(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160503
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】軌道回路装置及び列車在線判定方法
(51)【国際特許分類】
B61L 1/18 20060101AFI20231026BHJP
【FI】
B61L1/18 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070913
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001292
【氏名又は名称】株式会社京三製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124682
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100104710
【弁理士】
【氏名又は名称】竹腰 昇
(74)【代理人】
【識別番号】100090479
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 一
(72)【発明者】
【氏名】佐野 実
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋一
(72)【発明者】
【氏名】金子 亮
【テーマコード(参考)】
5H161
【Fターム(参考)】
5H161AA01
5H161BB02
5H161CC20
5H161DD02
5H161DD32
5H161FF02
5H161FF07
(57)【要約】
【課題】従来の軌道回路装置とは原理が全く異なる軌道回路装置の技術を提供すること。
【解決手段】軌道回路装置1は、レールに送信された交流信号の送信電圧及び送信電流を測定し、測定した送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差に基づくインピーダンス相当値を算出し、算出したインピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、列車在線を判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信手段によってレールに送信された交流信号の送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差に基づくインピーダンス相当値を算出する算出手段と、
前記インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、列車在線を判定する判定手段と、
を備える軌道回路装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記送信手段による前記交流信号の送信点を基準とした、列車の在線位置を判定する、
請求項1に記載の軌道回路装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記実数成分及び前記虚数成分を各軸とする座標系における前記インピーダンス相当値のプロット点に基づいて、前記送信点を基準とした列車の在線位置を判定する、
請求項2に記載の軌道回路装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記座標系における所定の基準軌跡に沿った前記プロット点の位置に基づいて、前記列車の在線位置を判定する、
請求項3に記載の軌道回路装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、前記レールの状態を判定する、
請求項1~4の何れか一項に記載の軌道回路装置。
【請求項6】
前記判定手段は、前記送信手段による前記交流信号の送信点を基準とした、前記レールの異常箇所を判定する、
請求項5に記載の軌道回路装置。
【請求項7】
前記判定手段は、前記プロット点が前記基準軌跡から外れた場合に、当該外れた位置に基づいて、漏れコンダクタンス及び/又はレール破断に係る前記レールの異常箇所を判定する手段を有する、
請求項4に記載の軌道回路装置。
【請求項8】
前記判定手段は、前記虚数成分の値の正負に基づいてレール破断の有無を判定するレール破断判定手段を有する、
請求項1~4の何れか一項に記載の軌道回路装置。
【請求項9】
前記レール破断判定手段は、前記インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、前記送信手段による前記交流信号の送信点を基準としたレール破断の位置を判定する、
請求項8に記載の軌道回路装置。
【請求項10】
前記判定手段は、前記実数成分及び前記虚数成分を各軸とする座標系における前記インピーダンス相当値のプロット点が、前記送信手段による前記交流信号の送信点からの距離に応じて定められた前記インピーダンス相当値の許容変動範囲外であるか否かに基づいて、前記レールの異常又は異常兆候を判定する、
請求項1~4の何れか一項に記載の軌道回路装置。
【請求項11】
送信手段によってレールに送信された交流信号の送信電圧及び送信電流を測定することと、
前記送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差に基づくインピーダンス相当値を算出することと、
前記インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、列車在線を判定することと、
を含む列車在線判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軌道回路装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の軌道回路装置は、軌道回路のレールの一端に列車検知信号を送信する送信器を接続し、他端に接続した受信器での受信レベルの低下によって列車在線を判定している(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の軌道回路装置では、軌道回路のレールの一端に列車検知信号を送信し、所定距離離れている他端で受信レベルを監視していることから、一定レベル以上の送信電力が必要であった。そのため、省エネルギー化が困難であった。また、従来の軌道回路装置は、原理上、送信器と受信器とが必要であった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、従来の軌道回路装置とは原理が全く異なる軌道回路装置の技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するための第1の発明は、
送信手段(例えば、
図1の送信器10)によってレールに送信された交流信号の送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差に基づくインピーダンス相当値を算出する算出手段(例えば、
図1のインピーダンス相当値算出部34)と、
前記インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、列車在線を判定する判定手段(例えば、
図1の判定部35)と、
を備える軌道回路装置である。
【0007】
他の発明として、
送信手段によってレールに送信された交流信号の送信電圧及び送信電流を測定することと、
前記送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差に基づくインピーダンス相当値を算出することと、
前記インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、列車在線を判定することと、
を含む列車在線判定方法を構成してもよい。
【0008】
第1の発明等によれば、従来の軌道回路装置とは原理が全く異なる軌道回路装置の技術を提供することができる。第1の発明等は、列車在線か非在線かによって交流信号の送信点からみた軌道回路のインピーダンスが変化し、このインピーダンスの変化によって送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差が変化することに着目した技術である。第1の発明等によれば、送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差から軌道回路のインピーダンス相当値を判定し、そのインピーダンス相当値を複素数で表したときの実数成分(抵抗成分)及び虚数成分(リアクタンス成分)に基づいて、列車在線を判定する。レールに送信された交流信号の送信電圧及び送信電流に基づいて列車在線を判定することができるため、受信器が不要であり、受信点で一定の信号レベルとなる信号を送信する必要もないため、送信電力を低減することができる。その結果、省エネルギー化を図った軌道回路装置を実現することができる。また、受信器が不要となることで、軌道回路装置の構成部品を削減することができるといった更なる効果も得られる。
【0009】
第2の発明は、上述した発明において、
前記判定手段は、前記送信手段による前記交流信号の送信点を基準とした、列車の在線位置を判定する、
軌道回路装置である。
【0010】
第2の発明によれば、交流信号の送信点を基準とした列車の在線位置を判定することができる。これは、交流信号の送信点からみた軌道回路のインピーダンスは、列車の車軸によるレールの短絡位置に応じて変化するからである。
【0011】
第3の発明は、上述した発明において、
前記判定手段は、前記実数成分及び前記虚数成分を各軸とする座標系における前記インピーダンス相当値のプロット点に基づいて、前記送信点を基準とした列車の在線位置を判定する、
軌道回路装置である。
【0012】
第3の発明によれば、実数成分及び虚数成分を各軸とする座標系(複素平面)におけるインピーダンス相当値のプロット点に基づいて、列車の在線位置を判定することができる。これは、軌道回路のインピーダンスは、列車の車軸によるレールの短絡位置に応じて決まるからである。このため、予め、列車の在線位置と座標系におけるインピーダンス相当値のプロット点の位置とを対応付けておくことで、列車の在線位置を判定することができる。
【0013】
第4の発明は、上述した発明において、
前記判定手段は、前記座標系における所定の基準軌跡に沿った前記プロット点の位置に基づいて、前記列車の在線位置を判定する、
軌道回路装置である。
【0014】
軌道回路のインピーダンスは、当該軌道回路における列車の在線位置、つまり、列車の車軸によるレールの短絡位置によって決まる。このため、第4の発明のように、予め、列車の在線位置と対応付けた座標系におけるインピーダンス相当値のプロット点の位置の変化を基準軌跡として定めておくことで、この基準軌跡に沿ったプロット点の位置に基づいて、列車の在線位置を判定することができる。
【0015】
第5の発明は、上述した発明において、
前記判定手段は、前記インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、前記レールの状態を判定する、
軌道回路装置である。
【0016】
レールの状態が変化すると、軌道回路のインピーダンスが変化する。このため、第5の発明のように、例えば、現在のインピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値を、レールが正常状態であるときのインピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分と比較することで、正常状態であるか否かといったレールの状態を判定することができる。
【0017】
第6の発明は、上述した発明において、
前記判定手段は、前記送信手段による前記交流信号の送信点を基準とした、前記レールの異常箇所を判定する、
軌道回路装置である。
【0018】
第6の発明によれば、レールの状態として、交流信号の送信点を基準としたレールの異常箇所を判定することができる。
【0019】
第7の発明は、上述した発明において、
前記判定手段は、前記プロット点が前記基準軌跡から外れた場合に、当該外れた位置に基づいて、漏れコンダクタンス及び/又はレール破断に係る前記レールの異常箇所を判定する手段を有する、
軌道回路装置である。
【0020】
第7の発明によれば、レールの状態として、漏れコンダクタンス及び/又はレール破断に係るレールの異常箇所を判定することができる。例えば、レールの水没による漏れコンダクタンスの増加といった漏れコンダクタンスに係る異常がレールに発生すると、その異常箇所を列車が通過する前後で、列車の在線位置により軌道回路のインピーダンスの変化量が変わる。このため、プロット点が基準軌跡から外れた場合に、基準軌跡に戻った位置を漏れコンダクタンスに係るレールの異常箇所として判定することができる。より具体的には、漏れコンダクタンスに係る異常箇所の前後を列車が通過する場合に、当該異常箇所より手前では基準軌跡の始点から外れ(送信点側に移動)、異常箇所を通過後は基準軌跡に沿った軌跡となる。レール破断が発生した場合も、その異常箇所を列車が通過する前後で、軌道回路のインピーダンスの変化量が変わる。このため、プロット点が基準軌跡から外れた場合に、基準軌跡に戻った位置をレール破断箇所として判定することができる。より具体的には、レール破断箇所の前後を列車が通過する場合に、当該異常箇所以外は正常であるが、異常箇所以遠は基準軌跡を外れるため、プロット点が基準軌跡に沿った位置と基準軌跡から外れた位置との間で変位することになる。
【0021】
第8の発明は、上述した発明において、
前記判定手段は、前記虚数成分の値の正負に基づいてレール破断の有無を判定するレール破断判定手段を有する、
軌道回路装置である。
【0022】
第8の発明によれば、インピーダンス相当値の虚数成分の値の正負に基づいて、レール破断の有無を判定することができる。これは、レール破断が生じると、インピーダンス相当値の虚数成分が負値となるからである。
【0023】
第9の発明は、上述した発明において、
前記レール破断判定手段は、前記インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、前記送信手段による前記交流信号の送信点を基準としたレール破断の位置を判定する、
軌道回路装置である。
【0024】
第9の発明によれば、インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、交流信号の送信点を基準としたレール破断の位置を判定することができる。これは、レール破断が生じると、インピーダンス相当値の虚数成分が負値となるとともに、実数成分と虚数成分がともに交流信号の送信点からレール破断の位置までの距離に応じた値に変化するからである。
【0025】
第10の発明は、上述した発明において、
前記判定手段は、前記実数成分及び前記虚数成分を各軸とする座標系における前記インピーダンス相当値のプロット点が、前記送信手段による前記交流信号の送信点からの距離に応じて定められた前記インピーダンス相当値の許容変動範囲外であるか否かに基づいて、前記レールの異常又は異常兆候を判定する、
軌道回路装置である。
【0026】
レールに何らかの異常又は異常兆候が生じると、軌道回路のインピーダンスが変化する。また、通常、レールは屋外に設けられるから、気温や湿度、降雨、降雪といった周囲環境によって軌道回路のインピーダンスは変動し得る。このため、第10の発明のように、例えば、予め定めたレールが正常状態であるときのインピーダンス相当値のプロット点の位置を基準として、レールの正常状態とみなせる許容変動範囲を定めておくことで、インピーダンス相当値のプロット点が許容変動範囲外であるか否かに基づいて、レールの異常又は異常兆候を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図3】交流信号の送信電圧波形及び送信電流波形の一例。
【
図4】インピーダンス相当値のプロット点の変化の一例。
【
図5】レール破断が生じた場合のインピーダンス相当値のプロット点の変化の一例。
【
図6】レール破断が生じた場合のインピーダンス相当値のプロット点の変化の一例。
【
図7】漏れコンダクタンスに係る異常が生じた場合のインピーダンス相当値のプロット点の変化の一例。
【
図11】有絶縁軌道回路の場合のインピーダンス相当値のプロット点の変化の一例。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明を適用可能な形態が以下の実施形態に限定されるものではない。また、図面の記載において、同一要素には同一符号を付す。
【0029】
[構成]
図1は、本実施形態における軌道回路装置1の適用例である。軌道回路装置1は、レールに対して交流信号を送信し、その交流信号の送信電圧及び送信電流に基づいて、列車在線を判定するとともにレールの状態をも判定する装置である。軌道回路装置1は、送信器10と、電流センサ20と、処理装置30とを備える。なお、軌道回路装置1を一箇所に集中設置する場合には長いケーブルが必要になるが、その場合にはケーブルや軌道のインピーダンスをある程度整合させるマッチングトランスも設けられる。
【0030】
送信器10は、処理装置30の制御に従って、軌道回路のレールを区切った検知区間T1の送信点へ、送信ケーブルを介して一定レベルの交流信号を送信する。送信点は、検知区間T1の進出側の端部に設けられている。また、軌道回路は、無絶縁軌道回路でも有絶縁軌道回路でも構わないが、本実施形態では無絶縁軌道回路であるとして説明する。従って、送信点から検知区間T1のレールへ送信された交流信号は、検知区間T1に隣接する他の区間へも伝搬する。電流センサ20は、送信器10とレールとの間の送信ケーブルに設けられており、レールに送信される交流信号の電流(交流電流)を計測する。
【0031】
処理装置30は、送信電圧波形取得部31と、送信電流波形取得部32と、直交検波回路部33と、インピーダンス相当値算出部34と、判定部35と、送信電圧出力部36と、送信電圧・周波数設定部37と、設定周波数・送信レベル判定部38と、ノイズ計測部39とを有する。処理装置30の各機能部は、当該機能を実現する信号処理を行う回路部や、当該機能をソフトウェア的に実現する演算処理部を用いて構成することもできる。
【0032】
送信電圧波形取得部31は、送信ケーブルを介して検知区間T1のレールに送信される交流信号の送信電圧の波形(送信電圧波形)を取得する。送信電流波形取得部32は、電流センサ20により計測される送信電流の波形(送信電流波形)を取得する。直交検波回路部33は、送信電圧波形及び送信電流波形を直交検波し、送信電圧及び送信電流の振幅と、送信電圧に対する送信電流の位相差とを出力する。インピーダンス相当値算出部34は、直交検波回路部33から出力された送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差に基づいて、軌道回路のインピーダンス相当値を複素数で示した実数成分及び虚数成分を算出する。なお、この軌道回路のインピーダンス相当値については詳細を後述する。
【0033】
判定部35は、インピーダンス相当値算出部34により算出されたインピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値に基づいて、列車在線やレールの状態を判定する。なお、この列車在線やレールの状態の判定については詳細を後述する。
【0034】
送信電圧出力部36は、送信電圧・周波数設定部37により設定された送信電圧を送信器10に出力する。送信電圧・周波数設定部37は、設定周波数・送信レベル判定部38により判定された送信レベルの交流信号となるように、送信電圧出力部36の送信電圧を制御する。また、設定周波数・送信レベル判定部38により設定された設定周波数の交流信号となるように、送信器10の送信スイッチをオン・オフ制御する。設定周波数・送信レベル判定部38は、ノイズ計測部39により計測されたノイズ(帰線雑音)に基づいて、レールに送信すべき交流信号の周波数及び送信レベルを判定する。ノイズ計測部39は、軌道回路のレールに生じるノイズ(帰線雑音)を計測する。なお、これらのノイズの計測や交流信号の周波数・レベルの設定については詳細を後述する。
【0035】
[列車在線の判定]
判定部35による列車在線の判定について説明する。
図2は、検知区間T1を軌道回路と見立てた場合の等価回路を示す図である。
図2には、列車の在線有無及び在線位置に応じた等価回路を示す。
図2において、上側には、非在線時の等価回路を示し、中央には、検知区間T1への列車の進入直後(
図1の在線位置L2)の等価回路を示し、下側には、列車の送信点への進入時(到達時)(
図1の在線位置L3)の等価回路を示している。なお、レールの状態は正常(異常が生じていない)であるとする。この等価回路の合成インピーダンスが、交流信号の送信点からみた軌道回路のインピーダンスとなる。
【0036】
図2の上側に示すように、非在線時の軌道回路の等価回路は、レールのインダクタンス成分La、直列抵抗成分Ra、レール間の静電容量成分C、及び、漏れコンダクタンス成分G=1/Rbにより構成される。また、
図2の中央に示すように、検知区間T1への列車の進入直後の軌道回路の等価回路は、検知区間T1のレールのインダクタンス成分La、直列抵抗成分Ra、レール間の静電容量成分C、漏れコンダクタンス成分G=1/Rb、及び、車軸短絡によるインピーダンスRvにより構成される。
【0037】
本実施形態において、軌道回路は無絶縁軌道回路であるので、送信点からレールに送信された交流信号は検知区間T1の隣接区間へも伝搬する。このため、列車が検知区間T1に到達していない状態であってもある程度の距離まで接近していれば、車軸短絡インピーダンスRvが影響する。また、列車が検知区間T1を進出した後も、ある程度の距離まで遠ざかるまでは、車軸短絡インピーダンスRvが影響する。この車軸短絡インピーダンスRvが影響する範囲(交流信号が到達する範囲)を検知可能範囲と呼ぶ。つまり、検知可能範囲は、検知区間T1をレールに沿った前後方向に延長した範囲となる。また、軌道回路の各回路要素(レールのインダクタンス成分La、直列抵抗成分Ra、レール間の静電容量成分C、及び、漏れコンダクタンス成分G=1/Rb)は、交流信号の送信点から車軸短絡位置(列車の在線位置)までの距離に応じて決まるから、非在線時が最も大きく、交流信号の送信点への列車の接近に伴って徐々に小さくなる。
【0038】
従って、
図2の下側に示すように、列車の送信点進入時の軌道回路の等価回路は、送信点から車軸短絡位置までの距離が非常に短く、レールのインダクタンス成分La、直列抵抗成分Ra、及び、レール間の静電容量成分Cが非常に小さくなり、漏れコンダクタンス成分G=1/Rbは非常に大きくなることから、車軸短絡インピーダンスRvのみで構成される。このように、検知区間T1の列車の走行に伴って軌道回路の等価回路が変化する。つまり、軌道回路のインピーダンスが変化する。
【0039】
図3は、レールに送信する交流信号の送信電圧波形及び送信電流波形の概要を示す図である。
図3では、横軸を時間、縦軸をレベルとして、送信電圧波形及び送信電流波形を示している。また、送信電圧波形は一定であるとして、非在線時、及び、列車の送信点進入時(在線位置L3)における送信電流波形を示している。
【0040】
図2に示したように、検知区間T1への進入から進出という列車の走行に伴って、検知区間T1の軌道回路の等価回路は変化する。つまり、交流信号の送信点からみた軌道回路のインピーダンスが変化することから、送信電圧波形に対して送信電流波形が変化する。具体的には、列車が検知区間T1へ進入して送信点に近づくに従って、送信電圧波形に対して、送信電流波形の位相は逆相方向へ移相し、送信電流波形のレベル(振幅)は大きくなる。軌道回路のインピーダンスの変化に応じて送信電流波形の振幅(レベル)及び位相が変化するのである。このことから、送信電圧波形及び送信電流波形の振幅と、送信電圧波形に対する送信電流波形の位相差とを、軌道回路のインピーダンスに相当する値(インピーダンス相当値)とみなすことができる。
【0041】
本実施形態では、直交検波回路部33が、送信電圧波形及び送信電流波形を直交検波して送信電圧波形及び送信電流波形の振幅及び位相差を出力する。そして、インピーダンス相当値算出部34が、その振幅及び位相差に基づいて、軌道回路のインピーダンス相当値を複素数で示した実数成分及び虚数成分を算出する。
【0042】
図4は、検知区間T1を列車が走行する際の軌道回路のインピーダンス相当値の変化を示す図である。
図4では、実数成分及び虚数成分を各軸とした直交座標系(複素平面)において、インピーダンス相当値をプロットした図を示している。また、非在線時から列車が検知区間T1へ進入して進出するまでの、軌道回路のインピーダンス相当値のプロット点の変化(軌跡)を示している。
【0043】
図2に示した軌道回路の等価回路に示したように、列車の在線位置(つまり、レールの車軸短絡位置)の変化に伴って、軌道回路のインピーダンス相当値はアナログ的に変化する。従って、インピーダンス相当値のプロット点の位置の変化も連続的な軌跡となる。具体的には、非在線時には、軌道回路のインピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値はともに正値であり、プロット点の位置P1は第1象限となる。このプロット点の位置P1は、レールの状態が正常ならば、ほぼ固定の位置となる。
【0044】
そして、列車が検知可能範囲に進入すると、列車の在線位置(つまり、レールの車軸短絡位置)の変化に伴って、軌道回路のインピーダンスが変化することでインピーダンス相当値のプロット点の位置が位置P1から徐々に変化する。つまり、交流信号の送信点から車軸短絡位置までの距離が徐々に短くなるため、インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分の値が徐々に小さくなり、直交座標系の原点Oに向かう方向(近づく方向)に変化する。位置P2は、列車が検知区間T1に進入直後(
図1の在線位置L2)のインピーダンス相当値のプロット点の位置である。
【0045】
続いて、列車の送信点進入時(
図1の在線位置L3)のインピーダンス相当値のプロット点の位置は、原点Oの近傍の位置P3となる。列車が送信点を進出(通過)した後は、インピーダンス相当値のプロット点は、今までの逆順で、位置P1に徐々に戻るように変化する。したがって、プロット点が原点O(或いは原点Oに極めて近い位置)に最近接した後に位置P1に向けて変位し始めたことを検知することで、軌道回路装置1は、列車が送信点を進出したことを判断することができる。つまり、軌道回路装置1は、プロット点が変位しており、原点Oに向かっているか、原点Oから遠ざかっているかで、送信点に対する列車の進行方向を判断することができる。
【0046】
このように、実数成分及び虚数成分を各軸とする直交座標系(複素平面)における軌道回路のインピーダンス相当値のプロット点の変化から、検知区間T1の在線有無を判定することができる。また、プロット点が位置P1であるときには在線無し(非在線)であり、プロット点が位置P1から原点Oに向かうような変化を始めたことによって、検知区間T1への列車の接近を判定する。次いで、プロット点が位置P2となったことによって、検知区間T1への列車の進入、つまり在線有りと判定し、続いて、プロット点が位置P2から位置P3(原点O)まで変位した後に、再度、位置P2まで戻ったことによって、検知区間T1からの列車の進出、つまり在線無しと判定する。その後は、プロット点が位置P1まで戻るような変化によって、検知区間T1から進出した列車が遠ざかっていることを判定する。そして、新たに別の列車が接近する場合は、インピーダンス相当値のプロット点の位置が位置P1から変化することによって、同様に、在線有無を判定することができる。
【0047】
このように、本実施形態における軌道回路は無絶縁軌道回路であるので、送信点からレールに送信された交流信号は、検知区間T1の進出端側(進行方向前方)の隣接区間へも伝搬する。このため、その進出側の隣接区間をも検知区間T1に含めて在線有無を判定するようにしてもよい。この場合、インピーダンス相当値のプロット点が位置P3(原点O)に変位した後、更に、隣接区間の距離に応じた位置まで変位したことによって、検知区間T1からの列車の進出(在線無し)を判断することができる。
【0048】
また、直交座標系(複素平面)におけるインピーダンス相当値のプロット点の位置は、軌道回路のインピーダンス、つまり、レールの短絡位置(列車の在線位置)に応じて決まる。このため、予め、列車の在線位置(レール短絡位置)とインピーダンス相当値のプロット点の位置との対応関係を測定等によって求めておくことで、プロット点の位置に基づいて、交流信号の送信点を基準とした在線位置を判定することができる。
【0049】
また、この直交座標系(複素平面)におけるインピーダンス相当値のプロット点の変化である軌跡は、検知区間に応じて定まる固有の形状を有する。このため、予め、レールが正常(異常無し)である状態において、列車の走行(通過)に伴うインピーダンス相当値の軌跡を求めておくことができる。レールの状態が正常であるときのインピーダンス相当値のプロット点の軌跡を、基準軌跡と呼ぶ。
【0050】
[レールの状態の判定]
続いて、判定部35によるレールの状態の判定について説明する。レールの状態の判定は、インピーダンス相当値のプロット点を基準軌跡と比較することで行う。また、レールの状態の判定は、レールの状態が正常であるか否か(異常であるか)であり、レールの異常状態として、レール破断及び漏れコンダクタンスに係る異常を判定する。
【0051】
(A)レール破断
図5は、レール破断が生じた場合のインピーダンス相当値のプロット点の一例を示す図である。
図5では、実数成分及び虚数成分を各軸とする直交座標系(複素平面)におけるインピーダンス相当値のプロット点を示しており、基準軌跡を併せて示している。
図5に示すように、正常状態における非在線時のプロット点の位置は位置P1である。レール破断が生じると、プロット点の位置が位置P1から大きく変化する。具体的には、インピーダンス相当値の実数成分は正値のままであるが、虚数成分が負値に変化する。このため、プロット点の位置が、第1象限から第4象限へ遷移する。また、レール破断位置が交流信号の送信点に近いほど、インピーダンス相当値の実数成分及び虚数成分がともに大きくなるため、原点Oから離れた位置P4に遷移する。
図5では、レール破断位置が異なる場合それぞれのインピーダンス相当値のプロット点の位置P4-1,P4-2を示している。プロット点が位置P4-1である場合は、位置P4-2である場合よりも、レール破断位置が送信点に近いことを示している。
【0052】
また、レール破断が生じた場合の直交座標系(複素平面)におけるインピーダンス相当値のプロット点の位置P4は、その破断位置に応じて決まる。このため、予め、レール破断位置とインピーダンス相当値のプロット点の位置P4との対応関係を測定や演算等によって求めておくことで、プロット点の位置P4からレールの破断位置を判定することができる。
【0053】
このように、レール破断が生じた場合には、基準軌跡に対して外れた位置P4にインピーダンス相当値のプロット点が位置するが、
図6に示すように、このレール破断位置を列車が越えた後は、当該レール破断位置より送信点に近い位置で列車の車軸によってレール間が短絡されることによって、インピーダンス相当値のプロット点の位置は基準軌跡に沿って変化することとなる。このため、プロット点が基準軌跡から外れている場合において、プロット点の位置が基準軌跡に戻った後に基準軌跡に沿って変化したような場合には、そのプロット点が基準軌跡に戻った位置をレール破断位置として判定することができる。
【0054】
(B)漏れコンダクタンスに係る異常
図7は、漏れコンダクタンスに係る異常が生じた場合のインピーダンス相当値のプロット点の一例を示す図である。分かり易く示すために、レール全域で、漏れコンダクタンスに係る異常が生じた場合のインピーダンス相当値のプロット点の変化(軌跡)を太線で示している。漏れコンダクタンスに係る異常とは、
図2に示した軌道回路の等価回路における漏れコンダクタンス成分G=1/Rbの変化である。主に、雨や雪等の水分によるレール・大地間の絶縁不良によって生じる漏れコンダクタンスの増加である。
【0055】
漏れコンダクタンスに係る異常が生じると、検知区間T1を列車が走行(通過)する際の軌道回路のインピーダンスに変化が生じ、直交座標系(複素平面)におけるインピーダンス相当値のプロット点が基準軌跡から外れることになる。例えば、漏れコンダクタンス成分G=1/Rbが増加すると、軌道回路のインピーダンスが減少することからインピーダンス相当値は減少し、直交座標系(複素平面)におけるプロット点は、基準軌跡に対して短くなる。
図6では、レール全域で漏れコンダクタンスが増加していることを表しているため、列車通過に伴うインピーダンス相当値のプロット点の位置の変化は太線で示すような、基準軌跡に対して短い軌跡となる。但し、漏れコンダクタンスに係る異常が生じた場合であっても、列車の走行に伴ってプロット点の位置が直交座標系の原点Oに向かうように変化する点は、正常状態とほぼ同様である。
【0056】
つまり、漏れコンダクタンスが大きいほど、基準軌跡に対して短いプロット点の軌跡となり、非在線時(検知可能範囲に在線無し)のプロット点の位置P1と検知区間T1への列車進入時のプロット点の位置P2とが接近することになる。このため、プロット点の位置が基準軌跡での位置P2付近にある場合に、非在線であるが漏れコンダクタンスの増加のために位置P2に接近した位置P1であるのか、漏れコンダクタンスに係る異常はなく列車の検知区間T1への進入時であるのかの区別、つまり在線有無の判定が難しくなる。特に、位置P1に相当する非在線から位置P2に相当する検知区間T1への進入時へのプロット点の変化が判別し難い。
【0057】
ここで、軌道回路の漏れコンダクタンスはあくまで軌道回路内の回路要素であり、送信点に列車が在線している場合は、
図2に示したように、送信点からみたインピーダンスは車軸短絡インピーダンスRvのみで構成されるため、このときのインピーダンスはほぼ一定である。このため、軌道回路装置1は、検知区間T1の隣接区間を検知区間とする他の軌道回路装置による在線有無の判定結果によって、プロット点の位置が基準軌跡での位置P2付近にある場合に、非在線であるが漏れコンダクタンスの増加のために位置P2に接近した位置P1であるのか、漏れコンダクタンスに係る異常はなく列車の検知区間T1への進入時であるのかを区別することができる。つまり、漏れコンダクタンスに係る異常が発生しているのか否かを判定することができる。
【0058】
すなわち、検知区間T1の進入端側(進行方向後方)の隣接区間を検知区間T2とする他の軌道回路装置1Bが、
図8に示すように設けられているとする。上述のように、本実施形態における軌道回路は無絶縁軌道回路であるので、送信点からレールに送信された交流信号は、検知区間の進出端側(進行方向前方)の隣接区間へも伝搬する。このため、
図8では、軌道回路装置の検知区間を、送信点の前後の連続する2つの区間としている。つまり、軌道回路装置1は、送信点(位置L3)の前後の2つの検知区間T1a,T1bを検知区間T1とし、軌道回路装置1Bは、送信点(位置L1)の前後の2つの検知区間T2a,T2bを検知区間T2としている。また、軌道回路装置1が送信点(位置L3)へ送信する交流信号のレベルは、その検知可能範囲に軌道回路装置1Bの送信点(位置L1)が含まれるように設計されているとする。
【0059】
このような場合、軌道回路装置1Bの送信点(位置L1)に列車が在線している時には、軌道回路装置1Bは、送信点(位置L1)からみたインピーダンスの大きさによって、送信点(位置L1)に列車が在線していることを判定できる。そして、軌道回路装置1は、その時の送信点(位置L3)からみたインピーダンスの大きさを、正常時(漏れコンダクタンスに係る異常が発生していないとき)の大きさと比較することで、漏れコンダクタンスに係る異常が発生しているのか否かを判断できる。すなわち、漏れコンダクタンスが増加している場合には、インピーダンスの大きさが小さくなる。
【0060】
また、漏れコンダクタンスに係る異常がレール全域ではなくレールの一部で発生した場合には、列車の通過に伴うインピーダンス相当値のプロット点の位置の変化から、漏れコンダクタンスに係る異常箇所を判定することができる。つまり、レール破断が生じた場合と同様に、漏れコンダクタンスに係る異常が生じた場合には、基準軌跡に対して外れた位置にインピーダンス相当値のプロット点が位置するが、漏れコンダクタンスに係る異常箇所を列車が通過した後は、当該異常箇所より送信点に近い位置で列車の車軸によってレール間が短絡されることによって、インピーダンス相当値のプロット点の位置は基準軌跡に沿って変化することとなる。このため、プロット点が基準軌跡から外れている場合において、プロット点の位置が基準軌跡に戻った後に基準軌跡に沿って変化したような場合には、そのプロット点が基準軌跡に戻った位置を漏れコンダクタンスに係る異常箇所として判定することができる。
【0061】
(C)許容変動範囲
判定部35は、直交座標系(複素平面)におけるインピーダンス相当値のプロット点の位置を基準軌跡と比較することで、レールの状態(正常か否か)を判定する。しかし、実際には、レールの状態が正常であっても、インピーダンス相当値のプロット点の位置が基準軌跡に完全に一致するとは限らない。これは、主に、レールが屋外に設置されることで気温や湿度、降雨、降雪等の影響によるレール間の僅かな漏れコンダクタンスや静電容量成分の変動が生じていることに起因する。このため、
図9に示すように、基準軌跡に対して、基準軌跡上の位置P1におけるインピーダンス相当値の変動を許容する範囲である許容変動範囲を定める。
図9では、位置P1についての許容変動範囲を示しており、位置P1を囲むようにした破線の範囲が、位置P1についての許容変動範囲である。インピーダンス相当値のプロット点の位置がこの許容範囲を外れたことで、何らかの異常又は異常兆候と判定する。この異常又は異常兆候には、上述したレール破断や漏れコンダクタンスに係る異常が含まれ得る。
【0062】
[交流信号の送信]
次に、交流信号の送信について説明する。本実施形態において、処理装置30は、交流信号を断続的(間欠的)に送信する。交流信号の断続的な送信は、送信電圧出力部36による送信電圧の制御で実現される。
【0063】
また、交流信号を送信しない休止期間においては、送信電圧・周波数設定部37が送信器10の送信スイッチをオフ、又は、出力を断として、ノイズ計測部39がレールのノイズ(帰線雑音)を計測する。次いで、設定周波数・送信レベル判定部38が、ノイズ計測部39により計測されたノイズ(帰線雑音)に対するFFT(Fast Fourier Transformation)処理等の周波数解析処理を行って、ノイズ(帰線雑音)のレベル及び周波数を判定する。そして、ノイズ(帰線雑音)と干渉しない周波数及びレベルを、交流信号の設定周波数及び送信レベルとして判定する。
【0064】
交流信号を断続的(間欠的)に送信することで送信電力を削減することができ、軌道回路装置1の一層の省エネルギー化を図ることができる。更に、レールのノイズ(帰線雑音)のレベルに応じた最適な送信レベルの交流信号を送信するので、軌道回路装置1の更なる省エネルギー化を図ることができる。また、レールの帰線雑音以外の周波数と干渉しない最適な周波数の交流信号をレールに送信することにもなるので、レールに流れる他の信号に影響を与えることがない。
【0065】
[作用効果]
本実施形態によれば、従来の軌道回路装置とは原理が全く異なる軌道回路装置1を実現することができる。つまり、列車在線か非在線かによって交流信号の送信点からみた軌道回路のインピーダンスが変化し、このインピーダンスの変化によって送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差が変化する。このため、送信電圧及び送信電流の振幅及び位相差から軌道回路のインピーダンス相当値を判定し、そのインピーダンス相当値を複素数で示したときの実数成分(抵抗成分)及び虚数成分(リアクタンス成分)に基づいて、列車在線を判定することができる。レールに送信された交流信号の送信電圧及び送信電流に基づいて列車在線を判定することができるため、受信器が不要であり、受信点で一定の信号レベルとなる信号を送信する必要もないため、送信電力を低減することができる。その結果、省エネルギー化を図った軌道回路装置1を実現することができる。また、受信器が不要となることで、従来の軌道回路装置に比較して構成部品を削減することができるといった更なる効果も得られる。
【0066】
[変形例]
なお、本発明の適用可能な実施形態は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能なのは勿論である。
【0067】
(A)スキャニング方式
上述の実施形態では、軌道回路装置1は1つの検知区間T1に交流信号を送信するとしたが、複数の検知区間に対して、順次、切り替えて交流信号を送信する、いわゆるスキャニング方式としてもよい。
【0068】
図10は、スキャニング方式の軌道回路装置の一例を示す図である。
図10に示すように、スキャニング方式の軌道回路装置1Aは、複数の検知区間T1,T2,・・・の送信点それぞれに交流信号を送信する切替スイッチの集合である切替スイッチ群18を更に備える。処理装置30Aは、交流信号を送信する1つの検知区間(検知区間T1,T2,・・・のうちの1つ)に対応する切替スイッチを選択してオンに制御する切替信号を、切替スイッチ群18に対して出力する。そして、選択した検知区間に対して交流信号を送信する。
図10では、軌道回路の境界である送信点の前後の2つの区間を1つの検知区間としている。そして、1つの検知区間についての送信可能範囲が隣接する検知区間の送信点を含むように、送信点に送信される交流信号のレベルが設計されているとしている。これにより、軌道回路装置1Aの進入側検知区間を除いて、列車を追跡しながら、交流信号を送信する検知区間を切り替えて選択することもできる。またこの場合、検知区間T1,T2,・・・に応じて、送信する交流信号の周波数を切り替えるようにしてもよい。
【0069】
(B)有絶縁軌道回路
上述の実施形態では、軌道回路を無絶縁軌道回路として説明したが、有絶縁軌道回路としてもよい。
図11は、
図1に示した検知区間T1を有絶縁軌道回路とした場合の直交座標系(複素平面)における軌道回路のインピーダンス相当値のプロット点の軌跡の一例を示す図であり、
図4に相当する図である。有絶縁軌道回路である場合には、検知区間T1のみに交流信号が流れ、隣接区間には流れない。従って、
図11に示すように、列車が検知区間T1に進入するまでは、プロット点の位置は位置P1である。そして、列車が検知区間T1へ進入した直後(在線位置L2)に、プロット点の位置が位置P2に遷移する。その後は、無絶縁軌道回路の場合と同様に、列車の走行に伴って、プロット点の位置が位置P2から位置P3(原点O)に向かってアナログ的に変化する。列車が送信点に進入(到達)すると位置P3(原点O)となり、送信点を進出(通過)して検知区間T1を進出すると、直後に、プロット点の位置が位置P1に遷移する。
【0070】
なお、検知区間T1を、送信点の前後の2つの連続する区間としてもよい。この場合、インピーダンス相当値のプロット点の位置は、列車が送信点を進出(通過)した後は、今までの逆順で、位置P3(原点O)から位置P2に徐々に戻るように変化する。そして、検知区間T1を進出すると、直後に、プロット点の位置が位置P1に遷移する。
【0071】
(C)有絶縁軌道回路境界の絶縁不良
軌道回路が有絶縁軌道回路である場合には、レールの状態として、更に、軌道回路境界の絶縁不良を判定することができる。軌道回路境界の絶縁不良は、絶縁物上への異物堆積や絶縁物の劣化などにより生じる。
【0072】
(D)複数回の列車通過による軌跡
また、複数回の列車の通過に伴うインピーダンス相当値の軌跡を取得・収集し、これらの通過毎の軌跡を比較することで、レールの異常又は異常兆候を判定してもよい。或いは、1回の列車の通過に伴う軌跡を基準軌跡と比較することで、レールの異常又は異常兆候を判定してもよい。この通過毎の軌跡の比較や基準軌跡との比較は、例えば、軌跡を画像とみたてたパターンマッチングにより算出した類似度や、最小二乗法等により算出した誤差率が、所定の閾値条件を満たすか否かによって行うことができる。更に、レールの状態を正常と判定した場合のプロット点の位置変化に基づいて、判定部35が記憶している基準軌跡のデータを更新することとしてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…軌道回路装置
10…送信器
20…電流センサ
30…処理装置
31…送信電圧波形取得部
32…送信電流波形取得部
33…直交検波回路部
34…インピーダンス相当値算出部
35…判定部
36…送信電圧出力部
37…送信電圧・周波数設定部
38…設定周波数・送信レベル判定部
39…ノイズ計測部