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  • 特開-凝集剤の製造方法および水処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160210
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】凝集剤の製造方法および水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 21/01 20060101AFI20231026BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20231026BHJP
   C02F 1/44 20230101ALI20231026BHJP
   B01D 61/02 20060101ALI20231026BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20231026BHJP
   C02F 1/42 20230101ALI20231026BHJP
   C02F 1/52 20230101ALI20231026BHJP
   C02F 1/469 20230101ALI20231026BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20231026BHJP
【FI】
B01D21/01 102
B01D61/44 500
C02F1/44 H
B01D61/02 500
B01D15/00 P
C02F1/42 Z
C02F1/52 Z
C02F1/44 D
C02F1/469
C02F1/58 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070386
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】村田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
(72)【発明者】
【氏名】丁 青
【テーマコード(参考)】
4D006
4D015
4D017
4D025
4D038
4D061
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006GA17
4D006KA01
4D006KB13
4D006KC03
4D006KC13
4D006MC29
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB28
4D015BA04
4D015DA04
4D015FA17
4D017AA20
4D017BA11
4D017CA17
4D025AA01
4D025AB14
4D025BA13
4D038AA02
4D038AB36
4D038BB13
4D038BB18
4D061DA02
4D061DB18
4D061DC17
4D061EA09
4D061FA11
4D061FA14
(57)【要約】
【課題】ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤を簡便に製造する方法を提供する。
【解決手段】塩基性塩化アルミニウムと、水とを含む凝集剤原料を処理して凝集剤を製造する方法であって、凝集剤原料の処理が硫酸イオンの除去を含む、凝集剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性塩化アルミニウムと、水とを含む凝集剤原料を処理して凝集剤を製造する方法であって、
前記処理が硫酸イオンの除去を含む、凝集剤の製造方法。
【請求項2】
前記硫酸イオンの除去を、Al換算のアルミニウム含有量に対する硫酸イオン含有量のモル比が0.2以下になるように行う、請求項1に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項3】
前記硫酸イオンの除去を、陰イオン交換、陰イオン吸着、沈殿固液分離、凝析、透析または膜分離により行う、請求項1に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項4】
前記硫酸イオンの除去が、前記硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩として析出させて除去することを含む、請求項1に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項5】
前記硫酸イオンの除去が電気透析を更に含む、請求項4に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項6】
前記電気透析の後に前記アルカリ土類金属の硫酸塩を析出させる、請求項5に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項7】
前記処理がろ過を更に含む、請求項1に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項8】
請求項1~7の何れかに記載の凝集剤の製造方法を用いて凝集剤を製造する工程と、
得られた凝集剤を用いて被処理水を凝集処理する工程と、
凝集処理された被処理水を膜ろ過する工程と、
を含む、水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集剤の製造方法および水処理方法に関し、特には、膜ろ過処理に供される被処理水の前処理に好適に使用し得る凝集剤の製造方法、および、当該凝集剤を用いた水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、浄水場などの各種水処理施設では、被処理水をろ過膜でろ過する膜ろ過処理が用いられている。そして、膜ろ過処理を含む水処理プロセスでは、膜ろ過装置の安全運転および処理水の水質向上のため、膜ろ過処理の前処理としてポリ塩化アルミニウム(塩基性塩化アルミニウム)を凝集剤として用いた被処理水の凝集処理が行われている。
【0003】
ここで、例えば特許文献1には、優れた凝集性および保存安定性を有する凝集剤を製造する方法として、SO含有量(SO/Al(モル比))が0~0.1であり塩基度40%~65%の塩基性塩化アルミニウム第一溶液をアルカリ溶液と反応させて得たアルミナゲルを、SO含有量(SO/Al(モル比))が0~0.1であり塩基度40%~55%の塩基性塩化アルミニウム第二溶液に溶解した後、炭酸アルカリを添加して得た塩基性塩化アルミニウム第三溶液を熟成し、硫酸塩を添加してSO含有量(SO/Al(モル比))を0~0.35に調整することにより高塩基性塩化アルミニウムを製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6682714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、膜ろ過処理の前処理としての凝集処理には、ろ過時にろ過膜の表面や内部に付着し、逆洗では解消しないろ過膜の不可逆的な閉塞(膜ファウリング)を起こす物質を低減させることが求められる。
【0006】
しかし、上記従来の凝集剤の製造方法では、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤を簡便に得ることができなかった。
【0007】
そこで、本発明は、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤を簡便に製造する方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、ろ過膜の不可逆的な閉塞を抑制し得る水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、ろ過膜の閉塞物質を調査したところ、荷電中和されていないサブミクロンサイズ(0.5μm未満)の粒子により、逆洗では解消しないろ過膜の不可逆的な閉塞が生じていることを見出した。そこで、本発明者らは更に検討を重ね、塩基性塩化アルミニウム系凝集剤では、硫酸イオン(SO 2-)の濃度が高いとアルミニウム単核錯体やアルミニウム多核錯体等のアルミニウム核体同士が硫酸イオンにより架橋されて集塊化または粗大化するため、サブミクロンサイズの粒子を良好に荷電中和できないこと、および、硫酸イオンを除去することにより、集塊化または粗大化したアルミニウム核体を分散させてサブミクロンサイズの粒子に対する荷電中和力を向上させ得ることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の凝集剤の製造方法は、塩基性塩化アルミニウムと、水とを含む凝集剤原料を処理して凝集剤を製造する方法であって、前記処理が硫酸イオンの除去を含むことを特徴とする。塩基性塩化アルミニウムおよび水を含有する凝集剤原料から硫酸イオンを除去すれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤を簡便に得ることができる。
【0010】
ここで、本発明の凝集剤の製造方法は、前記硫酸イオンの除去を、Al換算のアルミニウム含有量に対する硫酸イオン含有量のモル比(=硫酸イオン含有量/Al換算のアルミニウム含有量)が0.2以下になるように行うことが好ましい。上述したモル比が上記上限値以下であれば、膜ろ過処理の前処理に用いた際にろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることが可能な凝集剤を得ることができる。
なお、本発明において、「アルミニウム含有量」は、JIS K0102に準拠し、ICP発光分光分析法を用いて測定することができ、「硫酸イオン含有量」は、JIS K0127に従い、イオンクロマトグラフ分析法で測定することができる。
【0011】
また、本発明の凝集剤の製造方法では、前記硫酸イオンの除去を、陰イオン交換、陰イオン吸着、沈殿固液分離、凝析、透析または膜分離により行うことができ、前記硫酸イオンの除去が、前記硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩として析出させて除去することを含むことが好ましい。硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩として析出させて除去すれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤をより簡便に得ることができる。
【0012】
更に、本発明の凝集剤の製造方法は、前記硫酸イオンの除去が電気透析を更に含むことが好ましい。電気透析も行えば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることが可能な凝集剤が得られる。
【0013】
そして、本発明の凝集剤の製造方法では、前記電気透析の後に前記アルカリ土類金属の硫酸塩を析出させることが好ましい。電気透析の後にアルカリ土類金属の硫酸塩の析出による硫酸イオンの除去を行えば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることが可能な凝集剤が得られる。
【0014】
また、本発明の凝集剤の製造方法は、前記処理がろ過を更に含むことが好ましい。ろ過も行えば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることが可能な凝集剤が得られる。
【0015】
更に、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の水処理方法は、上述した凝集剤の製造方法の何れかを用いて凝集剤を製造する工程と、得られた凝集剤を用いて被処理水を凝集処理する工程と、凝集処理された被処理水を膜ろ過する工程とを含むことを特徴とする。このように、上述した凝集剤の製造方法を用いて得た凝集剤を使用すれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を良好に抑制することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤を簡便に製造する方法を提供することができる。
また、本発明によれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を抑制し得る水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例および比較例について、ろ過時間と膜差圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の凝集剤の製造方法は、浄水場などの各種水処理施設において被処理水を凝集処理する際に用いる凝集剤の製造に用いることができる。中でも、本発明の凝集剤の製造方法に従い製造した凝集剤は、浄水場などの各種水処理施設において膜ろ過処理の前処理として被処理水を凝集処理する際に好適に用いることができる。
【0019】
(凝集剤の製造方法)
本発明の凝集剤の製造方法では、塩基性塩化アルミニウムと、水とを含む凝集剤原料を処理することにより、塩基性塩化アルミニウムおよび水を含み、任意に、凝集剤に配合され得る添加剤や、凝集剤の製造過程で生成または混入した微量成分等を更に含有し得る水溶液からなる凝集剤を製造する。そして、本発明の凝集剤の製造方法における凝集剤原料の処理としては、少なくとも硫酸イオンの除去を実施することを必要とし、任意に、硫酸イオンの除去以外の処理を更に実施し得る。このように塩基性塩化アルミニウムを含有する凝集剤原料から硫酸イオンを除去すれば、アルミニウム単核錯体やアルミニウム多核錯体等のアルミニウム核体同士が硫酸イオンにより架橋されて集塊化または粗大化するのを抑制することができる。従って、アルミニウム核体が良好に分散した、サブミクロンサイズの粒子に対する荷電中和力に優れる凝集剤を得ることができる。
【0020】
ここで、凝集剤原料としては、塩基性塩化アルミニウムと、水とを含み、任意に、凝集剤に配合され得る添加剤や、凝集剤原料の製造過程で生成または混入した微量成分等を更に含有し得る水溶液を使用し得る。具体的には、凝集剤原料としては、特に限定されることなく、既知の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法を用いて調製した水溶液を用いることができる。
【0021】
なお、塩基性塩化アルミニウムは、式:[Al(OH)・Cl6-n(但し、0<n<6)で表される化合物であり、水溶液中では、加水分解の過程で、塩基性かつ高い陽電荷を有する様々な形態のアルミニウム核体(例えば、アルミニウム単核錯体やアルミニウム多核錯体等)を生成する。
【0022】
そして、凝集剤原料としては、例えばJWWA(日本水道協会)規格に適合する水道用PAC(JWWA K154)や日本工業規格(JIS K1475-1996)に準拠する水道用PAC等の、市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤を用いてもよい。即ち、本発明の凝集剤の製造方法は、既存の凝集剤を改質して本発明の凝集剤を得る、凝集剤の改質方法であってもよい。
【0023】
また、凝集剤原料の性状は、特に限定されるものではない。例えば、凝集剤原料中のアルミニウム含有量は、特に限定されるものではないが、Al換算で、10質量%以上であることが好ましく、25質量%以下であることが好ましく、21質量%以下であることがより好ましい。アルミニウム含有量が上記範囲内であれば、被処理水を良好に凝集処理し得る凝集剤を製造できる。
【0024】
更に、凝集剤原料は、Al換算のアルミニウム含有量に対する硫酸イオン含有量のモル比が、通常、0.1超であり、0.3以上であってもよい。なお、硫酸イオンを容易に除去し、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤をより簡便に製造する観点からは、凝集剤原料は、Al換算のアルミニウム含有量に対する硫酸イオン含有量のモル比が、0.5以下であることが好ましい。
【0025】
硫酸イオンの除去は、陰イオン交換樹脂や陰イオン交換膜等を用いた陰イオン交換;陰イオン吸着材等を用いた陰イオン吸着;沈殿固液分離;凝析;電気透析等の透析;逆浸透膜(RO膜)等を用いた膜分離、または、これらの2種以上の組み合わせ等の任意の方法を用いて行うことができる。中でも、硫酸イオンを簡便に除去できる観点から、硫酸イオンを硫酸塩として析出させて除去する方法が好ましく、硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩として析出させて除去する方法がより好ましい。そして、硫酸イオンは、塩化バリウム等のバリウム剤、または、塩化カルシウム等のカルシウム剤を凝集剤原料に添加し、硫酸バリウム塩または硫酸カルシウム塩として析出させて除去することが好ましく、塩化バリウム等のバリウム剤を凝集剤原料に添加して硫酸バリウム塩として析出させて除去することがより好ましい。
【0026】
ここで、硫酸塩は、特に限定されることなく、凝集剤原料と、バリウム剤やカルシウム剤などの薬剤とを常温下で混合することにより析出させることができる。なお、薬剤の混合および硫酸塩の形成を良好に進める観点からは、薬剤は、好ましくは8℃以上、より好ましくは15℃以上の温度で、均一に撹拌しながら添加することが好ましい。また、硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩として析出させる場合、バリウム剤やカルシウム剤などの薬剤は、凝集剤原料中の硫酸イオン含有量に対して、添加される薬剤中のアルカリ土類金属の量がモル比で0.3倍以上となるように添加することが好ましく、0.5倍以上となるように添加することがより好ましく、1.0倍以下となるように添加することが好ましく、0.8倍以下となるように添加することがより好ましい。
【0027】
なお、析出させた硫酸塩は、ろ過などの既知の方法を用いて除去することができる。
【0028】
そして、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることが可能な凝集剤を得る観点からは、硫酸イオンの除去は、Al換算のアルミニウム含有量に対する硫酸イオン含有量のモル比が0.2以下になるように行うことが好ましく、0.1以下になるように行うことがより好ましい。
【0029】
なお、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減し得る凝集剤を得る観点からは、硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩等の硫酸塩として析出させて除去する方法は、電気透析と組み合わせて硫酸イオンの除去に用いることが好ましい。中でも、バリウム剤やカルシウム剤などの薬剤を使用して硫酸イオンを硫酸塩として析出させる場合には特に、電気透析の後に硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩等の硫酸塩として析出させて除去することが好ましい。塩化バリウムや塩化カルシウム等の薬剤の添加に伴うイオン量の増加により電気透析の効率が低下するのを抑制し、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を低減し得る凝集剤を良好に得ることができるからである。
【0030】
ここで、電気透析は、特に限定されることなく、任意の電気透析装置を用いて行うことができる。また、特に限定されることなく、電気透析には、三価の陰イオンを通さない透析用の膜を用いることができる。そして、硫酸イオンの除去に電気透析を用いる場合には、通常、電気透析により得られた脱塩液から凝集剤を得る。即ち、本発明の製造方法における凝集剤原料の処理は、電気透析による脱塩処理を含み得る。
【0031】
なお、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減し得る凝集剤を得る観点からは、電気透析は、得られる脱塩液の電気伝導度が160mS/m以下になるまで行うことが好ましい。
【0032】
上記硫酸イオンの除去以外の処理としては、特に限定されることなく、ろ過を挙げることができる。中でも、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減し得る凝集剤を得る観点からは、硫酸イオンの除去以外の処理としては、少なくともろ過を実施することが好ましい。
【0033】
ここで、ろ過は、任意のろ過膜を用いて行うことができるが、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減し得る凝集剤を得る観点からは、孔径1μm以下のろ過膜を用いて行うことが好ましく、孔径0.5μm以下のろ過膜を用いて行うことがより好ましい。
【0034】
そして、ろ過は、硫酸イオンの除去の前に実施してもよいし、硫酸イオンの除去の後に実施してもよい。中でも、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減し得る凝集剤を得る観点からは、本発明の凝集剤の製造方法では、凝集剤原料の処理は、硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩等の硫酸塩として析出させることによる硫酸イオンの除去、ろ過、電気透析の順、或いは、電気透析、硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩等の硫酸塩として析出させることによる硫酸イオンの除去、ろ過の順で実施することが好ましく、電気透析、硫酸イオンをアルカリ土類金属の硫酸塩等の硫酸塩として析出させることによる硫酸イオンの除去、ろ過の順で実施することがより好ましい。
【0035】
なお、本発明の製造方法に従い製造された凝集剤中のアルミニウム含有量は、特に限定されるものではないが、Al換算で、10質量%以上であることが好ましく、25質量%以下であることが好ましく、21質量%以下であることがより好ましい。アルミニウム含有量が上記範囲内であれば、被処理水を良好に凝集処理し得る。
【0036】
また、本発明の製造方法に従い製造された凝集剤は、Al換算のアルミニウム含有量に対する硫酸イオン含有量のモル比が、0.2以下であることが好ましく、0.1以下であることがより好ましい。Al換算のアルミニウム含有量に対する硫酸イオン含有量のモル比が上記範囲内であれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることができる。
【0037】
(水処理方法)
本発明の水処理方法は、上述した本発明の凝集剤の製造方法を用いて凝集剤を製造する工程と、得られた凝集剤を用いて被処理水を凝集処理する工程と、凝集処理された被処理水を膜ろ過する工程とを含む。このように、本発明の凝集剤の製造方法を用いて製造した本発明の凝集剤を用いれば、膜ろ過の前に実施する凝集処理においてろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減することができるので、ろ過膜の不可逆的な閉塞による膜差圧の上昇を抑制し、被処理水を効率的に処理することができる。
【0038】
なお、凝集剤の調製は、凝集処理および膜ろ過を実施する水処理施設とは別の場所で行ってもよいが、例えば既存の水処理施設に硫酸イオン除去装置を設置する等して、凝集処理および膜ろ過を実施する場所(オンサイト)で行うことが好ましい。このように既存の水処理施設内の凝集剤注入設備に硫酸イオン除去装置を設置すれば、従来使用していた塩基性塩化アルミニウム系凝集剤を凝集剤原料として使用し、既存設備の大幅な改造を行うことなく、本発明の凝集剤を調製して水処理を行うことができる。
【0039】
また、凝集処理は、特に限定されることなく、膜ろ過の前処理として実施され得る任意の方法を用いて行うことができる。
【0040】
更に、膜ろ過は、特に限定されることなく、定期的に物理洗浄を実施する任意の方法を用いて行うことができる。
【実施例0041】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、凝集剤原料および凝集剤中のアルミニウム含有量および硫酸イオン含有量は、以下の方法で測定した。
【0042】
<アルミニウム含有量>
凝集剤原料および凝集剤中のアルミニウム含有量は、ICP発光分光分析装置(Thermo Scientific社製、iCAP 7400 Duo)を用いて測定した。
<硫酸イオン含有量>
凝集剤原料および凝集剤中の硫酸イオン含有量は、イオンクロマトグラフシステム(SHIMADZU社製、HIC-20A SUPER)を用いて測定した。
【0043】
(実施例1)
凝集剤原料としての市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)に対し、温度20℃で、塩化バリウム(BaCl)を塩基性塩化アルミニウム系凝集剤中の硫酸イオン含有量に対するモル比が0.8となるように添加し、撹拌して硫酸バリウム(BaSO)の沈殿を形成させた。次に、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液からなる凝集剤を得た。
そして、凝集剤原料および凝集剤中のアルミニウム含有量および硫酸イオン含有量を測定した。結果を表1に示す。
次に、被処理水としての実河川水に対し、調製した凝集剤を濃度が1.5mg-Al/Lとなるように添加し、インライン混合ののち膜ろ過を行った。なお、ろ過膜としては旭化成社製のポリフッ化ビニリデン膜(膜孔径0.1μm)を使用し、膜ろ過は、1.5m/日のろ過流束で、ろ過水を用いたポンプによる逆洗(流量:2.25m/d、時間:4分)を30分毎に実施しつつ行った。そして、ろ過時間と膜差圧との関係を求めた。結果を図1に示す。
【0044】
(実施例2)
以下のようにして調製した凝集剤を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1および図1に示す。
<凝集剤の調製>
凝集剤原料としての市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)に対し、温度20℃で、塩化バリウム(BaCl)を塩基性塩化アルミニウム系凝集剤中の硫酸イオン含有量に対するモル比が0.8となるように添加し、撹拌して硫酸バリウム(BaSO)の沈殿を形成させた。次に、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過し、得られたろ液を脱塩液の電気電導度が160mS/m以下になるまで電気透析し、脱塩液からなる凝集剤を得た。
【0045】
(実施例3)
以下のようにして調製した凝集剤を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1および図1に示す。
<凝集剤の調製>
凝集剤原料としての市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)を脱塩液の電気電導度が160mS/m以下になるまで電気透析した。そして、得られた脱塩液に対し、温度20℃で、塩化バリウム(BaCl)を脱塩液中の硫酸イオン含有量に対するモル比が0.8となるように添加し、撹拌して硫酸バリウム(BaSO)の沈殿を形成させた。次に、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液からなる凝集剤を得た。
【0046】
(比較例1)
市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)をそのまま凝集剤として用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1および図1に示す。
【0047】
(比較例2)
以下のようにして調製した凝集剤を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1および図1に示す。
<凝集剤の調製>
凝集剤原料としての市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)を孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液からなる凝集剤を得た。
【0048】
【表1】
【0049】
図1より、実施例1~3では比較例1,2よりも膜差圧の上昇を抑制できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤を簡便に製造する方法を提供することができる。
また、本発明によれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を抑制し得る水処理方法を提供することができる。
図1