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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160112
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】放熱構造を備えた電子機器
(51)【国際特許分類】
   H05K 7/20 20060101AFI20231026BHJP
   H01L 23/40 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
H05K7/20 E
H01L23/40 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070216
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000010098
【氏名又は名称】アルプスアルパイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085453
【弁理士】
【氏名又は名称】野▲崎▼ 照夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 将史
(72)【発明者】
【氏名】赤村 高宏
【テーマコード(参考)】
5E322
5F136
【Fターム(参考)】
5E322AA01
5E322AA03
5E322AB04
5E322AB07
5E322AB09
5E322EA10
5E322FA04
5F136BA04
5F136BC01
5F136BC03
5F136EA66
5F136FA02
5F136FA53
5F136FA62
(57)【要約】      (修正有)
【課題】発熱部品の上に設置されたヒートシンクから筐体に熱が効率的に伝達され、ヒートシンクと筐体の開口部との間に隙間が生じない放熱構造を備えた電子機器を提供する。
【解決手段】電子機器において、電子部品4の接合面4aに放熱材料42を介してヒートシンク20が設置されている。筐体の上板部11に開口部が形成され、ヒートシンク20のフィン23が開口部内から上方の空間内に突出している。ヒートシンク20には下方に窪む横凹部22xが形成され、上板部11に設けられた横挿入部16xが横凹部22x内に下向きに挿入されている。横凹部22x内には放熱グリスなどの放熱材料41が充填されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱伝導が可能な筐体と、前記筐体の内部に固定された発熱部品と、前記発熱部品に重ねられたヒートシンクと、を有する電子機器において、
前記筐体と前記ヒートシンクの少なくとも一方に、前記発熱部品と前記ヒートシンクとの重なり方向のいずれかに向けて窪む凹部が形成され、他方に、前記凹部に入り込む挿入部が設けられており、
前記凹部の内面と前記挿入部との間に、変形可能な放熱材料が介在していることを特徴とする電子機器。
【請求項2】
前記放熱材料は、放熱グリス、放熱ゲル、弾性変形可能に硬化した放熱グリスあるいは放熱ポリマー、のいずれか1つまたは複数の組み合わせで構成されている請求項1記載の電子機器。
【請求項3】
前記筐体に開口部が形成され、前記ヒートシンクが前記開口部から前記筐体の外部に露出しており、前記凹部と前記挿入部は前記開口部の縁に沿って設けられている請求項1または2記載の電子機器。
【請求項4】
前記凹部の内部では、前記挿入部の両側に、前記重なり方向と交差する方向での公差を吸収できる隙間が形成されて、それぞれの前記隙間内に前記放熱材料が充填されている請求項1または2記載の電子機器。
【請求項5】
前記凹部と前記挿入部との間に、前記重なり方向の公差を吸収できる隙間が形成されている請求項4記載の電子機器。
【請求項6】
前記ヒートシンクは、前記重なり方向に投影した平面形状が四角形であり、前記凹部と前記挿入部が、前記発熱部品の全ての辺に設けられている請求項1または2記載の電子機器。
【請求項7】
前記ヒートシンクの周囲の全長において、前記ヒートシンクと前記筺体との間に前記放熱材料が介在している請求項6記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発熱部品の熱をヒートシンクおよび筐体によって放熱できる放熱構造を備えた電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1の図1に記載された電子部品の放熱構造は、ケースの内部に固定された基板に電子部品が装着され、電子部品の上面にグリスを介してヒートシンクが設置されている。ケースの上蓋にヒートシンクの位置に合わせて窓部が形成されている。窓部は、ヒートシンクをスライド可能に挿入でき、ヒートシンクの側面が窓部の内周面に接触するように、その大きさが決められている。この放熱構造は、ヒートシンクが窓部の内周面に接触しているため、ケース全体を放熱部材として使用できるというものである。
【0003】
特許文献1の図2図3に記載された電子部品の放熱構造は、ケースの上蓋に、ヒートシンクの断面の大きさよりも一回り大きく形成された挿通穴と、挿通穴の開口面積を可変とすべくスライド可能に装着された可動部材と、が設けられている。可動部材は板状に形成されヒートシンクの側面に当接される厚板部を有しており、厚板部をヒートシンクの側面に押し付けた状態で、可動部材がケースの上蓋にねじ止めされる。この放熱構造は、厚板部によって、ヒートシンクと可動部材との接触面積を大きくでき、放熱性を高めることができるというものである。
【0004】
特許文献2の図4に記載された樹脂金属複合筺体は、金属で作製された筐体の内面の一部分に樹脂製の接合部が設けられ、この接合部に筐体を貫通する貫通孔が設けられている。金属製の放熱部材(ヒートシンク)の接合面が接合部に接触した状態で、放熱部材に形成された放熱突起が前記貫通孔を経て筐体の外部に露出している。樹脂製の接合部が筐体の内面と放熱部材に接触している状態で、放熱部材を加熱し溶融させることで、放熱部材が筐体に固定される。この複合筺体は、放熱部材が筐体の内部から外部にかけて設けられているため、筐体の内部の熱を外部に効果的に放出できる、というものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-142349号公報
【特許文献2】特開2010-274454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の図1に記載された電子部品の放熱構造は、ケースの上蓋に形成された窓部の位置と寸法をよほど高精度に加工していないと、ヒートシンクを窓部の内周面に接触させるのが困難である。また、ヒートシンクをその全周で窓部の内周面に接触させることができないため、ヒートシンクと窓部との間の熱抵抗が高くなり、ケースを使用した放熱効果を高くすることが困難である。さらに、ヒートシンクと窓部の内周面との隙間からケース内に埃や水分などが侵入しやすい欠点もある。
【0007】
特許文献1の図2図3に記載された電子部品の放熱構造は、ヒートシンクとケースとの間に、可動部材とこの可動部材をケースに固定するねじが設けられている。この構造では、ヒートシンクと可動部材との接触部、可動部材とケースとの接触部、さらに可動部材とケースに対するねじの接触部、のそれぞれの接触部が熱抵抗となるため熱の伝達効率が悪くなり、ケースを使用した放熱効果を高めることが困難である。また、特許文献1の図1ないし図3に記載された放熱構造は、いずれもヒートシンクの周囲全周を確実に固定することが難しいため、外部振動が作用したときにヒートシンクにがたつきが生じやすく、がたつきによるノイズ音が発生しやすい。
【0008】
特許文献2に記載された樹脂金属複合筺体は、筺体と放熱部材(ヒートシンク)とが樹脂製の接合部を介して固定されているため、放熱部材の設置個所から筐体の内部に埃や水分が浸入するのを防止しやすい利点がある。しかしながら、前記接合部材は熱伝導率がきわめて低いため、放熱部材から筐体に熱を十分に伝達することができず、筐体からの放熱効果を期待することができない。また、放熱部材の設置位置精度が筐体を基準として決まってしまうため、筐体内に配置される発熱部品と放熱部材との相対位置の累積公差の存在により、発熱部品を放熱部材に確実に接触させることができない状態が生じやすい。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、ヒートシンクから筐体への熱の伝達効率を向上させて、筐体による放熱効果を高くでき、またヒートシンクが設けられた箇所での筐体への埃や水分の浸入を防止でき、さらに耐震性も高くできる放熱構造を備えた電子機器を提供することを目的としている。
【0010】
また本発明は、発熱部品を基準としてヒートシンクの設置位置を決めることにより、発熱部品からヒートシンクへの熱の伝達効率を高く維持することができ、発熱部品からヒートシンクを経て筐体に至る熱伝達経路の熱抵抗を低くして、放熱効果を高めることができる放熱構造を備えた電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、熱伝導が可能な筐体と、前記筐体の内部に固定された発熱部品と、前記発熱部品に重ねられたヒートシンクと、を有する電子機器において、
前記筐体と前記ヒートシンクの少なくとも一方に、前記発熱部品と前記ヒートシンクとの重なり方向のいずれかに向けて窪む凹部が形成され、他方に、前記凹部に入り込む挿入部が設けられており、
前記凹部の内面と前記挿入部との間に、変形可能な放熱材料が介在していることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の電子機器における前記放熱材料は、例えば、放熱グリス、放熱ゲル、弾性変形可能に硬化した放熱グリスあるいは放熱ポリマー、のいずれか1つまたは複数の組み合わせで構成されている。
【0013】
本発明の電子機器は、前記筐体に開口部が形成され、前記ヒートシンクが前記開口部から前記筐体の外部に露出しており、前記凹部と前記挿入部は前記開口部の縁に沿って設けられているものとして構成できる。
【0014】
本発明の電子機器は、前記凹部の内部では、前記挿入部の両側に、前記重なり方向と交差する方向での公差を吸収できる隙間が形成されて、それぞれの前記隙間内に前記放熱材料が充填されていることが好ましい。
【0015】
本発明の電子機器は、前記凹部と前記挿入部との間に、前記重なり方向の公差を吸収できる隙間が形成されていることが好ましい。
【0016】
本発明の電子機器における前記ヒートシンクは、前記重なり方向に投影した平面形状が四角形であり、前記凹部と前記挿入部が、前記発熱部品の全ての辺に設けられているものとして構成できる。
【0017】
本発明の電子機器は、前記ヒートシンクの周囲の全長において、前記ヒートシンクと前記筺体との間に前記放熱材料が介在していることが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の電子機器は、ヒートシンクと筐体との間に、放熱グリス、放熱ゲル、弾性変形可能に硬化した放熱グリスあるいは放熱ポリマー、のいずれか1つの、または複数を組み合わせた放熱材料が介在しているため、発熱部品からヒートシンクに伝わった熱を、高い伝導率にて筐体に伝達することができ、ヒートシンクと筐体の双方から外部空間へ効果的に放熱することができる。好ましくは、ヒートシンクの周囲の全長において、ヒートシンクと筺体との間に放熱材料を介在させることにより、ヒートシンクの設置個所での密閉性を高めることができ、筐体内への埃や水分の浸入を防止しやすくなる。さらに、凹部の内面と挿入部との間に、変形可能な放熱材料が介在しているため、外部振動が作用したときのヒートシンクのがたつきを抑制しやすい。
【0019】
ヒートシンクまたは筐体の少なくとも一方に形成される凹部が、発熱部品とヒートシンクの重なり方向のいずれかに向けて窪んだ形状である。そのため、ヒートシンクを発熱部品の接合面に確実に密着させた状態で、ヒートシンクと筐体とを、重なり方向に組み合わせることができ、寸法公差の累積にかかわらず、発熱部品とヒートシンクとを密着させた状態で、ヒートシンクと筐体とを放熱材料を介して接合させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の第1実施形態の電子機器を上方から見た斜視図、
図2図1に示される電子機器の分解斜視図、
図3図1に示される電子機器をA-A線で切断した部分断面図、
図4】本発明の第2実施形態の電子機器を示す図3と同じ部分を示す部分断面図、
図5】本発明の第3実施形態の電子機器を示す図3と同じ部分を示す部分断面図、
図6】本発明の第4実施形態の電子機器を示す図3と同じ部分を示す部分断面図、
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1図2に、本発明の第1実施形態の電子機器1が示されている。この電子機器1は、車載用音響装置を構成するパワーアンプやミキサーなどの音響調整装置または電源装置、車載用画像表示装置を構成する画像制御装置や電源装置、あるいは自動車の走行制御装置や安全装置の電源装置などとして用いられる。または、電子機器1が、家庭用機器や業務用機器の一部を構成するものであってもよい。
【0022】
電子機器1は、Z1-Z2方向が上下方向で、Z1が上方、Z2が下方である。Z1-Z2方向は、発熱部品の接合面と交差する方向で、発熱部品とヒートシンクとの重なり方向である。Z1-Z2方向と直交するX方向は横方向で、Z1-Z2方向とX方向の双方に直交するY方向が縦方向である。
【0023】
図1図2に示されるように、電子機器1は筐体10を有している。筐体10は、上側(Z1側)の上板部11と、下側(Z2側)の底板部12と、横方向(X方向)で対向する一対の横側板部13,13、および縦方向(Y方向)で対向する一対の縦側板部14,14を有する立方体である。筐体10は、少なくとも上板部11が、熱伝導が可能な材料で形成されている。例えば、上板部11は、鋼板やステンレス板などの金属板で形成されている。または上板部11が、熱伝導率の高い硬質の導熱性プラスチックで形成されていてもよい。上板部11が熱伝導の可能な材料で形成されているため、この上板部11を放熱部として機能させることができる。筐体10は、上板部11以外の部分である底板部12と横側板部13,13および縦側板部14,14も、上板部11と同じ熱伝導が可能な材料で形成されていることが好ましい。この場合、筐体10の全体を放熱部として機能させることができる。
【0024】
図2図3に示されるように、筐体10の内部に支持板2が固定されている。支持板2はプリント配線基板であり、あるいは配線層を有しない金属板や合成樹脂板である。支持板2の上に実装基板3が重ねられて固定されている。実装基板3はプリント配線基板である。実装基板3の上部に電子部品4,5が実装されている。電子部品4,5の少なくとも1つが発熱部品であり、実施形態では電子部品4,5の全てが発熱部品である。電子部品4,5は集積回路のパッケージであり、パワーアンプや電源回路など、発熱量の高い回路を内蔵している。電子部品4,5は上方(Z1方向)に向けられた表面が接合面4a,5aである。接合面4a,5aは、X-Y面と平行な平面である。ただし、接合面4a,5aに溝などの細かな凹凸が形成されていてもよい。接合面4a,5aと交差する方向、すなわち接合面4a,5aと垂直なZ1-Z2方向が、電子部品4,5とヒートシンク20との重なり方向である。
【0025】
図2図3に、電子部品4,5の上に設置される前記ヒートシンク20の構造が示されている。ヒートシンク20は、筐体10の上板部11よりも熱伝導率の高い金属材料で形成されており、例えばアルミニウムまたはアルミニウムを主体とする合金で形成されている。ヒートシンク20は、重なり方向であるZ1またはZ2方向に投影した平面形状が四角形である。ヒートシンク20は、横方向(X方向)の両側に位置する横側部21x,21xと、縦方向(Y方向)の両側に位置する縦側部21y,21yを有している。
【0026】
ヒートシンク20には、横側部21x,21xに沿って横凹部22x,22xが形成され、縦側部21y,21yに沿って縦凹部22y,22yが形成されている。横凹部22x,22xと縦凹部22y,22yは、重なり方向(Z1-Z2方向)の一方である下方(Z2方向)に向けて窪んでいる。図3に示されるように、横凹部22x,22xは断面が矩形状の溝であり、縦凹部22y,22yの断面形状は、横凹部22x,22xの断面形状と同一である。横凹部22x,22xと縦凹部22y,22yは、ヒートシンク20の周囲全長にわたって連続して形成されている。
【0027】
ヒートシンク20は、前記横凹部22x,22xと縦凹部22y,22yとで囲まれている中央部に、上向きの複数のフィン23が一体に形成されている。複数のフィン23は横方向(X方向)に間隔を空けて、縦方向(Y方向)に向けて平行に延びている。ヒートシンク20の下方に向く面は接合面24であり、重なり方向(Z1-Z2方向)と垂直な平面である。
【0028】
前記ヒートシンク20は、横凹部22x,22xと縦凹部22y,22yおよびフィン23と接合面24の全ての部分がアルミニウムなどで一体に形成されている。ただし、ヒートシンク20は、例えば横凹部22x,22xおよび縦凹部22y,22yを構成する部分と、フィン23および接合面24を構成する部分とが別体に形成され、組み合わされて互いに固定されて構成されたものであってもよい。
【0029】
図2に示されるように、上板部11は筐体10の他の部分から分離可能である。上板部11は筐体10の横側板部13と縦側板部14から上方(Z1方向)に向けて外され、下方(Z2方向)に向けて組み込まれる。上板部11の組付け方向は、電子部品4とヒートシンク20との重なり方向(Z1-Z2方向)に一致している。
【0030】
筐体10の上板部11に開口部15が形成されている。開口部15の開口形状は、ヒートシンク20の平面形状とほぼ相似形状である。開口部15の内縁は、横方向(X方向)の両側に位置する横辺15x,15xと、縦方向(Y方向)の両側に位置する縦辺15y,15yを有している。横辺15x,15xでは、上板部11を構成する板材の一部が下方(Z2方向)に向けて曲げられて、一対の横挿入部(横挿入片)16x,16xが形成されている。縦辺15y,15yにおいても、上板部11を構成する板材の一部が下方(Z2方向)に向けて曲げられて、一対の縦挿入部(縦挿入片)16y,16yが形成されている。開口部15の4か所の角部は、横挿入部16x,16xと縦挿入部16y,16yとが途切れた途切れ部17となっている。
【0031】
図3に、電子部品4とヒートシンク20および筐体10の一部である上板部11との相対位置が断面で示されている。電子部品4,5の接合面4a,5aにヒートシンク20の接合面24が密着している状態で、上板部11が筐体10に組み付けられると、ヒートシンク20のフィン23が、上板部11に形成された開口部15の内部を経て、上板部11の上面11aよりも上方に露出する。上板部11に形成された横挿入部16x,16xは、それぞれヒートシンク20の横凹部22x,22x内に上方から下向きに挿入され、縦挿入部16y,16yが、それぞれ縦凹部22y,22yに上方から下向きに挿入される。
【0032】
図3に示されるように、ヒートシンク20が電子部品4,5の接合面4a,5aに接合され、上板部11が筐体10の一部として組み立てられた状態で、横凹部22xの内部で横方向(X方向)に対向する内側面と横挿入部16xの両側部との間に隙間δx1,δx2が形成される。同様に、縦凹部22yの内部で縦方向(Y方向)に対向する内側面と縦挿入部16yの両側部との間にも、隙間δy1,δy2が形成される(隙間δy1,δy2は図示を省略する)。これら隙間δx1,δx2と隙間δy1,δy2は、電子部品4の寸法公差とヒートシンク20の寸法公差および筐体10の寸法公差、さらには電子機器1の組立公差などを加味したときに、横挿入部16x,16xがヒートシンク20に当たることがなく、縦挿入部16y,16yがヒートシンク20に当たることがないように設定される。
【0033】
また、横凹部22xと縦凹部22yの上下方向(Z1-Z2)の深さ寸法、および横挿入部16xと縦挿入部16yの上下方向(Z1-Z2方向)の高さ寸法は、電子部品4の寸法公差とヒートシンク20の寸法公差および筐体10の寸法公差、さらには電子機器1の組立公差などを加味したときに、電子機器1が組み立てられた状態で、上板部11とヒートシンク20とが上下方向で当たることがないように設定される。
【0034】
図3の断面図に示されるように、ヒートシンク20の横凹部22x,22xと、縦凹部22y,22yの内部に放熱材料41が充填されている。放熱材料41は、横凹部22xと縦凹部22yの内部で変形可能であり、さらに熱伝導率が通常のプラスチック材料よりも高い材料である。放熱材料41は、放熱グリス、放熱ゲル、弾性変形可能に硬化した放熱グリスあるいは放熱ポリマー、のいずれか1つまたは複数の組み合わせで構成されている。
【0035】
放熱グリスは、シリコーンまたは変性シリコーンなど、それ自体が熱伝導率の高いポリマーで構成される。または放熱グリスは、シリコーンまたは変性シリコーンに金属紛などのフィラーが混入されたもの、あるいはシリコーン系以外の油剤にフィラーが混入されたものである。放熱グリスの粘度は、無圧下の25℃で200(Pa・s)以上が好ましく、500(Pa・s)以上がさらに好ましい。放熱ゲルは、前記放熱グリスまたは放熱ポリマーが硬化しゲル化したものである。弾性変形可能に硬化した放熱グリスあるいは放熱ポリマーは、硬化剤により硬化した弾性体または粘弾性体である。弾性体または粘弾性体の硬度は、例えばJIS K 6253に準拠したタイプEの硬さ試験で得られた20-60の範囲である。放熱材料41の熱伝導率は、1(W/mK)以上が好ましく、2(W/mK)以上がさらに好ましい。また、熱伝導率はさらに高ければ高いほど放熱効果の点において好ましい。なお、各数値は、好ましい範囲を示したのみであり、本発明の放熱材料41の特性は前記数値に限られるものではない。
【0036】
好ましい実施形態の放熱材料41は、弾性変形可能に硬化した放熱グリスあるいは放熱ポリマーであり、積水ポリマテック株式会社のCGWシリーズ(登録商標)である。この製品は、2液性シリコーングリスで常温硬化型である。硬化後のタイプEの硬度が、20-50の範囲であり、熱伝導率が、2-5(W/mK)の範囲の特性のものが使用される。
【0037】
図3に示されるように、電子部品4の接合面4aおよび電子部品5の接合面5aと、ヒートシンク20接合面24とが、放熱材料42を介して接合されている。この放熱材料42は、横凹部22xと縦凹部22yに充填された放熱材料41と同種のものが使用される。
【0038】
図3に示されるように、横凹部22x、22x内では、横挿入部16xの両側の隙間δx1,δx2内に放熱材料41が充填され、縦凹部22y内でも、縦挿入部16yの両側の隙間δy1,δy2(図示せず)内に放熱材料41が充填されている。横挿入部16xと縦挿入部16yの外側に位置する隙間δx2と隙間δy2に充填されている放熱材料41の少なくとも一部が上板部11の下面11bに密着している。図2に示されている開口部15の4か所の角部は、横挿入部16x,16xと縦挿入部16y,16yとが途切れた途切れ部17となっているが、この途切れ部17にも横凹部22xと縦凹部22yが連続して位置している。この、角部に位置する横凹部22xと縦凹部22yの内部に放熱材料41が充填され、この放熱材料41の少なくとも一部が上板部11の下面に密着している。
【0039】
その結果、ヒートシンク20の横側部21x,21xと縦側部21y,21yおよび角部の全周囲において、ヒートシンク20と上板部11との隙間が放熱材料41で塞がれている。そのため、図1に示されるように、ヒートシンク20が開口部15から露出する構造であっても、ヒートシンク20と上板部11との隙間から筐体10の内部に、埃や水分が浸入するのを防止できるようになる。また、ヒートシンク20と上板部11との隙間が、高粘度の放熱グリスや放熱ゲル、または前記CGWシリーズなどのように弾性変形可能に硬化したゴム状の弾性体で塞がれているため、筐体10に外部振動が作用したときに、放熱材料41がクッション材として作用し、ヒートシンク20と上板部11とが不要に当たることがなく、ヒートシンク20を保護できるのみならずがたつき音の発生も防止しやすくなる。
【0040】
図1ないし図3に示される第1実施形態の電子機器1の組立工程の一例を説明する。図2に示されるように、支持板2の上に電子部品4,5が実装された実装基板3を固定し、電子部品4,5の上にヒートシンク20を設置した後に、支持板2を筐体10の内部に固定する。または、電子部品4,5が固定された支持板2を筐体10の内部に固定した後に、ヒートシンク20を電子部品4,5の上に設置してもよい。ヒートシンク20は、支持板2の上に位置決めされて、放熱材料42を介して、電子部品4,5の上面である接合面4a,5aに接合される。放熱材料42として、2液性シリコーングリスで常温硬化型を使用すると、ヒートシンク20は電子部品4,5の上に空気層を介することなく確実に密着して固定される。
【0041】
電子部品4,5の上に固定されたヒートシンク20の横凹部22x,22xおよび縦凹部22y,22yの内部に、放熱グリスや放熱ゲルなどの放熱材料41を充填し、その後に、上板部11を筐体10に組み込んで、上板部11を側板部13,14に固定する。上板部11は、上方から下方向(Z2方向)に向けて組み込まれ、この工程で、上板部11の横挿入部16x,16xが、ヒートシンク20の横凹部22x,22xの内部に挿入され、縦挿入部16y,16yが縦凹部22y,22yに挿入される。放熱材料41として、2液性シリコーングリスで常温硬化型を使用した場合には、各挿入部16x,16yが各凹部22x,22y内のシリコーングリス内に挿入された後に、シリコーングリスが硬化し、放熱材料41が、ゴム状に変性する。
【0042】
内部にヒートシンク20が位置決めされた筐体10に上板部11を固定するときに、ヒートシンク20の横凹部22xおよび縦凹部22yと、上板部11の横挿入部16xおよび縦挿入部16yとが、互いにX-Y方向とZ1-Z2方向で当たらないように、寸法公差と組立公差を加味してそれぞれの寸法が決められている。したがって、ヒートシンク20と上板部11が干渉することなく組立を完了でき、組立が完了した電子機器1では、ヒートシンク20と上板部11の双方に大きな応力が作用することがない。
【0043】
電子機器1が動作すると、パワーアンプや電源回路などを含む電子部品4,5から発熱するが、この熱は、電子部品4,5の接合面4a,5aから放熱材料42を伝わってヒートシンク20に与えられる。ヒートシンク20に蓄積される熱は、ヒートシンク20のフィン23から電子機器1の外部の空間に抄出される。また、ヒートシンク20に蓄積される熱は、放熱材料41を経て上板部11に伝達され、上板部11および筐体10の他の部分から外部空間に熱が放出される。
【0044】
ヒートシンク20と熱伝導率の高い放熱材料41とが、ヒートシンク20の周囲全周で密着し、またヒートシンク20の周囲全周で、放熱材料41と上板部11とが密着しているため、発熱部品である電子部品4,5からの熱は、ヒートシンク20から放熱材料41を経て上板部11に効率よく伝搬して、外部空間に放出されるようになる。
【0045】
図4ないし図6は、本発明の他の実施形態の電子機器を示すものであり、図3と同等の部分断面図である。図4に示される第2実施形態の電子機器では、ヒートシンク20の横方向(X方向)の両側に設けられた横凹部122x,122xの窪み方向が上方(Z1方向)である。上板部11では横挿入部116x,116xが上向きに折り曲げられ、それぞれの横挿入部116xが横凹部122xに上向きに挿入されて、横凹部122xに放熱材料41が充填されている。縦方向(Y方向)の両側に設けられた縦凹部と縦挿入部の形状も、横凹部122xおよび横挿入部116xと同じである。
【0046】
図5に示される第3実施形態の電子機器では、筐体10を構成している上板部11の開口部15の横方向(X方向)の縁部に、下向き(Z2方向)に窪む横凹部222x,222xが形成され、ヒートシンク20には下向きの横挿入部216x,216xが形成されている。電子機器が組み立てられるときに、横挿入部216x,216xが横凹部222x,222x内に下向きに挿入され、横凹部222x,222xと横挿入部216x,216xとの間に放熱材料41が充填される。縦方向の両側に位置する縦凹部と縦挿入部の構造も、横凹部222x,222xと横挿入部216x,216xと同じである。
【0047】
図6に示される第4実施形態の電子機器は、筐体10を構成している上板部11の開口部15の横方向(X方向)の縁部に、上向き(Z1方向)に窪む横凹部322x,322xが形成され、ヒートシンク20には上向きの横挿入部316x,316xが形成されている。横挿入部316x,316xが横凹部322x,322x内に上向きに挿入され、横凹部322x,322xと横挿入部316x,316xとの間に放熱材料41が充填されている。縦方向の両側に位置する縦凹部と縦挿入部の構造も図6に示される構造と同じである。
【0048】
なお、本発明の電子機器は、ヒートシンク20の側部に凹部と挿入部の両方が形成され、上板部11の開口部15の縁部にも凹部と挿入部の両方が形成されて、ヒートシンク20の挿入部が上板部11の凹部に挿入され、上板部11の挿入部がヒートシンクの凹部に挿入され、少なくとも一方の凹部に放熱材料41が充填された構造であってもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 電子機器
4,5 電子部品(発熱部品)
4a,4b 接合面
10 筐体
11 上板部
15 開口部
15x,15y 側辺
16x,16y 挿入部
20 ヒートシンク
22x,22y 凹部
41 放熱材料
116x,216x,316x 挿入部
122x,222x,322x 凹部
Z1-Z2 重なり方向
δx1、δx2 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6