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2023-160120熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160120
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 13/04 20060101AFI20231026BHJP
   F28F 19/00 20060101ALI20231026BHJP
   F22B 37/56 20060101ALI20231026BHJP
   C02F 5/00 20230101ALI20231026BHJP
   C02F 5/08 20230101ALI20231026BHJP
   C02F 5/10 20230101ALI20231026BHJP
【FI】
F28F13/04
F28F19/00 511A
F28F19/00 501Z
F28F19/00 501A
F28F19/00 511Z
F22B37/56 Z
C02F5/00 610E
C02F5/00 610F
C02F5/00 620B
C02F5/00 620C
C02F5/00 620D
C02F5/08 F
C02F5/10 620A
C02F5/10 620E
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070234
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】森 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】内田 和義
(57)【要約】
【課題】熱交換器の総括伝熱係数を大きくし、また、蒸気使用箇所のみならず、その前後の工程を含む全体の工程の進捗度を把握することができる。
【解決手段】蒸気を熱源流体とする熱交換器を有した熱交換工程を含む生産プロセスの生産性を向上させる方法であって、該蒸気を発生させるボイラの給水又は該蒸気に滴状凝縮促進剤を添加して生産プロセスの生産性を向上させる方法において、滴状凝縮促進剤を添加することによる該熱交換器の昇温時間短縮度を測定して、全体の生産プロセスの調整を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気を熱源流体とする熱交換器を有した熱交換工程を含む生産プロセスの生産性を向上させる方法であって、
該蒸気を発生させるボイラの給水又は該蒸気に滴状凝縮促進剤を添加して生産プロセスの生産性を向上させる方法において、
滴状凝縮促進剤を添加することによる該熱交換器の昇温時間短縮度を測定して、全体の生産プロセスの調整を行うことを特徴とする熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項2】
前記熱交換器の昇温時間の短縮度は、該熱交換器の冷間起動の際の昇温時間の短縮度であることを特徴とする請求項1の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項3】
測定された昇温時間短縮度に基づいて、各工程の稼働状況(作業工数、作業人員、又は投入エネルギー)を調整することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項4】
滴状凝縮促進剤が揮発性滴状凝縮促進剤であることを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項5】
前記滴状凝縮促進剤が防食性能を有することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項6】
前記ボイラ給水又は蒸気にpH調整剤又は脱酸素剤を添加することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項7】
前記熱交換器において、蒸気による熱交換工程と冷水による冷却工程とを行う方法であって、該冷却工程では、滴状凝縮促進剤の撥水性によって熱交換器内に残存する冷水を排出促進させることで溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項8】
前記熱交換器からの凝縮水をボイラに回収する場合、凝縮水に含まれるスケール成分がボイラ内でスケール化することを防止するために、ボイラ給水にスケール防止剤を添加することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項9】
スケール防止剤がポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、及びリン酸塩のいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項8の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項10】
滴状凝縮促進剤が、オレイルアミン、オクタデシルアミン、オレイルプロパンジアミン、アゼライン酸とその塩、サルコシン誘導体、ポリソルベートのいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項11】
前記熱交換器への蒸気の供給ラインに、過熱蒸気中に水を噴霧する減温器を備えており、滴状凝縮促進剤の撥水性によって噴霧水由来の溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蒸気を使用する熱交換工程を含む生産プロセスの生産性を向上させる方法に関する
【背景技術】
【0002】
生産工程中に、蒸気や温水による加温、冷水や空気等による冷却を行う工程は産業界の製造プロセスで一般的なものである。
【0003】
例えば、化学品の合成による反応釜では、蒸気や温水による加熱工程により重合を促進させ、また、反応を停止させる際には、速やかな冷却のために、冷水や冷媒を導入して冷却を行っている。
【0004】
この生産工程は、一般に交互に行われ、1回の製造バッチ毎に繰り返されるので、スタート時の昇温時間が長くなるほど、加熱工程が長くなるので製造時間が長くなって生産性が低下する。
【0005】
ひとつの製品においても、複数の製造工程を組み合わせて実施することも多いが、一工程の製造時間の遅れが、全体の工程に影響を与えることも多い。
【0006】
昇温時間が長くなる事由としては、冷間起動の際、熱交換器内の空気の存在、初期ドレンの滞留による熱交換の阻害の他、もともと限られた熱交換器の容量が律速となり、昇温時間を要する場合などが挙げられる。
【0007】
一方で、熱交換器自体が炭素鋼等の場合は、工水水質や、蒸気性状によって内面が腐食すれば、その金属酸化物によって、あるいは硬度による内面スケールによる伝熱阻害が昇温時間の遅れをきたして、生産時間そのものが長くなってしまうことがあった。
【0008】
また、蒸気凝縮水をボイラ側に回収しているような場合は、冷水が残存していると、それがボイラ側に持ち込まれてボイラのスケールの問題をきたす恐れがある。そのため、冷水から蒸気への切り替え時には初期の凝縮水を一部排出する作業を徹底する必要がある。あるいは、回収自体を見送る場合も多く、熱損失につながってる。
【0009】
また、多くの化学工業においては、蒸気加熱工程のみならず、前後に、複数工程を有していることから、単に加熱時間の短縮にとどまらず、その短縮状況を把握したうえで、前後の工程の最適化を図る必要性が、全体最適には必要であった。これは、従前は、各工程の作業者が、各々個別に監視しており、全体として情報を把握して、工程全体に反映させる必要があった。
【0010】
特許文献1には、蒸気を熱交換器に導入し、該熱交換器内の冷却体に接触させることで液化凝縮する方法において、皮膜性アミン等の適状凝縮促進剤を、熱交換器に導入される蒸気に添加することで、適状凝縮を促進して凝縮効率を高めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2019-158255号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
熱交換器からの空気の排出は、熱交換器にエアーベントを設置し、蒸気弁開度を上げて、熱交換器内部の蒸気圧を上げて、蒸気凝縮水の排出を促することにより行われるが、熱交換器の有効伝熱面積には限りがあるので、限界がある。
【0013】
伝熱面の汚れや錆は総括伝熱係数を低下させる。錆を防止するために熱交換器自体を耐食性のステンレスやチタンに変えたりすることが考えられるが、新たな設備更新が必要であったり、金属自体の熱伝導率が低いため、設置スペースなどの観点で現実的ではない。
【0014】
伝熱面のスケール生成を防止するために、冷水を水処理することが行われている。蒸気と冷水の交互使用の場合は、切り替えのタイミングによっては熱交換器内に残存した冷水中の硬度成分やシリカが切り替え時に乾燥してスケール化する。これによって、総括伝熱係数が低下して、昇温時間を更に長くしてしまう。
【0015】
熱交換器内に残存する冷水を排水するために、時間をかけてフラッシングすることがある。これは排水量を増加させるうえ、加熱冷却の製造工程の時間が長くなる。
【0016】
熱交換器を含む生産プロセスにおける生産性を向上させるためには、熱交換器の総括伝熱係数をなるべく大きくすることが重要である。
【0017】
また、蒸気使用箇所のみならず、その前後の工程を含む全体の工程の進捗度を把握することが全体最適には必要である。
【0018】
本発明は、熱交換器の総括伝熱係数を大きくし、また、蒸気使用箇所のみならず、その前後の工程を含む全体の工程の進捗度を把握することができる、熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、次によって上記課題を解決する。
【0020】
[1] 蒸気を熱源流体とする熱交換器を有した熱交換工程を含む生産プロセスの生産性を向上させる方法であって、
該蒸気を発生させるボイラの給水又は該蒸気に滴状凝縮促進剤を添加して生産プロセスの生産性を向上させる方法において、
滴状凝縮促進剤を添加することによる該熱交換器の昇温時間短縮度を測定して、全体の生産プロセスの調整を行うことを特徴とする熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0021】
[2] 前記熱交換器の昇温時間の短縮度は、該熱交換器の冷間起動の際の昇温時間の短縮度であることを特徴とする[1]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0022】
[3] 測定された昇温時間短縮度に基づいて、各工程の稼働状況(作業工数、作業人員、又は投入エネルギー)を調整することを特徴とする[1]又は[2]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0023】
[4] 滴状凝縮促進剤が揮発性滴状凝縮促進剤であることを特徴とする[1]又は[2]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0024】
[5] 前記滴状凝縮促進剤が防食性能を有することを特徴とする[1]又は[2]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0025】
[6] 前記ボイラ給水又は蒸気にpH調整剤又は脱酸素剤を添加することを特徴とする[1]又は[2]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0026】
[7] 前記熱交換器において、蒸気による熱交換工程と冷水による冷却工程とを行う方法であって、該冷却工程では、滴状凝縮促進剤の撥水性によって熱交換器内に残存する冷水を排出促進させることで溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することを特徴とする[1]又は[2]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0027】
[8] 前記熱交換器からの凝縮水をボイラに回収する場合、凝縮水に含まれるスケール成分がボイラ内でスケール化することを防止するために、ボイラ給水にスケール防止剤を添加することを特徴とする[1]又は[2]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0028】
[9] スケール防止剤がポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、及びリン酸塩のいずれか1つ以上であることを特徴とする[8]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0029】
[10] 滴状凝縮促進剤が、オレイルアミン、オクタデシルアミン、オレイルプロパンジアミン、アゼライン酸とその塩、サルコシン誘導体、ポリソルベートのいずれか1つ以上であることを特徴とする[1]又は[2]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【0030】
[11] 前記熱交換器への蒸気の供給ラインに、過熱蒸気中に水を噴霧する減温器を備えており、滴状凝縮促進剤の撥水性によって噴霧水由来の溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することを特徴とする[1]又は[2]の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【発明の効果】
【0031】
本発明によれば、蒸気を熱源流体として使用する熱交換工程を含む生産プロセスにおいて、加熱蒸気側に滴状凝縮促進剤を存在させることで、対象設備の冷間起動時間の短縮のみならず、金属酸化物や冷水中のスケール成分の付着防止により、該蒸気による加熱効率を向上・維持させることができる。
【0032】
また、複数工程の全体最適を図ることで、生産性の最大化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本発明方法における滴状凝縮促進剤の添加箇所の説明図である。
図2】本発明方法における滴状凝縮促進剤の添加箇所の説明図である。
図3】比較例における滴状凝縮促進剤の添加箇所の説明図である。
図4】反応釜の昇温状況を示すグラフである。
図5】生産プロセスの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明の一態様の生産性向上方法は、蒸気を熱源流体とする熱交換器を有した熱交換工程を含む生産プロセスの生産性を向上させる方法であって、該蒸気を発生させるボイラの給水又は該蒸気に滴状凝縮促進剤を添加して生産プロセスの生産性を向上させる方法において、滴状凝縮促進剤を添加することによる該熱交換器の昇温時間短縮度を測定して、全体の生産プロセスの調整を行うことを特徴とする。
【0035】
本発明が適用される熱交換器の材質としては特に制限はなく、用いる滴状凝縮促進剤により撥水皮膜の形成で滴状凝縮を実現できるような材質であればよく、例えば、軟鋼、低合金鋼、合金鋼、銅、銅合金、チタン、チタン合金、アルミニウム、アルミニウム合金などが挙げられる。
【0036】
本発明では、滴状凝縮促進剤は、熱交換器に導入される蒸気又はこの蒸気を発生させるボイラの給水に添加される。蒸気に滴状凝縮促進剤を添加する場合における添加箇所の好適例を図1,2に示す。
【0037】
図1では、ボイラ1からの蒸気が配管2を通って蒸気ヘッダ3に導入される。蒸気ヘッダ3内の蒸気が、配管4を通って熱交換器5に供給され、また配管6を通って熱交換器7に供給される。さらに、蒸気ヘッダ3内の蒸気は、配管8を通って蒸気ヘッダ10に供給される。蒸気ヘッダ10内の蒸気は、配管11を通って熱交換器12に供給され、また配管13を通って熱交換器14に供給される。
【0038】
配管8から配管15が分岐している。配管15はさらに別の蒸気ヘッダや蒸気使用機器(図示略)に接続されている。配管15はブローラインとして使用されることもある。
【0039】
図1では、配管4,6,11,13に滴状凝縮促進剤の添加部4a,6a,11a,13aが設けられている。
【0040】
図2では、配管4,6及び配管8(ただし配管15の分岐部よりも下流側)に滴状凝縮促進剤の添加部4a,6a,8aが設けられている。
【0041】
図3は比較例を示すものであり、配管2及び配管8(ただし配管15の分岐部よりも下流側)に滴状凝縮促進剤の添加部2a,8aが設けられている。図3では、配管15へ分岐して流れる蒸気にも滴状凝縮促進剤が含まれることになる。そのため、図1,2のように、熱交換器に供給される蒸気にのみ滴状凝縮促進剤を添加することが好ましい。
【0042】
本発明の一態様では、熱交換器の昇温時間の短縮は、該熱交換器の冷間起動の際の昇温時間の短縮である。
【0043】
昇温時間改善の評価方法の一例として、反応釜への適用事例を下記に示す。
【0044】
反応釜は、釜の中の製造物に、蒸気で間接的に熱を加える設備であり、ジャケット式と呼ばれる構造が多い。反応釜では、通常、設定温度に到達するまでジャケット内に蒸気を流し続けて加温する。
【0045】
この蒸気又は蒸気を発生させるボイラの給水に滴状凝縮促進剤を添加することにより、高い総括伝熱係数が得られ、その結果、図4の通り、設定温度に到達するまでの時間が短縮される。多くの場合、反応釜に昇温過程を記録するシステムが設置されているため、同じ製造品を同量製造する場合には、この加熱時間の短縮分をモニタリングすることが可能である。この昇温時間の短縮度に基づいて、前後の工程の最適化し、生産性を向上させることができる。
【0046】
また、別例として、過熱蒸気中に水を噴霧し、水が蒸発することで蒸気中の熱を吸収し、飽和蒸気温度に近い蒸気を発生させる減温器が使用される場合があるが、滴状凝縮促進剤の撥水性によって熱交換器内に堆積する噴霧水由来の溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することができる。
【0047】
蒸気加熱工程の前後に複数工程がある場合は、各工程での作業時間、中間原料在庫、投入エネルギーと加熱短縮時間を演算して、フィードバック制御することで、全体最適を計ることができる。例えば、各工程の稼働状況(例えば、作業工数、作業人員、投入エネルギーなど)を調整することができる。
【0048】
図5は、並行して進行する製造工程A1,A2,A3を備えた生産プロセスのフロー図である。なお、製造工程A1,A2,A3を経て製品が製造される。製造工程A3は、加熱用熱交換器と冷却用熱交換器とを備えている。加熱用熱交換器には蒸気が供給され、凝縮水は回収されるか又は排出される。冷却用熱交換器にはチラーからの冷水が循環通水される。上記の蒸気又はこの蒸気発生用のボイラへの給水に滴状凝縮促進剤が添加される。
【0049】
例えば、図5において、製造工程A1の単位時間当たりの製造量、あるいは製造工程A2の単位時間当たりの製造量のキャパシティーを超えて製造工程A3の生産性を向上させても、並行して進行する製造工程A1,A2の生産性がそのままではプロセス全体としての生産性を向上させることはできない。そこで、製造工程A1,A2における中間製造品の在庫量と製造工程A3の生産性向上度合いをモニタリングしながら、工程A1,A2,A3への作業人員配分の見直し、工程A1,A2の製造機器へのエネルギー投入量を増加させるなどのフィードバック制御を行うことで、プロセス全体の生産性を向上させることが可能となる。
【0050】
本発明において、滴状凝縮促進剤は、適用対象の金属表面に撥水性をもたせるものであってよく、蒸気系統で揮発性を有するものが好ましい。滴状凝縮促進剤としては、オレイルアミン、オクタデシルアミン、オレイルプロパンジアミン、アゼライン酸とその塩、サルコシン誘導体、ポリソルベートのいずれか1つ以上が例示されるが、これに限定されない。
【0051】
これらの滴状凝縮促進剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0052】
滴状凝縮促進剤の添加量は、熱交換器における滴状凝縮の促進効果が得られる程度であればよく、滴状凝縮促進剤の種類や熱交換器の形式等によっても異なるが、通常、水換算の蒸気量に対して0.001~10mg/L、特に0.01~2.0mg/L程度とすることが好ましい。
【0053】
滴状凝縮促進剤は間欠添加でも連続添加でもよいが、熱交換器内の冷却体表面に凝縮による撥水皮膜を安定に維持する観点からは、連続添加とすることが好ましい。
【0054】
滴状凝縮促進剤は、水の他、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の溶媒に溶解させて蒸気又は給水に添加してもよいが、乳化剤を用いて水性エマルジョンとし、これを蒸気又は給水に添加してもよい。
【0055】
本発明の一態様では、滴状凝縮促進剤として揮発性があるものを用いて、ボイラ給水、熱交換器前蒸気、あるいはその両方に添加してもよい。
【0056】
本発明の一態様では、熱交換器の腐食による金属酸化物の付着を防止することも並行して行う。熱交換器の腐食防止方法としては、加熱蒸気を発生させるボイラ系統に防食性能のある滴状凝縮促進剤、pH調整剤及び脱酸素剤のいずれか1つ以上を使用する方法が好適である。
【0057】
本発明の一態様では、蒸気による熱交換と冷水による冷却を別々の工程で行う熱交換器において、滴状凝縮促進剤の撥水性によって熱交換器内に残存する冷水を排出促進させる。これにより、溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することができる。なお、スケール成分としては、冷水中の硬度、シリカ、鉄、銅、亜鉛のいずれか一つ以上が例示される。
【0058】
本発明の一態様では、熱交換器からの凝縮水を回収してボイラ用水として用いる場合に、排出される凝縮水に含まれるスケール成分がボイラ内でスケール化することを防止するため、ボイラ給水にスケール防止剤を好ましくはスケール成分防止の等量以上の添加量にて添加する。スケール防止剤としては、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、リン酸塩のいずれか一つ以上が例示される。
【0059】
本発明の一態様において、過熱蒸気中に水を噴霧し、水が蒸発することで蒸気中の熱を吸収し、飽和蒸気温度に近い蒸気を発生させる減温器が設置されている場合、滴状凝縮促進剤の撥水性によって熱交換器内に堆積する噴霧水由来の溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することで減温器の清掃頻度の低減することができる。
【符号の説明】
【0060】
1 ボイラ
3,10 蒸気ヘッダ
5,7,12,14 熱交換器
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-06-07
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気を熱源流体とする熱交換器を有した熱交換工程を含む生産プロセスの生産性を向上させる方法であって、
該生産プロセスは、並行して進行する複数の製造工程を備えており、一部の製造工程(A3)は、ボイラからの蒸気を熱源とした加熱用熱交換器を備えており、
該ボイラの給水又は該ボイラからの蒸気に滴状凝縮促進剤を添加して生産プロセスの生産性を向上させる方法において、
滴状凝縮促進剤を添加することによる該製造工程(A3)の該加熱用熱交換器の昇温時間短縮度を測定し、該製造工程(A3)の該加熱用熱交換器の昇温時間短縮度に基づいて各製造工程への作業人員配分と、該製造工程(A3)以外の製造工程の製造機器へのエネルギー投入量制御を行うことを特徴とする熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項2】
前記熱交換器の昇温時間の短縮度は、該熱交換器の冷間起動の際の昇温時間の短縮度であることを特徴とする請求項1の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項3】
滴状凝縮促進剤が揮発性滴状凝縮促進剤であることを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項4】
前記滴状凝縮促進剤が防食性能を有することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項5】
前記ボイラ給水又は蒸気にpH調整剤又は脱酸素剤を添加することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項6】
前記熱交換器において、蒸気による熱交換工程と冷水による冷却工程とを行う方法であって、該冷却工程では、滴状凝縮促進剤の撥水性によって熱交換器内に残存する冷水を排出促進させることで溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項7】
前記熱交換器からの凝縮水をボイラに回収する場合、凝縮水に含まれるスケール成分がボイラ内でスケール化することを防止するために、ボイラ給水にスケール防止剤を添加することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項8】
スケール防止剤がポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、及びリン酸塩のいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項8の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項9】
滴状凝縮促進剤が、オレイルアミン、オクタデシルアミン、オレイルプロパンジアミン、アゼライン酸とその塩、サルコシン誘導体、ポリソルベートのいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項10】
前記熱交換器への蒸気の供給ラインに、過熱蒸気中に水を噴霧する減温器を備えており、滴状凝縮促進剤の撥水性によって噴霧水由来の溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項11】
前記製造工程(A3)は、冷水が通水される冷却用熱交換器を備えていることを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
特許文献1には、蒸気を熱交換器に導入し、該熱交換器内の冷却体に接触させることで液化凝縮する方法において、皮膜性アミン等の状凝縮促進剤を、熱交換器に導入される蒸気に添加することで、状凝縮を促進して凝縮効率を高めることが記載されている。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0012
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0012】
熱交換器からの空気の排出は、熱交換器にエアーベントを設置し、蒸気弁開度を上げて、熱交換器内部の蒸気圧を上げて、蒸気凝縮水の排出を促進することにより行われるが、熱交換器の有効伝熱面積には限りがあるので、限界がある。
【手続補正書】
【提出日】2023-09-06
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気を熱源流体とする熱交換器を有した熱交換工程を含む生産プロセスの生産性を向上させる方法であって、
該生産プロセスは、並行して進行する複数の製造工程を備えており、一部の製造工程(A3)は、ボイラからの蒸気を熱源とした加熱用熱交換器を備えており、
該ボイラの給水又は該ボイラからの蒸気に滴状凝縮促進剤を添加して生産プロセスの生産性を向上させる方法において、
滴状凝縮促進剤を添加することによる該製造工程(A3)の該加熱用熱交換器の昇温時間短縮度を測定し、該製造工程(A3)の該加熱用熱交換器の昇温時間短縮度に基づいて各製造工程への作業人員配分と、該製造工程(A3)以外の製造工程の製造機器へのエネルギー投入量制御を行うことを特徴とする熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項2】
前記熱交換器の昇温時間の短縮度は、該熱交換器の冷間起動の際の昇温時間の短縮度であることを特徴とする請求項1の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項3】
滴状凝縮促進剤が揮発性滴状凝縮促進剤であることを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項4】
前記滴状凝縮促進剤が防食性能を有することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項5】
前記ボイラ給水又は蒸気にpH調整剤又は脱酸素剤を添加することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項6】
前記熱交換器において、蒸気による熱交換工程と冷水による冷却工程とを行う方法であって、該冷却工程では、滴状凝縮促進剤の撥水性によって熱交換器内に残存する冷水を排出促進させることで溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項7】
前記熱交換器からの凝縮水をボイラに回収する場合、凝縮水に含まれるスケール成分がボイラ内でスケール化することを防止するために、ボイラ給水にスケール防止剤を添加することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項8】
スケール防止剤がポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、及びリン酸塩のいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項9】
滴状凝縮促進剤が、オレイルアミン、オクタデシルアミン、オレイルプロパンジアミン、アゼライン酸とその塩、サルコシン誘導体、ポリソルベートのいずれか1つ以上であることを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項10】
前記熱交換器への蒸気の供給ラインに、過熱蒸気中に水を噴霧する減温器を備えており、滴状凝縮促進剤の撥水性によって噴霧水由来の溶存固形物の固着によるスケール生成を抑制することを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。
【請求項11】
前記製造工程(A3)は、冷水が通水される冷却用熱交換器を備えていることを特徴とする請求項1又は2の熱交換工程を有する生産プロセスの生産性向上方法。