(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160213
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】凝集剤およびその製造方法、並びに、水処理方法
(51)【国際特許分類】
B01D 21/01 20060101AFI20231026BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20231026BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20231026BHJP
C02F 1/52 20230101ALI20231026BHJP
B01D 61/54 20060101ALI20231026BHJP
C01F 7/57 20220101ALI20231026BHJP
【FI】
B01D21/01 102
B01D61/44 500
C02F1/44 D
B01D21/01 101A
C02F1/52 Z
B01D61/54
C01F7/57
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070389
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】507214083
【氏名又は名称】メタウォーター株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】599011687
【氏名又は名称】学校法人 中央大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(72)【発明者】
【氏名】青木 伸浩
(72)【発明者】
【氏名】村田 直樹
(72)【発明者】
【氏名】山村 寛
(72)【発明者】
【氏名】丁 青
【テーマコード(参考)】
4D006
4D015
4G076
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA07
4D006GA13
4D006GA17
4D006KA02
4D006KA03
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4G076AA06
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4G076AB10
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4G076BC10
4G076BD06
4G076BG01
4G076CA14
4G076CA40
4G076DA28
(57)【要約】
【課題】ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤を提供する。
【解決手段】塩基性塩化アルミニウムと、水とを含み、全Al核体中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合の合計が、80%以上である、凝集剤。塩基性塩化アルミニウムと、水とを含む凝集剤原料を処理して凝集剤を製造する方法であって、凝集剤原料の処理がAl核体高分子化手段を用いた処理を含む、凝集剤の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基性塩化アルミニウムと、水とを含み、
全Al核体中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合の合計が、80%以上である、凝集剤。
【請求項2】
アルミニウム含有量が、Al2O3換算で、10質量%以上25質量%以下である、請求項1に記載の凝集剤。
【請求項3】
硫酸イオン濃度が1.00質量%以下である、請求項1に記載の凝集剤。
【請求項4】
Al2O3換算のアルミニウム含有量に対する、リチウム含有量、ナトリウム含有量およびカリウム含有量の合計のモル比が、0.0005以上0.2以下である、請求項1に記載の凝集剤。
【請求項5】
Al2O3換算のアルミニウム含有量に対する、ベリリウム含有量、マグネシウム含有量およびカルシウム含有量の合計のモル比が、0.0005以上0.3以下である、請求項1に記載の凝集剤。
【請求項6】
Al2O3換算のアルミニウム含有量に対するケイ素含有量のモル比が、0.0001以上0.0005以下である、請求項1に記載の凝集剤。
【請求項7】
塩基性塩化アルミニウムと、水とを含む凝集剤原料を処理して請求項1~6の何れかに記載の凝集剤を製造する方法であって、
前記処理がAl核体高分子化手段を用いた処理を含む、凝集剤の製造方法。
【請求項8】
前記Al核体高分子化手段が電気透析である、請求項7に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項9】
前記電気透析を、電気伝導度が160mS/m以下になるまで行う、請求項8に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項10】
前記処理がろ過を更に含む、請求項7に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項11】
前記処理が硫酸イオンの除去を更に含む、請求項7に記載の凝集剤の製造方法。
【請求項12】
請求項7に記載の凝集剤の製造方法を用いて凝集剤を製造する工程と、
得られた凝集剤を用いて被処理水を凝集処理する工程と、
凝集処理された被処理水を膜ろ過する工程と、
を含む、水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凝集剤および凝集剤の製造方法、並びに、水処理方法に関し、特には、膜ろ過処理に供される被処理水の前処理に好適に使用し得る凝集剤およびその製造方法、並びに、当該凝集剤を用いた水処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、浄水場などの各種水処理施設では、被処理水をろ過膜でろ過する膜ろ過処理が用いられている。そして、膜ろ過処理を含む水処理プロセスでは、膜ろ過装置の安全運転および処理水の水質向上のため、膜ろ過処理の前処理としてポリ塩化アルミニウム(塩基性塩化アルミニウム)を凝集剤として用いた被処理水の凝集処理が行われている。
【0003】
ここで、例えば特許文献1には、優れた凝集性および保存安定性を有する凝集剤として、硫酸根を0.5~3.5質量%の量で含み、且つ、27Al-NMR測定において、-4~-2ppm、-1~0.3ppm、0.3~1ppm、3~6ppm、8~13ppmおよび60~65ppmでの化学シフトの積分値を、それぞれ、AS、A0、A1、A4、A10、A13とし、検出されなかった高重合度ポリマーの積分値をApとしたとき、AS+A0+A1+A4+A10+A13+Ap=Σと表記して下記条件;
0%≦(AS/Σ)×100<0.1%
100%>(A1/Σ)×100≧19%
13.7%≦(A4/Σ)×100≦20.0%
0%≦(A10/Σ)×100≦7%
0%≦(A13/Σ)×100≦0.1%
を満足し、更に塩基度が45~80%の範囲にある、硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液が開示されている。
【0004】
そして、特許文献1では、塩基度が35~63%の塩基性塩化アルミニウム水溶液とアルミン酸ソーダとを反応させて得た前駆体に硫酸アルミニウムを用いて硫酸根を導入することにより、硫酸根変性塩基性塩化アルミニウム水溶液を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、膜ろ過処理の前処理としての凝集処理には、ろ過時にろ過膜の表面や内部に付着し、逆洗では解消しないろ過膜の不可逆的な閉塞(膜ファウリング)を起こす物質を低減させることが求められる。
【0007】
そこで、本発明は、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤を提供することを目的とする。
また、本発明は、ろ過膜の不可逆的な閉塞を抑制し得る水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者らは、ろ過膜の閉塞物質を調査したところ、アルミニウム単核錯体やアルミニウム多核錯体等の凝集剤由来のアルミニウム化合物(以下、「Al核体」と称することがある。)のうち低分子量のAl核体および荷電中和されていないサブミクロンサイズ(0.5μm未満)の粒子により、逆洗では解消しないろ過膜の不可逆的な閉塞が生じていることを見出した。そこで、本発明者らは更に検討を重ね、所定のAl核体を所定の割合で含有する塩基性塩化アルミニウム水溶液であればろ過膜の不可逆的な閉塞を良好に抑制し得ること、および、当該塩基性塩化アルミニウム水溶液は電気透析などのAl核体高分子化手段により容易に得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の凝集剤は、塩基性塩化アルミニウムと、水とを含み、全Al核体中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合の合計が、80%以上であることを特徴とする。全Al核体中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合の合計(={(Alb核体+Alc核体)/全Al核体}×100%)が80%以上であれば、膜ろ過処理の前処理に用いた際に、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることができる。
本発明において、全Al核体は、Ala核体、Alb核体およびAlc核体(以下「各Al核体」という)からなり、Ala核体は、モノマーまたはオリゴマーである、6量体未満のAl核体であり、Alb核体は、6量体以上30量体以下のAl核体であり、Alc核体は、ゾル体、ゲル体または固体である、30量体を超えるAl核体である。ここで、各Al核体の定量方法としては、例えば、フェロン(8-ヒドロキシ-7-ヨードキノリン-5-スルホン酸;C9H6INO4S)と各Al核体の反応速度の違いから各Al核体の存在割合を分析する手法である、フェロン法を用いることができる。このフェロン法によれば、温度20℃において、フェロンと1分以内に反応したAl核体をAla核体とし、1分超120分以下の間にフェロンと反応したAl核体をAlb核体とし、120分を超えてもフェロンと反応しないAl核体をAlc核体とすることができる。
【0010】
ここで、本発明の凝集剤は、アルミニウム含有量が、Al2O3換算で、10質量%以上25質量%以下であることが好ましい。アルミニウム含有量が上記範囲内であれば、被処理水を良好に凝集処理することができる。
なお、本発明において、「アルミニウム含有量」は、JIS K0102に準拠し、ICP発光分光分析法を用いて測定することができる。
【0011】
また、本発明の凝集剤は、硫酸イオン濃度が1.00質量%以下であることが好ましい。硫酸イオン濃度が上記上限値以下であれば、膜ろ過処理の前処理に用いた際に、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることができる。
なお、本発明において、「硫酸イオン濃度」は、JIS K0127に従い、イオンクロマトグラフ分析法で測定することができる。
【0012】
更に、本発明の凝集剤は、Al2O3換算のアルミニウム含有量に対する、リチウム含有量、ナトリウム含有量およびカリウム含有量の合計のモル比(=(リチウム含有量+ナトリウム含有量+カリウム含有量)/Al2O3換算のアルミニウム含有量)が、0.0005以上0.2以下であることが好ましい。上述したモル比が上記範囲内であれば、膜ろ過処理の前処理に用いた際に、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることができる。
なお、本発明において、「リチウム含有量」、「ナトリウム含有量」および「カリウム含有量」は、JIS K0102に準拠し、ICP発光分光分析法を用いて測定することができる。
【0013】
また、本発明の凝集剤は、Al2O3換算のアルミニウム含有量に対する、ベリリウム含有量、マグネシウム含有量およびカルシウム含有量の合計のモル比(=(ベリリウム含有量+マグネシウム含有量+カルシウム含有量)/Al2O3換算のアルミニウム含有量)が、0.0005以上0.3以下であることが好ましい。上述したモル比が上記範囲内であれば、膜ろ過処理の前処理に用いた際に、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることができる。
なお、本発明において、「ベリリウム含有量」、「マグネシウム含有量」および「カルシウム含有量」は、JIS K0102に準拠し、ICP発光分光分析法を用いて測定することができる。
【0014】
そして、本発明の凝集剤は、Al2O3換算のアルミニウム含有量に対するケイ素含有量のモル比(=ケイ素含有量/Al2O3換算のアルミニウム含有量)が、0.0001以上0.0005以下であることが好ましい。上述したモル比が上記範囲内であれば、膜ろ過処理の前処理に用いた際に、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることができる。
なお、本発明において、「ケイ素含有量」は、JIS K0102に準拠し、ICP発光分光分析法を用いて測定することができる。
【0015】
また、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の凝集剤の製造方法は、塩基性塩化アルミニウムと、水とを含む凝集剤原料を処理して上述した凝集剤の何れかを製造する方法であって、前記処理がAl核体高分子化手段を用いた処理を含むことを特徴とする。Al核体高分子化手段を用いれば、Alb核体の割合およびAlc核体の割合を高め、上述した凝集剤を容易に得ることができる。
【0016】
ここで、本発明の凝集剤の製造方法では、前記Al核体高分子化手段が電気透析であることが好ましい。電気透析を用いれば、Alb核体の割合およびAlc核体の割合を容易に高めることができる。
【0017】
なお、本発明の凝集剤の製造方法では、前記電気透析を、電気伝導度が160mS/m以下になるまで行うことが好ましい。電気伝導度が160mS/m以下になるまで電気透析を行えば、Alb核体の割合およびAlc核体の割合を十分に高めることができる。
【0018】
また、本発明の凝集剤の製造方法は、前記処理がろ過を更に含むことが好ましい。ろ過も行えば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることが可能な凝集剤が得られる。
【0019】
更に、本発明の凝集剤の製造方法は、前記処理が硫酸イオンの除去を更に含むことが好ましい。硫酸イオンを除去すれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることが可能な凝集剤が得られる。
【0020】
そして、この発明は上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の水処理方法は、上述した凝集剤の製造方法の何れかを用いて凝集剤を製造する工程と、得られた凝集剤を用いて被処理水を凝集処理する工程と、凝集処理された被処理水を膜ろ過する工程とを含むことを特徴とする。このように、上述した凝集剤の製造方法を用いて得た凝集剤を使用すれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を良好に抑制することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減させることが可能な凝集剤を提供することができる。
また、本発明によれば、ろ過膜の不可逆的な閉塞を抑制し得る水処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例および比較例について、ろ過時間と膜差圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の凝集剤は、浄水場などの各種水処理施設において被処理水を凝集処理する際に用いることができる。中でも、本発明の凝集剤は、浄水場などの各種水処理施設において膜ろ過処理の前処理として被処理水を凝集処理する際に好適に用いることができる。そして、本発明の凝集剤は、特に限定されることなく、例えば本発明の凝集剤の製造方法を用いて製造することができる。
【0024】
(凝集剤)
本発明の凝集剤は、塩基性塩化アルミニウムと、水とを含み、任意に、凝集剤に配合され得る添加剤や、凝集剤の製造過程で生成または混入した微量成分等を更に含有し得る水溶液である。
【0025】
ここで、塩基性塩化アルミニウムは、式:[Al2(OH)n・Cl6-n]m(但し、0<n<6)で表される化合物であり、水溶液中では、加水分解の過程で、塩基性かつ高い陽電荷を有する様々な形態のAl核体(例えば、アルミニウム単核錯体やアルミニウム多核錯体等)を生成する。
【0026】
そして、本発明の凝集剤は、温度20℃でフェロンと反応させた際の反応時間に応じてAl核体を以下の3種類:
Ala核体:1分以下の間にフェロンと反応するAl核体
Alb核体:1分超120分以下の間にフェロンと反応するAl核体
Alc核体:120分を超えてもフェロンと反応しないAl核体
に分類した際に、全Al核体中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合の合計が、80%以上であることが必要であり、82%以上であることが好ましい。換言すれば、凝集剤中のAla核体の割合は、20%以下であり、18%以下であることが好ましい。
【0027】
逆洗では解消しないろ過膜の不可逆的な閉塞は、低分子量のAl核体の一部および荷電中和されていないサブミクロンサイズ(0.5μm未満)の粒子により生じ得るところ、Alb核体の割合およびAlc核体の割合の合計が上記下限値以上であれば、凝集剤を用いて被処理水を凝集処理して得られる凝集処理水中の低分子量のAl核体の量および荷電中和されていないサブミクロンサイズ(0.5μm未満)の粒子の量を十分に低減することができる。従って、ろ過膜の不可逆的な閉塞の発生を抑制することができる。
なお、本発明の凝集剤において、全Al核体中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合の合計の上限値は、特に限定されるものではないが、通常は95%以下である。そして、凝集剤中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合は、凝集剤の調製条件(例えば、後述する電気透析の時間など)を変更することにより調整することができ、例えば電気透析時間を長くすれば、Alb核体の割合およびAlc核体の割合を高めることができる。
【0028】
ここで、本発明の凝集剤のアルミニウム含有量は、特に限定されるものではないが、Al2O3換算で、10質量%以上であることが好ましく、13質量%以上であることがより好ましく、25質量%以下であることが好ましく、21質量%以下であることがより好ましい。アルミニウム含有量が上記範囲内であれば、被処理水を良好に凝集処理することができる。
【0029】
また、本発明の凝集剤は、アルカリ金属やアルカリ土類金属の含有量が少ないことが好ましい。
【0030】
具体的には、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させる観点からは、Al2O3換算のアルミニウム含有量に対する、リチウム含有量、ナトリウム含有量およびカリウム含有量の合計のモル比が、0.0005以上であることが好ましく、0.0008以上であることがより好ましく、0.2以下であることが好ましく、0.192以下であることがより好ましい。
【0031】
また、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させる観点からは、Al2O3換算のアルミニウム含有量に対するナトリウム含有量のモル比(=ナトリウム含有量/Al2O3換算のアルミニウム含有量)は、0.15以上0.19以下であることが好ましい。
【0032】
更に、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させる観点からは、Al2O3換算のアルミニウム含有量に対する、ベリリウム含有量、マグネシウム含有量およびカルシウム含有量の合計のモル比が、0.0005以上であることが好ましく、0.0010以上であることがより好ましく、0.3以下であることが好ましく、0.275以下であることがより好ましい。
【0033】
また、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させる観点からは、Al2O3換算のアルミニウム含有量に対するマグネシウム含有量のモル比(=マグネシウム含有量/Al2O3換算のアルミニウム含有量)は、0.009以上0.016以下であることが好ましい。
【0034】
そして、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させる観点からは、Al2O3換算のアルミニウム含有量に対するケイ素含有量のモル比が、0.0001以上であることが好ましく、0.0002以上であることがより好ましく、0.0005以下であることが好ましい。
【0035】
また、本発明の凝集剤は、硫酸イオン濃度が1.00質量%以下であることが好ましく、0.95質量%以下であることがより好ましい。硫酸イオン濃度が上記上限値以下であれば、膜ろ過処理の前処理に用いた際に、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減させることができる。
【0036】
更に、本発明の凝集剤は、Al2O3換算のアルミニウム含有量に対する塩化物イオン含有量のモル比が、2.5以上であることが好ましく、2.6以上であることがより好ましく、3.0以下であることが好ましく。2.9以下であることがより好ましい。
【0037】
(凝集剤の製造方法)
本発明の凝集剤の製造方法では、塩基性塩化アルミニウムと、水とを含む凝集剤原料を処理して上述した本発明の凝集剤を製造する。そして、本発明の凝集剤の製造方法における凝集剤原料の処理としては、少なくともAl核体高分子化手段を用いた処理を実施することを必要とし、任意に、Al核体高分子化手段を用いた処理以外の処理を更に実施し得る。このようにAl核体高分子化手段を用いれば、Alb核体の割合およびAlc核体の割合を高め、上述した凝集剤を容易に得ることができる。
【0038】
ここで、凝集剤原料としては、塩基性塩化アルミニウムと、水とを含み、任意に、凝集剤に配合され得る添加剤や、凝集剤原料の製造過程で生成または混入した微量成分等を更に含有し得る水溶液を使用し得る。具体的には、凝集剤原料としては、特に限定されることなく、既知の塩基性塩化アルミニウム水溶液の製造方法を用いて調製した水溶液を用いることができる。
【0039】
なお、凝集剤原料としては、例えばJWWA(日本水道協会)規格に適合する水道用PAC(JWWA K154)や日本工業規格(JIS K1475-1996)に準拠する水道用PAC等の、市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤を用いてもよい。即ち、本発明の凝集剤の製造方法は、既存の凝集剤を改質して本発明の凝集剤を得る、凝集剤の改質方法であってもよい。
【0040】
また、凝集剤原料の性状は、特に限定されるものではない。例えば、凝集剤原料中の各Al核体の割合、アルミニウム含有量、リチウム含有量、ナトリウム含有量、カリウム含有量、ベリリウム含有量、マグネシウム含有量、カルシウム含有量、ケイ素含有量、硫酸イオン濃度および塩化物イオン含有量は、本発明の凝集剤に関して上述した範囲に入っていてもよいし、上述した範囲外であってもよい。中でも、凝集剤原料は、全Al核体中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合の合計が80%未満であることが好ましく、各Al核体の割合、アルミニウム含有量、リチウム含有量、ナトリウム含有量、カリウム含有量、ベリリウム含有量、マグネシウム含有量、カルシウム含有量、ケイ素含有量、硫酸イオン濃度および塩化物イオン含有量の全てが本発明の凝集剤に関して上述した範囲外であることがより好ましい。
【0041】
Al核体高分子化手段としては、Al核体を高分子量化させて全Al核体中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合を高めることができれば特に限定されることなく、例えば、電気透析、イオン交換、イオン吸着、電気透析以外の透析、逆浸透膜(RO膜)を用いた膜分離等を用いることができる。中でも、Al核体高分子化手段としては、陰イオンを除去し得る手段を用いることが好ましく、電気透析、陰イオン交換または陰イオン吸着を用いることがより好ましく、電気透析を用いることが更に好ましい。
【0042】
ここで、電気透析は、特に限定されることなく、任意の電気透析装置を用いて行うことができる。また、特に限定されることなく、電気透析には、三価の陰イオンを通さない透析用の膜を用いることができる。そして、本発明の製造方法では、通常、電気透析により得られた脱塩液から凝集剤を得る。即ち、本発明の製造方法における凝集剤原料の処理は、電気透析による脱塩処理を含み得る。
【0043】
なお、Alb核体の割合およびAlc核体の割合を十分に高める観点からは、電気透析は、得られる脱塩液の電気伝導度が160mS/m以下になるまで行うことが好ましい。
【0044】
また、イオン交換は、陰イオン交換樹脂等のイオン交換樹脂や、陰イオン交換膜等のイオン交換膜などのイオン交換材を用いて行うことができる。
更に、イオン吸着は、陰イオン吸着材などのイオン吸着材を用いて行うことができる。
そして、電気透析以外の透析およびRO膜を用いた膜分離も、それぞれ、既知の透析装置および膜分離装置を用いて行うことができる。
【0045】
上記Al核体高分子化手段を用いた処理以外の処理としては、特に限定されることなく、ろ過および硫酸イオンの除去を挙げることができる。中でも、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減し得る凝集剤を得る観点からは、電気透析以外の処理としては、少なくともろ過を実施することが好ましく、ろ過および硫酸イオンの除去の双方を実施することがより好ましい。
【0046】
ここで、ろ過は、任意のろ過膜を用いて行うことができるが、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減し得る凝集剤を得る観点からは、孔径1μm以下のろ過膜を用いて行うことが好ましく、孔径0.5μm以下のろ過膜を用いて行うことがより好ましい。
【0047】
硫酸イオンの除去は、任意の方法を用いて行うことができるが、中でも硫酸塩として析出させて除去する方法が好ましく、塩化バリウム等のバリウム剤を用いて硫酸バリウムとして析出させて除去する方法がより好ましい。なお、析出させた硫酸塩は、ろ過などの既知の方法を用いて除去することができる。
【0048】
そして、上述したAl核体高分子化手段を用いた処理以外の処理は、Al核体高分子化手段を用いた処理の前に実施してもよいし、Al核体高分子化手段を用いた処理の後に実施してもよいが、ろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を更に低減し得る凝集剤を得る観点からは、Al核体高分子化手段を用いた処理の後に実施することが好ましく、Al核体高分子化手段を用いた処理、硫酸イオンの除去、ろ過の順で実施することがより好ましい。
【0049】
(水処理方法)
本発明の水処理方法は、上述した本発明の凝集剤の製造方法を用いて凝集剤を製造する工程と、得られた凝集剤を用いて被処理水を凝集処理する工程と、凝集処理された被処理水を膜ろ過する工程とを含む。このように、本発明の凝集剤の製造方法を用いて製造した本発明の凝集剤を用いれば、膜ろ過の前に実施する凝集処理においてろ過膜の不可逆的な閉塞を起こす物質を十分に低減することができるので、ろ過膜の不可逆的な閉塞による膜差圧の上昇を抑制し、被処理水を効率的に処理することができる。
【0050】
なお、凝集剤の調製は、凝集処理および膜ろ過を実施する水処理施設とは別の場所で行ってもよいが、例えば既存の水処理施設に電気透析装置を設置する等して、凝集処理および膜ろ過を実施する場所(オンサイト)で行うことが好ましい。このように既存の水処理施設に電気透析装置を設置すれば、従来使用していた塩基性塩化アルミニウム系凝集剤を凝集剤原料として使用し、既存設備の大幅な改造を行うことなく、本発明の凝集剤を調製して水処理を行うことができる。
【0051】
また、凝集処理は、特に限定されることなく、膜ろ過の前処理として実施され得る任意の方法を用いて行うことができる。
【0052】
更に、膜ろ過は、特に限定されることなく、定期的にろ過膜の物理洗浄を実施する任意の方法を用いて行うことができる。
【実施例0053】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
なお、実施例および比較例において、凝集剤中の各Al核体の割合、各元素の含有量および各イオンの濃度は、以下の方法で測定した。
【0054】
<各Al核体の割合>
フェロン試薬と、測定対象の凝集剤を以下の方法で調製した。
まず、フェロン(富士フイルム和光純薬製、090-02042)2gを1020mLの超純水(MQ水)に溶解し、CO2除去の為に煮沸して試薬A(0.2w/v%フェロン)を得た。
次に、酢酸ナトリウム(富士フイルム和光純薬製、192-01075)200gを1LのMQ水に溶解し、試薬B(20w/v%酢酸ナトリウム)を得た。
更に、濃度37%の塩酸(富士フイルム和光純薬製、080-01066)100mLを900mLのMQ水と混合し、試薬C(1:9(体積比)塩酸)を得た。
そして、試薬A:試薬B:試薬C =2.5:2:1(体積比)の割合で混合し、フェロン試薬を得た。
また、測定対象の凝集剤は、Al濃度が0.005mol/LになるようにMQ水で希釈した。
希釈した凝集剤1mLを5.5mLのフェロン試薬と18.5mLのMQ水に混合し、温度20℃において、10秒間撹拌した。その後、1分後および120分後の吸光度(波長:360nm)を分光光度計(HITACHI社製、U-3900)にて測定し、それぞれの吸光度からAla核体の量およびAlb核体の量を求めた。
また、MQ水で希釈した凝集剤のpHを硝酸で0.5に調整し、温度85℃にて3時間加熱することにより、凝集剤に含まれるAlb核体およびAlc核体をAla核体に分解させた凝集剤分解物を得た。そして、温度20℃において、凝集剤分解物1mLを5.5mLのフェロン試薬と18.5mLのMQ水に混合し、温度20℃において、10秒間撹拌した。その後、1分後の吸光度(波長:360nm)を分光光度計(HITACHI社製、U-3900)にて測定し、吸光度から求められた凝集剤分解物中のAla核体の量を凝集剤中の全Al核体(Ala核体+Alb核体+Alc核体)の量とした。
そして、測定により得られた全Al核体の量、Ala核体の量およびAlb核体の量から、全Al核体中のAlb核体の割合およびAlc核体の割合の合計(={(全Al核体の量-Ala核体の量)/全Al核体の量}×100%)を算出した。
<各元素含有量>
凝集剤中のアルミニウム含有量、リチウム含有量、ナトリウム含有量、カリウム含有量、ベリリウム含有量、マグネシウム含有量、カルシウム含有量およびケイ素含有量は、ICP発光分光分析装置(Thermo Scientific社製、iCAP 7400 Duo)を用いて測定した。
<各イオンの濃度>
凝集剤中の硫酸イオン濃度および塩化物イオン濃度は、イオンクロマトグラフシステム(SHIMADZU社製、HIC-20A SUPER)を用いて測定した。
【0055】
(実施例1)
凝集剤原料としての市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)を脱塩液の電気電導度が160mS/m以下になるまで電気透析し、凝集剤を得た。そして、凝集剤中の各Al核体の割合、各元素の含有量および各イオンの濃度を測定した。結果を表1に示す。
次に、被処理水としての実河川水に対し、調製した凝集剤を濃度が1.5mg-Al/Lとなるように添加し、インライン混合ののち膜ろ過を行った。なお、ろ過膜としては旭化成社製のポリフッ化ビニリデン膜(膜孔径0.1μm)を使用し、膜ろ過は、1.5m/日のろ過流束で、ろ過水を用いたポンプによる逆洗(流量:2.25m/d、時間:4分)を30分毎に実施しつつ行った。そして、ろ過時間と膜差圧との関係を求めた。結果を
図1に示す。
【0056】
(実施例2)
以下のようにして調製した凝集剤を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1および
図1に示す。
<凝集剤の調製>
凝集剤原料としての市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)を脱塩液の電気電導度が160mS/m以下になるまで電気透析した後、脱塩液を孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過して凝集剤を得た。
【0057】
(実施例3)
以下のようにして調製した凝集剤を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1および
図1に示す。
<凝集剤の調製>
凝集剤原料としての市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)に対し、温度20℃で、塩化バリウム(BaCl
2)を塩基性塩化アルミニウム系凝集剤中の硫酸イオン含有量に対するモル比が0.8となるように添加し、撹拌して硫酸バリウム(BaSO
4)の沈殿を形成させた。次に、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過し、得られたろ液を脱塩液の電気電導度が160mS/m以下になるまで電気透析し、脱塩液からなる凝集剤を得た。
【0058】
(実施例4)
以下のようにして調製した凝集剤を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1および
図1に示す。
<凝集剤の調製>
凝集剤原料としての市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)を脱塩液の電気電導度が160mS/m以下になるまで電気透析した。そして、得られた脱塩液に対し、温度20℃)で、塩化バリウム(BaCl
2)を脱塩液中の硫酸イオン含有量に対するモル比が0.8となるように添加し、撹拌して硫酸バリウム(BaSO
4)の沈殿を形成させた。次に、孔径0.5μmのメンブレンフィルターでろ過し、ろ液からなる凝集剤を得た。
【0059】
(比較例1)
市販の塩基性塩化アルミニウム系凝集剤(樋江井商店製、水道用PACl)をそのまま凝集剤として用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。そして、実施例1と同様にして測定および評価を行った。結果を表1および
図1に示す。
【0060】
【0061】
図1より、実施例1~4では比較例1よりも膜差圧の上昇を抑制できることが分かる。