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特開2023-160139レーザ溶接時の音響信号を利用した溶け込み深さの推定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160139
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】レーザ溶接時の音響信号を利用した溶け込み深さの推定方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20231026BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20231026BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20231026BHJP
   G01H 17/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B23K26/00 P
G01M99/00 Z
B23K26/00 Q
B23K26/21 G
G01H17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070271
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】508333033
【氏名又は名称】株式会社NISHIHARA
(74)【代理人】
【識別番号】100148851
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】中山 孝良
(72)【発明者】
【氏名】川上 佳剛
【テーマコード(参考)】
2G024
2G064
4E168
【Fターム(参考)】
2G024AD01
2G024CA13
2G024FA01
2G024FA04
2G024FA11
2G064AA11
2G064AB01
2G064AB02
2G064AB16
2G064BA02
2G064BD02
2G064CC02
2G064DD02
4E168BA02
4E168CA13
4E168DA02
4E168DA28
4E168KA15
(57)【要約】
【課題】従来 その手法や技術的アプローチが何ら知られていなかった、レーザ溶接時のその場における、好ましくはリアルタイムでの、音響信号を利用した溶け込み深さの推定方法及び当該推定方法を用いた溶接不良の判定方法と判定装置等とを実現することを目的とする。また、本発明は、OCTに比べて安価で、かつ簡易・迅速に溶け込み深さの検知・推定が可能なマイクロフォンによる溶け込み深さ推定技術を提案することを目的とする。
【解決手段】事前学習された、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係に基づいて、レーザ溶接時に検出した前記特定周波数の音響信号の強度から溶け込み深さをリアルタイムで推定する工程を有するレーザ溶接時の溶融池の溶け込み深さ推定方法とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法において、
事前学習された、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係に基づいて、レーザ溶接時に検出した前記特定周波数の音響信号の強度から溶け込み深さをリアルタイムで推定する工程、を有する
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法において、
前記事前学習された相関関係は、前記溶け込み深さが、前記特定周波数の音響信号の強度の一次式で表される
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法において、
前記特定周波数は、5~9kHzの周波数領域の音響信号である
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法。
【請求項4】
請求項1に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法において、
前記事前学習時における前記特定周波数の音響信号の強度は、検出した音響信号の絶対値を移動平均処理した値が用いられる
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法。
【請求項5】
請求項1に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法において、
前記レーザ溶接時に検出した前記特定周波数の音響信号の強度は、溶融池の近くに配置されたマイクロフォンにより検出された音響信号の値が利用される
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法。
【請求項6】
請求項2に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法において、
前記一次式は、少なくとも3点の前記溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係から導出される
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法。
【請求項7】
レーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置において、
事前学習により予め得られた、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係を記憶している記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記相関関係に基づいて、レーザ溶接時に検出した前記特定周波数の音響信号の強度から、溶け込み深さをリアルタイムで算出する演算部と、を備える
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置。
【請求項8】
請求項7に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置において、
前記事前学習された相関関係は、前記溶け込み深さが、前記特定周波数の音響信号の強度の一次式で表される
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置。
【請求項9】
請求項7または請求項8に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置において、
前記特定周波数は、5~9kHzの周波数領域の音響信号である
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置。
【請求項10】
請求項7に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置において、
前記事前学習時における前記特定周波数の音響信号の強度は、検出した音響信号の絶対値を移動平均処理した値が用いられる
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置。
【請求項11】
請求項7に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置において、
前記レーザ溶接時に検出した前記特定周波数の音響信号の強度は、溶融池の近くに配置されたマイクロフォンにより検出された音響信号の値が利用される
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置。
【請求項12】
請求項8に記載のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置において、
前記一次式は、少なくとも3点の前記溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係から導出される
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置。
【請求項13】
レーザ溶接時の溶接不良判定装置において、
事前学習により記憶部に予め記憶されている、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係に基づいて、レーザ溶接時にマイクロフォンで検出した前記特定周波数の音響信号の強度から、溶け込み深さ推定値をリアルタイムで算出する演算部と、
前記演算部で算出した溶け込み深さ推定値が、上限閾値を越えるかまたは下限閾値を下回ると溶接不良と判定する溶接不良判定部と、を備える
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶接不良判定装置。
【請求項14】
請求項13に記載のレーザ溶接時の溶接不良判定装置において、
前記事前学習された相関関係は、前記溶け込み深さが、前記特定周波数の音響信号の強度の一次式で表される
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶接不良判定装置。
【請求項15】
請求項13または請求項14に記載のレーザ溶接時の溶接不良判定装置において、
前記特定周波数は、5~9kHzの周波数領域の音響信号である
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶接不良判定装置。
【請求項16】
請求項13に記載のレーザ溶接時の溶接不良判定装置において、
前記事前学習時における前記溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係の算出においては、前記特定周波数の音響信号の強度は、検出した音響信号の絶対値を移動平均処理した値が用いられる
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶接不良判定装置。
【請求項17】
請求項13に記載のレーザ溶接時の溶接不良判定装置において、
前記レーザ溶接時に検出される前記特定周波数の音響信号の強度は、溶融池の近くに配置されたマイクロフォンにより検出された音響信号の値が利用される
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶接不良判定装置。
【請求項18】
請求項14に記載のレーザ溶接時の溶接不良判定装置において、
前記一次式は、少なくとも3点の前記溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係から導出されたものである
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶接不良判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接機等によるレーザ溶接時の音響信号を利用した、好ましくはその場におけるリアルタイムでの、溶け込み深さの推定方法及び当該推定方法を用いた溶接不良の判定方法と判定装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車産業や二次電池産業などの生産ラインでは、高強度化や自動化のため、レーザ溶接加工を用いることが多い。レーザ溶接は、従来のアーク溶接などと比べて溶け込みが非常に深くなるため、板厚の厚い金属に対しても高強度の溶接を行うことができる。しかし、レーザ溶接中の溶融現象は非常に挙動が激しく不安定になるため、溶接の良否を常時判定する判定装置を用いることが最近では必須となりつつある。
【0003】
このような判定装置は従来、溶接中や溶接前後の表面の熱や画像などから、溶接時に発生する溶け落ちや溶接ビード不良などの判定が主であったが、一方でユーザのニーズとして、溶接時の溶け込み深さを検知する技術が求められていた。深さ検知の主な目的は、溶け込み深さが強度に直結するパラメータであるとともに、溶接材をレーザ光が貫通して下部の部品に影響を与えず、かつ深く溶接したい場合などの目安にするためである。
【0004】
レーザ溶接時に、溶接状態や溶接結果の良・不良等の品質状態を把握しようとして、反射光/放射光検知や振動検知や温度検知と共にまたはそれらに代えて、溶接箇所近傍からの音信号を検出してこれを演算処理し解析することで、溶接状態をモニターして品質不良等を把握しようとする試みが従来為されてきた。
【0005】
例えば下記特許文献1には、“図7(B)のステップ360で各音プロファイルを0.0ms~0.5msの時間区間で積分し、ステップ362で各波形毎の最大値を求める。ステップ364で、一番大きな積分値を持つ波形を焦点が合った位置での溶接による波形として選択する。図7(C)のステップ370で各音波形を5ms~11.5msの時間区間で積分し、ステップ372で各波形毎の最小値を求める。ステップ374で、一番小さな最小値を持つ波形を焦点が合った位置での溶接による波形として選択する。図7(D)のステップ380で、各音波形の傾きを0.25ms~0.4msの時間区間で読み込み、各波形毎の最大値をステップ382で求める。ステップ384で、一番大きな最大値を持つ波形を焦点が合った位置での溶接による波形として選択する。”と記載されている(段落[0053]等)。
【0006】
また、下記特許文献2には、”ここで、図2(a)は溶接が良好に行われた場合の周波数特性を示し、図2(b)は溶接欠陥が起こった場合の周波数特性を示す。これら図面から明らかなように、溶接欠陥時(図2(b))には、およそ4~7KHzの周波数帯域において、良好な溶接が行われた場合(図2(a))に比べ、音信号の強度が弱くなっている。よって、この周波数帯域の音信号のみを取得して欠陥判定を行えば、全周波数帯域の音信号を欠陥判定するよりも、正確な判定を行える。尚、図2に示した加工例では4~7KHzの周波数帯域に特徴が現れたが、特徴が現れる周波数帯域は加工条件により異なるため、取得すべき周波数帯域は適宜設定することが好ましい。”ことが記載されている(段落[0024]等)。
【0007】
さらに、特許文献3には、“レーザ溶接を行う際に、センサ14によってレーザ溶接中の音の強さを測定する。この音の強さが所定レベルgより弱い場合には、溶接不良と判別部16が判断して、その溶接不良箇所の座標を記憶部17が記憶する。そして、溶接の終点まで溶接した後、溶接不良箇所があった場合には、記憶部17に記憶された溶接不良箇所を再溶接する。”ことが記載されている。
【0008】
さらに、下記特許文献4では、音信号の解析において、FFTによるデジタル信号処理技術を採用する事が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004-066340号公報
【特許文献2】特開平11-216583号公報
【特許文献3】特開2001-321972号公報
【特許文献4】特開2003-334679号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上記した溶け込み深さ測定のためには、従来の溶接材料表面からの情報のみでは難しく、近年では、OCT(Optical Coherence Tomography: 光干渉断層撮影)という方式で、レーザ溶接中に照射部中心に発生するキーホールという融液の窪みに測距用のレーザ光を照射することで深さをある程度正確に推測できる技術が確立されているが、非常に高価(システム価格で1,000~2,000万円程度)であり、かつ、その構造上サイズが大きくなってしまい、さらには加工スピード等に制約があるなどの制限が多いことから、未だ一般的に普及しているとは言えない。
【0011】
例えば、上記特許文献1に開示される発明では、レーザ溶接時にマイクロフォンで検知した音信号の積分値で演算処理する技術思想が開示されているが、積分演算処理にはある程度の処理時間を要してしまい迅速性に欠ける。また、上記特許文献2においては、『溶接欠陥時には音信号の強度が弱くなる』ことが首尾一貫して説明されており、周波数バリエーションについての言及はあるものの“音信号強度の弱まり”以外の音特性に関する記載や示唆は一切存在しない。さらに、特許文献3では、溶接不良時においては“音レベルが低下”することが記載されており、音の強さが所定レベルより弱い場合に溶接不良と判断する技術思想が開示されている。
【0012】
そして、特許文献4では単にデジタル処理による音信号の処理が記載されているに過ぎない。上記説明から理解できるように、レーザ溶接時の溶け込み深さに関して、音信号からこれを推定ないし推測する方法や技術思想については何ら知られていないし、そのような試みや示唆すら無く、従来 完全に見過ごされていた技術ポイントであるといえる。一方、溶接の品質を安定的に良好に維持するためには、レーザ溶接時の溶け込み深さに関する知見を、その場において迅速にリアルタイムで把握できることが好ましい。
【0013】
従って、本発明は上述の問題点に鑑み為されたものであり、従来 その手法や技術的アプローチが何ら知られていなかった、レーザ溶接時のその場における、好ましくはリアルタイムでの、音響信号を利用した溶け込み深さの推定方法及び当該推定方法を用いた溶接不良の判定方法と判定装置等とを実現することを目的とする。また、本発明は、OCTに比べて安価で、かつ簡易・迅速に溶け込み深さの検知・推定が可能なマイクロフォンによる溶け込み深さ推定技術を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、事前学習された、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係に基づいて、レーザ溶接時に検出した特定周波数の音響信号の強度から溶け込み深さをリアルタイムで推定する工程、を有することを特徴とする。
【0015】
また、本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、好ましくは事前学習された相関関係は、溶け込み深さが、特定周波数の音響信号の強度の一次式で表される
ことを特徴とするレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法。
【0016】
また、本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、さらに好ましくは特定周波数が、5~9kHzの周波数領域の音響信号であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、さらに好ましくは事前学習時における特定周波数の音響信号の強度は、検出した音響信号の絶対値を移動平均処理した値が用いられることを特徴とする。
【0018】
また、本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、さらに好ましくはレーザ溶接時に検出した特定周波数の音響信号の強度は、溶融池の近くに配置されたマイクロフォンにより検出された音響信号の値が利用されることを特徴とする。
【0019】
また、本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、さらに好ましくは一次式が、少なくとも3点の溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係から導出されることを特徴とする。
【0020】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、事前学習により予め得られた、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係を記憶している記憶部と、記憶部に記憶された相関関係に基づいて、レーザ溶接時に検出した特定周波数の音響信号の強度から、溶け込み深さをリアルタイムで算出する演算部と、を備えることを特徴とする。
【0021】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、好ましくは事前学習された相関関係は、溶け込み深さが、特定周波数の音響信号の強度の一次式で表されることを特徴とする。
【0022】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、さらに好ましくは特定周波数が、5~9kHzの周波数領域の音響信号であることを特徴とする。
【0023】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、さらに好ましくは事前学習時における特定周波数の音響信号の強度は、検出した音響信号の絶対値を移動平均処理した値が用いられることを特徴とする。
【0024】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、さらに好ましくはレーザ溶接時に検出した特定周波数の音響信号の強度は、溶融池の近くに配置されたマイクロフォンにより検出された音響信号の値が利用されることを特徴とする。
【0025】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、さらに好ましくは一次式が、少なくとも3点の溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係から導出されることを特徴とする。
【0026】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、事前学習により記憶部に予め記憶されている、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係に基づいて、レーザ溶接時にマイクロフォンで検出した特定周波数の音響信号の強度から、溶け込み深さ推定値をリアルタイムで算出する演算部と、演算部で算出した溶け込み深さ推定値が、上限閾値を越えるかまたは下限閾値を下回ると溶接不良と判定する溶接不良判定部とを備えることを特徴とする。
【0027】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、好ましくは事前学習された相関関係は、溶け込み深さが、特定周波数の音響信号の強度の一次式で表されることを特徴とする。
【0028】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、さらに好ましくは特定周波数が、5~9kHzの周波数領域の音響信号であることを特徴とする。
【0029】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、さらに好ましくは事前学習時における溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係の算出においては、特定周波数の音響信号の強度は、検出した音響信号の絶対値を移動平均処理した値が用いられることを特徴とする。
【0030】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、さらに好ましくはレーザ溶接時に検出される特定周波数の音響信号の強度は、溶融池の近くに配置されたマイクロフォンにより検出された音響信号の値が利用されることを特徴とする。
【0031】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、さらに好ましくは一次式が、少なくとも3点の溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係から導出されたものであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明により、レーザ溶接時のその場における、好ましくはリアルタイムでの、音響信号を利用した溶け込み深さの推定方法及び当該推定方法を用いた溶接不良の判定方法と判定装置等とを実現することができる。また、本発明により、OCTに比べて安価で、かつ簡易・迅速に溶け込み深さの検知・推定が可能なマイクロフォンによる溶け込み深さ推定技術を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1】本実施形態の装置の構成を説明する概要図である。
図2】表1に示す条件で照射したマイクロフォンの音響信号波形を説明する図である。
図3】事前学習で得られたマイクロフォン波形を周波数解析したスペクトログラムを説明する図である。
図4】(a)がレーザ溶接部の表面写真であり、(b)がその断面写真を説明する図である。
図5図2に示すマイクロフォンの出力波形からフィルタ回路にて5~9kHzのみを抽出し、絶対値回路にてマイナス側に振幅している波形をプラス側に補正し、さらに移動平均処理(5μsサンプリングに対して2000点間の移動平均)により波形を平滑化させた結果を説明する図である。
図6図4(b)に示す断面の溶け込み深さ(縦方向)を横方向0.1mm間隔で測定し、時間(s)換算された横軸に対して溶け込み深さ(mm)をグラフとして説明する図である。
図7図5図6との結果に基づいてこれらを融合し、横軸をマイク振幅強度として縦軸に溶け込み深さ(mm)とした場合の散布図グラフを説明する図である。
図8】導出した一次近似式に対して図5のマイク振幅を代入して計算された溶け込み深さの推測値(mm)と、図6の現実に測定された溶け込み深さ(mm)を重ねて説明するグラフである。
図9】(a)は、表2に示す各実験条件で試料に0.5秒間一定強度でレーザ照射した後の表面状態を示す顕微鏡写真であり、(b)は図9(a)に示す“照射中間部切断”箇所で切断して顕微鏡観察した切断面を説明する図である。
図10】検証実験の結果を説明する図であって、横軸は試料の連番であり、試料番号1~3が400W、試料番号4~6が450W、試料番号7~9が500W、・・・、試料番号25~27が800Wと順次に対応し、左側縦軸は溶け込み深さを示しており、右側軸が現実の測定深さと演算による深さ推定値との差異をパーセンテージで示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(事前学習)
図1は、本実施形態の装置の構成を説明する概要図である。図1において、110は演算装置であり、120は絶対値回路であり、130は周波数フィルタ回路であり、140はマイクロフォンであり、150はレーザ加工ヘッドであり、160はレーザ光を示し、170は溶接金属(試料)を示すものである。周波数感度範囲20Hz~100kHzの(株)アコー社製プリアンプ一体型マイクロフォン(型式:TYPE 4158N)を用い、加工点からマイク先端までの間隔は約80mmにマイクロフォンを配置して、垂直方向から45°の位置で設置固定した。マイクロフォンを設置する距離と角度は本発明者による事前の検証により、溶接に支障がない程度に溶接部(加工点)から間隔を空け、かつ高感度になる位置となるように配置した。
【0035】
測定したマイクロフォン信号は、自ら開発した周波数フィルタ回路にて特定の音響周波数帯のみを抽出した後、絶対値回路にて波形を全てプラス側へと成形し、演算装置にて溶け込み深さの推測値を算出して表示させて良否判定をするものとし、また判定の閾値等の設定や記録を行うものとした。
【0036】
[事前学習の実験条件]
【表1】
【0037】
表1は、実施例にかかる事前学習の実験条件を説明する表である。表1に示すように、レーザ光波長が1070mmのマルチモードファイバレーザ加工機を用いた。当該レーザ加工機の加工ヘッドは、コリメートレンズf100で集光レンズf120である。事前学習(シミュレーション)時のレーザ出力は、400Wから800Wまで0.5s間で線形に上昇させるスロープとなる出力上昇変動となるように設定した。試料とレーザ光との間の相対的走査速度は20mm/sであり、照射時間は0.5s、対象試料はSUS304(厚さt=5mm)である。
【0038】
表1に示す条件で照射したマイクロフォンの音響信号波形を図2に示す。図2に示すグラフは200kHzサンプリングで記録しているものである。図2においては横軸がレーザ光照射時間(秒)であり縦軸がマイク出力の振幅を示している。図2から、溶接の進行に伴い(グラフが右側に行くに従い)徐々に波形振幅が上昇している様子が見られる。溶接時に溶融池から生じる溶接音は、照射中に融液中央部に発生するキーホールと呼ばれる穴から発生する金属蒸気や融液などの噴出音であると現時点では本発明者は推測している。
【0039】
また、図3にこの事前学習で得られたマイクロフォン波形を周波数解析したスペクトログラムを示す。横軸が周波数[Hz]、縦軸が時間[s]、色の濃さが信号の強度を表している。図3に示されるグラフより、照射初期すなわちグラフの下方では15kHz近辺の比較的高周波域の帯域強度が比較的大きい(図3における大凡の領域A)が、時間の経過とともに(すなわちグラフの上方へ移動するに従い)徐々に5~9kHz程度の周波数帯域の強度が大きく(図3における大凡の領域B)なっていくことが理解できる。
【0040】
また、図4にレーザ溶接部の表面写真(a)とその断面写真(b)とを示す。図4(a)は溶接部の表面写真で左側から右側にかけて0.5秒でレーザ光をSUS304に照射した痕跡表面であり、図4(b)は溶接部の中心位置(図4(a)に「中央部切断」として示している)を水平に切断し、その断面を研磨した後にエッチングを行って、溶融断面部を顕在化させた写真である。図4(b)の横方向位置は図4(a)の横方向位置と整合しており、図4(b)の縦方向は溶け込み深さ方向である。
【0041】
すなわち、図4では左側から右側にかけて、400W~800Wまで出力を線形に増大されたレーザ光が、0.5sで走査された痕跡を示す表面(a)と断面(b)とである。図4(b)から、左側のレーザ光出力400Wでの初期は溶融深さ約1mm程度であり、右側のレーザ光出力800Wでの最期は溶融深さ約2mm程度であることが理解できる。
【0042】
図3及び図4より、レーザ照射初期は、急峻に溶け込みが深くなる過程で、キーホールが浅い状態であるため、固有振動数が小さく比較的高音域の音が主となり、キーホールが深くなるにつれ、低音域が出現し始めるものと現時点では本発明者は理解している。
【0043】
ここで、図2のマイクロフォンの出力波形からフィルタ回路にて5~9kHzのみを抽出し、絶対値回路にてマイナス側に振幅している波形をプラス側に補正し、さらに、移動平均処理(5μsサンプリングに対して2000点間の移動平均)により波形を平滑化させた結果を図5に示す。図5では横軸に時間(a)をとり、縦軸を上記処理したマイク振幅強度としている。
【0044】
また、図6は、図4(b)に示す断面の溶け込み深さ(縦方向)を横方向0.1mm間隔で測定し、時間(s)換算された横軸に対して溶け込み深さ(mm)をグラフとして説明する図である。図5及び図6より、両者のグラフ形状の傾向がいずれも右肩上がりで勾配も含めて両者が類似していることが分かる。
【0045】
このような図5図6との結果に基づいてこれらを融合し、横軸をマイク振幅強度として縦軸に溶け込み深さ(mm)とした場合の散布図グラフを図7に示す。図7に示す散布図に対して数値演算ソフトを利用して一次式の近似値を導出した。この一次近似式は、
【0046】
γ=285.22x+0.0867・・・式(1)
【0047】
となる。ここで、γは溶け込み深さ(mm)であり、xはマイク振幅強度である。
【0048】
また、上述した一次近似式に対して図5のマイク振幅を代入して計算した溶け込み深さの推測値と、図6の実際の溶け込み深さを重ねたグラフを図8に示す。図8では横軸を時間(s)としている。図7に示して導出された一次近似式により、溶け込み深さの推測値と現実の溶け込み深さとがある程度合致していることが図8から理解できる。この一次近似式を用いて、同条件でのレーザ溶接工程に対して、新たに音響信号データを取得し現実のレーザ溶接時の溶け込み深さを推測することができる。
【0049】
上述した事前学習は、現実のレーザ溶接加工工程の実行前にそれと同条件(レーザ光強度・種類、照射時間等の照射条件、走査速度、材料の特性・厚さ等々)で都度都度行って(好ましくは3点以上のデータから)関係一次式を導出しても良いが、長年に亘りより多くのデータをデータベースに予め蓄積しておいて、その中から最も近似する条件の合致する関係一次式を用いるようにすることもできる。さらに、このようなデータベースに代えて又はそれと共にAI(人工知能)がデータを予め蓄えておき、AI等に収集蓄積されている中から最も適切な関係一次式をAIが選択するか、またはAIが導出して、レーザ加工においてAIにより自動適用することで、音に基づく溶け込み深さをユーザに提示等できるようなレーザ加工機とすることもできる。この場合でも、上限・下限のしきい値を設定しておいて、溶け込み深さが一定範囲から逸脱した場合には、溶接不良と判定してアラートを発出したり溶接工程を停止したりするレーザ加工機としても良い。AIを利用したレーザ加工機においては、加工材料やその特性を画像認識によりAIが自動判定するものとしても良い。
【0050】
(検証結果)
表2にレーザ溶接時の音による溶け込み深さ推定の検証実験の条件を示す。レーザ光出力を400Wから800Wまで50W刻みで照射し、各n=3(各照射条件でのサンプル数を3個ずつ)とした。そして、そのときの現実の溶け込み深さと、上記した図7に示す近似式(式(1))を元に算出したマイクロフォン信号による溶け込み深さ推定値の関係を調べた。断面は照射位置の中間地点で、照射部に対して垂直方向に切断し(図9)、現実の溶け込み深さを測定した。図9(a)は、表2に示す各実験条件で試料に0.5秒間一定強度でレーザ照射した後の表面状態を示す顕微鏡写真であり、図9(b)は図9(a)に示す“照射中間部切断”箇所で切断して顕微鏡観察した切断面を説明する図である。図9(b)により、溶接痕は、表面付近のテーパのついた部分A(図9(b)では表面から約0.5mm深さ)とほぼ垂直な孔部分B(Aのさらに深いところ約1mm深さ)との二段階に形成されていることが理解できる。念のために説明しておくと、本発明におけるレーザ溶接時の溶け込み深さはAとBの和である。
【0051】
式(1)による推定値は、レーザ照射時間0.5s間の中間時点に当たる0.25s時の値を推定深さとしている。式(1)に代入する0.25s時のマイクロフォンの出力強度xは、すなわちマイクロフォンの出力生データから5~9kHz範囲のみを周波数フィルタで抽出して絶対値回路で全てプラス側出力へと補正し、演算装置で移動平均処理(5μ秒サンプリングにて2000点の移動平均(0.01秒間))により平滑化した値であるが全てアナログ処理によるもので遅延は生じないのでリアルタイムでの推定ができるものである。
[溶け込み深さ推定の検証実験の条件]
【表2】
【0052】
検証実験の結果を図10に示す。図10の横軸は試料の連番であり、試料番号1~3が400W、試料番号4~6が450W、試料番号7~9が500W、・・・、試料番号25~27が800Wと順次に対応している。図10の左側縦軸は溶け込み深さを示しており、右側軸が現実の測定深さと演算による深さ推定値との差異をパーセンテージで示している。図10から理解できるように、マイクロフォンの溶け込み推測値と現実の溶け込み測定値との相違が、おおよそ10%以内程度で収まっていることから、高い精度で溶け込み深さの推定ができていることが分かる。
【0053】
(まとめ)
周波数20Hz~20kHzに感度を持つマイクロフォンを用い、適切な周波数フィルタや、絶対値処理や移動平均による平滑化など、得られた波形に対して適切な成形処理を行うことで扱いやすい音データとし、マイク信号強度が増大すればするほどレーザ溶接時の溶け込み深さも同様の増大ペースで増大する関係にあることが確認された。
【0054】
このようなマイクの出力強度の変化と現実の溶け込み深さ測定値から、マイク信号強度と溶け込み深さとの関係を1次式の近似式等で表現することが可能であり、これにより溶け込み深さが推定できるものとなる。
【0055】
一次近似式等の導出は、エクセルの近似式機能を用いて行うことができるが、例えば代表する3点またはそれ以上のサンプル点のマイク振幅強度とその時の溶け込み深さ測定値とが事前学習等により把握できれば、そのサンプル数値を基に縦軸溶け込み深さ、横軸マイク振幅強度のグラフを作成し、その3点等を通過する直線を引いて、その直線上に合致する縦横軸の数値のデータベースを作成するなどすれば、容易に近似式を得ることができる。当該近似式を用いれば、音響データから溶け込み深さが計算できる。
【0056】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、事前学習された、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係に基づいて、レーザ溶接時に検出した特定周波数の音響信号の強度から溶け込み深さをリアルタイムで推定する工程を有することを特徴とする。
【0057】
本発明者は、レーザ溶接時の溶融池の溶け込み深さと当該溶融池からの音響との関係、とりわけ特定の周波数範囲(典型的には5~9kHz)の音響強度との関係に一定の相関関係があることを見出した。すなわち、特定の周波数範囲の音響強度(音の大きさ)が、溶け込み深さに応じて大きくなることを見出した。
【0058】
このことにより、現実のレーザ溶接時には目視もその場観察もできない溶融池の溶け込み深さについて、溶融池から発せられる音響をマイクロフォンで検出することによって、推定することが可能となる。そして、溶け込み深さはレーザ溶接の品質不良にも大きく関係していることから、当該音響に基づいて不良判定をすることも可能となる。
【0059】
事前学習は、溶接対象となる材料の特性やレーザの特性・強度等に応じて都度都度に、レーザ溶接工程の進行に先立ち予め行って得られたデータを用いることができる。また、過去に蓄積された膨大なレーザ溶接時のデータをAI(人工知能)が事前学習しておいて、レーザ溶接工程の遂行時に対象となるレーザ溶接に適用可能な相関関係を導出乃至提示等してこれを利用するものとしても良い。また、データベース化された相関関係が格納された他の記憶装置等から読み出してきて利用するものとしても良い。
【0060】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、好ましくは事前学習された相関関係は、溶け込み深さが、特定周波数の音響信号の強度の一次式で表されることを特徴とする。
【0061】
本発明者の実験データから得られた知見によれば、特定周波数範囲の溶融池からの音響信号の強度を横軸にとり、溶融池溶け込み深さを縦軸にとれば、音響強度が上がれば上がるほど溶け込み深さが増大するような直線関係が成立するものとなる。すなわち、溶け込み深さ推定値=a×音響信号強度+b(但し、aとbは当該溶接特性に依存する定数)で表現できる。
【0062】
この関係に基づけば、同一特性(材質や厚さ等)の溶接材料に対して同一レーザ照射条件(強度やパルス幅や照射時間や照射速度等)であれば、特定周波数の音響信号の強度を測定することにより、リアルタイムで溶融池の溶け込み深さをリアルタイムで推定することが可能である。
【0063】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、さらに好ましくは特定周波数が、5~9kHzの周波数領域の音響信号であることを特徴とする。上記した実験結果図3等に説明したように、溶け込みが浅い(1mm未満で典型的には0.2mm未満程度)レーザ照射初期の段階では15kHz周辺の音響信号強度が高いが、その後溶け込みが深いレーザ照射段階になると次第に5~9kHZ周辺の音響信号強度が高くなってくることが見いだされている。このため、5~9kHZ周辺の音響信号強度を観測することにより、1~2mm程度の溶け込み深さを効率良くかつ確からしく検知し推定することができる。
【0064】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、さらに好ましくは事前学習時における特定周波数の音響信号の強度は、検出した音響信号の絶対値を移動平均処理した値が用いられることを特徴とする。これにより、プラスマイナスに振幅の激しいマイクロフォンの波形から、その全体の経時変化の傾向を把握し易いデータ形態へと加工されるものとなる。
【0065】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、さらに好ましくはレーザ溶接時に検出した特定周波数の音響信号の強度は、溶融池の近くに配置されたマイクロフォンにより検出された音響信号の値が利用されることを特徴とする。上記した実験では、溶融池から80mmだけ離間した位置に、周波数感度が20Hz~100kHzのマイクロフォン(プリアンプ一体型)を配置してこれを用いた。しかし、これに限定されるものではなく、周波数20Hz~20kHzに感度を有するマイクロフォンであれば充分に本発明の適用に耐え得るものと考えられる。マイクロフォンにより検出された音響信号の値は生データをそのまま利用しても良い。しかし、予め予習として行う事前学習の場合と同様に、典型的には5~9kHzの周波数範囲のみをフィルタ回路で抽出し、絶対値回路にてマイナス側振幅をプラス側に反転補正し、移動平均処理にて平滑化した値をマイクの出力値として利用(全てアナログ処理)することでより取り扱いのし易い迅速なデータ処理とできる。また、特定周波数範囲のみのフィルタ回路による抽出をしてモニターすることが最も重要であるため、絶対値回路による補正や平滑化処理(移動平均処理)についてはいずれか一方または両方等々任意の取捨選択で適宜採用するものとしても良い。これはあくまでデータ取り扱いの利便性向上の為の処理である。
【0066】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定方法は、さらに好ましくは一次式が、少なくとも3点の溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係から導出されることを特徴とする。事前学習から導出される、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と溶け込み深さとの相関関係を示す、一次式は、最低限2点の溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と溶け込み深さとの関係があれば導出可能である。すなわち、溶け込み深さ推定値=a×音響信号強度+b(但し、aとbは当該溶接特性に依存する定数)の各定数a,bを決定することができる。しかし、より信頼性の高い推定値を得るためには、より確度と精度の高い定数a,bを決定することが好ましく、この意味においては3点、さらに好ましくは3点以上の事前学習データから各定数a,bを決定するものとしても良い。
【0067】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、事前学習により予め得られた、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さと、の相関関係を記憶している記憶部と、記憶部に記憶された相関関係に基づいて、レーザ溶接時に検出した特定周波数の音響信号の強度から、溶け込み深さをリアルタイムで算出する演算部とを備えることを特徴とする。
【0068】
本発明者は、レーザ溶接時の溶融池の溶け込み深さと当該溶融池からの音響との関係、とりわけ特定の周波数範囲(典型的には5~9kHz)の音響強度との関係に一定の相関関係があることを見出した。すなわち、特定の周波数範囲の音響強度(音の大きさ)が、溶け込み深さに応じて大きくなることを見出した。
【0069】
これにより、現実のレーザ溶接時には目視もその場観察もできない溶融池の溶け込み深さについて、溶融池から発せられる音響をマイクロフォンで検出することによって、推定する装置を実現することが可能となる。そして、溶け込み深さはレーザ溶接の品質不良にも大きく関係していることから、これを利用して当該音響に基づいて不良判定をすることも可能となる。
【0070】
事前学習は、溶接対象となる材料の特性やレーザの特性・強度等に応じて都度都度に、レーザ溶接工程の進行に先立ち予め行って得られたデータを用いることができる。また、過去に蓄積された膨大なレーザ溶接時のデータをAI(人工知能)が事前学習しておいて、レーザ溶接工程の遂行時に対象となるレーザ溶接に適用可能な相関関係を導出乃至提示等してこれを利用するものとしても良い。また、AI等のデータベース化された相関関係が格納された他の記憶装置等から読み出してきて利用するものとしても良い。
【0071】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、好ましくは事前学習された相関関係は、溶け込み深さが、特定周波数の音響信号の強度の一次式で表されることを特徴とする。
【0072】
本発明者の実験データから得られた知見によれば、特定周波数範囲の溶融池からの音響信号の強度を横軸にとり、溶融池溶け込み深さを縦軸にとれば、音響強度が上がれば上がるほど溶け込み深さが増大するような直線関係が成立するものとなる。すなわち、溶け込み深さ推定値=a×音響信号強度+b(但し、aとbは当該溶接特性に依存する定数)で表現できる。
【0073】
この関係に基づけば、同一特性(材質や厚さ等)の溶接材料に対して同一レーザ照射条件(強度やパルス幅や照射時間や照射速度等)であれば、特定周波数の音響信号の強度を測定することにより、リアルタイムで溶融池の溶け込み深さをリアルタイムで推定する装置を実現することが可能である。
【0074】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、さらに好ましくは特定周波数が、5~9kHzの周波数領域の音響信号であることを特徴とする。上記した実験結果図3等に説明したように、溶け込みが浅い(1mm未満で典型的には0.2mm未満程度)レーザ照射開始初期の段階では15kHz周辺の音響信号強度が高いが、その後レーザ照射時間が長くなって溶け込みが深いレーザ照射段階になると次第に5~9kHz周辺の音響信号強度が高くなってくることが見いだされている。このため、典型的には5~9kHz周辺の音響信号強度を観測することにより、1mm以上であって、好ましくは1~2mm程度の溶け込み深さを効率良くかつ確からしく高い精度で検知し推定する装置を実現することができる。
【0075】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、さらに好ましくは事前学習時における特定周波数の音響信号の強度は、検出した音響信号の絶対値を移動平均処理した値が用いられることを特徴とする。これにより、プラスマイナスに振幅の激しいマイクロフォンの出力生データ波形(例えば図2に示している)から、その全体の経時変化の傾向を把握し易いデータ形態(例えば図5に示している)へと加工されるものとなる。
【0076】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、さらに好ましくはレーザ溶接時に検出した特定周波数の音響信号の強度は、溶融池の近くに配置されたマイクロフォンにより検出された音響信号の値が利用されることを特徴とする。上記した実験では、溶融池から80mmだけ離間した位置に、周波数感度が20Hz~100kHzのマイクロフォン(プリアンプ一体型)を配置してこれを用いた。しかし、これに限定されるものではなく、周波数20Hz~20kHzに感度を有するマイクロフォンであれば充分に本発明の適用に耐え得るものと考えられる。マイクロフォンにより検出された音響信号の値は生データをそのまま利用しても良い。しかし、予め予習として行う事前学習の場合と同様に、典型的には5~9kHzの周波数範囲のみをフィルタ回路で抽出し、絶対値回路にてマイナス側振幅をプラス側に反転補正し、移動平均処理にて平滑化した値をマイクの出力値として利用(全てアナログ処理)することでより取り扱いのし易い迅速なデータ処理とできる。
【0077】
本発明のレーザ溶接時の溶け込み深さの推定装置は、さらに好ましくは一次式が、少なくとも3点の溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係から導出されることを特徴とする。事前学習から導出される、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と溶け込み深さとの相関関係を示す、一次式は、最低限2点の溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と溶け込み深さとの関係データがあれば導出可能である。すなわち最低限2点のデータに基づいて、溶け込み深さ推定値=a×音響信号強度+b(但し、aとbは当該溶接特性に依存する定数)の各定数a,bを決定することができる。しかし、より信頼性の高い推定値を得るためには、より確度と精度の高い定数a,bを決定することが好ましく、この意味においては3点、さらに好ましくはそれ以上の複数の事前学習データから各定数a,bを決定するものとしても良い。
【0078】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、事前学習により記憶部に予め記憶されている、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係に基づいて、レーザ溶接時にマイクロフォンで検出した特定周波数の音響信号の強度から、溶け込み深さ推定値をリアルタイムで算出する演算部と、演算部で算出した溶け込み深さ推定値が、上限閾値を越えるかまたは下限閾値を下回ると溶接不良と判定する溶接不良判定部とを備えることを特徴とする。
【0079】
すなわち、上述で説明した溶け込み深さの推定方法を利用して推定した溶け込み深さ推定値が、上限閾値と下限閾値との間の一定範囲内になくその範囲から逸脱した場合には、アラートを発出(例えば、アラート警報音やモニタ画面上への警告表示等としても良い)するレーザ溶接時の溶接不良判定装置を実現することができる。既に実施例として実験結果でも示しているように、溶け込み深さ推定値はかなり精度が高いので、リアルタイムの判断で有りながらあたかもその場観察しているような正確な判定や監視が行えるものとなり、レーザ溶接の品質を低コストで高く維持することが可能となる。
【0080】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、好ましくは事前学習された相関関係は、溶け込み深さが、特定周波数の音響信号の強度の一次式で表されることを特徴とする。
【0081】
本発明者の実験データから得られた知見によれば、特定周波数範囲の溶融池からの音響信号の強度を横軸にとり、溶融池溶け込み深さを縦軸にとれば、特定周波数範囲の音響強度が上がれば上がるほど溶け込み深さが増大するような直線関係が成立するものとなる。すなわち、“溶け込み深さ推定値”=aד音響信号強度”+b(但し、aとbは当該溶接特性に依存する定数)で表現できる。
【0082】
この関係に基づけば、同一特性(材質や厚さ等)の溶接材料に対して同一レーザ照射条件(強度やパルス幅や照射時間や照射速度等)であれば、特定周波数の音響信号の強度を測定することにより、リアルタイムで溶融池の溶け込み深さをリアルタイムで推定して溶接不良判定をする装置を実現することが可能である。
【0083】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、さらに好ましくは特定周波数が、5~9kHzの周波数領域の音響信号であることを特徴とする。上記した実験結果図3等に説明したように、溶け込みが浅い(1mm未満で典型的には0.2mm未満程度)レーザ照射開始初期の段階では15kHz周辺の音響信号強度が高いが、その後レーザ照射時間が長くなって溶け込みが深いレーザ照射段階になると次第に5~9kHZ周辺の音響信号強度が高くなってくることが見いだされている。このため、典型的には5~9kHZ周辺の音響信号強度を観測することにより、1mm以上であって、好ましくは1~2mm程度の溶け込み深さを効率良くかつ確からしく高い精度で検知し推定して溶接不良判定をする装置を実現することができる。
【0084】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、さらに好ましくは事前学習時における溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係の算出においては、特定周波数の音響信号の強度は、検出した音響信号の絶対値を移動平均処理した値が用いられることを特徴とする。これにより、プラスマイナスに振幅の激しいマイクロフォンの出力生データ波形(例えば図2に示している)から、その全体の経時変化の傾向を把握し易いデータ形態(例えば図5に示している)へと加工されるものとなり、そのデータに基づいて推定された正確な溶け込み深さ推定値により、溶接不良判定をする装置を実現できる。
【0085】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、さらに好ましくはレーザ溶接時に検出される特定周波数の音響信号の強度は、溶融池の近くに配置されたマイクロフォンにより検出された音響信号の値が利用されることを特徴とする。上記した実験では、溶融池から80mmだけ離間した位置に、周波数感度が20Hz~100kHzのマイクロフォン(プリアンプ一体型)を配置してこれを用いた。マイクロフォンは、周波数20Hz~20kHzに感度を有するマイクロフォンであれば充分に本発明の適用に耐え得るものと考えられる。しかし、これに限定されるものではなく、抽出したい特定波長範囲の音響信号を検知可能なマイクロフォンであれば良い。マイクロフォンにより検出された音響信号の値は、予め予習として行う事前学習の場合と同様に、典型的には5~9kHzの周波数範囲のみをフィルタ回路で抽出し、絶対値回路にてマイナス側振幅をプラス側に反転補正し、移動平均処理にて平滑化した値をマイクの出力値として利用することができる。
【0086】
本発明のレーザ溶接時の溶接不良判定装置は、さらに好ましくは一次式が、少なくとも3点の溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と、溶け込み深さとの相関関係から導出されたものであることを特徴とする。事前学習から導出される、溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と溶け込み深さとの相関関係を示す、一次式は、最低限2点の溶融池からの特定周波数の音響信号の強度と溶け込み深さとの関係データがあれば導出可能である。すなわち最低限2点のデータに基づいて、溶け込み深さ推定値=a×音響信号強度+b(但し、aとbは当該溶接特性に依存する定数)の各定数a,bを決定することができる。しかし、より信頼性の高い推定値を得るためには、より確度と精度の高い定数a,bを決定することが好ましく、この意味においては3点、さらに好ましくはそれ以上の複数の事前学習データから各定数a,bを決定するものとしても良い。
【0087】
本発明に係るレーザ溶接時の溶接不良判定装置・システム及びその構造/方法等は、上述の説明及び図面に示す形状・構造/方法等に限定されるものではなく、本発明の射程の範囲内において、当業者の知り得る適宜公知または周知の手法等を用いてこれを採用し変形しアレンジし、組み合わせまたは任意にモディファイしても良いものである。
【符号の説明】
【0088】
110・・・演算装置、120・・・絶対値回路、130・・・周波数フィルタ回路、140・・・マイクロフォン、150・・・レーザ加工ヘッド、160・・・レーザ光、170・・・溶接金属(試料)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10