IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本メナード化粧品株式会社の特許一覧

特開2023-160178インヒビンβA(INHBA)発現抑制剤
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160178
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】インヒビンβA(INHBA)発現抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/899 20060101AFI20231026BHJP
   A61K 36/8998 20060101ALI20231026BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231026BHJP
   A61K 8/9794 20170101ALI20231026BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
A61K36/899
A61K36/8998
A61P43/00 111
A61K8/9794
A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070335
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】592262543
【氏名又は名称】日本メナード化粧品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堀田 美佳
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖司
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 祐一
(72)【発明者】
【氏名】奥野 凌輔
(72)【発明者】
【氏名】井上 悠
(72)【発明者】
【氏名】坂井田 勉
(72)【発明者】
【氏名】深田 紘介
【テーマコード(参考)】
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC01
4C088AB74
4C088AC04
4C088BA08
4C088CA05
4C088CA06
4C088CA09
4C088MA07
4C088NA14
4C088ZC41
(57)【要約】
【課題】アクチビンAの発現を抑制できる物質を見出し、これを、アクチビンAの発現亢進(過剰発現)に関連する疾患又は病態を治療及び/又は予防するための薬剤として提供すること。
【解決手段】コメの抽出物、又は、コメの抽出物と紫麦種子の抽出物の混合物を含有する、INHBA発現抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コメの抽出物を有効成分として含有する、インヒビンβA(INHBA)発現抑制剤。
【請求項2】
コメの抽出物と紫麦種子の抽出物の混合物を含有する、インヒビンβA(INHBA)発現抑制剤。
【請求項3】
前記抽出物が水、低級アルコール類、及び炭化水素類からなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶媒により抽出されることを特徴とする、請求項1又は2に記載のインヒビンβA(INHBA)発現抑制剤。
【請求項4】
アクチビンAの発現亢進に関連する疾患又は病態の治療及び/又は予防のために用いられる、請求項1又は2に記載のインヒビンβA(INHBA)発現抑制剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インヒビンβA(INHBA)発現抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インヒビンβA(INHBA)は脊椎動物間で高度に保存されており、細胞外に分泌された後に2量体を形成してアクチビンAとなる。よって、生体内のINHBAの量的変化はアクチビンAの量的変化と正に相関するといえる。アクチビンAは、下垂体前葉からの卵胞刺激ホルモンの生合成と分泌を誘導する性腺タンパク質として同定された(非特許文献1)。これまでの研究により、INHBA/アクチビンAは、胚発生期から成体の様々な組織において発現が確認され、幹細胞の維持と分化、細胞増殖、アポトーシス、免疫応答、炎症反応など様々な生物学的作用に関与することが明らかとなっている(非特許文献2)。
【0003】
アクチビンAは、タイプI受容体とタイプII受容体の2つの受容体を介してシグナル伝達を行う。アクチビンAがタイプII受容体に結合するとタイプI受容体が動員されて、4量体の受容体複合体となりリン酸化される。リン酸化により活性化したタイプI受容体が、細胞内のSMAD2/3をリン酸化し、リン酸化SMAD2/3はSMAD4と複合体を形成して核に移動し、標的遺伝子の転写を制御する(非特許文献2、3)。またSMADを介さないシグナル伝達も存在し、活性化したタイプI受容体が、ERK 1/2(extracellular signal-regulated kinases 1/2)、MAPK(p38 mitogen activated protein kinase)、JNK(c-Jun N-terminal kinases)などの細胞内シグナル伝達経路を活性化して、細胞の遊走や分化に影響を与えることが知られている(非特許文献4)。その他にも、アクチビンAは、SMAD2の活性化によってWntシグナル伝達経路を誘導することが知られている(非特許文献5)。
【0004】
このように、アクチビンAは、複数の細胞内シグナル伝達機構に関与し、多様な細胞応答を制御するので、生体の組織を構成する細胞の機能維持にとって不可欠である。その一方で、アクチビンAは、上記のような様々な生物学的作用や細胞内シグナル伝達機構への関与から、その発現異常は、様々な疾患や病態と関連している。実際に、アクチビンAは肺腺がん、食道がん、悪性胸膜中皮腫の腫瘍細胞で過剰発現し細胞増殖を促進させ腫瘍を拡大させる。また、前立腺がん、乳がん、口腔扁平上皮がん、黒色腫など、いくつかの腫瘍においては、腫瘍細胞の浸潤や転移を促進するという報告がある(非特許文献6~8)。がん以外では、全身性エリテマトーデス、関節リウマチなどの自己免疫疾患や、アレルギー性喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー性疾患、骨代謝異常疾患等において、アクチビンAの増加が関与していることが報告されている(非特許文献9、10)。
【0005】
そのため、このような疾患に対して、アクチビンAシグナル伝達を制御する治療法の開発が進められている。例えば、アクチビンAの拮抗タンパク質であるフォリスタチンを大腸炎モデルマウスに腹腔注入し、アクチビンAの受容体結合およびシグナル伝達経路の開始を防ぐことにより、結腸炎症抑制効果や生存率の増加が認められている(非特許文献11)。また、アクチビンAシグナル伝達を阻害して疾患及び障害を処置する目的としてする抗アクチビンA抗体やアクチビンアンタゴニストを用いた方法がある(特許文献1~4)。
【0006】
従って、アクチビンAシグナル伝達を適切に制御することは、各種疾患の治療のみならず、幹細胞の分化や細胞増殖を効率的に制御する上でも有用であるが、上記のような拮抗タンパク質や抗体タンパク質は、生体内に存在する酵素により分解されやすく、また、アクチビンAと構造が類似するトランスフォーミング増殖因子(TGF-β)やミオスタチン(GDF-8)などにも結合するため使用に問題がある。よって、これらに変わる新たな因子の解明が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-11965号公報
【特許文献2】特表2021-512919号公報
【特許文献3】特開2018-162312号公報
【特許文献4】特開2018-145198号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Ling N, Ying SY, Ueno N, et al. Pituitary FSH is released by a heterodimer of the beta-subunits from the two forms of inhibin. Nature. 1986;321(6072):779-782.
【非特許文献2】Morianos I, Papadopoulou G, Semitekolou M, Xanthou G. Activin-A in the regulation of immunity in health and disease. J Autoimmun. 2019;104:102314.
【非特許文献3】Namwanje M, Brown CW. Activins and inhibins: roles in development, physiology, and disease. Cold Spring Harb Perspect Biol. 2016;8(7):a021881.
【非特許文献4】de Guise C, Lacerte A, Rafiei S, et al. Activin inhibits the human Pit-1 gene promoter through the p38 kinase pathway in a Smad-independent manner. Endocrinology. 2006;147(9):4351-4362.
【非特許文献5】Hirota M, Watanabe K, Hamada S, et al. Smad2 functions as a co-activator of canonical Wnt/beta-catenin signaling pathway independent of Smad4 through histone acetyltransferase activity of p300. Cell Signal. 2008;20(9):1632-1641.
【非特許文献6】Ries A, Schelch K, Falch D, Pany L, Hoda MA, Grusch M. Activin A: an emerging target for improving cancer treatment? Expert Opin Ther Targets. 2020;24(10):985-996.
【非特許文献7】Donovan P, Dubey OA, Kallioinen S, et al. Paracrine activin-a signaling promotes melanoma growth and metastasis through immune evasion. J Invest Dermatol. 2017;137(12):2578-2587.
【非特許文献8】Chen L, De Menna M, Groenewoud A, Thalmann GN, Kruithof-de Julio M, Snaar-Jagalska BE. A NF-κB-Activin A signaling axis enhances prostate cancer metastasis. Oncogene. 2020;39(8):1634-1651.
【非特許文献9】Hardy CL, Rolland JM, O’Hehir RE. The immunoregulatory and fibrotic roles of activin A in allergic asthma. Clin Exp Allergy. 2015;45(10):1510-1522.
【非特許文献10】Mundy C, Yao L, Sinha S, et al. Activin A promotes the development of acquired heterotopic ossification and is an effective target for disease attenuation in mice. Sci Signal. 2021;14(669):eabd0536.
【非特許文献11】Jones KL, Mansell A, Patella S, et al. Activin A is a critical component of the inflammatory response, and its binding protein, follistatin, reduces mortality in endotoxemia. Proc Natl Acad Sci U S A. 2007;104(41):16239-16244.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明は、細胞の増殖や分化、アポトーシス誘導、免疫応答、炎症反応などの様々な機能を制御するアクチビンAの発現を抑制できる物質を見出し、これを、アクチビンAの発現亢進(過剰発現)に関連する疾患又は病態を治療及び/又は予防するための 薬剤として提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究をした結果、コメの抽出物、又はコメの抽出物と紫麦種子の抽出物の混合物が、アクチビンAのサブユニットであるインヒビンβA(INHBA)の発現を有意に抑制させることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の発明を包含する。
(1)コメの抽出物を有効成分として含有する、インヒビンβA(INHBA)発現抑制剤。
(2)コメの抽出物と紫麦種子の抽出物の混合物を含有する、インヒビンβA(INHBA)発現抑制剤。
(3)前記抽出物が水、低級アルコール類、及び炭化水素類からなる群から選ばれる1種又は2種以上の溶媒により抽出されることを特徴とする、(1)又は(2)に記載のインヒビンβA(INHBA)発現抑制剤。
(4)アクチビンAの発現亢進に関連する疾患又は病態の治療及び/又は予防のために用いられる、(1)又は(2)に記載のインヒビンβA(INHBA)発現抑制剤。
【発明の効果】
【0012】
本発明のINHBA発現抑制剤は、細胞内のINHBAの発現を有意に抑制することができるので、INHBAのホモダイマーであるアクチビンAの発現亢進に関連する疾患や病態の治療及び/又は予防に有効である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明に係るインヒビンβA(InhibinβA、INHBA;以下、「INHBA」と記載する)発現抑制剤は、コメの抽出物、又は、コメの抽出物と紫麦種子の抽出物の混合物を有効成分として含有する。本発明における「INHBA発現抑制」とは、生体レベルまたは培養レベルでINHBAの発現を抑制することをいう。また、本発明において「INHBA発現抑制」とは、INHBAのmRNA発現及びタンパク質発現を抑制することをいう。
【0014】
INHBA及びそのホモダイマーであるアクチビンA(Actibin A)は、トランスフォーミング増殖因子(Transforming Growth Factor-β:TGF-β)ファミリーに属するタンパク質で、アクチビンAシグナル伝達経路の制御によって、細胞の増殖や分化、アポトーシス誘導、免疫応答、炎症反応など多くの生理機能を調節する作用を有する。INHBA遺伝子及びタンパク質の配列情報は、例えばヒトの場合は、GenBank number:Nucleotide NM_002192.4、Protein NP_002183.1として登録されている。
【0015】
本発明に用いるコメは、イネ科に属するオリザサティバ(Oryza sativa L.)の種子であり、玄米(籾から籾殻を除去した米)、発芽米(玄米を発芽させた米)、胚芽米(玄米から米糠を除去し、胚芽部分を残した米)、精白米(玄米から米糠と胚芽を除去し、胚乳のみにした米)、米糠、胚芽、胚乳のいずれを用いてもよい。品種は、特に限定はされないが、コシヒカリ、ササニシキ、あきたこまち等の食用品種が挙げられる。
【0016】
玄米や精白米を用いる場合は、粉砕化処理を行ってもよい。粉砕化には、例えば、ボールミル、ロール式粉砕機、衝撃式粉砕機、超遠心粉砕機、気流粉砕機、せん断摩擦式粉砕機などを用いることができる。
【0017】
本発明に用いる紫麦とは、頴、頴果、茎又は葉が紫色の大麦のことを指し、学名はHordeum vulgare L.である。品種は、特に限定はされないが、OUC321、CI158、CI244等が挙げられ、岡山大学資源生物科学研究所 大麦野生植物資源研究センターから入手することができる。
【0018】
コメの抽出物、紫麦種子の抽出物を得るための抽出方法は特に限定されず、例えば、加熱抽出方法であっても良いし、常温や冷温抽出方法であっても良い。抽出に使用する溶媒としては、例えば、水、低級アルコール類(メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール等)、炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン、スクワラン等)、液状多価アルコール類(1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン等)、アセトニトリル、エステル類(酢酸エチル、酢酸ブチル等)、エーテル類(エチルエーテル、テトラヒドロフラン、プロピルエーテル等)等が挙げられる。これらの溶媒のなかでも、水、低級アルコール類、炭化水素類が好ましく、低級アルコール類、炭化水素類がより好ましく、炭化水素類がさらに好ましい。特に好ましい抽出溶媒としては、エタノール又はヘキサンが挙げられる。これらの溶媒は1種でも2種以上を混合して用いても良い。また、上記溶媒のうち、水溶性有機溶媒については、水溶性有機溶媒単独で使用してもよく、水と水溶性有機溶媒の混合溶媒(いわゆ含水有機溶媒)を使用してもよい。含水有機溶媒に含まれる有機溶媒の濃度としては、限定はされないが、例えば、含水エタノール(エタノール水溶液)の場合は10~90v/v%、好ましくは30~70v/v%である。また、上記抽出溶媒に酸やアルカリを添加して、pH調整した溶媒を使用することもできる。
【0019】
溶媒の使用量については、特に限定はなく、例えば上記コメ又は紫麦種子(乾燥重量)に対し、10倍以上、好ましくは20倍以上であればよいが、抽出後に濃縮を行ったり、単離したりする場合の操作の便宜上100倍以下であることが好ましい。また、抽出温度や時間は、用いる溶媒の種類によるが、例えば、10~100℃、好ましくは30~90℃で、30分~24時間、好ましくは1~10時間を例示することができる。より具体的には、コメ又は紫麦種子の乾燥物に水を加え、95~100℃における熱水抽出を行うことで、コメ又は紫麦種子の抽出物を得ることができる。あるいは、コメ又は紫麦種子の乾燥物に低級アルコール(例えば、エタノール等)、液状多価アルコール(例えば、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール等)及び/又は炭化水素類(ヘキサン、ヘプタン、流動パラフィン、スクワラン等)を添加し、常温(例えば15~35℃)で抽出を行うことで、コメ又は紫麦種子の抽出物を得ることができる。また、抽出物は、抽出した溶液のまま用いてもよいが、必要に応じて、その効果に影響のない範囲で、濃縮(有機溶媒、減圧濃縮、膜濃縮などによる濃縮)、希釈、濾過、活性炭等による脱色、脱臭、エタノール沈殿等の処理を行ってから用いてもよい。さらには、抽出した溶液を濃縮乾固、噴霧乾燥、凍結乾燥等の処理を行い、乾燥物として用いてもよい。
【0020】
本発明において、コメの抽出物は、単独で用いてもよいが、紫麦種子の抽出物を併用するとINHBAの発現抑制効果が増強するので好ましい。コメの抽出物と、紫麦種子の抽出物を併用する場合、混合比率は限定されないが、好ましくは1:10~10:1であり、より好ましくは1:5~5:1であり、さらに好ましくは1:2~2:1であり、最も好ましくは1:1である。
【0021】
INHBAの発現抑制の対象となる細胞は、INHBAを細胞内に発現し、生体組織に存在する細胞であれば特に限定はされない。例えば骨髄、脳、頭頚部、鼻咽頭、骨、血液、皮膚、心臓、肺、乳房、食道、胃、膵臓、肝臓、結腸・直腸、小腸、脾臓、精巣、卵巣、甲状腺、膀胱、唾液腺、十二指腸、子宮内膜、胎盤、前立腺、胆のう、腎臓、リンパ節等の細胞が挙げられる。また、細胞は未分化・多能性の幹細胞であってもよく、胚性の幹細胞(ES細胞);骨髄、血液、皮膚(表皮、真皮、皮下組織)、脂肪、毛包、脳、神経、肝臓、膵臓、腎臓、筋肉やその他の組織に存在する体性の幹細胞;遺伝子導入等により人工的に作製された幹細胞(人工多能性幹細胞:iPS細胞)が挙げられる。細胞の由来は、ヒト、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ブタ、ウシ、ウマ、サル等の哺乳類由来の細胞が好ましい。細胞は、生体内の細胞であっても、単離された細胞であってもよい。単離された細胞は、公知の手法によって維持及び培養をすることができる。
【0022】
コメの抽出物、又は、コメの抽出物と紫麦種子の抽出物の混合物は、INHBAの発現抑制作用により、アクチビンAの発現亢進(過剰発現)に関連する様々な疾患又は病態を治療及び/又は予防するのに有効である。ここで、アクチビンAの発現亢進に関連する疾患又は病態としては、癌(大腸癌、黒色腫、胃癌、肝細胞癌、前立腺癌、食道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、腎臓癌、膀胱癌、子宮頸癌、卵巣癌、甲状腺癌、頭頸部癌、リンパ腫、神経膠腫、グリア芽腫等)、アレルギー性疾患(花粉症、アトピー性皮膚炎、気管支喘息、アレルギー性鼻炎(鼻水、鼻づまり、くしゃみ)、アレルギー性結膜炎、アレルギー性胃腸炎、気管支喘息、食物アレルギー、蕁麻疹、膠原病、血清病、ウイルス性肝炎、接触性皮膚炎等)、自己免疫疾患(関節リウマチ、多発性硬化症、全身性エリテマトーデス、シェーグレン症候群、I型糖尿病、多発性筋炎、全身性強皮症、皮膚筋炎、悪性貧血等)、炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病等)、神経の変性又は損傷を伴う神経系疾患(物忘れ、認知症、アルツハイマー病、脊髄損傷、顔面神経麻痺、脊髄小脳変性症、ハンチントン病(HD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発ニューロパチー、脊髄性筋萎縮症、パーキンソン病、多発性硬化症(MS)、脳血管障害(脳梗塞、脳卒中、脳動脈瘤)、脳血管障害による運動障害、進行性核上性麻痺、振戦、てんかん、脳外傷、うつ病、不眠症、学習障害、不安障害(パニック障害、強迫性障害等)等)、筋疾患(サルコペニア、筋委縮、筋ジストロフィー等)、皮膚の老化及び損傷(シワ、たるみ、くすみ、ハリやツヤの低下、肌荒れ、乾燥肌、敏感肌、角質肥厚、毛穴の開き、ひび、あかぎれ、皮脂欠乏症(乾皮症)、皮脂欠乏性湿疹、皮膚掻痒症、手湿疹、乾癬(紅斑、鱗屑、落屑を伴う)、熱傷や創傷の治癒の遅れ、褥瘡等)、骨代謝異常疾患(骨粗鬆症、骨軟化症、骨形成不全症、大理石骨病、骨ページェット病等)、感染症(インフルエンザウイルス、ノロウイルス、ヘルペスウイルス、エイズウイルスによる感染症等)などが挙げられるが、これらに限定はされない。
【0023】
本発明のINHBA発現抑制剤は、そのまま使用することも可能であるが、本発明の効果を損なわない範囲で適当な添加物とともに、上記のアクチビンAの発現亢進に関連する様々な疾患又は病態の治療及び/又は予防を目的としINHBA発現抑制用の医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品等の各種組成物に配合して提供することができる。なお、本発明の医薬品には、動物に用いる薬剤、即ち獣医薬も包含されるものとする。
【0024】
本発明の医薬品は、上記疾患又は病態の発症を抑制する予防薬として、及び/又は、正常な状態に改善する治療薬として機能する。本発明の医薬品の有効成分は、天然物由来であるため、非常に安全性が高く副作用がないため、前述の疾患又は病態の治療及び/又は予防用医薬として用いる場合、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ等の哺乳動物に対して広い範囲の投与量で経口的に又は非経口的に投与することができる。
【0025】
本発明のINHBA発現抑制剤を医薬品に配合する場合は、薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物と混合し、患部に適用するのに適した製剤形態の各種製剤に製剤化することができる。薬理学的及び製剤学的に許容しうる添加物としては、その剤形、用途に応じて、適宜選択した製剤用基材や担体、賦形剤、希釈剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、崩壊剤又は崩壊補助剤、安定化剤、保存剤、防腐剤、増量剤、分散剤、湿潤化剤、緩衝剤、溶解剤又は溶解補助剤、等張化剤、pH調節剤、噴射剤、着色剤、甘味剤、矯味剤、香料等を適宜添加し、公知の種々の方法にて経口又は非経口的に全身又は局所投与することができる各種製剤形態に調製すればよい。本発明の医薬品を上記の各形態で提供する場合、通常当業者に用いられる製法、たとえば日本薬局方の製剤総則[2]製剤各条に示された製法等により製造することができる。
【0026】
経口投与用製剤には、例えば、デンプン、ブドウ糖、ショ糖、果糖、乳糖、ソルビトール、マンニトール、結晶セルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、又はデキストリン等の賦形剤;カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、又はヒドロキシプロピルセルロース等の崩壊剤又は崩壊補助剤;ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、アラビアゴム、又はゼラチン等の結合剤;ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、又はタルク等の滑沢剤;ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、ポリエチレングリコール、又は酸化チタン等のコーティング剤;ワセリン、流動パラフィン、ポリエチレングリコール、ゼラチン、カオリン、グリセリン、精製水、又はハードファット等の基剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0027】
非経口投与用製剤には、蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、マクロゴール、ミョウバン水、植物油等の溶剤;ブドウ糖、塩化ナトリウム、D-マンニトール等の等張化剤;無機酸、有機酸、無機塩基又は有機塩基等のpH調節剤などを用いることができるが、これらに限定はされない。
【0028】
医薬品の形態としては、特に制限されるものではないが、例えば錠剤、糖衣錠剤、カプセル剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、乳剤、シロップ剤、懸濁剤、エリキシル剤などの経口剤、注射剤(例えば、皮下注射剤、静脈内注射剤、筋肉内注射剤、腹腔内注射剤)、点滴剤、座剤、軟膏剤、ローション剤、点眼剤、噴霧剤、経皮吸収剤、経粘膜吸収剤、貼付剤などの非経口剤などが挙げられる。また、使用する際に再溶解させる乾燥生成物にしてもよく、注射用製剤の場合は単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態で提供される。また、アクチビンAの発現亢進に関連する疾患又は症状で、前記皮膚関連の疾患又は症状を治療、改善、又は予防するための医薬品として用いる場合に適した形態は外用製剤であり、例えば、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、液剤、貼付剤(パップ剤、プラスター剤)、フォーム剤、スプレー剤、噴霧剤などが挙げられる。軟膏剤は、均質な半固形状の外用製剤をいい、油脂性軟膏、乳剤性軟膏、水溶性軟膏を含む。ゲル剤は、水不溶性成分の抱水化合物を水性液に懸濁した外用製剤をいう。液剤は、液状の外用製剤をいい、ローション剤、懸濁剤、乳剤、リニメント剤等を含む。
【0029】
本発明のINHBA発現抑制剤を化粧品や医薬部外品に配合する場合は、その剤形は、水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、粉末分散系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水-油二層系、又は水-油-粉末三層系等のいずれでもよい。また、当該化粧品や医薬部外品は、本発明のINHBA発現抑制剤とともに、皮膚外用組成物において通常使用されている各種成分、添加剤、基剤等をその種類に応じて選択し、適宜配合し、当分野で公知の手法に従って製造することができる。その形態は、液状、乳液状、クリーム状、ゲル状、ペースト状、スプレー状等のいずれであってもよい。配合成分としては、例えば、油脂類(オリーブ油、ヤシ油、月見草油、ホホバ油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等)、ロウ類(ラノリン、ミツロウ、カルナウバロウ等)、炭化水素類(流動パラフィン、スクワレン、スクワラン、ワセリン等)、脂肪酸類(ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘニン酸等)、高級アルコール類(ミリスチルアルコール、セタノール、セトステアリルアルコール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等)、エステル類(ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、オクタン酸セチル、トリオクタン酸グリセリン、ミリスチン酸オクチルドデシル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸ステアリル等)、有機酸類(クエン酸、乳酸、α-ヒドロキシ酢酸、ピロリドンカルボン酸等)、糖類(マルチトール、ソルビトール、キシロビオース、N-アセチル-D-グルコサミン等)、蛋白質及び蛋白質の加水分解物、アミノ酸類及びその塩、ビタミン類、植物・動物抽出成分、種々の界面活性剤、保湿剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、安定化剤、防腐剤、殺菌剤、香料等が挙げられる。
【0030】
化粧品や医薬部外品の種類としては、例えば、化粧水、乳液、ジェル、美容液、一般クリーム、日焼け止めクリーム、パック、マスク、洗顔料、化粧石鹸、ファンデーション、おしろい、ボディローション等が挙げられる。
【0031】
前記抽出物を上記の医薬品、医薬部外品、化粧品に配合する場合、その含有量は特に限定されないが、製剤(組成物)全重量に対して、抽出物の乾燥固形分に換算して、0.001~30重量%(w/w)が好ましく、0.01~10重量%(w/w)がより好ましい。0.001重量%(w/w)未満では効果が低く、また30重量%(w/w)を超えても効果に大きな増強はみられにくい。又、製剤化における有効成分の添加法については、予め加えておいても、製造途中で添加してもよく、作業性を考えて適宜選択すればよい。
【0032】
また、本発明のINHBA発現抑制剤は、飲食品にも配合できる。本発明において、飲食品とは、一般的な飲食品のほか、医薬品以外で健康の維持や増進を目的として摂取できる食品、例えば、健康食品、機能性食品、保健機能食品、又は特別用途食品を含む意味で用いられる。健康食品には、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント等の名称で提供される食品を含む。保健機能食品は食品衛生法又は健康増進法により定義され、特定の保健の効果や栄養成分の機能、疾病リスクの低減などを表示できる、特定保健用食品及び栄養機能食品、ならびに科学的根拠に基づいた機能性について消費者庁長官に届け出た内容を表示できる機能性表示食品が含まれる。また特別用途食品には、特定の対象者や特定の疾患を有する患者に適する旨を表示する病者用食品、高齢者用食品、乳児用食品、妊産婦用食品等が含まれる。ここで、飲食品に付される特定の保健の効果や栄養成分の機能等の表示は、製品の容器、包装、説明書、添付文書などの表示物、製品のチラシやパンフレット、新聞や雑誌等の製品の広告などにすることができる。
【0033】
飲食品の形態は、食用に適した形態、例えば、固形状、液状、顆粒状、粒状、粉末状、カプセル状、クリーム状、ペースト状のいずれであってもよい。特に、上記の健康食品等の場合の形状としては、例えば、タブレット状、丸状、カプセル状、粉末状、顆粒状、細粒状、トローチ状、液状(シロップ状、乳状、懸濁状を含む)等が好ましい。
【0034】
飲食品の種類としては、パン類、麺類、菓子類、乳製品、水産・畜産加工食品、油脂及び油脂加工食品、調味料、各種飲料(清涼飲料、炭酸飲料、美容ドリンク、栄養飲料、果実飲料、乳飲料など)及び該飲料の濃縮原液及び調整用粉末等が挙げられるが、これらに限定はされない。飲食品は、その種類に応じて通常使用される添加物を適宜配合してもよい。添加物としては、食品衛生法上許容されうる添加物であればいずれも使用できるが、例えば、ブドウ糖、ショ糖、果糖、異性化液糖、アスパルテーム、ステビア等の甘味料;クエン酸、リンゴ酸、酒石酸等の酸味料;デキストリン、デンプン等の賦形剤;結合剤、希釈剤、香料、着色料、緩衝剤、増粘剤、ゲル化剤、安定剤、保存剤、乳化剤、分散剤、懸濁化剤、防腐剤などが挙げられる。
【実施例0035】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0036】
[実施例1]コメ及び紫麦種子の抽出物の製造例
コメ(形態:米糠、玄米、精米、品種:「コシヒカリ」)及び紫麦(品種:「OUC321」)種子を抽出材料として用い、以下の方法でそれらの抽出物を製造した。
【0037】
(製造例1)各抽出材料の熱水抽出物の製造
各抽出材料の乾燥物10gに精製水200mLを加え、95~100℃で2時間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮し、凍結乾燥して熱水抽出物を得た。
【0038】
(製造例2)各抽出材料のエタノール抽出物の製造
各抽出材料の乾燥物10gにエタノール200mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、エタノール抽出物を得た。
【0039】
(製造例3)各抽出材料のヘキサン抽出物の製造
各抽出材料の乾燥物10gにヘキサン200mLを加え、常温で7日間抽出した後、濾過し、その濾液を濃縮乾固して、ヘキサン抽出物を得た。
【0040】
製造例1~3で得られた抽出物(抽出物1~12)について、使用した抽出材料、抽出溶媒、抽出物の量を下記表1に示す。
【0041】
【表1】
【0042】
[実施例2] INHBA発現抑制効果
コメ及び紫麦種子の抽出物のINHBA発現抑制効果実験を次のとおり行った。
【0043】
本実施例では、各抽出物のINHBA抑制効果を検証するために、正常ヒト表皮角化細胞(Human epidermal keratinocyte、HEK、クラボウ社製)を用いた試験を行った。
【0044】
まず、HEKにおいて過剰にINHBAを発現するモデルを作製するために、紫外線(UVB)照射を検討した。具体的には、HEKを96ウェルプレートに1ウェル当たり3×10個播種し、生着を確認した後、東芝FL20S・Eランプを用いて紫外線(UVB)を100mJ/cmとなるように照射した。UVB照射2日後に、細胞をPFA固定し、INHBAに対する抗体(Proteintech社製)及び蛍光標識2次抗体で処理し免疫染色を行った。また、DAPI染色により個々の細胞の核を標識した。その後、蛍光顕微鏡及び画像解析ソフトウエア(ImageJ)を用いて、細胞あたりのINHBA発現量(INHBA蛍光強度/細胞数)を算出した。UVB未照射で培養した細胞におけるINHBA発現量を100%とし、これに対し、UVB照射下で培養した細胞におけるINHBA相対発現量の値を算出した。結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示すように、UVB照射によりINHBAの発現が亢進することが分かった。
【0047】
次に、各抽出物の添加試験を行った。具体的には、上記と同様に、HEKを96ウェルプレートに1ウェル当たり3×10個播種し、生着を確認した後、紫外線(UVB)を100mJ/cmとなるように照射した。その後、細胞に実施例1で得られた各抽出物を100μg/mLの濃度で添加した。なお、2種の抽出物の混合物を用いる場合、その比率は1:1(重量比)とした。抽出物を添加2日後に細胞をPFA固定し、上記と同様にしてINHBA発現量(INHBA蛍光強度/細胞数)を算出した。抽出物を添加せずに培養した細胞(コントロール)におけるINHBA発現量を100%とし、これに対し、抽出物を添加して培養した細胞におけるINHBA相対発現量の値を算出し、評価した。結果を表3に示す。
【0048】
【表3】
【0049】
表3に示すように、コメ(米糠、玄米、精米)の抽出物(抽出物1~9)を添加した培地で培養した細胞では、コントロール(未添加)に比べ、INHBAの発現量が低下し、INHBAの発現抑制効果を有することが示された。また、コメの抽出物(抽出物6)と紫麦種子の抽出物(抽出物12)を併用することにより、格別にINHBAの発現抑制効果が高まることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、アクチビンAの発現亢進に関連する疾患の治療及び/又は予防を目的とした医薬品や化粧品の製造分野において利用できる。