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特開2023-160114アルミニウム合金鋳物の製造方法、焼入処理用冷却水の水質管理方法および焼入処理装置
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  • 特開-アルミニウム合金鋳物の製造方法、焼入処理用冷却水の水質管理方法および焼入処理装置 図1
  • 特開-アルミニウム合金鋳物の製造方法、焼入処理用冷却水の水質管理方法および焼入処理装置 図2
  • 特開-アルミニウム合金鋳物の製造方法、焼入処理用冷却水の水質管理方法および焼入処理装置 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160114
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】アルミニウム合金鋳物の製造方法、焼入処理用冷却水の水質管理方法および焼入処理装置
(51)【国際特許分類】
   C22F 1/04 20060101AFI20231026BHJP
   C21D 1/60 20060101ALI20231026BHJP
   C21D 1/63 20060101ALI20231026BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
C22F1/04 A
C21D1/60 A
C22F1/04 M
C21D1/63
C22F1/00 611
C22F1/00 692Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070219
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】521431099
【氏名又は名称】カワサキモータース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(74)【代理人】
【識別番号】100117662
【弁理士】
【氏名又は名称】竹下 明男
(74)【代理人】
【識別番号】100156177
【弁理士】
【氏名又は名称】池見 智治
(72)【発明者】
【氏名】竹中 一平
(72)【発明者】
【氏名】野々村 和政
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 良輔
(72)【発明者】
【氏名】山田 武
(57)【要約】
【課題】アルミニウム合金鋳物における白さびの発生を抑制することを目的とする。
【解決手段】アルミニウム合金鋳物の製造方法は、アルミニウム合金鋳物粗材を焼入処理してアルミニウム合金鋳物を製造する方法であって、前記焼入処理に用いられる水槽内の冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得て、前記測定値に基づいて、前記アルミニウム合金鋳物粗材を前記水槽内の前記冷却水に浸して、前記焼入処理を実施する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金鋳物粗材を焼入処理してアルミニウム合金鋳物を製造する方法であって、
前記焼入処理に用いられる水槽内の冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得て、
前記測定値に基づいて、前記アルミニウム合金鋳物粗材を前記水槽内の前記冷却水に浸して、前記焼入処理を実施する、アルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、
前記測定値として、塩化物イオン濃度に応じた指標値の第1測定値と、水酸化物イオン濃度に応じた指標値の第2測定値との少なくとも一方を得る、アルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、
前記測定値が、予め定める閾値以下に保たれた状態で、前記焼入処理を実施する、アルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載のアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、
前記測定値が前記閾値を超える場合には、前記陰イオン濃度に応じた指標値を低下させる調整処理を実施してから、前記焼入処理を実施する、アルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載のアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、
前記測定値として、塩化物イオン濃度の指標値の第1測定値及び水酸化物イオン濃度の指標値の第2測定値の両方を得て、
前記第1測定値及び前記第2測定値のいずれか一方でも前記閾値を超えた場合に、前記調整処理を実施する、アルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、
前記測定値は、電気伝導率及びpHの少なくとも一方である、アルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載のアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、
1回の焼入処理サイクル中に、間隔をあけて2回以上の前記測定値を得る、アルミニウム合金鋳物の製造方法。
【請求項8】
アルミニウム合金鋳物粗材の焼入処理に用いられる水槽内の冷却水を管理する方法であって、
前記冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得て、
前記測定値に基づいて、前記冷却水を管理する、焼入処理用冷却水の水質管理方法。
【請求項9】
アルミニウム合金鋳物粗材の焼入処理に用いられる冷却水を貯める水槽と、
前記水槽に貯まった前記冷却水に浸かる位置に配置された測定部を有し、前記冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得るセンサ群と、
前記測定値に基づく表示を行う表示装置と、
を備える、焼入処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、アルミニウム合金鋳物の製造方法、焼入処理用冷却水の水質管理方法および焼入処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、アルミニウム合金鍛造材の焼き入れ処理方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-248283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミニウム合金鋳物粗材の焼入処理を行う際、いわゆる白さびがまれに発生することがある。白さびが発生すると、補修や廃棄が必要となる場合があり、鋳造製品の歩留まりが低下してしまう。
【0005】
そこで本開示は、アルミニウム合金鋳物における白さびの発生を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、アルミニウム合金鋳物の製造方法は、アルミニウム合金鋳物粗材を焼入処理してアルミニウム合金鋳物を製造する方法であって、前記焼入処理に用いられる水槽内の冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得て、前記測定値に基づいて、前記アルミニウム合金鋳物粗材を前記水槽内の前記冷却水に浸して、前記焼入処理を実施する。
【0007】
また、焼入処理用冷却水の水質管理方法は、アルミニウム合金鋳物粗材の焼入処理に用いられる水槽内の冷却水を管理する方法であって、前記冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得て、前記測定値に基づいて、前記冷却水を管理する。
【0008】
また、焼入処理装置は、アルミニウム合金鋳物粗材の焼入処理に用いられる冷却水を貯める水槽と、前記水槽に貯まった前記冷却水に浸かる位置に配置された測定部を有し、前記冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得るセンサ群と、前記測定値に基づく表示を行う表示装置と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
アルミニウム合金鋳物における白さびの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】焼入処理前の冷却水と焼入処理後の冷却水とについての水質調査の結果を示す図である。
図2】焼入処理装置を示す部分断面図である。
図3】焼入処理装置を示す機能ブロック図である。
図4】焼入処理のサイクルと測定との関係を示すタイムチャートである。
図5】冷却水に係る焼入処理のサイクルを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態に係るアルミニウム合金鋳物の製造方法、焼入処理用冷却水の水質管理方法及び焼入処理装置について説明する。
【0012】
本開示のアルミニウム合金鋳物の製造方法は、アルミニウム合金鋳物粗材(以下、鋳物粗材ということがある)を焼入処理用冷却水(以下、冷却水ということがある)に浸して焼入処理してアルミニウム合金鋳物を製造する方法である。
【0013】
アルミニウム合金としては、特に限定されるものではなく、例えば、合金記号がAC4B(含銅シルミンとも呼ばれる)のアルミニウム合金などであってもよい。また、鋳造方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、高圧鋳造、低圧鋳造、及び重力鋳造などであってもよい。
【0014】
アルミニウム合金製品には、一般的に、アルミニウム合金粗材に加えられた加工及び熱処理などの処理(調質と呼ばれる)の内容を示した質別記号が付されることがある。ここでは、鋳物粗材の調質として、焼入処理を伴う熱処理が想定される。かかる調質の質別記号はT4、T6又はT7である。質別記号T4、T6及びT7の熱処理は、いずれも溶体化処理及び焼入処理を含む。質別記号T6及びT7の熱処理は、時効処理をさらに含む。質別記号T6及びT7の熱処理は、時効処理の仕方が異なる。T6の時効処理は、最大強度が得られるように加熱条件が定められる。一方、T7の時効処理は、T6よりも加熱時間を長くしたり、加熱温度を高くしたりしてT6の時効処理よりも過熱する。T6の熱処理が実施されたアルミニウム合金鋳物は、T7の熱処理が実施されたアルミニウム合金鋳物と比べて、強度の面で優れた特性を有する。T7の熱処理が実施されたアルミニウム合金鋳物は、T6の熱処理が実施されたアルミニウム合金鋳物と比べて、強度以外のある面、例えば寸法安定性などの面で優れた特性を有する。
【0015】
冷却水としては、一般的な水が想定されている。当該水は、純水である必要は無く、化学物質としての水(HO)以外の化学物質であって、自然界に存在する水に含まれる化学物質と同様の化学物質が含まれていてもよい。また、当該水は、中性である。ここでは中性とは、水素イオン指数(pH)が7である場合に限られず、例えば、pHが6から8の間など、一般に中性とみなせる範囲の値を示す場合も含む。
【0016】
アルミニウム合金の表面には、通常、アルミニウム酸化物(Al)の不動態被膜が形成されている。アルミニウム合金は、表面に当該不動態被膜があることによって、さびなどに対して高い耐性を有する。
【0017】
本願出願人は、焼入処理を行ったアルミニウム合金鋳物の表面に白い筋状の模様が発生することを確認した。本願出願人は、かかる白い筋状の模様が、ベーマイト、バイヤライト及びギブサイトなどのアルミニウム酸化物の水和物、いわゆる白さびであることを見出した。また、本願出願人は、アルミニウム合金の表面の不動態被膜の損傷が、当該白さび発生の一因であることを見出した。具体的には、アルミニウム合金の表面の不動態被膜よりも内部には、酸化物となっていないアルミニウム合金が存在する。そして、アルミニウム合金の表面の不動態被膜が損傷すると、アルミニウム合金の内部の非酸化物が露出して外部環境にさらされることによって、当該部分がアルミニウム酸化物の水和物である白さびとなると考えられる。
【0018】
さらに、本願出願人は、同じ冷却水を用いて焼入処理が繰り返されることによって冷却水の水質が変化することを見出した。具体的には、本願出願人は、焼入処理前の冷却水と繰り返し焼入処理が行われた後の冷却水とについて水質調査を行った。図1は、当該水質調査の結果を示す。図1に示されるように、焼入処理後の冷却水において、pH、電気伝導率、塩化物イオン濃度及び全アニオン濃度のいずれも、焼入処理前の冷却水よりも数値が上昇している。なお、図1におけるpH及び電気伝導率の値は、摂氏25度での値又は摂氏25度での値に相当するように補正した値である。
【0019】
そして、本願出願人は、当該数値の上昇が白さびの発生と関連があることを見出した。特に、塩化物イオン濃度、及び、pHの上昇が白さびの発生と関連が大きいことを見出した。すなわち、塩化物イオン濃度が高くなると、その分、塩化物イオンが多くなり、アルミニウム合金の表面の不動態被膜が損傷しやすいことを見出した。また、pHが高くなると、その分、水酸化物イオンが多くなり、アルミニウム合金の表面の不動態被膜が損傷しやすいことを見出した。
【0020】
本開示のアルミニウム合金鋳物の製造方法、焼入処理用冷却水の水質管理方法及び焼入処理装置は、これらの知見に基づきなされたものである。
【0021】
<焼入処理装置>
便宜上、焼入処理装置から先に説明する。図2は、焼入処理装置10を示す部分断面図である。図2では、焼入処理装置10が設置される床FLと、焼入処理装置10における水槽12のみが断面図とされる。図3は、焼入処理装置10を示す機能ブロック図である。
【0022】
焼入処理装置10は、鋳物粗材100を冷却水14に浸して焼入処理を行うための装置である。焼入処理装置10は、水槽12と粗材移動装置20と冷却水管理装置40と制御装置60とを備える。
【0023】
水槽12には冷却水14が貯まる。水槽12は、鋳物粗材100を冷却水14に対して出し入れするための開口13を有する。ここでは、水槽12の開口13は、水槽12の上部に鉛直上向きに形成される。水槽12は、鋳物粗材100が完全に冷却水14に浸かることができる深さを有する。水槽12は、床FLに空いた穴に配置されてもよい。水槽12上部が床FLと同じかそれよりも高い位置にあってもよい。水槽12内に所定量貯まった冷却水14の水面が、床FLと同じかそれよりも高い位置にあってもよい。
【0024】
粗材移動装置20は、鋳物粗材100を水槽12に対して移動させる。ここでは粗材移動装置20は、昇降装置21と搬出入装置30とを備える。
【0025】
昇降装置21は、水槽12の開口13を通じて、水槽12に貯まる冷却水14に対して鋳物粗材100を出し入れする。昇降装置21は、かご22と昇降駆動部23と支持フレーム26とを含む。
【0026】
かご22内に鋳物粗材100が配置される。かご22は、水槽12に対して昇降する。かご22は、水槽12の開口13を通じて、水槽12に対して出し入れされる。かご22が昇降方向における上方に位置するとき、かご22に対して鋳物粗材100が出し入れされる。かご22が昇降方向における下方に位置するとき、かご22及びかご22内の鋳物粗材100が冷却水14に浸される。ここでは複数の鋳物粗材100を収容するコンテナ102がかご22内に載置される。
【0027】
昇降駆動部23は、かご22を昇降駆動する。ここでは昇降駆動部23が昇降モータ24とロープ25とを有するロープ式の昇降駆動部23である例で説明される。昇降駆動部23は、油圧式の昇降駆動部などであってもよい。ロープ25の一端がかご22に接続される。ロープ25の他端にはおもりが設けられる。ロープの中間部は滑車に支持される。昇降モータ24によってロープが巻き上げられることによってかご22が昇降する。図2では、上昇位置にあるかご22が実線で示され、下降位置にあるかご22が二点鎖線で示されている。
【0028】
支持フレーム26は、かご22及び昇降駆動部23を支持する。例えば、支持フレーム26は、ガイドレール27、上部フレーム28及び脚フレーム29を含む。ガイドレール27は、かご22の昇降方向に沿って延びる。ガイドレール27は、水槽12の開口13を通じて、水槽12の内外に延びる。ガイドレール27の下端は水槽12内に位置し、ガイドレール27の上端は水槽12よりも上方に位置する。ガイドレール27は、かご22の昇降移動をガイドする。上部フレーム28は、ガイドレール27の上部を支持する。また、上部フレーム28にかご22及び昇降駆動部23が支持される。例えば、昇降モータ24及び滑車が上部フレーム28に支持され、滑車に支持されるロープ25を介してかご22及びおもりが吊り下げ支持される。脚フレーム29は、ガイドレール27から側方に延び、床FLに支持される。
【0029】
搬出入装置30は、かご22に対して鋳物粗材100を出し入れする。ここでは搬出入装置30は、かご22に設置される例で説明される。従って、搬出入装置30は、かご22と共に昇降移動する。図2では、下降位置にあるかご22に対して搬出入装置30の記載が省略されている。搬出入装置30は、かご22に設置されずに、かご22の外側からかご22に対して鋳物粗材100を出し入れするように構成されてもよい。搬出入装置30は、複数のローラ31とローラ駆動部32とを含むローラコンベヤである例で説明される。
【0030】
複数のローラ31はかご22内に配置される。複数のローラ31はそれぞれ回転可能に支持されている。複数のローラ31の回転軸が互いに平行となるように、複数のローラ31が配置される。かご22内において、複数のローラ31上に鋳物粗材100が載置される。複数のローラ31が回転することによって、鋳物粗材100を積載したコンテナ102が複数のローラ31上を移動する。
【0031】
ローラ駆動部32は、複数のローラ31のうち少なくとも1つを回転駆動する。ローラ駆動部32は、例えば、搬出入モータ33と環状ベルト34とを有する。搬出入モータ33はかご22の上部に設置されている。環状ベルト34は、例えば、搬出入モータ33の回転軸に設けられたスプロケット及びローラ31の回転軸に設けられたスプロケットに巻きかけられて、搬出入モータ33の回転力をローラ31に伝える。
【0032】
冷却水管理装置40は、水槽12内の冷却水14を焼入処理に適した状態に管理するための装置である。冷却水管理装置40は、水量管理装置42と水温管理装置46と水質管理装置50とを備える。
【0033】
水量管理装置42は、水槽12内の冷却水14の水量を焼入処理に適した状態に管理するための装置である。水量管理装置42は、給水装置43と排水装置44とを備える。
【0034】
給水装置43は、水槽12に冷却水14を供給する。給水装置43は、水槽12に備え付けであってもよい。給水装置43は、水槽12とは別に設けられて、給水が必要な時に水槽12に設置され、給水が不要な時に水槽12から取り外されるように構成されてもよい。給水装置43は、給水管及び給水バルブなどによって構成されてもよい。
【0035】
排水装置44は、水槽12内の冷却水14を排水する。排水装置44は、水槽12に備え付けであってもよい。排水装置44は、水槽12とは別に設けられて、排水が必要な時に水槽12に設置され、排水が不要な時に水槽12から取り外されるように構成されてもよい。排水装置44は、排水管及び排水バルブなどによって構成されてもよい。排水装置44は、バキューム装置などによって構成されてもよい。
【0036】
例えば、上記質別記号T6及びT7における焼入処理では、溶体化処理において摂氏500度ほどの温度に加熱された鋳物粗材100が、水槽12内に入れられる。このため、焼入処理時に冷却水14が沸騰、蒸発して、冷却水14の水量が減少し得る。焼入処理開始時に冷却水14が所定量となるように給水装置43によって給水されて、冷却水14の水量が管理される。また、焼入処理を繰り返すことによって上述のように水質が変化する。排水装置44によって冷却水14が排水されることによって、冷却水14の交換が可能となる。水量管理装置42における給水及び排水の制御は、制御装置60によって行われてもよいし、作業者によって行われてもよい。
【0037】
水温管理装置46は、水槽12内の冷却水14の水温を焼入処理に適した状態に管理するための装置である。水温管理装置46は温度センサ47とヒータ48とを備える。温度センサ47は水槽12内の冷却水14の温度を測定する。ヒータ48は水槽12内の冷却水14を温める。ヒータ48は水槽12の外に設けられて水槽12を温めるように構成されてもよい。ヒータ48は水槽12の中に設けられて冷却水14を直接温めるように構成されてもよい。
【0038】
例えば、冷却水14は、給水装置43によって給水されたときの温度よりも高い温度で、焼入処理が行われる。上述のように、焼入処理時に冷却水14の水量が減った場合、減った分の冷却水14が給水装置43によって給水される。これにより、水槽12内の冷却水14の温度が下がる。当該温度低下に応じた分、ヒータ48によって水槽12内の冷却水14が温められる。水温管理装置46の制御は、制御装置60によって行われてもよいし、作業者によって行われてもよい。なお、水温管理装置46は省略されてもよい。
【0039】
水質管理装置50は、水槽12内の冷却水14の水質を焼入処理に適した状態に管理するための装置である。水質管理装置50は、センサ群51と表示装置54とを備える。
【0040】
センサ群51は、少なくとも1種類のセンサを含む。当該センサは、水槽12内の冷却水14の陰イオン濃度に応じた指標値を測定する。ここではセンサ群51は、電気伝導率センサ52と、pHセンサ53とを含む。
【0041】
電気伝導率センサ52は、冷却水14の電気伝導率を測定する。例えば、電気伝導率センサ52は、電極式の電気伝導率センサである。この場合、電気伝導率センサ52は、電極などが設けられた測定部52aを含む。当該測定部52aを冷却水14に浸した状態で、測定部52aに電流を流すことによって、冷却水14の電気伝導率が測定される。電気伝導率センサ52は、電磁誘導式の電気伝導率センサなどであってもよい。
【0042】
pHセンサ53は、冷却水14のpHを測定する。例えば、pHセンサ53は、電極式のpHセンサである。この場合、pHセンサ53は、電極などが設けられた測定部53aを含む。当該測定部53aを冷却水14に浸した状態で、測定部53aに電流を流すことによって、冷却水14のpHが測定される。pHセンサ53は、半導体センサ式のpHセンサなどであってもよい。
【0043】
ここで監視したい陰イオン濃度としては、全アニオン濃度、塩化物イオン濃度、水酸化物イオン濃度などが想定される。陰イオン濃度に応じた指標値としては、陰イオン濃度そのものであってもよいし、陰イオン濃度と相関関係のある値であってもよい。
【0044】
例えば、全アニオン濃度又は塩化物イオン濃度を監視する場合、上記調査結果に示すように、全アニオン濃度又は塩化物イオン濃度を直接的に測定してもよい。しかしながら、全アニオン濃度又は塩化物イオン濃度の直接的な測定には沈殿などが伴う場合が多く、連続的な測定が容易ではない。
【0045】
そこで、本実施形態では、全アニオン濃度又は塩化物イオン濃度に応じた指標値として、電気伝導率が採用されている。ここで、溶液の濃度が低い場合、イオン濃度が高くなると、電気伝導率が高くなることが知られている。ここでは焼入処理開始前の冷却水14が上水であるため、溶液の濃度が低い場合に相当することから、電気伝導率は全アニオン濃度と相関関係にあり、全アニオン濃度の指標値として用いることができる。また、ここでは、全アニオン濃度の変化は、主に焼入処理時の冷却水14の蒸発に伴う濃縮によって生じるものと考えられることから、陰イオン濃度は塩化物イオン濃度と相関関係にあると言える。このため、電気伝導率は塩化物イオン濃度と相関関係にあり、塩化物イオン濃度の指標値として用いることができる。また、電気伝導率の測定は、冷却水14に浸された測定部52aに電流を流すことによって行われるため、連続的な測定が容易である。また、一定周期での自動測定も可能な電気伝導率センサ52であれば、全アニオン濃度又は塩化物イオン濃度を監視しやすい。
【0046】
また例えば、水酸化物イオンの場合、水酸化物イオン濃度に応じた指標値として、pHが採用されてもよい。pHは、水素イオン濃度指数とも呼ばれ、水素イオン濃度と相関関係のある値である。また、水素イオン濃度と水酸化物イオン濃度とは相関関係のある値としてよく知られている。このため、pHは、水酸化物イオン濃度と相関関係のある値と言える。そして、pHの測定は、冷却水14に浸されたpHセンサ53の測定部53aに電流を流すことによって行われるため、連続的な測定が容易である。また、一定周期での自動測定も可能なpHセンサ53であれば、水酸化物イオン濃度を監視しやすい。
【0047】
表示装置54は、センサ群51の測定値に基づく表示を行う。表示装置54は、液晶表示装置、有機EL(Electro-luminescence)表示装置等であってもよい。表示装置54として、スマートフォン、タブレット端末等に設けられた表示装置等が用いられてもよい。センサ群51の測定値に基づく表示として、図2では、センサ群51の測定値そのままの表示がされている。
【0048】
センサ群51の測定値に基づく表示としては、センサ群51の測定値そのままの表示である必要は無く、例えば、センサ群51の測定値が予め定められた閾値を超えたことを示す表示であってもよい。閾値は、一段階のみ設定されていてもよいし、複数段階設定されていてもよい。ここでは閾値として、電気伝導率に対応する閾値と、pHに対応する閾値とがそれぞれ設定される。閾値は、鋳物粗材100の表面の不動態被膜が損傷して、非酸化層が露出する程度の値である。閾値は、経験的、実験的に求められる。例えば、電気伝導率に対応する閾値は、1000mS/mから1400mS/mの間から選択されてもよい。また、pHに対応する閾値は、8から10の間から選択されてもよい。
【0049】
制御装置60は、センサ群51の測定値を取得する。また制御装置60は、当該測定値に基づく表示を行うよう表示装置54を制御している。なお、制御装置60とセンサ群51とは有線接続されてもよいし、無線接続されてもよい。制御装置60と表示装置54とについても同様である。制御装置60は、測定値と閾値とを比較し、測定値が閾値超えか判断してもよい。
【0050】
制御装置60は、CPU等のプロセッサ61、記憶装置62等を含むコンピュータによって構成されている。プロセッサ61は、演算回路を含む。プロセッサ61は、測定値を取得し、当該測定値を表示装置54に表示させる処理を行う。プロセッサ61は、測定値が閾値を超えたかどうかを判定する処理を行ってもよい。記憶装置62は、HDD(hard disk drive)、SSD(Solid-state drive)等の不揮発性記憶装置によって構成されている。記憶装置62には、プログラム63、取得データ64が記憶される。
【0051】
プログラム63には、プロセッサ61が処理部としての機能を実現するための処理が記述されている。よって、プロセッサ61が記憶装置62等に保存されたプログラム63に記述された処理を実行することによって、処理部としての処理が実行される。プロセッサ61は、1つであってもよいし、複数であってもよい。複数のプロセッサ61は、1つのコンピュータに組込まれていてもよい。複数のプロセッサ61が、複数のコンピュータに組込まれており、複数のコンピュータが処理部としての処理を分散して行ってもよい。
【0052】
取得データ64は、測定値及び閾値などである。測定値は、ロットに対応する管理番号と共に記憶装置62に記憶され、トレーサビリティに利用されてもよい。これにより、仮に鋳物製品に白さびが生じた場合、当該鋳物製品の管理番号から当該鋳物製品の焼入処理に用いた冷却水14にかかる測定値を調べることができる。当該冷却水14の水質に基づいて閾値の見直しを検討することによって、白さびの発生をより抑制できる可能性が高まる。
【0053】
制御装置60は、制御装置60に対する利用者からの諸指示を受付ける入力装置を備えていてもよい。入力装置は、複数のスイッチを含むキーボード、マウス、タッチパネル等であってもよい。制御装置60は、外部のサーバなどと通信を行う通信装置を備えていてもよい。測定値は、通信装置を介して外部のサーバに送られ、外部のサーバにおいて、他の焼入処理装置における測定値と共に記憶されていてもよい。
【0054】
焼入処理装置10の全部の制御が、制御装置60によってなされてもよいし、一部の制御が制御装置60によってなされ、他の一部の制御が作業者によってなされてもよい。
【0055】
制御装置60において、本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するよう構成またはプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、および/または、それらの組み合わせ、を含む回路または処理回路を使用して実行できる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路または回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、または手段は、列挙された機能を実行するハードウエアであるか、または、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウエアである。ハードウエアは、本明細書に開示されているハードウエアであってもよいし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラムまたは構成されているその他の既知のハードウエアであってもよい。ハードウエアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、またはユニットはハードウエアとソフトウエアの組み合わせであり、ソフトウエアはハードウエアおよび/またはプロセッサの構成に使用される。
【0056】
<焼入処理のサイクルについて>
上記焼入処理装置10を用いた焼入処理のサイクルについて説明する。図4は、焼入処理のサイクルと測定との関係を示すタイムチャートである。
【0057】
鋳物粗材100について着目すると、焼入処理装置10において、鋳物粗材100が搬入され、搬入された鋳物粗材100に焼入処理を実施し、焼入処理された鋳物粗材100を搬出するまでが1サイクルである。搬入は、上記搬出入装置30によってかご22内に鋳物粗材100が入れられる動作である。また、焼入処理は、上記昇降装置21によって、かご22を降ろして鋳物粗材100を冷却水14に入れた後、所定時間経過後にかご22を上げて鋳物粗材100を冷却水14から出す動作である。搬出は、上記搬出入装置30によってかご22から鋳物粗材100が出される動作である。焼入処理が完了した鋳物粗材100の搬出と、これから焼入処理を行う鋳物粗材100の搬入とをまとめて、鋳物粗材100の入替とすると、焼入処理及び入替が1サイクルとみなすことができる。図4の下段には、当該焼入処理及び入替のサイクルが記載されている。
【0058】
当該鋳物粗材100の入替の最中に冷却水14の調整が行われる。従って、冷却水14について着目すると、焼入処理及び調整が1サイクルである。図4の上段には、当該焼入処理及び調整のサイクルが記載されている。当該調整として、水質調整及び水量調整、水温調整などが想定される。
【0059】
また、図4に示すように、焼入処理のサイクル中に、センサ群51による測定が行われる。ここでは、電気伝導率センサ52及びpHセンサ53による測定が行われる。ここでは、焼入処理の1サイクルにかかる標準的な時間の間に、2回以上測定が行われる。測定は、例えば、一定周期で、自動で行われてもよい。この場合、測定の周期は、焼入処理の1サイクルにかかる標準的な時間の半分と同じかそれよりも短い。制御装置60は、繰り返し取得される測定値のうち直近の測定値に基づく表示を行うように表示装置54を制御してもよい。
【0060】
<アルミニウム合金鋳物の製造方法>
アルミニウム合金鋳物の製造方法について説明する。図5は、冷却水14に係る焼入処理のサイクルを示すフローチャートである。
【0061】
図5のステップS1において、焼入処理に用いられる水槽12内の冷却水14の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得る。ここでは測定値として、塩化物イオン濃度に応じた指標値の第1測定値と、水酸化物イオン濃度に応じた指標値の第2測定値との少なくとも一方を得る。電気伝導率は、塩化物イオン濃度に応じた指標値とみなすことができ、電気伝導率の測定値を第1測定値とみなすことができる。また、pHは、水酸化物イオン濃度に応じた指標値とみなすことができ、pHの測定値を第2測定値とみなすことができる。
【0062】
ここでは測定値として、第1測定値としての電気伝導率の測定値と、第2測定値としてのpHの測定値との両方を得る。なお、測定値を得るとは、直接測定する場合のほか、相関関係のある測定値から計算して求める場合を含む。例えば、電気伝導率の場合、電気伝導率を直接測定する場合のほか、電気抵抗率を測定し、その逆数を電気伝導率の測定値としてもよい。
【0063】
ここでは、電気伝導率センサ52及びpHセンサ53が、焼入処理のサイクル中に電気伝導率及びpHを自動測定する。またここでは、電気伝導率センサ52及びpHセンサ53が、1回の焼入処理サイクル中に、間隔をあけて2回以上測定する。従ってここでは、1回の焼入処理サイクル中に、2回以上の第1測定値及び2回以上の第2測定値が自動で得られる。
【0064】
ステップS1で取得された測定値に基づいて、アルミニウム合金鋳物粗材100を水槽12内の冷却水14に浸して、焼入処理を実施する。
【0065】
具体的には、ステップS2において、測定値が閾値を超えているか判定する。測定値が閾値を超えていると判定した場合、ステップS3に進み、超えていないと判定した場合、ステップS4に進む。ここでは、当該判定は、作業者によって行われる。具体的には、図1に示すように、ステップS1で取得された第1測定値及び第2測定値のうち直近の値が、上記表示装置54に表示される。作業者は、当該表示を確認して、測定値が閾値を越えているか判定する。もっとも当該判定は、制御装置60がしてもよい。
【0066】
また、ここでは、第1測定値及び第2測定値のいずれか一方でも閾値を超えた場合に、測定値が閾値を超えていると判定してステップS3に進む。また、第1測定値及び第2測定値の両方が閾値を超えていない場合に、測定値が閾値を超えていないと判定してステップS4に進む。なお、第1測定値及び第2測定値の両方が対応する閾値を超えていた場合に測定値が閾値を超えていると判定してステップS3に進み、第1測定値及び第2測定値のいずれか一方でも対応する閾値を超えていない場合は、測定値が閾値を超えていないと判定してステップS4に進んでもよい。
【0067】
ステップS3において、水質調整を行う。水質調整は、陰イオン濃度に応じた指標値を調整するための処理である。ここでは、水質調整として、冷却水14の交換を行う。まず、排水装置44によって冷却水14が排水される。そして、給水装置43によって新しい冷却水14として、図1の焼入処理前の水質と同様の水質を有する冷却水が給水される。これにより、比較的電気伝導率及びpHの高い冷却水14が排水されて、比較的電気伝導率及びpHの低い冷却水14が給水されることによって、電気伝導率及びpHの両方を下げることができる。
【0068】
冷却水14の交換は、全量交換であってもよいし、一部交換であってもよい。また、全量交換と一部交換とを組み合わせてもよい。例えば、全量交換を手配しても、排水タンクなどの関係で、すぐに全量交換できない場合があり得る。この場合、全量交換が可能となるまでのつなぎとして、一部の冷却水14が交換されてもよい。一部交換する場合の交換量は、例えば、1割から3割であってもよい。
【0069】
全量交換と一部交換とを組み合わせる場合、第1段階の閾値と、第1段階の閾値よりも高い第2段階の閾値とを設けて、以下のように処理してもよい。すなわち、ステップS2の閾値として、まず第1段階の閾値で判定され、第1段階の閾値を超えたときに全量交換を手配しつつ、ステップS2における閾値として第2段階の閾値を用いて焼入処理サイクルを繰り返す。そして、全量交換可能となるまでの間、ステップS2において第2段階の閾値を超えたときに、一部の冷却水14が交換され、焼入処理サイクルが続けられてもよい。
【0070】
水質調整として、水交換以外の処理が行われてもよい。例えば、pHを調整するための処理として、冷却水14に中和剤の投入が行われてもよい。本実施形態では、中和対象の冷却水14が塩基性であるため、投入される中和剤として、酸が想定される。係る酸として、食品添加物にも使用可能なクエン酸などの酸が好ましい。塩化物イオン濃度に応じた指標値を調整するための処理として、ろ過などで陰イオンなどの不純物を除くことも考えられる。
【0071】
水質調整が完了したら、ステップS4に進む。
【0072】
ステップS4において、水量調整及び水温調整を行う。水量調整は、給水装置43を用いて、蒸発等で減った分の冷却水14を補充する処理などである。ステップS3において、冷却水14の交換がされた場合、水量調整は省略されてもよい。水温調整は、冷却水14の交換、水量調整などで下がった水温をヒータ48によって上げる処理などである。水量調整及び水温調整が完了したら、ステップS5に進む。この際、冷却水14の状態は、焼入処理に適した状態となっている。
【0073】
ステップS5において、焼入処理が実施される。このとき、焼入処理に適した状態の冷却水14を用いて焼入処理が行われる。
【0074】
ここでは、ステップS2を経ているため、測定値が予め定める閾値以下に保たれた状態で、ステップS5の焼入処理が実施される。
【0075】
またここでは、ステップS2においてセンサ群51の測定値が閾値を超える場合に移行するステップS3において、陰イオン濃度に応じた指標値を低下させる調整処理としての水質調整が実施されてから、ステップS5の焼入処理が実施される。
【0076】
ステップS1からステップS4は、焼入処理用冷却水14の水質管理方法と認識されてもよい。焼入処理用冷却水14の水質管理方法は、アルミニウム合金鋳物粗材100の焼入処理に用いられる水槽12内の冷却水14を管理する方法である。当該水質管理方法において、冷却水14の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得て、測定値に基づいて、冷却水14を管理する。
【0077】
本実施形態によると、冷却水14の陰イオン濃度に応じた指標値と、焼入処理後の白さびの発生とに相関関係があることを見出し、陰イオン濃度に応じた指標値の測定値に異常が認められた場合に、陰イオン濃度に応じた指標値を調整するための処理を施すことによって、アルミニウム合金鋳物における白さびの発生を抑制できる。
【0078】
かかるアルミニウム合金鋳物製品としては、特に限定されるものではないが、例えば、自動二輪車などの鞍乗り型乗物の部品であってもよい。鞍乗り型乗物の場合、特に表面の美観が重要である。鞍乗り型乗物のアルミニウム合金鋳物製品において、白さびの発生を抑制できることによって、鞍乗り型乗物の表面の美観が損なわれることを抑制できる。
【0079】
また、塩化物イオン濃度に応じた指標値又は水素イオン指数の測定値に異常が認められない場合は冷却水14をそのまま使用できるため、塩化物イオン濃度に応じた指標値又は水素イオン指数を測定せずに定期的に冷却水14の交換などを行う場合と比べて、水交換頻度を少なくでき得る。
【0080】
また、陰イオンの中でも、特に、塩化物イオン濃度に応じた指標値及び水酸化物イオン濃度に応じた指標値が、焼入処理後の白さびの発生と相関関係があることを見出し、塩化物イオン濃度に応じた指標値又は水酸化物イオン濃度に応じた指標値の測定値に異常が認められた場合に、塩化物イオン濃度に応じた指標値又は水酸化物イオン濃度に応じた指標値を調整するための処理を施すことによって、白さびの発生を抑制できる。
【0081】
また、センサ群51の測定値が、予め定める閾値以下に保たれた状態で、焼入処理を実施する。この場合、冷却水14の陰イオン濃度に応じた指標値が高い状態で焼入処理が行われることが抑制されるため、白さびの発生を抑制できる。
【0082】
また、センサ群51の測定値が閾値を超える場合には、陰イオン濃度に応じた指標値を低下させる調整処理を実施してから、焼入処理を実施する。この場合、陰イオン濃度に応じた指標値を閾値以下に保つことができる。
【0083】
また、センサ群51の測定値として、塩化物イオン濃度の指標値の第1測定値及び水酸化物イオン濃度の指標値の第2測定値の両方を得て、第1測定値及び第2測定値のいずれか一方でも閾値を超えた場合に、調整処理を実施する。この場合、冷却水14を厳しい基準で管理することで、白さびの発生抑制効果が高まる。
【0084】
測定値は、電気伝導率及びpHの少なくとも一方である。この場合、比較的簡便に陰イオン濃度に応じた指標値を測定することができる。
【0085】
また、1回の焼入処理サイクル中に、間隔をあけて2回以上のセンサ群51の測定値を得る。2回以上の測定値のうちの少なくとも1回の測定値は、焼入処理直前以外に得られるため、焼入直前以外に水質調整を行う機会が得られ、焼入直前に水質調整する場合に比べて、焼き入れ完了までの時間の延長が長くなることを防ぐことができる。
【0086】
<変形例>
これまで、陰イオン濃度に応じた指標値の測定値として、電気伝導率及びpHを測定するものとして説明されたが、このことは必須の構成ではない。当該測定値として、例えば、透過光濁度などの濁度が測定されてもよい。すなわち、本願出願人は、図1に示す水質調査時に、濁度についても調査したところ、処理前の冷却水で1度・カオリン未満だった濁度が、処理後の冷却水において、120度・カオリンと上昇したことを見出した。そして、濁度の変化は、陰イオン濃度の変化と相関関係にあるものと考えられる。
【0087】
またこれまで、電気伝導率センサ52及びpHセンサ53が、電気伝導率及びpHを自動測定するものとして説明されたが、このことは必須の構成ではない。電気伝導率及びpHの少なくとも一方について、作業者が、逐一測定してもよい。
【0088】
またこれまで、閾値を超えたかどうかの判定が、焼入処理の各サイクルにおいてされるものとして説明されたが、このことは必須の構成ではない。閾値を超えたかどうかの判定が、複数のサイクルに1回行われてもよい。陰イオン濃度に応じた指標値の測定値の変化が少ない場合などに好適である。
【0089】
なお、上記実施形態及び各変形例で説明した各構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせることができる。
【0090】
本明細書及び図面は、下記の各態様を開示する。
【0091】
第1の態様に係るアルミニウム合金鋳物の製造方法は、アルミニウム合金鋳物粗材を焼入処理してアルミニウム合金鋳物を製造する方法であって、前記焼入処理に用いられる水槽内の冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得て、前記測定値に基づいて、前記アルミニウム合金鋳物粗材を前記水槽内の前記冷却水に浸して、前記焼入処理を実施する、アルミニウム合金鋳物の製造方法である。
【0092】
第1の態様によると、冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値と、焼入処理後の白さびの発生とに相関関係があることを見出し、陰イオン濃度に応じた指標値の測定値に異常が認められた場合に、陰イオン濃度に応じた指標値を調整するための処理を施すことによって、白さびの発生を抑制できる。
【0093】
第2の態様は、第1の態様に係るアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、前記測定値として、塩化物イオン濃度に応じた指標値の第1測定値と、水酸化物イオン濃度に応じた指標値の第2測定値との少なくとも一方を得る。陰イオンの中でも、特に、塩化物イオン濃度に応じた指標値及び水酸化物イオン濃度に応じた指標値が、焼入処理後の白さびの発生と相関関係があることを見出し、塩化物イオン濃度に応じた指標値又は水酸化物イオン濃度に応じた指標値の測定値に異常が認められた場合に、塩化物イオン濃度に応じた指標値又は水酸化物イオン濃度に応じた指標値を調整するための処理を施すことによって、白さびの発生を抑制できる。
【0094】
第3の態様は、第1又は第2の態様に係るアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、前記測定値が、予め定める閾値以下に保たれた状態で、前記焼入処理を実施する。この場合、冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値が高い状態で焼入処理が行われることが抑制されるため、白さびの発生を抑制できる。
【0095】
第4の態様は、第3の態様に係るアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、前記測定値が前記閾値を超える場合には、前記陰イオン濃度に応じた指標値を低下させる調整処理を実施してから、前記焼入処理を実施する。この場合、陰イオン濃度に応じた指標値を閾値以下に保つことができる。
【0096】
第5の態様は、第4の態様に係るアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、前記測定値として、塩化物イオン濃度の指標値の第1測定値及び水酸化物イオン濃度の指標値の第2測定値の両方を得て、前記第1測定値及び前記第2測定値のいずれか一方でも前記閾値を超えた場合に、前記調整処理を実施する。この場合、冷却水を厳しい基準で管理することで、白さびの発生抑制効果が高まる。
【0097】
第6の態様は、第1から第5のいずれか1つの態様に係るアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、前記測定値は、電気伝導率及びpHの少なくとも一方である。この場合、比較的簡便に陰イオン濃度に応じた指標値を測定することができる。
【0098】
第7の態様は、第1から第6のいずれか1つの態様に係るアルミニウム合金鋳物の製造方法であって、1回の焼入処理サイクル中に、間隔をあけて2回以上の前記測定値を得る。この場合、2回以上の測定値のうちの少なくとも1回の測定値は、焼入直前以外に得られるため、焼入直前以外に水質調整を行う機会が得られ、焼入直前に水質調整する場合に比べて、焼き入れ完了までの時間が延長することを防ぐことができる。
【0099】
第8の態様は、アルミニウム合金鋳物粗材の焼入処理に用いられる水槽内の冷却水を管理する方法であって、前記冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得て、前記測定値に基づいて、前記冷却水を管理する、焼入処理用冷却水の水質管理方法である。
【0100】
第8の態様によると、冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値と、焼入処理後の白さびの発生とに相関関係があることを見出し、白さびの発生と相関関係のある冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得て、当該測定値に基づいて冷却水を管理することによって、白さびの発生を抑制できる。
【0101】
第9の態様は、アルミニウム合金鋳物粗材の焼入処理に用いられる冷却水を貯める水槽と、前記水槽に貯まった前記冷却水に浸かる位置に配置された測定部を有し、前記冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値の測定値を得るセンサ群と、前記測定値に基づく表示を行う表示装置と、を備える、焼入処理装置である。
【0102】
第9の態様によると、冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値と、焼入処理後の白さびの発生とに相関関係があることを見出し、白さびの発生と相関関係のある冷却水の陰イオン濃度に応じた指標値をセンサ群によって測定して表示装置によって表示することによって、作業者が陰イオン濃度に応じた指標値の現況を確認しやすくなり、当該測定値に応じて冷却水を管理することによって、白さびの発生を抑制できる。
【0103】
上記した説明は、すべての局面において、例示であって、この発明がそれに限定されるものではない。例示されていない無数の変形例が、この発明の範囲から外れることなく想定され得るものと解される。
【符号の説明】
【0104】
10 焼入処理装置
12 水槽
14 焼入処理用冷却水
20 粗材移動装置
21 昇降装置
30 搬出入装置
40 冷却水管理装置
42 水量管理装置
43 給水装置
44 排水装置
46 水温管理装置
47 温度センサ
48 ヒータ
50 水質管理装置
51 センサ群
52 電気伝導率センサ
52a 測定部
53 pHセンサ
53a 測定部
54 表示装置
60 制御装置
100 アルミニウム合金鋳物粗材
102 コンテナ
図1
図2
図3
図4
図5