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特開2023-159916高弾性率繊維強化プラスチックの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159916
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】高弾性率繊維強化プラスチックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/06 20060101AFI20231026BHJP
   B29C 70/06 20060101ALI20231026BHJP
   B29C 70/28 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C08J5/06 CEZ
B29C70/06
B29C70/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069842
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】郷田 隼
(72)【発明者】
【氏名】岸本 武久
【テーマコード(参考)】
4F072
4F205
【Fターム(参考)】
4F072AA02
4F072AA04
4F072AA07
4F072AB10
4F072AB28
4F072AB31
4F072AC04
4F072AD34
4F072AE02
4F072AF17
4F072AF24
4F072AF26
4F072AH04
4F072AH25
4F072AK14
4F072AL01
4F205AA36
4F205AB18A
4F205AD16
4F205AE10
4F205HA19
4F205HA33
4F205HA35
4F205HC17
4F205HF01
4F205HF05
4F205HK04
4F205HK05
(57)【要約】
【課題】 高強度、高弾性率を有する繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂としては、広くエポキシ樹脂が用いられているが、ハイサイクルで成形する様な金型を使用する成形においては、脱型性が悪いため樹脂型等を用いオートクレーブ中で硬化させるバッチ法で成形する、または、他のマトリックス樹脂を用いて強度を確保するために厚みおよび重量を増やす方法で対応する必要があり、成形性に優れ且つ高強度、高弾性率の繊維強化プラスチックは達成できていなかった。
【解決手段】 酸化グラフェンで被覆された強化繊維と、マトリックス樹脂を含む繊維強化プラスチックであって、前記繊維強化プラスチック中の強化繊維とマトリクス樹脂との体積比が、15:85~50:50であり、かつ前記マトリックス樹脂は、ラジカル硬化型樹脂を30~100質量%含むことを特徴とする繊維強化プラスチックである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化グラフェンで被覆された強化繊維と、マトリックス樹脂を含む繊維強化プラスチックであって、
前記繊維強化プラスチック中の強化繊維とマトリクス樹脂との体積比が、15:85~50:50であり、
かつ前記マトリックス樹脂は、ラジカル硬化型樹脂を30~100質量%含むことを特徴とする繊維強化プラスチック。
【請求項2】
前記強化繊維がPAN系或いはピッチ系の炭素繊維であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック。
【請求項3】
前記ラジカル硬化型樹脂がビニルエステル樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の繊維強化プラスチック。
【請求項4】
前記ラジカル硬化型樹脂がビニルエステル樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の繊維強化プラスチック。
【請求項5】
請求項1~4に記載の繊維強化プラスチックを成形する方法であって、金型を使用することを特徴とする繊維強化プラスチックの成型方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェンで被覆された強化繊維と、マトリックス樹脂の一部にラジカル硬化型樹脂を用いた繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化プラスチックは高強度な材料として構造材料として広く利用されている。中でも炭素繊維強化プラスチック高強度と高弾性率を示す。高強度、高弾性率を必要とする成形品にはマトリックス樹脂として、エポキシ樹脂が広く利用されている。しかしながら、エポキシ樹脂は硬化収縮が小さい為、金型を使用したプレス成形や引抜成形等の連続成形を行うと離型が困難であったり、金型に詰まったりし成形が困難であった。そのため、オートクレーブを使用した成形方法で一般的に成形されるが、成形1サイクルの時間が非常に長く非効率的であった。一方、ビニルエステル樹脂等のラジカル硬化型樹脂は成形性に優れるが、強度の面ではエポキシ樹脂に劣っていた。
また、炭素繊維に酸化グラフェンを被覆させることでエポキシ樹脂を用いた炭素繊維強化プラスチックの更なる強度向上を志向した先行例はあるが、成形性の面では議論されていなかった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-169424
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまで、成形性に優れるが、強度面で問題のあったラジカル硬化型樹脂と強化繊維を組み合わせることで成形性に優れ且つ高強度、高弾性率の繊維強化プラスチックは達成できていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成する為に種々検討を行ない、本発明に想到した。
すなわち、酸化グラフェンで被覆された強化繊維と、マトリックス樹脂を含む繊維強化プラスチックであって、前記繊維強化プラスチック中の強化繊維とマトリクス樹脂の体積比が、15:85~50:50であり、かつ前記マトリックス樹脂は、ラジカル硬化型樹脂を30~100質量%含むことを特徴とする繊維強化プラスチックである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の酸化グラフェンで被覆された強化繊維と、マトリックス樹脂を含む繊維強化プラスチックを用いることにより、成形性に優れ且つ高強度・高弾性率の繊維強化プラスチックの利用が容易となる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、以下において記載する本発明の個々の好ましい形態を2つ以上組み合わせたものもまた、本発明の好ましい形態である。
【0008】
[酸化グラフェンおよび酸化グラフェン分散液]
本発明に用いられる酸化グラフェンは黒鉛を酸化し、剥離することで得られる。酸化グラフェンの製造方法は特には限定されないが、例えば黒鉛を硫酸中、酸化剤を用いることで酸化し、精製後に剥離した酸化グラフェンが好ましい。
【0009】
本発明の酸化グラフェンは10層以下であることが好ましい。層数は電子顕微鏡等で分析することができる。より効果的に付着させる観点からは酸化グラフェンの層数は1~10層が好ましく、1~7層がより好ましく、1~5層がさらに好ましく、1~3層が最も好ましい。また、繊維への付着能や、分散性の観点から酸化グラフェン中の炭素酸素元素比(O/C)は0.1~2の範囲が好ましく、0.2~1.5がより好ましく、0.3~1.2が最も好ましい。これらO/Cを適宜調整することで、後述するが、組み合わせる樹脂や添加剤との混合性を調製することが可能である。O/Cは酸化グラフェン合成時の酸化剤量を増やしたり、酸化条件をより強くしたりすることで大きくすることができ、また、酸化グラフェンを還元することで小さくすることが可能である。
【0010】
本発明に用いられる酸化グラフェンは分散液の形態が好ましい。分散液とすることで、酸化グラフェン同士の(凝集)を抑制し、強化繊維表面に効果的に酸化グラフェンを作用させることが可能である。好ましい分散媒としては、特に限定されないが、例えば水、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル溶媒、クロロホルム等のハロゲン系溶媒が挙げられる。この中でも水、アルコール溶媒が好ましく、水が最も好ましい。分散液の濃度は0.0001~10%が好ましく、生産性と性能の観点からは0.0001~5%がより好ましく、0.001~3%がさらに好ましく、0.01~2%が最も好ましい。上記範囲であれば、強化繊維に対して酸化グラフェンを良好に付着させることが可能となる。また、分散液は分散性を向上するために、分散処理したものが好ましい。分散処理としては、ホモジナイザー等のせん断処理や、超音波処理が挙げられる。
【0011】
[強化繊維]
本発明で用いられる強化繊維は、特に限定されず、ポリアクリロニトリル系(以下、PAN系)炭素繊維・ピッチ系炭素繊維・ガラス繊維・バサルト繊維・ボロン繊維・芳香族ポリアミド繊維等を上げることができる。酸化グラフェンとの相互作用の高さから、PAN系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維が好適に用いることができる。
【0012】
[酸化グラフェンで被覆した強化繊維]
本発明の酸化グラフェンで被覆した強化繊維は、強化繊維の表面に酸化グラフェンが付着したものである。酸化グラフェンは薄い厚みと大きな面を有し、面同士の相互作用で高い密着性を発現する。特に、強化繊維として炭素繊維を用いた場合、酸化グラフェンはともに炭素材料であることから、特に相互作用が強い。樹脂への混合性向上の観点からは、強化繊維に対する酸化グラフェンの最低必要量は用いる強化繊維の直径および密度に依存する。例えば、炭素繊維を例とした場合、直径が7μm、密度1.78とすると炭素繊維1kgあたりの表面積は320mとなり、これを覆うのに必要な酸化グラフェン(理論面積1315m/g)は約0.25g(0.25ppm)となる。強化繊維と酸化グラフェンの複合量比はこれ以上であればよいが、ハンドリングや、付着率を考慮して1ppm以上が好ましい。また強化繊維自身の効果を薄めない観点からは1%以下の付着量比であることが好ましい。
【0013】
[酸化グラフェンで被覆した強化繊維の製造方法]
本発明の酸化グラフェンで被覆した強化繊維の製造方法は特に限定されないが、酸化グラフェン分散液と強化繊維を接触させる工程を含むことが好ましい。接触時の分散媒は、特に限定されないが、例えば水、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン溶媒、ジエチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル等のエーテル溶媒、クロロホルム等のハロゲン系溶媒が挙げられる。この中でも水、アルコール溶媒が好ましく、水が最も好ましい。
【0014】
酸化グラフェン分散液と強化繊維との接触方法は、特に限定されないが、酸化グラフェンを効率的に使用する観点からは酸化グラフェン分散液に強化繊維に投入する方法、強化繊維に酸化グラフェン分散液を噴霧する方法が好ましい。例えば、酸化グラフェン分散液が流れている流路に強化繊維を逐次含侵する方法、強化繊維が繊維方向に移送されている(例えば繊維の巻取り工程など)プロセスにおいて、酸化グラフェン分散液を噴霧して強化繊維に付着させる方法等が挙げられる。
【0015】
酸化グラフェン分散液と強化繊維を接触させる工程の温度は特に限定されないが、酸化グラフェンが効果的に付着される観点からは0~90℃の範囲が好ましい。この範囲を外れると酸化グラフェンの付着能が下がる。より好ましくは10~80℃であり、さらに好ましくは20~70℃である。
【0016】
酸化グラフェン分散液と強化繊維を接触させる工程では、第3の成分が含まれていてよい。例えば酸化グラフェンの付着能をより高める添加剤や、酸化グラフェンを還元する還元剤等である。これらの添加剤は酸化グラフェン分散液に含まれていても良いし、接触工程で同時、あるいはあとで追加することも可能である。付着能を高める添加剤としては、アミン、アンモニウムが好ましい。この中でも低分子化合物のアルキルアミン(例えばラウリルアミン)やアルキルアンモニウム(例えば塩化ベンザルコニウム)、高分子化合物のポリアミン類(例えばポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等)、ポリアンモニウム類(ポリジメチルアリルアミン塩酸塩等)が好ましい。
還元剤としては、ヒドラジン、ヨウ化水素、L-アスコルビン酸等が好ましい。
【0017】
酸化グラフェン分散液と強化繊維を接触させる工程のあとに、余分な酸化グラフェンや添加剤を除去する精製工程を含むことも好ましい。強化繊維として炭素繊維を用いた場合、酸化グラフェンは炭素繊維との相互作用が強いことから、条件によっては過剰に付着されることから、この余分な酸化グラフェンを除去することが好ましい。精製工程は溶媒による洗浄が好ましく、溶媒は前述した分散媒が好ましく、中でも水が好ましい。
【0018】
該製造方法には乾燥工程、還元工程を含んでいても良い。乾燥工程は常温または加熱下での乾燥が好ましく、雰囲気は不活性雰囲気、大気、真空でもよい。還元工程は加熱による還元や、還元剤による還元が適当である。加熱による還元は好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上である。酸化グラフェンの分解を防ぐ観点からは、700℃以下が好ましい。雰囲気は不活性雰囲気、大気、真空でもよい。還元剤を用いる場合は前述の通り、混合工程で添加した還元剤を使用しても良いし、別途還元剤を酸化グラフェンで被覆した強化繊維に適用しても良い。
【0019】
[繊維強化プラスチックおよびその成形方法]
本発明の繊維強化プラスチックは、酸化グラフェンで被覆された強化繊維と、マトリックス樹脂を含む繊維強化プラスチックであって、前記繊維強化プラスチック中の強化繊維とマトリクス樹脂との体積比が、15:85~50:50であり、かつ前記マトリックス樹脂は、ラジカル硬化型樹脂を30~100質量%含むことを特徴とする繊維強化プラスチックである。
【0020】
本発明の繊維強化プラスチックにおける強化繊維とマトリクス樹脂の体積比は、15:85~50:50であり、より好ましくは20:80~50:50であり、さらに好ましくは30:70~50:50である。上記範囲とすることで、成形性と強度のバランスをとることができる。
【0021】
本発明の繊維強化プラスチックの成型方法としては、特に限定されないが、型に繊維骨材を敷き、硬化剤を混合した樹脂を脱泡しながら多重積層してゆくハンドレイアップ法やスプレーアップ法のほか、あらかじめ骨材と樹脂を混合したシート状のものを金型で圧縮成型するSMCプレス法、インジェクション成形の様に繊維を敷き詰めた合わせ型に樹脂を注入するRTM法、オートクレーブで熱硬化性樹脂を硬化させて成形する方法が挙げられる。
【0022】
繊維強化プラスチックの成形に際して、特に限定はないが適宜必要量の硬化剤、促進剤、助促進剤、鎖移動剤等を用いてもよい。
【0023】
[マトリクス樹脂]
本発明の繊維強化プラスチックのマトリクス樹脂は、ラジカル硬化型樹脂を30~100質量%含む。好ましくは50質量%以上であり、より好ましくは70質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上である。
【0024】
本発明の繊維強化プラスチックのマトリックス樹脂として用いられるラジカル硬化型樹脂としては、熱硬化性アクリル樹脂・不飽和ポリエステル樹脂・アリル樹脂(ジアリルフタレート樹脂)・エポキシアクリレート樹脂(ビニルエステル樹脂)・ウレタンアクリレート樹脂を用いることができる。これらの樹脂は単独で用いても複数混合してもよい。これらの中でも高強度・高弾性の観点からビニルエステル樹脂が好ましく、ビスフェノール型のビニルエステル樹脂がさらに好ましい。
【0025】
本発明のマトリクス樹脂は、ラジカル硬化型樹脂以外のその他の樹脂成分を含んでいてもよい。その他の樹脂成分は、ラジカル硬化型樹脂と相溶することが好ましい。これらの樹脂としては特に限定されないが、エポキシ樹脂・ウレタン樹脂・アルキッド樹脂・ユリア樹脂・メラミン樹脂などの熱硬化性樹脂を使用することができる。中でも高強度・高弾性の観点からエポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0026】
その他の樹脂成分の含有量は、マトリクス樹脂の0~70質量%であることが好ましく、0~50質量%がより好ましく、0~30質量%であることがさらに好ましい。マトリクス樹脂中のラジカル硬化型樹脂が30質量%未満である場合は、成形が困難となるため好ましくない。
【0027】
マトリックス樹脂には本発明の主旨に反しない限りで各種添加剤を用いても良い。添加剤としては、紫外線吸収剤、帯電防止剤、離型剤、増量剤、着色剤、難燃剤、滑剤、可塑剤等を上げることができる。
【実施例0028】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味するものとする。
【0029】
[ラマンスペクトル測定]
ラマン分光分析は以下の装置、条件により行った。
測定装置:顕微ラマン(日本分光NRS-3100)
測定条件:532nmレーザー使用、対物レンズ20倍、CCD取り込み時間1秒、積算
32回(分解能=4cm-1
測定内容:酸化グラフェンに特徴的なG、Dバンドの有無により存在を確認する。
【0030】
[X線光電子分光(XPS)]
以下の条件で分析し、酸素、炭素含有量を確認した。
島津クレイトス社製 AXIS-NOVAX線線源・出力 AlKα―100Wパスエネルギー40eV中和銃ON
【0031】
[マイクロドロップレット試験]
炭素繊維に樹脂ドロップレットを成形後、東栄産業製・複合材界面特性評価装置HM410を用いて、引き抜き速度0.12mm/mの速度で5回実施し、界面せん断強度を分析した。最小最大の値は排除し、中間3値の平均をその試験での結果とした。
【0032】
[動的粘弾性(DMA)評価]
厚さ3mm、幅5mm、長さ50mmとなるように成形品を切り出し、動的粘弾性(DMA)測定装置『RSA-G2』で30℃での弾性率を評価した。
【0033】
[弾性率(ヤング率)評価]
厚さ3mm、幅10mm、長さ80mmとなるように成形品を切り出し、インストロン社製万能試験機を用いて、曲げ幅40mm、曲げ速度1.5mm/mでの3点曲げにより弾性率を評価した。
【0034】
[酸化グラフェンの調製例]
酸化グラフェン分散液を以下の工程で合成した。反応容器にあらかじめ黒鉛(伊藤黒鉛株式会社製Z-25)15g、硫酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)640gを入れ、30℃に調整しながら過マンガン酸カリウム(富士フイルム和光純薬株式会社製)45gを入れた。投入後、30分、35℃に昇温し2時間反応させた。
【0035】
反応後反応液を水1070ml、30%過酸化水素水(富士フイルム和光純薬株式会社製)42mlを加え反応停止させた。得られた反応液は静置沈降により、上澄みの除去とイオン交換水による再分散を繰り返し精製した。精製後、ホモジナイザーにより剥離操作を行い、酸化グラフェン分散液(1)(0.1%水分散体)を調製した。得られた酸化グラフェンは電子顕微鏡観察により単層であるとわかった。XPS分析より求められたO/Cは0.55であった。
【0036】
[酸化グラフェンで被覆された炭素繊維の調製例]
酸化グラフェン分散液(1)に炭素繊維(そのままおよび、大気下350℃で表面の不純物を除去したもの、CF-PおよびCF-Hと呼ぶ)、炭素繊維クロスおよび炭素繊維ペーパー(いずれも日精株式会社製)を1分間含侵させたのち、水洗し余分な酸化グラフェンを除去した。40℃で送風乾燥させることで、酸化グラフェンで被覆された炭素繊維、酸化グラフェンで被覆された炭素繊維クロスおよび酸化グラフェンで被覆された炭素繊維ペーパーを得た。
【0037】
[実施例1、実施例2]ビニルエステル樹脂でのマイクロドロップレット試験
ビニルエステル樹脂(RF-701、昭和電工株式会社製)を100質量部、促進剤として8%オクテン酸コバルトを0.3質量部、硬化剤として328EM(化薬アクゾ株式会社製)を2質量部用いて、樹脂と促進剤を5分間混合し、そこへ硬化剤を添加し3分間混合後に、酸化グラフェンで被覆した炭素繊維(CF-P(実施例1)およびCF-H(実施例2))に塗布し30分間室温で放置後、送風オーブンで60℃4時間硬化させてドロップレットを作製した。
【0038】
[比較例1、比較例2]
酸化グラフェンで被覆していない炭素繊維(CF-PおよびCF-H)を用いた以外は実施例1,2と同様にドロップレットを作製した。
【0039】
実施例1,2、比較例1,2のマイクロドロップレット試験結果を表1に示した。結果、酸化グラフェンで被覆したことで、ビニルエステルで課題であった強度を向上させることができた。このことからより成形性に優れ且つ高強度・高弾性率の炭素繊維強化プラスチックを提供できた。
【0040】
【表1】
【0041】
[実施例3、実施例4]
酸化グラフェンで被覆した炭素繊維クロス(実施例3)、酸化グラフェンで被覆した炭素繊維ペーパー(実施例4)をそれぞれ10枚重ねにし、ビニルエステル樹脂(RF-701、昭和電工株式会社製)を100質量部、促進剤として8%オクテン酸コバルトを0.3質量部、硬化剤としてパークミルH-80(日油株式会社製)を2質量部用いて、金型温度80℃で60分間プレスしたのち、120℃15時間アフターキュアし繊維強化プラスチックを得た。
【0042】
[比較例3、比較例4]
酸化グラフェンで被覆していない炭素繊維(CF-PおよびCF-H)を用いた以外は実施例3,4と同様に繊維強化プラスチックを作製した。
【0043】
[比較例5,6]
酸化グラフェンで被覆した炭素繊維クロス(参考例1)、酸化グラフェンで被覆した炭素繊維ペーパー(参考例2)をそれぞれ10枚重ねにし、熱硬化性樹脂としてエポキシ樹脂(828EL、三菱ケミカル株式会社製)を100質量部、硬化剤としてキュアゾール1B2MZ(四国化成工業株式会社製)を5質量部用いて、金型温度110℃で60分間プレスしたのち、120℃15時間アフターキュアし繊維強化プラスチックを得た。
【0044】
実施例3,4、比較例3,4、5,6のDMA、インストロン評価結果を表2に示した。結果、酸化グラフェンで被覆したことで、ビニルエステルで課題であった強度を向上させることができた。また、酸化グラフェンで被覆した炭素繊維とビニルエステル樹脂を組み合わせることで、従来の熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂と比べて同等以上の強度を発現することが分かった。このことから、酸化グラフェンで被覆した炭素繊維とビニルエステル樹脂を組み合わせることで、より成形性に優れ且つ高強度・高弾性率の炭素繊維強化プラスチックを提供できた。
【0045】
【表2】