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特開2023-159984切断装置及びコンクリート部材の切断工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159984
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】切断装置及びコンクリート部材の切断工法
(51)【国際特許分類】
   E01D 24/00 20060101AFI20231026BHJP
   E01D 22/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
E01D24/00
E01D22/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069955
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(71)【出願人】
【識別番号】508036743
【氏名又は名称】株式会社横河ブリッジ
(71)【出願人】
【識別番号】593184363
【氏名又は名称】コンクリートコーリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丈達 康太
(72)【発明者】
【氏名】長塚 渉
(72)【発明者】
【氏名】青木 峻二
(72)【発明者】
【氏名】白水 晃生
(72)【発明者】
【氏名】藤尾 浩太
【テーマコード(参考)】
2D059
【Fターム(参考)】
2D059AA14
2D059BB39
2D059GG41
(57)【要約】
【課題】ワイヤーソーを利用してコンクリート部材に、部材厚方向の幅を有する切断面を、部材厚に制限を設けることなく精密かつ平滑に形成する。
【解決手段】コンクリート部材に切断面を形成する切断装置であって、前記コンクリート部材を貫通して配置されるエンドレス状のワイヤーソーと、前記ワイヤーソーを周回走行させる駆動機構と、前記ワイヤーソーの余長部を収納するストレージ機構と、前記ワイヤーソーが掛け回される複数の従動プーリと、前記従動プーリを支持する一対の支持装置及び一対の走行装置と、を備え、一対の前記支持装置は、前記コンクリート部材の表面側及び裏面側に配置され、一対の該走行装置はそれぞれ、前記コンクリート部材の表面側及び裏面側を、前記切断面の形成方向に走行可能に配置される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート部材に切断面を形成する切断装置であって、
前記コンクリート部材を貫通して配置されるエンドレス状のワイヤーソーと、
前記ワイヤーソーを周回走行させる駆動機構と、
前記ワイヤーソーの余長部を収納するストレージ機構と、
前記ワイヤーソーが掛け回される複数の従動プーリと、
前記従動プーリを支持する一対の支持装置及び一対の走行装置と、を備え、
一対の前記支持装置は、前記コンクリート部材の表面側及び裏面側に配置され、
一対の該走行装置はそれぞれ、前記コンクリート部材の表面側及び裏面側を、前記切断面の形成方向に走行可能に配置されることを特徴とする切断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の切断装置において、
前記コンクリート部材の表面側及び裏面側に、前記走行装置の走行方向を案内するガイド部が対をなして設けられていることを特徴とする切断装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の切断装置において、
前記走行装置が、自走式の走行手段を備えていることを特徴とする切断装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の切断装置において、
前記走行装置が、牽引式の走行手段により走行することを特徴とする切断装置。
【請求項5】
請求項1に記載の切断装置において、
前記コンクリート部材が、橋梁を構成するコンクリート床版もしくは床版橋であることを特徴とする切断装置。
【請求項6】
請求項1に記載の切断装置を用いたコンクリート部材の切断工法であって、
前記コンクリート部材の表面側及び裏面側に配置した一対の前記走行装置を走行させることにより、該走行装置の間で前記ワイヤーソーを前記コンクリート部材に押し当てつつ、
前記駆動機構を介して前記ワイヤーソーを周回走行させることを特徴とするコンクリート部材の切断工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート部材を切断する切断装置、及び切断装置を用いたコンクリート部材の切断工法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、道路のアスファルトもしくはコンクリート舗装を切断する際、円盤形状のカッターブレードを採用する場合がある。特許文献1には、ブレード駆動装置により回転するカッターブレードを車輪とともに台車の下部に設けたコンクリートカッターが開示されている。カッターブレードは、切断面が精密かつ平滑であるだけでなく、曲線状の切断面を形成できるなど利点が多い。
【0003】
このため、道路橋の床版やあるいは床版橋(中空床版橋もしくはフォロースラブ)の更新工事などで、劣化した既設床版の撤去作業時にも採用されている。ところが、切断対象となる既設床版の床版厚が800mm程度を超えると一度の切断作業で全厚を切断できない。したがって、100mm程度づつ複数回にわたって切断を繰り返す、いわゆるステップカットを実施せざるを得ない。
【0004】
ステップカットは、作業に多大な時間を要するだけでなく、カッターブレードに噛み込みが生じるなど不具合が多い。このため、既設床版の部材厚が大きくなると、ワイヤーソーで切断することが一般的である。特許文献2には、ワイヤーソーを用いた橋梁の床版用解体装置が開示されている。
【0005】
特許文献2の橋梁の床版用解体装置は、作業者の操作により前後方向に進退する装置本体に、第一切削手段と第二切削手段とを搭載している。第一切削手段は、鋼製桁の上側フランジに植設されたスタッドと、上側フランジの直上の床版との間を橋軸方向に沿って切断し、水平切断面を形成する。第二切削手段は、床版の鋼製桁を挟んだ左右両側を橋軸方向に沿って切削し、鉛直切断面を形成する。そして、この第一切削手段及び第二切削手段に、無端のワイヤーソーを採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-138127号公報
【特許文献2】特開2019-031868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2によれば、作業員が床版用解体装置を手押し、もしくは手引きすることで、ワイヤーソーを採用した第二切削手段により床版厚の大きい既設床版に、鉛直切断面を橋軸方向に沿って形成できる。ところが、ワイヤーソーは既設床版に押し当てると、既設床版の脆弱な部分に向けて進行しやすいため、予定する切断線に精密に沿わせて切断することが困難である。このため、作業員は、ワイヤーソーの切断方向が予定する切断線から逸脱するたびに、手動により切断方向を修正する必要が生じる。
【0008】
しかし、切断方向の修正を繰り返すと切断面に凹凸が形成されやすい。すると、切断後に撤去部分の既設床版を揚重しようとしても、残置部分の既設床版との間で競り合いが生じてスムーズに揚重できない。このため、いわゆる2条切りを行って揚重するためのクリアランスを設ける必要があるなど、撤去作業に多大な手間を要する。
【0009】
また、ワイヤーソーを採用して既設床版を鉛直切断するには、既設床版の上下にそれぞれワイヤーソーを掛け回すプーリを配置する必要がある。しかし、特許文献2では、その具体的な構成が明示されておらず、無端のワイヤーソーを採用して、既設床版を鉛直切断することの可能な具体的な構造が不明である。
【0010】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、ワイヤーソーを利用してコンクリート部材に、部材厚方向の幅を有する切断面を、部材厚に制限を設けることなく精密かつ平滑に形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
かかる目的を達成するため、本発明の切断装置は、コンクリート部材に切断面を形成する切断装置であって、前記コンクリート部材を貫通して配置されるエンドレス状のワイヤーソーと、前記ワイヤーソーを周回走行させる駆動機構と、前記ワイヤーソーの余長部を収納するストレージ機構と、前記ワイヤーソーが掛け回される複数の従動プーリと、前記従動プーリを支持する一対の支持装置及び一対の走行装置と、を備え、一対の前記支持装置は、前記コンクリート部材の表面側及び裏面側に配置され、一対の該走行装置はそれぞれ、前記コンクリート部材の表面側及び裏面側を、前記切断面の形成方向に走行可能に配置されることを特徴とする。
【0012】
本発明の切断装置は、前記コンクリート部材の表面側及び裏面側に、前記走行装置の走行方向を案内するガイド部が対をなして設けられていることを特徴とする。
【0013】
本発明の切断装置は、前記走行装置が、自走式の走行手段を備えていることを特徴とする。
【0014】
本発明の切断装置は、前記走行装置が、牽引式の走行手段により走行することを特徴とする。
【0015】
本発明の切断装置は、前記コンクリート部材が、橋梁を構成するコンクリート床版や床版橋であることを特徴とする。
【0016】
本発明のコンクリート部材の切断工法は、本発明の切断装置を用いたコンクリート部材の切断工法であって、前記コンクリート部材の表面側及び裏面側に配置した対をなす前記走行装置を走行させることにより、該走行装置の間で前記ワイヤーソーを前記コンクリート部材に押し当てつつ、前記駆動機構を介して前記ワイヤーソーを周回走行させることを特徴とする。
【0017】
本発明の切断装置及びコンクリート部材の切断工法によれば、エンドレス状のワイヤーソーが掛け回される従動プーリを支持する一対の走行装置を、コンクリート部材の表面側及び裏面側に配置する。これにより、薄板状もしくは層厚状などコンクリート部材の部材厚に制限を設けることなく、1度の切断作業で表面側から裏面側に至る幅を有する切断面を、走行装置の走行方向に連続して形成することができる。
【0018】
また、ワイヤーソーによる切断方向(切断面を形成する方向)を、一対の走行装置により制御できる。これにより、ワイヤーソーの切断方向を計画切断線に精密に沿わせた凹凸の少ない平滑な切断面を、容易に形成できる。このとき、走行装置をガイド部で案内すれば、より精密な切断面を形成できる。
【0019】
さらに、凹凸の少ない平滑な切断面を形成できることにより、切断作業を実施したのちコンクリート部材の切断部分を揚重する際、残置されたコンクリート部材との間で競り合いが生じる現象を低減させ、撤去作業の効率化を図ることが可能となる。また、走行装置は自走式もしくは牽引式などいずれの構造も採用でき、コンクリート部材を切断する切断速度も、ワイヤーソー切断の一般的な速度を維持できるため、工期に支障をきたすこともない。
【0020】
したがって、例えば、道路橋の床版取替工事(既設床版を切断撤去し、新設床版に取替える工事)、あるいは橋の架け替え工事(既設床版橋の部材を切断撤去し、新設床版橋の部材に取り替える工事)において、コンクリート造の既設床版もしくは床版橋の切断作業に採用すると、床版や床版橋取替工事に係る作業効率の向上に寄与できる。
【0021】
また、ワイヤーソーによる切断方向を計画切断線に精密に沿わせた切断面を形成できることから、計画切断線に沿って確保する設計余裕代を、幅狭に設定することも可能となる。これにより、上記の道路橋の床版もしくは床版橋取替工事を、半断面床版取替工法(車線規制を行いながら半断面ごとに既設床版もしくは床版橋を撤去する工法)で実施する場合に、計画切断線を供用中の車線との間に設けられた規制線に近傍して設定し、切断作業を実施することも可能となる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、エンドレス状のワイヤーソーが掛け回される従動プーリを支持する一対の走行装置を、コンクリート部材の表面側及び裏面側に配置することで、コンクリート部材に部材厚方向の幅を有する切断面を、部材厚に制限を設けることなく精密かつ平滑に形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の実施の形態における橋軸方向から見た切断装置を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における橋軸直角方向から見た切断装置を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における橋軸方向からみた第1及び第2走行装置を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における切断装置を用いて中空床版に切断面を形成する様子を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における切断装置の他の事例を示す図である(設備ユニットの位置)。
図6】本発明の実施の形態における切断装置の他の事例を示す図である(第1及び第2走行装置の走行手段)。
図7】本発明の実施の形態における切断装置の他の事例を示す図である(第1支持装置の設置位置)。
図8】本発明の実施の形態における切断装置の他の事例を示す図である(切断面の姿勢)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、コンクリート部材に部材厚方向の幅を有する切断面を形成するための装置及び方法である。切断対象であるコンクリート部材は、建物の床スラブや壁体、橋梁のコンクリート床版、床版橋や人工地盤などいずれにも採用可能である。
【0025】
また、ワイヤーソーによる切断方式も、押切り方式もしくは引切り方式のいずれも採用可能である。以下に、道路橋の床版もしくは床版橋取替工事(既設床版もしくは床版橋を切断撤去し、新設床版もしくは床版橋に取替える工事)において、既設のコンクリート床版を撤去するべく、押切り方式でコンクリート床版を橋軸方向に向けて切断する場合を事例に挙げ、図1図8を参照しつつ、切断装置及びコンクリート部材の切断工法の詳細を説明する。
【0026】
図1(a)及び(b)で示すように、中空床版橋200は、橋軸方向に円筒状の中空部を有するコンクリート造の中空床版201を備えている。この中空床版201を床版厚W方向に貫通するワイヤーソー10は、ダイヤモンドソーワイヤーをエンドレス状に加工したものであり、防護養生300に覆われた切断装置100に掛け回されている。
【0027】
≪≪≪切断装置100≫≫≫
切断装置100は、図2及び図3で示すように、第1及び第2走行装置40a、40bと、第1及び第2支持装置50a、50bと、設備ユニットDと、中空床版201の路面202側及び下面203側に設けた一対の走行レール60を備える。また、設備ユニットDと一対の走行レール60を、中空床版201に設置するための支持機構80を備えている。
【0028】
≪≪走行レール60≫≫
一対の走行レール60は、図2で示すように、中空床版201を挟んで路面202側及び下面203側の両者に設けられており、中空床版201に沿って延在するガイド部61と、ガイド部61を支持する複数のガイド支持具62とを備える。
【0029】
複数のガイド支持具62は、橋軸方向に間隔を設けて配置され、ガイド部61を橋軸方向に沿って延在するよう支持している。また、ガイド支持具62は、ガイド部61の延在方向にスライド自在に設置される一方で、中空床版201の路面202側及び下面203側の両者に、支持機構80を介して着脱自在に設置されている。
【0030】
支持機構80は、ガイド支持具62を安定して据え付ける構成を有していれば、なんら限定されるものではない。本実施の形態では、図3で示すように、ガイド支持具62に接続された柱脚部81と、柱脚部81を支持する架台82と、中空床版201に植設され架台82を固定するアンカー部材83とを採用している。
【0031】
上記のガイド支持具62に支持されたガイド部61は、ガイド支持具62に対して高さ方向に移動自在に取り付けられて、第1及び第2走行装置40a、40b、及び第1及び第2支持装置50a、50bを支持する。
【0032】
≪≪第1及び第2支持装置50a、50b≫≫
図2で示すように、第1支持装置50aは、ワイヤーソー10が掛回される第1~第3従動プーリ51~53及び第10従動プーリ56を支持する装置である。また、第2支持装置50bは、同じくワイヤーソー10が掛回される第8~第9従動プーリ54~55を支持する装置である。
【0033】
これらは各々、走行レール60のガイド部61に装着されるプーリ架台59を備えており、このプーリ架台59に上記の従動プーリ(51~56)が、鉛直回転自在に設置されている。そして、第1及び第2支持装置50a、50b各々の前方側(紙面左側)に、第1及び第2走行装置40a、40bが配置されている。
【0034】
≪≪第1及び第2走行装置40a、40b≫≫
図2で示すように、第1走行装置40aは、ワイヤーソー10が掛回される第4~第5従動プーリ41~42を支持する装置である。また、第2走行装置40bは、第6~第7従動プーリ43~44を支持する装置である。これらは各々、走行レール60のガイド部61に装着されるプーリ架台45を備えており、このプーリ架台45に上記の従動プーリ(41~44)が、鉛直回転自在に設置されている。
【0035】
また、プーリ架台45は、図3で示すように、第1及び第2走行装置40a、40bをガイド部61沿って走行させるための自走式の走行手段として、移動体46、移動体46を駆動する送り装置47を備えている。移動体46はいずれを採用してもよいが、例えば、ピニオンを採用し、これに対応するラックをガイド部61に形成するなどしてもよい。
【0036】
上記の第1及び第2支持装置50a、50bと第1及び第2走行装置40a、40bは、図4で示すように、いずれも中空床版201を挟んで路面202側及び下面203側に、対をなして配置されている。そして、これらに支持された各従動プーリは、いずれも鉛直方向に回転する。したがって、ワイヤーソー10は、中空床版201を挟んで路面202側及び下面203側を含む鉛直面内で、周回走行可能に配置されている。
【0037】
具体的には、路面202側では、第1支持装置50aに支持された第1~第3従動プーリ51~53が、設備ユニットDと第1走行装置40aとの間でワイヤーソー10を案内する。また、第1走行装置40aに支持された第4~第5従動プーリ41~42が、第1支持装置50aと第2走行装置40bとの間でワイヤーソー10を案内する。
【0038】
一方、下面203側では、第2走行装置40bに支持された第6~第7従動プーリ43~44が、第1走行装置40aと第2支持装置50bとの間でワイヤーソー10を案内する。また、第2支持装置50bに支持された第8~第9従動プーリ54~55が、第1支持装置50aに支持された第10プーリ56を介して、第2走行装置40bと設備ユニットDとの間で、ワイヤーソー10を案内する。
【0039】
そして、ワイヤーソー10は、第5及び第6従動プーリ42、43間と、第9及び第10従動プーリ55、56間で、中空床版201を貫通する。なお、本実施の形態において、鉛直は、中空床版201の床版厚Wに平行な方向をいう。また、水平は、中空床版201の床版厚Wに交差し、中空床版201の路面202または下面203に平行な方向をいう。
【0040】
≪≪設備ユニットD≫≫
設備ユニットDは、図2で示すように、駆動機構20とストレージ機構30とを、案内機構70で連結した構造物であり、中空床版201の路面202側であって、第1支持装置50aの後方側(紙面右側)に設置されている。
【0041】
駆動機構20は、ワイヤーソー10に一定の緊張力と高速回転力を付与するものであり、図1(b)で示すように、立設姿勢のプーリガイド22と、プーリガイド22に沿って昇降する昇降装置23とを備える。また、昇降装置23には、ワイヤーソー10を周回走行させる駆動プーリ21と、駆動プーリ21を駆動する駆動部24が設置されている。
【0042】
駆動プーリ21は鉛直回転することで、掛回されたワイヤーソー10に高速回転力を付与する。また、昇降装置23を介してプーリガイド22に沿って昇降することで、ワイヤーソー10に張力を付与することができる。
【0043】
ストレージ機構30は、図2で示すように、ワイヤーソー10の余長部を一定の緊張力が作用した状態に保持しつつ収納する。また、中空床版201の切断作業が進行し、図4で示すように、第1及び第2走行装置40a、40bが前進した際に、ワイヤーソー10を繰り出す機構である。これらの機能を有していればストレージ機構30は、いずれの構造を採用してもよいが、本実施の形態では、鉛直方向に回転する第1及び第2ガイドプーリ32、33と、これらを支持する立設姿勢のプーリホルダー31と、を採用している。
【0044】
案内機構70は、図2で示すように、梁状の連結部材76を備え、ストレージ機構30を構成する柱状のプーリホルダー31及び駆動機構20を構成するプーリガイド22各々の、下部近傍を連結するように設けられている。また、案内機構70は、ワイヤーソー10が掛回される第1~第5案内プーリ71~75を備え、これらが連結部材76に鉛直回転自在に設置されている。これにより、ワイヤーソー10は、設備ユニットD内で鉛直面内を、周回走行可能に配置されている。
【0045】
具体的には、第1の案内プーリ71が、第1支持装置50aとストレージ機構30との間でワイヤーソー10を案内する。第2~第4の案内プーリ72~74が、ストレージ機構30と駆動機構20との間でワイヤーソー10を案内する。第5の案内プーリ74が、駆動機構20とストレージ機構30との間でワイヤーソー10を案内する。
【0046】
上記の構成を有する設備ユニットDは、例えば、支持機構80を介して中空床版201の路面202側に支持されている。支持機構80は、走行レール60のガイド支持具62を中空床版201に設置する際に採用したものと同様の構成を有している。
【0047】
≪≪切断装置を用いたコンクリート床版の切断工法≫≫
上記の構成を有する切断装置100は、図4で示すような、中空床版201に床版厚W方向の幅を有する切断面Cを形成するための装置である。以下に、切断装置100を用いて、中空床版201に切断面Cを形成する手順を説明する。
【0048】
まず、図2で示すように、支持機構80を介して設備ユニットDを、中空床版201の路面202側に配置する。設備ユニットDは、駆動機構20、ストレージ機構30及び案内機構70をあらかじめ組立てて現場に搬入し、支持機構80を介して設置する。もしくは、これらを個別に施工現場へ搬入し、支持機構80上で組立てながら設置してもよい。
【0049】
上記の作業と前後して、もしくは同時に、支持機構80を介して一対の走行レール60を、中空床版201の路面202側及び下面203側に設置する。そして、走行レール60を構成するガイド部61に、第1及び第2走行装置40a、40b及び第1及び第2支持装置50a、50bを装着する。一対の走行レール60を設置するにあたっては、例えば、中空床版201の路面202及び下面203に、切断面Cの形成予定位置に対応する計画切断線L1、L2を墨出ししておく。
【0050】
そして、第1及び第2走行装置40a、40bが走行することにより、この計画切断線L1、L2に沿ってワイヤーソー10が中空床版201を切断するよう、一対の走行レール60を位置決めする。また、中空床版201であって切断作業の開始位置に、床版厚Wに平行な挿通孔204を、間隔を設けて一対配置する。
【0051】
こののち、ワイヤーソー10を、対をなす挿通孔204各々に挿通させるとともに、設備ユニットD、第1及び第2走行装置40a、40b及び第1及び第2支持装置50a、50bに備えた各種プーリに掛回して、切断装置100を組立てる。ワイヤーソー10とこれを案内する各種プーリとの関係は、前述したとおりである。
【0052】
これらの組立て作業が終了したところで、設備ユニットDに備えた駆動機構20を可動させ、ワイヤーソー10が周回走行可能となるよう高速回転力を付与する。すると、ワイヤーソー10は前述したように、設備ユニットDから第1支持装置50a、第1及び第2走行装置40a、40b、第2支持装置50bを経由したのち、第1支持装置50aを介して設備ユニットDに送り戻される。
【0053】
上記のとおりワイヤーソー10を周回走行させた状態で、第1及び第2走行装置40a、40bを並列走行させる。すると、図4で示すように、ワイヤーソー10は周回走行しながら、第1及び第2走行装置40a、40bの間で、床版厚Wに平行な姿勢で中空床版201内の切断面Cの形成予定位置に押し当てられる。この状態で、第1及び第2走行装置40a、40bを続けて走行させると、ワイヤーソー10は計画切断線L1、L2に沿って移動し、中空床版201を切断する。
【0054】
これにより、中空床版201が薄板状もしくは層厚状であっても、床版厚Wに制限を設けることなく、1度の切断作業で路面202側から下面203側に至る幅を有する切断面Cを、第1及び第2走行装置40a、40bの走行方向に連続して形成することができる。
【0055】
また、ワイヤーソー10の切断方向が走行レール60に沿って走行する第1及び第2走行装置40a、40bにより制御されるため、計画切断線L1、L2から逸脱する現象を回避できる。したがって、切断作業の途中でワイヤーソー10の切断方向を修正するといった作業も省略でき、容易にワイヤーソー10の切断方向を計画切断線L1、L2に精密に沿わせた凹凸の少ない平滑な切断面Cを形成できる。
【0056】
切断面Cの形成作業が進むにつれて、駆動プーリ21はプーリガイド22に沿って移動し、設備ユニットDからワイヤーソー10が送り出される。駆動プーリ21が、プーリガイド22の下端まで移動した場合には、これを上端まで移動させつつ、ストレージ機構30から、ワイヤーソー10の余長部を繰り出す。この作業を繰り返し、中空床版201に、橋軸方向に所望の長さを有する切断面Cを形成できる。
【0057】
ストレージ機構30に収納したワイヤーソー10の余長部がすべて繰り出されたところで、切断面Cの形成作業を停止する。こののち、切断面Cの形成作業を引き続き実施する場合には、切断装置100を次の配置位置に移設する。また、切断面Cの形成作業を終了する場合には、切断装置100を撤去する。
【0058】
こうして切断された中空床版201には、上述したように、凹凸の少ない平滑な切断面Cが形成されている。これにより、切断作業が終了したのち、中空床版201の切断部分を揚重する際、残置される中空床版201との間で競り合いが生じる現象を低減でき、撤去作業の効率化を図ることが可能となる。また、中空床版201を切断する切断速度も一般的な速度を維持できるため、工期に支障をきたすこともない。したがって、切断装置100を道路橋の床版取替工事に採用すると、作業効率の向上及び工事全体の工期短縮に寄与できる。
【0059】
また、ワイヤーソー10による切断方向を計画切断線L1、L2に精密に沿わせた切断面Cを形成できることから、ワイヤーソー10が計画切断線L1、L2から逸脱する可能性を考慮し計画切断線L1、L2に沿って確保する設計余裕代を、幅狭に設定することも可能となる。したがって、例えば、中空床版橋200の床版取替工事に半断面床版取り替え工法が採用される場合に、供用中の車線との間に設けられた規制線に近傍して、中空床版201に切断面Cを設けることも可能となる。
【0060】
なお、半断面床版取替工法は、通行止めではなく車線規制を行いながら床版を取り替えることができる工法である。具体的には、取替えを行う既設床版を切断して走行車線側と追越車線側の半断面に分割し、車線規制により半断面ごとに既設床版を撤去し、新しい床版に取り替える施工方法をいう。
【0061】
本発明の切断装置100及びコンクリート部材の切断工法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0062】
≪≪設備ユニットDの他の事例≫≫
例えば、本実施の形態では、設備ユニットDを中空床版201の路面202側に配置したが、図5で示すように、中空床版201の下面203側に配置してもよい。こうすると、中空床版201の上面側に作業空間を確保しながら、切断作業を進行させることができる。
【0063】
この場合、第2支持装置50bに鉛直回転する第11及び第12従動プーリ57,58を追加して設置し、第2走行装置40bと設備ユニットDとの間でワイヤーソー10を案内する。また、第1支持装置50aでは、第3及び第10従動プーリ53、56を利用して、設備ユニットDと第1走行装置40aとの間でワイヤーソー10を案内する。
【0064】
また、設備ユニットDは、中空床版201に対して、図4で示すような立設姿勢や図5で示すような垂下姿勢だけでなく、中空床版201に平行な倒伏姿勢に配置してもよい、この場合には、設備ユニットDに設けられている各種プーリは、水平回転となる。したがって、第1及び第2支持装置50a、50b各々と設備ユニットDとの間に、ワイヤーソー10の延在方向を水平から鉛直もしくは鉛直から水平に変換することの可能な、方向転換プーリを設けるとよい。
【0065】
さらに、図4及び図5ともに、設備ユニットDに駆動機構20とストレージ機構30とを併せて収納したが、いずれか一方を中空床版201の路面202側に設け、他方を下面203側に設けるなどしてもよい。
【0066】
≪≪移動体46及び送り装置47の他の事例≫≫
また、図3では、第1及び第2走行装置40a、40bに自走式の走行手段として、移動体46及び送り装置47を採用する場合を事例に挙げた。しかし、自走式の走行手段はいずれでもよく、また、走行手段は牽引式でもよい。
【0067】
例えば、図6で示すように、牽引ワイヤー410を第1及び第2走行装置40a、40bに取り付け、これをワイヤリール400で巻き取ることで、第1及び第2走行装置40a、40bを走行レール60に沿って、走行させてもよい。もしくは、油圧ジャッキなどの伸縮装置を利用して、第1及び第2走行装置40a、40bを牽引してもよい。
【0068】
さらに、第1及び第2走行装置40a、40bは、走行レール60を使用せずに移動する構成としてもよい。例えば、走行体を設けるとともに、GNSSアンテナやコントローラー、各種センサやカメラ、受信機などの遠隔操作を実現で得きる機器を搭載してもよい。こうすると、あらかじめ設定した計画切断線L1、L2に沿って遠隔操作により第1及び第2走行装置40a、40bを走行させ、所望の切断面Cを形成できる。このように、いわゆるICT施工を採用すれば、切断面Cの形成予定位置が狭隘である場合や危険な環境下にある場合にも、容易に切断作業を実施できる。
【0069】
≪≪第1及び第2支持装置50a、50bの他の事例≫≫
また、第1支持装置50aを、走行レール60に支持させる構成に替えて、図7で示すように、設備ユニットDに設けた案内機構70の連結部材76に支持させてもよい。この場合、第1支持装置50aには少なくとも、第1及び第10従動プーリ51、56を設けておく。そして、第1従動プーリ51は、ストレージ機構30と第1走行装置40aの間でワイヤーソー10を案内し、第10従動プーリ56は、第2支持装置50bとストレージ機構30との間でワイヤーソー10を案内する。
【0070】
その一方で、第1及び第2支持装置50a、50bに走行手段を設け、これらを走行レール60のガイド部61に沿って走行可能な構成としてもよい。こうすると、図6で示すような、対をなす挿通孔204の間の未切断部Nを切断できる。第1及び第2支持装置50a、50bに設ける走行手段はいずれでもよく、例えば、第1及び第2走行装置40a、40bに搭載した、移動体46及び送り装置47を設けることができる。
【0071】
≪≪切断装置100全体の他の事例≫≫
図1(a)及び(b)では、切断面Cを中空床版201の床版厚Wと平行に形成する場合を例示した。また、図4では、切断面Cの終端CEを挿通孔204と平行に形成し、切断面Cを長方形に形成する場合を事例に挙げた。しかし、切断面Cは、姿勢及び形状ともに何ら限定されるものではない。
【0072】
例えば、図8(a)で示すように、中空床版201の下面203側における計画切断線L2上に障害物Oが存在する場合には、第1及び第2走行装置40a、40bの位置を鉛直方向にずらして走行させる。こうすると、障害物Oを避けて切断面Cの終端を傾斜させた台形形状の切断面Cを形成できる。
【0073】
一方、図8(b)で示すように、中空床版201の路面202上に、橋軸方向に延在する障害物Oが存在する場合などには、切断面Cを橋軸直角方向に傾斜させて、傾斜姿勢とすることもできる。この場合には、中空床版201の路面202側及び下面203側に位置する対をなす走行レール60の設置位置を橋軸直角方向にずらして配置する。そして、第1及び第2走行装置40a、40b、第1及び第2支持装置50a、50b及び設備ユニットD各々に設けた各種プーリーを、予定する切断面Cに対する傾斜角度にあわせて傾斜させる。
【0074】
このように、切断装置100は、第1及び第2走行装置40a、40b、第1及び第2支持装置50a、50b及び設備ユニットD各々に設けた各種プーリを水平面に対して所望の傾斜角度に傾斜させることで、切断面Cを鉛直を含む様々な角度に傾斜させることができる。
【0075】
さらに、本実施の形態では、第1及び第2走行装置40a、40bを直線状に走行させたが、必ずしもこれに限定するものではない。例えば、中空床版201の路面202側及び下面203側に設定する計画切断線L1、L2を円弧もしくは局面とし、これに沿って、第1及び第2走行装置40a、40bを走行させる。こうすれば、切断面Cを円弧や曲面に形成でき、所望の切断面Cを自在に形成することが可能となる。
【符号の説明】
【0076】
100 切断装置
10 ワイヤーソー
20 駆動機構
21 駆動プーリ
22 プーリガイド
23 昇降装置
24 駆動部
30 ストレージ機構
31 プーリホルダー
32 第1ガイドプーリ
33 第2ガイドプーリ
40a 第1走行装置
40b 第2走行装置
41~44 第4~第7従動プーリ
45 プーリ架台
46 移動体(走行手段)
47 送り装置(走行手段)
50a 第1支持装置
50b 第2支持装置
51~53 第1~第3従動プーリ
54~56 第8~第10従動プーリ
57~58 第11~第12従動プーリ
59 プーリ架台
60 走行レール
61 ガイド部
62 ガイド支持具
70 案内機構
71~75 第1~第5案内プーリ
76 連結部材
80 支持機構
81 柱脚部
82 架台
83 アンカー部材
200 中空床版橋(橋梁)
201 中空床版(コンクリート部材)
202 路面(表面)
203 下面(裏面)
204 挿通孔
C 切断面
CE 終端
N 未切断部
W 床版厚(部材厚)
L1、L2 計画切断線
D 設備ユニット
P 防護養生
O 障害物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8