(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160084
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】味覚嗜好性の評価方法、及び、対象非ヒト小型動物の観察装置
(51)【国際特許分類】
A01K 29/00 20060101AFI20231026BHJP
G01N 33/02 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
A01K29/00 A
G01N33/02
A01K29/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070155
(22)【出願日】2022-04-21
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日 令和3年9月10日 刊行物 日本味と匂学会第55回大会 発表番号P-70 開催日 令和3年9月24日 集会名 2021年度日本味と匂学会第55回大会(福岡) 開催場所 九州大学病院キャンパス(福岡市東区馬出3-1-1)
(71)【出願人】
【識別番号】591186176
【氏名又は名称】株式会社 ゼンショーホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】599066676
【氏名又は名称】学校法人東京歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】ウドムソム ニリン
(72)【発明者】
【氏名】安松 啓子
(57)【要約】
【課題】食品の味覚に対する嗜好性を簡便に評価可能な、味覚嗜好性の評価方法、及び、当該評価方法に用いることのできる対象非ヒト小型動物の観察装置を提供する。
【解決手段】対象非ヒト小型動物を所定時間絶食させる絶食工程と、前記絶食工程において所定時間絶食させた前記対象非ヒト小型動物の近傍に液状のサンプル食品を供給し、所定時間経過後に前記液状のサンプル食品を回収するサンプル供給/回収工程と、前記サンプル供給/回収工程において前記液状のサンプル食品を回収した後に前記液状のサンプル食品を摂取した前記対象非ヒト小型動物の行動を所定時間観察する観察工程と、前記観察工程において観察した前記対象非ヒト小型動物の特定の行動について所定時間内の各特定の行動の回数及び行動時間の少なくともいずれかを計測する計測工程と、を含む、味覚嗜好性の評価方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象非ヒト小型動物を所定時間絶食させる絶食工程と、
前記絶食工程において所定時間絶食させた前記対象非ヒト小型動物の近傍に液状のサンプル食品を供給し、所定時間経過後に前記液状のサンプル食品を回収するサンプル供給/回収工程と、
前記サンプル供給/回収工程において前記液状のサンプル食品を回収した後に前記サンプル食品を摂取した前記対象非ヒト小型動物の行動を所定時間観察する観察工程と、
前記観察工程において観察した前記対象非ヒト小型動物の特定の行動について所定時間内の各特定の行動の回数及び行動時間の少なくともいずれかを計測する計測工程と、
を含む、味覚嗜好性の評価方法。
【請求項2】
前記絶食工程おいて、前記対象非ヒト小型動物を13時間~19時間絶食させる、請求項1に記載の味覚嗜好性の評価方法。
【請求項3】
前記サンプル供給/回収工程において、前記液状のサンプル食品を供給し、1秒間~10秒間経過後に前記液状のサンプル食品を回収する、請求項1又は請求項2に記載の味覚嗜好性の評価方法。
【請求項4】
前記観察工程において、前記液状のサンプル食品を回収した後に前記液状のサンプル食品を摂取した前記対象非ヒト小型動物の行動を5秒間~60秒間観察する、請求項1又は請求項2に記載の味覚嗜好性の評価方法。
【請求項5】
前記サンプル供給/回収工程、及び、前記観察工程を、複数回繰り返す、請求項1又は請求項2に記載の味覚嗜好性の評価方法。
【請求項6】
前記液状のサンプル食品の、濃度、及び、種類の少なくともいずれかが異なる前記サンプル供給/回収工程を含む、請求項5に記載の味覚嗜好性の評価方法。
【請求項7】
前記計測工程おいて、前記液状のサンプル食品を回収した後5秒間~60秒間内の前記対象非ヒト小型動物の各特定行動の行動回数及び行動時間の少なくともいずれかを計測する、請求項1又は請求項2に記載の味覚嗜好性の評価方法。
【請求項8】
収容された対象非ヒト小型動物を側面方向から観察可能な収容部と、
前記収容部内に液状のサンプル食品を供給、及び、前記収容部内から前記液状のサンプル食品を回収可能な、液状サンプル運搬手段と、
前記収容部の底面から見える前記収容部内の前記対象非ヒト小型動物の顔周辺の像を前記底面の法線に対して斜め方向に反射するように設置されたミラー部と、
を備えた、対象非ヒト小型動物の観察装置。
【請求項9】
前記収容部の側面から見た前記対象非ヒト小型動物と、前記ミラー部に映る前記像と、を同時に撮影する撮影装置をさらに備える、請求項8に記載の対象非ヒト小型動物の観察装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、味覚嗜好性の評価方法、及び、対象非ヒト小型動物の観察装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、食品の開発分野においては、パネラー(ヒト)による官能評価試験などの知覚テストを通じて、所望の食品に嗜好性を評価することが行われている。一方、近年においては生体テスト以外にも装置を用いて、特定の、塩味、酸味、甘味、旨味及び苦味などの基本味を測定する装置が開発されている(例えば、特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、食品に対する「おいしさ」は単なる基本味ではなく、「嗜好性」に依存するところが大きい。食品(味覚)に対する「嗜好性」は、「基本味」とは異なり、これら基本味が複雑に組み合さって織りなされるものであり、既存の装置等による測定ではいまだ人間の知覚テストに勝る結果を得ることはできない。しかし、ヒト、特に成人による嗜好性テストでは判定者のバックグラウンドによる個人差が生じ、また、長時間拘束することによる継続的判定も困難である。このため、「基本味」を判定するのではなく、多くの食材からの基本味が複雑に組み合わされた現実の食品(例えば、牛丼のたれそのもの等)などに対する「嗜好性」を簡便に測定できる技術の確立が切望されている。
【0005】
本発明は、上述の課題を解決すべく、簡便に食品の味覚に対する嗜好性を評価可能な、味覚嗜好性の評価方法、及び、当該評価方法に用いることのできる対象非ヒト小型動物の観察装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
<1>
対象非ヒト小型動物を所定時間絶食させる絶食工程と、
前記絶食工程において所定時間絶食させた前記対象非ヒト小型動物の近傍に液状のサンプル食品を供給し、所定時間経過後に前記液状のサンプル食品を回収するサンプル供給/回収工程と、
前記サンプル供給/回収工程において前記液状のサンプル食品を回収した後に前記サンプル食品を摂取した前記対象非ヒト小型動物の行動を所定時間観察する観察工程と、
前記観察工程において観察した前記対象非ヒト小型動物の特定の行動について所定時間内の各特定の行動の回数及び行動時間の少なくともいずれかを計測する計測工程と、
を含む、味覚嗜好性の評価方法。
<2>
前記絶食工程おいて、前記対象非ヒト小型動物を13時間~19時間絶食させる、前記<1>に記載の味覚嗜好性の評価方法。
<3>
前記サンプル供給/回収工程において、前記液状のサンプル食品を供給し、1秒間~10秒間経過後に前記液状のサンプル食品を回収する、前記<1>又は前記<2>に記載の味覚嗜好性の評価方法。
<4>
前記観察工程において、前記液状のサンプル食品を回収した後に前記液状のサンプル食品を摂取した前記対象非ヒト小型動物の行動を5秒間~60秒間観察する、前記<1>~前記<3>のいずれかに記載の味覚嗜好性の評価方法。
<5>
前記サンプル供給/回収工程、及び、前記観察工程を、複数回繰り返す、前記<1>~前記<4>のいずれかに記載の味覚嗜好性の評価方法。
<6>
前記液状のサンプル食品の、濃度、及び、種類の少なくともいずれかが異なる前記サンプル供給/回収工程を含む、前記<5>に記載の味覚嗜好性の評価方法。
<7>
前記計測工程おいて、前記液状のサンプル食品を回収した後5秒間~60秒間内の前記対象非ヒト小型動物の各特定行動の行動回数及び行動時間の少なくともいずれかを計測する、前記<1>~前記<6>のいずれかに記載の味覚嗜好性の評価方法。
<8>
収容された対象非ヒト小型動物を側面方向から観察可能な収容部と、
前記収容部内に液状のサンプル食品を供給、及び、前記収容部内から前記液状のサンプル食品を回収可能な、液状サンプル運搬手段と、
前記収容部の底面から見える前記収容部内の前記対象非ヒト小型動物の顔周辺の像を前記底面の法線に対して斜め方向に反射するように設置されたミラー部と、
を備えた、対象非ヒト小型動物の観察装置。
<9>
前記収容部の側面から見た前記対象非ヒト小型動物と、前記ミラー部に映る前記像と、を同時に撮影する撮影装置をさらに備える、前記<8>に記載の対象非ヒト小型動物の観察装置。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、簡便に食品の味覚に対する嗜好性を評価可能な、味覚嗜好性の評価方法、及び、当該評価方法に用いることのできる対象非ヒト小型動物の観察装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の味覚嗜好性の評価方法の流れを示すフローチャートである。
【
図2】
図2Aは、本実施形態の評価装置の各構成を示す分解図であり、
図2Bは本実施形態の評価装置と撮像装置との関係を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の内容について実施態様を用いて詳細に説明する。但し、以下の実施形態は例示であり、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【0010】
《味覚嗜好性の評価方法》
本実施形態の味覚嗜好性の評価方法(以下、単に「本実施形態の評価方法」と称することがある。)は、
対象非ヒト小型動物を所定時間絶食させる絶食工程と、
前記絶食工程において所定時間絶食させた前記対象非ヒト小型動物の近傍に液状のサンプル食品を供給し、所定時間経過後に前記液状のサンプル食品を回収するサンプル供給/回収工程と、
前記サンプル供給/回収工程において前記液状のサンプル食品を回収した後に前記液状のサンプル食品を摂取した前記対象非ヒト小型動物の行動を所定時間観察する観察工程と、
前記観察工程において観察した前記対象非ヒト小型動物の特定行動について、所定時間内の各特定行動の行動回数及び行動時間の少なくともいずれかを計測する計測工程と、
を含む。
【0011】
本実施形態の評価方法は、ヒト、その他の霊長類、げっ歯類、などの多くの哺乳類において、自発的に口腔内に取り入れられた食品に対し、嗜好性に応じて多くの共通した行動(以下、“特定行動”と称することがある)を示す点に着目したものである。具体的には、Harvey J Grill, (1978),The Taste Reactivity Test. I. Mimetic Responses to Gustatory stimuli in Neurologically Normal Rats, Brain Research, 143, 1978, 263-279 や、K.C.Berridge(2000),Measuringhedonicimpactinanimalsandinfants:microstructureofaffectivetastereactivitypatterns,Neuroscience&BiobehavioralReviews,Volume24,Issue2,March2000,Pages173-198や、Susana Pecin~a et al,(2003), Hyperdopaminergic Mutant Mice Have Higher“Wanting”But Not Liking”for Sweet Rewards, The Journal of Neuroscience,October15,2003・23(28):9395-9402・9395等の文献に、味覚の快楽的な影響は、人間の乳児、他の霊長類、ラットにおいて感情的な顔の反応に反映されること、また、ヒト、他の霊長類、及びラットの間の系統発生的連続性を検証した結果、“感情的な味覚反応性パターン”は、摂取測定、消費行動測定、又は、感覚反射測定ではなく、嗜好性等を反映していることが示されている。本実施形態の評価方法は、食品に対する対象非ヒト小型動物の「感情的な味覚反応性パターン」(特定行動)を効率良く検証することで、対象となる食品に対する哺乳類、例えば、ヒトの味覚嗜好性を簡易的に評価することができる。さらに、本実施形態の評価方法は、これら特定行動を効率よく計測するために発明された方法であり、以下に説明する各工程を経ることで、哺乳類の味覚嗜好性を簡便に効率よく評価することができる。
【0012】
まず、
図1を用いて本実施形態の評価方法について説明する。
図1は、本実施形態の味覚嗜好性の評価方法の流れを示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態の評価方法は、絶食工程と、サンプル供給/回収工程(
図1におけるサンプルA供給/回収工程、及び、サンプルB供給/回収工程)と、観察工程と、計測工程と、を含み、必要に応じて、順応工程、給水工程、などを含んでいてもよい。以下において、本実施形態の評価方法について、まず必須工程である、絶食工程、サンプル供給/回収工程、観察工程、及び、計測工程について説明し、続けて、
図1のフローチャートに沿って各工程の流れについて説明する。
【0013】
[絶食工程]
絶食工程は、対象非ヒト小型動物を所定時間絶食させる工程である。本実施形態の評価方法においては、サンプル供給/回収工程において対象非ヒト小型動物に液状のサンプル食品を提供する前に、所定時間水分摂取を制限するのではなく絶食させる。ここで、「絶食」とは、水以外の液体、及び、固形状の餌の摂取を制限することを意味する。例えば、水分摂取を制限した評価方法の場合、対象非ヒト小型動物を口渇状態にするためには空腹状態にするよりも多くの時間を要する(例えば、マウスの場合には23時間程度)。本実施形態の評価方法は対象非ヒト小型動物を所定時間絶食させることで、水分摂取を制限した場合に比して短い時間で、サンプル供給/回収工程における液状のサンプル食品への対象非ヒト小型動物の食いつきを高めることができる。これにより、水分摂取を制限した場合に比して同一の被検対象に対する評価方法のサイクル(以下、絶食工程から評価終了までの1サイクルを“評価サイクル”と称することがある。評価サイクルは連続して行うことができるが、1つの評価サイクルに含まれる絶食工程は1回のみであり、2回目の絶食工程を行う場合には当該絶食工程より2つめの評価サイクルとなる。)に要する時間を短くすることができる。
【0014】
かかる点において、研究ベースではビジネスへの実用(工業的な利用)面までには至らず、評価結果を得ることが目的となるため評価に要する時間に対する配慮は少ないことが多い。一方、大量評価が必要な工業的利用においては時間の要素が重要となる。本発明はこのような視点にも着目するものであり、絶食(給水あり)させて空腹状態とすると、水及び液体の餌を制限して口渇状態にする場合に比して、短い時間で対象非ヒト小型動物のサンプルへの食いつきを高めることができ、評価効率を向上させることを見出したものである。
【0015】
-対象非ヒト小型動物-
本実施形態において「対象非ヒト小型動物」とは、小型の非ヒト哺乳類動物を意味する。対象非ヒト小型動物としては、例えば、食品の嗜好性に対しヒトと共通の特定行動を示すことが確認され、且つ、当該特定行動を外部から観察しやすいという観点から、小型のげっ歯類、霊長類が挙げられ、例えば、マウス、ラット、小型のサルなどが挙げられる。また、対象非ヒト小型動物の体重は特に限定されるものではないが、後述する対象非ヒト小型動物を絶食させる時間や液状のサンプル食品を供給する時間等との関係から、例えば、10g~1000gであることが好ましく、10g~700gが更に好ましく、15g~50gが特に好ましい。コスト面を考慮すると、対象非ヒト小型動物としてマウスやラット等のげっ歯類を採用することが好ましい。また、対象非ヒト小型動物の生育程度(月齢等)は、特に限定されるものではないが、嗜好性が経験や外部要因によって影響をうける前であることが好ましく、例えば、成体になる直前(例えば、マウスの場合、生後8週間後)の個体であることが好ましい。
【0016】
-絶食時間-
絶食工程において、対象非ヒト小型動物を絶食させる所定時間(以下、「絶食時間」と称することがある。)は、特に限定はなく、対象非ヒト小型動物の活動量を衰えさせることなく、対象非ヒト小型動物の液状のサンプル食品に対する食いつきを高める観点で適宜決定することが好ましいが、例えば、13時間~19時間であることが好ましく、14時間~18時間が更に好ましく、15時間~17時間が特に好ましい。また、絶食工程は、例えば、対象非ヒト小型動物の体重を基準とし、満腹状態の体重から所定の体重(例えば、約9割等)になるまでの時間などを基準に決定することもできる。なお、絶食時間中、本実施形態の評価に影響を与えない範囲で対象非ヒト小型動物に水を与えてもよい。
【0017】
[サンプル供給/回収工程]
サンプル供給/回収工程は、絶食工程において所定時間絶食させた対象非ヒト小型動物の近傍に液状のサンプル食品を供給し、所定時間(以下、「サンプル供給時間」と称することがある。)経過後に液状のサンプル食品を回収する工程である。対象非ヒト小型動物は、近傍に液状のサンプル食品を供給されると、絶食工程を経て空腹感が高まっていることから自発的に液状のサンプル食品を摂取する。また、対象非ヒト小型動物は液状のサンプル食品の摂取した後、当該サンプルが回収されると、当該食品の味覚に対する嗜好性に応じた特定行動を開始する。本実施形態の評価方法は、液状のサンプル食品の供給を所定時間に制限することで、対象非ヒト小型動物の特定行動を効率よく観察することができる。
【0018】
-観察装置-
サンプル供給/回収工程は、絶食工程と同様の空間で実施してもよいが、例えば、対象非ヒト小型動物を液状のサンプル食品摂取後の特定行動を観察しやすく且つサンプルの供給及び回収を容易に行える専用の評価装置内に移動させ、その後サンプル供給/回収工程に続く工程を実施してもよい。本実施形態の評価方法に好適に用いることのできる評価装置の構成については後述する。また、サンプル供給/回収工程を実施するために対象非ヒト小型動物を別の空間に移動させる場合、対象非ヒト小型動物のストレスや不安感を低減させ十分に液状のサンプル食品に興味を持たせ且つその摂取に集中させるために、後述のように順応工程や給水工程をサンプル供給/回収工程実施前に実施することが好ましい。
【0019】
-評価工程単位-
本実施形態の評価方法は、サンプル供給/回収工程、及び、観察工程を、複数回繰り返すことができ、例えば、1回の評価サイクルにおいて、同一条件のサンプル食品を複数回評価する他、同種又は異なる液状の食品サンプルを用いたり、各液状の食品サンプルの濃度を変更することができる。すなわち、本実施形態の評価方法は、1回の評価サイクルにおいて、液状のサンプル食品の、濃度、及び、種類の少なくともいずれかが異なるサンプル供給/回収工程を含むことができる。これにより、1回の評価サイクルにおいて、複数のサンプルに対する嗜好性を効率よく評価することができる。
【0020】
1回の評価サイクルにおいて複数の評価を行う場合、サンプル供給/回収工程と後述の観察工程とを併せて1単位(以下、当該単位を「評価工程単位」と称することがあり、回数やサンプルに応じて「第1の評価工程単位A」等と称することがある)としてこれら複数単位を続けて実施することができる。例えば、1回の評価サイクルで、2種の濃度の異なる液状のサンプル食品を用い、各サンプルにつき4回のサンプル供給/回収工程及び観察工程を実施する場合には、第1の評価工程単位A、第2の評価工程単位A、…、第3の評価工程単位B、第4の評価工程単位B(即ち、第1~第4の評価工程単位A及び第1~第4の評価工程単位B)のように、8つの評価工程単位を続けて実施することができる。なお、濃度の異なるサンプルにつき続けて観察を行う場合には、後の工程におけるサンプルの濃度を高いものとすることが好ましい。
【0021】
-液状のサンプル食品-
サンプル供給/回収工程においては、まず、絶食工程において所定時間絶食させた対象非ヒト小型動物の近傍に液状のサンプル食品を供給する。ここで、「液状のサンプル食品」とは、味に対する嗜好性の評価対象となる食品であって、固形物の以外のものを意味する。液状のサンプル食品としては、液体状の食品、例えば、牛丼、豚丼、鳥丼、親子丼等の具のたれ、スープやみそ汁類、ドレッシングなど液状の調味料、などが挙げられるが、例えば、固形状食品を溶解又は細かく裁断などして分散させたものであってもよい。液状のサンプル食品を用いると、固形状のサンプル食品を用いた場合に比して対象非ヒト小型動物が満腹状態になりにくく、サンプル食品に対する興味を維持し続けることができる。液状のサンプル食品の匂いや色味は評価対象となる食物由来ものであれば特に限定されるものではないが、目的とする評価結果に応じて適宜調整することも可能である。
【0022】
本工程にて、液状のサンプル食品は所定の容量を有する皿(ディッシュ)などに入れて供給することができる。本工程において、一回の供給時における液状のサンプル食品の量は、特に限定されるものではないが、液状のサンプル食品摂取量を調整して同一被検体に対して複数のサンプルを一回の評価サイクルで評価する観点から、30μL~1000μLが好ましく、40μL~500μLがさらに好ましく、45μL~100μLがより好ましく、45μL~55μLが特に好ましい。また、上述のように複数のサンプル供給/回収工程を含み各評価工程単位間において液状のサンプル食品の濃度を変更する場合には、低濃度から高濃度となるように液状サンプル食品の濃度を変更することが好ましい。
【0023】
-サンプル供給時間-
本工程においては、液状のサンプル食品を供給後、所定時間(サンプル供給時間)が経過した後に、対象非ヒト小型動物の近傍より液状のサンプル食品を回収する。対象非ヒト小型動物は液状のサンプル食品の摂取後当該サンプルが回収された後に、当該食品の味覚に対する嗜好性に応じた特定行動を多く行う。サンプル供給時間(以下、“t1”と称することがある)は、特に限定されるものではないが、液状のサンプル食品摂取量を調整して同一被検体に対して複数のサンプルを一回の評価サイクルで評価するため、一回の提供で対象非ヒト小型動物の液状のサンプル食品に対する食いつきを阻害しないように、例えば、1秒間~10秒間が好ましく、1秒間~5秒間がさらに好ましく、2秒間~3秒間が特に好ましい。なお、上述のように複数のサンプル供給/回収工程を含む場合、各評価工程単位間においてサンプル供給時間は各々同一とすることが好ましい。
【0024】
[観察工程]
観察工程は、サンプル供給/回収工程において液状のサンプル食品を回収した後に対象非ヒト小型動物の行動を所定時間(以下、「観察時間」と称することがある)観察する工程である。また、上述のように、本実施形態の評価方法は、食品に対する対象非ヒト小型動物の「感情的な味覚反応性パターン」(特定行動)を効率良く検証することで、対象となる食品に対するヒトの嗜好性を簡易的に評価することができる。本実施形態の評価方法においては、観察工程にて特定行動を液状のサンプル食品摂取した対象非ヒト小型動物の特定行動を所定時間観測し、その後計測工程において各特定行動を計測する。また、上述のように複数のサンプル供給/回収工程を含む場合、観察工程は、各評価工程単位間におけるインターバル期間としての役割を果たす。
【0025】
-観察時間-
観察工程においては、液状のサンプル食品を回収した後に前記液状のサンプル食品を摂取した前記対象非ヒト小型動物の行動の観察を開始する。観察時間(以下、“t2”と称することがある)は、特に限定はなく計測工程との兼ね合いで適宜決定することができるが、長すぎると対象非ヒト小型動物が食品に対する特定行動以外の他の行動を多くとり始めるとの観点から、5秒間~60秒間が好ましく、5秒間~30秒間が更に好ましく、10秒間~15秒間が特に好ましい。なお、上述のように複数の観察時間を含む場合、各評価工程単位間において観察時間は各々同一とすることが好ましい。
【0026】
また、上述のように複数のサンプル供給/回収工程を含む場合、サンプル供給/回収工程のサンプル供給時間(t1)と観察工程における観察時間(t2)との合計(t1+t2)は、各評価工程単位の経過時間(t3)とみなすことができる。すなわち、複数のサンプル供給/回収工程を含む場合、各評価工程単位の経過時間(t3)は、一のサンプル供給から、次のサンプル供給までの間隔に該当する。このため、同一被検体に対して複数のサンプルを一回の評価サイクルで評価するために対象非ヒト小型動物のサンプル食品に対する食いつきを持続させつつ各工程を実施する観点から、各評価工程単位の経過時間(t3:即ち、サンプル供給/回収工程と観察工程との合計時間)、は、6秒間~70秒間が好ましく、6秒間~35秒間が更に好ましく、12秒間~18秒間が特に好ましい。
【0027】
[計測工程]
計測工程は、観察工程において観察した対象非ヒト小型動物の特定の行動について、所定時間内の各特定行動の回数及び行動時間の少なくともいずれかを計測する工程である。上述のように、対象非ヒト小型動物は液状のサンプル食品の摂取後に、当該食品の味覚に対する嗜好性に応じて特定行動を行う。計測工程においては、観察工程中に対象非ヒト小型動物が示した特定行動を計測し、その後、当該結果に基づいて食品に対する対象非ヒト小型動物の嗜好性を解析する。
【0028】
-特定行動-
液状のサンプル食品の摂取後、対象非ヒト小型動物が示す行動は「嗜好性に対する行動」、「嫌悪性に関する行動」、及び、「一般的な行動」に大別される。計測工程にて計測する特定行動としては、「嗜好性に対する行動」のみを計測対象として食品の味覚に対する嗜好性を評価することも可能であるが、さらに「嫌悪性に関する行動」を計測対象に含めることで、より嗜好性の評価の結果の確度を高めることができる。
【0029】
嗜好性に対する行動(食品に対するポジティブな反応)としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下が挙げられる。対象非ヒト小型動物が嗜好性に対する行動を示した場合、対象となるサンプル食品の味覚に対する嗜好性が高いと判断することができる。
・連続して舌をまっすぐ出す。
・左右へ舌を出す。
・前肢をなめる。
【0030】
嫌悪性に関する行動(食品に対するネガティブな反応)としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下が挙げられる。対象非ヒト小型動物が嫌悪性に関する行動を示した場合、対象となるサンプル食品に対する嫌悪感が高いと判断することができる。
・顎を大きく開く。
・頭を振る。
・前肢を振る。
・顎を床にこすりつける。
・前肢で床をかき回す。
・前肢で顔を拭う。
【0031】
「一般的な行動」としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下が挙げられる。一般的な行動は、食品の味覚に対する嗜好性及び嫌悪感とは関係がない行動であるため、評価方法における判断材料(特定行動)からは除外される。
・後肢で立つ。
・チャンバー内を移動する。
・サンプル挿入口に鼻を出す。
【0032】
なお、各特定行動は上述の例示に限定されるものではない。また、機械学習により各行動を分析し、嗜好性に対する行動及び嫌悪性に関する行動に該当しうるものを抽出して、その回数や行動時間を計測するように構成してもよい。
【0033】
-計測方法-
計測工程は観察工程と連続して、又は、同時に実施することも可能であるが、評価方法全体を通じて、又は、観察工程において対象非ヒト小型動物の行動を動画撮影により記録した場合には、計測工程を後にまとめて一度で実施することも可能である。例えば、一回の評価サイクルにおいて、複数のサンプル供給/回収工程を含み、且つ、評価サイクルを複数回繰り返す場合、計測工程は、評価工程単位毎に逐次行ってもよいし、記録動画などに基づいて、1回の評価サイクル毎、又は、複数の評価サイクルの最終工程においてまとめて一回で実施してもよい。
【0034】
また、計測工程における計測手段については特に限定はなく、リアルタイム又は記録動画に基づいて、目視により特定行動の回数や行動時間を計測してもよいし、画像分析ソフトやAI(人工知能)を用いて、特定行動の回数や行動時間を計測してもよい。
【0035】
-解析時間-
計測工程は、前記観察工程において観察した前記対象非ヒト小型動物の特定の行動について、所定時間(以下、「解析時間」と称する)内の各特定の行動の回数及び行動時間の少なくともいずれかを計測する。ここで、「解析時間」は各観察工程において観察される、サンプル回収からの所定の時間が該当する。解析時間は、特に限定はないが、特定行動が顕著に確認される、液状のサンプル食品を回収した後5秒間~60秒間であることが好ましく、5秒間~30秒間であることがさらに好ましく、10秒間~15秒間が特に好ましい。
なお、計測工程は観察工程にて観察した所定時間内の対象非ヒト小型動物の特定行動を計測(分析)する工程である。このため、解析時間は、観察工程の観察時間と一致していてもよいが、観察時間の一部であってもよい。例えば、観察工程における観察時間が20秒である場合、その内最初の10秒間(サンプル回収直後の10秒間)を解析時間とすることができる。
【0036】
-計測対象-
計測工程における計測対象は、サンプル食品の味覚に対する嗜好性の評価材料となる特定行動である。上述のように計測対象となる特定行動には、少なくとも「嗜好性に対する行動」が含まれ、さらに「嫌悪性に関する行動」を計測対象に含めることができる。この際、「一般的な行動」も併せて計測してもよい。
【0037】
計測工程においては、対象非ヒト小型動物の各特定行動の回数、及び、行動時間の少なくともいずれかを計測し、得られたサンプル食品毎の結果(回数、時間)を比較・検討等することで、食品の味覚に対する嗜好性を評価することができる。なお、回数を基準に特定行動を計測する場合、例えば、継続的に発生された行動(連続して舌をまっすぐ出す、前肢をなめる、前肢で顔を拭う、サンプル挿入口に鼻を出す等)は1秒間の継続を“1回”として計測し、特異又は短い行動(左右へ舌を出す、顎を大きく開く、頭を振る、前肢を振る、顎を床にこすりつける、前肢で床をかき回す、後肢で立つ、チャンバー内を移動する)などは発生毎に“1回”と計測してもよい。
【0038】
<評価方法の流れ>
図1を用いて、本実施形態の評価方法の基本的流れについて説明する。
図1に示すように、本流れにおいては、1回の評価サイクルにおいて2種類の液状のサンプル食品(サンプルA及びサンプルB)を評価する態様であり、各サンプルに対し複数回のサンプル供給/回収工程及び観察工程を行う。なお、本実施形態の評価方法は本図に示される流れに限定されるものではない。
【0039】
-絶食工程-
評価方法を開始するため、
図1中ステップS1に示すように、絶食工程において対象非ヒト小型動物(本流れにおいてはマウスを使用)に対する餌(液状の餌を含む)の供給を停止して、対象非ヒト小型動物を所定時間(例えば、16時間)絶食させる。絶食工程は通常の飼育用ゲージなどで行うことができる。本流れにおいては、所定時間経過後、観察工程における観察(動画撮影)を効率よく確実に行うために、サンプル供給/回収工程の実施前に対象非ヒト小型動物を専用の観察装置に移動させる。
【0040】
-順応工程-
観察装置の収容容器内に移送するなど、サンプル供給/回収工程を実施する際に対象非ヒト小型動物を別の空間に移動させる場合、対象非ヒト小型動物のストレスや不安感を低減させ、十分に液状のサンプル食品に興味を持たせ且つその摂取に集中させるために、サンプル供給/回収工程実施前に所定時間対象非ヒト小型動物を装置内に放置し、インターバルとなる順応工程を実施することができる。例えば、本流れにおいてはステップS2に示すように順応工程を含めることで、対象非ヒト小型動物をチャンバー内に移動後、2分間程度放置することで環境に順応させることができる。
【0041】
-給水工程-
サンプル供給/回収工程にて液状のサンプル食品を供給する前に、対象非ヒト小型動物の口内洗浄や味覚をリセットするために、給水工程を各サンプル供給/回収工程実施前に実施することができる。給水工程は、例えば、所定量(例えば、50μL)の蒸留水(DW)を入れた皿を収容部(チャンバー)内に供給することができ、対象非ヒト小型動物に所定時間(例えば、2秒間)蒸留水をなめさせる。また、給水工程においては所定時間経過後に蒸留水を入れた皿を回収することが好ましい。
【0042】
-サンプルA供給/回収工程-
図1に示すように、本流れにおいては、1回の評価サイクルにおいて2種類の液状のサンプル食品を評価する態様を示す。本流れにおいては、給水工程(ステップS3)において蒸留水(DW)を入れた皿を回収した後、所定時間インターバル(例えば、18秒間)をとり、その後、対象非ヒト小型動物の近傍に液状のサンプル食品(サンプルA)を入れた皿(サンプルディッシュ)を挿入してサンプルA供給/回収工程を実施する(ステップS4)。サンプルA供給/回収工程においてはサンプル供給時間(例えば2秒間)経過後、サンプルAの入った皿を回収する。
【0043】
-観察工程-
図1に示すように、本流れにおいては、サンプルA供給/回収工程(ステップS4)においてサンプルAの入った皿を回収後、観察工程を実施する(ステップS5)。本流れにおいて観察工程ではサンプルA摂取後の対象非ヒト小型動物の行動が動画撮影される。被検体の動画撮影の際には、特定行動の把握の観点から、対象非ヒト小型動物の全体、及び、顔周りの両方が撮影されることが好ましい。また、本流れにおいて、観察工程における観察時間は、サンプルA供給/回収工程と観察工程との合計が、例えば20秒間となるように設定することができる。この場合、観察工程における観察時間は上述のように各サンプル供給/回収工程間のインターバルの役割を果たし、本流れにおいては、各評価工程単位(サンプル供給/回収工程+観察工程)が20秒間毎に繰り返されることとなる。なお、上述の動画撮影は、評価サイクルを通して連続して行ってもよいが、観察工程のみ動画撮影を行う態様でもよい。
【0044】
同一条件のサンプル食品についてサンプル供給/回収工程及び観察工程を複数行う場合、エラーの抑制や対象非ヒト小型動物のサンプル食品への興味を維持する観点から、同一サンプルに対する評価工程単位(サンプル供給/回収工程+観察工程)の繰り返し回数は、3~6回が好ましく、4~5回がさらに好ましい。本流れにおいては、サンプルAに対し、同一条件(種類及び濃度が同一)で4回の評価を行う。
図1のステップS6において、ステップS4及びステップS5の繰り返し回数(即ち、サンプルAについて実施した評価工程単位の数)が所定数(本流れでは4回)に満たない場合(ステップS6における否定)、ステップS4に戻りサンプル供給/回収工程及び観察工程を繰り返す。一方、
図1のステップS6において、ステップS4及びステップS5が所定回数(本流れでは4回)行われた場合(ステップS6における肯定)、サンプルAに対する観察を終了として、続けて、濃度を変更したサンプルBの評価を行うため、再び給水工程(ステップS7)を経て、サンプルB供給/回収工程(ステップS8)を行う。
【0045】
-サンプルBの評価-
サンプルBの評価に移行した場合、サンプルを変更した以外は、サンプルAによる評価(ステップS3~ステップS6)と同条件で、給水工程(ステップS7)を実施し、その後、サンプルB供給/回収工程(ステップS8)及び観察工程(ステップS9)を所定数行う。
図1のステップS10において、ステップS8及びステップS9の繰り返し回数(即ち、サンプルBについて実施した評価工程単位の数)が所定数(本流れでは4回)に満たない場合(ステップS10における否定)、ステップS8に戻りB供給/回収工程及び観察工程を繰り返す。一方、
図1のステップS10において、ステップS8及びステップS9が所定回数(本流れでは4回)行われた場合(ステップS10における肯定)、サンプルBに対する観察を終了として、続けて、計測工程(ステップS11)に移行する。ステップS10終了後、被検体である対象非ヒト小型動物は飼育用ゲージに戻す。なお、同一工程にて続けて評価方法を実施する際には、2回目の評価サイクルを開始すべく、再び対象非ヒト小型動物に対し絶食工程を開始する。
【0046】
-計測工程-
サンプルA及びBに対する観察を終了した後、計測工程(ステップ11)にて、各観察工程にて録画した対象非ヒト小型動物の録画データを解析する。本工程においては、録画データの解析結果に基づき、例えば、解析時間内(サンプル回収後10秒間)の対象非ヒト小型動物の特定行動のうち、嗜好性に関する行動の回数と嫌悪性に関する行動の回数とをカウントし、繰り返し行った4回分の合計値を用いて評価結果とすることができる。また、これら解析結果は、同一の条件で複数回同様の評価サイクルを実施し、これらの平均値を用いてもよい。
【0047】
評価方法の結果に基づく食品の味覚に対する嗜好性の判断は、嗜好性に関する行動と嫌悪性に関する行動の回数をカウントした結果を比較・考慮して判断してもよいし、嗜好性に関する行動と嫌悪性に関する行動について総行動時間を計測し、当該総行動時間を比較・考慮して判断してもよい。また、本実施形態の評価方法の結果は、ヒト等の哺乳類の味覚嗜好性のメカニズム解明やヒト等の哺乳類の味覚嗜好性エンハンサー化合物候補のスクリーニング、ヒト等の哺乳類の味覚嗜好性の高い商品開発の迅速化、などに利用することも可能である。
【0048】
計測工程が終了した後、続けて評価方法の実施が必要な場合には、ステップS1に戻り、2回目の評価サイクルを開始する。
【0049】
上述のように、本実施形態の評価方法において、1回の評価サイクルには、同一又は異なるサンプルを用いて、複数の評価工程単位(サンプル供給/回収工程及び観察工程)を実施することが可能である。この際、1回の評価サイクルに含まれる評価工程単位数(即ち、1回の評価サイクル当たりのサンプル供給/回収工程の回数)は、特に限定はないが、マウスの疲労等を考慮すると、1~24回程度が好ましい。また、1回の評価サイクルの合計時間は、特に限定はないが、マウスの疲労等を考慮すると、10分間以下が好ましい。
【0050】
《評価装置》
つぎに、本実施形態の評価方法に用いることのできる評価装置について説明する。本実施形態の対象非ヒト小型動物の観察装置(以下、単に「本実施形態の観察装置」と称することがある)は、本実施形態の評価方法に好適に用いることのできる装置であり、収容された対象非ヒト小型動物を側面方向から観察可能な収容部と、前記収容部内に液状のサンプル食品を供給、及び、前記収容部内から前記液状のサンプル食品を回収可能な、液状サンプル運搬手段と、前記収容部の底面から見える前記収容部内の前記対象非ヒト小型動物の顔周辺の像を前記底面の法線に対して斜め方向に反射するように設置されたミラー部、を備える。本実施形態の観察装置は、収容部に収容された対象非ヒト小型動物を側面と顔周辺部とを同時に側面方向から観察することができるため、対象非ヒト小型動物の特定行動を効率的に観察することができる。また、本実施形態の観察装置は、液状のサンプル食品を供給、及び、回収可能な、液状サンプル運搬手段を有するため、サンプル供給/回収工程後直ちに観察工程を実施することができる。また、本実施形態の観察装置は、前記収容部の側面から見た前記対象非ヒト小型動物と、前記ミラー部に映る前記像と、を同時に撮影する撮影装置をさらに備えることができる。
【0051】
図を用いて本実施形態の観察装置について説明する。
図2Aは、本実施形態の評価装置の各構成を示す分解図であり、
図2Bは本実施形態の評価装置と撮像装置との関係を示す模式図である。
図2Aに示すように、観察装置100は、収容部10と、液状サンプル運搬手段20と、ミラー30と、備える。ただし、本実施形態の観察装置100の構成や形状等は以下の説明に限定されるものではない。
【0052】
収容部10は、チャンバーとも称され、対象非ヒト小型動物(マウス等)を収容可能であるとともに、収容された対象非ヒト小型動物を側面方向から観察可能な部材で構成されている。収容部10の素材は特に限定されるものではないが、例えば、アクリル等の透明樹脂素材や、ガラスなどを用いることができる。収容部10の形状は特に限定されるものではなく、例えば、円筒状、矩形状にすることができる。また、対象非ヒト小型動物の出し入れを容易とすべく、収容部10は上方が解放されていることが好ましい。収容部10の上方は蓋部材により閉塞可能なように構成してもよい。収容部10の容積についても特に限定はないが、収容される対象非ヒト小型動物に応じて自由に活動できる程度の広さを有することが好ましい。
【0053】
収容部10の側面下方側には、収容部10内に液状のサンプル食品を供給、及び、回収可能な液状サンプル運搬手段20が挿入される開口部12が設けられている。液状サンプル運搬手段20は水平方向にスライドすることで、液状のサンプル食品を入れた皿を載置したまま収容部10内に挿入、又は、収容部10から取り外すことが可能である。これにより、対象非ヒト小型動物の近傍に液状のサンプル食品を供給、及び、回収することが可能となる。
【0054】
収容部10の重力方向下側には、収容部10の底面から見える収容部内の対象非ヒト小型動物の顔周辺の像を収容部10の底面の法線に対して斜め方向に反射するように配置されたミラー30が設置され、当該ミラー30は対象非ヒト小型動物の顔周辺を収容部の側面方向から観察可能なように配置される。前記ミラー30は、ミラーボックス32内に設置されており、収容部10下方側を収容部10の側面方向から観察できるようにミラーボックス32内に傾斜させて設置される。マウスやラットなどの顔(特に口周辺)は重力方向下側を向いていることが多いが、本実施形態の観察装置によれば、ミラー30を利用することによって収容部10の側面側から容易にマウスやラットなどの顔(特に口周辺)を観察することができる。なお、ミラーボックス32は蓋部34を有しており、さらに、ミラーボックス32及び蓋部34は、収容部10と同様にアクリル等の透明樹脂素材や、ガラスなどの透明部材で構成することができる。
【0055】
つぎに、本実施形態の観察装置100の使用方法について
図2Bを用いて説明する。
図2Bに示されるように、収容部10には被検体(観察対象)である対象非ヒト小型動物40が収容される。例えば、本実施形態の評価方法を観察装置100で実施する場合には、絶食工程を経て空腹状態となった対象非ヒト小型動物40が収容される。
図2Bに示すように、ミラー30には収容部10内の対象非ヒト小型動物40の鏡像42が写し出されている。
【0056】
図2Bに示すように、観察装置100の側面側近傍には撮像装置50が設置されており、本実施形態の観察装置100は収容部10内の対象非ヒト小型動物40を側面側から撮影可能なように構成されている。また、
図2B中、点線の四角Rで示されるように、撮像装置50は、対象非ヒト小型動物40の側面側から観察した像と、下側から観察した像と、を同時に撮影可能なようにピント及び画角が設定されており、液状のサンプル食品摂取後の対象非ヒト小型動物の特定行動を少なくとも二方向から記録可能なように構成されている。このように、本実施形態の観察装置100によれば、複雑な機構や複数の撮像装置を用いることなく、簡便に対象非ヒト小型動物40の側面と下側面(顔周辺部)を同時に観察することができる。
【0057】
以上、本実施形態の評価方法、及び、観察装置について詳細な実施形態を持って説明したが、本発明の構成は上述の実施形態に限定されるものではない。
【実施例0058】
以下、本実施形態の評価方法について具体的に実施例を用いて説明する。但し、本発明の構成は本実施例の記載に限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
液状のサンプル食品としてオレイン酸を用い、以下に従って評価方法を実施した。なお、下記実験は、5匹のマウスにつきそれぞれ同条件で行った(n=5)。
【0060】
実験開始の16時間前に、動物用ケージから餌を取り除いてマウスを絶食させた(絶食工程)。なお、飲用水はマウスが自由に摂取できる位置に配置した。
ついで、実験装置の円筒形のチャンバーにマウスを入れ、2分間環境に順応させた(順応工程)。
順応工程実施後、50μLの蒸留水(DW)を入れたサンプルディッシュを円筒形のチャンバーに挿入した。マウスに2秒間蒸留水をなめさせ、その後、サンプルディッシュを回収した(給水工程)。
給水工程実施後、下記表に示すように、20秒ごとにサンプルA~E(サンプル量(50μL)を挿入・回収し、サンプル摂取後のマウスの特定行動を観察した(サンプル供給/回収工程、及び、観察工程(下記表における“評価工程単位”))。なお、特定行動の観察は、評価サイクルを通じて連続的に動画撮影することによっておこなった。
【0061】
【0062】
全サンプルにつきマウスの特定行動を観察後、当該マウスをホームケージに戻し、餌を与えた。
また、各評価工程単位についてサンプルディッシュを回収後の10秒間の動画を解析し、その間に発生した特定行動を計測した。なお、特定行動の計測は“嗜好性に対する行動”及び“嫌悪性に対する行動”の各々の発生回数をカウントすることによって行った。この際、継続的に発生された行動(連続して舌を真っすぐ出す、前肢を舐める、前肢で顔を拭う、サンプル挿入口に鼻を出す)は、1秒ごとに“1回”として計測し、特異又は短い行動(右左へ舌を出す、顎を大きく開く、頭を振る、前肢を振る、顎を床にこすりつける、前肢で床をかき回す、後肢で立つ、チャンバー内を移動する)は、発生ごとに“1回”と計測した。また、各行動の回数は各サンプルに対して観察した4回の合計値とした。例えば、サンプルAの場合、第1~第4の評価工程単位A中に発生した行動の総数がこれに該当する。また、本実施例によって得られた結果を
図3に示す。なお、図中のグラフはマウス(n=5)の平均値を用いて作成した。
【0063】
[実施例2]
実施例1において、サンプルA~Eの代わりに下記サンプルF~Jを用いた以外は同様にして、評価方法を実施した。得られた結果を
図3に示す。
サンプルF:スクロース(濃度0%;サンプルAと同様のサンプル)
サンプルG:スクロース(濃度0.1mol%)
サンプルH:スクロース(濃度0.3mol%)
サンプルI:スクロース(濃度0.5mol%)
サンプルJ:スクロース(濃度1mol%)
【0064】
[実施例3]
実施例1において、サンプルA~Eの代わりに下記サンプルK~Nを用いた以外は同様にして、評価方法を実施した。得られた結果を
図3に示す。
サンプルK:スクロース/オレイン酸(濃度0%;サンプルAと同様のサンプル)
サンプルL:スクロース(濃度0.03mol%)
サンプルM:オレイン酸(濃度0.003mol%)
サンプルN:スクロース(濃度0.03mol%)+オレイン酸(濃度0.003mol%)
【0065】
実施例1乃至3の結果から、オレイン酸とスクロース(ショ糖)の濃度が高くなると、マウスの嗜好性に関する特定行動が多いという結果になった。一方、オレイン酸とスクロース(ショ糖)濃度が高くても、嫌悪性に関する特定行動の回数は上がらなかった。これらの結果から、被検体はオレイン酸、ショ糖、及びその混合物に対する嗜好性が高いと考えられる。また、当該結果からヒトにおいてもオレイン酸とスクロース(ショ糖)に対する味覚嗜好性が高いことが推測される。
【0066】
一方、上述のSusanaPecin~aetal,(2003)に記載の方法と比較すると、当該方法では絶食工程などを有していないためサンプルに対する食いつき悪いことが想定される。また、サンプル供給時間が5分間と設定されており、上述の実施例1乃至3と同数のサンプル数(20)を観察するためには100分間以上要するものである。本テストにおいて、対象非ヒト小型動物の疲労を考慮すると10分間以上連続してテストを行うことは難しい。これに対し、上述の実施例1及び2によれば、1回の評価サイクルを16時間+480秒で(=8分間)で完了することができ、簡便に嗜好性評価を行えることがわかる。このため、本実施形態の評価方法によれば、従来の手法に対して、所定のサンプルを測定するのに必要な日数を大幅に短縮することができる。
【0067】
[比較例1]
実施例1において、実験開始の16時間前に、動物用ケージから餌を取り除いてマウスを絶食させた絶食工程の代わりに、実験開始の16時間前に、動物用ケージから飲用水を取り除く水制限工程を実施し、サンプルA~Dを対象にした以外は同様にして評価方法を実施した。なお、固形状の餌はマウスが自由に摂取できる位置に配置した。得られた結果を
図4に示す。
【0068】
図4の結果に示されるように、水制限(16時間)の場合、実施例に比して特定行動の発生回数が少なかった。これは、水制限16時間ではマウスが口渇に至らないため、水(DW)に対する行動と変わらずサンプルに対する食いつきがよくないことが原因と考えられる。このように、比較例1では、特定行動の発生回数が少ないため濃度による特定行動の傾向を判断できず、実施例に比してデータの信頼度が低くかった。
【0069】
[比較例2]
実施例1において、実験開始の16時間前に、動物用ケージから餌を取り除いてマウスを絶食させた絶食工程の代わりに、実験開始の23時間前に、動物用ケージから飲用水を取り除く水制限工程を実施しサンプルA~Dを対象にした以外は同様にして評価方法を実施した。なお、餌はマウスが自由に摂取できる位置に配置した。得られた結果を
図4に示す。
【0070】
図4の結果に示されるように、水制限(23時間)の場合、実施例に比して特定行動の発生回数が少なかった。水制限23時間でマウスが口渇に至り、水摂取に対する積極性は観察されたが、サンプルに対する食いつきは実施例に比して低いものであった。このため、比較例2においても、特定行動の発生回数が少ないため濃度による特定行動の傾向を判断できず、実施例に比してデータの信頼度が低くかった。
【0071】
(その他)
スクロースに代えて苦味化合物(QHCL)を含むサンプル(低濃度(0.1mmol%)、高濃度(1mmol%))を用いて同様の実験をおこなったところ、行動発生回数について上述の実施例及び比較例と同様の傾向を示し、実施例に従った実験結果の方がデータの信頼性が高く、簡便に嗜好性評価を行えた。