(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160090
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】ワイヤ描画装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
H01L21/60 301G
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070167
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000241463
【氏名又は名称】豊田合成株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】591189638
【氏名又は名称】超音波工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】松波 明
(72)【発明者】
【氏名】鴨下 修
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044BB01
5F044BB14
(57)【要約】
【課題】小型化を図りつつワイヤの断線を抑制する。
【解決手段】ワイヤ描画装置20は、ワイヤ21が巻き付けられ、かつモータ23で回転されるスプール25と、樹脂基材16が着脱される受け治具28と、振動機26により振動させられる描画ヘッド27とを備える。描画ヘッド27は振動機26を介して、スプール25はモータ23を介して、プレート22に取り付けられる。描画ヘッド27は、樹脂基材16の表面に接触した状態で振動させられることで、スプール25から供給されるワイヤ21を樹脂基材16に埋め込みながら接着させる。プレート22を受け治具28に対し相対移動させながら埋め込み及び接着を行なうことで、ワイヤ21を樹脂基材16に描画するように配線する。モータ23は、ワイヤ21を描画ヘッド27に送り出す方向であって、スプール25及び描画ヘッド27の間でワイヤ21にテンションがかからない回転速度でスプール25を回転させる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも芯部分が導線により構成されるワイヤが巻き付けられ、かつモータにより回転させられるスプールと、
樹脂基材が着脱される受け治具と、
前記樹脂基材の表面に接触させられた状態で、振動機により振動させられることで、前記スプールから供給される前記ワイヤを前記樹脂基材に埋め込みながら接着させる描画ヘッドと
を備え、前記モータ及び前記振動機が共通のプレートに取り付けられ、
前記プレートを前記受け治具に対し相対移動させることにより、前記ワイヤを前記樹脂基材に対し描画するように配線するワイヤ描画装置であって、
前記モータは、前記ワイヤを前記描画ヘッドに送り出す方向であって、前記スプール及び前記描画ヘッドの間で前記ワイヤにテンションがかからない回転速度で前記スプールを回転させるように設定されているワイヤ描画装置。
【請求項2】
前記振動機は、前記樹脂基材の前記表面に接触させられた状態の前記描画ヘッドを、前記樹脂基材の前記表面に対し交差する方向へ超音波振動させる超音波振動機により構成されている請求項1に記載のワイヤ描画装置。
【請求項3】
前記スプールとして、10μm~300μmの線径を有する前記ワイヤが巻き付けられたものが用いられている請求項2に記載のワイヤ描画装置。
【請求項4】
前記描画ヘッドは、前記樹脂基材の前記表面に対し加圧接触させられた状態で、前記振動機により振動させられることで、前記ワイヤを前記樹脂基材に埋め込みながら接着させるものであり、
前記プレートと前記描画ヘッドとの間にはクッション機構がさらに設けられ、
前記クッション機構は、前記描画ヘッドを、前記表面に対し交差する方向のうち前記受け治具から遠ざかる方向へ付勢するばねを備えている請求項3に記載のワイヤ描画装置。
【請求項5】
前記プレートには、前記スプール及び前記描画ヘッドの間の前記ワイヤを、同ワイヤにテンションをかけない状態で支えるガイドローラが支持されている請求項3又は4に記載のワイヤ描画装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂基材の表面にワイヤを描画するように配線するワイヤ描画装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材の表面にワイヤを描画するように配線するワイヤ描画装置として、
図4に示すものが知られている。このワイヤ描画装置60は、ワイヤ61が巻き付けられたスプール62と、樹脂基材63が着脱される受け治具64と、振動機66により振動させられる描画ヘッド65とを備えている。描画ヘッド65には、スプール62から供給されたワイヤ61が挿通される。描画ヘッド65は、上記振動により、ワイヤ61を樹脂基材63に埋め込みながら接着させる。スプール62は、描画ヘッド65から遠ざかった別の箇所に回転可能に支持されている。
【0003】
上記ワイヤ描画装置60では、振動機66が受け治具64に対し相対移動させられる。この相対移動により、描画ヘッド65の樹脂基材63に対する位置が変化する。そして、振動機66が受け治具64に対し相対移動させられながら、描画ヘッド65によるワイヤ61の埋め込み及び接着が行なわれることで、ワイヤ61が樹脂基材63の表面に対し、描画されるように配線される。
【0004】
なお、上記ワイヤ描画装置60に関連する技術としては、例えば、特許文献1~3に記載されたものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4-186854号公報
【特許文献2】特許第2833372号公報
【特許文献3】特許第6960191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上記従来のワイヤ描画装置60では、上記相対移動に伴い、描画ヘッド65がスプール62から遠ざかる場合には、スプール62と描画ヘッド65との間でワイヤ61が引っ張られる。これに対し、上記相対移動に伴い、描画ヘッド65がスプール62に近づく場合には、スプール62と描画ヘッド65との間でワイヤ61が緩む。そのため、描画ヘッド65がスプール62から遠ざかる際に、ワイヤ61に過度なテンションがかかって、同ワイヤ61が断線するおそれがある。特に、ワイヤ61として、線径の小さなものが用いられた場合、同ワイヤ61の剛性が低いために上記現象が起こりやすい。従って、従来のワイヤ描画装置60では、線径の小さなワイヤ61を用いて描画を行なうことが難しい。
【0007】
また、上記従来のワイヤ描画装置60では、スプール62が描画ヘッド65から遠ざかった別の箇所に配置されるため、装置全体が大型化する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するワイヤ描画装置は、少なくとも芯部分が導線により構成されるワイヤが巻き付けられ、かつモータにより回転させられるスプールと、樹脂基材が着脱される受け治具と、前記樹脂基材の表面に接触させられた状態で、振動機により振動させられることで、前記スプールから供給される前記ワイヤを前記樹脂基材に埋め込みながら接着させる描画ヘッドとを備え、前記モータ及び前記振動機が共通のプレートに取り付けられ、前記プレートを前記受け治具に対し相対移動させることにより、前記ワイヤを前記樹脂基材に対し描画するように配線するワイヤ描画装置であって、前記モータは、前記ワイヤを前記描画ヘッドに送り出す方向であって、前記スプール及び前記描画ヘッドの間で前記ワイヤにテンションがかからない回転速度で前記スプールを回転させるように設定されている。
【0009】
上記の構成によれば、プレートに取り付けられたモータによってスプールが回転されることにより、ワイヤが描画ヘッドに送り出される。樹脂基材の表面に接触させられた状態の描画ヘッドが、プレートに取り付けられた振動機により振動させられる。この振動する描画ヘッドにより、プレートから送り出されたワイヤが、受け治具に取り付けられた樹脂基材に対し、埋め込まれながら接着される。さらに、プレートがモータ及び振動機を伴って受け治具に対し相対移動させられると、樹脂基材に対する描画ヘッドの位置が変化する。そして、プレートが受け治具に対し相対移動させられながら、描画ヘッドによる埋め込み及び接着が行なわれることで、ワイヤが樹脂基材に描画されるように配線される。
【0010】
ここで、上記の構成によれば、描画ヘッドが振動機を介して、またスプールがモータを介して共通のプレートに取り付けられている。そのため、スプールが描画ヘッドから遠ざかった別の箇所に配置される場合よりも、スプールを描画ヘッドに近い箇所に配置して、ワイヤ描画装置の小型化を図ることが可能である。
【0011】
また、上記の構成によれば、描画ヘッド、振動機、スプール、モータ及びプレートが一体になっている。プレートが受け治具に対し相対移動することにより、スプールが描画ヘッドと一緒に移動する。描画ヘッドが移動しても、同描画ヘッドとスプールとの位置関係(距離)は変わらない。
【0012】
そのため、スプールが描画ヘッドから遠ざかった箇所に回転可能に支持されて、移動しない場合とは異なり、描画ヘッドがスプールから遠ざかったり、スプールに近づいたりすることがない。スプール及び描画ヘッドの間で、ワイヤにかかるテンションが変化すること、すなわち、ワイヤが緊張状態になったり弛緩状態になったりすることが起こりにくい。
【0013】
さらに、上記の構成によれば、スプールがモータによって回転させられる。しかも、スプールの回転は、ワイヤを描画ヘッドに送り出す方向であって、スプール及び描画ヘッドの間でワイヤにテンションがかからない回転速度で行なわれる。
【0014】
そのため、描画ヘッドによるワイヤの描画に際し、スプール及び描画ヘッドの間で、ワイヤにテンションがかからないか、又はかかったとしても僅かである。従って、スプール及び描画ヘッドの間でワイヤが断線する現象が起こりにくい。
【0015】
上記ワイヤ描画装置において、前記振動機は、前記樹脂基材の前記表面に接触させられた状態の前記描画ヘッドを、前記樹脂基材の前記表面に対し交差する方向へ超音波振動させる超音波振動機により構成されていることが好ましい。
【0016】
上記の構成によれば、樹脂基材の表面に接触させられた状態の描画ヘッドは、超音波振動機によって、樹脂基材の表面に対し交差する方向、例えば直交する方向へ超音波振動させられる。この超音波振動により、ワイヤが樹脂基材に埋め込まれる。このときに発生する摩擦熱により、埋め込まれたワイヤが樹脂基材に接着される。
【0017】
ここで、描画ヘッドを、樹脂基材の表面に沿う方向に超音波振動させることによっても、ワイヤを樹脂基材に埋め込んで接着させることが可能である。ただし、この場合には、描画ヘッドが樹脂基材の表面の広い領域に接触するため、摩擦熱が発生しすぎて樹脂基材が溶融するおそれがある。
【0018】
これに対し、上記の構成によるように、描画ヘッドが樹脂基材の表面に対し交差する方向に超音波振動させられると、ワイヤを樹脂基材に埋め込む力で、同ワイヤと樹脂基材との間に摩擦が起こり、熱が発生する。そのため、摩擦熱が発生しすぎるのを抑制しつつ、ワイヤを樹脂基材に埋め込みながら接着させることが可能である。
【0019】
上記ワイヤ描画装置において、前記スプールとして、10μm~300μmの線径を有する前記ワイヤが巻き付けられたものが用いられていることが好ましい。
スプールとして、線径について上記の条件を満たすワイヤが巻き付けられたものが用いられると、断線の発生を効果的に抑制することが可能である。
【0020】
上記ワイヤ描画装置において、前記描画ヘッドは、前記樹脂基材の前記表面に対し加圧接触させられた状態で、前記振動機により振動させられることで、前記ワイヤを前記樹脂基材に埋め込みながら接着させるものであり、前記プレートと前記描画ヘッドとの間にはクッション機構がさらに設けられ、前記クッション機構は、前記描画ヘッドを、前記表面に対し交差する方向のうち前記受け治具から遠ざかる方向へ付勢するばねを備えていることが好ましい。
【0021】
ここで、樹脂基材は、樹脂材料を樹脂成形することによって形成されている。そのため、樹脂基材が、たとえ、平らな形状(二次元形状)をなすものであったとしても、寸法がばらつく。樹脂基材が三次元形状をなす場合には、寸法のばらつきはさらに大きくなる。
【0022】
描画ヘッドが樹脂基材の表面に対し加圧接触させられた状態で、振動機により振動させられる上記ワイヤ描画装置では、上記寸法ばらつきに応じ、描画ヘッドがワイヤを樹脂基材に埋め込む力がばらつく。
【0023】
この点、ばねを有するクッション機構が設けられた上記の構成によれば、ばねがクッション機能を発揮する。クッション機構が、描画ヘッドがワイヤを樹脂基材に埋め込む力のばらつきを吸収する。その結果、描画ヘッドがワイヤを樹脂基材に埋め込む力を均一化することが可能となる。
【0024】
上記ワイヤ描画装置において、前記プレートには、前記スプール及び前記描画ヘッドの間の前記ワイヤを、同ワイヤにテンションをかけない状態で支えるガイドローラが支持されていることが好ましい。
【0025】
上記の構成によれば、スプールに巻き付けられたワイヤは、ガイドローラを経由して描画ヘッドに送り出される。ガイドローラは、ワイヤにテンションをかけない状態で、同ワイヤを支えるのみである。従って、テンションがかけられない状態でスプールから描画ヘッドに送り出されるワイヤが、スプール及び描画ヘッドの間で過剰にたるむ現象が抑制される。
【発明の効果】
【0026】
上記ワイヤ描画装置によれば、小型化を図りつつワイヤの断線を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】一実施形態におけるワイヤ描画装置が用いられてヒータ線が配線されたミリ波透過カバーを、ミリ波レーダ装置とともに示す側断面図である。
【
図3】同実施形態におけるワイヤ描画装置を示す概略構成図である。
【
図4】従来のワイヤ描画装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、ワイヤ描画装置の一実施形態について、
図1~
図3を参照して説明する。
最初に、ワイヤ描画装置によってワイヤが配線される製品について説明する。
ここでは、製品として、ミリ波レーダ装置が搭載された車両の外装部に対し、車両用部品として装着され、かつ同ミリ波レーダ装置から送信されたミリ波の透過性を有するミリ波透過カバーを例にとって説明する。
【0029】
なお、以下の記載に関し、車両の前進方向を前方とし、後進方向を後方として説明する。また、上下方向は車両の上下方向を意味し、左右方向は車幅方向であって車両の前進時の左右方向と一致するものとする。
【0030】
図1において二点鎖線で示すように、車両10の前部には、フロントグリル、フロントバンパ等が外装部11の一部として取り付けられている。外装部11と車体(図示略)との間には、前方監視用のミリ波レーダ装置13が搭載されている。ミリ波レーダ装置13は、ミリ波を、車外のうち前方へ向けて送信し、かつ、車外の物体に当たって反射されたミリ波を受信する機能を有する。
【0031】
上記外装部11において、ミリ波レーダ装置13の前方となる箇所には、窓部12が開口されている。窓部12にはミリ波透過カバー15が配置されている。
<ミリ波透過カバー15>
図1及び
図2に示すように、ミリ波透過カバー15の骨格部分は、樹脂基材16によって構成されている。樹脂基材16は、車両10を装飾する機能を有している。樹脂基材16は、前後方向を自身の厚み方向とする板状をなしている。
【0032】
樹脂基材16は、ミリ波の透過性を有する単一の層によって構成されてもよい。また、樹脂基材16は、それぞれミリ波の透過性を有する複数の層が前後方向に積層されてなる層構造を有してもよい。この場合、複数の層には、加飾層が含まれていてもよい。
【0033】
ここで、上記樹脂基材16に氷雪が付着するとミリ波が減衰される。この減衰により、ミリ波を用いたミリ波レーダ装置13の検出性能が低下する。そこで、ミリ波透過カバー15に融雪機能を付加するために、樹脂基材16にヒータ線17が、予め定められた配線パターンで配線されている。
【0034】
ヒータ線17の少なくとも芯部分は、導線によって構成されている。導線は、通電により発熱する金属材料、例えば、銅等によって形成されている。
ヒータ線17は、例えば、樹脂基材16の後面に配線されている。樹脂基材16の後面には、一対の端子部18が設けられており、ヒータ線17の端部が、対応する端子部18に電気的に接続されている。そして、図示しない外部機器からの電力が、両端子部18を介してヒータ線17に供給(通電)されて、同ヒータ線17が発熱される。
【0035】
なお、ヒータ線17は、樹脂基材16の前面に配線されてもよい。また、樹脂基材16が層構造を有する場合には、ヒータ線17は前後方向に隣り合う層間に配線されてもよい。
【0036】
<ワイヤ描画装置20>
上記ヒータ線17は、
図3に示すワイヤ描画装置20によって形成される。ワイヤ描画装置20は、プレート22、第1移動機構41、モータ23、スプール25、振動機26、描画ヘッド27、受け治具28及び第2移動機構42を備えている。第1移動機構41及び第2移動機構42としては、加工機40の一部を構成するものが用いられている。
【0037】
プレート22は、加工機40の第1移動機構41に取り外し可能に取り付けられる。プレート22は、第1移動機構41により、紙面における左右方向や、紙面に直交する方向へ移動させられる。
【0038】
モータ23はプレート22に固定されている。スプール25は、ボビンとも呼ばれるものであり、モータ23の出力軸24に一体回転可能に取り付けられている。表現を変えると、スプール25はモータ23を介してプレート22に回転可能に支持されている。スプール25には、ワイヤ21が巻き付けられている。
【0039】
ワイヤ21は、上記ヒータ線17の材料である。従って、ワイヤ21としては、少なくとも芯部分が、銅等の導線によって構成されたものが用いられる。
また、ワイヤ21としては、10μm~300μmの線径を有するものが用いられる。上述したミリ波透過カバー15では、ヒータ線17に対し、ミリ波の透過を妨げにくく、かつ融雪機能を発揮することが求められる。また、車両外装部品として用いられるミリ波透過カバー15では、ヒータ線17が視認されると、外観(意匠性)を低下させるおそれがある。そのため、ヒータ線17には、これが見えにくく、意匠性を損なわないことが求められる。これらの条件を満たすヒータ線17を形成するには、60μm程度の線径を有するワイヤ21が適している。
【0040】
なお、ヒータ線17がミリ波透過カバー15の外観に及ぼす影響が小さい場合には、200μm~250μm程度の線径を有するワイヤ21が用いられてもよい。
振動機26は、プレート22において、モータ23及びスプール25に接近した箇所に固定されている。振動機26は、発振器と、その発振器からの高周波電力を超音波振動に変換する超音波振動子とを備えた超音波振動機によって構成されている。本実施形態では、超音波振動機として、40kHz又はそれに近い周波数で描画ヘッド27を振動させるものが採用されている。
【0041】
描画ヘッド27は、振動機26に取り付けられている。表現を変えると、描画ヘッド27は振動機26を介してプレート22に取り付けられている。描画ヘッド27は、軸線L1に沿う方向に延びる形状をなしている。描画ヘッド27の先端部(
図3では下端部)には、上記ワイヤ21がその長さ方向へ移動可能に挿通されている。描画ヘッド27は、樹脂基材16の表面に対し加圧接触させられた状態で、上記振動機26により、樹脂基材16の表面に対し交差する方向、例えば直交する方向へ超音波振動させられる。本実施形態では、描画ヘッド27の振動方向は、上記軸線L1に沿う方向と合致している。
【0042】
受け治具28は、加工機40の上記第2移動機構42に取り外し可能に取り付けられる。受け治具28は、第2移動機構42により、複数の方向、例えば、紙面における左右方向や、紙面に直交する方向へ移動させられる。受け治具28には、上記樹脂基材16が吸着等の手段によって着脱される。
【0043】
ワイヤ描画装置20は、モータ23の回転を制御する制御装置29を備えている。制御装置29は、次の条件を満たすように、モータ23を回転させる制御を行なう。
条件1:ワイヤ21を
図3において矢印で示すように、描画ヘッド27に送り出す方向へスプール25を回転させること。
【0044】
条件2:スプール25及び描画ヘッド27の間でワイヤ21にテンションがかからない回転速度でスプール25を回転させること。
ワイヤ描画装置20は、さらに、クッション機構31、ガイドローラ33及びワイヤカット機構(図示略)を備えている。クッション機構31は、プレート22と描画ヘッド27との間に設けられている。クッション機構31は、描画ヘッド27を、上記超音波振動の振動方向(樹脂基材16の表面に交差する方向)のうち、受け治具28から遠ざかる方向へ付勢するばね32を有している。
【0045】
ガイドローラ33は、スプール25から描画ヘッド27へのワイヤ21の供給路の途中に配置され、プレート22に回転自在に支持されている。スプール25及び描画ヘッド27の間のワイヤ21は、ガイドローラ33に対し接触した状態で架け渡されている。そして、モータ23の回転によりスプール25から送り出されたワイヤ21は、ガイドローラ33にガイドされながら描画ヘッド27に導かれるように設定されている。ガイドローラ33は、スプール25及び描画ヘッド27の間のワイヤ21を、同ワイヤ21にテンションをかけない状態で支える機能を担っている。
【0046】
ワイヤカット機構は、樹脂基材16の表面に所定の配線パターンでワイヤ21を配線した後に、同ワイヤ21を端子部18の近くで切断するための機構である。
次に、上記のように構成された本実施形態の作用について説明する。また、作用に伴い生ずる効果についても併せて説明する。
【0047】
<(1)ワイヤ描画装置20を用いたヒータ線17の形成について>
(1-1)樹脂基材16にヒータ線17を形成する際には、スプール25に巻き付けられたワイヤ21が描画ヘッド27に供給される。より詳しくは、スプール25に巻き付けられたワイヤ21を描画ヘッド27に送り出す方向へ、同スプール25がモータ23によって回転させられる。
【0048】
一方で、描画ヘッド27が、樹脂基材16の表面に対し加圧接触させられた状態で、振動機26によって、同表面に対し交差する方向(縦方向)へ振動させられる。すると、スプール25から送り出された上記ワイヤ21が、受け治具28に取り付けられた樹脂基材16に対し、埋め込まれながら接着される。
【0049】
特に、本実施形態では、描画ヘッド27は、超音波振動機からなる振動機26によって、40kHz又はそれに近い周波数で振動(超音波振動)させられる。この超音波振動により、ワイヤ21が樹脂基材16に埋め込まれる。このときに発生する摩擦熱により、埋め込まれたワイヤ21を樹脂基材16に接着させることができる。
【0050】
(1-2)ここで、描画ヘッド27を、樹脂基材16の表面に沿う方向(横方向)に超音波振動させることによっても、ワイヤ21を樹脂基材16に埋め込んで接着させることが可能である。ただし、この場合には、描画ヘッド27が樹脂基材16の表面の広い領域に接触するため、摩擦熱が発生しすぎて樹脂基材16が溶融するおそれがある。
【0051】
これに対し、本実施形態では、上述したように、描画ヘッド27が樹脂基材16の表面に対し交差する方向(縦方向)に超音波振動させられる。ワイヤ21を樹脂基材16に埋め込む力で、同ワイヤ21と樹脂基材16との間に摩擦が起こり、熱が発生する。そのため、本実施形態では、摩擦熱が発生しすぎるのを抑制しつつ、ワイヤ21を樹脂基材16に埋め込みながら接着させることができる。
【0052】
(1-3)ワイヤ描画装置20では、受け治具28が第2移動機構42により、また、プレート22が第1移動機構41により、それぞれ、例えば、紙面の左右方向や、紙面に直交する方向へ移動させられる。これらの移動により、プレート22が受け治具28に対し相対移動させられる。
【0053】
上記相対移動に伴い、樹脂基材16に対する描画ヘッド27の位置が変化する。そして、プレート22が受け治具28に対し相対移動させられながら、描画ヘッド27による上記埋め込み及び接着が行なわれることで、ワイヤ21が樹脂基材16に対し描画されるように配線される。
【0054】
(1-4)ここで、樹脂基材16は、樹脂材料を樹脂成形することによって形成されている。そのため、樹脂基材16が、たとえ、プリント配線基板のように平らな形状(二次元形状)をなすものであったとしても、寸法がばらつく。樹脂基材16が三次元形状をなす場合には、寸法のばらつきはさらに大きくなる。
【0055】
描画ヘッド27が、樹脂基材16の表面に対し加圧接触させられた状態で、振動機26によって振動させられるワイヤ描画装置20では、上記寸法ばらつきに応じ、描画ヘッド27がワイヤ21を樹脂基材16に埋め込む力がばらつく。
【0056】
この点、本実施形態では、ばね32を有するクッション機構31が設けられている。クッション機構31では、ばね32がクッション機能を発揮する。描画ヘッド27がワイヤ21を樹脂基材16に埋め込む力のばらつきは、クッション機構31によって吸収される。そのため、描画ヘッド27がワイヤ21を樹脂基材16に埋め込む力を均一化することができる。
【0057】
<(2)ワイヤ描画装置20の小型化について>
(2-1)本実施形態では、描画ヘッド27が振動機26を介して、またスプール25がモータ23を介して共通のプレート22に取り付けられている。
【0058】
そのため、スプール62が描画ヘッド65から遠ざかった別の箇所に配置される従来のワイヤ描画装置60に比べ、スプール25を描画ヘッド27に近い箇所に配置でき、ワイヤ描画装置20の小型化を図ることができる。
【0059】
<(3)ワイヤ21の断線抑制について>
(3-1)本実施形態では、描画ヘッド27、振動機26、スプール25、モータ23及びプレート22が一体になっている。プレート22が受け治具28に対し相対移動することにより、スプール25が描画ヘッド27と一緒に移動する。描画ヘッド27が移動しても、同描画ヘッド27とスプール25との位置関係(距離)は変わらない。
【0060】
そのため、スプール62が描画ヘッド65から遠ざかった箇所に回転可能に支持されていて、移動しない従来のワイヤ描画装置60とは異なり、描画ヘッド27がスプール25から遠ざかったり、スプール25に近づいたりすることがない。スプール25及び描画ヘッド27の間で、ワイヤ21にかかるテンションが変化すること、すなわち、ワイヤ21が緊張状態になったり弛緩状体になったりすることが起こりにくい。
【0061】
さらに、本実施形態では、スプール25がモータ23によって回転させられる。しかも、スプール25の回転は、ワイヤ21を描画ヘッド27に送り出す方向であって、スプール25及び描画ヘッド27の間でワイヤ21にテンションがかからない回転速度で行なわれる。
【0062】
そのため、本実施形態では、スプール25及び描画ヘッド27の間で、ワイヤ21にテンションがかからないか、又はかかったとしても僅かである。従って、スプール25及び描画ヘッド27の間でワイヤ21が断線する現象を起こりにくくすることができる。
【0063】
(3-2)上記ワイヤ描画装置20を用いて、樹脂基材16に対しワイヤ21を描画するように配線したところ、ワイヤ21が10μm~300μmの線径を有する場合、断線を起こさずに、ワイヤ21を樹脂基材16に埋め込みながら接着できることが確認された。
【0064】
この点、本実施形態では、スプール25として、60μm程度の線径を有するワイヤ21が巻き付けられたものが用いられている。そのため、断線を効果的に抑制することが可能となる。
【0065】
<(4)モータ23の作動について>
(4-1)
図4に示す従来のワイヤ描画装置60では、スプール62を回転させるモータを追加することで、断線を抑制することが可能である。しかし、振動機66の受け治具64に対する相対移動に伴い、描画ヘッド65がスプール62から遠ざかる際には、ワイヤ61を送り出す方向へスプール62を回転させる必要がある。これに対し、上記相対移動に伴い描画ヘッド65がスプール62に近づく際には、上記とは逆方向へスプール62を回転させる必要がある。さらに、スプール62及び描画ヘッド65の間でワイヤ61にかかるテンションが、描画ヘッド65の移動方向に拘わらず一定となるようにモータの回転速度を制御する必要がある。そのため、モータの回転の制御が複雑になり、ワイヤ描画装置60のコストが上昇する。
【0066】
この点、本実施形態では、モータ23は、上述したように、ワイヤ21を描画ヘッド27に送り出す方向であって、スプール25及び描画ヘッド27の間でワイヤ21にテンションがかからない回転速度でスプール25を回転させているにすぎない。そのため、モータ23の制御が容易であり、ワイヤ描画装置20のコストダウンを図ることができる。
【0067】
<(5)上記以外の作用及び効果>
(5-1)本実施形態では、スプール25に巻き付けられたワイヤ21は、ガイドローラ33を経由して描画ヘッド27に送り出される。ガイドローラ33は、ワイヤ21にテンションをかけない状態で、同ワイヤ21を支えるのみである。従って、テンションがかけられない状態でスプール25から描画ヘッド27に送り出されるワイヤ21が、スプール25及び描画ヘッド27の間で過剰にたるむのを抑制することができる。
【0068】
(5-2)本実施形態では、上述したように、スプール25が描画ヘッド27と共通のプレート22に取り付けられていて、同プレート22と一体となって移動する。そのため、使用できるスプール25の大きさが、スプール62と描画ヘッド65とが別々の箇所に配置される従来のワイヤ描画装置60よりも制限される。表現を変えると、本実施形態で使用できるスプール25の最大径は、従来のワイヤ描画装置60で使用できるスプール62の最大径よりも小さい。スプール25,62の径が小さくなるに従い、同スプール25,62に巻き付けられるワイヤ21,61の長さが短くなる。
【0069】
径の大きなスプール62は、同一種類の製造物を大量に製造する場合に適している。この場合、同一種類の樹脂基材63に対し、同一種類のワイヤ61を用いて描画(配線)することが繰り返し行なわれる。
【0070】
これに対し、径の小さなスプール25は、複数種類の製造物を少量ずつ製造する場合、すなわち、多品種少量生産する場合に適している。この場合、複数種類の樹脂基材16に対し、複数種類のワイヤ21を用いて描画(配線)することが行なわれる。
【0071】
同一のワイヤ描画装置で、複数種類の製造物を製造する場合には、所定の製造物を製造する設定から別の製造物を製造する設定に変更する作業、いわゆる段替えが必要となる。段替えは、製造物の種類が変更される毎に必要である。上述した多品種少量生の場合には、段替えが多く行なわれる。
【0072】
従って、径の小さなスプール25が着脱される本実施形態のワイヤ描画装置20は、上述したように段替えが多く行なわれる場合に適している。
(5-3)本実施形態のワイヤ描画装置20は、加工機40に取り付けられて使用される。スプール25として径の大きなものが用いられると、そのスプール25の荷重に耐え得るように、加工機40として大型のものが必要となる。
【0073】
この点、本実施形態では、上記(5-2)で説明したように、スプール25として径の小さなものが用いられる。従って、径の大きなスプール25が用いられた場合に比べ、小型の加工機40を用いることができる。
【0074】
(5-4)超音波振動のために振動機26で使用される周波数帯が低くなるに従い、描画ヘッド27から樹脂基材16に与えられるエネルギーが多くなる。40kHz前後の周波数帯で描画ヘッド27を超音波振動させると、例えば、70kHz前後の周波数帯で描画ヘッド27を超音波振動させる場合よりも、振幅を大きく設定でき、多くのエネルギーを樹脂基材16に与えることが可能である。表現を変えると、70kHz前後の周波数帯よりも、40kHz前後の周波数帯で描画ヘッド27を超音波振動させると、樹脂基材16に与えるエネルギー量をコントロールしやすい。
【0075】
一般に、裸線、すなわち、絶縁体や保護用の材料によって覆われていない導線は、樹脂材料(樹脂基材)に対し、超音波振動によって埋め込んで接着させることが難しい。
しかし、40kHz前後の周波数帯で描画ヘッド27を超音波振動させる本実施形態では、上記のような裸線であっても、樹脂基材16に埋め込んで接着させることが可能である。
【0076】
(5-5)上記(5-4)で説明したように、裸線を樹脂基材16に埋め込んで接着させることが可能である。このことから、本実施形態では、絶縁物や保護用の材料によって被覆されているタイプのワイヤ21であれば、種類に拘わらず、樹脂基材16に対し埋め込んで接着させることができる。
【0077】
例えば、導線をエナメルの皮膜で被覆したエナメル線が、これに該当する。また、導線を絶縁層で被覆し、さらに絶縁層を融着層で被覆した、いわゆる自己融着線であっても、樹脂基材16に埋め込んで接着させることができる。特に、ワイヤ21として自己融着線を用いた場合、摩擦熱によって融着層を溶かしながら、樹脂基材16にワイヤ21を接着させることができる。
【0078】
なお、上記実施形態は、これを以下のように変更した変更例として実施することもできる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0079】
<樹脂基材16>
・樹脂基材16を形成する樹脂材料は、特に限定されない。上記樹脂材料は、PP(ポリプロピレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合)樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)樹脂等の汎用プラスチックであってもよい。また、上記樹脂材料は、PC(ポリカーボネート)樹脂等のエンジニアリングプラスチックであってもよい。
【0080】
・樹脂基材16は、シート状(二次元形状)をなしていてもよいし、立体形状(三次元形状)をなしていてもよい。
<ワイヤ21について>
・ワイヤ21を配線してなる車両用部品のうち、同ワイヤ21(ヒータ線17)が外観に及ぼす影響が小さいものについては、同ワイヤ21として、300μm程度の線径を有するものが用いられてもよい。該当する車両用部品としては、例えば、ヒータ付きアームレスト、ヒータ付きステアリングホイール等が挙げられる。
【0081】
<プレート22の相対移動について>
・プレート22の受け治具28に対する相対移動は、第1移動機構41でプレート22が移動されることのみによってなされてもよい。
【0082】
<振動機26について>
・振動機26として、描画ヘッド27を振動させることにより、ワイヤ21を樹脂基材16に埋め込みながら接着できるものであることを条件に、超音波振動機とは異なるタイプの振動機が用いられてもよい。
【0083】
・描画ヘッド27を、振動機26によって、樹脂基材16の表面に沿う方向(横方向)に超音波振動させてもよい。
<ガイドローラ33について>
・ガイドローラ33の数や大きさが適宜変更されてもよい。また、ガイドローラ33は、プレート22に対し回転自在に支持されてもよいし、回転不能に支持されてもよい。
【0084】
<ワイヤ描画装置20によってワイヤ21が配線される製品について>
・上記ワイヤ描画装置20は、樹脂基材16と、その樹脂基材16の表面にワイヤ21が配線された製品であれば、上述したミリ波透過カバーや、ヒータ付きアームレスト、ヒータ付きステアリングホイールに限らず、広く適用可能である。
【0085】
上記製品としては、例えば、ミリ波透過性を有するエンブレムが挙げられる。また、上記製品としては、近赤外線センサが搭載された車両の外装部に装着され、かつ同近赤外線センサから送信された近赤外線の透過性を有する近赤外線透過カバーやエンブレムも挙げられる。また、上記製品としては、ミリ波レーダ装置におけるカバーや、近赤外線センサにおけるカバーも挙げられる。
【符号の説明】
【0086】
16…樹脂基材
20…ワイヤ描画装置
21…ワイヤ
22…プレート
23…モータ
25…スプール
26…振動機
27…描画ヘッド
28…受け治具
31…クッション機構
32…ばね
33…ガイドローラ