(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160125
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】プリンタ
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
B41J2/01 123
B41J2/01 401
B41J2/01 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070247
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000116057
【氏名又は名称】ローランドディー.ジー.株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121500
【弁理士】
【氏名又は名称】後藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100189887
【弁理士】
【氏名又は名称】古市 昭博
(74)【代理人】
【識別番号】100218084
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊光
(72)【発明者】
【氏名】千田 雄大
(72)【発明者】
【氏名】上田 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】四ノ宮 文二
(72)【発明者】
【氏名】塚本 紫門
(72)【発明者】
【氏名】萩森 普
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
(72)【発明者】
【氏名】両角 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 忠
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EC11
2C056HA37
2C056HA38
2C056HA42
2C056HA44
(57)【要約】
【課題】プリントヘッドとスプレー装置とを備えたプリンタにおいて、より均一に噴霧領域内に液剤を噴霧する。
【解決手段】プリンタは、液剤が噴霧されるスプレーノズル31aが設けられたスプレーガンを備え、支持台12に支持された被印刷物5に向かって液剤を噴霧するスプレー装置30と、スプレーガンを保持するスプレーキャリッジ40と、スプレーキャリッジ40を主走査方向Yに移動させる主走査方向移動装置と、を備える。プリンタは、スプレーキャリッジ40を主走査方向Yに移動させながらスプレーガンから液剤を噴霧させ、噴霧領域R1を含む領域R2に液剤を噴霧する噴霧処理を行う。プリンタ10は、噴霧処理において、噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側にスプレーノズル31aが位置するような位置までスプレーキャリッジ40を移動させる。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主走査方向および前記主走査方向に直交する副走査方向に延び、被印刷物を支持する支持台と、
前記支持台に支持された前記被印刷物に向かってインクを吐出するプリントヘッドと、
液剤が噴霧されるノズルが設けられたスプレーガンを備え、前記支持台に支持された前記被印刷物に向かって前記液剤を噴霧するスプレー装置と、
前記プリントヘッドを保持するプリントキャリッジと、
前記スプレーガンを保持するスプレーキャリッジと、
前記プリントキャリッジおよび前記スプレーキャリッジを前記主走査方向に移動させる主走査方向移動装置と、
前記プリントヘッド、前記スプレー装置、および前記主走査方向移動装置を制御する制御装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記液剤の噴霧領域に関するデータと前記インクによる画像に関するデータとを含む画像データに基づき、前記支持台における前記液剤の噴霧領域と前記インクの着弾位置とを算出するデータ処理部と、
前記スプレーキャリッジを前記主走査方向に移動させながら前記スプレーガンから前記液剤を噴霧させ、前記噴霧領域を含む領域に前記液剤を噴霧する噴霧処理を行う噴霧制御部と、
前記プリントキャリッジを前記主走査方向に移動させながら前記プリントヘッドからインクを吐出させ、前記データ処理部によって算出された着弾位置に前記インクを着弾させる吐出制御部と、を備え、
前記噴霧制御部は、前記噴霧処理において、前記噴霧領域よりも前記主走査方向の外側に前記ノズルが位置するような位置まで前記スプレーキャリッジを移動させる、
プリンタ。
【請求項2】
前記被印刷物と前記プリントキャリッジおよび前記スプレーキャリッジとのうちの少なくとも一方を移動させることにより、前記プリントキャリッジおよび前記スプレーキャリッジを前記被印刷物に対して前記副走査方向に移動させる副走査方向移動装置をさらに備え、
前記噴霧制御部は、前記噴霧処理において、前記スプレーキャリッジを前記噴霧領域の外側に停止させた後、前記副走査方向移動装置を制御して前記スプレーキャリッジを前記副走査方向に移動させ、前記スプレーキャリッジを前記副走査方向に移動させた後にさらに、停止させる前の前記スプレーキャリッジの移動方向とは逆方向に前記スプレーキャリッジを移動させ、前記スプレーキャリッジの移動によって前記ノズルが前記噴霧領域に到達するよりも前に前記スプレーガンから前記液剤を噴霧させる、
請求項1に記載のプリンタ。
【請求項3】
前記噴霧制御部は、前記噴霧領域よりも前記主走査方向の外側に前記ノズルが位置するような前記スプレーキャリッジの位置を噴霧開始位置に設定し、前記噴霧処理の開始時において、前記スプレーキャリッジが前記噴霧開始位置に位置しているときに前記液剤の噴霧を開始する、
請求項1に記載のプリンタ。
【請求項4】
前記噴霧制御部は、前記噴霧領域と前記噴霧領域の外部との境界部を通過するときの前記スプレーキャリッジの速度と、前記噴霧領域の前記主走査方向の中央部を通過するときの前記スプレーキャリッジの速度とを同じにするように設定されている、
請求項1に記載のプリンタ。
【請求項5】
前記液剤は、前記被印刷物の下地処理用の処理液である、
請求項1に記載のプリンタ。
【請求項6】
前記液剤は、前記インクの上にトップコート層を形成するトップコート液である、
請求項1に記載のプリンタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリンタに関する。
【背景技術】
【0002】
被印刷物にインクを吐出して画像を印刷するインクヘッドと、他の用途のための液剤を吐出するディスペンサと、を備えたプリンタが従来から知られている。例えば特許文献1には、インクを吐出するインクヘッドと、粒径の大きな顔料を含む非ニュートン流体の加飾インクを吐出するディスペンサと、を備え、意匠性の高い加飾が可能なプリンタが開示されている。
【0003】
特許文献2には、被印刷物にプライマをスプレー塗装し、プライマ層の上にアンダーコート層を流し塗りして形成し、さらにアンダーコート層の上にインクジェットプリンタによってインク層を形成し、さらにインク層の上にトップコートをスプレー塗装する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-104334号公報
【特許文献2】特開2004-34675号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、インクを吐出するプリントヘッドと、液剤を噴霧するスプレー装置と、プリントヘッドおよびスプレー装置を所定の主走査方向に移動させる主走査方向移動装置と、を備え、スプレー装置を移動させながら液剤を噴霧するプリンタに想到した。上記プリンタは、液剤を噴霧する領域(以下、噴霧領域とも呼ぶ)上でスプレー装置を移動させながら液剤を噴霧するとともに、噴霧領域と外部との境界部でスプレー装置の移動を停止させることが想定されていた。
【0006】
しかし、液剤を噴霧するスプレー装置を備えたプリンタにおいて、噴霧領域と外部との境界部でスプレー装置の移動を停止させると、境界部付近におけるスプレー装置の移動速度が噴霧領域内の他の領域よりも遅くなる。そのため、境界部と噴霧領域内の他の領域との間で液剤の噴霧具合が異なることとなり、噴霧領域内への液剤の噴霧が均一にならないことに本願発明者は気が付いた。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、インクを吐出するプリントヘッドと液剤を噴霧するスプレー装置とを備え、かつ、噴霧領域内により均一に液剤を噴霧することができるプリンタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示するプリンタは、主走査方向および前記主走査方向に直交する副走査方向に延び、被印刷物を支持する支持台と、前記支持台に支持された前記被印刷物に向かってインクを吐出するプリントヘッドと、液剤が噴霧されるノズルが設けられたスプレーガンを備え、前記支持台に支持された前記被印刷物に向かって前記液剤を噴霧するスプレー装置と、前記プリントヘッドを保持するプリントキャリッジと、前記スプレーガンを保持するスプレーキャリッジと、前記プリントキャリッジおよび前記スプレーキャリッジを前記主走査方向に移動させる主走査方向移動装置と、前記プリントヘッド、前記スプレー装置、および前記主走査方向移動装置を制御する制御装置と、を備える。前記制御装置は、データ処理部と、噴霧制御部と、吐出制御部と、を備えている。前記データ処理部は、前記液剤の噴霧領域に関するデータと前記インクによる画像に関するデータとを含む画像データに基づき、前記支持台における前記液剤の噴霧領域と前記インクの着弾位置とを算出する。前記噴霧制御部は、前記スプレーキャリッジを前記主走査方向に移動させながら前記スプレーガンから前記液剤を噴霧させ、前記噴霧領域を含む領域に前記液剤を噴霧する噴霧処理を行う。前記吐出制御部は、前記プリントキャリッジを前記主走査方向に移動させながら前記プリントヘッドからインクを吐出させ、前記データ処理部によって算出された着弾位置に前記インクを着弾させる。前記噴霧制御部は、前記噴霧処理において、前記噴霧領域よりも前記主走査方向の外側に前記ノズルが位置するような位置まで前記スプレーキャリッジを移動させる
【0009】
上記プリンタによれば、スプレーガンを保持して移動させるスプレーキャリッジは、噴霧領域よりも主走査方向の外側にノズルが位置するような位置まで移動する。従って、噴霧領域と外部との境界部にノズルが位置するときには、スプレーキャリッジは走行している。そのため、境界部付近におけるノズルの移動速度と噴霧領域内の他の領域におけるノズルの移動速度との差が小さくなる。その結果、上記プリンタによれば、噴霧領域内により均一に液剤を噴霧することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】プリントキャリッジおよびスプレーキャリッジの正面図である。
【
図3】プリントヘッドおよびスプレーガンの液剤供給系統の模式図である。
【
図6】噴霧処理のプロセスの一例を示すフローチャートである。
【
図7】噴霧処理におけるスプレーキャリッジの動きと液剤の噴霧とを示す支持台の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、一実施形態に係るプリンタについて説明する。なお、ここで説明される実施形態は、当然ながら特に本発明を限定することを意図したものではない。また、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は適宜省略または簡略化する。以下の説明では、プリンタを正面から見たときに、プリンタから遠ざかる方を前方、プリンタに近づく方を後方とする。また、図面中の符号F、Rr、L、R、U、Dは、それぞれ前、後、左、右、上、下を表している。左右方向はプリンタの主走査方向である。前後方向はプリンタの副走査方向である。図面中、主走査方向は、符号Yで表す。副走査方向Xは、符号Xで表す。主走査方向Yと副走査方向Xとは、互いに直交している。ただし、これらは説明の便宜上の方向に過ぎず、プリンタの設置態様等を限定するものではない。
【0012】
図1は、一実施形態に係るプリンタ10の斜視図である。プリンタ10は、主走査方向Yおよび副走査方向Xに移動するプリントヘッド20からインクを吐出することによって、支持台12上の被印刷物5に画像を印刷する。また、プリンタ10は、主走査方向Yおよび副走査方向Xに移動するスプレー装置30から印刷の前処理用または後処理用の液剤を噴霧する。プリンタ10は、これにより、支持台12上の被印刷物5に対して印刷の前処理用または後処理を行う。スプレー装置30から噴霧される液剤は、被印刷物5の下地処理用の処理液、例えば、プライマインクであってもよい。スプレー装置30から噴霧される液剤は、インクの上にトップコート層を形成するトップコート液、例えば、透明インクであってもよい。スプレー装置30から噴霧される液剤は特に限定されない。
【0013】
本実施形態では、インクは光硬化性のインクである。インクは、特定の波長帯の紫外線を受けると硬化するUV硬化性の樹脂を含んでいてもよい。ただし、インクの成分、色などは特に限定されない。インクは、例えばCMYKのようなプロセスカラーインクであってもよく、例えばホワイトインクやメタリックインクのような特色インクであってもよい。
【0014】
被印刷物5は、画像が印刷されるとともに、画像印刷の前処理または後処理が行われる対象物である。被印刷物5は、例えば、記録紙や樹脂シート等であってもよい。ただし、被印刷物5の素材、形状などは特に限定されない。被印刷物5は、立体的な形状を有するものであってもよい。被印刷物5の数量は、2つ以上であってもよい。被印刷物5の素材は、例えば、紙、樹脂、金属、木、布帛、ガラス等であってもよい。
【0015】
図1に示すように、プリンタ10は、プリンタ本体11と、被印刷物5を支持する支持台12と、プリントヘッド20と、光照射装置21と、プリントヘッド20および光照射装置21を保持するプリントキャリッジ22と、スプレー装置30と、スプレー装置30のスプレーガン31を保持するスプレーキャリッジ40と、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を主走査方向Yに移動させる主走査方向移動装置50と、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を副走査方向Xに移動させる副走査方向移動装置60と、制御装置120と、を備えている。
【0016】
プリンタ本体11は、プリンタ10の要部を支持する箱状の部材である。プリンタ本体11は、支持台12、プリントヘッド20、光照射装置21、プリントキャリッジ22、スプレー装置30、スプレーキャリッジ40、主走査方向移動装置50、副走査方向移動装置60、および制御装置120を直接または間接的に支持している。支持台12は、プリンタ本体11上に露出している。支持台12は、平板状の部材である。支持台12は、主走査方向Yおよび副走査方向Xに延びている。支持台12の上面は、被印刷物5が載置される載置面12aを構成している。
【0017】
主走査方向移動装置50は、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を主走査方向Yに移動させる。詳しくは後述するが、プリントキャリッジ22とスプレーキャリッジ40とは、連結または切り離し可能に構成されている。主走査方向移動装置50は、プリントキャリッジ22とスプレーキャリッジ40とが連結された状態では、両者を一体で移動させる。また、主走査方向移動装置50は、プリントキャリッジ22とスプレーキャリッジ40とが分離された状態では、スプレーキャリッジ40だけを単独で移動させる。
【0018】
主走査方向移動装置50は、ガイドレール51と、ベルト52と、キャリッジモータ53(
図5参照)と、を備えている。ガイドレール51は、支持台12よりも上方に設けられている。ガイドレール51は主走査方向Yに延びている。ガイドレール51には、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40が主走査方向Yに移動可能に係合している。プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40は、ガイドレール51に沿って主走査方向Yに移動可能に構成されている。本実施形態では、スプレーキャリッジ40は、プリントキャリッジ22よりも左方に配置されている。主走査方向移動装置50は、ガイドレール51に沿ってスプレーキャリッジ40を主走査方向Yに移動させる。スプレーキャリッジ40の背面上部には、主走査方向Yに延びるベルト52が固定されている。ベルト52は、キャリッジモータ53に接続されている。キャリッジモータ53が回転すると、ベルト52が主走査方向Yに走行する。これにより、スプレーキャリッジ40は、ガイドレール51に沿って主走査方向Yに移動する。
【0019】
プリンタ10は、プリントキャリッジ22とスプレーキャリッジ40とを連結し、または分離する連結機構70を備えている。
図2は、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40の正面図である。
図2に示すように、連結機構70は、プリントキャリッジ22に設けられた右側連結部材71と、スプレーキャリッジ40に設けられた左側連結部材72とを有している。右側連結部材71は、プリントキャリッジ22の左側部分に設けられている。左側連結部材72は、スプレーキャリッジ40の右側部分に設けられている。本実施形態では、連結機構70は、磁力を利用してプリントキャリッジ22とスプレーキャリッジ40とを連結する。右側連結部材71と左側連結部材72のうちの一方は磁石を備え、他方は磁石に吸着する磁性体を備えている。ただし、連結機構70は磁力を利用するものに限られず、係合部材等の他の構成を備えたものであってもよい。プリントキャリッジ22とスプレーキャリッジ40とは、右側連結部材71と左側連結部材72とが接触することにより連結される。
【0020】
図1に示すように、ガイドレール51は、門型のガントリー80に支持されている。ガントリー80は、プリンタ本体11の上面に設けられた図示しないレールに係合している。図示しないレールは、副走査方向Xに延びている。ガントリー80は、レールに沿って副走査方向Xに移動可能である。ガントリー80は、主走査方向Yの中央部に設けられ主走査方向Yに延びる中央部分81と、中央部分81よりも右方に設けられた右側部分82と、中央部分81よりも左方に設けられた左側部分83と、を含んでいる。中央部分81は、支持台12の上方に渡されている。中央部分81の前面には、ガイドレール51が固定されている。右側部分82は、プリントキャリッジ22を収容可能な箱状に構成されている。左側部分83は、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を収容可能な箱状に構成されている。
【0021】
ガントリー80の右側部分82の内部には、プリントヘッド20に装着される図示しないキャップが設けられている。印刷待機時、プリントヘッド20にはキャップが装着される。以下、プリントヘッド20にキャップを装着可能なプリントキャリッジ22の位置をホームポジションと呼ぶ。ホームポジションは、ガントリー80の右側部分82の内部に設定されている。また、ガントリー80の右側部分82の内部には、プリントキャリッジ22を移動不能に固定する、図示しないロック装置が設けられている。ロック装置は、プリントキャリッジ22を移動不能に固定した状態と移動可能に解放した状態とを切り替えるロック用アクチュエータ73(
図5参照)を備えている。プリントキャリッジ22をスプレーキャリッジ40から切り離す際には、プリントキャリッジ22がホームポジションに位置付けられ、ロック装置によりプリントキャリッジ22が固定される。この状態でスプレーキャリッジ40が左方へ移動すると、右側連結部材71と左側連結部材72とが離反し、スプレーキャリッジ40とプリントキャリッジ22との連結が解除される。その結果、主走査方向移動装置50がプリントキャリッジ22とは独立にスプレーキャリッジ40を移動させることが可能となる。
【0022】
副走査方向移動装置60は、支持台12上の被印刷物5に対してプリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を副走査方向Xに移動させる。副走査方向移動装置60は、ここでは、ガントリー80を副走査方向Xに移動させる。これにより、ガイドレール51が副走査方向Xに移動し、ガイドレール51に係合したプリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40が副走査方向Xに移動する。副走査方向移動装置60は、ガントリー80を移動させるガントリーモータ61(
図5参照)を備えている。
【0023】
プリントヘッド20は、支持台12に支持された被印刷物5に向かってインクを吐出する。本実施形態では、プリントヘッド20は、インクジェット方式のプリントヘッドである。本実施形態において、「インクジェット方式」とは、二値偏向方式または連続偏向方式などの各種の連続方式、および、サーマル方式または圧電素子方式などの各種のオンデマンド方式を含む従来公知の各種の手法によるインクジェット式のことをいう。ただし、プリントヘッドの方式はインクジェット方式に限定されない。プリントヘッド20は、支持台12よりも上方に設けられている。プリントヘッド20の下面には、インクが吐出される複数のノズル(図示せず)が形成されている。
【0024】
図3は、プリントヘッド20およびスプレー装置30の液剤供給系統の模式図である。
図3に示すように、プリントヘッド20には、複数のインクカートリッジ23がインク流路24を介して接続されている(ただし、2つの系統以外は図示省略)。インクカートリッジ23には、インクが収容されている。
図1に示すように、インクカートリッジ23は、ガントリー80の左側部分83の上部に設けられたインクカートリッジ装着部84に装着される。
図3に示すように、各インク流路24には、インクカートリッジ23内のインクをプリントヘッド20に送給するインクポンプ25が設けられている。
【0025】
プリントキャリッジ22の右側面および左側面には、光照射装置21が設けられている。光照射装置21は、プリントヘッド20から吐出され被印刷物5に着弾したインクを硬化させる光を照射する。スプレー装置30から噴霧される液剤がインクと同様の光硬化性を有する場合には、液剤は、光照射装置21から照射される光によって硬化される。
【0026】
スプレー装置30は、支持台12に支持された被印刷物5に向かって微粒化した液剤を噴霧するユニットである。
図4は、スプレーキャリッジ40の斜視図である。
図4に示すように、スプレー装置30は、スプレーガン31と、スプレーガン31に接続された液剤タンク32と、ミストキャッチャ33と、を備えている。なお、
図4では、プリントキャリッジ22やガイドレール51等の一部の部材の図示を省略している。
図4に示すように、スプレーガン31は、液剤が噴霧されるスプレーノズル31aと、スプレーバルブ31bと、液剤供給口31cと、バルブ制御エア供給口31dと、霧化用エア供給口31eと、を備えている。液剤タンク32は、被印刷物5に噴霧される液剤を貯留するタンクであり、スプレーガン31の液剤供給口31cに接続されている。液剤タンク32は、液剤が貯留される筒状の貯留部32aと、液剤タンク32の上部に設けられた液圧制御エア供給口32bと、を備えている。
【0027】
図3に示すように、スプレー装置30の液剤供給系統は、エアコンプレッサ91と、エアコンプレッサ91に接続されたエア供給路92と、を備えている。本実施形態では、エアコンプレッサ91は、プリンタ10に内蔵されている。ただし、プリンタ10は、エアコンプレッサ91を有さなくてもよく、圧縮空気は、例えば、外部の圧縮装置から供給されてもよい。
【0028】
エアコンプレッサ91は、スプレーキャリッジ40とは別の場所に、スプレーキャリッジ40とは離間して設けられている。これにより、スプレーキャリッジ40が小型化、軽量化されている。
図1に示すように、本実施形態では、エアコンプレッサ91は、プリンタ本体11の内部に設けられた収容空間11aに収容されている。収容空間11aは、支持台12の載置面12aよりも下方に設けられている。
【0029】
図3に示すように、エア供給路92は、エアコンプレッサ91に接続された共通流路92aと、そこから分岐した3つの流路92b、92c、および92dと、を含んでいる。液圧制御エア流路92bは、液剤タンク32の液圧制御エア供給口32bに接続され、スプレーガン31に液剤を供給するためのエアを供給する。バルブ制御エア供給路92cは、スプレーガン31のバルブ制御エア供給口31dに接続され、スプレーバルブ31bを駆動するためのエアを供給する。霧化用エア供給路92dは、スプレーガン31の霧化用エア供給口31eに接続され、液剤を霧化するためのエアを供給する。
【0030】
スプレーバルブ31bは、液剤供給口31cとスプレーノズル31aとの間を連通させ、または閉鎖するバルブである。スプレーバルブ31bは、バルブ制御エア供給口31dに圧縮空気が供給されると液剤供給口31cとスプレーノズル31aとを連通させ、圧縮空気の供給が途絶えると液剤供給口31cとスプレーノズル31aとの間を閉鎖するように構成されている。液剤タンク32の液圧制御エア供給口32bに圧縮空気が供給されるとともに、スプレーバルブ31bが開放されると、スプレーノズル31aに液剤が供給される。液剤は、霧化用エア供給口31eに供給された圧縮空気によって微粒化(霧化とも言う)され、スプレーノズル31aから噴霧される。ただし、スプレー装置30の構成は特に限定されない。スプレー装置30は、例えば、電気駆動のスプレーバルブ31bを備えていてもよい。液剤タンク32は、スプレーガン31とは離れた場所、例えば、スプレーキャリッジ40以外の場所に設けられていてもよい。
【0031】
図3に示すように、共通流路92aには、エアコンプレッサ91で発生させた圧縮空気の圧力を調整するとともにオイルミスト等を除去するフィルタレギュレータ93が設けられている。液圧制御エア流路92bには、下流側の圧縮空気の圧力を調整するレギュレータ94と、流路を開閉する電磁弁95と、が設けられている。
【0032】
バルブ制御エア供給路92cには、流路を開閉する電磁弁98が設けられている。霧化用エア供給路92dには、下流側の圧縮空気の圧力を調整するレギュレータ99と、流路を開閉する電磁弁100と、が設けられている。ただし、エア供給路92の構成は、上記したものには限定されない。例えば、各電磁弁95、98、または100は、他の方式のバルブ、例えば、エア駆動式のバルブに置き換えられてもよい。
【0033】
エア供給路92のうち、少なくとも、スプレー装置30に接続される部分は、可撓性を有するチューブによって構成される。かかる部分は、プリンタ本体11とスプレーキャリッジ40との間に渡された部分である。本実施形態では、エア供給路92の全部が可撓性を有するチューブからなっている。ただし、エア供給路92のスプレー装置30から離れた一部は、可撓性を有するチューブによって構成されず、例えば、定型性を有する素材によって形成されていてもよい。本実施形態の場合には、エア供給路92のうち、液圧制御エア流路92b、バルブ制御エア供給路92c、および霧化用エア供給路92dの各電磁弁95、98、および100よりも下流部分92b1、92c1、および92d1が、可撓性を有するチューブによって構成される。ただし、エア供給路92の電磁弁95、98、または100よりも下流に他の部材が設けられている場合は、当該部材よりも下流部分だけが可撓性を有するチューブによって構成されていてもよい。以下、スプレー装置30に接続されたチューブにも、92b1、92c1、および92d1の符号を使用する。
【0034】
スプレーガン31には、液剤タンク32およびエア供給路92のチューブ92c1、92d1が接続されている。スプレーガン31は、エアコンプレッサ91が発生させた圧縮空気によって液剤を微粒化して、被印刷物5に向かって噴霧する。液剤が噴霧されるスプレーノズル31aは、スプレーガン31の下端に設けられている。スプレーノズル31aから噴霧される液剤は、下方に向かって広がるように飛翔する。そのため、スプレーノズル31aは、広い範囲に一度に液剤を塗布することができる。ミストキャッチャ33は、液剤の噴霧時に発生する液剤のミストを回収するためのものである。ミストキャッチャ33は、スプレーノズル31aの周囲を囲むように、スプレーキャリッジ40に取り付けられている。ミストキャッチャ33内のミストは、ミスト回収口33aに吸い込まれて回収される。図示は省略するが、ミスト回収口33aにも可撓性を有するチューブが接続されている。
【0035】
図4に示すように、スプレーキャリッジ40は、スプレーガン31を支持するスプレーガン支持部41と、チューブ類を保持するチューブ保持部42と、を備えている。スプレーガン支持部41は、上下方向および主走査方向Yに広がる平板状の部材である。スプレーガン支持部41の背面には、図示しない直動ブロックが固定されている。直動ブロックは、ガイドレール51に摺動可能に係合している。スプレーガン支持部41の背面には、ベルト52(
図1参照)も固定されている。スプレーガン支持部41の前面には、スプレーガン31が固定されている。
【0036】
チューブ保持部42は、スプレーガン支持部41の上端部から後方(ガイドレール51の側)に向かって延びている。チューブ保持部42は、主走査方向Yおよび副走査方向Xに広がっている。チューブ保持部42は、複数の保持リング42aを備えている。各保持リング42aは、環状に構成され、チューブ類を挿通可能である。保持リング42aには、液圧制御エア流路92b、バルブ制御エア供給路92c、および霧化用エア供給路92dの各チューブ92b1、92c1、92d1と、ミスト回収用のチューブとが挿通されている。
【0037】
チューブ92b1、92c1、92d1、およびミスト回収用のチューブは、チューブ保持部42の後方でケーブル類保護案内装置101に収容されている。ケーブル類保護案内装置101は、ガントリー80の中央部分81に沿って設けられている。ケーブル類保護案内装置101は、スプレーキャリッジ40の主走査方向Yの位置に応じて屈曲位置が変化する管状の部材である。ケーブル類保護案内装置101は、スプレーキャリッジ40の移動によってチューブ92b1、92c1、92d1、およびミスト回収用のチューブが引っ張られたり、他の部材と摩擦したりすることを防止している。
【0038】
制御装置120は、ガントリー80の右側部分82内に収容されている。
図5は、プリンタ10のブロック図である。制御装置120は、プリントヘッド20、光照射装置21、インクポンプ25、キャリッジモータ53、ガントリーモータ61、ロック用アクチュエータ73、液圧制御エア流路92bの電磁弁95、バルブ制御エア供給路92cの電磁弁98、および霧化用エア供給路92dの電磁弁100にそれぞれ電気的に接続されており、それらを制御可能に構成されている。エアコンプレッサ91は、圧縮空気の圧力を一定に保つように自律的に駆動していてもよく、制御装置120によって制御されていてもよい。制御装置120の構成は特に限定されない。制御装置120は、例えばマイクロコンピュータである。マイクロコンピュータのハードウェア構成は特に限定されないが、例えば、ホストコンピュータ等の外部機器から印刷データ等を受信するインターフェイス(I/F)と、制御プログラムの命令を実行する中央演算処理装置(CPU:central processing unit)と、CPUが実行するプログラムを格納したROM(read only memory)と、プログラムを展開するワーキングエリアとして使用されるRAM(random access memory)と、上記プログラムや各種データを格納するメモリ等の記憶装置と、を備えている。なお、制御装置120は必ずしもプリンタ10の内部に設けられている必要はなく、例えば、プリンタ10の外部に設置され、有線または無線を介してプリンタ10と通信可能に接続されたコンピュータ等であってもよい。
【0039】
図5に示すように、制御装置120は、データ処理部121と、噴霧制御部122と、吐出制御部123と、を備えている。データ処理部121は、画像データに基づき、支持台12における液剤の噴霧領域R1(
図7参照)とインクの着弾位置とを算出する。画像データには、液剤の噴霧領域に関するデータと、インクによる画像に関するデータと、が含まれている。噴霧領域R1は、画像データによって予め設定された、液剤を噴霧する領域である。
【0040】
噴霧制御部122は、スプレーキャリッジ40を主走査方向Yに移動させながらスプレーガン31から液剤を噴霧させ、噴霧領域R1を含む領域R2(詳しくは後述、
図7参照)に液剤を噴霧する処理を行う。以下では、上記処理を「噴霧処理」とも呼ぶ。詳しくは、噴霧制御部122は、液圧制御エア流路92bの電磁弁95、バルブ制御エア供給路92cの電磁弁98、および霧化用エア供給路92dの電磁弁100を制御してスプレー装置30から液剤を噴霧するとともに、キャリッジモータ53を制御してスプレーキャリッジ40を主走査方向Yに移動させる。これにより、スプレーキャリッジ40の移動経路下方に液剤が塗布される。噴霧制御部122は、ガントリー80の副走査方向Xの位置を移動させながら上記動作を繰り返すことにより、画像印刷の前処理または後処理用の液剤を被印刷物5上の所望の位置に塗布する。
【0041】
本実施形態に係るプリンタ10は、画像データによって規定された噴霧領域R1よりも広い領域R2に液剤を噴霧する。噴霧制御部122は、噴霧処理において、噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側にスプレーノズル31aが位置するような位置(以下、停止位置P1、P2・・とも呼ぶ、
図7参照)までスプレーキャリッジ40を移動させる。噴霧制御部122は、噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側にスプレーノズル31aが位置するようなスプレーキャリッジ40の位置をスプレーキャリッジ40の停止位置P1、P2・・に設定する。これにより、噴霧領域R1の内側および外側に広がる領域R2に液剤が噴霧される。また、これにより、スプレーノズル31aは、噴霧領域R1と外部との境界部(例えば、
図7の境界部R1a)に対して、主走査方向Yに移動しながら液剤を噴霧する。
【0042】
噴霧制御部122は、噴霧処理において、スプレーキャリッジ40を停止位置P1、P2・・に停止させた後、副走査方向移動装置60を制御してスプレーキャリッジ40を副走査方向Xに移動させる。これにより、スプレー装置30によって液剤が噴霧される副走査方向Xの領域が変更される。噴霧制御部122は、スプレーキャリッジ40を副走査方向Xに移動させた後に、停止させる前のスプレーキャリッジ40の移動方向とは逆方向にスプレーキャリッジ40を移動させる。噴霧制御部122は、スプレーキャリッジ40の移動によってスプレーノズル31aが噴霧領域R1に到達するよりも前にスプレーガン31から液剤を噴霧させる。これにより、スプレーノズル31aは、噴霧領域R1と外部との他の境界部(例えば、
図7の境界部R1b)に対しても、主走査方向Yに移動しながら液剤を噴霧する。
【0043】
噴霧制御部122は、噴霧領域R1と噴霧領域R1の外部との境界部(例えば、
図7の境界部R1a、R1b)を通過するときのスプレーキャリッジ40の速度と、噴霧領域R1の主走査方向Yの中央部(例えば、
図7の中央部R1c)を通過するときのスプレーキャリッジ40の速度とを同じにするように設定されている。ここでは、スプレーキャリッジ40が噴霧領域R1から出るときにも、噴霧領域R1に入るときにも、スプレーキャリッジ40の速度は、噴霧領域R1の主走査方向Yの中央部を通過するときと同じである。液剤の噴霧制御の詳細については後述する。
【0044】
吐出制御部123は、プリントキャリッジ22を主走査方向Yに移動させながらプリントヘッド20からインクを吐出させる。吐出制御部123は、これにより、データ処理部121によって算出された着弾位置にインクを着弾させる。制御装置120は、上記以外の制御部を備えていてもよいが、ここでは、説明および図示を省略する。
【0045】
[噴霧および画像形成のプロセス]
以下では、液剤の噴霧処理およびインクによる画像形成のプロセスの一例について説明する。ここでは、液剤として被印刷物5の下地処理用のプライマインクが噴霧される場合を例に説明する。プライマインクは、光硬化性であるものとする。ここに説明する例では、スプレー装置30からの液剤の噴霧が画像印刷に先立って行われる。スプレー装置30からの液剤の噴霧プロセスでは、まず、プリントキャリッジ22がホームポジションに移動される。この移動は、プリントキャリッジ22とスプレーキャリッジ40とが連結された状態でスプレーキャリッジ40が移動されることによって行われる。次に、プリントキャリッジ22がロック装置によって移動不能に固定される。この状態で、スプレーキャリッジ40を左方に動かして、スプレーキャリッジ40とプリントキャリッジ22とを分離する。これにより、スプレーキャリッジ40をプリントキャリッジ22とは独立して移動させることが可能となる。ホームポジションに残ったプリントヘッド20には、キャップが装着される。これにより、スプレー装置30から噴霧されたプライマインクがプリントヘッド20に付着することが防止される。
【0046】
次に、スプレーキャリッジ40だけを主走査方向Yに移動させながらスプレーガン31からプライマインクを吐出させ、かつ、スプレーキャリッジ40を副走査方向Xに間欠的に移動させることにより、プライマインクの噴霧処理が行われる。噴霧処理の詳細については後述する。
【0047】
プライマインクの噴霧処理が終了すると、スプレーキャリッジ40は、右方に移動され、プリントキャリッジ22と再び連結される。ロック装置によるプリントキャリッジ22の固定は解除される。これにより、プリントキャリッジ22を主走査方向Yに移動させることが可能となる。キャップは、プリントヘッド20から離間される。ここに説明する例では、プリントキャリッジ22を主走査方向Yに移動させ、かつ、ガントリー80を間欠的に副走査方向Xに移動させながら、光照射装置21からプライマインクを硬化させる光を照射する。これにより、被印刷物5上のプライマインクを硬化させる。続いてプリントヘッド20を使用して画像の印刷が行われる。
【0048】
上記したプロセスは一例であり、例えば、スプレー装置30から噴霧される液剤が画像印刷の後処理用のトップコート液(例えば、光硬化性の透明インク)の場合には、画像印刷の後にトップコート液の噴霧処理が行われる。
【0049】
[噴霧処理の詳細]
図6は、噴霧処理のプロセスの一例を示すフローチャートである。
図7は、噴霧処理におけるスプレーキャリッジ40の動きと液剤の噴霧とを示す支持台12の平面図である。
図7は模式的な平面図であり、一部の部材の図示は省略されている。
図6に示すように、好適な一例に係る噴霧処理では、スプレーキャリッジ40は、ステップS01において、まず左方に移動する(スプレーキャリッジ40の動きを、
図7に矢印で示す)。ステップS02では、噴霧領域にR1の外側において液剤の噴霧が開始される。以下、液剤の噴霧が開始されるスプレーキャリッジ40の位置を噴霧開始位置P0とも呼ぶ。
【0050】
図7に示すように、噴霧制御部122は、噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側(ここでは、右方)にスプレーノズル31aが位置するようなスプレーキャリッジ40の位置を噴霧開始位置P0に設定する。噴霧制御部122は、噴霧処理の開始時において、スプレーキャリッジ40が噴霧開始位置P0に位置しているときに液剤の噴霧を開始する。なお、ここでは、液剤の噴霧が開始されるときには既にスプレーキャリッジ40は走行しているが、スプレーキャリッジ40は、液剤の噴霧が開始されるとき噴霧開始位置P0に停止していてもよい。その場合、スプレーキャリッジ40は、液剤の噴霧が開始された後に再び走行してもよい。
【0051】
ステップS02の後、スプレーキャリッジ40は、そのまま左方に移動し続ける。これにより、ステップS03においてスプレーノズル31aが噴霧領域R1上に到達し、スプレー装置30から噴霧された液剤が噴霧領域R1に噴霧され始める。噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側にスプレーノズル31aが位置するような位置に噴霧開始位置P0が設定されることにより、液剤が最初に噴霧領域R1に噴霧されるとき(ここでは、噴霧領域R1の右端に液剤が噴霧されるとき)、液剤を噴霧するスプレーノズル31aは主走査方向Yに走行している。スプレーノズル31aは、このとき、設定された走査速度(定常速度)で移動している。ステップS03において、硬化前の液剤の層(以下、単に液剤層と言う)は、噴霧領域R1の副走査方向Xの端部(ここでは、前端部)に沿って形成される。
【0052】
本実施形態では、その後、
図7に示すように、スプレーノズル31aが噴霧領域R1の左端に到達しても、スプレーキャリッジ40は、そのまま走行を続ける。スプレーノズル31aが噴霧領域R1の左端に到達したとき、スプレーキャリッジ40はまだ、設定された走査速度で移動している。
【0053】
続くステップS04では、スプレーキャリッジ40が減速され、停止される。本実施形態では、スプレーキャリッジ40は、スプレーノズル31aが噴霧領域R1を通り過ぎて噴霧領域R1の外側に位置した後に減速を開始する。その後、
図7に示すように、スプレーキャリッジ40は、噴霧領域R1に基づいて設定された停止位置P1に停止する。停止位置P1は、少なくとも噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側にスプレーノズル31aが位置するようなスプレーキャリッジ40の位置である。停止位置P1は、例えば、噴霧領域R1と外部との境界部R1aから予め定められた距離だけ外側に設定された位置である。停止位置P1において、スプレーキャリッジ40の一部またはスプレーガン31の一部は、噴霧領域R1の内側にあってもよい。
【0054】
図6に示すように、ステップS05では、液剤の噴霧が停止される。本実施形態では、スプレーキャリッジ40が停止位置P1に停止すると、スプレー装置30は液剤の噴霧を停止する。ただし、スプレーキャリッジ40が停止位置P1に停止した後も、液剤の噴霧は継続されてもよい。
【0055】
図7に示すように、スプレーキャリッジ40が減速を開始してから停止するまでの区間R3では、スプレーキャリッジ40が走査速度で走行している区間よりも、面積当たりの液剤の噴霧量(以下、噴霧密度とも呼ぶ)が大きくなる。これは、区間R3では、スプレーキャリッジ40の移動速度が走査速度で走行している区間よりも遅いためである。
図7では、噴霧密度の大小をハッチングの密度の大小で示している。
【0056】
図6に示すように、ステップS06では、スプレーキャリッジ40が副走査方向X(ここでは、後方)に移動される。ステップS06における移動距離は、スプレー装置30の副走査方向Xに関する噴霧範囲と概ね等しくてもよい。ただし、ステップS06における移動距離は、副走査方向Xに関する噴霧範囲よりも短くてもよい。その場合、液剤は、被印刷物5に重ね塗りされる。
【0057】
ステップS07では、ステップS04で停止位置P1に停止させる前のスプレーキャリッジ40の移動方向(ここでは、左向き)とは逆方向(ここでは右向き)にスプレーキャリッジ40を移動させる。ステップS08では、スプレーガン31から液剤を噴霧させる。液剤の噴霧は、少なくとも、スプレーキャリッジ40の移動によってスプレーノズル31aが噴霧領域R1に到達するよりも前に開始される。ステップS08は、ステップS07よりも前に行われてもよく、ステップS07と同時に行われてもよい。
【0058】
ステップS08の後、スプレーキャリッジ40は、そのまま右方に移動し続ける。これにより、ステップS09においてスプレーノズル31aが噴霧領域R1の左端部R1bの上方に到達し、スプレー装置30から噴霧された液剤が再び噴霧領域R1に噴霧され始める。スプレーノズル31aは、噴霧領域R1に進入し始めるとき、走査速度で移動している。液剤層は、ステップS03において液剤層が形成された領域の後端に沿って、左から右に形成される。
【0059】
続くステップS10では、スプレーキャリッジ40が停止される。ステップS04と同様に、スプレーキャリッジ40は、スプレーノズル31aが噴霧領域R1を通り過ぎて噴霧領域R1の外側(ここでは、右方)に位置した後に減速を開始する。その後、
図7に示すように、スプレーキャリッジ40は、噴霧領域R1に基づいて設定された第2の停止位置P2に停止する。停止位置P2も、噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側にスプレーノズル31aが位置するようなスプレーキャリッジ40の位置である。以下、図示および説明は省略するが、領域R2の全体に液剤が噴霧されるまで同様の作業が繰り返される。
【0060】
[本実施形態の作用効果]
以下では、本実施形態に係るプリンタ10が奏することができる作用効果について説明する。本実施形態に係るプリンタ10は、主走査方向Yおよび主走査方向Yに直交する副走査方向Xに延び、被印刷物5を支持する支持台12と、支持台12に支持された被印刷物5に向かってインクを吐出するプリントヘッド20と、液剤が噴霧されるスプレーノズル31aが設けられたスプレーガン31を備え、支持台12に支持された被印刷物5に向かって液剤を噴霧するスプレー装置30と、プリントヘッド20を保持するプリントキャリッジ22と、スプレーガン31を保持するスプレーキャリッジ40と、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を主走査方向Yに移動させる主走査方向移動装置50と、プリントヘッド20、スプレー装置30、および主走査方向移動装置50を制御する制御装置120と、を備えている。制御装置120は、データ処理部121と、噴霧制御部122と、吐出制御部123と、を備えている。データ処理部121は、液剤の噴霧領域に関するデータとインクによる画像に関するデータとを含む画像データに基づき、支持台12における液剤の噴霧領域R1とインクの着弾位置とを算出する。吐出制御部123は、プリントキャリッジ22を主走査方向Yに移動させながらプリントヘッド20からインクを吐出させ、データ処理部121によって算出された着弾位置にインクを着弾させる。噴霧制御部122は、スプレーキャリッジ40を主走査方向Yに移動させながらスプレーガン31から液剤を噴霧させ、噴霧領域R1を含む領域R2に液剤を噴霧する噴霧処理を行う。噴霧制御部122は、噴霧処理において、噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側にスプレーノズル31aが位置するような位置までスプレーキャリッジ40を移動させる。
【0061】
かかるプリンタ10によれば、噴霧領域R1内により均一に液剤を噴霧することができる。
【0062】
本願発明者は、プリンタ10と同様に、インクを吐出するプリントヘッドと、液剤を噴霧するスプレー装置と、プリントヘッドおよびスプレー装置を主走査方向に移動させる主走査方向移動装置と、を備え、スプレー装置を移動させながら液剤を噴霧するプリンタに想到していた。上記プリンタでは、噴霧領域上でスプレー装置を移動させながら液剤を噴霧するとともに、噴霧領域と外部との境界部上でスプレー装置を停止させることが想定されていた。
【0063】
しかし、例えば
図7の区間R3に示したように、液剤を噴霧するスプレー装置を備えたプリンタにおいて、スプレー装置の移動を停止させると、スプレー装置の停止位置付近における移動速度は、他の領域よりも遅くなる。そのため、停止位置付近の液剤の噴霧密度が他の領域よりも高くなる。この噴霧密度が高い領域が噴霧領域内にあると、噴霧領域内への液剤の噴霧が均一にならないことに本願発明者は気づいた。そこで、本願発明者は、本実施形態に係るプリンタ10による噴霧処理において、噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側にスプレーノズル31aが位置するような位置(停止位置P1、P2・・)までスプレーキャリッジ40を移動させることとした。言い換えると、本実施形態に係るプリンタ10によれば、スプレーノズル31aは、噴霧領域R1と外部との境界部(例えば、境界部R1a)上で停止せず、境界部上を通過する。これにより、境界部付近におけるスプレーノズル31aの移動速度と噴霧領域R1内の他の領域におけるスプレーノズル31aの移動速度との差が小さくなる。その結果、噴霧領域R1の外部との境界部(例えば、境界部R1a)における液剤の噴霧密度が他の領域に対して高くなることを抑制できる。よって、噴霧領域R1内における液剤の噴霧状態をより均一にすることができる。
【0064】
本実施形態に係るプリンタ10は、被印刷物5とプリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40とのうちの少なくとも一方を移動させることにより、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を被印刷物5に対して副走査方向Xに移動させる副走査方向移動装置60を備えている。ここでは、副走査方向移動装置60は、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を移動させることにより、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を副走査方向Xに移動させる。噴霧制御部122は、噴霧処理において、スプレーキャリッジ40を噴霧領域R1の外側に停止させた後、副走査方向移動装置60を制御してスプレーキャリッジ40を副走査方向Xに移動させる。噴霧制御部122は、スプレーキャリッジ40を副走査方向Xに移動させた後にさらに、停止させる前のスプレーキャリッジ40の移動方向とは逆方向にスプレーキャリッジ40を移動させる。噴霧制御部122は、スプレーキャリッジ40の移動によってスプレーノズル31aが噴霧領域R1に到達するよりも前にスプレーガン31から液剤を噴霧させる。
【0065】
かかるプリンタ10によれば、スプレーノズル31aは、噴霧領域R1内に進入する際にも、主走査方向Yに移動しながら噴霧領域R1の境界部(例えば、
図7の境界部R1b)に液剤を噴霧する。そのため、スプレーノズル31aが噴霧領域R1内に進入する際にも、噴霧領域R1の外部との境界部における液剤の噴霧密度が他の領域に対して高くなることを抑制できる。よって、これによっても、噴霧領域R1内における液剤の噴霧状態をより均一にできる。
【0066】
本実施形態では、噴霧制御部122は、噴霧領域R1よりも主走査方向Yの外側にスプレーノズル31aが位置するようなスプレーキャリッジ40の位置を噴霧開始位置P0に設定し、噴霧処理の開始時において、スプレーキャリッジ40が噴霧開始位置P0に位置しているときに液剤の噴霧を開始する。かかるプリンタ10によれば、上記したのと同様の理由により、噴霧処理の開始時においても、境界部における液剤の噴霧密度が他の領域に対して高くなることを抑制できる。その結果、噴霧領域R1内における液剤の噴霧状態をより均一にできる。
【0067】
本実施形態では、噴霧制御部122は、噴霧領域R1と噴霧領域R1の外部との境界部(例えば、境界部R1a、R1b)を通過するときのスプレーキャリッジ40の速度と、噴霧領域R1の主走査方向Yの中央部(例えば、
図7の中央部R1c)を通過するときのスプレーキャリッジ40の速度とを同じにするように設定されている。かかるプリンタ10によれば、噴霧領域R1上を通過するときのスプレーノズル31aの速度は一定である。そのため、噴霧領域R1内における液剤の噴霧状態をさらに均一にできる。なお、噴霧領域R1上を通過するときのスプレーノズル31aの速度は一定でなくてもよく、例えば、噴霧領域R1の主走査方向Yの境界部をスプレーノズル31aが通過する前にスプレーキャリッジ40の減速が始められてもよい。それでも、噴霧領域R1内の液剤の噴霧状態を均一化する効果は奏される。
【0068】
液剤は、被印刷物5の下地処理用の処理液であってもよく、インクの上にトップコート層を形成するトップコート液であってもよい。液剤が下地処理用の処理液の場合、液剤を均一に噴霧することにより、インクの定着がより均一になる。液剤がトップコート液の場合、液剤を均一に噴霧することにより、トップコートの外観がより均一になる。
【0069】
[他の実施形態]
以上、本発明の好適な実施形態について説明した。しかし、上記した実施形態の他にも、ここに開示する技術は種々の態様で実施できる。例えば、上記した実施形態では、スプレー装置30の数量は1つであり、噴霧できる液剤の種類は1種類であった。しかし、プリンタは複数のスプレー装置を備えていてもよく、複数種類の液剤を噴霧できてもよい。複数のスプレー装置は、それぞれ別のスプレーキャリッジに保持されていてもよく、その一部または全部が同じスプレーキャリッジに保持されていてもよい。
【0070】
上記した実施形態では、プリントヘッド20を保持するプリントキャリッジ22とスプレーガン31を保持するスプレーキャリッジ40とは別体であったが、プリントキャリッジとスプレーキャリッジとは一体に構成され、ともに移動されてもよい。また、主走査方向移動装置は、プリントキャリッジを移動させる機構と、スプレーキャリッジを移動させる他の機構とを備えていてもよい。例えば、プリントキャリッジが摺動可能に係合するガイド部材と、スプレーキャリッジが摺動可能に係合するガイド部材とは、別のガイド部材であってもよい。副走査方向移動装置についても同様である。
【0071】
上記した実施形態では、副走査方向移動装置60は、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を移動させることにより、プリントキャリッジ22およびスプレーキャリッジ40を被印刷物5に対して副走査方向Xに移動させるように構成されていた。しかし、副走査方向移動装置は、被印刷物とプリントキャリッジおよびスプレーキャリッジとのうちの少なくとも一方を移動させることにより、プリントキャリッジおよびスプレーキャリッジを被印刷物に対して副走査方向に移動させるように構成されていればよく、それ以上限定されない。例えば、副走査方向移動装置は、被印刷物を支持台上で副走査方向に送るように構成されていてもよく、被印刷物が載置された支持台を副走査方向に移動させるように構成されていてもよい。
【0072】
その他、プリンタの構成は、特に言及がない限り、限定されない。例えば、ここに開示する技術は、フラットベッドタイプの小型プリンタや、ロールメディアに印刷するプリンタなどに対しても利用できる。印刷方式も特に限定されない。インクは光硬化性インクの他、例えば、溶剤インクや水性インクなどであってもよい。
【符号の説明】
【0073】
5 被印刷物
10 プリンタ
12 支持台
20 プリントヘッド
22 プリントキャリッジ
30 スプレー装置
31 スプレーガン
31a スプレーノズル(ノズル)
40 スプレーキャリッジ
50 主走査方向移動装置
60 副走査方向移動装置
120 制御装置
121 データ処理部
122 噴霧制御部
123 吐出制御部