IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本メクトロン株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-パワーモジュール 図1
  • 特開-パワーモジュール 図2
  • 特開-パワーモジュール 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160051
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】パワーモジュール
(51)【国際特許分類】
   H05K 1/14 20060101AFI20231026BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231026BHJP
   H05K 1/02 20060101ALI20231026BHJP
   H01L 25/07 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
H05K1/14 F
H05K1/03 610N
H05K1/02 J
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070099
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000230249
【氏名又は名称】日本メクトロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柳本 貴哉
(72)【発明者】
【氏名】大庭 久恵
【テーマコード(参考)】
5E338
5E344
【Fターム(参考)】
5E338AA02
5E338AA03
5E338AA12
5E338AA16
5E338AA18
5E338BB75
5E338EE11
5E344AA04
5E344AA22
5E344BB02
5E344BB08
5E344BB10
5E344CC19
5E344CD21
5E344DD02
5E344EE06
(57)【要約】
【課題】寄生インダクタンスの低減を図ることができるパワーモジュールを提供する。
【解決手段】DBC基板200と、DBC基板200に設けられる第2導体層222に電気的に接続されるSiC半導体素子300と、SiC半導体素子300に接続されるFPC400と、を備え、FPC400は、SiC半導体素子300に電気的に接続される導体層を有しており、第1導体層421の厚みが70μm以上500μm以下であることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板に設けられる導体に電気的に接続されるSiC半導体素子と、
前記SiC半導体素子に接続されるフレキシブルプリント配線板と、
を備え、
前記フレキシブルプリント配線板は、前記SiC半導体素子に電気的に接続される導体層を有しており、前記導体層の厚みが70μm以上500μm以下であることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項2】
前記導体層は接着剤層を介してベースフィルムに設けられており、225℃の環境下で1000時間経過した時点で前記導体層と前記ベースフィルムが剥がれることのない耐熱性を有することを特徴とする請求項1に記載のパワーモジュール。
【請求項3】
前記ベースフィルムはポリイミドにより構成され、前記接着剤層はフッ素ゴム系接着剤により構成されることを特徴とする請求項2に記載のパワーモジュール。
【請求項4】
基板と、
前記基板に設けられる導体に電気的に接続されるSiC半導体素子と、
前記SiC半導体素子に接続されるフレキシブルプリント配線板と、
を備え、
前記フレキシブルプリント配線板は、複数のフィルムと複数の導体層とをそれぞれ接着剤層を介して備える多層構造であり、前記SiC半導体素子に電気的に接続され、かつ前記SiC半導体素子が配される側に最も近い素子側導体層の厚みが70μm以上500μm以下であることを特徴とするパワーモジュール。
【請求項5】
前記素子側導体層は前記接着剤層を介してベースフィルムの表面に設けられており、225℃の環境下で1000時間経過した時点で前記素子側導体層と前記ベースフィルムが剥がれることのない耐熱性を有することを特徴とする請求項4に記載のパワーモジュール。
【請求項6】
前記素子側導体層よりも前記SiC半導体素子が配される側に前記接着剤層を介して素子側フィルムが設けられており、225℃の環境下で1000時間経過した時点で前記素子側導体層と前記素子側フィルムが剥がれることのない耐熱性を有することを特徴とする請求項5に記載のパワーモジュール。
【請求項7】
前記ベースフィルムと前記素子側フィルムはポリイミドにより構成され、前記接着剤層はフッ素ゴム系接着剤により構成されることを特徴とする請求項6に記載のパワーモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブルプリント配線板を備えるパワーモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、Si半導体を用いたパワーモジュールに比べて、高温環境下での動作特性に優れたSiC半導体を用いたパワーモジュールが注目されている。しかしながら、SiC半導体を用いたパワーモジュールの場合、スイッチング速度が速くサージ電圧が高くなるため、寄生インダクタンスを低減しサージ電圧を抑えることが望ましい。寄生インダクタンスの内、配線インダクタンスは配線路長が短いほど小さい。そのため、ワイヤボンディング方式を採用するよりも、フレキシブルプリント配線板(以下、「FPC」と称する)を採用する方が配線路長を短くできるため有効である。
【0003】
しかしながら、一般的に、FPCの長期耐熱温度は80℃程度、FPCの高耐熱グレードやリジット基板でも耐熱温度は150℃程度である。これに対し、SiC半導体の最大動作温度は200℃以上であるため、従来構造のFPCでは、SiC半導体を用いたパワーモジュールには採用することができない。また、パワーモジュールに求められる25A以上の大電流を従来構造のFPCに流した場合、導体の高温発熱やそれに伴う配線の溶断や接着剤の脆化も懸念される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2018-195751号公報
【特許文献2】特開2018-67655号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、寄生インダクタンスの低減を図ることができるパワーモジュールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0007】
すなわち、本発明のパワーモジュールは、
基板と、
前記基板に設けられる導体に電気的に接続されるSiC半導体素子と、
前記SiC半導体素子に接続されるフレキシブルプリント配線板と、
を備え、
前記フレキシブルプリント配線板は、前記SiC半導体素子に電気的に接続される導体層を有しており、前記導体層の厚みが70μm以上500μm以下であることを特徴とする。
【0008】
また、本発明のパワーモジュールは、
基板と、
前記基板に設けられる導体に電気的に接続されるSiC半導体素子と、
前記SiC半導体素子に接続されるフレキシブルプリント配線板と、
を備え、
前記フレキシブルプリント配線板は、複数のフィルムと複数の導体層とをそれぞれ接着
剤層を介して備える多層構造であり、前記SiC半導体素子に電気的に接続され、かつ前記SiC半導体素子が配される側に最も近い素子側導体層の厚みが70μm以上500μm以下であることを特徴とする。
【0009】
これらの発明によれば、フレキシブルプリント配線板を採用したことで、配線路長を短くすることができ、寄生インダクタンスを低減することができる。そして、SiC半導体素子に電気的に接続される導体層(素子側導体層)の厚みが70μm以上500μm以下であるので、大きな電流が流れても温度上昇を抑制することができる。これにより、配線(導体層)の溶断を抑制することができる。
【0010】
前記導体層(素子側導体層)は接着剤層を介してベースフィルムに設けられており、225℃の環境下で1000時間経過した時点で前記導体層(素子側導体層)と前記ベースフィルムが剥がれることのない耐熱性を有するとよい。
【0011】
これにより、高温環境下でも安定した品質を維持することができる。
【0012】
また、前記素子側導体層よりも前記SiC半導体素子が配される側に前記接着剤層を介して素子側フィルムが設けられており、225℃の環境下で1000時間経過した時点で前記素子側導体層と前記素子側フィルムが剥がれることのない耐熱性を有するとよい。
【0013】
そして、前記ベースフィルムと前記素子側フィルムはポリイミドにより構成され、前記接着剤層はフッ素ゴム系接着剤により構成されると好適である。
【0014】
これにより、高温環境下でも安定した品質を維持することができる。
【発明の効果】
【0015】
以上説明したように、本発明によれば、寄生インダクタンスの低減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は本発明の実施形態1に係るパワーモジュールの模式的断面図である。
図2図2は本発明の実施形態2に係るパワーモジュールの模式的断面図である。
図3図3は本発明の実施形態3に係るパワーモジュールの模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための実施形態及び実施例を例示的に詳しく説明する。ただし、この実施形態及び実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0018】
(実施形態1)
図1を参照して、本発明の実施形態1に係るパワーモジュールについて説明する。本実施形態に係るパワーモジュール10は、樹脂製のケース110と、モジュール内の熱を逃がすためのヒートシンク120とを備えている。また、パワーモジュール10は、DBC基板200と、DBC基板200に固定される複数のSiC半導体素子300と、フレキシブルプリント配線板(以下、「FPC400」と称する)とを備えている。なお、図ではSiC半導体素子300が2つ設けられているが、SiC半導体素子の個数が限定されることはない。
【0019】
DBC基板200は、絶縁性の基材210と、基材210の両面にそれぞれ設けられる
第1導体層221及び第2導体層222とを備えている。基材210はセラミック材料などにより構成される。そして、第1導体層221はヒートシンク120に接続されかつ固定されている。また、第2導体層222には、外部の装置に電気的に接続するための外部接続端子230が電気的に接続されている。
【0020】
複数のSiC半導体素子300は、焼結銀や半田などにより構成される接合部材311によって第2導体層222に電気的に接続されている。
【0021】
本実施形態に係るFPC400は、複数のフィルムと複数の導体層とをそれぞれ接着剤層を介して備える多層構造である。より具体的には、FPC400は、ベースフィルム410と、ベースフィルム410の両面側にそれぞれ設けられる第1導体層421及び第2導体層422とを備えている。ベースフィルム410と、第1導体層421及び第2導体層422との間には、それぞれ第1接着剤層431及び第2接着剤層432が設けられている。また、FPC400においては、第1導体層421を保護する第1カバーフィルム441が第3接着剤層433を介して設けられ、かつ、第2導体層422を保護する第2カバーフィルム442が第4接着剤層434を介して設けられている。
【0022】
そして、第1導体層421は、焼結銀や半田などにより構成される接合部材312によってSiC半導体素子300と電気的に接続されている。また、第1導体層421は、焼結銀や半田などにより構成される接合部材450によってDBC基板200における第2導体層222にも電気的に接続されている。なお、各導体層間においては、所望の電気回路に応じて、スルーホールやビアホールなどにより電気的に接続することができる。
【0023】
また、本実施形態においては、SiC半導体素子300と電気的に接続され、かつSiC半導体素子300が配される側に最も近い素子側導体層としての第1導体層421の厚みは70μm以上500μm以下となるように構成されている。また、本実施形態においては、第2導体層422についても同様に、その厚みが70μm以上500μm以下となるように構成されている。なお、この第2導体層422についても、第1導体層421及びスルーホールやビアホールを介して、SiC半導体素子300と電気的に接続することができる。
【0024】
更に、本実施形態に係るFPC400においては、225℃の環境下で1000時間経過した時点で素子側導体層である第1導体層421とベースフィルム410が剥がれることのない耐熱性を有している。また、FPC400は、225℃の環境下で1000時間経過した時点で第1導体層421と第1カバーフィルム441が剥がれることのない耐熱性を有している。ここで、第1カバーフィルム441は、素子側導体層としての第1導体層421よりもSiC半導体素子400が配される側に第3接着剤層433を介して設けられる素子側フィルムである。なお、本実施形態に係るFPC400においては、全てのフィルム及び接着剤層について、225℃の環境下で1000時間経過した時点で、フィルムと導体層が剥がれることのない耐熱性を有している。
【0025】
また、ケース110の内部においては、充填後に硬化することで構成される樹脂材130によって、DBC基板200と、複数のSiC半導体素子300と、FPC400と、外部接続端子230の一部が埋没するように構成されている。
【0026】
<本実施形態に係るパワーモジュールの優れた点>
本実施形態に係るパワーモジュール10においては、FPC400を採用したことで、配線路長を短くすることができる。すなわち、FPC400を複数のSiC半導体素子400を介してDBC基板200の表面に沿って配することで、ワイヤボンディング方式を採用する場合に比べて配線路長を短くすることができる。これにより、寄生インダクタン
スを低減することができ、サージ電圧の抑制をすることができる。また、本来的に柔軟性を有するFPC400を採用することで、DBC基板200の表面上において、複数のSiC半導体素子400に倣って配することができるため、リジッド基板を採用する場合に比べて、モジュールを小型化することもできる。
【0027】
そして、SiC半導体素子300に電気的に接続される導体層の厚みが70μm以上500μm以下であるので、大きな電流が流れても温度上昇を抑制することができる。これにより、配線(導体層)の溶断を抑制することができる。また、接着剤層の脆化も抑制することができる。また、パワーモジュールを冷却するのに必要な機構なども簡素化することができ、パワーモジュールの小型化にもつながる。なお、SiC半導体素子を備えるパワーモジュールにおいては、一般的に、25A以上の電流を流すことが求められる。第1導体層421と第2導体層422にそれぞれ12.5A流れるように構成した場合、導体層の幅を3mmとし、温度上昇の上限をΔ50℃とすると、一般的なFPCの銅箔の厚みである18μmや35μmの場合には不合格となる。そこで、本実施形態においては、導体層の厚みの下限を70μmに設定している。また、一般的に、リジッド基板においても、銅箔の厚みの上限は500μm程度であることから、本実施形態においては、導体層の厚みの上限を500μmとしている。
【0028】
また、フィルム及び接着剤層について、225℃の環境下で1000時間経過した時点で、フィルムと導体層が剥がれることのない耐熱性を有することで、高温環境下でも安定した品質を維持することができる。なお、このような耐熱性を有するフィルムと導体層については、本願の出願人が既に提案している特開2021-91873号公報に開示された技術を採用することができる。この技術については、後述する。
【0029】
(実施形態2)
図2には、本発明の実施形態2が示されている。本実施形態においては、FPCの構成が上記実施形態1で示したFPCとは異なる場合の構成について示す。その他の構成および作用については実施形態1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0030】
図2を参照して、本発明の実施形態2に係るパワーモジュールについて説明する。本実施形態に係るパワーモジュール10Aにおいても、実施形態1と同様に、ケース110、ヒートシンク120、DBC基板200、複数のSiC半導体素子300、及びFPC400A等を備えている。FPC400A以外の構成については、実施形態1で説明した通りである。
【0031】
FPC400Aは、実施形態1と同様に、ベースフィルム410と、ベースフィルム410の両面側にそれぞれ設けられる第1導体層421及び第2導体層422とを備えている。また、ベースフィルム410と、第1導体層421及び第2導体層422との間には、それぞれ第1接着剤層431及び第2接着剤層432が設けられている。本実施形態に係るFPC400Aの場合には、実施形態1と異なり、カバーフィルムは設けられていない。
【0032】
第1導体層421が、接合部材312によってSiC半導体素子300と電気的に接続され、接合部材450によってDBC基板200における第2導体層222に電気的に接続されている点は実施形態1と同様である。また、各導体層間においては、所望の電気回路に応じて、スルーホールやビアホールなどにより電気的に接続することができる点も実施形態1で説明した通りである。
【0033】
導体層の厚み、及び、フィルム(本実施形態の場合には、ベースフィルム410のみ)
と接着剤層の耐熱性についても、実施形態1で説明した通りである。従って、本実施形態においても、実施形態1と同様の効果を得ることができる。
【0034】
(実施形態3)
図3には、本発明の実施形態3が示されている。本実施形態においては、FPCの構成が上記実施形態1で示したFPCとは異なる場合の構成について示す。その他の構成および作用については実施形態1と同一なので、同一の構成部分については同一の符号を付して、その説明は適宜省略する。
【0035】
図3を参照して、本発明の実施形態3に係るパワーモジュールについて説明する。本実施形態に係るパワーモジュール10Bにおいても、実施形態1と同様に、ケース110、ヒートシンク120、DBC基板200、複数のSiC半導体素子300、及びFPC400B等を備えている。FPC400B以外の構成については、実施形態1で説明した通りである。
【0036】
本実施例に係るFPC400Bは、実施形態1に示すFPC400よりも、更に多層構造となっている。すなわち、FPC400Bは、FPC400の構成に加え、更に、第2カバーフィルム442の外側に、中間フィルム461と、第5接着剤層463aを介して中間フィルム461に固定される第3導体層462とを備えている。また、FPC400Bにおいては、第3導体層462を保護する第3カバーフィルム464が第6接着剤層463bを介して設けられている。第2カバーフィルム442と中間フィルム461は、第7接着剤層465により接着されている。
【0037】
第1導体層421が、接合部材312によってSiC半導体素子300と電気的に接続され、接合部材450によってDBC基板200における第2導体層222に電気的に接続されている点は実施形態1と同様である。また、各導体層間においては、所望の電気回路に応じて、スルーホールやビアホールなどにより電気的に接続することができる点も実施形態1で説明した通りである。
【0038】
導体層の厚み、及び、フィルムと接着剤層の耐熱性についても、実施形態1で説明した通りである。なお、第3導体層462においても、第1導体層421及び第2導体層422と同様に大電流が流れる場合には、第3導体層462の厚みを70μm以上500μm以下とするとよい。また、中間フィルム461及び第3カバーフィルム464と各接着剤層の耐熱性についても、上記実施形態と同様の構成を採用するとよい。しかしながら、第3導体層462には小電流しか流れない場合には、第3導体層462については、一般的なFPCと同様の厚みの銅箔等を採用することができる。例えば、第3導体層462の厚みの下限は、12μmとすることができる。そして、中間フィルム461及び第3カバーフィルム464と各接着剤層の耐熱性についても一般的なFPCと同様でも構わない。以上の各実施形態で示したFPCの構造は、一例に過ぎず、本発明は各種構造のFPCに適用することができる。そして、導体層の厚みについては、導体層に流れる電流の最大値に応じて、70μm以上500μm以下の範囲で設定すればよい。
【0039】
(耐熱性を有するフィルム及び接着剤層)
225℃の環境下で1000時間経過した時点で、フィルムと導体層が剥がれることのない耐熱性を有するためのフィルム及び接着剤層について説明する。以下の説明は、本願の出願人が既に提案している特開2021-91873号公報に開示された内容に基づいている。なお、以下の説明においては、上述した各種接着剤層については「接着層」と称し、上述した各種フィルム(ベースフィルムやカバーフィルム等)については「樹脂フィルム(層)」と称する。また、樹脂フィルムに接着層が積層されたものを「接着フィルム」と称する。そして、「フィルムと導体層が剥がれることのない耐熱性を有する」に関し
ては、具体的には、JPCA規格におけるJPCA-DG02-2006に基づいて、ピール強度(フィルムと導体層の引き剥がし強さ)が0.49N/mm以上であることを意味する。測定方法は、IPC TM650 2.4.9(フリーホイーリングロータリードラム法)を採用した。
【0040】
本開示の接着フィルムは、樹脂フィルム層に接着層が積層された接着フィルムであって、該接着層が、接着剤を含み、該接着層は、Bステージ状態であり、JIS K7126-1に準拠して測定される、該樹脂フィルム層の200℃における酸素透過率が、1.50×10-10cc・cm/cm・sec・cmHg以下であり、該接着剤の3%熱重量減少温度が、320℃以上である。
【0041】
FPCに用いられるベースフィルムやカバーフィルムとして従来使用されているポリイミドは、一般的に、高い酸素透過率を有することが分かった。そのため、ポリイミドを使用したFPCにおいては、空気中の酸素が該ポリイミドや接着剤を透過することができ、該酸素と導体と反応して酸化物を形成することで導体の酸化劣化を引き起こしていることが分かった。この現象は、200℃を超える高温環境下において顕著となる。
【0042】
そこで、樹脂フィルムのなかでも高温環境下における酸素透過率が低いもの、具体的には200℃における酸素透過率が1.50×10-10cc・cm/cm・sec・cmHg以下である樹脂フィルム層を用いることで、高温環境下における導体の酸化劣化が抑制され、カバーフィルムの剥離強度の低下を防ぐことが可能となることを見出した。
【0043】
また、FPCに従来使用されている一般的なエポキシ系の接着剤は、200℃を超える高温環境下では熱分解による低分子量化が起きており、かかる低分子量化が原因で接着剤の脆化が発生することが分かった。
【0044】
そこで、耐熱性の高い接着剤、具体的には3%熱重量減少温度が320℃以上である接着剤を用いることで、200℃を超える高温環境下でも接着剤の低分子量化による脆化が抑制され、SiC,GaNパワー半導体を用いたパワーデバイスでの使用にも耐えうる、耐熱性に優れるFPCが提供できることを見出した。
【0045】
以下、本開示で用いる各材料について説明する。
【0046】
<樹脂フィルム層>
接着フィルムは、樹脂フィルム層を有する。JIS K7126-1に準拠して測定される、該樹脂フィルム層の200℃における酸素透過率は、1.50×10-10cc・cm/cm・sec・cmHg以下である。
【0047】
該酸素透過率は、好ましくは1.00×10-10cc・cm/cm・sec・cmHg以下であり、より好ましくは1.00×10-11cc・cm/cm・sec・cmHg以下である。該酸素透過率の下限値は特に制限されず、低いほど好ましいが、例えば1.00×10-15cc・cm/cm・sec・cmHg以上とすることができる
【0048】
該酸素透過率は、樹脂フィルムを構成するモノマー成分により制御することができる。また、該酸素透過率は、樹脂フィルムに有機層や無機層をコーティングしたり、樹脂フィルムに有機フィルムや無機フィルムを接着したり、樹脂フィルムに有機フィラーや無機フィラーを添加したりすることによっても制御することができる。
【0049】
該酸素透過率の測定方法の詳細は後述する。
【0050】
樹脂フィルム層は、200℃における酸素透過率が1.50×10-10cc・cm/cm・sec・cmHg以下であればよく、公知の樹脂フィルムを用いることができる。該樹脂フィルム層としては、例えば、ポリイミドフィルムを用いることができる。
【0051】
該樹脂フィルム層は、樹脂フィルム一種単独からなっていてもよく、二種以上の樹脂フィルムが積層されたフィルムであってもよい。また、アルミニウムなどの金属が樹脂フィルムに蒸着された金属蒸着フィルムも、樹脂フィルム層として使用することができる。
【0052】
該樹脂フィルム層として、具体的には、UPILEXシリーズ(宇部興産製ポリイミドフィルム)、ベクスターシリーズ(クラレ製液晶ポリマー)などを使用することができる。ベクスターシリーズの液晶ポリマーを樹脂フィルム層として使用する場合は、ベクスターシリーズのなかでも、ベクスターCTFが酸素透過率の観点から好ましい。
【0053】
また、該ポリイミドフィルムは、テトラカルボン酸成分と、ジアミン成分と、の重合体であるポリイミドを含有することが好ましい。該テトラカルボン酸成分としては特に制限されないが、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸などのビフェニルテトラカルボン酸、ピロメリット酸並びにこれらの酸無水物及びこれらの低級アルコールのエステル化物からなる群から選ばれる少なくとも一であることが好ましい。該テトラカルボン酸成分は、より好ましくは3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸を含み、さらに好ましくは3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を含む。
【0054】
該ジアミン成分としては特に制限されないが、1,4-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン、1,2-フェニレンジアミン、2,4-ジアミノトルエン、2,5-ジアミノトルエン及び2,6-ジアミノトルエンからなる群から選ばれる少なくとも一であることが好ましい。
【0055】
該ポリイミドフィルムは、1,2-フェニレンジアミン、1,3-フェニレンジアミン及び1,4-フェニレンジアミンからなる群から選択される少なくとも一、並びに、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を少なくとも含むモノマーの重合体であるポリイミドを含むことがより好ましい。さらに好ましくは、1,4-フェニレンジアミン及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を少なくとも含むモノマーの重合体であるポリイミドを含む。
【0056】
該ポリイミドフィルムが上記ポリイミドを含むと、該ポリイミドの単位構造同士が重なりあうことで酸素をより通しにくい構造となるため、好ましい。1,4-フェニレンジアミン及び3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を少なくとも含むモノマーの重合体に該当するポリイミドフィルムとしては、具体的にはUPILEX-Sなどが挙げられる。
【0057】
<接着剤>
接着フィルムは、上記樹脂フィルム層に接着層が積層されている。また、該接着層は、接着剤を含有する。さらに、該接着剤の3%熱重量減少温度は、320℃以上である。該接着剤の3%熱重量減少温度は、好ましくは350℃以上であり、より好ましくは370℃以上である。該3%熱重量減少温度の上限値は特に制限されないが、レーザー加工性の観点から、600℃以下であることが好ましい。該3%熱重量減少温度は、分子構造の最適化、架橋密度の最適化などにより制御することができる。
【0058】
該接着剤は、3%熱重量減少温度が320℃以上であればよく、公知の接着剤を用いることができる。例えば、耐熱性の観点から、フッ素系ゴムを含有する接着剤が好ましい。
該フッ素系ゴムは、不飽和結合を有していてもよく、不飽和結合を有さなくてもよいが、不飽和結合を有することがより好ましい。
【0059】
不飽和結合を有するフッ素系ゴムは、フッ素系ゴムに公知の方法で不飽和結合を導入することで得ることができる。例えば、アルカリ変性など塩基変性による方法が挙げられる。
【0060】
該接着剤がフッ素系ゴムを含有すると耐熱性が向上する理由として、以下のように推測される。
【0061】
炭素-フッ素間(C-F間)の結合エネルギーは、炭素-水素間(C-H間)の結合エネルギーよりも大きいことが知られている。そのため、ゴムをフッ素で変性してC-F結合を増やすことで、熱による元素間結合の切断を起こりにくくすることができる。また、樹脂中の主鎖における炭素-炭素間(C-C間)の結合の回転のしやすさに着目すると、フッ素変性を行っていない場合(すなわち-CH-の場合)よりも、フッ素変性を行っている場合(すなわち-CF-の場合)のほうが回転しにくくなり、結合エネルギーが大きくなる。そのため、熱による分解が起こりにくくなり、耐熱性が向上する。さらに、フッ素系ゴムが不飽和結合を有する場合、該不飽和結合と後述する熱硬化性樹脂が反応し得るため、より耐熱性が向上する。
【0062】
該フッ素系ゴムとしては、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、及びテトラフルオロエチレンなどからなる群から選択される少なくとも一つのモノマーの重合体又は共重合体が挙げられる。より好ましくは、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、及びテトラフルオロエチレンなどからなる群から選択される少なくとも一つのモノマーの共重合体である。共重合体は、好ましくは二元共重合体又は三元共重合体であり、より好ましくは二元共重合体である。また、不飽和結合を有するフッ素系ゴムとしては、上記重合体又は共重合体の不飽和結合導入物が挙げられる。
【0063】
共重合体中には、本開示の効果を損なわない程度に、エチレン、プロピレン、アルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロイソブテン、酢酸ビニルなどのフッ素化オレフィン、オレフィン、ビニル化合物等が共重合されていてもよい。
【0064】
具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロペン共重合体、クロロフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体、及びこれらの不飽和結合導入物などが挙げられる。
【0065】
好ましくはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体及び該共重合体の不飽和結合導入物であり、より好ましくはフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体の不飽和結合導入物である。共重合割合(フッ化ビニリデン:ヘキサフルオロプロペン)は、質量基準で、好ましくは3:7~9.5:0.5であり、より好ましくは5:5~9:1である。
【0066】
フッ素系ゴムは、一種を単独で使用してもよく、二種以上を組み合わせて使用してもよい。また、不飽和結合を有さないフッ素系ゴムと不飽和結合を有するフッ素系ゴムを併用してもよい。
【0067】
フッ素系ゴム又は不飽和結合を有するフッ素系ゴムのムーニー粘度(ML1+10(121℃))は、40~110であることが好ましい。上記範囲であると、シート加工性に
優れ、弾性率と伸び率が適正な範囲となるため、抜き加工性、高温での接着力、半田耐熱性、高温長時間の耐久試験後の接着力、及びBステージ状態での加工性が良好になる。ムーニー粘度(ML1+10(121℃))は、より好ましくは50~100である。ムーニー粘度は、材料の分子量などにより制御することができる。例えば、分子量を大きくすることでムーニー粘度をより大きくすることができる。
【0068】
ムーニー粘度の測定は、JIS K 6300-1(2013)に準じて行う。ムーニービスコメータSMV-201(株式会社島津製作所製)を用いて、温度条件121℃にて、予熱時間1分及びローターの回転時間10分の条件で粘度を測定する。
【0069】
これらの重合体又は共重合体に対し、必要に応じてアセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒の存在下、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化セシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、トリエチルアミン等のアルカリ性物質により、好ましくは20~70℃程度の温度で処理することにより、脱フッ化水素化反応して分子内に不飽和結合を形成させることができる。
【0070】
不飽和結合を有するフッ素系ゴムにおける不飽和結合の含有量(-CH=CH-の含有量)は、好ましくは0.1質量%~30質量%であり、より好ましくは0.5質量%~10質量%である。フッ素系ゴム及び不飽和結合を有するフッ素系ゴムは、市販のものを用いることもできる。
【0071】
<熱硬化性樹脂>
該接着剤は、接着剤組成物としてもよい。該接着剤組成物は、熱硬化性樹脂を含有することができる。
【0072】
熱硬化性樹脂は軟化点が、30℃以上であることが好ましい。すなわち、常温(25℃)で固形状態であることが好ましい。軟化点は、より好ましくは30℃~160℃であり、さらに好ましくは40℃~160℃であり、さらにより好ましくは50℃~150℃であり、特に好ましくは60℃~130℃である。
【0073】
FPCなどのプリント配線板の製造工程において、熱プレス前のBステージ(半硬化)状態で、部品実装のための穴あけなどの加工が必要となる場合がある。軟化点が上記範囲であり、常温で固形状態の熱硬化性樹脂を用いることで、フッ素系ゴムとの混合性が良好となり、後述する無機充填剤の弾性率向上効果と相まって、Bステージ状態での加工性がさらに良好になる。
【0074】
樹脂の軟化点は、JIS K 7234の環球法により測定することができる。測定装置には、例えば、メトラートレド社製メトラー軟化点測定装置(FP900サーモシステム)などを使用することができる。
【0075】
熱硬化性樹脂は、反応性、耐熱性の点から、フェノール樹脂、エポキシ樹脂のいずれか又はこれら2種類以上の混合物であることが好ましい。
【0076】
エポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂などのビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂などのノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、ビフェノールのジグリシジルエーテル化物、ナフタレンジオールのジグリシジルエーテル化物、フェノール類のジグリシジルエーテル化物、アルコール類のジグリシジルエーテル化物、及びこれらのアルキル置換体、水素添加物などが例示され
る。エポキシ樹脂は、1種類のものを単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0077】
フェノール樹脂は、フェノール類とアルデヒドを酸又はアルカリを触媒として加え反応させたものである。
【0078】
フェノール類としては、フェノール、メタクレゾール、パラクレゾール、オルソクレゾール、イソプロピルフェノール、ノニルフェノール等が挙げられる。
【0079】
アルデヒド類として、ホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、パラアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ベンズアルデヒド等が挙げられる。一般にはホルムアルデヒド又はパラホルムアルデヒドが使用される。この他に、植物油変性フェノール樹脂を用いることもできる。植物油変性フェノール樹脂は、フェノール類と植物油とを酸触媒の存在下に反応させ、ついで、アルデヒド類をアルカリ触媒の存在下に反応させることにより得られる。酸触媒としてはパラトルエンスルホン酸などが挙げられる。アルカリ触媒としては、アンモニア、トリメチルアミン、トリエチルアミンなどのアミン系触媒が挙げられる。
【0080】
また、熱硬化性樹脂として、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ビニルエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フラン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、シアネート樹脂、マレイミド樹脂、ベンゾシクロブテン樹脂などを用いることもできる。
【0081】
熱硬化性樹脂は、エポキシ樹脂を含むことが好ましく、エポキシ樹脂であることが好ましい。エポキシ樹脂は、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂が好ましく、o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂がより好ましい。このようなエポキシ樹脂は、市販のものを用いてもよく、例えば、YDCN700-10(新日鉄住金化学株式会社)、N695(DIC株式会社)などが挙げられる。
【0082】
熱硬化性樹脂の含有量は、フッ素系ゴム100質量部に対し、8質量部~120質量部であることが好ましい。上記範囲であると、抜き加工性及び高温での接着力が良好になる。該含有量は、より好ましくは8質量部~110質量部であり、さらに好ましくは8質量部~100質量部である。
【0083】
<無機充填剤>
接着剤組成物は、無機充填剤を含有することができる。無機充填剤には、公知の材料を用いることができる。無機充填剤は電気絶縁性のものが好ましい。
【0084】
例えば、シリカ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、炭酸カルシウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、酸化スズ、酸化チタン、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、タルク、マイカ及びカオリンなどが挙げられる。
【0085】
フッ素系ゴムは弾性率が低いため、Bステージ状態での加工の際に、接着剤のバリの発生や加工部への接着剤の付着などが発生することがある。これに対し、接着剤組成物に無機充填剤を用いることで、弾性率を向上させることができ、加工性が良好になる。
【0086】
無機充填剤は、ある程度凝集して弾性率を高めやすいチキソトロピー性を有するものが好ましい。このような観点から、シリカ、水酸化アルミニウム、タルクなどが好ましい。
より好ましくはシリカである。シリカは、乾式シリカ又は湿式シリカなど特に制限なく使用することができる。シリカは市販のものを用いることもできる。例えば、アエロジル200(日本アエロジル工業)などが挙げられる。
【0087】
無機充填剤は、疎水化処理されていてもよい。疎水化処理としては、シリコーンオイル処理、シランカップリング剤処理などが挙げられる。
【0088】
無機充填剤の一次粒子の個数平均粒径は、好ましくは10nm~100000nmであり、より好ましくは50nm~10000nm程度である。
【0089】
無機充填剤の含有量は、フッ素系ゴム100質量部に対し、好ましくは1質量部~35質量部であり、より好ましくは1質量部~30質量部であり、さらに好ましくは3質量部~25質量部である。上記範囲であることで、加工性に加え、接着性、はんだ耐熱性、及び高温長時間の耐久性が良好になる。
【0090】
<アミン化合物>
接着剤組成物は、硬化剤としてアミン化合物を含有してもよい。
【0091】
熱硬化樹脂であるエポキシ樹脂の硬化剤としては、硬化開始温度が低く、常温での安定性に優れるジシアンジアミドが好ましく、必要に応じて硬化助剤としてイミダゾール化合物を使用してもよい。
【0092】
また、不飽和結合を有するフッ素系ゴムの硬化剤としては、アミン化合物は硬化性の観点から、芳香族ジアミン化合物が好ましい。
【0093】
芳香族ジアミン化合物は、例えば下記式(I)で表されるものが挙げられる。
【0094】
【化1】

[式(I)中、R、Rはそれぞれ独立して炭素数1~6のアルキル基であり、Rは、炭素数1~6のアルキレン基、芳香族炭化水素基、カルボニル基、フルオレン基、スルホニル基、エーテル基及びスルフィド基からなる群から選ばれる少なくとも1種であり、m、nはそれぞれ0~4の整数である。]
【0095】
アルキル基は、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基が挙げられる。アルキル基は硬化性の観点から、メチル基、エチル基がより好ましい。
【0096】
アルキレン基は、好ましくは、メチレン基、エチレン基が挙げられる。アルキレン基は硬化性の観点から、メチレン基がより好ましい。
【0097】
m、nは貯蔵安定性、速硬化性により優れるという観点から、それぞれ独立して0~2の整数であることが好ましく、1又は2であることがより好ましく、2であることがさらに好ましい。
【0098】
式中、-NHの配置は、硬化性の観点から、Rに対してパラ位であるのが好ましい。
【0099】
芳香族炭化水素基は、2価であれば特に制限されない。例えば、フェニレンが挙げられる。芳香族炭化水素基は例えばメチル基のような置換基を有することができる。
【0100】
は、芳香族炭化水素基とアルキレン基とが組み合わされた置換基であってもよく、芳香族炭化水素とアルキレン基との組み合わせは特に制限されない。例えば、芳香族炭化水素基を有するアルキレン基が挙げられる。具体的には例えば、2つのアルキレン基が芳香族炭化水素を介して結合する態様、アルキレン基の側鎖として芳香族炭化水素が結合している態様、芳香族炭化水素基とアルキレン基とが結合し芳香族炭化水素基及びアルキレン基が式(I)に示される2つのベンゼン環とそれぞれ結合する態様が挙げられる。芳香族炭化水素としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレンが挙げられる。芳香族炭化水素はメチル基のような置換基を有することができる。
【0101】
式(I)で示される化合物の中でも、4,4’-メチレンビス(2-エチル-6-メチルアニリン)が特に好ましい。
【0102】
アミン化合物の含有量は、フッ素系ゴム100質量部に対し、好ましくは0.1質量部~20質量部であり、より好ましくは1質量部~10質量部である。また、アミン化合物の含有量は、エポキシ樹脂100質量部に対して0.5質量部~30質量部であることも好ましい態様である。
【0103】
<接着剤組成物>
上記接着剤組成物は、フッ素系ゴムと、必要に応じて、熱硬化性樹脂、無機充填剤、硬化剤など他の添加剤と、を混合して得ることができる。混合する際は、必要に応じて有機溶媒を用いてもよい。
【0104】
上記接着剤又は接着剤組成物は、FPCの製造に用いるためのものであることが好ましい。例えば、接着剤又は接着剤組成物を用いた接着フィルムを得て、これをFPCの製造に用いることもできる。
【0105】
JIS K 7127 引張特性の試験方法に準拠して測定される、接着層の弾性率(又は接着剤組成物をBステージ状態(半硬化状態)としたときの弾性率)が、15MPa以上であることが好ましい。より好ましくは、20MPa以上である。上限は特に制限されないが、好ましくは3000MPa以下であり、より好ましくは1000MPa以下であり、さらに好ましくは100MPa以下である。
【0106】
また、JIS K 7127(1999) 引張特性の試験方法に準拠して測定される、接着層の破断伸び率(又は接着剤組成物をBステージ状態(半硬化状態)としたときの破断伸び率)が400%未満であることが好ましい。より好ましくは、300%未満であり、さらに好ましくは200%未満である。下限は特に制限されないが、好ましくは50%以上であり、より好ましくは100%以上である。
【0107】
弾性率及び破断伸び率が上記範囲であることで、加工性が良好になる。弾性率及び破断伸び率は、熱硬化性樹脂の軟化点、フッ素系ゴムのムーニー粘度、無機充填剤の含有量、などにより制御することができる。
【0108】
接着フィルムは公知の方法で製造することができる。例えば、上記接着剤組成物の有機
溶媒溶液を調製し、ポリイミドなどの樹脂フィルム層に塗布して接着層を形成する。そして、例えば50℃~160℃、1分~15分の条件下で乾燥させ、接着層をBステージ状態にし、接着フィルムが得られる。その後、得られた接着フィルムを被接着物と貼り合わせ、加熱硬化させることができる。
【0109】
FPCの製造において、カバーフィルムやキャリアフィルムなどの接着に上記接着剤組成物を用いる場合も同様に接着することで、接着剤組成物の硬化物を含む接着層を有するFPCを得ることができる。Bステージ状態から加熱硬化の間に、必要に応じて、穴あけ加工などを行うこともできる。
【0110】
Bステージ状態の接着剤組成物を得る方法は、特に制限されず、上記のように加熱乾燥させる方法を含め、公知の方法を採用することができる。
【0111】
有機溶媒は、特に制限されず、公知のものを用いることができる。例えば、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。有機溶媒の使用量は、特に制限されないが、含有する固形分量が、好ましくは10質量%~70質量%、より好ましくは20質量%~40質量%になる範囲で用いればよい。
【0112】
<FPC>
導体層については、特に制限なく公知の材料を用いることができる。例えば、銅、銀、金、錫、アルミニウム、及びインジウムやこれらの合金などが挙げられる。導体は、銅を含む材料であることが好ましく、銅箔がより好ましい。各導体層については、導体の材料は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0113】
ベースフィルムの材料については、上記の通り、ポリイミドを採用すると好適である。ベースフィルムの厚みは特に制限されないが、5~50μmが好ましく、12.5~30μmがより好ましい。ベースフィルムの厚みは、用途に応じて適宜選択することも好ましい。
【0114】
以下、より具体的な実施例について説明する。以下の処方において、部は特に断りに無い限り質量基準である。
【0115】
樹脂フィルムとして宇部興産製ポリイミドフィルムUPILEX-S(厚み25μm)を用いて、酸素透過率を測定した。また、耐熱試験後の外観を観察した。各条件は以下の通りである。また、結果を表1に示す。
(酸素透過率の測定)
測定方法:JIS K7126-1 附属書2に準拠
試験ガス種:酸素
試験ガス流量:90ml/min
キャリアガス種:ヘリウム
キャリアガス流量:35ml/min
透過面積:15.2cm
測定装置:GTR-10AH(200℃)又はGTR-30XANO(~120℃)、いずれもGTRテック製
セル恒温槽温度:25℃、120℃、200℃
ガスクロマトグラフ検量方法:0.0μlと15.3μlによる2点検量
【0116】
(耐熱試験)
大気条件下において、200℃又は250℃のオーブンで、100mm角サイズの該樹
脂フィルムを500時間加熱した。加熱後の樹脂フィルムの外観を下記基準に基づき評価した。
<評価基準>
A:100mm角サイズの評価シートの全ての端部のそりが10mm未満
B:100mm角サイズの評価シート端部の1か所以上のそりが10mm以上30mm未満
C:100mm角サイズの評価シート端部の1か所以上のそりが30mm以上
【0117】
樹脂フィルムを下記の通り変更した以外は同様にして、各樹脂フィルムの酸素透過率の測定及び耐熱試験後の外観観察を行った。結果を表1に示す。
カプトンEN-S:東レ・デュポン製ポリイミドフィルム カプトンEN-S(厚み25μm)
LCP-CTF:クラレ製液晶ポリマー ベクスターCTF(厚み50μm)
LCP-CTQ:クラレ製液晶ポリマー ベクスターCTQ(厚み25μm)
PEN:帝人製テオネックスQ51(厚み25μm)
PET:東レ製ルミラー25S(厚み25μm)
Al/PET:尾池アドバンストフィルム製アルミニウム蒸着PET テトライト(厚み12μm)
【0118】
【表1】
【0119】
表1中、「E-xx」の記載は、「×10-xx」を意味する。また、酸素透過率の単位は、cc・cm/cm・sec・cmHgである。
【0120】
(比較例1)
アクリルゴム系(A)
・アクリルゴム (ナガセケムテックス社製SG708-6) 80部
・エポキシ樹脂(固形、軟化点95℃)o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(N695(DIC株式会社)) 20部
・シリカ(ヒュームドシリカ:アエロジル200(日本アエロジル工業)) 15部
・硬化剤:ジシアンジアミド 0.2部
【0121】
メチルエチルケトンを用いて、上記固形分が30質量%になるように溶解させて、アクリルゴムを含む接着剤組成物を得た。得られた接着剤組成物の3%熱重量減少温度は330℃であった。なお、シリカはビーズミルを用いて分散させた。
【0122】
また、得られた接着剤組成物の溶液をポリイミドフィルム(宇部興産製ポリイミドフィルムUPILEX-S 厚み25μm)に乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、140℃で3分間熱風乾燥機により乾燥させ、Bステージ状態(半硬化状態)の接着フィルムを得た。
【0123】
この接着フィルムの接着剤塗布面と、銅箔(JX日鉱日石製 BHY 厚み18μm)の黒処理面とを、真空プレスラミネート機を用いて、160℃、3MPa、30秒間減圧下で熱圧着させた。その後、160℃で10時間加熱硬化させ、実施例1の試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを用いて、下記評価を行った。結果を表2に示す。
【0124】
(実施例)
・フッ素系ゴム 二重結合変性(フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロペンの二元共重合体(共重合割合:フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロペン=8/2)の不飽和変性品、ムーニー粘度(ML1+10(121℃)):98、二重結合の含有量:4質量%)100部
・シリカ(ヒュームドシリカ:アエロジル200(日本アエロジル工業)) 15部
・エポキシ樹脂(固形 軟化点95℃)o-クレゾールノボラック型エポキシ樹脂(N695(DIC株式会社)) 20部
・アミン化合物(4,4’-メチレンビス(2-エチル-6-メチルアニリン):クミアイ化学工業製キュアハードMED-J) 5部
【0125】
メチルエチルケトンを用いて、上記固形分が30質量%になるように溶解させて、フッ素系ゴムを含む接着剤組成物を得た。得られた接着剤組成物の3%熱重量減少温度は373℃であった。なお、シリカはビーズミルを用いて分散させた。
【0126】
また、得られた接着剤組成物の溶液をポリイミドフィルム(宇部興産製ポリイミドフィルムUPILEX-S 厚み25μm)に乾燥後の厚みが25μmとなるように塗布し、140℃で3分間熱風乾燥機により乾燥させ、Bステージ状態(半硬化状態)の接着フィルムを得た。
【0127】
この接着フィルムの接着剤塗布面と、銅箔(JX日鉱日石製 BHY 厚み18μm)の黒処理面とを、真空プレスラミネート機を用いて、160℃、3MPa、30秒間減圧下で熱圧着させた。その後、160℃で10時間加熱硬化させ、実施例の試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを用いて、下記評価を行った。結果を表2に示す。
【0128】
(ピール強度(23℃))
実施例又は比較例1の試験サンプルを、引っ張り試験機(島津製オートグラフ)を用いて23℃の雰囲気下で樹脂フィルムを90°の方向に50mm/minの速度で引き剥がし、ピール強度を測定した。
【0129】
また、実施例又は比較例1の試験サンプルを、大気条件下において、200℃又は250℃のオーブンで500時間又は1000時間加熱した後の試験サンプルについても、同様の方法でピール強度を測定した。
【0130】
ピール強度の値が大きいほど、耐熱性が優れていることを示す。
【0131】
(耐熱試験)
実施例又は比較例1の試験サンプル、及び、該試験サンプルを大気条件下において、200℃又は250℃のオーブンで500時間又は1000時間加熱した。加熱後の各試験サンプルの外観を下記基準に基づき評価した。
【0132】
<評価基準>
A:接着フィルムと銅箔との剥がれが生じず、かつ、接着剤は脆化しなかった。
B:接着フィルムと銅箔との剥がれが生じたが、接着剤は脆化しなかった。
C:接着剤が脆化したが、接着フィルムと銅箔との剥がれは生じなかった。
D:接着剤が脆化し、かつ、接着フィルムと銅箔との剥がれが生じた。
【0133】
(3%熱重量減少温度の測定方法)
接着剤の3%熱重量減少温度は、TAインスツルメント製TGA Q500を用いて測定した。試験条件は以下の通りである。
昇温速度:20℃/分
サンプルのある試験層へのガス流量:20mL/min
サンプルパン:白金
【0134】
(比較例2~9)
樹脂フィルム及び接着剤を表2の通りに変更した以外は実施例及び比較例1と同様にして、比較例2~9の試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを用いて、実施例及び比較例1と同様の評価を行った。結果を表2に示す。
【0135】
なお、表2における樹脂フィルム及び接着剤は以下の通りである。
(樹脂フィルム)
カプトンEN-S:東レ・デュポン製ポリイミドフィルム カプトンEN-S(厚み25μm)
LCP-CTF:クラレ製LCP ベクスターCTF(厚み25μm)
(接着剤)
アクリルゴム系(B):デュポン製パイララックスLF(厚み25μm)、3%熱重量減少温度:310℃
エポキシ樹脂系:プリンテック製エポックスAH357(厚み25μm)、3%熱重量減少温度:303℃
【0136】
【表2】
【符号の説明】
【0137】
10,10A,10B パワーモジュール
110 ケース
120 ヒートシンク
130 樹脂材
200 DBC基板
210 基材
221 第1導体層
222 第2導体層
230 外部接続端子
300 SiC半導体素子
311,312,450 接合部材
400,400A,400B FPC(フレキシブルプリント配線板)
410 ベースフィルム
421,422,462 導体層(第1導体層、第2導体層、第3導体層)
431,432,433,434,463a,463b,465 接着剤層(第1接着剤層、第2接着剤層、第3接着剤層、第4接着剤層、第5接着剤層、第6接着剤層、第7接着剤層)
441,442,464 カバーフィルム(第1カバーフィルム、第2カバーフィルム、第3カバーフィルム)
461 中間フィルム
図1
図2
図3
【手続補正書】
【提出日】2023-02-13
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0026
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0026】
<本実施形態に係るパワーモジュールの優れた点>
本実施形態に係るパワーモジュール10においては、FPC400を採用したことで、配線路長を短くすることができる。すなわち、FPC400を複数のSiC半導体素子00を介してDBC基板200の表面に沿って配することで、ワイヤボンディング方式を採用する場合に比べて配線路長を短くすることができる。これにより、寄生インダクタンスを低減することができ、サージ電圧の抑制をすることができる。また、本来的に柔軟性を有するFPC400を採用することで、DBC基板200の表面上において、複数のSiC半導体素子400に倣って配することができるため、リジッド基板を採用する場合に比べて、モジュールを小型化することもできる。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0123
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0123】
この接着フィルムの接着剤塗布面と、銅箔(JX日鉱日石製 BHY 厚み18μm)の黒処理面とを、真空プレスラミネート機を用いて、160℃、3MPa、30秒間減圧下で熱圧着させた。その後、160℃で10時間加熱硬化させ、比較例1の試験サンプルを得た。得られた試験サンプルを用いて、下記評価を行った。結果を表2に示す。