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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159960
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】筒形マウント
(51)【国際特許分類】
   F16F 15/08 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
F16F15/08 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069910
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】阿部 淳司
(72)【発明者】
【氏名】松岡 努
【テーマコード(参考)】
3J048
【Fターム(参考)】
3J048AA01
3J048AD05
3J048BA02
3J048DA01
3J048EA01
3J048EA36
(57)【要約】
【課題】インナ部材とアウタ筒部材の軸方向離隔側への大きな荷重入力に対する耐久性の向上が図られると共に、軸方向接近側への荷重入力に対する特性のチューニング自由度の更なる向上が図られる、新規な構造の筒形マウントを提供する。
【解決手段】インナ部材12とアウタ筒部材14が筒状の本体ゴム弾性体16によって連結された筒形マウント10において、インナ部材12は、本体ゴム弾性体16に向けて開口するカップ部材44を備えており、本体ゴム弾性体16の軸方向一方の端部がカップ部材44に挿し入れられて取り付けられて、カップ部材44の底壁46が本体ゴム弾性体16の軸方向一方の端面に非接着で重ね合わされており、カップ部材44の周壁48が開口側へ向けて拡開しており、周壁48が少なくとも開口部分において本体ゴム弾性体16に対して外周へ離れた状態で隙間58を持って外挿された変形規制部56とされている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ部材とアウタ筒部材が筒状の本体ゴム弾性体によって連結された筒形マウントにおいて、
前記インナ部材は、前記本体ゴム弾性体に向けて開口するカップ部材を備えており、
該本体ゴム弾性体の軸方向一方の端部が該カップ部材に挿し入れられて取り付けられて、該カップ部材の底壁が該本体ゴム弾性体の軸方向一方の端面に非接着で重ね合わされており、
該カップ部材の周壁が開口側へ向けて拡開しており、該周壁が少なくとも開口部分において該本体ゴム弾性体に対して外周へ離れた状態で隙間を持って外挿された変形規制部とされている筒形マウント。
【請求項2】
前記カップ部材の前記周壁が途中に段差を有する段付き筒状とされて、
該周壁の該段差よりも開口側が前記変形規制部とされており、
該周壁の該段差よりも底側が該変形規制部よりも前記本体ゴム弾性体の外周面に接近した近接部とされている請求項1に記載の筒形マウント。
【請求項3】
前記カップ部材の前記変形規制部は、底側から開口側に向けて大径となるテーパー形状とされている請求項1又は2に記載の筒形マウント。
【請求項4】
前記カップ部材の開口端部には、外周へ突出するフランジ状のストッパ部が設けられており、該ストッパ部が前記アウタ筒部材に設けられた取付板部に対して軸方向で対向して配されている請求項1又は2に記載の筒形マウント。
【請求項5】
前記本体ゴム弾性体には前記カップ部材の前記底壁が重ね合わされる前記軸方向一方の端面に開口する凹溝が形成されており、該凹溝の端部が該本体ゴム弾性体の外周面に開口している請求項1又は2に記載の筒形マウント。
【請求項6】
前記周壁の底側端部が前記本体ゴム弾性体の外周面に重ね合わされる装着部とされており、
該本体ゴム弾性体の外周面に開口する前記凹溝の端部の溝深さ寸法が、該装着部の軸方向高さ寸法よりも大きくされている請求項5に記載の筒形マウント。
【請求項7】
前記本体ゴム弾性体の内周面には軸部材が固着されており、前記カップ部材が該軸部材に固定されることによって前記インナ部材が構成されている請求項1又は2に記載の筒形マウント。
【請求項8】
前記カップ部材が前記軸部材に固定されることによって、前記本体ゴム弾性体が該カップ部材と前記アウタ筒部材との間で予圧縮されている請求項7に記載の筒形マウント。
【請求項9】
前記本体ゴム弾性体には前記カップ部材の前記底壁が重ね合わされる前記軸方向一方の端面に開口する凹溝が形成されており、
該凹溝は、前記軸部材の周囲を環状に延びる環状溝部と、該環状溝部から外周へ向けて延びて該本体ゴム弾性体の外周面に開口する外周溝部とを、含んで構成されている請求項7に記載の筒形マウント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のキャブマウントやパワーユニットマウント等に適用される筒形マウントに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インナ部材とアウタ筒部材が筒状の本体ゴム弾性体によって連結された筒形マウントが知られている。例えば、特開2018-071768号公報(特許文献1)は、インナ部材を構成する板状の第一の取付部材が筒形の本体ゴム弾性体の軸方向一方の端面に固着されており、本体ゴム弾性体の外周面に第二の取付部材(アウタ筒部材)が固着された構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-071768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1の構造では、第一の取付部材が第二の取付部材から離隔する軸方向に大きな荷重が入力されると、本体ゴム弾性体に引張応力が生じることがある。それ故、例えば第一の取付部材と第二の取付部材との離隔方向への大きな荷重入力が想定されるような場合等では、更なる耐久性の向上を図ることが好ましい。
【0005】
また、第一の取付部材と第二の取付部材の間に軸方向で相互に接近する方向の荷重が入力される場合についても、例えば入力荷重が比較的に小さい初期段階における低ばね特性による良好な防振性能と、大荷重入力時の高動ばね化による本体ゴム弾性体の圧縮量の制限作用(ストッパ作用を含む)とを、要求される場合がある。それ故、第一の取付部材と第二の取付部材との接近方向への荷重入力についても、入力荷重に応じた特性のチューニング自由度の更なる向上を図ることが好ましい。
【0006】
本発明の解決課題は、インナ部材とアウタ筒部材の軸方向離隔側への大きな荷重入力に対する耐久性の向上が図られると共に、軸方向接近側への荷重入力に対する特性のチューニング自由度の更なる向上が図られる、新規な構造の筒形マウントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、インナ部材とアウタ筒部材が筒状の本体ゴム弾性体によって連結された筒形マウントにおいて、前記インナ部材は、前記本体ゴム弾性体に向けて開口するカップ部材を備えており、該本体ゴム弾性体の軸方向一方の端部が該カップ部材に挿し入れられて取り付けられて、該カップ部材の底壁が該本体ゴム弾性体の軸方向一方の端面に非接着で重ね合わされており、該カップ部材の周壁が開口側へ向けて拡開しており、該周壁が少なくとも開口部分において該本体ゴム弾性体に対して外周へ離れた状態で隙間を持って外挿された変形規制部とされているものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた筒形マウントによれば、カップ部材の底壁が本体ゴム弾性体に対して非接着とされていることで、インナ部材とアウタ筒部材が相互に離隔する側の軸方向入力(引張入力)に対して、本体ゴム弾性体の耐久性の向上が図られる。
【0010】
カップ部材の周壁が拡開形状とされていることで、周壁の底側では本体ゴム弾性体との隙間が小さく、本体ゴム弾性体の変形が周壁の底側で拘束されて、適当な初期ばねを確保することができる。また、周壁の開口側では、本体ゴム弾性体の変形をある程度までは許容して初期の低ばね特性を得ながら、変形規制部の当接によって本体ゴム弾性体の変形量が制限されることから、2段階のばね特性(入力初期の低ばねと入力後期の高ばね)を実現したり、ストッパ作用による本体ゴム弾性体の耐久性の向上を図ることができる。
【0011】
第二の態様は、第一の態様に記載された筒形マウントにおいて、前記カップ部材の前記周壁が途中に段差を有する段付き筒状とされて、該周壁の該段差よりも開口側が前記変形規制部とされており、該周壁の該段差よりも底側が該変形規制部よりも前記本体ゴム弾性体の外周面に接近した近接部とされているものである。
【0012】
本態様に従う構造とされた筒形マウントによれば、段付き筒状とされたカップ部材の周壁によって、近接部で初期のばねをチューニングしながら、変形規制部で本体ゴム弾性体の変形量を制限することができる。また、カップ部材の周壁に設けられた段差の大きさによって、上記のようなばねのチューニングを容易に且つ精度よく行うことができる。
【0013】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された筒形マウントにおいて、前記カップ部材の前記変形規制部は、底側から開口側に向けて大径となるテーパー形状とされているものである。
【0014】
本態様に従う構造とされた筒形マウントによれば、カップ部材の周壁の変形規制部がテーパー形状とされていることによって、カップ部材の本体ゴム弾性体への装着が容易になる。また、変形規制部のテーパー角度によって、変形規制部と本体ゴム弾性体の外周面との離隔距離を調節することもできる。
【0015】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された筒形マウントにおいて、前記カップ部材の開口端部には、外周へ突出するフランジ状のストッパ部が設けられており、該ストッパ部が前記アウタ筒部材に設けられた取付板部に対して軸方向で対向して配されているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされた筒形マウントによれば、変形規制部によるストッパ作用に加えて、ストッパ部と取付板部との当接によるストッパ作用も発揮されることから、多段階のストッパ作用(ばね特性)を得ることができる。
【0017】
第五の態様は、第一~第四の何れか1つの態様に記載された筒形マウントにおいて、前記本体ゴム弾性体には前記カップ部材の前記底壁が重ね合わされる前記軸方向一方の端面に開口する凹溝が形成されており、該凹溝の端部が該本体ゴム弾性体の外周面に開口しているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされた筒形マウントによれば、カップ部材と本体ゴム弾性体が軸方向の入力によって相互に離れる或いは離れた状態から当接する際に、異音が発生するのを防ぐことができる。
【0019】
第六の態様は、第五の態様に記載された筒形マウントにおいて、前記周壁の底側端部が前記本体ゴム弾性体の外周面に重ね合わされる装着部とされており、該本体ゴム弾性体の外周面に開口する前記凹溝の端部の溝深さ寸法が、該装着部の軸方向高さ寸法よりも大きくされているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた筒形マウントによれば、凹溝の外周開口が装着部によって塞がれてしまうのを防いで、異音の防止効果を安定して得ることができる。
【0021】
第七の態様は、第一~第六の何れか1つの態様に記載された筒形マウントにおいて、前記本体ゴム弾性体の内周面には軸部材が固着されており、前記カップ部材が該軸部材に固定されることによって前記インナ部材が構成されているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた筒形マウントによれば、本体ゴム弾性体に固着された軸部材に対してカップ部材を固定することにより、カップ部材を本体ゴム弾性体に対して非接着で取り付けても、例えば輸送時や保管時にカップ部材が本体ゴム弾性体から外れたり、位置がずれたりするのを防ぐことができる。
【0023】
第八の態様は、第七の態様に記載された筒形マウントにおいて、前記カップ部材が前記軸部材に固定されることによって、前記本体ゴム弾性体が該カップ部材と前記アウタ筒部材との間で予圧縮されているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた筒形マウントによれば、カップ部材を軸部材に固定することで、非接着で本体ゴム弾性体に取り付けられるカップ部材によって、本体ゴム弾性体を予圧縮することができる。また、本体ゴム弾性体が予圧縮されていることによって、例えば、引張入力時に本体ゴム弾性体とカップ金具の底壁との離隔が生じ難く、異音の発生が防止される。
【0025】
第九の態様は、第七又は第八の態様に記載された筒形マウントにおいて、前記本体ゴム弾性体には前記カップ部材の前記底壁が重ね合わされる前記軸方向一方の端面に開口する凹溝が形成されており、該凹溝は、前記軸部材の周囲を環状に延びる環状溝部と、該環状溝部から外周へ向けて延びて該本体ゴム弾性体の外周面に開口する外周溝部とを、含んで構成されているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされた筒形マウントによれば、環状溝部と外周溝部を有する凹溝によって、異音の発生をより効果的に防ぐことができる。また、軸部材に本体ゴム弾性体を加硫接着する場合に、環状溝部内で本体ゴム弾性体の成形用金型を軸部材に重ね合わせることによって、軸部材に対する本体ゴム弾性体の固着範囲を金型によって規定することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、筒形マウントにおいて、インナ部材とアウタ筒部材の軸方向離隔側への大きな荷重入力に対する耐久性の向上が図られると共に、軸方向接近側への荷重入力に対する特性のチューニング自由度の更なる向上が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第一の実施形態としてのキャブマウントを示す断面図であって、図2のI-I断面に相当する図
図2図1に示すキャブマウントの平面図
図3図1に示すキャブマウントの分解斜視図
図4図1に示すキャブマウントに軸方向の圧縮荷重が入力された状態を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0030】
図1図2には、本発明に従う構造とされた筒形マウントの第一実施形態として、自動車用のキャブマウント10が示されている。キャブマウント10は、インナ部材12とアウタ筒部材14との間に本体ゴム弾性体16が配された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とはマウント軸方向である図1中の上下方向を言う。
【0031】
インナ部材12は、軸部材18を備えている。軸部材18は、小径の略円筒形状とされており、上下方向に直線的に延びている。軸部材18は、例えば、鉄やアルミニウム合金といった金属、繊維補強された合成樹脂などによって形成されている。
【0032】
軸部材18の外周を囲むようにアウタ筒部材14が配されている。アウタ筒部材14は、略円筒形状の筒状部20と、筒状部20の上端から外周へ向けて突出する取付板部22とを、一体的に備えている。筒状部20は、軸部材18の外径寸法よりも大きな内径寸法を有する略円筒形状とされており、下端部には内周へ向けて突出する内フランジ状部24が一体形成されている。取付板部22は、本実施形態において、略円板形状とされており、全周に亘って略一定の構造とされているが、例えば、植設ボルトやボルト穴といった車両ボデー側への取付構造を周方向の複数箇所に備えていてもよい。このような取付構造を備える場合には、当該取付構造が設けられた部分において取付板部22が周方向部分的に外周へ大きく突出し得る。要するに、本実施形態の取付板部22は、あくまでも例示であって、車両ボデーへの取付構造等に応じて適宜に変更され得る。なお、アウタ筒部材14は、例えば、筒状部20と取付板部22とが一体形成されたプレス金具として得ることができる。
【0033】
軸部材18がアウタ筒部材14に挿通されており、それら軸部材18とアウタ筒部材14の間に本体ゴム弾性体16が配されている。本体ゴム弾性体16は、全体として円筒状とされており、内周面が軸部材18に加硫接着されていると共に、下部26の外周面がアウタ筒部材14の筒状部20に加硫接着されている。図3に示すように、本体ゴム弾性体16は、軸部材18とアウタ筒部材14とを備えた一体加硫成形品28とされている。
【0034】
アウタ筒部材14の筒状部20よりも上側に位置する本体ゴム弾性体16の上部30は、筒状部20よりも大径の円筒状とされている。上部30の外周面は、下方に向けて大径となる傾斜外周面32とされている。本実施形態の傾斜外周面32は略一定の傾斜角度で直線的に傾斜しているが、傾斜外周面32の傾斜角度は上下方向で徐々に或いは段階的に変化していてもよい。上部30の下端には、外周へ突出する円環板状の緩衝ゴム34が設けられており、緩衝ゴム34において取付板部22の上面に固着されることで、アウタ筒部材14への固着面積が大きく確保されている。
【0035】
本体ゴム弾性体16の上端部には、図1図3に示すように、上面に開口する凹溝36が設けられている。凹溝36は、本体ゴム弾性体16の外周面に開口している。凹溝36は、本体ゴム弾性体16の内周端部を周方向に延びる環状溝部38と、環状溝部38の周方向の4箇所から外周へ向けて放射状に延びる4つの外周溝部40,40,40,40とによって構成されている。
【0036】
環状溝部38は、本体ゴム弾性体16の内周に配された軸部材18の周囲を周方向に延びている。本体ゴム弾性体16に環状溝部38が設けられていることによって、軸部材18の上端部が本体ゴム弾性体16から露出している。
【0037】
外周溝部40は、本体ゴム弾性体16の径方向に直線的に延びており、内周側が環状溝部38に連通されていると共に、外周端が本体ゴム弾性体16の外周面に開口している。外周溝部40は、内周部分の深さ寸法が環状溝部38と略同じとされていると共に、外周端部において深さ寸法が大きくされている。本実施形態では、キャブマウント10が車両へ装着される前のマウント単体状態において、外周溝部40の外周端部の深さ寸法が、底壁46と段差52との軸方向距離よりも大きくされており、外周溝部40の外周端部の溝底が、周壁48の段差52よりも軸方向下方(周壁48の開口側)に位置している。好適には、支持荷重が入力されるキャブマウント10の車両への装着状態においても、外周溝部40の外周端部の溝底が段差52よりも軸方向下方に位置している。外周溝部40の溝幅寸法は、環状溝部38の溝幅寸法よりも小さくされている。
【0038】
図3に示すように、本体ゴム弾性体16の上端部は、環状溝部38の外周側に位置して、4つの外周溝部40,40,40,40で周方向に分けられた4つの上端突部42,42,42,42を備えている。
【0039】
図1図3に示すように、本体ゴム弾性体16の軸方向一方の端部である上端部は、インナ部材12を構成するカップ部材44に挿し入れられている。カップ部材44は、本体ゴム弾性体16に向けて下向きに開口する凹状断面の回転体とされており、円環板状の底壁46と、底壁46の外周端から下方へ突出する筒状の周壁48とを、一体で備えている。なお、カップ部材44は、例えば、金属素板をプレス加工することによって得ることができる。
【0040】
カップ部材44の底壁46は、内周縁部から下方へ向けて突出する連結筒部50を備えている。連結筒部50は、外径寸法が軸部材18の内径寸法に対して僅かに大きくされており、図2に示すように、軸部材18の上開口部に嵌め入れられることで軸部材18に固定されている。これにより、カップ部材44が軸部材18に固定されて、それら軸部材18とカップ部材44とによってインナ部材12が構成されている。また、軸部材18にカップ部材44が固定されることによって、カップ部材44の底壁46が本体ゴム弾性体16の上面に非接着で押し当てられて、本体ゴム弾性体16がアウタ筒部材14とカップ部材44との間で軸方向に予圧縮されている。本体ゴム弾性体16の予圧縮によって、本体ゴム弾性体16のばね特性がチューニングされている。なお、軸部材18の上開口部の内周縁部と、連結筒部50の突出先端の外周縁部との少なくとも一方には、連結筒部50の軸部材18への嵌入を可能とするための面取りが施されている。
【0041】
カップ部材44の周壁48は、上下方向の途中に段差52を有する段付き筒状とされており、開口側へ向けて大径となる拡開形状とされている。周壁48は、段差52よりも底壁46側が小径の近接部54とされていると共に、段差52よりも開口側が大径の変形規制部56とされている。本実施形態の段差52は、外周へ向けて下方へ傾斜しているが、例えば、略軸直角方向に広がっていてもよい。なお、カップ部材44における深さ方向での段差52の位置は要求特性に応じて調節可能であるが、本実施形態では、カップ部材44の深さ方向で段差52が中央より底壁46側に設けられており、隙間58の容積が大きく確保されることで、本体ゴム弾性体16における上部30の過度の変形抑制の回避と軸方向での非線形な圧縮変形領域の確保が図られている。
【0042】
近接部54は、周壁48における底壁46側の端部を構成している。近接部54は、内径寸法が本体ゴム弾性体16の上端部の外径寸法と略同じとされており、本体ゴム弾性体16の上端部を構成する上端突部42,42,42,42が近接部54に挿し入れられている。本実施形態では、近接部54が本体ゴム弾性体16の上部30の外周面と対応するテーパー形状とされており、上端突部42,42,42,42の外周面が近接部54の内周面に対して略0タッチで重ね合わされており、近接部54が本実施形態の装着部とされている。尤も、上端突部42,42,42,42の外周面は、近接部54の内周面に対して、押し当てられて密着していてもよいし、隙間を有して離隔していてもよい。外周溝部40の外周端部での溝深さ寸法が、近接部54の軸方向高さ寸法よりも大きくされており、カップ部材44が本体ゴム弾性体16に装着された状態において、本体ゴム弾性体16の外周面における外周溝部40の開口が、近接部54よりも下方で変形規制部56の内周に開口している。
【0043】
変形規制部56は、周壁48における開口側の端部を構成している。変形規制部56は、内径寸法が本体ゴム弾性体16の上部30の外径寸法よりも大きくされており、本体ゴム弾性体16の上部30に対して外周側に離れて外挿状態で配されて、本体ゴム弾性体16との間に隙間58が形成されている。近接部54は、変形規制部56よりも本体ゴム弾性体16の上部30の外周面に接近して配されている。変形規制部56は、段差52の外周端から一体で下方へ向けて延び出している。変形規制部56は、底壁46側から下方開口側に向けて大径となるテーパー筒形状とされている。カップ部材44の開口端部を構成する変形規制部56の下端には、外周へ突出するフランジ状のストッパ部60が一体形成されている。ストッパ部60は、略軸直角方向に広がっており、アウタ筒部材14の取付板部22に対して上方に対向して配されている。ストッパ部60は、取付板部22に固着された緩衝ゴム34に対して上方に離隔して配されている。
【0044】
一体加硫成形品28にカップ部材44が取り付けられた構造を有するキャブマウント10は、例えば、インナ部材12が、カップ部材44の底壁46の上面に重ね合わされる自動車のキャビン62に対して、インナ部材12に挿通される図示しない取付用ボルトによって取り付けられる。また、アウタ筒部材14は、取付板部22が、図示しない上記した取付構造によって自動車のフレーム64に取り付けられる。これらにより、キャブマウント10が自動車のキャビン62とフレーム64との間に介装されて、キャビン62がフレーム64に対して防振連結される。
【0045】
キャビン62とフレーム64が相互に離隔する方向の荷重(引張荷重)がキャブマウント10に入力されると、キャブマウント10のインナ部材12のカップ部材44とアウタ筒部材14とが軸方向で相互に離隔変位する。カップ部材44は、本体ゴム弾性体16に対して非固着で被せ付けられていることから、本体ゴム弾性体16に対して上方へ相対変位可能とされている。それ故、本体ゴム弾性体16に軸方向の引張荷重が入力されず、本体ゴム弾性体16の耐久性の向上が図られる。
【0046】
本実施形態では、カップ部材44が軸部材18に固定されることで、本体ゴム弾性体16が軸方向に予圧縮されていることから、引張荷重の入力時に、カップ部材44の底壁46が本体ゴム弾性体16の上面から離れ難くなっている。それ故、引張荷重の入力後に圧縮荷重が入力されたとしても、カップ部材44の底壁46は本体ゴム弾性体16の上面に離隔状態から打ち当てられることがなく、打音の発生が防止される。
【0047】
キャビン62とフレーム64が相互に接近する方向の荷重がキャブマウント10に入力されると、キャブマウント10のインナ部材12のカップ部材44とアウタ筒部材14とが軸方向で相互に接近変位する。これにより、本体ゴム弾性体16が軸方向に圧縮されて、本体ゴム弾性体16の内部摩擦等に基づく振動減衰作用などの防振効果が発揮される。
【0048】
圧縮方向の入力荷重が大きい場合には、本体ゴム弾性体16の圧縮変形量がストッパ機構によって制限される。キャブマウント10は、第一ストッパ機構と第二ストッパ機構とを有しており、段階的なストッパ作用が発揮される。
【0049】
第一ストッパ機構は、本体ゴム弾性体16の上部30の外周面とカップ部材44の周壁48の変形規制部56との当接によって構成される。即ち、本体ゴム弾性体16は、軸方向に圧縮されると、ポアソン比に基づく軸直角方向の膨出変形を生じるが、内周面が軸部材18によって拘束されていることから、自由表面とされた上部30の外周面が外周側の隙間58へ膨らむように変形する。隙間58を埋めるように外周へ膨出変形した本体ゴム弾性体16の上部30は、図4に示すように、外周面がカップ部材44の変形規制部56に当接して拘束されることによって、外周側への膨出変形量が制限される。その結果、本体ゴム弾性体16の軸方向の圧縮ばねが硬くなって、本体ゴム弾性体16の軸方向の圧縮変形量を制限するストッパ作用が発揮される。なお、本体ゴム弾性体16の上部30は、外周側への膨出変形量が大きくなるにしたがって、変形規制部56に対する当接面積が大きくなって、本体ゴム弾性体16の軸方向の圧縮ばねが硬くなることから、本体ゴム弾性体16の軸方向の圧縮変形を制限する第一ストッパ機構のストッパ作用がより強く発揮される。
【0050】
カップ部材44の周壁48は、開口側へ向けて拡開する形状とされており、周壁48の開口部分を構成する変形規制部56が本体ゴム弾性体16に対して隙間58を隔てて配されている。それ故、本体ゴム弾性体16の圧縮変形量が小さい変形初期段階では、本体ゴム弾性体16の上部30の外周面が、上端突部42よりも下側においてカップ部材44の周壁48から内周へ離隔した自由表面とされて、本体ゴム弾性体16の低ばね特性による防振効果が発揮される。一方、本体ゴム弾性体16の圧縮変形量が大きくなると、本体ゴム弾性体16の上部30の外周面が、上端突部42より下側においてもカップ部材44の周壁48に当接して拘束されることから、ストッパ作用が発揮される。このように、入力される圧縮荷重の大きさに応じて本体ゴム弾性体16のばね特性が調節されて、目的とする防振性能と耐久性能を両立して実現することができる。
【0051】
第二ストッパ機構は、アウタ筒部材14の取付板部22とカップ部材44のストッパ部60との当接によって構成される。即ち、本体ゴム弾性体16が軸方向に圧縮変形すると、カップ部材44がアウタ筒部材14に対して軸方向に接近することから、本体ゴム弾性体16の圧縮変形量が大きくなると、アウタ筒部材14の取付板部22とカップ部材44のストッパ部60とが緩衝ゴム34を介して当接する。これにより、アウタ筒部材14とカップ部材44の接近変位が制限されて、本体ゴム弾性体16の軸方向の圧縮変形量を制限するストッパ作用が発揮される。
【0052】
本実施形態では、第一ストッパ機構によるストッパ作用が、第二ストッパ機構によるストッパ作用よりも、本体ゴム弾性体16の圧縮変形量が小さい段階で発揮されるようになっている。このように、第一ストッパ機構によるストッパ作用と第二ストッパ機構によるストッパ作用とが段階的に発揮されることにより、ばね特性の急激な変化によるショック感等を防いで良好な乗り心地等を実現しながら、本体ゴム弾性体16の圧縮変形量を有効に制限して、本体ゴム弾性体16の耐久性を確保することができる。
【0053】
カップ部材44が本体ゴム弾性体16に対して非固着で取り付けられていることから、軸方向圧縮側の荷重入力時には、カップ部材44の底壁46が本体ゴム弾性体16の上面に押し当てられる際に、底壁46と本体ゴム弾性体16の上面との密着による異音が発生するおそれがある。そこで、本実施形態では、本体ゴム弾性体16の上面に開口する環状溝部38と外周溝部40とが形成されて、本体ゴム弾性体16の上面が4つに分割されており、底壁46と本体ゴム弾性体16の上面とが広い範囲で連続的に当接するのが防止されている。これにより、カップ部材44の底壁46と本体ゴム弾性体16の上面との密着時の異音が防止される。
【0054】
また、カップ部材44と本体ゴム弾性体16が非固着とされた構造では、カップ部材44の底壁46と本体ゴム弾性体16の上面とが、密着状態から離れる際にも、異音が発生するおそれがあるが、本体ゴム弾性体16の上面に開口する凹溝36が本体ゴム弾性体16の外周面に開口して形成されていることによって、離隔時の異音も防止されている。
【0055】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、前記実施形態において、カップ部材44の周壁48は、段差52よりも開口側が底壁46側よりも大径とされていると共に、開口へ向けて拡径するテーパー筒形状とされていたが、カップ部材の周壁は、開口側が大径とされた拡開形状となっていれば、段差52とテーパー形状との両方を備えている必要はない。要するに、カップ部材の周壁は、例えば、段差を有していると共に変形規制部が略一定の径寸法で軸方向に延びていてもよいし、変形規制部が開口へ向けて拡径するテーパー筒形状とされて段差がない構造であってもよい。要求される非線形特性などを考慮して、例えば周壁の他の部分よりも傾斜角度が大きくされた段差52が周壁の軸方向で複数箇所に設けられていても良い。
【0056】
インナ部材は、軸部材18を備えていなくてもよく、カップ部材44だけで構成されていてもよい。この場合には、本体ゴム弾性体16の内周へ挿通される取付用ボルト等が、本体ゴム弾性体16の内周側への膨出変形の制限等といった軸部材18の機能の少なくとも一部を備えるようにしてもよい。
【0057】
軸部材18とカップ部材44との連結構造は、特に限定されない。例えば、カップ部材44の底壁46の中心孔に軸部材18が圧入固定されていてもよいし、底壁46の内周縁部が軸部材18の軸方向端部にかしめ固定されていてもよい。
【0058】
本体ゴム弾性体16の上端部分は、カップ部材44の近接部54に対して圧入されていてもよいし、非圧入で接触していてもよい、また、近接部54の内周側へ離れていてもよく、その場合には、本体ゴム弾性体16の上部30とカップ部材44の周壁48における変形規制部56との間だけでなく、近接部54との間にも隙間が設けられる。この場合の隙間は、近接部54の内周における径方向寸法が、変形規制部56の内周における径方向寸法よりも小さくされている。また、例えば、車両装着状態でキャビン62等の支持荷重が筒形マウント10に入力されて、本体ゴム弾性体16の上部30が弾性変形することにより、本体ゴム弾性体16の上部30が近接部54に当接するようにしてもよい。このように、周壁48全体が本体ゴム弾性体16に対して外周へ離れている場合にも、周壁48と本体ゴム弾性体16の離隔距離が底壁46側と開口側とで異なっていることによって、小さな入力荷重に対する柔らかいばね特性と、大きな入力荷重に対する硬いばね特性とが、両立して実現される。
【0059】
例えば、隙間58は、実施形態では全周に亘って略一定の大きさで連続して形成されていたが、要求される防振特性や荷重特性などを考慮して、隙間58の大きさを周方向で異ならせることも可能である。例えは車両前後方向と車両左右方向の軸直角2方向で異なる荷重-ばね特性が要求される場合には、上部30の外周形状を楕円としたり、周壁48を楕円とすること等により、隙間58の径方向の大きさを軸直角方向で異ならせてもよく、例えば軸直角方向一方向では隙間58や段差52を実質的に無くしてもよい。
【0060】
前記実施形態の凹溝36は、周方向に延びる環状溝部38と、径方向に放射状に延びる外周溝部40とによって構成されていたが、凹溝は、本体ゴム弾性体16の外周面に開口していればよく、例えば軸直角方向に延びる溝部だけで構成することもできる。
【0061】
本発明に係る筒形マウントは、キャブマウントだけに適用されるものではなく、例えば、エンジンやモーター等を含むパワーユニットを車両ボデーに防振連結するパワーユニットマウントなどにも適用することができる。
【符号の説明】
【0062】
10 キャブマウント(筒形マウント)
12 インナ部材
14 アウタ筒部材
16 本体ゴム弾性体
18 軸部材
20 筒状部
22 取付板部
24 内フランジ状部
26 下部
28 一体加硫成形品
30 上部
32 傾斜外周面
34 緩衝ゴム
36 凹溝
38 環状溝部
40 外周溝部
42 上端突部
44 カップ部材
46 底壁
48 周壁
50 連結筒部
52 段差
54 近接部(装着部)
56 変形規制部
58 隙間
60 ストッパ部
62 キャビン
64 フレーム
図1
図2
図3
図4