柱部30は、繊維が混入された繊維補強コンクリートで形成されたコンクリート体31と、コンクリート体31に埋設されて鉛直方向に延びる柱主筋32と、コンクリート体31に埋設されて柱主筋32に巻かれたフープ筋33と、を備える。柱部30の壁部20の壁厚方向の幅(柱幅)は、壁部20の壁厚と同一となっている。また、柱部30の柱せい(正面視での見付け幅)は、壁部20および柱部30を含む耐力壁10の全長(壁全長)の0.1倍~0.3倍程度とする。
壁部20のコンクリート体21および柱部30のコンクリート体31は、鋼繊維がコンクリート体積に対して0.3%以上1.5%以下混入された繊維補強コンクリートで形成されている。鋼繊維は、両端にフック加工を施したものであり、鋼繊維の直径は0.1mm~0.6mm程度、鋼繊維長さは20mm~50mm程度が好ましい。
【0015】
耐力壁10Aは、耐力壁10の上に複数層に亘って配置され、壁部20のコンクリート体21および柱部30のコンクリート体31が、繊維が混入されていないコンクリートで形成されている点が、耐力壁10と異なり、その他の構成は耐力壁10と同様である。
上下に位置する耐力壁10、10Aの縦筋22同士および柱主筋32同士は、互いに接合されている。
【0016】
〔加力試験〕
以下、上述の耐力壁を模した4つの試験体(No.1~No.4)を製作し、水平力を加える加力試験を行うことで、SFRC(鋼繊維を混入した鉄筋コンクリート)の補強効果を検証した。
図6は、No.1~No.3試験体の構造を示す正面図、横断面図、および縦断面図である。
図7は、
図6の試験体の壁部および柱部の縦断面の拡大図である。
図8は、
図6の試験体の壁部および柱部の横断面の拡大図である。なお、No.4試験体は、壁部の横筋および縦筋の鉄筋量が、
図6~
図8のNo.1~No.3試験体の2倍となっている。
試験体は、建物の下層部を想定し、実際の約1/3~1/4程度の大きさとした。また、各試験体を、壁のせん断破壊が壁脚部の曲げ降伏よりも先行するように製作した。具体的には、各試験体の壁厚を180mm、壁内法長さを1200mm、柱幅を壁厚と同じ180mm、柱せいを500mmとした。
【0017】
No.1~No.4試験体の構成を以下の表に示す。
【表1】
【0018】
表に示すように、壁部および柱部のコンクリート体を形成するコンクリートは、No.1試験体が普通コンクリート、No.2~No.4試験体が、鋼繊維を混入した繊維補強コンクリート(SFRC)とした。コンクリートの目標強度は、60N/mm2とした。繊維混入量は、No.2、No.4試験体がコンクリート体積の0.5%、No.3試験体がコンクリート体積の1.0%とした。
なお、コンクリート中に混入する繊維は、径0.55mm、長さ35mm、アスペクト比65、比重7.85の鋼繊維とした。この鋼繊維は、両端を折り曲げたフック加工を施したものであり、直径が0.55mm、長さが35mmである。
【0019】
各試験体の柱主筋は、せん断破壊が先行するように、12-D19(SD490)で鉄筋比pg=3.83%とした。
壁部の縦筋および横筋は、No.1~No.3試験体が、2-D6@120(SD345)で鉄筋比ps=0.30%とし、No.4試験体が、2-D6@60(SD345)で鉄筋比ps=0.59%とし、No.3試験体とNo.4試験体とが同等のせん断耐力となることを狙った。
【0020】
以上の試験体に対して、
図9に示す加力装置で加力した。具体的には、加力装置により、試験体に加える軸力を保持しつつ、試験体の上部スタブに変位制御点を設置し、左右から水平荷重を繰り返し載荷によって与えた。軸力は、柱断面のみの軸力比ηが0.15とした。この軸力比ηは、以下の式で求めた。
η=N/(2・Bc・Dc・σB)
ここで、Nは軸力(柱2本分)、Bcは柱幅(=壁厚180mm)、Dcは柱せい(=500mm)、σBはコンクリート圧縮強度(N/mm
2)である。
【0021】
図10は、加力試験の結果(水平荷重Qと水平変位量δとの関係)を示す図である。
図10より、最大水平荷重Q
MAXは、N0.2試験体がNo.1試験体の1.11倍、No.3試験体がNo.1試験体の1.18倍、No.4試験体がNo.1試験体の1.17倍となることが判る。また、No.2~No.4試験体では、No.1試験体と比べて、水平荷重Qが最大に達した後の急減な低下を防止でき、変形性能が向上した。よって、普通コンクリートでは、ひび割れが発生した際、引張応力を負担することが困難であるため,ひび割れが大きく進展するが、繊維補強コンクリートは,ひび割れが発生した際、ひび割れを架ける繊維が引張応力を負担することで、ひび割れの拡幅を防止して、同一の荷重または同一の変形時にひび割れ幅が小さくなることが判る。
また、
図10より、No.3試験体は、No.4試験体よりも荷重の低下が緩やかであり、同等のせん断耐力となる場合でも、鋼繊維量が多い方が、変形性能が大きいことが判る。
【0022】
よって、
図10より、柱幅が壁厚と同一でかつコンクリート体積に対して鋼繊維を0.5%または1.0%混入した繊維補強コンクリートで形成した耐力壁は、鋼繊維量を混入していない普通コンクリートで形成した耐力壁に比べて、ひび割れ幅が小さくなり、限界変形角(靭性能)が向上し、耐力と変形性能に優れていることが判る。
また、今回の加力試験より、コンクリート体積に対して鋼繊維を0.5%または1.0%混入することで、耐力および変形性能を改善できることが確認できた。
本発明の耐力壁では、壁部および柱部のコンクリート体は、繊維がコンクリート体積に対して0.3%以上1.5%以下混入された繊維補強コンクリートで形成することが好ましい。今回の加力試験の試験体の製作については、鋼繊維量を、建設現場で普通コンクリートに混入する量を容易に管理できかつ攪拌可能な量として、0.5%または1.0%とした。
また、本発明の耐力壁では、柱部の幅を壁部の壁厚の1倍以上2倍未満とすることが好ましい。今回の加力試験の試験体の製作については、施工性を考慮して、柱部の幅を壁厚と同一とした。
また、本発明の耐力壁を備えた連層耐震壁では、
図2に示すように、繊維が混入された耐力壁を1層以上配置し、これら耐力壁の上に繊維が混入されていない耐力壁を配置する。このように、繊維が混入された耐力壁を限定的に配置することで、繊維が混入された耐力壁を建物の全ての階に設けなくても、連層耐震壁の構造性能を高めることができる。
【0023】
本実施形態によれば、以下のような効果がある。
(1)壁部20および柱部30を含んで耐力壁10を構成し、これら壁部20および柱部30を、鋼繊維がコンクリート体積に対して0.3%以上1.5%以下混入された繊維補強コンクリートで形成した。よって、鋼繊維がせん断補強筋と同等以上の補強効果を発揮するため、壁部や柱部にせん断補強筋を過密に配筋する必要がない。
その結果、柱部30を大断面化することなく、柱部30の幅を壁部20の壁厚さと同一としても、耐力と変形性能に優れた耐力壁10を実現できる。
また、普通コンクリートではなく鋼繊維を混入した繊維補強コンクリートを用いて、壁部20および柱部30のコンクリート体21、31を構築したので、施工性が良い。
また、耐力壁10、10Aを備えた連層耐震壁では、耐力壁10が設けられた下層部では,コンクリートに鋼繊維を混入する分のコストの増加が発生するが、鋼繊維を混入した耐力壁10の変形性能が向上するため、建物1の変形性能が向上し、周辺架構の物量を削減できる。
【0024】
(2)繊維補強コンクリートに混入する繊維として、両端部が折り曲げられた鋼繊維を用いたので、鋼繊維の折り曲げ部でコンクリートと鋼繊維との間の付着性能が高まる。
また、鋼繊維の熱膨張係数は、コンクリートとほぼ等しいので、温度変化により生じる内部応力を低減可能であり、鋼繊維とコンクリートの一体性を確保することができる。
(3)繊維補強コンクリートで形成された耐力壁10の上側に、繊維が混入されていないコンクリートで形成された別の耐力壁10Aを設けるとともに、双方の壁の縦筋22および柱主筋32同士を接合した。よって、建物1の全ての階に繊維補強コンクリートで形成された耐力壁10を設けなくても、せん断耐力および変形性能に優れた建物1を実現できる。
【0025】
なお、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
【符号の説明】
【0026】
1…建物(構造物) 2…柱 3…梁
10…耐力壁 10A…別の耐力壁
20…壁部 21…コンクリート体 22…縦筋 23…横筋
30…柱部 31…コンクリート体 32…柱主筋 33…フープ筋