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特開2023-160387フィブロインナノファイバ複合材料の製造方法、フィブロインナノファイバ複合ゲルおよびフィブロインナノファイバ含有フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160387
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】フィブロインナノファイバ複合材料の製造方法、フィブロインナノファイバ複合ゲルおよびフィブロインナノファイバ含有フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 3/215 20060101AFI20231026BHJP
   D01F 4/02 20060101ALI20231026BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20231026BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20231026BHJP
   C08L 89/00 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
C08J3/215
D01F4/02
C08L5/00
C08L1/00
C08L89/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070737
(22)【出願日】2022-04-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り ウェブサイトのアドレス:https://www.rish.kyoto-u.ac.jp/bionanomat/research/、掲載日:令和3年12月17日 集会名:バイオナノマテリアルシンポジウム2021-アカデミアからの発信-、開催日:令和3年12月21日、開催場所:WEB開催 発行者名:一般社団法人 繊維学会、刊行物名:2021年 繊維学会秋季研究発表会 予稿集、発行日:令和3年11月11日 集会名:2021年 繊維学会秋季研究発表会、開催日:令和3年11月18日、開催場所:WEB開催
(71)【出願人】
【識別番号】504255685
【氏名又は名称】国立大学法人京都工芸繊維大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100132883
【弁理士】
【氏名又は名称】森川 泰司
(74)【代理人】
【識別番号】100174388
【弁理士】
【氏名又は名称】龍竹 史朗
(72)【発明者】
【氏名】岡久 陽子
(72)【発明者】
【氏名】安永 悠乃
(72)【発明者】
【氏名】柴田 真歩
【テーマコード(参考)】
4F070
4J002
4L035
【Fターム(参考)】
4F070AA62
4F070AB11
4F070AC40
4F070AC72
4F070AC93
4F070AD02
4F070FA05
4F070FA17
4F070FB06
4F070FC03
4J002AB01X
4J002AB05X
4J002AD00W
4J002GC00
4J002GL00
4L035BB46
4L035DD13
(57)【要約】
【課題】高い強度を有し且つ耐熱性に優れたフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法、フィブロインナノファイバ複合ゲルおよびフィブロインナノファイバ含有フィルムを提供する。
【解決手段】フィブロインナノファイバ複合材料の製造方法は、フィブロインを含むスラリー中のフィブロインを解繊および粉砕することによりフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、フィブロインナノファイバを含むスラリーにキトサンまたはキチンと酢酸とを含む水溶液を加えて撹拌して混合させる混合工程と、フィブロインナノファイバと、キトサンまたはキチンと、酢酸と、を含むスラリーにアルカリ性水溶液を添加してスラリーを固化させる固化工程と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィブロインを含むスラリー中のフィブロインを解繊および粉砕することによりフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記フィブロインナノファイバを含むスラリーに多糖と飽和脂肪酸とを含む水溶液を加えて撹拌して混合させる混合工程と、を含む、
フィブロインナノファイバ複合材料の製造方法。
【請求項2】
前記多糖は、キトサン、セルロース、アガロース、ペクチンおよびキチンのうちの少なくとも1つである、
請求項1に記載のフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法。
【請求項3】
前記飽和脂肪酸は、酢酸である、
請求項1または2に記載のフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法。
【請求項4】
前記フィブロインナノファイバと、前記多糖と、前記飽和脂肪酸と、を含むスラリーにアルカリ性水溶液を添加して前記スラリーを固化させる固化工程を更に含む、
請求項1または2に記載のフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法。
【請求項5】
前記フィブロインナノファイバと、前記多糖と、前記飽和脂肪酸と、を含むスラリーを用いてキャスト成型することによりフィルム状のフィブロインナノファイバ複合材料を得るキャスト成型工程を更に含む、
請求項1または2に記載のフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法。
【請求項6】
フィブロインを含むスラリー中のフィブロインを解繊および粉砕することによりフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記フィブロインナノファイバを含むスラリーにコラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つを含むスラリーを加えて撹拌して混合させる混合工程と、
前記コラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つを架橋させる架橋工程と、を含む、
フィブロインナノファイバ複合材料の製造方法。
【請求項7】
フィブロインナノファイバと、多糖と、を含み、
前記フィブロインナノファイバの含有率は、0.2wt%以上であり、
前記フィブロインナノファイバのアスペクト比は、100以上である、
フィブロインナノファイバ複合ゲル。
【請求項8】
フィブロインナノファイバと、多糖と、を含み、
前記フィブロインナノファイバの含有率は、30wt%以上且つ50wt%以下であり、
前記フィブロインナノファイバのアスペクト比は、100以上である、
フィブロインナノファイバ含有フィルム。
【請求項9】
フィブロインナノファイバと、コラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つと、を含み、
前記フィブロインナノファイバの含有率は、10wt%以上であり、
前記フィブロインナノファイバのアスペクト比は、100以上である、
フィブロインナノファイバ複合ゲル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィブロインナノファイバ複合材料の製造方法、フィブロインナノファイバ複合ゲルおよびフィブロインナノファイバ含有フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
pH8.0~11に調整されたシルクの分散流体について、グラインダ、ホモジナイザ等の公知の粉砕装置を使用して粉砕処理を行い、分散流体中のシルクを粉砕してシルクナノファイバを得るシルクナノファイバの製造方法、および、このようにして作製したシルクナノファイバをポリオレフィン樹脂、ビニル系樹脂、ポリアミド樹脂等の樹脂にフィラとして分散させてなる複合材料が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-119035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載されたシルクナノファイバをフィラとして含む複合材料では、その強度および耐熱性能の向上が要請されている。
【0005】
本発明は、上記事由に鑑みてなされたものであり、高い強度を有し且つ耐熱性に優れたフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法、フィブロインナノファイバ複合ゲルおよびフィブロインナノファイバ含有フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法は、
フィブロインを含むスラリー中のフィブロインを解繊および粉砕することによりフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記フィブロインナノファイバを含むスラリーに多糖と飽和脂肪酸とを含む水溶液を加えて撹拌して混合させる混合工程と、を含む。
【0007】
他の観点から見た本発明に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルは
フィブロインナノファイバと、多糖と、を含み、
前記フィブロインナノファイバの含有率は、0.2wt%以上であり、
前記フィブロインナノファイバのアスペクト比は、100以上である。
【0008】
他の観点から見た本発明に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムは
フィブロインナノファイバと、多糖と、を含み、
前記フィブロインナノファイバの含有率は、30wt%以上且つ50wt%以下であり、
前記フィブロインナノファイバのアスペクト比は、100以上である。
【0009】
他の観点から見た本発明に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法は、
フィブロインを含むスラリー中のフィブロインを解繊および粉砕することによりフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、
前記フィブロインナノファイバを含むスラリーにコラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つを含むスラリーを加えて撹拌して混合させる混合工程と、
前記コラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つを架橋させる架橋工程と、を含む。
【0010】
他の観点から見た本発明に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルは、
フィブロインナノファイバと、コラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つと、を含み、
前記フィブロインナノファイバの含有率は、10wt%以上であり、
前記フィブロインナノファイバのアスペクト比は、100以上である。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法は、前述のスラリー作製工程と、前述の混合工程と、を含む。また、本発明に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルは、フィブロインナノファイバとともに含有する材料に応じた含有率で、アスペクト比100以上のフィブロインナノファイバを含有する。更に、本発明に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムは、アスペクト比100以上のフィブロインナノファイバを30wt%以上且つ50wt%以下の含有率で含有する。これにより、フィブロインナノファイバ複合ゲル、フィブロインナノファイバ含有フィルム等のフィブロインナノファイバ複合材料の強度および耐熱性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施の形態1に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図2】(A)は比較例1に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの外観写真であり、(B)は実施例1に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの外観写真であり、(C)は実施例2に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの外観写真である。
図3】(A-1)は比較例1に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの上端部の断面のSEM写真であり、(A-2)は比較例1に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの下端部の断面のSEM写真であり、(B-1)は実施例1に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの上端部の断面のSEM写真であり、(B-2)は実施例1に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの下端部の断面のSEM写真であり、(C-1)は実施例2に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの上端部の断面のSEM写真であり、(C-2)は実施例2に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの下端部の断面のSEM写真である。
図4】比較例1、実施例1、2に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの圧縮試験の結果を示す図である。
図5】比較例2、3、実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムのFT-IR測定の結果を示す図である。
図6】(A)は比較例2に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの断面のSEM写真であり、(B)は実施例3に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの断面のSEM写真であり、(C)は実施例4に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの断面のSEM写真である。
図7】(A)は実施例5に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの断面のSEM写真であり、(B)は比較例3に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの断面のSEM写真である。
図8】(A)は比較例2、3、実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの引張試験のひずみ量3%以下の領域での結果を示す図であり、(B)は比較例2、3、実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの引張試験の歪み量50%以下の領域での結果を示す図である。
図9】(A)は比較例2、3、実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの熱重量分析の結果を示す図であり、(B)は比較例2、3、実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの熱重量分析において重量が5%低下したときの温度を示す図である。
図10】比較例2、3、実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの熱膨張率を示す図である。
図11】(A)は比較例4、5、実施例6乃至8に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの引張試験のひずみ量5%以下の領域での結果を示す図であり、(B)は比較例4、5、実施例6乃至8に係るフィブロインナノファイバ含有フィルムの熱重量分析の結果を示す図である。
図12】(A)は比較例6乃至12、実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの圧縮弾性率を示す図であり、(B)は比較例6、実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの破断時圧力を示す図である。
図13】(A)は比較例6乃至12に係るゲル並びに実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの比膨潤度を示す図であり、(B)は比較例6、12に係るゲル並びに実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルのテオリフィンの放出率を示す図である。
図14】比較例6、12に係るゲル並びに実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの酵素による分解率を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法、フィブロインナノファイバ複合ゲルおよびフィブロインナノファイバ含有フィルムについて図面を参照しながら説明する。本実施の形態に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法は、フィブロインを含むスラリー中のフィブロインを解繊および粉砕することによりフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、フィブロインナノファイバを含むスラリーにキトサンまたはキチンと酢酸とを含む水溶液を加えて撹拌して混合させる混合工程と、を含む。
【0014】
本実施の形態に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法では、図1に示すように、まず、繭の殻を刃物、グラインダ等で粗粉砕し、繭の粗粉砕片からセリシンを除去することにより繊維状のフィブロインを抽出するセリシン除去工程を行う(S1)。ここでは、繭の粗粉砕片を、pH9乃至12のアルカリ性水溶液に投入して80℃乃至100℃の温度且つ常圧下で2時間程度煮込む。アルカリ性水溶液としては、炭酸塩、アルカリ金属水酸化物、リン酸塩から選択された少なくとも1つを溶質とするアルカリ性水溶液を採用することができる。炭酸塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩が挙げられる。アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。リン酸塩としては、リン酸ナトリウム(例えばリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム)、リン酸カリウム(例えば、リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム)、ピロリン酸ナトリウム、ピロリン酸カリウム、メタリン酸ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩等が挙げられる。なお、フィブロインへの影響を低減する観点から、特に、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、またはこれらの混合物を採用することが好ましい。
【0015】
なお、セリシン除去工程の後、例えば繊維状のフィブロインにアルカリ水溶液を含浸させた後、脱水、乾燥させ、その後、100℃乃至150℃の過熱水蒸気に曝して強度を劣化させる劣化工程を行うことにより、繊維状のフィブロインが解繊、粉砕され易くするようにしてもよい。
【0016】
次に、フィブロインナノファイバを含むスラリーを作成するスラリー作製工程を行う(S2)。ここでは、フィブロインを蒸留水中に分散されることによりフィブロインを含むスラリーを作製する。そして、グラインダ、ホモジナイザ等の公知の粉砕装置を用いて、作製したスラリー中のフィブロインを解繊および粉砕することによりフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製する。ここで、スラリー中に含まれるフィブロインナノファイバの平均繊維径は、30nm以上150nm以下であり、好ましくは、30nm以上60nm以下であり、アスペクト比は100以上である。なお、適宜、エバポレータを用いて、スラリー中の水分を蒸発させることによりスラリーを濃縮させてもよい。
【0017】
続いて、フィブロインナノファイバを含むスラリーに多糖と飽和脂肪酸とを含む水溶液を加えて撹拌して混合させる混合工程を行う(S3)。多糖としては、キトサン、セルロース、アガロース、ペクチン、またはキチンが採用される。また、飽和脂肪酸としては、酢酸、蟻酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、プロン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、マルガリン酸等を採用することができ、特に、酢酸が好ましい。また、この混合工程により得られるフィブロインナノファイバ、多糖および飽和脂肪酸を含むスラリー中のフィブロインナノファイバの含有率は、0.2wt%以上とすることが好ましい。更に、フィブロインナノファイバ、多糖および飽和脂肪酸を含むスラリー中のフィブロインナノファイバおよび多糖の含有率は、4wt%程度とすることが好ましい。ここでは、フィブロインナノファイバを含むスラリーと、多糖および飽和脂肪酸を含む水溶液と、を例えば30℃乃至50℃の温度に維持しながら攪拌した後、超音波ホモジナイザのような公知の攪拌装置を用いて攪拌することにより、フィブロインナノファイバを含むスラリーと、多糖および飽和脂肪酸を含む水溶液と、を混合する。
【0018】
その後、フィブロインナノファイバと、多糖と、飽和脂肪酸と、を含むスラリーにアルカリ性水溶液を添加してスラリーを固化させることによりフィブロインナノファイバ複合ゲルを得る固化工程を行う(S4)。アルカリ性水溶液としては、アルカリ金属水酸化物を溶質とするアルカリ性水溶液を採用することができ、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
【0019】
次に、フィブロインナノファイバ複合ゲルを蒸留水に浸漬させることによりアルカリ性水溶液を除去する洗浄工程を行う(S5)。このようにして、洗浄されたフィブロインナノファイバ複合ゲルを得る。このフィブロインナノファイバ複合ゲルは、フィブロインナノファイバと、多糖と、を含み、フィブロインナノファイバの含有率は、0.2wt%以上であり、フィブロインナノファイバのアスペクト比は、100以上である。
【0020】
以上説明したように、本実施の形態に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法は、前述のスラリー作製工程と、前述の混合工程と、を含む。また、本発明に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルは、フィブロインナノファイバとともに含有する材料に応じた含有率で、アスペクト比100以上のフィブロインナノファイバを含有する。これにより、フィブロインナノファイバ複合ゲルの強度および耐熱性能が向上する。
【0021】
(実施の形態2)
本実施の形態に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法は、フィブロインを含むスラリー中のフィブロインを解繊および粉砕することによりフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製するスラリー作製工程と、フィブロインナノファイバを含むスラリーにコラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つを含むスラリーを加えて撹拌して混合させる混合工程と、コラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つを架橋させる架橋工程と、を含む。
【0022】
本実施の形態に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法では、実施の形態1で説明した製造方法と同様に、まず、繊維状のフィブロインを抽出するセリシン除去工程と、フィブロインナノファイバを含むスラリーを作成するスラリー作製工程を行う。なお、セリシン除去工程の後、前述の劣化工程を行ってもよい点、並びに、スラリー作製工程により得られたスラリーについて、適宜、スラリー中の水分を蒸発させることによりスラリーを濃縮させてもよい点は実施の形態1と同様である。
【0023】
次に、フィブロインナノファイバを含むスラリーにコラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つと蒸留水とを加えて撹拌して混合させる混合工程を行う。
【0024】
続いて、スラリー中のコラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つを架橋させる架橋工程を行う。ここでは、コラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つを化学架橋または物理架橋することによりスラリーをゲル化させる。このコラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つの架橋には、グルタルアルデヒド、カルボジイミド、ホルムアルデヒド等の架橋剤を用いることができ、人体への影響の観点からグルタルアルデヒド、カルボジイミドが好ましい。このようにして、フィブロインナノファイバ複合ゲルを得る。このフィブロインナノファイバ複合ゲルは、フィブロインナノファイバと、コラーゲン、カゼインおよびケラチンのうちの少なくとも1つと、を含み、フィブロインナノファイバの含有率は、10wt%以上であり、フィブロインナノファイバのアスペクト比は、100以上である。
【0025】
以上説明したように、本実施の形態に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法は、前述のスラリー作製工程と、前述の混合工程と、前述の架橋工程と、を含む。また、本発明に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルは、アスペクト比100以上のフィブロインナノファイバを10wt%以上の含有率で含有する。これにより、フィブロインナノファイバ複合ゲルの強度および耐熱性能が向上する。
【0026】
以上、本発明の各実施の形態に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法およびフィブロインナノファイバ複合ゲルについて説明したが、本発明は前述の各実施の形態に限定されない、例えば実施の形態1において、フィブロインナノファイバ複合材料の製造方法において、図1に示す工程S4、S5の代わりに、フィブロインナノファイバと、多糖と、飽和脂肪酸と、を含むスラリーを用いてキャスト成型することによりフィルム状のフィブロインナノファイバ複合材料を得るキャスト成型工程を含むものであってもよい。この場合、前述の混合工程により得られるフィブロインナノファイバ、多糖および飽和脂肪酸を含むスラリー中のフィブロインナノファイバの含有率は、30wt%以上且つ50wt%以下であることが好ましい。このようなフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法により得られるフィブロインナノファイバ含有フィルムは、アスペクト比100以上のフィブロインナノファイバを30wt%以上且つ50wt%以下の含有率で含有する。これにより、フィブロインナノファイバ含有フィルムの強度および耐熱性能が向上する。
【実施例0027】
本発明に係るフィブロインナノファイバ複合材料の製造方法について、実施例に基づいて説明する。実施例1、2に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルと、比較例3乃至5および実施例3乃至8に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムに係るセリシン除去工程では、繭の粗粉砕片を、95℃に維持された濃度0.9wt%のNaCO水溶液の中に120分間浸漬させることにより、繊維状のフィブロインを抽出した。次に、比較例1乃至3、実施例1乃至5に係るスラリー作製工程では、抽出した繊維状のフィブロインを蒸留水中に投入してからミキサ(Hi-Power BLENDER MX1200XT/XTS:大阪ケミカル社製)で攪拌することによりフィブロインを含むスラリーを作製した。そして、作製したスラリーについて、石臼式グラインダ(スーパーマスコロイダー:増幸産業製)を用いて、回転数1500rpmのグラインダ処理を4回繰り返すことにより1.4wt%のフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製した。そして、実施例1、2では、前述の混合工程において、それぞれ、フィブロインナノファイバの濃度が0.2wt%、0.4wt%となるように、1.4wt%のキトサンおよび酢酸を含む水溶液を添加してから、超音波ホモジナイザ(VCX-50:家田貿易社製)を用いて攪拌し混合した。ここで、超音波ホモジナイザの出力を750W、20kHzに設定して1分間攪拌を行った。その後、実施例1、2では、前述の固化工程において、スラリーに濃度10wt%のNaOH水溶液を添加することによりフィブロインナノファイバ複合ゲルを得た。ここで、スラリーを有底筒状の容器に充填させた状態で上からNaOH水溶液を添加することによりスラリーを固化させた。
【0028】
また、実施例3乃至5では、混合工程において、それぞれ、フィブロインナノファイバの濃度が30wt%、50wt%、70wt%となるように、1.4wt%のキトサンおよび酢酸を含む水溶液を添加した後、前述のキャスト成形工程を行うことによりフィブロインナノファイバ複合フィルムを得た。更に、実施例6乃至8では、混合工程において、それぞれ、フィブロインナノファイバの濃度が30wt%、50wt%、70wt%となるように、1.4wt%のキチンおよび酢酸を含む水溶液を添加した後、前述のキャスト成形工程を行うことによりフィブロインナノファイバ複合フィルムを得た。なお、比較例1は、キトサンを含みフィブロインナノファイバを含まないゲルであり、比較例2は、キトサンを含みフィブロインナノファイバを含まないフィルムである。また、比較例4は、キチンを含みフィブロインナノファイバを含まないフィルムである。また、比較例3は、フィブロインナノファイバを含みキトサンを含まないフィルムであり、比較例5は、フィブロインナノファイバを含みキチンを含まないフィルムである。
【0029】
また、比較例7乃至12、実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルに係るセリシン除去工程では、繭の粗粉砕片を、95℃に維持された濃度0.9wt%のNaCO水溶液の中に120分間浸漬させることにより、繊維状のフィブロインを抽出した。次に、実施例9乃至13に係るスラリー作製工程では、抽出した繊維状のフィブロインを蒸留水中に投入してからミキサ(Hi-Power BLENDER MX1200XT/XTS:大阪ケミカル社製)で攪拌することによりフィブロインを含むスラリーを作製した。そして、作製したスラリーについて、石臼式グラインダ(スーパーマスコロイダー:増幸産業製)を用いて、回転数1500rpmのグラインダ処理を4回繰り返すことにより1.4wt%のフィブロインナノファイバを含むスラリーを作製した。一方、比較例8乃至12に係るスラリー作製工程では、繊維状のフィブロインを濃度9.3mol/dm3のLiBr水溶液に入れて温度60℃で維持しながら4時間攪拌した後、温度20℃で維持しながら48時間かけて透析を行うことによりフィブロイン溶液を得た。
【0030】
そして、比較例8乃至12並びに実施例9乃至13では、混合工程において、フィブロイン溶液、フィブロインナノファイバを含むスラリーに、ゼラチンと蒸留水を添加してから、超音波ホモジナイザ(VCX-50:家田貿易社製)を用いて攪拌し混合した。ここで、超音波ホモジナイザの出力を750W、20kHzに設定して1分間攪拌を行った。また、比較例8乃至12では、混合工程において、それぞれ、フィブロインナノファイバの濃度が5wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%となるように、ゼラチンおよび蒸留水を添加した。更に、実施例9乃至13では、混合工程において、それぞれ、フィブロインナノファイバの濃度が5wt%、10wt%、15wt%、20wt%、25wt%となるように、ゼラチンおよび蒸留水を添加した。その後、脱法処理を行った後、前述の架橋工程において、比較例8乃至12に係るゼラチンを含むフィブロイン溶液にグルタルアルデヒドを添加することにより複合ゲルを得た。また、実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバおよびゼラチンを含むスラリーにグルタルアルデヒドを添加することによりフィブロインナノファイバ複合ゲルを得た。
【0031】
次に、前述の実施例1、2、9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲル並びに実施例3乃至8に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムの形態安定性について評価した結果について説明する。比較例1に係るフィブロインナノファイバを含まないゲルでは、図2(A)に示すように扁平な円盤状としたときに上端面の中央部が窪んだ形状となったのに対して、実施例1、2に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルでは、図2(B)および(C)に示すように窪みが観測されなかった。また、比較例1に係るゲルでは、図3(A-1)および(A-2)に示すように、固化工程において容器内で固化したときの容器の下側に位置する部分の密度が容器の上側に位置する部分の密度に比べて緻密な構造が確認された。これに対して、実施例1、2に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルでは、図3(B-1)乃至(C-2)に示すように、固化工程において容器内で固化したときの容器の下側に位置する部分の密度が均一な構造が確認された。このことから、比較例1の場合、固化工程において、NaOHが鉛直下方へ比較的早く拡散してしまい、容器に充填されたスラリーのうち容器の下側に位置する部分が上側に位置する部分よりも優先的に固化してしまい、スラリーにおける容器の上側に位置する部分と下側に位置する部分とで構造の斑が生じてしまうと考えられる。これに対して、フィブロインナノファイバ複合ゲルの場合、フィブロインナノファイバが含まれることによりスラリー中でフィブロインナノファイバがいわゆるNaOHに対する増粘剤として機能し、NaOHが鉛直下方へ拡散する速度が低減されてスラリー全体で均一にゲル化し形態安定性が向上したと考えられる。
【0032】
また、比較例1に係るゲル並び実施例1、2に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれについて圧縮試験を行った。圧縮試験には、クリープメータRE2-33005S(山電社製)を使用し、圧縮速度を0.05mm/secとし、圧力は40Nとした。実施例1、2に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルは、図4に示すように、比較例1に係るゲルに比べて、耐圧縮性能が大幅に向上していることが判った。
【0033】
次に、比較例2に係るフィルム並びに実施例3乃至5および比較例3に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについて内部構造を評価した結果について説明する。フーリエ変換赤外分光光度計(Fourier transform infrared spectrometer: 以下「FTIR」と称する。)を使用して、赤外の波長帯域におけるスペクトルを測定した。図5に示すように、実施例3乃至5および比較例3に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれのスペクトルにおいて、図5に示すように、C原子とO原子との結合のストレッチモードに対応するピークが1623cm-1に観測され、N原子とH原子との結合の変角振動に対応するピークが1519cm-1に観測された。即ち、実施例3乃至5および比較例3に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについて天然のフィブロインの結晶に見られるβシート構造に特有の位置にスペクトルのピークが観測された。このことから、フィブロインナノファイバ複合フィルムに含まれるフィブロインナノファイバが、天然のフィブロインの結晶に見られるβシート構造を維持していることが判った。
【0034】
また、比較例2に係るフィルム並びに実施例3乃至5および比較例3に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについて断面の状態を観察した。フィブロインナノファイバを含まない比較例2に係るシートの断面には、図6(A)に示すように、空隙が確認されたのに対して、実施例3乃至5および比較例3に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれの断面には、図6(B)および(C)、図7(A)および(B)に示すように、空隙のない緻密な構造が確認された。
【0035】
次に、比較例2、3に係るフィルム並び実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれの形態安定性について評価した結果について説明する。比較例2、3に係るフィルム並び実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについて引張試験を行った。引張試験には、引張試験装置EZーSX(島津製作所製)を使用し、引張速度を1mm/minとした。比較例2、3に係るフィルム並び実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムは、図8(A)および(B)に示すような引っ張り応力と歪みとの関係が測定された。なお、図8(A)と図8(B)とでは、歪み量の範囲が異なる。そして、図8(A)に示す曲線の傾きに基づいて算出した弾性率と、図8(B)に示す破断したときの歪み量である破断歪み量と、は下記表1に示す結果となった。
【0036】
【表1】
【0037】
表1に示すように、フィブロインナノファイバ複合フィルムに含まれるフィブロインナノファイバの含有率が高くなると、それに伴い、フィブロインナノファイバ複合フィルムの弾性率が増大した。また、実施例3に係る破断歪み量は、比較例2に係る破断歪み量に比べて大きくなることが判った。これらのことから、フィブロインナノファイバ複合フィルムに含まれるフィブロインナノファイバの含有量が30%であれば引っ張り弾性性能および引っ張り破断性能を増強することが判った。
【0038】
次に、比較例2、3に係るフィルム並び実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれの耐熱性能を評価した結果について説明する。比較例2、3に係るフィルム並び実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについて熱重量分析(Thermal Gravimetric Analysis、以下「TGA」と称する。)を行った。TGAには、示差熱熱重量同時測定装置STA7200RV(日立製作所製)を使用し、100℃で90minだけ維持した後、10℃/minの昇温速度で昇温した。比較例2、3に係るフィルム並び実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについてTGAにより図9(A)に示すようなTGA曲線が得られ、このTGA曲線から重量が5%だけ減少したときの5%減少温度を算出した。図9(B)に示すように、比較例2および実施例3に係る5%減少温度は約220℃で略等しいが、実施例4、5および比較例3に係る5%減少温度は、フィブロインナノファイバの含有率が高くなるのに伴い高くなることが判った。このことから、フィブロインナノファイバ複合フィルム中のフィブロインナノファイバの含有率が30%よりも高くなるとフィブロインナノファイバ複合フィルムの耐熱性能が向上することが判った。
【0039】
また、比較例2、3に係るフィルム並び実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについて線膨張係数の評価を行った。線膨張係数の評価には、熱分析装置STA7000(日立製作所製)を使用し、昇温速度5℃/minで30℃から130℃まで昇温した。そして、昇温前後のフィブロインナノファイバ複合フィルムの大きさに基づいて線膨張係数を算出した。図10に示すように、フィブロインナノファイバ複合フィルム中のフィブロインナノファイバの含有率が高くなると、それに伴い、フィブロインナノファイバ複合フィルムの線膨張係数が低下することが判った。このことから、フィブロインナノファイバ複合フィルム中のフィブロインナノファイバの含有率が高くなるほど、フィブロインナノファイバ複合フィルムを加熱したときの形態安定性が向上することが判った。
【0040】
次に、比較例4、5に係るフィルム並び実施例6乃至8に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれの形態安定性について評価した結果について説明する。比較例4、5に係るフィルム並び実施例6乃至8に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについて引張試験を行った。引張試験の条件は、前述の比較例2、3に係るフィルム並び実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムの場合と同様である。比較例4、5に係るフィルム並び実施例6乃至8に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムは、図10に示すような引っ張り応力と歪みとの関係が測定された。図11(A)に示す結果から、キチンを含むフィブロインナノファイバ複合フィルムの場合、フィブロインナノファイバの含有率が30%であれば、破断歪み量を2.7%程度で維持できることが判った。
【0041】
また、比較例4、5に係るフィルム並び実施例6乃至8に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについてTGAを行った。TGAの条件は、前述の比較例2、3に係るフィルム並び実施例3乃至5に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムの場合と同様である。比較例4、5に係るフィルム並び実施例6乃至8に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムそれぞれについてTGAにより図11(B)に示すようなTGA曲線が得られた。図11(B)に示すTGA曲繊から、実施例6乃至8に係るフィブロインナノファイバ複合フィルムに係る5%減少温度が、比較例4に係る5%減少温度に比べて高くなることが判った。このことから、キチンを含むフィブロインナノファイバ複合フィルムについても、フィブロインナノファイバが含まれることにより耐熱性能が向上することが判った。
【0042】
次に、比較例6乃至12に係るゲル並び実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれの形態安定性について評価した結果について説明する。比較例6乃至12に係るゲル並び実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれについて圧縮試験を行った。圧縮試験には、クリープメータRE2-33005S(山電社製)を使用し、圧縮荷重を変化させた。そして、比較例6乃至12に係るゲル並び実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれについて圧縮荷重と歪みとの関係を測定し、圧縮荷重と歪みとの相関曲線から圧縮弾性率を算出した。圧縮弾性率は、図12(A)に示すように、フィブロインの含有率が15%以下であればフィブロイン溶液から作製したゲルとフィブロインを含むスラリーから作製したフィブロインナノファイバ複合ゲルとで略等しいことが判った。なお、図12(A)において「Sol.F」は、比較例7乃至12に係るフィブロイン溶液から作製したゲルについての結果を示し、「FNF」は、比較例6並びに実施例9乃至13に係るフィブロインを含むスラリーから作製したフィブロインナノファイバ複合ゲルについての結果を示す。また、比較例6乃至12に係るゲル並び実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれについて破断強度の測定を行った。破断強度の測定には、卓上万能試験機EZ-SX(島津製作所製)を使用し、圧縮荷重を変化させた。そして、比較例6乃至12に係るゲル並び実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれについて破断が生じたときの圧縮荷重を測定した。破断時の圧縮荷重は、図12(B)に示すように、フィブロインを含むスラリーから作製したフィブロインナノファイバ複合ゲルのほうがフィブロインの含有率が15%以下であればフィブロイン溶液から作製したゲルに比べて大きくなることが判った。なお、図12(B)において「Sol.F」は、比較例7乃至12に係るフィブロイン溶液から作製したゲルについての結果を示し、「FNF」は、比較例6並びに実施例9乃至13に係るフィブロインを含むスラリーから作製したフィブロインナノファイバ複合ゲルについての結果を示す。このことから、実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルは、比較例6乃至12に係るゲルに比べて耐圧縮性能が向上したことが判った。
【0043】
また、比較例6乃至12に係るゲル並び実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれについて生理食塩水に対する膨潤度を測定した。ここでは、比較例6乃至12に係るゲル並び実施例9乃至13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれをpH7.4、4℃のリン酸緩衝生理食塩水に24時間浸漬させた後、凍結乾燥させて、凍結乾燥前後の重量から比膨潤度を算出した。比膨潤度は、図13(A)に示すように、フィブロインの含有率が20%以下であればフィブロイン溶液から作製したゲルとフィブロインを含むスラリーから作製したフィブロインナノファイバ複合ゲルとで略等しいことが判った。なお、図13(A)において「Sol.F」は、比較例7乃至12に係るフィブロイン溶液から作製したゲルについての結果を示し、「FNF」は、比較例6並びに実施例9乃至13に係るフィブロインを含むスラリーから作製したフィブロインナノファイバ複合ゲルについての結果を示す。
【0044】
次に、比較例6、12に係るゲル並び実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれの徐放性について評価した結果について説明する。比較例6、12に係るゲル並び実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれについて気管支拡張剤として使用されるテオフィリンの放出率の時間プロファイルを測定した。ここでは、比較例6、12に係るゲル並び実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれを、室温(24℃)、濃度8mg/mLのテオリフィン水溶液に24時間浸漬させた後、pH7.4、4℃のリン酸緩衝生理食塩水に浸漬させてから0、2、4、6、12、24時間後それぞれにおいてリン酸緩衝生理食塩水を採取し、採取したリン酸緩衝生理食塩水の波長272nmにおける吸光度を測定した。そして、吸光度の大きさからテオフィリンの放出率を算出した。比較例6、12に係るゲル並び実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの放出率は、図13(B)に示すように、いずれもリン酸緩衝生理食塩水への浸漬開始から2時間後までの急速に放出され、放出率の時間プロファイルに大きさ差異は見られないことが判った。
【0045】
次に、比較例6、12に係るゲル並び実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれの生分解性能について評価した結果について説明する。比較例6、12に係るゲル並び実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれについて酵素による分解率の酵素を含む水溶液への浸漬時間依存性を測定した。具体的には、比較例6、12に係るゲル並び実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルそれぞれについて、コラゲナーゼII0.1U/mLと加水分解酵素であるプロテアーゼXIV0.5U/mLとを含むpH7.4、37℃のリン酸緩衝生理食塩水に2、4、6、12、24時間浸漬させた5つの試料と、このリン酸緩衝生理食塩水に浸漬させていない試料と、を準備する。そして、これらの6つの試料を蒸留水で洗浄した後、凍結乾燥させた。そして、凍結乾燥させた試料の重量から分解率を算出した。比較例12に係るゲル並び実施例13に係るフィブロインナノファイバ複合ゲルの分解率は、図14に示すように、比較例6に係るゲルに比べて分解率が小さくなった。このことからフィブロインが含まれることにより酵素による分解速度が低下することが判った。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、フィブロインナノファイバをフィラとして含む複合材料として好適である。
図1
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