(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160122
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】バッテリーセル用包装材およびバッテリーセルモジュール
(51)【国際特許分類】
C09J 7/38 20180101AFI20231026BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20231026BHJP
H01M 50/103 20210101ALI20231026BHJP
H01M 50/124 20210101ALI20231026BHJP
H01M 50/133 20210101ALI20231026BHJP
H01M 50/131 20210101ALI20231026BHJP
H01M 50/121 20210101ALI20231026BHJP
【FI】
C09J7/38
C09J201/00
H01M50/103
H01M50/124
H01M50/133
H01M50/131
H01M50/121
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070242
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100176692
【弁理士】
【氏名又は名称】岡崎 ▲廣▼志
(72)【発明者】
【氏名】谷井 翔太
(72)【発明者】
【氏名】下岡 澄生
【テーマコード(参考)】
4J004
4J040
5H011
【Fターム(参考)】
4J004AA10
4J004AB01
4J004CA06
4J004FA05
4J040DF021
4J040JB09
4J040NA06
4J040NA19
5H011AA02
5H011AA09
5H011CC10
5H011KK01
5H011KK02
5H011KK04
(57)【要約】
【課題】バッテリーセルを包装した状態においてバッテリーセルと包装材との間の空気層の発生を抑制し、且つ、リワーク性を備えるバッテリーセル用包装材を提供すること。
【解決手段】基材と、前記基材の片面に設けられた粘着剤層を有し、前記粘着剤層のゲル分率が20%以上90以下%であり、前記粘着剤層を構成する粘着剤のガラス転移温度(Tg)が-30℃以上15℃以下であるバッテリーセル用包装材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の片面に設けられた粘着剤層を有し、
前記粘着剤層のゲル分率が20%以上90%以下であり、
前記粘着剤層を構成する粘着剤のガラス転移温度(Tg)が-30℃以上15℃以下
であるバッテリーセル用包装材。
【請求項2】
60℃の温度条件で測定される耐反発性に係る浮き距離が3mm以下である請求項1に記載のバッテリーセル用包装材。
【請求項3】
前記粘着剤層の60℃での貯蔵粘弾性率が5×104Pa以上1×106Pa以下である請求項1または2に記載のバッテリーセル用包装材。
【請求項4】
180°ピール接着力が3N/25mm以上17N/25mm以下である請求項1または2に記載のバッテリーセル用包装材。
【請求項5】
前記基材の引張弾性率が1×108Pa以上1×1010Pa以下である請求項1または2に記載のバッテリーセル用包装材。
【請求項6】
前記基材の厚みが25μm以上125μm以下である請求項1または2に記載のバッテリーセル用包装材。
【請求項7】
絶縁破壊電圧が2kV以上である請求項1または2に記載のバッテリーセル用包装材。
【請求項8】
厚みが30μm以上175μm以下である請求項1または2に記載のバッテリーセル用包装材。
【請求項9】
前記粘着剤層または前記基材の少なくともいずれかが着色剤を含有する請求項1または2に記載のバッテリーセル用包装材。
【請求項10】
60℃の温度条件で測定される耐反発性に係る浮き距離が3mm以下であり、180°ピール接着力が3N/25mm以上17N/25mm以下であるバッテリーセル用包装材。
【請求項11】
バッテリーセルと前記バッテリーセルの外表面の少なくとも一部を包装材が覆うバッテリーセルモジュールであって、
前記包装材が、基材と、前記基材の片面に設けられた粘着剤層を有し、
前記粘着剤層のゲル分率が20%以上90以下%であり、
前記粘着剤層を構成する粘着剤のガラス転移温度(Tg)が-30℃以上15℃以下であるバッテリーセルモジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバッテリーセル用包装材およびバッテリーセルモジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池や非水電解質二次電池等の二次電池は、携帯機器を始め、ハイブリッド自動車や電気自動車、家庭用蓄電池などに用いられている。特にハイブリッド自動車や電気自動車、家庭用蓄電池などは高出力が要求されるため、複数のバッテリーセルを接続した形態で使用されることが多い。
このような二次電池は通常、電圧制御等を行う回路基板を有しており、この回路基板や二次電池本体が、金属や合成樹脂等の外枠で覆われた構成を有する。
【0003】
したがって、安全性や性能維持の観点から、これら二次電池は絶縁、防水、外部からの衝撃への保護のためにフィルムやチューブ等の包装材によってバッテリーセルが被覆されて用いられる場合が多い。
また前記包装材には、取り扱い上の注意書きや製造者、ロット番号等の各種情報が記載される場合もあり、このような情報の視認性も重要となっている。
【0004】
一般に角形の形状の二次電池が広く用いられており、バッテリーセルも角形の形状が多い。このような角形のバッテリーセルをフィルム状の包装材で包装する場合、バッテリーセルの底面や天面の包装が困難であったり、角立ちがする等の課題があった。
このような課題を解決するために特許文献1および2には粘着性を有する収縮性フィルムやチューブが提案されている。
【0005】
また塩化ビニル製の包装材に代わり、環境への配慮の観点からポリエステルの熱収縮性フィルムを用いた二次電池用の包装材も提案されている(例えば、特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3200706号公報
【特許文献2】実用新案登録第3195394号公報
【特許文献3】特開2016-63226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
自動車に用いられる容量の大きな二次電池の場合は、充電時や放電時の発熱量が大きく、バッテリーセルは加熱された状態となる。そのため二次電池の内部を損傷し二次電池が短寿命化する可能性がある。この短寿命化を防ぐためには、バッテリーセルの冷却が必要であり、通常はバッテリーセルをヒートシンクにより冷却する方法が採られている。
したがって冷却効率の点から、バッテリーセルとヒートシンクとの間はできるだけ熱伝導性が高い方がよく、バッテリーセルの包装材も熱抵抗が生じないようにする必要がある。
【0008】
前記特許文献1から3に記載のような熱収縮性フィルムで包装した場合は、フィルムの収縮の際にフィルムに皺がより、熱伝導率の低い空気層が電池セルと包装材の間に残留するため、熱伝導性が低下し冷却効率が劣ると考えられる。
また熱収縮の際に発生する包装材の皺により、バッテリーセルとヒートシンクとの密着が妨げられ放熱効果が低下すると考えられる。
【0009】
また、包装材は、貼り損じが生じた場合等に容易に剥離でき、再度包装可能となるリワーク性が求められる。しかし、空気層の発生および残留を抑制するために、包装材とバッテリーセルとの密着性や包装形態における包装材の折り曲げ箇所の密着性を高めようとすると、被着面に対する接着力が高くなりすぎて、包装材を剥離する際に糊残りや被着面の損傷等が生じやすくなる。
本発明は、バッテリーセルを包装した状態において、高温でのバッテリーセルと包装材との間の空気層の発生および残存を抑制することができ、且つ、リワーク性にも優れたバッテリーセル用包装材を提供することを目的とする。また本発明はバッテリーセルと前記バッテリーセルの外表面の少なくとも一部をバッテリーセル用包装材が覆ったバッテリーセルモジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、下記の態様を有する。
[1]
基材と、前記基材の片面に設けられた粘着剤層を有し、
前記粘着剤層のゲル分率が20%以上90%以下であり、
前記粘着剤層を構成する粘着剤のガラス転移温度(Tg)が-30℃以上15℃以下
であるバッテリーセル用包装材。
[2]
60℃の温度条件で測定される耐反発性に係る浮き距離が3mm以下である前記[1]に記載のバッテリーセル用包装材。
[3]
前記粘着剤層の60℃での貯蔵粘弾性率が5×104Pa以上1×106Pa以下である前記[1]または[2]に記載のバッテリーセル用包装材。
[4]
180°ピール接着力が3N/25mm以上17N/25mm以下である前記[1]から[3]のいずれかに記載のバッテリーセル用包装材。
[5]
前記基材の弾性率が1×108Pa以上1×1010Pa以下である前記[1]から[4]のいずれかに記載のバッテリーセル用包装材。
[6]
前記基材の厚みが25μm以上125μm以下である前記[1]から[5]のいずれかに記載のバッテリーセル用包装材。
[7]
絶縁破壊電圧が2kV以上である前記[1]から[6]のいずれかに記載のバッテリーセル用包装材。
[8]
厚みが30μm以上175μm以下である前記[1]から[7]のいずれかに記載のバッテリーセル用包装材。
[9]
前記粘着剤層または前記基材の少なくともいずれかが着色剤を含有する前記[1]から[8]のいずれかに記載のバッテリーセル用包装材。
【0011】
また本発明は、下記の態様を有する。
[10]
60℃の温度条件で測定される耐反発性に係る浮き距離が3mm以下であり、180°ピール接着力が3N/25mm以上17N/25mm以下であるバッテリーセル用包装材。
【0012】
また本発明は、下記の態様を有する。
[11]
バッテリーセルと前記バッテリーセルの外表面の少なくとも一部を前記[1]から[10]のいずれかに記載の包装材が覆うバッテリーセルモジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明のバッテリーセル用包装材によれば、バッテリーセルを包装した状態において、高温でもバッテリーセルからの浮き等が生じにくく、電池セルと包装材との間の空気層の発生および残存を防ぐことが可能な耐反発性に優れる。また、本発明のバッテリーセル用包装材によれば、リワーク性にも優れるため、包装形態を維持可能な接着力を有しつつ、バッテリーセルから包装材を剥離する際は、糊残りの発生や被着面の損傷を防ぎ、容易に剥離可能となる。
また本発明はバッテリーセルと前記バッテリーセルの外表面の少なくとも一部をバッテリーセル用包装材が覆ったバッテリーセルモジュールが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】60℃環境下での耐反発性試験の概要を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のバッテリーセル用包装材(以下、「本包装材」とも記す。)は基材と、前記基材の片面に設けられた粘着剤層を有し、前記粘着剤層のゲル分率が20%以上90%以下であり、前記粘着剤層を構成する粘着剤のガラス転移温度(Tg)が-30℃以上15℃以下である。
従来用いられている熱収縮性フィルムを使用せず、粘着層付きフィルムでバッテリーセルを包装する場合は、粘着層をバッテリーセル側にして底面からバッテリーセルの周囲を包装材で覆うようにバッテリーセルを包装する。
しかしながらバッテリーセルの温度が高くなると、バッテリーセルの底面から側面に向かって粘着層付フィルムを折り曲げた箇所で粘着層の剥がれが発生しやすくなり、バッテリーセルとの間に空隙が発生し、ヒートシンクとの熱伝導性が低下する可能性がある。
また、包装用途に用いられる粘着層付フィルムは、貼り損じが生じる場合等に容易に剥離でき、再度包装可能となるリワーク性が求められる。しかし、バッテリーセルからの熱による高温での剥がれの発生や空気層の残存を抑制するために、粘着層付フィルムとバッテリーセルとの密着性を高めると、接着力が高くなりすぎて、バッテリーセルとの接着箇所や包装形態における粘着層付フィルムの折り曲げ部分を剥離する際に糊残りや被着面の損傷等が生じやすく、リワーク性が得られにくくなる。また、粘着層付フィルムの接着力が高いと、バッテリーセルとの間に生じた空気が抜けにくくなる。
このような課題に対し、本包装材は、粘着剤層のゲル分率およびガラス転移温度(Tg)をそれぞれ所定の範囲内とすることで、高温での耐反発性とリワーク性との両立が可能となる。すなわち、本包装材は、バッテリーセルと本包装材との密着が高温でも維持可能となる耐反発性を具備することができ、バッテリーセルとの間の空隙の発生を抑制でき、熱伝導性の低下が抑制されると考えられる。熱伝導性の低下が抑制されることでヒートシンクによるバッテリーセルの冷却効果が維持され、二次電池の短寿命化が抑制されると考えられる。また、本包装材は、包装形態を維持可能な接着力を有しながら、剥離する際は糊残りや被着体の損傷等の発生を防ぐことが可能なリワーク性を具備することができる。
【0016】
本包装材が有する基材は絶縁性であり、包装材の絶縁性の観点から、基材の体積抵抗率は1×1013Ω・cm以上が好ましい。前記基材のより好ましい体積抵抗率は1×1014Ω・cm以上であり、更に好ましくは1×1015Ω・cm以上である。なお、基材の体積抵抗率は、後述する実施例で説明する体積抵抗率の測定方法により測定することができる。
基材としては、少なくとも絶縁性を有し、包装可能な折り曲げ性、およびバッテリーセルからの熱に耐え得る耐熱性を更に有するものであれば特に限定されず、通常、樹脂フィルムが用いられる。樹脂フィルムの他に、例えば紙基材にポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリイミド(PI)等の熱可塑性樹脂をラミネートした絶縁紙、不織布等の多孔質シート等を用いることもできる。
樹脂フィルムとしては、特に限定されないが、例えばポリエチレンまたはポリプロピレン等のオレフィン樹脂、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートまたはポリエチレンナフタレート等のエステル樹脂、アセテート樹脂、ABS樹脂、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、フッ素系樹脂、ポリカーボネート、アクリル系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン等、およびこれら樹脂の混合物からなる樹脂フィルムが挙げられる。絶縁性や耐熱性の観点からオレフィン樹脂フィルムまたはエステル樹脂フィルムが好ましく、ポリプロピレンフィルムあるいはポリエチレンテレフタレートフィルムがより好ましい。
用いる樹脂フィルムは一軸または二軸の延伸フィルムでも未延伸フィルムでもよい。基材はこれらフィルムの単層の構成でも多層の構成でもよい。多層の場合は各層の樹脂フィルムは同じでも異なっていてもよい。
基材の厚みは、本包装材でバッテリーセルを包装する際にしわが発生しにくく、また本包装材がバッテリーセルから浮きあがるという反発力が高くなりにくいとの観点から、25μm以上125μm以下が好ましく、25μm以上100μm以下がより好ましく、38μm以上75μm以下がさらに好ましい。
【0017】
本包装材が有する基材の引張弾性率は、後述する本包装材の強度の観点から、1×108Pa以上1×1010Pa以下が好ましい。本包装材でバッテリーセルを包装する際のバッテリーセルへの貼付性と耐反発性のバランスの観点から、前記基材の引張弾性率は、1×109以上6×109Pa以下がさらに好ましく、2×109以上5×109Pa以下が最も好ましい。
【0018】
前記基材は用途により隠蔽性を向上させる目的で、顔料や染料等の着色剤を含有してもよく、着色剤を含有する樹脂フィルムを用いてもよい。着色剤としては白色または黒色が隠蔽性の観点から好ましい。
例えば、白色の基材の場合、樹脂フィルムに白色着色剤を添加した、白色ポリエチレンテレフタレートフィルム、白色ポリオレフィンフィルム、白色ポリスチレンフィルム等が挙げられる。白色着色剤としては、二酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、シリカ、タルク、クレー等の白色顔料が挙げられる。
黒色着色剤としてはカーボンブラックが挙げられる。
樹脂フィルムがこれら着色剤を含有する場合、着色剤の含有量は樹脂フィルムを100質量%として、隠蔽性の確保の観点から5質量%以上が好ましく、本包装材の特性を維持する観点から40質量%以下が好ましい。
【0019】
本包装材でバッテリーセルを包装する際および/または包装後バッテリーを使用したときの発生熱によるしわの発生を抑制する観点から、収縮性、特に熱収縮性を有さない基材が好ましく、基材としては未延伸フィルムを用いるか、一軸延伸後または二軸延伸後に、アニール処理によって、熱収縮性を抑制した一軸延伸フィルムまたは二軸延伸フィルムを用いるのが好ましい。基材の引張強度に優れ、MD方向とTD方向の基材の硬さや伸びの違いが発生しにくい二軸延伸フィルムを用いるのがより好ましい。前記基材の熱収縮性は、JIS K7133:1999に準拠する方法で測定した場合に、80℃で1時間放置した際の熱収縮率が5%以下であることが好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。
また、基材として二軸延伸フィルムを用いる場合、本包装材を用いてバッテリーセルを包装する際に、包装する方向で基材の硬さや伸びの違いが発生し、貼付の位置ずれが発生しないよう、MD方向とTD方向との延伸倍率の差が小さい二軸延伸フィルムを用いるのが好ましい。MD方向とTD方向との延伸倍率の差が小さい二軸延伸フィルムを用いる場合は、MD方向への延伸倍率に対するTD方向への延伸倍率の比は0.9から1.2が好ましく、0.9から1.1倍がより好ましい。
【0020】
本包装材が有する粘着剤層は粘着剤を含有する層である。用いる粘着剤としてはポリマーを主成分とする粘着剤が、取り扱いの観点から好ましい。主成分とは、粘着剤中に最も多く含有される成分であり、例えば粘着剤100質量%中50質量%以上、好ましくは70質量%以上、更に好ましくは80質量%以上含有される成分である。
ポリマーとしては、ゴム系、アクリル系、シリコーン系、ウレタン系、ビニルエーテル系等が挙げられる。また、粘着剤の形態として、溶剤系粘着剤、エマルジョン型粘着剤、水溶性粘着剤等の水系、ホットメルト型粘着剤、UV硬化型粘着剤、EB硬化型粘着剤等の無溶剤系等が挙げられる。
【0021】
粘着剤としてはポリマーを含有し、必要に応じて粘着付与樹脂を含む粘着剤組成物でもよい。粘着剤としては、高温(例えば60℃雰囲気下)での凝集力の高さ、粘着力、取り扱いの観点からアクリル系粘着剤が好ましく、炭素数が1から14のアルキル基を有する(メタ)アルキルアクリレートと極性基含有ビニルモノマーとのアクリル系共重合体と、必要に応じて粘着付与樹脂とを含有するアクリル系粘着剤組成物が好ましい。
炭素数が1から14の(メタ)アルキルアクリレートとしては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、n-オクチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレート、オクチルアクリレート、ラウリルアクリレート、イソボニルアクリレート等のアルキルアクリレートや、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレートが挙げられる。これら炭素数が1から14の(メタ)アルキルアクリレートは単独で共重合に用いてもよく、また2種以上を共重合に併用してもよい。
【0022】
炭素数が1から14の(メタ)アクリレートのなかでも、炭素数が4から9のアルキル基を有するアルキル(メタ)アクリレートを使用することが好ましく、炭素数が4から9のアルキル基を有するアルキルアクリレートを使用することがより好ましい。
【0023】
前記炭素数が4から9のアルキル基を有するアルキルアクリレートとしては、n-ブチ ルアクリレート、n-ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、イソノニルアクリレートが、好適な粘着力を確保しやすい観点からさらに好ましい。
【0024】
得られる粘着剤組成物の粘着力と凝集力とのバランスから、炭素数が1から14の(メタ)アルキルアクリレートのなかでも、n-ブチルアクリレートまたは2-エチルヘキシルアクリレートがさらに好ましく、粘着剤層のガラス転移温度(Tg)を所定の範囲に調整するうえで、n-ブチルアクリレートが最も好ましい。また、アクリル系共重合体中の炭素数が1から14の(メタ)アルキルアクリレートから誘導される構造単位の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。炭素数が1から14の(メタ)アルキルアクリレートがn-ブチルアクリレートまたは2-エチルヘキシルアクリレートの場合も、アクリル系共重合体中のそれぞれから誘導される構造単位の含有量は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましい。
【0025】
前記極性基含有ビニルモノマーとしては、例えば水酸基、カルボキシル基、アミド基などの極性基を有するビニルモノマーが挙げられる。
前記水酸基を有する(メタ)アクリル単量体としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。これらのなかでも、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6-ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0026】
前記カルボキシル基を有する(メタ)アクリル単量体としては、例えば、アクリル酸、 メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、クロトン酸、アクリル酸またはメタクリル酸の2量体、エチレンオキサイド変性コハク酸アクリレートなどが挙げられる。これらのなかでも、高温での耐反発性およびリワーク性に必要な高い凝集力を得るうえで、アクリル酸が好ましい。
【0027】
前記アミド基を有する(メタ)アクリル単量体としては、例えば、N-ビニル-2-ピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、N,N-ジエチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミド、2-(パーヒドロフタルイミド-N-イル)エチルアクリレートなどが挙げられる。これらのなかでも、高温での耐反発性およびリワーク性に必要な高い凝集力を得るうえで、N-ビニル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルアクリルアミド、イソプロピルアクリルアミドが好ましい。
【0028】
前記以外の極性基を有するビニルモノマーとしては、例えば、酢酸ビニル、アクリロニトリル、グリシジル(メタ)アクリレート、無水マレイン酸、無水イタコン酸などが挙げられる。
【0029】
アクリル系共重合体中の極性基含有ビニルモノマーから誘導される構造単位の含有量は、アクリル系共重合体を100質量%として、粘着剤の加工特性と粘着力の観点から0.1質量%以上が好ましく、1質量%以上がさらに好ましい。極性基含有ビニルモノマーから誘導される構造単位の含有量は、通常、20質量%以下である。粘着剤の凝集力、保持力、接着性の観点から、アクリル系共重合体中の極性基含有ビニルモノマーから誘導される構造単位の含有量は、1質量%から15質量%がより好ましく、2質量%から12質量%がさらに好ましい。
【0030】
前記アクリル系共重合体は、例えば溶液重合法、塊状重合法などの重合方法により前記モノマーを重合させることによって製造することができる。前記アクリル系重合体の重量平均分子量は40万から120万が好ましく、50万から80万がより好ましい。重量平均分子量が前記範囲内であれば、粘着剤の接着力を調整しやすく、バッテリーセルへの接着性が確保されやすい。
【0031】
なお、前記重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定することができる。例えば、GPC測定装置として、東ソー株式会社製「SC8020」を用いて、ポリスチレン換算値により、次のGPC測定条件で測定して求めることができる。 (GPCの測定条件)
・サンプル濃度:0.5質量%のテトラヒドロフラン溶液
・サンプル注入量:100μL
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:1.0mL/min
・カラム温度(測定温度):40℃
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel GMHHR-H」
・検出器:示差屈折
【0032】
前記粘着剤は、前記ポリマーを少なくとも含有するが、粘着力を高め、耐剥がれ性を高めるために、粘着付与樹脂を更に含有してもよい。中でも前記粘着剤は、アクリル系共重合体および粘着付与樹脂を含有することが好ましい。粘着付与樹脂としては、脂肪族系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂などの石油樹脂、ロジン系樹脂、ロジンエステル樹脂、不均化ロジン樹脂、重合ロジン樹脂、重合ロジンエステル樹脂、ロジンフェノールなどのロジン系樹脂、ジテルペン重合体やα-ピネン-フェノール共重合体等のテルペン系樹脂、テルペンフェノール樹脂、およびスチレン系樹脂、フェノール系樹脂、キシレン樹脂等が挙げられる。これら粘着付与樹脂は1種単独または2種以上組み合わせ使用することができる。
【0033】
前記粘着付与樹脂の中でも、ロジン系樹脂が好ましく、重合ロジンペンタエリスリトールエステルがより好ましい。
前記粘着付与樹脂は、前記ポリマー100質量部に対して、通常、10質量部から60質量部の範囲で使用される。接着性を重視する場合は、15質量部から40質量部の範囲で使用するのが好ましい。
【0034】
粘着剤として前記アクリル系共重合体と粘着付与樹脂とを含有するアクリル系粘着剤を使用する場合、アクリル系粘着剤中の粘着付与樹脂の含有量は、耐剥がれ性の観点からアクリル系粘着剤100質量%中に、3質量%以上が好ましく、5質量%以上がより好ましい。アクリル系粘着剤中の粘着付与樹脂の含有量は、良好な低温接着性が得られるという観点から、40質量%以下が好ましい。
【0035】
前記粘着剤は、前記ポリマーおよび任意に含有可能な粘着付与樹脂の他に、添加剤を含有してもよい。前記添加剤として、例えばバッテリーセルの外装の材質に応じて接着性を向上させることを目的に、シランカップリング剤を含有させてもよい。シランカップリング剤を含有させる場合、粘着剤100質量部に対して、シランカップリング剤は0.001質量部から0.005質量部の範囲で用いられる。また、他の添加剤として、必要に応じて、熱伝導フィラー、可塑剤、軟化剤、充填剤、難燃剤などを用いてもよい。
【0036】
本包装材が有する粘着剤層(以下、「本粘着剤層」と記す。)は前記粘着剤を含有し、前記基材の片面に形成されている。粘着剤層の形成は、例えば前記粘着剤を溶媒等に溶解させた粘着剤溶液をロールコーターやダイコーター等で前記基材に塗工する方法、剥離ライナー上に前記と同様にして粘着剤層を形成後、前記基材に転写する方法が挙げられる。剥離ライナーは、例えば、ポリエチレンラミネート紙、グラシン 紙、クレーコート紙、ポリエステルフィルム、ポリプロピレンフィルム等にシリコーン化合物やメラミン化合物等の剥離層を形成したものが好適に使用でき、その中でも、貼付時の気泡の混入を抑制することができる、フィルム基材の剥離ライナーの使用が好ましい。
前記粘着剤溶液は通常、固形分濃度で20から60質量%に調整された溶液が用いられる。
【0037】
また、本包装材における基材の、粘着剤層を設けていない表面に、前記剥離層を形成し、剥離ライナーまたは保護ライナーで粘着剤層表面へ積層しないで、基材と粘着剤層から成る本包装材をロール状に巻いてもよい。
【0038】
本粘着剤層のゲル分率は、リワーク性の観点から20%以上が好ましく、40%以上がより好ましく、60%以上がさらに好ましい。
本粘着剤層のゲル分率は、本包装材でバッテリーセルを包装した包装形態において、バッテリーセルから熱を受けて高温に晒されることによる剥がれを抑制する観点から、90%以下が好ましく、80%以下がより好ましい。
前記観点より、本粘着剤層のゲル分率は20%以上90%以下が好ましく、40%以上80%以下がより好ましく、60%以上80%以下がさらに好ましい。
【0039】
前記ゲル分率とは、粘着剤層の有機溶媒、例えばトルエンへの不溶分の質量の割合を百分率で表した値であり、下記の式により求めることができる。
トルエン浸漬後に残存した粘着剤層の質量/浸漬前の粘着剤層の質量×100
ゲル分率は前記所定の範囲を下回ると、基材の反発力に耐えうる凝集力が不足し、本包装材でバッテリーセルを包装した包装形態において、バッテリーセルから熱を受けて高温に晒されることにより、バッテリーセルとの接触箇所や折り曲げ箇所等で剥がれが生じやすくなる。また、凝集力の低下によりリワーク性も低下して、バッテリーセルから剥離する際に糊残りしやすくなる。一方、ゲル分率が前記所定の範囲を上回ると、バッテリーセルへの密着に必要な粘着力が低下し、バッテリーセルとの接着箇所や包装形態における折り曲げ箇所で剥がれが生じやすくなる。
【0040】
本粘着剤層および本粘着剤層を構成する粘着剤のガラス転移温度(Tg)は高温での耐反発性の観点から-30℃以上が好ましく、-20℃以上がより好ましく、-15℃以上がさらに好ましい。
本粘着剤層および本粘着剤層を構成する粘着剤のガラス転移温度(Tg)はリワーク性に必要な凝集力と高温での耐反発性とを維持する観点から、15℃以下が好ましく、0℃以下がより好ましい。
前記観点より、本粘着剤層および本粘着剤層を構成する粘着剤のガラス転移温度、Tg、は-30℃以上15℃以下が好ましく、-20℃以上0℃以下がより好ましく、-15℃以上0℃以下がさらに好ましい。
【0041】
本粘着剤層の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルで測定される23℃における貯蔵弾性率(以下、「23℃における貯蔵弾性率」と記す。)は、本粘着剤層の厚みを維持し、加圧による粘着剤層の基材からのはみ出しを抑制する観点から5×104Pa以上が好ましく、6×104Pa以上がより好ましく、1×105Pa以上がさらに好ましい。
本粘着剤層の23℃における貯蔵弾性率は、本粘着剤層の常温貼付性(23℃での感圧接着性)の観点からの観点から、1×106Pa以下が好ましく、8×105Pa以下がより好ましく、6×105Pa以下が最も好ましい。
【0042】
本粘着剤層および本粘着剤層を構成する粘着剤の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルで測定される60℃における貯蔵弾性率(以下、「60℃における貯蔵弾性率」と記す。)は、高温での耐反発性およびリワーク性を維持する観点から、5×104Pa以上が好ましく、6×104Pa以上がより好ましく、7×104Pa以上がさらに好ましい。
本粘着剤層および本粘着剤層を構成する粘着剤の60℃における貯蔵弾性率は、本粘着剤層の高温での耐反発性およびリワーク性の観点から、1×106Pa以下が好ましく、7×105Pa以下がより好ましく、5×105Pa以下が最も好ましい。
【0043】
本粘着剤層の周波数1Hzで測定される動的粘弾性スペクトルで測定される60℃における貯蔵弾性率に対する損失弾性率の比 (tanδ)(以下、「tanδ60」と記す。)は、本包装材の高温での耐反発性を好適にする観点から0.10以上が好ましく、0.15以上がより好ましく、0.20以上がさらに好ましい。
本粘着剤層のtanδ60は、本包装材の高温での耐反発性およびリワーク性の観点から、0.60以下が好ましく、0.4以下がより好ましい。
前記観点より、本粘着剤層および本粘着剤層を構成する粘着剤のtanδ60は0.10以上0.60以下が好ましく、0.15以上0.60以下がより好ましく、0.20以上0.40以下がさらに好ましい。
【0044】
前記貯蔵弾性率、tanδ60は、粘弾性試験機を用い、試験機の測定部である平行円盤の間に試験片を挟み込み、温度23℃、60℃の温度条件で、周波数1Hzで測定される貯蔵弾性率、および前記貯蔵弾性率と損失弾性率とに基づいて算出された値をさす。
前記貯蔵弾性率、tanδ60は前記所定の範囲を上回ると、本粘着剤層が塑性変形し易くなるため基材の反発力によって剥がれが生じやすくなる。また、tanδ60は前記所定の範囲を下回ると、基材の反発に伴う変形に対し粘着剤層が追従しにくくなり、被着体と粘着剤層の接着界面で剥がれが生じやすくなる。
【0045】
本粘着剤層の厚さは、乾燥後の厚さで5μm以上50μm以下が好ましく、10μm以上30μm以下がより好ましい。本粘着剤層の厚さが50μm以下であれば本包装材の表面の汚れやロール状に本包装材を巻いた際のブロッキングが発生しにくい。
また前記基材と同様に、用途により隠蔽性を向上させる目的で、本粘着剤層に着色剤を含有させてもよい。用いられる着色剤に関しては前記基材に用いられる着色剤と同じである。着色剤の含有量は、本粘着剤層の隠蔽性と耐剥がれ性の観点から、粘着剤の樹脂成分を100質量部として、0.5質量部以上20質量部以下が好ましく、1質量部以上15質量部以下がより好ましく、2質量部以上10質量部以下が特に好ましい。
【0046】
本包装材は前記基材の片面に前記本粘着剤層を有し、60℃の温度条件で測定される耐反発性に係る浮き距離が3mm以下であることが好ましく、本包装材とバッテリーセルとの間の空気層がより低減され熱伝導性の低下を十分に抑制でき、バッテリーセルの冷却性能を維持させる観点から2mm以下が好ましく、1.5mm以下がより好ましい。60℃の温度条件で測定される耐反発性に係る浮き距離を前記の範囲とすることで、本包装材でバッテリーセルを包装したときに、本包装材がバッテリーセルからの熱を受けて高温に晒されても、バッテリーセルとの間に空気層が生じにくくなる。
60℃の温度条件で測定される耐反発性に係る浮き距離の最小は0mmであるが、本発明の効果を奏することが可能であれば、前記浮き距離の最小は0mm超であってもよく、0.1mmであってもよい。
なお、60℃の温度条件で測定される耐反発性に係る浮き距離は、後述する実施例で説明する方法により測定される値である。
【0047】
本包装材の60℃の温度条件で測定される耐反発性は、少なくとも前記本粘着剤層のゲル分率およびガラス転移温度により調整が可能であり、更に前記基材の弾性率および厚さ等により調整することができる。したがって、これら要因を適切な範囲とすることで、本包装材の60℃の温度条件で測定される耐反発性を所望の範囲とすることができる。前記要因の適切な範囲は、例えば前記好ましい範囲の中から本包装材の用途、使用環境等により選定される。
【0048】
本包装材の厚みは、包装の際にしわが入りにくく、反発力が高くなりにくいという観点から、総厚は30μm以上175μm以下が好ましく、50μm以上125μm以下がより好ましく、70μm以上100μm以下がさらに好ましい。
本包装材の厚さは前記基材の厚みおよび本粘着剤層の乾燥後の厚みの総和である。
【0049】
本包装材の180°ピール接着力は17N/25mm以下が好ましく、15N/25mm以下がより好ましく10N/25mm以下がさらに好ましい。
本包装材の180°ピール接着力を前記の範囲とすることで、包装形態を維持可能となる接着力を有しつつ、本包装材を剥がす際に、糊残りの発生や被着面の損傷を抑制し、容易に剥離および再包装が可能となる優れたリワーク性を具備することができる。
また、バッテリーセルへ本包装材が貼付された後の耐剥がれ性を維持する上で、本包装材の180°ピール接着力は3N/25mm以上が好ましく、5N/25mm以上がより好ましく7N/25mm以上がさらに好ましい。なお、180°ピール接着力は後述する実施例で説明する180°ピール接着力の測定方法で測定される。
本包装材の180°ピール接着力は、例えば、前記本粘着剤層の厚さおよびゲル分率、前記本粘着剤層を構成する粘着剤の23℃の貯蔵弾性率、ガラス転移温度、前記基材の弾性率および厚さ等により調整することができる。したがって、これら要因を適切な範囲とすることで、本包装材の180°ピール接着力を所望の範囲とすることができる。前記要因の適切な範囲は、例えば前記好ましい範囲の中から本包装材が貼付される面積、被着体の材質、リワーク条件等により選定される。
【0050】
本包装材はバッテリーセルを包装することから絶縁性であるが、本包装材が包装するバッテリーセルの用途によっては高い絶縁性が求められる場合がある。
したがって、本包装材の絶縁破壊電圧は、2kV以上が好ましく、4kV以上がより好ましく6kV以上がさらに好ましい。絶縁破壊電圧は後述する方法で測定される。
本包装材の絶縁破壊電圧は、例えば、前記基材に用いる樹脂フィルの樹脂および厚みを選定することで所望の絶縁破壊電圧とすることができる。絶縁破壊電圧は、例えば、前記基材の厚さおよび材質、基材の弾性率、本包装材の厚さ等により調整することができる。したがって、これら要因を適切な範囲とすることで、本包装材の絶縁破壊電圧を所望の範囲とすることができる。前記要因の適切な範囲は、例えば前記好ましい範囲の中から、用途、耐反発性の要求レベル、使用環境等により選定される。
【0051】
また、本包装材の体積抵抗率は1×1013Ω・cm以上が好ましく、1×1014Ω・cm以上がより好ましく、1×1015Ω・cm以上が更に好ましい。体積抵抗率は、後述する実施例で説明する体積抵抗率の測定方法により測定することができる。
【0052】
本包装材に隠蔽性を付与する目的で、前記基材および本粘着剤層の少なくともいずれかは着色剤を含んでいてもよい。着色剤を含むのは前記基材または本粘着剤層のいずれもよく、両者が着色剤を含んでもよい。
【0053】
本包装材の別の態様としては、60℃の温度条件で測定される耐反発性に係る浮き距離が3mm以下であり、180°ピール接着力が3N/25mm以上17N/25mm以下である。このような特徴を具備することで、本包装材は、高温での耐反発性とリワーク性とを両立することができる。本包装材の別の態様は、基材および前記基材の片面に粘着剤層を有することが好ましい。本包装材の別態様における基材、粘着剤層、包装材の詳細については、前記の通りである。
【0054】
本包装材の形態は長尺状、ロール状いずれでもよい。また本粘着剤層の基材とは反対側の表面に剥離フィルムまたは保護フィルムを有してもよい。
【0055】
本包装材は前記基材の上に本粘着剤層を形成させることで製造することができる。本粘着剤層の形成の方法は前記のとおりであり、ロール状の基材を巻き出しながら基材上に前記方法で本粘着剤層を形成し、再び巻いてロール状とするか、剥離ライナー上に前記と同様にして粘着剤層を形成後、前記基材に転写した後、再び巻いてロール状とする、Roll to Rollが生産性の観点から好ましい。本包装材を巻き取る前に剥離フィルムまたは保護フィルムを本粘着剤層の基材とは反対側の表面に設けるのが好ましいが、本粘着剤層を積層しない基材の表面に剥離層を形成し、剥離ライナーまたは保護フィルムの積層を行わず、ロール状に巻き取ってもよい。
【0056】
本包装材はバッテリーセルの外表面の少なくとも一部を覆うことでバッテリーセルモジュールとして好適に用いられる。バッテリーセルは非水電解質二次電池または固体型電解質二次電池等に用いられるバッテリーセルが挙げられる。電池としてはペーパー型電池、ボタン型電池、コイン型電池、積層型電池、円筒型電池、角型電池などの形態が例示できる。
得られるバッテリーセルモジュールは、携帯機器を始め、ハイブリッド自動車や電気自動車、家庭用蓄電池などに用いられる。
【0057】
前記のとおり、本包装材はバッテリーセルの冷却効果を損なうことがなく、バッテリーセルの短寿命化が抑制される。
以上、本包装材、および本包装材でバッテリーセルの外表面の少なくとも一部が覆われたバッテリーセルモジュールに関して説明したが、本発明は前記の実施形態の構成に限定されない。
本包装材および本包装材でバッテリーセルの外表面の少なくとも一部が覆われたバッテリーセルモジュールは前記実施形態の構成において、他の任意の構成を追加してもよいし、同様の機能を発揮する任意の構成と置換されていてもよい。
【実施例0058】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお実施例および比較例において、各物性は下記の方法により測定した。
【0059】
[測定方法]
60℃環境下での耐反発性
実施例および比較例で得た包装材を25mm幅で長さ50mmに切断したものを試験片とし、前記試験片を、23℃50%RHの雰囲気で厚み2.0mm、二辺の長さが30mm、幅200mmのL字型アルミニウム板(アルインコ株式会社製、アルミニウム板FA115N)へ、各面の長さが25mmになるようL字型の角を覆うようにL字型アルミニウム板の2面へ貼付した。試験片の各面上から重さが2kgのローラーで300mm/分の速度で1往復加圧した。さらに、長さ30mm、幅50mmに切断したシリコーン粘着テープ(日立マクセル株式会社製、626001-NB)を、前記粘着テープの先端が折り曲げ位置になるようして試験片のいずれか1面上へ全面貼付してL字型のアルミニウム板へ固定して、試験片の残り1面の浮き長さのみを測定するようにした。
前記で調整した試験片を貼付したL字型アルミニウム板を、前記粘着テープで固定していない試験片の面が上面になるようにして60℃90%RHの雰囲気に96時間放置後、23℃50%RH中に戻し、L字型の90°の箇所で浮いた試験片の長さ(浮き距離)を測定した。
なお、
図1は、60℃環境下での耐反発性試験の概要を説明する模式図であり、試験片を貼付したL字型アルミニウム板を図示したものである。
図1中の符号1が試験片(包装材)、符号2がL字型アルミニウム板、符号3がシリコーン粘着テープ、符号Sが試験片の浮き部分(空気層が存在する部分)、符号Lが90°の箇所で浮いた試験片の長さ(浮き距離)をそれぞれ指す。
いずれかの辺の剥がれのうち最も大きい剥がれ(浮き距離)が1.5mm未満を◎、1.5以上2mm未満を○、2mm以上3mm未満を△、3mm以上を×とした。
【0060】
ゲル分率
後述する実施例および比較例で作製した包装材を40mm×50mmに切断したものを試験片とし、天秤で前記試験片の質量を測定後、トルエンに浸漬し常温下で24時間静置した。
前記静置後の試験片を、乾燥機で105℃で1時間乾燥し、室温で冷却した後にその質量を測定した。
【0061】
前記試験片を構成する基材を40mm×50mmに切断して別途準備し、その質量を測定した。
次に、トルエンへ浸漬する前の前記試験片の質量から、前記基材の質量を差し引き、粘着剤層のみの質量を求めた。また、トルエンへ浸漬した後の前記試験片の質量から、前記基材の質量を差し引き、トルエンに溶解せず残存した粘着剤層のみの質量を求めた。
前記浸漬前後の粘着剤層の質量から、トルエン不溶分の粘着剤層の質量の割合を以下の式により百分率で求めた。
〔浸漬後に残存した粘着剤層の質量/浸漬前の粘着剤層の質量〕×100
【0062】
貯蔵弾性率およびtanδ
23℃および60℃における貯蔵弾性率および60℃におけるtanδは、粘弾性試験機(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン社製、商品名:ARES-G2)を用い 、同試験機の測定部である平行円盤の間に試験片を挟み込み、-40℃から100℃まで昇温速度5℃/分の温度条件で測定した。
周波数1Hzで測定された23℃および60℃の貯蔵弾性率、ならびに60℃における貯蔵弾性率と損失弾性率と比、損失弾性率(Pa)/貯蔵弾性率(Pa)、に基づいて60℃におけるtanδを算出した。
なお、前記試験片は、実施例および比較例で用いた粘着剤により形成された厚さ2mmの粘着剤層を、直径8mmの大きさからなる円状に裁断したものを使用した。厚さ2mmの粘着剤層は、測定対象である粘着剤層を複数枚重ね合わせることにより形成される。後述するガラス転移温度(Tg)の測定に用いる試験片も同様である。
【0063】
ガラス転移温度(Tg)
前記貯蔵弾性率およびtanδの測定において、前記粘弾性試験機で-40℃から100℃まで測定したときのtanδを求めた際のピーク温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0064】
体積抵抗率
実施例および比較例の包装材に対し、JIS-K6911に準じて抵抗率計(アドバンテスト製デジタル超高抵抗/微小電流計R8340、TR42ボックス)を用いて、厚さ方向へ500Vの電圧をかけて測定した。
【0065】
引張弾性率
実施例および比較例の包装材に用いた基材の流れ方向及び幅方向それぞれについて、JIS K7127:1999に準拠して試験片タイプ2の形状へ切り取り、23℃50%RH中にて、200mm/分の引張速度で引っ張った際の0.05%と0.25%の間の歪みの傾きから引張弾性率を測定した。引張試験機は、株式会社エーアンドディー社製RTH-1310にて、非接触型伸び率計を用いて測定した。
【0066】
絶縁破壊電圧
JIS C 2110-1:2016に準拠して測定した。実施例および比較例で得た包装材から100mm×100mmの大きさの試験片を細断し、23℃50%RHの雰囲気で24時間以上、状態調整をした。
周囲の媒質をJIS C 2320に規定されている1種2号油、温度を23±2℃とした。
電極形状を上部がφ25mm円柱、下部がφ25mmの円柱の同径電極とし、昇圧速度を約1,000V/s、周波数を60Hzの昇圧方式として、短時間試験により絶縁破壊電圧を求めた。
【0067】
180°ピール接着力
180°ピール接着力は、実施例および比較例で得た包装材を25mm幅に切断し、23℃50%RHの環境下で、厚さ0.5mmのアルミニウム板(株式会社藤原製作所製、JIS H-4000:2014に準拠のA1050アルミニウム板)へ2kgローラーで1往復の加圧で貼付し、同環境下へ24時間放置した後に、引張試験機(株式会社エーアンドディー社製RTH-1310)にて本包装材をアルミニウム板から180°方向へ300mm/分の速度で引っ張った際の剥離抵抗を測定した。
【0068】
リワーク性評価
実施例および比較例で得た包装材を25mm幅に切断し、23℃50%RHの環境下で、前記180°ピール接着力の測定で使用したのと同じ厚さ0.5mmのアルミニウム板へ2kgローラーで1往復の加圧で貼付し、同環境下へ24時間放置した後に、120°方向へ10m/分程度の速度で手で引き剥がし、引き剥がしの容易性と粘着剤の残留の有無を下記の基準で評価した。
◎:引き剥がしが容易であり、粘着剤の残留が無かった
○:引き剥がしが容易であるが、粘着剤の残留が25mmの幅で1mm以下であった
△:引き剥がしが困難だったが、粘着剤の残留が25mmの幅で1mm以上3mm以下であった
×:引き剥がしが困難で、粘着剤の残留が3mm以上であった。
【0069】
<アクリル系共重合体(a-1)の合成>
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、n-ブチルアクリレートが89.5質量部、アクリル酸が10.0質量部、2-ヒドロキシエチルアクリレートが0.5質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリルが0.5質量部を、酢酸エチルが140質量部とトルエンが24質量部の混合溶媒へ溶解し、窒素置換後、80℃で8時間重合させることによって固形分30質量%のアクリル系共重合体(a-1)の溶液物を得た。
【0070】
<アクリル系共重合体(b-1)の合成>
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、n-ブチルアクリレートが79.94質量部、シクロヘキシルアクリレートが10.0質量部、2-エチルヘキシルアクリレートが6.0質量部、アクリル酸が4.0質量部、4-ヒドロキシブチルアクリレートが0.06質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリルが0.5質量部を、164質量部の酢酸エチルに溶解し、窒素置換後、80℃で8時間重合させることによって固形分30質量%のアクリル系共重合体(b-1)の溶液物を得た。
【0071】
<アクリル系共重合体(c-1)の合成>
攪拌機、還流冷却器、温度計、滴下漏斗および窒素ガス導入口を備えた反応容器に、2-エチルヘキシルアクリレートが84.0質量部、メチルアクリレートが14.0質量部、アクリル酸が1.0質量部、2-ヒドロキシエチルアクリレートが1.0質量部、重合開始剤として2,2’-アゾビスイソブチルニトリルが0.5質量部を、酢酸エチルが140質量部とトルエンが24質量部の混合溶媒へ溶解し、窒素置換後、80℃で8時間重合させることによって固形分30質量%のアクリル系共重合体(c-1)の溶液物を得た。
【0072】
<実施例1>
前記アクリル系共重合体(a-1)へ、硬化剤として1.0質量部のE-2XM(綜研化学株式会社製、エポキシ系硬化剤)を添加してディスパーで10分間撹拌後、乾燥後の厚みが30μmになるようシリコーン系剥離剤を片面へ塗布したPETフィルム(藤森工業株式会社製、38E-0010BD)のシリコーン系離型剤上へ塗布し、溶剤を乾燥後に厚さ50μmの白色PETフィルム(東レ株式会社製、E20)と貼合して、包装材Aを作製した。
【0073】
<実施例2>
前記アクリル系共重合体(b-1)へ、粘着付与樹脂として、酢酸エチル40質量部へHARIESTER PCJ(ハリマ化成株式会社製、重合ロジンペンタエリスリトールエステル)を15質量部とFTR-6125(三井化学株式会社製、芳香族炭化水素樹脂)を5質量部とを溶解した溶液を混合し、固形分31質量%の組成物を作製後、硬化剤として3.4質量部のバーノックKW-40(DIC株式会社製、イソシアネート系硬化剤)、黒色着色剤として、1.9質量部のMHIブラック#220(御国色素株式会社製、固形分40質量%、着色剤成分33質量%)を添加して撹拌後、実施例1と同様にして、乾燥後の厚さが30μmとになるようして、50μmの透明PETフィルム(東レ株式会社製、S10)へ貼合し、包装材Bを作製した。
【0074】
<比較例1>
熱収縮性ポリ塩化ビニルフィルム(三菱ケミカル株式会社製、VW0.07mm)を包装材として使用した。
【0075】
<比較例2>
前記アクリル系共重合体(a-1)へ、硬化剤として0.5質量部のバーノックKW-40(DIC株式会社製、イソシアネート系硬化剤)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、包装材Dを作製した。
<比較例3>
前記アクリル系共重合体(c-1)へ、硬化剤として0.34質量部のバーノックKW-40(DIC株式会社製、イソシアネート系硬化剤)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして、包装材Eを作製した。
【0076】
【0077】
前記結果から明らかなように、実施例に記載の粘着テープは、高温(60℃環境下)での耐反発性に係る浮き距離が小さく、包装材とアルミニウム板との間での空気層の発生が抑制された。このため、高温でのバッテリーセルからの剥がれが少なく、バッテリーセル用の包装材として用いた時、バッテリーセルの冷却効果を損なうことがなく、バッテリーセルの短寿命化が抑制されると考えられる。また、実施例の包装材は、リワーク性評価において糊残りの発生が抑制されており、耐反発性による高温での剥がれにくさを達成しながら、リワーク性にも優れることが示された。一方、比較例の包装材は、耐反発性およびリワーク性の両立が達成できなかった。