(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159905
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】液晶を用いた分光装置
(51)【国際特許分類】
G01J 3/51 20060101AFI20231026BHJP
G01J 3/36 20060101ALI20231026BHJP
G01J 3/32 20060101ALI20231026BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G01J3/51
G01J3/36
G01J3/32
G02F1/13 505
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069802
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106116
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 健司
(74)【代理人】
【識別番号】100131495
【弁理士】
【氏名又は名称】前田 健児
(72)【発明者】
【氏名】大林 恒心
【テーマコード(参考)】
2G020
2H088
【Fターム(参考)】
2G020CB04
2G020CB06
2G020CC31
2G020CC63
2G020CC65
2G020CD04
2G020CD36
2H088EA56
2H088HA02
2H088HA11
2H088HA18
2H088MA20
(57)【要約】
【課題】本開示は、赤外分光装置から複雑な機構を除去することで価格を抑え、使用環境の制限を低減させる分光装置を提供する。
【解決手段】本開示における分光装置は、光源、試料室、液晶素子、受光素子を備え、それらを制御するコントローラーを有する。光源、資料室、液晶素子、受光素子は光路上に一列に並んでいる。コントローラーは液晶素子に任意の電圧を印加する。液晶は印加電圧によって分光分布が変化するため、その分光分布は異なる印加電圧時で互いに一次独立である。よって液晶の印加電圧ごとの分光分布が自明である場合、試料の透過光スペクトルを任意の計算方法で算出することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源、
試料室、
液晶素子、および
受光素子
を備え、
前記光源、前記試料室、前記液晶素子、および前記受光素子を制御するコントローラーおよび前記受光素子の出力を信号にする変換機、および
前記信号から吸収スペクトルを計算するコンピューター
を有する、
分光装置。
【請求項2】
前記光源、前記試料室、前記液晶素子、および前記受光素子は光路上に一列に並んでいる、
請求項1に記載の分光装置。
【請求項3】
前記液晶素子の印加電圧ごとの分光分布が印加電圧同士で一次独立であることを利用する、
請求項1に記載の分光装置。
【請求項4】
前記液晶素子に任意のバンドパスフィルタを貼り付け、かつ
前記バンドパスフィルタごとに液晶の印加電圧を制御する、
請求項1に記載の分光装置。
【請求項5】
前記液晶素子と前記受光素子を二次元アレイ型配置し、かつ試料の場所ごとの吸収スペクトルをとる、
請求項1に記載の分光装置。
【請求項6】
前記吸収スペクトルを計算する際に、回帰分析、多変量解析、最急降下法、モンテカルロ法、ニューラルネットワーク、ディープラーニングを使用する、
請求項5に記載の分光装置。
【請求項7】
十分な光の透過率があり、入力ごとの透過光スペクトルが一次独立であり、入力を制御できる、
請求項1に記載の分光装置。
【請求項8】
光路上に置かれた試料と液晶の順番は問わない、
請求項1に記載の分光装置。
【請求項9】
波長範囲が異なる光源を複数使い、光源毎に測定を実施する
請求項1に記載の分光装置。
【請求項10】
液晶に温度制御装置を使う、
請求項1に記載の分光装置。
【請求項11】
液晶の電極材料がゲルマニウム、シリコン、GaAs、またはZnSeである、
請求項1に記載の分光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、液晶を用いた分光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、液晶を用いた分光装置を開示している。特許文献1では、重量が軽く、透過光が明るく、高い分光精度が得られ、しかも製造しやすい、液晶を用いた分光装置が提供される。具体的には、特許文献1では、フーリエ変換分光法で分光する装置の干渉計として、1枚又は複数枚の液晶セルを1対の偏光子で挟んだ1枚の液晶パネルを用い、液晶パネルに入射した光を常光と異常光の二成分に分け、液晶セルのセル電圧を変更することにより二成分の光に光路差δをつけてそれらを合成した干渉光を出射するよう構成したものを用いる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】B.Lyot:Comptes Rendus 197,1593(1933)
【非特許文献2】K.Sato,N.Kato,Y.Hanazawa and T.Uchida:proc.Japan Display,392(1989); proc.SID 32,183(1991)
【非特許文献3】P.Sheng:RCA Laboratories,Princeton,N.J.08540
【非特許文献4】S.Araki,H.Chiba,M.Suzuki,T.Miyashita,T.Uchida:Proc.Eurodisplay'99 19thInt.Display Research Conf.p.133-136(1999)
【非特許文献5】Y.Yamaguchhu,T.Miyashita and T.Uchida:SID Symp.Digest,p.277(1993)
【非特許文献6】T.Miyashita,P.Vetter,M.Suzuki,Y.Yamaguchi and T.Uchida: Eurodisplay Conf.Proc.,p.149(1993); J.SID,3,p.29(1995)
【非特許文献7】C-L.Kuo,T.Miyashita,M.Suzuki and T.Uchida:SID Symp.Digest,p.927(1994); Japan.J.Appl.Phys.,34(1995)L1362; Appl.Phys.Lett.,68.p.1461(1996)
【非特許文献8】T.Miyashita and T.Uchida:IEICE Trans.Electronics,E79E-C.p.1076(1996)
【非特許文献9】T.Miyashita and T.Uchida:Digest of Technical Paper,AM-LCD,p.181(1996)
【非特許文献10】T.Uchida,K.Saitoh,T.Miyashita and M.Suzuki:Conf.Record of The International Display Research Conf.,p.37(1997)
【非特許文献11】K.Saitoh,T.Miyashita,M.Suzuki and T.Uchida:Proc.International Display Workshops,p.179(1997)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、赤外分光装置から複雑な機構を除去することで価格を抑え、使用環境の制限を低減させる分光装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
分光分析における干渉計として1枚又は複数枚の液晶セルを用い、それに光を透過又は反射させ、液晶セル電圧を変更することにより、その透過光又は反射光の分光分布を電圧ごとに一次独立に変化させるよう構成したものを用いる。
【0007】
本開示における分光装置は、光源、試料室、液晶素子、受光素子を備え、それらを制御するコントローラーを有する。光源、資料室、液晶素子、受光素子は光路上に一列に並んでいる。コントローラーは液晶素子に任意の電圧を印加する。液晶は印加電圧によって分光分布が変化するため、その分光分布は異なる印加電圧時で互いに一次独立である。よって液晶の印加電圧ごとの分光分布が自明である場合、試料の透過光スペクトルを任意の計算方法で算出することができる。
【発明の効果】
【0008】
本開示における分光装置は、従来のフーリエ変換型分光装置の持つ複雑で高い精度が求められる機構部品の使用を回避することができる。そのため、使用環境の制限が緩和され、低価格で製造しやすい分光装置を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
(本開示の基礎となった知見等)
本発明をなす上で参考にした分光装置として、フーリエ変換赤外分光光度計(FT‐IR:Fourier Transform Infrared Spectroscopy )がある。これは、干渉計によって得られる干渉光をデジタル信号化し、それをコンピュータでフーリエ変換することにより分光するものである。詳しくは、光源から出た光を干渉計に通して干渉光を作り、これを試料室に通して試料に照射し、そこから出てきた光(反射光、散乱光または透過光)を検知器で捉え、検知器の出力信号をAD(アナログ‐デジタル)変換器でデジタル化した後、コンピュータへ送信し、コンピュータがこの送信データをフーリエ変換し、得られたスペクトル波形をディスプレイに表示させるように構成されている。
【0011】
干渉計は、入ってきた光を複数の光路に分け、それらの間に光路差を作って再び合成することにより干渉を起こさせる構造をもつ光学素子であって、もともとは天体観測で星からの微弱な光を感度良く計測したり、光学レンズや鏡の面精度の精密測定を行う目的で作られ、19世紀以来、様々なものが考案されてきたが、FT‐IRではマイケルソン干渉計が最もよく使われている。
【0012】
マイケルソン干渉計は、1枚の半透鏡と2枚の平面鏡(うち1枚は移動鏡、もう1枚は固定鏡)とで構成されている。半透鏡に入射した光は直進の方向に透過する透過光と直角の方向に反射する反射光の2光束に分割される。両光束は平面鏡で折り返されて戻り、再び半透鏡で合成される。移動鏡を移動させることで両光束間の光路差が作られる。
【0013】
入射光が波長λ(波数ν=1/λ)の単色光の場合、両光束は、光路差がλ/2の倍数のところで逆位相となって弱め合い、光路差が0またはλの倍数のところで同位相となって強め合う。したがって、移動鏡を連続的に移動させて干渉計からの出力光を観測すると明暗の周期的な繰り返しとなる。光路差を横軸にとってこれをグラフ化すると結局、入射光の波長に従ったコサイン波になる。 入射光が波長の違う2つの単色光の場合、移動鏡の連続走査により、各々の単色光はその波長に従って変調され、干渉計からの出力光は2つのコサイン波の和として観測される。さらに多くの波長の光を導入しても、それぞれの波長成分ごとに変調された合成波が出力されることになり、波長の連続した実際の光源からの光では光路差が大きくなるにつれて強度が減衰していくような出力波形が観察される。この波形をインターフェログラムという。インターフェログラムに含まれている各周波
数の信号強度を分析することにより、各波長(波数)の光の強度が求まる。FT‐IRではコンピュータがこの計算を行う。
【0014】
また本発明と同様の目的で液晶を用いた分光装置として参考にした発明に特許文献1に開示されている液晶を用いた分光装置がある。
【0015】
これは1枚又は複数枚の液晶セルを1対の偏光子で挟んだ1枚の液晶パネルを用い、該液晶パネルに入射した光を常光と異常光の二成分に分け、前記液晶セルのセル電圧を変更することにより前記二成分の光に光路差をつけてそれらを合成した干渉光を出射するよう構成された干渉計を有する。さらに、特許文献1に開示された分光装置は、この干渉計と、該干渉計から出射された干渉光を2次元的に検知して電気の信号に変換し出力する光検出器と、該光検出器の出力をコンピュータに入力するための変換器と、該変換器から出力された信号を受信し、該受信した信号および前記光路差からフーリエ変換により可視光のスペクトルを算出するコンピュータとを有することを特徴とする液晶を用いた分光装置である。
【0016】
上記発明はフーリエ変換型赤外分光装置のため、光路差に分解能が依存するが、上記発明における光路差は液晶セルの厚みと常光、異常光の屈折率の差の掛け算で与えられるため波長分解能に制限がある。また、受光部は複数のCCD等の受光素子を2次元配置して構成されるため、システムが高度で複雑となる。
【0017】
このように依然として単純かつ安価かつ堅牢な分光装置が作れられないと言う課題を発明者らは発見し、その課題を解決するために、本開示の主題を構成するに至った。
【0018】
そこで本開示は、単純で安価で堅牢な赤外分光装置を提供する。
【0019】
以下、図面を参照しながら、実施の形態を詳細に説明する。但し、必要以上に詳細な説明は省略する場合がある。例えば、既によく知られた事項の詳細説明、または、実質的に同一の構成に対する重複説明を省略する場合がある。これは、以下の説明が必要以上に冗長になるのを避け、当業者の理解を容易にするためである。
【0020】
なお、添付図面および以下の説明は、当業者が本開示を十分に理解するために提供されるのであって、これらにより特許請求の範囲に記載の主題を限定することを意図していない。
【0021】
(実施の形態1)
以下、
図1を用いて、実施の形態1を説明する。
【0022】
[1-1.構成]
[1-1-1.分光装置の構成]
図1において、分光装置は光源、液晶素子、試料室、受光素子を備え、それらを制御するコントローラーと受光素子の出力を信号にする変換機、その信号から吸収スペクトルを計算するコンピューターを有する。光源、液晶素子、試料室、受光素子は光路上に一列に並んでいる。光源から放たれた光が液晶素子を透過したのち試料室を透過ないしは反射し、受光素子に至る。
【0023】
[1-2.動作]
以上のように構成された分光装置について、その動作を以下説明する。
【0024】
赤外分光装置の動作原理を説明する。光源から試料室に向けて光を当て、その透過光な
いしは反射光を液晶素子の印加電圧を変更させながら液晶素子に通し、受光素子で光の強度を検出する。その際の検出器の測光量はその時の印加電圧時の光源の強さ、試料の透過光、液晶の透過光、検出器の感度の波長毎の値をかけ合わせる計算を全波長で行った結果の合計である。液晶は印加電圧によって透過光スペクトルの分光分布が変化するため、上記計算式は電圧毎で1次独立となり、光源の分光分布、液晶の印加電圧とその時の透過光スペクトル、受光感度が既知の場合、任意の方法で検出物体の吸収スペクトルを計算することができる。その計算は備え付けられているコンピュータが実行する。
【0025】
[1-3.効果等]
従来のマイケルソン干渉計に比べ、移動鏡のような移動部をもたないため構造が簡素である。
【0026】
検出した光の強度だけで吸収スペクトルを計算するため、上記で紹介した液晶を用いた分光装置のように二次元の光検出器を必要としない。
【0027】
測定する吸収スペクトルの分解能は受光素子と変換機の分解能によるため、従来技術のように波長分解能を上げるために機器の構成を変える必要はなく、逆に測定結果によって分解能を決定することもできる。
【0028】
透過光スペクトルの計算方式とデータ数によっては大数の法則が適用でき、従来の方式より測定精度を高められる余地がある。
【0029】
従来のフーリエ変換型分光装置のように分解能が波長域によらない。
【0030】
(実施の形態2)
以下、
図2を用いて、実施の形態2を説明する。
【0031】
[2-1.液晶素子部の構成]
図2のように液晶素子に任意のバンドパスフィルタを貼り付け、バンドパスフィルタ部毎に液晶の印加電圧を制御する。
【0032】
[2-2.効果等]
吸収スペクトルの推測精度、波長分解能を向上させ、計測波長範囲を拡大させることができる。
【0033】
(実施の形態3)
以下、
図3を用いて、実施の形態3を説明する。
【0034】
[3-1.全体構成]
図3のように液晶素子と受光素子をアレイ型に配置することもできる。
【0035】
[3-2.効果等]
カメラと同様に全体像の一部の吸光スペクトルを測定ができる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本開示による分光装置は、様々な環境で使用できる。