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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160266
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】鋳型構造及び鋳物の鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22C 9/02 20060101AFI20231026BHJP
   B22D 30/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B22C9/02 103F
B22D30/00
B22C9/02 103H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070492
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100133916
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 興
(72)【発明者】
【氏名】吉村 幸司
(72)【発明者】
【氏名】▲浜▼石 恭宥
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 幸治
(72)【発明者】
【氏名】福田 祐也
(72)【発明者】
【氏名】小杉 一浩
(57)【要約】
【課題】砂型の割れとバリの発生の双方を抑制しつつ強度の高い部分と薄肉の部分とを含む鋳物を製造できる鋳型構造および鋳造方法を提供する。
【解決手段】砂型と、砂型との間にキャビティを区画する金型とを備え、キャビティに溶湯が導入されることで物品を鋳造する鋳型の構造において、金型の外周面の一部である金型側合わせ面と、第1方向について対向する砂型の砂型側合わせ面の第2方向の一方側の端部に、金型側合わせ面に向かって突出する突出部を設けるとともに、突出部と金型側合わせ面との第1方向の離間距離を、砂型側合わせ面のうち突出部を除く部分と金型側合わせ面との第1方向の離間距離よりも小さい寸法に設定する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
砂型と、前記砂型との間にキャビティを区画する金型とを備え、前記キャビティに溶湯が導入されることで物品を鋳造する鋳型の構造であって、
前記砂型は、前記金型の外周面の一部である金型側合わせ面と所定の第1方向について対向する砂型側合わせ面を備え、
前記砂型側合わせ面と前記金型側合わせ面とは、前記キャビティと連通し、且つ、前記キャビティから前記第1方向と交差する第2方向に延びる隙間を区画するように配設されており、
前記第2方向について前記キャビティ側を一方側として反対側を他方側としたとき、前記砂型側合わせ面の前記第2方向の一方側の端部には、前記金型側合わせ面に向かって突出する突出部が設けられており、
前記突出部と前記金型側合わせ面との前記第1方向の離間距離は、前記砂型側合わせ面のうち前記突出部を除く部分と前記金型側合わせ面との前記第1方向の離間距離よりも小さい寸法に設定されている、ことを特徴とする鋳型構造。
【請求項2】
請求項1に記載の鋳型構造において、
前記第1方向について前記金型側合わせ面側を一方側として反対側を他方側としたとき、
前記砂型側合わせ面は、前記突出部の基端部から前記第2方向の他方側に延びる砂型側第1延出部と、当該砂型側第1延出部の前記第2方向の他方端から前記第1方向の他方側に延びる砂型側第2延出部とを備え、
前記金型側合わせ面は、前記突出部および前記砂型側第1延出部と対向して前記第2方向に沿って延びる金型側第1延出部と、当該金型側第1延出部の前記第2方向の他方端から前記第1方向の他方側に延びる金型側第2延出部とを備える、ことを特徴とする鋳型構造。
【請求項3】
請求項2に記載の鋳型構造において、
前記砂型側合わせ面は、前記砂型側第2延出部の前記第1方向の他方端から前記第2方向の他方側に延びる砂型側第3延出部を備え、
前記金型側合わせ面は、前記金型側第2延出部の前記第1方向の他方端から前記第2方向の他方側に延びる金型側第3延出部を備え、
前記砂型側第3延出部と前記金型側第3延出部の前記第1方向の離間距離は、前記砂型側第1延出部と前記金型側第1延出部の前記第1方向の離間距離よりも小さい寸法に設定されている、ことを特徴とする鋳型構造。
【請求項4】
請求項1に記載の鋳型構造において、
前記突出部は、前記キャビティに溶湯が導入されることで強度が低下するように構成されている、ことを特徴とする鋳型構造。
【請求項5】
請求項4に記載の鋳型構造において、
前記突出部の前記第2方向の厚みは、前記キャビティに溶湯が導入されたときに前記突出部の最低温度が前記砂型の強度が低下する温度以上になるように設定されている、ことを特徴とする鋳型構造。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載の鋳型構造を用いて物品を鋳造する鋳造方法であって、
前記砂型と前記金型とを前記キャビティを区画するように組み合わせる型組立て工程と、
前記キャビティに溶湯を鋳込んで当該キャビティに対応する鋳物を形成する鋳込み工程と、
前記鋳物を前記砂型側に残した状態で当該砂型と前記金型とを分離する型開き工程と、
前記砂型を壊して前記鋳物を取り出す鋳物取出し工程とを含む、ことを特徴とする鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳型構造及び鋳物の鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用エンジンのシリンダヘッド等の製造において、金型と砂型とを組み合わせた鋳型装置を用いることが検討されている。例えば、特許文献1には、燃焼室の天井面を含むシリンダヘッドの下面を形成する下型に金型を用い、上方に砂型を用いて、これら下型と上型との間に区画されたキャビティに溶湯を導入することでシリンダヘッドを鋳造する装置が開示されている。この装置では、シリンダヘッドの下面を形成する溶湯を金型によって急速に冷却させて高強度なシリンダヘッド下面を実現できるとともに、当該下面以外のシリンダヘッドの各部を形成する溶湯の温度低下を抑制して薄肉化を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4729951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1のように金型と砂型とを組み合わせて鋳型を構成した場合では、上記のように高強度化と薄肉化とを両立できる一方で、金型と砂型の熱膨張量が異なることで砂型が壊れるおそれがある。具体的に、金型および砂型の形状や寸法によっては、金型と砂型とにより区画されたキャビティに高温の溶湯が導入されたときに、金型の熱膨張量が砂型の熱膨張量に対して過大となり、金型が、対向する砂型に衝突してこれを壊すおそれがある。ここで、金型と砂型との衝突を回避する構成として、これらの隙間を大きくすることが考えられるが、単にこれらの隙間を大きくすると、この隙間に余分な溶湯が多量に入り込むことでバリが生じやすくなってしまう。
【0005】
本発明は、上記のような事情に鑑みてなされたものであり、砂型の割れとバリの発生の双方を抑制しつつ強度の高い部分と薄肉の部分とを含む鋳物を製造できる鋳型構造および鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するためのものとして、本発明は、砂型と、前記砂型との間にキャビティを区画する金型とを備え、前記キャビティに溶湯が導入されることで物品を鋳造する鋳型の構造であって、前記砂型は、前記金型の外周面の一部である金型側合わせ面と所定の第1方向について対向する砂型側合わせ面を備え、前記砂型側合わせ面と前記金型側合わせ面とは、前記キャビティと連通し、且つ、前記キャビティから前記第1方向と交差する第2方向に延びる隙間を区画するように配設されており、前記第2方向について前記キャビティ側を一方側として反対側を他方側としたとき、前記砂型側合わせ面の前記第2方向の一方側の端部には、前記金型側合わせ面に向かって突出する突出部が設けられており、前記突出部と前記金型側合わせ面との前記第1方向の離間距離は、前記砂型側合わせ面のうち前記突出部を除く部分と前記金型側合わせ面との前記第1方向の離間距離よりも小さい寸法に設定されている、ことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、砂型と金型とによって形成されたキャビティに溶湯が導入されて鋳物が製造されることで、鋳物の高強度化および薄肉化を実現できる。しかも、この構成では、金型の外周面の一部である金型側合わせ面と隙間を空けて対向する砂型側合わせ面のキャビティ側の端部に、金型側合わせ面に向かって突出する突出部が設けられ、且つ、この突出部と金型側合わせ面との第1方向の離間距離つまり合わせ面どうしの対向方向の離間距離が、砂型側合わせ面と金型側合わせ面の当該離間距離のうち最も小さい寸法に設定されている。そのため、砂型の割れとバリの発生の双方を抑制することができる。
【0008】
具体的に、キャビティ側の端部に設けられた突出部と金型側合わせ面との第1方向の離間距離が小さくされていることで、キャビティに導入された溶湯が砂型側合わせ面と金型側合わせ面との間の隙間に流入するのが抑制される。これより、上記隙間に溶湯が入り込むことで生じるバリの発生を抑制できる。しかも、突出部は金型側合わせ面に向かって突出する形状を有している。そのため、上記離間距離が小さいことで熱膨張した金型が突出部に当接することになるが、この当接によって突出部あるいは突出部近傍のみを崩壊させることができ、砂型全体に割れが生じるのを防止できる。
【0009】
前記構成において、好ましくは、前記第1方向について前記金型側合わせ面側を一方側として反対側を他方側としたとき、前記砂型側合わせ面は、前記突出部の基端部から前記第2方向の他方側に延びる砂型側第1延出部と、当該砂型側第1延出部の前記第2方向の他方端から前記第1方向の他方側に延びる砂型側第2延出部とを備え、前記金型側合わせ面は、前記突出部および前記砂型側第1延出部と対向して前記第2方向に沿って延びる金型側第1延出部と、当該金型側第1延出部の前記第2方向の他方端から前記第1方向の他方側に延びる金型側第2延出部とを備える(請求項2)。
【0010】
この構成によれば、突出部の崩壊によって生じた砂を、砂型側第1延出部、金型側第1延出部および金型側第2延出部により区画される空間に貯留させることができ、溶湯がこれら空間から下流側つまり砂型側第2延出部と金型側第2延出部の間の隙間に流入するのを防止できる。従って、バリの発生をより確実に防止できる。
【0011】
前記構成において、好ましくは、前記砂型側合わせ面は、前記砂型側第2延出部の前記第1方向の他方端から前記第2方向の他方側に延びる砂型側第3延出部を備え、前記金型側合わせ面は、前記金型側第2延出部の前記第1方向の他方端から前記第2方向の他方側に延びる金型側第3延出部を備え、前記砂型側第3延出部と前記金型側第3延出部の前記第1方向の離間距離は、前記砂型側第1延出部と前記金型側第1延出部の前記第1方向の離間距離よりも小さい寸法に設定されている(請求項3)。
【0012】
この構成によれば、砂型側合わせ面と金型側合わせ面との間の隙間が少なくとも2回折れ曲がる通路とされること、および、砂型側第3延出部と金型側第3延出部の離間距離が比較的小さくされることで、上記隙間を通る溶湯の量を少なくできる。また、砂型側第1延出部と金型側第1延出部の離間距離が比較的大きくされることで、突出部の崩壊によって生じた砂をこれらの間に貯留させつつ、貯留した砂を介して金型から砂型に圧力が付与されるのを防止できる。
【0013】
前記構成において、好ましくは、前記突出部は、前記キャビティに溶湯が導入されることで強度が低下するように構成されている(請求項4)。
【0014】
この構成によれば、キャビティに溶湯が導入されて金型が熱膨張した際に、より確実に突出部を崩壊させることができ、砂型の割れとバリの発生の双方を確実に防止できる。
【0015】
キャビティに溶湯が導入されることで突出部の強度が低下する具体的構成としては、前記突出部の前記第2方向の厚みを、前記キャビティに溶湯が導入されたときに前記突出部の最低温度が前記砂型の強度が低下する温度以上になるようにする構成が挙げられる(請求項5)。
【0016】
また、本発明は、前記砂型と前記金型とを前記キャビティを区画するように組み合わせる型組立て工程と、前記キャビティに溶湯を鋳込んで当該キャビティに対応する鋳物を形成する鋳込み工程と、前記鋳物を前記砂型側に残した状態で当該砂型と前記金型とを分離する型開き工程と、前記砂型を壊して前記鋳物を取り出す鋳物取出し工程とを含む、ことを特徴とする鋳造方法を提供する(請求項6)。
【0017】
この方法によれば、上記のように、砂型の割れとバリの発生の双方を抑制しつつ、薄肉且つ な鋳物を製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上説明したように、本発明の鋳型構造および鋳造方法によれば、砂型の割れとバリの発生の双方を抑制しつつ強度の高い部分と薄肉の部分とを含む鋳物を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】鋳型装置の概略構成を示した上面図である。
図2図1のII-II線断面図である。
図3図1のIII-III線断面図である。
図4図3のIV部分を拡大して示した図である。
図5】砂型の温度と強度との関係を示したグラフである。
図6】砂型の厚みと温度との関係を示したグラフである。
図7】シリンダヘッドを鋳造する手順を示したフローチャートである。
図8図4に対応する図であって(a)は金型が熱膨張する前の図、(b)は金型が熱膨張した後の図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(1)鋳型の全体構成
図1は、本発明の実施形態に係る鋳型構造が適用された鋳型1を示した概略上面図である。図2は、図1のII-II線断面図、図3は、図1のIII-III線断面図である。
【0021】
本実施形態に係る鋳型1は、エンジンのシリンダヘッドEの鋳造に用いられる。詳細には、鋳型1は、6つのシリンダが一列に並ぶ直列6気筒のレシプロエンジンのシリンダヘッドEの鋳造に用いられる。シリンダヘッドEの底面には燃焼室E1の天井面E2が形成され、シリンダヘッドEと別途製造されるシリンダブロックとピストンによってエンジンの燃焼室E1が区画されるようになっている。また、シリンダヘッドEには、吸気ポートE3、排気ポートE4およびウォータジャケットE5等が形成される。以下の鋳型1の説明では、図2の上下方向であって、鋳造されるシリンダヘッドEがシリンダブロックに連結されたときのこれらの並び方向を上下方向といい、シリンダヘッドE側を上、反対側を下として説明する。また、図3の左右方向であって、燃焼室E1の並び方向を左右方向という。また、上下方向および左右方向と直交する方向をエンジン幅方向という。
【0022】
鋳型1は、砂型10と、金型30とを備える。
【0023】
砂型10は、それ自体が砂型である中子を複数含み、これら複数の中子11~21が組み合わせられることで全体として1つの砂型10を構成している。具体的に、砂型10は、砂型10の下端部に配設される枠状のベース中子11、砂型10の上端部に配設される上中子21、吸気ポートE3を形成するための吸気ポート用中子12、排気ポートE4を形成するための排気ポート用中子13、ウォータジャケットE5を形成するためのウォータジャケット用中子14等を有している。砂型10つまり各中子11~21は、砂が樹脂によって所定の形に固められたものである。
【0024】
金型30は、燃焼室E1の天井面E2を含むシリンダヘッドEの底面(下面)を形成するための金属製の部材である。金型30は左右方向に延びる略直方体形状を有している。金型30の上面には、左右方向に等間隔に並び上方に突出する複数の凸部31が設けられている。燃焼室E1の天井面E2は、これら凸部31の上面によって形成される。上記のように、本実施形態では、鋳型1によって6気筒エンジンのシリンダヘッドEが鋳造されるようになっており、金型30は6つの凸部31を有する。
【0025】
各中子11~21と金型30とは、溶湯が導入されるキャビティCであってシリンダヘッドEを形作る空間が各中子11~21と金型30の間に区画されるように組み合わされて、1つの鋳型1を形成する。上記のように、燃焼室E1の天井面E2は、シリンダヘッドEの底面つまり下面に形成される。これより、図3等に示すように、当該天井面E2を形成する金型30は、鋳型1の下端部となる位置に配設される。なお、図3等の符号50は、鋳型1を支持する台座である。
【0026】
砂型10の上端部つまり鋳型1の上端部に配設される上中子21には、キャビティCと連通してキャビティCに溶湯を導入するための湯口21Aが設けられている。キャビティCには、この湯口21Aから溶湯が導入される。本実施形態では、鋳型1によってアルミ製のシリンダヘッドEが鋳造されるようになっており、キャビティCにはアルミニウム合金の溶湯が導入される。
【0027】
(2)鋳型の詳細構造
次に、鋳型1の構造のうち本発明の特徴的な構造について説明する。なお、以下の説明における左右方向は請求項の「第1方向」に相当し、当該方向について「左側」は請求項の「金型側合わせ面側」および「一方側」に相当し、「右側」は請求項の「他方側」に相当する。また、上下方向は、請求項の「第2方向」に相当し、当該方向について「上側」は請求項の「キャビティ側」および「一方側」に相当し、「下側」は「他方側」に相当する。
【0028】
ベース中子11は、金型30の左右方向の両側面50とそれぞれ左右方向に対向する内周面70を有する。換言すると、ベース中子11と金型30とは、ベース中子11の内周面70と金型30の外周面50とが左右方向について対向するように組み合わされる。具体的に、上記のようにベース中子11は枠状を有しており、ベース中子11の中央には金型30と嵌合する嵌合部11Aが区画されている。金型30は、下方からベース中子11の中央に挿入されてこれと嵌合するように組み合わされる。これより、鋳型1が完成した状態において、ベース中子11の内周面70の一部は金型30の左右両側面50と左右方向に対向することになる。
【0029】
図4は、図3のIVで示す領域を拡大した図であって、金型30の右側の外側面51と、これと対向するベース中子11の内周面70の周囲を拡大して示した図である。以下では、金型30の右側の外側面51を金型側合わせ面51といい、これと対向するベース中子11の内周面71を砂型側合わせ面71という。
【0030】
図4に示すように、金型側合わせ面51と砂型側合わせ面71とは左右方向に離間しており(溶湯が導入される前において)、これらの間には隙間Xが区画されている。この隙間Xは、その上端においてキャビティCと連通しており、キャビティCから下方に延びている。
【0031】
砂型側合わせ面71の上端部は、上側ほど左方に位置するような階段状を呈しており、砂型側合わせ面71の上端には、左方つまり金型側合わせ面51に向かって突出する突出部72が設けられている。また、砂型側合わせ面71は、突出部72の基端部から下方に延びる砂型側合わせ面71を有している。
【0032】
砂型側合わせ面71は、砂型側第1延出部73から延びる部分においても階段状を呈しており、砂型側第1延出部73の下端から右方に延びる砂型側第2延出部74と、砂型側第2延出部74の右端から下方に延びる砂型側第3延出部75と、砂型側第3延出部75の下端から右方に延びる砂型側第4延出部76とを有する。なお、砂型側第1延出部73の下端は請求項の「砂型側第1延出部の第2方向の他方端」に相当し、砂型側第2延出部74の右端は「砂型側第2延出部の第1方向の他方端」に相当する。
する。
【0033】
砂型側合わせ面71と同様に金型側合わせ面51も階段状を呈している。具体的に、金型側合わせ面51は、その上端から下方に延びる金型側第1延出部52と、金型側第1延出部52の下端から右方に延びる金型側第2延出部53と、金型側第2延出部53の右端から下方に延びる金型側第3延出部54と、金型側第3延出部54の下端から右方に延びる金型側第4延出部55とを有する。なお、金型側第1延出部52の下端は請求項の「金型側第1延出部の第2方向の他方端」に相当し、金型側第2延出部53の右端は「金型側第2延出部の第1方向の他方端」に相当する。
【0034】
金型側第1延出部52は、突出部72および砂型側第1延出部73と左右方向に対向している。ここで、金型側第1延出部52は、上下方向にほぼまっすぐ延びている。これに対して、突出部72は砂型側第1延出部73に対して左方に突出している。これより、金型側第1延出部52つまり金型側合わせ面51と突出部72との左右方向の離間距離R1は、金型側第1延出部52つまり金型側合わせ面51と砂型側第1延出部73との左右方向の離間距離R2よりも小さい寸法に設定されている。以下では、適宜、金型側第1延出部52と突出部72との左右方向の離間距離R1を第1離間距離R1といい、金型側第1延出部52と砂型側第1延出部73との左右方向の離間距離R2を第2離間距離R2という。
【0035】
第1離間距離R1は、基準距離R0よりも小さい寸法に設定されており、第2離間距離R2は、基準距離R0のおよそ2倍の寸法に設定されている。基準距離は、キャビティCに溶湯が導入されたときの金型30の右方向の熱膨張量である。具体的に、キャビティCに溶湯が導入されると金型30は熱膨張する。上記のように金型30は左右方向に長い略直方体形状を有している。これより、金型30は、左右方向に大きく熱膨張する。基準距離R0は、この金型30の左右方向についての熱膨張量(熱膨張後の金型30と熱膨張前の金型30の左右方向の寸法の差)の半分の寸法である。
【0036】
金型側第2延出部53は、突出部72の下方を通り砂型側第2延出部74に沿って右方に延びている。金型側第2延出部53と砂型側第2延出部74とは上下方向にわずかに離間している。例えば、これら第2延出部53、74どうしの上下方向の離間距離は、第1離間距離R1よりも小さい寸法となっている。金型側第2延出部53の左右方向の寸法は、第2離間距離R2よりも十分に大きく、第2延出部53、74間の隙間を介して左右方向に対向する金型側第1延出部52と、砂型側第3延出部75との左右方向の離間距離R3(以下、適宜、第3離間距離R3という)は、第2離間距離R2よりも十分に大きい寸法となっている。
【0037】
金型側第3延出部54は、砂型側第3延出部75から左方に離間した位置において上下方向に延びており、砂型側第3延出部75と左右方向に対向している。金型側第3延出部54と砂型側第3延出部75との左右方向の離間距離R4(以下、適宜、第4離間距離R4という)は、第1離間距離R1よりも大きく、且つ、第2離間距離R2よりも小さい寸法に設定されている。第4離間距離R4は、上記基準距離R0よりもわずかに大きい寸法に設定されている。
【0038】
金型側第4延出部55は、砂型側第4延出部76に沿って左右方向に延びている。金型側第4延出部55と砂型側第4延出部76とは上下方向にわずかに離間している。例えば、これら第4延出部55、76どうしの上下方向の離間距離は、第2延出部53、74どうしの上下方向の離間距離と同等の寸法となっている。金型側第4延出部55は、砂型側第4延出部76の途中部で途切れており、隙間Xは、金型側第4延出部55の右端において外部に開口している。
【0039】
ここで、上記のように、第1離間距離R1は、第2離間距離R2、第3離間距離R3および第4離間距離R4のいずれよりも小さく、第1離間距離R1つまり金型側第1延出部52と突出部72との左右方向の離間距離R1は、砂型側合わせ面71のうち突出部72を除く部分と金型側合わせ面51との左右方向の離間距離よりも小さい寸法となっている。
【0040】
突出部72は、後述するようにキャビティCに溶湯が導入された際に金型30と衝突させて崩壊させる部分である。金型30側に突出していることによって突出部72は崩壊しやすくなっているが、本実施形態では、さらに、突出部72の厚み(上下方向の寸法)d1が崩壊しやすい寸法に設定されている。
【0041】
図5図6を用いて具体的に説明する。図5は、鋳型1に用いられる砂型10と同様の組成で形成された試験用砂型の温度と試験用砂型の強度(ヤング率)との関係を示したグラフである。図6は、砂型の厚みと砂型の最低温度との関係を示したグラフである。具体的には、キャビティが形成された試験用砂型の厚みと、当該キャビティへの溶湯の導入が完了した直後における試験用砂型の最低温度との関係を示したグラフである。
【0042】
図5に示すように、砂型の強度は、砂型の温度が高くなるほど低下する。また、砂型の強度は、砂型の温度が所定の限界温度T1を超えると急激に低下する。これは、限界温度T1を超えると砂型に含まれる樹脂が軟化・炭化することで、樹脂により固定されていた砂どうしがばらばらになるためである。
【0043】
図6に示すように、砂型の厚みが大きくなるほど、砂型の最低温度(キャビティへの溶湯の導入が完了した直後の砂型の最低温度)は低くなる。つまり、砂型の厚みが大きくなるほど、キャビティと、砂型のうちキャビティから最も遠い部分との距離が長くなることで、キャビティへの溶湯の導入が完了した直後における当該部分の温度上昇は抑えられて、この部分の温度である最低温度は低くなる。
【0044】
上記の知見に基づき、突出部72の厚みd1は、キャビティへの溶湯の導入が完了した直後の突出部72の最低温度が上記の限界温度T1以上となる厚みに設定されている。本実施形態では、突出部72の厚みd1は、上記の最低温度が限界温度T1となる厚みd1と同じ値に設定されている。つまり、突出部72の厚みd1は、キャビティCへの溶湯の導入が完了した直後に突出部72のほぼ全体が限界温度T1に到達する厚みの上限値に設定されている。これより、突出部72の強度は、キャビティCへの溶湯の導入が完了した直後にその強度が急激に低下して、より容易に崩壊することになる。なお、突出部72の厚みd1は、上記の最低温度が限界温度T1となる厚みd1よりも小さい寸法に設定されてもよい。ただし、突出部72の厚みd1を過度に小さくすると、キャビティCに溶湯が導入される前段階での突出部72の強度が十分に確保されないおそれがある。また、突出部72の厚みd1を過度に小さくすると、溶湯の流れ方向について突出部72の下流側の部分(金型側第1延出部52と砂型側第1延出部73との間)に溶湯が漏れて、当該溶湯が金型30の熱膨張前に固まることで、金型30の膨張スペースがなくなるおそれがある。これに対して、本実施形態では、上記のように、突出部72の厚みd1が上記厚みの上限値に設定されており、キャビティCに溶湯が導入される前段階での突出部72の強度を確保できるともに、突出部72の下流側の部分に溶湯が早期に導入されるのを防止できる。
【0045】
(3)鋳造方法
次に、上記の鋳型1を用いた鋳造方法であって、鋳型1を用いてアルミ製のシリンダヘッドEを鋳造する方法について説明する。図7は、シリンダヘッドEを鋳造する手順を示したフローチャートである。
【0046】
まず、複数の中子11~21を組み合わせた上記の砂型10と、上記の金型30とを準備する準備工程を実施する(ステップS1)。
【0047】
次に、砂型10と金型30とを組み合わせて鋳型1を組立てる型組立て工程を実施する(ステップS2)。型組立て工程では、上記のように、金型30の金型側合わせ面51と砂型側合わせ面71とが左右方向に対向し、これらの間にキャビティCと連通する隙間Xが区画されるように砂型10と金型30とは組み合わされる。
【0048】
次に、湯口21AからキャビティC内にアルミの溶湯を導入して、キャビティC内に溶湯を充填させる鋳込み工程を実施する(ステップS3)。本実施形態では、鋳型1を、上下方向について図2に示す姿勢と反対の姿勢、つまり、上中子21が鋳型1の下端部に位置して金型30が鋳型1の上端部に位置する姿勢にしてキャビティCに溶湯を充填し、その後、鋳型1を上下反転させて鋳型1の姿勢を図2に示す姿勢と同じ姿勢にする。
【0049】
次に、鋳型1から金型30を取り外す型開き工程を実施する(ステップS4)。型開き工程は、金型30が冷えて、金型30により形作られる部分つまりシリンダヘッドEの底面が凝固した後に実施される。これより、金型30を取り外しても、形成されたシリンダヘッドEの底面と砂型10とによってこれらの内側に溶湯は保持される。
【0050】
次に、凝固したシリンダヘッドEの底面および砂型10に保持されている溶湯を冷却する焼き入れ工程を実施する(ステップS5)。本実施形態では、まず、シリンダヘッドEの底面に冷却水を噴射して当該底面に焼き入れを施し、その後、砂型10のうち上下方向についてシリンダヘッドEの底面と反対側の面に冷却水を噴射する。
【0051】
最期に、砂型10を乾燥させて、乾燥した砂型10を壊すとともにキャビティCから砂を取り除いて、製造された鋳物つまりシリンダヘッドEを取り出す鋳物取出し工程を実施する(ステップS6)。
【0052】
(4)作用等
以上のように、上記実施形態に係る鋳型1では、砂型10と金型30とが組み合わされてキャビティCが区画され、当該キャビティCに溶湯が導入されることでシリンダヘッドEが鋳造される。また、燃焼室E1の天井面E2を含むシリンダヘッドEの下面が金型30により形成されるようになっている。そのため、高強度な燃焼室E1の天井面E2を有しつつ各部が薄肉にされたシリンダヘッドEを鋳造することができる。
【0053】
しかも、金型30の外周面の一部(右側の外側面)である金型側合わせ面51と隙間Xを空けて対向する砂型10であるベース中子11の砂型側合わせ面71の上端、つまり、隙間XのキャビティC側の端部に、金型側合わせ面51に向かって突出する突出部72が設けられている。また、突出部72と金型側合わせ面51の左右方向の離間距離、つまり、砂型側合わせ面71と金型側合わせ面51との対向方向についての離間距離R1が、これら合わせ面51、71どうしの左右方向の離間距離R1~R4のうち最も小さい寸法に設定されている。そのため、上記実施形態に係る鋳型1によれば、金型30と砂型10との組み合わせによる上記の効果を得つつ、砂型10(ベース中子11)の割れを抑制できるとともにバリの発生も抑制することができる。
【0054】
図8を用いて具体的に説明する。図8は、図4に対応する図であって図8(a)は金型30が熱膨張する前の図、図8(b)は金型30が熱膨張した後の図である。
【0055】
上記のように、金型側合わせ面51と砂型側合わせ面71との間には、キャビティCと連通する隙間Xが区画されている。そのため、キャビティCに溶湯が導入されると、矢印Y10にしめすようにキャビティC内の溶湯がこの隙間Xに入り込む。このとき、この隙間Xの左右方向の寸法が大きいと、多量の溶湯が隙間Xに入り込んでバリが発生する。これに対して、上記実施形態では、砂型側合わせ面71のキャビティC側の端部に金型側合わせ面51に向かって突出する突出部72が設けられて、キャビティCから隙間Xへの溶湯の入り口部分の左右方向の寸法R1が小さく抑えられている。そのため、上記実施形態によれば、隙間Xに入り込む溶湯の量を少なく抑えることができ、バリの発生を抑制できる。
【0056】
ここで、上記実施形態とは異なり隙間X全体の左右方向の寸法を単に小さくした構成であっても、隙間Xへの溶湯の入り込みは抑制される。しかしながら、ベース中子11つまり砂型10に比べて金型30は熱膨張率が大きいので、キャビティCに溶湯が導入されるとベース中子11に比して金型30は大きく熱膨張し、矢印Y1に示すように、金型側合わせ面51は砂型側合わせ面71に近づいていく。そのため、隙間X全体の左右方向の寸法を小さくした構成を仮に採用すると、金型側合わせ面51の全体が砂型側合わせ面71に衝突し、ベース中子11の広範囲にわたって荷重が付与される結果ベース中子11が壊れてしまう。
【0057】
これに対して、上記実施形態では、上記のように、突出部72が金型側合わせ面51に向かって突出する形状であって厚みd1が小さく壊れやすい形状を呈するとともに、突出部72と金型側合わせ面51の左右方向の離間距離R1が、砂型側合わせ面71のうち突出部72を除く部分と金型側合わせ面51との左右方向の離間距離R2、R3、R4よりも小さくされている。そのため、図8(b)に示すように、金型30の熱膨張時に金型側合わせ面51を突出部72のみに衝突させることができるとともに、この衝突によって突出部72を破壊させてベース中子11の他の部分に金型30から力が付与されるのを回避できる。従って、上記実施形態によれば、ベース中子11全体が壊れるのを防止できる。
【0058】
また、上記実施形態では、砂型側合わせ面71に、突出部72の基端部から下方に延びる砂型側第1延出部73と、砂型側第1延出部73の下端から右方に延びる砂型側第2延出部74とが設けられている。また、金型側合わせ面51に、突出部72および砂型側第1延出部73と対向して上下方向に沿って延びる金型側第1延出部52と、金型側第1延出部52の下端から右方に延びる金型側第2延出部53とが設けられている。そして、これにより、突出部72の下方に、砂型側第1延出部73、金型側第1延出部52および金型側第2延出部53により区画される空間X2が区画されている。そのため、図8(b)に示すように、突出部72の崩壊によって生じた砂Sを上記の空間X2に貯留させて、砂型側第2延出部74と金型側第2延出部53との間の隙間を塞ぐことができる。従って、溶湯が、これら第2延出部53、74の間を通って隙間Xのさらに下流側に入り込むのを抑制でき、バリの発生をより確実に抑制できる。
【0059】
また、上記実施形態では、砂型側合わせ面71に、さらに、砂型側第2延出部74の右端から下方に延びる砂型側第3延出部75が設けられている。また、金型側合わせ面51に、金型側第2延出部53の右端から下方に延びる金型側第3延出部54が設けられている。そして、この構成により、上記の隙間Xが少なくとも2回折れ曲がる通路とされている。そのため、溶湯が隙間Xの下流側に入り込むのを抑制でき、バリの発生をより一層確実に抑制できる。また、砂型側第3延出部75と金型側第3延出部54の左右方向の離間距離R4が、砂型側第1延出部73と金型側第1延出部52の左右方向の離間距離R2よりも小さい寸法に設定されている。そのため、砂型側第3延出部75と金型側第3延出部54との間に溶湯が入り込むのを抑制できるとともに、上記空間X2の左右方向の離間距離を確保して、突出部72の崩壊によって生じた砂Sを空間X2内に貯留させつつ貯留した砂Sを介して金型30からベース中子11に圧力が付与されるのを防止できる。
【0060】
また、上記実施形態では、上記のように、突出部72の厚みd1は、キャビティCへの溶湯の導入が完了した直後の突出部72の最低温度が上記の限界温度T1つまり突出部72の強度が低下する温度となる厚みd1と同じ値に設定されている。従って、キャビティCに溶湯が導入されることに伴って金型30が熱膨張した際に、突出部72を金型30との衝突により確実に崩壊させることができる。従って、金型30との衝突によりベース中子11全体が壊れるのを防止できる。
【0061】
(5)変形例
上記実施形態では、金型30の右側の外側面51に対向するベース中子11の内周面70に突出部72を設けた場合を説明したが、突出部72を設ける部位はこれに限られない。また、突出部72を設ける中子はベース中子11に限られない。また、上記実施形態に係る構成は、シリンダヘッドE以外の物品を鋳造するための鋳型に適用されてもよい。また、突出部72の厚みは上記に限られない。
【符号の説明】
【0062】
1 鋳型
10 砂型
11 ベース中子(砂型)
30 金型
51 金型側合わせ面
52 金型側第1延出部
53 金型側第2延出部
54 金型側第3延出部
71 砂型側合わせ面
72 突出部
73 砂型側第1延出部
74 砂型側第2延出部
75 砂型側第3延出部
C キャビティ
X 隙間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8