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特開2023-159965医療判定システム、医療判定方法、医療判定装置、及びプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159965
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】医療判定システム、医療判定方法、医療判定装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61M 15/00 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
A61M15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069921
(22)【出願日】2022-04-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年4月22日に日本呼吸器学会誌 2021年 10巻 (suppl)、第195頁に掲載 令和3年4月24日に第61回日本呼吸器学会学術講演会にて発表 令和3年5月14日にAmerican Thoracic Society 2021 International Conference (ATS2021)にて発表 令和4年3月7日にThe 8th IEEJ International Workshop on Sensing, Actuation, and Motion Control (SAMCON2021)の予稿集に掲載 令和4年3月9日にThe 8th IEEJ International Workshop on Sensing, Actuation, and Motion Control (SAMCON2021)にて発表 令和4年4月14日に第62回日本呼吸器学会学術講演会の予稿集に掲載
(71)【出願人】
【識別番号】317006683
【氏名又は名称】地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(71)【出願人】
【識別番号】504182255
【氏名又は名称】国立大学法人横浜国立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100127384
【弁理士】
【氏名又は名称】坊野 康博
(74)【代理人】
【識別番号】100152054
【弁理士】
【氏名又は名称】仲野 孝雅
(72)【発明者】
【氏名】下野 誠通
(72)【発明者】
【氏名】高野 俊也
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 敦司
(72)【発明者】
【氏名】正木 克宜
(72)【発明者】
【氏名】中田 英夫
(72)【発明者】
【氏名】福永 興壱
(72)【発明者】
【氏名】青森 達
(72)【発明者】
【氏名】西江 美幸
(72)【発明者】
【氏名】袴田 潤
(57)【要約】
【課題】患者による医療機器の使用に関連し、医療従事者をより適切に支援する。
【解決手段】医療判定システムSは、判定用データ測定部112と、判定実行部212と、結果提示部213と、を備える。判定用データ測定部112は、ユーザによる医療機器を使用した吸入動作時における、医療機器の物理量の時系列データを測定する。判定実行部212は、医療機器を正しく使用して吸入動作を行った場合に対応する物理量の時系列データを基準とし、基準とした時系列データと判定用データ測定部112が測定した物理量の時系列データを比較することで、ユーザが医療機器を正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。結果提示部213は、判定実行部212による判定結果を提示する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザによる医療機器を使用した吸入動作時における、前記医療機器の物理量の時系列データを測定する測定手段と、
前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行った場合に対応する前記物理量の時系列データを基準とし、前記基準とした時系列データと前記測定手段が測定した物理量の時系列データを比較することで、前記ユーザが前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を提示する提示手段と、
を備えることを特徴とする医療判定システム。
【請求項2】
前記判定手段は、前記基準とした時系列データと、前記測定手段が測定した物理量の時系列データの、少なくとも何れかの時系列データを時間軸方向に伸縮させた上で、前記比較を行う、
ことを特徴とする請求項1に記載の医療判定システム。
【請求項3】
前記判定手段は、DP(Dynamic Programming)マッチングにより前記伸縮を行った上で、前記比較によって時間正規化距離を算出し、該算出した時間正規化距離の値に基づいて、前記ユーザが前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項2に記載の医療判定システム。
【請求項4】
前記測定手段は、前記医療機器の所定部材の角速度を検出するセンサの検出値を積分することにより、前記物理量として前記医療機器の所定部材の角度を測定する、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の医療判定システム。
【請求項5】
前記医療機器は、独立して可動する第1の部材と、第2の部材を含んで構成されると共に、
前記測定手段は、前記角速度を検出するためのセンサとして、前記第1の部材の角速度を検出する第1のセンサと、前記第2の部材の角速度を検出する第2のセンサを含み、
前記測定手段は、前記第1のセンサの検出結果に対応する角度と、前記第2のセンサの検出結果に対応する角度の差分に基づいて前記第1の部材又は前記第2の部材の少なくとも何れかの角度を測定する、
ことを特徴とする請求項4に記載の医療判定システム。
【請求項6】
前記測定手段は、前記医療機器に着脱可能に接続され、
前記判定手段は、前記測定手段とは別体として構成されると共に、前記測定手段から記録媒体を介して又は通信により前記測定手段が測定した物理量の時系列データを取得して、前記判定を行う、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の医療判定システム。
【請求項7】
前記測定手段は、異なる吸入動作に使用される使用方法の異なる医療機器それぞれを対象として前記測定を行うことが可能であり、
前記判定手段は、前記異なる医療機器それぞれを対象として前記判定を行うことが可能である、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の医療判定システム。
【請求項8】
ユーザによる医療機器を使用した吸入動作時における、前記医療機器の物理量の時系列データを測定する測定ステップと、
前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行った場合に対応する前記物理量の時系列データを基準とし、前記基準とした時系列データと前記測定ステップが測定した物理量の時系列データを比較することで、前記ユーザが前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する判定ステップと、
前記判定ステップによる判定結果を提示する提示ステップと、
を含むことを特徴とする医療判定方法。
【請求項9】
ユーザによる医療機器を使用した吸入動作時における、前記医療機器の物理量の時系列データを取得する取得手段と、
前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行った場合に対応する前記物理量の時系列データを基準とし、前記基準とした時系列データと前記取得手段が取得した物理量の時系列データを比較することで、前記ユーザが前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を提示する提示手段と、
を備えることを特徴とする医療判定装置。
【請求項10】
ユーザによる医療機器を使用した吸入動作時における、前記医療機器の物理量の時系列データを取得する取得機能と、
前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行った場合に対応する前記物理量の時系列データを基準とし、前記基準とした時系列データと前記取得機能が取得した物理量の時系列データを比較することで、前記ユーザが前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する判定機能と、
前記判定機能による判定結果を提示する提示機能と、
をコンピュータに実現させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医療判定システム、医療判定方法、医療判定装置、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、喘息や慢性閉塞性肺疾患といった呼吸器系の疾患の治療等を目的として、吸入器が広く使用されている。患者が吸入器を正しく使用して呼吸動作を行うことで、患者は、自身に投薬された薬剤(ここでは、吸入薬)を適切に吸入することができる。
このような吸入器に関する技術は、例えば、特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6958950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、薬剤を適切に吸入するためには、吸入器を正しく使用して呼吸動作を行う必要があるが、吸入器を正しく使用できていない患者が一定数存在する。例えば、吸入器を使いはじめたばかりの患者や、吸入器の使用方法を忘れてしまった患者である。そのため、医師や薬剤師等の医療従事者は、患者が吸入器を正しく使用して呼吸動作を行っているかを対面で観察し、必要に応じて指導を行う。
【0005】
しかしながら、患者が吸入器を使用する都度、対面で観察を行うということは、医療従事者にとって非常に煩雑な業務となる。また、患者が医療施設ではなく、自宅で吸入器を使用するような場合に、都度対面での観察を行うことは現実的でない。さらに、患者から自己報告される情報や、容量カウンターの値等の薬剤の使用量に関する情報のような、対面せずに得られる情報だけでは正確な指導を行うことは困難である。
上述した特許文献1に開示されているような一般的な技術では、このような点について考慮されておらず、医療従事者を支援するという観点において、より改善の余地があると考えられる。
【0006】
本発明の課題は、患者による医療機器の使用に関連し、医療従事者をより適切に支援することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様の医療判定システムは、
ユーザによる医療機器を使用した吸入動作時における、前記医療機器の物理量の時系列データを測定する測定手段と、
前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行った場合に対応する前記物理量の時系列データを基準とし、前記基準とした時系列データと前記測定手段が測定した物理量の時系列データを比較することで、前記ユーザが前記医療機器を正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段による判定結果を提示する提示手段と、
を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、患者による医療機器の使用に関連し、医療従事者をより適切に支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る医療判定システムSのシステム構成を示す図である。
図2】測定デバイス10のハードウェア構成及び機能的構成を示す図である。
図3】医療判定装置20のハードウェア構成及び機能的構成を示す図である。
図4】吸入器Iにおける第1のセンサ11及び第2のセンサ18の配置について示す外観図である。
図5】判定用データ測定部112が演算により算出する角度について示す遷移図である。
図6】ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行った場合に、測定デバイス10により測定される理想的な測定結果を示すグラフである。
図7】判定実行部212による判定で用いられる基準データ及び判定用データの具体例について示すグラフである。
図8】判定実行部212による判定で利用されるDPマッチングについて示すグラフである。
図9】測定デバイス10が実行する医療判定処理の流れを示すフローチャートである。
図10】医療判定装置20が実行する医療判定処理の流れを示すフローチャートである。
図11】吸入器Iaにおける第1のセンサ11及び第2のセンサ18の配置について示す外観図である。
図12】吸入器Ibにおける第2のセンサ18の配置について示す外観図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0011】
[システム構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る医療判定システムSのシステム構成を示す図である。
本実施形態における医療判定システムSは、患者による医療機器の使用に関連し、医療従事者をより適切に支援するシステムである。以下では、説明のための一例として、医療機器が一般的なドライパウダー吸入器(DPI:Dry Powder Inhaler)のエリプタ(登録商標)である場合を想定する。また、支援対象となる医療従事者が、患者に対して吸入器の使用に関連した指導を行う医師や薬剤師である場合を想定する。
ただし、これは説明のための一例に過ぎず、本実施形態の適用範囲を限定する趣旨ではない。本実施形態は、これ以外にも、様々な医療施設や患者の自宅等の場所において、患者による様々な医療機器の使用に関連し、様々な医療従事者によって行われる、医学的又は薬学的な説明や指導を支援することが可能である。
【0012】
図1に示すように、医療判定システムSは、測定デバイス10、及び医療判定装置20を含んで構成される。また、図中には、吸入器Iを使用する患者であるユーザUと、測定デバイス10が着脱される吸入器I(ここでは、エリプタ)についても図示する。
なお、図中には、測定デバイス10及び医療判定装置20をそれぞれ一台ずつ図示するが、これに限られない。例えば、測定デバイス10は、複数のユーザUそれぞれに応じて複数存在してもよい。また、医療判定装置20は、複数の医療従事者それぞれに対応して複数存在してもよい。
【0013】
測定デバイス10は、吸入器Iの物理量の時系列データを測定するデバイスである。測定デバイス10は、吸入器Iに、直接着脱可能な構造又はアタッチメントを介して間接的に着脱可能な構造となっている。また、測定デバイス10は、第1の筐体10-1と、第2の筐体10-2の2つの筐体によって構成される。さらに、この2つの筐体は、通信可能に接続される。
【0014】
医療判定装置20は、測定デバイス10と協働することにより「医療判定処理」を行う装置である。医療判定装置20は、例えば、パーソナルコンピュータや、サーバ装置や、複数のサーバ装置からなるクラウドサーバといった情報処理装置により実現される。
ここで、医療判定処理は、医療従事者をより適切に支援するために、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定し、その判定結果を医療従事者に提示する一連の処理である。以下では、図中に(1)~(3)として示す、医療判定処理での処理手順について説明をする。
【0015】
(1)吸入動作時の物理量を測定
まず、測定デバイス10は、ユーザUによる吸入器Iを使用した吸入動作時における、吸入器Iの物理量の時系列データを測定する。物理量の詳細については、後述するが、測定デバイス10は、例えば、第1の筐体10-1と、第2の筐体10-2のそれぞれにおいて、加速度や、角速度や、角速度を積分して算出した角度を時系列で測定する。
【0016】
(2)測定した物理量の時系列データを取得
次に、医療判定装置20は、測定デバイス10が測定した時系列データを、例えば、記憶媒体を介して取得する。
【0017】
(3)時系列データに基づいて吸入動作が正しく行われたか判定
そして、医療判定装置20は、医療機器を正しく使用して吸入動作を行った場合に対応する物理量の時系列データを基準とし、基準とした時系列データと測定デバイス10が測定した物理量の時系列データを比較することで、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。そして、医療判定装置20は、この判定結果を、例えば、医療従事者やユーザUに対して提示する。
【0018】
このように、医療判定システムSは、測定した吸入器Iの物理量の時系列データという客観的な指標に基づいて、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。そのため、医療従事者は、実際に患者に対面することなく、提示された判定結果を参照するのみで、ユーザUである患者が吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを把握することができる。また、医療従事者は、必要に応じて、物理量の時系列データを参照することで、例えば、吸入動作のどのタイミングで吸入器Iが正しく使用できなかったかということを分析することができる。同様に、患者も提示された判定結果等を参照することで、自身の吸入器Iの使用が正しかった否かを、医療従事者の手を煩わすことなく把握することができるので、医療従事者の負担は軽減される。
従って、本発明の実施形態に係る医療判定システムSによれば、患者による吸入器Iの使用に関連し、医療従事者をより適切に支援することが可能となる。
【0019】
[ハードウェア構成及び機能的構成]
次に、医療判定システムSに含まれる各装置のハードウェア構成及び機能的構成について説明する。
【0020】
[測定デバイス10]
図2は、測定デバイス10のハードウェア構成及び機能的構成を示す図である。
図2に示すように、測定デバイス10は、第1の筐体10-1と、第2の筐体10-2の2つの筐体によって構成される。第1の筐体10-1は、第1のセンサ11を備えている。また、第2の筐体10-2は、プロセッサ12と、ROM(Read Only Memory)13と、RAM(Random Access Memory)14と、ドライブ15と、入力部16と、出力部17と、第2のセンサ18と、バッテリ19と、を備えている。これら各ハードウェアは、バス等の信号線や2つの筐体間を接続する信号線で接続されており、相互にデータを送受可能である。
【0021】
第1のセンサ11及び第2のセンサ18は、測定デバイス10を、物理量(例えば、加速度や角速度等)を検出可能な慣性計測装置(IMU:Inertial Measurement Unit)として機能させるためのセンサである。第1のセンサ11及び第2のセンサ18は、例えば、3軸の加速度センサ、3軸の角速度センサ(ジャイロセンサ)、及び3軸の磁力センサが搭載された、合計9軸の汎用のチップ等により構成される。
【0022】
プロセッサ12は、ROM13に記録されているプログラム、又は、リムーバブルメディア30からRAM14にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。
RAM14には、プロセッサ12が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0023】
ドライブ15には、半導体メモリ等よりなる、リムーバブルメディア30が適宜装着される。
【0024】
入力部16は、各種ボタンやスイッチ等で構成され、指示操作に応じて各種情報を入力する。
出力部17は、点滅や点灯するLED(Light Emitting Diode)やスピーカ等で構成され、点灯や点滅をすることで通知をしたり、通知音を出力したりする。
【0025】
バッテリ19は、測定デバイス10の各ハードウェアに電力供給線(図示を省略する。)を介して電力を供給する。これにより、測定デバイス10は、吸入器Iに装着された際に電源ケーブルを接続することなく駆動することができるので、ユーザUによる吸入動作を妨げない。
【0026】
また、機能的構成として、プロセッサ12においては、センサ制御部111と、判定用データ測定部112と、が機能する。
【0027】
センサ制御部111は、第1のセンサ11及び第2のセンサ18による、加速度等の検出を制御する。説明のための一例として、本実施形態では、測定デバイス10における、加速度及び角速度が第1のセンサ11及び第2のセンサ18それぞれにより時系列で検出されることを想定する。センサ制御部111の制御に基づいて検出された、加速度及び角速度は、判定用データ測定部112に対して時系列で出力される。
【0028】
判定用データ測定部112は、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定するために用いられる時系列データ(以下、「判定用データ」と称する。)を測定する。説明のための一例として、本実施形態では、第1のセンサ11及び第2のセンサ18それぞれが検出した加速度及び角速度の時系列データと、判定用データ測定部112がこの角速度の時系列データを積分することにより算出した角度が判定用データとして測定される。すなわち、第1のセンサ11及び第2のセンサ18それぞれに対応する、互いに直交する(x,y,z)という三軸における、三軸加速度[m/s^2]、三軸角速度[rad/s]、及び三軸角度[rad]の時系列データが、判定用データとして測定される。
また、判定用データ測定部112は、測定した判定用データを、ドライブ15に装着されたリムーバブルメディア30に記憶させる。なお、かかる判定用データの詳細については、図4及び図5を参照して後述する。
【0029】
[医療判定装置20]
図3は、医療判定装置20のハードウェア構成及び機能的構成を示す図である。
図3に示すように、医療判定装置20は、プロセッサ21と、ROM22と、RAM23と、入力部24と、記憶部25と、出力部26と、ドライブ27と、を備えている。これら各ハードウェアは、バス等の信号線で接続されており、相互にデータを送受可能である。
【0030】
プロセッサ21は、ROM22に記録されているプログラム、又は、リムーバブルメディア30からRAM23や記憶部25にロードされたプログラムに従って各種の処理を実行する。
RAM23には、プロセッサ12が各種の処理を実行する上において必要なデータ等も適宜記憶される。
【0031】
入力部24は、各種ボタンやキーボードやマウス等で構成され、指示操作に応じて各種情報を入力する。
記憶部25は、SSD(Solid State Drive)、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)あるいはDRAM(Dynamic Random Access Memory)等で構成され、各種データを記憶する。
出力部26は、ディスプレイやスピーカ等で構成され、画像や音声を出力する。
【0032】
ドライブ27には、半導体メモリ等よりなる、リムーバブルメディア30が適宜装着される。
【0033】
また、機能的構成として、プロセッサ21においては、判定用データ取得部211と、判定実行部212と、結果提示部213と、が機能する。
また、記憶部25においては、判定用データ記憶部251と、基準データ記憶部252と、が形成される。
【0034】
判定用データ取得部211は、今回の判定対象となるユーザUに対応する判定用データを取得する。そのために、判定用データ取得部211は、ドライブ27に装着されたリムーバブルメディア30(ここでは、測定デバイス10により判定用データが記憶されたリムーバブルメディア30)から、判定用データを読み取る。そして、判定用データ取得部211は、読み取った判定用データを、判定用データ記憶部251に記憶する。すなわち、判定用データ記憶部251は、判定用データを記憶する記憶部として機能する。
【0035】
判定実行部212は、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。具体的に、判定実行部212は、吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行った場合に対応する基準データと、判定用データを比較することで、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。なお、この判定の前提として、基準データは、予め基準データ記憶部252に格納されているものとする。すなわち、基準データ記憶部252は、基準データを記憶する記憶部として機能する。
【0036】
また、この判定において、判定実行部212は、基準データと、判定用データの、少なくとも何れかの時系列データを時間軸方向に伸縮させた上で、比較を行う。この伸縮は、任意の方法で実現してよいが、説明のための一例として、本実施形態において、判定実行部212は、DP(Dynamic Programming)マッチングにより時間軸方向に伸縮を行った上で、比較によって時間正規化距離を算出し、該算出した時間正規化距離の値に基づいて、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。
【0037】
これにより、患者間の吸入動作の速度の個人差を吸収した上で、より精度高く判定することができる。例えば、吸入のために蓋を開いてから、息の吐き出し及び吸入を開始するまでの速度等の個人差を吸収した上で、蓋を適切に開閉したか否かということや、吸入器を適切な角度で保持したまま吸入を行ったか否かということについて、より精度高く判定することができる。また、所定のアルゴリズムに則って、毎回定量的に判定を行うことができる。
【0038】
判定実行部212は、この判定による判定結果を結果提示部213に対して出力する。なお、かかるDPマッチングを利用した判定の詳細については、図6~8を参照して後述する。
【0039】
結果提示部213は、判定実行部212から入力された判定結果を、医療従事者やユーザUに対して提示する。この判定結果は、例えば、「ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行った。」又は「ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行わなかった。」というものである。なお、より段階的に、例えば、正確度合いを数値化等して提示してもよい。また、提示は、例えば、出力部26に含まれるディスプレイへのテキスト表示や、出力部26に含まれるスピーカからの音声出力により実現される。
【0040】
なお、判定実行部212は、前回判定を行った際に用いた判定用データが生成された時刻と、今回判定を行った際に用いた判定用データが生成された時刻との差分に基づいて、適切な周期(例えば、1日2回等)で、ユーザUが吸入器Iを使用して吸入動作を行っているか否かも判定してもよい。適切な周期で判定を行っていることも、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行っているか否かを示す指標となるからである。この場合、結果提示部213は、この使用周期に関する判定結果についても医療従事者やユーザUに対して提示する。
【0041】
以上、測定デバイス10及び医療判定装置20の、ハードウェア構成及び機能的構成について説明した。次に、測定デバイス10による判定用データの測定の詳細と、医療判定装置20によるDPマッチングを利用した判定の詳細について説明をする。
【0042】
[判定用データの測定]
図4は、吸入器Iにおける第1のセンサ11及び第2のセンサ18の配置について示す外観図である。また、図5は、判定用データ測定部112が演算により算出する角度について示す遷移図である。
【0043】
吸入器I(ここでは、エリプタ)は、薬剤が収納されると共に、吸入用のマウスピースが設けられた本体と、吸入器Iを使用していない間にマウスピースを保護する蓋(カバー)という、独立して可動する2つの部材を含んで構成される。
【0044】
そして、図4に示すように、測定デバイス10の第1の筐体10-1は、蓋の上部(紙面において上側)に装着される。すなわち、第1の筐体10-1が備える第1のセンサ11は、蓋において互いに直交する(x,y,z)という三軸の、三軸加速度、及び三軸角速度を時系列で検出する。
【0045】
一方で、測定デバイス10の第2の筐体10-2は、本体の底部(紙面において下側)に装着される。すなわち、第2の筐体10-2が備える第2のセンサ18は、本体の底部において互いに直交する(x,y,z)という三軸の、三軸加速度、及び三軸角速度を時系列で検出する。
【0046】
なお、図4において、これら三軸(x,y,z)に対応する回転軸について1点鎖線で示すと共に、測定する角速度の回転方向については実線の矢印で示している。判定用データ測定部112は、これら三軸(x,y,z)に対応する角速度を積分することにより、これら三軸(x,y,z)に対応する角度を算出する。
【0047】
図5(A)、(B)、及び(C)に示すように、吸入器I(ここでは、エリプタ)は、ユーザUによる吸入器Iを使用した吸入動作により状態が遷移する。
前提として、ユーザUによる吸入器Iを使用した吸入動作は、以下の手順により行われる。
【0048】
1.図5(A)に示す状態で、カウンター値を確認して、残っている薬剤の量や薬剤の有効期限を確認する。
2.蓋を完全に開く。これにより、吸入器Iは、図5(B)に示す状態に遷移する。
3.本体を口から離して持ち、完全に息を吐く。これにより、吸入器Iは、図5(C)に示す状態に遷移する。
4.マウスピースを口にくわえる。
5.1回勢いよく息を吸い込み、深く吸入する。
6.吸入器Iを口から外し、5秒以上息を止める。
7.ゆっくりと穏やかに息を吐く。
8.蓋を元の位置に戻す。これにより、吸入器Iは、再度図5(A)に示す状態に遷移する。
【0049】
ここで、図5(B)で、角度「θcover 110[°]」と示すように、この状態において、吸入器Iの蓋はy軸方向におおよそ110[°]開いた状態となる。この蓋が開いた状態を示す角度「θcover」は、判定用データ測定部112が、図4に示す「ω1」を積分して算出した角度「θ1」から、図4に示す「ω2」を積分して算出した角度「θ2」を減算することにより、測定することができる。すなわち、蓋の姿勢に対応する角度と、本体の姿勢に対応する角度との差分を算出することにより、蓋が開いた状態を示す角度「θcover」を測定することができる。
このように、測定デバイス10は、2つの筐体に含まれる2つのセンサにより、吸入器Iの異なる部材の角度を測定することで、本体の現在の姿勢を考慮した上で、精度高く蓋の開いた状態を示す角度を測定することを可能としている。
【0050】
また、図5(C)で、角度「θdevice 90[°]」と示すように、この状態において、吸入器Iの本体はx軸方向におおよそ90[°]開いた状態となる。このマウスピースをくわえるためにユーザUが手で吸入器Iを水平に傾けて保持した状態を示す角度「θdevice」は、判定用データ測定部112が、図4に示す「ω2x」を積分して算出した本体の姿勢に対応する角度と、同じ角度として測定することができる。
【0051】
このように、本実施形態では、判定用データ測定部112が2つのセンサにより検出された角速度に基づいた演算を行うことにより、蓋が開いた状態を示す角度「θcover」と、ユーザUが手で吸入器Iを水平に傾けて保持した状態を示す角度「θdevice」を測定することができる。すなわち、本実施形態では、測定デバイス10により、ユーザUによる吸入器Iを使用した吸入動作に伴う、吸入器Iの状態の遷移を測定することができる。
【0052】
[DPマッチングを利用した判定]
図6は、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行った場合に、測定デバイス10により測定される理想的な測定結果を示すグラフである。図7は、判定実行部212による判定で用いられる基準データ及び判定用データの具体例について示すグラフである。図8は、判定実行部212による判定で利用されるDPマッチングについて示すグラフである。
【0053】
図6では、横軸を時間(すなわち、吸入動作時の時間)とし、縦軸を角度「θcover」及び角度「θdevice」の値(すなわち、吸入器Iの状態)として示す。
【0054】
図中における期間(1)は、ユーザUが吸入器Iの蓋を開き始めてから、完全に蓋が開くまでの期間に相当する。この期間において、「θcover」は、0[°]から110[°]まで変化する。一方で、「θdevice」は、0[°]のまま変化しない。
【0055】
図中における期間(2)は、ユーザUがカウンター値を確認して、残っている薬剤の量や薬剤の有効期限を確認する期間に相当する。この期間において、「θcover」は、110[°]のまま変化しない。同様に、「θdevice」は、0[°]から変化しない。
【0056】
図中における期間(3)は、マウスピースをくわえるためにユーザUが手で吸入器Iを水平に傾けて保持するまでの期間に相当する。なお、ユーザUは、保持に並行して完全に息を吐く。この期間において、「θcover」は、110[°]のまま変化しない。一方で、「θdevice」は、0[°]から90[°]まで変化する。
【0057】
図中における期間(4)は、ユーザUがマウスピースをくわえて、1回勢いよく息を吸い込み、深く吸入する期間に相当する。この期間において、「θcover」は、110[°]のまま変化しない。同様に、「θdevice」は、90[°]のまま変化しない。
【0058】
図中における期間(5)は、ユーザUが5秒以上息を止めると共に、吸入器Iを口から外し、ゆっくりと穏やかに息を吐く期間に相当する。この期間において、「θcover」は、110[°]のまま変化しない。一方で、「θdevice」は、90[°]から0[°]まで変化する。
【0059】
図中における期間(6)は、ユーザUが蓋を元の位置に戻す期間に相当する。この期間において、「θcover」は、110[°]から0[°]まで変化する。一方で、「θdevice」は、0[°]のまま変化しない。
このように、蓋が開いた状態を示す角度「θcover」と、ユーザUが手で吸入器Iを水平に傾けて保持した状態を示す角度「θdevice」は、ユーザUによる吸入器Iを使用した吸入動作が正しく行われた場合には、吸入動作時の手順に伴って毎回同じように変化することがわかる。
【0060】
図7(A)、図7(B)、図8(A)では、図6と同様に、横軸を時間(すなわち、吸入動作時の時間)とし、縦軸を角度「θcover」及び角度「θdevice」の値(すなわち、吸入器Iの状態)として示す。他方で、図8(B)では、横軸をDPマッチング後のデータ数とし、縦軸を角度「θcover」及び角度「θdevice」の値(すなわち、吸入器Iの状態)として示す。
【0061】
図7(A)は、基準データを示す波形である。基準データは、上述した図6に示すような、ユーザUが吸入器Iを正しくに使用して吸入動作を行った場合に、測定デバイス10により測定された測定結果に相当する。この基準データは、医療従事者等が、吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行い、これを判定用データと同様に測定デバイス10により測定することで生成することができる。このようにして生成された基準データは、判定実行部212による判定に先立って、予め生成され、基準データ記憶部252に記憶される。なお、このように、実際に医療従事者等の吸入動作を測定するのではなく、医療従事者等による医療判定装置20へのマウスやキーボードを用いた入力操作により、人工的に基準データを生成するようにしてもよい。
【0062】
図7(B)は、判定用データを示す波形である。なお、この判定用データは、ユーザUが吸入器Iをおおむね正しく使用して吸入動作を行った場合に、測定デバイス10により測定された測定結果である。
【0063】
上述したように、判定実行部212は、基準データと、判定用データを比較することで、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。しかしながら、これも上述したように吸入動作には速度の個人差が存在する。例えば、この基準データでは、測定デバイス10による測定開始から、おおむね25秒程度で一連の吸入動作が終了することを想定している。
【0064】
一方で、この判定用データでは、測定デバイス10による測定開始から、おおむね16秒程度で一連の吸入動作が終了している。そのため、このままこれらの基準データと判定用データを比較のために重ね合わせると、図8(C)に示すように基準データの波形と、判定用データの波形は大きく相違するものになる。この状態で比較を行った場合、この相違が、吸入動作が正しくなかったことに起因するものか、吸入動作の速度の個人差による起因するものかを切り分けて判定を行うことは困難となる。そのため、上述したように、判定実行部212は、まず、基準データと、判定用データの、少なくとも何れか(ここでは、判定用データ)の時系列データをDPマッチングにより時間軸方向(グラフにおける横軸方向)に伸縮させる。
【0065】
このDPマッチングでは、まず、基準データに含まれる角度「θcover」及び角度「θdevice」の値のそれぞれに基づいて、標準波形r(i)を以下の数式(1)のように定義する。同様に、判定用データに含まれる角度「θcover」及び角度「θdevice」の値のそれぞれに基づいて、判定用波形o(j)を以下の数式(2)のように定義する。
【0066】
【数1】
【0067】
そして、標準波形r(i)と判定用波形o(j)のベクトル間距離d(i,j)を以下の数式(3)により算出する。
【0068】
【数2】
【0069】
さらに、ベクトル間距離d(i,j)から、DPマッチング後の、時間軸方向(グラフにおける横軸方向)に伸縮させた波形(ここでは、伸縮させた判定用データに相当する波形)を以下の数式(4)により算出する。
【0070】
【数3】
【0071】
なお、上記数式(4)は、DPマッチングによる漸化式であり、数式(4)中のg(I-1,J)は判定用波形o(j)を時間軸方向に拡大することを意味し、g(I-1,J-1)は判定用波形o(j)を時間軸方向に等倍することを意味し、g(I-1,J-2)は判定用波形o(j)を時間軸方向に縮小することを意味する。
【0072】
このようにして、基準データ(すなわち、標準波形r(i))と、DPマッチングにより伸縮させた判定用データに相当する波形(すなわち、判定用波形o(j))とを比較のために重ね合わせると、図8(D)に示すように基準データの波形と、判定用データの波形は、吸入動作の速度(この場合は、吸入動作全体の速度)の個人差に起因する相違が吸収され、吸入動作が正しかったか否かの判定が精度高く行えるようになる。
判定実行部212は、このように基準データと、DPマッチングにより伸縮させた判定用データを比較して、以下の数式(5)により、両データの時間正規化距離Lを算出する。
【0073】
【数4】
ただし、Nはデータ数である。
【0074】
そして、判定実行部212は、この算出した時間正規化距離Lの値が、予め設定してある閾値以下である場合(すなわち、基準データと判定用データとが近似している場合)、「ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行った。」と判定する。一方で、判定実行部212は、この算出した時間正規化距離Lの値が、予め設定してある閾値を超えている場合(すなわち、基準データと判定用データとが近似していない場合)、「ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行わなかった」と判定する。
【0075】
この閾値は、例えば、医療従事者等が、対面での観察により吸入器Iを正しく使用して吸入動作が行われたと判断した際に測定デバイス10により測定された測定結果と、医療従事者等が、対面での観察により吸入器Iを正しく使用して吸入動作が行われなかったと判断した際に測定デバイス10により測定された測定結果とをサンプルとして蓄積することで、統計的に設定することができる。
【0076】
なお、この閾値を段階的に複数設定することで、判定結果として、正確度合い(すなわわち、どの程度正しかったか)を提示するようなことも可能となる。
【0077】
判定実行部212は、以上のようにDPマッチングを利用した判定をして、精度高く判定を行うことができる。
【0078】
[動作]
次に、測定デバイス10及び医療判定装置20それぞれにおける、医療判定処理時の動作を説明する。
【0079】
[測定デバイス10]
図9は、測定デバイス10が実行する医療判定処理の流れを示すフローチャートである。
測定デバイス10における医療判定処理は、測定デバイス10の電源が投入されたことに対応して開始される。
【0080】
ステップS11において、センサ制御部111は、ユーザUに対して測定が可能な状態である旨を出力する。この出力は、例えば、出力部17に含まれる通知用のLEDの点灯や点滅で実現される。
【0081】
ステップS12において、センサ制御部111は、測定を開始するか否かを判定する。測定は、例えば、ユーザUから測定開始の指示操作を受け付けた場合に開始される。測定を開始する場合は、ステップS12においてYesと判定され、処理はステップS13に進む。一方で、測定を開始しない場合は、ステップS12においてNoと判定され、処理はステップS12を繰り返す。
【0082】
ステップS13において、センサ制御部111は、第1のセンサ11及び第2のセンサ18を制御することで、これらのセンサによる物理量の時系列データの検出を行う。
【0083】
ステップS14において、判定用データ測定部112は、判定用データを生成し、リムーバブルメディア30に記憶させる。
【0084】
ステップS15において、センサ制御部111は、測定を終了するか否かを判定する。測定は、例えば、ユーザUから測定終了の指示操作を受け付けた場合に終了される。測定を終了する場合は、ステップS15においてYesと判定され、処理はステップS16に進む。一方で、測定を終了しない場合は、ステップS15においてNoと判定され、処理はステップS13及びステップS14を繰り返す。
【0085】
ステップS16において、センサ制御部111は、ユーザUに対して測定が終了し、判定用データがリムーバブルメディア30に記憶された状態である旨を出力する。この出力は、例えば、出力部17に含まれる通知用のLEDの点灯や点滅で実現される。
【0086】
ステップS17において、センサ制御部111は、再度の測定を行うか否かを判定する。再度の測定は、例えば、ユーザUから再度の測定の指示操作を受け付けた場合に開始される。再度の測定を行う場合は、ステップS17においてYesと判定され、処理はステップS13に進み、ステップS13以降を繰り返す。一方で、再度の測定を行わない場合は、ステップS17においてNoと判定され、本処理は終了する。これに伴い、センサ制御部111は、測定デバイス10の起動を終了する。
【0087】
[医療判定装置20の動作]
図10は、医療判定装置20が実行する医療判定処理の流れを示すフローチャートである。
医療判定装置20における医療判定処理は、医療判定装置20において、医療判定処理の開始指示操作を受け付けたことに対応して開始される。なお、前提として、判定用データは判定用データ記憶部251に記憶されており、基準データは基準データ記憶部252に記憶されている状態であるとする。
【0088】
ステップS21において、判定実行部212は、判定用データ記憶部251に記憶されている判定用データを読み取る。
【0089】
ステップS22において、判定実行部212は、基準データ記憶部252に記憶されている基準データを読み取る。
【0090】
ステップS23において、判定実行部212は、判定用データをDPマッチングにより時間軸方向に伸縮させる。
【0091】
ステップS24において、判定実行部212は、基準データと、DPマッチングにより伸縮させた判定用データを比較して、両データの時間正規化距離Lを算出する。
【0092】
ステップS25において、判定実行部212は、時間正規化距離Lの値と、予め設定してある閾値とに基づいて、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。なお、上述したように、判定実行部212は、この際に使用周期に関する判定も行うようにしてもよい。
【0093】
ステップS26において、結果提示部213は、判定結果を、医療従事者やユーザUに対して提示する。これにより、本処理は終了する。
【0094】
以上説明した支援情報提示処理を行うことにより、医療判定システムSは、測定した吸入器Iの物理量の時系列データという客観的な指標に基づいて、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。そのため、医療従事者は、実際に患者に対面することなく、提示された判定結果を参照するのみで、ユーザUである患者が吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを把握することができる。また、医療従事者は、必要に応じて、物理量の時系列データを参照することで、例えば、吸入動作のどのタイミングで吸入器Iが正しく使用できなかったかということを分析することができる。同様に、患者も提示された判定結果等を参照することで、自身の吸入器Iの使用が正しかった否かを、医療従事者の手を煩わすことなく把握することができるので、医療従事者の負担は軽減される。
従って、本発明の実施形態に係る医療判定システムSによれば、患者による吸入器Iの使用に関連し、医療従事者をより適切に支援することが可能となる。
【0095】
[変形例]
以上、本発明の実施形態について説明したが、この実施形態は例示に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、その他の様々な実施形態を取ることが可能である共に、省略及び置換等種々の変形を行うことができる。この場合に、これら実施形態及びその変形は、本明細書等に記載された発明の範囲及び要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
一例として、以上説明した本発明の実施形態を、以下のようにして変形してもよい。また、以下のような変形を組み合わせるようにしてもよい。
【0096】
[変形例1]
上述の実施形態では、吸入器Iをドライパウダー吸入器のエリプタとし、このエリプタに測定デバイス10を装着し、ユーザUによるエリプタを使用した吸入動作が正しいか否かを判定していた。これに限らず、異なる吸入動作に使用される、使用方法の異なる吸入器Iに測定デバイス10を装着し、この異なる吸入器Iを対象として判定を行うようにしてもよい。これにより、様々な医療メーカーが製造する、様々な吸入器Iを対象として判定を行うことができる。例えば、ドライパウダー吸入器と、定量噴霧式吸入器(pMDI:pressurized metered-dose inhaler)のように、異なる構造の吸入器Iを対象として判定を行うことができる。
【0097】
図11は、吸入器Iaにおける第1のセンサ11及び第2のセンサ18の配置について示す外観図である。この吸入器Iaは定量噴霧式吸入器である。そして、この吸入器Iaに装着された測定デバイス10aは、測定デバイス10と同等の機能を有している。このように吸入器Iaにおける第1の筐体10a-1及び第2の筐体10a-2を取り付けるためのアタッチメントの構造、又はこれら2つの筐体の構造を変形させる。
【0098】
また、例えば、ユーザUが定量噴霧式吸入器を使用して行う一連の吸入動作における、薬剤を混ぜるために吸入器Iaを振るという吸入動作や、マウスピースをくわえるために吸入器Iaを手に保持するという吸入動作や、吸入をするために吸入器Iaにて薬剤が収納されているアルミ缶を押し込むという吸入動作等を測定デバイス10aで測定して、判定用データを生成する。
【0099】
これにより、定量噴霧式吸入器を対象としても、上述した実施形態と同様の医療判定処理を実現することができる。
【0100】
図12は、吸入器Ibにおける第2のセンサ18の配置について示す外観図である。この吸入器Ibはタービュヘイラー(登録商標)である。そして、この吸入器Ibに装着された測定デバイス10bは、測定デバイス10と同等の機能を有しているが、第1の筐体10―1及び第1のセンサ11は省略されている。これは、タービュヘイラーの使用方法に鑑みて、第2のセンサ18のみで、適切な測定が可能だからである。このように吸入器Ibにおける第2の筐体10b-2を取り付けるためのアタッチメントの構造、又は第2の筐体10b-2の構造を変形させる。
【0101】
また、例えば、ユーザUがタービュヘイラーを使用して行う一連の吸入動作における、z軸を回転軸として回転グリップを左右に回転させるという吸入動作や、マウスピースをくわえるために吸入器Ib手に保持するという吸入動作等を測定デバイス10bで測定して、判定用データを生成する。
【0102】
これにより、タービュヘイラーを対象としても、上述した実施形態と同様の医療判定処理を実現することができる。
【0103】
[変形例2]
上述した実施形態では、第1のセンサ11及び第2のセンサ18が検出した角速度の時系列データを用いて判定用データを生成していた。これに限らず、第1のセンサ11及び第2のセンサ18が検出した加速度や地磁気の時系列データを、判定用データとして利用してもよい。これらの加速度や地磁気の時系列データについても、ユーザUによる吸入器Iを使用した吸引動作に応じて、時系列で変化するからである。
【0104】
この場合に、例えば、角速度の時系列データから生成した判定用データでの判定結果と、加速度の時系列データから生成した判定用データの判定結果のそれぞれを提示するようにしてもよいし、これら複数の判定結果に基づいて、複合的に判定を行うようにしてもよい。
【0105】
他にも、何れかの時系列データを、他の時系列データを補正するために用いるようにしてもよい。例えば、上述した実施形態では、角速度の時系列データを検出し、これを積分して角度を算出することで、判定用データを生成していた。
この場合に、角速度センサの性能によっては、検出される角速度に誤差が生じることがある。すると、角速度の時系列データには、時間経過と共に誤差が累積してしまう。また、これに伴い、この角速度の時系列データから算出される角度(すなわち、判定用データ)にも誤差が生じてしまう。
そこで、加速度の時系列データや、地磁気の時系列データを、角速度の時系列データの補正に用いることで、角速度の時系列データの誤差を減少させる。そして、この補正後の角速度の時系列データを積分することにより角度を算出し、判定用データとする。これにより、角速度センサによる検出において生じた誤差が減少された、より精度の高い判定用データを生成することが可能となる。
このように、角速度の時系列データのみならず、第1のセンサ11及び第2のセンサ18が検出した様々な時系列データを、個別に用いて、あるいはこれらを組み合わせて用いて、判定用データを生成することができる。
【0106】
[変形例3]
上述した実施形態では、測定デバイス10が生成した判定用データを、リムーバブルメディア30に記憶させ、このリムーバブルメディア30を介して医療判定装置20に取得させていた。これに限らず、測定デバイス10と医療判定装置20に通信機能を追加し、通信によって、測定デバイス10が生成した判定用データを、医療判定装置20に取得させるようにしてもよい。この通信は、有線接続により行われてもよいし、無線接続により行われてもよい。また、この通信は、測定デバイス10と医療判定装置20との間で直接行われてもよいし、インターネットやLAN(Local Area Network)等のネットワークを介して行われてもよい。
【0107】
[変形例4]
上述した実施形態では、測定デバイス10において角速度を積分して、角度を算出していた。これに限らず、医療判定装置20において角速度を積分して、角度を算出するようにしてもよい。あるいは、測定デバイス10の情報処理能力が十分であるような場合には、測定デバイス10にて医療判定装置20の機能の一部又は全部を実現するようにしてもよい。
【0108】
[構成例]
以上のように、本実施形態に係る医療判定システムSは、判定用データ測定部112と、判定実行部212と、結果提示部213と、を備える。
判定用データ測定部112は、ユーザUによる吸入器Iを使用した吸入動作時における、吸入器Iの物理量の時系列データを測定する。
判定実行部212は、吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行った場合に対応する物理量の時系列データを基準とし、基準とした時系列データと判定用データ測定部112が測定した物理量の時系列データを比較することで、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。
結果提示部213は、判定実行部212による判定結果を提示する。
【0109】
このように、医療判定システムSは、測定した吸入器Iの物理量の時系列データという客観的な指標に基づいて、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。そのため、医療従事者は、実際に患者に対面することなく、提示された判定結果を参照するのみで、ユーザUである患者が吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを把握することができる。また、医療従事者は、必要に応じて、物理量の時系列データを参照することで、例えば、吸入動作のどのタイミングで吸入器Iが正しく使用できなかったかということを分析することができる。同様に、患者も提示された判定結果等を参照することで、自身の吸入器Iの使用が正しかった否かを、医療従事者の手を煩わすことなく把握することができるので、医療従事者の負担は軽減される。
従って、本発明の実施形態に係る医療判定システムSによれば、患者による吸入器Iの使用に関連し、医療従事者をより適切に支援することが可能となる。
【0110】
判定実行部212は、基準とした時系列データと、判定用データ測定部112が測定した物理量の時系列データの、少なくとも何れかの時系列データを時間軸方向に伸縮させた上で、比較を行う。
これにより、患者間の吸入動作の速度の個人差を吸収した上で、より精度高く判定することができる。例えば、吸入のために蓋を開いてから、息の吐き出し及び吸入を開始するまでの速度等の個人差を吸収した上で、蓋を適切に開閉したか否かということや、吸入器を適切な角度で保持したまま吸入を行ったか否かということについて、より精度高く判定することができる。
【0111】
判定実行部212は、DP(Dynamic Programming)マッチングにより伸縮を行った上で、比較によって時間正規化距離を算出し、該算出した時間正規化距離の値に基づいて、ユーザUが吸入器Iを正しく使用して吸入動作を行ったか否かを判定する。
これにより、所定のアルゴリズムに則って、毎回定量的に判定を行うことができる。
【0112】
判定用データ測定部112は、吸入器Iの所定部材の角速度を検出するセンサの検出値を積分することにより、物理量として吸入器Iの所定部材の角度を測定する。
これにより、吸入動作の進行に伴い変動する、所定部材の角度に基づいて判定を行うことができる。また、角速度を検出するセンサを用いることで、例えば、マイクセンサにより音を検出して判定するようなことを行う場合に比べて、外部の騒音等のノイズの影響を受けにくく、安定した測定を行うことができる。さらに、角速度を検出するセンサを用いることで、例えば、フローセンサにより患者の呼気を検出して判定するようなことを行う場合に比べて、より簡易な構造で、通常通り吸入器Iのマウスピースから直接吸入を行うことができる。
【0113】
吸入器Iは、独立して可動する第1の部材と、第2の部材を含んで構成されると共に、
判定用データ測定部112は、角速度を検出するためのセンサとして、第1の部材の角速度を検出する第1のセンサと、第2の部材の角速度を検出する第2のセンサを含み、
判定用データ測定部112は、第1のセンサの検出結果に対応する角度と、第2のセンサの検出結果に対応する角度の差分に基づいて第1の部材又は第2の部材の少なくとも何れかの角度を測定する。
これにより、独立して可動する各部材の角度を、2つのセンサの検出結果に基づいて、より正確に測定できる。
【0114】
判定用データ測定部112は、吸入器Iに着脱可能に接続され、
判定実行部212は、判定用データ測定部112とは別体として構成されると共に、判定用データ測定部112から記録媒体を介して又は通信により判定用データ測定部112が測定した物理量の時系列データを取得して、判定を行う。
これにより、例えば、判定用データ測定部112のみという簡易な構成を一般的な吸入器Iに取り付けるのみで、吸入器Iの使い勝手に影響を与えることなく、判定を行うことができる。
【0115】
判定用データ測定部112は、異なる吸入動作に使用される使用方法の異なる吸入器Iそれぞれを対象として測定を行うことが可能であり、
判定実行部212は、異なる吸入器Iそれぞれを対象として判定を行うことが可能である。
これにより、様々な医療メーカーが製造する、様々な吸入器Iを対象として判定を行うことができる。例えば、ドライパウダー吸入器と、定量噴霧式吸入器のように、異なる構造の吸入器Iを対象として判定を行うことができる。
【0116】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
また、上述した一連の処理は、ハードウェアにより実行させることもできるし、ソフトウェアにより実行させることもできる。
換言すると、上述の実施形態における機能的構成は例示に過ぎず、特に限定されない。すなわち、上述した一連の処理を全体として実行できる機能が医療判定システムSを構成するいずれかのコンピュータに備えられていれば足り、この機能を実現するためにどのような機能ブロックを用いるのかは特に示した例に限定されない。
また、1つの機能ブロックは、ハードウェア単体で構成してもよいし、ソフトウェア単体で構成してもよいし、それらの組み合わせで構成してもよい。
【0117】
また、上述した一連の処理を実行するためのプログラムを含む記録媒体は、ユーザにプログラムを提供するために装置本体とは別に配布されるリムーバブルメディアにより構成されるだけでなく、装置本体に予め組み込まれた状態でユーザに提供される記録媒体等で構成される。
【0118】
また、上述した実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0119】
S 医療判定システム、10,10a,10b 測定デバイス、10-1,10-1a 第1筐体、10-2,10a-2,10b-2 第2筐体、11 第1のセンサ、12、21 プロセッサ、13、22 ROM、14、23 RAM、15、27 ドライブ、16、24 入力部、17、26 出力部、18 第2のセンサ、19 バッテリ、111 センサ制御部、112 判定用データ測定部、20 医療判定装置、30 リムーバブルメディア、211 判定対象データ取得部、212 判定実行部、213 結果提示部、251 判定対象データ記憶部、252 基準データ記憶部、I,Ia,Ib 吸入器、U ユーザ
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