(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160391
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】鋼材の接合構造
(51)【国際特許分類】
E02D 27/12 20060101AFI20231026BHJP
E02D 5/24 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
E02D27/12 Z
E02D5/24 103
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070742
(22)【出願日】2022-04-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】317018169
【氏名又は名称】ヒロセ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(74)【代理人】
【識別番号】100167601
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 信之
(74)【代理人】
【識別番号】100201329
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 真二郎
(74)【代理人】
【識別番号】100220917
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 忠大
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】田邊 将一
(72)【発明者】
【氏名】柳 悦孝
(72)【発明者】
【氏名】阿形 淳
(72)【発明者】
【氏名】戸田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】窪津 直人
(72)【発明者】
【氏名】松田 伊佐雄
【テーマコード(参考)】
2D041
2D046
【Fターム(参考)】
2D041BA19
2D046CA05
(57)【要約】
【課題】溶接によらずに上下の鋼材を縦方向に接合でき、圧縮軸力・曲げ、引張軸力・曲げの両方の性能を担保できる鋼材の接合構造を提供すること。
【解決手段】地中に打ち込んだ鋼材からなる支持杭と、前記支持杭の上位に配置する鋼材からなる支持柱の突合せ部に跨って外装可能な筒状の継手ソケットと、前記支持杭と前記支持柱を連結する引張材と、を使用して前記支持杭の上部と前記支持柱の下部とを一体に接合する鋼材の接合構造であって、前記継手ソケットは、前記支持杭の上部に外装可能な下筒と、前記支持柱の下部に外装可能な上筒と、同軸線上に位置させた前記下筒と上筒の境界部に介装して一体化したダイアフラムとを有する、鋼材の接合構造。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に打ち込んだ鋼材からなる支持杭と、前記支持杭の上位に配置する鋼材からなる支持柱の突合せ部に跨って外装可能な筒状の継手ソケットと、
前記支持杭と前記支持柱を連結する引張材と、を使用して前記支持杭の上部と前記支持柱の下部とを一体に接合する鋼材の接合構造であって、
前記継手ソケットは、前記支持杭の上部に外装可能な下筒と、前記支持柱の下部に外装可能な上筒と、同軸線上に位置させた前記下筒と上筒の境界部に介装して一体化したダイアフラムとを有する、
鋼材の接合構造。
【請求項2】
請求項1に記載の鋼材の接合構造であって、
前記引張材は2本以上設けることを特徴とする、
鋼材の接合構造。
【請求項3】
請求項2に記載の鋼材の接合構造において、
平面視弧状の帯部と、前記帯部から外周方向に突設する引張材台座と、を有する固定バンドを、前記支持杭及び前記支持柱それぞれに固定し、
前記引張材の下部は前記支持杭に固定した前記固定バンドの前記引張材台座に固定し、
前記引張材の上部は前記支持柱に固定した前記固定バンドの前記引張材台座に固定することを特徴とする、
鋼材の接合構造。
【請求項4】
請求項3に記載の鋼材の接合構造において、
前記引張材は、上端及び下端にねじ部を有し、前記引張材台座にねじ部を挿通し、上端及び下端に螺合する引張材ナットを締め付けて、前記固定バンドを介して前記支持杭及び前記支持柱に連結することを特徴とする、
鋼材の接合構造。
【請求項5】
請求項4に記載の鋼材の接合構造において、
前記支持杭の外周の前記固定バンドの上部及び前記支持柱の外周の前記固定バンドの下部には、ストッパーを突設することを特徴とする、
鋼材の接合構造。
【請求項6】
請求項5に記載の鋼材の接合構造において、
前記引張材は前記ダイアフラムを貫通することを特徴とする、
鋼材の接合構造。
【請求項7】
請求項6に記載の鋼材の接合構造において、
前記引張材は、2本の引張ロッドを高ナットにより連結する構造であり、
前記高ナットは、前記ダイアフラムの下部に位置することを特徴とする、
鋼材の接合構造。
【請求項8】
請求項7に記載の鋼材の接合構造において、
前記帯部の内周面又は前記支持杭及び前記支持柱の外周面にすべり止め加工を行い、若しくは、前記帯部の内周面と前記支持杭又は前記支持柱の外周面との間にすべり止め部材を設けることを特徴とする、
鋼材の接合構造。
【請求項9】
請求項3乃至請求項8のいずれか一項に記載の鋼材の接合構造において、
前記帯部は平面視略半円状であり、
前記固定バンドは、前記帯部の両端に固定する固定プレートと、前記帯部を前記支持杭又は前記支持柱の軸に点対称に配置した際に対向する前記固定プレートを貫通するボルトと、前記ボルトに螺合するナットと、を有することを特徴とする、
鋼材の接合構造。
【請求項10】
請求項9に記載の鋼材の接合構造において、
前記固定バンドと前記支持杭又は前記支持柱との間に、切り欠きを有する帯状のフィラー材を配置し、
前記フィラー材の前記切り欠きに、前記支持杭又は前記支持柱の外周面の溶接部が収まることを特徴とする、
鋼材の接合構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は仮設構台や仮設橋等の支持杭と支持柱の接合に適用可能な鋼材の接合構造に関する。
【背景技術】
【0002】
道路等の建設・補修工事をする際に、人員や車両の通路、待機場所として道路脇に仮設橋を建設する場合がある。仮設橋は工事期間中供用され、その後解体される。
仮設橋の下部工は、H型鋼や鋼管等の鋼材を支持柱として用いており、地中に打ち込んだ支持杭の上部にこれらの支持柱を接合する。
支持杭と支持柱の接合手段としては全周溶接が知られているが、特に山岳の傾斜部などにおいては、溶接用に足場を別途組む必要があるなど作業が大掛かりとなるため、溶接によらない種々の機械式接合構造が提案されている。
【0003】
特許文献1、2には、上下の鋼管の端部を加工して一対の外嵌端部および内嵌端部を形成し、外嵌端部と内嵌端部とを互いに嵌合させた状態で、軸芯周りに回転させて接合する機械式継手が開示されている。
また、特許文献3には、上下の鋼管の外径より大径の内径を有する筒状の継手ソケットを使用し、上下の鋼管の突合せ部に跨って外装した継手ソケットに螺合した調整ボルトにより、鋼管と継手ソケットの間隙を調整する接合構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-29250号公報
【特許文献2】特開2020-20216号公報
【特許文献3】特開2018-204379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の接合構造は次の問題点を有する。
<1>仮設橋の下部工は、支持杭となる鋼管を打ち込んだ後、打ち込んだ鋼管端面(杭頭)の高さや傾きの調整のため、杭頭部を切断する必要がある。このため、あらかじめ鋼管端面を加工する特許文献1、2のような機械式継手は利用できない。
<2>仮設橋には上部に車両等が積載され、その移動に伴い曲げが作用するため、下部工に積載物の自重による圧縮軸力と、移動による曲げが同時に作用する。また、仮設橋高さが高くなるにつれ、曲げによる転倒モーメントが大きくなるため、局所的には引張軸力と曲げが同時に作用する場合がある。特許文献3の接合構造は上下の鋼管の端部はダイアフラム(棚板)に接するのみであり、引張軸力に抵抗する機構がないため、使用できる仮設橋が限られる。
【0006】
本発明は以上の点に鑑みて成されたもので、その目的とするところは少なくとも次のひとつの鋼管の接合構造を提供することにある。
<1>溶接によらずに上下の鋼材を縦方向に接合できること
<2>現場における杭頭の切断に対応できること
<3>圧縮軸力・曲げ、引張軸力・曲げの両方の性能を担保できること
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願の第一発明は、地中に打ち込んだ鋼材からなる支持杭と、前記支持杭の上位に配置する鋼材からなる支持柱の突合せ部に跨って外装可能な筒状の継手ソケットと、前記支持杭と前記支持柱を連結する引張材と、を使用して前記支持杭の上部と前記支持柱の下部とを一体に接合する鋼材の接合構造であって、前記継手ソケットは、前記支持杭の上部に外装可能な下筒と、前記支持柱の下部に外装可能な上筒と、同軸線上に位置させた前記下筒と上筒の境界部に介装して一体化したダイアフラムとを有する、鋼材の接合構造を提供する。
本願の第二発明は、第一発明の鋼材の接合構造において、前記引張材は2本以上設けることを特徴とする。
本願の第三発明は、第二発明の鋼材の接合構造において、平面視弧状の帯部と、前記帯部から外周方向に突設する引張材台座と、を有する固定バンドを、前記支持杭及び前記支持柱それぞれに固定し、前記引張材の下部は前記支持杭に固定した前記固定バンドの前記引張材台座に固定し、前記引張材の上部は前記支持柱に固定した前記固定バンドの前記引張材台座に固定することを特徴とする。
本願の第四発明は、第三発明の鋼材の接合構造において、前記引張材は、上端及び下端にねじ部を有し、前記引張材台座にねじ部を挿通し、上端及び下端に螺合する引張材ナットを締め付けて、前記固定バンドを介して前記支持杭及び前記支持柱に連結することを特徴とする。
本願の第五発明は、第四発明の鋼材の接合構造において、前記支持杭の外周の前記固定バンドの上部及び前記支持柱の外周の前記固定バンドの下部には、ストッパーを突設することを特徴とする。
本願の第六発明は、第五発明の鋼材の接合構造において、前記引張材は前記ダイアフラムを貫通することを特徴とする。
本願の第七発明は、第六発明の鋼材の接合構造において、前記引張材は、2本の引張ロッドを高ナットにより連結する構造であり、前記高ナットは、前記ダイアフラムの下部に位置することを特徴とする。
本願の第八発明は、第七発明の鋼材の接合構造において、前記帯部の内周面又は前記支持杭及び前記支持柱の外周面にすべり止め加工を行い、若しくは、前記帯部の内周面と前記支持杭又は前記支持柱の外周面との間にすべり止め部材を設けることを特徴とする。
本願の第九発明は、第三発明乃至第八発明のいずれかの鋼材の接合構造において、前記帯部は平面視略半円状であり、前記固定バンドは、前記帯部の両端に固定する固定プレートと、前記帯部を前記支持杭又は前記支持柱の軸に点対称に配置した際に対向する前記固定プレートを貫通するボルトと、前記ボルトに螺合するナットと、を有することを特徴とする。
本願の第十発明は、第九発明の鋼材の接合構造において、前記固定バンドと前記支持杭又は前記支持柱との間に、切り欠きを有する帯状のフィラー材を配置し、前記フィラー材の前記切り欠きに、前記支持杭又は前記支持柱の外周面の溶接部が収まることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明は少なくとも次のひとつの効果を奏する。
<1>支持杭、支持柱と継手ソケット、支持杭、支持柱と各固定バンド、各固定バンドと引張材、いずれの連結も溶接が不要である。このため、溶接用に足場を別途組むなどの作業が大掛かりとならず、短工期で施工することができる。
<2>下固定バンドは支持杭に現場にて固定するため、現場において杭頭部を切断した支持杭に対応できる。
<3>支持杭と支持柱を継手ソケットで突き合わせるため、圧縮軸力は継手ソケットを介して伝達される。また、支持杭と支持柱を引張材で連結するため、引張材が引張と曲げの強度部材として機能する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に図面を参照しながら本発明の実施例について詳細に説明する。
【実施例0011】
<1>支持杭と支持柱の鋼材の組み合せ
本実施例1では支持杭10と支持柱20が同種同径の鋼管である形態について説明する。
【0012】
<2>鋼材の接合構造
本発明は筒状の継手ソケット30、支持杭10と外周に固定する下固定バンド40、支持柱20の外周に固定する上固定バンド50、及び下固定バンド40と上固定バンド50を連結する引張材60を使用して、縦方向に突き合せた下位の支持杭10と上位の支持柱20の間を一体に接合する(
図1、2)。
【0013】
<3>継手ソケット
継手ソケット30は支持杭10の上部に外装可能な下筒31と、支持柱20の下部に外装可能な上筒32と、同軸線上に位置させた下筒31と上筒32の境界部に介装して一体化したダイアフラム33とからなる。
本実施例では下筒31と上筒32はそれぞれ異径の鋼管で形成する。
ダイアフラム33は径差のある下筒31と上筒32を荷重伝達可能に一体化すると共に、支持杭10と支持柱20の突合せ端の間に介装する板材であり、例えば鋼板で形成する。
ダイアフラム33の形状は図示した角形に限定されず円盤状でもよい。
継手ソケット30は支持杭10、支持柱20を挿入して介装するのみであり、溶接が不要である。
【0014】
<4>鋼材と各筒の寸法関係
継手ソケット30の下筒31と上筒32は支持杭10と支持柱20にそれぞれ外装するため、下筒31の内径と上筒32の内径は、支持杭10及び支持柱20の径より大きいものとする。
本発明では支持杭10の施工誤差を継手ソケット30に吸収させるために、下筒31の内径と上筒32の内径を同一径とせずに異径の組み合せとし、下固定調整ボルト34と上固定調整ボルト35を設ける。
【0015】
<5>固定調整ボルト
下固定調整ボルト34と上固定調整ボルト35は締め付けて先端を支持杭10、支持柱20に当接する(
図3)。これにより、継手ソケット30と協働して支持杭10と支持柱20の水平位置と角度を調整する機能と、調整を終えた支持杭10と支持柱20の位置を保持する機能(位置決め機能)、圧縮軸力及び曲げ応力を伝達する機能を有する。なお、これらの機能が必要でなければ、各固定調整ボルト34、35は用いなくてもよい。
各固定調整ボルト34、35は支持杭10や支持柱20を貫通しないので、支持杭10や支持柱20にボルト孔を開設する等の特別な加工は一切不要である。
各固定調整ボルト34、35は、各筒31、32に直接形成したネジ孔に螺合してもよいし、各筒31、32の外周面に溶接等で固着したナット(図示せず)に螺合してもよい。
【0016】
<6>固定バンド
支持杭10の外周に固定する下固定バンド40と支持柱20の外周に固定する上固定バンド50は同形状であり、平面視略半円状の下帯部41又は上帯部51を2枚組み合わせてそれぞれ支持杭10、支持柱20の外周に巻き付けて固定する(
図4)。
下帯部41、上帯部51は溶接によりそれぞれ支持杭10、支持柱20に固定してもよいが、本実施例は、各帯部41、51の両端部にそれぞれ下固定プレート42、上固定プレート52を設け、各固定プレート42、52にそれぞれ下ボルト孔421、上ボルト孔521を形成し、それぞれ2枚の各帯部41、51とその端部の各固定プレート42、52を組み合わせて各ボルト孔421、521に挿通するボルト422、522にナット423、523を螺合して締め付けることにより、支持杭10、支持柱20の全周に巻き付けて固定する。ボルト422、522及びナット423、523により固定するため溶接が不要であり、現場にて人力で固定することができる。
このとき、各帯部41、51の内周面や各帯部41、51と接する支持杭10、支持柱20の外周面は、力が作用したときに支持杭10、支持柱20の外周面に沿って各固定バンド40、50が動かないように摩擦力を高めるためのすべり止め加工をしてもよい。すべり止め加工としては、表面粗度を粗くする、アルミ等の金属の溶射、無機ジンクリッチペイント等の塗装、発錆剤を用いた発錆等がある。また、支持杭10、支持柱20との間にすべり止め部材(図示せず)を設けてもよい。すべり止め部材としては少なくとも片面にすべり止め加工を施した鋼製のプレート等がある。
なお、本実施例においては、平面視略半円状の各帯部41、51を二つ組み合わせて略円状として支持杭10、支持柱20の外周に巻き付けて固定したが、複数の平面視弧状に分割した各帯部41、51を組み合わせて略円状として支持杭10、支持柱20の外周に巻き付けて固定してもよい。また、各帯部41、51は分割してボルト422、522とナット423、523により固定する形態に限らず、一部の端部どうしを蝶番等により開閉自在に連結してもよい。
【0017】
<6.1>フィラー材
例えば支持杭10や支持柱20として溶接鋼管を用いた場合、ストレートシーム、あるいはスパイラルシームの上から各固定バンド40、50を取り付けるため、各固定バンド40、50の内周面と支持杭10、支持柱20の外周面が密着せずに浮き上がり、接触面積が減ることで摩擦力が十分に発揮されない可能性がある。
このため、帯状のフィラー材80を支持杭10、支持柱20と各固定バンド40、50の各帯部41、51との間に配置してもよい(
図5)。
フィラー材80は支持杭10、支持柱20の外周面の溶接部11に合わせた切り欠き81を有し、切り欠き81と溶接部11を合わせて支持杭10(支持柱20)の外周面にフィラー材80を巻き付け、その上から下固定バンド40(上固定バンド50)を巻き付ける。フィラー材80の厚さを溶接部11より厚くし、溶接部11を覆うようにすることで、支持杭10、支持柱20とフィラー材80、フィラー材80と各固定バンド40、50の接触面積を大きく確保することが可能となる。
【0018】
<7>引張材台座
各帯部41、51は支持杭10、支持柱20の外周面から径方向に突出するように、引張材60を連結するための下引張材台座43、上引張材台座53を設ける。
本実施例において、各引張材台座43、53は径方向に長い長孔状の下引張材挿通孔431、上引張材挿通孔531を有する。
各引張材台座43、53は支持杭10、支持柱20から突出しているため、継手ソケット30が支持杭10、支持柱20より大径であっても、引張材60の上下をそれぞれ連結することができる。
【0019】
<8>引張材
引張材60は棒鋼からなり、両端を下引張材台座43、上引張材台座53に連結することで、各固定バンド40、50を介して支持杭10と支持柱20を連結している。
引張材60は、溶接により下引張材台座43、上引張材台座53に連結してもよいが、本実施例は軸部61の両端に設けたねじ部62を下引張材台座43の下引張材挿通孔431と上引張材台座53の上引張材挿通孔531に挿通し、ねじ部62に引張材ナット63を螺合して締め付けて下固定バンド40と上固定バンド50を引き寄せることで、各固定バンド40、50を介して支持杭10と支持柱20を連結する。引張材ナット63の締め付けにより連結するため、溶接が不要であり、現場にて連結することができる。
支持柱20に引張軸力が作用した際、上固定バンド50から引張材60、下固定バンド40を介して支持杭10に伝達される。
本実施例においては、引張材60は両端を雄ねじ状とした2本の引張ロッド611を高ナット64により連結して構成する(
図6)。
【0020】
<8.1>引張材とダイアフラムの位置関係
引張材60は継手ソケット30のダイアフラム33を挿通している。
ダイアフラム33に挿通した引張材60の位置に合わせて、支持杭10や支持柱20、継手ソケット30、各固定バンド40、50の位置を合わせることができる。
また、ダイアフラム33に挿通するのみであるため、継手ソケット30には引張軸力が作用せず、継手ソケット30の設計事項としては圧縮軸力及び曲げ応力のみであり、引張軸力を考慮する必要がなく、簡易な構成とすることができる。
【0021】
<9>引張材の本数
図7に示すとおり、引張軸力が発生した状態で曲げが作用した際、曲げ引張側にはもともとの引張軸力に加えて曲げによる軸力が追加で発生するため、少なくとも1本以上の引張材60が必要となる。
また、曲げ圧縮側では引張材60に作用していた引張軸力が抜けていくことになるが、引張軸力が0になるまで抜け切るかは曲げの大きさによるため、曲げ圧縮側にも少なくとも1本以上の引張材60を配置することが好ましい。
本実施例においては、一つの下固定バンド40、上固定バンド50に4個ずつ下引張材台座43、上引張材台座53を設けて、90度間隔で4本の引張材60を配置する。これにより、曲げ引張側、圧縮側にそれぞれ2本以上の引張材が配置されることとなり、各引張材60により軸力や曲げを負担することができる。
【0022】
<10>ストッパー
支持杭10の外周の下固定バンド40の上部及び支持柱20の外周の上固定バンド50の下部には、ストッパー70を設けてもよい。
ストッパー70により、想定以上の引張軸力が作用した際に各固定バンド40、50がずれて、支持杭10、支持柱20から脱落してしまうのを防止できる。
ストッパー70は、下固定バンド40、上固定バンド50に接触してもよいし、離れていてもよい。
【0023】
<11>接合方法
図8、9を参照して継手ソケット30、各固定バンド40、50及び引張材60を使用した支持杭10と支持柱20との接合方法について説明する。なお、以下に説明する接合方法は一例であり、上述の接合構造を構築するための接合方法はこれに限定されない。
【0024】
<11.1>支持柱の吊り込み
支持杭10となる鋼管は下部を地中に打ち込んだ後、必要に応じて杭頭の高さや傾きの調整のため杭頭部を水平に切断する。
そして、支持柱20の下端にダイアフラム33が当接するまで上筒32を差し込み、複数の上固定調整ボルト36を締め付けて、支持柱20の下端に継手ソケット30を外装して剛結する。
また、外装した継手ソケット30の上部の支持柱20の外周に上固定バンド50を固定し、ダイアフラム33に挿通した引張材60の上端のねじ部62を、上固定バンド50の上引張材台座53の上引張材挿通孔531に挿通し、引張材ナット63を螺合して引張材60を上固定バンド50に連結する。上引張材台座53の上引張材挿通孔531は長孔状であるため、支持柱20の軸心に対する引張材60の径方向の距離は、ダイアフラム33に挿通した位置に合わせることができる。
本実施例の引張材60は2本の引張ロッド611を高ナット64により連結するが、高ナット64をダイアフラム33の下部に配置することにより、支持柱20の吊り込み時に高ナット64を介して引張材60により継手ソケット30を支持することができる。
そして、クレーン等に吊り下げられた支持柱20を既設の支持杭10の真上に移動し、支持柱20を降下して支持杭10の上部に継手ソケット30の下筒31を外装する。
継手ソケット30のダイアフラム33が支持杭10の上端に当接することで、支持柱20の降下が規制されて、支持杭10の上部に支持柱20が延設される。
その後、下固定調整ボルト34を締付けて支持杭10と下筒31を剛結する。
支持杭10、支持柱20にストッパー70を取り付ける場合には、現場で溶接して取り付けてもよいし、支持杭10の切断長さを考慮してあらかじめ取り付けた状態で現場に搬入してもよい。
【0025】
<11.2>引張材による支持杭と支持柱の連結
外装した下筒31の下部の支持杭10の外周に下固定バンド40を、引張材60の下端のねじ部62を下引張材挿通孔431に挿通しながら固定する。引張材60は
下固定バンド40は支持杭10に現場にて固定するため、杭頭部を切断した支持杭10に対応できる。
そして、引張材60の上下のねじ部62に引張材ナット63を締め付けて、引張材ナット63を螺合して締め付けて下固定バンド40と上固定バンド50を引き寄せることで、各固定バンド40、50を介して支持杭10と支持柱20を連結する。
支持杭10は杭頭部を水平に切断する際の切断長さが杭によって異なるため、下固定バンド40と上固定バンド50間の距離は支持杭10ごとに異なるが、本発明の引張材60は上下のねじ部62への引張材ナット63の締め込み量により下固定バンド40と上固定バンド50間の距離の変更に対応することができる。
【0026】
[接合構造の特性]
<1>圧縮軸力
支持杭10と支持柱20の接合部には支持柱20の自重と上載荷重による圧縮軸力が常に作用している。
相対向する支持杭10の上端と支持柱20の下端の対向面の間には継手ソケット30のダイアフラム33の上下面が接面した状態で介装してあるため、圧縮軸力はダイアフラム33を通じて支持杭10と支持柱20の相互間で伝達し合う。
圧縮軸力は下筒31や上筒32に直接作用することはなく、同様に下筒31と上筒32に螺着した下固定調整ボルト34と上固定調整ボルト35に作用することもない。
【0027】
<2>引張軸力、曲げ力
継手ソケット30と突き合せた支持杭10と支持柱20を引張材60で連結するため、継手ソケット30に対して支持杭10と支持柱20の抜け出しを防止できるだけでなく、引張材60が接合部の引張と曲げの強度部材として機能する。
また、下固定調整ボルト34や上固定調整ボルト35を用いる場合には、各固定調整ボルト34、35と継手ソケット30を通じて支持杭10と支持柱20との間で曲げ力が伝達可能であり、継手ソケット30の強度が曲げ力に抵抗する。
【0028】
<3>溶接なし構成
支持杭10と支持柱20は継手ソケット30のダイアフラム33に突き合わせるのみで溶接しない。また、各固定バンド40、50はボルト422、522及びナット423、523により固定し、引張材60は引張材ナット63の締め付けにより固定するため、いずれも溶接が不要である。
このため、溶接用に足場を別途組むなどの作業が大掛かりとならず、短工期で施工することができる。
【0029】
<4>解体分離
仮設桟橋や仮設橋等を解体する場合には、継手ソケット30の各固定調整ボルト34、35や引張材60の上下の引張材ナット63、各固定バンド40、50の各ナット423、523を緩めるだけの簡単な操作で支持杭10と支持柱20の接合を解除することができる。分離撤去した継手ソケット30や各固定バンド40、50、引張材60は再使用が可能である。