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特開2023-159881キヌレニン、急性のCOVID-19およびロングCOVIDにおける有用なバイオマーカー
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159881
(43)【公開日】2023-11-01
(54)【発明の名称】キヌレニン、急性のCOVID-19およびロングCOVIDにおける有用なバイオマーカー
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/569 20060101AFI20231025BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231025BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20231025BHJP
   G01N 33/52 20060101ALI20231025BHJP
【FI】
G01N33/569 L
G01N33/53 D
G01N33/543 521
G01N33/52 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023068168
(22)【出願日】2023-04-19
(31)【優先権主張番号】22169087.8
(32)【優先日】2022-04-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】522357231
【氏名又は名称】サリオン・ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】マンフレッド・ジェイ、スタングル
(72)【発明者】
【氏名】ディートマー、アベンドロス
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA26
2G045CB07
2G045DA36
(57)【要約】      (修正有)
【課題】急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症を検出するためのインビトロの方法を提供する。
【解決手段】体液におけるキヌレニンのレベルが決定され、診断された患者において測定されたキヌレニンの値が、患者のキヌレニンの値を増加させる前述の疾患に罹患していない人々の同等のコホートから得られた平均値と比較される、インビトロの方法。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症を検出するためのインビトロの方法であって、体液におけるキヌレニンのレベルが決定され、診断される患者において測定されたキヌレニンの値が、患者のキヌレニンの値を増加させる前記疾患に罹患していない人々の同等のコホートから得られた平均値と比較される、インビトロの方法。
【請求項2】
体液におけるキヌレニンの前記決定が治療の制御に使用される、請求項1に記載のインビトロの方法。
【請求項3】
体液におけるキヌレニンの前記決定が、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/もしくはPIMSならびに/または患者の回復を監視するために使用される、請求項1に記載のインビトロの方法。
【請求項4】
前記体液が血清、唾液、または脳脊髄液(csf)である、請求項1~3のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項5】
前記体液が唾液である、請求項4のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項6】
前記キヌレニンのレベルが、患者において対照群においてよりも少なくとも2倍高い、請求項1~5のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項7】
急性のCOVID-19の感染が、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)によって引き起こされる伝染性疾患であることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項8】
ロングCOVIDが、COVID-19の典型的な回復期の後に持続する、または現れる長期的な影響を特徴とする状態であることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項9】
PIMSが、SARS-CoV-2への曝露後の持続性発熱および極度の炎症を伴う全身性小児疾患であることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項10】
ELISA試験、またはラテラルフロー免疫クロマトグラフィーアッセイ、またはマイクロ流体試験、または比色試験、または免疫ブロットであることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のインビトロの方法。
【請求項11】
急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症のインビトロの検出におけるバイオマーカーとしてのキヌレニンの使用。
【請求項12】
キヌレニンのレベルが、血清中に少なくとも3μM、唾液中に少なくとも1μM、およびCSF中に少なくとも1μMである、請求項11に記載のキヌレニンの使用。
【請求項13】
請求項1~10のいずれか一項に記載の方法を用いて、体液におけるキヌレニンのレベルを決定するための試験キット。
【請求項14】
ELISA試験キット、またはラテラルフロー免疫クロマトグラフィーアッセイ試験キット、またはマイクロ流体試験キット、または比色試験キット、または免疫ブロット試験キットであることを特徴とする、請求項13に記載の試験キット。
【請求項15】
前記体液が血清、唾液または脳脊髄液(csf)である、請求項13~14のいずれか一項に記載の試験キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDまたはPIMSによって引き起こされる炎症を検出するためのインビトロの方法、炎症の検出におけるキヌレニンの使用、およびそのような方法を実施するための試験キットに関する。
【背景技術】
【0002】
病原体に対する宿主の防御の間のつながりは、多種多様な生成された病原体関連分子パターン、PAMPによって、並びにダメージ関連分子パターン、DAMPの生成および出現に関連する任意の有害な非病原性因子によってもたらされる、初期の組織損傷であると思われる。
【0003】
組織損傷の中心において、その起源-感染性、毒性、物理的または他の損傷性の事象-にかかわらず、活性酸素種、ROSが支配的な役割を果たすことが証明されている。口腔歯肉上皮および気道上皮は、病原体および非病原体を検出し、宿主の自然防御応答を開始するためのセンチネルシステムとしての素因を有する。
【0004】
自然免疫応答および関連する細胞の種類は、COVID-19の疾患の臨床症状および重症度において重要な役割を果たす。この仮定は、主に気道および肺胞上皮細胞、血管内皮細胞、およびマクロファージに感染する、COVID-19、SARS-CoV-2の原因因子に最も近い、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス、SARS-CoVに関する先行研究と一致する。SARS-CoVが様々な先天性認識および応答経路を引き起こすことが示された。
【0005】
疾患の回復後の短期および長期の後遺症は、これらの症候群が、加齢においてしばしば見られる、炎症老化(inflammaging)と呼ばれ、より若い個体においてさえ虚弱を含む加齢関連状態の増加および悪化をもたらす慢性不顕性全身性炎症の加速状態をもたらすことを示唆する。これらの所見は、脳、心臓、血管系、腎臓および筋肉などの異なる器官に臨床的に関連していた。
【0006】
一般的な証拠は、重度のCOVID-19疾患を有する患者が、サイトカインストームによって引き起こされる悪化した炎症レベルを示す自然免疫系の過剰反応を有するようであることを示唆する。
【0007】
この初期の段階で、COVID-19を支えるメカニズムは依然として熱心な調査の対象となっており、疾患による長期的な精神衛生の影響は不明である。活性化され、うまくダウンレギュレーションされない自然免疫応答は、サイトカインストーム事象と共に、または単独で、ロング(Long)COVIDまたはPIMSのリスクの増加をもたらし得る。これらの症候群の背景は、進行中の不顕性炎症によって代表され、検出が容易ではなく、おそらく免疫抑制療法のタイプが適切に選択されていないか、または成功していないことに起因する。
【0008】
キヌレニン
キヌレニンは、芳香族の非タンパク質構成(non-proteinogenic)アミノ酸であり、トリプトファン代謝の代謝産物である。トリプトファン代謝の内部で、キヌレニン経路KPは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド、NAD+の形態での細胞エネルギーの生成において、重要な役割を果たす。免疫反応中にエネルギーの要求が顕著に増加するため、KPは免疫系の重要な調節因子である。この重要な調節因子は、特に自然免疫活性化における最初の防御の系統において最重要である。
【0009】
キヌレニンは、主に肝臓で産生される酵素トリプトファンジオキシゲナーゼと、免疫活性化に応じて多くの組織で産生されるインドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ、IDO-1とによって合成される(図1)。
【0010】
COVID-19の背景
コロナウイルス疾患2019(COVID-19)は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2、SARS-CoV-2によって引き起こされる感染性の高い疾患である。COVID-19の一般的な症状には、発熱、咳、疲労、息切れ、ならびに嗅覚および味覚の喪失が含まれる。大部分の症例は軽度の症状に至るが、一部はサイトカインストーム、多臓器不全、敗血症性ショックおよび血栓を特徴とする急性呼吸窮迫症候群、ARDSに進行する。
【0011】
一部の個体のみが重度の呼吸器症状を発症する機序はまだ完全には明らかにされていないが、いくつかの研究は、入院を必要とするほど病んでいる患者は、高血圧、糖尿病、および/または肥満を含む多疾病罹患(multimorbidity)を患っている高齢者である傾向があることを示している。
【0012】
入院患者における疾患の重症度は、高C反応性タンパク、CRP、およびインターロイキン-6、IL-6、低アルブミン、高沈降速度、好酸球の減少、およびリンパ球減少症を特徴とする明白な炎症反応に関連する重症の肺炎を特徴とする。入院患者はまた、よく凝固の変化に関連付けられる、細胞死のマーカーである乳酸デヒドロゲナーゼLDHの増加を有する。高LDH、低リンパ球数、および高いレベルの高感度CRPは、90%を超える精度で個々の患者の死亡率を10日前に予測する。
【0013】
したがって、過去数ヶ月にわたって公開された研究の尋常ではない増加は、SARS-CoV-2の感染が強力で明らかに制御されていない炎症応答を放出し、それが根本の症状であるCOVID-19へのウイルス感染によって既に引き起こされていた組織の損傷を増加させる可能性が最も高いことを示唆している。
【0014】
注目すべきことに、重度のCOVID-19は不均一に高齢者に発症するが、SARS-CoV-2の感染による全身性炎症は、小児で確認されている川崎病の特徴を有する重度の多系統炎症性症候群を含めて、全年齢群の患者で検出される。
【0015】
PIMSの背景
小児炎症性多系統症候群、PIMSは、小児におけるSARS-CoV-2への曝露後に持続性発熱および極度の炎症を伴う、まれな全身性疾患である。前記症候群は、小児の多系統炎症性症候群、MIS-C、またはCOVID-19の全身性炎症症候群、SISCoVとも呼ばれる。それは、身体周囲の血流の不足、ショックとして知られる状態などの医学的緊急事態を急速にもたらす可能性がある。1つ以上の器官の機能不全が起こり得る。警告的な徴候は、COVID-19への曝露後の、重度の症状を伴う、説明できない持続性発熱である。
【0016】
罹患した小児は一貫して、過炎症(hyperinflammation)の検査の証拠を示す。炎症の顕著な生物学的マーカーとしては、一般に、赤血球沈降速度、ESR、C反応性タンパク、CRP、プロカルシトニン、フェリチンおよびIL-6の激しい上昇が挙げられる。血小板数の低下および血液凝固障害も一般的であり、Dダイマーおよびフィブリノゲンのレベルが上昇している。
【0017】
臨床的特徴は、典型的には幼児が罹患するまれな疾患である川崎病に類似しているように思える。川崎病との差異としては、嘔吐、下痢、および腹痛などの胃腸の症状を伴った頻繁な症状が挙げられる。神経学的関与も比較的頻繁であるようである。川崎病で通常遭遇しない特徴的な検査の証拠には、非常に高いレベルの心室性ナトリウム利尿ペプチド(心不全のマーカー)、ならびにやや低い血小板数、低い絶対リンパ球数、および高いCRPレベルが含まれる。
【0018】
発症機序は完全には知られておらず、いくつかの要因が関与し得る。SARS-CoV-2は、いくつかの役割のうちの1つを有する可能性がある。それは、直接的または間接的に、異なるトリガのための道を何らかの形で開くことによって、状態の環境的なトリガとして機能する可能性がある。
【0019】
病態生理学を理解することは、研究での重要な優先事項である。SARS-CoV-2への曝露後に疾患に至る根底の分子機構に関する疑問には、任意の遺伝的素因因子;特定のウイルス変異体との任意のつながり;自己免疫性/自己炎症性反応を引き起こすことができる任意の分子パターンの同定が含まれる。別の重要な疑問は、PIMSを有する小児および重度のCOVID-19(高濃度のIL-6の誘発を含む)を有する成人において自己免疫性/自己炎症性反応を引き起こす分子機構が類似しているか、または異なっているかである。
【0020】
ロングCOVIDの背景
ロングCOVIDは、COVID-19の典型的な回復期後に持続するまたは現れる長期的な影響を特徴とする状態である。世界で感染した人口およびその健康システムが直面する問題は、ますます認識されてきている。ロングCOVIDは、COVID-19後症候群(post-COVID-19 syndrome)、COVID-19後の症状(post COVID-19 condition)、COVID-19の急性後遺症(post-acute sequelae of COVID-19)、PASC、または慢性COVID症候群(chronic COVID syndrome)、CCSとしても知られている。
【0021】
ロングCOVIDという語句は、一般に、検査で確認されたか、または臨床的であるかにかかわらず、診断後、>28日の間症状がある、COVID-19を有する人々を表す。症状は、急性のCOVID-19で見られるように著しく不均一であり、一定であるか、不安定であるか、または様々な頻度で出現して他の系に関連する症状に置き換えられる場合がある。ロングCOVIDを抱える多くの人々はプライマリケアで管理されるが、他の人々はリハビリテーション医学の専門家からの多大な投与を必要とする。
【0022】
急性のCOVID-19の感染後の多臓器症状は、ますます多くの患者によって報告されてきている。それらは、咳および息切れから、疲労、頭痛、動悸、胸痛、関節痛、身体的制約、うつ病および不眠症にまで及び、様々な年齢の人々に影響を与える。ロングCOVIDは、急増する健康上の懸念であり、これに対処するための措置が現在必要である。
【0023】
COVID-19の長期的な健康の影響をもたらす軌跡、合併症、および生物学的機構をよりよく理解するのを助力するために、大規模かつ長期のコホート研究が緊急に必要とされている。ワクチン接種は、多くの国にとってパンデミック対応の当面の焦点となっているが、諸国はパンデミックが終息したと考え始めており、ロングCOVIDを抱える患者のことを忘れてはならず、また傍観してはならない。
【0024】
したがって、SARS-CoV-2の感染に関連する、特にロングCOVIDにおける、疾患の機構を理解し、薬物の標的および炎症の過程を特定する必要性が高まっている。
【発明の概要】
【0025】
本発明の目的は、キヌレニンがCOVID-19の急性の段階の間に炎症状況を示すことができるかどうかを確認することである。さらに、キヌレニンがまた、ロングCOVIDおよび/またはPIMSを有する患者における無症状の炎症状況を示すことができるかどうかである。
【0026】
本発明は、急性のCOVID-19、ロングCOVIDおよび/またはPIMSを検出および監視する方法を開示する。
【0027】
第1の態様では、本発明は、体液におけるキヌレニンのレベルを決定することによる、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症を検出するためのインビトロの方法に関する。
【0028】
第2の態様では、本発明は、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症のインビトロの検出におけるバイオマーカーとしてのキヌレニンの使用に関する。
【0029】
第3の態様では、本発明は、体液におけるキヌレニンのレベルが本発明の方法を使用して決定される試験キットに関する。
【図面の簡単な説明】
【0030】
図1図1は、キヌレニン経路、高等真核生物におけるトリプトファン分解の主要経路の概略図を示す。酵素を斜体で示している。
図2図2は、唾液(x軸)または血清(y軸)のいずれかにおいてμMで測定されたキヌレニン濃度の相関を示す。
図3図3は、正常対照(n=302)対初期の急性段階のCOVID-19患者(1週目、n=85)におけるキヌレニンのレベルを示す。差は有意であった(p<0.001)。
図4図4は、さまざまな感染症の実体の、ロングCOVIDの疾患との比較を示す。感染症(肺炎、尿路感染症、および重度の創傷感染症を含む)とロングCOVIDの初期の段階にある患者との間には、有意差がある(p<0.027)。免疫抑制薬投与下でCMV再活性化/疾患を有する腎移植後の患者(n=34)もキヌレニンレベルの上昇を示したが、ロングCOVIDを有する患者と比較して、有意に低かった。
図5図5は、正常対照(n=302)および急性のCOVID-19の感染患者(n=9)における血清および唾液におけるキヌレニンの測定を示す。COVID-19+における両方の値(血清および唾液)は有意に高かった(p<0.001)。
図6図6は、既存のロングCOVIDを有する(n=9)か、または有していない(n=28)COVID-19+患者の追跡調査における血清中のキヌレニンの比較を示す。症候群を有する患者は現時点で治療管理下にある。
図7図7は、COVID-19の感染後およびロングCOVIDを有する患者におけるCRP測定の追跡調査を示す。見られ得るように、CRPは、ロングCOVIDを有する患者における追跡調査のための有用なバイオマーカーではなかった。
図8図8は、陽性PCR試験後の3ヶ月目:治癒した、または3ヶ月のロングCOVID症候群、または5ヶ月超のロングCOVID症候群における血清で測定されたキヌレニンのレベルを示す。キヌレニンは依然として有意に上昇しているが、治癒した患者の値は正常範囲にある。
図9図9は、試験に含まれた患者の3種の異なるコホート(A、B、およびC)の人口統計学的および生化学的データを示す。コホートAは、SARS-CoV-2による感染のない正常対照患者を表す。コホートBは、感染病棟またはICUで治療された、疾患の急性段階のロングCOVID患者を表す。コホートCは、ロングCOVIDの疾患の診断を受けている患者を表す。3つのコホートはすべて、年齢および性別の分布に関して同等であった。正常対照と急性のCOVID-19およびロングCOVID患者との間で、キヌレニンに関して有意差があった。N=試験した個体の数。n.s.=有意でない。n.a.=該当なし。n.d.=決定せず。
【0031】
(発明の詳細な説明)
本発明およびその実施形態を、図面に関連して以下にさらに詳細に説明する。
【0032】
本発明は、キヌレニン経路、KPに関する。トリプトファンは、異なる経路を介して代謝され得る必須アミノ酸であり、主要な経路はキヌレニン経路である。この経路を図1に示す。経路の第1の酵素、インドールアミン-2,3-ジオキシゲナーゼ、IDO-1は、炎症性分子、特にインターフェロン-yによって強く刺激される。したがって、キヌレニン経路は、免疫応答が活性化されるとき、多くの場合体系的に上方制御される。生物学的意義は、トリプトファンの減少およびキヌレニンの生成が免疫応答において重要な調節的(modulary)役割を果たすことである。驚くべきことに、体液において測定されたキヌレニンのレベルは、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症を検出するために使用できることが分かった。
【0033】
既に上述したように、IDO-1、IFN-γ誘導性細胞内酵素は、キヌレニン経路における必須アミノ酸トリプトファンの分解における最初の及び律速段階を触媒する。IDO-1の免疫調節効果は、T細胞増殖の防止、T細胞アポトーシスの促進、T細胞のイグノランス(ignorance)の誘導、エネルギー、および制御性T細胞の生成によって表される。
【0034】
KPは、哺乳類におけるトリプトファン、TRP、分解の主要な代謝経路である。これは、ヒトの脳におけるTRP異化作用の95%超を担う。キヌレニンと呼ばれるこの代謝カスケードによって産生される代謝産物は、神経伝達および免疫応答を含むいくつかの生理学的プロセスに関与する。KPはまた、神経毒性および神経保護代謝産物を伴い、それらの微妙なバランスの変化が複数の病理学的過程で証明されている。
【0035】
本明細書で使用される「キヌレニン」という用語は、トリプトファン/キヌレニン経路のすべての代謝産物を指す。したがって、キヌレニンおよび/またはその誘導体が前記用語に含まれる。
【0036】
「備える、具備する(comprising)」という用語は、他の要素またはステップを排除するものではなく、単数形の用語「a」または「an」は複数形を排除するものではないことに留意されたい。さらに、異なる実施形態に関連して説明された要素を組み合わせることができる。
【0037】
本発明の態様は、様々な主題を参照して説明されていることにも留意されたい。特に、いくつかの態様は、方法タイプの特許請求の範囲を参照して説明されているが、他の態様は、それぞれ、使用タイプの特許請求の範囲および/または製品タイプの特許請求の範囲を参照して説明されている。しかしながら、当業者は、上記および下記の説明から、別段の記載がない限り、1つのタイプの主題に属する特徴の間の任意の組み合わせに加えて、異なるタイプの主題に関連する特徴の間の任意の組み合わせも本明細書で開示されていると考えられることが、推測されるであろう。特に、方法タイプの特許請求の範囲に関する特徴と、使用タイプの特許請求の範囲および/または製品タイプの特許請求の範囲に関する特徴との間の組み合わせが開示されると考えられる。
【0038】
KPの主要な中間体はL-キヌレニン、L-KYNであり、ここで代謝経路は2つの異なる分枝に分かれる。L-KYNは、キヌレニンアミノトランスフェラーゼ、KATを介する神経保護キヌレン酸、KAT、または3-ヒドロキシ-L-キヌレニン、3-OH-KYNのいずれかに変換される。3-OH-KYNは、一連の酵素ステップでさらに代謝されて、(図1に示すように)最終的にNADを生じる。
【0039】
本発明は、体液におけるキヌレニン含有量を決定する、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症を検出するためのインビトロの方法を提供する。本発明はまた、診断方法を実施するための試験キットの形態の方法および手段を提供する。試験は、個人または患者が自分で、および唾液がサンプルとして使用されるときにそのような決定が適切であると思われる任意の所与の時間に容易に行うことができる。
【0040】
本発明の方法は、特に唾液におけるキヌレニンのレベルが、血清サンプルで決定されたキヌレニンレベルと比例して非常によく対応するという本発明者らの驚くべき知見に基づいている(図2)。したがって、本発明の方法は、好ましくは唾液を用いて行われる。
【0041】
本発明の方法では、体液におけるキヌレニンのレベルが決定される。本発明の方法では、L-キヌレニンのレベルが好ましくは決定されるが、N-ホルミルキヌレニン、3-ヒドロキシキヌレニンおよびキヌレン酸のレベルを決定することも可能である。
【0042】
検出方法に応じて、異なる中間体間で決定することが可能であり得る。しかしながら、異なる中間体と反応する決定試験を使用することも可能である。キヌレニンの決定は、通常の範囲外であるキヌレニンのレベルの変化を検出することが重要であるため、定量的または半定量的に行うことが好ましい。サンプルとして唾液を使用するときに、医師または医学的に訓練された人なしに、インビトロの方法を実施できることが、特に有利である。
【0043】
本発明の方法により、血清および唾液におけるキヌレニンのレベルの間の信頼できる関係を決定することが可能である(図2)。血清におけるキヌレニンの測定値と唾液におけるキヌレニンの測定値との間には、線形相関(R=0.902)が存在する。関係は、3.3(血清):1(唾液)である。この観察は、キヌレニンが唾液中に重要および有意なレベルで存在することを証明しており、これは多くの他のタンパク質には当てはまらない。
【0044】
この観察を利用して、本発明は、体液におけるキヌレニンのレベルを決定することによって、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症を検出するための信頼できる方法および試験キットを提供する。
【0045】
本発明の主題は、独立請求項に定義されている。
【0046】
本発明の好ましい実施形態は、それぞれの従属請求項に定義されている。
【0047】
本発明によれば、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症を検出するためのインビトロの方法が提供され、体液におけるキヌレニンのレベルが決定され、診断される患者において測定されたキヌレニンの値が、患者のキヌレニンの値を増加させる疾患のいずれにも罹患していない人々の同等のコホートから得られた平均値と比較される。
【0048】
好ましい実施形態によれば、体液におけるキヌレニンの決定は、治療の制御に使用される。
【0049】
別の好ましい実施形態によれば、体液におけるキヌレニンの決定は、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/もしくはPIMSならびに/または患者の回復を監視するために使用される。
【0050】
さらに別の好ましい実施形態によれば、体液は、血清、唾液または脳脊髄液、CSFである。特に好ましい実施形態では、体液は唾液である。
【0051】
さらに、好ましい実施形態によれば、キヌレニンのレベルは、患者において対照群においてよりも少なくとも2倍高い。より好ましくは、患者のキヌレニンのレベルは、血清において少なくとも3μM、唾液において少なくとも1μM、およびCSFにおいて少なくとも1μMである。さらにより好ましくは、患者におけるキヌレニンのレベルは、血清において4μM~25μM、さらにより好ましくは5μM~17μM、さらにより好ましくは5.5μM~12μM、さらにより好ましくは6μM~9μMである。より好ましくは、唾液におけるキヌレニンのレベルは、1.5μM~4μMである。より好ましくは、CSFにおけるキヌレニンのレベルは、1.5μM~4μMである。
【0052】
さらに別の好ましい実施形態によれば、急性のCOVID-19の感染は、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2、SARS-CoV-2によって引き起こされる伝染性疾患である。
【0053】
さらに別の好ましい実施形態では、ロングCOVIDは、COVID-19の典型的な回復期の後に持続する、または現れる長期的な影響を特徴とする状態である。
【0054】
さらに別の好ましい実施形態によれば、PIMSは、SARS-CoV-2への曝露後の持続性発熱および極度の炎症を伴う全身性小児疾患である。
【0055】
本発明の特に好ましい実施形態では、本明細書に記載の方法は唾液を用いて実施される。したがって、侵襲的手段を必要とせずに炎症を検出することが可能である。患者は、自分の唾液を使用することによって試験を容易に行うことができ、本明細書にて提供される試験キットは、治療における潜在的なリスクを示すことを可能にする。
【0056】
さらに別の好ましい実施形態によれば、インビトロの方法は、ELISA試験、またはラテラルフロー免疫クロマトグラフィーアッセイ、またはマイクロ流体試験、または比色試験、または免疫ブロットである。
【0057】
本明細書に開示される方法は、臨床パラメータと共に使用されたい。キヌレニンの相対的な値は、好ましくは、他の臨床パラメータと共に解釈され得る。本発明は、診断の予後の評価に実質的に役立つ。本発明の方法は、診断される患者において測定されたキヌレニンの値を、疾患に罹患していない人々の同等のコホートから得られた平均値と比較することによって改善される。
【0058】
別の実施形態では、本発明は、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症のインビトロの検出におけるバイオマーカーとしてのキヌレニンの使用を提供する。
【0059】
別の好ましい実施形態によれば、炎症のバイオマーカーとしてのキヌレニンのレベルは、血清中に少なくとも3μM、唾液中に少なくとも1μM、およびCSF中に少なくとも1μMである。
【0060】
別の対象において、本発明は、本発明の方法を使用することによって、体液におけるキヌレニンのレベルが決定される試験キットを提供する。そのような試験キットは、異なる原理で機能し得る本発明の方法を実施するための適切な手段を備える。キヌレニンおよび/またはキヌレニン誘導体の存在を検出する特定の呈色試薬を使用することが可能である。あるいは、キットは、キヌレニンに特異的に結合する少なくとも1つまたは好ましくは2つの抗体を備え得る。好ましくは、2つの抗体が使用される場合、そのような抗体は、第1の抗体、キヌレニンまたはその誘導体および第2の抗体によって形成されるサンドイッチの形成を可能にするために、同じエピトープには結合しない。
【0061】
好ましい実施形態によれば、試験キットは、ELISA試験キット、またはラテラルフロー免疫クロマトグラフィーアッセイ試験キット、またはマイクロ流体試験キット、または比色試験キット、または免疫ブロット試験キットである。
【0062】
さらに別の好ましい実施形態によれば、試験キットに使用される体液は、血清、唾液またはCSFである。特に好ましい実施形態では、体液は唾液である。
【0063】
本明細書に開示されるインビトロの方法は、異なる原理に基づいてもよい。好ましい原理の1つは、ラテラルフロー免疫クロマトグラフィーアッセイとして知られている。そのようなラテラルフロー免疫クロマトグラフィーアッセイは、唾液がサンプルとして使用されるとき、医師または他の医学的に訓練された人の助けなしに患者により容易に実施することができる。
【0064】
ラテラルフロー免疫クロマトグラフィーアッセイとしても知られているラテラルフロー試験は、専用の高額な装置を必要とせずに、標的分析物サンプルの存在(または非存在)を検出することを意図したシンプルな機器であるが、読み取り装置によってサポートされる多くの実験室ベースの用途が存在する。典型的には、これらの試験は、家庭での試験、ポイントオブケアの試験、または実験用の使用のいずれかのための医療診断に使用される。広く普及している周知の用途は、家庭での妊娠検査である。この技術は、多孔質紙または焼結ポリマーの片などの一連の毛細管床に基づく。これらの要素の各々は、流体(例えば、唾液)を自然に輸送する能力を有する。第1の要素(サンプルパッド)はスポンジとして作用し、過剰なサンプル流体を保持する。浸漬されると、流体は、いわゆるコンジュゲート、つまり、標的分子と粒子表面に固定化されたその化学的パートナーとの間の最適化された化学反応を保証するためのすべてを含む、塩-糖マトリクス中の生理活性粒子の乾燥フォーマットを、製造業者が保管する、第2の要素(コンジュゲートパッド)に移動する。サンプル流体は塩-糖マトリクスを溶解するが、それは粒子をも溶解し、1つの結合された輸送作用で、サンプルとコンジュゲートが多孔質構造を通って流れる間に混合する。このようにして、分析物は、第3の毛細管床をさらに通って移動しながら、粒子に結合する。この材料は、第3の分子が製造業者によって固定化されている1つまたは複数の(多くの場合ストライプと呼ばれる)領域を有する。サンプル-コンジュゲート混合物がこれらのストリップに到達するまでに、分析物が粒子に結合し、第3の「捕捉」分子が複合体に結合する。しばらくして、ますます多くの流体がストライプを通過するとき、粒子が蓄積し、ストライプ領域が色を変える。典型的には、少なくとも2つのストライプがあり、1つ(対照)は、任意の粒子を捕捉し、それによって反応条件および技術がうまく機能したことを示し、第2のものは、特定の捕捉分子を含有し、分析物分子が固定化されたそれらの粒子だけを捕捉する。これらの反応ゾーンを通過した後、流体は、単に廃棄物容器として機能する最終的な多孔質材料、すなわちウィック(wick)に入る。ラテラルフロー試験は、競合アッセイまたはサンドイッチアッセイのいずれかのように機能することができる。
【0065】
原則として、任意の着色粒子を使用することができるが、ラテックス(青色)または金のナノメートルサイズの粒子(赤色)が最も一般的に使用される。金の粒子は、局在化した表面プラズモン共鳴により赤色を呈する。蛍光または磁気標識粒子も使用することができるが、これらは、試験結果を評価するために、電子リーダーを使用することが必要とする。
【0066】
サンプルは、最初に、標的分析物に対して生成された抗体で標識された着色粒子に遭遇する。試験ラインは、同じ標的に対する抗体も含むが、分析物上の異なるエピトープに結合し得る。試験ラインは、陽性サンプルにおいて着色バンドとして示される。厳密に必要というわけではないが、ほとんどの試験キットは、好ましくは、検査が正しく動作したことを確認するために、遊離ラテックス/金を捕捉する抗体を含む第2のラインを組み込む。
【0067】
好ましい実施形態では、ラテラルフローアッセイの単一成分は、特定の閾値を超えるキヌレニンがサンプルに存在する場合にのみ、キヌレニンの存在が示されるように適合される。
【0068】
別の実施形態では、本発明のインビトロの方法は、ELISA、酵素結合免疫吸着アッセイとして実施される。公知の様々な構成のELISA試験が存在する。ELISAタイプは、直接ELISA、サンドイッチELISA、競合ELISAおよび/または逆(reverse)ELISAである。
【0069】
通常、いわゆるサンドイッチELISAが行われる。そのようなELISA試験では、分析物に特異的に結合する化合物を固体の表面(例えば、マイクロタイターウェルの底部)に固定する。非特異結合部位は、非特異結合を回避するために(例えば、スキムミルク粉末を用いて)飽和している。通常、分析物の含有量を決定するためのサンプルの容易な希釈を可能にするために、いくつかのマイクロタイターウェルが成分でコーティングされる。
【0070】
分析物の関連するウェルへの結合は、通常、望ましくない結合の干渉を回避するために、標的分子の別の領域に結合する別の抗体を用いて検出される。そのような抗体は、通常、例えばホースラディッシュペルオキシダーゼのような酵素であり得るシグナル発生手段と結合される。次いで、シグナル発生分子によって異なる特性を有する別の分子に変換される前駆体分子を添加することによって、検出される分析物の存在を見ることができる。例えば、1つのウェルにキヌレニンが存在する場合、抗体はこの分子に結合し、シグナル生成手段(例えば、ホースラディッシュペルオキシダーゼ)の活性により、色シグナルが生成され、それにより、強度は結合した標的分子の量に比例する。反応は定量的に測定することができ、体液において検出される検体の量を正確に決定することができる。
【0071】
好ましい試験キットは、以下の要素で構成される。
1.サンプルパッド-試験サンプル上の吸収パッドが適用される。
2.コンジュゲートまたは試薬パッド-これは、着色粒子(通常コロイド状金粒子またはラテックスミクロスフェア)にコンジュゲートされた標的検体に特異的な抗体を含む。
3.反応膜-典型的には、その上に抗標的分析物抗体が捕捉ゾーンまたは試験ラインとして膜に亘るラインに固定化される、疎水性ニトロセルロースまたは酢酸セルロース膜(コンジュゲート抗体に特異的な抗体を含有する対照ゾーンも存在し得る)。
4.ウィック(Wick)または廃棄リザーバ-毛管現象によって反応膜にわたるサンプルを吸引して、それを回収するように設計されたさらなる吸収パッド。
【0072】
ストリップの構成要素は、通常、不活性の基材に固定され、単純なディップスティック形式で与えられるか、またはサンプルポート並びに捕捉ゾーンおよび対照ゾーンを示す反応ウィンドウを備えるプラスチックケーシング内に与えられ得る。
【0073】
本発明の別の実施形態では、キヌレニンまたはその誘導体の決定は、着色反応によって行われる。キヌレニンまたはその誘導体の含有量を決定し得る前に、正確および厳密な試験結果に悪影響を及ぼし得る成分を除去しなければならない。正しい試験結果を阻害し得るサンプルの前記望ましくない成分は、好ましくは沈殿によって除去される。このような沈殿は、好ましくは、トリクロロ酸(trichloric acid)を用いて行うことができる。しかしながら、トリクロロ酸(trichloric acid)の使用以外の、サンプルの成分のタンパク質を除去するための他の方法を使用することが可能である。サンプルの阻害成分が沈殿によって除去された後、遠心分離によって相を分離することが必要な場合がある。次いで、上清を好ましくは、好ましくはエールリッヒ試薬であり得る発色試薬と反応させる。発色後、サンプルは、適切な波長で吸光度を測定することによって測定される。好ましくは、試験は定量的または半定量的な方法で行われる。試験方法では、偽陽性の結果を回避するために、検量線を使用することができるか、または特定の閾値が試験キットにおいて固定される。
【0074】
さらなる実施形態では、インビトロの試験方法はマイクロ流体試験である。前記試験は、ELISAまたはLFA試験を紙で行うために使用することができる。試験は、2つの部分、つまり活性検出領域を含む摺動ストリップと、摺動ストリップを取り囲む構造とを具備し、緩衝液、抗体および酵素基質などの保存された試薬を保持し、流体を分配する。前記試験を実行することは、体液および水のサンプルを添加し、予定された時間に摺動ストリップを移動させ、検出領域において結果として生じる色を、視覚的にまたはフラットベッドスキャナを使用して分析することを含む。
【0075】
さらに別の実施形態では、インビトロの試験方法は免疫ブロットである。免疫ブロット法の基本原理は、プラスチックまたはガラス繊維でできた取り扱いが容易な担体マトリックスへの、規定された抗原の空間的に分離された固定(ブロッティング)、サンプルの適用、および対応する抗原に結合した特異的抗体の検出である。抗原は、通常、サイズに応じてそれぞれ適用される。免疫ブロットの最も古い形態は、抗原を電気泳動的に予め分離し、次いで膜へ移すウエスタンブロットである。また、ドットブロットおよびスロットブロットは、免疫ブロット法の一種として実施される。
【0076】
実際には、規定された抗原量が工業的な印刷プロセスによってプラスチックストリップに塗布される免疫ブロットが確立されており、これは抗体検出のために実験室ですぐに使用することができる。この類の免疫ブロットは、ラインブロットとしても知られている。特異的抗体結合の検出に加えて、ラインブロットの利点は、適用された制御抗原による作業ステップの制御、および典型的には、非特異的結合タンパク質に対する反応の可能な検出である。完全に異なる病原体の抗原もラインブロットに示されることができ(マルチプレックス法)、したがって同時検出を可能にする。
【0077】
別の形態の免疫ブロットは、抗原を吸収性マトリックスに固定し、サンプル(同時に、抗体を結合するための検出試薬も)を毛細管力によって固定抗原を通過させる迅速検査方法(ポイントオブケア試験、POCT)で使用される(イムノクロマトグラフィーICT、ラテラルフロー試験、LFTまたはラテラルフローアッセイ、LFA)。
【0078】
本発明は、下記の実施例によってさらに説明されるが、本発明の範囲を限定するものではない。
【0079】
例1
急性のCOVID-19の感染、ロングCOVID、および/またはPIMSによって引き起こされる炎症を検出するためのキヌレニン試験。
【0080】
1.1 比色アッセイの一般的に使用される技術
キヌレニンを介したトリプトファン代謝産物は、何十年もの間知られている呈色反応によって、体液で定量的に決定することができる。一般に、着色された反応生成物の形成による検出方法は、標準的な方法によって行うことができる。
【0081】
マイクロプレートリーダは、マイクロタイタープレートにおけるサンプルの生物学的、化学的または物理学的事象を検出するように設計された実験機器である。それらは、薬学およびバイオテクノロジー産業および学術機関における研究、薬物発見、バイオアッセイ検証、品質管理、および製造プロセスにおいて、広く使用されている。サンプル反応は、6~1536ウェルフォーマットのマイクロタイタープレートでアッセイすることができる。学術研究室または臨床診断室で使用される最も一般的なマイクロプレートのフォーマットは、96-ウェル(8×12のマトリックス)であり、典型的な反応体積は、ウェルあたり100~200μLである。
【0082】
マイクロプレートアッセイの一般的な検出モードは、吸光度、蛍光強度、発光、時間分解蛍光、および蛍光偏光である。吸光度検出は、30年超にわたってマイクロプレートリーダにおいて利用可能であり、ELISAアッセイ、タンパク質および核酸の定量、または酵素活性アッセイなどのアッセイに対して使用されている。光源は、特定の波長(光学フィルタ、またはモノクロメータによって選択される)を使用してサンプルを照射し、ウェルの反対側に配置された光検出器は、初期(100%)の光のどれほどがサンプルを透過するかを測定する。透過光の量は、典型的には、目的の分子の濃度に関連する。
【0083】
1.2.試験の説明
この試験は、修正された方法として開発された。
【0084】
患者のCOVID-19の抗体を検出するためのPCR分析のために回収される唾液(n=9)は、標準的に、毎週月曜日、水曜日、および金曜日の午前7:00から8:00時の間に回収された。抗体の測定後、残りの唾液を-30℃で保存し、長期のen blocキヌレニン測定用のプールとして使用した。
【0085】
発色試薬を調製し、キヌレニン標準液の希釈液も調製した。呈色反応は、いわゆる「エールリッヒ試薬(Ehrlich-Reagenz)」を用いて行われ、これは黄色をもたらす。20%のHCIに溶解した2重量%のジメチルアミノベンズアルデヒドを含む溶液を、「エールリッヒ試薬」と称する。前記発色試薬は、第一級アミノ基、ピロールおよびインドール誘導体の検出にも役立つ。濃度の比色決定は、単色光で行われる。キヌレニンの標準液は、L-キヌレニン硫酸塩を用いて調製した。
【0086】
等量のサンプルを100μlのトリクロロ酢酸(30%)と完全に混合した。遠心分離後、上清を測定した。各サンプルの492nmの吸収を、同じサンプルの650nmまたは690nmの吸収と比較した。次いで、対照の吸収(平均5ウェル)を各ウェルの吸収から差し引いた。標準曲線を作成することにより、各サンプルの中のキヌレニンの濃度を決定することができた。
【0087】
例2
血清キヌレニン値を以下のように決定した。
【0088】
患者の所定のモニタリングのための血液は、標準的に、毎週月曜日、水曜日および金曜日の午前7:00~8:00の間に回収された。所定のパラメータの測定後、残りの血清を-30℃で保存し、長期のen blocなキヌレニン測定用のプールとして用いた。
【0089】
血清におけるキヌレニンのレベルの決定を、例1.2に記載したように行った。
【0090】
先に示されたように、血清におけるキヌレニンの測定値と唾液におけるキヌレニンの測定値との間には、線形相関関係が存在する。関係は、3.3(血清):1(唾液)である(図2)。
【0091】
統計分析:
記述データ分析および分散分析法を使用して、データを特徴付けた。すべてのp値は、両側であり、記述的であるとみなされる。記述的有意性の形式的な記述のために、α=0.05(両側)の公称第一種過誤レベルを仮定した。
【0092】
正規分布の連続変数ではない2群の比較のために、正確なマン・ホイットニーU検定を行った。
【0093】
結果:
パイロット研究では、正常対照患者(n=302、年齢の範囲:18~75歳、平均47.1歳;性別、144 f/158 m)のコホート(A)、および感染病棟(n=67)またはICU(n=18)のいずれかで治療された患者(n=85、年齢の範囲:19~90歳、平均63.1歳;性別、27 f/58 m)の第2のコホート(B)を分析した。
【0094】
患者(n=66、年齢の範囲:17~90歳、平均66.6歳;性別、22 f/44 m)の第3のコホート(C)は、ICU(n=6)または標準の病棟(59)のいずれかで治療された。この患者群は、主にロングCOVIDを研究するための概念実証の一部として調査された。患者はPCR陰性であり、ICU(n=6)または標準の病棟(n=59)でウィーニング中であった。
【0095】
COVID-19に感染したn=85の患者の群において、(平均年齢52.8±30)本発明者らは、最初に血清の中のキヌレニンを評価し、後に唾液の中のキヌレニンも評価した(n=9)。キヌレニンは、正常対照(コホートA、n=302)と比較して、COVID-19患者(コホートB、n=85)において有意に上昇した(10.81±8.8μM対2.5±0.4μM;p<0.001)(図3)。コホートBのサンプルを治療開始の第1週に採取した。より良好なグラフ表示のために、過炎症(hyperinflammatory)症候群を有するCOVID-19+群(58および43μM)における2つの結果を除外した。
【0096】
サイトメガロウイルス、CMVの再活性化/疾患または細菌感染症のような、他の種類の感染症と比較して、各実体についてキヌレニン上昇の典型的な範囲があった。すべての範囲が有意に異なっていた。CMVおよびCOVID-19の両方のタイプのウイルス感染は、キヌレニンレベルの有意な上昇を示し、COVID-19群でははるかに顕著であった。異常に高いレベルのキヌレニンを伴う過炎症の状況は、COVID-19患者においてのみ見られた(最大57.91μM、より良好なグラフ表示のために示さず)(図4)。
【0097】
血清以外においても、キヌレニンを測定した。図5では、本発明者らは、血清または唾液で測定された正常対照およびCovid-19+患者(n=9)のキヌレニンの測定値を比較した。COVID-19+患者のキヌレニンのレベルは、SARS-CoV-2感染のない個体(正常対照)のキヌレニンのレベルと比較して、血清と唾液の両方で上昇していることが示され得る。
【0098】
ロングCOVIDの診断がされた患者の開始群(n=9)の追跡調査をみて、本発明者らは、2ヶ月から4ヶ月までの、正常対照と比較したキヌレニンの持続的な上昇レベルを明らかにすることができた(図6)。これはCRPでは認められなかった(図7)。ロングCOVIDの徴候を有する9名の患者と、ロングCOVIDの徴候がないCOVID-19+感染後の28名の患者とを比較した。また、5ヶ月を超えた後、ロングCOVID患者のキヌレニンのレベルは、依然として上昇していた(図8)。
【0099】
COVID-19患者における良好なバイオマーカーとして文献に記載されているCRPは、ロングCOVIDを確認するために本研究では有用ではなかった。COVID-19による陽性試験の2ヶ月後のCRPは正常に近かった(正常範囲>5mg/Lまたは5μg/ml)(図7)。
【0100】
COVID-19+患者(n=9)のキヌレニンを、唾液でさらに測定することができ、同等の結果を示した(図5)。ウイルス感染症(CMV対COVID-19)によって損なわれた患者のキヌレニンのレベルは、同等である(図4)。
【0101】
全体として、キヌレニンは、COVID-19の状態のバイオマーカーとして有用であることを本発明によって明らかにすることができ、したがって、これは、急性のCOVID-19、ロングCOVIDおよび/またはPIMSによって引き起こされる炎症の検出並びに監視における有用なバイオマーカーである。キヌレニンは、SARS-CoV-2疾患の炎症性および過炎症性の特徴を示すことができる。キヌレニンは、ロングCOVIDに見られる慢性不顕性全身性炎症を検出できることが、本発明によってさらに示された。これはまた、キヌレニンが治療の監視のために使用され得ることを明らかにする。
【0102】
さらに、急性のCOVID-19の感染、ロングCOVIDおよびPIMSに関して、初めて本発明において示されたような唾液の中のキヌレニンの測定は、患者の自己モニタリングおよび一種の治療の制御の機会を設ける。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【外国語明細書】