(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160412
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】半導体装置及び半導体モジュール
(51)【国際特許分類】
H01L 25/07 20060101AFI20231026BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20231026BHJP
【FI】
H01L25/04 C
H02M7/48 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070784
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002918
【氏名又は名称】弁理士法人扶桑国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 征輝
【テーマコード(参考)】
5H770
【Fターム(参考)】
5H770AA21
5H770QA05
5H770QA06
5H770QA08
5H770QA27
(57)【要約】
【課題】並列に接続された半導体モジュール間のスイッチングスピードに差があっても、半導体モジュール間の電流分担を均等化する。
【解決手段】半導体装置10は、直流電源の正端子と負端子との間に並列に接続される半導体モジュール11,12を備えている。半導体モジュール11は、直流電源の正端子に電気的に接続されるP端子11aと、直流電源の負端子に電気的に接続されるN端子11bと、筐体11cと、筐体11c内に設けられ、P端子11aに電気的に接続される配線バー11dを含む。半導体モジュール12は、直流電源の正端子に電気的に接続されるP端子12aと、直流電源の負端子に電気的に接続されるN端子12bと、筐体12cと、筐体12c内に設けられ、N端子12bに電気的に接続されるとともに、配線バー11dと磁気的に結合された配線バー12eを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直流電源の正端子と負端子との間に並列に接続される複数の半導体モジュールを備えた半導体装置であって、
前記正端子に電気的に接続される第1の入力端子と、前記負端子に電気的に接続される第2の入力端子と、第1の筐体と、前記第1の筐体内に設けられ、前記第1の入力端子に電気的に接続される第1の配線バーと、を含む第1の半導体モジュールと、
前記正端子に電気的に接続される第3の入力端子と、前記負端子に電気的に接続される第4の入力端子と、第2の筐体と、前記第2の筐体内に設けられ、前記第4の入力端子に電気的に接続されるとともに、前記第1の配線バーと磁気的に結合された第2の配線バーと、を含む第2の半導体モジュールと、
を有する半導体装置。
【請求項2】
前記第1の配線バーと前記第2の配線バーは、前記第1の筐体の第1の側壁と前記第2の筐体の第2の側壁を介して、第1の方向に近接して配置されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記第1の配線バーは、前記第1の側壁に沿って配置され、前記第2の配線バーは、前記第2の側壁に沿って配置されている、請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記第1の側壁または前記第2の側壁の高さ方向である第2の方向の、前記第1の配線バー及び前記第2の配線バーの長さは、前記第1の方向の、前記第1の配線バー及び前記第2の配線バーの長さよりも長い、請求項3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記第1の筐体と前記第2の筐体は樹脂を用いて成形されている、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記第1の配線バーと前記第2の配線バーとが貫通する磁性体コアをさらに有する、請求項1乃至5の何れか一項に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記磁性体コアは、UIコアであり、前記第1の筐体及び前記第2の筐体には、前記UIコアを挿入する凹部が設けられている、請求項6に記載の半導体装置。
【請求項8】
並列に接続される複数の半導体モジュールの1つである半導体モジュールであって、
樹脂で成形され、周囲に第1の側壁と前記第1の側壁に対向する第2の側壁と前記第1の側壁の端部と前記第2の側壁の端部とを接続するように間に設けられた第3の側壁とを有する筐体と、
前記第1の側壁の前記樹脂に内蔵または内接され、前記第1の側壁の延伸方向に延びる第1の配線バーと、
前記第2の側壁の前記樹脂に内蔵または内接され、前記第1の側壁の延伸方向に延びる第2の配線バーと、
を有し、
前記第1の配線バー及び前記第2の配線バーは、前記第3の側壁の前記樹脂から前記筐体の外部へ電気的に接続されている、
半導体モジュール。
【請求項9】
前記筐体の前記第3の側壁の近傍に前記第1の配線バーと前記第2の配線バーとの間の前記樹脂を通り前記第1の側壁または前記第2の側壁まで延伸する凹部を有する、請求項8に記載の半導体モジュール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、並列に接続される複数の半導体モジュールを有する半導体装置及び半導体モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、通電電流能力を向上させるため、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)やパワーMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)などのスイッチング素子を含む半導体モジュールを複数、並列接続することがある。
【0003】
並列接続された複数の半導体モジュール間では、スイッチング時の電流のアンバランスが発生する可能性がある。電流のアンバランスを抑制するため、直流電源から各半導体モジュールまでの配線のインダクタンスをできる限り均等にするなどの技術が用いられている。
【0004】
なお、並列に接続したスイッチング素子のエミッタに接続される配線に流れる循環電流を検出し、その結果に基づいてゲート駆動回路により各スイッチング素子のオンオフを制御する技術がある(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
また、並列に接続された複数のチョッパ回路のうち、隣接するチョッパ回路間で、正または負側の入力端子に接続されるリアクトル同士を磁気結合させる技術がある(たとえば、特許文献2参照)。また、並列に接続された複数の半導体スイッチング素子のゲートに接続される導電経路同士を磁気結合させる技術がある(たとえば、特許文献3参照)。また、並列に接続された一対のスイッチング素子の駆動経路と主電流経路とを磁気結合させる技術がある(たとえば、特許文献4参照)。また、複数のIGBTが直列に接続された直列回路が複数並列に接続されている構成において、直列に接続された複数のIGBTのエミッタ線を磁性体による磁気回路で磁気結合させる技術がある(たとえば、特許文献5参照)。
【0006】
また、同一半導体モジュール内の正負の直流入力端子を囲うように環状磁性部材を配置して、環状磁性部材をコモンモードノイズ除去用のインダクタンスとして動作させる技術がある(たとえば、特許文献6参照)。また、半導体モジュールパッケージの周囲に、IGBTなどの電力用半導体素子チップを包囲するように環状の磁性部材を嵌合し、ノイズ電流の抑制を図る技術がある(たとえば、特許文献7参照)。
【0007】
また、1つの半導体モジュール内に複数のハーフブリッジ回路を並列に接続する技術も知られている(たとえば、特許文献8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-149828号公報
【特許文献2】特開2017-085787号公報
【特許文献3】特開2016-046842号公報
【特許文献4】特開2020-005436号公報
【特許文献5】特開2006-149169号公報
【特許文献6】特開2005-183776号公報
【特許文献7】特開2006-351986号公報
【特許文献8】国際公開第2013/128787号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
電流のアンバランスを抑制するために、直流電源から並列に接続された複数の半導体モジュールまでの配線のインダクタンスをできる限り均等にしても、各半導体モジュール間でスイッチングスピードに差があると電流分担が崩れ、アンバランス電流が増加する。
【0010】
なお、たとえば、特許文献1のようなゲート駆動回路を用いて、スイッチングスピードを制御する場合、電流検出回路、ゲート駆動回路の動作遅れにより、半導体モジュール間のスイッチングスピードを一致させることは困難である。近年開発されている高速スイッチング動作するスイッチング素子、特にSiC-MOSFETなど数nsで動作する高速半導体スイッチング素子には適用が困難である。
【0011】
本発明は、このような点に鑑みてなされたものであり、並列に接続された半導体モジュール間のスイッチングスピードに差があっても、半導体モジュール間の電流分担を均等化可能な半導体装置及び半導体モジュールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一観点によれば、直流電源の正端子と負端子との間に並列に接続される複数の半導体モジュールを備えた半導体装置であって、前記正端子に電気的に接続される第1の入力端子と、前記負端子に電気的に接続される第2の入力端子と、第1の筐体と、前記第1の筐体内に設けられ、前記第1の入力端子に電気的に接続される第1の配線バーと、を含む第1の半導体モジュールと、前記正端子に電気的に接続される第3の入力端子と、前記負端子に電気的に接続される第4の入力端子と、第2の筐体と、前記第2の筐体内に設けられ、前記第4の入力端子に電気的に接続されるとともに、前記第1の配線バーと磁気的に結合された第2の配線バーと、を含む第2の半導体モジュールと、を有する半導体装置が提供される。
【0013】
また、本発明の一観点によれば、並列に接続される複数の半導体モジュールの1つである半導体モジュールであって、樹脂で成形され、周囲に第1の側壁と前記第1の側壁に対向する第2の側壁と前記第1の側壁の端部と前記第2の側壁の端部とを接続するように間に設けられた第3の側壁とを有する筐体と、前記第1の側壁の前記樹脂に内蔵または内接され、前記第1の側壁の延伸方向に延びる第1の配線バーと、前記第2の側壁の前記樹脂に内蔵または内接され、前記第1の側壁の延伸方向に延びる第2の配線バーと、を有し、前記第1の配線バー及び前記第2の配線バーは、前記第3の側壁の前記樹脂から前記筐体の外部へ電気的に接続されている、半導体モジュールが提供される。
【発明の効果】
【0014】
開示の技術によれば、並列に接続された半導体モジュール間のスイッチングスピードに差があっても、半導体モジュール間の電流分担を均等化できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】第1の実施の形態の半導体装置の一部の概略を示す上面図である。
【
図2】第1の実施の形態の半導体装置の等価回路の一例を示す図である。
【
図3】第1の実施の形態の半導体装置の動作例を示す図である。
【
図5】比較例の半導体装置における半導体モジュールの斜視図である。
【
図6】比較例の半導体装置における半導体モジュールの筐体内部の構成の例を示す上面図である。
【
図7】筐体内部を
図6の矢印A方向から見た図である。
【
図8】比較例の半導体装置における半導体モジュールの等価回路を示す図である。
【
図9】第1の実施の形態の半導体装置における半導体モジュールの筐体内部の構成の例を示す上面図である。
【
図10】筐体内部を
図9の矢印A方向から見た図である。
【
図11】第2の実施の形態の半導体装置の一部の概略を示す上面図である。
【
図13】筐体に設けられた凹部の例を示す図である(その1)。
【
図14】筐体に設けられた凹部の例を示す図である(その2)。
【
図15】配線バーを側壁の樹脂に内蔵させた例を示す半導体モジュールの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において、「上」、「下」は、相対的な位置関係を特定する便宜的な表現に過ぎず、本発明の技術的思想を限定するものではない。たとえば、「上」及び「下」は、必ずしも地面に対する鉛直方向を意味しない。つまり、「上」及び「下」の方向は、重力方向に限定されない。
【0017】
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態の半導体装置の一部の概略を示す上面図である。また、
図2は、第1の実施の形態の半導体装置の等価回路の一例を示す図である。
半導体装置10は、
図2に示すような直流電源20の正端子と負端子(“-”と表記されている)との間に並列に接続される第1の半導体モジュール(以下、半導体モジュール11という)と、第2の半導体モジュール(以下、半導体モジュール12という)を備えている。
図2では直流電源20の正端子は“+”と表記されており、直流電源20の負端子は“-”と表記されている。なお、
図2の直流電源20に並列に接続されているキャパシタ21を直流電源ということもできる。
【0018】
図1、
図2の例では、2つの半導体モジュール11,12が並列に接続されている例が示されているが、3つ以上の半導体モジュールが並列に接続されていてもよい。
【0019】
半導体モジュール11は、直流電源20の正端子に電気的に接続される第1の入力端子(以下、P端子11aという)と、直流電源20の負端子に電気的に接続される第2の入力端子(以下、N端子11bという)を有する。さらに半導体モジュール11は、
図1に示すように、第1の筐体(以下、筐体11cという)と、筐体11c内に設けられ、P端子11aに電気的に接続される第1の配線バー(以下、配線バー11dという)を有する。また、半導体モジュール11は、
図1に示すように、N端子11bに電気的に接続される配線バー11eを有していてもよい。また、半導体モジュール11は、出力端子(以下、U端子11fという)を有する。
【0020】
半導体モジュール12についても半導体モジュール11と同様の要素を含む。すなわち、半導体モジュール12は、直流電源20の正端子に電気的に接続される第3の入力端子(以下、P端子12aという)と、直流電源20の負端子に電気的に接続される第4の入力端子(以下、N端子12bという)を有する。さらに半導体モジュール12は、
図1に示すように、第2の筐体(以下、筐体12cという)と、筐体12c内に設けられ、N端子12bに電気的に接続される第2の配線バー(以下、配線バー12eという)を有する。配線バー12eは、半導体モジュール11の配線バー11dと磁気的に結合されている。つまり、
図1に示すような磁気結合13が発生している。
【0021】
図1の例では、配線バー11d,12eは、筐体11cの第1の側壁(
図1の例では側壁11c1)と筐体12cの第2の側壁(
図1の例では側壁12c1)を介して、第1の方向(
図1の例ではX方向)に近接して配置されている。これによって、配線バー11d,12eが磁気的に結合される。
【0022】
なお、配線バー11d,12e間のX方向の距離は、短いほど磁気結合が強くなる(相互インダクタンスが大きくなる)が、短すぎると熱干渉の影響が大きくなることを考慮して、たとえば、2~3cm程度とされる。なお、この数値範囲に特に限定されるわけではない。相互インダクタンスをより大きくするために、磁性体コアを用いることもできる(後述の第2の実施の形態参照)。
【0023】
半導体モジュール12は、
図1に示すように、P端子12aに電気的に接続される配線バー12dを有していてもよい。また、半導体モジュール12は、出力端子(以下、U端子12fという)を有する。
【0024】
図1では、配線バー11d,11e,12d,12eは、筐体11c,12c内に内蔵されているため、点線で示されている。また、
図1には、P端子11aの端子電流ia、N端子11bの端子電流ib、P端子12aの端子電流ic、N端子12bの端子電流idが示されている。
【0025】
なお、
図1では、筐体11c,12c内の配線バー11d,11e,12d,12e以外の構成要素については図示が省略されている。筐体11c,12cは、樹脂により成形されている。筐体11c,12c内の構成については後述するが、半導体装置10の等価回路は、たとえば、以下のように表せる。
【0026】
図2には、半導体モジュール11,12を含む半導体装置10の等価回路の一例が示されている。
図2に示すように半導体モジュール11は、スイッチング素子の一例であるIGBT11g,11iと、ダイオード11h,11jを有する。IGBT11gのコレクタとダイオード11hのカソードは、P端子11aに接続され、IGBT11gのエミッタとダイオード11hのアノードは、U端子11f及びIGBT11iのコレクタとダイオード11jのカソードに接続されている。IGBT11iのエミッタとダイオード11jのアノードは、N端子11bに接続されている。
【0027】
半導体モジュール12も半導体モジュール11と同様に、スイッチング素子の一例であるIGBT12g,12iと、ダイオード12h,12jを有する。IGBT12gのコレクタとダイオード12hのカソードは、P端子12aに接続され、IGBT12gのエミッタとダイオード12hのアノードは、U端子12f及びIGBT12iのコレクタとダイオード12jのカソードに接続されている。IGBT12iのエミッタとダイオード12jのアノードは、N端子12bに接続されている。
【0028】
IGBT11g,12gのゲートとエミッタ間には、IGBT11g,12gを駆動するためのGDU(Gate Driver Unit)23が接続される。IGBT11i,12iのゲートとエミッタ間には、IGBT11i,12iを駆動するためのGDU24が接続される。
【0029】
さらに
図2には、直流電源20の正端子とP端子11a,12aとを接続する配線(銅バーなど)の配線インダクタンス15a,15b,15c、配線抵抗16a,16bが示されている。また、
図2には、直流電源20の負端子とN端子11b,12bとを接続する配線(銅バーなど)の配線インダクタンス15d,15e、配線抵抗16c,16dが示されている。また、
図2にはU端子11f,12fと負荷22とを接続する配線の配線インダクタンス15f,15g、配線抵抗16e,16fが示されている。
なお、
図2においても、
図1に示した磁気結合13が図示されている。
【0030】
図1、
図2に示したような磁気結合13が生じることで、P端子11aの端子電流ia、N端子12bの端子電流idに差が生じると、V=M×d(ia-id)/dtの誘起電圧が発生し、端子電流ia,idが均等化される。Mは相互インダクタンスである。
【0031】
より具体的に説明する。
半導体モジュール11側の端子電流iaが半導体モジュール12側の端子電流ibよりも大きいと、半導体モジュール11のP端子11aとN端子11bの間に、V=M×d(ia-id)/dtが印加され、端子電流ia,ibが減少する。
【0032】
一方、半導体モジュール11側の端子電流iaが半導体モジュール12側の端子電流ibよりも小さいと、半導体モジュール11のP端子11aとN端子11bの間に、V=M×d(ia-id)/dtが印加され、端子電流ia,ibが増大する。この結果、半導体モジュール11,12間の電流分担が均等化される。
【0033】
図3は、第1の実施の形態の半導体装置の動作例を示す図である。
図3には、GDU23からIGBT11g,12gのゲートに供給されるゲート信号、IGBT11gのコレクタ-エミッタ間電圧Vcea、IGBT12gのコレクタ-エミッタ間電圧Vcecの時間変化が示されている。また、
図3には、IGBT11iのコレクタ-エミッタ間電圧Vceb、IGBT12iのコレクタ-エミッタ間電圧Vcedの時間変化が示されている。さらに、
図3には、P端子11aの端子電流ia、N端子11bの端子電流ib、P端子12aの端子電流ic、N端子12bの端子電流idの時間変化が示されている。
【0034】
なお、
図3には、GDU24からIGBT11i,12iのゲートに供給されるゲート信号については図示が省略されているが、そのゲート信号は、
図3に示されているゲート信号と逆位相の信号となっている。
【0035】
タイミングt1~t2が、IGBT11g,12gのターンオン期間であり、タイミングt3~t4が、IGBT11g,12gのターンオフ期間である。
図3に示されているようにターンオン期間、ターンオフ期間とも磁気結合13が生じることで、d(ia)/dt=-d(id)/dtとなる。つまり、iaと-idの変化率が一致する。この結果として、d(ia)/dt=d(ic)/dt、d(ib)/dt=d(id)/dtとなる。
【0036】
(比較例)
図4は、比較例の半導体装置を示す図である。
比較例の半導体装置30は、半導体モジュール31,32を有する。半導体モジュール31は、P端子31a、N端子31b、U端子31c1,31c2を有している。半導体モジュール32は、P端子32a、N端子32b、U端子32c1,32c2を有している。
【0037】
P端子31a,32aは、ラミネートバー(絶縁フィルムと金属導体とを積層したもの)33を介して、直流電源として機能するキャパシタ35,36の正端子35a,36aに電気的に接続されている。
【0038】
N端子31b,32bは、ラミネートバー34を介して、直流電源として機能するキャパシタ35,36の負端子35b,36bに電気的に接続されている。
U端子31c1,31c2,32c1,32c2は、出力バー37に接続されている。
【0039】
以下、半導体モジュール31の例を示す。なお、半導体モジュール32についても、半導体モジュール31と同一の構成である。
【0040】
図5は、比較例の半導体装置における半導体モジュールの斜視図である。また、
図6は、比較例の半導体装置における半導体モジュールの筐体内部の構成の例を示す上面図である。
図7は、筐体内部を
図6の矢印A方向から見た図である。また、
図8は、比較例の半導体装置における半導体モジュールの等価回路を示す図である。
【0041】
比較例の半導体装置30における半導体モジュール31は、P端子31a、N端子31b、U端子31c1,31c2の他に、ゲート端子31d1,31d2とエミッタ端子31e1,31e2を有する。さらに、筐体31f内には、
図6に示すように、P端子31aと配線パターン31gを介して電気的に接続される、IGBT31i1,31i2,31i3、ダイオード31j1,31j2,31j3が設けられている。また、筐体31f内には、N端子31aと配線パターン31hを介して電気的に接続される、IGBT31i4,31i5,31i6、ダイオード31j4,31j5,31j6が設けられている。
【0042】
また、
図7に示すように、半導体モジュール31は、下から金属板31k1、セラミックス製の絶縁板31l1、回路基板31m1の順に積層された積層体、また、下から金属板31k2、絶縁板31l2、回路基板31m2の順に積層された積層体を有する。
【0043】
金属板31k1,31k2は、X-Y平面上において、回路基板31m1,31m2とほぼ同じ範囲に広がっている。金属板31k1,31k2は、回路基板31m1,31m2と絶縁板31l1,31l2との間の熱膨張係数差による、回路基板31m1,31m2の反りを防止するために設けられている。金属板31k1,31k2を設けることで、熱膨張による応力をキャンセルできるためである。
【0044】
回路基板を、回路基板31m1,31m2の2つに分けているのは、基板面積が大きいほど反りが発生しやすく、製造歩留まりが悪化し、価格の上昇に繋がるためである。回路基板31m1,31m2間はワイヤにより導電接続されている。
【0045】
IGBT(
図7の例では、IGBT31i2,31i4,31i6)やダイオード(
図7の例では、ダイオード31j1,31j3,31j5)は、回路基板31m1,31m2の何れかの上に形成されている。
【0046】
上記のような積層体は、金属製(たとえば、銅)のベース板31nの上に配置されている。熱拡散の範囲を広げるために、金属板31k1,31k2と比べて、ベース板31nの厚みは厚く形成されている。金属板31k1,31k2は、ベース板31nに対して、たとえば、はんだ接合されている。
【0047】
図8に示すように、P端子31aは、IGBT31i1~31i3のコレクタと、ダイオード31j1~31j3のカソードに接続されている。IGBT31i1~31i3のエミッタとダイオード31j1~31j3のアノードは、U端子31c1,31c2及びIGBT31i4~31i6のコレクタとダイオード31j4~31j6のカソードに接続されている。ゲート端子31d1は、IGBT31i1~31i3のゲートに接続され、エミッタ端子31e1は、IGBT31i1~31i3のエミッタに接続されている。
【0048】
IGBT31i4~31i6のエミッタとダイオード31j4~31j6のアノードは、N端子31bに接続されている。ゲート端子31d2は、IGBT31i4~31i6のゲートに接続され、エミッタ端子31e2は、IGBT31i4~31i6のエミッタに接続されている。
【0049】
以上のような比較例の半導体装置30では、全体の等価回路は、
図2に示したような第1の実施の形態の半導体装置10の等価回路と等しくなる。
図8に示されるような回路構成の半導体モジュール31が用いられる場合には、IGBT31i1~31i3が、
図2のIGBT11gに対応し、ダイオード31j1~31j3が、
図2のダイオード11hに対応する。IGBT31i4~31i6が、
図2のIGBT11iに対応し、ダイオード31j4~31j6が、
図2のダイオード11jに対応する。
【0050】
しかしながら、比較例の半導体装置30では、
図1や
図2に示したような磁気結合13が発生していない。
【0051】
比較例の半導体装置30において、半導体モジュール31,32間の電流のアンバランスを抑制するために、
図2に示すような配線抵抗16a,16bの値、配線インダクタンス15b,15cの値、配線抵抗16c,16dの値、配線インダクタンス15d,15eの値、配線抵抗16e,16fの値、配線インダクタンス15f,15gの値をそれぞれ、できるだけ等しくすることが考えられる。しかしながら、半導体モジュール31,32間でスイッチングスピードに差があると電流分担が崩れ、アンバランス電流が増加する。このため、均一なスイッチングスピードの半導体モジュール31,32を選別して並列接続すればよいが、選別費用や管理費用が発生する。また、複数の半導体モジュールの並列数が増えるほど、電流のアンバランスの程度が大きくなる可能性があるため、並列数をあまり増やせない。
【0052】
なお、前述のように、特許文献1のようなゲート駆動回路を用いて、スイッチングスピードを制御しても、電流検出回路、ゲート駆動回路の動作遅れにより、半導体モジュール31,32間のスイッチングスピードを一致させることは困難である。
【0053】
以上のような比較例の半導体装置30に対して、第1の実施の形態の半導体装置10は、
図1に示すような配線バー11d,11eにより磁気結合13を発生させることで、端子電流ia,idが均等化される。これにより、並列に接続された半導体モジュール31,32間のスイッチングスピードに差があっても、半導体モジュール31,32間の電流分担を均等化できる。
【0054】
また、
図1に示したような半導体モジュール11,12と同様の半導体モジュールをX方向にさらに配置し、隣接する半導体モジュール間で、配線バー11d,11eと同様の配線バーの対を設けて磁気結合を発生させれば、同様の効果が得られる。このため、半導体モジュールの並列数をより増加させることができ、大容量の装置を構成しやすくなる。
【0055】
なお、上記のような半導体装置10を3つ設けることで、3相インバータを実現できる。各相の半導体装置の間では磁気結合を防ぐために、各相の半導体装置の間に鉄板を入れる、あるいは、
図1に示すような配線バー11eまたは配線バー12dを設けないようにしてもよい。
【0056】
(第1の実施の形態の半導体装置の半導体モジュールの例)
以下、第1の実施の形態の半導体装置10における半導体モジュール11の一例を説明する。なお、半導体モジュール12についても半導体モジュール11と同様の構成により実現できる。
【0057】
図9は、第1の実施の形態の半導体装置における半導体モジュールの筐体内部の構成の例を示す上面図である。
図10は、筐体内部を
図9の矢印A方向から見た図である。なお、
図9、
図10において、
図6、
図7と同じ要素については同一符号が付されている。
【0058】
P端子11aに電気的に接続された配線バー11dは、筐体11cの側壁11c1に沿って配置されている。
【0059】
P端子11aに電気的に接続された配線バー11dは、筐体11cの側壁11c1に沿って配置されている。つまり、配線バー11dは、側壁11c1の延伸方向(
図9のY方向)に延びるように形成されている。
【0060】
N端子11bに電気的に接続された配線バー11eは、筐体11cの、側壁11c1に対向する側壁11c2に沿って配置されている。つまり、配線バー11eは、側壁11c2の延伸方向(
図9のY方向)に延びるように形成されている。
【0061】
なお、配線バー11d,11eは、側壁11c1の端部と、側壁11c2の端部とを接続するように側壁11c1と側壁11c2との間に設けられた側壁11c3の樹脂から筐体11cの外部へ電気的に接続されている。
【0062】
図9の例では、配線バー11dは側壁11c1の樹脂に内接し、配線バー11eは側壁11c2の樹脂に内接している。なお、ここでいう内接とは、筐体11cの内側から側壁11c1の樹脂または側壁11c2の樹脂に接していることを意味する。
【0063】
このように、配線バー11dを側壁11c1の樹脂に内接させ、配線バー11eを側壁11c2の樹脂に内接させることで、X方向に隣接して配置される半導体モジュールの配線バー(
図1の例では配線バー12e)との距離を短くすることができる。このため、相互インダクタンスがより大きくなり、電流分担を均等化する効果がより高まる。
【0064】
なお、配線バー11dを側壁11c1の樹脂に内蔵させ、配線バー11eを側壁11c2の樹脂に内蔵させてもよい(後述の変形例の
図15参照)。この場合、さらに、相互インダクタンスが大きくなり、電流分担を均等化する効果がより高まる。
【0065】
また、側壁11c1,11d1の高さ方向(
図9、
図10のZ方向)の、配線バー11dの長さ(
図10のH)は、X方向の配線バー11dの長さ(
図9のW)よりも長い。図示を省略しているが、配線バー11eについても同様である。これにより、配線バー11d,11eを設けることによる、半導体モジュール11のX方向の長さの増加を抑えられる。
【0066】
(第2の実施の形態)
図11は、第2の実施の形態の半導体装置の一部の概略を示す上面図である。
図11において、
図1に示した要素と同じ要素については同一符号が付されている。
第2の実施の形態の半導体装置40は、配線バー11dと配線バー12eとが貫通する磁性体コア43を有する。磁性体コア43の材料として、たとえば、フェライトが用いられる。
【0067】
図12は、磁性体コアの一例を示す図である。
磁性体コア43は、たとえば、UIコアであり、U字の部分43aとI字の部分43bとを含む。
半導体モジュール41,42において、樹脂により成形された筐体41a,42aには、磁性体コア43を挿入する凹部が設けられている。
【0068】
図13、
図14は、筐体に設けられた凹部の例を示す図である。
凹部は、P端子11a,12a、N端子11b,12bが配置される側の側壁42a2,44a2の近傍に、配線バー11d,11eの間、及び配線バー12d,12eの間の樹脂を通り、側壁41a1,42a1まで延伸するように形成されている。凹部は、U字の部分43aが挿入される第1部分44a,45aと、I字の部分43bが挿入される第2部分44b,45bを有する。なお、
図13の例では、第2部分44b,45bは、側壁41a1,42a1に対向する側壁に対しても延伸している。このため、図中の左右両方からI字の部分43bを挿入可能であるし、半導体モジュールの並列接続数が増えた場合にも、磁性体コア43を適用可能である。
【0069】
図14には、
図13の矢印A方向から見た、凹部の第2部分44bと配線バー11dとの位置関係が示されている。
図14に示すように、配線バー11dの、P端子11aとの接続部分の下をくぐるように、磁性体コア43が配置可能となっている。
このような磁性体コア43を設けることで、相互インダクタンスMが大きくなり、V=M×d(ia-id)/dtの電圧が大きくなる。このため、電流分担を均等化する効果がより高まる。
【0070】
(変形例)
前述のように、配線バー11dを側壁11c1の樹脂に内蔵させ、配線バー11eを側壁11c2の樹脂に内蔵させてもよい。
図15は、配線バーを側壁の樹脂に内蔵させた例を示す半導体モジュールの上面図である。
図15の例では、配線バー11d,11eの一部(破線で表示された部分)が側壁11c1,11c2の樹脂に内蔵されている。
【0071】
このような構成によれば、X方向に隣接して配置される半導体モジュールの配線バー(
図1の例では配線バー12e)との距離をより短くすることができる。このため、相互インダクタンスの効果がより強化され、電流分担を均等化する効果がより高まる。
【0072】
以上、実施の形態に基づき、本発明の半導体装置及び半導体モジュールの一観点について説明してきたが、これらは一例にすぎず、上記の記載に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0073】
10 半導体装置
11,12 半導体モジュール
11a,12a P端子
11b,12b N端子
11c,12c 筐体
11c1,12c1 側壁
11d,11e,12d,12e 配線バー
11f,12f U端子
13 磁気結合
【手続補正書】
【提出日】2022-11-08
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正方法】変更
【補正の内容】