(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160062
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】金属磁性粉末、複合磁性体、および電子部品
(51)【国際特許分類】
H01F 1/20 20060101AFI20231026BHJP
H01F 1/26 20060101ALI20231026BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20231026BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20231026BHJP
B22F 1/054 20220101ALI20231026BHJP
B22F 1/07 20220101ALI20231026BHJP
B22F 3/00 20210101ALI20231026BHJP
B82Y 25/00 20110101ALI20231026BHJP
C22C 19/07 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
H01F1/20 ZNM
H01F1/26
H01F1/147
B22F1/00 M
B22F1/054
B22F1/07
B22F1/00 Y
B22F3/00 B
B82Y25/00
C22C19/07 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070119
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 恭平
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寛史
(72)【発明者】
【氏名】金田 功
(72)【発明者】
【氏名】吉留 和宏
【テーマコード(参考)】
4K018
5E041
【Fターム(参考)】
4K018AA10
4K018BA20
4K018BB05
4K018BB06
4K018BC11
4K018BC13
4K018BC21
4K018CA09
4K018CA11
4K018CA33
4K018FA08
4K018HA04
4K018KA44
5E041AA14
5E041BB03
5E041CA08
5E041NN01
5E041NN06
(57)【要約】
【課題】ギガヘルツ帯の高周波領域において、透磁率が高く、かつ、磁気損失が低い金属磁性粉末と、当該金属磁性粉末を含む複合磁性体および電子部品と、を提供すること。
【解決手段】主成分としてCoを含む金属磁性粉末であって、金属磁性粉末は、平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下である金属ナノ粒子を含む。各金属ナノ粒子の主相が、hcp-Coであり、金属磁性粉末が、副相として、fcc-Co、または/および、ε-Coを含む。
【選択図】
図3A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主成分としてCoを含む金属磁性粉末であって、
前記金属磁性粉末は、平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下である金属ナノ粒子を含み、
それぞれの前記金属ナノ粒子の主相が、hcp-Coであり、
前記金属磁性粉末が、副相として、fcc-Co、または/および、ε-Coを含む金属磁性粉末。
【請求項2】
前記金属磁性粉末におけるhcp-Coの割合をWhcpとし、fcc-Coの割合をWfccとし、ε-Coの割合をWεとして、
Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)が、70%以上99%以下である請求項1に記載の金属磁性粉末。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子の平均粒径(D50)が、1nm以上70nm以下である請求項1または2に記載の金属磁性粉末。
【請求項4】
前記金属磁性粉末がZnを含み、
Znが、ナノ粒子の表面、または/および、前記ナノ粒子の内部に存在する請求項1または2に記載の金属磁性粉末。
【請求項5】
請求項1に記載の金属磁性粉末と、樹脂とを含む複合磁性体。
【請求項6】
Znを含む請求項5に記載の複合磁性体。
【請求項7】
請求項1または2に記載の金属磁性粉末を含む電子部品。
【請求項8】
請求項5または6に記載の複合磁性体を含む電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、Coを主成分とする金属ナノ粒子を含む金属磁性粉末、複合磁性体、および、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話機や無線LAN機器などの各種通信機器に含まれる高周波回路では、動作周波数が、ギガヘルツ帯(たとえば、3.7GHz帯(3.6~4.2GHz)、4.5GHz帯(4.4~4.9GHz帯))にまで及んでいる。このような高周波回路に搭載される電子部品としては、たとえば、インダクタ、アンテナ、高周波ノイズ対策用のフィルタなどが挙げられる。このような高周波用途の電子部品に内蔵されるコイルには、非磁性の磁芯を有する空芯コイルを用いることが一般的であるが、電子部品の特性を向上させるために、高周波用途の電子部品への適用が可能な磁性材料の開発が求められている。
【0003】
たとえば、特許文献1では、高周波向けの磁性材料として、金属ナノ粒子からなる磁性材料を開示している。金属ナノ粒子は、マイクロメートルオーダの金属磁性粒子よりも、単位粒子当たりの磁区の数を少なくすることができ、高周波帯域における渦電流損失を低減できる。ただし、特許文献1の磁性材料であっても、動作周波数が1GHzを超えると、透磁率が極端に低下し(特許文献1の
図2)、磁気損失が増大してしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、上記の実情を鑑みてなされ、その目的は、ギガヘルツ帯の高周波領域において、透磁率が高く、かつ、磁気損失が低い金属磁性粉末と、当該金属磁性粉末を含む複合磁性体および電子部品と、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本開示に係る金属磁性粉末は、
主成分がCoであり、
平均粒径(D50)が1nm以上100nm以下である金属ナノ粒子を含み、
それぞれの前記金属ナノ粒子の主相が、hcp-Coであり、
前記金属磁性粉末が、副相として、fcc-Co、または/および、ε-Coを含む。
【0007】
本開示の金属磁性粉末は、上記の特徴を有することで、ギガヘルツ帯の高周波領域において、高い透磁率と低い磁気損失とを両立して得ることができる。
【0008】
前記金属磁性粉末におけるhcp-Coの割合をWhcpとし、fcc-Coの割合をWfccとし、ε-Coの割合をWεとして、
好ましくは、Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)が、70%以上99%以下である。
【0009】
好ましくは、前記金属ナノ粒子の平均粒径(D50)が、1nm以上70nm以下である。
【0010】
好ましくは、前記金属磁性粉末がZnを含み、
Znが、ナノ粒子の表面、または/および、前記ナノ粒子の内部に存在する。
【0011】
本開示に係る複合磁性体は、前記金属磁性粉末と、樹脂とを含む。
複合磁性体が上記の金属磁性粉末を含むことで、ギガヘルツ帯の高周波領域において、高透磁率と低磁気損失とを好適に両立させることができる。
【0012】
好ましくは、前記複合磁性体が、Znを含む。
【0013】
上述した金属磁性体および複合磁性体は、高周波回路に搭載されるインダクタ、アンテナ、フィルタなどの電子部品において、好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る金属磁性粉末1を示す模式図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す金属磁性粉末1を含む複合磁性体の断面を示す模式図である。
【
図3A】
図3Aは、金属磁性粉末1のX線回折パターンの一例である。
【
図3B】
図3Bは、Znを含む金属磁性粉末1のX線回折パターンの一例である。
【
図4】
図4は、
図2に示す複合磁性体10を含む電子部品の一例を示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示を、図面に示す実施形態に基づき詳細に説明する。
【0016】
(金属磁性粉末1)
本実施形態に係る金属磁性粉末1は、ナノ粒子2で構成してあり、ナノ粒子2の平均粒径(すなわち金属磁性粉末1の平均粒径)が、1nm以上100nm以下である。ナノ粒子2の平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、各ナノ粒子2の円相当径を計測することで算出すればよい。具体的に、金属磁性粉末1を、TEMにより50万倍以上の倍率で観察し、観測視野に含まれる各ナノ粒子2の円相当径を、画像解析ソフトにより測定する。この際、少なくとも500個のナノ粒子2の円相当径を測定することが好ましく、当該測定結果に基づいて、個数基準の累積頻度分布を得る。そして、当該累積頻度分布において、累積の頻度が50%となる円相当径をナノ粒子2の平均粒径(D50)として算出すればよい。
【0017】
なお、ナノ粒子2の平均粒径(D50)は、70nm以下であることが好ましく、50nm以下であることがより好ましい。ナノ粒子2の平均粒径を小さくするほど、金属磁性粉末1の磁気損失tanδがより減少する傾向となる。ナノ粒子2の形状は、特に限定されないが、本実施形態で示す製法では、通常、球状もしくは球に近い形状のナノ粒子2が得られる。また、ナノ粒子2の表面には、酸化被膜や絶縁被膜などのコーティングが形成してあってもよい。
【0018】
金属磁性粉末1は、主成分としてコバルト(Co)を含む。すなわち、ナノ粒子2は、Coを主成分とするCoナノ粒子である。なお、「主成分」とは、金属磁性粉末1において80wt%以上を占める元素を意味する。金属磁性粉末1は、Coを90wt%以上含むことが好ましく、93wt%以上含むことがより好ましい。
【0019】
また、金属磁性粉末1は、Co(主成分)以外に、少なくとも1種の両性金属を含むことが好ましい。両性金属とは、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、錫(Sn)、鉛(Pb)の4元素を意味し、金属磁性粉末1は、両性金属としてZnを含むことがより好ましい。金属磁性粉末1におけるCoの含有率をWCo(wt%)とし、両性金属の含有率をWAM(wt%)として、WAM/(WCo+WAM)が、0.001%以上(10ppm以上)10%以下であることが好ましく、1%以上7%以下であることがより好ましい。なお、金属磁性粉末1が2種以上の両性金属を含む場合、WAMは、各両性金属の含有率の合計である。
【0020】
金属磁性粉末1には、Cl、P、C、Si、N、および、Oなどのその他の微量元素が含まれていてもよい。金属磁性粉末1におけるその他の微量元素(Coおよび両性金属以外の元素)の合計含有率は、20wt%以下であることが好ましい。
【0021】
金属磁性粉末1の組成(WCo、WAM、WAM/(WCo+WAM)など)は、たとえば、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)、X線回折(XRD)、蛍光X線分析(XRF)、エネルギー分散型X線分析(EDS)、または、波長分散型X線分析(WDS)などを用いた組成分析により測定することができ、ICP-AESで測定することが好ましい。ICP-AESによる組成分析では、まず、金属磁性粉末1を含む試料をグローブボックス中で採取し、当該試料をHNO3(硝酸)などの酸溶液に加えて、加熱溶解させる。この溶液化した試料を用いて、ICP-AESによる組成分析を実施し、試料中に含まれるCoおよび各両性金属を定量すればよい。
【0022】
なお、金属磁性粉末1の主成分は、X線回折の解析等に基づいて特定してもよい。たとえば、X線回折の解析等により金属磁性粉末1に含まれる各元素の体積率を算出し、最も体積率が高い元素を、金属磁性粉末1における主成分として認定してもよい。
【0023】
金属磁性粉末1の主相、すなわち、各ナノ粒子2の主相は、hcp-Coである。「hcp-Co」とは、合金相ではなく、六方最密構造を有するCoの結晶相を意味する。塊状のCoやマイクロメートルオーダのCo粒子は、hcp構造をとり易いが、Coが100nm以下の微粒子である場合には、主相が、fcc-Co(面心立方構造)またはε-Co(立方晶の一種)となり易い傾向がある。本実施形態では、後述する所定の製法により、主相がhcp-Coであるナノ粒子2を得ている。
【0024】
また、金属磁性粉末1は、主相をhcp-Coとしつつ、Coの副相として、fcc-Coまたは/およびε-Coを含む。このCoの副相は、hcp-Coを主相とするナノ粒子2の粒内に混在している。つまり、hcp-Coからなる単相のナノ粒子2と、fcc-Coまたはε-Coからなる単相の他のナノ粒子とが混在するのではなく、金属磁性粉末1が、Coの混相構造(主相と副相を粒内に含む構造)を有するナノ粒子2を含む。金属磁性粉末1では、全てのナノ粒子2が混相構造を有していてもよいし、hcp-Coのナノ粒子2(Coの副相を含まない単相のナノ粒子2)と、混相構造のナノ粒子2(Coの副相を含むナノ粒子2)とが混在していてもよい。金属磁性粉末1に含まれるナノ粒子2のうち、個数基準で、80%以上のナノ粒子2が混相構造を有することが好ましい。
【0025】
金属磁性粉末1が、ナノ粒子2の粒内において、Coの副相を含むことで、1GHz以上の高周波帯域において、高い透磁率を確保しつつ、従来よりも磁気損失を低減させることができる。
【0026】
なお、「主相」とは、金属磁性粉末1において50%以上を占める結晶相を意味する。具体的に、金属磁性粉末1におけるhcp-Coの割合をWhcp、fcc-Coの割合をWfcc、ε-Coの割合をWε、Whcp+Wfcc+Wεを100%として、50%以上を占める結晶相を主相とする。つまり、50%≦(Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)を満たす場合、金属磁性粉末1の主相がhcp-Coであると判断する。hcp-Coの含有比率を示す「Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)」は、70%以上99%以下であることが好ましく、80%以上99%以下であることがより好ましい。hcp-Coの含有比率を上記の範囲内とすることで、高透磁率と低磁気損失とをより好適に両立させることができる。
【0027】
金属磁性粉末1は、Coの副相として、fcc-Coまたはε-Coのいずれか一方のみを含んでいてもよく、fcc-Coおよびε-Coの両方を含んでいてもよい。
【0028】
金属磁性粉末1の結晶構造(すなわちナノ粒子2の結晶構造)は、X線回折(XRD)により解析することができる。
図3Aに示す(d)が、金属磁性粉末1のXRDパターンの一例である。なお、
図3Aの(a)~(c)は、いずれも、文献やICDDなどのデータベースに収録されているXRDパターンであり、(a)がε-CoのXRDパターン、(b)がfcc-CoのXRDパターン、(c)がhcp-CoのXRDパターンである。また、
図3Aの(e)は、比較例に相当する金属磁性粉末のXRDパターンの一例である。
【0029】
XRDの2θ/θ測定により、
図3Aの(d)に示すような金属磁性粉末1のXRDパターンを得た後、XRD解析ソフトを用いて、測定したXRDパターンのプロファイルフィッティング(ピーク分離)を実施する。そして、分離した回折ピークを、データベースと照合することで、金属磁性粉末1に含まれる結晶相を同定することができる。
図3Aの(d)に示すXRDパターンでは、「▼」で示すピークが、hcp-Coに由来する回折ピークであり、「▽」で示すピークがfcc-Coに由来する回折ピークである。
【0030】
また、Co結晶相の割合は、回折ピークの積分強度に基づいて算出すればよい。具体的に、プロファイルフィッティングによりXRDパターン(d)に含まれる回折ピークを同定した後に、同定した回折ピークの積分強度を算出する。Whcpはhcp-Coに由来する回折ピークの積分強度とし、Wfccはfcc-Coに由来する回折ピークの積分強度とし、Wεはε-Coに由来する回折ピークの積分強度として、「Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)」を算出すればよい。
【0031】
図3AのXRDパターン(d)では、hcp-Coの回折ピークとfcc-Coの回折ピークとが検出されており、hcp-Coの比率(W
hcp/(W
hcp+W
fcc+Wε))が95.1%で、fcc-Coの比率(W
fcc/(W
hcp+W
fcc+Wε))が4.9%である。つまり、
図3A(d)の金属磁性粉末1では、主相がhcp-Coであり、副相がfcc-Coである。
【0032】
比較例に相当する
図3AのXRDパターン(e)においても、hcp-Coの回折ピークとfcc-Coの回折ピークとが検出されているが、XRDパターン(e)では、2θ=43.9°付近および51.2°付近のピーク強度が、(d)よりも高くなっている。より具体的に、XRDパターン(e)では、hcp-Coの比率(W
hcp/(W
hcp+W
fcc+Wε))が38.6%で、fcc-Coの比率(W
fcc/(W
hcp+W
fcc+Wε))が61.4%である。つまり、
図3A(e)の比較例に係る金属磁性粉末では、主相がfcc-Coであり、副相がhcp-Coである。
【0033】
なお、金属磁性粉末1の主相であるhcp-Coには、両性金属や不純物元素が、僅かに固溶していてもよい。ただし、hcp-Coの格子定数のズレ度合いが、0.5%以下であることが好ましい。「格子定数のズレ度合い」は、(|dSTD-df|)/dSTD(%)で表され、dSTDは、データベースに収録されているhcp-Coの格子定数、dfは、金属磁性粉末1のXRDパターンを解析して算出したhcp-Coの格子定数である。格子定数は、TEMを用いた電子線回折により測定してもよい。
【0034】
また、ナノ粒子2の粒内における混相構造の有無は、高分解能電子顕微鏡(HREM)、電子線後方散乱回折(EBSD)、または電子線回折などのTEMを用いた解析により確認することができる。たとえば、TEMの電子線回折により、各ナノ粒子2の結晶構造を解析する場合には、少なくとも50個のナノ粒子2に対して電子線を照射して、その際に得られた電子線回折パターンに基づいて、各ナノ粒子2が単相構造と混相構造のどちらを有しているかを判定する。なお、当該分析では、なるべく、視野内で孤立しているナノ粒子2を選択して、電子線を照射することが好ましい。
【0035】
なお、金属磁性粉末1の結晶構造解析では、まず、TEMの電子線回折によりナノ粒子2の結晶構造を特定し、その後、電子線回折の解析結果を参考として、XRDによりCo結晶相の比率を算定してもよい。
【0036】
金属磁性粉末1が両性金属を含む場合、当該両性金属は、主相(hcp-Co)に固溶したり、酸化物などの化合物中に含まれたりするよりも、両性金属の結晶粒3として存在することが好ましい。換言すると、金属磁性粉末1は、両性金属の結晶粒3を含むことが好ましく、特に、Znの結晶粒(3)を含むことがより好ましい。
【0037】
金属磁性粉末1が両性金属の結晶粒3を含む場合、金属磁性粉末1のXRDパターンでは、Co結晶相の回折ピークが検出されるだけでなく、両性金属の回折ピークも検出される。実際に、
図3Bの(e)が、両性金属としてZnを含む金属磁性粉末1のXRDパターンの一例である。なお、
図3Bの(a)~(c)は、
図3Aと同様に、文献やICDDなどのデータベースに収録されている各Co結晶相の回折ピークであり、
図3Bの(d)は、データベースに収録されているZnの回折ピークである。
【0038】
図3BのXRDパターン(e)では、hcp-Coの回折ピークと共に、Znの回折ピークが検出されている(「○」で示すピークがZnの回折ピークである)。つまり、
図3B(e)に示す金属磁性粉末1では、Znが、酸化物などの化合物として存在するのではなく、金属結晶として存在していることがわかる。このように、XRDパターンの解析により、両性金属の存在状態を確認することができる。
【0039】
また、金属磁性粉末1が両性金属を含む場合、両性金属は、ナノ粒子2の内部、または/および、ナノ粒子2の表面に存在していることが好ましい。つまり、金属磁性粉末1は、両性金属の結晶粒3として、ナノ粒子2の内部に存在する結晶粒3a、または/および、ナノ粒子2の表面に付着している結晶粒3bを含むことが好ましい。加えて、両性金属の結晶粒3の粒径は、ナノ粒子2の平均粒径よりも小さいことが好ましい。両性金属の存在箇所は、たとえば、TEM-EDSを用いたマッピング分析により特定することができる。
【0040】
(複合磁性体10)
次に、
図2に基づいて、上述した金属磁性粉末1を含む複合磁性体10について、説明する。
【0041】
複合磁性体10は、上述した特徴を有する金属磁性粉末1と、樹脂6と、を含んでおり、金属磁性粉末1を構成するナノ粒子2が、樹脂6中に分散している。換言すると、樹脂6が、ナノ粒子2の間に介在しており、隣接する粒子間を絶縁している。樹脂6は、絶縁性を有する樹脂材料であればよく、その材質は特に限定されない。たとえば、樹脂6として、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂、または、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの熱可塑性樹脂を用いることができ、熱硬化性樹脂であることが好ましい。
【0042】
複合磁性体10の断面における金属磁性粉末1の面積割合は、10%~60%であることが好ましく、10%~40%であることがより好ましい。
【0043】
複合磁性体10の断面における金属磁性粉末1の面積割合は、走査型電子顕微鏡(SEM)や透過電子顕微鏡(TEM)を用いて複合磁性体10の切断面を観察し、画像解析ソフトを用いて断面画像を解析することで算出できる。具体的に、コントラストに基づいて、複合磁性体10の断面画像を2値化して、金属磁性粉末とその他の部分とを区別し、画像全体(すなわち観察した視野の面積)に対して金属磁性粉末1が占める面積の割合を算出すればよい。上記の方法で算出した面積割合は、複合磁性体10に含まれるナノ粒子2の体積割合とみなすことができる。
【0044】
金属磁性粉末1が両性金属を含む場合、両性金属は、複合磁性体10の内部においても、結晶粒3として存在していることが好ましい。より具体的に、両性金属の結晶粒3は、ナノ粒子2の内部、および、ナノ粒子2の表面に存在することができる。加えて、両性金属の結晶粒3は、複合磁性体10の樹脂6中に分散していてもよい(結晶粒3c)。樹脂6中に存在する結晶粒3cは、ナノ粒子2の表面に付着していた結晶粒3bが、金属磁性粉末1と樹脂6とを混ぜ合わせる過程で、粒子表面から剥離することで生成すると考えられる。
【0045】
つまり、複合磁性体10における両性金属の存在箇所としては、A:ナノ粒子2の内部、B:ナノ粒子2の表面、および、C:樹脂6中の3つのパターンが挙げられる。複合磁性体10における両性金属は、A~Cのいずれか1つのパターンで存在していてもよいし、A~Cのうちいずれか2つのパターンで存在していてもよいし、A~Cの全ての箇所に存在していてもよい。複合磁性体10における両性金属の存在箇所は、複合磁性体10の断面において、TEM-EDSによるマッピング分析を実施することで、特定することができる。
【0046】
なお、金属磁性粉末1が複合磁性体10に含まれている場合であっても、金属磁性粉末1の平均粒径(D50)、組成、および、結晶構造は、上述した方法(TEM観察、ICP-AES、XRDなど)で分析することができる。なお、複合磁性体10に含まれる金属磁性粉末1の組成を、ICP-AESやXRD等により分析する際には、樹脂6の構成元素の影響を受ける場合がある。このような場合には、Coおよび両性金属以外の元素の影響を排除し、WAM/(WCo+WAM)のみに基づいて金属磁性粉末1の主成分を特定してもよい。
【0047】
複合磁性体10には、セラミック粒子、ナノ粒子2以外の金属粒子などが含まれていてもよい。また、複合磁性体10の形状および寸法は、特に限定されず、用途に応じて適宜決定すればよい。
【0048】
以下、金属磁性粉末1および複合磁性体10の製造方法の一例について説明する。本実施形態の金属磁性粉末1は、気相中熱分解法、または、不均化反応を伴う液相中熱分解法により製造することが好ましい。
【0049】
(気相中熱分解法による金属磁性粉末1の製造方法)
熱分解法は、前駆体であるコバルトの錯体を加熱して熱分解させることで、Coのナノ粒子を生成する方法である。一般的には、前駆体をジクロロベンゼンやエチレングリコールなどの溶媒中に分散させ、反応液を180℃程度の高温に加熱して、液相中で前駆体を熱分解させる(すなわち液相中熱分解法)。本実施形態では、溶媒を用いずに、不活性雰囲気の気相中で前駆体を熱分解させる(すなわち気相中熱分解法)。従来の液相中熱分解法では、ナノ粒子の主相が、fcc-Coまたはε-Coとなり易いのに対して、気相中熱分解法では、主相がhcp-Coであるナノ粒子2を得ることができる。
【0050】
気相中熱分解法では、原料である前駆体を投入した反応容器を、オイルバスに設置して、不活性雰囲気中で当該反応容器を加熱し、前駆体を熱分解させる。この際、反応容器内の原料は、メカニカルスターラなどを用いて攪拌する。前駆体のコバルト錯体としては、オクタカルボニルジコバルト(Co2(CO)8、または、Co4(CO)12を用いることが好ましく、Co2(CO)8を用いることがより好ましい。反応容器としては、たとえば、セパラブルフラスコを用いることができ、反応容器の材質は特に限定されない。また、熱分解雰囲気中には、Arガス、または、N2ガスなどの不活性ガスを充填させ、使用する不活性ガスの種類は特に限定されない。
【0051】
金属磁性粉末1に両性金属を添加する場合には、前駆体と共に、両性金属の原料を反応容器に投入すればよい。両性金属の原料としては、たとえば、ZnCl2、AlCl3、SnCl2、およびPbCl2などの両性金属の塩化物を用いることが好ましい。金属磁性粉末1における両性金属の比率(WAM/(WAM+WCo))は、上記原料の配合比により制御することができる。また、熱分解反応時には、オレイン酸またはシランカップリング剤などの界面活性剤を添加してもよい。シランカップリング剤としては、たとえば、アニリン構造または/およびフェニル基を含むシランカップリング剤を用いることが好ましく、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランを用いることがより好ましい。
【0052】
界面活性剤を添加しない場合、気相中熱分解法における反応温度(すなわち原料の加熱温度)は、57℃以上180℃以下に設定することができ、57℃以上120℃以下であることが好ましく、57℃以上80℃以下であることがより好ましい。一方、界面活性剤を添加する場合、反応温度は、52℃以上150℃以下に設定することができ、57℃以上120℃以下であることが好ましく、57℃以上80℃以下であることがより好ましい。反応温度を高くするほど、ナノ粒子2の平均粒径が大きくなる傾向となる。反応温度が低いと、ナノ粒子2の平均粒径が小さくなると共に、hcp-Coの比率が高くなる傾向となる。
【0053】
気相中熱分解法における反応時間は、反応温度に応じて適宜調整することが望ましい。たとえば、反応温度が150℃~180℃である場合、反応時間は0.01h~3.5hであることが好ましく、反応温度が100℃以上150℃未満である場合、反応時間は0.1h~10hであることが好ましく、反応温度が100℃未満である場合、反応時間は0.25h~96hであることが好ましく、1h~50hであることがより好ましい。反応時間を長くするほど、ナノ粒子2の平均粒径が大きくなる傾向となる。
【0054】
ナノ粒子2の結晶構造は、界面活性剤の種類、および、反応温度などにより制御することができる。たとえば、界面活性剤を添加しない場合、反応温度を高くするほど、副相としてfcc-Coが生成し易くなる。界面活性剤としてオレイン酸を添加する場合、副相としてε-Coが生成し易く、反応温度を高くすると、ε-Coの比率が高くなる傾向となる。一方、界面活性剤としてシランカップリング剤のN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランを添加した場合、副相としてfcc-Coおよびε-Coの両方が得られ易く、反応温度を高くすると、副相の比率が高くなる。
【0055】
金属磁性粉末1に両性金属を添加する場合、両性金属の原料は、反応開始時点で添加してもよく、反応開始から所定時間経過してから添加してもよい。両性金属の存在箇所は、両性金属の原料を添加するタイミングにより制御することができる。具体的に、両性金属の原料を反応開始時点で添加した場合には、両性金属がナノ粒子2の粒内に存在し易くなる。一方、両性金属の原料を熱分解反応の途中で添加すると、ナノ粒子2の表面に両性金属が付着し、両性金属の原料を加えるタイミングを遅らせるほど、ナノ粒子2の表面に存在する両性金属の割合が増える傾向となる。具体的に、最終的な反応時間をRTとして、反応開始から2/3RT以上経過してから両性金属の原料を加えた場合には、両性金属が、粒内よりもナノ粒子2の表面に存在する傾向となる。
【0056】
気相中での熱分解反応を所望の時間継続させた後、反応容器をオイルバスから取り出し、生成物が室温になるまで自然冷却する。冷却後、洗浄用溶媒を用いて、生成したナノ粒子2を洗浄し、回収する。洗浄用溶媒としては、たとえば、アセトン、ジクロロベンゼン、または、エタノールなどの有機溶媒を用いることができ、ナノ粒子2の酸化を抑制するために、洗浄用溶媒に対して脱気処理を施しておくことが好ましい。もしくは、洗浄用溶媒として、水分含有量を10ppm以下に抑えた超脱水グレードの有機溶媒を用いることが好ましい。なお、ナノ粒子2の回収には、磁石を用いればよい。以上の工程により、金属磁性粉末1が得られる。
【0057】
なお、原料の秤量からナノ粒子の洗浄・回収までの一連の工程は、Ar雰囲気などの不活性ガス雰囲気で実施する。
【0058】
(不均化反応を伴う液相中熱分解による金属磁性粉末1の製造方法)
不均化反応とは、1種類の物質が2分子以上互いに反応することで、2種類以上の別の物質を生成する反応を意味する。不均化反応を伴う液相中熱分解で金属磁性粉末1を製造する場合、前駆体(Co原料)として、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)コバルト(CoCl(Ph3P)3)を用いることが好ましい。不均化反応を伴う液相中熱分解では、前駆体からCo(0)(Ph3P)4とCo(II)Cl2(Ph3P)2の2種類の化合物が生成し、当該化合物のうちCo(0)(Ph3P)4が分解することによりCoのナノ粒子2が生成される。当該製法においても気相中熱分解と同様に、ZnCl2などの両性金属の原料を添加することが好ましい。
【0059】
不均化反応を伴う液相中熱分解で金属磁性粉末1を製造する場合、まず、金属磁性粉末1が所望の組成となるように、前駆体、および、両性金属の原料を秤量する。そして、前駆体、両性金属の原料、および、溶媒を、セパラブルフラスコなどの反応容器に投入し、これら原料を、メカニカルスターラなどを用いて攪拌する。金属磁性粉末1における両性金属の比率(WAM/(WAM+WCo))は、上記原料の配合比により制御することができる。溶媒としては、エタノール、テトラヒドロフラン(THF)、または、オレイルアミン(Oleylamine)を用いることが好ましい。なお、オレイン酸などの界面活性剤を添加してもよい。
【0060】
ナノ粒子2を合成する際の雰囲気は、Ar雰囲気またはN2雰囲気などの不活性ガス雰囲気とすることが好ましい。溶媒としてエタノールを用いる場合、攪拌時の反応液の温度(すなわち反応温度)は、25℃(室温)以上65℃以下であることが好ましい。一方、溶媒としてTHFまたはオレイルアミンを用いる場合、反応温度は、10℃以上65℃以下とすることができ、25℃(室温)以上40℃以下であることが好ましい。反応温度を高くするほど、ナノ粒子2の平均粒径が大きくなる傾向となる。
【0061】
また、攪拌時間(すなわち反応時間)は、反応温度に応じて適宜調整することが望ましく、たとえば、0.01h~80hであることが好ましく、反応温度が室温の場合は、0.1h~72hであることがより好ましい。反応時間を長くするほど、ナノ粒子2の平均粒径が大きくなる傾向となる。
【0062】
不均化反応を伴う液相中熱分解で金属磁性粉末1を製造する場合、ナノ粒子2の結晶構造は、溶媒の種類、および、反応温度などにより制御することができる。たとえば、反応温度を低くするほど、hcp-Coの比率(Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε))が高くなる傾向となり、反応温度を高くするほど、副相(fcc-Coまたは/およびε-Co)が生成し易くなる。溶媒としてエタノールを使用した場合は、他の溶媒(THFまたはオレイルアミン)を使用する場合よりも、hcp-Coの比率が高くなり易く、25℃以上の反応温度で、副相としてfcc-Coが生成し易い。溶媒としてTHFを使用した場合には、主相のhcp-Coと副相のfcc-Coとの混相構造が得られ易い。また、溶媒としてオレイルアミンを使用する場合には、主相のhcp-Coと、副相のfcc-Coおよびε-Coの3相による混相構造が得られる傾向となる。オレイルアミンを使用しつつ反応温度を40℃超過に設定した場合には、主相のhcp-Coと副相のε-Coとの混相構造が得られ易い。
【0063】
不均化反応を伴う液相中熱分解においても、両性金属の原料は、反応開始時点で添加してもよく、反応開始から所定時間経過してから添加してもよい。両性金属の存在箇所は、両性金属の原料を添加するタイミングにより制御することができる。具体的に、両性金属の原料を反応開始時点で添加した場合には、両性金属がナノ粒子2の粒内に存在し易くなる。一方、両性金属の原料を熱分解反応の途中で添加すると、ナノ粒子2の表面に両性金属が付着し、両性金属の原料を加えるタイミングを遅らせるほど、ナノ粒子2の表面に存在する両性金属の割合が増える傾向となる。具体的に、最終的な反応時間をRTとして、反応開始から3/4RT以上経過してから両性金属の原料を加えた場合には、両性金属が、粒内よりもナノ粒子2の表面に存在する傾向となる。
【0064】
反応液の攪拌を停止して、反応を停止させた後、生成したナノ粒子2を洗浄し、回収する。ナノ粒子2を洗浄する際には、未反応の原料や中間生成物などが可溶な洗浄用溶媒を用いる。具体的に、洗浄用溶媒としては、たとえば、アセトン、ジクロロベンゼン、または、エタノールなどの有機溶媒を用いることができる。ナノ粒子2の酸化を抑制するために、洗浄用溶媒に対して脱気処理を施しておくことが好ましい。もしくは、洗浄用溶媒として、水分含有量を10ppm以下に抑えた超脱水グレードの有機溶媒を用いることが好ましい。なお、ナノ粒子2の回収には、磁石を用いればよい。以上の工程により、金属磁性粉末1が得られる。
【0065】
なお、原料の秤量からナノ粒子の洗浄・回収までの一連の工程は、Ar雰囲気などの不活性ガス雰囲気で実施する。
【0066】
(複合磁性体10の製造方法)
次に、複合磁性体10の製造方法の一例について説明する。
【0067】
複合磁性体10は、金属磁性粉末1と、樹脂6と、溶媒とを、混ぜ合わせて、所定の分散処理を施すことで製造することができる。分散処理としては、超音波分散処理、または、ビーズミルなどのメディア分散処理を採用することが好ましい。分散処理の条件は、特に限定されず、樹脂6中にナノ粒子2が均等に分散するように、各種条件を設定すればよい。分散処理の際に添加する溶媒としては、たとえば、アセトン、ジクロロベンゼン、または、エタノールなどの有機溶媒を用いることができ、脱気処理した有機溶媒、もしくは、超脱水グレードの有機溶媒を用いることが好ましい。また、メディア分散処理の際に使用するメディアとしては、各種セラミックビーズを用いることができ、セラミックビーズの中でも比重の大きいZrO2のビーズを用いることが好ましい。
【0068】
なお、分散処理によって、複合磁性体10における両性金属の存在箇所が変化する場合がある。たとえば、超音波分散処理を実施した場合は、ナノ粒子2の表面に付着していた両性金属が剥離され難いが、メディア分散処理を実施した場合には、ナノ粒子2の表面に付着していた両性金属が剥離され易い。そのため、メディア分散の処理時間を長くするほど、樹脂6中に分散する両性金属の割合が増える傾向となる。
【0069】
上記の分散処理で得られたスラリーを、Ar雰囲気などの不活性雰囲気中で乾燥させ、溶媒を揮発させた乾燥体を得る。その後、乳鉢や乾式の解砕機などを用いて、乾燥体を解砕し、金属磁性粉末1と樹脂6とを含む顆粒を得る。そして、当該顆粒を金型に充填して加圧することで、複合磁性体10が得られる。なお、樹脂6として熱硬化性樹脂を用いる場合には、加圧成形後の複合磁性体に対して硬化処理を施すことが好ましい。複合磁性体の製造方法は、上記の加圧成形法に限定されない。たとえば、分散処理で得られたスラリーをPETフィルムの上に塗布して乾燥させることで、シート状の複合磁性体10を得てもよい。
【0070】
なお、複合磁性体10を得るための一連の工程についても、金属磁性粉末1の製造と同様に、Ar雰囲気などの不活性雰囲気で実施する。
【0071】
(実施形態のまとめ)
本実施形態の金属磁性粉末1は、主相がhcp-Coであり、かつ、平均粒径(D50)が1nm~100nm(好ましくは1nm~70nm)であるナノ粒子2で構成してある。そして、当該金属磁性粉末1は、副相として、fcc-Coまたは/およびε-Coを含む。金属磁性粉末1が混相構造のナノ粒子2を含むことで、1GHz以上の高周波帯域において、高い透磁率を確保しつつ、従来よりも磁気損失を低減させることができる。また、複合磁性体10についても、上記特徴を有する金属磁性粉末1を含むことで、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とを好適に両立させることができる。
【0072】
金属磁性粉末1および複合磁性体10では、Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)が、70%以上99%以下である。主相であるhcp-Coの比率が、上記の要件を満たすことで、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とをより好適に両立させることができる。
【0073】
また、金属磁性粉末1および複合磁性体10は、両性金属の結晶(好ましくはZn結晶)を含む。Coの混相構造を有するナノ粒子2で構成される金属磁性粉末1に、両性金属を添加することで、磁気損失をより低減させることができる。
【0074】
金属磁性粉末1および複合磁性体10は、いずれも、インダクタ、トランス、チョークコイル、フィルタ、および、アンテナなどの各種電子部品に適用することができ、特に、動作周波数が1GHz以上(より好ましくは1GHz~10GHz)の高周波回路向けの電子部品に好適に適用することができる。
【0075】
金属磁性粉末1(もしくは複合磁性体10)を含む電子部品としては、たとえば、
図4に示すようなインダクタ100が挙げられる。インダクタ100は、素体が本実施形態の複合磁性体10で構成してあり、素体の内部にコイル部50が埋設してある。素体の端面には、一対の外部電極60,80が形成してあり、各外部電極60,80が、それぞれ、コイル部50の引出部50a、50bと電気的に接続している。インダクタ100のような電子部品は、本実施形態の金属磁性粉末1(複合磁性体10)を含んでいるため、優れた高周波特性を有する。
【0076】
以上、本開示の実施形態について説明してきたが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内で種々に改変することができる。
【実施例0077】
以下、具体的な実施例に基づいて、本開示をさらに詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0078】
(実験1)
実験1では、気相中熱分解法により試料A1~A18に係る金属磁性粉末を製造した。具体的に、前駆体であるCo2(CO)8をセパラブルフラスコに投入し、当該前駆体を、57℃に加熱しながら、メカニカルスターラを用いて攪拌した。セパラブルフラスコの加熱には、オイルバスを使用したが、セパラブルフラスコの内部には、溶媒を添加せずに、気相中で前駆体を熱分解させた。この際の雰囲気は、Ar雰囲気とし、各試料における反応時間は、表1に示す値に設定した。
【0079】
試料A1~A6では、界面活性剤を添加せずに前駆体を熱分解させ、試料A7~A12では、熱分解時に界面活性剤としてオレイン酸を添加し、試料A13~A18では、熱分解時に界面活性剤としてシランカップリング剤のN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランを添加した。
【0080】
熱分解でナノ粒子を合成した後、セパラブルフラスコを室温で静置して、生成したナノ粒子を室温まで自然冷却させた。冷却後、ナノ粒子を、超脱水アセトンを用いて洗浄し、磁石により回収した。なお、原料の秤量から洗浄・回収までの一連の作業は、Ar雰囲気下で実施した。以上の工程により、試料A1~A18に係る金属磁性粉末を得た。
【0081】
次に、上記の金属磁性粉末を用いて、複合磁性体を製造した。なお、複合磁性体の製造方法は、試料A1~A18で共通とした。
【0082】
まず、複合磁性体におけるナノ粒子の含有率が10vol%となるように、金属磁性粉末を秤量した。そして、秤量した金属磁性粉末と、エポキシ樹脂と、溶媒であるアセトンとを混ぜ合わせ、当該混合物に対して超音波分散処理を施した。超音波分散の処理時間は10minとし、超音波分散処理によって得られた分散液を、50℃のAr雰囲気で乾燥させることで乾燥体を得た。そして、当該乾燥体を乳鉢で解砕した後、得られた顆粒を金型に充填して加圧することで複合磁性体を得た。各試料における複合磁性体は、いずれも、外形7mm、内径3mm、厚さ1mmのトロイダル形状を有していた。複合磁性体を製造する一連の工程については、Ar雰囲気下で実施した。
【0083】
実験1における各試料の複合磁性体について、以下に示す評価を実施した。
【0084】
ナノ粒子の平均粒径
実験1の各試料で製造したナノ粒子を、TEM(日本電子株式会社製:JEM-2100F)により、倍率50万倍で観察した。そして、画像解析ソフトにより500個のナノ粒子の円相当径を計測し、その平均粒径(D50)を算出した。
【0085】
結晶構造解析
まず、TEM観察時に、視野内で孤立している50個のナノ粒子に対して電子線を照射して、電子線回折パターンを得た。そして、得られた電子線回折パターンに基づいて、各ナノ粒子が単相構造と混相構造のどちらを有するかを同定した。実験1の各試料A1~A18では、いずれも、ナノ粒子が混相構造を有していることが確認できた。
【0086】
また、XRD装置(株式会社リガク製:Smart Lab)を用いた2θ/θ測定により、複合磁性体のXRDパターンを得た。そして、得られたXRDパターンをX線分析統合ソフトウェア(SmartLab Studio II)により解析し、hcp-Co、fcc-Co、および、ε-Coの比率(Whcp、Wfcc、およびWε)を算出した。なお、当該解析では、hcp-Co、fcc-Co、および、ε-Coの合計を100%として、各Co結晶相の比率を算定した。
【0087】
磁気特性の評価
ネットワークアナライザ(アジレント・テクノロジー株式会社製:HP8753D)を用いた同軸Sパラメータ法により、5GHzにおける複素透磁率の実部(すなわち透磁率μ′(単位なし))と、虚部μ″とを測定した。そして、5GHzにおける磁気損失tanδ(単位なし)を、μ″/μ′として算出した。透磁率μ´および磁気損失tanδは、複合磁性体におけるナノ粒子の含有率によっても変化する。実験1の各試料のように、複合磁性体におけるナノ粒子の含有率が10vol%である場合には、透磁率μ′が1.15以上で、かつ、磁気損失tanδが0.100以下である試料を、「良好」と判断した。
【0088】
実験1における各試料の評価結果を表1に示す。
【表1】
【0089】
表1に示すように、反応温度(熱分解温度)を57℃に設定した場合、反応時間を1~96hの範囲内とした試料(実施例)では、平均粒径(D50)が1nm~100nmで、かつ、混相構造を有するナノ粒子が得られた。反応時間を120hとした試料A6,A12,およびA18(比較例)では、ナノ粒子が混相構造を有していたものの、当該ナノ粒子の平均粒径(D50)が100nmよりも大きくなった。比較例である試料A6,A12,およびA18では、透磁率と磁気損失の両方とも評価基準の満足できなかった。一方で、平均粒径(D50)が1nm~100nmの範囲内である実施例(試料A1~A5,A7~A11,A13~A17)では、比較例よりも透磁率特性および磁気損失特性が向上しており、5GHzで良好な磁気特性が得られた。
【0090】
なお、表1に示す実施例では、平均粒径を小さくするほど、磁気損失を低減させることができた。つまり、主相がhcp-Coである混相構造のナノ粒子では、平均粒径が、72nm以下であることが好ましく、52nm以下であることがより好ましいことがわかった。
【0091】
また、表1に示す評価結果から、界面活性剤の添加によって、Coのナノ粒子の結晶構造が変化することがわかった。具体的に、界面活性剤を添加しない場合(試料A1~A6)には、副相としてfcc-Coが生成し、界面活性剤を添加する場合よりも主相であるhcp-Coの比率が高くなることがわかった。一方、界面活性剤としてオレイン酸を添加した場合(試料A7~A12)は、副相としてε-Coが生成し、界面活性剤としてN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランを添加した場合(試料A13~A18)は、副相としてfcc-Coおよびε-Coが生成することがわかった。
【0092】
(実験2)
実験2では、熱分解時の反応温度を変えて、表2~表4に示す条件で金属磁性粉末を製造した。表2に示す各試料B1~B28(および実験1のA1~A6)では、界面活性剤を添加せずに前駆体であるCo2(CO)8を、気相中で熱分解させ、金属磁性粉末を得た。一方、表3に示す各試料C1~C28(および実験1のA7~A12)では、オレイン酸を添加してCoの金属磁性粉末を製造し、表4に示すD1~D28(および実験1のA13~A18)では、シランカップリング剤のN-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランを添加して、金属磁性粉末を製造した。
【0093】
反応温度および反応時間以外の製造条件は、実験1と同様として、実験2の各試料に係る金属磁性粉末および複合磁性体を製造した。実験2の各試料の評価結果を表2~表4に示す。
【0094】
【0095】
表2~表4の評価結果から、気相中熱分解時の反応温度を高くするほど、副相が生成し易くなり、hcp-Coの比率が低下することがわかった。換言すると、気相中熱分解時の反応温度を低くするほど、hcp-Coの比率が高くなることがわかった。
【0096】
表2に示す試料B1~B6(比較例)では、界面活性剤を添加せずに、52℃で前駆体を熱分解させることで、副相を含まない金属磁性粉末が得られた。当該試料B1~B6では、磁気損失が0.100以下となったものの、透磁率が1.15(基準値)よりも低く、磁気特性の評価基準を満足できなかった。界面活性剤を使用しない条件では、反応温度を57℃~180℃に設定した場合に、hcp-Coの主相(ナノ粒子の50%以上を占める結晶相)と、fcc-Coの副相とを含む混相構造が得られた。そして、混相構造のナノ粒子を含む試料のうち、平均粒径(D50)が1nm~100nmの範囲内である実施例(試料A1~A5,および試料B7~B28)では、5GHzにおいて、高い透磁率と低い磁気損失とを両立して得ることができた。
【0097】
表3に示す試料C25~C28(比較例)では、オレイン酸を添加して、180℃の高温で前駆体を熱分解させることで、ε-Coを主相とする金属磁性粉末が得られた。ε-Coを主相とする試料C25~C28では、5GHzで高い透磁率が得られたものの、磁気損失が0.100よりも大きく、磁気特性の評価基準を満足できなかった。オレイン酸を添加した場合、反応温度を52℃~150℃に設定することで、hcp-Coの主相と、ε-Coの副相とを含む混相構造が得られた。そして、混相構造のナノ粒子を含む試料のうち、平均粒径(D50)が1nm~100nmの範囲内である実施例(試料C1~C5,A7~A11,およびC7~C24)では、5GHzにおいて、高い透磁率と低い磁気損失とを両立して得ることができた。
【0098】
また、表4に示す試料D25~D28では、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランを添加して、180℃の高温で前駆体を熱分解させることで、hcp-Coの比率が50%未満である金属磁性粉が得られた。当該試料D25~D28では、5GHzで高い透磁率が得られたものの、磁気損失が0.100よりも大きく、磁気特性の評価基準を満足できなかった。N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシランを添加した場合、反応温度を52℃~150℃に設定することで、hcp-Coの主相と、fcc-Coおよびε-Coの副相とを含む混相構造が得られた。そして、混相構造のナノ粒子を含む試料のうち、平均粒径(D50)が1nm~100nmの範囲内である実施例(試料D1~D5,A13~A17,およびD7~D24)では、5GHzにおいて、高い透磁率と低い磁気損失とを両立して得ることができた。
【0099】
上述した表2~表4の結果から、平均粒径(D50)が1nm~100nmの範囲内であるCoナノ粒子が、hcp-Coの主相と、fcc-Coまたは/およびε-Coの副相とを含むことで、高周波帯域において、高い透磁率と低い磁気損失とを両立させることができることがわかった。なお、表2~表4に示す実施例では、主相であるhcp-Coの比率が高いほど、磁気損失がより低くなる傾向となり、副相の比率が高くなるほど、透磁率が高くなる傾向となった。金属磁性粉末におけるhcp-Coの比率(Whcp/(Whcp+Wfcc+Wε)は、68%以上99%以下であることが好ましく、80%以上99%以下であることがより好ましいことがわかった。
【0100】
(実験3)
実験3では、Coナノ粒子の混相構造による磁気特性への影響をより詳細に評価するために、比較例に相当する試料H1~H8に係る複合磁性体を製造した。
【0101】
試料H1(比較例)
試料H1では、液相中熱分解法により金属磁性粉末を製造した。まず、前駆体であるCo2(CO)8と、溶媒であるジクロロベンゼンとを、セパラブルフラスコに投入し、反応液を得た。そして、セパラブルフラスコをオイルバス中に設置して、180℃に加熱し、反応液をメカニカルスターラで攪拌した。つまり、180℃に加熱したジクロロベンゼン中でCo2(CO)8を熱分解させることで、Coのナノ粒子を生成させた。
【0102】
反応液を0.5時間攪拌させた後、セパラブルフラスコを室温で静置して、生成したナノ粒子を室温まで自然冷却させた。冷却後、ナノ粒子を、超脱水アセトンを用いて洗浄し、磁石により回収した。以上の工程により試料H1(比較例)に係る金属磁性粉末を得た。なお、原料の秤量から洗浄・回収までの一連の作業は、Ar雰囲気下で実施した。
【0103】
TEMの電子線回折によりナノ粒子の結晶構造を確認したところ、試料H1では、ε-Coからなる単相のナノ粒子が得られたことがわかった。試料H1では、当該金属磁性粉末を用いて、実験1と同じ条件で複合磁性体を製造した。
【0104】
試料H2~H4(比較例)
試料H2~H4では、hcp-Coの単相構造を有する試料B2(比較例)の金属磁性粉末(以下B2粉末と称する)と、ε-Coの単相構造を有する試料H1(比較例)の金属磁性粉末(以下H1粉末と称する)とを、混ぜ合わせて、複合磁性体を製造した。B2粉末とH1粉末との配合比は、混合粉末におけるCo結晶相の比率が表5に示す値となるように制御した。なお、試料H2~H4における複合磁性体の製造条件は、混合粉末を使用したことを除いて、実験1と同様とした。
【0105】
試料H5(比較例)
試料H5では、液相中熱分解法で金属磁性粉末を製造する際に、前駆体としてCo2(CO)8を用い、溶媒としてテトラリン(1,2,3,4-tetrahydronaphthalene)を用い、界面活性剤として( ポリビニルピロリドン(Poly(N-vinyl-2-pyrrolidone)) )を用い、反応温度は200℃に設定した。上記以外の製造条件は、試料H1と同様とした。TEMの電子線回折によりナノ粒子の結晶構造を確認したところ、試料H5では、fcc-Coからなる単相のナノ粒子が得られたことがわかった。試料H5では、当該金属磁性粉末を用いて、実験1と同じ条件で複合磁性体を製造した。
【0106】
試料H6~H8(比較例)
試料H6~H8では、hcp-Coの単相構造を有するB2粉末と、fcc-Coの単相構造を有する試料H5の金属磁性粉末(以下H5粉末と称する)とを、混ぜ合わせて、複合磁性体を製造した。B2粉末とH5粉末との配合比は、混合粉末におけるCo結晶相の比率が表5に示す値となるように制御した。なお、試料H6~H8における複合磁性体の製造条件は、混合粉末を使用したことを除いて、実験1と同様とした。
【0107】
実験3の評価結果を表5に示す。なお、表5では、実験1~2の試料A2,B2,B13,およびB22の評価結果も併記してある。
【0108】
【0109】
表5に示すように、単相構造の金属磁性粉末を混合した場合、hcp-CoからなるB2粉末の配合比を高くすると、磁気損失は0.080以下と低くなったものの、透磁率が1.15未満と低く、透磁率の評価基準を満足できなかった(試料H2および試料H6)。一方、ε-CoからなるH1粉末、もしくは、fcc-CoからなるH5粉末の配合比を高くすると、透磁率は1.15以上となったものの、磁気損失が0.100超過となり、磁気損失の評価基準を満足できなかった(試料H3~4,H7~8)。このように、単相構造の金属磁性粉を混合した試料では、高透磁率と低磁気損失とを両立させることはできなかった。
【0110】
これに対して、混相構造を有する実施例(試料A2,B13およびB22)では、透磁率が1.15以上で、かつ、磁気損失が0.100以下となった。実験1~3の結果から、主相がhcp-Coであるナノ粒子が、fcc-Coまたは/およびε-Coを含む混相構造を有することで、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とを好適に両立させることできることがわかった。
【0111】
(実験4)
実験4では、両性金属の原料としてZnCl2を添加して、気相中熱分解法により試料E1~E6に係る金属磁性粉末を製造した。ZnCl2は、反応開始時点で添加し、ZnCl2の添加量は、各試料におけるZnの比率(WAM/(WCo+WAM))が表6に示す値となるように、制御した。また、実験4では、ナノ粒子の平均粒径(D50)が20±2nmとなるように、反応温度を57℃、反応時間を3hに設定した。上記以外の製造条件は、実験1と同様とし、試料E1~E6に係る複合磁性体の磁気特性を評価した。実験4の評価結果を表6に示す。
【0112】
【0113】
表6に示すように、両性金属としてZnを添加した試料E1~E6においても、5GHzにおいて、高透磁率と低磁気損失とを両立させることができた。なお、試料E1~E6のXRDパターンでは、Znの回折ピークが検出され、Znが金属結晶として存在していることが確認できた。
【0114】
(実験5)
実験5では、表7に示す条件で、各試料に係る金属磁性粉末を製造した。具体的に、実験5では、ZnCl2を反応開始時点で添加すると共に、反応温度の水準を振って、Co結晶相の比率が異なる複数の金属磁性粉末を製造した。反応時間については、各試料におけるナノ粒子の平均粒径(D50)が20±2nmとなるように、反応温度に応じて所定の時間に設定した。上記以外の製造条件は、実験1と同様とし、各試料に係る複合磁性体の磁気特性を測定した。実験5の評価結果を表7に示す。
【0115】
【0116】
Znを添加していない実験2では、副相の比率が高くなると磁気損失が増加する傾向となったが、表7に示す実験5の実施例では、Znの添加によって、実験2(表2~表4)よりも磁気損失が低減される傾向となった。この結果から、両性金属の添加によって、高周波帯域における磁気損失をさらに低減できることがわかった。なお、実験5の各実施例においても、XRDの解析により、Znは金属結晶として存在していることが確認できた。
【0117】
(実験6)
実験6では、表8に示す条件で、各試料に係る金属磁性粉末を製造した。具体的に、実験6では、ZnCl2を反応開始時点で添加すると共に、反応時間の水準を振って、平均粒径が異なる複数の金属磁性粉末を製造した。各試料の反応温度については、57℃に設定した。上記以外の製造条件は、実験1と同様とし、各試料に係る複合磁性体の磁気特性を測定した。実験6の評価結果を表8に示す。
【0118】
【0119】
Znを添加していない実験1では、ナノ粒子の平均粒径が大きくなると磁気損失が増加する傾向となったが、表8に示す実験6の実施例では、Znの添加によって、実験1(表1)よりも磁気損失が低減される傾向となった。この結果から、両性金属の添加によって、高周波帯域における磁気損失をさらに低減できることがわかった。なお、実験6の各実施例においても、XRDの解析により、Znは金属結晶として存在していることが確認できた。
【0120】
(実験7)
試料A21、A22(実施例)
試料A21およびA22では、実験1の試料A2と同じ条件で金属磁性粉末を製造した後、ビーズミルによるメディア分散で複合磁性体を製造した。メディア分散では、直径が0.2mmであるZrO2のビーズを用いた。試料A21におけるメディア分散の処理時間は10minとし、試料A22におけるメディア分散の処理時間は30minとした。上記以外の製造条件は、実験1と同様とした。
【0121】
試料E11~E15(実施例)
試料E11~E15では、ZnCl2を反応開始から所定時間経過した後に添加した。各試料E11~E15において、反応温度は57℃、反応時間は3hに設定した。試料E11、E13およびE14では、反応開始から1h経過してからZnCl2を添加し、その後、さらに2h反応を継続させた。試料E12およびE15では、反応開始から2h経過してからZnCl2を添加し、その後、さらに1h反応を継続させた。
【0122】
また、試料E11~E12では、実験1と同様に(すなわち試料E5と同様)超音波分散により複合磁性体を製造した。一方、試料E13~E15では、ビーズミルによるメディア分散で複合磁性体を製造した。試料E13におけるメディア分散の処理時間は10minとし、試料E14およびE15における処理時間は30minとした。上記以外の製造条件は、実験1と同様とした。
【0123】
実験7の各実施例の評価結果を表9に示す。実験7では、TEM-EDSを用いたマッピング分析により、複合磁性体の断面を解析し、Znの存在箇所を特定した。表9における「Znの検出箇所」の項目では、両性金属が検出された箇所に「Y」を記し、両性金属が検出されなかった箇所には「-」を記した。なお、実験7の各実施例では、XRDパターンにおいてZnの回折ピークが検出されており、Znが金属結晶粒として存在していた。
【0124】
【0125】
表9に示す結果から、両性金属の原料(ZnCl2)を添加するタイミング、および、分散処理の条件によって、両性金属(Zn)の存在箇所を制御できることがわかった。そして、両性金属の存在箇所を変えた場合であっても、高周波帯域において、高透磁率と低磁気損失とを両立させることができることが確認できた。
【0126】
(実験8)
実験8では、実験2の試料B23と同じ条件で金属磁性粉末を製造した後、当該金属磁性粉末に対して徐酸化処理を施し、試料B29およびB30に係る金属磁性粉末を得た。徐酸化処理の条件は、金属磁性粉末100wt%に対するCoの含有率(WCo)が表10に示す値となるように制御した。なお、徐酸化処理により金属磁性粉末中に含まれるCoの一部が酸化するため、試料B29およびB30の金属磁性粉末には、Co(主成分)の他に、酸素(O)が含まれていた。
【0127】
実験8の試料B29およびB30についても、試料B23と同じ条件(すなわち実験1に記載した条件)で複合磁性体を製造し、その磁気特性を測定した。実験8の評価結果を表10に示す。なお、表10に示すCoの含有率は、複合磁性体のXRDパターンをX線分析統合ソフトウェアで解析することで算出した。
【0128】
【0129】
表10に示すように、徐酸化処理によりCoの含有率を変えた試料B29およびB30においても、試料B23と同様の効果が確認でき、5GHzにおいて、高い透磁率を確保しつつ、従来(比較例)よりも磁気損失を低減させることができた。
【0130】
(実験9)
実験9では、実験1の試料A2と同じ条件で金属磁性粉末を製造した後、複合磁性体中の金属磁性粉末の配合比を変えて、試料A201~A205に係る複合磁性体を製造した。各試料A201~A205における金属磁性粉末の配合比は、複合磁性体中のナノ粒子の含有率が表11に示す値となるように制御した。なお、金属磁性粉末の配合比以外の製造条件は、試料A2と同様とした。
【0131】
また、実験9では、比較例として試料C261~C265に係る複合磁性体を製造した。各試料C261~C265では、実験2の試料C26(比較例)と同じ条件で、主相がε-Coである金属磁性粉末を製造した。そして、複合磁性体中のナノ粒子の含有率が表11に示す値となるように、金属磁性粉末の配合比を調整して複合磁性体を得た。なお、金属磁性粉末の配合比以外の製造条件は、試料C26と同様とした。
【0132】
なお、実験9では、製造した複合磁性体の断面をTEMで観察し、複合磁性体に含まれる金属磁性粉末(ナノ粒子)の面積割合を測定した。その結果、実験9の各試料では、ナノ粒子の面積割合が、表11に示す狙い値(vol%)と一致していることが確認できた。
【0133】
一般的に、複合磁性体中の磁性粉末の含有率(充填率)を高くすると、透磁率は上昇するものの磁気損失特性は低下する(すなわち磁気損失が大きくなる)傾向となる。実験9では、充填率の増減による磁気特性の変化を考慮して、ナノ粒子の含有率ごとに磁気特性の判定基準を設けることとした。具体的に、実験9では以下に示す要件を満たす試料を「良好」と判断した。
ナノ粒子の含有率10vol%:1.15≦μ´、tanδ≦0.100
ナノ粒子の含有率20vol%:1.30≦μ´、tanδ≦0.150
ナノ粒子の含有率30vol%:1.45≦μ´、tanδ≦0.200
ナノ粒子の含有率40vol%:1.60≦μ´、tanδ≦0.250
ナノ粒子の含有率50vol%:1.75≦μ´、tanδ≦0.300
ナノ粒子の含有率60vol%:1.90≦μ´、tanδ≦0.350
実験9の評価結果を表11に示す。
【0134】
【0135】
表11に示す結果から、複合磁性体におけるナノ粒子の含有率を変えた実施例(試料A201~A205)においても、高い透磁率μ′を確保しつつ、対応する比較例(試料C261~C265)よりも磁気損失を低減させることができた。