(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160024
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】車両のサスペンション装置
(51)【国際特許分類】
B60G 3/20 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
B60G3/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070037
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100128428
【弁理士】
【氏名又は名称】田巻 文孝
(72)【発明者】
【氏名】平松 大弥
(72)【発明者】
【氏名】西 隆司
【テーマコード(参考)】
3D301
【Fターム(参考)】
3D301AA03
3D301AA05
3D301AA06
3D301AB08
3D301AB10
3D301BA20
3D301CA11
3D301CA50
3D301DA09
3D301DA31
3D301DA44
3D301DA61
3D301DA87
3D301DB02
3D301DB09
3D301DB13
3D301DB16
3D301DB19
3D301DB20
(57)【要約】
【課題】電動機を備えた車両において、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両の挙動の変化を抑制することができる車両のサスペンション装置を提供する。
【解決手段】本発明は、出力伝達軸32を介して車輪34に駆動力を伝達する電動機30を備える車両1のサスペンション装置10であって、車体側および車輪側に連結され、車両上下方向に揺動可能なサスペンションアーム46と、側面視において、サスペンションアーム46の車体側取付け部における揺動軸線Aに対してほぼ垂直に延びるダンパ48と、を備え、側面視において、サスペンションアーム46の揺動軸線Aと、ダンパ48が延びる方向に直交する仮想線Cとがほぼ平行である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
出力伝達軸を介して車輪に駆動力を伝達する電動機を備える車両のサスペンション装置であって、
車体側および車輪側に連結され、車両上下方向に揺動可能なサスペンションアームと、
側面視において、上記サスペンションアームの車体側取付け部における揺動軸線に対して垂直な方向に延びるダンパと、を備え、
側面視において、上記サスペンションアームの揺動軸線と、上記ダンパが延びる方向に直交する仮想線とが互いに平行な方向に延びる、ことを特徴とする車両のサスペンション装置。
【請求項2】
上記サスペンションアームの揺動軸線は、下面視で車両前後方向に一致する方向に延びる、請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項3】
上記車両のサスペンション装置は、後輪を主駆動輪とするリアサスペンション装置であり、上記リアサスペンション装置の上記サスペンションアームの揺動軸線は、側面視で車両前方に向けて斜め上方に傾斜して延びる、請求項1または請求項2に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項4】
上記サスペンションアームは、車両の中央下部のバッテリケースの後端部に直結された車両前後方向に延びる車体フレームに取付けられ、かつ、上記バッテリケースの下端より上方に位置する、請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【請求項5】
上記サスペンション装置は、中央部に上記出力伝達軸を貫通させて保持する開口部が形成された、車輪を支持するハブキャリアを備え、上記ダンパの下部が上記ハブキャリアに取り付けられ、上記ダンパの上部が車体に取り付けられるストラット形式のサスペンション装置である、請求項1に記載の車両のサスペンション装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置に関し、特に、電動機を備えた車両のサスペンション装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の操安性、路面追従性および乗り心地を両立するために種々のサスペンション構造が検討されてきた。特許文献1には、H型のロアアームに対して側面視で垂直に延びるダンパを設け、平面視において、車体側の揺動軸線を車両前後方向に平行に延びるようにすると共に、車輪側の揺動軸線を車両前後方向に傾斜させて延びるようにすることで、ロアアームとダンパの拗れを最小化して上下動を円滑化し、弾性ブッシュの車輪支持剛性の高剛性化とストロークのし易さを両立したサスペンション装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方で、近年、電気自動車に関する研究、開発が行われる中で、本発明者らは電気自動車に最適なサスペンション構造について鋭意検討を行った。
通常、モータ(電動機)を備えた車両においては、減速時に電動機を発電機として用いる回生ブレーキと、従来の油圧システムを用いる摩擦ブレーキの2種類が存在する。ここで、回生ブレーキでは制動力の作用点がホイールセンタとなり、摩擦ブレーキでは制動力の作用点がタイヤ接地中心となって、それぞれのアンチリフト角に差が生じる。したがって、たとえば回生ブレーキと摩擦ブレーキの協調制御時に、回生ブレーキの制動力と摩擦ブレーキの制動力とを変更する(変動させる)と、上述したアンチリフト角の差に起因して、車両の挙動(主に車両のピッチング挙動)が変化してしまい、運転者および乗員に違和感を与える懸念があった。
【0005】
そこで、本発明は、上述した問題を解決するためになされたものであり、電動機を備えた車両において、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両の挙動の変化を抑制することができる車両のサスペンション装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決するために、本発明は、出力伝達軸を介して車輪に駆動力を伝達する電動機を備える車両のサスペンション装置であって、車体側および車輪側に連結され、車両上下方向に揺動可能なサスペンションアームと、側面視において、サスペンションアームの車体側取付け部における揺動軸線に対して垂直な方向に延びるダンパと、を備え、側面視において、サスペンションアームの揺動軸線と、ダンパが延びる方向に直交する仮想線とが互いに平行な方向に延びる、ことを特徴としている。
【0007】
このように構成された本発明によれば、側面視において、サスペンションアームの揺動軸線とダンパが延びる方向に直交する仮想線とが互いに平行な方向に延びるので、制動時の回生ブレーキと摩擦ブレーキのアンチリフト角に差が生じないようにすることができ、これにより、たとえば回生ブレーキと摩擦ブレーキとの協調制御時、回生ブレーキの制動力と摩擦ブレーキの制動力とを変更しても車体のピッチング挙動の変化を抑制することができる。その結果、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両の挙動の変化を抑制して、乗員の違和感を低減することができる。
【0008】
また、本発明において、好ましくは、サスペンションアームの揺動軸線は、下面視で車両前後方向に一致する方向に延びる。
このように構成された本発明によれば、サスペンションアームの揺動軸線が下面視で車両前後方向に一致する方向に延びるようにすることにより、より確実に、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両の挙動の変化を抑制して、乗員の違和感を低減することができる。また、車輪が、ダンパが延びる方向と同一方向に直線的に揺動するようにすることができ、これにより、より効果的に、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両の挙動の変化を抑制することができる。
【0009】
また、本発明において、好ましくは、車両のサスペンション装置は、後輪を主駆動輪とするリアサスペンション装置であり、リアサスペンション装置のサスペンションアームの揺動軸線は、側面視で車両前方に向けて斜め上方に傾斜して延びる。
このように構成された本発明によれば、リアサスペンション装置にアンチリフト角が形成されるので、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車体後部のリフトが抑制され、これにより、より効果的に、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両のピッチング挙動の変化を抑制することができる。
【0010】
また、本発明において、好ましくは、サスペンションアームは、車両の中央下部のバッテリケースの後端部に直結された車両前後方向に延びる車体フレームに取付けられ、かつ、バッテリケースの下端より上方に位置する。
このように構成された本発明によれば、車輪の支持剛性を高めて、車両挙動の応答遅れ(たとえばコーナリングフォースの応答遅れ)を小さくできる。
【0011】
また、本発明において、好ましくは、サスペンション装置は、中央部に出力伝達軸を貫通させて保持する開口部が形成された、車輪を支持するハブキャリアを備え、ダンパの下部がハブキャリアに取り付けられ、ダンパの上部が車体に取り付けられるストラット形式のサスペンション装置である。
このように構成された本発明によれば、ストラット形式のサスペンションで、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両の挙動の変化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の車両のサスペンション装置によれば、電動機を備えた車両において、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両の挙動の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態による車両のサスペンション装置が適用された車両の概略構成を示す側面図である。
【
図2】
図1に示す車両上方の車体と、車両下方のバッテリアッセンブリ、車体フレーム、フロントサスペンション装置およびリアサスペンション装置とを上下に分離して示す、車両側方かつ斜め上方から見た斜視図である。
【
図3】
図2に示す車両下方のバッテリアッセンブリ、車体フレーム、リアサスペンション装置を示す車両後方かつ斜め上方から見た斜視図である。
【
図4】
図3に示すリアサスペンション装置における車両左側のリアサスペンション装置を車両左側から見た側面図である。
【
図5】
図3に示すリアサスペンション装置における車両左側のリアサスペンション装置を下方から見た底面図である。
【
図6】比較例(A)と本発明の実施形態(B)による、摩擦ブレーキ時のアンチテールリフト角と回生ブレーキ時のアンチテールリフト角との関係を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両のサスペンション装置を説明する。
【0015】
先ず、
図1および
図2により、本発明の実施形態による車両のサスペンション装置が適用された車両の概略構成を説明する。
図1は、本発明の実施形態による車両のサスペンション装置が適用された車両の概略構成を示す側面図であり、
図2は、
図1に示す車両上方の車体と、車両下方のバッテリアッセンブリ、車体フレーム、フロントサスペンション装置およびリアサスペンション装置とを上下に分離して示す、車両側方かつ斜め上方から見た斜視図である。
まず、
図1および
図2に示すように、車両1は、その上方のモノコックボディで構成された車体2と、その車体2の下方において、車両前後方向の中央部に設けられたバッテリアッセンブリ4と、このバッテリアッセンブリ4から車両後方に延びる後方車体フレーム6と、バッテリアッセンブリ4から車両前方に延びる前方車体フレーム8と、後方車体フレーム6に取り付けられたリアサスペンション装置10と、前方車体フレーム8に取り付けられたフロントサスペンション装置12と、を備える。
【0016】
バッテリアッセンブリ4は、バッテリケース14とバッテリ本体(図示せず)とを備える。
図1および
図2では図示を省略するが、バッテリケース14は、本実施形態では押し出し材等で構成された4辺のフレーム部材を備え、その4辺のフレーム部材内にバッテリ本体が収容され、さらに、バッテリ本体の上方および下方を覆うカバー部材14aを備えている。
【0017】
次に、
図1乃至
図5により、車両の各部の概略構成を説明する。
図3は、
図2に示す車両下方のバッテリアッセンブリ、車体フレーム、リアサスペンション装置を示す車両後方かつ斜め上方から見た斜視図であり、
図4は、
図3に示すリアサスペンション装置における車両左側のリアサスペンション装置を車両左側から見た側面図であり、
図5は、
図3に示すリアサスペンション装置における車両左側のリアサスペンション装置を下方から見た底面図である。
【0018】
まず、
図1乃至
図5に示すように、後方車体フレーム6は、バッテリケース14の後端縁に固定されるベース部材16と、このベース部材16に溶接等により一体的に形成され、車両前後方向に延びる2つのリアサイドフレーム18と、これらのリアサイドフレーム18にボルト締結および溶接等により取り付けられた2つのリアクロスメンバ20と、を備える。
後方車体フレーム6のベース部材16は、バッテリケース14の後端縁のフレーム部材14bにボルト締結および溶接などにより直結されており、バッテリケース14の4辺のフレーム部材と後方車体フレーム6により、車体下部の剛性が高められている。
【0019】
次に、
図3乃至
図5に示すように、リアクロスメンバ20は、リアサスペンション装置10を支持するためのリアサスペンション支持メンバ20a、20bとして機能する。このように、リアサスペンション装置10は、リアサスペンション支持メンバ20a、20bを介して、バッテリケース14に直結されたリアサイドフレーム18に取り付けられている。
なお、詳細には説明を省略するが、前方車体フレーム8も後方車体フレーム6と同様に構成されており、バッテリケース14の4辺のフレーム部材と前方車体フレーム8により、車体下部の剛性が高められている。
【0020】
次に、
図1および
図2に示す車両1の上部のモノコックボディの車体2は、車体下部のバッテリケース14の4辺のフレーム部材、リアクロスメンバ20、フロントクロスメンバ26などにボルト締結および溶接等により取り付けられて、車両1として一体的に構成される。
【0021】
次に、
図2乃至
図5に示すように、車両後部には、その出力が大きく主駆動源となる後部電動機(モータ)30が設けられている。この後部電動機30は、後部電動機30から左右に延びる2つの出力伝達軸32を介して後輪34(
図4、
図5で仮想線で示す)に接続され、後輪34を駆動する。すなわち、本実施形態の車両1は、後輪が主駆動輪となる。
一方、
図2に示すように、車両前部には、後部電動機30より出力が小さく、副駆動源となる前部電動機(モータ)36が設けられている。この前部電動機36は、前部電動機36から左右に延びる2つの出力伝達軸を介して前輪に接続され、前輪を駆動する。これにより、本実施形態の車両1は、前輪が副駆動輪となる。
【0022】
次に、
図3乃至
図5により、リアサスペンション装置10の構成および車体への取付構造を説明する。
図4および
図5は、車両左側のリアサスペンション装置10を示している。なお、車両右側のリアサスペンション装置10は、車両左側のリアサスペンション装置10と同じ構成を有しているので、以下では、その説明を省略する。
まず、
図3乃至
図5に示すように、リアサスペンション装置10は、後輪34を支持するためのハブキャリア42を備えている。このハブキャリア42には、その中央部に、ハブ44を保持すると共に出力伝達軸(車軸)32が貫通する開口部が形成されている。
また、リアサスペンション装置10は、ハブキャリア42にそれぞれ連結される、リアロアアーム46、リアダンパ48およびトーコントロールリンク50を備える。リアダンパ48はコイルスプリング49と共に緩衝装置を構成する。
図4に示すように、リアサスペンション装置10は、バッテリケース14の下端より上方に位置している。
【0023】
これらのサスペンション構成をより詳細に説明する。
まず、リアロアアーム46は、A型のロアアームであり、その車輪34側の先端部が、揺動軸52を介して、ハブキャリア42の中央部から下方に突出した部分に連結されている。本実施形態では、揺動軸52は、ピロボールジョイントで構成されている。
一方、A型のリアロアアーム46は、その車体側の2箇所において、それぞれ揺動軸54、56を介してリアサスペンション支持メンバ20a、20bに連結されている。本実施形態では、各揺動軸54、56は、ブッシュハウジング、弾性ブッシュおよび車体側に取り付けられるボルト軸などで構成されている。
【0024】
ここで、本実施形態では、
図5に示すように、各揺動軸54、56で形成される揺動軸線Aが下面視(平面視)で車両前後方向に一致する方向に延びるよう、各揺動軸54、56の位置が設定されている。
また、本実施形態では、
図4に示すように、各揺動軸54、56で形成される揺動軸線Aが側面視で車両前方に向けて斜め上方の所定の角度の方向に傾斜して延びるよう、各揺動軸54、56の位置および傾きが設定されている。
【0025】
次に、リアダンパ48の下端部は、
図3で明瞭なように、ハブキャリア42の中央部より上方で車幅方向内方に延びる部分の先端部に車両上下方向に取り付けられている。一方、リアダンパ48の上端部は、車体2に取り付けられている。
ここで、本実施形態では、
図4に示すように、リアダンパ48は、その長手方向軸線B(リアダンパ48が延びる方向)が側面視で揺動軸線Aが延びる方向に対して90°の方向に垂直に延びるよう、ハブキャリア42および車体2に取り付けられている。
【0026】
次に、トーコントロールリンク50は、ハブキャリア42の中央部より後方に突出した部分に連結されている。
【0027】
なお、詳細には説明を省略するが、フロントサスペンション装置12も、リアサスペンション装置10と同様のハブキャリア、ロアアーム、ダンパ、タイロッドなどで構成され、リアサスペンション装置10と同様のジオメトリを有する。
【0028】
次に、
図6により、本発明の実施形態によるサスペンション装置の主なジオメトリ構成について説明する。
図6は、比較例(A)と本発明の実施形態(B)による、摩擦ブレーキ時のアンチテールリフト角と回生ブレーキ時のアンチテールリフト角との関係を説明するための概念図である。
図6は、リアサスペンション装置10(100)を示している。なお、本実施形態では、フロントサスペンション装置12も、リアサスペンション装置10と同様のジオメトリ構成を有しているので、以下では、その説明を省略する。
なお、
図6は、車両静止時(1G状態)での各部の状態を示すものである。上述した
図3乃至
図5も同様に車両静止時での各部の状態を示す。
【0029】
まず、
図6(A)に示すように、比較例による従来の車両では、通常、制動時に所定のアンチテールリフト力が得られるように、リアサスペンション装置100の瞬間回転中心Icが、側面視でリアサスペンション装置100より上方かつ車両内に存在するような位置となるよう設定されている。なお、瞬間回転中心Icは、リアダンパの長手方向軸線と直交する仮想線C1とロアアームの揺動軸線A1との交点である。
【0030】
ここで、電動機付き車両(いわゆる電気自動車)において回生ブレーキを用いる際には、その制動力の作動点はホイールセンタWcとなるので、アンチテールリフト角は、瞬間回転中心IcとホイールセンタWcとを結ぶ線(
図6(A)で破線で示す)の地面Gに対する角度となる。一方、摩擦ブレーキ(車輪内のディスクブレーキなど)を用いる際には、その制動力の作動点はタイヤ接地中心Gcとなるので、アンチテールリフト角は、瞬間回転中心Icとタイヤ接地中心Gcとを結ぶ線(
図6(A)で破線で示す)の地面Gに対する角度となる。
したがって、
図6(A)に示すような比較例では、たとえば摩擦ブレーキと回生ブレーキとを協調制御するときや、摩擦ブレーキと回生ブレーキとを切り替えるときなどにおいて、摩擦ブレーキと回生ブレーキの制動力を変更すると、アンチテールリフト角の違いにより車両後部のピッチング挙動が変化し、それにより、車両全体の挙動が安定しないものとなってしまう。
なお、
図6(A)において、符号T1は、後輪の運動軌跡を示し、この揺動軌跡T1は、瞬間回転中心IcとホイールセンタWcとを結ぶ線に対して直交する方向に円弧状に延びる軌跡となる。
【0031】
一方、本実施形態では、
図6(B)および
図4に示すように、リアダンパ48の長手方向軸線Bが、側面視で、揺動軸線Aに対して垂直に延びるようにし、これにより、リアダンパ48の長手方向軸線Bと直交する仮想線Cが、揺動軸線Aと平行に延びるようにしている。
また、本実施形態では、
図5に示すように、揺動軸線Aが、下面視(平面視)で、車両前後方向と一致する方向に延びるようにしている。
また、本実施形態では、下面視で揺動軸線Aが車両前後方向と一致する方向に延びるようにすることで、
図6(B)に示すように、リアロアアーム46のボールジョイント52および後輪34が、リアダンパ48の長手方向軸線Bが延びる方向と一致する上下方向に直線的に揺動(揺動軌跡を符号Tで示す)するようにしている。なお、リアロアアーム46は、車両前後方向に延びる揺動軸線Aを中心に揺動するので、その車輪側のボールジョイント52の揺動軌跡Tは、側面視で直線状となる。
また、本実施形態では、
図6(B)および
図4に示すように、リアロアアーム46の揺動軸線Aを、側面視で車両前方に向けて斜め上方に延びるようにし、これにより、リアサスペンション装置10にアンチリフト角を形成している。
【0032】
本実施形態では、上述したようなサスペンションジオメトリの設定により、
図6(B)に示すように、電動機付き車両1において回生ブレーキを用いる際のアンチテールリフト角と、摩擦ブレーキを用いる際のアンチテールリフト角とを同様の角度となるようにしている。これにより、本実施形態では、たとえば摩擦ブレーキと回生ブレーキとの協調制御時などにおいて、車両後部のピッチング挙動の変化を抑制し、車両の挙動が安定するようにしている。
また、
図6(B)に示すように、リアダンパ48が側面視で揺動軸線Aに対して垂直に延びるように設定して、後輪34の直線状の揺動方向(運動軌跡)Tとリアダンパの長手方向軸線Bとを一致させるようにしている。これにより、本実施形態では、後輪34から伝達される荷重をハブキャリア42を介して効率よくリアダンパ48に入力させて、リアダンパ48を効率よく作動させるようにしている。
また、本実施形態では、後部電動機30を出力が大きい主駆動源として、後輪34の駆動を主駆動とするようにしているので、
図6(B)に示すように、リアサスペンション装置10に形成されるアンチリフト角により、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時に、特に車体後部のリフトを抑制することができる。
【0033】
以上説明したように、本発明の技術的思想は、第1に、側面視において、ダンパ48が揺動軸線Aに対して垂直な方向に延びるようにして、ダンパ48の長手方向軸線Bと直交する仮想線Cが、揺動軸線Aと平行な方向に延びるようにすることにより、瞬間回転中心が存在しない状態を作りだし、あるいは、(特に
図6(A)に示すような瞬間回転中心Icの位置に対して)無限遠の距離離れた位置となるようにし、これにより、回生ブレーキと摩擦ブレーキとの制動力を変更しても車両のピッチング挙動の変化が抑制されるようにするものである。
また、本発明の技術的思想は、第2に、下面視(平面視)において、揺動軸線Aが車両前後方向に延びるようにすることにより、瞬間回転中心が存在しない状態を作りだし、あるいは、(特に
図6(A)に示すような瞬間回転中心Icの位置に対して)無限遠の距離離れた位置となるようにし、これにより、回生ブレーキと摩擦ブレーキとの制動力を変更しても車両のピッチング挙動の変化が抑制されるようにするものである。
また、本発明の技術的思想は、第3に、側面視において、揺動軸線Aが車両前方に向けて斜め上方に延びるようにして、アンチリフト角を形成し、これにより、回生ブレーキと摩擦ブレーキとの協調制御時などにおいて、車両のピッチング挙動の変化(特に、車両後部のピッチング挙動の変化)が抑制されるようにするものである。
また、本発明の技術的思想は、第4に、下面視(平面視)において、揺動軸線Aが車両前後方向に延びるようにし、かつ、側面視において、ダンパ48が揺動軸線Aに対して垂直な方向に延びるようにして、後輪34(ボールジョイント52)の直線状の揺動方向(運動軌跡)Tとリアダンパの長手方向軸線Bとを一致させ、これにより、後輪34から伝達される荷重を効率よくリアダンパ48に入力させるようにするものである。
【0034】
以上説明した本発明の技術的思想は、フロントサスペンション装置12にも同様に適用される。
【0035】
なお、上述したように本発明では、側面視におけるダンパの長手方向軸線Bの揺動軸線Aに対する角度、側面視における揺動軸線Aと仮想線Cの平行度、および、下面視における揺動軸線Aが延びる方向が重要である。一方、これらの値は、上述した実施形態のものに限定されず、たとえば車両の設計時や試験車両の実験時などにおいて、車両のピッチング挙動に影響を与える車両のホイールベースの長さや重心位置、サスペンション揺動時の各部の動きなどを考慮して、摩擦ブレーキと回生ブレーキの協調制御時などに車両のピッチング挙動の変化を実質的に抑制できる範囲(角度、平行度、方向)に調整してもよい。たとえば、揺動軸線Aとリアダンパ48の長手方向軸線Bとがなす角度の設定は、90°±2.5°の範囲が好ましい。
【0036】
なお、本実施形態の車両1の変形例として、電動機として前部電動機36のみ設けて前輪40を駆動する前輪駆動車としてもよいし、電動機として後部電動機30のみ設けて後輪34を駆動する後輪駆動車としてもよいし、1つの電動機で前輪40と後輪34を駆動するようにしてもよい。
【0037】
また、本発明は、上述したストラット式サスペンション装置に限らず、他の形式のサスペンション装置にも適用可能である。たとえば、ダブルウィッシュボーン式のサスペンション装置であれば、側面視で、ロアアームの揺動軸線と、アッパアームの揺動軸線とが互いに平行な方向に延びるようにし、また、下面視(平面視)で、それらの揺動軸線を車両前後方向と一致する方向に延びるようにすれば、回生ブレーキと摩擦ブレーキとの制動力を変更しても車両のピッチング挙動の変化を抑制するという同様の効果を得ることができる。側面視で、各揺動軸線を車両前方に向けて斜め上方に延びるようにする事項も同様の効果が得られる。
【0038】
次に、本実施形態の作用効果を説明する。
本実施形態は、出力伝達軸32を介して車輪34に駆動力を伝達する電動機30を備える車両1のサスペンション装置10であって、車体側および車輪側に連結され、車両上下方向に揺動可能なサスペンションアーム46と、側面視において、サスペンションアーム46の車体側取付け部における揺動軸線Aに対して垂直な方向に延びるダンパ48と、を備え、側面視において、サスペンションアーム46の揺動軸線Aと、ダンパ48が延びる方向に直交する仮想線Cとが互いに平行な方向に延びる。
このように構成された本実施形態によれば、制動時の回生ブレーキと摩擦ブレーキのアンチリフト角の差が生じないようにして、たとえば回生ブレーキと摩擦ブレーキとの協調制御時、回生ブレーキの制動力と摩擦ブレーキの制動力とを変更しても車体のピッチング挙動の変化を抑制することができる。
【0039】
また、本実施形態によれば、サスペンションアーム46の揺動軸線Aは、下面視で車両前後方向に一致する方向に延びるので、より確実に、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両1の挙動の変化を抑制して、乗員の違和感を低減することができる。また、サスペンションアーム46の揺動軸線Aが下面視で車両前後方向に一致する方向に延びるので、車輪34(ホイールセンタWc)が、ダンパ48の長手方向軸線Bが延びる方向と同一方向に直線的に揺動するようにすることができ、これにより、より効果的に、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両1の挙動の変化を抑制することができる。
【0040】
また、本実施形態によれば、車両1のサスペンション装置は、後輪34を主駆動輪とするリアサスペンション装置10であり、リアサスペンション装置10のサスペンションアーム46の揺動軸線Aは、側面視で車両前方に向けて斜め上方に傾斜して延びるので、リアサスペンション装置10にアンチリフト角を形成することができる。このようなアンチリフト角により、特に、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車体後部のリフトが抑制され、これにより、より効果的に、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両1のピッチング挙動の変化を抑制することができる。
【0041】
また、本実施形態によれば、サスペンションアーム46は、車両の中央下部のバッテリケース14の後端部14bに直結された後方車体フレーム6に取付けられ(具体的には、(リアサイドフレーム18にリアサスペンション支持メンバ20a、20bを介して取り付けられ)、かつ、バッテリケース14の下端より上方に位置するので、車輪34の支持剛性を高めて、車両挙動の応答遅れ(たとえばコーナリングフォースの応答遅れ)を小さくできる。
【0042】
また、本実施形態によれば、リアサスペンション装置10は、中央部に出力伝達軸32を貫通させて保持する開口部が形成された、車輪34を支持するハブキャリア42を備え、ダンパ48の下部がハブキャリア42に取り付けられ、ダンパ48の上部が車体2に取り付けられるストラット形式のサスペンション装置であるので、比較的簡易な構成であるストラット形式のサスペンションで、回生ブレーキおよび摩擦ブレーキの使用時における車両の挙動の変化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0043】
1 車両
2 車体
4 バッテリアッセンブリ
6 後方車体フレーム
8 前方車体フレーム
10 リアサスペンション装置
12 フロントサスペンション装置
14 バッテリケース
18 リアサイドフレーム
20a、20b リアクロスメンバ、リアサスペンション支持メンバ
30 後部電動機
32 出力伝達軸
34 後輪
36 前部電動機
42 ハブキャリア
46 リアロアアーム
48 リアダンパ
52 リアロアアームの車輪側揺動軸(ピロボールジョイント)
54、56 リアロアアームの車体側揺動軸
A リアロアアームの揺動軸線
B リアダンパの長手方向軸線(ダンパが延びる方向)
C リアダンパの長手方向軸線に直交する仮想線
G 地面
Ic 瞬間回転中心
Wc ホイールセンタ
Gc タイヤ接地中心
T、T1 後輪の揺動軌跡