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特開2023-160495真空ポンプ、制御装置および制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160495
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】真空ポンプ、制御装置および制御方法
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
F04D19/04 H
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070901
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】508275939
【氏名又は名称】エドワーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100141829
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 牧人
(74)【代理人】
【識別番号】100123663
【弁理士】
【氏名又は名称】広川 浩司
(72)【発明者】
【氏名】石井 慶一
【テーマコード(参考)】
3H131
【Fターム(参考)】
3H131AA02
3H131AA07
3H131BA09
3H131BA12
3H131BA15
3H131CA13
3H131CA35
(57)【要約】
【課題】真空ポンプ本体の所定状態において、真空ポンプ本体に固定された制御装置の冷却が停止することによって、制御装置の温度が上昇し過ぎることを抑制できる真空ポンプ、制御装置および制御方法を提供する。
【解決手段】磁気軸受式の真空ポンプ本体210および真空ポンプ本体210に固定される制御装置200を有する真空ポンプ100であって、制御装置200は、ロータ軸113の回転を制御する回転制御部226と、真空ポンプ本体210の温度を制御する温度制御部227と、制御装置200を冷却する冷却部224と、を有し、温度制御部227は、真空ポンプ本体210の所定状態において、冷却部224における冷却の停止を検知した場合に、加熱部213による加熱温度を低下させることによって制御装置200の温度を所定温度以下となるように制御する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気軸受式の真空ポンプ本体および前記真空ポンプ本体に固定される制御装置を有する真空ポンプであって、
前記真空ポンプ本体は、
ケーシングと、
前記ケーシングの内部に、回転自在に支持されたロータ軸と、
前記ロータ軸を支持する磁気軸受と、
前記ロータ軸に固定され、前記ロータ軸と共に回転可能な複数段の回転翼と、
前記ケーシングに対して固定され、かつ、前記回転翼間に配置される複数段の固定翼と、
前記真空ポンプ本体を加熱する加熱部と、を有し、
前記制御装置は、
前記ロータ軸の回転を制御する回転制御部と、
前記真空ポンプ本体の温度を制御する温度制御部と、
前記制御装置を冷却する冷却部と、を有し、
前記温度制御部は、前記真空ポンプ本体の所定状態において、前記冷却部における冷却の停止を検知した場合に、前記加熱部による加熱温度を低下させることによって前記制御装置の温度を所定温度以下となるように制御する、ことを特徴とする真空ポンプ。
【請求項2】
前記真空ポンプ本体の前記所定状態は、前記ロータ軸の回転速度がゼロであり、かつすぐに加速が可能である運転待機状態であることを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項3】
前記制御装置は、前記真空ポンプ本体の前記所定状態において、前記冷却部における冷却の停止を検知した場合に、警告を示す情報または前記真空ポンプ本体の前記加熱部による加熱温度を低下させた低温制御状態であることを示す情報を発信する状態発信部を有することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項4】
前記制御装置は、前記制御装置の温度を計測する第1温度センサを備え、
前記真空ポンプ本体は、前記加熱部により加熱される部分の温度を計測する第2温度センサを備え、
前記温度制御部は、前記第1温度センサまたは前記第2温度センサにより検出される温度の情報を受信し、前記第1温度センサまたは前記第2温度センサにより検出される温度が所定の閾値以上になる場合に、前記冷却部における冷却が停止したと判断することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項5】
前記温度制御部は、前記冷却部を流れる媒体の流量を検出する流量センサにより検出される流量の情報を受信し、前記流量センサにより検出される流量が所定値以下である場合に、前記冷却部における冷却が停止したと判断することを特徴とする請求項1に記載の真空ポンプ。
【請求項6】
磁気軸受式の真空ポンプ本体に固定される制御装置であって、
前記真空ポンプ本体のロータ軸の回転を制御する回転制御部と、
前記真空ポンプ本体の温度を制御する温度制御部と、
前記制御装置を冷却する冷却部と、を有し、
前記温度制御部は、前記真空ポンプ本体の所定状態において、前記冷却部における冷却の停止を検知した場合に、前記真空ポンプ本体に配置される加熱部による加熱温度を低下させることによって前記制御装置の温度を所定温度以下となるように制御する、ことを特徴とする制御装置。
【請求項7】
磁気軸受式の真空ポンプ本体に固定される制御装置により行われる温度の制御方法であって、
前記真空ポンプ本体の所定状態において、前記制御装置を冷却する冷却部における冷却の停止を検知したか否かを判断するステップと、
前記冷却部における前記冷却の停止を検知した場合に、前記真空ポンプ本体に配置される加熱部による加熱温度を低下させることによって前記制御装置の温度を所定温度以下となるように制御するステップと、を有する、ことを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプ、制御装置および制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置、液晶製造装置、電子顕微鏡、表面分析装置または微細加工装置等は、装置内の環境を高度の真空状態にすることが必要である。これらの装置の内部を高度の真空状態とするために、真空ポンプが用いられている。使用される真空ポンプの例として、例えば、ターボ分子ポンプとねじ溝ポンプとを組み合わせた複合ポンプが挙げられる。
【0003】
ターボ分子ポンプとねじ溝ポンプとを組み合わせた真空ポンプは、例えば特許文献1に開示されるように、軸方向に交互に配列された回転翼および固定翼を有するターボポンプの下流側に、ねじ溝ポンプが配置される。吸気口より取込まれた排気ガスは、ターボ分子ポンプとねじ溝ポンプによって圧縮されて、排気口より真空ポンプの外部に排出される。
【0004】
ねじ溝ポンプは、回転するロータ円筒部と、ロータを収容するケーシング側のねじ溝スぺーサにより構成される。ロータ円筒部またはねじ溝スぺーサの対向する表面には、ねじ溝が形成される。このため、ロータ円筒部がねじ溝スぺーサの内部で回転することで、気体を排気口側へ移送することができる。
【0005】
排気ガスは、ターボ分子ポンプでは、分子流の挙動を示すが、ねじ溝ポンプおよびそれよりも下流の流路においては、比較的圧力が高くなっていることで、粘性流のような挙動を示す。このため、ねじ溝ポンプおよびそれよりも下流の流路の、排気ガスの流れが淀む箇所で、副生成物が析出しやすい。流路に副生成物が析出すると、本来接触しない箇所が接触するという事象が発生し、真空ポンプの損傷や、内部構造の伝熱性能の変化に伴う温度分布の変異が発生して安全性・生産性を損なう恐れがある。
【0006】
このため、真空ポンプは、ヒータや冷却管が配置されるとともに、温度センサおよび制御装置が配置される。制御装置の温度管理システム(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)は、真空ポンプの温度を一定の高い温度に保つために、温度センサに基づいてヒータによる加熱や冷却管による冷却を制御する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2010/060041号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
制御装置内の電子部品から通電時に生じる発熱のため、制御装置の冷却は必要とされているが、特にターボ分子ポンプおよびねじ溝ポンプを備える真空ポンプ本体に制御装置が固定された真空ポンプでは、真空ポンプ本体の温度が制御装置へ伝わるため、制御装置を常時冷却する必要がある。
【0009】
ところで、真空ポンプは、運転を迅速に開始できるように、温度を所定の高温に維持した運転待機状態で、ロータ軸の回転を停止する場合がある。運転待機状態では、真空ポンプ本体の温度を所定の高温に維持するために、加熱部による加熱や冷却管による冷却が行われている。この運転待機状態で、メンテナンスや省エネ目的のために冷却水を停止させてしまうと、加熱部による真空ポンプ全体の昇温と、通電による制御装置の電子部品の発熱とによって、制御装置が過熱異常となる可能性がある。真空ポンプは、制御装置の過熱異常を検出すると、安全機構が作動して加熱部への電力供給が遮断されるため、真空ポンプ全体の温度が低下し、迅速な運転開始が困難となる。
【0010】
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、真空ポンプ本体の所定状態において、真空ポンプ本体に固定された制御装置の冷却が停止することによって、制御装置の温度が上昇し過ぎることを抑制できる真空ポンプ、制御装置および制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明に係る真空ポンプは、磁気軸受式の真空ポンプ本体および前記真空ポンプ本体に固定される制御装置を有する真空ポンプであって、前記真空ポンプ本体は、ケーシングと、前記ケーシングの内部に、回転自在に支持されたロータ軸と、前記ロータ軸を支持する磁気軸受と、前記ロータ軸に固定され、前記ロータ軸と共に回転可能な複数段の回転翼と、前記ケーシングに対して固定され、かつ、前記回転翼間に配置される複数段の固定翼と、前記真空ポンプ本体を加熱する加熱部と、を有し、前記制御装置は、前記ロータ軸の回転を制御する回転制御部と、前記真空ポンプ本体の温度を制御する温度制御部と、前記制御装置を冷却する冷却部と、を有し、前記温度制御部は、前記真空ポンプ本体の所定状態において、前記冷却部における冷却の停止を検知した場合に、前記加熱部による加熱温度を低下させることによって前記制御装置の温度を所定温度以下となるように制御する、ことを特徴とする。
【0012】
上記目的を達成する本発明に係る制御装置は、磁気軸受式の真空ポンプ本体に固定される制御装置であって、前記真空ポンプ本体のロータ軸の回転を制御する回転制御部と、前記真空ポンプ本体の温度を制御する温度制御部と、前記制御装置を冷却する冷却部と、を有し、前記温度制御部は、前記真空ポンプ本体の所定状態において、前記冷却部における冷却の停止を検知した場合に、前記真空ポンプ本体に配置される加熱部による加熱温度を低下させることによって前記制御装置の温度を所定温度以下となるように制御する、ことを特徴とする。
【0013】
上記目的を達成する本発明に係る制御方法は、磁気軸受式の真空ポンプ本体に固定される制御装置により行われる温度の制御方法であって、前記真空ポンプ本体の所定状態において、前記制御装置を冷却する冷却部における冷却の停止を検知したか否かを判断するステップと、前記冷却部における前記冷却の停止を検知した場合に、前記真空ポンプ本体に配置される加熱部による加熱温度を低下させることによって前記制御装置の温度を所定温度以下となるように制御するステップと、を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
上記のように構成した真空ポンプ、制御装置および制御方法は、真空ポンプ本体の所定状態において、制御装置の冷却部における冷却が停止すると、真空ポンプ本体を加熱する加熱部による加熱温度を低下させるため、制御装置の温度が上昇し過ぎることを抑制できる。
【0015】
前記真空ポンプ本体の前記所定状態は、前記ロータ軸の回転速度がゼロであり、かつすぐに加速が可能である運転待機状態であってもよい。これにより、真空ポンプは、真空ポンプ本体の運転待機状態において、加熱部による加熱によって真空ポンプ本体の温度が下がり過ぎることを抑制しつつ、冷却部における冷却が停止する場合には、制御装置の温度が上昇し過ぎることを抑制できる。
【0016】
前記制御装置は、前記真空ポンプ本体の前記所定状態において、前記冷却部における冷却の停止を検知した場合に、警告を示す情報または前記真空ポンプ本体の前記加熱部による加熱温度を低下させた低温制御状態であることを示す情報を発信する状態発信部を有してもよい。これにより、真空ポンプは、冷却部における冷却が停止したことを外部へ伝達できるため、安全性を向上できる。
【0017】
前記制御装置は、前記制御装置の温度を計測する第1温度センサを備え、前記真空ポンプ本体は、前記加熱部により加熱される部分の温度を計測する第2温度センサを備え、前記温度制御部は、前記第1温度センサまたは前記第2温度センサにより検出される温度の情報を受信し、前記第1温度センサまたは前記第2温度センサにより検出される温度が所定の閾値以上になる場合に、前記冷却部における冷却が停止したと判断してもよい。これにより、真空ポンプは、温度センサにより検出される温度の情報を利用して、冷却部における冷却の停止を効果的に検知できる。
【0018】
前記温度制御部は、前記冷却部を流れる媒体の流量を検出する流量センサにより検出される流量の情報を受信し、前記流量センサにより検出される流量が所定値以下である場合に、前記冷却部における冷却が停止したと判断してもよい。これにより、真空ポンプは、流量センサにより検出される媒体の流量の情報を利用して、冷却部における冷却の停止を効果的に検知できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】真空ポンプの縦断面図である。
図2】アンプ回路の回路図である。
図3】電流指令値が検出値より大きい場合の制御を示すタイムチャートである。
図4】電流指令値が検出値より小さい場合の制御を示すタイムチャートである。
図5】本実施形態に係る真空ポンプの概略構成図である。
図6】制御装置の温度制御部における制御の流れの一例を示すフローチャートである。
図7】制御装置による温度制御の一例を示すタイミングチャートである。
図8】制御装置の温度制御部における制御の流れの変形例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法は、説明の都合上、誇張されて実際の寸法とは異なる場合がある。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
本発明の実施形態に係る真空ポンプ100は、高速回転する回転体の回転ブレードが気体分子を弾き飛ばすことによりガスを排気するターボ分子ポンプ100である。ターボ分子ポンプ100は、例えば半導体製造装置等のチャンバからガスを吸引して排気するために使用される。まず、ターボ分子ポンプ100の基本構成について説明する。
【0022】
このターボ分子ポンプ100の縦断面図を図1に示す。図1において、ターボ分子ポンプ100は、円筒状の外筒127の上端に吸気口101が形成されている。そして、外筒127の内方には、ガスを吸引排気するためのタービンブレードである複数の回転翼102(102a、102b、102c・・・)を周部に放射状かつ多段に形成したロータ103が備えられている。このロータ103の中心にはロータ軸113が取り付けられており、このロータ軸113は、例えば5軸制御の磁気軸受により空中に浮上支持かつ位置制御されている。ロータ103は、一般的に、アルミニウム又はアルミニウム合金などの金属によって構成されている。
【0023】
上側径方向電磁石104は、4個の電磁石がX軸とY軸とに対をなして配置されている。この上側径方向電磁石104に近接して、かつ上側径方向電磁石104のそれぞれに対応して4個の上側径方向センサ107が備えられている。上側径方向センサ107は、例えば伝導巻線を有するインダクタンスセンサや渦電流センサなどが用いられ、ロータ軸113の位置に応じて変化するこの伝導巻線のインダクタンスの変化に基づいてロータ軸113の位置を検出する。この上側径方向センサ107はロータ軸113、すなわちそれに固定されたロータ103の径方向変位を検出し、制御装置200に送るように構成されている。
【0024】
この制御装置200においては、例えばPID調節機能を有する補償回路が、上側径方向センサ107によって検出された位置信号に基づいて、上側径方向電磁石104の励磁制御指令信号を生成し、図2に示すアンプ回路150(後述する)が、この励磁制御指令信号に基づいて、上側径方向電磁石104を励磁制御することで、ロータ軸113の上側の径方向位置が調整される。
【0025】
そして、このロータ軸113は、高透磁率材(鉄、ステンレスなど)などにより形成され、上側径方向電磁石104の磁力により吸引されるようになっている。かかる調整は、X軸方向とY軸方向とにそれぞれ独立して行われる。また、下側径方向電磁石105及び下側径方向センサ108が、上側径方向電磁石104及び上側径方向センサ107と同様に配置され、ロータ軸113の下側の径方向位置を上側の径方向位置と同様に調整している。
【0026】
さらに、軸方向電磁石106A、106Bが、ロータ軸113の下部に備えた円板状の金属ディスク111を上下に挟んで配置されている。金属ディスク111は、鉄などの高透磁率材で構成されている。ロータ軸113の軸方向変位を検出するために軸方向センサ109が備えられ、その軸方向位置信号が制御装置200に送られるように構成されている。
【0027】
そして、制御装置200において、例えばPID調節機能を有する補償回路が、軸方向センサ109によって検出された軸方向位置信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bのそれぞれの励磁制御指令信号を生成し、アンプ回路150が、これらの励磁制御指令信号に基づいて、軸方向電磁石106Aと軸方向電磁石106Bをそれぞれ励磁制御することで、軸方向電磁石106Aが磁力により金属ディスク111を上方に吸引し、軸方向電磁石106Bが金属ディスク111を下方に吸引し、ロータ軸113の軸方向位置が調整される。
【0028】
このように、制御装置200は、この軸方向電磁石106A、106Bが金属ディスク111に及ぼす磁力を適当に調節し、ロータ軸113を軸方向に磁気浮上させ、空間に非接触で保持するようになっている。なお、これら上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150については、後述する。
【0029】
一方、モータ121は、ロータ軸113を取り囲むように周状に配置された複数の磁極を備えている。各磁極は、ロータ軸113との間に作用する電磁力を介してロータ軸113を回転駆動するように、制御装置200によって制御されている。また、モータ121には図示しない例えばホール素子、レゾルバ、エンコーダなどの回転速度センサが組み込まれており、この回転速度センサの検出信号によりロータ軸113の回転速度が検出されるようになっている。
【0030】
さらに、例えば下側径方向センサ108近傍に、図示しない位相センサが取り付けてあり、ロータ軸113の回転の位相を検出するようになっている。制御装置200では、この位相センサと回転速度センサの検出信号を共に用いて磁極の位置を検出するようになっている。
【0031】
回転翼102(102a、102b、102c・・・)とわずかの空隙を隔てて複数枚の固定翼123(123a、123b、123c・・・)が配設されている。回転翼102(102a、102b、102c・・・)は、それぞれ排気ガスの分子を衝突により下方向に移送するため、ロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成されている。固定翼123(123a、123b、123c・・・)は、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。
【0032】
また、固定翼123も、同様にロータ軸113の軸線に垂直な平面から所定の角度だけ傾斜して形成され、かつ外筒127の内方に向けて回転翼102の段と互い違いに配設されている。そして、固定翼123の外周端は、複数の段積みされた固定翼スペーサ125(125a、125b、125c・・・)の間に嵌挿された状態で支持されている。
【0033】
固定翼スペーサ125はリング状の部材であり、例えばアルミニウム、鉄、ステンレス、銅などの金属、又はこれらの金属を成分として含む合金などの金属によって構成されている。固定翼スペーサ125の外周には、わずかの空隙を隔てて外筒127が固定されている。外筒127の底部にはベース部129が配設されている。ベース部129には排気口133が形成され、外部に連通されている。チャンバ(真空チャンバ)側から吸気口101に入ってベース部129に移送されてきた排気ガスは、排気口133へと送られる。
【0034】
さらに、ターボ分子ポンプ100の用途によって、固定翼スペーサ125の下部とベース部129の間には、ねじ溝スぺーサ131(固定部材)が配設される。ねじ溝スぺーサ131は、アルミニウム、銅、ステンレス、鉄、又はこれらの金属を成分とする合金などの金属によって構成された円筒状の部材であり、その内周面に螺旋状のねじ溝131aが複数条刻設されている。ねじ溝131aの螺旋の方向は、ロータ103の回転方向に排気ガスの分子が移動したときに、この分子が排気口133の方へ移送される方向である。ロータ103の回転翼102(102a、102b、102c・・・)に続く最下部には円筒部102dが垂下されている。この円筒部102dの外周面は、円筒状で、かつねじ溝スぺーサ131の内周面に向かって張り出されており、このねじ溝スぺーサ131の内周面と所定のギャップ量を隔てて近接されている。回転翼102および固定翼123によってねじ溝131aに移送されてきた排気ガスは、ねじ溝131aに案内されつつベース部129へと送られる。
【0035】
ベース部129は、ターボ分子ポンプ100の基底部を構成する円盤状の部材であり、一般には鉄、アルミニウム、ステンレスなどの金属によって構成されている。ベース部129はターボ分子ポンプ100を物理的に保持すると共に、熱の伝導路の機能も兼ね備えているので、鉄、アルミニウムや銅などの剛性があり、熱伝導率も高い金属が使用されるのが望ましい。
【0036】
かかる構成において、回転翼102がロータ軸113と共にモータ121により回転駆動されると、回転翼102と固定翼123の作用により、吸気口101を通じてチャンバから排気ガスが吸気される。回転翼102の回転速度は通常20000rpm~90000rpmであり、回転翼102の先端での周速度は200m/s~400m/sに達する。吸気口101から吸気された排気ガスは、回転翼102と固定翼123の間を通り、ベース部129へ移送される。このとき、排気ガスが回転翼102に接触する際に生ずる摩擦熱や、モータ121で発生した熱の伝導などにより、回転翼102の温度は上昇するが、この熱は、輻射又は排気ガスの気体分子などによる伝導により固定翼123側に伝達される。
【0037】
固定翼スペーサ125は、外周部で互いに接合しており、固定翼123が回転翼102から受け取った熱や排気ガスが固定翼123に接触する際に生ずる摩擦熱などを外部へと伝達する。
【0038】
なお、上記では、ねじ溝スぺーサ131はロータ103の円筒部102dの外周に配設し、ねじ溝スぺーサ131の内周面にねじ溝131aが刻設されているとして説明した。しかしながら、これとは逆に円筒部102dの外周面にねじ溝が刻設され、その周囲に円筒状の内周面を有するスペーサが配置される場合もある。
【0039】
また、ターボ分子ポンプ100の用途によっては、吸気口101から吸引されたガスが上側径方向電磁石104、上側径方向センサ107、モータ121、下側径方向電磁石105、下側径方向センサ108、軸方向電磁石106A、106B、軸方向センサ109などで構成される電装部に侵入することのないよう、電装部は周囲をステータコラム122で覆われ、このステータコラム122内はパージガスにて所定圧に保たれる場合もある。
【0040】
この場合には、ベース部129には図示しない配管が配設され、この配管を通じてパージガスが導入される。導入されたパージガスは、保護ベアリング120とロータ軸113間、モータ121のロータとステータ間、ステータコラム122と回転翼102の内周側円筒部の間の隙間を通じて排気口133へ送出される。
【0041】
ここに、ターボ分子ポンプ100は、機種の特定と、個々に調整された固有のパラメータ(例えば、機種に対応する諸特性)に基づいた制御を要する。この制御パラメータを格納するために、上記ターボ分子ポンプ100は、その本体内に電子回路部141を備えている。電子回路部141は、EEP-ROM等の半導体メモリ及びそのアクセスのための半導体素子等の電子部品、それらの実装用の基板143等から構成される。この電子回路部141は、ターボ分子ポンプ100の下部を構成するベース部129の例えば中央付近の図示しない回転速度センサの下部に収容され、気密性の底蓋145によって閉じられている。
【0042】
ところで、半導体の製造工程では、チャンバに導入されるプロセスガスの中には、その圧力が所定値よりも高くなり、或いは、その温度が所定値よりも低くなると、固体となる性質を有するものがある。ターボ分子ポンプ100内部では、排気ガスの圧力は、吸気口101で最も低く排気口133で最も高い。プロセスガスが吸気口101から排気口133へ移送される途中で、その圧力が所定値よりも高くなったり、その温度が所定値よりも低くなったりすると、プロセスガスは、固体状となり、ターボ分子ポンプ100内部に付着して堆積する。
【0043】
例えば、Alエッチング装置にプロセスガスとしてSiClが使用された場合、低真空(760[torr]~10-2[torr])かつ、低温(約20[℃])のとき、固体生成物(例えばAlCl)が析出し、ターボ分子ポンプ100内部に付着堆積することが蒸気圧曲線からわかる。これにより、ターボ分子ポンプ100内部にプロセスガスの析出物が堆積すると、この堆積物がポンプ流路を狭め、ターボ分子ポンプ100の性能を低下させる原因となる。そして、前述した生成物は、排気口133付近やねじ溝スぺーサ131付近の圧力が高い部分で凝固、付着し易い状況にあった。
【0044】
そのため、この問題を解決するために、従来はベース部129等の外周に図示しないヒータや環状の水冷管149を巻着させ、かつ例えばベース部129に図示しない温度センサ(例えばサーミスタ)を埋め込み、この温度センサの信号に基づいてベース部129の温度を一定の高い温度(設定温度)に保つようにヒータの加熱や水冷管149による冷却の制御(以下TMSという。TMS;Temperature Management System)が行われている。
【0045】
次に、このように構成されるターボ分子ポンプ100に関して、その上側径方向電磁石104、下側径方向電磁石105及び軸方向電磁石106A、106Bを励磁制御するアンプ回路150について説明する。このアンプ回路150の回路図を図2に示す。
【0046】
図2において、上側径方向電磁石104等を構成する電磁石巻線151は、その一端がトランジスタ161を介して電源171の正極171aに接続されており、また、その他端が電流検出回路181及びトランジスタ162を介して電源171の負極171bに接続されている。そして、トランジスタ161、162は、いわゆるパワーMOSFETとなっており、そのソース-ドレイン間にダイオードが接続された構造を有している。
【0047】
このとき、トランジスタ161は、そのダイオードのカソード端子161aが正極171aに接続されるとともに、アノード端子161bが電磁石巻線151の一端と接続されるようになっている。また、トランジスタ162は、そのダイオードのカソード端子162aが電流検出回路181に接続されるとともに、アノード端子162bが負極171bと接続されるようになっている。
【0048】
一方、電流回生用のダイオード165は、そのカソード端子165aが電磁石巻線151の一端に接続されるとともに、そのアノード端子165bが負極171bに接続されるようになっている。また、これと同様に、電流回生用のダイオード166は、そのカソード端子166aが正極171aに接続されるとともに、そのアノード端子166bが電流検出回路181を介して電磁石巻線151の他端に接続されるようになっている。そして、電流検出回路181は、例えばホールセンサ式電流センサや電気抵抗素子で構成されている。
【0049】
以上のように構成されるアンプ回路150は、一つの電磁石に対応されるものである。そのため、磁気軸受が5軸制御で、電磁石104、105、106A、106Bが合計10個ある場合には、電磁石のそれぞれについて同様のアンプ回路150が構成され、電源171に対して10個のアンプ回路150が並列に接続されるようになっている。
【0050】
さらに、アンプ制御回路191は、例えば、制御装置200の図示しないディジタル・シグナル・プロセッサ部(以下、DSP部という)によって構成され、このアンプ制御回路191は、トランジスタ161、162のon/offを切り替えるようになっている。
【0051】
アンプ制御回路191は、電流検出回路181が検出した電流値(この電流値を反映した信号を電流検出信号191cという)と所定の電流指令値とを比較するようになっている。そして、この比較結果に基づき、PWM制御による1周期である制御サイクルTs内に発生させるパルス幅の大きさ(パルス幅時間Tp1、Tp2)を決めるようになっている。その結果、このパルス幅を有するゲート駆動信号191a、191bを、アンプ制御回路191からトランジスタ161、162のゲート端子に出力するようになっている。
【0052】
なお、ロータ103の回転速度の加速運転中に共振点を通過する際や定速運転中に外乱が発生した際等に、高速かつ強い力でのロータ103の位置制御をする必要がある。そのため、電磁石巻線151に流れる電流の急激な増加(あるいは減少)ができるように、電源171としては、例えば50V程度の高電圧が使用されるようになっている。また、電源171の正極171aと負極171bとの間には、電源171の安定化のために、通常コンデンサが接続されている(図示略)。
【0053】
かかる構成において、トランジスタ161、162の両方をonにすると、電磁石巻線151に流れる電流(以下、電磁石電流iLという)が増加し、両方をoffにすると、電磁石電流iLが減少する。
【0054】
また、トランジスタ161、162の一方をonにし他方をoffにすると、いわゆるフライホイール電流が保持される。そして、このようにアンプ回路150にフライホイール電流を流すことで、アンプ回路150におけるヒステリシス損を減少させ、回路全体としての消費電力を低く抑えることができる。また、このようにトランジスタ161、162を制御することにより、ターボ分子ポンプ100に生じる高調波等の高周波ノイズを低減することができる。さらに、このフライホイール電流を電流検出回路181で測定することで電磁石巻線151を流れる電磁石電流iLが検出可能となる。
【0055】
すなわち、検出した電流値が電流指令値より小さい場合には、図3に示すように制御サイクルTs(例えば100μs)中で1回だけ、パルス幅時間Tp1に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をonにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、正極171aから負極171bへ、トランジスタ161、162を介して流し得る電流値iLmax(図示せず)に向かって増加する。
【0056】
一方、検出した電流値が電流指令値より大きい場合には、図4に示すように制御サイクルTs中で1回だけパルス幅時間Tp2に相当する時間分だけトランジスタ161、162の両方をoffにする。そのため、この期間中の電磁石電流iLは、負極171bから正極171aへ、ダイオード165、166を介して回生し得る電流値iLmin(図示せず)に向かって減少する。
【0057】
そして、いずれの場合にも、パルス幅時間Tp1、Tp2の経過後は、トランジスタ161、162のどちらか1個をonにする。そのため、この期間中は、アンプ回路150にフライホイール電流が保持される。
【0058】
次に、本実施形態に係る真空ポンプ100について説明する。
真空ポンプ100は、図5に示すように、磁気軸受式の真空ポンプ本体210および真空ポンプ本体210に固定される制御装置200を有している。制御装置200が真空ポンプ本体210に固定される方法は、特に限定されず、例えば直接的または他の部品を介して間接的に固定されてもよいが、制御装置200は、真空ポンプ本体210の熱が制御装置200に伝わる程度に真空ポンプ本体210に近接している。制御装置200は、例えば、真空ポンプ100の排気口133が形成されるベース部129に固定される。
【0059】
真空ポンプ本体210は、ケーシング211と、ケーシング211の内部に、回転自在に支持されたロータ軸113と、ロータ軸113を支持する磁気軸受212と、ロータ軸113に固定され、ロータ軸113と共に回転可能な複数段の回転翼102と、ケーシング211に対して固定され、かつ、回転翼102間に配置される複数段の固定翼123と、真空ポンプ本体210を加熱する加熱部213とを有している。真空ポンプ本体210は、さらに、真空ポンプ本体210の温度を検出する本体温度センサ214(第2温度センサ)と、モータ121の温度を検出するモータ温度センサ215(第2温度センサ)とを有している。加熱部213は、例えば電流が流れることで昇温するヒータなどの加熱手段である。加熱部213は、ヒータが配置された部品であるヒータスペーサであってもよい。ヒータスペーサとは、ヒータなどの加熱手段が取り付けられるなどして温度が高くなっており、他の部品を加熱する機能とスペーサの機能を合わせ持つ部品である。本体温度センサ214が配置される位置は、真空ポンプ本体210の温度を検出できれば特に限定されないが、例えばベース部129に配置される。
【0060】
制御装置200は、真空ポンプ本体210に固定される筐体221と、筐体221内に配置される電子回路によって構成される制御部222と、制御装置200の温度を計測する第1温度センサ223と、制御装置200を冷却する冷却部224とを有している。冷却部224は、例えば媒体として冷却水が流れる水冷管である。冷却水は、冷却水源232から供給される。冷却水源232からの冷却水が流通する配管は、弁231を通って流量センサ225を通った後に分岐する。分岐された配管の一方は、電磁弁230を通って水冷管149へ接続される。分岐された配管の他方は、冷却部224へ接続される。弁231は、手動で操作されるが、電磁弁230は、制御部222により動作を制御される。流量センサ225は、冷却水源232から水冷管149および冷却部224へ供給される冷却水の流量を検出し、検出結果を示す信号を制御部222へ送信する。
【0061】
制御部222は、ロータ軸113の回転を制御する回転制御部226と、真空ポンプ本体210の温度を制御する温度制御部227とを有している。回転制御部226は、磁気軸受212やモータ121の制御を行う。
【0062】
温度制御部227は、本体温度センサ214、モータ温度センサ215および第1温度センサ223の検出信号を受信して、真空ポンプ本体210の温度および制御装置200の温度を監視する。さらに、温度制御部227は、加熱部213へオンオフ制御指令信号を送信できるとともに、真空ポンプ本体210に配置される水冷管149への冷却水の流れを制御する電磁弁230に対し、オンオフ制御指令信号を送信できる。また、温度制御部227は、外部へ情報を発信する状態発信部228を有する。
【0063】
温度制御部227が加熱部213にオン指令信号を送信すると、加熱部213による加熱が開始され、オフ指令信号を送信すると、加熱部213による加熱が停止される。温度制御部227が電磁弁230にオン指令信号を送信すると、弁が開いて水冷管149に冷却水が流れ、オフ指令信号を送信すると、弁が閉じて水冷管149への冷却水の流れが停止される。制御装置200へ冷却水を供給する弁231は、オンオフ制御される電磁弁ではなく、手動で開閉される構造であり、開かれた後には、閉じる操作があるまで開いた状態が維持される。なお、弁231は、温度制御部227によりオンオフ制御される電磁弁であってもよい。弁231が電磁弁である場合、温度制御部227が弁231にオン指令信号を送信すると、弁が開いて冷却部224に冷却水が流れ、オフ指令信号を送信すると、弁が閉じて冷却部224への冷却水の流れが停止される。真空ポンプ本体210を冷却する水冷管149と、制御装置200を冷却する冷却部224は、異なる弁によって別々に冷却水を供給されても、共通する弁によって同時に冷却水を供給されてもよい。
【0064】
次に、本実施形態に係る真空ポンプ100の温度制御部227における制御の流れを、図6に示すフローチャートおよび図7に示すタイミングチャートを参照しつつ説明する。
【0065】
温度制御部227は、制御を開始すると、作業者等が入力する入力デバイス等から制御停止の指示信号を受けるまで、加熱部213の加熱および冷却部224の冷却の制御を繰り返し実行する。まず、温度制御部227は、真空ポンプ100が運転状態にあるか否かを判断する(ステップS1)。温度制御部227は、真空ポンプ100が運転状態であると判断すると、加熱部213の目標とする温度を通常目標温度T1に設定した状態とし、かつ電磁弁230にオン指令信号を送信して水冷管149へ冷却水を供給させる。電磁弁230および冷却部224へ冷却水を供給する冷却水導入制御装置である弁231は、常時開かれて、電磁弁230および冷却部224へ冷却水を供給する。
【0066】
温度制御部227は、時間t1において真空ポンプ100が運転状態ではないと判断すると(ステップS1)、真空ポンプ100が運転待機状態にあると特定する(ステップS2)。制御装置200は、例えば、回転制御部226から真空ポンプ100のロータ軸113の回転数の情報を受け取り、回転数がゼロであるか否かにより、真空ポンプ100が運転状態にあるか否かを判断できる。
【0067】
温度制御部227は、運転待機状態において、真空ポンプ本体210の本体温度センサ214で検出される温度(加熱部213の温度、または加熱部213により加熱される部分の温度)を通常目標温度T1に維持するように、加熱部213および冷却部224の制御を行う。そして、温度制御部227は、運転待機状態において、冷却部224による冷却が停止したか否かを判断する(ステップS3)。
【0068】
温度制御部227は、冷却水導入制御装置である弁231による冷却水の供給が停止されて冷却部224による冷却が停止したか否かを判断するために、制御装置200に配置される第1温度センサ223からの信号を受信し、制御装置200の温度が所定温度(冷却部停止検出閾値A)を超える時間t3において、冷却部224による冷却が停止したと判断できる。なお、冷却部224による冷却が実際に停止した時間t2から、冷却部224による冷却が検出される時間t3までに、タイムラグがあるため、時間t3は、時間t2よりも後となる。
【0069】
温度制御部227は、制御装置200の温度ではなく、本体温度センサ214により検出される真空ポンプ本体210の温度(例えばベース部129の温度)や、モータ温度センサ215により検出されるモータ121の温度が、所定温度を超える場合に、冷却部224による冷却が停止したと判断することもできる。また、温度制御部227は、流量センサ225により検出される流量の情報から、冷却部224による冷却が停止したか否かを判断してもよい。流量センサ225により検出される流量が、ゼロまたは所定の流量以下となる場合に、温度制御部227は、冷却部224による冷却が停止したと判断できる。または、温度制御部227は、真空ポンプ100が運転状態にあるか否かを判断し(ステップS1)、時間t1において真空ポンプ100が運転状態ではないと判断した場合に、冷却部224による冷却が停止したと強制的に判断してもよい(ステップS3)。この場合、実際には冷却部224による冷却が停止していない場合であっても、冷却部224による冷却が停止したと判断して、後述するステップS5において真空ポンプ本体210の目標温度を低下させる。
【0070】
温度制御部227は、冷却部224による冷却が停止したと判断すると、温度制御における真空ポンプ本体210の目標温度を、通常目標温度T1よりも低い待機目標温度T2に変更する(ステップS4)。これにより、真空ポンプ本体210の加熱部213による加熱温度が低下し、真空ポンプ100は低温制御状態となる。このため、運転待機状態において冷却部224による冷却が停止したことによる制御装置200の温度上昇を抑制し、制御装置200の過熱異常を回避できる。なお、温度制御部227は、冷却部224による冷却が停止したと判断した際(時間t3)に、加熱部213における加熱を一時的に停止させてもよい。加熱部213における加熱の停止も、加熱部213による加熱温度の低下に該当する。温度制御部227は、冷却部224による冷却を一時的に停止させた後には、本体温度センサ214により検出される制御装置200の温度が所定の温度まで低下した後に、加熱部213における加熱を再開させる。この制御により、加熱部213の温度は、迅速な稼働に最適な温度よりは低下するが、制御装置200の温度が、所定温度(過熱検出閾値B)を超えて異常検出されることを回避できる。したがって、加熱部213への電力供給の遮断を回避できるため、最低限の真空ポンプ100の温度を維持できる。
【0071】
温度制御部227は、真空ポンプ100が低温制御状態となると、真空ポンプ100が低温制御状態であることを示す情報や、警告を示す情報を、状態発信部228から発信させる(ステップS5)。状態発信部228から発信された情報は、例えば真空ポンプ100に配置される、または真空ポンプ100から離れて配置されるモニター(画像装置)やスピーカ(音声装置)等により、作業者等へ報知可能である。
【0072】
温度制御部227は冷却部224による冷却が停止されているか否かを監視し(ステップS6)、真空ポンプ100の温度制御を行う。温度制御部227は、冷却部224による冷却が正常に行われていると判断すると、温度制御における目標温度を、第2目標温度T2から第1目標温度T1に変更し(ステップS9)、上述したステップS1へ戻って温度制御を繰り返し継続する。冷却部224による冷却が停止されているか否かの判断の方法は、上述したステップS3と同様である。
【0073】
温度制御部227は、ステップS6において冷却部224による冷却が正常に行われていないと判断すると、真空ポンプ100が運転状態と判断される(ステップS8)まで、運転待機状態として温度制御を行い、ステップS6へ戻って冷却部224による冷却が停止されているか否かの監視を繰り返し行う。温度制御部227は、真空ポンプ100が運転状態にあると判断すると、温度制御における目標温度を、第2目標温度T2から第1目標温度T1に変更し(ステップS9)、上述したステップS1へ戻って温度制御を繰り返し継続する。
【0074】
なお、図8に示す制御の流れの変形例のように、温度制御部227における制御に、冷却部224による冷却が停止されているか否かを監視するステップS6が設けれなくてもよい。この場合、冷却部224による冷却の再開の有無にかかわらず、温度制御部227の目標温度を、第2目標温度T2から第1目標温度T1に戻すことになる(ステップS9)。
【0075】
以上のように、本実施形態に係る真空ポンプ100は、磁気軸受式の真空ポンプ本体210および真空ポンプ本体210に固定される制御装置200を有する真空ポンプ100であって、真空ポンプ本体210は、ケーシング211と、ケーシング211の内部に、回転自在に支持されたロータ軸113と、ロータ軸113を支持する磁気軸受212と、ロータ軸113に固定され、ロータ軸113と共に回転可能な複数段の回転翼102と、ケーシング211に対して固定され、かつ、回転翼102間に配置される複数段の固定翼123と、真空ポンプ本体210を加熱する加熱部213と、を有し、制御装置200は、ロータ軸113の回転を制御する回転制御部226と、真空ポンプ本体210の温度を制御する温度制御部227と、制御装置200を冷却する冷却部224と、を有し、温度制御部227は、真空ポンプ本体210の所定状態において、冷却部224における冷却の停止を検知した場合に、加熱部213による加熱温度を低下させることによって制御装置200の温度を所定温度(過熱検出閾値B)以下となるように制御する。
【0076】
上記のように構成した真空ポンプ100は、真空ポンプ本体210の所定状態において、制御装置200の冷却部224における冷却がメンテナンスや省エネ目的のために停止しても、真空ポンプ本体210を加熱する加熱部213による加熱温度を低下させるため、制御装置200の温度が望ましくない所定温度(過熱検出閾値B)まで上昇することを抑制できる。
【0077】
真空ポンプ本体210の前記所定状態は、ロータ軸113の回転速度がゼロであり、かつすぐに加速が可能である運転待機状態である。これにより、真空ポンプ100は、真空ポンプ本体210の運転待機状態において、加熱部213による加熱によって真空ポンプ本体210の温度が下がり過ぎることを抑制しつつ、冷却部224における冷却が停止する場合には、制御装置200の温度が望ましくない所定温度(過熱検出閾値B)まで上昇することを抑制できる。
【0078】
制御装置200は、真空ポンプ本体210の前記所定状態において、冷却部224における冷却の停止を検知した場合に、警告を示す情報または真空ポンプ本体210の加熱部213による加熱温度を低下させた低温制御状態であることを示す情報を発信する状態発信部228を有する。これにより、真空ポンプ100は、冷却部224における冷却が停止したことを外部へ伝達できるため、安全性を向上できる。
【0079】
制御装置200は、制御装置200の温度を計測する第1温度センサ223を備え、真空ポンプ本体210は、加熱部213により加熱される部分の温度を計測する第2温度センサ(本体温度センサ214またはモータ温度センサ215)を備え、温度制御部227は、第1温度センサ223または第2温度センサにより検出される温度の情報を受信し、第1温度センサ223または第2温度センサにより検出される温度が所定の閾値以上になる場合に、冷却部224における冷却が停止したと判断してもよい。これにより、真空ポンプ100は、温度センサにより検出される温度の情報を利用して、冷却部224における冷却の停止を効果的に検知できる。
【0080】
温度制御部227は、冷却部224を流れる媒体の流量を検出する流量センサ225により検出される流量の情報を受信し、流量センサ225により検出される流量が所定値以下である場合に、冷却部224における冷却が停止したと判断してもよい。これにより、真空ポンプ100は、流量センサ225により検出される媒体の流量の情報を利用して、冷却部224における冷却の停止を効果的に検知できる。
【0081】
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更や組合せが可能である。例えば、他の実施形態として、定格回転数から減速させるブレーキモードに移行した時や回転数がゼロとなった時に、冷却部224における冷却の停止の検知に関係なく、加熱部213による加熱温度を低下させることによって、真空ポンプ本体210の目標温度を、通常目標温度T1よりも低い待機目標温度T2に変更してもよい。これにより、真空ポンプ本体210からの熱の授受だけでなく、ブレーキモードでの制御装置200の発熱(モータ121で発生する回生発電による電力エネルギを消費させるための回生抵抗などの電子部品からの発熱)によって、制御装置200の温度が望ましくない所定温度(過熱検出閾値B)まで上昇することを抑制することも可能である。
【符号の説明】
【0082】
100 真空ポンプ
102 回転翼
113 ロータ軸
121 モータ
123 固定翼
129 ベース部
133 排気口
210 真空ポンプ本体
211 ケーシング
212 磁気軸受
213 加熱部
214 本体温度センサ(第2温度センサ)
215 モータ温度センサ(第2温度センサ)
200 制御装置
221 筐体
222 制御部
223 第1温度センサ
224 冷却部
225 流量センサ
226 回転制御部
227 温度制御部
228 状態発信部
230 電磁弁
231 弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8