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特開2023-160180電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池
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  • 特開-電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160180
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/86 20060101AFI20231026BHJP
   H01M 8/10 20160101ALI20231026BHJP
【FI】
H01M4/86 H
H01M8/10 101
H01M4/86 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070337
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】上野 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】小澤 まどか
(72)【発明者】
【氏名】盛岡 弘幸
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕
【テーマコード(参考)】
5H018
5H126
【Fターム(参考)】
5H018AA06
5H018DD05
5H018EE01
5H018EE03
5H018EE18
5H018HH00
5H018HH01
5H018HH02
5H018HH03
5H018HH05
5H126BB06
(57)【要約】
【課題】低電流密度領域から高電流密度領域にかけて初期発電性能に優れる電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供すること。
【解決手段】本開示の一側面は、高分子電解質膜に接合する電極触媒層であって、触媒と、フッ素を含む高分子電解質と、繊維状物質と、を含み、電極触媒層の断面の特定領域のエネルギー分散型X線分光法により得られる、炭素、窒素、酸素、フッ素、硫黄及び白金元素の合計原子数に占めるフッ素の原子数の比が0.2at%以上であり、特定領域は、繊維状物質を50面積%以上含み、かつ、触媒を含まない領域である、電極触媒層である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子電解質膜に接合する電極触媒層であって、
触媒と、
フッ素を含む高分子電解質と、
繊維状物質と、
を含み、
前記電極触媒層の断面の特定領域のエネルギー分散型X線分光法により得られる、炭素、窒素、酸素、フッ素、硫黄及び白金元素の合計原子数に占めるフッ素の原子数の比が0.2at%以上であり、前記特定領域は、前記繊維状物質を50面積%以上含み、かつ、前記触媒を含まない領域である、電極触媒層。
【請求項2】
前記繊維状物質は、アゾール構造を有している、請求項1に記載の電極触媒層。
【請求項3】
前記触媒を担持し且つ当該触媒とともに触媒担持粒子を構成する担体を含み、
前記繊維状物質の含有量が、前記担体の含有量を100質量部としたとき、5質量部以上20質量部以下であり、
前記特定領域は、前記担体を含まない領域である、請求項1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項4】
前記高分子電解質が、前記繊維状物質の表面の少なくとも一部を被覆している、請求項1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項5】
前記繊維状物質を被覆している前記高分子電解質の厚さが、3nm以上30nm以下である、請求項4に記載の電極触媒層。
【請求項6】
前記高分子電解質がプロトン供与性基を含み、
前記高分子電解質の前記プロトン供与性基1モルあたりの乾燥重量が、600g/mol以上1200g/mol以下である、請求項1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項7】
前記繊維状物質の平均繊維長が、0.7μm以上40μm以下である、請求項1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項8】
前記繊維状物質の平均繊維径が、10nm以上500nm以下である、請求項1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項9】
前記繊維状物質が前記高分子電解質を吸着する性能を有する、請求項1又は2に記載の電極触媒層。
【請求項10】
前記繊維状物質の前記高分子電解質に対する吸着能が10mg/g以上である、請求項9に記載の電極触媒層。
【請求項11】
高分子電解質膜と、
請求項1又は2に記載の電極触媒層と、
を備え、
前記電極触媒層が、前記高分子電解質膜に接合されている、膜電極接合体。
【請求項12】
請求項11に記載の膜電極接合体と、
前記膜電極接合体の厚さ方向に前記膜電極接合体を挟む一対のガス拡散層と、
前記膜電極接合体の厚さ方向に前記膜電極接合体及び前記一対のガス拡散層を挟む一対のセパレーターと、
を備える、固体高分子形燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
年々増大する地球環境負荷への対策として、よりクリーンなエネルギー創出に対する需要が高まりつつある。燃料電池は、水素と酸素の化学反応によって電気エネルギーを生成し、水のみを排出する発電システムであり、燃料電池には、将来的なエネルギー源として高い期待が寄せられている。
【0003】
燃料電池は、電解質の種類によって、アルカリ形、リン酸形、固体高分子形、溶融炭酸塩形、及び固体酸化物形などに分類される。固体高分子形燃料電池は、室温付近で使用可能なことから、車載用電源や家庭据置用電源などへの幅広い活用が見込まれている。そのため、固体高分子形燃料電池の実用化に向けて、発電性能や耐久性の向上、コスト低減対策などについての研究開発が盛んに行われている。
【0004】
固体高分子形燃料電池は、プロトン伝導性を有する高分子電解質膜と、アノードである燃料極と、カソードである空気極とを備えている。高分子電解質膜の厚さ方向において、燃料極と空気極とが高分子電解質膜を挟んでいる。燃料極は、燃料ガスをプロトンと電子に分離する電極触媒層を有する。空気極は、高分子電解質膜を介して輸送されたプロトンを、酸素を含む酸化剤により酸化するとともに、外部回路から電子を受け取る電極触媒層を有する。燃料極及び空気極の電極触媒層は、白金系の貴金属などの触媒物質と、触媒物質を担持する担体、及び高分子電解質を含む。
【0005】
固体高分子形燃料電池は、燃料極及び空気極の各々の電極触媒層における高分子電解質膜と反対側の面にガス拡散層及びセパレーターを配置したものを基本構成である単セルとし、この単セルが複数積層されてなる。ガス拡散層は、導電性を有し、反応ガスを均一に拡散するための層である。セパレーターは、ガス流路及び冷却水流路を有するとともに電子を外部回路に取り出す役割を担う部材であり、ガス拡散層の外側に配置される。以下、高分子電解質膜の両面に燃料極、空気極が形成されたものを膜電極接合体という。
【0006】
固体高分子形燃料電池は、燃料極に水素を含む燃料ガスが供給され、空気極に酸素を含む酸化剤ガスが供給されることにより、燃料極及び空気極において下記の式1及び式2に示す電極反応が生じ、発電する。
【0007】
燃料極:H→2H+2e・・・(式1)
空気極:1/2O+2H+2e→HO・・・(式2)
式1に示すように、燃料極に供給された燃料ガスが、燃料極の電極触媒層に含まれる触媒物質によりプロトンと電子に分離される。分離したプロトンは、燃料極の電極触媒層に含まれる加湿された高分子電解質及び高分子電解質膜を通って空気極に移動する。分離した電子は、燃料極から外部回路に取り出され、外部回路を通って空気極に移動する。式2に示すように、空気極では、酸化剤ガスと、燃料極から移動してきたプロトン及び電子とが反応して水が生成される。電子が外部回路を通ることにより電流が生じる。
【0008】
ところで、燃料電池の電極触媒層は一般的に百μm以下の厚さの薄膜で形成されており、製造時に電極触媒層にヒビが生じる所謂クラックが問題として挙げられている。クラックが発生することで、電極触媒層内のプロトン伝導経路や電子伝導経路が遮断され、発電性能や耐久性が低下する。この問題を解決するため、電極触媒層の結合強度を向上させる技術として特許文献1に開示される技術が知られている。
【0009】
特許文献1では親水性の炭素ウィスカーのような繊維状物質を電極触媒層に加えることにより、電極触媒層の結合強度を向上させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特許第4065862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、特許文献1に開示される電極触媒層を用いた従来の燃料電池には、初期発電性能の観点において改善の余地があった。
【0012】
繊維状物質を電極触媒層内に加えると、繊維状物質上をプロトンが伝導出来ないため、電極触媒層内でのプロトン伝導抵抗が増大し、膜電極接合体の発電性能が低下することがある。特に、低加湿条件下では高分子電解質の含水率が低下することによりプロトン伝導抵抗が顕著に増大することがある。一方、プロトン伝導性を向上するために電極触媒層内の高分子電解質の比率を高くすると、電極触媒層内の電子伝導性が確保されず、あるいは高分子電解質による保水により高電流密度での発電時に排出される水を系外に出すことができず、発電性能が低下する。そのため、触媒層内の高分子電解質の量は少量に抑えながら、発電性能を発揮する必要がある。そこで、繊維状物質を添加した電極触媒層内のプロトン伝導経路を適切に構築することが重要になる。
【0013】
本発明者らは、鋭意検討の末、電極触媒層内の繊維状物質周辺の高分子電解質の存在量を測定し、繊維状物質周辺に高分子電解質がある一定以上存在することで、電極触媒層内のプロトン伝導経路を適切に構築し得、上記課題を解決できることを見出した。
【0014】
本開示の一側面は、低電流密度領域から高電流密度領域にかけて初期発電性能に優れる電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本開示の一側面は、高分子電解質膜に接合する電極触媒層であって、触媒と、フッ素を含む高分子電解質と、繊維状物質と、を含み、電極触媒層の断面の特定領域のエネルギー分散型X線分光法により得られる、炭素、窒素、酸素、フッ素、硫黄及び白金元素の合計原子数に占めるフッ素の原子数の比が0.2at%以上であり、特定領域は、繊維状物質を50面積%以上含み、かつ、触媒を含まない領域である、電極触媒層である。
【0016】
一態様において、繊維状物質は、アゾール構造を有していてよい。
【0017】
一態様において、触媒を担持し且つ当該触媒とともに触媒担持粒子を構成する担体を含み、繊維状物質の含有量は、担体の含有量を100質量部としたとき、5質量部以上20質量部以下であり、特定領域は、担体を含まない領域であってよい。
【0018】
一態様において、高分子電解質は、繊維状物質の表面の少なくとも一部を被覆していてよい。繊維状物質を被覆している高分子電解質の厚さは、3nm以上30nm以下であってよい。
【0019】
一態様において、高分子電解質は、プロトン供与性基を含み、高分子電解質のプロトン供与性基1モルあたりの乾燥重量は、600g/mol以上1200g/mol以下であってよい。
【0020】
一態様において、繊維状物質の平均繊維長は、0.7μm以上40μm以下であってよい。繊維状物質の平均繊維径は、10nm以上500nm以下であってよい。
【0021】
一態様において、繊維状物質は、高分子電解質を吸着する性能を有していてよい。繊維状物質の高分子電解質に対する吸着能は、10mg/g以上であってよい。
【0022】
本開示の他の一側面は、高分子電解質膜と、上記電極触媒層と、を備え、電極触媒層が、高分子電解質膜に接合されている、膜電極接合体である。
【0023】
本開示の更に他の一側面は、上記膜電極接合体と、膜電極接合体の厚さ方向に膜電極接合体を挟む一対のガス拡散層と、膜電極接合体の厚さ方向に膜電極接合体及び一対のガス拡散層を挟む一対のセパレーターと、を備える、固体高分子形燃料電池である。
【発明の効果】
【0024】
本開示の一側面によれば、低電流密度領域から高電流密度領域にかけて初期発電性能に優れる電極触媒層、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】一実施形態における膜電極接合体の構造を示す断面図。
図2】一実施形態における第1電極触媒層の構造を模式的に示す模式図。
図3】一実施形態における第1電極触媒層に含まれる触媒担持粒子の構造を示す断面図。
図4】第1電極触媒層の断面の一例を示す模式図である。
図5】一実施形態における固体高分子形燃料電池の構成を示す分解斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1から図3を参照して、電極触媒層、膜電極接合体、及び固体高分子形燃料電池の一実施形態を説明する。図面の各図は、理解を容易にするために適宜誇張して表現している。また、本実施形態の電極触媒層、膜電極接合体、固体高分子形燃料電池、及びそれらの製造方法の構成及び材料は、以下に記載する構成及び材料に限定されるものではなく、同様の機能を持つと類推される全ての材料及び構成を含む。
【0027】
[膜電極接合体]
図1に示すように、膜電極接合体10は、高分子電解質膜11と、カソード側電極触媒層12Cと、アノード側電極触媒層12Aとを備えている。
【0028】
高分子電解質膜11は、固体状の高分子電解質膜である。高分子電解質膜11は、例えば、プロトン伝導性を有する高分子材料によって形成されている。プロトン伝導性を有する高分子材料としては、例えば、フッ素系樹脂、炭化水素系樹脂が挙げられる。フッ素系樹脂としては、例えば、Nafion(デュポン社製、登録商標)、Flemion(AGC社製、登録商標)、Gore-Select(ゴア社製、登録商標)が挙げられる。炭化水素系樹脂としては、例えば、エンジニアリングプラスチック、及びスルホン酸基が導入されたエンジニアリングプラスチックが挙げられる。
【0029】
カソード側電極触媒層12Cは、カソードである空気極を構成する電極触媒層であり、高分子電解質膜11の片側の面に接合している。カソード側電極触媒層12Cは、高分子電解質膜11を介して輸送されたプロトンを、酸素を含む酸化剤により酸化するとともに、外部回路から電子を受け取るための層である。アノード側電極触媒層12Aは、アノードである燃料極を構成する電極触媒層であり、高分子電解質膜11におけるカソード側電極触媒層12Cが接合する面の反対側の面に接合している。アノード側電極触媒層12Aは、燃料ガスをプロトンと電子に分離するための層である。また、以下では、カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aを含む概念として電極触媒層と記載する場合がある。
【0030】
[電極触媒層]
以下、電極触媒層としての第1電極触媒層及び第2電極触媒層について説明する。カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aは共に第1電極触媒層である。又は、カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aのいずれか一方は、第1電極触媒層であり、いずれか他方は、第2電極触媒層である。つまり、カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aの少なくとも一方を第1電極触媒層としている。これにより、1.5A/cm以上の高電流密度における発電性能を向上させる効果が得られる。なお、上記効果を高める観点から、カソード側電極触媒層12C及びアノード側電極触媒層12Aの一方のみを第1電極触媒層とする場合には、空気極を構成するカソード側電極触媒層12Cを第1電極触媒層とすることが好ましい。
【0031】
(第1電極触媒層)
図2に示すように、第1電極触媒層20は、触媒担持粒子21と、高分子電解質22と、繊維状物質23とを含む。また、第1電極触媒層20は、任意成分として、燃料電池の電極触媒層に含有される公知のその他成分を含んでもよい。
【0032】
<触媒担持粒子>
図3に示すように、触媒担持粒子21は、触媒21aと、触媒21aを担持する担体21bとを備えている。
【0033】
触媒21aとしては、例えば、白金族に含まれる金属、白金族以外の金属、又はこれらの合金、酸化物、複酸化物、炭化物を用いることができる。白金族に含まれる金属としては、例えば、白金、パラジウム、ルテニウム、イリジウム、ロジウム及びオスミウムが挙げられる。白金族以外の金属としては、例えば、金、鉄、鉛、銅、クロム、コバルト、ニッケル、マンガン、バナジウム、モリブデン、ガリウム及びアルミニウムが挙げられる。これらの中でも、白金、金、パラジウム、ロジウム、ルテニウム、及びこれらの合金は、触媒としての活性が高く、好適である。なお、触媒担持粒子21を構成する触媒21aは、上記例の一種類のみであってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0034】
触媒21aの平均粒子径は、例えば、0.5nm以上20nm以下であることが好ましく、1nm以上5nm以下であることがより好ましい。触媒21aの平均粒子径を0.5nm以上とすることにより安定性の低下を抑制できる。また、触媒21aの平均粒子径を20nm以下とすることにより活性の低下を抑制できる。なお、本明細書では、粒度測定から求めた算術平均粒子径を平均粒子径と定義する。
【0035】
担体21bとしては、導電性を有し、触媒21aに侵されず、かつ触媒21aを担持することが可能な物質を用いる。担体21bを構成する上記物質としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、黒鉛、活性炭、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー及びフラーレンなどの炭素材料並びに金属酸化物が挙げられる。金属酸化物は、例えば、酸化スズなどであってよい。酸化スズには、タングステン又はニオブをドープしてもよい。これによって、担体21bの導電性を高めることができる。担体21bは、炭素材料であることが特に好ましい。担体21bとして炭素材料を選択することによって、他の担体を選択する場合に比べて、担体21bの表面積を大きくすることができ、触媒21aを高い密度で担持することができる。これにより、担体21bあたりの触媒活性を向上させることができる。触媒担持粒子21を構成する担体21bは、上記例の一種類のみであってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0036】
担体21bの比表面積は、50m/g以上2000m/g以下の範囲に含まれることが好ましく、100m/g以上1500m/g以下の範囲に含まれることがより好ましい。担体21bの比表面積が50m/g以上であることによって、触媒21aが高密度で担持され、これによって、触媒21aの活性を高めることが出来る。また、担体21bの比表面積が2000m/g以下であることによって、担体21bの有するミクロ孔の量を抑制出来るため、担体21b内でのガス拡散性を向上させることが出来る。これによって、第1電極触媒層20の物質輸送抵抗が増加することが抑えられ、結果として、第1電極触媒層20を備える燃料電池の出力特性が低下することが抑えられる。
【0037】
担体21bが炭素によって形成されている場合、担体21bの黒鉛化度は、20%以上80%以下の範囲に含まれていることが好ましい。担体21bの黒鉛化度が20%以上である場合、燃料電池の運転と停止による担体21bの消失が抑制され、燃料電池の出力特性の低下を抑制できる傾向にある。他方、担体21bの黒鉛化度が80%以下である場合、触媒21aの担持が安定し、燃料電池を使用し続けても、触媒21aの粒径の増大を抑制できる傾向にある。その結果、触媒21aの活性の低下が抑制され、燃料電池の出力の低下を抑制できる傾向にある。
【0038】
担体21bの形状は特に限定されるものではなく、例えば、粒子形状であってもよいし、繊維形状であってもよい。なお、触媒21aの表面で生じる電子を円滑に系外に伝達する観点において、担体21bは、その外表面に触媒21aを担持可能な形状であることが好ましい。
【0039】
担体21bの平均粒子径は、例えば、10nm以上1000nm以下であることが好ましく、10nm以上100nm以下であることがより好ましい。担体21bの平均粒子径を10nm以上とすることにより、電極触媒層内に電子の伝導経路が形成されやすくなる。また、担体21bの平均粒子径を1000nm以下とすることにより、第1電極触媒層20の厚みが増大することによる抵抗増加を抑制できる。
【0040】
触媒担持粒子21は、疎水性被膜を備えたものでもよい。言い換えれば、触媒21aを担持した粒子は、疎水性被膜によって覆われてもよい。この場合、疎水性被膜は、十分に反応ガスを透過する膜厚を有することが好ましい。疎水性被膜の膜厚は、具体的には40nm以下であることが好ましい。これよりも厚くなると活性点への反応ガスの供給が阻害される場合がある。一方、疎水性被膜が40nm以下であれば十分に反応ガスが疎水性被膜を透過するため、触媒担持粒子に疎水性を付与することができる。また、触媒担持粒子21を覆う疎水性被膜の膜厚は、十分に生成水を撥水する膜厚であることが好ましい。疎水性被膜の膜厚は、具体的には2nm以上であることが好ましい。疎水性被膜が2nm以上の厚さを有することによって、生成水の滞留を抑え、これによって、活性点に対する反応ガスの供給が阻害されることが抑えられる。
【0041】
触媒担持粒子21を覆う疎水性被膜は、例えば、少なくとも一つの極性基を有するフッ素系化合物から形成される。極性基には、例えば、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、エステル基、エーテル基、カーボネート基及びアミド基などが挙げられる。極性基の存在により、第1電極触媒層20の最表面にフッ素系化合物を固定化することができる。フッ素系化合物における極性基以外の部分は、疎水性及び化学的安定性の高さからフッ素及びカーボンからなる構造であることが好ましい。しかし、疎水性被膜が十分な疎水性及び化学的安定性を有するならばこのような構造に限られるものではない。
【0042】
<高分子電解質>
高分子電解質22としては、プロトン伝導性を有する物質を用いる。プロトン伝導性を有する物質としては、例えば、フッ素系高分子電解質、炭化水素系高分子電解質が挙げられる。フッ素系高分子電解質としては、例えば、デュポン社製Nafion(登録商標)に代表されるテトラフルオロエチレン骨格を有するものが挙げられる。炭化水素系高分子電解質としては、例えば、スルホン化ポリエーテルケトン、スルホン化ポリエーテルスルホン、スルホン化ポリエーテルエーテルスルホン、スルホン化ポリスルフィド、スルホン化ポリフェニレンが挙げられる。なお、第1電極触媒層20を構成する高分子電解質22は、上記例の一種類のみであってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0043】
高分子電解質22は、プロトン供与性基を有していてよい。プロトン供与性基としては、例えば、スルホン酸基が挙げられる。高分子電解質22おいて、プロトン供与性基1モルあたりの乾燥重量(当量重量EW)は、600g/mol以上1200以下g/molの範囲内に含まれることが好ましく、700g/mol以上1000g/mol以下の範囲内に含まれることがより好ましい。当量重量EWが600g/mol以上であることによって、フラッディングによる発電性能の低下が抑えられる傾向にある。当量重量EWが1200g/mol以下であることによって、プロトン伝導性の低下が抑えられるから、電極触媒層を備える燃料電池において発電性能の低下が抑えられる傾向にある。乾燥重量は、高分子電解質22を100℃で1日以上減圧乾燥させた後に測定される重量である。
【0044】
第1電極触媒層20における高分子電解質の含有量は、例えば、第1電極触媒層20における担体21bの含有量を100質量部としたとき、40質量部以上140質量部以下であることが好ましい。高分子電解質の含有量を40質量部以上とすることにより、プロトンの伝導経路が欠損することによるプロトン伝導性の低下を抑制することができる。その結果、第1電極触媒層20におけるプロトン伝導性及び電子伝導性のバランスを確保することが容易になる。高分子電解質の含有量を140質量部以下とすることにより、触媒担持粒子21の触媒21aを好適に露出させることができる。その結果、第1電極触媒層20における触媒活性が向上する。
【0045】
<繊維状物質>
繊維状物質23としては、触媒21a及び高分子電解質22におかされないものがよく、親水性炭素繊維及び高分子ポリマー繊維であることが好ましい。繊維状物質23により、電極触媒層にクラックが生じ難くなり、電極触媒層の耐久性は高くなる。親水性炭素繊維としては、例えば、親水性を付与されたVGCF(Vapor Grown Carbon Fiber)及びCNT(Carbon Nano Tube)が挙げられる。
【0046】
繊維状物質23は、その材料の分子構造中にルイス酸性又はルイス塩基性の官能基を含んでよい。これにより、高分子電解質22が繊維状物質23の周辺に存在し易くなる。ルイス酸性の官能基を有する繊維状物質23としては、親水性炭素繊維並びにヒドロキシル基、カルボニル基、スルホン酸基及び亜リン酸基を有する高分子ポリマー繊維が挙げられる。ルイス塩基性の官能基を有する繊維状物質23としてはイミド構造又はアゾール構造などを有する高分子ポリマー繊維などが挙げられる。繊維状物質23中のルイス酸性の官能基に対しては、高分子電解質22中に含まれるスルホニル基などのプロトン伝導部位が水素結合することで、繊維状物質23の周辺に高分子電解質22が存在し易くなる。一方、繊維状物質23中に塩基性官能基がある場合、高分子電解質22中に含まれるスルホニル基などの酸性のプロトン伝導部位が、酸塩基で結合することで繊維状物質23の周辺に高分子電解質22が存在し易くなる。水素結合に比べ、酸塩基の結合の方が結合力は強いため、繊維状物質23はルイス塩基性の官能基を含んでいることが好ましい。これらの中でも、繊維状物質23は、アゾール構造を有することが好適である。アゾール構造とは、窒素を1つ以上含む複素5員環構造のことであり、例えば、イミダゾール構造、オキサゾール構造である。窒素原子を含む物質は、ベンゾイミダゾール構造、ベンゾオキサゾール構造などのベンゾアゾール構造を有することが好適である。窒素原子を含む物質の具体例としては、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンゾオキサゾールなどの高分子が挙げられる。
【0047】
繊維状物質23の形状は特に限定されるものではなく、例えば、中空構造であってもよいし、中実構造であってもよい。なお、第1電極触媒層20を構成する繊維状物質23は、上記例の一種類のみであってもよいし、二種類以上の組み合わせであってもよい。
【0048】
第1電極触媒層20の断面の特定領域のエネルギー分散型X線分光法により得られる、炭素、窒素、酸素、フッ素、硫黄及び白金元素の合計原子数に占めるフッ素の原子数の比が0.2at%以上である。フッ素の原子数の比がこのような範囲にあることで、第1電極触媒層20内のプロトン伝導経路が適切に構築される。これにより、第1電極触媒層20は、低電流密度領域から高電流密度領域にかけて初期発電性能に優れたものとなる。フッ素原子の比は、0.3at%以上であることが好ましく、0.4at%以上であることがより好ましい。フッ素原子の比は、1at%以下であってよい。
【0049】
上記の特定領域は、繊維状物質23を50面積%以上含み、かつ、触媒担持粒子21を含まない領域である。図4は、第1電極触媒層の断面の一例を示す模式図である。第1電極触媒層の断面は、触媒担持粒子21を含む領域R1と、触媒担持粒子21を含まない領域R2とからなる。領域R2は、繊維状物質23と、繊維状物質23を含まない領域nとからなる。図4では、上記の特定領域(観察エリア)は、Aで示される。領域の形状(観察エリア)は、矩形(正方形を含む)であることができ、例えば150nm×150nmの正方形である。特定領域において繊維状物質23が面積の100%を占めていてもよい。当該特定領域は断面において1つあればよい。
【0050】
第1電極触媒層20の断面を露出させる方法としては、例えば、イオンミリング及びウルトラミクロトームなどの公知の方法を用いることができる。断面を露出させる加工を行う際には、高分子電解質膜11や第1電極触媒層20を構成する高分子電解質22へのダメージを軽減するため、第1電極触媒層20を冷却しながら加工を行うクライオイオンミリングを用いることが特に好ましい。
【0051】
特定領域の元素の組成比は、例えば、エネルギー分散型X線分光装置が搭載された透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)を用いて元素マッピングを行うことで計測することができる。EDXにおけるX線の加速電圧は200kVとすることが好適である。このような加速電圧により、特定領域においてnm程度の厚みまで電子線を透過させることができ、繊維状物質23及びその周囲の元素の情報が得られる。
【0052】
高分子電解質22は、繊維状物質23の表面の少なくとも一部を被覆していてよい。それにより、得られる膜電極接合体は、耐久性が向上し、かつ、低加湿条件でも高い発電特性を示す傾向にある。高分子電解質22が繊維状物質23の表面の少なくとも一部を被覆していることは、以下の方法により確認できる。すなわち、第1電極触媒層20の断面の特定領域について、エネルギー分散型X線分光装置が搭載された透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)、又はエネルギー分散型X線分光装置が搭載された走査透過型電子顕微鏡(STEM-EDX)を用いて元素マッピングを行う。測定対象の元素としては、フッ素原子及び繊維状物質23に含まれる原子のうち少なくとも一種とする。マッピング結果について、繊維状物質23に含まれる原子が確認されない領域と、繊維状物質23に含まれる原子が確認されない領域との境界を繊維状物質の表面とする。当該繊維状物質の表面から10nm以内の範囲にフッ素が確認された場合には、繊維状物質23の表面の少なくとも一部を被覆していると判断する。
【0053】
繊維状物質23を被覆している高分子電解質22の厚さは、繊維状物質23の表面から最も遠い位置にて検出されるフッ素から繊維状物質23の表面までの距離であってよい。繊維状物質23を被覆している高分子電解質22の厚さは、3nm以上30nm以下であることが好ましく、10nm以上30nm以下であることがより好ましい。被覆層の厚さがこの範囲であることで繊維状物質23上をプロトンが移動出来るようになる。
【0054】
繊維状物質23は、高分子電解質22を吸着する性能を有していてよい。高分子電解質22が繊維状物質23に吸着されていることで、クラックの発生を抑制するなど、高い機械特性で耐久性の改善が得られ、かつ、高分子電解質22によるプロトン伝導パスが形成され、高い発電性能が得られる。高分子電解質22が繊維状物質23に吸着されていることは、エネルギー分散型X線分光法が搭載された走査透過型電子顕微鏡(STEM-EDX)により確認できる。
【0055】
繊維状物質23の高分子電解質22に対する吸着能は、機械特性が向上することから、10mg/g以上であることが好ましく、15mg/g以上であることがより好ましく、30mg/g以下であってよい。繊維状物質23の高分子電解質22に対する吸着能は、以下の方法により測定することができる。すなわち、所定濃度の高分子電解質22を分散させた分散液に繊維状物質23を接触させる。分散液から繊維状物質23を取り出し、分散液を所定のフィルター(例えば口径0.3~0.5μm)でろ過する。ろ液に含まれる高分子電解質の濃度を測定する。当該濃度から、繊維状物質1gあたりに吸着されている高分子電解質の量を算出する。
【0056】
繊維状物質23の平均繊維径は、10nm以上500nm以下の範囲内に含まれることが好ましく、10nm以上300nm以下の範囲内に含まれることがより好ましい。繊維径がこの範囲に含まれることにより、第1電極触媒層20の内部において触媒21aを近接させることができ、第1電極触媒層20を備える燃料電池の高出力化が可能である。繊維状物質23の平均繊維径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により測定できる。
【0057】
繊維状物質23の平均繊維長は0.7μm以上40μm以下の範囲内に含まれることが好ましく、2μm以上30μm以下の範囲内に含まれることがより好ましい。平均繊維長がこの範囲に含まれることにより、第1電極触媒層20の強度が高まりクラックの発生を抑制することができる傾向にある。その結果、第1電極触媒層20は、物理的な衝撃に対する耐久性が向上する傾向にある。また、平均繊維長がこの範囲に含まれることにより、第1電極触媒層20内に形成される空孔の数が増加し、燃料電池の高出力化が可能となる傾向にある。繊維状物質23の平均繊維長は、SEM観察により測定できる。
【0058】
また、燃料電池において、電池反応の結果、電極触媒層内に生成される生成水の量は、化学反応の量に比例する。そのため、高電流密度で発電した場合、生成水の量は増大する。この生成水が十分に電極触媒層外に排水されないと、電極触媒層に滞留した生成水がガスの拡散経路を塞ぐ場合がある。この場合、反応ガスが活性点に到達できず発電性能が著しく低下する現象であるフラッディング(flooding)が生じる。繊維状物質23を第1電極触媒層20の構成材料とすることで、第1電極触媒層20の中に適度な空間が確保され、上記生成水の排水を促進できる一面も備える。
【0059】
第1電極触媒層20における繊維状物質23の含有量は、第1電極触媒層20における担体21bの含有量を100質量部としたとき、5質量部以上20質量部以下が好ましく、5質量部以上10質量部以下がより好ましい。
【0060】
繊維状物質23の含有量を5質量部以上とすることにより、繊維状物質23同士のネットワークが形成され、電極触媒層が形成しやすくなる。これにより、電極触媒層内におけるプロトンの伝導経路の構築、電子の伝導経路の構築及び電極触媒層の構造的強化を十分に行うことができる。その結果、燃料電池の発電性能が向上する。繊維状物質23の含有量を20質量部以下とすることにより、第1電極触媒層20の厚みが増大することによる抵抗増加を抑制できる。
【0061】
第1電極触媒層20の密度は、1000mg/cm以上5000mg/cm以下の範囲内に含まれることが好ましく、1500mg/cm以上4000mg/cm以下の範囲内に含まれることがより好ましい。第1電極触媒層20の密度が1000mg/cm以上であることによって、単位体積当たりの触媒量が少なくなることが抑えられるから、燃料電池の出力が低下することが抑えられる。また、第1電極触媒層20の密度が1000mg/cm以上であることによって、高分子電解質22及び繊維状物質23の距離が大きくなることが抑えられ、電極触媒層12が崩れにくくなる傾向にある。その結果、第1電極触媒層20の耐久性が向上する傾向にある。密度が5000mg/cm以下であることによって、電極触媒層12の内部構造が密になりすぎず、排水性及びガス拡散性の低下が抑制される傾向にある。その結果、第1電極触媒層20は、高出力時であっても出力の低下が抑制できる傾向にある。また、密度が5000mg/cm以下であると、第1電極触媒層20の結合強度が低下することを抑制できる傾向にある。
【0062】
(第2電極触媒層)
第2電極触媒層としては、膜電極接合体に適用される公知の電極触媒層を用いることができる。第2電極触媒層としては、例えば、親水性炭素繊維、高分子ポリマー繊維を含まない点において第1電極触媒層20と相違し、その他の構成は、第1電極触媒層20と同様である電極触媒層が挙げられる。
【0063】
なお、第1電極触媒層及び第2電極触媒層の構成成分に用いられる上記の材料に関して、カソード側電極触媒層12Cに用いられる場合の材料と、アノード側電極触媒層12Aに用いられる場合の材料は、同一であってもよいし、少なくとも一部が異なっていてもよい。
【0064】
カソード側電極触媒層12Cの平均厚さT1に対するアノード側電極触媒層12Aの平均厚さT2の比率(T2/T1)は、1.0倍以上2.0倍以下であることが好ましい。T2/T1が1.0倍以上であることで、カソード側電極触媒層12Cよりも触媒層厚みが大きくなり、保持出来る水の体積が多くなる。その場合、カソード側電極触媒層12Cで生成した水の、アノード側電極触媒層12Aへの拡散が促進され、カソード側電極触媒層12Cにおけるガス拡散抵抗は減少することがある。これにより、燃料電池の出力が向上する傾向がある。一方、T2/T1が2.0倍以下であることで、カソード側電極触媒層12Cの厚みが小さくなり、膜電極接合体10の機械的強度が小さくなることがある。このことにより、高分子電解質膜11のカソード側より破膜し、燃料電池が作動しなくなることがある。
【0065】
[固体高分子形燃料電池]
次に、膜電極接合体10を備える固体高分子形燃料電池の構成を説明する。以下では、固体高分子形燃料電池の一例として、単セルの固体高分子形燃料電池について説明する。固体高分子形燃料電池は、単セルの構成に限定されるものではなく、複数の単セルを備え、かつ複数の単セルが積層された構成であってもよい。
【0066】
図5に示すように、固体高分子形燃料電池30は、膜電極接合体10と、一対のガス拡散層31a、31bと、一対のセパレーター32a、32bとを備える。
ガス拡散層31a、31bは、反応ガスを均一に拡散するための層である。ガス拡散層31aは、膜電極接合体10のカソード側電極触媒層12Cと対向するように配置される。ガス拡散層31bは、膜電極接合体10のアノード側電極触媒層12Aと対向するように配置される。一対のガス拡散層31a、31bは、膜電極接合体10の厚さ方向において膜電極接合体10を挟んでいる。また、カソード側電極触媒層12C及びガス拡散層31aは、カソードである空気極を形成する。アノード側電極触媒層12A及びガス拡散層31bは、アノードである燃料極を形成する。
【0067】
ガス拡散層31a、31bは、電子伝導性及びガス拡散性を有する材料により構成される。ガス拡散層31a、31bを構成する材料としては、例えば、ポーラスカーボン材を用いることができる。ポーラスカーボン材としては、例えば、カーボンクロス、カーボンペーパー及び不織布が挙げられる。
【0068】
セパレーター32a、32bは、電子を外部回路に取り出す役割を担う部材であり、ガス拡散層31bの外側に配置される。一対のセパレーター32a、32bは、膜電極接合体10の厚さ方向において、膜電極接合体10及び一対のガス拡散層31a、31bを挟んでいる。
【0069】
セパレーター32a、32bは、ガス流路33a、33b及び冷却水流路34a、34bを有している。ガス流路33a、33bは、反応ガスを流通させるための流路であり、セパレーター32a、32bにおけるガス拡散層31a、31bに対向する面に形成されている。冷却水流路34a、34bは、冷却水を流通させるための流路であり、セパレーター32a、32bにおけるガス拡散層31a、31bに対向する面と反対側の面に形成されている。
【0070】
セパレーター32a、32bは、導電性及びガスに対する不透過性を有する材料によって形成される。セパレーター32a、32bを構成する材料としては、例えば、カーボン材料、金属材料が挙げられる。また、セパレーター32a、32bを構成する材料は、ある程度強度を持ち成形性の良いものであることが好ましい。
【0071】
空気極を構成するガス拡散層31aに対向するセパレーター32aのガス流路33aには、反応ガスとしての酸化剤ガスが供給される。酸化剤ガスは、例えば、空気、酸素ガスである。燃料極を構成するガス拡散層31bに対向するセパレーター32bのガス流路33bには、反応ガスとしての燃料ガスが供給される。燃料ガスは、例えば、水素ガスである。
【0072】
固体高分子形燃料電池30は、燃料極に水素を含む燃料ガスが供給され、空気極に酸素を含む酸化剤ガスが供給されることにより、燃料極及び空気極において下記の式1及び式2に示す電極反応が生じ、発電する。また、固体高分子形燃料電池は、ガス供給装置や冷却装置などの付随装置と組み合わせて用いられる。
【0073】
燃料極:H→2H+2e-・・・(式1)
空気極:1/2O+2H+2e→HO・・・(式2)
[膜電極接合体の製造方法]
以下、膜電極接合体10の製造方法を説明する。
【0074】
膜電極接合体10の製造方法は、触媒インクを調製する調製工程と、触媒インクを用いて電極触媒層を形成する形成工程とを有する。
(調製工程)
調製工程では、電極触媒層を構成する各成分を、分散媒を用いて混合することにより触媒インクを調製する。
【0075】
分散媒は、電極触媒層を構成する各成分を分散できるものであれば特に限定されない。分散媒としては、例えば、水、アルコール、ケトン類又はその混合物が挙げられる。具体的には、水や、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコールなどのアルコール類や、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイゾブチルケトン、メチルアミルケトン、ペンタノン、へプタノン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、アセトニルアセトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトンなどのケトン類を適宜使用することができる。
【0076】
触媒インクには、電極触媒層を構成する各成分を良好に分散させるための分散剤が含まれていてもよい。分散剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤が挙げられる。
【0077】
アニオン界面活性剤としては、例えば、アルキルエーテルカルボン酸塩、エーテルカルボン酸塩、アルカノイルザルコシン、アルカノイルグルタミン酸塩、アシルグルタメート、オレイン酸・N-メチルタウリン、オレイン酸カリウム・ジエタノールアミン塩、アルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート・トリエタノールアミン塩、特殊変成ポリエーテルエステル酸のアミン塩、高級脂肪酸誘導体のアミン塩、特殊変成ポリエステル酸のアミン塩、高分子量ポリエーテルエステル酸のアミン塩、特殊変成リン酸エステルのアミン塩、高分子量ポリエステル酸アミドアミン塩、特殊脂肪酸誘導体のアミドアミン塩、高級脂肪酸のアルキルアミン塩、高分子量ポリカルボン酸のアミドアミン塩、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムなどのカルボン酸型界面活性剤、ジアルキルスルホサクシネート、スルホコハク酸ジアルキル塩、1,2-ビス(アルコキシカルボニル)-1-エタンスルホン酸塩、アルキルスルホネート、アルキルスルホン酸塩、パラフィンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホネート、直鎖アルキルベンゼンスルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホネート、ポリナフチルメタンスルホン酸塩、ナフタレンスルホネート-ホルマリン縮合物、アルキルナフタレンスルホネート、アルカノイルメチルタウリド、ラウリル硫酸エステルナトリウム塩、セチル硫酸エステルナトリウム塩、ステアリル硫酸エステルナトリウム塩、オレイル硫酸エステルナトリウム塩、ラウリルエーテル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩などのスルホン酸型界面活性剤、アルキル硫酸エステル塩、硫酸アルキル塩、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート、アルキルポリエトキシ硫酸塩、ポリグリコールエーテルサルフェート、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、硫酸化油、高度硫酸化油などの硫酸エステル型界面活性剤、リン酸(モノ又はジ)アルキル塩、(モノ又はジ)アルキルホスフェート、(モノ又はジ)アルキルリン酸エステル塩、リン酸アルキルポリオキシエチレン塩、アルキルエーテルホスフェート、アルキルポリエトキシ・リン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、リン酸アルキルフェニル・ポリオキシエチレン塩、アルキルフェニルエーテル・ホスフェート、アルキルフェニル・ポリエトキシ・リン酸塩、ポリオキシエチレン・アルキルフェニル・エーテルホスフェート、高級アルコールリン酸モノエステルジナトリウム塩、高級アルコールリン酸ジエステルジナトリウム塩、ジアルキルジチオリン酸亜鉛などのリン酸エステル型界面活性剤が挙げられる。
【0078】
カチオン界面活性剤としては、例えば、ベンジルジメチル{2-[2-(P-1,1,3,3-テトラメチルブチルフェノオキシ)エトキシ]エチル}アンモニウムクロライド、オクタデシルアミン酢酸塩、テトラデシルアミン酢酸塩、オクタデシルトリメチルアンモニウムクロライド、牛脂トリメチルアンモニウムクロライド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシトリメチルアンモニウムクロライド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロライド、ベヘニルトリメチルアンモニウムクロライド、ヤシジメチルベンジルアンモニウムクロライド、テトラデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、オクタデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド、ジオレイルジメチルアンモニウムクロライド、1-ヒドロキシエチル-2-牛脂イミダゾリン4級塩、2-ヘプタデセニルーヒドロキシエチルイミダゾリン、ステアラミドエチルジエチルアミン酢酸塩、ステアラミドエチルジエチルアミン塩酸塩、トリエタノールアミンモノステアレートギ酸塩、アルキルピリジウム塩、高級アルキルアミンエチレンオキサイド付加物、ポリアクリルアミドアミン塩、変成ポリアクリルアミドアミン塩、パーフルオロアルキル第4級アンモニウムヨウ化物が挙げられる。
【0079】
両性界面活性剤としては、例えば、ジメチルヤシベタイン、ジメチルラウリルベタイン、ラウリルアミノエチルグリシンナトリウム、ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム、ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン、アミドベタイン、イミダゾリニウムベタイン、レシチン、3-[ω-フルオロアルカノイル-N-エチルアミノ]-1-プロパンスルホン酸ナトリウム、N-[3-(パーフルオロオクタンスルホンアミド)プロピル]-N,N-ジメチル-N-カルボキシメチレンアンモニウムベタインが挙げられる。
【0080】
非イオン界面活性剤としては、例えば、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、ヤシ脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:2型)、牛脂肪酸ジエタノールアミド(1:1型)、オレイン酸ジエタノールアミド(1:1型)、ヒドロキシエチルラウリルアミン、ポリエチレングリコールラウリルアミン、ポリエチレングリコールヤシアミン、ポリエチレングリコールステアリルアミン、ポリエチレングリコール牛脂アミン、ポリエチレングリコール牛脂プロピレンジアミン、ポリエチレングリコールジオレイルアミン、ジメチルラウリルアミンオキサイド、ジメチルステアリルアミンオキサイド、ジヒドロキシエチルラウリルアミンオキサイド、パーフルオロアルキルアミンオキサイド、ポリビニルピロリドン、高級アルコールエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールエチレンオキサイド付加物、脂肪酸エチレンオキサイド付加物、ポリプロピレングリコールエチレンオキサイド付加物、グリセリンの脂肪酸エステル、ペンタエリスリットの脂肪酸エステル、ソルビットの脂肪酸エステル、ソルビタンの脂肪酸エステル、砂糖の脂肪酸エステルが挙げられる。
【0081】
上記の界面活性剤の中でも、アルキルベンゼンスルホン酸、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸、α-オレフィンスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩などのスルホン酸型の界面活性剤は、カーボンの分散効果に優れる点、分散剤の残存による触媒性能の変化が生じ難い点から、分散剤として好適に用いることができる。
【0082】
調製工程における分散方法は、触媒インクに含まれる各成分を分散できるものであれば特に限定されるものではなく、公知の分散方法を用いることができる。公知の分散方法としては、例えば、遊星型ボールミル、ビーズミル、又は超音波ホモジナイザーを用いた方法が挙げられる。また、触媒インクにおける各成分及び分散媒の配合比率は、塗工性や要求される発電性能に応じて適宜、選択することができる。
【0083】
(形成工程)
形成工程では、調製工程にて得られた触媒インクを基材に塗布した後、分散媒を揮発させる乾燥処理を行うことにより、塗膜状の電極触媒層を形成する。基材としては、高分子電解質膜11、転写用基材、又はガス拡散層31a、31bを用いることができる。
【0084】
基材に触媒インクを塗布する際の塗布方法は特に限定されるものではなく、スラリー状の混合物を基材上に均一な膜厚で塗布する場合に適用される公知の塗布方法を用いることができる。公知の塗布方法としては、例えば、ダイコート、バーコート、スプレーコート、ディッピング、スクリーン印刷が挙げられる。これらの中でも、比較的塗工できる触媒インクの粘度範囲が広い点、及び高い膜厚均一性で塗布することができる点から、ダイコート法を用いることが好ましい。
【0085】
乾燥処理に用いる乾燥方法は、分散媒を揮発させることができる方法であれば特に限定されるものではなく、オーブン、ホットプレート、遠赤外線を用いた方法などの公知の乾燥方法を用いることができる。また、乾燥処理における乾燥温度及び乾燥時間は、電極触媒層及び基材に用いた材料に応じて適宜選択することができる。
【0086】
また、基材として転写用基材を用いた場合には、転写用基材に形成された電極触媒層を、転写用基材から高分子電解質膜11に転写する処理を行う。その際の転写方法としては、例えば、熱圧着による転写方法を用いることができる。
【0087】
転写用基材は、形成された電極触媒層を離型させて、高分子電解質膜に転写できるものであれば特に限定されない。転写用基材としては、例えば、フッ素系樹脂フィルムを用いることができる。フッ素系樹脂フィルムは、転写性に優れている。フッ素系樹脂フィルムを構成するフッ素系樹脂としては、例えば、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロパーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が挙げられる。
【0088】
転写用基材として、高分子電解質膜11又は転写用基材を用いた場合には、高分子電解質膜11の両面に電極触媒層を設けることにより膜電極接合体10が得られる。そして、得られた膜電極接合体10と、ガス拡散層31a、31bと、セパレーター32a、32bとを積層することにより、固体高分子形燃料電池30が得られる。
【0089】
また、転写用基材として、ガス拡散層31a、31bを用いた場合には、高分子電解質膜11と、電極触媒層が形成されたガス拡散層31a、31bとを積層することにより、ガス拡散層31a、31bを有する膜電極接合体10が得られる。そして、得られた膜電極接合体10にセパレーター32a、32bを積層することにより、固体高分子形燃料電池30が得られる。
【0090】
なお、カソード側電極触媒層12Cを製造する際の電極触媒層の製造方法と、アノード側電極触媒層12Aを製造する際の電極触媒層の製造方法は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【実施例0091】
次に、実施例及び比較例を挙げて上記実施形態を更に具体的に説明する。なお、本発明は、実施例欄に記載の構成に限定されるものではない。
【0092】
[膜電極接合体の製造]
(実施例A1)
触媒担持粒子と、高分子電解質と、繊維状物質と、分散媒とを混合した混合液に対して分散処理を実施することにより触媒インクを調製した。高分子電解質の配合量は、触媒担持粒子に含まれる担体の配合量100質量部に対して70質量部となる量とした。繊維状物質の配合量は、触媒担持粒子に含まれる担体の配合量100質量部に対して5質量部となる量とした。分散媒の配合量は、触媒インクの固形分濃度が10質量%となる量とした。分散処理は、直径3mmのジルコニアボール及び遊星型ボールミルを用いて600rpmの回転速度で60分間、実施した。触媒インクに用いた各成分の詳細は以下のとおりである。
【0093】
触媒担持粒子:白金担持カーボン触媒(担持密度50質量%)
高分子電解質:フッ素系高分子電解質(和光純薬工業社製、ナフィオン(登録商標)分散液、プロトン供与性基を含有、プロトン供与性基1モルあたりの乾燥重量:1100g/mol)
繊維状物質:アゾール構造含有高分子ポリマー繊維(平均繊維径300nm×平均繊維長10μm)
分散媒:水と1-プロパノールとの混合液(水の質量:1-プロパノールの質量=1:1)
【0094】
次に、ダイコーターを用いて、高分子電解質膜(Dupont社製ナフィオン(登録商標)211)の片面に対して、調製した触媒インクを塗布することにより、縦50mm×横50mmの四角形状の塗膜を形成した。触媒インクの塗布量は、白金担持量が0.3mg/cmとなる量とした。そして、80℃のオーブンを用いた乾燥処理を実施し、塗膜に含まれる分散媒を揮発させることにより、カソード側電極触媒層を形成した。
【0095】
次に、高分子電解質膜におけるカソード側電極触媒層が形成された面の反対の面に対して、調製した触媒インクを塗布することにより、縦50mm×横50mmの四角形状の塗膜を形成した。触媒インクの塗布量は、白金担持量が0.1mg/cmとなる量とした。そして、80℃のオーブンを用いた乾燥処理を実施し、塗膜に含まれる分散媒を揮発させてアノード側電極触媒層を形成することにより膜電極接合体を得た。
【0096】
(実施例A2)
触媒スラリーを調製する際に繊維状物質の配合量を、触媒担持粒子に含まれる担体の配合量100質量部に対して20質量部となる量とした点以外は、実施例A1と同様の方法によって膜電極接合体を得た。
【0097】
(比較例A1)
触媒スラリーを調製する際に繊維状物質の配合量を、触媒担持粒子に含まれる担体の配合量100質量部に対して30質量部となる量とした点以外は、実施例A1と同様の方法によって膜電極接合体を得た。
【0098】
(比較例A2)
繊維状物質の種類を変更した点以外は、実施例1と同様の方法によって膜電極接合体を得た。比較例A2で用いた繊維状物質の詳細は以下のとおりである。
【0099】
繊維状物質:親水化されていない炭素繊維(昭和電工社製VGCF-H(登録商標)、平均繊維長6μm、平均繊維径150nm)
【0100】
(比較例A3)
触媒スラリーを調製する際に繊維状物質の配合量を、触媒担持粒子に含まれる担体の配合量100質量部に対して20質量部となる量とした点以外は、比較例A2と同様の方法によって膜電極接合体を得た。
【0101】
(比較例A4)
触媒スラリーを調製する際に繊維状物質の配合量を、触媒担持粒子に含まれる担体の配合量100質量部に対して30質量部となる量とした点以外は、比較例A2と同様の方法によって電極接合体を得た。
【0102】
(実施例B1)
100mgの触媒担持粒子(白金担持カーボン、商品名:「TEC10E50E」、田中貴金属工業(株)製、白金量:50mg、カーボン量:50mg)と、5mgの繊維状物質(アゾール構造を含有する高分子ポリマー繊維、平均繊維径300nm×平均繊維長10μm)と、を容器に入れた。1.0gの水を容器に加えて混合し、更に、分散液(富士フィルム和光純薬工業(株)製)を容器に加えて撹拌した。当該分散液は、1.0gの1-プロパノール及び60mgの高分子電解質(Nafion(登録商標)、プロトン供与性基を含有、プロトン供与性基1モルあたりの乾燥重量:1100g/mol)を含む。これにより、触媒スラリーを得た。触媒スラリーを高分子電解質膜の両面にダイコーティングにより塗工し、乾燥させることで膜電極接合体を得た。
【0103】
(実施例B2)
触媒スラリーを調製する際に繊維状物質として親水性の炭素繊維(平均繊維径150nm×平均繊維長30μm)を用いたこと以外は、実施例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0104】
(実施例B3)
触媒スラリーを調製する際にアゾール構造含有高分子ポリマー繊維の配合量を15mgとしたこと以外は、実施例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0105】
(実施例B4)
触媒スラリーを調製する際にアゾール構造含有高分子ポリマー繊維の配合量を0.5mgとしたこと以外は、実施例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0106】
(実施例B5)
触媒スラリーを調製する際に分散液として、1.0gの1-プロパノール及び70mgの高分子電解質(Nafion(登録商標)、プロトン供与性基を含有、プロトン供与性基1モルあたりの乾燥重量:1300g/mol)が含まれている分散液を用いたこと以外は、実施例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0107】
(実施例B6)
触媒スラリーを調製する際に分散液として、1.0gの1-プロパノール及び30mgの高分子電解質(Nafion(登録商標)、プロトン供与性基を含有、プロトン供与性基1モルあたりの乾燥重量:500g/mol)が含まれている分散液を用いたこと以外は、実施例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0108】
(実施例B7)
繊維状物質の平均繊維径を100nmとし、平均繊維長を0.5μmとしたこと以外は、実施例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0109】
(実施例B8)
繊維状物質の平均繊維径を200nmとし、平均繊維長を50μmとしたこと以外は、実施例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0110】
(実施例B9)
繊維状物質の平均繊維径を5nmとし、平均繊維長を8μmとしたこと以外は、実施例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0111】
(実施例B10)
繊維状物質の平均繊維径を1000nmとし、平均繊維長30μmとしたこと以外は、実施例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0112】
(実施例B11)
分散液(富士フィルム和光純薬工業(株)製)及び1.0gの水を容器に加えて攪拌した。当該分散液は、5mgの繊維状物質(アゾール構造を含有する高分子ポリマー繊維、平均繊維径300nm×繊維長10μm)と、60mgの高分子電解質(Nafion(登録商標)、プロトン供与性基を含有、プロトン供与性基1モル当たりの乾燥重量:1100)とを含む。その後、100mgの触媒担持粒子(白金担持カーボン、商品名「TEC10E50E」、田中貴金属工業(株)製、白金量:50mg、カーボン量:50mg)と1.0gの1-プロパノールを容器に加えて撹拌した。これにより、触媒スラリーを得た。触媒スラリーを高分子電解質膜の両面にダイコーティングにより塗工し、乾燥させることで膜電極接合体を得た。
【0113】
(比較例B1)
繊維状物質として撥水性の炭素繊維を用いたこと以外は、実施例B2と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0114】
(比較例B2)
触媒スラリーを調製する際に繊維状物質を配合しなかったこと以外は、比較例B1と同じ方法で膜電極接合体を得た。
【0115】
(実施例C1)
触媒担持粒子と、高分子電解質と、繊維状物質と、分散媒とを混合した混合液に対して分散処理を実施することにより触媒インクを調製した。高分子電解質の配合量は、触媒担持粒子に含まれる担体の配合量100質量部に対して80質量部となる量とした。繊維状物質の配合量は、触媒担持粒子に含まれる担体の配合量100質量部に対して10質量部となる量とした。分散媒の配合量は、触媒インクの固形分濃度が12質量%となる量とした。分散処理には、ビーズミル分散機を使用した。触媒インクに用いた各成分の詳細は以下のとおりである。
【0116】
触媒担持粒子:白金担持カーボン触媒(商品名:「TEC10E50E」、田中貴金属工業社製)
高分子電解質:フッ素系高分子電解質(ナフィオン(登録商標)分散液、和光純薬工業社製)
繊維状物質:スルホン酸基付与した高分子ポリマー繊維、平均繊維径:300nm
分散媒:水と1-プロパノールとの混合液(水の質量:1-プロパノールの質量=1:1)
【0117】
調整した触媒インクを、高分子電解質膜(ナフィオン211(登録商標)、Dupont社製)の両表面にスリットダイコーターを用いて直接塗布し、乾燥させて電極触媒層を形成して、膜電極接合体を得た。
【0118】
(実施例C2)
繊維状物質として、高分子ポリマー繊維(スルホン酸基付与、平均繊維径:15nm)を用いた点以外は、実施例C1と同様の手順で膜電極接合体を得た。
【0119】
(実施例C3)
繊維状物質として、高分子ポリマー繊維(スルホン酸基付与、平均繊維径:0.8μm)を用いた点以外は、実施例C1と同様の手順で膜電極接合体を得た。
【0120】
(実施例4)
繊維状物質として、高分子ポリマー繊維(アミノ基付与、平均繊維径:300nm)を用いた点以外は、実施例C1と同様の手順で膜電極接合体を得た。
【0121】
(実施例C5)
繊維状物質として、高分子ポリマー繊維(ヒドロキシル基付与、平均繊維径:300nm)を用いた点以外は、実施例C1と同様の手順で膜電極接合体を得た。
【0122】
(比較例C1)
触媒スラリーを調製する際に繊維状物質を配合しなかった点以外は、実施例C1と同様の手順で膜電極接合体を得た。
【0123】
(比較例C2)
繊維状物質として高分子ポリマー繊維(ルイス酸性及びルイス塩基性の官能基なし、平均繊維径:300nm)を用いた点以外は、実施例C1と同様の手順で膜電極接合体を得た。
【0124】
(比較例C3)
繊維状物質として高分子ポリマー繊維(ルイス酸性及びルイス塩基性の官能基なし、平均繊維径:15nm)を用いた点以外は、実施例C1と同様の手順で膜電極接合体を得た。
【0125】
(比較例C4)
繊維状物質として高分子ポリマー繊維(ルイス酸性及びルイス塩基性の官能基なし、平均繊維径:0.8μm)を用いた点以外は、実施例C1と同様の手順で膜電極接合体を得た。
【0126】
[電極触媒層内の繊維状物質周辺の高分子電解質量の測定]
(実施例A1、A2、B1~B11、比較例A1~A4、B1、B2)
電極触媒層の特定領域のエネルギー分散型X線分光法により得られる、炭素、窒素、酸素、フッ素、硫黄、及び白金元素の合計原子数に占めるフッ素の原子数の比を測定した。具体的には、まず、電極触媒層を冷却しながら加工を行うクライオイオンミリングを用いて、電極触媒層の断面を得た。つづいて、エネルギー分散型X線分光法が搭載された透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)を用いて、断面の特定領域の元素マッピングを行い、各元素の元素比を得て、フッ素原子率を計算した。加速電圧は200kVとした。特定領域は150nm×150nmの範囲の大きさであり、繊維状物質が視野の面積の50%以上を占める範囲とした。
【0127】
[初期発電性能の評価]
(実施例A1、A2、B1~B11、C1~C5、比較例A1~A4、B1、C2~C4)
膜電極接合体について、膜電極接合体を挟持するように、ガス拡散層であるカーボンペーパーを貼りあわせてサンプルを作製した。各サンプルを、発電評価セル内に設置し、燃料電池測定装置を用いて電流電圧測定を行った。測定時のセル温度は、80℃に設定した。加湿条件は、アノード側相対湿度を90%RH、カソード側相対湿度を30%RHとした。また、燃料ガスとして水素を用い、酸化剤ガスとして空気を用いた。この際に、水素を水素利用率が80%となる流量で流すとともに、空気を酸素利用率が40%となる流量で流した。なお、背圧は50kPaとした。
【0128】
測定された各膜電極接合体の発電性能を表1~3に示す。なお、表1~3では、低電流密度での発電性能の指標として、電流密度が0.2A/cmの時の電圧が0.8V以上である場合を「A」で示し、同電圧が0.8V未満である場合を「B」で示している。同様に高電流密度での発電性能の指標として、電流密度が1.5A/cmのときの電圧が0.65V以上である場合を「A」で示し、同電圧が0.65V未満である場合を「B」で示している。
【0129】
[被覆状態の評価]
(実施例B1~B11、比較例B1)
電極触媒層の繊維状物質が、高分子電解質からなる被覆層により覆われているか否かを評価した。具体的には、まず、電極触媒層を冷却しながら加工を行うクライオイオンミリングを用いて、電極触媒層の断面を得た。つづいて、エネルギー分散型X線分光法が搭載された透過型電子顕微鏡(TEM-EDX)を用いて、断面の特定領域の元素マッピングを行った。測定対象の元素は、炭素、窒素、酸素、フッ素、硫黄及び白金元素とした。加速電圧は200kVとした。測定領域は150nm×150nmの範囲の大きさであり、繊維状物質が視野の面積の50%以上を占める範囲とした。維状物質表面から10nm以内の範囲にフッ素が検出された場合には、高分子電解質からなる被覆層により繊維状物質が覆われていると判断した。維状物質表面から10nm以内の範囲にフッ素が検出され無かった場合には、高分子電解質からなる被覆層により繊維状物質が覆われていないと判断した。また、維状物質表面から最も遠い位置にて検出されるフッ素から繊維状物質までの距離を被覆層の厚さとした。被覆層の有無とその厚さを下記の評価基準に沿って評価した。結果を表2に示した。
<評価基準>
D:被覆層を有しない。
C:被覆層を有し、被覆層の厚さが3nm未満である。
B:被覆層を有し、被覆層の厚さが3nm以上10nm未満である。
A:被覆層を有し、被覆層の厚さが10nm以上30nm以下である。
【0130】
[高分子電解質の吸着量の測定]
(実施例C1~C5、比較例C1~C4)
高分子電解質を分散させた分散液(高分子電解質の濃度:1質量%)に繊維状物質を接触させた。分散液から繊維状物質を取り出し、分散液をフィルター(口径:0.4μm)でろ過した。ろ液に含まれる高分子電解質の濃度を測定した。当該濃度から、繊維状物質1gあたりに吸着されている高分子電解質の量を算出した。結果を表3に示した。
【0131】
[クラック及び剥離の評価]
(実施例A1、A2、C1~C5、比較例A1~A4、C1~C4)
電極触媒層についてクラック及び剥離の有無を評価した。クラックの有無を確かめるために、電極触媒層の透過光量を測定した。測定範囲(20cm)における透過光により得られた画像を2値化し、不透過領域を示す黒画素数(B)と透過領域を示す白画素数(W)の比率(B/W)が、10000以上である場合には、クラックが無いと判断し、10000未満である場合にはクラックが有ると判断した。電極触媒層と高分子電解質膜との間の剥離は、SEM(走査型電子顕微鏡)により観察した。結果を表1及び3に示した。
【0132】
【表1】
【0133】
【表2】
【0134】
【表3】
【0135】
各実施例及び比較例の結果から、同量の繊維状物質の添加量であっても、繊維状物質周辺のフッ素原子を含む高分子電解質の量が低い場合には発電性能が得られないことが分かった。本発明者らは、各実施例で得られた膜電極接合体が、低電流密度から高電流密度にかけ初期発電性能に優れるメカニズムについて以下のように推測している。すなわち、電極触媒層の構造的強度を得るために電極触媒層内に3次元的にネットワークを構築した繊維状物質の周辺に高分子電解質が一部吸着する。それにより、プロトン伝導経路が3次元的に構築される。その結果、低電流密度から高電流密度にかけ初期発電性能の向上につながる。
【0136】
以上の説明により、本実施形態によって繊維状物質を含む電極触媒層内において、繊維状物質周辺にある一定以上の高分子電解質が存在することによって低電流密度領域から高電流密度領域にかけ初期発電性能を向上させることができることが示された。
【0137】
本開示の要旨は以下の[1]~[12]に存する。
[1]高分子電解質膜に接合する電極触媒層であって、
触媒と、
フッ素を含む高分子電解質と、
繊維状物質と、
を含み、
電極触媒層の断面の特定領域のエネルギー分散型X線分光法により得られる、炭素、窒素、酸素、フッ素、硫黄及び白金元素の合計原子数に占めるフッ素の原子数の比が0.2at%以上であり、特定領域は、繊維状物質を50面積%以上含み、かつ、触媒を含まない領域である、電極触媒層。
[2]繊維状物質は、アゾール構造を有している、[1]に記載の電極触媒層。
[3]触媒を担持し且つ当該触媒とともに触媒担持粒子を構成する担体を含み、
繊維状物質の含有量が、担体の含有量を100質量部としたとき、5質量部以上20質量部以下であり、
特定領域は、担体を含まない領域である、[1]又は[2]に記載の電極触媒層。
[4]高分子電解質が、繊維状物質の表面の少なくとも一部を被覆している、[1]又は[2]に記載の電極触媒層。
[5]繊維状物質を被覆している高分子電解質の厚さが、3nm以上30nm以下である、[4]に記載の電極触媒層。
[6]高分子電解質がプロトン供与性基を含み、
高分子電解質のプロトン供与性基1モルあたりの乾燥重量が、600g/mol以上1200g/mol以下である、[1]又は[2]に記載の電極触媒層。
[7]繊維状物質の平均繊維長が、0.7μm以上40μm以下である、[1]又は[2]に記載の電極触媒層。
[8]繊維状物質の平均繊維径が、10nm以上500nm以下である、[1]又は[2]に記載の電極触媒層。
[9]繊維状物質が高分子電解質を吸着する性能を有する、[1]又は[2]に記載の電極触媒層。
[10]繊維状物質の高分子電解質に対する吸着能が10mg/g以上である、[9]に記載の電極触媒層。
[11]高分子電解質膜と、
[1]又は[2]に記載の電極触媒層と、
を備え、
電極触媒層が、高分子電解質膜に接合されている、膜電極接合体。
[12][11]に記載の膜電極接合体と、
膜電極接合体の厚さ方向に膜電極接合体を挟む一対のガス拡散層と、
膜電極接合体の厚さ方向に膜電極接合体及び一対のガス拡散層を挟む一対のセパレーターと、
を備える、固体高分子形燃料電池。
【符号の説明】
【0138】
10…膜電極接合体、11…高分子電解質膜、12C…カソード側電極触媒層、12A…アノード側電極触媒層、20…第1電極触媒層、21…触媒担持粒子、21a…触媒、21b…担体、22…高分子電解質、23…繊維状物質、30…固体高分子形燃料電池、31a,31b…ガス拡散層、32a,32b…セパレーター、33a,33b…ガス流路、34a,34b…冷却水流路。
図1
図2
図3
図4
図5