(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159843
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】ころ軸受
(51)【国際特許分類】
F16C 33/60 20060101AFI20231025BHJP
F16C 19/36 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
F16C33/60
F16C19/36
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022138212
(22)【出願日】2022-08-31
(31)【優先権主張番号】P 2022069473
(32)【優先日】2022-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】植松 俊一
【テーマコード(参考)】
3J701
【Fターム(参考)】
3J701AA12
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA57
3J701EA02
3J701FA04
3J701FA46
3J701FA48
3J701GA31
3J701GA41
(57)【要約】
【課題】鍔部材を内輪に締結する締結部材の脱落を防止できるころ軸受を提供する。
【解決手段】内輪の軸方向他端部には、内輪と別体である鍔部材が、軸方向に延びる締結部材により締結され、締結部材は、頭部と、頭部から軸方向一端側に延びる軸部と、を有し、鍔部材は、内輪と軸方向に当接する基部を有し、基部には、基部の内周面から径方向外側に向かう凹部が、周方向に間隔を空けて複数形成され、凹部の外周面は、軸方向一端側に配置され、径方向内側に突出する第1突出部と、第1突出部の軸方向他端側に配置され、径方向外側に凹む溝部と、溝部の軸方向他端側に配置され、径方向内側に突出する第2突出部と、を含み、第1突出部には、締結部材の軸部が配置され、溝部には、締結部材の頭部が配置され、第2突出部の径方向内側端部は、締結部材の頭部の径方向外側端部よりも径方向内側に位置する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動自在に配置された複数のころと、
を備えるころ軸受であって、
前記内輪の軸方向一端部には、前記内輪と一体である鍔部が形成され、
前記内輪の軸方向他端部には、前記内輪と別体である鍔部材が、軸方向に延びる締結部材により締結され、
前記締結部材は、頭部と、前記頭部から軸方向一端側に延びる軸部と、を有し、
前記鍔部材は、前記内輪と軸方向に当接する基部を有し、
前記基部には、前記基部の内周面から径方向外側に向かう凹部が、周方向に間隔を空けて複数形成され、
前記凹部の外周面は、
軸方向一端側に配置され、径方向内側に突出する第1突出部と、
前記第1突出部の軸方向他端側に配置され、径方向外側に凹む溝部と、
前記溝部の軸方向他端側に配置され、径方向内側に突出する第2突出部と、
を含み、
前記第1突出部には、前記締結部材の前記軸部が配置され、
前記溝部には、前記締結部材の前記頭部が配置され、
前記第2突出部の径方向内側端部は、前記締結部材の前記頭部の径方向外側端部よりも径方向内側に位置することを特徴とするころ軸受。
【請求項2】
前記締結部材の前記頭部には、前記締結部材を回転させるための工具を係合可能な工具係合穴が、軸方向一端側に向かって凹設され、
軸方向から見て、前記工具係合穴が前記第2突出部と重畳していない
請求項1に記載のころ軸受。
【請求項3】
前記凹部は、前記締結部材の前記軸部よりも径方向内側に、前記軸部の外径よりも周方向幅が短い短幅部を有する請求項1又は2に記載のころ軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ころ軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業機械においては、機能や価格だけでなくライフサイクルコストが重要視されている。このため産業機械に組み付けるころ軸受に対しても、補修や再利用の要求が増えており、点検するために分解可能な軸受構造が求められている。
【0003】
特許文献1に記載の円すいころ軸受は、内輪軌道面を有する内輪と、外輪軌道面を有する外輪と、内輪軌道面及び外輪軌道面間を転動する転動体である複数の円すいころと、円すいころを周方向等間隔に保持するための保持器と、を備える。内輪の大径側端部に大鍔が一体に形成されるとともに、内輪の小径側端部に、円すいころの脱落を防止する、別体の小鍔部材が設けられる。小鍔部材は、ボルトによって内輪に係止される。したがって、円すいころ軸受の内部の点検や保持器の交換の際には、小鍔部材を取り外すことによって、分解することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の円すいころ軸受では、ボルトが適正な締付力で締結されない場合などにボルト緩みが生じ、ボルトが軸受から脱落するおそれがある。ボルトが脱落した場合、周辺の駆動部品(例えば減速機)へボルトが流れ込み、部品の損傷を引き起こす可能性がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、鍔部材を内輪に締結する締結部材の脱落を防止できるころ軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の上記目的は、下記の構成により達成される。
(1) 外周面に内輪軌道面を有する内輪と、
内周面に外輪軌道面を有する外輪と、
前記内輪軌道面と前記外輪軌道面との間に転動自在に配置された複数のころと、
を備えるころ軸受であって、
前記内輪の軸方向一端部には、前記内輪と一体である鍔部が形成され、
前記内輪の軸方向他端部には、前記内輪と別体である鍔部材が、軸方向に延びる締結部材により締結され、
前記締結部材は、頭部と、前記頭部から軸方向一端側に延びる軸部と、を有し、
前記鍔部材は、前記内輪と軸方向に当接する基部を有し、
前記基部には、前記基部の内周面から径方向外側に向かう凹部が、周方向に間隔を空けて複数形成され、
前記凹部の外周面は、
軸方向一端側に配置され、径方向内側に突出する第1突出部と、
前記第1突出部の軸方向他端側に配置され、径方向外側に凹む溝部と、
前記溝部の軸方向他端側に配置され、径方向内側に突出する第2突出部と、
を含み、
前記第1突出部には、前記締結部材の前記軸部が配置され、
前記溝部には、前記締結部材の前記頭部が配置され、
前記第2突出部の径方向内側端部は、前記締結部材の前記頭部の径方向外側端部よりも径方向内側に位置することを特徴とするころ軸受。
(2) 前記締結部材の前記頭部には、前記締結部材を回転させるための工具を係合可能な工具係合穴が、軸方向一端側に向かって凹設され、
軸方向から見て、前記工具係合穴が前記第2突出部と重畳していない
(1)に記載のころ軸受。
(3) 前記凹部は、前記締結部材の前記軸部よりも径方向内側に、前記軸部の外径よりも周方向幅が短い短幅部を有する
(1)又は(2)に記載のころ軸受。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鍔部材を内輪に締結する締結部材の脱落を防止できるころ軸受を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る円すいころ軸受の断面図である。
【
図4】第2実施形態において、凹部の外周面の第1突出部を通る、軸方向に垂直な断面で切った、鍔部材の断面形状を示す図である。
【
図5】第2実施形態の変形例において、凹部の外周面の第1突出部を通る、軸方向に垂直な断面で切った、鍔部材の断面形状を示す図である。
【
図6】第2実施形態の他の変形例において、凹部の外周面の第1突出部を通る、軸方向に垂直な断面で切った、鍔部材の断面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る円すいころ軸受1の断面図である。
図2は、
図1の円すいころ軸受1の要部断面図である。
【0011】
円すいころ軸受1は、外周面に円すい状の内輪軌道面11を有する内輪10と、内周面に円すい状の外輪軌道面21を有する外輪20と、内輪軌道面11と外輪軌道面21との間に転動自在に配置された複数の円すいころ30と、を備える。
【0012】
円すいころ30は、内輪軌道面11と外輪軌道面21の間に組み込まれた環状の保持器40によって、周方向に一定の間隔を隔てて保持されている。保持器40は、ピンタイプ保持器であり、一対の円環部41,42と、一対の円環部41,42を締結するピン43と、を有している。
【0013】
なお、保持器40の種類は限定されず、例えば、鋼板製のプレス保持器(かご型保持器)であって、大径リング部と、小径リング部と、大径リング部及び小径リング部を軸方向に連結する複数の柱部と、これら大径リング部と小径リング部と隣り合う柱部との間に画成されたポケット部と、を有するものを適用してもよい。
【0014】
内輪10の軸方向一端部(図中、左側。大径側端部)には、内輪10と一体である鍔部13が形成される。鍔部13は、内輪軌道面11よりも径方向外側に突出し、円すいころ30の軸方向一端側への脱落を防止する。鍔部13は内輪10の大鍔を構成する。
【0015】
内輪10の軸方向他端部(図中、右側。小径側端部)には、内輪軌道面11よりも軸方向他端側に突出する内輪ボス部15が形成される。なお、
図2には、内輪軌道面11の軸方向他端部11aから延びる内輪軌道面11に垂直な仮想平面Aと、軸方向他端部11aから径方向に延びる仮想平面Bと、が示されている。内輪ボス部15は、これら仮想平面A及びBよりも軸方向他端側に突出する。内輪ボス部15は、内輪軌道面11の軸方向他端部11aから径方向内側に離間した位置から軸方向他端側に向かう凸部であり、したがって、内輪ボス部15と内輪軌道面11の軸方向他端部11aとの間には段部17が形成される。
【0016】
内輪ボス部15には、内輪10と別体である鋼材或いは樹脂材料からなる鍔部材50が、ボルト60により締結される。なお、本例のボルト60は、六角穴付ボルトであるが、ボルトの種類は特に限定されず、ねじ等の他の種類の締結部材を用いてもよいことは言うまでもない。ボルト60は、頭部61と、頭部61から軸方向一端側に延び、外周に雄ねじ部が形成された軸部63と、を有する。
【0017】
頭部61には、ボルト60を回転させるための六角レンチ等の工具を係合可能な六角穴65(工具係合穴)が、軸方向他端側から軸方向一端側に向かって凹設されている。図示されたボルト60は、いわゆる極低頭ボルトと呼ばれるものであり、頭部61の軸方向幅がJIS規格品等の通常品に比べて短く、六角穴65が頭部61のみならず軸部63にまで延在している。また、六角穴65の直径も、JIS規格品等の通常品に比べて小さい。しかしながら、ボルト60としては、図示の極低頭ボルトに限定されず、通常のボルトを用いても構わない。
【0018】
ボルト60等の締結部材は、軸方向に延び、内輪ボス部15と鍔部材50とを軸方向に締結するので、保持器形態に関わらず、ボルト60を締結し易い。また、鍔部材50の着脱を容易に行うことができるので、円すいころ軸受1の組立作業が容易になるとともに、円すいころ軸受1の内部の点検や円すいころ30又は保持器40の交換が容易となる。
なお、内輪ボス部15への鍔部材50の着脱方法については後述する。
【0019】
内輪ボス部15には、軸方向に向かうねじ穴15aが形成されている。ねじ穴15aの雌ねじ部は、軸方向において仮想平面Aと重ならないように形成されることが好ましく、より具体的には、ねじ穴15aの雌ねじ部は、仮想平面Aよりも軸方向他端側に配置されることが好ましい。この場合、ねじ穴15aの雌ねじ部に螺合するボルト60も、軸方向において仮想平面Aと重ならないように配置され、より具体的には、仮想平面Aよりも軸方向他端側に配置される。
【0020】
また、より好ましくは、内輪ボス部15のねじ穴15aの雌ねじ部は、軸方向において内輪軌道面11の軸方向他端部11a(仮想平面B)と重ならないように形成され、より具体的には、内輪軌道面11の軸方向他端部11a(仮想平面B)よりも軸方向他端側に配置される。この場合、ねじ穴15aの雌ねじ部に螺合するボルト60も、軸方向において内輪軌道面11の軸方向他端部11a(仮想平面B)と重ならないように配置され、より具体的には、内輪軌道面11の軸方向他端部11a(仮想平面B)よりも軸方向他端側に配置される。
【0021】
このように、ボルト60が軸方向において内輪軌道面11を重ならないように配置すれば、ボルト締結部が内輪軌道面11の径方向直下に配置されることが回避される。したがって、軸受使用時に軌道面に大荷重が発生した場合であっても、ボルト締結部に高応力が生じることを抑制することができる。
【0022】
ただし、上記記載は、ボルト締結部が軸方向において仮想平面A,Bと重なるような態様を排除するものではない。
【0023】
鍔部材50は、円環部材から構成されてもよく、円環の一部を形成する複数の円環片が周方向に間隔を空けて配置されることにより構成されてもよい。鍔部材50は、内輪ボス部15よりも径方向外側まで延びる円環状の基部51と、基部51の径方向外側端部から軸方向一方側(
図2中の矢印Eの方向であり、内輪10や円すいころ30に近づく方向)に向かって突出する凸部53と、を有する。基部51は、内輪ボス部15と軸方向において当接する。凸部53は、内輪10の段部17に入り込む。
【0024】
図3は、
図2のIII-III線矢視図である。なお、
図3においては、ボルト60の六角穴65は不図示であり、軸部63の概形が示されている。
図2~
図3に示すように、基部51には、基部51の内周面51aから径方向内側に向かう凹部55が、周方向に間隔を空けて複数形成される。凹部55は、基部51を軸方向に貫通しており、径方向内側に開口している。
【0025】
図2に示すように、凹部55の外周面55a(底面)は、軸方向一端側に配置され、径方向内側に突出する第1突出部56と、第1突出部56の軸方向他端側に配置され、径方向外側に凹む溝部57と、溝部57の軸方向他端側に配置され、径方向内側に突出する第2突出部58と、を含む。
【0026】
凹部55の外周面55aの第1突出部56には、ボルト60の軸部63が配置され、溝部57にはボルト60の頭部61が配置される。
【0027】
図3には、凹部55の外周面55aの第1突出部56を通る、軸方向に垂直な断面で切った、鍔部材50の断面形状が示されている。
図3に示すように、凹部55は、外周面55aの第1突出部56を含み径方向内側に開口する部分円筒状の外側部分55bと、外側部分55bよりも径方向内側に配置され、径方向内側に開口する内側部分55cと、外側部分55bと内側部分55cとを径方向に接続し、凹部55のうち最も周方向幅が短い短幅部55dと、を含む。
【0028】
凹部55の外側部分55bは、ボルト60の軸部63を収容する部分であり、その外径は軸部63の外径よりも僅かに大きく設定される。したがって、軸部63は、外側部分55b内で僅かに移動が許容される。
【0029】
凹部55の短幅部55dは、ボルト60の軸部63(ボルト60の中心軸)よりも径方向内側に配置される。短幅部55dの周方向幅Lは、ボルト60の軸部63の外径よりも短い。したがって、短幅部55dによって、ボルト60が径方向内側に脱落することが防止される。図示の例の短幅部55dは、径方向に延びる一対の平面が周方向に向かい合う形状であるが、短幅部55dの形状は特に限定されない。
【0030】
凹部55の内側部分55cは、径方向内側から径方向外側に向かうにしたがって周方向幅が小さくなる形状(スロットル形状)である。したがって、凹部55へのボルト60の径方向内側からの挿入が容易とされている。
【0031】
なお、凹部55は、必ずしも短幅部55dを有さなくても良く、例えば、外側部分55bと内側部分55cとが滑らかに連続し、径方向内側から径方向外側に向かうにしたがって周方向幅が小さくなる形状(スロットル形状)としても構わない。この場合、凹部55には、周方向幅がボルト60の軸部63の外径よりも短い部分が無いので、鍔部材50に挿入されて内輪ボス部15に螺合していないボルト60を、径方向へ脱落してしまうことを防止するため、治具等で支持する必要がある。しかしながら、鍔部材50と内輪ボス部15とを締結した後は、複数のボルト60のうち1本でも内輪ボス部15と組み付いている限りは、後述するようにボルト60の頭部61が第2突出部58に引っかかるため、ボルト60が脱落することが防止される。
【0032】
凹部55に挿入されたボルト60は、
図2に示すように、頭部61の径方向外側部が、溝部57の軸方向一端面57aに着座する。また、ボルト60の頭部61は、溝部57の外周面57bと径方向に隙間を有し、且つ、第2突出部58と軸方向に隙間を有する。溝部57の軸方向長さは、ボルト60の頭部61が第2突出部58と当接した時にも、ボルト60が内輪10との螺合を維持している長さになっているのが好ましい。
【0033】
ここで、
図2に示すように、第2突出部58の径方向内側端部は、ボルト60の頭部61の径方向外側端部よりも径方向内側に位置する。すなわち、軸方向から見たとき、第2突出部58と、ボルト60の頭部61とは、少なくとも一部が重畳する。これにより、万が一ボルト60に緩みが発生し、ボルト60が軸方向に移動した場合であっても、ボルト60の頭部61が第2突出部58に引っかかるため、ボルト60が軸方向に脱落することが防止される。
【0034】
以上のような構造の鍔部材50の凹部55に対して、ボルト60を挿入する方法について説明する。本例の鍔部材50は第2突出部58を有するため、ボルト60を軸方向に挿入することは困難であり、径方向内側から径方向外側に向かって挿入する。
【0035】
図3を参照して上述したように、凹部55の内側部分55cは、径方向内側が広く、径方向外側に向かうに従って絞られたような形状とされているので、ボルト60の軸部63が短幅部55dに案内されやすく、挿入性が良い。続いて、ボルト60の軸部63が、締め代(パチン代)を有する短幅部55dを乗り越え、外側部分55bに収容される。
【0036】
鍔部材50に挿入され、内輪ボス部15に螺合していないボルト60は、強固に拘束されている状態でないものの、第2突出部58によって軸方向への脱落が防止されるとともに、短幅部55dによって径方向への脱落が防止される。このように、内輪ボス部15と鍔部材50とが締結されていない状態において、ボルト60が挿入された鍔部材50単独であっても、ボルト60が鍔部材50から脱落することがないので、取り扱い性に優れる。
【0037】
そして、ボルト60の軸部63を内輪ボス部15のねじ穴15aに螺合することによって鍔部材50が内輪ボス部15に締結される。内輪ボス部15に締結された鍔部材50の凸部53は、内輪軌道面11の軸方向他端部11aよりも径方向外側に位置して円すいころ30と軸方向に対向し、円すいころ30の軸方向他端側への脱落を防止する。このように、鍔部材50は、内輪10の小鍔を構成する。
【0038】
ここで、ボルト60をねじ穴15aに螺合する際には、ボルト60の六角穴65に六角レンチ等の工具を軸方向から挿入する必要がある。したがって、工具の挿入スペースを確保するため、第2突出部58は、六角穴65よりも径方向外側に位置する。すなわち、軸方向から見て、六角穴65は第2突出部58と重畳していない。つまり、
図2に示すように、第2突出部58は、六角穴65が形成される径方向領域Sよりも径方向外側に位置し、軸方向から見て当該領域Sと重畳していない。
【0039】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態において、凹部55の外周面55aの第1突出部56を通る、軸方向に垂直な断面で切った、鍔部材50の断面形状を示す図である。
図4に示すように、第2実施形態の鍔部材50の断面形状は、第1実施形態(
図3参照)と異なる。その他の構成は第1実施形態と同様であるので、説明を省略する。
【0040】
本実施形態の凹部55は、外周面55aの第1突出部56を含み周方向一方側(
図4中、左側)に開口する部分円筒状の外側部分55bと、外側部分55bよりも径方向内側にまで配置され、径方向内側に開口する内側部分55cと、外側部分55bと内側部分55cとを周方向に接続し、凹部55のうち最も径方向幅が短い短幅部55dと、を含む。
【0041】
凹部55の外側部分55bは、ボルト60の軸部63を収容する部分であり、その外径は軸部63の外径よりも僅かに大きく設定される。したがって、軸部63は、外側部分55b内で僅かに移動が許容される。
【0042】
凹部55の短幅部55dは、ボルト60の軸部63(ボルト60の中心軸)よりも周方向一方側(
図4中、左側)に配置される。短幅部55dの径方向幅Mは、ボルト60の軸部63の外径よりも短い。したがって、外側部分55bに収容されたボルト60は、短幅部55dによって周方向一方側(
図4中、左側)に移動することが規制され、内側部分55cを介して径方向内側に脱落することが防止される。図示の例の短幅部55dは、周方向に延びる一対の平面が径方向に向かい合う形状であるが、短幅部55dの形状は特に限定されない。
【0043】
凹部55の内側部分55cは、径方向内側端部に開口55caを有している。当該開口55caは、短幅部55d及び外側部分55bから周方向一方側(
図4中、左側)にずれた位置に配置される。そして、内側部分55cは、径方向内側端部の開口55caから径方向外側に向かうにしたがって、短幅部55dに近づくように周方向他方側(
図4中、右側)に湾曲する。そして、内側部分55cの周方向他方側(
図4中、右側)の端部が、短幅部55dに接続する。
【0044】
内側部分55cの周方向他方側(
図4中、右側)の端部は、短幅部55dに近づくにしたがって径方向幅が小さくなる形状(スロットル形状)である。したがって、内側部分55cの開口55caから径方向外側に向かって挿入されたボルト60の軸部63は、径方向外側に向かうにしたがって内側部分55cの湾曲形状に沿って周方向他方側(
図4中、右側)に案内される。そして、ボルト60の軸部63は、さらに内側部分55cのスロットル形状によって短幅部55dに案内され、続いて、締め代(パチン代)を有する短幅部55dを乗り越え、外側部分55bに収容される。
【0045】
本実施形態においても、鍔部材50に挿入され、内輪ボス部15(
図1及び
図2参照)に螺合していないボルト60は、強固に拘束されている状態でないものの、第2突出部58(
図1及び
図2参照)によって軸方向への脱落が防止される。さらに、ボルト60は、短幅部55dによって周方向への移動が規制されるので、内側部分55cを介した径方向への脱落が防止される。また、ボルト60が収容される外側部分55bは、径方向内側に開口する第1実施形態と異なり、径方向内側が閉塞された構造であるため、ボルト60が自重によって外側部分55bから径方向内側に抜け出ることが防止できる。このように、内輪ボス部15と鍔部材50とが締結されていない状態において、ボルト60が挿入された鍔部材50単独であっても、ボルト60が鍔部材50から脱落することがないので、取り扱い性に優れる。
【0046】
なお、
図4に示した凹部55の内側部分55cは、径方向内側端部の開口55caから径方向外側に向かうにしたがって、短幅部55dに近づくように周方向他方側(
図4中、右側)に湾曲する形状であったが、内側部分55cの形状は開口55caと短幅部55dを接続する限りにおいて適宜変更可能であり、例えば、
図5に示すような形状を採用できる。
【0047】
図5は、凹部55の外周面55aの第1突出部56を通る、軸方向に垂直な断面で切った、第2実施形態の変形例に係る鍔部材50の断面形状を示す図である。
図5に示す例では、内側部分55cは、断面L字形状とされており、開口55caから径方向外側に向かって延びる径方向延出部55cbと、径方向延出部55cbの径方向外側端部から周方向他方側(
図5中、右側)に向かって延びて短幅部55dに接続する周方向延出部55ccと、を備える。
【0048】
周方向延出部55ccの周方向他方側(
図5中、右側)の端部は、短幅部55dに近づくにしたがって径方向幅が小さくなる形状(スロットル形状)である。内側部分55cの開口55caから径方向外側に向かって挿入されたボルト60の軸部63は、径方向延出部55cb及び周方向延出部55ccに沿って案内される。そして、ボルト60の軸部63は、周方向延出部55ccのスロットル形状によって短幅部55dに案内され、続いて、締め代(パチン代)を有する短幅部55dを乗り越え、外側部分55bに収容される。
【0049】
このように、
図5に示した第2実施形態の変形例においても、
図4の第2実施形態と同様の効果を奏することができる。
【0050】
図6は、凹部55の外周面55aの第1突出部56を通る、軸方向に垂直な断面で切った、第2実施形態の他の変形例に係る鍔部材50の断面形状を示す図である。
図5の第2実施形態の変形例においては、周方向延出部55ccの周方向他方側(
図5中、右側)の端部は、短幅部55dに近づくにしたがって径方向幅が小さくなる形状(スロットル形状)であった。しかしながら、周方向延出部55ccの周方向他方側の端部の形状は、
図5に示した形状に限定されず、
図6に示すように、周方向他方側に直線的に延びる形状であっても構わない。この場合、周方向延出部55ccと短幅部55dとは、周方向延出部55ccと直交するように径方向に延びる壁部55eによって接続される。
【0051】
なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されず、種々変形可能である。例えば、本発明は、円すいころ軸受以外にも円筒ころ軸受等、ころ軸受であれば適用可能である。
【0052】
例えば、上述した例では、内輪10の軸方向他端部には、内輪軌道面11よりも軸方向他端側に突出する内輪ボス部15が形成されていたが、当該内輪ボス部15は必ずしも設けなくても構わない。内輪ボス部15が形成されない場合、上記特許文献1(特開2014-190352号公報)と同様に、内輪10の軸方向他端部(内輪軌道面11の軸方向他端部11aに隣接する位置)に鍔部材50が配置される。この場合、内輪ボス部15が形成されないので、内輪10は段部17を有さず、鍔部材50は凸部53を有さない。また、ねじ穴15aは、内輪10の軸方向他端面から、軸方向一端側に向かうように形成される。
【符号の説明】
【0053】
1 円すいころ軸受(ころ軸受)
10 内輪
11 内輪軌道面
11a 軸方向他端部
13 鍔部
15 内輪ボス部
15a ねじ穴
17 段部
20 外輪
21 外輪軌道面
30 円すいころ(ころ)
40 保持器
41,42 円環部
43 ピン
50 鍔部材
51 基部
51a 内周面
53 凸部
55 凹部
55a 外周面
55b 外側部分
55c 内側部分
55ca 開口
55cb 径方向延出部
55cc 周方向延出部
55d 短幅部
55e 壁部
56 第1突出部
57 溝部
57a 軸方向一端面
57b 外周面
58 第2突出部
60 ボルト(締結部材)
61 頭部
63 軸部
65 六角穴(工具係合穴)
A,B 仮想平面
L 周方向幅
M 径方向幅