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特開2023-159969流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法、流体供給管付き鋼管杭
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159969
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法、流体供給管付き鋼管杭
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/24 20060101AFI20231026BHJP
   E02D 5/28 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
E02D5/24 103
E02D5/28
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069930
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 名央
(72)【発明者】
【氏名】松井 良典
(72)【発明者】
【氏名】粟津 進吾
【テーマコード(参考)】
2D041
【Fターム(参考)】
2D041AA02
2D041BA19
2D041BA33
2D041CB06
2D041DB02
(57)【要約】
【課題】回転接合されると共に杭内面及び/または杭先端に流体を供給する流体供給管を備えた流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法、流体供給管付き鋼管杭を提供する。
【解決手段】本発明に係る流体供給管付き鋼管杭5の回転接合方法は、下杭側流体供給管3bが取り付けられた下杭5bの上方に、上杭側流体供給管3aが内面側に保持された上杭5aを吊り支持する上杭吊り支持工程と、上杭側流体供給管3aを下杭側流体供給管3bに接続する流体供給管接続工程と、上杭側流体供給管3aの上部を上杭5aに対して周方向の移動を規制した状態で上杭を下杭5bに回転接合する杭回転接合工程とを備え、上杭吊り支持工程において、上杭側流体供給管3aはその上部が上杭5aの内面に対して周方向に移動しないように移動規制されており、杭回転接合工程において、回転接合開始時に上杭側流体供給管3aに生じた上杭内面に沿う撓みが解消するように回転接合が行われる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転接合されると共に杭軸方向に配設されて杭内面及び/または杭先端に流体を供給する流体供給管を備えた流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法であって、
下杭側流体供給管が取り付けられて地盤に打設された下杭の上方に、上杭側流体供給管が内面側に保持された上杭を吊り支持する上杭吊り支持工程と、前記上杭側流体供給管を前記下杭側流体供給管に接続する流体供給管接続工程と、前記上杭側流体供給管の上部を前記上杭に対して周方向の移動を規制した状態で前記上杭を前記下杭に回転接合する杭回転接合工程と、を備え、
上杭吊り支持工程において、前記上杭側流体供給管はその上部が前記上杭の内面に対して周方向に移動しないように移動規制されており、前記杭回転接合工程においては、回転接合開始時に前記上杭側流体供給管に生じた前記上杭内面に沿う撓みが解消するように回転接合が行われることを特徴とする流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法。
【請求項2】
前記上杭吊り支持工程において、前記上杭側流体供給管はその上部が前記上杭の内面に対して周方向及び径方向に移動せず、軸方向に移動可能なように移動規制されていることを特徴とする請求項1に記載の流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法。
【請求項3】
前記杭回転接合工程の完了時に前記上杭側流体供給管の下部が前記上杭の下部内面に対して周方向の移動が規制される上杭側流体供給管下部周方向移動規制工程をさらに備え、
該上杭側流体供給管下部周方向移動規制工程は、上杭内面に設けた係合部に前記上杭側流体供給管が係合することで、前記上杭側流体供給管の周方向移動が規制されることを特徴とする請求項1又は2に記載の流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法。
【請求項4】
前記係合部は、杭軸方向に延びて前記上杭側流体供給管が挿入される溝部と、該溝部に向かって登り傾斜となる傾斜面部とを備えてなり、
上杭側流体供給管下部周方向移動規制工程は、前記上杭側流体供給管が径方向に移動することで前記傾斜面部を乗り越えて前記溝部に挿入されることを特徴とする請求項3に記載の流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法。
【請求項5】
鋼管と、該鋼管の端部に設けられた継手部と、前記鋼管の管軸方向に配設されて鋼管内面及び/または鋼管先端に流体を供給する流体供給管を備えた流体供給管付き鋼管杭であって、
前記鋼管上部内面に設けられて前記流体供給管を周方向に移動しないように移動規制する移動規制部と、
前記鋼管下部内面に設けられて前記流体供給管に係合して該流体供給管の周方向の移動を規制する係合部と、を備え、
該係合部と前記移動規制部とは、鋼管内面における周方向同位置に設けられていることを特徴とする流体供給管付き鋼管杭。
【請求項6】
前記移動規制部は、前記流体供給管を周方向及び径方向に移動せず、軸方向には移動可能なように移動規制することを特徴とする請求項5に記載の流体供給管付き鋼管杭。
【請求項7】
前記係合部は、杭軸方向に延びて前記流体供給管が挿入される溝部と、該溝部に向かって登り傾斜となる傾斜面部とを備えてなることを特徴とする請求項5又は6に記載の流体供給管付き鋼管杭。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回転接合される鋼管杭の回転接合方法に関し、特に杭軸方向に配設されて杭内面及び/または杭先端に流体を供給する流体供給管を備えた流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法、流体供給管付き鋼管杭に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭の接合には溶接継手が使われることが一般的であるが、火気が使えない場合や、接合時間を短縮する必要がある場合など、継ぎ部に機械式継手を用いるケースが増えてきており、このような機械式継手のひとつにねじ継手がある(特許文献1参照)。
【0003】
また、鋼管杭を打設する場合、施工性を向上させるため、流体供給管を鋼管杭の上端から下端まで鋼管杭内面に沿って配管し、流体供給管に水、掘削液、空気等を供給して杭下端等から吐出することが行われる(特許文献2、3参照)。
【0004】
流体供給管は、通常、工場や現場で事前に鋼管内面に取り付けられている(固定バンドや溶接等で固定)。(特許文献3:下杭側のパイプ固定)
鋼管杭に継ぎ(現場縦継ぎ溶接部または、置き場での横継溶接部)がある場合、上杭位置決め後、継ぎ部位置での流体供給管はソケットやジョイントパイプなどの部材を介して接続(連結)し、その後に上杭と下杭を溶接する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6575553号公報
【特許文献2】特許第4242251号公報
【特許文献3】特開2018-123670号公報
【特許文献4】特許第6354911号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
鋼管杭を継杭しながら打設するに際して、流体供給管を鋼管杭の内面に配設する場合、打設時に鋼管内部に流入する土の土圧などに流体供給管が耐え切れず、破損してしまう可能性がある。そのため、流体供給管は鋼管杭の打設前に鋼管杭の内面に固定する必要がある。
また、打設されている下杭に上杭を接合する際には、上杭内に流体供給管を挿通した状態で、下杭と上杭を接合する前に、下杭側の流体供給管の上端と上杭側の流体供給管の下端を接合し、その後、下杭と上杭を接合することになる。
【0007】
しかし、上杭と下杭の接合をねじ継手で行う場合において、上杭側の流体供給管の下端を下杭側の流体供給管の上端に接合し、かつ流体供給管をその全長に亘って上杭に固定した場合、上杭を回転させることができず、上杭を下杭に回転接合できないという問題があった。
なお、上記の問題は回転接合する機構としてねじ継手を用いたものに限られず、例えば特許文献4に開示された継手のように、外側継手管に内側継手管を挿入完了位置まで挿入して、挿入完了状態で外側継手管又は内側継手管を所定角度回転することで両者が係合して回転接合されるものでも同様の問題がある。
【0008】
本発明はかかる課題を解決するためになされたものであり、回転接合されると共に杭内面及び/または杭先端に流体を供給する流体供給管を備えた流体供給管付き鋼管杭において、ねじ継手等による回転接合が可能な流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法を提供することを目的としている。
また、このような回転接合を可能とする流体供給管付き鋼管杭を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明に係る鋼管杭の回転接合方法は、回転接合されると共に杭軸方向に配設されて杭内面及び/または杭先端に流体を供給する流体供給管を備えた流体供給管付き鋼管杭の回転接合方法であって、
下杭側流体供給管が取り付けられて地盤に打設された下杭の上方に、上杭側流体供給管が内面側に保持された上杭を吊り支持する上杭吊り支持工程と、前記上杭側流体供給管を前記下杭側流体供給管に接続する流体供給管接続工程と、前記上杭側流体供給管の上部を前記上杭に対して周方向の移動を規制した状態で前記上杭を前記下杭に回転接合する杭回転接合工程と、を備え、
上杭吊り支持工程において、前記上杭側流体供給管はその上部が前記上杭の内面に対して周方向に移動しないように移動規制されており、前記杭回転接合工程においては、回転接合開始時に前記上杭側流体供給管に生じた前記上杭内面に沿う撓みが解消するように回転接合が行われることを特徴とするものである。
【0010】
(2)上記(1)に記載のものにおいて、前記上杭吊り支持工程において、前記上杭側流体供給管はその上部が前記上杭の内面に対して周方向及び径方向に移動せず、軸方向に移動可能なように移動規制されていることを特徴とするものである。
【0011】
(3)また、上記(1)又は(2)に記載のものにおいて、前記杭回転接合工程の完了時に前記上杭側流体供給管の下部が前記上杭の下部内面に対して周方向の移動が規制される上杭側流体供給管下部周方向移動規制工程をさらに備え、
該上杭側流体供給管下部周方向移動規制工程は、上杭内面に設けた係合部に前記上杭側流体供給管が係合することで、前記上杭側流体供給管の周方向移動が規制されることを特徴とするものである。
【0012】
(4)また、上記(3)に記載のものにおいて、前記係合部は、杭軸方向に延びて前記上杭側流体供給管が挿入される溝部と、該溝部に向かって登り傾斜となる傾斜面部とを備えてなり、
上杭側流体供給管下部周方向移動規制工程は、前記上杭側流体供給管が径方向に移動することで前記傾斜面部を乗り越えて前記溝部に挿入されることを特徴とするものである。
【0013】
(5)本発明に係る流体供給管付き鋼管杭は、鋼管と、該鋼管の端部に設けられた継手部と、前記鋼管の管軸方向に配設されて鋼管内面及び/または鋼管先端に流体を供給する流体供給管を備えたものであって、
前記鋼管上部内面に設けられて前記流体供給管を周方向に移動しないように移動規制する移動規制部と、
前記鋼管下部内面に設けられて前記流体供給管に係合して該流体供給管の周方向の移動を規制する係合部と、を備え、
該係合部と前記移動規制部とは、鋼管内面における周方向同位置に設けられていることを特徴とするものである。
【0014】
(6)また、上記(5)に記載のものにおいて、前記移動規制部は、前記流体供給管を周方向及び径方向に移動せず、軸方向には移動可能なように移動規制することを特徴とするものである。
【0015】
(7)また、上記(5)又は(6)に記載のものにおいて、前記係合部は、杭軸方向に延びて前記流体供給管が挿入される溝部と、該溝部に向かって登り傾斜となる傾斜面部とを備えてなることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、回転接合されると共に杭先端に流体を供給する流体供給管を備えた鋼管杭において、上杭と下杭の回転接合を容易にかつ効率よく行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施の形態に係る流体供給管付き鋼管杭5の回転接合方法の施工手順の説明図である。
図2】実施の形態における上杭5aを吊り支持する工程で用いる部材の説明図である。
図3】実施の形態における上杭5aを吊り支持する工程の一例の説明図である。
図4】実施の形態における上杭5aを吊り支持する工程で用いる三又部材の設置方法の説明図である。
図5】実施の形態における上杭5aを吊り支持する工程で用いる移動規制部の説明図である。
図6】実施の形態における流体供給管接続工程で用いる接続部材の説明図である。
図7】上杭側流体供給管3aの周方向の移動規制を行った状態の施工例の説明図であり、(a)は移動規制部材12を、(b)は上杭側流体供給管3aを2本配設した様子を、(c)は上杭側流体供給管3aがねじれる様子を、それぞれ示している。
図8】実施の形態における上杭側流体供給管3aの下部の周方向移動規制を行う場合に用いる係合部の説明図である。
図9】実施の形態における杭回転接合工程における上杭上部、上杭下部、下杭の相対関係の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態では、杭を回転接合するための機構として、杭端部にねじ継手1を用いる場合を例に挙げて説明する。
本発明に係る鋼管杭の回転接合方法は、図1に示すように、回転接合されると共に杭軸方向に配設されて杭内面及び/または杭先端に流体を供給する流体供給管3を備えた流体供給管付き鋼管杭5の回転接合方法であって、下杭側流体供給管3bが取り付けられて地盤に打設された下杭5bの上方に、上杭側流体供給管3aが内面側に保持された上杭5aを吊り支持する上杭吊り支持工程と、上杭側流体供給管3aを下杭側流体供給管3bに接続する流体供給管接続工程と、上杭側流体供給管3aの上部を上杭5aに対して周方向の移動を規制した状態で上杭5aを下杭5bに回転接合する杭回転接合工程と、を備えている。
以下、各工程と各工程に用いる機器について説明する。
なお、本発明においては外径が、φ300mm~φ2000mm程度の鋼管杭を対象としている。
【0019】
<上杭吊り支持工程>
上杭吊り支持工程は、下杭側流体供給管3bが取り付けられて地盤に打設された下杭5bの上方に、上杭側流体供給管3aが内面側に保持された上杭5aを吊り支持する工程である(図1(a)参照)。
上杭吊り支持工程において、上杭側流体供給管3aはその上部が上杭5aの内面に対して周方向移動しないが、軸方向には移動可能なように移動規制されている。
【0020】
上杭吊り支持工程においては、鋼管を吊り支持する部材と上杭側流体供給管3aの上部の移動規制をする部材(以下、単に「移動規制部材」)が必要となるので、これらの部材について以下説明する。
【0021】
《鋼管を吊り支持するための部材》
鋼管を吊り支持するための部材としては、例えば図2に示す、吊天秤7(図2(a))と三又部材9(図2(b))が挙げられる。
【0022】
吊天秤7は、図3に示すように、ねじ継手1を有する上杭5aを2箇所で吊り、上杭5aは吊天秤7で吊られることで、吊天秤7と共に回転できる。
三又部材9は、上杭側流体供給管3aを上杭5a内に配置した状態で保持するための部材である。
【0023】
三又部材9は、図2(b)に示すように、120度の間隔で配置された3つの辺部9aの基端部が中央で接合され、各辺部9aの先端には上杭側流体供給管3aを挿通するための長穴9b(図4参照)が設けられている。三又部材9を用いることで、3本の上杭側流体供給管3aを保持することができる。
三又部材9は、長穴9bに上杭側流体供給管3aを挿通して保持した状態で上杭5aに仮り取付(着脱可能な固定具で一時的に固定すること)し、図3に示す吊天秤7の中央部に設けたチェーン11などで吊り下げて、上杭5aの上端面近傍に配置する。
三又部材9に設けた長穴9bは径方向に長いので、長穴9bに挿通されている上杭側流体供給管3aは長穴9b内を径方向に移動することができる。
【0024】
《移動規制部材》
移動規制部材12は、上杭側流体供給管3aの上部が上杭5aの内面に対して周方向及び径方向に移動しないが、軸方向には移動可能なように移動規制する部材である。
移動規制部材12の具体例としては、図5(a)に示すように、挿通された上杭側流体供給管3aを囲むような箱状部材や、図5(b)に示すように、上杭側流体供給管3aが挿入可能は隙間を空けて対向配置された一対のブロック体12aと挿入された上杭側流体供給管3aが抜け出すのを防止する蓋部材12bで構成されたものが例示できる。
なお、上記の移動規制部材12は、上杭側流体供給管3aの上部に対して、周方向及び径方向に移動しないようにしたものであるが、本発明に係る移動規制部材は、上杭側流体供給管の上部の径方向の移動規制を必須とするものではなく、周方向の移動規制のみで径方向の移動規制を行わないものも含む。例えば、図5(b)に示す例において、蓋部材12bがない態様も含む。このような場合であっても、ブロック体12aの高さがある程度あれば、上杭側流体供給管3aがブロック体12aによって形成された隙間から飛び出ることはなく、周方向の移動規制が可能なためである。
もっとも、図5(b)で示されるように、蓋部材12bを設けて上杭側流体供給管3aが径方向に移動しないようにした方が、後述する杭回転接合工程において、上杭側流体供給管3aが移動規制部材12から外れてしまうことを防止して、周方向の移動規制を確実に行うことができる。
さらに、移動規制部材12の形状は特に限定されるものではなく、上杭側流体供給管3aの上部が周方向に移動しないが、軸方向には移動可能なようにできればよい。
【0025】
なお、移動規制部材12の機能として上杭側流体供給管3aを軸方向に移動可能とする理由は、上杭5aと下杭5bをねじ継手1によって回転接合する際に、上杭側流体供給管3aが上杭5aに対して軸方向に相対移動する必要があるからである。
もっとも、後述するように、上杭側流体供給管3aと下杭側流体供給管3bの接続部にフレキシブルチューブ等の柔軟性のある部材を介在させる場合には、上杭側流体供給管3aを軸方向に移動可能とする必要はない。
【0026】
<流体供給管接続工程>
流体供給管接続工程は、上杭側流体供給管3aを下杭側流体供給管3bに接続する工程である(図1(b)参照)。
ねじ継手接合部付近の流体供給管3は、回転接合する継手付鋼管杭の鋼管内面形状に対応できるように、例えば、図6に示すように、ねじ継手1を避けるように鋼管内側に向けて屈曲する形状にする。上杭側流体供給管3aの下端や下杭側流体供給管3bの上端の接続部は例えばカプラー13によって接続する。接続用の部材としては、カプラー13の他、ソケットやジョイントパイプ等でもよい。
【0027】
上杭側流体供給管3aを接続するのにカプラー13等のように軸回りの回転ができるもので接続するようにしてもよい。その理由は、本実施の形態では、上杭側流体供給管3aを下杭側流体供給管3bと接続し、上杭側流体供給管3aの上端部を上杭5aの上端部に移動規制させた状態で、上杭5aを回転接合に必要な回転角だけ回転させるため、上側供給管3a全体をねじる方向の力が作用する。このとき、カプラー13等のように軸回りの回転が可能なものであれば、上杭側流体供給管3a及び下杭側流体供給管3bの軸回りのねじれを緩和できる。
【0028】
なお、カプラー13等と流体供給管3との間にフレキシブルチューブなどの柔軟性のある部材を挟むようにすれば、流体供給管3全体のねじれを抑制し、カプラー13等による接続部の微調整をしやすくする効果が期待できる。
また、上述したように、柔軟性のある部材を用いた場合には、移動規制部材12は上杭側流体供給管3aを周方向及び軸方向で移動規制するようにしてもよい。
また、流体供給管3は1本だけでなく複数本使用するケースもあるが、2本以上の場合は、流体供給管3の接続部(カプラー13他)の高さをずらすようにしてもよい。高さをずらした場合は、流体供給管3を1本ずつ接続することができるので作業性が良い。
なお、図5では、ねじ継手1の接続後の配置関係を示している。
【0029】
<杭回転接合工程>
杭回転接合工程は、上杭側流体供給管3aの上部を上杭5aに対して周方向の移動を規制した状態で上杭5aを下杭5bに回転接合する工程である。
この工程では、上杭5aを回転接合する回転方向(正回転方向)と逆方向に回転接合分だけ回転させた後、上杭5aの継手部を下杭5bの継手部に芯合わせして当接させ(図1(c)参照)、その後、上杭5aを回転接合方向(正回転方向)に回転させる(図1(c)→図1(d))。
このような手順によるため、回転接合開始時に上杭側流体供給管3aに生じた上杭5a内面に沿う撓みが、回転接合が進むにつれて解消するように回転接合が行われる。すなわち、上杭側流体供給管3aは上杭5aを回転接合する直前では、図1(c)に示すように、全体がねじれているが、上杭5aを回転することでねじれが徐々に解消され、ねじ継手1の回転接合が完了した状態では、上杭側流体供給管3aと下杭側流体供給管3bはほぼ一直線の状態になる。
【0030】
上杭5aを回転する方法としては、特に限定されるものではないが、回転バンド14を使った人力による回転や、牽引工具を用いた回転、施工機械の回転機構を利用した回転などが想定できるが、現場の状況に応じて適切なものを選択すればよい。
本実施の形態では、上杭5aは図3に示すように吊天秤7に吊られているので、簡単に回すことができる。
なお、接合完了後に逆回転を防止するためのピンを設置してもよい。
【0031】
ねじ継手1の回転接合が完了した状態において、流体供給管3の周方向の移動は移動規制部材12によって規制されているので、杭貫入時に杭内に流入する土によって流体供給管3が移動するのを効果的に防止でき、杭貫入時の流体供給管3の変形や外れを防止することができる。
【0032】
図7は、実施工の例を示す写真であり、図7(a)は、上杭側流体供給管3aが移動規制部材12に移動規制されている様子を示し、図7(b)は2本の上杭側流体供給管3aが上杭5aに移動規制されている状態を示し、図7(c)は回転接合工程の初期に上杭5aを回転させることで上杭側流体供給管3aがねじれる様子を示している。
【0033】
なお、上記の例は上杭側流体供給管3aが仮り取付された上杭5aを吊り支持するものであったが、上杭5aを吊り支持した後で上杭側流体供給管3aを上杭5a内に挿入するようにしてもよい。
【0034】
また、上記の説明は、上杭側流体供給管3aの上部のみを移動規制部材12によって移動を規制したものであった。杭長が短い場合はこれでよいが、杭長が長に場合には上杭側流体供給管3aも長くなるため、回転接合完了時点において上杭側流体供給管3aの下部も上杭5aの内面に移動規制されるようにした方が好ましい。
しかし、上杭側流体供給管3aの下部は接続される下杭側流体供給管3bとの距離が近いので、回転接合前に上杭5aに対して移動規制すると回転接合ができなくなる。
そこで、回転接合完了前には移動規制されないが回転接合完了時点で移動規制されるような構造が必要となる。以下、この点について説明する。
【0035】
このような構造の例としては、図8(a)に示すように、平面視で直角三角形の2つの三角ブロック体15aを、各部材の直角を挟む辺部9aを所定の間隔(流体供給管3の外径より少し大きい間隔)離して対向配置することで溝部15bを形成して上杭5a内面に固定した係合部や、図8(b)に示すように、三角ブロック体15aとL字片15cを組み合わせたものであって、L字片15cの開口側を上杭5aの周方向の片側に向けて上杭5a内面に固定し、上杭5aの内周面であってL字片15cの開口側に三角ブロック体15aを固定した係合部が挙げられる。
【0036】
係合部15の上杭周方向の個数は、流体供給管3の本数に合わせて設定する。また、係合部15の上杭軸方向の個数や設置位置は、上杭5aの寸法(径や長さ)や、杭施工機の仕様に合わせて選択すればよい。もっとも、杭頭付近とねじ継手近傍などには、軸方向の間隔を狭くして複数個設けるようにしてもよい。
【0037】
なお、係合部15は、上杭5aの上部に設ける移動規制部12と鋼管内面における周方向同位置に設けられている。
係合部15を設けることで、杭回転接合工程の完了時に上杭側流体供給管3aの下部が上杭5aの下部内面に対して周方向の移動が規制される上杭側流体供給管下部周方向移動規制工程が加わることになる。
【0038】
図8においては、杭回転接合工程の終盤において上杭5aが回転することで上杭側流体供給管3aが上杭周方向に相対移動して係合部15に係合する上杭側流体供給管下部周方向移動規制工程を図示している。
図8(a)の態様では、上杭側流体供給管3aが径方向に相対移動することで係合部15である三角ブロック体15aの傾斜面部を乗り越えて溝部15bに挿入され係止される。
また、図8(b)の態様では、上杭側流体供給管3aが径方向に相対移動して係合部15を構成する三角ブロック体15aの傾斜面部を乗り越えてL字片15cと三角ブロック体15aで形成される溝部15bに入って係止される。
【0039】
このように、上杭5aの下部に係合部15を設けることで、杭回転接合工程の終了時に上杭側流体供給管3aの下部が上杭5aの内周面に対して周方向の移動が規制されることになり、杭長が長い場合であっても、杭貫入時に杭内に流入する土によって流体供給管3が移動するのを効果的に防止でき、杭貫入時の流体供給管3の変形や外れを防止することができる。
【0040】
次に、鋼管杭の回転接合方法を実施したときの流体供給管3、上杭5aの上部、上杭5aの下部及び下杭5bの相対関係について、図8に示した係合部15を上杭5aの下部に設けた場合を例に挙げて、図9に基づいて説明する。
図9Aは上杭5aの上部を、図9Bは上杭5aの下部を、図9Cは下杭5bを、それぞれ上からのぞき込んだ状態の内面を示している。
また、図中の(1)~(5)は、回転接合の進行する各段階の様子を示したものであり、(1)は流体供給管接合時、(2)はねじ継手接合準備(芯合わせ)、(3)及び(4)はねじ継手接合中、(5)はねじ継手接合完了の状態をそれぞれ示している。
【0041】
(1)流体供給管接合時
流体供給管接合時においては、上杭側流体供給管3aの上部は、図9A(1)移動規制部材12によって周方向の移動が規制された状態になっている。
また、上杭側流体供給管3aの下部は、図9B(1)に示すように、係合部15から時計回り方向にずれた位置にある。
また、下杭側流体供給管3bはその上端部が上杭側流体供給管3aの下端部と接合されているので、図9C(1)に示すように、上杭側流体供給管3aの上部と平面視で同位置にある。
【0042】
(2)ねじ継手接合準備(芯合わせ)
ねじ継手接合準備(芯合わせ)においては、図9(1)の状態から回転接合方向と逆回転方向(反時計回り)に90°回転する。
この状態は、上杭側流体供給管3aの下端は下杭側流体供給管3bと接合され、上端部は上杭5aと共に回転するため、上杭側流体供給管3aはねじれた状態となる(図1(c)、図7(c)参照)。
【0043】
(3)(4)ねじ継手接合中
ねじ継手接合中は、図9(2)の状態から回転接合方法(時計回り)に回転させている状態であり、図9(3)は図9(2)の状態から約45°回転した状態である。図9B(3)に示すように、この状態では、係合部15が上杭側流体供給管3aの下端部に近づいている。
図9(4)は図9(3)の状態からさらに少しだけ時計回りに回転させた状態であり、図9B(4)に示すように、上杭側流体供給管3aの下端部が係合部15の傾斜面を登っている。
【0044】
(5)ねじ継手接合完了
ねじ継手接合完了状態では、上杭5aの回転方向の位置が図9(1)の流体供給管接合時の位置に戻っている。そして、上杭側流体供給管3aの下端部は係合部15の溝部15aに入り込んでいる。そして、この状態では、上杭側流体供給管3aの上部、下部及び下杭側流体供給管3bは周方向の位置が同位置で一直線状になっている(図1(d)参照)。
一連の流れの中で、図9(1)~図9(5)に示されるように、下杭5bは回転せず、また下杭5bと流体供給管3の相対位置は変わらない。
【0045】
本実施の形態によれば、ねじ継手1で回転接合されると共に杭先端に流体を供給する流体供給管3を備えた鋼管杭において、上杭5aと下杭5bの接合時に流体供給管3の接合と鋼管杭の回転接合を容易にかつ効率よく行うことができる。
【0046】
なお、上記の実施の形態の上杭5aを吊り支持する工程においては、上杭側流体供給管3aを上杭5aに保持するための部材として三又部材9を用いた例を示したが、本発明はこれに限られるものではなく、上杭側流体供給管3aが落下しないように保持できるものであればその形態は特に限定されない。
【0047】
上記の実施の形態は、杭を回転接合するための機構として、杭端部にねじ継手を用いたものを例示して説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、接合時に回転を伴う継手部を用いるものであれば適用可能である。このような継手部の例としては、外側継手管に内側継手管を挿入完了位置まで挿入して、挿入完了状態で外側継手管又は内側継手管を所定角度回転することで両者が係合して回転接合されるものが挙げられる。
【符号の説明】
【0048】
1 ねじ継手
3 流体供給管
3a 上杭側流体供給管
3b 下杭側流体供給管
5 流体供給管付き鋼管杭
5a 上杭
5b 下杭
7 吊天秤
9 三又部材
9a 辺部
9b 長穴
11 チェーン
12 移動規制部材
12a ブロック体
12b 蓋部材
13 カプラー
14 回転バンド
15 係合部
15a 三角ブロック体
15b 溝部
15c L字片
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9