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特開2023-160099遠隔作業ロボットの制御装置、および、制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160099
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】遠隔作業ロボットの制御装置、および、制御方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 13/08 20060101AFI20231026BHJP
   B25J 3/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B25J13/08 A
B25J3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070185
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義人
(72)【発明者】
【氏名】村田 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】上野 克宜
(72)【発明者】
【氏名】平野 克彦
【テーマコード(参考)】
3C707
【Fターム(参考)】
3C707AS27
3C707BS10
3C707JT04
3C707JU12
3C707KS03
3C707KS16
3C707KS20
3C707KS36
3C707KT03
3C707KT05
3C707KT11
3C707KV18
3C707LS15
3C707LU01
3C707MT02
(57)【要約】
【課題】 センサ位置取得処理と各関節の状態量演算処理の完了までに要する時間を、遠隔作業ロボットの制御周期内に抑制しつつ、遠隔作業ロボットの各関節の最大速度を高める。
【解決手段】 関節動作前の第一時刻におけるセンサ情報から検出した第一特徴点の位置と、関節動作後の第二時刻におけるセンサ情報から検出した第二特徴点の位置を比較して、センサ情報上での特徴点の移動量を求めることで、センサの姿勢の変化と、関節の状態量の変化を推定するセンサ姿勢検出部と、センサから第一特徴点までの距離と、動作させた関節とセンサの相対配置と、動作させた関節の動作方向と、に基づいて、第一時刻から第二時刻までの特徴点のセンサ情報上での移動量が、予め定めた閾値を超えない最大速度を求める関節速度制限部と、関節速度制限部が求めた最大速度の範囲内で関節を動作させるロボット制御部と、を有する制御装置とした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個以上のリンクを連結する関節を備えた遠隔作業ロボットを、何れかのリンクに設置したセンサが認識したセンサ情報に基づいて制御する制御装置であって、
関節動作前の第一時刻におけるセンサ情報から検出した第一特徴点の位置と、関節動作後の第二時刻におけるセンサ情報から検出した第二特徴点の位置を比較して、センサ情報上での特徴点の移動量を求めることで、前記センサの姿勢の変化と、前記関節の状態量の変化を推定するセンサ姿勢検出部と、
前記センサから前記第一特徴点までの距離と、動作させた関節と前記センサの相対配置と、動作させた関節の動作方向と、に基づいて、前記第一時刻から前記第二時刻までの前記特徴点の前記センサ情報上での移動量が、予め定めた閾値を超えない最大速度を求める関節速度制限部と、
該関節速度制限部が求めた前記最大速度の範囲内で前記関節を動作させるロボット制御部と、
を有することを特徴とする制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の制御装置において、
前記センサは、ステレオカメラ、または、深度カメラであり、
前記センサ姿勢検出部は、前記センサ情報に含まれる画像情報を用いて、前記特徴点を検出することを特徴とする制御装置。
【請求項3】
請求項1に記載の制御装置において、
前記センサは、2軸の超音波センサ、または、2軸のレーザセンサであり、
前記センサ姿勢検出部は、前記センサ情報に含まれる奥行情報を用いて、前記特徴点を検出することを特徴とする制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の制御装置において、
前記関節は、回転関節、または、直動関節であり、かつ、一つ以上の前記回転関節を含むことを特徴とする制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の制御装置において、
前記閾値は、第一時刻に検出したセンサ情報内の第一特徴点と、第二時刻に検出したとして扱われる仮想的なセンサ情報内の第二特徴点と、に基づいて、前記センサの姿勢の変化と前記関節の状態量の変化を推定する処理に要する時間が、前記遠隔作業ロボットの制御周期以下となるように前記第二特徴点の位置を設定したときの、前記第一特徴点から前記第二特徴点までの移動量であることを特徴とする制御装置。
【請求項6】
2個以上のリンクを連結する関節を備えた遠隔作業ロボットを、何れかのリンクに設置したセンサが認識したセンサ情報に基づいて制御する制御方法であって、
関節動作前の第一時刻におけるセンサ情報から検出した第一特徴点の位置と、関節動作後の第二時刻におけるセンサ情報から検出した第二特徴点の位置を比較して、センサ情報上での特徴点の移動量を求めることで、前記センサの姿勢の変化と、前記関節の状態量の変化を推定するセンサ姿勢検出ステップと、
前記センサから前記第一特徴点までの距離と、動作させた関節と前記センサの相対配置と、動作させた関節の動作方向と、に基づいて、前記第一時刻から前記第二時刻までの前記特徴点の前記センサ情報上での移動量が、予め定めた閾値を超えない最大速度を求める関節速度制限ステップと、
該関節速度制限ステップで求めた前記最大速度の範囲内で前記関節を動作させるロボット制御ステップと、
を有することを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過酷環境下で使用される遠隔作業ロボットを遠隔制御する、制御装置、および、制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
過酷環境下で使用される遠隔作業ロボットの手先位置や各関節の状態量を検出し、遠隔作業ロボットの動作を適切に遠隔制御する従来技術として、特許文献1の作業システムが知られている。
【0003】
例えば、同文献の要約書には、「複数個のリンク11~13が複数個の関節14,15で連続的に連結されているアーム装置2と、アーム装置2の最先端のリンク11に設けられた画像センサ21と、アーム装置2の駆動を制御する駆動制御部と、駆動制御部によってアーム装置2の最も先端側からi番目の関節の動きを固定してアーム装置2の最も先端側からi+1番目の関節を駆動しながら画像センサ21で所定の対象物を複数回撮像する撮像部と、撮像部で撮像した各画像を用い対象物を基準とした座標系での前記各画像における前記画像センサの位置を求める座標取得部と、座標取得部で求めた画像センサ21の位置に基づいてアーム装置2の最も先端側からi番目の関節の関節状態量を求める関節状態量判定部とを備えている。」と記載されている。
【0004】
このように、特許文献1では、画像センサが撮像した画像に基づいて、画像センサの位置を検出するとともに、アーム装置の関節状態量を検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-171882号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の作業システムでは、アーム装置のリンクを高速で動かすと、リンクに設けた画像センサも高速で動き、連続撮像した各画像内では撮像対象物の移動量が大きくなる。そのため、連続撮像した各画像内の撮像対象物を追跡するには、各画像内でのテンプレートマッチングの対象領域をリンク速度に略比例させて拡大する必要がある。
【0007】
このことは、リンク速度に略比例して、撮像対象物の追跡処理に要するテンプレートマッチング時間が長くなることを意味するので、リンクを所定速度以上で動かした場合には、撮像対象物を基準とした座標系での画像センサの位置取得処理と、画像センサ位置に基づいた各関節の状態量演算処理の両方が完了するまでの時間が、遠隔作業ロボットの制御周期を超え、遠隔作業ロボットの適切な制御に失敗する虞があった。
【0008】
そこで、本発明は、遠隔作業ロボットのリンクに設置したセンサの位置取得処理と、センサ位置に基づいた各関節の状態量演算処理の完了までに要する時間を、遠隔作業ロボットの制御周期内に抑制しつつ、遠隔作業ロボットの各関節の最大速度を高めることができる、制御装置、および、制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る制御装置は、2個以上のリンクを連結する関節を備えた遠隔作業ロボットを、何れかのリンクに設置したセンサが認識したセンサ情報に基づいて制御する制御装置であって、関節動作前の第一時刻におけるセンサ情報から検出した第一特徴点の位置と、関節動作後の第二時刻におけるセンサ情報から検出した第二特徴点の位置を比較して、センサ情報上での特徴点の移動量を求めることで、前記センサの姿勢の変化と、前記関節の状態量の変化を推定するセンサ姿勢検出部と、前記センサから前記第一特徴点までの距離と、動作させた関節と前記センサの相対配置と、動作させた関節の動作方向と、に基づいて、前記第一時刻から前記第二時刻までの前記特徴点の前記センサ情報上での移動量が、予め定めた閾値を超えない最大速度を求める関節速度制限部と、該関節速度制限部が求めた前記最大速度の範囲内で前記関節を動作させるロボット制御部と、を有する制御装置とした。
【発明の効果】
【0010】
本発明の制御装置、および、制御方法によれば、遠隔作業ロボットのリンクに設置したセンサの位置取得処理と、センサ位置に基づいた各関節の状態量演算処理の完了までに要する時間を、遠隔作業ロボットの制御周期内に抑制しつつ、遠隔作業ロボットの各関節の最大速度を高めることができる。
【0011】
なお、本発明に関連する更なる特徴、作用、効果は、本明細書の記述、添付図面から明らかになるものである。また、本発明の態様は、要素及び多様な要素の組み合わせ及び以降の詳細な記述と添付される特許請求の範囲の様態により達成され実現される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1に係る遠隔作業システムの機能ブロック図。
図2A】遠隔作業ロボットの構成例および画像フレームとの関係を示す図。
図2B図2Aを簡略表示した図。
図2C】画像フレーム内での特徴点の移動距離を説明する図。
図3】画像フレーム内における特徴点の例を示す図。
図4】閾値を決定する手法を説明する図。
図5】式5の算出方法を例示する図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して本発明の実施例について説明する。添付図面では、機能的に同じ要素は同じ番号で表示される場合もある。なお、添付図面は本発明の原理に則った具体的な実装例を示しているが、これらは本発明の理解のためのものであり、決して本発明を限定的に解釈するために用いられるものではない。
【0014】
なお、以下の実施例では、当業者が本発明を実施するのに十分詳細にその説明がなされているが、他の実装、形態も可能で、本発明の技術的思想の範囲と精神を逸脱することなく構成、構造の変更や多様な要素の置き換えが可能であることを理解する必要がある。従って、以降の記述をこれに限定して解釈してはならない。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能又は構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複する説明を省略する。
【実施例0015】
まず、図1から図3を用いて、本発明の実施例1に係る遠隔作業システム100を説明する。
【0016】
図1は、実施例1に係る遠隔作業システム100の機能ブロック図である。ここに示すように、本実施例の遠隔作業システム100は、遠隔作業ロボット1と、センサ2と、制御装置3と、を備えている。
【0017】
遠隔作業ロボット1は、高放射線等の過酷環境下で使用される多関節ロボットであり、2つ以上のリンク11と、各リンクを連結する関節12を有する。関節12は、リンク同士の相対角度を変化させる回転関節であっても良いし、リンク同士の距離を変化させる直動関節であっても良い。従って、後述する「関節速度」とは、回転関節の角速度ω、または、直動関節の伸縮速度の何れかを意味する。
【0018】
センサ2は、遠隔作業ロボット1の作業対象物を認識するためのセンサであり、遠隔作業ロボット1の何れかのリンク11(例えば、最先端のリンク11a)に設置される。センサ2は、具体的には、ステレオカメラや深度カメラ、あるいは、2軸の超音波センサやレーザスキャナである。前者の場合、センサ2からはセンサ情報として画像情報と奥行情報が出力され、制御装置3では、画像情報に基づいて対象物の特徴点を検出する。一方、後者の場合、センサ2からはセンサ情報として奥行情報のみが出力され、制御装置3では、奥行情報に基づいて対象物の特徴点を検出する。
【0019】
制御装置3は、センサ2が出力したセンサ情報(画像情報、奥行情報)に基づいて遠隔作業ロボット1を遠隔制御する装置であり、ロボットリンクモデル31と、センサ姿勢検出部32と、ロボット制御部33と、関節角度検出部34と、関節速度制限部35を備えている。なお、この制御装置3は、具体的には、CPU等の演算装置、半導体メモリ等の主記憶装置、ハードディスク等の補助記憶装置、および、通信装置などのハードウェアを備えたコンピュータである。そして、演算装置が所定のプログラムを実行することで、センサ姿勢検出部32等の各機能を実現するが、以下では、このような周知技術を適宜省略しながら、各部の詳細を説明する。
【0020】
ロボットリンクモデル31は、遠隔作業ロボット1のリンク11や、関節12との配置関係、関節12の種類等、遠隔作業ロボット1の構造を記述するデータである。この記述には、URDF(Unified Robotics Description Format)などの記述形式が利用可能である。関節角度検出部34や関節速度制限部35は、このロボットリンクモデル31を参照することにより、各関節の動作軸や、関節IDを得ることができる。
【0021】
センサ姿勢検出部32は、周囲の静止物体を基準とした座標系でのセンサ2の姿勢変化を検出する機能部である。そのため、センサ姿勢検出部32は、ある時刻(以下「時刻t1」と称する)にセンサ2で検出した第一センサ情報から、周囲の静止物体のエッジ点など、特徴となる特徴点を複数検出し、第一特徴点f1として記憶しておく。その後、センサ姿勢検出部32は、所定時間後の別の時刻(以下「時刻t2」と称する)にセンサ2で検出した第二特徴点f2と、前述した第一特徴点f1を比較することで、第一特徴点f1の全部または一部が、第二特徴点f2のどの部分に合致するかを検出することで、センサ2の姿勢がどう変化したかを検出する。
【0022】
このようなアルゴリズムは、Visual SLAM(Simultaneous Localization and Mapping)技術として知られる。Visual SLAMの詳細については、例えば、M. Labbe and F. Michaud, “RTAB-Map as an Open-Source Lidar and Visual SLAM Library for Large-Scale and Long-Term Online Operation,” in Journal of Field Robotics, vol. 36, no. 2, pp. 416-446, 2019. (Wiley)が参照可能である。
【0023】
ロボット制御部33は、遠隔作業ロボット1の各関節に適当な動作指令を送信することで所望の関節12を順次動作させ、遠隔作業ロボット1を遠隔制御する機能部である。そのため、ロボット制御部33は、関節角度検出部34に動作対象の関節12の関節IDを送信して、その関節12の関節状態情報を取得する。また、ロボット制御部33は、関節速度制限部35に動作対象の関節12の関節IDと動作方向情報を送信して、その関節12に設定可能な最大速度情報を取得する。
【0024】
ここで、図2A図2C、および、図3を用いて、ロボット制御部33がある関節12を動作させた前後の、遠隔作業ロボット1とセンサ2の姿勢変化、および、センサ2が出力した画像フレームFの変化を具体的に説明する。
【0025】
図2Aに示す遠隔作業ロボット1は、4つのリンク11a~11dと、3つの関節12a~12cで構成される。また、図2Aのセンサ2は、深度カメラであり、最先端のリンク11aに設置されている。なお、図中の破線は、センサ2の視野角θcであり、センサ2は、この範囲内で、画像フレームFを撮像し、被写体までの距離dを測定する。
【0026】
図2A上図は、時刻t1におけるロボット姿勢P1を表しており、図2A下図は、時刻t2におけるロボット姿勢P2を表している。なお、ロボット姿勢P2は、アーム根元側の関節12cだけを時計回りに回転させた後の姿勢であるため、センサ2の撮像方向もロボット姿勢P1に比べて時計回りに変化している。
【0027】
また、図2A上図の特徴点f1は、画像フレームF1から画像処理により抽出した静止物体上の特徴点を示し、図2A下図の特徴点f2は、画像フレームF2から画像処理により抽出した静止物体上の特徴点を示している。両特徴点は、静止物体の同じ位置から抽出したものであるため、これらの特徴点を基準とすることで、静止物体を基準とする座標系でのセンサ2の位置・姿勢や、関節12a~12cの状態量を特定することができる。
【0028】
ここで、動作対象となる関節12cの三次元空間上での座標を点O、センサ2(深度カメラ)の時刻t1の座標を点Pc、時刻t2の座標を点Pc’、特徴点fの座標を点Pとする。なお、各座標は行ベクトルで表す。図2Aの状況下では、関節12cと特徴点fの位置は不変であるため、点O、Pは、時刻t1,t2で同一である。また、関節12a、12bを動作させないため、点Oから点Pcの距離|Pc-O|、および、点Oから点Pc’の距離|Pc’-O|は共にLである。また、時刻t1および時刻t2の時間差をΔtとし、関節の角速度をωとすると、時刻t1と時刻t2における関節12の角度差Δθは、Δθ=ωΔtとなる。また、時刻t1における、センサ2から見た奥行方向の単位ベクトルをVzとし、時刻t2における、センサ2から見た奥行方向の単位ベクトルをVz’とする。
【0029】
いま、点Oを原点としても一般性は失われないため原点として説明する。また、x軸を紙面水平右方向、y軸を紙面奥行直交方向、z軸を紙面垂直上方向とした座標系をロボット座標系と呼ぶ。関節12cの回転軸は、y軸方向とする。y軸中心とした回転角θの回転行列をRy(θ)とすると、
Pc’=Ry(θ)Pc ・・・(式1)
Vz’=Ry(θ)Vz ・・・(式2)
の関係である。時刻t1におけるセンサ位置(点Pc)から特徴点f1までの距離d1は式3で表され、時刻t2におけるセンサ位置(点Pc’)から特徴点f2までの距離d2は式4で表される。
【0030】
d1=|Pc-P| ・・・(式3)
d2=|Pc’-P| ・・・(式4)
図2Bは、図2Aのロボット姿勢P1からP2への変化を簡略表示したものであり、動作対象の関節12cの位置(点O)と、センサ2の位置(点Pc、点Pc’)、センサ2の姿勢(単位ベクトルVz、Vz’)のみを模式的に表した図である。VxとVyは互いに直交するとともに、時刻t1におけるセンサ2の姿勢を表す単位ベクトルVzに直交する単位ベクトルであり、これら三つの単位ベクトルによって、時刻t1におけるセンサ2(深度カメラ)の画像フレームの座標軸を表している。同様に、時刻t2におけるセンサ2(深度カメラ)の画像フレームの座標軸は、Vx’、Vy’、Vz’の三つの単位ベクトルで表される。
【0031】
図2Cは、センサ2(深度カメラ)で撮影された、時刻t1における画像フレームF1および時刻t2における画像フレームF2である。なお、画像フレームの横幅をWピクセル、高さをHピクセルとする。また、各画像フレーム上には、単位ベクトルVxc=(1,0,0)をx軸とし、単位ベクトルVyc=(0,1,0)をy軸とし、画像フレームの奥行方向の単位ベクトルVzc=(0,0,1)をz軸とした直交座標系である、画像フレーム座標系を示している。また、画像フレームF1における特徴点f1の座標を(x1,y1,z1)、画像フレームF2における特徴点f2の座標を(x2,y2,z2)とする。
【0032】
ここで、行列Rc=(Vx;Vy;Vz)は、画像フレーム座標系から、ロボット座標系への変換行列を表す。なお、「;」は、1行3列ベクトルを行方向に並べた行列を表すものとする。すると、f1=(Rc(Pc-P)/|Pc-P|)となる。ただし、上付きのtは、転置ベクトルを表す。また、Rc’=(Vx’,Vy’,Vz’)=Ry(θ)Rcの関係があるため、f2=(Ry(θ)Rc(Pc’ -P)/|Pc’-P|)=(Ry(θ)Rc(Ry(θ)Pc-P)/|Ry(θ)Pc-P|)=で表される。これにより、画像フレーム内の移動距離|f1-f2|が、Δθ=ωΔtの関数で表されるため、画像フレーム内の移動距離の閾値Thを与えた時、|f1-f2|=Thとなるωを最大の角速度ωmaxとして算出することができる。
【0033】
次に、図3を用いて、画像フレームF間での特徴点fの移動を、より具体的に説明する。図3左図は、ロボット姿勢P1である静止物を撮像した画像フレームF1であり、図3右図は、ロボット姿勢P2で同じ静止物を撮像した画像フレームF2である。なお、図示するように、画像フレームFの右方向をx軸の正方向、画像フレームFの下方向をy軸の正方向としているため、各特徴点の画像フレームF上での位置は、x、yの値で定義することができる。
【0034】
図2A図2Cでは、簡単のために各時刻の特徴点fを一点で示したが、実際の画像処理では、エッジ検出などの手法により特徴点fを抽出するため、複数の特徴点fが検出される。そのため、図3の例では、画像フレームF1から4つの特徴点f1a~f1dが検出され、画像フレームF2からも4つの特徴点f2a~f2dが検出されている。
【0035】
ここで、図2Aからも分かるように、図3の画像フレームF1と画像フレームF2の撮像条件の違いは、センサ2の位置と姿勢だけである。そのため、同じ静止物を撮像した両画像フレームからは同一配置の特徴点fが検出される。つまり、画像フレームF1内の特徴点f1a~f1dの配置を維持したまま所定量移動させたものが、画像フレームF2内の特徴点f2a~f2dとなっている。従って、特徴点fを追跡する画像処理では、画像フレームF1の特徴点配置をテンプレートとして、画像フレームF2内でテンプレートマッチング処理を実行することにより、画像フレームF2の特徴点f2の位置を検出することができる。
【0036】
このような特徴点fが検出されたとき、センサ姿勢検出部32は、センサ2の位置と姿勢の変化を次のように演算する。すなわち、センサ姿勢検出部32は、まず、特徴点f1aから特徴点f2aの移動量Δa、特徴点f1bから特徴点f2bの移動量Δb、特徴点f1cから特徴点f2cの移動量Δc、特徴点f1dから特徴点f2dの移動量Δdをそれぞれ演算した後、移動量Δa~Δdを平均した平均移動量Δavを検出する。そして、平均移動量Δavに基づき、前述のSLAM技術を適用することで、センサ姿勢検出部32は、時刻t1におけるロボット姿勢P1から時刻t2におけるロボット姿勢P2への位置と姿勢の変化を検出することができる。そして、センサ姿勢検出部32は、得られたセンサ姿勢情報を関節角度検出部34に送る。
【0037】
関節角度検出部34は、ロボットリンクモデル31を参照して、ロボット制御部33から得た関節IDに対応する関節12の種類、動作軸の情報を取得す得る機能部である。
【0038】
また、関節角度検出部34は、センサ姿勢検出部32から得たセンサ姿勢情報に基づいて、ロボット制御部33の制御対象の関節IDが切り替わった時のセンサ姿勢情報を、当該関節の動作開始時の姿勢(初期姿勢と呼ぶ)として、記憶する機能部である。例えば、図2A上図に例示するように、制御対象が関節12cに切り替わった場合であれば、ロボット姿勢P1でのセンサ姿勢情報を初期姿勢として記憶する。
【0039】
そして、ロボット制御部33が、新たに制御対象となった関節12を動作制御し、該関節が動作すると、リンク11の移動に伴いセンサ2が移動し、センサ情報が変化するため、センサ姿勢検出部32が検出するセンサ姿勢も変化する。このとき、関節角度検出部34は、変化後のセンサ姿勢を、センサ姿勢検出部32から取得し記憶する。例えば、図2A下図に例示するように、制御対象が関節12cを動作させた場合であれば、ロボット姿勢P2でのセンサ姿勢情報を最新のセンサ姿勢として記憶する。
【0040】
関節角度検出部34は、初期姿勢(例えば、図2A上図)と最新のセンサ姿勢(例えば、図2A下図)を比較することで、センサ2の姿勢差分を得る。このとき、動作している関節12は当該関節(図2Aの例では、関節12c)のみであるため、センサ2の姿勢差分は、動かした関節12の動作量を表す。すなわち、回転関節であれば、姿勢差分が表す回転量であり、直動関節であれば、姿勢差分が表す直動量が、関節の動作量となる。
【0041】
関節角度検出部34は、上記のようにして得られた各関節の動作量を積算することで、作業ロボットの各関節角度情報を管理する。
【0042】
以上が、センサ情報を用いて関節の動作量を検出する基本的な構成である。
【0043】
しかし、センサ姿勢検出部32は、第一特徴点f1と第二特徴点f2の比較時に、共通部分が存在しない場合には、センサ2の姿勢検出に失敗し、関節12の動作量を演算できなかったり、第一特徴点f1と第二特徴点f2の距離が離れすぎていると、比較処理に時間を要し、遠隔作業ロボット1の制御周期に対する時間遅れが顕著になったりしてしまうという問題がある。
【0044】
そこで、関節速度制限部35は、上記の問題が発生しない範囲内で関節12を動作させる最大速度を演算してロボット制御部33に出力する。これにより、ロボット制御部33は、上記の問題が発生しない速度で関節12を動作させることができる。
【0045】
<関節12の最大速度決定処理>
本実施例の制御装置3は、図1に示すステップS1~S7の手順により、関節12の最大速度vmaxを決定する。なお、最大速度vmaxの決定処理は、基本的には、作業現場に配置した遠隔作業ロボット1が作業対象物を変更する毎に、或いは、所定時間毎に、実施される処理であるが、遠隔作業ロボット1と作業対象物の相対関係が固定されている場合は、遠隔作業システム100の工場出荷前、或いは、初期設定時に予め各関節の最大速度vmaxを決定しておいても良い。
【0046】
まず、ステップS1では、関節速度制限部35は、センサ姿勢検出部32から、検出したn個の特徴点fの特徴点情報Pi(i=1~n)を得る。なお、特徴点情報Piは(xi,yi,di)で定義される3次元の情報であり、xi,yiは、画像フレームFにおける特徴点fの位置座標(図3参照)、diは、センサ2から特徴点fまでの距離(図2A参照)である。
【0047】
次に、ステップS2では、ロボット制御部33は、動作対象となる関節12の関節IDおよび動作方向を、関節速度制限部35に送信する。
【0048】
ステップS3では、関節速度制限部35は、ロボットリンクモデル31を参照し、当該関節の動作軸および、当該関節からセンサまでの相対位置および姿勢を得る。
【0049】
ステップS4では、関節速度制限部35は、当該関節が、動作軸に沿って速度vで動作したときに、t秒後に、各特徴点の、センサ情報の検出範囲内における移動量Δiを算出する。
【0050】
ステップS5では、関節速度制限部35は、この移動量Δiの平均移動量Δavが閾値Th以下となる最大速度vmaxを逆算する(図2A図2C参照)。なお、閾値Thは、遠隔作業システム100の工場出荷前、或いは、初期設定時に予め設定されているものとする。
【0051】
ステップS6では、関節速度制限部35は、最大速度vmaxをロボット制御部33に送信する。
【0052】
ステップS7では、ロボット制御部33は、当該関節の動作速度を該最大速度vmax以下とし、遠隔作業ロボットを制御する。
【0053】
以上の構成とすることにより、センサ姿勢検出部32が、センサ姿勢の検出に失敗することなく、ロボットをできるだけ速く動作することが可能となる。
【0054】
以上で説明したように、本発明の制御装置、および、制御方法によれば、遠隔作業ロボットのリンクに設置したセンサの位置取得処理と、センサ位置に基づいた各関節の状態量演算処理の完了までに要する時間を制御周期内に抑制しつつ、遠隔作業ロボットの各関節の最大速度を高めることができる。
【実施例0055】
次に、図4図5を用いて、本発明の実施例2に係る遠隔作業システム100を説明する。なお、実施例1との共通点は重複説明を省略する。
【0056】
実施例1の遠隔作業システム100では、ステップS5で利用する閾値Thが予め設定されていたが、本実施例の遠隔作業システム100では、閾値Thを後述のシミュレーションにより決定する。なお、閾値Thの決定処理は、遠隔作業システム100の工場出荷前、或いは、初期設定時に予め実施される処理である。
【0057】
図4において、画像フレームF1は、遠隔作業ロボット1に設置したセンサ2が時刻t1に実際に撮像した画像フレームであり、n個の画像フレームF2(F2a~F2n)は、センサ2が時刻t2に撮像したもの仮定として扱う仮想的な画像フレームであり、画像フレームF1内の特徴点f1を所定の移動量Δ(Δ~Δ)だけ上方に移動させて生成したものである。
【0058】
<閾値Thの決定方法>
次に、図5を用いて、閾値Thの決定方法を説明する。
【0059】
まず、センサ姿勢検出部32に、時刻t1の画像フレームF1と時刻t2の画像フレームF2aを与え、センサ2の位置・姿勢の特定処理と、関節12の状態量の特定処理の完了までに要する処理時間tpを求める。同様に、画像フレームF1とフレームF2b、画像フレームF1とフレームF2c、・・・、画像フレームF1とフレームF2nを順次与え、処理時間tp~tpをそれぞれ求める。
【0060】
このようにして求めた処理時間tp~tpは、特徴点fの移動量Δ~Δにおおよそ比例した時間となるため(図5参照)、処理時間tpと移動量Δの関係は、式5の近似式で表される。
【0061】
tp=KΔ+t ・・・(式5)
また、ロボット制御部33の制御周期をTとすると、閾値Thは、式1のKとtを用いて、式6により算出することができる。
【0062】
Th=(T-t)/K ・・・(式6)
なお、センサ姿勢検出部32の演算処理性能が十分であれば、図5に例示するように、T>tの関係が成立するが、センサ姿勢検出部32の演算処理性能が不足し、tがTより大きくなると、式2により求まるThは負の値となり、適切なThが得られない。従って、この場合は、センサ姿勢検出部32の処理性能を高くするか、ロボット制御部33の制御をn回分、センサ姿勢検出部32の処理を待つ制御方式とする必要がある。この場合は、n×T≧tとなる最小の正数nから求められる。
【0063】
以上のような構成とすることにより、実施例1の最大速度vmaxを求める処理で利用する適切な閾値Thを定めることが可能となる。
【0064】
本技術分野の通常の知識を有する者には、本発明のその他の実装がここに開示された本発明の明細書及び実施例の考察から明らかになる。記述された実施例の多様な態様及び/又はコンポーネントは、データを管理する機能を有するコンピュータ化ストレージシステムに於いて、単独又は如何なる組み合わせでも使用することが出来る。明細書と具体例は典型的なものに過ぎず、本発明の範囲と精神は後続する請求範囲で示される。
【符号の説明】
【0065】
100 遠隔作業システム
1 遠隔作業ロボット
11 リンク
12 関節
2 センサ
3 制御装置
31 ロボットリンクモデル
32 センサ姿勢検出部
33 ロボット制御部
34 関節角度検出部
35 関節速度制限部
f 特徴点
F 画像フレーム
Δ 特徴点の移動量
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5