(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160271
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用組成物及び生体洗浄用水溶液
(51)【国際特許分類】
A61K 38/40 20060101AFI20231026BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20231026BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20231026BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20231026BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20231026BHJP
A23L 3/3526 20060101ALI20231026BHJP
A23L 2/44 20060101ALN20231026BHJP
【FI】
A61K38/40
A61P1/02
A61P31/04
A61Q11/00
A61K8/64
A23L3/3526 501
A23L2/00 P
A23L2/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070505
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006127
【氏名又は名称】森永乳業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100147865
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 美和子
(72)【発明者】
【氏名】池田 正幸
(72)【発明者】
【氏名】岩本 洋
(72)【発明者】
【氏名】宮地 一裕
【テーマコード(参考)】
4B021
4B117
4C083
4C084
【Fターム(参考)】
4B021LW06
4B021MC01
4B021MK22
4B021MP01
4B117LC15
4B117LK15
4B117LL07
4C083AD411
4C083AD412
4C083BB55
4C083CC41
4C083DD23
4C083EE32
4C083EE33
4C084AA02
4C084BA44
4C084CA38
4C084MA17
4C084MA57
4C084NA14
4C084ZA671
4C084ZA672
4C084ZB351
4C084ZB352
(57)【要約】
【課題】
本技術は、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために有用な組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】
本技術は、ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を含む、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用組成物を提供する。好ましくは、前記組成物は、熱処理されたラクトフェリンを含む。前記組成物は、水溶液の形態にあってよい。より具体的には、前記組成物は、ラクトフェリン含有水溶液の熱処理物であってよい。また、本技術は、ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を含む生体洗浄用水溶液も提供する。前記生体洗浄用水溶液は、熱処理されたラクトフェリンを含んでよい。前記水溶液は、口腔内を洗浄するために又は創傷部位を洗浄するために用いられるものであってよい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を含む、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用組成物。
【請求項2】
熱処理されたラクトフェリンを含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記腸球菌は、Enterococcus属の細菌である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
前記う蝕菌は、Streptococcus属の細菌である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項5】
前記歯周病菌は、Aggregatibacter属の細菌である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項6】
前記組成物は、水溶液の形態である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物は、ラクトフェリン含有水溶液の熱処理物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項8】
前記熱処理は、100℃以上の温度での熱処理である、請求項2に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物は、水溶液の形態であり、且つ、前記ラクトフェリンを1mg/mL以下の濃度で含む、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項10】
前記ラクトフェリンは、熱処理されたラクトフェリン又は熱処理されていないラクトフェリンである、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物は、ラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン加水分解物含有水溶液の熱処理物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項12】
ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を含む生体洗浄用水溶液。
【請求項13】
熱処理されたラクトフェリンを含む、請求項12に記載の生体洗浄用水溶液。
【請求項14】
前記水溶液は、口腔内を洗浄するために又は創傷部位を洗浄するために用いられるものである、請求項12又は13に記載の水溶液。
【請求項15】
前記水溶液は、生体に存在する腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられる、請求項12又は13に記載の水溶液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用組成物及び生体洗浄用水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
細菌により形成されるバイオフィルムは、悪影響を及ぼすことがある。例えば、医療行為において用いられるカテーテル内に黄色ブドウ球菌などの細菌がバイオフィルムを形成することがある。当該バイオフィルムを形成した当該細菌は、抗生物質又は免疫に対する抵抗性が高くなる。また、歯科医療に関して、う蝕及び歯周病がバイオフィルム感染症として知られている。
【0003】
バイオフィルム形成を抑制する技術に関して、これまでにいくつかの提案が行われている。例えば、下記特許文献1には、「8~2000μg/mlのラクトフェリン、ラクトパーオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、及びグルコースを有効成分として含有するポルフィロモナス・ジンジバリス産生バイオフィルム形成抑制剤」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本技術は、バイオフィルム形成抑制のための新たな技法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特定の組成物がバイオフィルム形成を阻害するために有用であることを見出した。
【0007】
すなわち、本技術は以下を提供する。
[1]ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を含む、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用組成物。
[2]熱処理されたラクトフェリンを含む、[1]に記載の組成物。
[3]前記腸球菌は、Enterococcus属の細菌である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]前記う蝕菌は、Streptococcus属の細菌である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[5]前記歯周病菌は、Aggregatibacter属の細菌である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[6]前記組成物は、水溶液の形態である、[1]~[5]のいずれか一つに記載の組成物。
[7]前記組成物は、ラクトフェリン含有水溶液の熱処理物である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の組成物。
[8]前記熱処理は、100℃以上の温度での熱処理である、[2]~[7]のいずれか一つに記載の組成物。
[9]前記組成物は、水溶液の形態であり、且つ、前記ラクトフェリンを1mg/mL以下の濃度で含む、[1]~[8]のいずれか一つに記載の組成物。
[10]前記ラクトフェリンは、熱処理されたラクトフェリン又は熱処理されていないラクトフェリンである、[1]に記載の組成物。
[11]前記組成物は、ラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン加水分解物含有水溶液の熱処理物である、[1]~[6]のいずれか一つに記載の組成物。
[12]ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を含む生体洗浄用水溶液。
[13]熱処理されたラクトフェリンを含む、[12]に記載の生体洗浄用水溶液。
[14]前記水溶液は、口腔内を洗浄するために又は創傷部位を洗浄するために用いられるものである、[12]又は[13]に記載の水溶液。
[15]前記水溶液は、生体に存在する腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられる、[12]~[14]のいずれか一つに記載の水溶液。
【発明の効果】
【0008】
本技術に従う組成物は、バイオフィルム形成阻害のために有用であり、例えば腸球菌、う蝕菌、及び歯周病菌によるバイオフィルム形成阻害のために有用である。
本技術に従う組成物は、例えば飲料として構成されてよい。当該飲料を摂取することによって、水分又は栄養補給などの効果が発揮されつつ、生体内におけるバイオフィルム形成も阻害することができる。
また、本技術に従う組成物は、生体洗浄用水溶液として構成されてもよい。当該生体洗浄用水溶液は、例えば洗口液として用いられてよく、又は、生体のいずれかの部位(例えば創傷部位など)の洗浄用に用いられてもよい。
なお、本技術の効果は、ここに記載された効果に限定されず、本明細書内に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】バイオフィルム形成阻害作用の測定結果を示すグラフである。
【
図2】バイオフィルム形成阻害作用の測定結果を示すグラフである。
【
図3】バイオフィルム形成阻害作用の測定結果を示すグラフである。
【
図4】バイオフィルム形成阻害作用の測定結果を示すグラフである。
【
図5】バイオフィルム形成阻害作用の測定結果を示すグラフである。
【
図6】バイオフィルム形成阻害作用の測定結果を示すグラフである。
【
図7】バイオフィルム形成阻害作用の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に本技術の好ましい実施形態について説明する。ただし、本技術は以下の好ましい実施形態のみに限定されず、本技術の範囲内で自由に変更することができる。
【0011】
本技術の組成物は、ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を含む。これらの成分は、腸球菌によるバイオフィルム形成を阻害するために適している。また、これら成分は、う蝕菌によるバイオフィルム形成を阻害するためにも適している。また、これら成分は、歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するためにも適している。
好ましい実施態様において、本技術の組成物は、熱処理されたラクトフェリンを含む。熱処理されたラクトフェリンは、腸球菌によるバイオフィルム形成を阻害するために特に適している。熱処理されたラクトフェリンは、う蝕菌によるバイオフィルム形成を阻害するためにも特に適している。熱処理されたラクトフェリンは、歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するためにも特に適している。
前記組成物は、例えば水溶液の形態にあってよい。当該水溶液は例えば飲料として構成されてよく、又は、洗浄用液体として構成されてもよい。
【0012】
また、本技術は、ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を含む生体洗浄用水溶液も提供する。当該水溶液は、腸球菌によるバイオフィルム形成を阻害することができる。また、当該水溶液は、う蝕菌によるバイオフィルム形成を阻害することもできる。また、当該水溶液は、歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害することもできる。そのため、当該水溶液は、このようなバイオフィルムが形成されうる生体部分を洗浄するために適している。
好ましい実施態様において、前記水溶液は、熱処理されたラクトフェリンを含む。熱処理されたラクトフェリンは、上記のとおり、腸球菌、う蝕菌、及び歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために特に適している。
【0013】
以下で、本技術についてより詳細に説明する。
【0014】
(1)バイオフィルム形成阻害用組成物
本技術の組成物は、バイオフィルム形成を阻害するために用いられる。当該組成物は、例えば、腸球菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられる。前記腸球菌は、エンテロコッカス(Enterococcus)属細菌とも呼ばれる。前記腸球菌の例として、例えばEnterococcus faecalis及びEnterococcus faeciumを挙げることができ、これらは感染症の原因菌となりうる。前記腸球菌は、ヒト胃腸管の正常微生物叢の一部であるが、20年以上にわたって院内感染の重要な原因として認識されている。腸球菌は種々の疾患に関与しており、例えば尿路感染症、菌血症、腹腔内又は手術創傷における感染症、カテーテル関連感染症、並びに心内膜炎に関与している。また、前記腸球菌の他の例として、Enterococcus avium、Enterococcus casseliflavus、及びEnterococcus gallinarumを挙げることもできる。本技術の組成物に含まれるラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物(特にはこれらの熱処理物)は、このような腸球菌によるバイオフィルム形成を阻害するために有用である。すなわち、本技術の組成物は、Enterococcus属細菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよく、特にはEnterococcus faecalis、Enterococcus faecium、Enterococcus avium、Enterococcus casseliflavus、及びEnterococcus gallinarumのうちのいずれか1つ以上によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。例えば、本技術の組成物は、Enterococcus faecalis及び/又はEnterococcus faeciumによるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。
【0015】
また、当該組成物は、う蝕菌及び歯周病菌などの口腔内に存在する菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてもよい。本技術の組成物は、このような口腔内に存在する菌によるバイオフィルム形成に対して有用である。
【0016】
例えば、本技術の組成物は、う蝕菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。う蝕菌は、虫歯の原因となる細菌である。う蝕菌の例として例えばStreptococcus mutans及びStreptococcus sobrinus等を挙げることができる。これらは、グラム陽性通性嫌気性菌である。これらは歯の表面に付着及び定着し他の菌と共にバイオフィルムを形成する。菌から産生される酸は、歯のエナメル質を溶解させう蝕を形成する。このう蝕を防ぐために、バイオフィルム形成を阻止するための様々な防御方法が用いられている。例えば、ブラッシングにより物理的に除く方法、殺菌剤による口腔内洗浄、キシリトール等の酸を作らない糖アルコールの摂取等が試みられている。本技術の組成物に含まれるラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物(特にはこれらの熱処理物)は、上記のような虫歯の原因となる菌のバイオフィルム形成を阻害するために有効である。
すなわち、本技術の組成物は、Streptococcus属のう蝕菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよく、特にはStreptococcus mutans及び/又はStreptococcus sobrinusによるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。
【0017】
例えば、本技術の組成物は、歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてもよい。歯周病菌も、う蝕と同様に歯を失う原因菌の一つである。歯周病菌の例として、Aggregatibacter actinomycetemcomitans等が知られている。Aggregatibacter actinomycetemcomitansは、パスツレラ科に属する細菌の一つである。歯周病菌は歯の表面に付着しバイオフィルムを形成する。それにより歯と歯茎の間にポケットが形成され、そこに停滞した細菌により歯茎に炎症が引き起こされ、最終的に歯の喪失につながっていく。バイオフィルム除去あるいは形成を防ぐには、上記で述べたとおり、様々な防御方法が用いられている。本技術の組成物に含まれるラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物(特にはこれらの熱処理物)は、このような歯周病菌のバイオフィルム形成を阻害するために有効である。
すなわち、本技術の組成物は、Aggregatibacter属細菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよく、特にはAggregatibacter actinomycetemcomitansによるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。
【0018】
また、本技術の組成物は、腸球菌によるバイオフィルム形成及び口腔内に存在する菌(例えば上記う蝕菌及び/又は歯周病菌)によるバイオフィルム形成の両方を阻害するために用いられてもよい。本技術の組成物は、これら両方のバイオフィルム形成を阻害することができるので、非常に有用である。
【0019】
バイオフィルムは、細菌が自身の周囲に産生する物質を主成分として含み、当該物質の一つとして多糖類が挙げられる。また、バイオフィルムには、多糖類に加えて、例えば糖蛋白質などの他の成分が含まれていてもよい。
【0020】
本明細書内において、バイオフィルム形成の阻害とは、例えばバイオフィルムの増大を抑制すること、バイオフィルムの生成を防ぐこと、又は、バイオフィルムを減少させることを意味してよい。バイオフィルムが形成されることは細菌の増殖を促進しうるので、バイオフィルム形成の阻害によって、例えば腸球菌、う蝕菌、若しくは歯周病菌、又はこれらのうちの1つ以上の増殖を防ぐことができ又は腸球菌、う蝕菌、若しくは歯周病菌、又はこれらのうちの1つ以上を減少させることもできると考えられる。そのため、バイオフィルム形成の阻害は、腸球菌、う蝕菌、若しくは歯周病菌、又はこれらのうちの1つ以上が関与する疾患を予防又は処置することにも貢献する。
また、バイオフィルムは、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌以外の細菌にとっても有用である場合がある。そのため、本技術によるバイオフィルム形成の阻害は、腸球菌、う蝕菌、若しくは歯周病菌以外の細菌の増殖を防ぎ、又は、腸球菌、う蝕菌、若しくは歯周病菌以外の細菌を減少させることにも貢献すると考えられる。
【0021】
(2)ラクトフェリン
一実施態様において、本技術の組成物はラクトフェリンを含む。ラクトフェリンは、腸球菌のバイオフィルム形成を阻害するために適している。また、ラクトフェリンは、う蝕菌及び歯周病菌などの口腔内細菌によるバイオフィルム形成を阻害するために適している。
ラクトフェリンは、その鉄キレート作用により細菌増殖を抑制すると知られているが、当該鉄キレート作用による細菌増殖抑制作用は、腸球菌に対しては発揮されない。そのため、本技術の組成物による腸球菌のバイオフィルム形成を阻害作用は、当該鉄キレート作用による細菌増殖抑制作用とは異なるメカニズムに基づくものと考えられる。
【0022】
ラクトフェリンは、例えば乳、涙、唾液、及び血液などの体液中に存在する鉄結合性の糖蛋白質である。ラクトフェリンは、哺乳動物の乳、例えばヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、水牛、ラクダ、ヤク、ウマ、ロバ、ラマ、ウシ又はヒトなどの乳に含まれる。
【0023】
本技術の組成物に含まれるラクトフェリンは、哺乳動物の乳由来のものであってよい。含有量及び入手容易性の観点から、例えばウシ又はヒトの乳が、ラクトフェリンを入手するための源として好ましく、特にはウシ乳がラクトフェリンを入手するための源として好ましい。すなわち、本技術において用いられるラクトフェリンとして、例えばウシ又はヒトの乳に由来するラクトフェリン、好ましくはウシ乳由来ラクトフェリンが用いられてよい。乳は、初乳、移行乳、常乳、及び末期乳のいずれでもよい。本技術において、市販入手可能なラクトフェリンが用いられてもよい。
本技術において用いられるラクトフェリンは、哺乳動物の乳を処理して得られる脱脂乳又はホエーから常法(例えば、イオンクロマトグラフィー等)によって分離されたラクトフェリンであってよい。また、本技術において用いられるラクトフェリンは、非グリコシル化又はグリコシル化されたものでもよい。
【0024】
飲食品分野において用いられるラクトフェリンは、通常は乳由来ラクトフェリン(特には牛乳由来ラクトフェリン)である。乳由来ラクトフェリンは、多くの場合、乳清から得られる。このようにして得られる乳由来ラクトフェリンは、ラクトフェリン以外の蛋白質も含みうる。すなわち、飲食品分野においてラクトフェリンとして用いられているものは、ラクトフェリン蛋白質そのものだけでなく、ラクトフェリン以外の乳由来蛋白質も含む。すなわち、本明細書内において、ラクトフェリンは、ラクトフェリンそのものと、ラクトフェリンを乳から得る際にラクトフェリンに付随して得られるラクトフェリン以外の乳由来蛋白質とを含む組成物も包含するものである。そのため、本技術の組成物を製造するために用いられる原料としてのラクトフェリンは、ラクトフェリン材料と称されてもよい。なお、ラクトフェリンは、ラクトフェリン純度が例えば90質量%以上、92質量%以上、94質量%以上、95質量%以上、又は96質量%以上であってよい。
【0025】
一実施態様において、前記組成物は、ラクトフェリン含有水溶液であってよい。水溶液中に存在するラクトフェリンは腸球菌によるバイオフィルム形成を阻害するために特に適している。前記ラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリン濃度は、0mg/ml超であってよく、例えば0.00001mg/ml以上、0.0001mg/ml以上、0.001mg/ml以上、又は0.01mg/ml以上であってよい。前記ラクトフェリン濃度は、例えば500mg/ml以下、400mg/ml以下、300mg/ml以下、200mg/ml以下、又は100mg/ml以下であってよく、好ましくは50mg/ml以下であり、より好ましくは30mg/ml以下、10mg/ml以下、又は1mg/mL以下であってよい。このような濃度は、優れたバイオフィルム形成阻害作用を発揮するために好ましい。また、ラクトフェリン濃度が高すぎる場合は、前記バイオフィルム形成阻害作用が弱まる可能性がある。
なお、前記組成物(前記水溶液)は、ラクトフェリン及び後述のラクトフェリン分解物の両方を含んでもよい。この場合において、ラクトフェリン及びラクトフェリン分解物の合計濃度が、以上で述べた数値範囲内にあってよい。すなわち、上記でラクトフェリンに関して述べた数値範囲は、ラクトフェリン及びラクトフェリン分解物の合計濃度について適用されてよい。
【0026】
前記ラクトフェリンは、熱処理されたラクトフェリンであってよく又は熱処理されていないラクトフェリンであってもよい。
好ましい実施態様において、前記ラクトフェリンは、熱処理されたラクトフェリンである。熱処理されたラクトフェリンは、腸球菌、う蝕菌、及び歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために特に適している。すなわち、熱処理によって、ラクトフェリンのバイオフィルム形成阻害活性を高められる。
【0027】
前記熱処理は、例えば水中に存在するラクトフェリンに対して行われてよい。このような熱処理は、ラクトフェリンのバイオフィルム形成阻害作用を高めるために特に好ましい。前記熱処理が行われるラクトフェリン含有水溶液のラクトフェリン濃度は、上記で述べたとおりであってよい。当該濃度での熱処理が、ラクトフェリンのバイオフィルム形成阻害作用の向上のために好ましい。
本明細書内において、ラクトフェリン含有水溶液は、ラクトフェリンのみが溶解された水溶液であってよく、又は、ラクトフェリンに加えて他の任意成分が含まれる水溶液であってもよい。
【0028】
上記の熱処理が行われたラクトフェリン含有水溶液が、本技術に従う組成物として用いられてよい。すなわち、好ましい実施態様において、本技術の組成物はラクトフェリン含有水溶液の熱処理物である。
【0029】
前記熱処理の温度は例えば100℃以上であり、好ましくは105℃以上であり、より好ましくは110℃以上であり、さらにより好ましくは112℃以上、114℃以上、116℃以上、又は118℃以上であり、特に好ましくは120℃以上である。このような温度での熱処理は、バイオフィルム形成阻害作用の向上のために適している。
前記熱処理の温度は、好ましくは180℃以下であり、より好ましくは170℃以下、160℃以下、又は150℃以下である。高すぎる温度は、水の蒸発を引き起こし、得られるラクトフェリン含有水溶液の量が減少することがある。
前記熱処理として、例えばレトルト食品に求められる加熱条件(120℃4分以上)が適用されてよく、又は、UHT法に従う熱処理が適用されてもよい。
【0030】
前記熱処理において、前記ラクトフェリン含有水溶液が上記温度に維持される時間は、熱処理の温度に応じて当業者により適宜設定されてよいが、例えば0.5秒~15分、好ましくは1秒~10分、より好ましくは1秒~8分であってよい。熱処理の温度がより高いほど、前記時間はより短く設定されうる。
前記熱処理が、UHT法において採用されるような温度(例えば130℃以上、特には130℃~150℃)である場合、前記時間は、好ましくは0.5秒~10秒、より好ましくは0.8秒~8秒、さらにより好ましくは1秒~5秒である。
前記熱処理が、レトルト殺菌において採用されるような温度(例えば110℃以上、特には110℃~130℃未満)である場合、前記時間は、好ましくは2分~10分、より好ましくは3分~8分、特には4分~7分である。
本技術において、前記時間とは、前記熱処理に付されるラクトフェリン含有水溶液の中心部分の温度が、達成されるべき温度で維持される時間をいう。
【0031】
前記ラクトフェリン含有水溶液中の、ラクトフェリン以外の蛋白質の合計含有質量は、ラクトフェリン含有質量の1/12以下、好ましくは1/14以下、より好ましくは1/16以下、さらにより好ましくは1/18以下、特に好ましくは1/20以下であってよい。当該ラクトフェリン含有水溶液を調製するために、例えば、ラクトフェリン純度の高いラクトフェリン材料が水又は水溶液に溶解されてよい。当該ラクトフェリン材料として、例えばラクトフェリン純度が90質量%以上、好ましくは92質量%以上、より好ましくは94質量%以上、さらにより好ましくは95質量%以上、特に好ましくは96質量%のラクトフェリン材料が用いられてよい。
【0032】
前記ラクトフェリン含有水溶液の塩濃度は例えば5mM以下、より好ましくは4mM以下、さらにより好ましくは3mM以下、特に好ましくは2mM以下であってよい。このような塩濃度は、塩の含有量が低いラクトフェリン材料を用いることで達成することができる。
【0033】
ラクトフェリン純度が高く且つ塩含有量が低いラクトフェリン材料は、例えばラクトフェリンを含む脱脂乳又は乳清に対して陽イオン交換樹脂吸着処理及び限外ろ過処理を行うことによって製造することができる。例えば、脱脂乳又は乳清を陽イオン交換樹脂に接触させることで、ラクトフェリンが陽イオン交換樹脂に吸着する。当該陽イオン交換樹脂に吸着したラクトフェリンは、食塩水によって、当該陽イオン交換樹脂から分離される。次に、限外ろ過膜を用いて脱塩を行うことによって、ラクトフェリン純度が高く且つ塩濃度の低いラクトフェリン材料が得られる。
【0034】
前記陽イオン交換樹脂吸着処理において用いられるイオン交換体は、好ましくはイオン交換体官能基がカルボキシメチル(CM)基である。CM基を官能基として有するイオン交換体として、例えばCM-セファロースFF(GEヘルスケア・ジャパン社製)を挙げることができるが、これに限定されない。
前記陽イオン交換樹脂に吸着したラクトフェリンを当該樹脂から分離するための食塩水の濃度は、例えば5~15質量%、好ましくは6~14質量%、より好ましくは8~12質量%であってよい。
【0035】
前記限外ろ過膜の分画分子量は、例えば5,000~50,000、好ましくは10,000~30,000、より好ましくは15,000~25,000であってよい。前記限外ろ過膜として、例えばGR61PP(アルファラバル社製、分画分子量20,000)を挙げることができるが、これに限定されない。
【0036】
好ましくは、前記ラクトフェリン含有水溶液は、前記ラクトフェリン材料以外の蛋白質性材料を含まない。本技術において、蛋白質性材料とは蛋白質及びペプチドを包含し、より特には蛋白質及びペプチドのみを意味する。当該ラクトフェリン含有水溶液の製造に用いられる材料として蛋白質性材料が用いられないことにより、当該ラクトフェリン含有水溶液に含まれる夾雑蛋白質の含有割合を容易に調整することができる。
【0037】
前記ラクトフェリン含有水溶液は、例えば香料、着色料、甘味料、酸味料、及び果汁などの任意成分をさらに含んでもよい。前記任意成分を含むラクトフェリン含有水溶液は、そのまま飲料(例えば清涼飲料水)として利用することができる。なお、前記任意成分は、好ましくは蛋白質性材料でない。
【0038】
前記香料として、例えばフルーツフレーバー(例えばストロベリーフレーバー、バナナフレーバー、及びピーチフレーバーなど)、コーヒーフレーバー、及び紅茶フレーバーを挙げることができる。
前記着色料として、例えば天然着色料及び合成着色料を挙げることができる。
前記甘味料として、例えばブドウ糖、果糖、及びショ糖などの天然甘味料、並びに、例えばアスパルテーム、アセスルファムカリウム、及びスクラロースなどの高甘味度甘味料を挙げることができる。
前記酸味料として、例えばクエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、及び酒石酸を挙げることができる。
前記果汁として、例えばイチゴ果汁、バナナ果汁、及びピーチ果汁などを挙げることができる。
【0039】
前記ラクトフェリン含有水溶液は、好ましくは安定化剤を含まない。本技術に従うラクトフェリン含有水溶液は、グリセリン脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、レシチン、大豆多糖類、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ガティガム、カラギナン、ローカストビーンガム、及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる一つ又は二つ以上の安定化剤を含まない。特には、当該ラクトフェリン含有水溶液は、グリセリン脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、レシチン、大豆多糖類、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ガティガム、カラギナン、ローカストビーンガム、及びカルボキシメチルセルロースのいずれも安定化剤として含まない。
【0040】
前記ラクトフェリン含有水溶液を調製するために用いられるラクトフェリン材料には、微量ではあるが、カゼインナトリウムが含まれることがある。前記ラクトフェリン含有水溶液を調製するためのラクトフェリン材料は、カゼインナトリウムを、ラクトフェリン材料の質量に対して、例えば5質量%以下、特には2質量%以下、より特には0.5質量%以下の含有割合で含むことがある。ラクトフェリン材料に元々含まれるカゼインナトリウムは、前記安定化剤でない。
なお、前記ラクトフェリン含有水溶液中のカゼインナトリウム濃度は、例えば20mg/ml以下であり、より好ましくは10mg/ml以下又は5mg/ml以下であり、さらにより好ましくは1.5mg/ml以下であり、さらにより好ましくは0.5mg/ml以下であり、特に好ましくは0.05mg/ml以下であってよいが、特に好ましくは前記ラクトフェリン含有水溶液はカゼインナトリウムを含まない。
【0041】
前記水溶液に含まれるラクトフェリンに関して、好ましくは、熱処理前にラクトフェリンが有していた活性が維持される。
ラクトフェリンの活性の維持の指標として、例えばラクトフェリンの抗菌活性及び/又はカテコール-O-メチルトランスフェラーゼ(以下、COMTともいう)阻害活性が用いられてよい。
本技術において活性の維持とは、前記熱処理前にラクトフェリンが有していた或る活性が、前記熱処理後においても例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上維持されることを意味してよい。また、本技術において活性の維持とは、前記熱処理前にラクトフェリンが有していた或る活性が、前記熱処理後においても例えば90%以上維持されてもよい。
また、前記熱処理によって、前記熱処理前にラクトフェリンが有していた活性が増強されてもよい。例えば、ラクトフェリンのCOMT活性及び抗菌活性、特にはラクトフェリンの抗菌活性は、前記熱処理によって、増強されうる。
すなわち、前記熱処理後において、前記熱処理前にラクトフェリンが有していた活性が維持されてよく、又は、増強されてもよい。
【0042】
本技術に従い、好ましくは、前記熱処理に付されるラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリンのCOMT阻害活性が、当該熱処理後において例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上維持される。すなわち、前記熱処理は、好ましくは、当該熱処理後において、当該熱処理前のラクトフェリンのCOMT阻害活性を例えば50%以上、好ましくは60%以上、より好ましくは70%以上、さらにより好ましくは80%以上維持する熱処理であってよい。
COMTは、種々の臓器において発現されており、肝臓及び腎臓では高い活性を有する。COMTは、腸、特には腸粘膜においても発現される。神経伝達物質の代謝におけるCOMTの生理学的役割は、薬学分野において注目されている。
本技術において、COMT阻害活性は、Ikeda et al.,Inhibitory Effect of Bovine Lactoferrin on Catechol-O-Methyltransferase,Molecules.2017,22,1373に記載された方法に準じて測定されてよい。
【0043】
前記ラクトフェリン含有水溶液に含まれる蛋白質の合計含有割合は、当該水溶液の質量に対して好ましくは420mg/ml以下であり、より好ましくは210mg/ml以下若しくは105mg/ml以下であり、さらにより好ましくは31.5mg/ml以下であり、さらにより好ましくは10.5mg/ml以下であり、特に好ましくは1.05mg/ml以下であってよい。これにより、ラクトフェリンの沈殿生成が起こりにくくなる。
【0044】
前記ラクトフェリン含有水溶液の水の含有割合は、当該水溶液の質量に対して例えば95質量%以上、好ましくは96質量%以上、より好ましくは97質量%以上であってよい。すなわち、前記ラクトフェリン含有水溶液の水以外の成分の含有割合は、当該水溶液の質量に対して例えば5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下であってよい。
【0045】
また、本技術の好ましい実施態様に従い、前記ラクトフェリン含有水溶液の固形分濃度は、例えば45w/v%以下であり、特には3w/v%以下、より特には0.1w/v%以下であってよい。
【0046】
また、本技術の好ましい実施態様に従い、前記ラクトフェリン含有水溶液の粘度は、例えば25℃において、800mPa・s以下、特には300mPa・s以下、より特には7mPa・s以下であってよい。
【0047】
一実施態様において、本技術のラクトフェリン含有水溶液は、塩を含んでよい。当該塩は、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩のうちの1つであってよく、又は、2つ、3つ、若しくは4つ全てであってもよい。当該塩は、溶解した状態で前記水溶液中に存在してよい。これら塩の濃度は、例えば以下のように、塩を構成するイオン(陽イオン)の濃度によって表されてよい。
本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン含有水溶液)は、カルシウムイオンを、例えば0.01mM以上、特には0.05mM以上、0.1mM以上、又は0.2mM以上の濃度で含んでよい。また、前記組成物は、カルシウムイオンを、例えば2mM以下、特には1.8mM以下、1.5mM以下、又は1.2mM以下の濃度で含んでよい。
本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン含有水溶液)は、マグネシウムイオンを、例えば0.005mM以上、特には0.01mM以上、0.02mM以上、又は0.03mM以上の濃度で含んでよい。また、前記組成物は、マグネシウムイオンを、例えば1mM以下、特には0.9mM以下、0.7mM以下、又は0.5mM以下の濃度で含んでよい。
本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン含有水溶液)は、ナトリウムイオンを、例えば0.01mM以上、特には0.05mM以上、0.1mM以上、又は0.2mM以上の濃度で含んでよい。また、前記組成物は、ナトリウムイオンを、例えば2mM以下、特には1.8mM以下、1.5mM以下、又は1.2mM以下の濃度で含んでよい。
本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン含有水溶液)は、カリウムイオンを、例えば0.001mM以上、特には0.005mM以上、0.007mM以上、又は0.001mM以上の濃度で含んでよい。また、前記組成物は、カリウムイオンを、例えば0.1mM以下、特には0.9mM以下、0.8mM以下、又は0.7mM以下の濃度で含んでよい。
【0048】
また、本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン含有水溶液)は、キシリトールを含まないものであってよい。
また、本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン含有水溶液)は、ラクトパーオキシダーゼを含まないものであってよい。また、本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン含有水溶液)は、グルコースオキシダーゼを含まないものであってよい。また、本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン含有水溶液)は、グルコースを含まないものであってよい。
【0049】
(3)ラクトフェリン分解物
他の実施態様において、本技術の組成物はラクトフェリン分解物を含む。ラクトフェリン分解物は、腸球菌のバイオフィルム形成を阻害するために適している。また、ラクトフェリン分解物は、う蝕菌及び歯周病菌などの口腔内細菌によるバイオフィルム形成を阻害するためにも適している。
【0050】
前記ラクトフェリン分解物は、ラクトフェリンの酵素分解物、酸分解物、又はアルカリ分解物であってよく、好ましくはラクトフェリンの酵素分解物である。
【0051】
好ましくは、前記ラクトフェリン分解物は、酵素による加水分解によって得られる加水
分解物である。すなわち、前記ラクトフェリン分解物は、ラクトフェリンの加水分解物であってよい。前記酵素として、例えばプロテアーゼ、トリプシン、キモトリプシン、キモシン、プラスミン、ペプシン、パパイン、ペプチダーゼ、及びアミノペプチダーゼを挙げることができるが、これらに限定されない。当該酵素は、細菌由来又は動物由来のいずれであってもよい。細菌由来の酵素として、例えばバシラス属、ビフィドバクテリウム属、エンテロコッカス属、ラクトバシラス属、ラクトコッカス属、ロイコノストック属、ペディオコッカス属、プロピオンバクター属、シュードモナス属、及びストレプトコッカス属に由来する酵素が挙げられる。動物由来の酵素として、例えば、ヒツジ、ヤギ、ブタ、マウス、水牛、ラクダ、ヤク、ウマ、ロバ、ラマ、ウシ、及びヒトに由来する酵素を挙げることができる。本技術において用いられるラクトフェリン分解物を得るために、上述の酵素を、単独で又は2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0052】
ラクトフェリン分解物を得るために用いられる酵素は、好ましくはペプシンである。すなわち、本技術において、ラクトフェリン分解物として、ラクトフェリンのペプシン分解物が用いられる。ラクトフェリンのペプシン分解物は、ラクトフェリシンを含むものであってよい。ラクトフェリンのペプシン分解物は、腸球菌、う蝕菌、及び歯周病菌のバイオフィルム形成を阻害するために適している。
【0053】
前記ラクトフェリン分解物の平均分子量は、好ましくは5000ダルトン(以下、「Da」とする)以下又は未満、より好ましくは2000Da以下である。当該平均分子量は、例えば1000Da以上であってよい。特に好ましくは、本技術において用いられるラクトフェリン分解物は、1600Daの数平均分子量を有するペプシン分解物である。
<平均分子量の算定方法>
本技術におけるラクトフェリン分解物の平均分子量は、以下の数平均分子量の概念により求めるものである。
数平均分子量(Number Average of Molecular Weight)は、例えば文献(社団法人高分子学会編、「高分子科学の基礎」、第116~119頁、株式会社東京化学同人、1978年)に記載されているとおり、高分子化合物の分子量の平均値を次のとおり異なる指標に基づき示すものである。
すなわち、蛋白質加水分解物等の高分子化合物は不均一な物質であり、かつ分子量に分布があるため、蛋白質加水分解物の分子量は、物理化学的に取り扱うためには、平均分子量で示す必要があり、数平均分子量(以下、Mnと略記することがある。)は、分子の個数についての平均であり、ペプチド鎖iの分子量がMiであり、その分子数をNiとすると、次の式により定義される。
【0054】
【0055】
ラクトフェリンの酵素加水分解物は、例えば特開2016-121109号公報に記載された方法により製造可能である。当該公報に記載されているとおり、当該方法は、ラクトフェリンを酵素により加水分解する酵素反応工程を含む。当該酵素反応工程における反応条件は、例えば酵素の種類などの要因によって当業者により適宜選択されてよい。例えば、ラクトフェリンの蛋白質換算質量1g当たり1000~20000単位(活性単位)の割合で酵素が用いられることが好ましい。また、酵素反応の温度は特に限定されず、酵素作用が発現する範囲から選ばれ、通常30~60℃の範囲から選ばれる。酵素反応の反応時間は、例えば1~72時間、好ましくは1~48時間、好ましくは2~20時間、より好ましくは2~10時間である。
酵素反応は、例えば酵素を失活することにより停止される。当該失活は、酵素反応溶液
を、例えば80℃で30分~130℃で2秒間保持することにより行われる。
当該酵素反応工程後、例えば反応溶液のpH調整工程及び反応産物の精製工程が行われてもよい。当該pH調整工程では、反応溶液のpHが例えば弱酸性~中性に調整される。当該精製工程では、(a)濾過、(b)精密濾過及び限外濾過膜などの膜分離処理、及び(c)樹脂吸着分離からなる群から選択される、いずれか1種又はこれらの2種以上の組合せの処理が行われてよい。当該精製工程により、当該失活液中に含まれる不溶物の除去、及び、脂肪及び乳糖などの不要な成分を低減することができる。その結果、溶液状態で透明であり、かつ、溶液状態での長期保存においても混濁、沈殿、凝集及び褐変等がほとんど生じない、いわゆる保存安定性に優れたラクトフェリン分解物を得ることができる。また、精製工程により、ラクトフェリン分解物の風味及び外観を向上させることができる。
【0056】
(a)の濾過は、公知の方法により実施することができ、例えば、珪藻土を用い、公知の装置により実施することができる。濾過を行うことにより、加水分解失活液中に存在する加水分解反応時及び/又は酵素加熱失活時に生成した不溶物を除去できる。
【0057】
(b)の膜分離処理は、公知の装置を用いて行うことができる。当該装置として、例えば精密濾過モジュール、並びに、限外濾過モジュールを挙げることができる。限外濾過モジュールとしては、例えば分画分子量3,000~20,000、好ましくは3,000~10,000のものを挙げることができる。これらの濾過モジュールは、例えば旭化成社より、マイクローザMFシリーズ及びマイクローザUFシリーズとして市販されている。この場合、膜分離処理後の膜透過画分としてラクトフェリン分解物を含有する溶液が得られる。膜分離処理を行うことにより、(a)の濾過と同様、加水分解失活液中に存在する加水分解反応時及び/又は酵素加熱失活時に生成した不溶物を除去できる。
【0058】
(c)の樹脂吸着分離は、公知の方法により実施することができ、例えば、樹脂をカラムに充填し、前記加水分解失活液を、当該カラムを通過させることにより実施することができる。樹脂としては、例えば商品名:ダイヤイオン(三菱化学社製)、セパビーズ(三菱化学社製)、アンバーライトXAD(オルガノ社製)、HS(味の素ファインテクノ社製)等が挙げられる。樹脂吸着分離は、これらの樹脂をカラムに充填して前記加水分解失活液を連続的に流入させ、流出させることによる連続方式で行うこともでき、また、前記加水分解失活液中に樹脂を投入し、一定時間接触させた後、加水分解失活液と樹脂とを分離するバッチ方式で行うこともできる。加水分解失活液中には、保存期間中に混濁、沈殿、凝集及び褐変等を惹起する因子(例えば、疎水性アミノ酸を多く含むペプチド等)が残存している可能性があり、樹脂吸着分離を行うことにより、これらの因子を除去できる。
【0059】
精製工程後、ラクトフェリン分解物を含有する溶液を殺菌してもよい。殺菌方法は、常法による加熱処理方法等を用いることができる。加熱処理は、例えば70℃30分~140℃2秒間で行われる。
【0060】
得られたラクトフェリン分解物を含有する溶液は、そのまま本技術において使用することもでき、また、必要に応じて、当該溶液を公知の方法により濃縮して得た濃縮液を本技術において使用することもできる。また、当該溶液又は当該濃縮液を公知の方法により乾燥して粉末を得、当該粉末を本技術において使用してもよい。
【0061】
一実施態様において、前記組成物は、ラクトフェリン分解物含有水溶液であってよい。水溶液に含まれた状態にあるラクトフェリン分解物は腸球菌、う蝕菌、及び歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために特に適している。前記ラクトフェリン分解物含有水溶液中のラクトフェリン分解物濃度は、0mg/ml超であってよく、例えば0.00001mg/ml以上、0.0001mg/ml以上、0.001mg/ml以上、又は0.01mg/ml以上であってよい。前記ラクトフェリン分解物濃度は、例えば500mg/ml以下、400mg/ml以下、300mg/ml以下、200mg/ml以下、又は100mg/ml以下であってよく、好ましくは30mg/ml以下、10mg/ml以下、又は1mg/mL以下であってよい。このような濃度は、優れたバイオフィルム形成阻害作用を発揮するために好ましい。また、ラクトフェリン分解物濃度が高すぎる場合は、前記バイオフィルム形成阻害作用が弱まる可能性がある。
【0062】
前記ラクトフェリン分解物は、熱処理されたラクトフェリン分解物であってよく又は熱処理されていないラクトフェリン分解物であってもよい。
好ましい実施態様において、前記ラクトフェリン分解物は、熱処理されたラクトフェリン分解物である。熱処理されたラクトフェリン分解物は、腸球菌、う蝕菌、及び歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために特に適している。すなわち、本技術の組成物はラクトフェリン加水分解物含有水溶液の熱処理物であってよい。
前記熱処理は、上記(2)でラクトフェリンについて説明したとおりに実行されてよく、その説明がラクトフェリン分解物についてもあてはまる。
【0063】
前記ラクトフェリン分解物含有水溶液は、例えば香料、着色料、甘味料、酸味料、及び果汁などの任意成分をさらに含んでもよい。前記任意成分を含むラクトフェリン分解物含有水溶液は、そのまま飲料(例えば清涼飲料水)として利用することができる。なお、前記任意成分は、好ましくは蛋白質性材料でない。これら任意成分は、上記(2)で説明したとおりであってよく、その説明がラクトフェリン分解物含有水溶液についてもあてはまる。
【0064】
前記ラクトフェリン分解物含有水溶液は、好ましくは安定化剤を含まない。本技術に従うラクトフェリン分解物含有水溶液は、グリセリン脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、レシチン、大豆多糖類、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ガティガム、カラギナン、ローカストビーンガム、及びカルボキシメチルセルロースからなる群から選ばれる一つ又は二つ以上の安定化剤を含まない。特には、当該ラクトフェリン分解物含有水溶液は、グリセリン脂肪酸エステル、カゼインナトリウム、レシチン、大豆多糖類、キサンタンガム、ペクチン、アラビアガム、ガティガム、カラギナン、ローカストビーンガム、及びカルボキシメチルセルロースのいずれも安定化剤として含まない。
【0065】
前記ラクトフェリン分解物含有水溶液に含まれる蛋白質成分の合計含有割合は、当該水溶液の質量に対して好ましくは420mg/ml以下であり、より好ましくは210mg/ml以下若しくは105mg/ml以下であり、さらにより好ましくは31.5mg/ml以下であり、さらにより好ましくは10.5mg/ml以下であり、特に好ましくは1.05mg/ml以下であってよい。これにより、ラクトフェリンの沈殿生成が起こりにくくなる。
【0066】
前記ラクトフェリン分解物含有水溶液の水の含有割合は、当該水溶液の質量に対して例えば95質量%以上、好ましくは96質量%以上、より好ましくは97質量%以上であってよい。すなわち、前記ラクトフェリン分解物含有水溶液の水以外の成分の含有割合は、当該水溶液の質量に対して例えば5質量%以下、好ましくは4質量%以下、より好ましくは3質量%以下であってよい。
【0067】
また、本技術の好ましい実施態様に従い、前記ラクトフェリン分解物含有水溶液の固形分濃度は、例えば45w/v%以下であり、特には3w/v%以下、より特には0.1w/v%以下であってよい。
【0068】
また、本技術の好ましい実施態様に従い、前記ラクトフェリン分解物含有水溶液の粘度は、例えば25℃において、800mPa・s以下、特には300mPa・s以下、より特には7mPa・s以下であってよい。
【0069】
一実施態様において、本技術のラクトフェリン分解物含有水溶液は、塩を含んでよい。当該塩は、例えばカルシウム塩、マグネシウム塩、ナトリウム塩、及びカリウム塩のうちの1つであってよく、又は、2つ、3つ、若しくは4つ全てであってもよい。当該塩は、溶解した状態で前記水溶液中に存在してよい。これら塩の濃度は、例えば以下のように、塩を構成するイオンの濃度によって表されてよい。
本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン分解物含有水溶液)は、カルシウムイオンを、例えば0.01mM以上、特には0.05mM以上、0.1mM以上、又は0.2mM以上の濃度で含んでよい。また、前記組成物は、カルシウムイオンを、例えば2mM以下、特には1.8mM以下、1.5mM以下、又は1.2mM以下の濃度で含んでよい。
本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン分解物含有水溶液)は、マグネシウムイオンを、例えば0.005mM以上、特には0.01mM以上、0.02mM以上、又は0.03mM以上の濃度で含んでよい。また、前記組成物は、マグネシウムイオンを、例えば1mM以下、特には0.9mM以下、0.7mM以下、又は0.5mM以下の濃度で含んでよい。
本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン分解物含有水溶液)は、ナトリウムイオンを、例えば0.01mM以上、特には0.05mM以上、0.1mM以上、又は0.2mM以上の濃度で含んでよい。また、前記組成物は、ナトリウムイオンを、例えば2mM以下、特には1.8mM以下、1.5mM以下、又は1.2mM以下の濃度で含んでよい。
本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン分解物含有水溶液)は、カリウムイオンを、例えば0.001mM以上、特には0.005mM以上、0.007mM以上、又は0.001mM以上の濃度で含んでよい。また、前記組成物は、カリウムイオンを、例えば0.1mM以下、特には0.9mM以下、0.8mM以下、又は0.7mM以下の濃度で含んでよい。
【0070】
また、本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン分解物含有水溶液)は、キシリトールを含まないものであってよい。
また、本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン分解物含有水溶液)は、ラクトパーオキシダーゼを含まないものであってよい。また、本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン分解物含有水溶液)は、グルコースオキシダーゼを含まないものであってよい。また、本技術の組成物(特には前記ラクトフェリン分解物含有水溶液)は、グルコースを含まないものであってよい。
【0071】
(4)製造方法
本技術の組成物の製造方法は、製造される本技術の組成物中にラクトフェリン又はラクトフェリン分解物がバイオフィルム形成を阻害する作用を有した状態で含まれるように、当業者により適宜設計されてよい。本技術の組成物がラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液である場合において、前記製造方法は、ラクトフェリン又はラクトフェリン分解物を水又は水溶液に溶解することによって、ラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液が製造されてよい。すなわち、本技術の製造方法は、当該溶解処理を実行する溶解工程を含んでよい。
【0072】
また、本技術の組成物の製造方法は、ラクトフェリン又はラクトフェリン分解物を水又は水溶液に溶解した後に、ラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液を熱処理することを含んでよい。当該熱処理のより詳細な手法の例は、上記で説明したとおりである。当該熱処理によって、バイオフィルム形成を阻害する作用を向上させることができる。すなわち、当該熱処理を実行する熱処理工程を含んでよい。
【0073】
また、本技術の組成物の製造方法は、前記溶解工程後且つ前記熱処理工程前に、又は、前記溶解工程及び前記熱処理工程の後に、ラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液を容器に充填する充填工程を含んでよい。充填工程における充填方法は、当業者により適宜選択されてよい。
【0074】
例えば前記溶解工程後且つ前記熱処理工程前に充填工程が行われる場合において、前記熱処理工程に付されるラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液をレトルトパックに充填し、そして前記熱処理工程においてレトルト滅菌が行われてよい。これにより、レトルトパックに充填された長期保存可能なラクトフェリン水溶液を製造することができる。
【0075】
代替的には、前記溶解工程及び前記熱処理工程の後に充填工程が行われる場合において、前記熱処理工程後のラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液が無菌下で容器に充填される。これにより、容器に充填された長期保存可能なラクトフェリン水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液を製造することができる。
【0076】
以上のとおり、前記製造方法によって、容器に充填された本技術のラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液を提供することができる。このようにして製造された当該ラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液は、ラクトフェリン又はラクトフェリン分解物の活性が維持されており且つラクトフェリン含有割合が高められた飲料又は飲食品原料として消費者又は飲食品製造業者に提供されてよい。
【0077】
また、このようにして製造された当該ラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン分解物含有水溶液は加熱殺菌されているので長期保存が可能である。例えば、当該ラクトフェリン含有水溶液製品又はラクトフェリン分解物含有水溶液製品は、例えば3ヶ月以上、好ましくは4ヶ月以上、より好ましくは5ヶ月以上保存可能である。保存可能期間の上限は、例えば24ヵ月以下、好ましくは12ヶ月以下、より好ましくは10ヶ月以下、さらにより好ましくは9ヶ月以下であってよい。
【0078】
(5)使用方法
本技術の組成物は、経口的に動物、特にはヒトに投与されてよい。経口的に投与された場合において、ラクトフェリンの一部は、胃内消化酵素(特にはペプシン)によって加水分解されるが、当該加水分解後のラクトフェリン分解物も、バイオフィルム形成を阻害する作用を有する。そのため、本技術の組成物は、胃よりも下流の消化管におけるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。もちろん、本技術の組成物は、口から胃までの消化管におけるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。
【0079】
また、本技術の組成物は、バイオフィルム形成の阻害が求められる生体部位に施与するために用いられてよい。当該生体部位としては、例えば口腔、鼻腔、腹腔、又は胸腔などを挙げることができる。当該生体部位は、体表面(皮膚)又は内部表面(臓器表面)などであってもよい。また、当該生体部位は、創傷部位であってもよい。本技術の組成物により、このような生体部位におけるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。バイオフィルム形成の阻害は、菌に起因する疾患(例えば感染症)の予防又は処置のために有用である。
【0080】
本技術の組成物は、例えば医薬、飲食品、又は飼料として用いられてよい。本技術の組成物には、これらの用途に用いられる場合に含まれる追加成分が適宜含まれてよい。医薬及び飲食品に関しては、以下で別途詳細にて説明する。
【0081】
(6)生体洗浄用水溶液
本技術は、ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を含む生体洗浄用水溶液も提供する。当該水溶液は、上記(2)又は(3)で述べた水溶液として構成されてよい。当該水溶液は、バイオフィルム形成を阻害するために有用であり、特には腸球菌、う蝕菌、及び歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために有用である。そのため、例えば腸球菌、う蝕菌、若しくは歯周病菌又はこれらの1つ以上の増殖を防ぐことが求められる生体部位を洗浄するために用いられてよい。
【0082】
特に好ましい実施態様において、前記生体洗浄用水溶液は、熱処理されたラクトフェリンを含む。当該熱処理されたラクトフェリンは、特に優れたバイオフィルム形成阻害作用を発揮する。当該熱処理は、例えば上記(2)又は(3)で述べたように実行されてよい。
【0083】
前記生体洗浄用水溶液は、生体部位を洗浄するために用いられてよい。当該生体部位としては、例えば口腔、鼻腔、腹腔、又は胸腔などを挙げることができる。当該生体部位は、体表面(皮膚)又は内部表面(臓器表面)などであってもよい。また、当該生体部位は、創傷部位であってもよい。本技術の生体洗浄用水溶液により、このような生体部位を洗浄しつつ、且つ、当該生体部位におけるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。また、バイオフィルム形成の阻害は、菌に起因する疾患(例えば感染症)の予防又は処置のために有用である。
一実施態様において、前記生体洗浄用水溶液は、口腔内を洗浄するために又は創傷部位を洗浄するために用いられるものであってよい。口腔内を洗浄するための水溶液は、例えば洗口液とも呼ばれる。本技術の生体洗浄用水溶液により、このような生体部位を洗浄することによって、汚れを除去しつつ、且つ、当該部位におけるバイオフィルム形成を抑制することができる。
【0084】
前記水溶液は、生体に存在する腸球菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。そのような腸球菌として、例えば、上記で述べたE.faecalis及びE.faeciumを挙げることができるがこれらに限定されない。
また、前記水溶液は、生体(特には口腔内)に存在するう蝕菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。そのようなう蝕菌として、例えば、上記で述べたS. mutansを挙げることができるがこれらに限定されない。
また、前記水溶液は、生体(特には口腔内)に存在する歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために用いられてよい。そのような歯周病菌として、例えば、上記で述べA. actinomycetemcomitansを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0085】
(7)飲食品
本技術の組成物は、飲食品組成物であってよい。すなわち、本技術は、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用の飲食品組成物を提供する。本技術の飲食品組成物は、摂取されることで、腸球菌、う蝕菌、及び歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害作用を効果的に発揮することができる。
【0086】
本技術の飲食品組成物の例として、例えば清涼飲料若しくは乳飲料などの飲料又は当該飲料の濃縮原液及び当該飲料を調製するために用いられる粉末;例えば加工乳及び発酵乳などの乳製品;育児用調製粉乳;経腸栄養食;及び機能性食品が挙げられる。
また、本技術の飲食品組成物の例として、例えば炭酸飲料、栄養飲料、若しくは果実飲料などの飲料又は当該飲料の濃縮原液及び当該飲料を調製するために用いられる粉末;例えばアイスクリーム、アイスシャーベット、及びかき氷などの冷菓;例えばそば、うどん、はるさめ、餃子の皮、しゅうまいの皮、中華麺、及び即席麺などの麺類;例えばキャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、及び焼き菓子などの菓子類;例えばかまぼこ、ハム、及びソーセージなどの水産又は畜産加工食品;例えばサラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、及びドレッシングなどの油脂及び油脂加工食品;例えばソース及びたれなどの調味料;例えばスープ、シチュー、サラダ、惣菜、漬物、及びパンなどの調理された食品を挙げることができる。本技術の飲食品組成物は、例えば液状及びタブレット状のサプリメントであってもよい。
【0087】
これらの飲食品は、当業者に既知の方法により製造されてよい。これらの飲食品の製造方法において、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物を添加する時点及び方法は、当業者により適宜選択されてよい。
【0088】
また、本技術の飲食品組成物は、例えば腸球菌バイオフィルム形成阻害用という保健用途又は腸球菌バイオフィルム形成阻害作用に起因して奏される作用に関する保健用途が表示された飲食品として提供又は販売されることが可能である。
また、本技術の飲食品組成物は、例えばう蝕菌バイオフィルム形成阻害用という保健用途又はう蝕菌バイオフィルム形成阻害作用に起因して奏される作用に関する保健用途が表示された飲食品として提供又は販売されることが可能である。
また、本技術の飲食品組成物は、例えば歯周病菌バイオフィルム形成阻害用という保健用途又は歯周病菌バイオフィルム形成阻害作用に起因して奏される作用に関する保健用途が表示された飲食品として提供又は販売されることが可能である。
「表示」行為には、需要者に対して前記用途を知らしめるための全ての行為が含まれ、前記用途を想起又は類推させうるような表現であれば、表示の目的、表示の内容、及び表示する対象物又は媒体等の如何に拘わらず、全て本技術の「表示」行為に該当する。
本技術の飲食品は、例えば「腸球菌によるバイオフィルム形成を防ぐために」、「(腸球菌が関与する)疾患又は感染症の予防のために」、又は「(腸球菌が関与する)疾患又は感染症を処置するために」などの表示が付されてよい。
また、本技術の飲食品は、例えば「う蝕菌によるバイオフィルム形成を防ぐために」、「(う蝕菌が関与する)疾患又は感染症の予防のために」、又は「(う蝕菌が関与する)疾患又は感染症を処置するために」などの表示が付されてよい。
また、本技術の飲食品は、例えば「歯周病菌によるバイオフィルム形成を防ぐために」、「(歯周病菌が関与する)疾患又は感染症の予防のために」、又は「(歯周病菌が関与する)疾患又は感染症を処置するために」などの表示が付されてよい。
【0089】
「表示」は、需要者が上記用途を直接的に認識できるような表現により行われることが好ましい。具体的には、飲食品に係る商品又は商品の包装に前記用途を記載したものを譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引き渡しのために展示し、輸入する行為、商品に関する広告、価格表若しくは取引書類に上記用途を記載して展示し、若しくは頒布し、又はこれらを内容とする情報に上記用途を記載して電磁的(インターネット等)方法により提供する行為等が挙げられる。
【0090】
表示内容としては、行政等によって認可された表示(例えば、行政が定める各種制度に基づいて認可を受け、そのような認可に基づいた態様で行う表示等)であることが好ましい。また、そのような表示内容を、包装、容器、カタログ、パンフレット、POP(Point of purchase advertising)等の販売現場における宣伝材、その他の書類等へ付するこ
とが好ましい。
【0091】
また、「表示」には、例えば健康食品、機能性表示食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能食品、及び医薬用部外品などの製品であることを示す表示が含まれる。より具体的な表示の例として、好ましくは消費者庁によって認可される表示、例えば特定保健用食品制度又はこれに類似する制度にて認可される表示などが挙げられる。消費者庁によって認可される表示の例として、例えば特定保健用食品としての表示、条件付き特定保健用食品としての表示、身体の構造や機能に影響を与える旨の表示、及び疾病リスク減少表示などを挙げることができる。より具体的には、健康増進法施行規則(平成15年4月30日日本国厚生労働省令第86号)に定められた特定保健用食品としての表示(特に保健の用途の表示)及びこれに類する表示が、典型的な例である。
【0092】
本技術の飲食品組成物に含まれるラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物の合計含有量は、当業者により適宜選択されてよい。本技術の有効成分であるラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物の合計含有量は、飲食品組成物の全質量に対して0.0002~70質量%の範囲であることが好ましく、0.002~40質量%の範囲であることがより好ましく、0.005~5質量%の範囲であることが更に好ましく、0.01~1質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0093】
本技術の飲食品組成物の摂取期間は、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害が求められる期間に応じて適宜決定されてよい。例えば、本技術の飲食品は、例えば2週間以上、好ましくは4週間以上、より好ましくは2か月以上にわたって継続的に摂取されてよい。本技術の飲食品の摂取は、例えば摂取開始から例えば3か月後、好ましくは6か月後、より好ましくは1年後に終了されてもよい。また、本技術の飲食品は、例えば0歳から100歳の間のいずれかの期間に継続して摂取されてよい。
本技術の飲食品組成物は、例えば毎日摂取されてよく、又は、例えば1日おき又は2日おきなど所定の間隔で摂取されてもよい。
本技術の組成物(特には飲食品組成物)を摂取する場合、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物の合計摂取量は、1日当たり、例えば0.0001mg/kg体重以上、好ましくは0.001mg/kg体重以上、より好ましくは0.01mg/kg体重以上、0.1mg/kg体重以上、又は1mg/kg体重以上であってよい。
また、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物の合計摂取量は、1日当たり、例えば100mg/kg体重以下、好ましくは50mg/kg体重以下、より好ましくは20mg/kg体重以下であってよい。
1日当たり合計摂取量は、上記上限値及び下限値から適宜選択された数値範囲内であってよく、例えば0.0001mg/kg体重~100mg/kg体重、好ましくは0.001mg/kg体重~50mg/kg体重、より好ましくは0.01mg/kg体重~20mg/kg体重であってよい。
【0094】
(8)医薬組成物
本技術の組成物は、医薬組成物として用いることができる。すなわち、本技術は、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用の医薬組成物も提供する。
【0095】
本技術における有効成分は、食品として長年使用されてきた乳由来の成分を有効成分とするため、患者の疾患の種類に関係なく安心して投与できる可能性が高い。また、長期間、連続的に投与しても副作用を心配する必要性も少ない。更に、他の薬剤との併用においても安全性が高い。
【0096】
本技術の組成物を医薬組成物として利用する場合、当該医薬組成物は、経口投与及び非経口投与のいずれでもよく、投与方法に応じて、適宜所望の剤形に製剤化することができる。例えば、経口投与の場合、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤等の固形製剤;溶液剤、シロップ剤、懸濁剤、乳剤等の液剤等に製剤化することができる。また、非経口投与の場合、例えば胃ろう、経鼻投与、静脈内注射、筋肉内注射、皮下注射、又は髄腔内注射等を介して投与されてよい。
【0097】
また、製剤化に際しては、本技術の医薬組成物には、通常製剤化に用いられている賦形剤、pH調整剤、着色剤、矯味剤などの種々の成分が含まれてよい。また、本技術の効果を損なわない限り、本技術の医薬組成物には、公知の又は将来的に見出される脳神経系の発達及び/又は再生のために用いられる医薬成分が含まれてよい。本技術の医薬組成物の製剤化は、剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、適宜、製剤担体を配合して製剤化してもよい。
【0098】
加えて、製剤化は剤形に応じて適宜公知の方法により実施できる。製剤化に際しては、有効成分であるラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物のみを製剤化してもよく、適宜、製剤担体を配合して製剤化してもよい。
【0099】
なお、製剤担体を配合する場合、本技術の有効成分であるラクトフェリン及びラクトフェリン分解物から選ばれる1又は2以上の成分の合計含有量は、剤形に合わせて適宜選択されてよい。本技術の有効成分であるラクトフェリン及びラクトフェリン分解物から選ばれる1又は2以上の成分の合計含有量は、医薬組成物の全質量に対して0.01~70質量%の範囲であることが好ましく、0.02~40質量%の範囲であることがより好ましく、0.05~10質量%の範囲であることが更に好ましく、0.2~2質量%の範囲であることが特に好ましい。
【0100】
本技術の医薬組成物の投与期間は、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害が求められる期間に応じて適宜決定されてよい。例えば、本技術の医薬組成物は、例えば2週間以上、好ましくは4週間以上、より好ましくは2か月以上にわたって継続的に摂取されてよい。本技術の医薬組成物の摂取は、例えば摂取開始から例えば3か月後、好ましくは6か月後、より好ましくは1年後に終了されてもよい。
本技術の医薬組成物は、例えば毎日摂取されてよく、又は、例えば1日おき又は2日おきなど所定の間隔で摂取されてもよい。
本技術の組成物(特には医薬組成物)を摂取する場合、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物の合計摂取量は、1日当たり、例えば0.0001mg/kg体重以上、好ましくは0.001mg/kg体重以上、より好ましくは0.01mg/kg体重以上、0.1mg/kg体重以上、又は1mg/kg体重以上であってよい。
また、ラクトフェリン及び/又はラクトフェリン分解物の合計摂取量は、1日当たり、例えば100mg/kg体重以下、好ましくは50mg/kg体重以下、より好ましくは20mg/kg体重以下であってよい。
1日当たり合計摂取量は、上記上限値及び下限値から適宜選択された数値範囲内であってよく、例えば0.0001mg/kg体重~100mg/kg体重、好ましくは0.001mg/kg体重~50mg/kg体重、より好ましくは0.01mg/kg体重~20mg/kg体重であってよい。
【0101】
また、前記製剤担体としては、剤形に応じて、各種有機又は無機の担体や基剤を用いることができる。本技術の組成物の製剤化のために用いられる成分として、例えば賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、及び矯味矯臭剤が挙げられる。
【0102】
賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、ブドウ糖、マンニット、ソルビット等の糖誘導体;トウモロコシデンプン、馬鈴薯デンプン、α-デンプン、デキストリン、カルボキシメチルデンプン等のデンプン誘導体;結晶セルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等のセルロース誘導体;アラビアゴム;デキストラン;プルラン;軽質無水珪酸、合成珪酸アルミニウム、メタ珪酸アルミン酸マグネシウム等の珪酸塩誘導体;リン酸カルシウム等のリン酸塩誘導体;炭酸カルシウム等の炭酸塩誘導体;硫酸カルシウム等の硫酸塩誘導体等が挙げられる。
【0103】
結合剤としては、例えば、上記賦形剤の他、ゼラチン;ポリビニルピロリドン;マクロゴール等が挙げられる。
【0104】
崩壊剤としては、例えば、上記賦形剤の他、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、架橋ポリビニルピロリドン等の化学修飾されたデンプン又はセルロース誘導体等が挙げられる。
【0105】
滑沢剤としては、例えば、タルク;ステアリン酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等のステアリン酸金属塩;コロイドシリカ;ピーガム、ゲイロウ等のワックス類;硼酸;グリコール;フマル酸、アジピン酸等のカルボン酸類;安息香酸ナトリウム等のカルボン酸ナトリウム塩;硫酸ナトリウム等の硫酸塩類;ロイシン;ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸マグネシウム等のラウリル硫酸塩;無水珪酸、珪酸水和物等の珪酸類;デンプン誘導体等が挙げられる。
【0106】
安定剤としては、例えば、メチルパラベン、プロピルパラベン等のパラオキシ安息香酸エステル類;クロロブタノール、ベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール等のアルコール類;塩化ベンザルコニウム;無水酢酸;ソルビン酸等が挙げられる。
【0107】
矯味矯臭剤としては、例えば、甘味料、酸味料、香料等が挙げられる。
【0108】
なお、本技術は、以下の使用、方法、及び物も提供する。以下の使用、方法、及び物において、組成物、ラクトフェリン、及びラクトフェリン加水分解物には、以上で述べた説明が当てはまる。
[1]腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用組成物の製造のための、ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物の使用。
腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用組成物の製造のための、熱処理されたラクトフェリンの使用。
[2]腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用組成物の製造のために用いられる、ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物。
腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害用組成物の製造のために用いられる、熱処理されたラクトフェリン。
[3]ラクトフェリン又はラクトフェリン加水分解物を投与することを含む、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害方法。
熱処理されたラクトフェリンを投与することを含む、腸球菌、う蝕菌、又は歯周病菌によるバイオフィルム形成の阻害方法。
【0109】
以下で実施例を参照して本技術をより詳しく説明するが、本技術はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例0110】
(実施例1)
ラクトフェリンおよびその加熱処理物のEnterococcus faecalisのバイオフィルム形成阻害効果を、以下のとおりに評価した。
【0111】
Enterococcus faecalis(NBRC 100481株)を、独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入した。当該細菌の菌体は、培地MRS medium(No.310、独立行政法人製品評価技術基盤機構)で培養した。
【0112】
ラクトフェリンとして、森永乳業株式会社製のものを用意した。当該ラクトフェリンを脱イオン水に0.5mg/mL濃度で溶解して、ラクトフェリン含有水溶液を用意した。すなわち、当該ラクトフェリン含有水溶液中のラクトフェリンは熱処理されておらず、非加熱ラクトフェリン含有水溶液である。
前記ラクトフェリンを脱イオン水に0.5mg/mL濃度で溶解し、得られたラクトフェリン含有水溶液を140℃3秒間加熱処理することによってラクトフェリン加熱処理物を製造した。すなわち、当該ラクトフェリン加熱処理物は、熱処理されたラクトフェリンを含有する水溶液である。
【0113】
Enterococcus faecalisを37℃で、前記培地中で菌体濃度1.5(OD600)となるまで培養した。当該培養液100μLと、各種濃度のラクトフェリン含有水溶液100μL又はラクトフェリン加熱処理物含有水溶液100μLと、を96穴マイクロプレート内で混合し、37℃で22時間培養を行った。
前記濃度は、0mg/mL、0.002mg/mL、0.005mg/mL、0.02mg/mL、0.05mg/mL、0.2mg/mL、又は0.5mg/mLであった。これらの濃度のラクトフェリン含有水溶液又はラクトフェリン加熱処理物含有水溶液は、上記で製造された0.5mg/mL濃度の水溶液に、脱イオン水を添加することで製造された。
前記培養液と前記水溶液との混合物中におけるラクトフェリン濃度又はラクトフェリン加熱処理物濃度は、上記の濃度値の半分であり、それぞれ0mg/mL、0.001mg/mL、0.0025mg/mL、0.01mg/mL、0.025mg/mL、0.1mg/mL、又は0.25mg/mLであった。
【0114】
前記培養後、培養液を除き、PBS(リン酸緩衝生理食塩液)200μLで3回洗浄し、200μLのメタノールを加え室温で10分放置した。その後メタノールを除き、室温で風乾した。その後、0.2%(W/V)のクリスタルバイオレット溶液160μLを添加し、室温で30分放置した。その後、PBS200μLで4回洗浄し、600nmの吸光度を測定した。測定結果が、
図1及び表1に示されている。当該測定結果において、ラクトフェリン類無添加(濃度0)はn=6、その他はn=3の平均値の結果である。
【0115】
【0116】
当該測定結果により示されるとおり、非加熱ラクトフェリン濃度が0.025mg/mL以上である場合の吸光度は、濃度0mg/mLの場合よりも低い。そのため、非加熱ラクトフェリンについては、濃度が0.025mg/mL以上である場合に、バイオフィルム形成阻害効果が発揮された。
【0117】
また、同図に示されるとおり、ラクトフェリン加熱処理物については、濃度0.001mg/mLの場合においてさえ、吸光度が濃度0mg/mLの場合よりも低い。そして、濃度0.001mg/mL以上のいずれの場合においても、吸光度が濃度0mg/mLの場合よりも低い。そのため、いずれの濃度においても、バイオフィルム形成阻害効果が発揮された。
また、非加熱ラクトフェリンと比べると、ラクトフェリン加熱処理物は、より低い濃度でもバイオフィルム形成阻害効果が発揮される。そのため、ラクトフェリン加熱処理物は、非加熱ラクトフェリンよりも優れたバイオフィルム形成阻害作用を有することが分かる。
【0118】
また、同図に示されるとおり、ラクトフェリン加熱処理物の濃度が0.25mg/mLである場合の吸光度は、当該濃度が0.1mg/mLである場合の吸光度よりも高い。そのため、ラクトフェリン加熱処理物の濃度が高すぎると、バイオフィルム形成阻害効果が弱まる可能性があると考えられる。
【0119】
(実施例2)
ラクトフェリン加熱処理物、ラクトフェリンのペプシン加水分解物、及びラクトフェリンのペプシン加水分解により生じるラクトフェリシンのEntrococcus faecalisバイオフィルム形成阻害効果を、以下のとおりに評価した。
【0120】
ラクトフェリン加熱処理物は、ラクトフェリンを10mg/mL濃度となるように精製水に溶解させたものを121℃10分加熱処理することで調製した。
ラクトフェリンのペプシン加水分解物は、以下のように調製された。すなわち、ラクトフェリンを精製水中に濃度5質量%となるように溶解し、得られた溶液のpHを、塩酸でpH3に調整した。pH調整後、当該溶液を45℃に加温し、次いでラクトフェリンの質量に対して3質量%のペプシンを添加して攪拌しながら6時間反応させて加水分解を行った。加水分解反応の終了後、反応液を80℃に加温し、10分間保温して酵素を失活させた。当該反応液を冷却後、水酸化ナトリウム溶液を添加して反応液のpHを6に調整し、その後反応液を凍結乾燥してラクトフェリン加水分解物を得た。
ラクトフェリシンは、ラクトフェリンをペプシン分解後、逆相HPLCにより分離精製することで調整した。すなわち、カラムはTSK-GEL 120T(6.0 ×150mm。東ソー社製)を使用し、溶出液A(0.05%トリフルオロ酢酸):溶出液B(90%アセトニトリルの0.05%トリフルオロ酢酸液)80:20の混合液を10分間0.8ml/分の流速で通液し、30分を要して両溶出液の比率を40:60までリニア・グラジエントで変更して同じ流速で通液し、ラクトフェリシンを溶出させた。溶出液の280nmにおける吸光度を測定し、ピークを分取し、凍結乾燥を行い、ラクトフェリシンを調製した。
【0121】
バイオフィルム形成阻害反応は、次のように行った。Enterococcus faecalisをOD600が1.3まで培養しこれを前記培地MRS mediumで0.8に希釈して使用した。この菌体溶液180μLと20μLの0、0.02、0.05、0.2、0.5mg/mLのラクトフェリン類の溶液を96穴マイクロプレートに添加し、37℃17時間培養した。その後、実施例1において説明したようにバイオフィルム形成量を測定した。
図2及び表2に、測定結果が示されている。同図には、n=3の平均値が示されている。
【0122】
【0123】
当該測定結果により示されるとおり、ラクトフェリン加熱処理物、ラクトフェリン加水分解物、及びラクトフェリシンのいずれもが、濃度0.002mg/mL以上でバイオフィルム形成阻害効果を発揮することが分かる。
また、同図より、ラクトフェリン加熱処理物は、ラクトフェリン加水分解物よりも優れたバイオフィルム形成阻害効果を発揮することも分かる。
また、同図より、ラクトフェリシンは、ラクトフェリン加熱処理物及びラクトフェリン加水分解物よりも優れたバイオフィルム形成阻害効果を発揮することも分かる。
【0124】
また、前記ラクトフェリン加水分解物はペプシンにより加水分解されたものである。ラクトフェリシンは、ペプシン加水分解により生成されるペプチドである。ペプシンは胃内消化酵素であるところ、経口摂取されたラクトフェリンが胃内でペプシンにより消化された場合において、その消化産物であるラクトフェリン加水分解物も、バイオフィルム形成阻害効果を発揮することが分かる。そのため、本技術に従う組成物は、経口摂取された場合において、胃内消化後においても、バイオフィルム形成阻害効果を発揮することが分かる。例えば、胃よりも下流の消化管(例えば十二指腸、小腸、又は大腸など)においても、本技術に従う組成物によって、バイオフィルム形成阻害効果が発揮されることが分かる。
【0125】
(実施例3)
ラクトフェリン(LF)に塩を添加して作製した加熱処理物のEnterococcus faecalisのバイオフィルム形成阻害効果を、以下のとおりに評価した。
【0126】
A液(CaCl2 0.39mM、MgCl2 0.08mM、NaCl 0.52mM、KCl 0.03 mM)及びB液(CaCl2 0.92mM、MgCl2 0.31mM、NaCl0.3 mM)を調製した。これらの溶液10mLそれぞれに、ラクトフェリン濃度を100mg/mLに調整したラクトフェリン含有水溶液を10μL添加した。
また、ラクトフェリンが添加されていないA液およびB液も用意した。
また、コントロールとして、10mLの純水(ミリポアミリQ水)にラクトフェリン100mg/mLを10μL添加したもの、ラクトフェリン無添加の純水、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)、及び水道水を用意した。
【0127】
以上の8種類の液体それぞれに対して121℃10分オートクレーブ加熱処理を実施した。当該加熱処理後の8種の液体について、バイオフィルム形成阻害活性を以下のとおりに測定した。
Enterococcus faecalisをOD600が0.71になるまで前記培地中で培養した。当該培養後の菌体液180μLと上記8種の各液体20μLとを96穴マイクロプレートに添加し、37℃21時間培養した。その後、上記実施例1において記載した方法によってバイオフィルム形成量を測定した。測定結果が
図3及び表3に示されている。同図のグラフにはn=3の平均値が示されている。
【0128】
【0129】
当該測定結果により示されるとおり、A液が菌体液に加えられた場合と比べては、ラクトフェリンが添加されたA液が菌体液に加えられた場合は、バイオフィルム形成量がより少なかった。同様に、B液が菌体液に加えられた場合と比べては、ラクトフェリンが添加されたB液が菌体液に加えられた場合は、バイオフィルム形成量がより少なかった。同様に、純水が菌体液に加えられた場合と比べては、ラクトフェリンが添加された純水が菌体液に加えられた場合は、バイオフィルム形成量がより少なかった。これらの結果より、ラクトフェリン(特には熱処理されたラクトフェリン)によるバイオフィルム形成阻害作用は、ラクトフェリンが塩含有水溶液に含まれる場合においても発揮されることが分かる。
【0130】
(実施例4)
本発明に従う組成物の一例として、以下のとおりにラクトフェリン含有飲料を製造した。
【0131】
ラクトフェリン(森永乳業株式会社製、ラクトフェリン純度96質量%以上)を0.5mg/mLの濃度になるよう脱イオン水に溶解し、30Lのラクトフェリン含有水溶液を調製した。当該ラクトフェリン含有水溶液をチューブラー殺菌機(MicroThermics社製)を用い140℃で3秒間加熱保持する条件で滅菌した。当該滅菌後、当該ラクトフェリン含有水溶液を、無菌的に500mLペットボトル容器に充填して、50本のラクトフェリン含有飲料を得た。
【0132】
このようにして製造されたラクトフェリン含有飲料は、加熱処理されているので、特に優れたバイオフィルム形成阻害作用を発揮すると考えられる。
【0133】
(実施例5)
ラクトフェリン及びラクトフェリン加熱処理物の、ミュータンス菌(Streptococcus mutans)によるバイオフィルム形成に対する阻害効果を、以下のとおりに評価した。
【0134】
前記ラクトフェリンは、実施例1と同じく、森永乳業株式会社製のものを用意した。当該ラクトフェリンを用いて、実施例1と同じように、非加熱ラクトフェリン含有水溶液を用意した。
前記ラクトフェリン加熱処理物は、実施例2と同じように、ラクトフェリンを10mg/mL濃度となるように精製水に溶解させたものを121℃10分加熱処理することで調製した。
【0135】
Streptococcus mutans(NBRC 13955株)を、独立行政法人製品評価技術基盤機構より購入した。当該細菌の菌体は、ブレインハートインフュージョン培地(日水製薬株式会社製)で培養した。Streptococcus mutansを37℃で一晩培養し、0.1%(W/V)のショ糖を含むブレインハートインフュージョン培地で50倍に希釈した。この溶液180μLと、0、0.08、0.4、2、10mg/mL濃度に濃度調整した前記ラクトフェリン又は前記ラクトフェリン加熱処理物20μLとを、96穴マイクロプレート内で混合し、37℃で24時間培養を行った。当該培養後、培養液を除き、PBS(リン酸緩衝生理食塩液)200μLで3回洗浄し、200μLのメタノールを加え室温で10分放置した。その後メタノールを除き、室温で風乾した。その後、0.2%(W/V)のクリスタルバイオレット溶液160μLを添加し、室温で30分放置した。その後、PBS200μLで4回洗浄し、600nmの吸光度を測定した。
図4及び表4に、測定結果が示されている。当該測定結果において、ラクトフェリン類無添加(濃度0)はn=12、他はn=3の平均値の結果を示した。
【0136】
【0137】
当該測定結果により示されるとおり、ラクトフェリン加熱処理物は、濃度0.008mg/mL以上の濃度でバイオフィルム形成阻害効果を発揮することが分かる。一方で、ラクトフェリンは、0.2mg/mL以上の濃度で、バイオフィルム形成阻害効果を発揮するが、ラクトフェリン加熱処理物と比べるとその効果は低い。これらの結果より、ラクトフェリン加熱処理物は、ラクトフェリンと比べて、より低い濃度でより優れた効果を発揮することが分かる。
【0138】
以上のとおり、ラクトフェリン及びラクトフェリン加熱処理物は、ミュータンス菌によるバイオフィルム形成を阻害するために有用であり、例えば口腔内におけるバイオフィルム形成を阻害するために有用である。特にラクトフェリン加熱処理物は、非常に低い濃度で優れたバイオフィルム形成阻害効果を発揮し、特に有用である。
【0139】
(実施例6)
ラクトフェリン含有飲料によるミュータンス菌バイオフィルム形成阻害効果を、以下のとおりに評価した。
【0140】
ラクトフェリンに塩を添加して作製した加熱処理物として、実施例3と同じように、A液及びB液を調製した。また、A液及びB液それぞれ10mLに、ラクトフェリン100mg/mL濃度に調整した溶液を50μL添加して、ラクトフェリンを含むA液及びB液を調製した。これら4種の溶液に対して、121℃10分オートクレーブの加熱処理を実施し、バイオフィルム形成阻害活性測定用の被検液を用意した。
また、10mLの純水(ミリポアミリQ水)にラクトフェリン100mg/mLを50μL添加し、そして上記と同様に加熱処理を実施して被験液を得た。また、ラクトフェリン無添加の純水も用意した。当該純水は、加熱処理されていない。
【0141】
ミュータンス菌(Streptococcus mutans)をプレートより5mLのブレインハートインフュージョン培地に懸濁し37℃で一晩培養して菌体液を得た。当該菌体液をショ糖0.1%(W/V)を含むブレインハートインフュージョン培地に、体積比で1/50となるように添加した。この菌体液180μLと各被検液20μLとを96穴マイクロプレートのウェルに添加し、37℃24時間培養した。その後、実施例1に示す方法でバイオフィルム形成量を測定した。測定結果を、
図5及び表5に示す。当該測定結果にはn=3の平均値を示した。
【0142】
【0143】
当該測定結果により示されるとおり、A液が菌体液に加えられた場合と比べては、ラクトフェリンを含むA液が菌体液に加えられた場合は、バイオフィルム形成量がより少なかった。同様に、B液が菌体液に加えられた場合と比べて、ラクトフェリンを含むB液が菌体液に加えられた場合は、バイオフィルム形成量がより少なかった。同様に、純水が菌体液に加えられた場合と比べて、ラクトフェリンを含む純水が菌体液に加えられた場合は、バイオフィルム形成量がより少なかった。これらの結果より、ラクトフェリン(特には熱処理されたラクトフェリン)によるバイオフィルム形成阻害作用は、ラクトフェリンが塩含有水溶液に含まれる場合においても発揮されることが分かる。
【0144】
(実施例7)
ラクトフェリン、ラクトフェリン加熱処理物、及びラクトフェリン加水分解物の、歯周病菌(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)によるバイオフィルム形成に対する阻害効果を、以下のとおりに評価した。
【0145】
前記ラクトフェリンは、実施例1と同じく、森永乳業株式会社製のものを用意した。当該ラクトフェリンを用いて、実施例1と同じように、非加熱ラクトフェリン含有水溶液を用意した。
前記ラクトフェリン加熱処理物は、実施例2と同じように、ラクトフェリンを10mg/mL濃度となるように精製水に溶解させたものを121℃10分加熱処理することで調製した。
前記ラクトフェリン加水分解物は、実施例2と同じようにペプシンによる加水分解処理によって調製された。
【0146】
Aggregatibacter actinomycetemcomitans (ATCC29522、本明細書内においてA.a.菌ともいう)は、Microbiologics社より購入した。前記A.a.菌を、プレートのコロニーから採り、1%酵母エキスを含むブレインハートインフュージョン培地で一晩37℃で培養しして菌体溶液を得た。その後、当該菌体溶液を1%酵母エキスおよび0.03%(W/V)システインを含むブレインハートインフュージョン培地で1/20に希釈した。当該希釈された菌液180μLと20μLの0、0.08、0.4、又は2mg/mLのラクトフェリン類の溶液それぞれとを96穴マイクロプレートに添加し、37℃24時間、5%CO2インキュベーターで培養した。その後、実施例1において説明した方法でバイオフィルム形成量を測定した。測定結果が、
図6及び表6に示されている。当該測定結果にはラクトフェリン類無添加(濃度0)はn=12、他はn=3の平均値を示した。
【0147】
【0148】
当該測定結果により示されるとおり、ラクトフェリン加熱処理物、ラクトフェリン、及びラクトフェリン加水分解物のいずれもが、バイオフィルム形成阻害効果を発揮することが分かる。
また、ラクトフェリン加熱処理物は、濃度0.008mg/mL以上の濃度でバイオフィルム形成阻害効果を発揮することが分かる。一方で、ラクトフェリン及び加水分解物も、バイオフィルム形成阻害効果を発揮するが、ラクトフェリン加熱処理物と比べるとその効果は低い。これらの結果より、ラクトフェリン加熱処理物は、ラクトフェリン及び加水分解物と比べて、より低い濃度でより優れた効果を発揮することが分かる。
【0149】
以上のとおり、ラクトフェリン加熱処理物、ラクトフェリン、及びラクトフェリン加水分解物は、歯周病菌によるバイオフィルム形成を阻害するために有用であり、例えば口腔内におけるバイオフィルム形成を阻害するために有用である。特にラクトフェリン加熱処理物は、非常に低い濃度で優れたバイオフィルム形成阻害効果を発揮し、特に有用である。
【0150】
(実施例8)
ラクトフェリン含有飲料による歯周病菌バイオフィルム形成阻害効果を、以下のとおりに評価した。
【0151】
ラクトフェリンに塩を添加して作製した加熱処理物として、実施例3と同じように、A液及びB液を調製した。また、A液及びB液それぞれ10mLに、ラクトフェリン100mg/mL濃度に調整した溶液を50μL添加して、ラクトフェリンを含むA液及びB液を調製した。これら4種の溶液に対して、121℃10分オートクレーブの加熱処理を実施し、バイオフィルム形成阻害活性測定用の被検液を用意した。
また、10mLの純水(ミリポアミリQ水)にラクトフェリン100mg/mLを50μL添加したもの、ラクトフェリン無添加の純水、リン酸緩衝生理食塩液(PBS)、及び水道水も用意した。
【0152】
歯周病菌(Aggregatibacter actinomycetemcomitans)を、プレートから採り、1%酵母エキスを含むブレインハートインフュージョン培地で一晩37℃で培養して菌体溶液を得た。その後、当該菌体溶液を0.5%酵母エキスおよび0.03%(W/V)システインを含むブレインハートインフュージョン培地で1/20に希釈した。この菌液180μLと20μLの各被検液とを96穴マイクロプレートのウェルに添加し、37℃24時間5%CO2インキュベーターで培養した。その後、実施例1に示す方法でバイオフィルム形成量を測定した。測定結果が、
図7及び表7に示されている。当該測定結果において、n=3の平均値を示した。
【0153】
【0154】
当該測定結果により示されるとおり、A液が菌体液に加えられた場合と比べては、ラクトフェリンを含むA液が菌体液に加えられた場合は、バイオフィルム形成量がより少なかった。同様に、B液が菌体液に加えられた場合と比べて、ラクトフェリンを含むB液が菌体液に加えられた場合は、バイオフィルム形成量がより少なかった。同様に、純水が菌体液に加えられた場合と比べて、ラクトフェリンを含む純水が菌体液に加えられた場合は、バイオフィルム形成量がより少なかった。これらの結果より、ラクトフェリン(特には熱処理されたラクトフェリン)によるバイオフィルム形成阻害作用は、ラクトフェリンが塩含有水溶液に含まれる場合においても発揮されることが分かる。