(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160497
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
G06K 19/077 20060101AFI20231026BHJP
G06K 19/07 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G06K19/077 144
G06K19/077 252
G06K19/07 230
G06K19/077 164
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070903
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100127465
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 幸裕
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(72)【発明者】
【氏名】元井 拓実
(72)【発明者】
【氏名】淵 健太
(72)【発明者】
【氏名】安原 誠
(57)【要約】
【課題】環境負荷低減を図ることができる積層体を提供する。
【解決手段】ICカード10はICモジュール20に接続されたアンテナ25と、アンテナ25を保持するアンテナ内蔵層12と、アンテナ内蔵層12の両面に設けられた一対のコア層13a,13bとを備えている。アンテナ内蔵層12および一対のコア層13a,13bは、いずれもリサイクルPCTG樹脂を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ICモジュールを内蔵した積層体において、
前記ICモジュールに接続されたアンテナと、
前記アンテナを保持するアンテナ内蔵層と、
前記アンテナ内蔵層の両面に設けられた一対のコア層とを備え、
前記アンテナ内蔵層と、前記一対のコア層はいずれもPCTG樹脂を含む、積層体。
【請求項2】
前記アンテナ内蔵層と、前記一対のコア層はいずれもリサイクルPCTG樹脂を含む、請求項1記載の積層体。
【請求項3】
前記一対のコア層は更にポリカーボネート樹脂を含み、前記一対のコア層は前記アンテナ内蔵層より高い耐熱性をもつ、請求項1または2記載の積層体。
【請求項4】
前記一対のコア層の軟化温度と、前記アンテナ内蔵層の軟化温度の差は6℃~54℃となっている、請求項3記載の積層体。
【請求項5】
前記アンテナ内蔵層と前記一対のコア層との間に、PETG樹脂を含む中間層が介在されている、請求項1記載の積層体。
【請求項6】
前記一対のコア層の両面にPETG樹脂を含むオーバーシート層が設けられている、請求項1または5記載の積層体。
【請求項7】
一対のオーバーシート層の一方に、隠蔽層を介して絵柄印刷層が設けられている、請求項6記載の積層体。
【請求項8】
一対のオーバーシート層の一方は、レーザ光発色剤を含む、請求項6記載の積層体。
【請求項9】
請求項1に記載の積層体を有する、カード。
【請求項10】
請求項1に記載の積層体を有する、冊子体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばクレジットカード、キャッシュカード、IDカード等のICモジュールを含む積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、顧客向けポイントサービスカード等のICモジュールを含む各種プラスチックカード等の積層体が、様々な分野や業界で採用されている。積層体はアンテナを内蔵するアンテナ内蔵層と、アンテナ内蔵層の両面に設けられた一対のコア層とを備え、一方のコア層およびアンテナ内蔵層を切削加工して形成された凹部内にICモジュールが実装される。また積層体の凹部にICモジュールとアンテナとを電気的に接続する導電プレートが配置され、導電プレートとICモジュールとは導電性接着剤により接着される。
【0003】
このように一方のコア層およびアンテナ内蔵層を切削加工して形成された凹部内にICモジュールを実装して得られた積層体は、接触型や非接触型、接触・非接触共用型の積層体となっている。
【0004】
ところで近年、環境負荷の低減を目的として化石燃料の消費抑制と廃棄プラスチックの削減が求められている。
【0005】
このような場合、接触型、非接触型、接触・非接触共用型の積層体の材料としてリサイクル原料を使用することができれば、環境負荷の低減を実現することができて都合が良い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、このような点を考慮してなされたものであり、環境負荷の低減を実現することができる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、ICモジュールを内蔵した積層体において、前記ICモジュールに接続されたアンテナと、前記アンテナを保持するアンテナ内蔵層と、前記アンテナ内蔵層の両面に設けられた一対のコア層とを備え、前記アンテナ内蔵層と、前記一対のコア層はいずれもPCTG樹脂を含む、第1の発明の積層体である。
【0009】
本開示は、前記第1の発明の積層体において、前記アンテナ内蔵層と、前記一対のコア層はいずれもリサイクルPCTG樹脂を含む、第2の発明の積層体である。
【0010】
本開示は、前記第1の発明の積層体または前記第2の発明の積層体において、前記一対のコア層は更にポリカーボネート樹脂を含み、前記一対のコア層は前記アンテナ内蔵層より高い耐熱性をもつ、第3の発明の積層体である。
【0011】
本開示は、前記第1の発明の積層体乃至前記第3の発明の積層体のいずれかにおいて、前記一対のコア層の軟化温度と、前記アンテナ内蔵層の軟化温度の差は6℃~54℃となっている、第4の発明の積層体である。
【0012】
本開示は、前記第1の発明の積層体乃至前記第4の発明の積層体のいずれかにおいて、前記アンテナ内蔵層と前記一対のコア層との間に、PETG樹脂を含む中間層が介在されている、第5の発明の積層体である。
【0013】
本開示は、前記第1の発明の積層体乃至前記第5の発明の積層体のいずれかにおいて、前記一対のコア層の両面にPETG樹脂を含むオーバーシート層が設けられている、第6の発明の積層体である。
【0014】
本開示は、前記第1の発明の積層体乃至前記第6の発明の積層体のいずれかにおいて、一対のオーバーシート層の一方に、隠蔽層を介して絵柄印刷層が設けられている、第7の発明の積層体である。
【0015】
本開示は、前記第1の発明の積層体乃至前記第7の発明の積層体のいずれかにおいて、一対のオーバーシート層の一方は、レーザ光発色剤を含む、第8の発明の積層体である。
【0016】
本開示は、前記第1の発明の積層体乃至前記第8の発明のいずれかの積層体を有するカードである。
【0017】
本開示は、前記第1の発明の積層体乃至前記第8の発明のいずれかの積層体を有する冊子体である。
【発明の効果】
【0018】
以上のように本開示によれば、環境負荷の低減を図ることができる積層体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は本実施の形態を示すICカードの側断面図。
【
図3A】
図3Aはアンテナと導電プレートの接続関係を示す図。
【
図3B】
図3BはアンテナとICモジュールの接続関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<積層体の構成>
以下、図面を参照して本実施の形態について説明する。
【0021】
図1乃至
図5は本開示による積層体の実施の形態を示す図である。まず
図5に示す平面図によりICモジュールを内蔵した積層体の一例として、ICモジュールを内蔵したICカード(以下、積層体、あるいはICカード積層体ともいう)10について説明する。
【0022】
図5に示すように、ICカード10はICモジュール20を内蔵するとともに、このICモジュール20はICカード10の表面に表れて、外方へ露出している。本実施の形態において、ICカード10は接触式および非接触式の両方を兼ね備えたデュアルインターフェース型のICカードである。
【0023】
ICカード10は、磁気記録部19を含み、ICカード10の表面には、絵柄印刷16Aが表れている。
【0024】
次にICモジュールを内蔵したICカード積層体を構成するICカード10の断面構成について、
図1乃至
図4Bにより説明する。
【0025】
ICカード10はICモジュール20を含み、このICカード10は、ICモジュール20に接続されたアンテナ25と、アンテナ25を内蔵するアンテナ内蔵層12と、アンテナ内蔵層12の両面に設けられた一対のコア層13a,13bと、各コア層13a,13bの両面に設けられた一対のオーバーシート層14a,14bとを備えている。
【0026】
このうちアンテナ内蔵層12は、上述のように内部にICモジュール20に接続されたアンテナ25を内蔵するものであり、アンテナ25を載置するアンテナ載置層12bと、アンテナ載置層12b上のアンテナ25を覆うアンテナカバー層12aとを含む。
【0027】
またアンテナ内蔵層12のアンテナカバー層12aと、表面側のコア層13aとの間に後述するPETG樹脂を含む中間層18aが介在されている。さらにアンテナ内蔵層12のアンテナ載置層12bと、裏面側のコア層13bとの間にPETG樹脂を含む中間層18bが介在されている。
【0028】
また、一対のオーバーシート層14a,14bのうち、表面側のオーバーシート層14a上には隠蔽層15と、隠蔽層15上に位置し絵柄印刷16Aを含む絵柄印刷層16と、絵柄印刷層16上に位置する透明体からなる剥離層17とが設けられている。
【0029】
また表面側のオーバーシート層14aおよび裏面側のオーバーシート層14bには、磁気記録部19が設けられ、表面側の磁気記録部19は隠蔽層15により覆われて外方から見えないようになっている。
【0030】
このようにアンテナカバー層12aと、アンテナ載置層12bとからなるアンテナ内蔵層12と、一対の中間層18a,18bと、一対のコア層13a,13bと、一対のオーバーシート層14a,14bと、隠蔽層15と、絵柄印刷層16と、剥離層17とにより、中間生成物としての中間生成物積層体10Aが構成される。
【0031】
このような構成からなる中間生成物積層体10Aに表面側から凹部(ICモジュール用凹部ともいう)30が形成され、この凹部30内に上述したICモジュール20が実装されて、ICカード10が得られる。なお、
図1における凹部30では、ICモジュール20と各層12,18a,18b,13a,13b,14a,14b,15,16,17との間に幅広く空間(隙間)があるように図示しているが、実際にはほとんど隙間はない。後述の
図4A乃至
図4Bにおける隙間も同様である。
【0032】
次に
図2により、中間生成物積層体10Aの凹部30内に実装されるICモジュール20について述べる。
【0033】
ICモジュール20は基板21と、基板21上に設けられたICチップ22aと、基板21上に設けられた導電部23とを有し、ICチップ22aと導電部23の一部は封止樹脂22bにより覆われている。またICチップ22aと導電部23とは配線22cにより接続されている。そしてICチップ22aと、封止樹脂22bと、配線22cとによりICチップ体22を構成している(
図2参照)。
【0034】
このような構造をもつICモジュール20は凹部30内に実装され、ICモジュール20は、アンテナ内蔵層12内に内蔵されたアンテナ25に接続される。この場合、アンテナ内蔵層12のアンテナ載置層12bには導電プレート40が設けられ、ICモジュール20は、導電性接着シート27および導電プレート40を介してアンテナ25に接続されている。なお、導電性接着シート27の代わりに、導電性ペーストを用いてもよい。
図3Aおよび
図3Bにアンテナ25と、ICモジュール20と、導電プレート40の配置関係を示す。ここでアンテナ25は上述のようにアンテナカバー層12aとアンテナ載置層12bとの間に挟持されており、銅製となっている。
【0035】
図3Aおよび
図3Bに示すように、ICカード10は長方形状の外形形状をもち、ICカード10の周縁部に沿って3重に巻かれたアンテナ25が延びている。そして
図3Aおよび
図3Bにおいて、ICカード10の左側に一対の導電プレート40が配置され、アンテナ25は各導電プレート40に接続されている。そして一対の導電プレート40上にICモジュール20が実装される。
図3Bにおいて、表面からみたICモジュール20と、裏面からみたICモジュール20が並べて示されている。
【0036】
次に中間生成物積層体10Aの凹部30と、この凹部30内に実装されたICモジュール20の構成について更に述べる。
図1に示すように、中間生成物積層体10Aに形成された凹部30は、中間生成物積層体10Aの表面側から剥離層17と、絵柄印刷層16と、隠蔽層15と、一方のオーバーシート層14aと、一方のコア層13aと、一方の中間層18aと、アンテナカバー層12aと、アンテナ載置層12bとからなるアンテナ内蔵層12まで、後述する切削刃50を用いて切削加工を施すことにより形成される。本実施の形態において凹部30は中間生成物積層体10Aの表面側から形成され、中間生成物積層体10Aの外方に向かう開口31と、ICモジュール20が載置される段部32とを有している。
【0037】
そして凹部30の段部32には、上述した導電プレート40が配置されている。すなわち凹部30はアンテナカバー層12aとアンテナ載置層12bとの間に形成された段部32を有し、この段部32を形成するアンテナ載置層12b上に導電プレート40が配置されている。
【0038】
また導電プレート40は銅製のプレート本体41と、プレート本体41の開口31側表面に設けられた銀めっき層42とを有する。
【0039】
本実施の形態において、導電プレート40の銅製のプレート本体41はその厚みが90μm~110μmとなっている。また銀めっき層の厚みは0.5μm~1.0μmとなっている。本実施の形態において、導電プレート40のプレート本体41として銅製のものを用いることにより、プレート本体として銀製のものを用いる場合に比べてコスト低減を図ることができる。また銅製のプレート本体41上に銀めっき層42を施すことにより、時間の経過により導電プレート40が酸化してハンダ濡れ性が低減することを防止することができる。
【0040】
このため、後述のように導電プレート40とICモジュール20を導電性接着シート27により接着させる際、導電プレート40とICモジュール20を確実に導通させながら接着させることができる。
【0041】
本実施の形態において、導電プレート40として、銅製のプレート本体41と、銀めっき層42とを有するものを用いた例を示したが、これに限らずプレート本体と、このプレート本体よりも高い耐食性を有するめっき層とを有するものを用いてもよい。なお本実施形態では、アンテナ載置層12b上に導電プレート40が配置されている態様に基づいて説明するが、導電プレートを有さず、アンテナの先端がジグザグ形状、または蛇腹形状の部位を形成することにより、当該部位が導電プレートと同様の機能を果たす構成としてもよい。
【0042】
中間生成物積層体10Aに対して切削刃50を用いて切削加工する際、アンテナ載置層12b上に設けられた導電プレート40まで上方から切削刃50を接近させて凹部30を形成する。この際、凹部30は開口31と段部32とを有し、この段部32上に導電プレート40がくるよう凹部30を加工しながら形成する。
【0043】
この場合、切削刃50は上方から導電プレート40の直上まで達するが、導電プレート40の銀めっき層42は厚みが小さいため、切削加工誤差により、加工中に銀めっき層42まで切削刃50が達して銀めっき層42を切削してしまうことも考えられる。
【0044】
本実施の形態においては、切削刃50を用いて切削加工により凹部30を形成する場合、切削刃50の先端(下端)を導電プレート40の銀めっき層42から所定距離、例えば銀めっき層42の厚み×n(1<n<40)、好ましくは銀めっき層42の厚みが5~6μmの場合、30μm程度まで離間させる。
【0045】
このことにより、切削刃50の先端が銀めっき層42まで達して、銀めっき層42を切削することはない。また、切削刃50を用いた切削加工中に導電プレート40の銀めっき層42上にアンテナカバー層12aが薄膜状に残るが、銀めっき層42上のアンテナカバー層12aの薄膜は切削加工中の振動により大部分が銀めっき層42から剥離される。
【0046】
ところで中間生成物積層体10Aの凹部30内に実装されたICモジュール20は、導電性接着シート27および導電プレート40を介してアンテナ25に接続される。
【0047】
この場合、導電性接着シート27としては異方性導電フィルムを用いることができ、内部に混入されたハンダ粒子27bを含む接着剤27aを有する。
【0048】
次に、上記の中間生成物積層体10Aの各層の材料について述べる。上記の中間生成物積層体10Aのうち、アンテナ内蔵層12を構成するアンテナカバー層12aとアンテナ載置層12bは、いずれも同一材料からなり、主成分としてPCTG樹脂を含むとともに、PCTG樹脂中に添加された酸化チタン粒子を含む。アンテナカバー層12aとアンテナ載置層12bのPCTG樹脂はリサイクルPCTG樹脂となっており、このようなリサイクルPCTG樹脂を用いることにより、化石燃料の消費抑制と廃棄プラスチックの削減を実施することができ、これにより環境負荷の低減を図ることができる。
【0049】
またリサイクルPCT樹脂中に添加される酸化チタン粒子は、アンテナ内蔵層12を白化させ、白化したアンテナ内蔵層12によりICモジュール20を外側から囲んでICモジュール20が外方へ露出することを防ぐ。
【0050】
また一対のコア層13a,13bはいずれも同一材料からなり、主成分としてPCTG樹脂とポリカーボネート樹脂とを含む。またPCTG樹脂とポリカーボネート樹脂はブレンドされ、このようにブレンドされた樹脂中に酸化チタン粒子が含有される。一対のコア層13a,13bのPCTG樹脂はリサイクルPCTG樹脂となっており、このようなリサイクルPCT樹脂を用いることにより、化石燃料の消費抑制と廃棄プラスチックの削減を実施することができ、これにより環境負荷の低減を図ることができる。
【0051】
またリサイクルPCT樹脂およびポリカーボネート樹脂のブレンド中に添加される酸化チタン粒子は、アンテナ内蔵層を白化させる。
【0052】
ところでPCTG樹脂は、グリコール変性ポリシクロヘキシレンジメチレンテレフタレートであって、透明なプラスチック、アモルファスコポリエステルである。PCTG樹脂の一般的なコモノマーは、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)で、ポリエチレンテレフタレート-1と呼ばれる。1,4-シクロヘキサンジメタノールエステルは、エステル交換によるテレフタル酸(PTA)、エチレングリコール(EG)および1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)の重縮合生成物であり、PET樹脂と比較して、1,4-PCTよりもエチレングリコールコモノマーが多いシクロヘキサンジメタノールコモノマーである。したがって、PCTG樹脂のパフォーマンスは、PET樹脂およびPCT樹脂のパフォーマンスとは大きく異なる。
【0053】
なお、上述のようにPCTG樹脂はアモルファスコポリエステルであり、共重合体のCHDMが増加すると、融点が低下し、ガラス転移温度が上昇し、結晶化度が低下し、最終的にアモルファスポリマーが形成される。一般に、PCTG樹脂のCHDMのコンテンツは30%~40%である。
【0054】
PCTG樹脂は良好な粘度、透明性、色、耐薬品性、ストレスによる白化に対する耐性があり、迅速に熱成形または押出ブロー成形できる。PCTG樹脂の粘度はアクリル(アクリル)樹脂よりも優れている。
【0055】
PCTG樹脂からなる製品は透明性が高く、耐衝撃性に優れている。PCTG樹脂は厚肉の透明製品の形成に特に適している。PCTG樹脂は優れた加工特性と成形特性を備えており、設計者の意図に従って任意の形状に設計できる。
【0056】
PCTG樹脂は、ガラスに近いガラスのような透明度と密度、良好な光沢、耐薬品性、耐衝撃性、および容易な加工性を備え、射出成形、射出延伸ブロー成形、押出ブロー成形が可能である。またPCTG樹脂はユニークな形状、外観、明るい色、マット、大理石のテクスチャ、金属光沢などの特殊効果も生成する。
【0057】
PCTG樹脂からなる製品には、香水ボトルとキャップ、化粧ボトルとキャップ、口紅チューブ、化粧品ケース、消臭剤包装、タルカムパウダーボトル、アイライナーセットが含まれる。またPETG樹脂製の注射製品には、フィルター、耳管、チューブ接続、ポンプ、クリップ、透析装置などの医療機器が含まれる。またPCTG樹脂製のカップ、サラダボウル、ソルトシェーカー、ペッパーシェーカーなどの家庭用品は、優れた透明性、光沢、優れた靭性、作業性、優れた着色性を備えている。
【0058】
以上のように、PCTG樹脂は、その高い透明性、良好な靭性と衝撃強度、優れた低温靭性、高い引き裂き抵抗と優れた加工特性、優れた耐薬品性を備えているため、広い範囲に渡る製品の原料として用いられている。
【0059】
本実施の形態によれば、中間生成物積層体10Aのアンテナカバー層12aおよびアンテナ載置層12b、一対のコア層13a,13bの主成分として、リサイクルPCTG樹脂を用いている。またPCTG樹脂はその優れた特性のために、広い範囲に渡る製品の原料として多量に用いられている。このため広い範囲に渡って使用された製品や製造ロス品、廃棄処分品などからリサイクル加工したリサイクルPCTG樹脂を大量にかつ容易に回収することができる。そしてこのように大量に回収可能なリサイクルPCTG樹脂を有効に活用して、化石燃料の消費抑制と廃棄プラスチックの削減を図り、環境負荷の低減を実現することができる。
【0060】
ここで「リサイクルPCTG樹脂」とは、すでに出回った後廃棄された製品を回収し、回収された製品から取り出されたPCTG樹脂、またはPCTG樹脂そのものを製造する材料メーカーで発生する不良品や端材等のプレ・コンシューマ材料をリサイクル加工してカードや冊子体といった製品として使えるものをいう。
【0061】
「リサイクルPCTG樹脂」は、未だ製品となる前の「バージンPCTG樹脂」に対する用語である。リサイクルPCTG樹脂は、すでに作製された製品から取り出された樹脂であって、その特性はバージンPCTG樹脂の予め求められた値から大きく変動している。
【0062】
例えばPCTG樹脂の特性が樹脂の軟化温度の場合、バージンPCTG樹脂の予め定められた軟化温度に対して、±3%の範囲を超えて相違する軟化温度を有するPCTG樹脂を「リサイクルPCTG樹脂」と定めることができる。
【0063】
他方、通常のバージンPCTG樹脂は、上記予め定められた軟化温度に対し、±3%の範囲に入る軟化温度を有している。
【0064】
ところで、上述のようにアンテナ内蔵層12を構成するアンテナカバー層12aとアンテナ載置層12bは主成分としてリサイクルPCTG樹脂を含む。また一対のコア層13a,13bは主成分としてリサイクルPCTG樹脂とポリカーボネート樹脂とを含む。
【0065】
本実施の形態において、一対のコア層13a,13bのリサイクルPCTG樹脂と、ポリカーボネート樹脂との混合割合は、例えば10:90~90:10となっており、このため一対のコア層13a,13bはリサイクルPCTG樹脂の特性とポリカーボネート樹脂の特性との間の中間の特性をもつ。
【0066】
例えば樹脂の軟化点を考えると、リサイクルPCTG樹脂の軟化点は一例では約90℃のものであり、ポリカーボネート樹脂の軟化点は約150℃である。このため一対のコア層13a,13bの軟化点は、上記の混合割合に基づくと、96℃~144℃の範囲となる。
【0067】
他方、アンテナ内蔵層12のアンテナカバー層12aとアンテナ載置層12bは主成分としてリサイクルPCTG樹脂を含み、その軟化点は一例では約90℃となる。
【0068】
このため一対のコア層13a,13bの軟化点は、アンテナ内蔵層12の軟化点より、6℃~54℃だけ、好ましくは6℃~40℃だけ高くなり、一対のコア層13a,13bはアンテナ内蔵層12より高い耐熱性を有する。
【0069】
本実施の形態において、後述のように各層12a,12b,18a,18b,13a,13b,14a,14b,15,16,17を互いに重ね、熱プレスにより各層12a,12b,18a,18b,13a,13b,14a,14b,15,16,17を加熱圧着することにより中間生成物積層体10Aが得られる。
【0070】
この場合、一対のコア層13a,13bに対してアンテナ内蔵層12の耐熱性は低くなっているため、中間生成物積層体10Aの加熱圧着時にアンテナ内蔵層12は軟質状態となってアンテナ25を保持することになる。このように中間生成物積層体10Aの加熱圧着時に軟質状態のアンテナ内蔵層12によりアンテナ25を保持することになるため、加熱圧着時に剛性の高いアンテナ25から大きな反作用が一対のコア層13a,13bに対して働くことはない。
【0071】
中間生成物積層体10Aの加熱圧着時に剛性の高いアンテナ25から一対のコア層13a,13bに対して大きな反作用が働くと、コア層13a,13bに加わる力により絵柄印刷層16の絵柄印刷16Aに割れや傷が生じることも考えられる。
【0072】
本実施の形態によれば、中間生成物積層体10Aの加熱圧着時にアンテナ内蔵層12は軟質状態となってアンテナ25を保持することができる。このため、加熱圧着時に剛性の高いアンテナ25から大きな反作用が一対のコア層13a,13bに働くことはなく、このため加熱圧着時に絵柄印刷層16の絵柄印刷16Aに割れや傷が生じることはない。よって、製造時に絵柄印刷16Aに割れや傷が生じることを防ぐことができる。
【0073】
なお、アンテナ内蔵層12と一対のコア層13a,13bとの間に設けられた中間層18a,18bはPETG樹脂を含む。また一対のコア層13a,13bに設けられたオーバーシート層14a,14bもPETG樹脂を含む。
【0074】
ここでPETG樹脂とはグリコール変性ポリエチレンテレフタレートであってPET樹脂の非晶質バリエーションである。PETG樹脂は成形加工時でもポリマーが結晶化せず、PET樹脂を改質することで非晶化された樹脂である。
【0075】
PETG樹脂は透明度および耐薬品性が優れるが、軟化点がPCTG樹脂より低く、このためPCTG樹脂より耐熱性が低い。
【0076】
このことにより中間生成物積層体10Aの加熱圧着時に中間層18a,18b、オーバーシート層14a,14bが容易に軟化して容易に中間生成物積層体10Aを製造することができる。
【0077】
また本実施の形態において、オーバーシート層14a,14bのうち、裏面側のオーバーシート層14中にレーザ光発色剤を混入させてもよい。この場合、ICカード10の裏面側からレーザ光を照射することにより、ICカード10に対してレーザ光を用いて文字を形成することができる。
【0078】
すなわちICカード10の裏面側からレーザ光を照射することにより、レーザ光によりオーバーシート層14中のレーザ光発色剤が熱エネルギをもつ。そしてレーザ光発色剤に接するPETG樹脂に含まれる炭素が黒化して文字を表示する。
【0079】
図1に示すように、表面側のオーバーシート層14a上には、隠蔽層15と、絵柄印刷層16と、剥離層17とが、この順で内側から外側へ向かって順次設けられている。
【0080】
本実施の形態において、隠蔽層15は例えば銀色、黒色、金色または赤色を含み銀色の隠蔽層はアルミニウム製となっている。
【0081】
また絵柄印刷層16はインキを塗布して絵柄印刷16Aを形成することにより得られる。なお、
図1では絵柄印刷層16が層全面にベタな印刷となっているが、絵柄印刷層16は、
図5の絵柄印刷16Aのような部分的な印刷からなっていてもよい。
【0082】
上記の隠蔽層15と絵柄印刷層16は、予め剥離層17を介して転写シート基材(図示せず)上に設けられており、隠蔽層15と絵柄印刷層16は、転写シート基材上の隠蔽層15と絵柄印刷層16を剥離層17とともに表面側のオーバーシート層14a上に転写することによりオーバーシート層14a上に形成される。
【0083】
本実施の形態において、剥離層17は透明体からなりインキから得られる。このうち、剥離層を形成するインキとしては、以下のような構成のものが考えられる。
【0084】
樹脂1(アクリル樹脂)含有量20~30%、樹脂2(塩酢ビ樹脂)含有量5%以下、樹脂3(ポリエステル樹脂)含有量1%以下、紫外線吸収剤、含有量2%以下、メチルエチルケトン、含有量30~40%、トルエン(300)、含有量34.0~36.0%、ポリエチレンワックス、含有量1%以下。
【0085】
<ICカード積層体の製造方法>
次にこのような構成からなるICカード(ICカード積層体)10の製造方法について
図4A乃至
図4Cにより説明する。
【0086】
まず
図4Aに示すように、ICモジュール20に接続されるアンテナ25と、アンテナ25を内蔵するアンテナ内蔵層12と、アンテナ内蔵層12の両面に中間層18a,18bを介して設けられた一対のコア層13a,13bと、一対のコア層13a,13bの両面に設けられた一対のオーバーシート層14a,14bとを備えた中間生成物積層体10Aを準備する。
【0087】
また中間生成物積層体10Aは更に表面側のオーバーシート層14a上に設けられた隠蔽層15と、絵柄印刷層16と、剥離層17とを有し、さらに表面側および裏面側に設けられた磁気記録部19を有する。
【0088】
次に、中間生成物積層体10Aを作製する加熱圧着工程について述べる。まず、アンテナ内蔵層12はアンテナカバー層12aとアンテナ載置層12bとを有し、アンテナ内蔵層12のアンテナ載置層12b上に、互いに分離した一対の導電プレート40が載置される。この際、各導電プレート40はプレート本体41と銀めっき層42とを有する。また、アンテナカバー層12aとアンテナ載置層12bとの間でアンテナ25が挟持される。次にアンテナ内蔵層12の両側に一対の中間層18a,18bが積層される。
【0089】
そして、中間層18aと、アンテナ25を挟持するアンテナカバー層12aおよびアンテナ載置層12bと、中間層18bとが熱プレス機(図示せず)により最初に加熱圧着される(プレ加熱圧着)。
【0090】
その後、プレ加熱圧着された中間層18aの表面に、コア層13a、オーバーシート層14aが順次積層される。次にオーバーシート層14a上に隠蔽層15、絵柄印刷層16、剥離層17および転写シート基材(図示せず)が積層される。同様にプレ加熱圧着された中間層18aの表面に、コア層13bおよびオーバーシート層14bが順次積層される。
【0091】
そしてこのようにして積層されたアンテナ内蔵層12、一対の中間層18a,18b、一対のコア層13a,13b、一対のオーバーシート層14a,14b、隠蔽層15、絵柄印刷層16、剥離層17および転写シート基材(図示せず)が熱プレス機により再度加熱圧着される(本加熱圧着)。
【0092】
このように、プレ加熱圧着と本加熱圧着とが実施されて中間生成物積層体10Aが得られる。上述のように一対のコア層13a,13bに対してアンテナ内蔵層12の耐熱性は低くなっているため、中間生成物積層体10Aの加熱圧着時にアンテナ内蔵層12は軟質状態となってアンテナ25を保持することになる。このように中間生成物積層体10Aの加熱圧着時に軟質状態のアンテナ内蔵層12によりアンテナ25を保持することになるため、加熱圧着時に剛性の高いアンテナ25から大きな反作用が一対のコア層13a,13bに対して働くことはない。
【0093】
このように本実施の形態によれば、中間生成物積層体10Aの加熱圧着時にアンテナ内蔵層12は軟質状態となってアンテナ25を保持することができるため、加熱圧着時に剛性の高いアンテナ25から大きな反作用が一対のコア層13a,13bに働くことはなく、このため加熱圧着時に絵柄印刷層16の絵柄印刷16Aに割れや傷が生じることはない。
【0094】
その後、中間生成物積層体10Aから転写シート基材が剥離され、オーバーシート層14a上に隠蔽層15、絵柄印刷層16および剥離層17が転写される。
【0095】
次に
図4Bに示すように、中間生成物積層体10Aに対して中間生成物積層体10Aの表面側から切削刃50を用いて切削加工を施して凹部30を形成する。この場合、中間生成物積層体10Aの表面側(上方)から切削刃50を降下させ、切削刃50を導電プレート40の直上まで接近させて凹部30を形成する。この際、凹部30は開口31と段部32とを有し、この段部32上に導電プレート40がくるよう凹部30を切削刃50により加工しながら形成する。
【0096】
その後、中間生成物積層体10Aの凹部30内にICモジュール20が実装される。そして中間生成物積層体10Aの凹部30に実装されたICモジュール20は導電性接着シート27により凹部30の段部32上に載置されかつ接着される。このときICモジュール20はその導電部23が導電性接着シート27のハンダ粒子27bと導通して導電プレート40に電気的に接続される。このようにしてICモジュール20は、導電性接着シート27および導電プレート40を介してアンテナ25に確実に電気的に接続される。このように中間生成物積層体10Aの凹部30内にICモジュール20を実装することにより、ICカード(ICカード積層体)10が得られる(
図1参照)。
【0097】
以上のように本実施の形態によれば、中間生成物積層体10Aのアンテナカバー層12aおよびアンテナ載置層12b、一対のコア層1a,13bの主成分として、リサイクルPCTG樹脂を用いている。またPCTG樹脂はその優れた特性のために、広い範囲に渡る製品の原料として多量に用いられている。このため広い範囲に渡って使用された製品からリサイクルPCTG樹脂を大量にかつ容易に回収することができる。そしてこのように大量に回収可能なリサイクルPCTG樹脂を有効に活用して、化石燃料の消費抑制と廃棄プラスチックの削減を図り、環境負荷の低減を実現することができる。
【0098】
なお、上記の実施の形態において、中間生成物積層体10Aのオーバーシート層14a,14bのうち、裏面側のオーバーシート層14b中にレーザ光発色剤を混入させた例を示したが、これに限らず表面側のオーバーシート層14a中にレーザ光発色剤を混入させてもよい。あるいはオーバーシート層14a,14bの双方にレーザ光発色剤を混入させてもよい。
【0099】
なお、上記の実施の形態において、本開示による積層体として、ICカードを例に説明したが、ICモジュールを備える積層体としてはパスポート等冊子体のデータページや国民ID証にも応用することができる。パスポート等冊子体のデータページや国民ID証等の基材や積層体、中間生成物積層体を製造するために、PCTG樹脂、リサイクルPCTG樹脂を使用することも可能である。リサイクルPCTG樹脂を使用することで、上記の実施の形態と同様に化石燃料の消費抑制と廃棄プラスチックの削減を図り、環境負荷の低減を実現することができる。
【0100】
なお、上記の実施の形態において、本開示による積層体として、接触式および非接触式の両方を兼ね備えたデュアルインターフェース型のICカードを例に説明したが、ICモジュールを内蔵した積層体としてはデュアルインターフェース型だけでなく、接触式のICカードや非接触式のICカードにも応用することができる。接触式のICカードや非接触式のICカードの基材や積層体、中間生成物積層体を製造するために、PCTG樹脂、リサイクルPCTG樹脂を使用することも可能である。リサイクルPCTG樹脂を使用することで、上記の実施の形態と同様に化石燃料の消費抑制と廃棄プラスチックの削減を図り、環境負荷の低減を実現することができる。また、上記の実施の形態において、デュアルインターフェース型のICカード10が3重に巻かれたアンテナ25と、ICモジュール20を有し、アンテナ25とICモジュール20とを導電プレート40を介して接続した例を示した。この場合、ICモジュール20と導電プレート40の接続は、ハンダ溶接方式、ペースト方式、ACF方式を用いた方式が考えられる。また、アンテナ25とICモジュール20とを導電プレートを用いることなく、電磁誘導結合方式(CoM方式)で接続してもよい。また、ICカード10が導電プレートを有さず、アンテナ25の先端がジグザグ形状、または蛇腹形状の部位を形成することにより、当該部位が導電プレートと同様の機能を果たす場合、アンテナ25とICモジュール20とをACF方式によって接続してもよい。
【符号の説明】
【0101】
10 ICカード
10A 中間生成物積層体
12 アンテナ内蔵層
12a アンテナカバー層
12b アンテナ載置層
13a コア層
13b コア層
14a オーバーシート層
14b オーバーシート層
15 隠蔽層
16 絵柄印刷層
17 剥離層
19 磁気記録部
20 ICモジュール
21 基板
22 ICチップ体
22a ICチップ
22b 封止樹脂
22c 配線
23 導電部
25 アンテナ
27 導電性接着シート
30 凹部
31 開口
32 段部
40 導電プレート
41 プレート本体
42 銀めっき層
50 切削刃