(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160087
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】吸音装置
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20231026BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G10K11/16 140
G10K11/172
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070159
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】503361400
【氏名又は名称】国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】後藤 達彦
(72)【発明者】
【氏名】江波戸 明彦
(72)【発明者】
【氏名】長井 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 修
(72)【発明者】
【氏名】蛭間 貴博
(72)【発明者】
【氏名】土肥 哲也
(72)【発明者】
【氏名】岩永 景一郎
【テーマコード(参考)】
5D061
【Fターム(参考)】
5D061CC04
(57)【要約】 (修正有)
【課題】設計負荷の増加を抑制しつつ、広い周波数帯域の音を吸音する吸音装置を提供する。
【解決手段】実吸音装置1は、第1板である音孔表面板11と、第2板である弾性板13と、第3板である背後板15と、枠12と、枠14と、を備える。第1板は、複数の第1孔を有する。第2板は、第1板と第1方向に対向する。枠12は、第1板と第2板との間を接続する。第3板は、枠内で第1方向に振動するように枠14に支持される。枠内の第1板と第3板との間には第1空間が形成される。枠内の第2板と第3板との間には第2空間が形成される。第3板は、第1部分と、第1部分よりも振動速度が高い第2部分とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の第1孔を有する第1板と、
前記第1板と第1方向に対向する第2板と、
前記第1板と前記第2板との間を接続する第1枠と、
前記第1枠内で前記第1方向に振動するように前記第1枠に支持される第3板と、
を備え、
前記第1枠内の前記第1板と前記第3板との間には第1空間が形成され、
前記第1枠内の前記第2板と前記第3板との間には第2空間が形成され、
前記第3板は、第1部分と、前記第1部分よりも振動速度が高い第2部分とを含む、
吸音装置。
【請求項2】
前記第1方向に延びて前記第1空間を第1部分空間及び第2部分空間に仕切る部材を更に備え、
前記第1部分空間は、前記第1方向に見て、前記第3板の前記第1部分と重複し、
前記第2部分空間は、前記第1方向に見て、前記第3板の前記第2部分と重複する、
請求項1記載の吸音装置。
【請求項3】
前記第1部分空間を前記第1板側と前記第3板側とに分離する第4板を更に備えた、
請求項2記載の吸音装置。
【請求項4】
前記第4板は、前記第2部分空間の前記第1板側と前記第3板側との間をつなぐ第2孔を有し、
前記第2孔の径は、前記第1孔の径以上、かつ前記第1方向に見た場合の前記第2部分空間の径未満である、
請求項3記載の吸音装置。
【請求項5】
前記第1方向に見て、前記第1部分空間は、前記第2部分空間を囲む、
請求項2記載の吸音装置。
【請求項6】
前記第1部分空間の数及び前記第2部分空間の数の合計は、前記第1孔の数と等しい、
請求項2記載の吸音装置。
【請求項7】
前記第1部分空間の数及び前記第2部分空間の数の合計は、前記第1孔の数より小さい、
請求項2記載の吸音装置。
【請求項8】
前記第3板は、前記第1空間及び前記第2空間を接続する第3孔を有する、
請求項1記載の吸音装置。
【請求項9】
前記第2部分空間で、前記第1板の面上に設けられ、前記複数の第1孔に対応する複数の第4孔を有する第4板を更に備え、
前記第4孔の径は、前記第1孔の径の2倍以上である、
請求項3記載の吸音装置。
【請求項10】
前記第1部分空間で、前記第1板と前記第4板との間に設けられる第5板を更に備える、
請求項3記載の吸音装置。
【請求項11】
前記第4板は、前記第1枠に向かって厚くなるテーパ形状を有する、
請求項3記載の吸音装置。
【請求項12】
前記第4板は、シリコンゴムを含む、
請求項3記載の吸音装置。
【請求項13】
前記複数の第1孔のうち、前記第1部分空間に対応する第1孔の径は、前記第2部分空間に対応する第1孔の径より小さい、
請求項2記載の吸音装置。
【請求項14】
前記第1部分空間のうち1個の前記第1孔に対応する領域の面積は、前記第2部分空間のうち1個の前記第1孔に対応する領域の面積より大きい、
請求項2記載の吸音装置。
【請求項15】
前記第3板は、前記第1枠によって固定支持される、
請求項1記載の吸音装置。
【請求項16】
前記第3板は、前記第1枠によって単純支持される、
請求項1記載の吸音装置。
【請求項17】
複数の第5孔を有する第6板と、
前記第6板と前記第1方向に対向する第7板と、
前記第6板と前記第7板との間を接続する第2枠と、
を更に備え、
前記第3板は、前記第2枠内で前記第1方向に振動するように前記第2枠に支持され、
前記第2枠内の前記第6板と前記第3板との間には第3内部空間が形成され、
前記第2枠内の前記第7板と前記第3板との間には第4内部空間が形成される、
請求項1記載の吸音装置。
【請求項18】
前記第3板は、前記第1枠と前記第2枠との間に第6孔を有する、
請求項17記載の吸音装置。
【請求項19】
前記第1板と前記第3板との間の第1長さは、各々が予め決定された前記第1孔の径、前記第1孔の深さ、及び前記第1孔の開口率に基づき、前記第1空間に対応する第1周波数が第2周波数となるように決定され、
前記第2板と前記第3板との間の第2長さは、前記第3板に対応する第3周波数が前記第1周波数となるように決定される、
請求項1記載の吸音装置。
【請求項20】
前記決定された第1長さに基づいて、前記吸音装置の吸音率のピークが高くなるように前記第1孔の深さが調整され、
前記調整された前記第1孔の深さに基づいて、前記第1周波数が前記第2周波数となるように前記第1長さが更に調整される、
請求項19記載の吸音装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、吸音装置に関する。
【背景技術】
【0002】
騒音を低減させる機能を有する吸音装置として、ヘルムホルツ共鳴器が知られている。ヘルムホルツ共鳴器は、内部空間が1個の音孔を介して外部空間と接続される容器形状を有する。ヘルムホルツ共鳴器は、音孔を介して入射した音によって内部空間で共鳴が発生することにより、共鳴周波数における入射音の振動エネルギーを減衰させることができる。ヘルムホルツ共鳴器は、例えば、1自由度系として機能する。1自由度系のヘルムホルツ共鳴器は、単峯性の吸音特性を有する。
【0003】
吸音特性を広帯域化させる観点から、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器が提案されている。2自由度系のヘルムホルツ共鳴器は、弾性板を挿入することによって、内部空間を2つの空間に分離することによって実現される。2自由度系のヘルムホルツ共鳴器は、吸音率のピークが2つに分離した吸音特性を有する。
【0004】
2自由度系のヘルムホルツ共鳴器に挿入される弾性板の損失係数が低い場合、吸音率の2つのピーク間の帯域における吸音率が有意に低下する場合がある。このような2つのピーク間の帯域における吸音率の低下を抑制するために、弾性板に制振材を取り付ける手法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5872155号公報
【特許文献2】特開2003-036084号公報
【特許文献3】特開2010-097145号公報
【特許文献4】特許第5326486号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】眞田明、他2名,弾性板の振動を利用した広帯域ヘルムホルツ共鳴型吸音パネル,日本機械学会論文集(C編),Vol.71, No.705 (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、低周波数帯域の音を吸音しようとする場合、1個の音孔と1枚の弾性板とが1対1に対応する2自由度系のヘルムホルツ共鳴器では、極端に薄い板厚の弾性板、又は低ヤング率の弾性板が要求される場合がある。このため、弾性板に適用する材料が限られ、かつ構造強度が低下する懸念が生じる。
【0008】
また、制振材は、弾性板の材料特性に応じて試行錯誤的に取り付けられる。特に弾性板の板厚が薄い場合、当該試行錯誤的な調整が求められるため、困難性が増大する可能性がある。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、上記事情を考慮してなされたものであって、設計負荷の増加を抑制しつつ、広い周波数帯域の音を吸音することができる吸音装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実施形態によれば、吸音装置は、第1板と、第2板と、第3板と、枠と、を備える。上記第1板は、複数の第1孔を有する。上記第2板は、上記第1板と第1方向に対向する。上記枠は、上記第1板と上記第2板との間を接続する。上記第3板は、上記枠内で上記第1方向に振動するように上記枠に支持される。上記枠内の上記第1板と上記第3板との間には第1空間が形成される。上記枠内の上記第2板と上記第3板との間には第2空間が形成される。上記第3板は、第1部分と、上記第1部分よりも振動速度が高い第2部分とを含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る吸音装置の全体構成の一例を示す斜視図。
【
図2】第1実施形態に係る吸音装置の全体構成の一例を示す分解図。
【
図3】第1実施形態に係る吸音装置の断面構造の一例を示す断面図。
【
図4】第1実施形態に係る吸音装置の複数の音孔の平面レイアウトの一例を示す平面図。
【
図5】第1実施形態に係る吸音装置の内部空間の一例を示す図。
【
図6】第1実施形態に係る吸音装置のシミュレーションにおける部分吸音率の分類の一例を示す図。
【
図7】第1実施形態に係る吸音装置のシミュレーションにおける部分吸音率の算出結果を示すダイアグラム。
【
図8】第1実施形態に係る吸音装置のシミュレーションにおける吸音率の算出結果を示すダイアグラム。
【
図9】第2実施形態に係る吸音装置の全体構成の一例を示す分解図。
【
図10】第2実施形態に係る吸音装置の断面構造の一例を示す断面図。
【
図11】第2実施形態に係る吸音装置の複数の音孔、スリット、及び蓋の平面レイアウトの一例を示す平面図。
【
図12】第2実施形態に係る吸音装置のシミュレーションにおける吸音率の算出結果を示すダイアグラム。
【
図13】第2実施形態に係る吸音装置の実施例における吸音率の測定結果を示すダイアグラム。
【
図14】第3実施形態に係る吸音装置の全体構成の一例を示す分解図。
【
図15】第3実施形態に係る吸音装置の断面構造の一例を示す断面図。
【
図16】第3実施形態に係る吸音装置の蓋の断面構造の例を示す断面図。
【
図17】第1変形例に係る吸音装置の全体構成の一例を示す分解図。
【
図18】第1変形例に係る吸音装置の断面構造の一例を示す断面図。
【
図19】第1変形例に係る吸音装置の複数の音孔、スリット、及び蓋の平面レイアウトの一例を示す平面図。
【
図20】第2変形例に係る吸音装置の全体構成の一例を示す分解図。
【
図21】第2変形例に係る吸音装置の断面構造の一例を示す断面図。
【
図22】第3変形例に係る吸音装置の全体構成の一例を示す分解図。
【
図23】第3変形例に係る吸音装置の複数の音孔、スリット、及び蓋の平面レイアウトの一例を示す平面図。
【
図24】第4変形例に係る吸音装置の断面構造の第1例を示す断面図。
【
図25】第4変形例に係る吸音装置の断面構造の第2例を示す断面図。
【
図26】第5変形例に係る吸音装置の断面構造の第1例を示す断面図。
【
図27】第5変形例に係る吸音装置の断面構造の第2例を示す断面図。
【
図28】第6変形例に係る吸音装置の複数の音孔及びスリットの平面レイアウトの第1例を示す平面図。
【
図29】第6変形例に係る吸音装置の複数の音孔及びスリットの平面レイアウトの第2例を示す平面図。
【
図30】第7変形例に係る吸音装置の弾性板の端部における断面構造の第1例を示す断面図。
【
図31】第7変形例に係る吸音装置の弾性板の端部における断面構造の第2例を示す断面図。
【
図32】第8変形例に係る吸音装置の平面レイアウトの一例を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、いくつかの実施形態について図面を参照して説明する。図面の寸法及び比率は、必ずしも現実のものと同一とは限らない。
【0013】
なお、以下の説明において、略同一の機能及び構成を有する構成要素については、同一符号を付す。同様の構成を有する要素同士を特に区別する場合、同一符号の末尾に、互いに異なる文字又は数字を付加する場合がある。
【0014】
1. 第1実施形態
1.1 構成
1.1.1 全体構成
図1は、第1実施形態に係る吸音装置1の全体構成の一例を示す斜視図である。
図2は、第1実施形態に係る吸音装置1の全体構成の一例を示す分解図である。
図3は、第1実施形態に係る吸音装置1の断面構造の一例を示す断面図である。
【0015】
吸音装置1は、ヘルムホルツ共鳴器の原理を利用して、吸音装置1の外部空間で発生する音の少なくとも一部を吸音する機能を有する容器である。吸音装置1は、音孔表面板11、枠12、弾性板13、枠14、及び背後板15を含む。音孔表面板11、弾性板13、及び背後板15は、例えば、矩形状の平板である。枠12及び14は、例えば、角筒状の形状を有する部材である。吸音装置1は、吸音装置1の外部空間に対して仕切られた内部空間SPを形成する。吸音装置1の内部空間SPは、内部空間SPA及びSPBを有する。
【0016】
具体的には、音孔表面板11は、板厚tsを有する。音孔表面板11には、各々が半径asの複数の孔H1が形成される。板厚tsは、孔H1の深さと読み替えてもよい。音孔表面板11は、枠12の第1開口端を塞ぐように、枠12に接続される。弾性板13は、板厚tpを有する。弾性板13の上面は、枠12の第2開口端を塞ぐように、枠12に接続される。これにより、音孔表面板11と弾性板13とは、枠12を介して、長さL1離れて対向するように設けられる。そして、音孔表面板11、枠12、及び弾性板13は、内部空間SPAを形成する。内部空間SPAは、複数の孔H1を介して吸音装置1の外部空間と接続される。複数の孔H1は、吸音装置1の外部空間で発生した音が吸音装置1の内部空間SPAに入射する経路(音孔)として機能する。
【0017】
弾性板13の下面は、枠14の第1開口端を塞ぐように、枠14に接続される。背後板15は、枠14の第2開口端を塞ぐように、枠14に接続される。これにより、弾性板13と背後板15とは、枠14を介して、長さL2離れて対向するように設けられる。そして、弾性板13、枠14、及び背後板15は、内部空間SPBを形成する。内部空間SPBは、内部空間SPA及び吸音装置1の外部空間から分離される。
【0018】
弾性板13は、例えば、端部が枠12及び14によって挟まれることによって支持される。弾性板13は、音孔表面板11、枠12及び14、並びに背後板15に対して、低い剛性を有する。弾性板13は、複数の孔H1から入射した音によって、有意に振動し得る。
【0019】
以下では、説明の便宜上、弾性板13の長辺方向をX方向とする。弾性板13の短辺方向をY方向とする。弾性板13の振動方向をZ方向とする。
【0020】
1.1.2 音孔の配置
図4は、第1実施形態に係る吸音装置1の複数の音孔の平面レイアウトの一例を示す平面図である。
図5は、第1実施形態に係る吸音装置1の内部空間の一例を示す図である。
【0021】
音孔表面板11のうち、Z方向に見て枠12と重複しない有効寸法部分は、X方向の長さa、及びY方向の長さbの矩形状を有する。複数の孔H1は、例えば、当該有効寸法部分において、隣り合う孔H1間の距離が略均等となるようにM行×N列のマトリクス状に配置される。この場合、当該有効寸法部分は、各々の中心に孔H1が配置されたM×N個の正方形に分割される。M×N個の正方形の各々の一辺の長さa
pは、互いに等しい。
図4では、一例として、M=9、N=6の場合が示される。
【0022】
以下では、吸音装置1の内部空間SPをM×N個の部分空間SP
i(1≦i≦M×N)に仮想的に分割して考える。各部分空間SP
iは、Z方向に見た場合の径が長さa
pの底面を有する、柱状の空間である。ここで、Z方向に見た場合の部分空間SP
iの径とは、部分空間SP
iをZ方向に見た場合における最長の幅を示す。
図4の例では、各部分空間SP
iは、一辺の長さa
pの正方形を底面とする角柱状の空間である。各部分空間SP
iは、弾性板13の上方の部分空間SP
Ai及び弾性板13の下方の部分空間SP
Biを有する。吸音装置1では、1個の孔H1、当該孔H1に対応する部分空間SP
Ai及びSP
Bi、並びに部分空間SP
Ai及びSP
Biに挟まれる弾性板13の部分の1組が、1個の仮想的なヘルムホルツ共鳴器として機能し得る。
【0023】
1.2 設計方法
次に、第1実施形態に係る吸音装置1の設計方法について説明する。吸音装置1は、例えば、以下に示す2ステップ又は3ステップを含む指針に基づいて設計される。
【0024】
(STEP1:as、ts、L1、ap、及びpの決定)
まず、以下の式(1)に示される共鳴周波数fhelmが、寸法制約を満たしつつ吸音対象の周波数f0と等しくなるように、孔H1の半径as、孔H1の深さts、長さL1、部分空間SPiの径ap、及び開口率pが決定される。吸音対象の周波数f0は、例えば、所望する吸音周波数帯域が周波数f1以上周波数f2以下の帯域の場合、f0=(f1+f2)/2のように中央値とする。開口率pは、Z方向に見た部分空間SPiの面積に対する、孔H1の面積の割合である。
【0025】
【0026】
ここで、cは、音速である。ts’は、補正後の孔H1の深さであり、ts’=ts+δである。δは、開口端補正値である。
【0027】
具体的には、半径as、深さts、及び径apを各々の寸法制約の中央値に固定しつつ、長さL1が調整パラメータとして設定される。吸音対象の周波数f0が低いことにより長さL1が寸法制約を超える場合、以下の3つのいずれかの手法により、長さL1が寸法制約を満たすように調整される。
・半径asを寸法制約の範囲内で小さくする
・深さtsを寸法制約の範囲内で大きくする
・径apを寸法制約の範囲内で大きくする
(STEP2:弾性板13の材質及び寸法、並びにL2の決定)
次に、共鳴周波数fhelmが、以下の式(2)に示される内部空間SPBを考慮した弾性板13の共振周波数fplateが略一致するように、弾性板13の材質及び寸法、並びに長さL2が決定される。
【0028】
【0029】
ここで、ρは、空気の密度である。Kpは、弾性板13の等価剛性である。Mpは、弾性板13のモード質量である。γは、弾性板13の下面の音圧に関するパラメータである。長さL2が短すぎる場合を除き、弾性板13の下面の音圧は、部分空間SPiによらず一定とみなし得る。
【0030】
基本的には、STEP1及びSTEP2までの設計にて、吸音装置1の設計が完了する。なお、例えば、STEP1及びSTEP2までの設計にて得られた吸音特性が低い場合等、吸音特性を更に向上させたい場合、開口率p一定の条件下で、以下のSTEP3が更に実行されてもよい。
【0031】
(STEP3:L1の調整)
まず、STEP1で決定された長さL1において、吸音率のピークが高くなる深さtsを寸法制約の範囲内で選択する。
【0032】
続いて、選択されたtsにおいて、共鳴周波数fhelmが吸音対象の周波数f0と等しくなるように、長さL1を寸法制約の範囲内で調整する。
【0033】
以上により、吸音装置1の設計が完了する。
【0034】
なお、上記指針は、あくまで一例であり、吸音装置1は、任意の指針に基づいて設計され得る。また、吸音装置1は、試行錯誤的に設計されてもよい。
【0035】
1.3 シミュレーション
次に、第1実施形態に係る吸音装置1の吸音特性に関するシミュレーションについて説明する。
【0036】
1.3.1 諸量の定義
以下では、3個の条件(A)、(B)、及び(C)で実行された吸音装置1の吸音率αのシミュレーションが示される。
【0037】
吸音率αは、吸音装置1に入射した音のエネルギーに対する、吸音装置1によって吸収された音のエネルギーの割合である。吸音率αは、吸音装置1の特性インピーダンスZa=zr+jzimを用いて、以下の式(3)によって表される。
【0038】
【0039】
zr及びzimはそれぞれ、特性インピーダンスZaの実部及び虚部である。jは、複素記号であり、j=√(-1)である。なお、部分空間SPiに対応する特性インピーダンスZaは、Zaiのように表される。
【0040】
式(3)に示されるように、吸音率αは、例えば、複数の部分空間SPiに対応する複数の部分吸音率αiの合成として算出され得る。
【0041】
図6は、第1実施形態に係る吸音装置1のシミュレーションにおける部分吸音率の分類の一例を示す図である。
図6に示されるように、本シミュレーションでは、部分吸音率α
iは、部分空間SP
iに対応する弾性板13の部分の振動速度の高さに応じて、3個のケースI、II、及びIIIに分類される。以下では、説明の便宜上、一例として、1次振動モードの場合を想定して説明する。
【0042】
ケースIには、弾性板13の振動速度が比較的低い部分に対応して算出される部分吸音率αiが分類される。ケースIIIには、弾性板13の振動速度が比較的高い部分に対応して算出される部分吸音率αiが分類される。ケースIIは、振動速度が、ケースIにおける振動速度とケースIIIにおける振動速度との間の高さとなる弾性板13の部分に対応して算出される部分吸音率αiが分類される。
【0043】
図6の例では、矩形状の弾性板13の角の領域において振動速度が最も低くなるので、当該角の領域がケースIに分類される。矩形状の弾性板13の中央に近い領域において振動速度が最も高くなるので、当該中央に近い領域がケースIIIに分類される。そして、ケースIに分類された領域とケースIIIに分類された領域との間の領域が、ケースIIに分類される。
【0044】
上述したような吸音率α及び部分吸音率αiの算出に際して、諸量が以下のように定義される。
【0045】
Rは、音孔の空気粘性抵抗である。ωは、音の角周波数である。
【0046】
D0は、弾性板13の曲げこわさである。ρpは、弾性板13の密度である。ηは、弾性板13の損失係数である。曲げこわさD0、ρp、及びηは、弾性板13の材質によって決定される。
【0047】
Shは、孔H1の面積であり、Sh=πas
2である。Saは、弾性板13の内部空間SPに対応する部分の面積であり、Sa=abである。Sdは、弾性板13の部分空間SPiに対応する部分の面積であり、Sd=ap
2である。部分空間SPiに対応する面積Sdは、Siのように表される。
【0048】
p2は、分割率であり、p2=Sd/Saである。Khは、内部空間SPAに対応する空気のバネ係数であり、Kh=ρc2/L1である。
【0049】
1.3.2 条件(A)
まず、条件(A)について説明する。条件(A)では、弾性板13の上面及び下面の音圧、並びに弾性板13の振動速度が、対応する部分空間SPiによらず一定(平均音圧及び平均振動速度)とみなされる。
【0050】
具体的には、条件(A)における吸音装置1の特性インピーダンスZaは、以下の式(4)、(5)、及び(6)のように表される。
【0051】
【0052】
ここで、Q、Mp、及びKpはそれぞれ、弾性板13の振動モード関数Φ1を用いて、以下の式(7)、(8)、及び(9)のように表される。
【0053】
【0054】
1.3.3 条件(B)
次に、条件(B)について説明する。条件(B)では、弾性板13の上面の音圧が対応する部分空間SPiによらず一定とみなされる。条件(B)では、対応する部分空間SPiに応じた弾性板13の振動速度の差異が考慮される。なお、条件(B)は、弾性板13の下面の音圧を部分空間SPiによらず一定とみなす場合と、部分空間SPiに応じた弾性板13の下面の音圧の差異を考慮する場合と、で更に分けられる。
【0055】
具体的には、条件(B)における吸音装置1の特性インピーダンスZaは、以下の式(10)、(11)、及び(12)のように表される。
【0056】
【0057】
ここで、Qiは、弾性板13の振動モード関数Φ1を用いて、以下の式(13)のように表される。
【0058】
【0059】
部分空間SPiによらず弾性板13の下面の音圧を一定とみなす場合、パラメータγは、以下の式(14)のように表される。
【0060】
【0061】
弾性板13の下面の音圧の差異を部分空間SPiに応じて考慮する場合、パラメータγは、以下の式(15)のように表される。
【0062】
【0063】
パラメータγは、内部空間SPBの空気を考慮した弾性板13の固有振動数に影響する。しかしながら、パラメータγは、条件(A)~(C)の比較結果に有意な差を与えないとみなし得る。このため、条件(B)では、式(14)に基づくパラメータγが使用されるものとする。
【0064】
1.3.4 条件(C)
次に、条件(C)について説明する。条件(C)では、対応する部分空間SPiに応じた弾性板13の上面の音圧、及び弾性板13の振動速度の差異が考慮される。条件(C)は、条件(B)と同様に、弾性板13の下面の音圧を部分空間SPiによらず一定とみなす場合と、部分空間SPiに応じた弾性板13の下面の音圧の差異を考慮する場合と、で更に分けられる。なお、条件(C)における弾性板13の上面の音圧は、部分空間SPAi同士の干渉の影響を受けないものとする。
【0065】
具体的には、条件(C)における吸音装置1の特性インピーダンスZaは、以下の式(16)、(17)、及び(18)のように表される。
【0066】
【0067】
なお、条件(C)におけるパラメータγによる弾性板13の下面の音圧に関する場合分けは、条件(B)の場合と同等である。そして、条件(C)では、条件(B)と同様、式(14)に基づくパラメータγが使用されるものとする。
【0068】
1.3.5 シミュレーション結果
上述した条件(A)~(C)に基づくシミュレーション結果を示す。
【0069】
図7は、第1実施形態に係る吸音装置1のシミュレーションにおける部分吸音率の算出結果を示すダイアグラムである。
図7では、音の周波数の関数として算出された複数の部分吸音率α
iが、ケースI、II、及びIII毎に示される。
図7は、
図7(A)、
図7(B)、及び
図7(C)を含む。
図7(A)、
図7(B)、及び
図7(C)はそれぞれ、条件(A)、(B)、及び(C)のシミュレーション結果に対応する。
【0070】
まず、
図7(A)を参照して、条件(A)のシミュレーション結果について示す。
【0071】
条件(A)では、部分吸音率αiの周波数に関する履歴は、ケースI~IIIに関わらず変化しない。このため、条件(A)では、部分吸音率αiの2個のピークに対応する周波数は、ケースI~IIIに関わらず変化しない。また、部分吸音率αiの2個のピーク間における吸音率の落ち込み量(ディップ)についても、ケースI~IIIに関わらず変化しない。
【0072】
続いて、
図7(B)を参照して、条件(B)のシミュレーション結果について示す。
【0073】
条件(B)では、部分吸音率αiの2個のピークのうちの低周波数側のピークに対応する周波数は、ケースI、II、及びIIIの順に、低周波数側にシフトする。部分吸音率αiの2個のピークのうちの高周波数側のピークに対応する周波数は、ケースI、II、及びIIIの順に、高周波数側にシフトする。また、部分吸音率αiの2個のピーク間のディップは、ケースIII、II、及びIの順に、低減する。
【0074】
続いて、
図7(C)を参照して、条件(C)のシミュレーション結果について示す。
【0075】
条件(C)における部分吸音率αiの傾向は、条件(B)における部分吸音率αiの傾向と同様である。ただし、条件(C)では、ピークに対応する周波数のケース間におけるシフト量が、条件(B)よりも大きくなる。また、条件(C)では、ピーク間のディップが、条件(B)よりも小さくなる。
【0076】
図8は、第1実施形態に係る吸音装置1のシミュレーションにおける吸音率の算出結果を示すダイアグラムである。
図8では、複数の部分吸音率α
iの合計としての吸音率αが、条件(A)、(B)、及び(C)ごとに示される。
【0077】
図8に示されるように、高吸音率とみなし得る周波数帯域は、条件(A)、(B)、及び(C)の順に広くなる。また、ピーク間のディップは、条件(A)、(B)、及び(C)の順に小さくなる。
【0078】
1.4 第1実施形態に係る効果
第1実施形態によれば、音孔表面板11は、複数の孔H1を有する。そして、Z方向に振動するように枠12及び14に支持される1枚の弾性板13が、複数の孔H1に対して設けられる。これにより、吸音装置1は、部分空間SPiと、当該部分空間SPiに対応する弾性板13の部分及び1個の孔H1と、の組によって形成される複数の仮想的なヘルムホルツ共鳴器の合成とみなすことができる。このため、1個のヘルムホルツ共鳴器に対して1枚の弾性板を設ける場合よりも、弾性板13の板厚又はヤング率に関する制約を緩和することができる。したがって、低周波数帯域の音を吸音しようとする場合における設計負荷を緩和することができる。
【0079】
また、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する仮想的なヘルムホルツ共鳴器は、1自由度系のヘルムホルツ共鳴器に近い吸音特性を有する。また、弾性板13の振動速度が高い部分に対応する仮想的なヘルムホルツ共鳴器は、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器に近い吸音特性を有する。このため、吸音装置1は、1自由度系のヘルムホルツ共鳴器の吸音特性、及び2自由度系のヘルムホルツ共鳴器の吸音特性が合成された吸音特性を有する。したがって、制振材を設けることなく、高吸音率の周波数帯域を広げつつ、ピーク間のディップを小さくすることができる。
【0080】
補足すると、シミュレーションの条件(A)は、弾性板13が変形することなくZ方向に振動する場合に対応する。これに対して、条件(B)及び(C)は、弾性板13が撓みつつ、Z方向に振動する場合に対応する。このように、条件(A)は、条件(B)及び(C)よりも、弾性板13が設けられる、1個の2自由度系のヘルムホルツ共鳴器に近い条件である。また、条件(B)及び(C)は、条件(A)よりも、複数の音孔に対して1枚の弾性板が設けられる、複数の2自由度系のヘルムホルツ共鳴器の合成に近い条件である。このため、第1実施形態に係る吸音装置1は、条件(A)と条件(B)との間の吸音特性、又は条件(A)と条件(C)との間の吸音特性を有し得る。
【0081】
条件(B)及び(C)のシミュレーション結果は、条件(A)のシミュレーション結果よりも、高吸音率の周波数帯域が広く、かつピーク間のディップが小さい。このため、第1実施形態に係る吸音装置1の吸音特性は、1個の音孔に対して1枚の弾性板が設けられる2自由度系のヘルムホルツ共鳴器の吸音特性よりも、高吸音率の周波数帯域が広く、かつピーク間のディップが小さくなることが期待できる。
【0082】
2. 第2実施形態
次に、第2実施形態に係る吸音装置について説明する。
【0083】
上述したシミュレーション結果によれば、条件(A)よりも条件(B)に、条件(B)よりも条件(C)に近づくほど、高吸音率の周波数帯域が広く、かつピーク間のディップが小さい吸音特性が得られることが期待できる。第2実施形態では、内部空間SP1内を、部分空間SPiごとに物理的に仕切る点において、第1実施形態と異なる。以下では、第1実施形態と異なる構成について主に説明する。第1実施形態と同等の構成については、適宜その説明を省略する。
【0084】
2.1 全体構成
図9は、第2実施形態に係る吸音装置1Aの全体構成の一例を示す分解図である。
図10は、第2実施形態に係る吸音装置1Aの断面構造の一例を示す断面図である。
図9及び
図10はそれぞれ、第1実施形態における
図2及び
図3に対応する。吸音装置1Aは、音孔表面板11、枠12、弾性板13、枠14、及び背後板15に加えて、スリット16及び蓋17を含む。
【0085】
スリット16は、Z方向に延び、内部空間SPAを、部分空間SPAiごとに仕切る部材である。スリット16は、枠12に接続される。スリット16の上端は、音孔表面板11に接する。スリット16の下端は、弾性板13に接しない。
【0086】
蓋17は、弾性板13に対して有意に高い剛性を有する板である。すなわち、蓋17は、弾性板13を振動させる音によって振動しない剛板とみなし得る。蓋17は、スリット16によって仕切られた複数の部分空間SPAiのうち、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPAiを、音孔表面板11側と弾性板13側とに分離するように、スリット16の下端を塞ぐ。これにより、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPAiのうち、蓋17によって分離された音孔表面板11側の空間は、内部空間SPAの他の空間からスリット16及び蓋17によって隔てられる。
【0087】
蓋17と弾性板13との間には、長さtrの隙間が形成される。長さtrは、弾性板13の振動によって弾性板13と蓋17とが接触しない範囲内で、より短い方が好ましい。長さtrは、例えば、1ミリメートル程度に設計され得る。
【0088】
2.2 音孔、スリット、及び蓋の配置
図11は、第2実施形態に係る吸音装置1Aの複数の音孔、スリット、及び蓋の平面レイアウトの一例を示す平面図である。
図11は、第1実施形態における
図4に対応する。
図11では、スリット16が点線で示され、蓋17に対応する領域がハッチングされる。
【0089】
スリット16は、Z方向に見て、音孔表面板11の有効寸法部分を、同一の面積を有するM×N個の正方形の領域がマトリクス状に並ぶように仕切る。複数の孔H1は、スリット16によって仕切られたM×N個の正方形の領域の中心にそれぞれ配置される。そして、蓋17は、Z方向に見て、M×N個の正方形のうち、内側の(M-2)×(N-2)個の正方形の領域がくり抜かれた形状を有する。つまり、
図11の例では、蓋17が有る部分空間SP
iは、蓋17が無い部分空間SP
iを囲むように配置される。
【0090】
2.3 シミュレーション
次に、第2実施形態に係る吸音装置1Aの吸音特性に関するシミュレーションについて説明する。
【0091】
2.3.1 条件(D)
条件(D)では、条件(B)において、スリット16及び蓋17の有無が更に考慮される。
【0092】
具体的には、蓋17が無い部分空間SPiでは、条件(B)における式(10)~(12)と同一の特性インピーダンスが適用される。
【0093】
そして、蓋17と弾性板13との間に生じる空間が更に考慮され得る。この場合、特性インピーダンスZ1iを演算する際に、長さL1を以下に示す式(19)のように長さL1’と補正してもよい。
【0094】
【0095】
ここで、Npは、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SPiの数である。Nqは、1自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SPiの数である。
【0096】
一方、蓋17が有る部分空間SPiでは、条件(B)における式(10)及び式(11)と同一の特性インピーダンスが適用される。そして、蓋17を剛板とみなすことにより、特性インピーダンスZ2iが∞となる。
【0097】
そして、蓋17と弾性板13との間に生じる空間が更に考慮され得る。この場合、特性インピーダンスZ1iを演算する際に、長さL1を以下に示す式(20)のように長さL1”と補正してもよい。
【0098】
【0099】
ここで、長さtbは、蓋17の板厚と、弾性板13及び蓋17間の隙間の長さtrとの和である。
【0100】
2.3.2 シミュレーション結果
上述した条件(D)に基づくシミュレーション結果を示す。
【0101】
図12は、第2実施形態に係る吸音装置1Aのシミュレーションにおける吸音率の算出結果を示すダイアグラムである。
図12は、第1実施形態における
図8に対応する。
【0102】
図12に示されるように、吸音装置1Aの設計が条件(C)に近づいたことにより、ピーク間のディップが抑制されたことが確認できる。なお、N
p及びN
qの割合は、ピーク間のディップの低減量と、高吸音率となる帯域の幅とのトレードオフになるため、いずれも要求を満たすように適切に設定されることが望ましい。
【0103】
2.4 測定結果
図13は、第2実施形態に係る吸音装置の実施例における吸音率の測定結果を示すダイアグラムである。
図13では、後述する第1変形例を第2実施形態に適用した場合における吸音装置1C(
図17、
図18、及び
図19に図示)の吸音率の測定結果が実線EMBで示される。また、吸音装置の弾性板13を剛板に変更した場合における吸音率の測定結果が鎖線CMPで示される。また、吸音装置1Cのうち蓋17が無い部分空間SP
iに対応する部分の吸音率の測定結果が点線EMBdで示される。また、吸音装置1Cのうち蓋17が有る部分空間SP
iに対応する部分の吸音率の測定結果が破線EMBhで示される。
【0104】
図13に示されるように、破線EMBhは、1自由度系のヘルムホルツ共鳴器における単峯性の吸音特性をよく再現している。点線EMBdは、2個のピーク及びディップが現れる2自由度系のヘルムホルツ共鳴器の吸音特性をよく再現している。
【0105】
実線EMBは、破線EMBhの吸音特性と、点線EMBdの吸音特性とが合成された吸音特性を示すことが分かる。これにより、実線EMBは、ディップを低減しつつ、鎖線CMPと比較して高吸音率となる帯域を広げることが確認できる。また、実線EMBは、
図12に示されたシミュレーション結果ともよく整合している。
【0106】
2.5 第2実施形態に係る効果
第2実施形態によれば、スリット16は、Z方向に延び、内部空間SPAを部分空間SPAiごとに仕切る。これにより、部分空間SPAi同士の干渉を低減することができる。このため、吸音装置1Aの吸音特性を、シミュレーションの条件(C)に近い条件(D)に、近づけることができる。したがって、高吸音率となる周波数帯域をより広く、かつピーク間のディップをより小さくすることができる。
【0107】
また、蓋17は、スリット16によって仕切られた複数の部分空間SPAiのうち、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPAiを、音孔表面板11側と弾性板13側とに分離する。これにより、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPAiでは、対応する孔H1から入射した音が、弾性板13よりも剛性の高い蓋17によって遮断される。このため、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPiの吸音特性を、蓋17が設けられない場合よりも、1自由度系のヘルムホルツ共鳴器の吸音特性に近づけることができる。上述の通り、1自由度系のヘルムホルツ共鳴器の吸音特性は、単峯性を有する。したがって、ピーク間のディップをより小さくすることができる。
【0108】
また、蓋17と弾性板13との間には、弾性板13の振動を阻害しない程度に隙間が形成される。これにより、吸音装置1Aにおける2自由度系のヘルムホルツ共鳴器としての吸音特性が損なわれることを回避できる。
【0109】
3. 第3実施形態
次に、第3実施形態に係る吸音装置について説明する。
【0110】
第3実施形態では、弾性板13によって反射される音波が、対応する部分空間SPiに選択的に入射するように内部空間SPAを仕切る点において、第1実施形態及び第2実施形態と異なる。以下では、第2実施形態と異なる構成について主に説明する。第2実施形態と同等の構成については、適宜その説明を省略する。
【0111】
3.1 全体構成
図14は、第3実施形態に係る吸音装置1Bの全体構成の一例を示す分解図である。
図15は、第3実施形態に係る吸音装置1Bの断面構造の一例を示す断面図である。
図14及び
図15はそれぞれ、第2実施形態における
図9及び
図10に対応する。吸音装置1Bは、蓋17に代えて、蓋18を含む。
【0112】
蓋18は、弾性板13に対して有意に高い剛性を有する板である。すなわち、蓋18は、弾性板13を振動させる音によって振動しない剛板とみなし得る。蓋18と弾性板13との間には、長さtrの隙間が形成される。長さtrは、弾性板13の振動によって弾性板13と蓋18とが干渉しない範囲内で、より短い方が好ましい。長さtrは、例えば、1ミリメートル程度に設計され得る。
【0113】
蓋18は、スリット16によって仕切られた複数の部分空間SPAiのうち、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPAiを、音孔表面板11側と弾性板13側とに分離するように、スリット16の下端を塞ぐ。これにより、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPAiのうち、蓋18によって分離された音孔表面板11側の空間は、内部空間SPAの他の空間からスリット16及び蓋18によって隔てられる。
【0114】
また、蓋18には、スリット16によって仕切られた複数の部分空間SPAiのうち、弾性板13の振動速度が高い部分に対応する部分空間SPAiの音孔表面板11側と弾性板13側との間を接続する、複数の孔H2が形成される。孔H2の径(=2ac)は、孔H1の径(=2as)以上、かつZ方向に見た場合の部分空間SPiの径未満である。これにより、弾性板13の振動速度が高い部分に対応する部分空間SPAiの音孔表面板11側と弾性板13側とを接続する空間が、蓋18によって狭められる。
【0115】
3.2 蓋の断面構造
図16は、第3実施形態に係る吸音装置1Bの蓋の断面構造の例を示す断面図である。
【0116】
図16(A)に示されるように、孔H2の断面形状は、音孔表面板11側の径と弾性板13側の径とが略等しい形状であってもよい。
図16(B)に示されるように、孔H2の断面形状は、径が音孔表面板11側から弾性板13側に向かって小さくなるテーパ形状であってもよい。なお、孔H2がテーパ形状を有する場合、上述した孔H2の径に関する制約は、弾性板13側の径に課される。
【0117】
3.3 第3実施形態に係る効果
第3実施形態によれば、蓋18は、弾性板13の振動速度が高い部分に対応する部分空間SPAiの音孔表面板11側と弾性板13側との間を接続する孔H2を有する。孔H2の径は、孔H1の径以上であり、かつZ方向に見た場合の部分空間SPAiの径未満である。これにより、弾性板13のうち、或る部分空間SPiに対応する部分で反射した音波が、他の部分空間SPiに入射することを抑制できる。このため、弾性板13の振動速度が高い部分に対応する部分空間SPiの吸音特性を、蓋18が設けられない場合よりも、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器の吸音特性に近づけることができる。したがって、高吸音率となる周波数帯域をより広げることができる。
【0118】
4. 変形例等
なお、上記第1実施形態、第2実施形態、及び第3実施形態に係る吸音装置は、上述の例に限らず、種々の変形が適用可能である。
【0119】
4.1 第1変形例
例えば、上記第2実施形態及び第3実施形態では、内部空間SPAがスリット16によって部分空間SPiごとに仕切られる場合について説明したが、これに限られない。以下では、一例として、第1変形例が第2実施形態に適用される場合を想定し、第2実施形態と異なる構成について主に説明する。
【0120】
図17は、第1変形例に係る吸音装置1Cの全体構成の一例を示す分解図である。
図18は、第1変形例に係る吸音装置1Cの断面構造の一例を示す断面図である。
図17及び
図18は、第2実施形態における
図9及び
図10に対応する。
図17及び
図18に示されるように、吸音装置1Cは、スリット16に代えて、スリット19を備えていてもよい。
【0121】
スリット19は、Z方向に延び、内部空間SPAを、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPiの組と、弾性板13の振動速度が高い部分に対応する部分空間SPiの組と、で仕切る部材である。スリット19は、枠12に接続される。スリット19の上端は、音孔表面板11に接する。スリット19の下端は、弾性板13に接しない。そして、蓋17は、スリット19によって仕切られた複数の部分空間SPAiのうち、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPAiを、音孔表面板11側と弾性板13側とに分離するように、スリット19の下端を塞ぐ。
【0122】
図19は、第1変形例に係る吸音装置1Cの複数の音孔、スリット、及び蓋の平面レイアウトの一例を示す平面図である。
図19は、第2実施形態における
図11に対応する。
図19では、スリット19が点線で示され、蓋17に対応する領域がハッチングされる。
【0123】
スリット19は、Z方向に見て、音孔表面板11の有効寸法部分を、“#”字状に仕切る。これにより、有効寸法部分は、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する8個の周辺領域と、弾性板13の振動速度が高い部分に対応する1個の中央領域とに分割される。周辺領域及び中央領域の各々は、一辺の長さapの正方形の領域で分割され得る。複数の孔H1の各々は、対応する正方形の領域の中心に配置される。そして、蓋17は、中央領域に対応する部分がくり抜かれた形状を有する。
【0124】
第1変形例によれば、スリット19の製作コストを低減できる。また、スリット19は、弾性板13の振動速度が低い部分に対応する部分空間SPAiと、弾性板13の振動速度が高い部分に対応する部分空間SPAiとを仕切る。したがって、第2実施形態と同様に、高吸音率となる周波数帯域の広帯域化と、ピーク間のディップの低減とを両立させることができる。
【0125】
4.2 第2変形例
また、例えば、上記第1実施形態、第2実施形態、及び第3実施形態では、弾性板13によって内部空間SPBが内部空間SPAから分離される場合について説明したが、これに限られない。以下では、一例として、第2変形例が第2実施形態に適用される場合を想定し、第2実施形態と異なる構成について主に説明する。
【0126】
図20は、第2変形例に係る吸音装置1Dの全体構成の一例を示す分解図である。
図21は、第2変形例に係る吸音装置1Dの断面構造の一例を示す断面図である。
図20及び
図21は、第2実施形態における
図9及び
図10に対応する。
図20及び
図21に示されるように、吸音装置1Dは、弾性板13に代えて、弾性板20を備えていてもよい。
【0127】
弾性板20の構成は、複数の孔H3が形成される点を除いて、弾性板13の構成と同等である。当該複数の孔H3を介して、内部空間SPBは、内部空間SPAと接続される。複数の孔H3は、Z方向に見て、枠12及び14によって支持される弾性板20の端部の近傍に形成される。なお、孔H3の径は、通気できればよく、微小であることが好ましい。具体的には、例えば、孔H3の径は、孔H1の径以下であることが好ましい。特に、第2変形例が第2実施形態及び第3実施形態に適用される場合、複数の孔H3は、音孔表面板11側と弾性板20側とが蓋17及び18によって分離される部分空間SPAiに対応する弾性板20の部分に形成されることが望ましい。
【0128】
第2変形例によれば、内部空間SPAと内部空間SPBとの間の圧力を同等の大きさにすることができる。このため、内部空間SPAと内部空間SPBとの圧力差によって弾性板20の振動が阻害されることを抑制できる。したがって、例えば、空調ダクトのような、速い空気の流れが発生する装置に吸音装置1Dが適用される場合等、音孔表面板11の近傍の圧力が低くなる場合でも、吸音特性の低下を抑制できる。
【0129】
また、音孔表面板11側の空間と弾性板20側の空間とに分離される部分空間SPAiに対応する領域に孔H3を設けることによって、孔H3が吸音装置1Dの吸音特性に与える影響を低減することができる。
【0130】
4.3 第3変形例
また、例えば、上記第1実施形態、第2実施形態、及び第3実施形態では、装置形状がZ方向に見て矩形状である場合について説明したが、これに限られない。以下では、一例として、第3変形例が第2実施形態の第1変形例に適用される場合を想定し、第2実施形態の第1変形例と異なる構成について主に説明する。
【0131】
図22は、第3変形例に係る吸音装置1Eの全体構成の一例を示す分解図である。
図23は、第3変形例に係る吸音装置1Eの複数の音孔、スリット、及び蓋の平面レイアウトの一例を示す平面図である。
図22及び
図23は、第2実施形態の第1変形例における
図17及び
図19に対応する。
図22及び
図23に示されるように、吸音装置1Eは、音孔表面板21、枠22、弾性板23、枠24、背後板25、スリット26、及び蓋27を備えていてもよい。
【0132】
音孔表面板21、枠22、弾性板23、枠24、背後板25、スリット26、及び蓋27の構成は、Z方向に見た形状が円形状である点、及び孔H1の配置を除いて、音孔表面板11、枠12、弾性板13、枠14、背後板15、スリット19、及び蓋17の構成と同等である。
【0133】
音孔表面板21の有効寸法部分は、例えば、スリット26によって、弾性板23の振動速度が低い部分に対応する6個の周辺領域と、弾性板23の振動速度が高い部分に対応する1個の中央領域とに分割される。周辺領域及び中央領域の各々は、面積Sdの正六角形の領域でハニカム状に分割され得る。各孔H1は、当該正六角形の領域の中心にそれぞれ配置される。そして、蓋27は、中央領域に対応する部分がくり抜かれた形状を有する。以上のような構成とすることにより、1個の孔H1、1個の正六角形を底面とする六角柱状の部分空間SPi、及び対応する弾性板23の部分を、1個の仮想的なヘルムホルツ共鳴器とみなすことができる。
【0134】
第3変形例によれば、装置形状がZ方向に見て円形状を有する場合でも、吸音装置1Eの吸音特性を、複数の1自由度系の仮想的なヘルムホルツ共鳴器の吸音特性と、複数の2自由度系の仮想的なヘルムホルツ共鳴器の吸音特性との合成とみなすことができる。このため、第1実施形態、第2実施形態、及び第3実施形態と同等の効果を奏することができる。
【0135】
4.4 第4変形例
また、例えば、上記第2実施形態及び第3実施形態では、特性インピーダンスZ1iを演算する際に用いられる長さL1’及びL1”が、装置構造に対して固定である場合について説明したが、これに限られない。以下では、一例として、第4変形例が第2実施形態に適用される場合を想定し、第2実施形態と異なる構成について主に説明する。
【0136】
図24は、第4変形例に係る吸音装置1Fの断面構造の第1例を示す断面図である。
図24に示されるように、吸音装置1Fは、蓋28を更に備えていてもよい。
【0137】
蓋28は、例えば、板厚が可変の板である。蓋28には、複数の孔H4が形成される。蓋28は、蓋17が無い部分空間SPiにおいて音孔表面板11上に設けられる。孔H4の数は、孔H1の数と等しい。孔H4の中心は、例えば、対応する孔H1の中心と一致する。孔H4の半径arは、孔H1の半径asの2倍以上となるように設計される。これにより、蓋28が有る(すなわち、蓋17が無い)部分空間SPiでは、特性インピーダンスZ1iを演算する際に用いられる長さL1’を、蓋28の厚さに応じて可変にすることができる。
【0138】
第4変形例の第1例によれば、吸音装置1Fを組み立てた後に、1自由度系のヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数と、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器においてディップが生じる周波数(ディップ周波数)との間に生じるずれを、容易に調整することができる。
【0139】
図25は、第4変形例に係る吸音装置1Fの断面構造の第2例を示す断面図である。
図25に示されるように、吸音装置1Fは、蓋29を更に備えていてもよい。
【0140】
蓋29は、蓋17と同等の形状を有する板である。蓋29は、弾性板13に対して有意に高い剛性を有する。すなわち、蓋29は、弾性板13を振動させる音によって振動しない剛板とみなし得る。蓋29は、蓋17によって分離された部分空間SPAiの音孔表面板11側の空間を、更に2つに分離するように設けられる。以上のような構成により、蓋29が有る(すなわち、蓋17が有る)部分空間SPiでは、特性インピーダンスZ1iを演算する際に用いられる長さL1”を、蓋29の位置に応じて可変にすることができる。
【0141】
第4変形例の第2例によれば、吸音装置1Fを組み立てた後に、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数と、弾性板13の固有振動数との間に生じるずれを、容易に調整することができる。
【0142】
4.5 第5変形例
また、例えば、上記第2実施形態及び第3実施形態では、弾性板13と蓋17及び18との間に、1ミリメートル程度の隙間が設けられる場合について説明したが、これに限られない。以下では、一例として、第5変形例が第2実施形態に適用される場合を想定し、第2実施形態と異なる構成について主に説明する。
【0143】
図26は、第5変形例に係る吸音装置1Gの断面構造の第1例を示す断面図である。
図26に示されるように、吸音装置1Gは、蓋30を更に備えていてもよい。
【0144】
蓋30は、例えば、Z方向に見て、蓋17と同等の形状を有する。蓋30は、蓋17の弾性板13側の面上に設けられる。蓋30は、内部空間SPAiの中心から枠12に向かって板厚が厚くなるテーパ形状を有する。
【0145】
具体的には、蓋30と弾性板13との間に形成される隙間の長さtrは、内部空間SPAiの中心から枠12に向かって狭くなる。当該長さtrは、振動幅Vで振動する弾性板13が蓋30に干渉しない範囲内で、より短い方が好ましい。なお、弾性板13の振動幅Vが枠12から内部空間SPAiに向かって非線形に変化する場合、蓋30の板厚のテーパ比は、一定でなくてもよい。また、蓋30は、蓋17及びスリット16と一体に成型されてもよい。
【0146】
第5変形例の第1例によれば、弾性板13の振動が蓋30によって阻害されることを回避しつつ、蓋30と弾性板13との間に生じる隙間を小さくすることができる。これにより、特性インピーダンスZ1iを演算する際に用いられる長さL1’及びL1”の差を小さくすることができる。このため、1自由度系のヘルムホルツ共鳴器の共鳴周波数と、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器のディップ周波数との間に生じるずれを、小さくすることができる。
【0147】
図27は、第5変形例に係る吸音装置1Gの断面構造の第2例を示す断面図である。
図27に示されるように、吸音装置1Gは、蓋31を更に備えていてもよい。
【0148】
蓋31は、例えば、Z方向に見て、蓋17と同等の形状を有する。蓋17は、一定の板厚を有する板である。蓋31は、蓋17の弾性板13側の面上に設けられる。蓋31には、弾性板13の振動を阻害しない程度に柔らかい材料が適用される。例えば、蓋31は、シリコンゴム等の低硬度の材料を含む。
【0149】
蓋31と弾性板13との間に形成される隙間の長さtrは、振動幅Vで振動する弾性板13が蓋30と干渉し得る程度に短い。長さtrは、例えば、0.2ミリメートル程度に設計され得る。
【0150】
第5変形例の第2例によれば、蓋31は、弾性板13の振動によって弾性板13と接触する。しかしながら、蓋31は、弾性板13の振動を阻害しない程度に変形することができる。これにより、弾性板13の振動が蓋31によって阻害されることを回避しつつ、蓋31と弾性板13との間に生じる隙間を小さくすることができる。このため、第5実施形態の第1例と同等の効果を奏することができる。
【0151】
また、蓋31は、弾性板13の制振材としても機能することができる。これにより、ピーク間のディップを低減することができる。
【0152】
4.6 第6変形例
また、例えば、上記第2実施形態及び第3実施形態では、1自由度系のヘルムホルツ共鳴器と2自由度系のヘルムホルツ共鳴器とで略同一の開口率pが適用される場合について説明したが、これに限られない。以下では、一例として、第6変形例が第2実施形態に適用される場合を想定し、第2実施形態と異なる構成について主に説明する。
【0153】
図28は、第6変形例に係る吸音装置1Hの複数の音孔及びスリットの平面レイアウトの第1例を示す平面図である。
【0154】
図28に示されるように、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SP
Aiに対応する孔H1の半径a
sd、及び1自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SP
Aiに対応する孔H1の半径a
shは、以下の式(21)を満たすように設計されてもよい。
【0155】
【0156】
この場合、半径ashは、半径asdより短くなる。なお、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SPAiに対応する弾性板13の領域の面積、及び1自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SPAiに対応する弾性板13の領域の面積は、いずれもSdとなり、互いに等しいものとする。
【0157】
第6変形例の第1例によれば、蓋17の有無に応じて、長さL1に異なる補正量が適用される影響を相殺することができる。このため、設計指針に基づく長さL1の設計値によって算出される特性インピーダンスと、実際の特性インピーダンスとの間のずれを抑制できる。
【0158】
図29は、第6変形例に係る吸音装置1Hの複数の音孔及びスリットの平面レイアウトの第2例を示す平面図である。なお、
図29では、説明の便宜上、スリット16に代えて、枠12のY方向に延びる部分と接続され、かつ枠12のX方向に延びる部分と接続されないスリット16’が示される。
【0159】
図29に示されるように、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SP
Aiに対応する弾性板13の領域の面積S
dd、及び1自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SP
Aiに対応する弾性板13の領域の面積S
dhは、以下の式(22)を満たすように設計されてもよい。
【0160】
【0161】
この場合、面積Sdhは、面積Sddより大きくなる。なお、2自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SPAiに対応する孔H1の半径、及び1自由度系のヘルムホルツ共鳴器として機能する部分空間SPAiに対応する孔H1の半径は、いずれもasとなり、互いに等しいものとする。
【0162】
第6変形例の第2例によれば、蓋17の有無に応じて、長さL1に異なる補正量が適用される影響を相殺することができる。このため、設計指針に基づく長さL1の設計値によって算出される特性インピーダンスと、実際の特性インピーダンスとの間のずれを抑制できる。
【0163】
4.7 第7変形例
また、例えば、弾性板13は、枠12及び14による支持方法は、固定支持でも単純支持でもよい。
【0164】
図30は、第7変形例に係る吸音装置1Iの弾性板の端部における断面構造の第1例を示す断面図である。
図30に示されるように、弾性板13の端部が固定支持される場合、枠12及び14の各々の弾性板13との接する部分は、平面となる。
【0165】
弾性板13の端部が固定支持される場合、吸音装置1Iは、弾性材32を更に備えていてもよい。弾性材32は、例えば、ゴムのような、枠12及び14よりも高い弾性を有する部材である。弾性材32は、枠12及び14の少なくとも一方に接続されることにより、枠12及び14と共に弾性板13の端部を支持する。これにより、弾性板13の支持境界条件を変化させることができる。このため、弾性板13の固有振動数を調整することができる。また、弾性材32は、弾性板13の制振材としても機能することができる。
【0166】
また、吸音装置1Iは、アクチュエータ33を更に備えていてもよい。アクチュエータ33は、加圧アクチュエータである。アクチュエータ33は、弾性材32に取り付けられることにより、弾性材32を加圧する機能を有する。これにより、弾性材32による弾性板13の支持境界条件の変化量を調整することができる。
【0167】
図31は、第7変形例に係る吸音装置1Iの弾性板の端部における断面構造の第2例を示す断面図である。
図31に示されるように、弾性板13の端部が単純支持される場合、枠12及び14の各々の弾性板13との接する部分は、ナイフエッジ状となる。
【0168】
弾性板13の端部が単純支持される場合、
図31(A)に示されるように、吸音装置1Iは、弾性板13の端部が固定支持される場合と同様に、弾性材32及びアクチュエータ33を更に備えていてもよい。
【0169】
また、弾性板13の端部が単純支持される場合、
図31(B)に示されるように、吸音装置1Iは、重り34を更に備えていてもよい。重り34は、例えば、枠12及び14による支持点から外部空間側に突き出している弾性板13の部分に取り付けられる。これにより、枠12及び14による支持点において弾性板13に生じるモーメントを変化させることができる。このため、弾性板13の固有振動数を調整することができる。
【0170】
4.8 第8変形例
また、例えば、上記第1実施形態、第2実施形態、及び第3実施形態では、1枚の弾性板が1個の吸音装置に対して設けられる場合について説明したが、これに限られない。例えば、1枚の弾性板は、複数個の吸音装置に対して設けられてもよい。以下では、一例として、第8変形例が第1実施形態に適用される場合を想定し、第1実施形態と異なる構成について主に説明する。
【0171】
図32は、第8変形例に係る吸音装置1Jの平面レイアウトの一例を示す平面図である。
図32に示されるように、吸音装置1Jは、4個のサブ吸音装置1-1、1-2、1-3、及び1-4、並びに弾性板35を備えていてもよい。サブ吸音装置1-1~1-4の各々は、例えば、弾性板13の構成を除き、第1実施形態における吸音装置1と同等の構成を有する。
【0172】
弾性板35は、例えば、Z方向に見て、サブ吸音装置1-1~1-4の面積の合計よりも大きい面積を有する板である。弾性板35は、サブ吸音装置1-1~1-4の各々の枠12及び14によって支持される。これにより、弾性板35の設計自由度を更に向上させることができる。
【0173】
また、弾性板35には、孔H5が形成されていてもよい。孔H5は、例えば、弾性板35のうちサブ吸音装置1-1~1-4の間の領域がくり抜かれるように形成される。これにより、サブ吸音装置1-1~1-4のうちの1個に対応する弾性板35の部分の振動が、サブ吸音装置1-1~1-4のうちの他の3個に対応する弾性板35の部分の振動に与える影響を低減できると共に、吸音装置1Jを軽量化できる。
【0174】
4.9 その他の変形例
また、音孔表面板11の面上には、吸音材(図示せず)が設けられてもよい。吸音材は、例えば、孔H1ごとに、当該孔H1の周囲に、孔H1より大きい寸法のものが貼り付けられる。これにより、孔H1の半径asや深さts等を変更することなく孔H1内の空気粘性抵抗Rを変更することができ、より好ましい吸音特性を得ることができる。なお、吸音材が音孔表面板11の内部空間RA側の面上に設けられる場合、長さL1の設計において、吸音材の厚さが更に考慮され得る。吸音材が音孔表面板11の外部空間側の面上に設けられる場合、吸音材に基づく上記長さL1の補正は不要である。
【0175】
また、弾性板13の面上には、制振材(図示せず)が設けられてもよい。制振材は、弾性板13の1次の振動モードによる振動を阻害しないように貼り付けられることが好ましい。具体的には、例えば、弾性板13が矩形状の場合、制振材は、長辺方向(X方向)に沿って貼り付けられる。また、例えば、弾性板13が円形状の場合、制振材は、中心から放射状に貼り付けられる。弾性板13の板厚が薄い場合、制振材は、例えば、PVC(Poly-Vinyl Chloride)テープでもよい。これにより、弾性板13の損失係数ηを変更することができ、より好ましい吸音特性を得ることができる。
【0176】
なお、弾性板13の面上には、制振材に代えて、圧電素子(図示せず)が設けられてもよい。これにより、弾性板13に制振材が設けられる場合と同様の効果を奏することができる。
【0177】
また、弾性板13の面上には、リブ(図示せず)が設けられてもよい。これにより、弾性板13の振動速度分布を変更することができ、より好ましい吸音特性を得ることができる。
【0178】
なお、弾性板13の板厚及び材質は、部分空間SPiに関わらず一定でなくてもよい。弾性板13の板厚及び材質は、部分空間SPiごとに変化させてもよい。これにより、弾性板13にリブが設けられる場合と同様の効果を奏することができる。
【0179】
また、弾性板13が矩形状の場合、枠12及び14によって支持される弾性板13の辺の数は、4辺でなくてもよい。例えば、弾性板13は、枠12及び14によって対向する2辺のみが支持されてもよい。これにより、弾性板13の支持条件や固有振動モードを変更することができる。このため、吸音対象の周波数f0に合うように、弾性板13の固有振動数を調整しやすくすることができる。
【0180】
また、吸音装置1は、(1,1)振動モードに限らず、任意の振動モードに基づいて設計され得る。例えば、2次の振動モードが適用される場合、弾性板13の振動速度が低くなる領域は、弾性板13の端部に加えて、長辺の中線又は短辺の中線に対応する領域にも生じる。このように、2次以上の振動モードが適用される場合では、弾性板13の端部に加えて、弾性板13の振動速度が低くなる他の領域が、スリット16及び蓋17によって仕切られてもよい。
【0181】
また、吸音装置1におけるXY面は、平面に限らず、曲面であってもよい。これにより、吸音装置1が円筒ダクト等の曲率を有する構造に適用される場合にも対応することができる。
【0182】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0183】
1,1A,1B、1C,1D,1E,1F,1G,1H,1I,1J…吸音装置
11,21…音孔表面板
12,14,22,24…枠
13,20,23,35…弾性板
15,25…背後板
16,19,26…スリット
17,18,27,28,29,30,31…蓋
32…弾性材
33…アクチュエータ
34…重り