(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023159986
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】細胞および組織内脂質滴の赤色および深赤色蛍光イメージング試薬
(51)【国際特許分類】
G01N 21/64 20060101AFI20231026BHJP
C07F 5/02 20060101ALI20231026BHJP
A61K 49/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G01N21/64 F
C07F5/02 D CSP
G01N21/64 E
A61K49/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022069958
(22)【出願日】2022-04-21
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人日本医療研究開発機構、革新的先端研究開発支援事業「加齢造血変化をもたらす代謝リプログラミングの解明と回復技術開発」委託研究開発、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504145364
【氏名又は名称】国立大学法人群馬大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉原 利忠
(72)【発明者】
【氏名】宇田 梨紗
【テーマコード(参考)】
2G043
4C085
4H048
【Fターム(参考)】
2G043AA03
2G043AA04
2G043BA16
2G043CA04
2G043DA02
2G043EA01
2G043FA02
2G043FA03
2G043KA02
2G043LA03
4C085HH11
4C085JJ02
4C085KA27
4C085KB56
4C085LL20
4H048AA01
4H048AA03
4H048AB81
4H048VA11
4H048VA20
4H048VA32
4H048VA42
4H048VA77
4H048VB10
4H048VB20
(57)【要約】
【課題】本発明は、培養細胞レベルから個体レベルにおける脂質滴を高感度にイメージングでき、緑色蛍光タンパク質との併用を可能とする赤色および近赤外蛍光試薬を開発することを課題とする。
【解決手段】本発明は、下記式(I)で示される化合物を含む、脂質滴の検出用試薬を提
供する。
【選択図】
図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で表される化合物を含む、脂質滴の検出用試薬。
【化1】
(式中、
A
1は、アリール、またはヘテロアリールを表し、これらは置換基を有していてもよい;
A
2は、アリール、またはヘテロアリールを表し、これらは置換基を有していてもよい;
R
1は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R
1が複数である場合R
1はそれぞれ独立である;
R
2は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R
2が複数である場合R
2はそれぞれ独立である;
R
3は、炭素数1~20のアルキル、炭素数2~20のアルケニル、炭素数2~20のアルキニル
、炭素数6~20のアリール、炭素数3~20のヘテロアリール、炭素数1~20のアルコキシ、
炭素数6~14のアリールオキシ、ハロゲン、または水素を表し、これらは置換基を有して
いてもよい;
mは、0~2の整数である;
nは、0~2の整数である。)
【請求項2】
A1およびA2が、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、フェニル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリル、ピレニル、ピリジル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノリル、またはベンゾチエニルである、請求項1に記載の検出用試薬。
【請求項3】
R1およびR2が、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、炭素数1~20のアルキル
、炭素数2~20のアルケニル、炭素数2~20のアルキニル、炭素数6~20のアリール、また
は炭素数3~20のヘテロアリールである、請求項1に記載の検出用試薬。
【請求項4】
R3が、置換基を有していてもよいフェニル、置換基を有していてもよいピリジル、または置換基を有していてもよいピリミジルである、請求項1に記載の検出用試薬。
【請求項5】
R3が、メシチルである、請求項1に記載の検出用試薬。
【請求項6】
mおよびnが、0である、請求項1に記載の検出用試薬。
【請求項7】
生体試料における脂質滴を検出するための、請求項1に記載の検出用試薬。
【請求項8】
生体試料が、細胞または組織である、請求項7に記載の検出用試薬。
【請求項9】
生体個体における脂質滴を検出するための、請求項1に記載の検出用試薬。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の検出用試薬を、生体試料または生体個体(ヒトを除く)に投与する工程、
を含む、脂質滴の検出方法。
【請求項11】
下記一般式(I)’で表される化合物。
【化2】
(式中、
A
1’は、置換基を有していてもよい、フェニル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリル、ピレニル、ピリジル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノリル、またはベンゾチエニルである;
A
2’は、置換基を有していてもよい、フェニル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリル、ピレニル、ピリジル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノリル、またはベンゾチエニルである;
ただし、A
1’およびA
2’がいずれもチエニルであるものを除く;
R
1’は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R
1’が複数である場合R
1’はそれぞれ独立である;
R
2’は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R
2’が複数である場合R
2’はそれぞれ独立である;
R
3’は、置換基を有していてもよいフェニル、置換基を有していてもよいピリジル、置換基を有していてもよいピリミジルである;
mは、0~2の整数である;
nは、0~2の整数である。)
【請求項12】
R1’およびR2’が、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、炭素数1~20のアル
キル、炭素数2~20のアルケニル、炭素数2~20のアルキニル、炭素数6~20のアリール、
または炭素数3~20のヘテロアリールである、請求項11に記載の化合物。
【請求項13】
R3が、メシチルである、請求項11に記載の化合物。
【請求項14】
mおよびnが、0である、請求項11に記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞および組織内脂質滴の赤色および深赤色蛍光イメージング試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
脂質滴(脂肪滴)は、トリアシルグリセロールやコレステロールエステル等の中性脂質が、単層のりん脂質膜で取り囲まれた球状の細胞内小器官である。主に脂肪細胞内で多く見られるが、どの細胞でも普遍的に存在している。これまで脂質滴は、中性脂質の貯蔵が主な役割とされてきたが、近年の研究において、細胞内の脂質代謝制御に関与していることが明らかとなった。また、脂質滴とオートファジーに関する研究が報告される等、脂質滴の形成・成長・分解の機構に関する研究が進展しつつある。一方、組織(個体)における脂肪の過剰な蓄積は、組織の機能不全に繋がり、糖尿病や動脈硬化等の発症を引き起こす。また、近年、肝炎の1種である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発症が急増してい
る。NASHを放置すると、肝硬変や肝がんへと進行する危険性がある。よって、細胞および組織内における脂質滴の形成・成長・分解の機構を解明することは、細胞生物学だけでなく、上記疾患の診断・治療において重要である。そのため、生きた細胞や組織内の脂質滴を高感度にリアルタイムイメージングするための分子プローブの開発が必要とされている。
【0003】
蛍光イメージング法は、細胞や組織を生きた状態で簡便にイメージングする方法であり、生物・医学研究において汎用的に用いられている。学術レベルにおいて、脂質滴をイメージングする蛍光試薬は数多く報告されているが、実用化されている試薬は数種類に限られる。
図1に現在市販されている脂質滴蛍光イメージング試薬を示す。BODIPY(登録商標)493/503、Nile Redは、多くの研究者が使用している。
BODIPY493/503は、500nm付近に緑色蛍光を示し、脂質滴選択性も高い。しかしながら、光安定性が高くない、脂肪滴滞留性が低い、ストークスシフト(吸収極大波長と蛍光極大波長のエネルギー差)が小さいことに由来する励起光の漏れ等の問題点がある。また、Nile redは、脂質滴以外の細胞内小器官にも多く分布するため、脂肪滴選択性が低い。さらに、周辺の微環境に依存して吸収および蛍光スペクトルが大きく変化するため、他の蛍光試薬との多重染色が困難である。これらの問題を解決するために、LipiDye、Lipi series(Lipi-Blue,Lipi-Green,Lipi-Red,Lipi-Deep Red:Lipi-Deep Redは構造式が開示さ
れていない)が開発された。これらの試薬は、細胞内脂質滴を選択的にイメージングすることは可能であるが、生きた組織内の脂質滴イメージングについては知見がない。
【0004】
生きた組織内の脂質滴イメージングに関しては、ニトロベンゼン類を置換したNile Blue誘導体(MNs-NB,
図2)が特許文献1として報告されている。MNs-NBは、極性溶媒中ではニトロベンゼンユニットとNile blue間において光誘起電子移動反応が起こる。一方、低
極性溶媒では、光誘起電子移動反応が起こりにくくなり赤色蛍光を示す。MNs-NBは、組織内の脂質滴イメージングが可能な試薬ではあるが、蛍光量子収率が小さい(0.21:クロロホルム中)、ストークスシフトが小さい等の問題点がある。
【0005】
本発明者は、先に、麻酔下にある小動物組織内(脂肪組織、肝臓、腎臓等)の脂質滴をイメージングする試薬(PC6X、DBC30,DBC30-Bu,DBC30-Ph,
図3)を合成した。PC6X(特許文献2)は、溶液中において蛍光量子収率が0.8以上あり、また、BODIPY493/503やLipi-Greenと比較して高い光安定性を有している。よって、細胞や組織内の脂質滴を長時間にわたり高感度にイメージングすることが可能である。さらに、脂肪肝モデルマウスの肝臓の脂質滴をイメージングすることもできる。しかしながら、緑色蛍光であるため医学・生
化学分野で広く利用される緑色蛍光タンパク質との併用が困難である。また、DBC30、DBC30-Bu、DBC30-Phは、緑色蛍光色素との併用が可能であるが、光励起に使用する波長が450nm以下であることから細胞・組織への光毒性に注意を払う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6241014号公報
【特許文献2】WO 2020/189721
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のとおり、現在市販されている脂質滴イメージングのための蛍光試薬は、培養細胞に限定されている。また、非市販化合物であるMNs-NBも実用化については多くの問題点が残る。本発明は、培養細胞レベルから個体レベルにおける脂質滴を高感度にイメージングでき、緑色蛍光タンパク質との併用を可能とする赤色および近赤外蛍光試薬を開発することを課題とする。このような蛍光試薬により、脂肪の過剰蓄積に由来する疾患の診断薬や治療薬の開発に大きく貢献できると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、ボロンジピロメテン骨格を有する赤色および近赤外蛍光試薬を開発した。同試薬を用いることで、細胞および組織内の脂質滴を選択的に蛍光イメージングできることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明の要旨は以下に関する。
【0009】
[1] 下記一般式(I)で表される化合物を含む、脂質滴の検出用試薬。
【0010】
【0011】
(式中、
A1は、アリール、またはヘテロアリールを表し、これらは置換基を有していてもよい;
A2は、アリール、またはヘテロアリールを表し、これらは置換基を有していてもよい;
R1は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R1が複数である場合R1はそれぞれ独立である;
R2は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R2が複数である場合R2はそれぞれ独立である;
R3は、炭素数1~20のアルキル、炭素数2~20のアルケニル、炭素数2~20のアルキニル
、炭素数6~20のアリール、炭素数3~20のヘテロアリール、炭素数1~20のアルコキシ、
炭素数6~14のアリールオキシ、ハロゲン、または水素を表し、これらは置換基を有して
いてもよい;
mは、0~2の整数である;
nは、0~2の整数である。)
[2] A1およびA2が、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、フェニル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリル、ピレニル、ピリジル、フリル、チエニル、ピロリル、
オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノリル、またはベンゾチエニルである、[1]に記載の検出用試薬。
[3] R1およびR2が、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、炭素数1~20のア
ルキル、炭素数2~20のアルケニル、炭素数2~20のアルキニル、炭素数6~20のアリール
、または炭素数3~20のヘテロアリールである、[1]または[2]に記載の検出用試薬
。
[4] R3が、置換基を有していてもよいフェニル、置換基を有していてもよいピリジル、または置換基を有していてもよいピリミジルである、[1]~[3]のいずれかに記載の検出用試薬。
[5] R3が、メシチルである、[1]~[4]のいずれかに記載の検出用試薬。
[6] mおよびnが、0である、[1]~[5]のいずれかに記載の検出用試薬。
[7] 生体試料における脂質滴を検出するための、[1]~[6]のいずれかに記載の検出用試薬。
[8] 生体試料が、細胞または組織である、[7]に記載の検出用試薬。
[9] 生体個体における脂質滴を検出するための、[1]~[8]のいずれかに記載の検出用試薬。
[10] [1]~[9]のいずれかに記載の検出用試薬を、生体試料または生体個体(ヒトを除く)に投与する工程、
を含む、脂質滴の検出方法。
[11] 下記一般式(I)’で表される化合物。
【0012】
【0013】
(式中、
A1’は、置換基を有していてもよい、フェニル、ピリジル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、またはピラゾリルである;
A2’は、置換基を有していてもよい、フェニル、ピリジル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、またはピラゾリルである;
ただし、A1’およびA2’がいずれもチエニルであるものを除く;
R1’は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R1’が複数である場合R1’はそれぞれ独立である;
R2’は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R2’が複数である場合R2’はそれぞれ独立である;
R3’は、置換基を有していてもよいフェニル、置換基を有していてもよいピリジル、置換基を有していてもよいピリミジルである;
mは、0~2の整数である;
nは、0~2の整数である。)
[12] R1’およびR2’が、それぞれ独立に、置換基を有していてもよい、炭素数1~20のアルキル、炭素数2~20のアルケニル、炭素数2~20のアルキニル、炭素数6~20のアリール、または炭素数3~20のヘテロアリールである、[11]に記載の化合物。
[13] R3が、メシチルである、[11]または[12]に記載の化合物。
[14] mおよびnが、0である、[11]~[13]のいずれかに記載の化合物。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、細胞および組織内の脂質滴を選択的に蛍光イメージングできる赤色および近赤外蛍光試薬を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、市販の脂質滴蛍光イメージング試薬の構造式を示す。
【
図2】
図2は、Nile Blue誘導体(MNs-NB)の構造式を示す。
【
図3】
図3は、特許文献2に記載(PC6X)の脂質滴蛍光イメージング試薬、および先に開発(DBC30,DBC30-Bu,DBC30-Ph)した脂質滴蛍光イメージング試薬の構造式を示す。
【
図4】
図4は、本発明の脂質滴蛍光イメージング試薬の一態様の構造式を示す。
【
図5】
図5は、BODIPY-2oPyの吸収・蛍光スペクトルを示す。
【
図6】
図6は、BODIPY-2mPyの吸収・蛍光スペクトルを示す。
【
図7】
図7は、BODIPY-2pPyの吸収・蛍光スペクトルを示す。
【
図8】
図8は、BODIPY-2Thiaの吸収・蛍光スペクトルを示す。
【
図9】
図9は、BODIPY-2pPhOMeの吸収・蛍光スペクトルを示す。
【
図10】
図10は、BODIPY-Ph-Thiaの吸収・蛍光スペクトルを示す。
【
図11】
図11は、BODIPY-2mPyおよびLipi-RedをHeLa細胞に添加して得られた蛍光イメージング画像(図面代用写真)を示す。
【
図12】
図12は、BODIPY-2mPyおよびBODIPY-2Thiaを3T3-L1細胞に添加して得られた蛍光イメージング画像(図面代用写真)を示す。
【
図13】
図13は、DBC30-Buおよび市販の脂質滴イメージング試薬(BODIPY493/503)による共染色蛍光イメージング画像(図面代用写真)を示す。
【
図14】
図14は、健常マウスと肝脂肪モデルマウスに,BODIPY-2Thiaを50nmol投与して得られた蛍光強度イメージング画像および蛍光寿命イメージング画像(FLIM画像)(図面代用写真)を示す。
【
図15】
図15は、肝脂肪モデルマウスに、BODIPY-2Thiaを50nmol投与して得られた蛍光強度イメージング画像の励起波長依存性(図面代用写真)を示す。
【
図16】
図16は、BODIPY-2mPy(50nmol)を健常マウス(BALB/cAJcl)に投与して得られた皮下脂肪組織、腹部脂肪組織の蛍光イメージング画像(図面代用写真)を示す。
【
図17】
図17は、BODIPY-2Thia(50nmol)を健常マウス(BALB/cAJcl)に投与して得られた皮下脂肪組織、腹部脂肪組織の蛍光イメージング画像(図面代用写真)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について説明する。ただし、本発明は、以下の好ましい実施形態に限定されず、本発明の範囲内で自由に変更することができるものである。なお、本明細書において、数値範囲を「下限~上限」で表現するものに関しては、上限は「以下」であっても「未満」であってもよく、下限は「以上」であっても「超」であってもよい。
【0017】
<脂質滴の検出用試薬>
本発明の一態様は、下記一般式(I)で表される化合物を含む、脂質滴の検出用試薬(以
下、「本発明の脂質滴の検出用試薬」ということがある。)に関する。ここで、脂質滴とは、例えば細胞内に含まれる、脂質を含む球形の液滴を意味する。
一般式(I)で表される化合物は、以下の構造を有する化合物である。
【0018】
【0019】
式(I)において、A1は、アリール(炭素数6~20が好ましく、6~18がより好ましく、6~12が特に好ましい)、またはヘテロアリール(炭素数3~20が好ましく、3~10がより好ましく、3~5が特に好ましい)を表し、これらは置換基を有していてもよい。
A2は、アリール(炭素数6~20が好ましく、6~18がより好ましく、6~12が特に好まし
い)、またはヘテロアリール(炭素数3~20が好ましく、3~10がより好ましく、3~5が特に好ましい)を表し、これらは置換基を有していてもよい。
【0020】
ここで、炭素数6~20のアリールは、芳香族化合物に含まれる水素の一部が結合手とな
った基を意味する。アリールの具体例としては、例えば、フェニル等の単環アリール、ビフェニル、ナフチル等のニ環アリール、フルオレニル、アンスリル(アントリルまたはアントラセニルとも称する)、フェナンスリル(フェナントリルまたはフェナントレニルとも称する)等の三環アリール、ピレニル等の四環アリール等の多環アリール(多環のいずれかがアリールであるものを含む)を挙げることができる。
【0021】
炭素数3~20のヘテロアリールは、芳香族性を有するヘテロ環式化合物に含まれる水素
の一部が結合手となった基を意味する。ヘテロアリールに含まれるヘテロ原子としては、例えば、酸素、硫黄、窒素等が挙げられる。ヘテロアリールの具体例としては、例えば、フリル、チエニル、ピロリル、ピラゾリル、イミダゾリル、チアゾリル、オキサゾリル、ピリジル、ピリミジル、ピラジル等の単環ヘテロアリール、インドリル、キノリル、イソキノリル、キノキサリル、ベンゾフラニル、ベンゾチエニル等のニ環ヘテロアリール、カルバゾリル、ジベンゾフラニル等の三環ヘテロアリール等の多環ヘテロアリール(多環のいずれかがヘテロアリールであるものを含む)を挙げることができる。ヘテロアリールが含有するヘテロ原子の数は、例えば、1~5個、1~4個、1~3個、1~2個、2個、1個であってよい。
A1および/またはA2がヘテロアリールである場合、ヘテロアリールにおけるヘテロ原子は、ボロンジピロメテン骨格への結合位置に対し、o-位、m-位、p-位であってよいが、光物理特性、特に蛍光量子収率の観点からは、好ましくはp-位である。特に蛍光極大波長の観点からは、好ましくはm-位である。
【0022】
A1およびA2は、好ましくは、それぞれ独立に、フェニル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリル、ピレニル、ピリジル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノリル、またはベンゾチエニルであり、より好ましくは、フェニル、ピリジル、チエニル、またはチアゾリルである。これらは、置換基を有していてもよい。
【0023】
A1およびA2のアリール、またはヘテロアリールは、光物理特性等に影響しない置換基を有していてもよい。置換基は、限定されないが、例えば、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキル、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルコキシ、ハロゲン等であり、好ましくは、炭素数1~3のアルコキシである。アルキル、アルコキシ、ハロゲンの具体例は、後記R1、R2およびR3に説明されたものと同様である。
【0024】
A1およびA2は、それぞれ同一でも異なってもよいが、合成等の観点からは、同一であることが好ましい。
【0025】
R1は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R1が複数である場合R1はそれぞれ独立である。
R2は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R2が複数である場合R2はそれぞれ独立である。
R1およびR2は、それぞれ独立に、光物理特性に関与しない基、または原子であれば特に限定されず、例えば、炭素数1~20(好ましくは1~6、より好ましくは1~3)のアルキル
、炭素数2~20(好ましくは2~6、より好ましくは2~3)のアルケニル、炭素数2~20(好ましくは2~6、より好ましくは2~3)のアルキニル、炭素数6~20(好ましくは6~18、より好ましくは6~12)のアリール、または炭素数3~20(好ましくは3~10、より好ましく
は3~5)のヘテロアリール等が挙げられる。R1およびR2は、好ましくは、それぞれ独立に、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルである。
【0026】
ここで、「アルキル」は、特定の数の炭素原子を含む飽和脂肪族炭化水素基を意味する。アルキルは、直鎖、分岐、環状、またはこれらの組み合わせの何れでもよい。アルキル基の具体例としては、例えば、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、iso-ブチル、sec-ブチル、t-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-ヘプチル、n-オクチル、n-ノニル、n-デシル、n-ウンデシル、n-ドデシル、n-トリデシル、n-テトラデシル、n-ペンタデシル、n-ヘキサデシル、n-ヘプタデシル、n-オクタデシル、n-ノナデシル、n-イコシル、シクロヘキシル等が挙げられる。
【0027】
ここで、「アルケニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された基を意味する。アルケニル基の具体例としては、例えば、ビニル、1-プロペニル、1-ブテニル、1-メチル-1-プロペニル、1-シクロペンテニル、1-シクロヘキセニル等が挙げら
れる。
【0028】
ここで、「アルキニル」は、前記アルキルの1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された基を意味する。アルキニル基の具体例としては、例えば、エチニル、1-プロピニル、1-ブチニル、1-オクチニル等が挙げられる。
【0029】
炭素数6~20のアリールの具体例は、前記A1およびA2に説明されたものと同様である。
炭素数3~20のヘテロアリールの具体例は、前記A1およびA2に説明されたものと同様で
ある。
【0030】
R3は、炭素数1~20(好ましくは1~6、より好ましくは1~3)のアルキル、炭素数2~20(好ましくは2~6、より好ましくは2~3)のアルケニル、炭素数2~20(好ましくは2~6
、より好ましくは2~3)のアルキニル、炭素数6~20(好ましくは6~18、より好ましくは6~12)のアリール、炭素数3~20(好ましくは3~10、より好ましくは3~5)のヘテロア
リール、炭素数1~20(好ましくは1~6、より好ましくは1~3)のアルコキシ、炭素数6~14(好ましくは6~12、より好ましくは6~8)のアリールオキシ、ハロゲン、または水素
を表す。これらは置換を有していてもよい。置換基の具体例は、前記A1およびA2のアリール、またはヘテロアリールにおける置換基として、説明されたものと同様である。R3は、好ましくは、置換基を有していてもよいフェニル、置換基を有していてもよいピリジル、置換基を有していてもよいピリミジル、より好ましくは、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルで置換されたフェニル、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルで置換されたピリジル、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルで置換されたピリミジル、さらに好ましくは、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルで置換されたフェニル、特に好ましくは、メシチルである。
【0031】
アルコキシの具体例としては、例えば、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、イソプロポキシ、ブトキシ、2-メトキシエトキシ、2-メタンスルホニルエトキシ、ペンチルオキシ、ヘキシルオキシ、オクチルオキシ、ウンデシルオキシ、ドデシルオキシ、ヘキサデシルオキシ、オクタデシルオキシ、ノナデシルオキシ、イコシルオキシ等を挙げることができる。
アリールオキシの具体例としては、例えば、フェノキシ、p-メトキシフェノキシ等を挙げることができる。
ハロゲンの具体例としては、例えば、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等を挙げることができる。
炭素数1~20のアルキルの具体例は、前記R1およびR2に説明されたものと同様である。
炭素数2~20のアルケニルの具体例は、前記R1およびR2に説明されたものと同様である
。
炭素数2~20のアルキニルの具体例は、前記R1およびR2に説明されたものと同様である
。
炭素数6~20のアリールの具体例は、前記A1およびA2に説明されたものと同様である。
炭素数3~20のヘテロアリールの具体例は、前記A1およびA2に説明されたものと同様で
ある。
【0032】
mは0~2の整数を示す。好ましくは、mは0である。
nは0~2の整数を示す。好ましくは、nは0である。
【0033】
上記一般式(I)で表される化合物の好ましい態様として、下記式(I-1)に示される化合物が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0034】
【0035】
式(I)において、A1、A2は、一般式(I)と同義である。
【0036】
上記一般式(I)で表される化合物の具体例として、
図4に示される化合物が挙げられるが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0037】
一般式(I)で表される化合物の蛍光の光物理特性、例えば、吸収・蛍光極大波長、蛍光
量子収率(Φf)および蛍光寿命(τf)等は、公知の測定方法によって測定することができる。例えば、吸収・蛍光極大波長、蛍光量子収率は、発光量子収率測定装置等を用い、一般式(I)で表される化合物を溶媒等に溶解させた試料として測定することができる。蛍
光寿命は、蛍光寿命測定装置を用いて、各溶媒中における上記化合物の蛍光寿命(τf)を測定することができる。
【0038】
蛍光量子収率(Φf)は、化合物の構造、溶媒の種類等により変更可能であり、特に限
定されないが、例えば、0.01以上、0.2以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、ま
たは0.8以上である。
蛍光寿命(τf)は、化合物の構造、溶媒の種類等により変更可能であり、特に限定されないが、例えば、2.0 ns(ナノ秒)以上、3.0 ns以上、4.0 ns以上、または5.0 ns以上である。
【0039】
一般式(I)で表される化合物における溶媒中での最大励起波長は、化合物の構造、溶媒
の種類等により変更可能であり、特に限定されないが、例えば、550 nm~610 nmである。また、溶媒中での最大蛍光波長も適宜設定され得るが、例えば、570 nm~670 nmである。
【0040】
≪化合物の製造方法≫
一般式(I)で表される化合物は、後記実施例の記載および公知の有機合成方法に基づい
て製造することができる。
【0041】
≪試薬≫
本発明の脂質滴の検出用試薬は、上記構造を有する化合物を含む。この構造であることで、蛍光における優れた光物理特性(赤色および近赤外蛍光、蛍光量子収率、蛍光寿命およびストークスシフト等)を有する。特に、各種溶媒において上記のような優れた光物理特性を有することから、細胞だけでなく、生きた個体における脂質滴の検出用試薬として有用である。また、上記構造とすることで、優れた脂質滴選択性および細胞内滞留性を有する。このため、特異性の高い脂質滴の検出用試薬として使用可能である。
【0042】
本発明の脂質滴の検出用試薬は、一般式(I)で表される化合物のみから構成されていて
もよく、本発明の効果を妨げない限り、溶媒、添加物および脂質滴の検出用試薬として用いられる本発明に用いられる化合物以外の化合物をさらに含んでもよい。
【0043】
<脂質滴の検出方法>
本発明の一態様は、本発明の脂質滴の検出用試薬を、生体試料または生体個体(ヒトを除く)に投与する工程、を含む、脂質滴の検出方法(以下、「本発明の脂質滴の検出方法」ということがある。)に関する。
また、本発明の別の一態様は、本発明の脂質滴の検出用試薬および溶解補助剤を含む溶液を、生体試料または生体個体(ヒトを除く)に投与する、脂質滴の検出方法に関する。脂質滴の検出用試薬として用いる一般式(I)で表される化合物は、難水溶性を示す場合が
ある。この場合、一般式(I)で表される化合物を、一般式(I)で表される化合物が溶解する有機溶媒に溶解させ、溶解補助剤を含む水溶液と混合して調製した溶液を、生体試料または生体個体(ヒトを除く)に投与することができる。溶解補助剤は、一般式(I)で表され
る化合物に水溶性を付与することができ、生体適合性を有するものであれば、限定されず、例えば、アルブミン、ゼラチン、カゼイン等の生体適合性タンパク質が好ましい。溶解補助剤は、1種または2種以上を混合して用いることができる。溶解補助剤は、水溶液中に、例えば1~30質量%、好ましくは5~20質量%、より好ましくは7.5~10質量%で用いることができる。一般式(I)で表される化合物は、適宜調整可能であるが、有機溶媒中、または
一般式(I)で表される化合物が溶解する有機溶媒と、溶解補助剤を含む水溶液と混合して
調製した溶液中に、例えば0.01~50 mM、好ましくは0.1~5 mM、より好ましくは0.5~1 mMで用いることができる。
本発明の脂質滴の検出方法は、さらに、本発明の脂質滴の検出用試薬を検出する工程を含むことができる。脂質滴の検出用試薬の検出は、公知の蛍光試薬の検出方法に基づき、行うことができる。
【0044】
本発明の脂質滴の検出用試薬は、例えば、生体試料における脂質滴を検出するための検出用試薬として使用することができる。生体試料は、限定されないが、例えば、細胞また
は単離された組織等である。また、本発明の脂質滴の検出用試薬は、生体に対しても適用、検出することが可能であり、生体個体中の細胞、組織等における脂質滴を検出するための検出用試薬として使用することができる。
【0045】
本発明の脂質滴の検出用試薬は、細胞内に存在する脂質滴を特異的に検出することができる。したがって、細胞における脂質滴の検出用試薬として有用である。
細胞内に存在する脂質滴の検出は、例えば、以下のようにして行うことができる。
本発明の脂質滴の検出用試薬を、脂質滴を含むまたは含むことが予想される細胞に添加する。
その後、本発明の脂質滴の検出用試薬の蛍光シグナルを、蛍光顕微鏡等により観測することにより、細胞内に含まれる脂質滴を検出することができる。
細胞への本発明の脂質滴の検出用試薬の添加量は、使用する細胞や脂質滴の割合等によって適宜変更可能であるが、例えば、0.01~100 μM、好ましくは0.1~10 μMの終濃度で細胞に添加することができる。
本発明の脂質滴の検出用試薬を溶媒に溶解させてから細胞に添加する場合、溶媒としては、限定されないが、例えば、n-ヘキサン、ジブチルエーテル、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、メタノール等の有機溶媒等を用いることができる。
本発明の脂質滴の検出用試薬を添加する細胞としては、脂質滴を含むまたは含むことが予想される細胞であれば特に制限はなく、例えば、3T3-L1細胞、単離脂肪細胞等が挙げ
られる。また、脂質滴を含まない細胞または脂質滴の含有量が少ない細胞中に人為的に脂質滴を形成させた細胞を用いてもよい。脂質滴を含まない細胞または脂質滴の含有量が少ない細胞としては、例えば、HeLa細胞、UEET-12細胞、NIH3T3細胞等が挙げられる。脂質
滴を形成させる方法としては、例えば、オレイン酸を細胞に添加する方法等により脂質滴を誘導する方法が挙げられる。
【0046】
本発明の脂質滴の検出用試薬は、組織における脂質滴や生体個体(生きている生物個体)における脂質滴および脂肪組織も特異的に検出することができる。したがって、組織における脂質滴および生体内の脂質滴および脂肪組織の検出用試薬として有用である。
組織内に存在する脂質滴の検出は、例えば、以下のようにして行うことができる。
本発明の脂質滴の検出用試薬を、脂質滴を含むまたは含むことが予想される組織に添加する。
その後、本発明の脂質滴の検出用試薬の蛍光シグナルを、蛍光顕微鏡等により観測することにより、組織内に含まれる脂質滴を検出することができる。
組織への本発明の脂質滴の検出用試薬の添加量は、使用する組織や脂質滴の割合等によって適宜変更可能であるが、例えば、0.01~100 μM、好ましくは0.1~10 μMの終濃度で組織に添加することができる。
本発明の脂質滴の検出用試薬を溶媒に溶解させてから組織に添加する場合、溶媒としては、限定されないが、例えば、n-ヘキサン、ジブチルエーテル、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、メタノール等の有機溶媒等を用いることができる。さらに、生体適合性の液体と組み合わせて投与することもできる。また、上記のとおり、本発明の脂質滴の検出用試薬を含む有機溶媒と、溶解補助剤を含む水溶液と混合して調製した溶液を、組織に添加することもできる。
本発明の脂質滴の検出用試薬によって検出される組織としては、限定されないが、例えば、皮下脂肪、内臓脂肪、異所性脂肪(例えば、筋肉、肝臓、心臓、膵臓、腎臓等の臓器に蓄積する脂肪)等が挙げられる。
【0047】
生体個体内に存在する脂質滴の検出は、例えば、以下のようにして行うことができる。
本発明の脂質滴の検出用試薬を、生体個体に投与する。
その後、本発明の脂質滴の検出用試薬の蛍光シグナルを、共焦点顕微鏡等を用いた生体イメージング手法等を用いて観測することにより、生体個体を固定化することなく生きた
状態で、生体内の脂肪組織を検出することができる。
本発明の脂質滴の検出用試薬の投与形態としては、例えば、静脈内投与、皮下投与、筋肉内投与が挙げられる。
また、本発明の脂質滴の検出用試薬の投与量は、投与対象、投与形態等によっても異なるが、例えば、0.01~1.0 μmol/kg体重、好ましくは0.1~0.5 μmol/kg体重の範囲で投
与することができる。
本発明の脂質滴の検出用試薬を溶媒に溶解させてから生体個体に投与する場合、溶媒としては、限定されないが、例えば、n-ヘキサン、ジブチルエーテル、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、メタノール等の有機溶媒を用いることができる。さらに、生体適合性の液体と組み合わせて投与することもできる。また、上記のとおり、本発明の脂質滴の検出用試薬を含む有機溶媒と、溶解補助剤を含む水溶液と混合して調製した溶液を、生体個体に添加することもできる。
投与対象となる生物個体としては、特に限定されず、例えば、哺乳動物(マウス、ヒト、ブタ、イヌ、ウサギ、ヒト等)を含む脊椎動物や無脊椎動物が挙げられる。
【0048】
<本発明の化合物>
下記一般式(I)’で表される化合物は、本発明により合成された新規化合物である。す
なわち、本発明の一態様は、下記一般式(I)’で表される化合物(以下、「本発明の化合
物」ということがある。)に関する。
一般式(I)’で表される化合物は、以下の構造を有する化合物である。
【0049】
【0050】
一般式(I)’において、A1’は、置換基を有していてもよい、フェニル、ナフチル、ア
ンスリル、フェナンスリル、ピレニル、ピリジル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、ピラゾリル、キノリル、またはベンゾチエニルである。
A2’は、置換基を有していてもよい、フェニル、ナフチル、アンスリル、フェナンスリル、ピレニル、ピリジル、フリル、チエニル、ピロリル、オキサゾリル、チアゾリル、イミダゾリル、またはピラゾリル、キノリル、またはベンゾチエニルである。
ただし、A1’およびA2’がいずれもチエニルであるものを除く。
A1’およびA2’は、好ましくは、それぞれ独立に、フェニル、ピリジル、チエニル、またはチアゾリルである。A1’およびA2’における置換基は、A1およびA2における置換基として、記載したものと同様である。
【0051】
R1’は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R1’が複数である場合R1’はそれぞれ独立である。
R2’は、光物理特性に関与しない基、または原子を表し、R2’が複数である場合R2’はそれぞれ独立である。
R1’およびR2’における光物理特性に関与しない基、または原子は、前記R1およびR2の光物理特性に関与しない基、または原子として、記載したものと同様である。
R3’は、置換基を有していてもよいフェニル、置換基を有していてもよいピリジル、置換基を有していてもよいピリミジルである。R3’における置換基は、R3における置換基と
して、記載したものと同様である。R3は、好ましくは、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルで置換されたフェニル、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルで置換されたピリジル、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルで置換されたピリミジル、より好ましくは、炭素数1~6(好ましくは1~3)のアルキルで置換されたフェニル、さらに好ましくは、メシチルである。
【0052】
mは0~2の整数を示す。好ましくは、mは0である。
nは0~2の整数を示す。好ましくは、nは0である。
【実施例0053】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の例示であり、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【0054】
<合成例>
本発明の化合物を以下のとおり、合成した。
【0055】
≪BODIPY-2Ph≫
2,8-dibromo-5,5-difluoro-10-mesityl-5H-4λ4,5λ4-dipyrrolo[1,2-c:2',1'-f][1,3,2]diazaborinine (BODIPY-2Br) (94 mg,0.20 mmol)、4-(トリブチルスズ)ピリジン(260 μL,0.80 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(61 mg,0.053 mmol)をトルエン(15 mL)に溶解させ、窒素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(9:1,v/v)からクロロホルム100%)にて精製し、BODIPY-2Phを得た(58 mg,0.13 mmol,63
%)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.27(s, 2H), 7.48(d, 4H), 7.35(t, 4H), 7.25(t, 2H), 7.01(s, 2H), 6.84(s, 2H), 2.40(s, 3H), 2.17(s, 6H).
【0056】
≪BODIPY-2oPy≫
BODIPY-2Br(96 mg,0.21 mmol)、2-(トリブチルスズ)ピリジン(260 μL,0.81 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(83 mg,0.072 mmol)をトルエン(10 mL)に溶解させ、窒素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をア
ミノシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(1:1,v/v)
からクロロホルム100%)にて精製し、BODIPY-2oPyを得た(71 mg,0.15 mmol,75 %)。
ESI-MS (positive): calcd. for C28H24BF2N4([M+H]+): 465.20, found: 465.3.
【0057】
≪BODIPY-2mPy≫
BODIPY-2Br(96 mg,0.21 mmol)、3-(トリブチルスズ)ピリジン(260 μL,0.81 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(62 mg,0.072 mmol)をトルエン(10 mL)に溶解させ、窒素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をア
ミノシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(1:1,v/v)
からクロロホルム100%)にて精製し、BODIPY-2mPyを得た(16 mg,0.034 mmol,17 %)。
ESI-MS (positive): calcd. for C28H24BF2N4([M+H]+): 465.20, found: 465.3.
【0058】
≪BODIPY-2pPy≫
BODIPY-2Br(96 mg,0.21 mmol)、4-(トリブチルスズ)ピリジン(200 μL,0.54 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(40 mg,0.035 mmol)をトルエン(10 mL)に溶解させ、窒素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をア
ミノシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(1:1,v/v)
からクロロホルム100%)にて精製し、BODIPY-2pPyを得た(50 mg,0.11 mmol,52 %)。
ESI-MS (positive): calcd. for C28H24BF2N4([M+H]+): 465.20, found: 465.3.
【0059】
≪BODIPY-2pPhOMe≫
BODIPY-2Br(100 mg,0.21 mmol)、4-(トリブチルスズ)メトキシフェニル(310 μL,0.88 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(64 mg,0.055 mmol)をト
ルエン(20 mL)に溶解させ、窒素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られた粗
生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(3:7,v/v)からクロロホルム100%)にて精製し、BODIPY-2pPhOMeを得た(63 mg,0.12mmol,57 %)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 7.41 (d, 4H), 6.98 (s, 2H), 6.88 (s, 2H), 3.80 (s, 6H), 2.76 (s, 1H), 2.39 (s, 3H), 2.17 (s, 6H).
【0060】
≪BODIPY-2Thia≫
BODIPY-2Br(116 mg,0.25 mmol)、5-(トリブチルスズ)チアゾール(252 μL,0.80 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(80 mg,0.069 mmol)をトルエン(10 mL)に溶解させ、窒素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をアミノシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(3:7,v/v)からクロロホルム100%)にて精製し、BODIPY-2Thiaを得た(41 mg,0.086 mmol,35 %)。1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 8.98 (s, 2H), 8.68 (s, 2H), 8.19 (s, 1H), 7.63 (s, 1H), 7.04 (s, 2H), 6.82 (s, 2H), 2.4 (s, 3H), 2.25 (s, 6H).
【0061】
≪BODIPY-Ph-Thia≫
2-bromo-5,5-difluoro-10-mesityl-5H-4λ4,5λ4-dipyrrolo[1,2-c:2',1'-f][1,3,2]diazaborinine (BODIPY-Br) (96 mg,0.25 mmol)、トリブチルフェニルスタンナン(160 μL,0.49 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(36 mg,0.030 mmol)をトルエン(30 mL)に溶解させ、窒素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られ
た粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(9:1,v/v)からクロロホルム100%)にて精製した。得られたBODIPY-Ph(71 mg,0.18 mmol)を脱水ジクロロメタン(10 mL)、脱水N,N-ジメチルホルムアルデヒド(10 mL)に溶解させた。この溶液に脱水ジクロロメタン(5 mL)に溶解させたN-ブロモスクシンイミド(41 mg,0.22
mmol)をゆっくり滴下した。滴下後に窒素置換下、室温で遮光しながら30分間撹拌した。その後、ジクロロメタンと飽和食塩水で分液操作を行った。得られた有機層から溶媒を減圧除去し、粗生成物をアミノシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(7:3,v/v)からクロロホルム100%)にて精製した。得られたBODIPY-Ph-Br(16
mg,0.034 mmol)を5-(トリブチルスズ)チアゾール(20 μL,0.068 mmol)、テトラキス(
トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(10 mg,0.0087 mmol)をトルエン(10 mL)に溶解
させ、窒素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をアミノシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(4:1,v/v)からクロロ
ホルム100%)にて精製し、BODIPY-Ph-Thiaを得た(41 mg,0.086 mmol,35 %)。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ: 7.68 (s, 2H), 7.65 (s, 2H), 7.61 (s, 1H), 7.54 (s, 2H), 7.53 (s, 1H), 7.48 (d, 2H), 7.48 (t, 3H), 2.4 (s, 3H), 2.17 (s, 6H).
【0062】
≪BODIPY-Thio-Thia≫
BODIPY-Br(68 mg,0.18 mmol)、トリブチル-(2-チエニル)スズ(111 μL,0.35 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(31 mg,0.083 mmol)をトルエン(30 mL)に溶解させ、窒素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をシ
リカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(6:4,v/v)からク
ロロホルム100%)にて精製した。得られたBODIPY-Thio(37 mg,0.094 mmol)を脱水ジクロロメタン(10 mL)、脱水N,N-ジメチルホルムアルデヒド(10 mL)に溶解させた。この溶液に脱水ジクロロメタン(10 mL)に溶解させたN-ブロモスクシンイミド(24 mg,0.13 mmol)を
ゆっくり滴下した。滴下後に窒素置換下、室温で遮光しながら30分間撹拌した。その後、
ジクロロメタンと飽和食塩水で分液操作を行った。得られた有機層から溶媒を減圧除去し、粗生成物をアミノシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(6:4,v/v)からクロロホルム100%)にて精製した。得られたBODIPY-Thio-Br(24 mg,0.051 mmol)を5-(トリブチルスズ)チアゾール(32 μL,0.10 mmol)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)(29 mg,0.0254 mmol)をトルエン(30 mL)に溶解させ、窒
素置換下24時間還流した。溶媒を減圧留去し、得られた粗生成物をアミノシリカゲルクロマトグラフィー(展開溶媒:n-ヘキサン:クロロホルム(6:4,v/v)からクロロホルム100%)にて精製し、BODIPY-Thio-Thiaを得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3) δ:8.13(s, 1H), 7.96(s, 1H), 7.69-7.64(t, 1H), 7.54-7.52(d, 1H), 7.46-7.44(d, 1H), 7.11-7.1(d, 1H), 6.99(s, 2H), 6.72(d, 1H), 6.66(s, 1H), 6.51-6.49(d, 1H), 3.4-3.37(t, 1H), 2.38(s, 3H), 2.16(s, 6H).
【0063】
<測定方法>
(吸収極大波長、蛍光極大波長および蛍光量子収率の測定)
発光量子収率測定装置(C9920-01;浜松ホトニクス製)を用いて、各溶媒中における上記化合物の吸収極大波長(λabs/nm)、蛍光極大波長(λflu/nm)および蛍光量子収率(Φf)を測定した。
吸収スペクトルについては、紫外可視分光光度計(Ubest-550;日本分光製)を用いて
測定し、蛍光発光スペクトルについては、蛍光分光光度計(F-7000;日立製)を用いて測定した。
【0064】
(蛍光寿命の測定)
小型蛍光寿命測定装置(Quntaurus-Tau;浜松ホトニクス製)を用いて、各溶媒中にお
ける上記化合物の蛍光寿命(τf)を測定した。
【0065】
蛍光収率、すなわち蛍光量子収率(Φf)とは、物質が吸収した光子のうち、蛍光とし
て放出される光子の割合を表す。このため、蛍光収率が高いほど発光効率が良く、発光強度が強いことを示す。また、蛍光寿命(τf)の値は分子固有の値を有する。
【0066】
(蛍光強度イメージングおよび蛍光寿命イメージング)
蛍光強度イメージングおよび蛍光寿命イメージングは、共焦点スキャナー(DCS-120;Becker&Hickl)を搭載した共焦点レーザー顕微鏡(IX-73;オリンパス製)を用いて、取
得した。
【0067】
<実施例1>
上記合成例で合成した本発明の化合物(
図4、BODIPY-2Ph、BODIPY-2oPy、BODIPY-2mPy
、BODIPY-2pPy、BODIPY-2Thia、BODIPY-2pPhOMe、BODIPY-Ph-Thia、BODIPY-Thio-Thia)
は、meso位にメシチル基(MES)、3位にフェニル基(Ph)、ピリジル基(Py)、1,3-チアゾールの置換基(Thia)あるいはチオフェンの置換基(Thio)を有するボロンジピロメテン誘導体である。
図5-10にBODIPY-2oPy、BODIPY-2mPy、BODIPY-2pPy、BODIPY-2Thia、BODIPY-2pPhOMe、BODIPY-Ph-Thiaのn-ヘキサン(n-Hex)、ジブチルエーテル(BuO
2)、酢酸エチル(EtOAc)、アセトニトリル(MeCN)およびメタノール(MeOH)中における吸収・蛍光スペクトルを示
す。また、表1-6に光物理パラメータを示す。BODIPY-2oPy、BODIPY-2mPy、BODIPY-2pPyの吸収極大波長および蛍光極大波長を比較するとBODIPY-2mPyがもっとも長波長に観測され
、脂質滴内の環境に近いとされるBuO
2中において、吸収極大波長は573nm、蛍光極大波長
は605nmに観測された。また、BODIPY-2Thiaでは、BuO
2中において吸収極大波長は609nm、蛍光極大波長は659nmであり、深赤色から近赤外光領域に蛍光が観測された。また、BODIPY-2pPhOMeでは、BuO
2中において吸収極大波長は591nm、蛍光極大波長は659nmであり、深
赤色から近赤外光領域に蛍光が観測された。また、BODIPY-Ph-Thiaでは、BuO
2中において吸収極大波長は589nm、蛍光極大波長は628nmに観測された。また、ピリジル基を有する化
合物の蛍光量子収率は、すべての溶媒中において0.6以上を有する。一方、1,3-チアゾー
ル基、フェニル基を有する化合物では、溶媒の極性が増加するにつれて蛍光量子収率が減少したが、BuO
2中においては0.29(BODIPY-2Thia)、0.26(BODIPY-2pPhOMe)、0.48(BODIPY-Ph-Thia)と比較的高い値を示した。
【0068】
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
<実施例2>
培養細胞内の脂質滴イメージングについて、BODIPY-2mPy、BODIPY-2Thiaと市販の赤色
イメージング試薬(Lipi-Red)との性能比較実験を行った。項目は、発光強度、光安定性とした。
【0075】
図11に400μMオレイン酸存在下で24時間培養したHeLa細胞に、各蛍光試薬を最終濃度500nMになるように添加し、60分間培養後に観察した蛍光イメージング画像(励起波長:545-580nm,観測波長:>610nm)を示す。BODIPY-2mPyを添加したHeLa細胞の方が、Lipi-Redを添加したHeLa細胞よりも蛍光強度が大きいことがわかる。
【0076】
図12に3T3-L1細胞に、BODIPY-2mPyあるいはBODIPY-2Thiaを最終濃度100nMになるように添加し、30分間培養後に観察した蛍光イメージング画像(BODIPY-2mPy:励起波長:550nm,観測波長:>590nm,BODIPY-2Thia:励起波長:610nm,観測波長:>647nm)を示す。
両試薬とも細胞内脂質滴が明瞭にイメージングされており、高い脂質滴選択制を示すことがわかった。
【0077】
BODIPY-2mPyおよびBODIPY-2Thiaを用いた組織内脂質滴および脂肪組織の蛍光イメージ
ングについて示す。これらの化合物は水(生理食塩水)への溶解が著しく低いため、直接溶解させることが困難である。また、ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解させた5mMス
トック溶液を、生理食塩水に添加した場合(体積比で10%)、化合物が析出するため、マウスへ投与できない。そこで、10%ウシ血清アルブミンを含んだ生理食塩水に5mMストッ
ク溶液を添加したところ(体積比で10%)、化合物の析出が抑制できた。MNs-NBの投与では、DMSOのストック溶液を直接マウスへ投与している。DMSOの投与はマウスをショック死させることがあり、本発明での投与法の方が、安全性の高い方法と考えられる。ここでは、麻酔下にあるマウスの尾静脈に、500μMの溶液を100~200μL(50から100nmnol)投与
して蛍光イメージング実験を行った。本実験では、蛍光強度画像に加えて蛍光寿命画像を取得できる顕微鏡(FLIM:fluorescence lifetime imaging microscope)を用いた。
【0078】
肝脂肪モデルマウスは、健常マウスに比べて肝臓内に多量の脂質滴が蓄積していることが知られている。ここでは、マウス(BALB/cAJcl)に超高脂肪コリン欠乏メチオニン減量飼料を1週間与えて作成した脂肪肝モデルマウスを作成した。
図13、14に麻酔下にある健
常マウスあるいは肝脂肪モデルマウスに、BODIPY-2mPyあるいはBODIPY-2Thiaを50nmol投
与して30分後に得られた蛍光強度イメージング画像(BODIPY-2mPy:励起波長:550nm,観測波長:>590nm,BODIPY-2Thia:励起波長:610nm,観測波長:>647nm)および蛍光寿
命イメージング画像(FLIM画像)を示す。通常飼料を与えたマウスでは、肝細胞内に小さな脂質滴が確認できる。一方、脂肪肝モデルマウス(1週間)では、肝臓表面全体にわた
り、大きな脂質滴がイメージングされており、肝臓内に脂質が蓄積していることがわかる。また、BODIPY-2Thiaは、650nmから吸収が観測されるため、630nmおよび638nmでの光励
起も行った。特に638nmは、共焦点レーザー顕微鏡に搭載されている半導体レーザーとし
て代表的な波長である。
図15より、638nmにおいても脂質滴が明瞭にイメージング出来て
いる。
【0079】
個体内は様々な脂肪組織が存在する。BODIPY-2mPyおよびBODIPY-2Thiaを用いてこれら
のイメージングを行った。
図16、17に、BODIPY-2mPy (50nmol)あるいはBODIPY-2Thia (50nmol)をマウス(BALB/cAJcl)に投与して30分後に得られた皮下脂肪組織、腹部脂肪組織
、骨格筋の蛍光イメージング画像を示す。脂質が蓄積している箇所からBODIPY-2mPyある
いはBODIPY-2Thiaに由来する蛍光が観察されている。
【0080】
以上の結果より、本発明によって開発されたBODIPY-2mPyおよびBODIPY-2Thia等を例と
する化合物は、赤色または深赤色蛍光を示し、細胞内脂質滴および生きた個体内の肝臓内脂質滴や脂肪組織のイメージングが可能な新しい試薬である。