(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160200
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】バイオマス由来ムコン酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12P 7/44 20060101AFI20231026BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20231026BHJP
C12N 15/31 20060101ALN20231026BHJP
C12N 15/52 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
C12P7/44 ZNA
C12N1/21
C12N15/31
C12N15/52 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070375
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】栗原 宏征
(72)【発明者】
【氏名】鶴谷 篤生
(72)【発明者】
【氏名】園木 和典
(72)【発明者】
【氏名】樋口 雄大
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
【Fターム(参考)】
4B064AD15
4B064BJ04
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064DA16
4B065AA01Y
4B065AA29Y
4B065AA41X
4B065AA44Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065CA11
4B065CA54
4B065CA55
(57)【要約】
【課題】バイオマス原料からムコン酸を高効率に製造する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】以下の工程(1)および(2)を含む、ムコン酸の製造方法。
工程(1):リグニン含有バイオマスをアルカリ処理し、クマル酸、フェルラ酸および酢酸を含む抽出液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた抽出液にCatB酵素およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌を作用させ、前記細菌により前記酢酸を生育炭素源として代謝させるとともに、前記細菌により前記クマル酸および前記フェルラ酸をムコン酸に変換させる工程
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)および(2)を含む、ムコン酸の製造方法。
工程(1):リグニン含有バイオマスをアルカリ処理し、クマル酸、フェルラ酸および酢酸を含む抽出液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた前記抽出液にCatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌を作用させ、前記細菌により前記酢酸を生育炭素源として代謝させるとともに、前記細菌により前記クマル酸および前記フェルラ酸をムコン酸に変換させる工程
【請求項2】
前記リグニン含有バイオマスがバガスである、請求項1に記載のムコン酸の製造方法。
【請求項3】
工程(1)で得られた前記抽出液が酢酸を2g/L以上含む、請求項1に記載のムコン酸の製造方法。
【請求項4】
工程(1)で得られた前記抽出液が糖を実質的に含まない、請求項1に記載のムコン酸の製造方法。
【請求項5】
前記シュードモナス属細菌が、AroY酵素発現、KpdB酵素発現、CatA酵素発現、VanAおよびB酵素発現ならびにPobA酵素発現から選択される1種または2種以上の酵素発現が強化されたシュードモナス属細菌である、請求項1に記載のムコン酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマスを原料とするムコン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ムコン酸は、分子内に二重結合を含む炭素数6個のジカルボン酸であり、化学変換により、アジピン酸やテレフタル酸などのバイオモノマーへの変換が可能である。また、ムコン酸誘導体は、界面活性剤、難燃剤、UV光安定化剤、熱効果性プラ、コーティング剤としても使用される。
【0003】
ムコン酸は、バイオマス由来の糖や芳香族化合物から微生物による変換にて製造できることが知られている。例えば、非特許文献1では、シュードモナス・プチダ(Pseudomonasu putida)のpcaHG遺伝子などを破壊し、p-クマル酸によるムコン酸を製造したことが記載されている(非特許文献1)。
【0004】
一方、バイオマスからフェルラ酸、クマル酸などのヒドロキシ桂皮酸類を製造する方法が知られており、原料としてサトウキビ絞り粕であるバガスが利用できることが開示されている(特許文献1)。
【0005】
また、コーンストーバーをアルカリ抽出することで、フェルラ酸およびクマル酸を含む抽出液を調製し、この抽出液にpcaHG遺伝子およびcatRBC遺伝子が破壊されたシュードモナス・プチダ(Pseudomonasu putida)を投入し、フェルラ酸およびクマル酸からムコン酸を製造する方法が開示されている(非特許文献2)。但し、微生物の増殖や培養には、副原料としてグルコースなどの炭素源をアルカリ抽出液以外の成分として添加する必要があった
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】C.W.Johnson et al.Metabolic Engineering Communications, 3, 111-119,2016
【非特許文献2】Davinia Salvachua et al.Green Chemistry 2021),5007-5019,2018
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、バイオマス原料からムコン酸を高効率に製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、バイオマス原料であるリグニン含有バイオマスのアルカリ抽出液に含まれるヒドロキシ桂皮酸類に着目して鋭意検討を重ねた結果、CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌は、リグニン含有バイオマスのアルカリ抽出液に含まれる酢酸を生育炭素源として代謝して生育しながら、同じくリグニン含有バイオマスのアルカリ抽出液に含まれるクマル酸およびフェルラ酸をムコン酸(例えばcis,cis-ムコン酸)に変換することを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は以下の[1]~[5]を包含する。
[1]以下の工程(1)および(2)を含む、ムコン酸の製造方法。
工程(1):リグニン含有バイオマスをアルカリ処理し、クマル酸、フェルラ酸および酢酸を含む抽出液を得る工程
工程(2):工程(1)で得られた前記抽出液にCatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌を作用させ、前記細菌により前記酢酸を生育炭素源として代謝させるとともに、前記細菌により前記クマル酸および前記フェルラ酸をムコン酸に変換させる工程
[2]前記リグニン含有バイオマスがバガスである、[1]に記載のムコン酸の製造方法。
[3]工程(1)で得られた前記抽出液が酢酸を2g/L以上含む、[1]または[2]に記載のムコン酸の製造方法。
[4]工程(1)で得られた前記抽出液が糖を実質的に含まない、[1]~[3]のいずれかに記載のムコン酸の製造方法。
[5]前記シュードモナス属細菌が、AroY酵素発現、KpdB酵素発現、CatA酵素発現、VanAおよびB酵素発現ならびPobA酵素発現から選択される1種または2種以上の酵素発現が強化されたシュードモナス属細菌である、[1]~[4]のいずれかに記載のムコン酸の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明では、CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌により、リグニン含有バイオマスのアルカリ抽出液に含まれる酢酸が生育炭素源として代謝されるとともに、同じ抽出液中のクマル酸およびフェルラ酸がムコン酸に変換される。すなわち、酢酸は、ムコン酸の製造における不純物であり、シュードモナス属細菌により除去される。また、リグニン含有バイオマスのアルカリ抽出液には、ギ酸、乳酸、アミノ酸などその他の不純物も含まれ得るが、シュードモナス属細菌より除去される。これらの効果により、純度の高いムコン酸を少ない精製ステップで得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌によるクマル酸およびフェルラ酸からムコン酸への代謝経路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
<工程(1)>
工程(1)は、リグニン含有バイオマスをアルカリ処理し、クマル酸、フェルラ酸および酢酸を含む抽出液を得る工程である。以下、工程(1)について説明する。
【0014】
本発明において、リグニン含有バイオマスとは、少なくともリグニン成分を含む生物資源のことを指す。リグニン含有バイオマスの具体例としては、バガス、コーンコブ、スイッチグラス、ネピアグラス、エリアンサス、コーンストーバー、稲わら、麦わらなどの草本系バイオマス;樹木、廃建材などの木質系バイオマス;木質系バイオマスから得られるパルプ;藻類、海草など水生環境由来のバイオマス;コーン外皮、小麦外皮、大豆外皮、籾殻などの穀物外皮バイオマスなどが挙げられる。
【0015】
本発明において、アルカリ処理とは、リグニン含有バイオマス1g重量あたりアルカリ成分を0.1~1g添加して、常温または加温下で、一定時間放置する処理である。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、アンモニアなどを使用することができる。アルカリ処理の温度は、常温~300℃の範囲において、クマル酸、フェルラ酸および酢酸の抽出量が最大になるように設定すればよい。アルカリ処理の温度は、好ましくは50℃以上100℃未満、より好ましくは65℃以上90℃以下である。アルカリ処理におけるリグニン含有バイオマスの固形分濃度は、好ましくは1~25重量%、より好ましくは5~20重量%の範囲となるように加水をして調整される。アルカリ処理の反応後、アルカリ抽出液には、クマル酸、フェルラ酸および酢酸が溶解して含まれるため、固形分を分離除去することにより、クマル酸、フェルラ酸および酢酸を含む抽出液を得ることができる。固液分離の方法は、特に限定されないが、スクリューデカンタなどによる遠心分離;フィルタープレスなどによる膜分離;ベルトプレス、ベルトフィルター、自然沈降などによる分離;メッシュスクリーン、不織布、ろ紙などによるろ過法などにより固液分離を行うことができる。前記操作によって得られた、クマル酸、フェルラ酸および酢酸を含む抽出液は、シュードモナス属細菌を投入する前に酸を投入し、中和することが好ましい。中和することにより、細菌の成育に適するpHに調整することができる。中和後のpHは、好ましくはpH6~8の範囲である。前記操作によって得られた、クマル酸、フェルラ酸および酢酸を含む抽出液に対して、工程(2)で使用する前に成分濃度の調整を行ってもよい。
【0016】
好ましい一実施形態において、工程(1)は、バガスをアルカリ処理した後、中和し固形分を除去して、クマル酸、フェルラ酸および酢酸を含む抽出液を得る工程である。
【0017】
工程(1)で得られた抽出液のクマル酸濃度は、例えば1~1000mg/L、好ましくは10~200mg/Lである。工程(1)で得られた抽出液のフェルラ酸濃度は、例えば1~1000mg/L、好ましくは10~200mg/L、より好ましくは10~50mg/Lである。クマル酸およびフェルラ酸はいずれもムコン酸に変換できるため、クマル酸およびフェルラ酸濃度は高い方が好ましい。
【0018】
工程(1)で得られた抽出液の酢酸濃度は、好ましくは100mg/L以上、より好ましくは1g/L以上、より好ましくは2g/L以上含まれる。酢酸濃度の上限は特に制限はないが、好ましくは50g/L以下、より好ましくは10g/L以下である。これらの上限はそれぞれ、上述の下限のいずれと組み合わせてもよい。
【0019】
工程(1)で得られた抽出液は、クマル酸およびフェルラ酸に加えて、バニリン酸、バニリンなどのその他の芳香族化合物を含んでいてもよい。これらの芳香族化合物は、工程(2)において、本発明のシュードモナス属細菌の生育炭素源として利用される。工程(1)で得られた抽出液のバニリン酸濃度は、例えば0~100mg/L、好ましくは0~10mg/Lである。工程(1)で得られた抽出液のバニリン濃度は、例えば0~100mg/m、好ましくは0~10mg/Lである。なお、バニリンおよび/またはバニリン酸濃度が100mg/Lを超えると、微生物増殖が阻害されることがある。
【0020】
工程(1)で得られた抽出液は、通常、ムコン酸を含まない。
【0021】
工程(1)で得られた抽出液の糖濃度は、好ましくは5g/L未満、より好ましくは1g/L以下、より好ましくは検出限界以下である。本発明において、「抽出液が糖を実質的に含まない」とは、抽出液の糖濃度が検出限界以下であることを意味し、「検出限界以下」は、参考例1に記載のHPLC条件で測定した場合に検出限界以下であることを意味する。工程(1)で得られた抽出液の糖濃度が5g/L以上であると、ムコン酸生成速度および/またはムコン酸収率が減少する。これはシュードモナス属細菌が糖を炭素源として優先消費するためである。ここで、糖とは、単糖(例えば、グルコール、フルクトース、キシロース、マンノース、アラビノースなど)、二糖(例えば、スクロースなど)、オリゴ糖、多糖などを意味する。糖は、単糖および二糖から選択される1種または2種以上の糖であることが好ましい。工程(1)で得られた抽出液が2種以上の糖を含む場合、糖濃度は、当該2種以上の糖の合計濃度を意味する。
【0022】
工程(1)で得られた抽出液は、酢酸の他に、ギ酸および乳酸からなる群から選択される1種または2種の有機酸を含むことが好ましい。これらの有機酸は、工程(2)において、本発明のシュードモナス属細菌のための生育炭素源として利用される。有機酸は、ムコン酸生成速度、ムコン酸収率を下げることなくシュードモナス属細菌の生育炭素源として利用され得る。工程(1)で得られた抽出液中の酢酸以外の有機酸の濃度は、例えば1~10,000mg/L、好ましくは50~2,000mg/Lである。工程(1)で得られた抽出液が酢酸以外の2種以上の有機酸を含む場合、酢酸以外の有機酸の濃度は、酢酸以外の2種以上の有機酸の合計濃度を意味する。
【0023】
<工程(2)>
工程(2)は、工程(1)で得られた抽出液にCatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌を作用させ、前記細菌により前記酢酸を生育炭素源として代謝させるとともに、前記細菌により前記クマル酸および前記フェルラ酸をムコン酸に変換させる工程である。以下、工程(2)について説明する。
【0024】
CatB酵素は、ムコン酸シクロイソメラーゼ活性を有するタンパク質であり、ムコン酸を(S)-ムコノラクトンに変換する。ムコン酸は、通常、(S)-ムコノラクトンを経由してTCA回路に入り、代謝される。したがって、CatB酵素発現を欠損させることにより、ムコン酸を蓄積できるようになる。一般的に、芳香族化合物の分解能を有するシュードモナス属細菌は、内因性CatB酵素を保有することが知られている。
【0025】
シュードモナス属細菌が保有する内因性CatB酵素としては、例えば、以下の(a1)または(b1)のタンパク質が挙げられる。
(a1)配列番号2に記載のアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質
(b1)配列番号2に記載のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質であって、CatB酵素活性を有するタンパク質
【0026】
配列番号2に記載のアミノ酸配列は、シュードモナス・スピーシーズ NGC7株由来のCatB酵素のアミノ酸配列である。
【0027】
シュードモナス属細菌が保有するCatB酵素をコードする内因性遺伝子(以下「catB遺伝子」という。)としては、例えば、以下の(c1)または(d1)のDNAが挙げられる。
(c1)配列番号1に記載の塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNA
(d1)配列番号1に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAであって、CatB酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0028】
配列番号1に記載の塩基配列は、シュードモナス・スピーシーズ NGC7株由来のcatB遺伝子の塩基配列である。
【0029】
catB遺伝子は、CatB酵素をコードする限り、配列番号1の塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有する塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNAであってもよい。例えば、catB遺伝子は、コドンの縮重に基づいて、あるコドンがそれと等価のコドンに置換されたDNAであってもよい。
【0030】
PcaHG酵素は、プロトカテク酸3,4-ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質であり、プロトカテク酸のベンゼン環の開環反応を触媒する。PcaHG酵素は、PcaH(βサブユニット)およびPcaG(αサブユニット)からなるヘテロオリゴマーである。したがって、PcaHG酵素を欠損させることにより(すなわち、PcaHおよび/またはPcaGを欠損させることにより)、プロトカテク酸が、ムコン酸を経由してTCA回路へ入ることを防ぐことができる。一般的に、芳香族化合物の分解能を有するシュードモナス属細菌は、内因性PcaHG酵素を保有することが知られている。
【0031】
シュードモナス属細菌が保有する内因性PcaHとしては、例えば、以下の(a2)または(b2)のタンパク質が挙げられる。
(a2)配列番号4に記載のアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質
(b2)配列番号4に記載のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質であって、PcaHG酵素のαサブユニットとの共存下でPcaHG酵素活性を発現するタンパク質
【0032】
配列番号4に記載のアミノ酸配列は、シュードモナス・スピーシーズ NGC7株由来のPcaHG酵素のβサブユニットのアミノ酸配列である。
【0033】
シュードモナス属細菌が保有するPcaHをコードする内因性遺伝子(以下「pcaH遺伝子」という。)としては、例えば、以下の(c2)または(d2)のDNAが挙げられる。
(c2)配列番号3に記載の塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNA
(d2)配列番号3に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAであって、PcaHG酵素のαサブユニットとの共存下でPcaHG酵素活性を発現するタンパク質をコードするDNA
【0034】
配列番号3に記載の塩基配列は、シュードモナス・スピーシーズ NGC7株由来のpcaH遺伝子の塩基配列である。
【0035】
pcaH遺伝子は、PcaHをコードする限り、配列番号3の塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有する塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNAであってもよい。例えば、pcaH遺伝子は、コドンの縮重に基づいて、あるコドンがそれと等価のコドンに置換されたDNAであってもよい。
【0036】
シュードモナス属細菌が保有する内因性PcaGとしては、例えば、以下の(a3)または(b3)のタンパク質が挙げられる。
(a3)配列番号6に記載のアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質
(b3)配列番号6に記載のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質であって、PcaHG酵素のβサブユニットとの共存下でPcaHG酵素活性を発現するタンパク質
【0037】
配列番号6に記載のアミノ酸配列は、シュードモナス・スピーシーズ NGC7株由来のPcaHG酵素のαサブユニットのアミノ酸配列である。
【0038】
シュードモナス属細菌が保有するPcaGをコードする内因性遺伝子(以下「pcaG遺伝子」という。)としては、例えば、以下の(c3)または(d3)のDNAが挙げられる。
(c3)配列番号5に記載の塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNA
(d3)配列番号5に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAであって、PcaHG酵素のβサブユニットとの共存下でPcaHG酵素活性を発現するタンパク質をコードするDNA
【0039】
配列番号5に記載のアミノ酸配列は、シュードモナス・スピーシーズ NGC7株由来のpcaG遺伝子の塩基配列である。
【0040】
pcaG遺伝子は、PcaGをコードする限り、配列番号5の塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有する塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNAであってもよい。例えば、pcaG遺伝子は、コドンの縮重に基づいて、あるコドンがそれと等価のコドンに置換されたDNAであってもよい。
【0041】
本発明は、CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌を利用することを特徴とする。CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌とは、CatB酵素およびPcaHG酵素を発現するシュードモナス属細菌(例えば、野生型のシュードモナス属細菌)と比較して、CatB酵素活性およびPcaHG酵素活性が低下または消失しているシュードモナス属細菌のことを指す。具体例として、標的遺伝子(catB遺伝子ならびにpcaH遺伝子および/またはpcaG遺伝子)の破壊(例えば、破壊カセットの標的遺伝子への挿入、破壊カセットでの標的遺伝子の置換、標的遺伝子の欠失(削除)等)、標的遺伝子への変異の導入、標的遺伝子の制御領域のブロックなどにより、CatB酵素およびPcaHG酵素を機能的に不活化させたシュードモナス属細菌が挙げられる。PcaHG酵素発現の欠損には、PcaH発現およびPcaG発現のうちの一方の欠損および両方の欠損が包含される。一方の欠損であっても、両方の欠損であっても、PcaHG酵素を機能的に不活化させ、PcaHG酵素活性を低下または消失させることができる。
【0042】
シュードモナス属細菌としては、例えば、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)、シュードモナス・エルジノーサ(Pseudomonas aeruginosa)、シュードモナス・アガリシ(Pseudomonas agarici)、シュードモナス・アルカリゲネス(Pseudomonas alcarigenes)、シュードモナス・アルカリフィラ(Pseudomonas alcaliphila)等が挙げられるが、好ましくは、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)である。
【0043】
シュードモナス属細菌においてCatB酵素発現およびPcaHG酵素発現を欠損させる方法としては、相同組換えにより、標的遺伝子(catB遺伝子ならびにpcaH遺伝子および/またはpcaG遺伝子)を破壊する方法などが知られている。その他に、例えば、標的遺伝子への変異の導入、標的遺伝子の不活性化などの方法も知られている。シュードモナス属細菌においてCatB酵素発現およびPcaHG酵素発現を欠損させる際、ファージ・トランスダクション法、相同組換え法、プラスミドベクター挿入法などの遺伝子操作を利用することができる。相同組換えを利用した方法として、遺伝子破壊のための遺伝子ノックアウトや、変異の導入のための遺伝子ノックインなどを用いることができる。
【0044】
一実施形態では、シュードモナス属細菌においてCatB酵素発現およびPcaHG酵素発現を欠損させる方法として、相同組換えにより、野生型シュードモナス属細菌の標的遺伝子(catB遺伝子ならびにpcaH遺伝子および/またはpcaG遺伝子)を破壊する方法が用いられる。標的遺伝子の破壊は、相同組換えによる破壊カセットの挿入であってもよいし、相同組換えによる破壊カセットによる標的遺伝子の置換または欠失であってもよい。ベクターとしては、例えば、pK19mobsacB(GenBank:FJ437239.1)(Gene,145,69-73(1994))等のプラスミドを用いることができる。野生型シュードモナス属細菌へのベクターの導入法としては、例えば、エレクトロポレーション、リン酸カルシウム共沈降法、リポフェクション、マイクロインジェクション、酢酸リチウム法等を用いることができる。破壊カセットは、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子など)などの選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。選択マーカー遺伝子は、ベクターに含まれていてもよい。相同組換えが生じた形質転換細胞は、選択マーカー遺伝子に対応する薬剤(例えば、カナマイシン、ハイグロマイシン、ゼオシン、クロラムフェニコールなど)で細胞を選抜することにより取得することができる。取得された形質転換細胞において、相同組換えによる標的遺伝子への挿入あるいは標的遺伝子の置換または欠失が生じていることは、標的遺伝子を増幅可能なプライマーを用いたPCRにより確認することができる。
【0045】
本発明で使用されるシュードモナス細菌は、VanAおよびB酵素発現、CatA酵素発現、AroY酵素発現、KpdB酵素発現ならびにPobA酵素発現から選択される1種または2種以上の酵素発現が強化されたシュードモナス属細菌であることが好ましい。なお、VanAおよびB酵素発現は、VanA酵素発現およびVanB酵素発現の組合せを意味する。
【0046】
VanA酵素は、バニリン酸デメチラーゼオキシゲナーゼコンポーネントであり、オキシドレダクターゼコンポーネントを経て供給されるNADHまたはNADPH由来の電子と、分子状酸素由来の酸素原子を利用してバニリン酸を脱メチルし、プロトカテク酸に変換する。
【0047】
VanB酵素は、バニリン酸デメチラーゼオキシドレダクターゼコンポーネントであり、NADHまたはNADPHから電子を引き抜き、オキシゲナーゼコンポーネントであるVanA酵素へと伝達する。
【0048】
したがって、VanA酵素と共にVanB酵素の発現を強化することにより、フェルラ酸からプロトカテク酸の生成速度を高めることができる。発現が強化されるVanAおよびVanB酵素は、それぞれ、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性VanAおよびVanB酵素であってもよいし、シュードモナス属細菌が本来保有しない外来性VanAおよびVanB酵素であってもよい。
【0049】
VanA酵素としては、例えば、以下の(a4)または(b4)のタンパク質が挙げられる。
(a4)配列番号8に記載のアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質
(b4)配列番号8に記載のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質であって、VanA酵素活性を有するタンパク質
【0050】
配列番号8記載のアミノ酸配列は、シュードモナス・プチダ KT2440株由来のVanA酵素のアミノ酸配列(Accession No.AE015451)である。
【0051】
(b4)のタンパク質には、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性VanA酵素およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性VanA酵素が包含される。
【0052】
VanA酵素をコードする遺伝子(以下「vanA遺伝子」という。)としては、例えば、以下の(c4)または(d4)のDNAが挙げられる。
(c4)配列番号7に記載の塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNA
(d4)配列番号7に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAであって、VanA酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0053】
配列番号7に記載の塩基配列は、シュードモナス・プチダ KT2440株由来のvanA遺伝子の塩基配列(Accession No.AE015451)である。
【0054】
(d4)のDNAには、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性vanA遺伝子およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性vanA遺伝子が包含される。
【0055】
vanA遺伝子は、VanA酵素をコードする限り、配列番号7の塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有する塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNAであってもよい。例えば、vanA遺伝子は、コドンの縮重に基づいて、あるコドンがそれと等価のコドンに置換されたDNAであってもよい。
【0056】
VanB酵素としては、例えば、以下の(a5)または(b5)のタンパク質が挙げられる。
(a5)配列番号10に記載のアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質
(b5)配列番号10に記載のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質であって、VanB酵素活性を有するタンパク質
【0057】
配列番号10記載のアミノ酸配列は、シュードモナス・プチダ KT2440株由来のVanB酵素のアミノ酸配列(Accession No.AE015451)である。
【0058】
(b5)のタンパク質には、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性VanB酵素およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性VanB酵素が包含される。
【0059】
VanB酵素をコードする遺伝子(以下「vanB遺伝子」という。)としては、例えば、以下の(c5)または(d5)のDNAが挙げられる。
(c5)配列番号9に記載の塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNA
(d5)配列番号9に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAであって、VanB酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0060】
配列番号9に記載の塩基配列は、シュードモナス・プチダ KT2440株由来のvanB遺伝子の塩基配列(Accession No.AE015451)である。
【0061】
(d5)のDNAには、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性vanB遺伝子およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性vanB遺伝子が包含される。
【0062】
vanB遺伝子は、VanB酵素をコードする限り、配列番号9の塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有する塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNAであってもよい。例えば、vanB遺伝子は、コドンの縮重に基づいて、あるコドンがそれと等価のコドンに置換されたDNAであってもよい。
【0063】
CatA酵素は、カテコール1,2―ジオキシゲナーゼ活性を有するタンパク質であり、カテコールのベンゼン環を開環し、ムコン酸に変換する。したがって、CatA酵素発現を強化することにより、ムコン酸の生成速度を高めることができる。芳香族化合物の分解能を有するシュードモナス属細菌は、一般的に、内因性CatA酵素を保有することが知られている。発現が強化されるCatA酵素は、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性CatA酵素であってもよいし、シュードモナス属細菌が本来保有しない外来性CatA酵素であってもよい。
【0064】
CatA酵素としては、例えば、以下の(a6)または(b6)のタンパク質が挙げられる。
(a6)配列番号12に記載のアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質
(b6)配列番号12に記載のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質であって、CatA酵素活性を有するタンパク質
【0065】
配列番号12記載のアミノ酸配列は、シュードモナス・プチダ KT2440株由来のCatA酵素のアミノ酸配列(Accession No.AE015451)である。
【0066】
(b6)のタンパク質には、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性CatA酵素およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性CatA酵素が包含される。
【0067】
CatA酵素をコードする遺伝子(以下「catA遺伝子」という。)としては、例えば、以下の(c6)または(d6)のDNAが挙げられる。
(c6)配列番号11に記載の塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNA
(d6)配列番号11に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAであって、CatA酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0068】
配列番号11に記載の塩基配列は、シュードモナス・プチダ KT2440株由来のcatA遺伝子の塩基配列(Accession No.AE015451)である。
【0069】
(d6)のDNAには、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性catA遺伝子およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性catA遺伝子が包含される。
【0070】
catA遺伝子は、CatA酵素をコードする限り、配列番号11の塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有する塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNAであってもよい。例えば、catA遺伝子は、コドンの縮重に基づいて、あるコドンがそれと等価のコドンに置換されたDNAであってもよい。
【0071】
AroY酵素は、プロトカテク酸脱炭酸酵素活性を有するタンパク質であり、プロトカテク酸の脱炭酸を触媒し、カテコールに変換する。したがって、AroY酵素発現を強化することにより、ムコン酸の生成速度を高めることができる。発現が強化されるAroY酵素は、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性AroY酵素であってもよいが、通常、シュードモナス属細菌が本来保有しない外来性AroY酵素である。外来性AroY酵素としては、例えば、クレブシエラ属細菌、エンテロバクター属細菌、セディメントバクター属細菌等に由来するAroY酵素が挙げられる。クレブシエラ属細菌としては、例えば、クレブシエラ・アエロジェネシス、クレブシエラ・ニューモニエ、クレブシエラ・オキシトカ、クレブシエラ・クアシニューモニエ等が挙げられる。エンテロバクター属細菌としては、例えば、エンテロバクター・クロアカ等が挙げられる。セディメントバクター属細菌としては、例えば、セディメントバクター・ヒドロキシベンゾイカス等が挙げられる。
【0072】
AroY酵素としては、例えば、以下の(a7)または(b7)のタンパク質が挙げられる。
(a7)配列番号14に記載のアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質
(b7)配列番号14に記載のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質であって、AroY酵素活性を有するタンパク質
【0073】
配列番号14に記載のアミノ酸配列は、クレブシエラ・ニューモニエ・サブスピーシーズ・ニューモニエ A170-40株由来のAroY酵素のアミノ酸配列(Accession No.AB479384)である。
【0074】
(b7)のタンパク質には、クレブシエラ属細菌、エンテロバクター属細菌、セディメントバクター属細菌等に由来するAroY酵素が包含される。
【0075】
AroY酵素をコードする遺伝子(以下「aroY遺伝子」という。)としては、例えば、以下の(c7)または(d7)のDNAが挙げられる。
(c7)配列番号13に記載の塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNA
(d7)配列番号13に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAであって、AroY酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0076】
配列番号13に記載の塩基配列は、クレブシエラ・ニューモニエ・サブスピーシーズ・ニューモニエ A170-40株由来のaroY遺伝子の塩基配列(Accession No.AB479384)である。
【0077】
(d7)のDNAには、クレブシエラ属細菌、エンテロバクター属細菌、セディメントバクター属細菌等に由来するaroY遺伝子が包含される。
【0078】
aroY遺伝子は、AroY酵素をコードする限り、配列番号13の塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有する塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNAであってもよい。例えば、aroY遺伝子は、コドンの縮重に基づいて、あるコドンがそれと等価のコドンに置換されたDNAであってもよい。
【0079】
KpdB酵素は、4-ヒドロキシ安息香酸・デカルボキシラーゼ・サブユニットBとも呼ばれる、フラビンプレニルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質であり、プロトカテク酸脱炭酸酵素の補因子であるプレニル-FMNの合成反応を触媒する(具体的には、ジメチルアリル一リン酸(DMAP)からジメチルアリル構造をフラビンモノヌクレオチド(FMN)のフラビン骨格へと結合し、プレニル-FMNを合成する反応を触媒する)。したがって、KpdB酵素発現を強化することにより、プロトカテク酸脱炭酸反応速度を高めることができる。発現が強化されるKpdB酵素は、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性KpdB酵素であってもよいし、シュードモナス属細菌が本来保有しない外来性KpdB酵素であってもよい。
【0080】
KpdB酵素としては、例えば、以下の(a8)または(b8)のタンパク質が挙げられる。
(a8)配列番号16に記載のアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質
(b8)配列番号16に記載のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質であって、KpdB酵素活性を有するタンパク質
【0081】
配列番号16記載のアミノ酸配列は、クレブシエラ・ニューモニエ・サブシピーシーズ・ニューモニエ NBRC14190株由来のKpdB酵素のアミノ酸配列(Accession No.AB920346)である。
【0082】
(b8)のタンパク質には、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性KpdB酵素およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性KpdB酵素が包含される。
【0083】
KpdB酵素をコードする遺伝子(以下「kpdB遺伝子」という。)としては、例えば、以下の(c8)または(d8)のDNAが挙げられる。
(c8)配列番号15に記載の塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNA
(d8)配列番号15に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNAであって、KpdB酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA
【0084】
配列番号15に記載の塩基配列は、シュードモナス・スピーシーズ NGC7株由来のkpdB遺伝子の塩基配列(Accession No.AB920346)である。
【0085】
(d8)のDNAには、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性kpdB遺伝子およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性kpdB遺伝子が包含される。
【0086】
kpdB遺伝子は、KpdB酵素をコードする限り、配列番号15の塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有する塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNAであってもよい。例えば、kpdB遺伝子は、コドンの縮重に基づいて、あるコドンがそれと等価のコドンに置換されたDNAであってもよい。
【0087】
PobA酵素は、4-ヒドロキシ安息香酸ヒドロキシラーゼ活性を有するタンパク質であり、安息香酸分解酵素のひとつである。芳香族化合物の分解能を有するシュードモナス属細菌は、一般的に、内因性PobA酵素を保有することが知られている。発現が強化されるPobA酵素は、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性PobA酵素であってもよいし、シュードモナス属細菌が本来保有しない外来性PobA酵素であってもよい。
【0088】
PobA酵素としては、例えば、以下の(a9)または(b9)のタンパク質が挙げられる。
(a9)配列番号18に記載のアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質
(b9)配列番号18に記載のアミノ酸配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むまたは該アミノ酸配列からなるタンパク質であって、PobA酵素活性を有するタンパク質
【0089】
配列番号18に記載のアミノ酸配列は、シュードモナス・プチダ KT2440株由来のPobA酵素のアミノ酸配列(Accession No.Q88H28)である。
【0090】
(b9)のタンパク質には、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性PobA酵素およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性PobA酵素が包含される。
【0091】
PobA酵素をコードする遺伝子(以下「pobA遺伝子」という。)としては、例えば、以下の(c9)または(d9)のDNAが挙げられる。
(c9)配列番号17に記載の塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNA
(d9)配列番号17に記載の塩基配列と相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件でハイブリダイズし得るDNA
【0092】
配列番号17に記載の塩基配列は、シュードモナス・プチダ KT2440株由来のpobA遺伝子の塩基配列(Accession No.AAN69138)である。
【0093】
(d9)のDNAには、シュードモナス属細菌が本来保有する内因性pobA遺伝子およびシュードモナス属細菌が本来保有しない外来性pobA遺伝子が包含される。
【0094】
pobA遺伝子は、PobA酵素をコードする限り、配列番号17の塩基配列と50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上(例えば、91%以上、92%以上、93%以上、94%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上または99%以上)の配列同一性を有する塩基配列を含むまたは該塩基配列からなるDNAであってもよい。例えば、pobA遺伝子は、コドンの縮重に基づいて、あるコドンがそれと等価のコドンに置換されたDNAであってもよい。
【0095】
前述したアミノ酸配列および塩基配列の配列同一性は、BLAST(J.Mol.Biol.,215,403(1990))、FASTA(Methods in Enzymology,183,63(1990))などの相同性検索ソフトを用いて計算することができる。
【0096】
前述の(d1)~(d9)のDNAは、それぞれ、配列番号1、3、5、7、9、11、13、15および17に記載の塩基配列からなるDNAまたはその断片をプローブとして、コロニー・ハイブリダイゼーション法、プラーク・ハイブリダイゼーション法、サザンブロットハイブリダイゼーション法などを用いて取得することができる。より具体的には、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAは、コロニーまたはプラーク由来のDNAを固定化したフィルターを用いて、0.7~1.0MのNaClの存在下、65℃でハイブリダイゼーションを行った後、0.1~2倍濃度のSSC溶液(1倍濃度のSSC溶液の組成は、150mM NaCl、15mM クエン酸ナトリウムである)の中、65℃でフィルターを洗浄することにより取得することができる。ハイブリダイゼーションは、例えば、Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual,3rd Ed,Cold Spring Harbor Laboratory(2001)に記載の方法などの公知の方法を用いて行うことができる。温度が高いほど、または、塩濃度が低いほど、ストリンジェンシーは高くなり、より相同性(配列同一性)の高いポリヌクレオチドを単離することができる。
【0097】
本発明において好ましく使用されるVanA酵素発現、VanB酵素発現、CatA酵素発現、AroY酵素、KpdB酵素発現およびPobA酵素発現から選択される1種または2種以上の酵素発現が強化されたシュードモナス属細菌は、CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌において、VanA酵素発現、VanB酵素発現、CatA酵素発現、AroY酵素発現、KpdB酵素発現およびPobA酵素発現から選択される1種または2種以上の酵素発現が強化されたシュードモナス属細菌であることを特徴とする。標的酵素の発現が強化されていることは、野生型のシュードモナス属細菌と比較して、標的酵素の活性が増加していることにより確認することができる。標的酵素の発現を強化する方法としては、標的酵素遺伝子と、標的酵素遺伝子の上流に機能的に連結された遺伝子発現を促進するプロモータ領域とを含む発現カセットまたは該発現カセットを含むベクターをシュードモナス属細菌に導入し、標的酵素遺伝子のコピー数を増やす方法が挙げられる。プロモータは恒常的なプロモータ、誘導的なプロモータのいずれであってもよく、シュードモナス属細菌で必要な酵素量を発現できるものであればよい。発現カセットまたは該発現カセットを含むベクターをシュードモナス属細菌に導入する際、相同組換え法、エレクトロポレーション法、トランスフォーメーション法、酢酸リチウム法等を用いることができる。ベクターは、プラスミド等の染色体外で自立増殖および複製可能なベクターであってもよいし、染色体内に組み込まれるベクターであってもよい。発現カセットは、ターミネーター等の発現調節領域を含んでいてもよい。発現カセットは、薬剤耐性遺伝子(例えば、カナマイシン耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ゼオシン耐性遺伝子、クロラムフェニコール耐性遺伝子など)などの選択マーカー遺伝子を含んでいてもよい。選択マーカー遺伝子は、ベクターに含まれていてもよい。発現カセットまたは該発現カセットを含むベクターが導入された形質転換細胞は、選択マーカー遺伝子に対応する薬剤(例えば、カナマイシン、ハイグロマイシン、ゼオシン、クロラムフェニコールなど)で細胞を選抜することにより取得することができる。取得された形質転換細胞において、標的酵素遺伝子の導入が生じていることは、標的酵素遺伝子を増幅可能なプライマーを用いたPCRにより確認することができる。
【0098】
工程(1)で得られた抽出液中でCatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌を培養することにより、工程(1)で得られた抽出液にCatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌を作用させることができる。培養温度は、例えば15~40℃、好ましくは20~30℃であり、培養期間は、例えば1時間~10日、好ましくは4~48時間である。培養は、例えば、好気培養であり、好気培養は、例えば、培養液を振とうしたり、培養液に空気または酸素ガスを吹き込むことにより行うことができる。
【0099】
工程(1)で得られた抽出液にCatB酵素およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌を作用させると、該シュードモナス属細菌は、抽出液中の酢酸を生育炭素源として代謝しながら増殖するとともに、抽出液中のクマル酸およびフェルラ酸をムコン酸に変換する。また、本来であればシュードモナス属細菌はCatB酵素を保有するため、変換されたムコン酸がさらに分解または変換されるが、CatB酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌はムコン酸をさらに分解または変換しないため、ムコン酸は培養液中に蓄積される。また、本来であればシュードモナス属細菌はPcaHG酵素を保有するため、変換されたプロトカテク酸がさらに分解され生育炭素源として消費されるが、PcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌はプロトカテク酸が、ムコン酸の前駆体であるカテコールに変換されるため、ムコン酸は培養液中に蓄積される(
図1)。
【0100】
工程(1)で得られた抽出液がギ酸、乳酸、アミノ酸などの炭素源や窒素源を含む場合、CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌はこれらを消費分解しながら増殖する。すなわち、本発明では、フェルラ酸およびクマル酸以外の炭素源および窒素源が、CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌により消費されることにより、培養液中のムコン酸以外の不純物成分が除去されるため、培養液からのムコン酸精製を簡素化することができる。
【0101】
シュードモナス属細菌を作用させた抽出液から、ムコン酸をさらに精製することができる。精製のためには、CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌を分離し、分離したろ液を、吸着カラムに通液し、吸着画分を回収することにより、さらにムコン酸精製純度を高めることができる。吸着カラムとしては、疎水吸着カラム、イオン交換などがあるが、疎水吸着カラムが好ましい。
【0102】
本発明におけるムコン酸とは、ムコン酸のフリー体、ムコン酸の塩やエステル等の総称であり、本発明で得られるムコン酸は、これらのいずれかの形態またはこれらの混合物であってもよい。また、ムコン酸にはtrans,trans-ムコン酸、cis,trans-ムコン酸、cis,cis-ムコン酸の3種類の異性体が存在し、本発明におけるムコン酸としてはこれらの1種または2種以上であってもよいが、好ましくはcis,cis-ムコン酸である。
【0103】
本発明で得られるムコン酸は、他原料で得られたものと同様に化学合成の前駆体などとして使用することができ、例えば、ポリマー原料となるアジピン酸やテレフタル酸の原料として使用することが知られている。
【実施例0104】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0105】
(参考例1)糖濃度の測定
バガスアルカリ抽出液に含まれるグルコースおよびキシロース濃度は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。
カラム:Luna NH2(Phenomenex社製)
移動相:ミリQ:アセトニトリル=25:75(流速0.6mL/分)
反応液:なし
検出方法:RI(示差屈折率)
温度:30℃。
【0106】
(参考例2)芳香族化合物の分析
バガスアルカリ抽出液に含まれる芳香族化合物は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。なお、各分析サンプルは、3500Gで10分間遠心分離を行い、その上清成分を下記分析に供した。
カラム:Synergi HidroRP 4.6mm×250mm(Phenomenex製)
移動相:アセトニトリル-0.1% H3PO4(流速1.0mL/min)
検出方法:UV(283nm)
温度:40℃。
【0107】
バガスアルカリ抽出液に含まれる酢酸およびギ酸は、下記に示すHPLC条件で、標品との比較により定量した。なお、各分析サンプルは、3500Gで10分間遠心分離を行い、その上清成分を下記分析に供した。
カラム:Shim-PackとShim-Pack SCR101H(株式会社島津製作所製)の直列
移動相:5mM p-トルエンスルホン酸(流速0.8mL/min)
反応液:5mM p-トルエンスルホン酸、20mM ビストリス、0.1mM EDTA・2Na(流速0.8mL/min)
検出方法:電気伝導度
温度:45℃。
【0108】
(実施例1)リグニン含有バイオマスのアルカリ処理
リグニン含有バイオマスとして、バガスを用意した。バガス128g(含水率22%、乾燥バガス100g相当)に14% NaOH溶液85g、RO水1787gを投入し混合した。すなわち、12gのNaOHを100gの乾燥バガスに添加したことになり、乾燥バガス1gあたりに添加されたNaOHの量は120mgとなる。また、バガス固形分の最終濃度は5wt%とした。その後、オートクレーブにて、90℃で2時間のアルカリ処理を行った。アルカリ処理後のバガスは、1mmスクリーンろ過に供し、その後、ろ液を212μmスクリーンろ過に供し、合計約1500gのアルカリ処理液を回収した。このときのpHは、12.7であった。前記アルカリ処理液1016gをpH調整に使用した。pHセンサーにて、pH変化をモニターしながら、6MのHClを19g添加し、pH5.2に調整した。その後、pH調整液を8500Gで6分間、遠心、上清をバガスアルカリ抽出液とした。
【0109】
バガスアルカリ抽出液の成分組成を表1に示す。
【0110】
【0111】
(実施例2)CatB酵素発現およびPcaHG酵素発現が欠損したシュードモナス属細菌(NGC7株ΔcatBΔpcaHG株)の作製
配列番号19および配列番号20からなるプライマーセットを用いたPCRによりシュードモナス・スピーシーズ NGC7株のゲノムDNAから増幅した、pcaH遺伝子およびpcaG遺伝子の部分配列を含む1.3kbpのDNA断片をEcoRIおよびHindIIIで消化し、同じくEcoRIおよびHindIIIで消化したpK19mobsacB(国立遺伝学研究所より入手)と連結し、pK19pcaHGを構築した。pK19pcaHGをApaIおよびDraIIIで消化し、pcaH遺伝子およびpcaG遺伝子の内部に存在する配列の一部を欠失させたpK19ΔpcaHGを作製した。シュードモナス・スピーシーズ NGC7株をLB液体培地10mLに接種し、30℃で16時間振盪培養した。培養液の一部を新しいLB液体培地10mLに接種し、OD600が0.3~0.5に達するまで、30℃で振盪培養した。得られた培養液から遠心分離(6,000×g,5min,4℃)により細胞を回収し、得られた細胞を冷却した0.5M シュークロース溶液で洗浄した。洗浄操作は2回繰り返した。洗浄後の細胞を遠心分離により回収し、0.1mLの冷却した0.5M シュークロース溶液に懸濁した。細胞懸濁液と1μgのpK19ΔpcaHGとを混合し、エレクトロポレーションに供した(10.0KV)。1mLのSOC培地と混合し、30℃で1時間振盪培養した。遠心分離により細胞を回収し、0.1mLのSOC培地に懸濁した。懸濁液を25mg/L カナマイシンを含むLB寒天培地に塗抹し、30℃で一晩静置培養した。形成されたカナマイシン耐性コロニーを、10%シュークロースを含むLB液体培地5mLに接種し、30℃で16時間振盪培養した。得られた培養液の一部を、10%シュークロースを含むLB液体培地5mLに接種し、30℃で16時間振盪培養する操作をさらに2回繰り返した。得られた培養液の一部をLB寒天培地に塗抹し、30℃で1晩静置培養した。形成されたコロニーのゲノムDNAを常法で抽出し、それを鋳型とし、配列番号21および配列番号22からなるプライマーセットを用いたPCRにより、pcaH遺伝子およびpcaG遺伝子の欠失を確認した。この細菌を、NGC7ΔpcaHG株とした。
【0112】
配列番号23および配列番号24からなるプライマーセットを用いたPCRによりシュードモナス・スピーシーズ NGC7株のゲノムDNAから増幅した、catB遺伝子、catC遺伝子およびcatA遺伝子を含む2.2kbpのDNA断片をEcoRIおよびHindIIIで消化し、同じくEcoRIおよびHindIIIで消化したpK19mobsacB(国立遺伝学研究所より入手)と連結し、pK19catBCAを構築した。pK19catBCAをEcoRVおよびScaIで消化し、catB遺伝子の内部に存在する配列の一部を欠失させたpK19ΔcatBを作製した。前述と同様の方法で、pK19ΔcatBを用いてNGC7ΔpcaHG株を形質転換し、カナマイシン耐性コロニーを得た。形成されたカナマイシン耐性コロニーを、10%シュークロースを含むLB液体培地5mLに接種し、30℃で16時間振盪培養した。得られた培養液の一部を、10%シュークロースを含むLB液体培地5mLに接種し、30℃で16時間振盪培養する操作をさらに2回繰り返した。得られた培養液の一部をLB寒天培地に塗抹し、30℃で1晩静置培養した。形成されたコロニーのゲノムDNAを常法で抽出し、それを鋳型とし、配列番号25および配列番号26からなるプライマーセットを用いたPCRにより、catB遺伝子の欠失を確認した。この細菌を、NGC7株ΔcatBΔpcaHG株とした。
【0113】
(実施例3)AroY酵素、KpdB酵素、CatA酵素、VanA酵素およびVanB酵素の発現を強化したNGC7株ΔcatBΔpcaHG株の作製
クレブシエラ・ニューモニエ・サブスピーシーズ・ニューモニエ(Klebsiella pneumoniae subspecies pneumoniae)A170-40株のゲノムDNAの部分断片を鋳型として、配列番号27および配列番号28からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、プロトカテク酸・デカルボキシラーゼ遺伝子(aroY遺伝子)を含む約1.5kbpのDNA断片を得た。得られたDNA断片をKpnIで消化し、予めKpnIで消化したpMCL200プラスミドDNAにクローニングすることにより、pTS036プラスミドDNAを得た。
【0114】
クレブシエラ・ニューモニエ・サブスピーシーズ・ニューモニエ NBRC14190株のDNAを鋳型として、配列番号29および配列番号30のプライマーセットを用いたPCR法によって、4-ヒドロキシ安息香酸・デカルボキシラーゼ・サブユニットB遺伝子(kpdB遺伝子)を含む約0.6kbpのDNA断片を増幅した。増幅したDNA断片の両末端を平滑化処理し、予めXbaIで消化しさらに平滑化処理したpTS036プラスミドDNAに連結することにより、pTS052プラスミドDNAを得た。pTS052プラスミドDNAとしては、pTS036プラスミドDNAに含まれるaroY遺伝子と順方向にkpdB遺伝子が連結されたクローンを選択して得た。
【0115】
pTS052プラスミドDNAを鋳型として、配列番号31および配列番号32からなるプライマーセットを用いたPCR法により、aroY遺伝子およびkpdB遺伝子を含む約2.2kbpのDNA断片を増幅した。増幅したDNA断片を、予めBamHIおよびEcoRIで消化したpJB866プラスミドDNAにInfusion HD Cloning Kitを用いて連結することにより、pTS074プラスミドDNAを得た。
【0116】
シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)KT2440株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号33および配列番号34からなるプライマーセットを用いたPCR法により、カテコール・1,2-ジオキシゲナーゼ遺伝子(catA遺伝子)を含む約1.0kbpのDNA断片を得た。得られたDNA断片を、予めSacIで消化したpTS074プラスミドDNAにInfusion HD Cloning Kitを用いて連結することにより、pTS079プラスミドDNAを得た。
【0117】
pUC118プラスミドDNAを鋳型として、配列番号35および配列番号36からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、ラクトースプロモーター領域(Plac)を含む約200bpのDNA断片を得た。得られたDNA断片を、pTS079プラスミドDNAのNotIサイトにInfusion HD Cloning Kitを用いてクローニングすることにより、pTS082プラスミドDNAを得た。
【0118】
シュードモナス・プチダ KT2440株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号37および配列番号38からなるプライマーセットを用いたPCR法によって、バニレート・デメチラーゼ・オキシゲナーゼコンポーネント遺伝子(vanA遺伝子)およびバニレート・デメチラーゼ・オキシドレダクターゼコンポーネント遺伝子(vanB)を含む約2.0kbpのDNA断片を得た。得られたDNA断片を、SacIおよびSmaIで消化し、予めSacIおよびSmaIで消化したpQE30プラスミドDNAと連結することにより、pKY001プラスミドDNAを得た。
【0119】
pKY001プラスミドDNAを鋳型として、配列番号39および配列番号40からなるプライマーセットを用いたPCR法により、vanA遺伝子およびvanB遺伝子を含む約2.0kbpのDNA断片を増幅した。増幅したDNA断片を、予めNotIで消化したpTS082プラスミドDNAとInfusion HD Cloning Kitを用いて連結することにより、pTS084プラスミドDNAを得た。得られたpTS084プラスミドDNAを用いて、シュードモナス・スピーシーズ NGC7ΔpcaHGΔcatB株を形質転換することにより、NGC7ΔpcaHGΔcatB/pTS084株を作製した。
【0120】
(実施例4)AroY酵素、KpdB酵素、CatA酵素、VanA酵素およびVanB酵素の発現強化に加え、PobA酵素の発現を強化したNGC7株ΔcatBΔpcaHG株の作製
pKY001プラスミドDNAを鋳型として、配列番号41および配列番号42からなるプライマーセットを用いたPCR法により、vanA遺伝子およびvanB遺伝子を含む約2.0kbpのDNA断片を増幅した。増幅したDNA断片を、予めNotIで消化したpTS082プラスミドDNAとInfusion HD Cloning Kitを用いて連結することにより、pTS092プラスミドDNAを得た。
【0121】
シュードモナス・プチダ KT2440株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号43および配列番号44からなるプライマーセットを用いたPCR法により、pobA遺伝子を含む約1.1kbpのDNA断片を増幅した。増幅したDNA断片を、予めNotIで消化したpTS092プラスミドDNAとInfusion HD Cloning Kitを用いて連結することにより、pTS094プラスミドDNAを得た。
【0122】
pTS094プラスミドDNAを用いて、シュードモナス・スピーシーズ NGC7ΔpcaHGΔcatB株を形質転換することにより、NGC7ΔpcaHGΔcatB/pTS094株を作製した。
【0123】
(実施例5)シュードモナス属細菌(NGC7ΔpcaHGΔcatB/pTS084株、NGC7ΔpcaHGΔcatB/pTS094株)の前培養
各株をLB寒天培地30℃で一晩静置培養した。寒天培地上に形成されたコロニーをLB液体培地10mLに接種し、30℃で16h振盪培養した。得られた培養液からOD600が5.0の細胞懸濁液(生理食塩水に懸濁)1mLを調製し、接種源とした。
【0124】
(実施例6)シュードモナス属細菌をアルカリ抽出液に作用させてムコン酸に変換する工程1(NGC7ΔpcaHGΔcatB/pTS084株)
表1の組成の抽出液をpH7に調整した後、9mLをムコン酸変換に使用し、さらに10×MM(342.0g/L Na2HPO4・12H2O,60.0g/L KH2PO4,20.0g/L NH4Cl)を1mL、100×Metal(49.0g/L MgSO4・7H2O,0.5g/L FeSO4・7H2O,1.5g/L CaCl2・2H2O)を0.1mL添加し、合計10.1mLの抽出液を調製した。ここに、実施例5で得た接種源を0.1mL添加し、30℃で振とう培養を行った。培養開始時のOD600は0、培養開始46時間後のOD600は1.9であった。培養開始時および培養開46時間後の成分比較を表2に示す。
【0125】
【0126】
培養開始時および培養開始46時間後の成分比較から、クマル酸およびフェルラ酸が消費され、ムコン酸が蓄積されたことを確認した。一方で、バニリン酸などの他の芳香族化合物、酢酸、ギ酸、乳酸などの有機酸も減少しており、これらはシュードモナス属細菌の生育炭素源として利用されたことが確認できた。
【0127】
(実施例7)シュードモナス属細菌をアルカリ抽出液に作用させてムコン酸に変換する工程2(NGC7ΔpcaHGΔcatB/pTS094株)
表1の組成の抽出液をpH7に調整した後、9mLをムコン酸変換に使用し、さらに10×MM(342.0g/L Na2HPO4・12H2O,60.0g/L KH2PO4,20.0g/L NH4Cl)を1mL、100×Metal(49.0g/L MgSO4・7H2O,0.5g/L FeSO4・7H2O,1.5g/L CaCl2・2H2O)を0.1mL添加し、合計10.1mLの抽出液を調製した。ここに、実施例5で得た接種源を0.1mL(NGC7ΔpcaHGΔcatB/pTS094株)添加し、30℃で振とう培養を行った。培養開始時のOD600は0、培養開始46時間後のOD600は1.9あった。培養開始時および培養開46時間後の成分比較を表3に示す。
【0128】
【0129】
培養開始時および培養開始46時間後の成分比較から、クマル酸およびフェルラ酸が消費され、ムコン酸が蓄積されたことを確認した。一方で、バニリン酸などの他の芳香族化合物、酢酸、ギ酸、乳酸などの有機酸も減少しており、これらはシュードモナス属細菌の生育炭素源として利用されたことが確認できた。さらに、実施例6に比べるとPobA酵素を強化したNGC7ΔpcaHGΔcatB/pTS094株の方が、プロトカテク酸の蓄積が減少し、ムコン酸の蓄積濃度がさらに高まることが確認できた。
【0130】
(比較例1)シュードモナス属細菌をモデル抽出液に作用させてムコン酸に変換する工程
モデル抽出液として、各芳香族化合物の試薬を混合し、表4に示す組成のモデル抽出液を調製した。抽出液を表4のモデル抽出液に変更した点を除き実施例6および実施例7と同様にして、培養試験を行った。
【0131】
表5に示すとおり、いずれの株でも増殖を確認できなかった。
【0132】
【0133】