(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160426
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】排水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/58 20230101AFI20231026BHJP
【FI】
C02F1/58 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070805
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】田端 夏季
(72)【発明者】
【氏名】白井 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】西村 雄
【テーマコード(参考)】
4D038
【Fターム(参考)】
4D038AA08
4D038AB32
4D038BA02
4D038BB01
(57)【要約】
【課題】シアン成分を含む排水中におけるシアン成分の濃度を低減させることができ、かつ、析出物の発生を抑制できる、排水処理方法を提供する。
【解決手段】式(1)で表される化合物と、チオ尿素と、を反応させて式(2)で表されるイソチウロニウムを得る工程Aと、得られたイソチウロニウムを加水分解して式(3)で表される化合物と、シアン成分を含む排水と、を得る工程Bと、上記排水とホルムアルデヒドとを混合する工程Cと、を含む、排水処理方法。Q1は、硫黄原子を含むn価の有機基であり、Xは、ハロゲン原子または水酸基であり、nは1~10の整数である。nが2~10の整数である場合、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。
Q1-(X)n … 式(1)
Q1-(S-C(=NH2
+)-NH2)n … 式(2)
Q1-(SH)n … 式(3)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物と、チオ尿素と、を反応させて下記式(2)で表されるイソチウロニウムを得る工程Aと、
前記工程Aで得られた前記イソチウロニウムを塩基の存在下で加水分解することにより、下記式(3)で表される有機メルカプト化合物と、シアン成分を含む排水と、を得る工程Bと、
前記工程Bで得られた前記排水と、ホルムアルデヒドと、を混合する工程Cと、
を含む、排水処理方法。
Q1-(X)n … 式(1)
Q1-(S-C(=NH2
+)-NH2)n … 式(2)
Q1-(SH)n … 式(3)
〔式(1)~式(3)中、
Q1は、硫黄原子を含む炭素数1~30のn価の有機基であり、
Xは、ハロゲン原子または水酸基であり、
nは1~10の整数である。
nが2~10の整数である場合、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。〕
【請求項2】
前記工程Cは、前記排水と、ホルムアルデヒドを含む水溶液と、を混合することにより、前記排水とホルムアルデヒドとを混合する、
請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
前記工程Cにおける前記混合後の前記排水中のシアン成分の濃度が、1.0mg/L以下である、請求項1又は請求項2に記載の排水処理方法。
【請求項4】
前記有機メルカプト化合物が、
4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、
4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、
4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、
5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び、
2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン
からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1又は請求項2に記載の排水処理方法。
【請求項5】
前記有機メルカプト化合物が、
4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンであるポリチオールA1、又は、
4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンの混合物であるポリチオールA2
を含む、請求項1又は請求項2に記載の排水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機メルカプト化合物、特に分子中にメルカプト基を2つ以上有するポリチオール化合物は、チオウレタン樹脂又はチオウレタンウレア樹脂の製造用のモノマー、2液混合反応型エポキシ樹脂の硬化剤、医薬品、農薬、電子材料等、工業製品製造用の中間体として、工業的に広く使用されている。
【0003】
チオウレタン樹脂の製造用のモノマーとして使用されるポリチオール化合物の製造方法は、例えば以下の特許文献1及び2に記載されている。
特許文献1では、2-メルカプトエタノールと、エピハロヒドリン化合物と、を反応させ、得られたポリアルコール化合物をチオ尿素と反応させてイソチウロニウム塩を得て、得られたイソチウロニウム塩を加水分解することにより、ポリチオール化合物を製造する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2では、2-メルカプトエタノールと、エピハロヒドリン化合物と、を反応させ、得られた化合物を硫化ナトリウムと反応させてポリアルコール化合物を得て、得られたポリアルコール化合物をチオ尿素と反応させてイソチウロニウム塩とした後、イソチウロニウム塩を加水分解することにより、ポリチオール化合物を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2014/027427号
【特許文献2】国際公開第2014/027428号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、有機メルカプト化合物の製造時に、シアン成分を含む排水が発生する場合がある。
ここで、シアン成分とは、シアン化物イオン(CN-)を含む化合物及びシアン化物イオン(遊離しているイオン)の少なくとも一方を意味する。
上記排水中におけるシアン成分の濃度(即ち、CN-を含む化合物及びCN-の総濃度)を低減させるための排水処理が求められる場合がある。
また、上記排水中におけるシアン成分の濃度を低減させるための排水処理において、排水処理時に析出物が発生する場合がある。排水処理された排水を更に処理する場合等を考慮し、排水処理時における析出物の発生を抑制することが求められる場合もある。
【0007】
本開示の一態様の課題は、有機メルカプト化合物の製造時に発生する、シアン成分を含む排水中におけるシアン成分の濃度を低減させることができ、かつ、析出物の発生を抑制できる、排水処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の態様が含まれる。
<1> 下記式(1)で表される化合物と、チオ尿素と、を反応させて下記式(2)で表されるイソチウロニウムを得る工程Aと、
前記工程Aで得られた前記イソチウロニウムを塩基の存在下で加水分解することにより、下記式(3)で表される有機メルカプト化合物と、シアン成分を含む排水と、を得る工程Bと、
前記工程Bで得られた前記排水と、ホルムアルデヒドと、を混合する工程Cと、
を含む、排水処理方法。
Q1-(X)n … 式(1)
Q1-(S-C(=NH2
+)-NH2)n … 式(2)
Q1-(SH)n … 式(3)
〔式(1)~式(3)中、
Q1は、硫黄原子を含む炭素数1~30のn価の有機基であり、
Xは、ハロゲン原子または水酸基であり、
nは1~10の整数である。
nが2~10の整数である場合、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。〕
【0009】
<2> 前記工程Cは、前記排水と、ホルムアルデヒドを含む水溶液と、を混合することにより、前記排水とホルムアルデヒドとを混合する、
<1>に記載の排水処理方法。
<3> 前記工程Cにおける前記混合後の前記排水中のシアン成分の濃度が、1.0mg/L以下である、<1>又は<2>に記載の排水処理方法。
<4> 前記有機メルカプト化合物が、
4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、
4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、
4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、
5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び、
2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン
からなる群から選択される少なくとも1種である、<1>~<3>のいずれか1つに記載の排水処理方法。
<5> 前記有機メルカプト化合物が、
4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンであるポリチオールA1、又は、
4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンの混合物であるポリチオールA2
を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の排水処理方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一態様によれば、有機メルカプト化合物の製造時に発生する、シアン成分を含む排水中におけるシアン成分の濃度を低減させることができ、かつ、析出物の発生を抑制できる、排水処理方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、「工程」との用語は、独立した工程だけではなく、他の工程と明確に区別できない場合であってもその工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示において、組成物に含まれる各成分の量は、組成物中に各成分に該当する物質が複数存在する場合は、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数の物質の合計量を意味する。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
【0012】
〔排水処理方法〕
本開示の排水処理方法は、
下記式(1)で表される化合物と、チオ尿素と、を反応させて下記式(2)で表されるイソチウロニウムを得る工程Aと、
工程Aで得られたイソチウロニウムを塩基の存在下で加水分解することにより、下記式(3)で表される有機メルカプト化合物と、シアン成分を含む排水と、を得る工程Bと、
工程Bで得られた上記排水と、ホルムアルデヒドと、を混合する工程Cと、
を含む。
【0013】
Q1-(X)n … 式(1)
Q1-(S-C(=NH2
+)-NH2)n … 式(2)
Q1-(SH)n … 式(3)
【0014】
式(1)~式(3)中、
Q1は、硫黄原子を含む炭素数1~30のn価の有機基であり、
Xは、ハロゲン原子または水酸基であり、
nは1~10の整数である。
nが2~10の整数である場合、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。
【0015】
本開示の排水処理方法では、有機メルカプト化合物の製造時に発生する、シアン成分を含む排水中におけるシアン成分の濃度を低減させることができ、かつ、析出物の発生を抑制できる。
より詳細には、工程Cにおいて、シアン成分を含む排水とホルムアルデヒドとを混合することにより、排水中におけるシアン成分の濃度(即ち、CN-を含む化合物及びCN-の総濃度)を低減させることができ、かつ、析出物の発生を抑制することができる。
【0016】
本開示の排水処理方法は、必要に応じ、工程A~工程C以外のその他の工程を含んでいてもよい。
【0017】
以下、本開示の排水処理方法における各工程について説明する。
【0018】
<工程A>
本開示の排水処理方法は、工程Aを含む。
工程Aは、下記式(1)で表される化合物と、チオ尿素と、を反応させて下記式(2)で表されるイソチウロニウムを得る工程である。
【0019】
Q1-(X)n … 式(1)
Q1-(S-C(=NH2
+)-NH2)n … 式(2)
【0020】
式(1)及び式(2)中、
Q1は、硫黄原子を含む炭素数1~30のn価の有機基であり、
Xは、ハロゲン原子または水酸基であり、
nは1~10の整数である。
nが2~10の整数である場合、複数存在するXは同一でも異なっていてもよい。
【0021】
Q1における有機基は、鎖状構造、脂環式構造、及び芳香族構造からなる群から選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
Q1における有機基は、スルフィド結合(即ち、-S-結合)及び/又はメルカプト基(即ち、-SH基)を含むことが好ましい。
nは、1~7が好ましく、1~5がより好ましい。
【0022】
式(1)で表される化合物としては特に限定されないが、例えば、
3-チア-1-ペンタノール、
3,7-ジチア-1,5,9-ノナントリオール(別名:1,3-ビス(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-プロパノール)、
9-クロロ-3,7-ジチア-1,5-ノナンジオール、
5-クロロ-3,7-ジチア-1,9-ノナンジオール、
5,9-ジクロロ-3,7-ジチア-1-ノナノール、
1,9-ジクロロ-3,7-ジチア-5-ノナノール、
3,7,11-トリチア-1,5,9,13-トリデカンテトラオール(別名:1,5,9,13-テトラヒドロキシ-3,7,11-トリチアトリデカン)、
13-クロロ-3,7,11-トリチア-1,5,9-トリデカントリオール、
9-クロロ-3,7,11-トリチア-1,5,13-トリデカントリオール、
9,13-ジクロロ-3,7,11-トリチア-1,5-トリデカンジオール、
5,13-ジクロロ-3,7,11-トリチア-1,9-トリデカンジオール、
1,13-ジクロロ-3,7,11-トリチア-5,9-トリデカンジオール、
5,9-ジクロロ-3,7,11-トリチア-1,13-トリデカンジオール、
5,9,13-トリクロロ-3,7,11-トリチア-1-トリデカノール、
1,9,13-トリクロロ-3,7,11-トリチア-5-トリデカノール、
3-チア-1,5-ペンタンジオール、
5-クロロ-3-チア-1-ペンタノール、
2,5-ジ(ヒドロキシメチル)-1,4-ジチアン、
5-クロロメチル-2-ヒドロキシメチル-1,4-ジチアン、
2,5-ビス(ブロモメチル)-1,4-ジチアン、
2,5-ビス(クロロメチル)-1,4-ジチアン、
等が挙げられる。
工程Aで用いられる式(1)で表される化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0023】
工程Aでは、式(1)で表される化合物と、チオ尿素(即ち、「NH2-C(=S)-NH2」で表される化合物)と、を反応させることにより、式(1)で表される化合物におけるXが、「S-C(=NH2
+)-NH2」に置き換わり、式(2)で表されるイソチウロニウムが得られる。
【0024】
工程Aにおいて式(1)で表される化合物とチオ尿素とを反応させる際の、式(1)で表される化合物におけるXに対するチオ尿素の仕込みモル比は、好ましくは、1.0モル~1.5モルである。
【0025】
上記反応は、塩化水素存在下にて(例えば、塩酸及び/又は塩化水素ガスを用いて)行うことが好ましい。
上記反応は、例えば、室温から還流温度の範囲で行う。
上記反応の反応時間は、例えば1~10時間である。
【0026】
<工程B>
本開示の排水処理方法は、工程Bを含む。
工程Bは、工程Aで得られた上記式(2)で表されるイソチウロニウムを塩基の存在下で加水分解することにより、下記式(3)で表される有機メルカプト化合物と、シアン成分を含む排水と、を得る工程である。
【0027】
Q1-(SH)n … 式(3)
式(3)中、Q1及びnは、それぞれ、式(1)中のQ1及びnと同義である。
【0028】
式(3)で表される有機メルカプト化合物は、工程Bにおける加水分解の目的物である。
工程Bでは、塩基の存在下での加水分解により、式(2)で表されるチウロニウムにおける「-C(=NH2
+)-NH2」の部分が、H(水素原子)に置き換わる。これにより、工程Bにおける加水分解の目的物である式(3)で表される有機メルカプト化合物が得られる。
塩基としては、アンモニア、水酸化ナトリウム等が挙げられる。塩基は、1種のみであってもよいし2種以上であってもよい。
本開示の排水処理方法による効果をより効果的に発揮させる観点から、塩基としては、アンモニアが特に好ましい。
【0029】
工程Bでは、工程Aで得られた式(2)で表されるイソチウロニウムを含む反応物に対して有機溶剤を加えて得られた液体と、塩基性水溶液と、を混合することにより、上記塩基の存在下での加水分解を実施してもよい。
この場合の工程Bでは、式(3)で表される有機メルカプト化合物を含む油層と、水層としてのシアン成分を含む排水と、が得られる。
【0030】
イソチウロニウムを含む反応物に対して添加され得る有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等が挙げられる。有機溶剤は1種のみ用いてもよいし2種以上用いてもよい。
塩基性水溶液としては、アンモニア水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、等が挙げられる。塩基性水溶液は1種のみ用いてもよいし2種以上用いてもよい。
本開示の排水処理方法による効果をより効果的に発揮させる観点から、塩基性水溶液としては、アンモニア水溶液が特に好ましい。
【0031】
目的物である式(3)で表される有機メルカプト化合物としては、特に限定されないが、例えば、
4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、
5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、
4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、
4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、
2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、
ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、
ビス(メルカプトエチル)スルフィド、
ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトアセテート)、
2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン、
1,1,3,3-テトラキス(メルカプトメチルチオ)プロパン、
4,6-ビス(メルカプトメチルチオ)-1,3-ジチアン、
2-(2,2-ビス(メルカプトメチルチオ)エチル)-1,3-ジチエタン、
等が挙げられる。
工程Bで得られる式(3)で表される有機メルカプト化合物は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0032】
有機メルカプト化合物は、好ましくは、
4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン、
4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、
4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、
5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び、
2,5-ビス(メルカプトメチル)-1,4-ジチアン
からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0033】
有機メルカプト化合物は、
4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタンであるポリチオールA1、又は、
4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンの混合物であるポリチオールA2
を含むことがより好ましい。
【0034】
有機メルカプト化合物は、ポリチオールA1又はポリチオールA2を主成分として含むことが好ましい。
【0035】
ここで、「有機メルカプト化合物は、ポリチオールA1又はポリチオールA2を主成分として含む」とは、有機メルカプト化合物の全量に対するポリチオールA1又はポリチオールA2の含有量が、50%以上であることを意味する。
ポリチオールの全量に対するポリチオールA1又はポリチオールA2の含有量は、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上である。
【0036】
同様に、本開示において、組成物が、ある成分(以下、「成分X」とする)を「主成分として含む」とは、成分Xの含有量(成分Xが2種以上の化合物からなる場合には、2種以上の化合物の総含有量)が、組成物の全量に対し、50%以上であることを意味する。
主成分である成分Xの含有量は、組成物の全量に対し、好ましくは60%以上であり、より好ましくは70%以上であり、更に好ましくは80%以上である。
【0037】
上記の「主成分として含む」との語の説明中における「%」は、高速液体クロマトグラフィーによって求められる、組成物(例えばポリチオール組成物)の全ピークの合計面積に対する成分X(例えば少なくとも1種のポリチオール化合物)の全ピークの合計面積の比率(面積%)を意味する。
高速液体クロマトグラフィーの測定条件としては、例えば、以下の測定条件Aが挙げられる。
【0038】
-測定条件A-
カラムとして、関東化学株式会社製Mightysil RP-18 GP(登録商標)(粒子径S:5μm、カラム形状:Φ6mm×150mm、製品番号: 25477-96)を用い、
移動相として、アセトニトリル/0.01molリン酸二水素カリウム水溶液=60/40(vol/vol)の混合溶液を用い、
測定溶液として、ポリチオール組成物160mgとアセトニトリル10mLとの混合溶液を用い、
検出器として、測定波長230nmの紫外線検出器を用い、
カラム温度を40℃とし、
流量を1.0mL/minとし、
注入量を2μLとする条件である。
【0039】
(シアン成分を含む排水)
工程Bにおいて得られる、シアン成分を含む排水は、目的物である式(3)で表される有機メルカプト化合物に対する副生物である。
前述のとおり、シアン成分は、シアン化物イオン(CN-)及びシアン化物イオンを含む化合物の少なくとも一方である。
排水に含まれるシアン成分は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
シアン成分を含む排水は、工程Cにおける排水処理(具体的には、ホルムアルデヒドとの混合)の対象物である。
シアン成分を含む排水は、更に、アンモニウムイオンを含んでいてもよい。
【0040】
<工程C>
本開示の排水処理方法は、工程Cを含む。
工程Cは、工程Bで得られた排水と、ホルムアルデヒドと、を混合する工程である。
この工程Cにより、析出物の発生を抑制しながら、排水中のシアン成分の濃度を低減させることができる。
【0041】
工程Cでは、上記効果をより効果的に得る観点から、工程Bで得られた排水と、ホルムアルデヒドを含む水溶液と、を混合することにより、工程Bで得られた排水とホルムアルデヒドとを混合することが好ましい。
【0042】
上記工程Cにおける上記混合後の排水中のシアン成分の濃度は、好ましくは3.0mg/L以下であり、より好ましくは2.0mg/L以下であり、更に好ましくは1.0mg/L以下である。
【0043】
工程Cにおける上記混合は、析出物の発生をより抑制する観点から、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
不活性ガス雰囲気における不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス等が挙げられる。不活性ガスは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0044】
工程Cにおける上記混合を不活性ガス雰囲気下で行う場合の具体的態様としては、例えば、工程Bで得られた排水と、ホルムアルデヒドを含む水溶液と、を不活性ガスで置換した反応容器に収容し、この反応容器中で、排水とホルムアルデヒドとを混合する態様が挙げられる。
【0045】
工程Cにおいて、シアン成分の量に対するホルムアルデヒドの仕込み量は、2倍モル~20倍モルが好ましく、2倍モル~15倍モルがより好ましく、2倍モル~15倍モルが更に好ましく、3倍モル~12倍モルが更に好ましく、4倍モル~11倍モルが更に好ましい。
【0046】
工程Cにおける上記混合時の混合物の温度(以下、「混合温度」ともいう)としては、例えば、5℃~80℃が挙げられ、好ましくは10℃~70℃であり、より好ましくは15℃~70℃であり、更に好ましくは30℃~70℃であり、更に好ましくは40℃~70℃である。
【0047】
工程Cにおける上記混合の時間(以下、「混合時間」ともいう)としては、例えば、0.2時間~5時間であり、より好ましくは0.3時間~3時間であり、更に好ましくは0.5時間~2時間である。
【実施例0048】
以下、本開示の実施例を示すが、本開示は以下の実施例には限定されない。
以下において、特に断りがない限り、「%」は、「質量%」を意味する。
以下、排水中のシアン成分濃度(即ち、シアン化物イオン(CN-)を含む化合物及びシアン化物イオン(CN-)の総濃度)は、4-ピリジンカルボン酸ピラゾロン吸光度法(JIS K0102 38.3)によって測定した。
【0049】
〔実施例1〕
実施例1として、ポリチオールA1(即ち、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン)を含むポリチオール組成物の製造及び排水処理を行った。
以下、詳細を示す。
【0050】
<工程A>
(式(1)で表される化合物の製造)
反応容器内に、2-メルカプトエタノール124.6質量部、及び脱気水18.3質量部を装入した。次いでここに、12℃~35℃にて、32質量%の水酸化ナトリウム水溶液101.5質量部を40分かけて滴下装入した後、エピクロルヒドリン73.6質量部を29℃~36℃にて4.5時間かけて滴下装入し、引き続き40分撹拌を行った。その結果、式(1)で表される化合物としての1,3-ビス(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-プロパノールの生成を、NMRデータによって確認した。
【0051】
(式(2)で表されるイソチウロニウムの製造)
上記で1,3-ビス(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-プロパノールが生成された反応容器内に、35.5質量%の塩酸331.5質量部を装入し、次に、純度99.90%のチオ尿素183.8質量部を装入し、110℃還流下にて3時間撹拌し、式(2)で表されるイソチウロニウムを含む反応液を得た。
【0052】
<工程B>
上記式(2)で表されるイソチウロニウムを含む反応液を45℃まで冷却した後、ここに、トルエン320.5質量部を加え、31℃まで冷却した。ここに、25質量%のアンモニア水溶液243.1質量部を、31℃~41℃で、44分かけて装入し、54℃~62℃で3時間撹拌することにより加水分解反応を行った。その結果、油層として、ポリチオールA1(即ち、4-メルカプトメチル-1,8-ジメルカプト-3,6-ジチアオクタン)を主成分とするポリチオール組成物を含むトルエン溶液を得た。このトルエン溶液(油層)とともに、水層として、シアン成分を含む排水が得られた。
【0053】
<工程C>
上記シアン成分を含む排水250質量部を、窒素置換した反応容器に装入した。
上記排水中のシアン成分濃度(以下、「混合前の排水中のシアン濃度」ともいう)は、15.8mg/Lであった(表1参照)。
上記反応容器内の排水を50℃~55℃(以下、混合温度とする)に昇温し、ここに、37質量%ホルムアルデヒド(HCHO)水溶液0.14質量部を添加した。
ここで、37質量%HCHO水溶液0.14質量部中のHCHO(ホルムアルデヒド)の量は、上記排水に含まれるシアン成分の量に対して10倍モルに相当する(表1参照)。
上記37質量%HCHO水溶液が添加された排水を、窒素雰囲気下、上記混合温度にて1時間攪拌することにより、排水とHCHOとを混合した後、室温まで冷却した。
冷却後の排水中のシアン成分濃度(以下、「混合後の排水中のシアン濃度」ともいう)は、0.2mg/Lであった(表1参照)。
冷却後の液体を目視で観察したところ、この液体中に析出物の存在は確認されなかった。
【0054】
<ポリチオールA1を含むポリチオール組成物の製造>
工程Bで得られた、ポリチオールA1を主成分とするポリチオール組成物を含むトルエン溶液を、35.5質量%塩酸162.8質量部によって35℃~43℃で1時間酸洗浄した。酸洗浄後のトルエン溶液を、脱気水174.1質量部によって35℃~45℃で30分間洗浄する操作を2回実施した。脱気水による2回の洗浄後のトルエン溶液から、加熱減圧下でトルエン及び微量の水分を除去した後、1.2μmのPTFEタイプメンブランフィルターで減圧濾過することにより、ポリチオールA1を主成分とするポリチオール組成物205.0質量部を得た。
【0055】
〔実施例2~4〕
工程Cにおけるシアン成分に対するHCHOの量と、工程Cにおける混合温度と、の組み合わせを、表1に示すように変更したこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
シアン成分に対するHCHOの量は、37質量%ホルムアルデヒド水溶液の添加量を調整することによって調整した。
混合前の排水中のシアン成分濃度及び混合後の排水中のシアン成分濃度(mg/L)を、それぞれ表1に示す。
【0056】
〔比較例1〕
工程Cにおいて、37質量%ホルムアルデヒド水溶液を添加しなかったこと以外は実施例1と同様の操作を行った。
混合前(比較例1では工程Cの操作前)の排水中のシアン成分濃度、及び、混合後(比較例1では工程Cの操作終了後)の排水中のシアン成分濃度を、それぞれ表1に示す。
【0057】
〔比較例2~4〕
工程Cにおいて、37質量%ホルムアルデヒド水溶液に代えて、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液を添加したこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。NaClO水溶液の添加量は、シアン成分に対するNaClOの量が、表1に示す倍モルとなるように調整した。
混合前の排水中のシアン成分濃度及び混合後の排水中のシアン成分濃度を、それぞれ表1に示す。
【0058】
【0059】
表1に示すように、シアン成分を含む排水とホルムアルデヒド(HCHO)とを混合した実施例1~4では、シアン成分を含む排水中におけるシアン成分の濃度を低減させることができ、かつ、析出物の発生を抑制することができた。
これに対し、シアン成分を含む排水とホルムアルデヒド(HCHO)とを混合しなかった比較例1では、シアン成分の濃度低減効果に劣っていた。
また、シアン成分を含む排水とホルムアルデヒド(HCHO)との混合に代えて、シアン成分を含む排水と次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)との混合を行った比較例2~4では、シアン成分の濃度を低減させることができたものの、析出物の発生を抑制できなかった。
【0060】
〔実施例101〕
実施例101として、ポリチオールA2(即ち、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンの混合物)を含むポリチオール組成物の製造及び排水処理を行った。
以下、詳細を示す。
【0061】
<工程A>
(式(1)で表される化合物の製造)
反応容器内に、2-メルカプトエタノール51.2質量部、脱気水26.5質量部、及び49質量%の水酸化ナトリウム水溶液0.16質量部を装入した。次いでここに、エピクロルヒドリン61.99質量部を9℃~11℃にて6.5時間かけて滴下装入し、引き続き60分撹拌を行った。その結果、1-クロロ-3-(2-ヒドロキシエチルチオ)-2-プロパノールの生成を、NMRデータによって確認した。
次いでここに、17.3質量%の硫化ソーダ水溶液150.0質量部を7℃~37℃にて5.5時間かけて滴下装入し、120分撹拌を行った。その結果、式(1)で表される化合物としての1,5,9,13-テトラヒドロキシ-3,7,11-トリチアトリデカンの生成を、NMRデータによって確認した。
【0062】
(式(2)で表されるイソチウロニウムの製造)
上記で1,5,9,13-テトラヒドロキシ-3,7,11-トリチアトリデカンが生成された反応容器内に、35.5質量%の塩酸279.0質量部を装入し、次に、純度99.90%のチオ尿素125.8質量部を装入し、110℃還流下にて3時間撹拌し、式(2)で表されるイソチウロニウムを含む反応液を得た。
【0063】
<工程B>
上記式(2)で表されるイソチウロニウムを含む反応液を45℃まで冷却した後、ここに、トルエン214.0質量部を加え、26℃まで冷却した。ここに、25質量%のアンモニア水溶液206.2質量部を、26℃~50℃で、30分かけて装入し、50℃~65℃で1時間撹拌することにより加水分解反応を行った。その結果、油層として、ポリチオールA2(即ち、4,8-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、4,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカン、及び5,7-ジメルカプトメチル-1,11-ジメルカプト-3,6,9-トリチアウンデカンの混合物)を主成分とするポリチオール組成物を含むトルエン溶液を得た。このトルエン溶液(油層)とともに、水層として、シアン成分を含む排水が得られた。
【0064】
<工程C>
上記シアン成分を含む排水250質量部を、窒素置換した反応容器に装入した。
上記排水中のシアン成分濃度(以下、「混合前の排水中のシアン成分濃度」ともいう)は、8.2mg/Lであった(表2参照)。
上記反応容器内の排水を20℃~25℃(以下、混合温度とする)に昇温し、ここに、37質量%ホルムアルデヒド(HCHO)水溶液0.05質量部を添加した。
ここで、37質量%HCHO水溶液0.05質量部中のHCHO(ホルムアルデヒド)の量は、上記排水に含まれるシアン成分の量に対して5倍モルに相当する(表2参照)。
上記37質量%ホルムアルデヒド水溶液が添加された排水を、窒素雰囲気下、上記混合温度にて1時間攪拌することにより、排水とHCHOとを混合した。
混合後(即ち、1時間攪拌後)の排水中のシアン成分濃度は、0.7mg/Lであった(表2参照)。
混合後の排水を目視で観察したところ、この液体中に析出物の存在は確認されなかった。
【0065】
<ポリチオールA2を含むポリチオール組成物の製造>
工程Bで得られた、ポリチオールA2を主成分とするポリチオール組成物を含むトルエン溶液を、36質量%塩酸59.4質量部によって34℃~39℃で30分間酸洗浄する操作を、2回実施した。2回の酸洗浄後のトルエン溶液を、脱気水118.7質量部によって35℃~45℃で30分間洗浄する操作を5回実施した。脱気水による5回の洗浄後のトルエン溶液から、加熱減圧下でトルエン及び微量の水分を除去した後、1.2μmのPTFEタイプメンブランフィルターで減圧濾過することにより、ポリチオールA2を主成分とするポリチオール組成物115.9質量部を得た。
【0066】
〔比較例101〕
工程Cにおいて、37質量%ホルムアルデヒド水溶液を添加しなかったこと以外は実施例101と同様の操作を行った。
混合前(比較例101では工程Cの操作前)の排水中のシアン成分濃度、及び、混合後(比較例101では工程Cの操作終了後)の排水中のシアン成分濃度を、それぞれ表1に示す。
【0067】
〔比較例102~103〕
工程Cにおいて、37質量%ホルムアルデヒド水溶液に代えて、10.5質量%次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)水溶液を添加したこと以外は、実施例101と同様の操作を行った。NaClO水溶液の添加量は、シアン成分に対するNaClOの量が、表2に示す倍モルとなるように調整した。
混合前の排水中のシアン成分濃度及び混合後の排水中のシアン成分濃度を、それぞれ表2に示す。
【0068】
【0069】
表2に示すように、シアン成分を含む排水とホルムアルデヒド(HCHO)とを混合した実施例101では、シアン成分を含む排水中におけるシアン成分の濃度を低減させることができ、かつ、析出物の発生を抑制することができた。
これに対し、シアン成分を含む排水とホルムアルデヒド(HCHO)とを混合しなかった比較例101では、シアン成分の濃度低減効果に劣っていた。
また、シアン成分を含む排水とホルムアルデヒド(HCHO)との混合に代えて、シアン成分を含む排水と次亜塩素酸ナトリウム(NaClO)との混合を行った比較例102及び103でも、シアン成分の濃度低減効果に劣っていた。更に、比較例102及び103では、析出物の発生を抑制できなかった。