(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160230
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】低電圧バッテリ充電システム
(51)【国際特許分類】
H02M 7/48 20070101AFI20231026BHJP
【FI】
H02M7/48 E
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070429
(22)【出願日】2022-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】392029742
【氏名又は名称】田中 正一
(72)【発明者】
【氏名】田中 正一
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770BA02
5H770BA20
5H770CA06
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA27
5H770DA30
5H770DA41
5H770EA01
5H770EA27
(57)【要約】 (修正有)
【課題】使い勝手に優れた低電圧バッテリ充電システム備えたモータ駆動回路を提供する。
【解決手段】モータ駆動回路が有する3つのHブリッジからなる3相インバータ2は、互いに独立の3つのダブルエンデッド相コイル3U、3V、3Wをもつ車載3相モータを駆動する。3つのダブルエンデッド相コイルのうちの一部の相コイルだけが、整流器4及び充電スイッチ5を通じて低電圧バッテリ6にフリーホィーリング電流を供給する。これにより、複雑な回路構成を必要とすることなく、かつ、低電圧バッテリの充電時間を十分に確保することができる。また、モータトルクが要求されない条件下では、インバータは、モータトルクを発生しないようにステータコイルに電流を供給する。これにより、ステータコイルは、単なるインダクタンス負荷として作動し、低電圧バッテリを充電しつつフリーホィーリング電流を流す。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載3相モータのステータコイルに3相交流電流を供給する3相インバータと、この3相インバータに高電圧を印加する高電圧バッテリと、前記ステータコイルから供給されるフリーホィーリング電流を整流する整流器と、前記整流器により整流された前記フリーホィーリング電流により充電される低電圧バッテリと、前記低電圧バッテリへの前記フリーホィーリング電流の供給を遮断する充電スイッチと、前記3相インバータ及び前記充電スイッチを制御するコントローラとを備える低電圧バッテリ充電システムにおいて、
前記ステータコイルは、互いに独立する3つのダブルエンデッド相コイルからなり、
前記3相インバータは、前記3つのダブルエンデッド相コイルに別々に接続された3つのHブリッジからなり、
前記整流器は、前記3つのダブルエンデッド相コイルうちの一つから供給された所定相のフリーホィーリング電流だけを整流する単相整流器を有し、
前記充電スイッチは、前記単相整流器から前記低電圧バッテリに供給される充電電流を遮断することを特徴とする低電圧バッテリ充電システム。
【請求項2】
前記3相インバータは、前記車載3相モータによるモータトルク発生が要求されない条件下において、定常的なモータトルクを発生しない電流を前記車載モータへ供給する請求項1記載の低電圧バッテリ充電システム。
【請求項3】
車載3相モータのステータコイルに3相交流電流を供給する3相インバータと、この3相インバータに高電圧を印加する高電圧バッテリと、前記ステータコイルから供給されるフリーホィーリング電流を整流する整流器と、前記整流器により整流された前記フリーホィーリング電流により充電される低電圧バッテリと、前記低電圧バッテリへの前記フリーホィーリング電流の供給を遮断する充電スイッチと、前記3相インバータ及び前記充電スイッチを制御するコントローラとを備える低電圧バッテリ充電システムにおいて、
前記3相インバータは、前記車載3相モータによるモータトルク発生が要求されない条件下において、定常的なモータトルクを発生しない電流を前記車載モータへ供給する請求項1記載の低電圧バッテリ充電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低電圧バッテリ充電システムに関し、特に電動車用の低電圧バッテリ充電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
バッテリ電気自動車や電動モータバイクなどは、トラクションモータ給電用の高電圧バッテリと、制御電力などの低電圧負荷に給電用の低電圧バッテリとをもつ。給電ステーションの固定式充電器は高電圧バッテリを充電することができる。一般に、低電圧バッテリは、DCDCコンバータを通じて高電圧バッテリにより充電される。しかし、このDCDCコンバータはコスト及び重量の増加を招く。
【0003】
本出願人により出願された特許文献1は、トラクションモータ駆動用の3相PWMインバータを利用する低電圧バッテリ充電システムを提案する。一般に、3相PWMインバータはPWMサイクル周期毎にフリーホィーリング期間をもつ。このフリーホィーリング期間において、フリーホィーリング電流が、3相モータのステータコイルとインバータとの間の循環する。この低電圧バッテリ充電システムは、このフリーホィーリング電流を3相整流器及び充電スイッチを通じて低電圧バッテリに供給する。
【0004】
特許文献1の低電圧バッテリ充電システムは、低電圧バッテリの充電が許可される充電スイッチのオン期間において、高電圧バッテリの高電圧が整流器及び充電スイッチを通じて低電圧バッテリに印加されることを禁止する必要がある。このため、充電スイッチは、3相インバータの各レグがフリーホィーリング電流を流す期間にオンされる必要がある。
【0005】
言い換えれば、特許文献1において、充電スイッチがオンされる期間である充電許可期間は、3相インバータのすべてのレグがフリーホィーリング電流を流している期間内に配置される必要がある。しかしながら、3相インバータの各レグのフリーホィール期間の長さはそれぞれ異なる。特に、3相インバータの3つのレグがステータコイルの3つの相コイルに供給する3つの相電流の一つは常に他の2つよりも大きい振幅をもつ。これは、フリーホィーリング期間が相対的に短いことを意味する。結局、3つのレグのフリーホィール期間を一致させるタイミング制御を実行しても、低電圧バッテリ充電時間を確保することが簡単ではなかった。
【0006】
この問題を解決するために、モータ駆動よりも低電圧バッテリの充電を優先する制御も可能である。しかし、このような制御はモータの正常な運転を妨害する。
【0007】
さらに、この低電圧バッテリ充電システムは、モータに3相交流電流が供給されない電気自動車の停車時などにおいて、低電圧バッテリを充電できないという問題もあった。
【0008】
本出願人により出願された特許文献2は、互いに接続されない3つの相コイルに個別に接続された3つのHブリッジからなるデュアルインバータを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特願2019ー565652
【特許文献2】特願2020ー525258
【発明の概要】
【0010】
本発明は、使い勝手に優れた低電圧バッテリ充電システムを提供することをその目的としている。
【0011】
本発明の1つの様相によれば、互いに独立する3つのダブルエンデッド相コイルからなるステータコイルをもつ3相モータが採用される。3相インバータは、3つのダブルエンデッド相コイルに別々に接続された3つのHブリッジからなる。この3相インバータはデュアルインバータと呼ばれる。一つのダブルエンデッド相コイルのフリーホィーリング電流は単相整流器により整流された後、充電スイッチを通じて低電圧バッテリに供給される。
【0012】
この低電圧バッテリ充電システムによれば、単相整流器は一つの相コイルにだけ接続されるため、他の2つの相コイルに印加される高電圧バッテリの電圧の影響を受けない。言い換えれば、このシステムによれば、一つの相コイルにフリーホィーリング電流が流れる期間のすべてを、低電圧バッテリの充電が可能な期間として利用することができる。通常の車載3相モータのPWM法による運転において、一般的にほぼ正弦波電流が一つの相コイルに流れる。この正弦波電流は、給電期間に供給される電源電流と、フリーホィーリング期間に供給されるフリーホィーリング電流との和である。
【0013】
本発明のもう1つの様相によれば、車載3相モータによるモータトルク発生が要求されない条件下において、低電圧バッテリの充電が要求されるケースが想定される。このケースにおいて、3相インバータは、定常的なモータトルクを発生しない電流を車載モータへ供給する。これにより、車載モータが停止している期間においても、低電圧バッテリを充電することができる。
【0014】
この定常的なモータトルクを発生しない電流としては、たとえばモータ内にロータの回転に適した回転磁界を形成しない電流とされる。その他、ステータコイルの一つの相コイルのフリーホィーリング電流だけを低電圧バッテリの充電に用いる場合、高電圧バッテリはこの一つの相コイルだけを励磁する単相電流をこの一つの相コイルに供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は本発明の低電圧バッテリ充電システムの一例を示す配線図である。
【
図2】
図2は
図1に示されるデュアルインバータの上アーム導通PWM法を示すタイミングチャートである。
【
図3】
図3はU相PWM電圧の基本波成分とU相電流との波形を示す波形図である。
【
図4】
図4は
図1に示されるU相Hレグ及び充電スイッチの動作を示すタイミングチャートである。
【
図5】
図5は、位相期間P1の電流供給期間TXにおける電流の流れを示す回路図である。
【
図6】
図6は、位相期間P1のフリーホィーリング期間TFにおける電流の流れを示す回路図である。
【
図7】
図7は、位相期間P2の電流供給期間TXにおける電流の流れを示す回路図である。
【
図8】
図8は、位相期間P2のフリーホィーリング期間TFにおける電流の流れを示す回路図である。
【
図9】
図9は、位相期間P3の電流供給期間TXにおける電流の流れを示す回路図である。
【
図10】
図10は、位相期間P3のフリーホィーリング期間TFにおける電流の流れを示す回路図である。
【
図11】
図11は、位相期間P4の電流供給期間TXにおける電流の流れを示す回路図である。
【
図12】
図12は、位相期間P4のフリーホィーリング期間TFにおける電流の流れを示す回路図である。
【
図13】
図13は、コントローラによる低電圧バッテリ充電制御の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のバッテリ充電システムの好適な実施形態が図面を参照して説明される。
図1はこのバッテリ充電システムを採用する電気自動車のトラクションモータ駆動回路を示す配線図である。このモータ駆動回路は、高電圧バッテリ1、3相インバータ2、整流器4、充電スイッチ5、低電圧バッテリ6、及びコントローラ7を有する。
【0017】
3相インバータ2は、高電圧バッテリ1から供給された直流電力を3相交流電力に変換し、それを3相モータのステータコイルに供給する。このステータコイルはU相コイル2U、V相コイル2V、及びW相コイル2Wからなる。3つの相コイル2U、2V及び3Wは、互いに独立するダブルエンデッドコイルである。3相インバータ2は、3つの相コイル3U、3V及び3Wに別々に接続される3つのHブリッジからなる。3つのHブリッジからなるこのデュアルインバータは公知であり、更なる説明は省略される。
【0018】
U相のHブリッジは、U相コイル3Uに接続されるレグ1U及び2Uからなる。V相のHブリッジは、V相コイル3Vに接続されるレグ1V及び2Vからなる。W相のHブリッジは、W相コイル3Wに接続されるレグ1W及び2Wからなる。各Hブリッジの2つのレグは各相コイルの両端に別々に接続されている。
【0019】
レグ1Uは、直列接続された上アームスイッチ11及び下アームスイッチ12からなる。レグ2Uは、直列接続された上アームスイッチ21及び下アームスイッチ22からなる。レグ1Vは、直列接続された上アームスイッチ13及び下アームスイッチ14からなる。レグ2Vは、直列接続された上アームスイッチ23及び下アームスイッチ24からなる。レグ1Wは、直列接続された上アームスイッチ15及び下アームスイッチ16からなる。レグ2Wは、直列接続された上アームスイッチ25及び下アームスイッチ26からなる。
【0020】
U相コイル3Uの一端31は上アームスイッチ11と下アームスイッチ12との接続点に接続されている。U相コイル3Uの他端32は上アームスイッチ21と下アームスイッチ22との接続点に接続されている。各アームスイッチはたとえばIGBTと逆並列ダイオードとからなる。
【0021】
U相コイル3Uの両端31、32は、単相ダイオードブリッジである整流器4の交流入力端に別々に接続されている。これにより、整流器4はU相コイル3Uの電圧であるU相電圧を整流する。整流器4は、充電スイッチ5を通じて低電圧バッテリ6に充電電流ICを供給する。充電スイッチ5は、MOSトランジスタ51、52からなる。コントローラ7は、インバータ2及び充電スイッチ5を制御する。
【0022】
インバータ2による3相モータの一つの駆動制御例が
図2を参照して説明される。上アーム導通PWM法と呼ばれるこの駆動制御例によれば、3相インバータ2の3つのHブリッジはそれぞれ電位固定レグとPWMレグとをもつ。電位固定レグは、上アームスイッチが定常的にオンされているレグを意味する。したがって、電位固定レグの上アームは定常的にオンされ、その下アームスイッチは定常的にオフされている。PWMレグは、その上アームスイッチおよび下アームスイッチが相補的にPWM制御されるレグを意味する。3つのHブリッジの電位固定レグ及びPWMレグは電気角180度毎に交代される。各Hブリッジの交代タイミングは互いに電気角120度だけシフトしている。
【0023】
図2において、U相Hブリッジのレグ1Uは、電気角0度~180度において電位固定レグとなり、電気角180度~0度においてPWMレグとなる。U相Hブリッジのレグ2Uは、電気角0度~180度においてPWMレグとなり、電気角180度~0度において電位固定レグとなる。V相Hブリッジのレグ1Vは、電気角120度~300度において電位固定レグとなり、電気角300度~120度においてPWMレグとなる。V相Hブリッジのレグ2Vは、電気角120度~300度においてPWMレグとなり、電気角300度~120度において電位固定レグとなる。W相Hブリッジのレグ1Wは、電気角240度~60度において電位固定レグとなり、電気角60度~240度においてPWMレグとなる。U相Hブリッジのレグ2Wは、電気角240度~60度においてPWMレグとなり、電気角60度~240度において電位固定レグとなる。
【0024】
この上アーム導通PWM法により、PWM電圧であるU相電圧がU相コイル3Uに印加され、U相電流IUがU相コイル3Uに供給される。同様に、PWM電圧であるV相電圧がV相コイル3Vに印加され、V相電流IVがV相コイル3Vに供給される。PWM電圧であるW相電圧がW相コイル3Wに印加され、W相電流IWがW相コイル3Wに供給される。
【0025】
図3は、U相電圧の基本波成分VU及びU相電流IUの波形を示す。U相電圧の基本波成分VUがゼロとなる時点からU相電流IUがゼロとなる時点までの位相期間P1及び位相期間P3において、U相電流IUはU相電圧の基本波成分VUと逆方向に流れ、回生電流として高電圧バッテリ1を充電する。この上アーム導通PWM法は種々の利点をもつが、その説明は省略される。
【0026】
図4は、上アーム導通PWM法の1サイクル期間TCにおけるU相Hブリッジ及び充電スイッチ5の状態を示すタイミングチャートである。
図4において、レグ1Uは電位固定レグであり、レグ2UはPWMレグとして働いている。PWMキャリヤ周波数は10kHzであり、1サイクル周期TCは、100マイクロ秒である。サイクル周期TCの開始時点t0から所定時点t1までの位相期間TXにおいて、レグ2Uの下アームスイッチ22はオンされる。したがって、相補動作している上アームスイッチ21はオフされる。これにより、高電圧バッテリ1は上アームスイッチ11及び下アームスイッチ22を通じてU相コイル3UにU相電流IUを供給する。このため、位相期間TXは電流供給期間と呼ばれる。
【0027】
時点t1から次の1サイクル周期TCの開始時点t0までの位相期間TFにおいて、レグ2Uの下アームスイッチ22はオフされる。したがって、相補動作している上アームスイッチ21はオンされる。これにより、高電圧バッテリ1からU相コイル3Uに供給されるU相電流IUは遮断される。U相コイル3Uのインダクタンスは、フリーホィーリング電流Ifを上アームスイッチ11及び上アームスイッチ21を通じて循環させる。このため、位相期間TFはフリーホィーリング期間と呼ばれる。
【0028】
次に、低電圧バッテリ6の充電動作が
図4を参照して説明される。フリーホィーリング期間TF内の所定期間(t2~t9)において、充電スイッチ51、52がオンされる。しかし、U相フリーホィーリング電流Ifは上アームスイッチ11、21を通じて循環しているため、充電スイッチ51、52を流れることはない。
【0029】
次に、充電スイッチ51、52がオンしている期間(t2~t9)内に設定された充電期間(t3~t4)及び充電期間(t7~t8)において、上アームスイッチ11及び21がオフされる。これにより、フリーホィーリング電流Ifは、上アームスイッチ11及び21を通じて循環することができなくなる。その結果、フリーホィーリング電流Ifは、整流器4及び充電スイッチ51、52を通じて低電圧バッテリ6に流れ込み、低電圧バッテリ6を充電する。
【0030】
結局、充電スイッチ5のオン期間(t2~t9)内に配置された充電期間(t3~t4、t7~t8)において、U相コイル3Uのフリーホィーリング電流Ifは整流器4及び充電スイッチ5を通じて低電圧バッテリ6を充電する。上アームスイッチ11、21がオフされる充電期間の数及び長さは、充電スイッチ5のオン期間(t2~t9)内に設けられる限り、適宜決定することができる。
【0031】
U相電圧の基本波成分VUとU相電流IUの状態が
図5~
図12を参照して説明される。PWM制御されるU相Hブリッジの1サイクル期間TCは、
図3に示されるように4つの位相期間P1、P2、P3、P4に分割される。これら4つの位相期間(P1~P4)において、各サイクル期間TCはそれぞれ電流供給期間TXとフリーホィーリング期間TFとをもつことが普通である。
【0032】
図5は、位相期間P1における電流供給期間TXを示す。U相コイル3Uのインダクタンスに蓄積された磁気エネルギー及びU相コイル3Uに誘起される逆起電力Vaは高電圧バッテリ1に回生電流IRを流す。この回生電流IRは負の電源電流である。
【0033】
図6は、位相期間P1におけるフリーホィーリング期間TFを示す。U相コイル3Uのインダクタンスに蓄積された磁気エネルギー及びU相コイル3Uに誘起される逆起電力Vaは上アームスイッチ11、21を通じて循環する。したがって、上アームスイッチ11、21がオフされる時、フリーホィーリング電流Ifは低電圧バッテリ6に流れ込む。
【0034】
図7は、位相期間P2における電流供給期間TXを示す。電位固定レグ1Uの上アームスイッチ11は常時オンしており、PWMレグ2Uの下アームスイッチ22がオンされる。高電圧バッテリ1は上アームスイッチ11及び下アームスイッチ22を通じてU相コイル2Uに電源電流IPを流す。
【0035】
図8は、位相期間P2におけるフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifが上アームスイッチ11、21を通じて循環する。したがって、上アームスイッチ11、21がオフされる時、フリーホィーリング電流Ifは低電圧バッテリ6に流れ込む。
【0036】
図9は、位相期間P3における電流供給期間TXを示す。U相コイル3Uのインダクタンスに蓄積された磁気エネルギー及びU相コイル3Uに誘起される逆起電力Vaは高電圧バッテリ1に回生電流IRを流す。
【0037】
図10は、位相期間P3におけるフリーホィーリング期間TFを示す。U相コイル3Uのインダクタンスに蓄積された磁気エネルギー及びU相コイル3Uに誘起される逆起電力Vaは上アームスイッチ11、21を通じて循環する。したがって、上アームスイッチ11、21がオフされる時、フリーホィーリング電流Ifは低電圧バッテリ6に流れ込む。
【0038】
図11は、位相期間P4における電流供給期間TXを示す。電位固定レグ2Uの上アームスイッチ21は常時オンしており、PWMレグ1Uの下アームスイッチ12がオンされる。高電圧バッテリ1は上アームスイッチ21及び下アームスイッチ12を通じてU相コイル2Uに電源電流IPを流す。
【0039】
図12は、位相期間P4におけるフリーホィーリング期間TFを示す。フリーホィーリング電流Ifが上アームスイッチ11、21を通じて循環する。したがって、上アームスイッチ11、21がオフされる時、フリーホィーリング電流Ifは低電圧バッテリ6に流れ込む。
【0040】
コントローラ7により実行される充電制御例が
図13参照して説明される。最初に、インバータ2がトラクションモータにトルク電流を供給している期間であるドライブ期間中か否かが判定される(S100)。
【0041】
このドライブ期間において、インバータ2はトラクションモータの3つの相コイル3U、3V、3Wからなるステータコイルに3相電流を供給する。ドライブ期間であれば、ステップS104に進む。ドライブ期間でなければ、インバータ2はトラクションモータのステータコイルに電流を供給していないため、ステップS102にてシングルモードを実行する。このシングルモードによれば、レグ1U、2UからなるU相HブリッジがPWM制御される。これにより、PWM電圧がU相コイル3Uに印加され、U相HブリッジはU相コイル3Uに電流を供給する。この電流はたとえば単相交流電流である。他の2つのHブリッジは休止される。
【0042】
たとえば、このPWM電圧の基本波成分VUは
図3に示される波形をもつ。これにより、U相電流IUがU相コイル3Uに流れる。トラクションモータはこのシングルモードにおいてモータトルクを発生しない。次に、たとえば
図4に示されるフリーホィーリング期間TFに充電スイッチ5がオンされる。次に、上アームスイッチ11、21がオフされる。その結果、U相Hブリッジを通じて循環するフリーホィーリング電流Ifが遮断される。これにより、フリーホィーリング電流Ifは低電圧バッテリ6へバイパスされる。
【0043】
結局、シングルモード(S102)において、U相Hブリッジはトラクションモータがモータトルクを発生しないモータ停止期間においてU相コイル3UにU相PWM電圧を印加し、U相電流IUをU相コイル3Uに供給する。これにより、U相電流IUのフリーホィーリング電流Ifを低電圧バッテリ6の充電に使用することができる。
【0044】
U相Hブリッジだけを運転する運転モードであるシングルモード(S102)が実行される時、U相PWM電圧の基本波形VUは正弦波形でなくてもよい。フリーホィーリング電流Ifを調整することにより、シングルモードにおける低電圧バッテリ6の充電電流ICを適切な値に維持することができる。
【0045】
しかし、トラクションモータがトルクを発生するドライブ期間においては、U相フリーホィーリング電流Ifの振幅はトラクションモータの要求トルクに応じて制御されねばならない。その結果、低電圧バッテリ6の充電電流ICはその要求値から外れる場合が生じる。
【0046】
たとえば、
図3に示される正弦波形のU相電流IUの頂点付近などのように、U相電流IUが低電圧バッテリ6の要求電流値よりも過大となるケースも考えられる。この問題を回避するために、U相電流IUが所定値よりも過大となる期間において、フリーホィーリング電流Ifによる低電圧バッテリ6の充電を禁止することが好ましい。又は、U相電流IUが過大となる期間において、フリーホィーリング電流Ifが低電圧バッテリ6に流入する期間である充電時間(t3~t4、t7~t8)を短縮することが好適である。これにより、低電圧バッテリ6に流入する充電電流ICの平均値を低減することができる。
【0047】
他の変形態様が説明される。上記実施例では、トラクションモータのステータコイルを流れるフリーホィーリング電流が低電圧バッテリ6の充電に使用される。トラクションモータを駆動するデュアルインバータ2の代わりに、車両空調用のコンプレッサを駆動するための3相モータを駆動するデュアルインバータを利用することもできる。ほとんどの電気自動車に搭載されるこのコンプレッサ駆動モータ及びそれを駆動するデュアルインバータは、車両走行の有無と関係なく、低電圧バッテリ6を充電することができる。
【0048】
U相コイルを流れるフリーホィーリング電流に加えて、V相コイル3Vを流れるフリーホィーリング電流やW相コイル3Wを流れるフリーホィーリング電流を低電圧バッテリ6にバイパスすることも可能である。一例において、それぞれダイオードブリッジからなる3つの単相整流器4が採用される。3つの単相整流器4はU相コイル3U、V相コイル3V及びW相コイル3Wに個別に接続される。3つの単相整流器4はそれぞれ異なる充電スイッチを介して低電圧バッテリ6に接続される。これにより、インバータ2をなす3つのHブリッジはそれぞれ独立に充電期間(t3~t4、t7~t8)を決定することができる。その結果、3つの相コイル3U、3V及び3Wのフリーホィーリング電流は個別に低電圧バッテリ6を充電することができる。
【0049】
シングルモード(S102)は、車載3相モータによるモータトルク発生が要求されない条件下において低電圧バッテリ6の充電が要求されるケースにおいて、実施される。たとえば、U相コイル3Uにだけ直流電流又は単相交流電流が供給される場合には、モータ内に回転磁界が形成されないため、モータはトルクを発生せず、単にインダクタンス負荷として機能する。
【0050】
その他、高電圧バッテリから車載モータのステータコイルに供給される電流が少ないため、ステータコイルから低電圧バッテリに供給されるフリーホィーリング電流が要求レベルに達しない場合も考えられる。このような場合には、車載モータのトルクが増加しないようにステータコイルの電流を増加することができる。
【0051】
たとえば、同期モータではロータ回転と同期しない電流はトルクを発生しない。また、ロータ回転と同期する電流成分のうちロータとの間において所定の位相角関係をもつ電流はトルクを発生しない。このようなトルク非発生電流をステータコイルに追加することにより、フリーホィーリング電流の必要な増大を実現することができる。