IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 古河機械金属株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法 図1
  • 特開-高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法 図2
  • 特開-高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160133
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 5/00 20060101AFI20231026BHJP
   C22C 37/06 20060101ALI20231026BHJP
   C22C 37/08 20060101ALI20231026BHJP
   C21D 1/32 20060101ALI20231026BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C21D5/00 Z
C22C37/06 Z
C22C37/08 Z
C21D1/32
C21D1/18 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070265
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000165974
【氏名又は名称】古河機械金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】上田 博之
(72)【発明者】
【氏名】太田 和行
(72)【発明者】
【氏名】郭 俊清
(57)【要約】
【課題】高クロム鋳鉄の熱処理後のロックウェル硬度HRCを40以下とし、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法を提供すること。
【解決手段】本発明の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法は、重量%で、Cを2.1%以上4.0%以下、かつ、Crを30.0%以上40.0%以下の範囲で含む高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、前記高クロム鋳鉄を700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持する加熱工程と、前記高クロム鋳鉄を100℃/時間以下の冷却速度で600℃の炉内温度まで徐冷する徐冷工程と、を含み、前記加熱工程と前記徐冷工程における所要時間の合計が20時間以上であり、当該軟化熱処理方法による熱処理後の前記高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCが40以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、Cを2.1%以上4.0%以下、かつ、Crを30.0%以上40.0%以下の範囲で含む高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
前記高クロム鋳鉄を700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持する加熱工程と、
前記高クロム鋳鉄を100℃/時間以下の冷却速度で600℃の炉内温度まで徐冷する徐冷工程と、を含み、
前記加熱工程と前記徐冷工程における所要時間の合計が20時間以上であり、
当該軟化熱処理方法による熱処理後の前記高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCが40以下である、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
【請求項2】
重量%で、Cを4.0%以上7.0%以下、かつ、Crを20.0%以上40.0%以下の範囲で含む高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
前記高クロム鋳鉄を900℃以上1100℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持する一次加熱工程と、
前記一次加熱工程の後に、前記高クロム鋳鉄を700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間でさらに加熱保持する二次加熱工程と、
前記高クロム鋳鉄を100℃/時間以下の冷却速度で600℃の炉内温度まで徐冷する徐冷工程と、を含み、
当該軟化熱処理方法による熱処理後の前記高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCが40以下である、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
前記高クロム鋳鉄が、重量%でSiを0%以上2.0%以下、Mnを0%以上5.0%以下、Feを40.0%以上77.9%以下、および不可避の不純物を0%以上0.1%以下の範囲でさらに含む、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
【請求項4】
請求項1または2に記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
前記高クロム鋳鉄が、Mo、W、Nb、V、Co、Ni、Cu、Ti、希土類元素からなる群より選択される1種または2種以上の元素をさらに含む、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
【請求項5】
請求項1または2に記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
前記徐冷工程の後に、
前記高クロム鋳鉄を加工する加工工程と、
前記加工工程の後、前記高クロム鋳鉄を850℃以上1200℃以下の炉内温度、かつ1時間以上12時間以下の保持時間で加熱保持した後、50℃/分以上の冷却速度で冷却することで、焼入れを行う焼入工程と、
をさらに含む、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
前記焼入工程の後の前記高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCが55以上である、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
【請求項7】
請求項5に記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
前記焼入工程の後の前記高クロム鋳鉄は、ポンプの部品または破砕機の部品である、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高クロム鋳鉄は耐摩耗性材料として使われ、その主要構成元素が鉄(Fe)、カーボン(C)、及びクロム(Cr)である。高クロム鋳鉄は、C及びCrの含有量が増加するにつれて耐摩耗性が向上するが、機械加工性が悪くなる。高クロム鋳鉄の機械加工性を左右する要素の一つはその硬度であり、硬度が低いほど機械加工性が良い。高クロム鋳鉄の機械加工性を向上するために、硬度を低下させるための熱処理、即ち軟化熱処理が求められる。
【0003】
Cr含有量およびC含有量の低い高クロム鋳鉄に関しては、例えば熱処理の条件が非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】P.Ortega-Cubillos et.al,Wear resistance of high chromium white cast iron for coal grinding rolls;Revista Facultad de Ingenieria,Universidad de Antioquia, No.76 pp.134-142,2015.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高クロム鋳鉄の耐摩耗性・耐食性を向上させるためには、C、Crの含有量を上げる必要がある。しかし、Cr含有量及びC含有量の少なくとも一方を高くすると、既知の熱処理条件では軟化熱処理を行えなかった。
【0006】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、Cr含有量及びC含有量の少なくとも一方がある程度高い高クロム鋳鉄において、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる軟化熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、高クロム鋳鉄の熱処理後のロックウェル硬度HRCを40以下とし、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法を提供するために鋭意検討した。その結果、特定の炉内温度で特定の時間熱処理することによって、高クロム鋳鉄の熱処理後のロックウェル硬度HRCを40以下とし、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができることを見出し、本発明に至った。
【0008】
すなわち、本発明によれば、
以下の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法が提供される。
【0009】
[1]
重量%で、Cを2.1%以上4.0%以下、かつ、Crを30.0%以上40.0%以下の範囲で含む高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
上記高クロム鋳鉄を700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持する加熱工程と、
上記高クロム鋳鉄を100℃/時間以下の冷却速度で600℃の炉内温度まで徐冷する徐冷工程と、を含み、
上記加熱工程と上記徐冷工程における所要時間の合計が20時間以上であり、
当該軟化熱処理方法による熱処理後の上記高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCが40以下である、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
[2]
重量%で、Cを4.0%以上7.0%以下、かつ、Crを20.0%以上40.0%以下の範囲で含む高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
上記高クロム鋳鉄を900℃以上1100℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持する一次加熱工程と、
上記一次加熱工程の後に、上記高クロム鋳鉄を700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間でさらに加熱保持する二次加熱工程と、
上記高クロム鋳鉄を100℃/時間以下の冷却速度で600℃の炉内温度まで徐冷する徐冷工程と、を含み、
当該軟化熱処理方法による熱処理後の上記高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCが40以下である、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
[3]
上記[1]または[2]に記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
上記高クロム鋳鉄が、重量%でSiを0%以上2.0%以下、Mnを0%以上5.0%以下、Feを40.0%以上77.9%以下、および不可避の不純物を0%以上0.1%以下の範囲でさらに含む、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
[4]
上記[1]乃至[3]のいずれか1つに記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
上記高クロム鋳鉄が、Mo、W、Nb、V、Co、Ni、Cu、Ti、希土類元素からなる群より選択される1種または2種以上の元素をさらに含む、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
[5]
上記[1]乃至[4]のいずれか1つに記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
上記徐冷工程の後に、
上記高クロム鋳鉄を加工する加工工程と、
上記加工工程の後、上記高クロム鋳鉄を850℃以上1200℃以下の炉内温度、かつ1時間以上12時間以下の保持時間で加熱保持した後、50℃/分以上の冷却速度で冷却することで、焼入れを行う焼入工程と、
をさらに含む、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
[6]
上記[5]に記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
上記焼入工程の後の上記高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCが55以上である、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
[7]
上記[5]または[6]に記載の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、
上記焼入工程の後の上記高クロム鋳鉄は、ポンプの部品または破砕機の部品である、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、高クロム鋳鉄の熱処理後のロックウェル硬度をHRC40以下とし、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる、高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】加熱工程および徐冷工程における熱処理の温度と時間との関係を示す図である。
図2】加熱工程および徐冷工程における熱処理の温度と時間との関係を示す図である。
図3】焼入工程における熱処理の温度と時間との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、図は概略図であり、実際の寸法比率とは一致していない。なお、文中の数字の間にある「~」は特に断りがなければ、以上から以下を表す。
【0013】
本実施形態における高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法は、重量%で、Cを2.1%以上4.0%以下、かつ、Crを30.0%以上40.0%以下の範囲で含む高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、上記高クロム鋳鉄を700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持する加熱工程と、上記高クロム鋳鉄を100℃/時間以下の冷却速度で600℃の炉内温度まで徐冷する徐冷工程と、を含み、上記加熱工程と上記徐冷工程における所要時間の合計が20時間以上である。そして、当該軟化熱処理方法による熱処理後の上記高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCが40以下である。
図1に本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法における加熱工程および徐冷工程の温度と時間との関係を示す。
【0014】
上述のように、Cr含有量30.0重量%以上、またはC含有量2.1重量%以上の高クロム鋳鉄は、従来の条件で熱処理を行った場合には、ロックウェル硬度HRCが通常40以上となり、機械加工しにくいという課題があった。本実施形態における高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法は、高クロム鋳鉄を700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持する加熱工程と、上記高クロム鋳鉄を100℃/時間以下の冷却速度で600℃の炉内温度まで徐冷する徐冷工程と、を含み、上記加熱工程と上記徐冷工程における所要時間の合計が20時間以上であることによって、高クロム鋳鉄の熱処理後のロックウェル硬度HRCは40以下に低下するため、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる。
【0015】
この理由は定かではないが、高クロム鋳鉄を700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持することによって、高クロム鋳鉄におけるフェライト相に含まれるカーボンが析出したためと考えられる。それにより、クロムを含有することによる耐摩耗性・耐食性の向上と、機械加工性を両立させることができる。
【0016】
本実施形態における高クロム鋳鉄の組成は、製造時における原料配合比でもよいし、製造後の成分分析により測定される組成でもよい。成分分析法としては、公知の分析法を使用することができ、例えばエネルギー分散形X線分光分析(SEM-EDS)、発光分光分析(OES)、誘導結合プラズマ分析(ICP)等が挙げられる。
【0017】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記加熱工程における炉内温度は700℃以上750℃以下であるが、好ましくは710℃以上750℃以下であり、さらに好ましくは720℃以上750℃以下である。炉内温度を上記数値範囲とすることにより、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる。
【0018】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記加熱工程における保持時間の下限値は10時間以上であるが、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは15時間以上である。保持時間の下限値が上記下限値以上であることにより、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる。
また、上記保持時間の上限値は、好ましくは48時間以下であり、より好ましくは36時間以下であり、さらに好ましくは24時間以下である。保持時間の上限値が上記上限値以下であることにより、高クロム鋳鉄の生産性向上をより好適にすることができる。
【0019】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記徐冷工程における高クロム鋳鉄の冷却速度は100℃/時間以下であるが、好ましくは50℃/時間以下である、より好ましくは30℃/時間以下である。冷却速度の上限値が上記上限値以下であることにより、高クロム鋳鉄の機械加工性をより好適にすることができる。
また、上記冷却速度の下限値は特に限定されないが、例えば5℃/時間以上でもよいし、10℃/時間以上でもよいし、20℃/時間以上でもよい。
このときの冷却方法としては特に限定されず、公知の冷却方法を用いることができるが、好ましくは炉内徐冷である。
【0020】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記加熱工程と上記徐冷工程における所要時間の合計が20時間以上であるが、好ましくは25時間以上であり、さらに好ましくは30時間以上である。上記加熱工程と上記徐冷工程における所要時間の合計が上記下限値以上であることにより、高クロム鋳鉄の硬度が低下し、機械加工性を向上させることができる。
また、上記所要時間の合計の上限値は特に限定されないが、例えば60時間以下でもよいし、50時間以下でもよいし、40時間以下でもよい。
【0021】
また、本実施形態における高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法は、重量%で、Cを4.0%以上7.0%以下、かつ、Crを20.0%以上40.0%以下の範囲で含む高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法であって、上記高クロム鋳鉄を900℃以上1100℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持する一次加熱工程と、上記一次加熱工程の後に、上記高クロム鋳鉄を700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間でさらに加熱保持する二次加熱工程と、上記高クロム鋳鉄を100℃/時間以下の冷却速度で600℃の炉内温度まで徐冷する徐冷工程と、を含む。当該軟化熱処理方法による熱処理後の上記高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCは40以下である。これにより、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる。
図2に本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法における加熱工程および徐冷工程の温度と時間との関係を示す。
【0022】
この理由は定かではないが、一次加熱工程として、高クロム鋳鉄を900℃以上1100℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持することによって、オーステナイト相に含まれるカーボンが析出する。その後、二次加熱工程として、700℃以上750℃以下の炉内温度、かつ10時間以上の保持時間で加熱保持することによって、高クロム鋳鉄におけるフェライト相に含まれるカーボンが析出したためと考えられる。それにより、上記高クロム鋳鉄の硬度を低下させ、機械加工性を向上させることができる。
【0023】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記一次加熱工程における炉内温度は900℃以上1100℃以下であるが、好ましくは950℃以上1100℃以下であり、さらに好ましくは950℃以上1050℃以下である。炉内温度を上記数値範囲とすることにより、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる。
【0024】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記一次加熱工程から上記二次加熱工程に移行する際の冷却速度の上限値は、好ましくは100℃/時間以下であり、より好ましくは50℃/時間以下である、さらに好ましくは30℃/時間以下である。冷却速度の上限値が上記上限値以下であることにより、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる。
また、上記一次加熱工程から上記二次加熱工程に移行する際の冷却速度の下限値は特に限定されないが、例えば、5℃/時間以上であり、10℃/時間以上であり、15℃/時間以上である。
【0025】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記二次加熱工程における炉内温度は700℃以上750℃以下であるが、好ましくは710℃以上750℃以下であり、さらに好ましくは720℃以上750℃以下である。炉内温度を上記数値範囲とすることにより、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる。
【0026】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記一次加熱工程および二次加熱工程における保持時間の下限値はともに10時間以上であるが、好ましくは12時間以上であり、より好ましくは15時間以上である。保持時間の下限値が上記下限値以上であることにより、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる。
また、上記保持時間の上限値は、好ましくは48時間以下であり、より好ましくは36時間以下であり、さらに好ましくは24時間以下である。保持時間の上限値が上記上限値以下であることにより、高クロム鋳鉄の機械加工性および生産性をより好適にすることができる。
【0027】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記徐冷工程における高クロム鋳鉄の冷却速度は100℃/時間以下であるが、好ましくは50℃/時間以下であり、より好ましくは30℃/時間以下である。冷却速度の上限値が上記上限値以下であることにより、高クロム鋳鉄の機械加工性を向上させることができる。
また、上記冷却速度の下限値は特に限定されないが、例えば5℃/時間以上でもよいし、10℃/時間以上でもよいし、20℃/時間以上でもよい。
このときの冷却方法としては特に限定されず、公知の冷却方法を用いることができるが、好ましくは炉内徐冷である。
【0028】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記高クロム鋳鉄が、重量%でSiを0%以上2.0%以下、Mnを0%以上5.0%以下、Feを40.0%以上77.9%以下、および不可避の不純物を0%以上0.1%以下の範囲でさらに含むことが好ましい。
これらの含有量は、本実施形態に係る高クロム鋳鉄の用途によって、適宜決定することができる。
【0029】
以下、各成分について詳細に説明する。
【0030】
Si:0%以上2.0%以下(重量%)
Siは、高クロム鋳鉄の溶湯の流動性を改善し、溶製時に脱酸剤として作用する元素である。そのため、Si含有量は、重量%で好ましくは0%以上2.0%以下であり、より好ましくは0.2%以上1.5%以下であり、さらに好ましくは0.3%以上1.0%以下である。Si含有量を上記数値範囲とすることにより、高クロム鋳鉄を焼入れした際に生成するマルテンサイト相の強度を高めることができる。
【0031】
Mn:0%以上5.0%以下(重量%)
Mn含有量は、重量%で好ましくは0%以上5.0%以下であり、より好ましくは0.3%以上3.0%以下であり、さらに好ましくは0.5%以上2.0%以下である。Mn含有量を上記数値範囲とすることにより、高クロム鋳鉄を焼入れした際に生成するマルテンサイト相の強度を高めることができ、焼入れ成形品の耐食性を向上させることができる。
【0032】
Fe:40.0%以上77.9%以下(重量%)
Fe含有量は、重量%で好ましくは40.0%以上77.9%以下であり、より好ましくは45.0%以上77.5%以下であり、さらに好ましくは50.0%以上77.0%以下である。Fe含有量を上記数値範囲とすることにより、高クロム鋳鉄の耐摩耗性・耐食性を低下させずに機械加工性を向上させることができる。
【0033】
不可避の不純物:0%以上0.1%以下(重量%)
不可避の不純物は、高クロム鋳鉄の溶製時における原料に混入している除去しきれない成分を指す。このような不可避の不純物の例としては、P、S、B、Al、Pb、Zn等が挙げられる。
不可避の不純物の含有量は、重量%で好ましくは0%以上0.1%以下であり、より好ましくは0%以上0.05%以下であり、さらに好ましくは0%以上0.01%以下である。不可避の不純物の含有量を上記数値範囲とすることにより、高クロム鋳鉄の脆化や耐食性の低下をはじめとする性能の低下を防止することができる。
【0034】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記高クロム鋳鉄が、Mo、W、Nb、V、Co、Ni、Cu、Ti、希土類元素からなる群より選択される1種または2種以上の元素をさらに含むことが好ましい。本実施形態の高クロム鋳鉄が上記元素を含むことによって、本実施形態の高クロム鋳鉄を用いた焼入れ成形品の耐食性、靭性をさらに好適にすることができるほか、焼入れ成形時における割れを防止することができる。
これらの含有量は、本実施形態に係る高クロム鋳鉄の用途によって、適宜決定することができるが、例えば上記元素の合計が、重量%で0%以上1.0%以下である。
【0035】
以上、様々な元素を例示したが、上記に例示された元素以外にも本実施形態の効果を損なわない範囲において異なる元素を加えてもよい。
また、上記様々な元素の組成は、製造時における原料配合比でもよいし、製造後の成分分析により測定される組成でもよい。成分分析としては、公知の分析法を使用することができ、例えばエネルギー分散形X線分光分析(SEM-EDS)、発光分光分析(OES)、誘導結合プラズマ分析(ICP)等が挙げられる。
【0036】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記徐冷工程の後に、上記高クロム鋳鉄を加工する加工工程と、上記加工工程の後、上記高クロム鋳鉄を850℃以上1200℃以下の炉内温度、かつ1時間以上12時間以下の保持時間で加熱保持した後、50℃/分以上の冷却速度で冷却することで、焼入れを行う焼入工程と、をさらに含むことが好ましい。
【0037】
(加工工程)
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、加工工程では最終的に目的とする形状に高クロム鋳鉄を加工する。加工する方法としては従来公知の方法によって加工することができ、例えば、旋盤加工、フライス加工、穴あけ加工の切削加工、研削加工、研磨加工、放電加工等が挙げられる。
【0038】
(焼入工程)
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、焼入工程では上記加工工程にて加工を行った高クロム鋳鉄をさらに加熱および冷却を行うことによって、高クロム鋳鉄を硬化させる工程である。焼入工程における温度条件は、図3に示すように、高クロム鋳鉄を850℃以上1200℃以下の炉内温度、かつ1時間以上12時間以下の保持時間で加熱保持した後、50℃/分以上の冷却速度で冷却することが好ましい。
【0039】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記焼入工程における炉内温度は好ましくは850℃以上1200℃以下であり、より好ましくは900℃以上1150℃以下であり、さらに好ましくは950℃以上1100℃以下である。炉内温度を上記数値範囲とすることにより、高クロム鋳鉄の焼入成形品の耐摩耗性・耐食性を低下させずに硬度を向上させることができる。
【0040】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記焼入工程における保持時間の下限値は好ましくは1時間以上であり、より好ましくは2時間以上であり、さらに好ましくは4時間以上である。保持時間の下限値が上記下限値以上であることにより、高クロム鋳鉄の焼入成形品の耐摩耗性・耐食性を低下させずに硬度を向上させることができる。
また、上記保持時間の上限値は、好ましくは12時間以下であり、より好ましくは10時間以下であり、さらに好ましくは8時間以下である。保持時間の上限値が上記上限値以下であることにより、高クロム鋳鉄の焼入成形品の耐摩耗性・耐食性をより好適にすることができる。
【0041】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記焼入工程における高クロム鋳鉄の冷却速度の下限値は、好ましくは50℃/分以上であり、より好ましくは60℃/
分以上であり、さらに好ましくは70℃/分以上である。冷却速度の下限値が上記下限値以上であることにより、高クロム鋳鉄の焼入成形品の耐摩耗性・耐食性を低下させずに硬度を向上させることができる。
また、上記冷却速度の上限値は、好ましくは150℃/分以下であり、より好ましく140℃/分以下であり、さらに好ましくは130℃/分以下である。冷却速度の上限値が上記上限値以下であることにより、高クロム鋳鉄の焼入成形品の耐摩耗性・耐食性をより好適にすることができる。
このときの冷却方法としては特に限定されず、公知の冷却方法を用いることができるが、好ましくは強制空冷である。
【0042】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記焼入工程の後の高クロム鋳鉄のロックウェル硬度HRCの下限値は、好ましくは55以上であり、より好ましくは57以上であり、さらに好ましくは60以上である。ロックウェル硬度HRCが上記下限値以上であることによって、高クロム鋳鉄の焼入成形品の耐摩耗性・耐食性をより好適にすることができる。
また、ロックウェル硬度HRCの上限値は特に限定されないが、例えば、100以下である。
【0043】
本実施形態の高クロム鋳鉄の軟化熱処理方法において、上記焼入工程の後の高クロム鋳鉄はその特性上、他の部品もしくは液体・固体・液固混合体などの物質と接触しつつ動作するものであることが好ましい。特に、ポンプの部品または破砕機の部品であることが好ましい。
【0044】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【実施例0045】
以下に、本実施形態を、実施例・比較例を参照して詳細に説明する。なお、本実施形態は、これらの実施例の記載に何ら限定されるものではない。
【0046】
本実施形態の効果を確認するための、高クロム鋳鉄の溶解、鋳造、熱処理、焼入れおよび硬度測定方法を以下に詳述する。
【0047】
[高クロム鋳鉄の溶解と鋳造]
高周波炉真空溶解炉を用いて、高クロム鋳鉄を溶解した。総重量2.8kgになるように、純度99.9%(重量%)の原料Fe、C、Cr、Si、Mnおよびその他の元素を表1に示す組成比に配合した。その後、配合物をマグネシア坩堝に充填して、アルゴン雰囲気下にて加熱溶解した。溶解後、溶融液体を砂型に鋳造し、縦140mm×横49mm×高さ12mmの高クロム鋳鉄サンプルを作製した。
【0048】
[高クロム鋳鉄の焼鈍し熱処理]
電気炉を使用し、大気雰囲気下で、図1または図2に示す炉内温度プログラムおよび表1に示す温度条件で、上記[高クロム鋳鉄の溶解と鋳造]にて作製した高クロム鋳鉄サンプルを焼鈍し熱処理することで、焼鈍し熱処理後の高クロム鋳鉄サンプルを得た。
【0049】
[高クロム鋳鉄の焼入れ熱処理]
上記[高クロム鋳鉄の焼鈍し熱処理]にて作製した焼鈍し熱処理後の高クロム鋳鉄サンプルを、放電加工によって縦20mm×横20mm×高さ6mmに加工した。その後、電気炉を使用し、大気雰囲気下で、図3に示す温度プログラムおよび表2に示す温度条件で、上記[高クロム鋳鉄の焼鈍し熱処理]にて作製した焼鈍し熱処理後の高クロム鋳鉄サンプルを焼入れ熱処理することで、焼入れ熱処理後の高クロム鋳鉄サンプルを得た。
【0050】
[高クロム鋳鉄の硬度測定]
上記[高クロム鋳鉄の焼鈍し熱処理]および[高クロム鋳鉄の焼入れ熱処理]にて作製した焼鈍し熱処理後および焼入れ熱処理後の高クロム鋳鉄サンプルを、研磨によって縦20mm×横20mm×高さ5.5mmのテストピースに加工した。上記テストピースの硬度をロックウェル(HRC)硬度試験機にて負荷荷重150kgf、荷重保持時間15sの条件で9点測定した。9点の測定データのうち、最大および最小の硬度データを除いた7点の平均値をそれぞれのテストピースの硬度データとした。
【0051】
(実施例1)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe61.1C2.75Cr35.0Si0.4Mn0.75(重量%)を、炉内温度:750℃、保持時間:10時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは39.9であった。実施例1では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は20時間であった。
【0052】
(比較例1)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe61.1C2.75Cr35.0Si0.4Mn0.75(重量%)を、炉内温度:750℃、保持時間:2時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは42.7であった。比較例1では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は12時間であった。
【0053】
(実施例2)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe61.1C2.75Cr35.0Si0.4Mn0.75(重量%)を、炉内温度:750℃、保持時間:24時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは36.5であった。実施例2では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は34時間であった。
その後、再び電気炉を用いて、表2に示すように昇温速度:350℃/時間、炉内温度:1050℃、保持時間:4.5時間の条件で焼入れを行い、3000~6000℃/時間の冷却速度で室温まで急冷した。その結果、焼入れ後のロックウェル硬度HRCは64.6であった。
【0054】
(比較例2)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe61.1C2.75Cr35.0Si0.4Mn0.75(重量%)を、炉内温度:850℃、保持時間:2時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは44.1であった。比較例2では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は10時間であった。
【0055】
(実施例3)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe59.6C2.75Cr35.0Si0.4Mn0.75Ni0.5Mo1.0(重量%)を、炉内温度:750℃、保持時間:24時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは38.6であった。実施例3では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は34時間であった。
その後、再び電気炉を用いて、表2に示すように昇温速度:350℃/時間、炉内温度:1050℃、保持時間:4.5時間の条件で焼入れを行い、3000~6000℃/時間の冷却速度で室温まで急冷した。その結果、焼入れ後のロックウェル硬度HRCは64.1であった。
【0056】
(比較例3)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe59.6C2.75Cr35.0Si0.4Mn0.75Ni0.5Mo1.0(重量%)を、炉内温度:850℃、保持時間:4時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは43.7であった。比較例3では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は10時間であった。
【0057】
(実施例4)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe59.06C2.79Cr35.0Si0.4Mn0.75Ni0.5Mo1.0Nb0.5(重量%)を、炉内温度:750℃、保持時間:24時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは37.9であった。実施例4では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は34時間であった。
その後、再び電気炉を用いて、表2に示すように昇温速度:350℃/時間、炉内温度:1050℃、保持時間:4.5時間の条件で焼入れを行い、3000~6000℃/時間の冷却速度で室温まで急冷した。その結果、焼入れ後のロックウェル硬度HRCは64.6であった。
【0058】
(比較例4)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe59.06C2.79Cr35.0Si0.4Mn0.75Ni0.5Mo1.0Nb0.5(重量%)を、炉内温度:850℃、保持時間:4時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは40.6であった。比較例4では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は10時間であった。
【0059】
(実施例5)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe66.1C2.75Cr30.0Si0.4Mn0.75(重量%)を、炉内温度:750℃、保持時間:24時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは39.7であった。実施例5では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は34時間であった。
その後、再び電気炉を用いて、表2に示すように昇温速度:350℃/時間、炉内温度:1050℃、保持時間:4.5時間の条件で焼入れを行い、3000~6000℃/時間の冷却速度で室温まで急冷した。その結果、焼入れ後のロックウェル硬度HRCは65.4であった。
【0060】
(比較例5)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe66.1C2.75Cr30.0Si0.4Mn0.75(重量%)を、炉内温度:850℃、保持時間:4時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは40.9であった。比較例5では、600℃~750℃の炉内温度における所要時間の合計は10時間であった。
【0061】
(実施例6)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe65.2C4.5Cr28.0Si0.8Mn1.5(重量%)を、まず炉内温度:950℃、保持時間:24時間の条件で電気炉を用いて一次熱処理し、さらに30℃/時間の冷却速度で750℃まで徐冷した。その後、炉内温度:750℃、保持時間:24時間の条件で二次熱処理し、さらに30℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは38.0であった。
その後、再び電気炉を用いて、表2に示すように昇温速度:350℃/時間、炉内温度:950℃、保持時間:4.5時間の条件で焼入れを行い、3000~6000℃/時間の冷却速度で室温まで急冷した。その結果、焼入れ後のロックウェル硬度HRCは69.1であった。
【0062】
(比較例6)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe65.2C4.5Cr28.0Si0.8Mn1.5(重量%)を、炉内温度:850℃、保持時間:4時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは47.5であった。
【0063】
(実施例7)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe65.0C4.55Cr28.15Si0.8Mn1.5(重量%)を、まず炉内温度:950℃、保持時間:24時間の条件で電気炉を用いて一次熱処理し、さらに30℃/時間の冷却速度で750℃まで徐冷した。その後、炉内温度:750℃、保持時間:24時間の条件で二次熱処理し、さらに30℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは37.1であった。
その後、再び電気炉を用いて、表2に示すように昇温速度:350℃/時間、炉内温度:950℃、保持時間:4.5時間の条件で焼入れを行い、3000~6000℃/時間の冷却速度で室温まで急冷した。その結果、焼入れ後のロックウェル硬度HRCは67.0であった。
【0064】
(比較例7)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe65.0C4.55Cr28.15Si0.8Mn1.5(重量%)を、炉内温度:850℃、保持時間:4時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは41.5であった。
【0065】
(実施例8)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe63.7C4.5Cr28Si0.8Mn1.5Ni0.5Mo1.0(重量%)を、まず炉内温度:950℃、保持時間:24時間の条件で電気炉を用いて一次熱処理し、さらに30℃/時間の冷却速度で750℃まで徐冷した。その後、炉内温度:750℃、保持時間:24時間の条件で二次熱処理し、さらに30℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは39.8であった。
その後、再び電気炉を用いて、表2に示すように昇温速度:350℃/時間、炉内温度:950℃、保持時間:4.5時間の条件で焼入れを行い、3000~6000℃/時間の冷却速度で室温まで急冷した。その結果、焼入れ後のロックウェル硬度HRCは67.1であった。
【0066】
(比較例8)
表1に示すように、高クロム鋳鉄Fe63.7C4.5Cr28Si0.8Mn1.5Ni0.5Mo1.0(重量%)を、炉内温度:850℃、保持時間:4時間の条件で電気炉を用いて熱処理し、さらに15℃/時間の冷却速度で室温まで徐冷した。その結果、ロックウェル硬度HRCは47.2であった。
【0067】
【表1】
【0068】
【表2】
【0069】
本発明の軟化熱処理方法で実施例1~8の高クロム鋳鉄を熱処理した結果、軟化熱処理後の高クロム鋳鉄はロックウェル硬度HRCが40以下となり、旋盤加工、フライス加工、穴あけ加工の切削加工、研削加工、研磨加工等の機械加工が可能となった。機械加工完了後の高クロム鋳鉄は、焼入れ熱処理により、ロックウェル硬度HRCが60以上となり、優れた耐摩耗性を付与された。
一方、比較例1~8のように、熱処理条件が本実施形態の熱処理条件から逸脱した場合、高クロム鋳鉄を軟化させることができなかった。
図1
図2
図3