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特開2023-160251高ニッケルカソード活物質の製造方法およびカソード電極の製造方法
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  • 特開-高ニッケルカソード活物質の製造方法およびカソード電極の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160251
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】高ニッケルカソード活物質の製造方法およびカソード電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20231026BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070464
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】591036572
【氏名又は名称】レール・リキード-ソシエテ・アノニム・プール・レテュード・エ・レクスプロワタシオン・デ・プロセデ・ジョルジュ・クロード
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】キム サンフン
(72)【発明者】
【氏名】プロスト ローラン
(72)【発明者】
【氏名】ブリアン フランシス
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA02
5H050AA07
5H050AA19
5H050BA17
5H050CA08
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA07
(57)【要約】
【課題】Li/Niカチオン混合および遷移金属の過酸化を抑えることを可能にする混合ガスの組成の範囲、混合ガスを用いた焼成プロセスを含む高ニッケルカソード活物質の製造方法を提供する。
【解決手段】高ニッケルカソード活物質の製造方法は、所定配合量以上のニッケルを含有するカソード前駆体とリチウム原料を含む金属酸化物固形原料を、94体積%以上98体積%以下の範囲の酸素を含む混合ガスの雰囲気下の反応器内で焼成する焼成工程を含む。前記混合ガス中の酸素の配合量が95体積%以上よりも97体積%以下が好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定配合量以上のニッケルを含有するカソード前駆体とリチウム原料を含む金属酸化物固形原料とを、94体積%以上98体積%以下の範囲の酸素を含む混合ガスの雰囲気下の反応器内で焼成する焼成工程を含み、
記混合ガスの酸素以外のガス成分が、アルゴン、窒素、ヘリウム、クリプトンから選択される1種または2種以上である、
高ニッケルカソード活物質の製造方法。
【請求項2】
前記酸素以外のガス成分が、アルゴンである場合に、前記アルゴンの配合量は、2体積%以上5体積%以下の範囲である、
請求項1に記載の高ニッケルカソード活物質の製造方法。
【請求項3】
前記酸素以外のガス成分が、アルゴンおよび窒素である場合に、窒素よりもアルゴンの配合量の方が多い、
請求項1に記載の高ニッケルカソード活物質の製造方法。
【請求項4】
前記酸素以外のガス成分が、アルゴンおよび窒素である場合に、前記窒素の配合量は、0体積%以上2体積%以下の範囲である、
請求項3に記載の高ニッケルカソード活物質の製造方法。
【請求項5】
請求項1から4に記載の製造方法によって得られた高ニッケルカソード活物質を用いてカソード電極を製造する電極製造工程を含む、カソード電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高ニッケルカソード活物質の製造方法およびカソード電極の製造方法に関する。高ニッケルカソード活物質は、例えば、リチウムイオン二次電池のカソード電極に使用される。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、炉内において、複合酸化物前駆体とリチウムとの混合物を、空気などの酸化性ガス雰囲気で700℃以上1000℃までの範囲で焼成することが記載されている。
特許文献2には、予熱空気雰囲気下で、低温および高温の二段階焼成により、残留リチウムを含まない高ニッケルカソードを生成する製造方法が記載されている。
特許文献3の明細書の段落0011には、前駆体粉末を酸素流中、450℃で4時間分解し、微粉末に粉砕し、酸素流通条件下、900℃で12時間焼成することが記載されている。
特許文献4の請求項1には、酸素含有量が21%より高い雰囲気下で約600℃ないし約900℃の温度で約4時間から約12時間の間、前記固体混合物を焼成することが記載されている。
【0003】
非特許文献1には、純酸素中での焼成された高ニッケルカソード活物質について記載している。
非特許文献2には、高ニッケルカソード活物質の焼成時のガス雰囲気の影響が記載されている。ガスとしては、100%酸素、50%酸素と50%窒素、21%酸素および79%窒素、5%酸素および95%窒素の混合ガスで評価されている。100%酸素下での焼成物が最良であり、ニッケルとリチウムとの混合特性が良く、最良の電気化学的性能であったことが記載されている。
非特許文献3には、高ニッケルカソード活物質の焼成温度の影響が記載されている。焼成温度が750℃~775℃の範囲が最適であり、ニッケルとリチウムとの混合特性が良く、最良の電気化学的性能であったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許第3636597号公報
【特許文献2】米国特許7648693号公報
【特許文献3】特表2021-517707号公報
【特許文献4】特表2019-503063号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Electrochim. Acta, 2014年, No.138, 15-21頁
【非特許文献2】J. Power Sources 2015年、No.283、211~218頁
【非特許文献3】Nano Energy 2018年 No.49, 538-548頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高ニッケルカソードは、一般的に、高価なプロセスによって、特殊な反応物大気中で、純酸素、湿気を含まない純酸素または予熱された空気流中で調製される。焼成中の酸素雰囲気の不足によって(つまり、酸化不足によって)、化学的及び構造的安定性が低下し、リチウムイオン電池へ適用したときのサイクル回数の低下、容量の低下が引き起こされる。従って、高ニッケルカソードをリチウムイオン電池に適用した場合、化学的及び構造的安定性(例えば、低Li/Niカチオン混合)、優れたサイクル能力及び高容量などが改善できる、高ニッケルカソード活物質を調製する方法の開発が要望されている。
【0007】
リチウムイオン電池に使用される正極活物質については、層状金属酸化物系材料の同定と開発に多くの研究が行われてきた。広範囲の層状酸化物の中で、NMC811(Ni:Mn:Coについて80:10:10のモル比を有するリチウム・ニッケル・マンガン・コバルト酸化物)およびNCA(Ni:Co:Alについて85:15:5のモル比を有するリチウム・ニッケル・コバルト・アルミニウム酸化物)のような高ニッケルカソード活物質は、ニッケル含有量の増加物として最も有望な候補である。これらは、活性酸化還元対のみであり、より多くのリチウムイオンを層状構造にインターカレーション(または脱インターカレーション)することができ、したがって、より高い容量を提供できる。それに応じて高ニッケルカソード中のニッケル含有量の増加とコバルトとマンガン含有量の減少は、ニッケルのより高い酸化状態、例えばNMC111の2からNMC811の2.9へと導く。その結果、ニッケル、コバルト、マンガン(またはアルミニウム)を含む遷移金属スラブは、十分なコバルト含有量がないために安定性が低くなり、高ニッケルカソードにおけるNi3+-O結合を化学的に安定化させる。また、Ni3+は、Ni2+に還元される傾向があり、Ni2+とLiのイオン半径が類似しているため、充電サイクル中、製造中であってもLiと不可逆的に交換される。この現象は、Li/Niカチオン混合と呼ばれ、高ニッケルカソードをリチウムイオン電池に適用した場合、低初期容量、低長期サイクル性および低Cレート能力の原因の一つである。ニッケルとリチウムの連続的な部位交換は循環中の気体(O)発生と共に組織破壊につながることもあり、後者は電解質をさらに酸化し、最終的にバッテリーの故障を引き起こすことがある。
【0008】
高ニッケルカソードの製造中のLi/Niカチオン混合を最小限に抑えるために、酸化環境、例えば純酸素が、一般に焼成プロセスで使用される。しかしながら、純酸素は炉内の非常に高い酸化環境を確保できるが、純酸素はまた、粒子の表面でのコバルト、マンガンおよび他の元素(ニッケルを除く)の過酸化をもたらす。その結果、相偏析をもたらし、これは電池サイクル中のリチウムイオン移動を妨げうる。従って、初期容量、長期サイクル性および高ニッケル含有量ベースのカソード材料のCレート能力を改善するために、高ニッケルカソードの表面での遷移金属のLi/Niカチオン混合と過酸化の両方の問題に対処できる製造方法を開発する必要がある。
【0009】
本開示は、Li/Niカチオン混合および遷移金属の過酸化を抑えることを可能にする混合ガスの組成の範囲を提供する。
本開示は、上記混合ガスを用いた焼成プロセスを含む高ニッケルカソード活物質の製造方法を提供する。
本開示は、上記高ニッケルカソード活物質を用いたカソード電極の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の高ニッケルカソード活物質の製造方法は、
所定配合量以上のニッケルを含有するカソード前駆体とリチウム原料を含む金属酸化物固形原料とを、94体積%以上98体積%以下の範囲の酸素を含む混合ガスの雰囲気下の反応器内で焼成する焼成工程を含む。
前記混合ガス中の酸素の配合量が95体積%以上よりも97体積%以下が好ましい。
前記混合ガスの酸素以外のガス成分が、アルゴン、窒素、ヘリウム、クリプトンから選択される1種または2種以上であってもよい。
前記酸素以外のガス成分が、アルゴンである場合に、前記アルゴンの配合量は、2体積%以上5体積%以下の範囲であってもよい。
前記酸素以外のガス成分が、アルゴンおよび窒素である場合に、窒素よりもアルゴンの配合量(体積%)の方が多いことが好ましい。
前記酸素以外のガス成分が、アルゴンおよび窒素である場合に、前記窒素の配合量は、0体積%以上2体積%以下の範囲であってもよい。
前記酸素以外のガス成分が、ヘリウムまたはクリプトンである場合に、前記ヘリウムまたは前記クリプトンの配合量は、0体積%以上1体積%以下の範囲あるいは2体積%以上5体積%以下の範囲であってもよい。
前記焼成工程において、使用される混合ガスの量が、金属酸化物固形原料(リチウム原料とカソード前駆体)1kg当たり0.5kgから6kgの範囲であってもよい(金属酸化物原料:混合ガス=1:0.5~6)。
前記混合ガスの成分比は、Ni、Co、Mnおよび/または高ニッケルカソードのドーピング元素の含有量、ならびに焼成温度、加熱速度および製造バッチのサイズに応じて設定されてもよい。
前記リチウム原料と、前記カソード前駆体との混合モル比(つまり、リチウム原料のモル/カソード前駆体のモル)は、0.8以上1.2以下、より好ましくは0.9以上1.1以下であってもよい。
前記リチウム原料は、LiOH、LiOH・HO、LiCOから選択される1種または2種以上を含んでいてもよい。
前記カソード前駆体は、M(OH)、MOOH、MCOから選択される1種または2種以上を含んでいてもよい。Mは、上記式Iで定義されるNi、Co、Mn、AlおよびA(以下、Aを「ドープ元素」または「ドーパント」ということがある。)から選択される1種または2種以上の混合物であってもよい。
【0011】
前記高ニッケルカソード活物質の製造方法は、前記焼成工程の前に、前記カソード前駆体を調整する前駆体調整工程と、前記金属酸化物の固形原料を製造する工程とを含んでいてもよい。
前記高ニッケルカソード活物質の製造方法は、前記焼成工程の後に、前記焼成工程で得られた高ニッケルカソード活物質を、余分なリチウム及び不純物を除去するための洗浄工程と、および/または、前記高ニッケルカソード活物質を被覆する被覆工程と、を含んでいてもよい。
【0012】
製造された前記高ニッケルカソード活物質は、下記式(1)で示される。
LiNiMnCo (1)
A:ドーパント
0.9<a<1.1
x+y+z+k=1
x≧0.8
x、y、zおよびkの値はモル比であり、aの値は他の元素から独立したモル比である。
【0013】
上述される製造方法によって得られた高ニッケルカソード活物質を用いて電極を製造する電極製造工程をさらに備えてもよい。
【0014】
本開示のカソード電極の製造方法は、前記高ニッケルカソード活物質の製造方法で製造された前記高ニッケルカソード活物質を用いてカソード電極を製造する電極製造工程を含む。
【0015】
本開示のリチウムイオン二次電池は、前記製造方法で製造された前記高ニッケルカソード活物質を正極活物質として含んでいてもよい。
【0016】
(効果)
混合ガスの組成は、高ニッケルカソード活物質の構造における遷移金属スラブの安定性の改善を可能にする。
リチウムイオン二次電池に適用されたときに、長期サイクル性、高い初期容量および良好なCレート能力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施形態1の製造方法のフローを示す。
図2A図2Aは、実施例のサイクル回数における容量を示す。
図2B図2Aは、実施例のサイクル回数における容量を示す。
図3図3は、実施例のX線粉末回折(XRD)c/a比を示す。
図4図4は、実施例の相対的放電容量(C-レート)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明のいくつかの実施形態について説明する。以下に説明する実施形態は、本発明の一例を説明するものである。本発明は以下の実施形態になんら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において実施される各種の変形形態も含む。なお、以下で説明される構成の全てが本発明の必須の構成であるとは限らない。
【0019】
(用語の定義)
本明細書において、元素の周期表からの元素の標準的な略語が用いられる。従って、元素は、これらの略語によって表され得る。例えば、Liはリチウムを意味し、Niはニッケルを意味し、Mnはマンガンを意味し、Coはコバルトを意味し、Oは酸素を意味する。他の元素についても同様である。
本明細書において、XRDは、X線粉末回折(X―ray diffraction)のことを意味する。
【0020】
(実施形態1)
実施形態1の高ニッケルカソードの製造方法について、図1のフロー図を参照しながら説明する。
前駆体調整工程(S1)において、カソード前駆体を調整する。カソード前駆体は、モル比で80%以上のニッケルを含み、その他の元素はコバルト、マンガン、アルミニウム、その他のドープ元素である。
前駆体調整工程(S1)は、例えば、ニッケル塩、マンガン塩、コバルト塩を脱イオン水に溶解して、ニッケル:マンガン:コバルトの金属元素のモル比で、80~90:5~10:5~10のである水溶液を作製する。この得られた水溶液をアルカリ溶液に添加して懸濁液を形成して固体生成物を得る。得られた固体生成物を乾燥させてカソード前駆体を作製する。なお、他の方法で前駆体を得てもよい。
【0021】
金属酸化物固形原料製造工程(S2)において、上記カソード前駆体と、リチウム原料とを混合する。
例えば、上記カソード前駆体とリチウム塩とを混合して、水性溶媒に分散させて均一なスラリーを形成し、乾燥させて金属酸化物固形原料を得る。他の方法で金属酸化物固形原料を得てもよい。
【0022】
焼成工程(S3)において、所定配合量以上のニッケルを含有するカソード前駆体とリチウム原料を含む金属酸化物原料を、94体積%以上98体積%以下の範囲の酸素を含む混合ガスの雰囲気下の反応器内に入れて焼成する。このようにして、高ニッケルカソード活物質を得る。
混合ガスにおける酸素の量は、94体積%以上98体積%以下が好ましく、94体積%以上97体積%以下がより好ましく、95体積%以上96.5体積%以下がさらに好ましく、95.5体積%以上96.5体積%以下が特に好ましい。
混合ガスにおける酸素以外のガス成分が、アルゴン、窒素、ヘリウム、クリプトンから選択される1種または2種以上である。ここで、酸素以外のガス成分が1種又は2種以上とは、体積%オーダーで含まれるガスが1種又は2種以上であることを意味する。例えば、酸素以外の成分が一種の場合、アルゴンだけ、ヘリウムだけ、クリプトンだけでもよい。なお、ここでアルゴンだけとは、%オーダーで含まれるガスがアルゴンだけであることを意味する。また、混合ガスにおける酸素以外のガス成分が、アルゴンと窒素、アルゴンとヘリウム、アルゴンとクリプトン、の組み合わせであってもよい。混合ガスにおける酸素以外のガス成分が3種の場合、例えば、アルゴンと窒素とクリプトンとの組み合わせである。
また混合ガスにおける酸素以外のガス成分は、2体積%以上5体積%以下であることが好ましく、3体積%以上5体積%以下であることがより好ましく、3.5体積%以上4.5体積%以下であることがさらに好ましい。
混合ガスにおける酸素以外のガス成分が、アルゴンの場合、2体積%以上5体積%以下であることが好ましく、3体積%以上5体積%以下であることがより好ましく、3.5体積%以上4.5体積%以下であることがさらに好ましい。
混合ガスにおける酸素以外のガス成分が、アルゴンと窒素の場合、アルゴンは2体積%以上5体積%以下であることが好ましく、2.5体積%以上4体積%以下であることがより好ましく、2.75体積%以上3.5体積%以下であることがさらに好ましく、窒素は0.5体積%以上2.5体積%以下であることが好ましく、0.5体積%以上2体積%以下であることがより好ましく、0.75体積%以上1.5体積%以下であることがさらに好ましい。中でも、混合ガスにおける酸素以外のガス成分が、アルゴンと窒素の場合、アルゴンは2.75体積%以上3.5体積%以下、窒素は0.75体積%以上1.5体積%以下であることが特に好ましい。
混合ガスにおける酸素以外のガス成分が、アルゴンとヘリウムの場合、アルゴンは2体積%以上5体積%以下であることが好ましく、2.5体積%以上4体積%以下であることがより好ましく、2.75体積%以上3.5体積%以下であることがさらに好ましく、ヘリウムは0.5体積%以上2.5%以下であることが好ましく、0.5体積%以上2体積%以下であることがより好ましく、0.75体積%以上1.5体積%以下であることがさらに好ましい。
混合ガスにおける酸素以外のガス成分が、アルゴンとクリプトンの場合、アルゴンは2体積%以上5体積%以下であることが好ましく、2.5体積%以上4体積%以下であることがより好ましく、2.75体積%以上3.5体積%以下であることがさらに好ましく、クリプトンは0.5体積%以上2.5体積%以下であることが好ましく、0.5体積%以上2体積%以下であることがより好ましく、0.75体積%以上1.5体積%以下であることがさらに好ましい。
【0023】
焼成工程(S3)において、混合ガスが反応器へ連続的あるいは間欠的に供給されてもよい。
焼成工程(S3)において、焼成温度が、600℃以上1100℃以下の範囲であってもよく、好ましくは650℃以上900℃以下の範囲であってもよく、より好ましくは700℃以上800℃以下の範囲であってもよい。
焼成工程(S3)において、焼成時間が、5時間以上24時間以下の範囲であってもよく、好ましくは8時間以上16時間以下の範囲であってもよく、より好ましくは11時間以上13時間以下であってもよい。
【0024】
さらに、洗浄工程および/または被覆工程(S4)を含んでいてもよい。洗浄工程において、焼成工程で得られた高ニッケルカソード活物質から余分なリチウム及び不純物を除去する。被覆工程において、高ニッケルカソード活物質を被覆する。
【0025】
また、電極の製造方法において、上述される高ニッケルカソードの製造方法によって得られた高ニッケルカソード材を用いて電極を製造する電極製造工程を備えていてもよい。
このようにして、高ニッケルカソード材を用いた電極を製造することができる。なお、電極の製造方法として、従来のリチウムイオン電池の電極を製造するような方法が挙げられる。
【0026】
(実施例)
混合ガスの組成比(体積%)を表1に示す。
【表1】
【0027】
(製造:焼成工程)
カソード前駆体(組成比:Ni0.8Mn0.1Co0.1(OH)、製造元:MTI社製、量:700mg)とリチウム原料(組成比:LiOH HO、製造元:Sigma Aldrich社製、量:334mg)とを、乳鉢と乳棒を用いて混合した。なお、カソード前駆体:リチウム原料(モル比)は、1:1.05であった。次いで、その混合物を、炉(アズワン株式会社製プログラム管状電気炉 TMFシリーズ)の中に入れて500℃で1時間、処理した。ついで、炉の中を750℃まで昇温し、12時間上記各組成比の混合ガスの雰囲気下で焼成した。このようにして、高ニッケルカソード材(つまり、高ニッケルカソード活物質)を得た。
なお、混合ガスの流量は100SCCMであった。焼成後、得られた高ニッケルカソード材(NMC811)を約5℃/分の冷却速度で室温(約25℃)まで自然冷却した。
【0028】
次に、高ニッケルカソード電極を製造した。電極の原料は、得られた高ニッケルカソード材(88重量%)、カーボンブラック(製品名:C65、製造元:TIMCAL社製、量:7重量%)およびポリフッ化ビニリデン(略称:PVDF、製造元:Solvay社製、製品名: Solef5130、量:5重量%)から構成される。N-メチル-2-ピロリドン(略称:NMP、富士フイルム和光純薬株式会社製の1-メチル-2-ピロリドン)を溶媒として電極の材料を分散し、メノウ粉砕ジャーで400rpmで1時間混合した。このようにして、電極スラリーを作製した。
次いで、得られた電極スラリーを、ドクターブレードを用いてアルミニウム集電体の上に150μmで均一に薄く層状に形成した(言い換えると、テープキャスティングした)。
次いで、電極(12.7mmの直径)を切り出し、真空下、90℃で15時間乾燥させた。CR2032コイン電池を、リチウム金属を参照電極および対電極の両方として使用して、アルゴン(Ar)雰囲気下でグローブボックス中において組み立てた。
電解質は、エチレンカーボネート(EC):メチルエチルカーボネート(MEC)(50:50[v/v])中の1.0M LiPFであった。
最後に、得られたコイン電池の電気化学的定電流測定を行った。4.3Vで0.1Cのカットオフ限界を有する定電流定電圧(CCCV)方式で、3.0Vから4.3V対で、Li/Liの電圧ウィンドウで、異なった電流密度(1C=200mAg-1)で、25℃の条件下で行った。セル形成を0.1℃で3サイクル行った。以下のすべてのデータは、3つの異なるコインセルの平均値である。
【0029】
図2A、2Bは、異なるガス組成下で作製した高ニッケル正極活物質(NMC811)の長期サイクル性(1Cでの放電容量)を示す。なお、測定には、BioLogic社製のBCS-805を用いた。図2A、2Bにおける横軸はサイクル数(回)、縦軸は、放電容量(1Cあたりの放電容量)を示す。図2Aは、酸素とそれ以外の1成分との混合ガスであり、図2Bは、酸素とそれ以外の2成分との混合ガスでの結果を示す。
【0030】
実施例1、2は、比較例1よりも、初期放電能力が高いことが確認できた。また、実施例1、2は、比較例1から6よりも、長期サイクル性も優れていることが確認できた。
また、比較例3および4の結果から窒素ガスの増加により、長期サイクル性の低下への影響があることが確認できた。比較例5および6の結果から窒素ガスの増加により、長期サイクル性の低下への影響があることが確認できた。
また、実施例1、2、比較例2、5、6から、アルゴンの影響により初期放電能力が純酸素(比較例1)よりも高くなることが確認できた。
【0031】
図3は、X線粉末回折(XRD)のリートベルト回析から得た格子パラメータのc/a比を示す。なお、X線粉末解析には、Rigaku社のMiniFlexを用いて測定された。解析の条件としてCuKα(λ=1.5406A)とした。
実施例1は、比較例1と同程度であった。つまり、混合ガスに含まれるアルゴン4%は、Li/Niカチオン混合にはほとんど影響がないと推察できる。一方、比較例2、比較例3及び比較例4は、比較例1及び実施例1と比べて、結晶の欠陥(defect)があると推測できる。
【0032】
実施例1および2は、比較例2から6よりも、高い初期容量および長期サイクル性を有する。
実施例1は、Li/Niカチオン混合において良好な混合ガス組成の条件である。実施例1の高ニッケルカソードが、比較例1の純酸素と比較して、同程度のLi/Niカチオン混合を有し、実施例1が示すような4%のアルゴンがLi/Niカチオン混合の成長に大きな影響を及ぼさないことを示唆している(図3参照)。
【0033】
図4は、異なるガス組成下で作製した高ニッケル正極活物質(NMC811)において、異なる電流密度での相対的放電容量(C-レート)を示す。図4において横軸はC―レート(logスケール)、縦軸は放電容量を示す。なお、測定には、BioLogic社製のBCS-805を用いた。
C‐レート能力について、実施例1は、他の実施例および全比較例よりも、最も高い放電容量であった。
実施例1では、放電容量の67%以上を20C(3分の放電に対応する電流密度)で供給できた。一方、他は、同じ速度で50%未満の放電容量であった。
図1
図2A
図2B
図3
図4