(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160507
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20231026BHJP
B60N 2/64 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070923
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3B087
【Fターム(参考)】
3B087BD19
3B087CD04
3B087DA06
(57)【要約】
【課題】衝突時の乗員保護性能を向上した車両用シートを提供する。
【解決手段】座面部10、及び、バックレスト部20を有する車両用シートであって、バックレスト部は、乗員Pの身体により押圧される受圧部材123と、受圧部材への押圧に応じて、バックレスト部の側部に設けられた待機位置から、少なくとも一部が前記乗員の肩部上方へ張り出した拘束位置へ変位する肩部拘束部131とを備える構成とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の大腿部及び臀部が載せられる座面部、及び、前記座面部から上方へ張り出し、前記乗員の背部と接するバックレスト部を有する車両用シートであって、
前記バックレスト部は、前記乗員の身体により押圧される受圧部材と、
前記受圧部材への押圧に応じて、前記バックレスト部の側部に設けられた待機位置から、少なくとも一部が前記乗員の肩部上方へ張り出した拘束位置へ変位する肩部拘束部と
を備えることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記肩部拘束部を前転方向に回動させながら前記待機位置から前記拘束位置へ案内するガイド部を備えること
を特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記肩部拘束部は、前記バックレスト部の左右にそれぞれ設けられ、
弾性を有する材料からなり左右の前記肩部拘束部を連結する連結部材を備え、
前記連結部材は、前面視において下方が凸となるよう屈曲又は湾曲した形状を有し、少なくとも一部が前記受圧部材の後方側に配置されるとともに、前記受圧部材から後方側への荷重を受けたときに、前記肩部拘束部を前記待機位置側から前記拘束位置側へ変位させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記乗員の前方側からの衝突を検知又は予測する衝突検出部と、
前記前面衝突の検知又は予測に応じて、前記肩部拘束部を前記待機位置から前記拘束位置へ変位させる肩部拘束部駆動部と
を備えること
を特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記バックレスト部は、左右側端部に設けられ車両前方側に張り出したサイドサポート部を有し、
前記肩部拘束部は、前記待機位置にあるときに、少なくとも一部が前記サイドサポートの内部に収容されること
を特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に設けられ乗員が着座する車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に設けられ、乗員が着座する車両用シートに関する技術として、例えば、特許文献1には、プリクラッシュセンサからの信号により後面衝突を予測すると、マイクロガスジェネレータからのガス圧によって、鞭打ち軽減バーが、シートバック内の収納位置から、ヘッドレスト後方の規制位置へと上昇することが記載されている。これにより、ヘッドレストを鞭打ち軽減バーによって後方から支持することができ、乗員の頭部からヘッドレストに入力される車両後方側への荷重や後面衝突の反動等によって、ヘッドレストがシートバックに対して後傾することを抑制できることが記載されている。
特許文献2には、車両用シートのシートバックに、乗員によって押されたとき後方に移動する受圧部材を設け、受圧部材が後方に移動したとき、スライド部材がガイド孔に沿って上方に移動することにより、ヘッドレスト本体が上方に移動しつつ前側に傾くよう駆動されることが記載されている。
特許文献3には、車両の追突時にヘッドレストを応答性良く上昇させるため、車両が追突を受けてシートバックに設けた受圧プレートが車体後方に移動すると、ボーデンワイヤが受圧プレートの移動を引張荷重としてヘッドレスト上昇機構に伝達し、ヘッドレストを速やかに上昇させて乗員の頭部を拘束することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-203349号公報
【特許文献2】特開2006- 56359号公報
【特許文献3】特開2006- 15886号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が乗員の背部側から衝突を受ける後面衝突においては、乗員がシートのバックレスト部に強く押しつけられる。衝突のエネルギが大きい場合、乗員はさらに座席シートのバックレストを押し込もうとする。
しかし、バックレストを後方側へ押込み可能な量には、シートの構造上限界がある。限界に達した後は、バックレスト部が後傾する方向に倒れ込む挙動が生じ、乗員はバックレスト部の傾斜に沿って上方側かつ斜め後方側へずり上がる挙動を示す。
このようなずり上がり挙動は、後面衝突時に乗員傷害を軽減する安全装置であるヘッドレストから、乗員の頭部及び頸部が離脱する原因となる。
乗員の頭部及び頸部がヘッドレストから離脱すると、頸部や脳幹への傷害が悪化することが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、衝突時の乗員保護性能を向上した車両用シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の車両用シートは、乗員の大腿部及び臀部が載せられる座面部、及び、前記座面部から上方へ張り出し、前記乗員の背部と接するバックレスト部を有する車両用シートであって、前記バックレスト部は、前記乗員の身体により押圧される受圧部材と、前記受圧部材への押圧に応じて、前記バックレスト部の側部に設けられた待機位置から、少なくとも一部が前記乗員の肩部上方へ張り出した拘束位置へ変位する肩部拘束部とを備えることを特徴とする。
これによれば、乗員の後方側から衝突を受けた場合(典型的には後面衝突の場合)に、乗員の身体が慣性力によりバックレスト部に押し込まれる挙動を利用し、受圧部材への押圧に応じて、肩部拘束部を乗員の肩部上方へ張り出した拘束位置へ展開することにより、乗員の身体がバックレスト部に沿ってずり上がる挙動を抑制し、乗員の頭部、頸部などがヘッドレスト部から離脱して傷害が悪化することを防止できる。
【0006】
本発明において、前記肩部拘束部を前転方向に回動させながら前記待機位置から前記拘束位置へ案内するガイド部を備える構成とすることができる。
これによれば、肩部拘束部を乗員の肩部越しに上方側かつ前方側へ繰り出すことが可能となり、上述した効果を促進することができる。
【0007】
本発明において、前記肩部拘束部は、前記バックレスト部の左右にそれぞれ設けられ、弾性を有する材料からなり左右の前記肩部拘束部を連結する連結部材を備え、前記連結部材は、前面視において下方が凸となるよう屈曲又は湾曲した形状を有し、少なくとも一部が前記受圧部材の後方側に配置されるとともに、前記受圧部材から後方側への荷重を受けたときに、前記肩部拘束部を前記待機位置側から前記拘束位置側へ変位させる構成とすることができる。
これによれば、乗員が受圧部材を押し込む力を利用して、簡単な構成により肩部拘束部を待機位置から拘束位置へ駆動することができる。
【0008】
本発明において、前記乗員の前方側からの衝突を検知又は予測する衝突検出部と、前記前面衝突の検知又は予測に応じて、前記肩部拘束部を前記待機位置から前記拘束位置へ変位させる肩部拘束部駆動部とを備える構成とすることができる。
これによれば、乗員の前方側から衝突を受ける場合(典型的には前面衝突の場合)であっても肩部拘束部を拘束位置へ変位させることにより、乗員の上体の前進を抑制し、乗員の傷害を抑制することができる。
【0009】
本発明において、前記バックレスト部は、左右側端部に設けられ車両前方側に張り出したサイドサポート部を有し、前記肩部拘束部は、前記待機位置にあるときに、少なくとも一部が前記サイドサポートの内部に収容される構成とすることができる。
これによれば、肩部拘束部が待機位置にある車両の通常の使用時において、肩部拘束部が車両の使い勝手を損なうことがなく、車両の利便性を向上することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、本発明によれば、衝突時の乗員保護性能を向上した車両用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した車両用シートの第1実施形態の模式的側面視図であって、非衝突時の状態を示す図である。
【
図2】第1実施形態の車両用シートのシートフレームの外観斜視図である。
【
図3】第1実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、後面衝突時の状態を示す図である。
【
図4】本発明を適用した車両用シートの第2実施形態における肩部拘束部の制御システムの構成を模式的に示す図である。
【
図5】第2実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、前面衝突直後の状態を示す図である。
【
図6】第2実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、前面衝突後運転席エアバッグにより衝撃吸収が行われている状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した車両用シートの第1実施形態について説明する。
第1実施形態の車両用シートは、例えば、乗用車等の自動車の車室内に設けられる。
図1は、第1実施形態の車両用シート(以下「シート」と称する)を側方から見た状態を示す模式図であって、通常時(非衝突時)の状態を示す図である。
シート1は、一例として前後2列のシートを有する乗用車の前席用のものである。
【0013】
図1に示すように、シート1に着座する自席の乗員Pは、頭部H、頸部N、肩部S、上体UB、腕A、脚L、大腿部F、臀部B等を有する。
乗員Pは、一例として、車両前方側に上体UBの正面を向けて着座するものとする。
シート1は、シートクッション10、バックレスト20、ヘッドレスト30等を有する。
【0014】
シートクッション10は、乗員Pの臀部B及び大腿部Fが載せられる座面部である。
シートクッション10は、後述するシートクッションフレーム110の上部に設けられている。
シートクッション10は、乗員Pの前後方向及び肩幅方向に沿って延在する上面部を有する。
乗員Pの脚Lのうち下肢部分は、シートクッション10の前端部から前方側へ投げ出された状態となる。
シートクッション10は、シートクッションフレーム110の上部及び周囲に、例えば多孔質ウレタンフォームなどの弾性、可撓性を有するクッション材を配置して構成されている。
【0015】
バックレスト20は、乗員Pの上体UBの背部と対向して設けられた背もたれ部分(シートバックとも称される)である。
バックレスト20は、シートクッション10の後端部近傍から、上方側かつ斜め後方側へ張り出している。
バックレスト20の上端部は、車両の通常使用時において、乗員Pの肩部Sの後方側に配置されている。
バックレスト20は、下端部近傍に設けられた支軸112(
図2参照)回りに、シートクッション10に対して、バックレスト20の上端部が前後する方向に回動(リクライニング)可能となっている。
バックレスト20は、後述するバックレストフレーム120の周囲に、例えば多孔質ウレタンフォームなどの弾性、可撓性を有するクッション材を配置して構成されている。
【0016】
ヘッドレスト30は、図示しないフレームなどの例えば金属等の硬質材料によって構成される芯材の周囲に、例えば多孔質ウレタンフォームなどの弾性、可撓性を有するクッション材を配置して構成されている。
シートクッション10、バックレスト20、ヘッドレスト30のクッション材の表面部には、例えば織物、編物、天然又は人工皮革などのシート表皮が被せられている。
【0017】
シート1は、以下説明するシートフレーム100を有する。
図2は、第1実施形態の車両用シートのシートフレームの外観斜視図である。
シートフレーム100は、シートクッションフレーム110、バックレストフレーム120を有する。
シートクッションフレーム110は、シートクッション10の芯材となる部分である。
バックレストフレーム120は、バックレスト20の芯材となる部分である。
【0018】
シートクッションフレーム110は、枠体111、支軸112、シートレール113、ウェーブスプリング114、シートパン115等を有する。
枠体111は、シートクッションフレーム110の本体部分を構成する構造部材である。
枠体111は、前後方向に延在する左右一対の側辺部の前部及び後部を、幅方向に延在する梁状部材でそれぞれ連結し、上方から見たときに矩形となる枠状に構成されている。
【0019】
支軸112は、バックレストフレーム120を回動(リクライン)可能に支持する軸部である。
支軸112は、枠体111の後部において、シート1の幅方向に沿って配置されている。
シートレール113は、枠体111を、車両の車室床面部であるフロアパネルに対して、前後方向にスライド可能に取り付ける基部である。
【0020】
スプリング114は、枠体111の内側に、シートクッション10の下面部と当接するよう設けられる。
スプリング114は、シートクッション10を介した乗員Pからの荷重に応じた反力を発生するばね要素である。
スプリング114は、例えばばね鋼などの弾性を有する線材を、連続するジグザグ状に屈曲させたSばね、フォームドワイヤ等を有する。
シートパン115は、枠体111の内側において、スプリング114の下方に設けられたパネル状の部材である。
【0021】
バックレストフレーム120は、枠体121、スプリング122、背板123、ヘッドレストブラケット124等を有する。
枠体121は、バックレストフレーム120の本体部分を構成する構造部材である。
枠体121は、支軸112付近から上方かつ後方側へ張り出している。
枠体121は、前後方向から見たときに矩形となる枠状に形成されている。
【0022】
スプリング122は、乗員Pの背部からの後向荷重に応じた反力を発生するばね要素である。
スプリング122は、上述したスプリング114と同様のSばね、フォームドワイヤ等を有する。
【0023】
背板123は、乗員Pの背部と対向して配置されたパネル状の部材である。
背板123は、枠体111の内部において、スプリング122の背面側(乗員P側とは反対側に設けられている。
背板123は、車両の通常使用時においては枠体121に対して相対変位しないよう構成されている。
背板123は、スプリング122が後方側へストロークしきる程度の大入力(典型的には乗員Pの後方側から車両が衝突を受ける後面衝突時)に、枠体121に対して車両後方側へ変位する。
背板123は、本発明の受圧部材として機能する。
【0024】
ヘッドレストブラケット124は、ヘッドレスト30の図示しないステー部が挿入され保持される部分である。
ヘッドレストブラケット124は、枠体241の上端部に、車幅方向に離間して一対設けられている。
【0025】
バックレストフレーム120には、以下説明する肩部拘束装置130が設けられている。
肩部拘束装置130は、車両の衝突時に、乗員Pの肩部Sを拘束するものである。
肩部拘束装置130は、ショルダサポート131、リテーナ132、ガイドレール133、連結プレート134等を有する。
ショルダサポート131、リテーナ132は、バックレストフレーム120の左右に一対設けられる。
【0026】
ショルダサポート131は、衝突時にシートバック20の上端部近傍から、乗員Pの肩部Sの上方側へ繰り出される片持ち梁状の部材である。
ショルダサポート131は、シートバックフレーム120の側部に沿った状態となる待機位置から、乗員Pの肩部Sを拘束する拘束位置へ変位する。
ショルダサポート131は、本発明の肩部拘束部である。
【0027】
リテーナ132は、待機位置にあるときのショルダサポート131の少なくとも一部(典型的には中間部から下部)が収容される容器状の部材である。
ショルダサポート131は、リテーナ132に下部が収容される待機位置においては、突端部が基端部(リテーナ132側の端部)に対して上方となるように、上下方向に延在して配置されている。
ショルダサポート131は、待機位置においては、側面視において後方側が凸となるように屈曲又は湾曲した形状を有する。
ショルダサポート131は、屈曲又は湾曲箇所の曲率内側(待機位置における前方側)に、乗員Pの肩部Sを拘束する凹部131aが設けられている。
【0028】
ガイドレール133は、ショルダサポート131を待機位置から拘束位置へ案内する案内部である。
図1に示すように、ガイドレール133は、側面視において車両後方側かつ下方側が凸となるよう湾曲した円弧状となっている。
これにより、ショルダサポート131は、突端部(上端部)が基端部(下端部)に対して相対的に前進するように、回動(前転)しながら待機位置から拘束位置へ移動する。
【0029】
ショルダサポート131、リテーナ132、ガイドレール133は、車両の通常使用時(非衝突時)においては、バックレスト20の左右側部に設けられたサイドサポート部に収容される。
サイドサポート部は、バックレスト20の左右側部を、前方側に張り出させた部分である。
サイドサポート部は、車両の旋回時などに、乗員Pの体側部を支持する機能を有する。
【0030】
連結プレート134は、左右のショルダサポート131の長手方向における中間部の間にわたして設けられた連結部材である。
連結プレート134は、例えばばね鋼などの弾性を有する材料からなる板材からなる。
図2に示すように、連結プレート134は、前後方向から見たときに、下方に凸となるよう屈曲した形状(いわゆるV字形状)を有する。
シート1の幅方向(車幅方向)における連結プレート134の中央部(V字形状の屈曲部)は、背板123に対して後方側(乗員P側とは反対側)に配置されている。
【0031】
連結プレート134は、中央部が背板123から車両後方側へ押圧されることに応じて、中央部が両端部に対して後退する方向に曲げ変形を示す。
このとき、背板123がさらに後退すると、ショルダサポート131が設けられた両端部が、バックレストフレーム120に対して上昇する方向に、背板123との当接面に沿ってずり上がるよう構成されている。
【0032】
また、車両は、さらにインストルメントパネル210、ステアリングホイール220、エアバッグ230、シートベルト装置240等を有する。
インストルメントパネル210は、シート1が設けられる車室の前部に設けられる内装部材である。
インストルメントパネル210は、シート1に着座する乗員Pの前面に対向して設けられる。
インストルメントパネル210は、計器盤や画像表示装置などの情報提示装置、空調装置の吹出部、インフォテイメントシステムのユーザインターフェイスなどが設けられる。
【0033】
ステアリングホイール220は、乗員Pがドライバである場合に、操舵操作を行う環状の部材である。
ステアリングホイール220は、インストルメントパネル210の乗員前方側の領域から突出したコラム部221の突端部に取り付けられている。
ステアリングホール220の図示しないセンターパッド部には、非衝突時にエアバッグ230が折り畳まれて収容されるリテーナ、及び、展開用ガスを発生するガス発生装置が設けられる。
【0034】
エアバッグ230は、前面衝突の検知又は予測に応じて、ステアリングホイール220のセンターパッド部から乗員Pの前面に向けて展開する。
図1においては、展開後の状態を破線で図示している。
エアバッグ230は、例えばナイロン系繊維からなる基布パネルを袋状に縫合又は接合して構成されている。
【0035】
シートベルト装置240は、シート1に着座した乗員Pを拘束する三点式のものである。
シートベルト装置240は、ウェビング241、リトラクタ242、ショルダアンカ243、ラップアンカ244等を有する。
【0036】
ウェビング241は、シートベルト装置240において乗員を直接拘束するベルト状の部材である。
ウェビング241は、例えばポリエステル繊維の織物によって、帯状に構成されている。
ウェビング241は、ショルダベルト部241a、ラップベルト部241b等を有する。
【0037】
ショルダベルト部241は、乗員Pの左右の一方の肩部Sから、他方の臀部Bの側部にかけて、正面から見たときに斜行して設けられた部分である。
ショルダベルト部241の上端部は、乗員Pの肩部後方かつ上方において、ショルダア
ンカ242によって支持されている。
ショルダベルト部241の下端部は、図示しないタングを介して、図示しないバックルに着脱可能に取り付けられている。
バックルは、シートクッション10の後部における左右一方の端部に隣接して設けられる。
ショルダベルト部241は、例えば前面衝突時等において、乗員Pの主に上体UBを拘束し、シート1に対する相対前進を抑制する。
【0038】
ラップベルト部241bは、上述したタングと、ラップアンカ244との間にわたして設けられた部分である。
ラップベルト部241bは、乗員Pの腰部前面に沿って左右方向に延在する。
ラップベルト部241bは、例えば前面衝突時等において、乗員Pの腰骨近傍を拘束し、シート1に対する相対前進や上昇を抑制する。
【0039】
リトラクタ242は、ウェビング241の一方の端部が接続されている。
リトラクタ242は、ショルダベルト部241aの後端部が、ショルダアンカ243において下方に折り返された先に配置されている。
リトラクタ242は、シート1が乗用車の前席用として用いられる場合には、例えば、図示しない車体のセンターピラー(いわゆるBピラー)の下部に取り付けられる構成とすることができる。
リトラクタ242は、ウェビング241が巻き掛けられるボビンを有する。
ボビンは、例えば、ドラム状に構成され、ウェビング241が巻き掛けられた状態で回転することにより、乗員Pがシートベルトを着装する際の引き出し動作や、乗員Pがシートベルトを外す際の巻き込み動作を行う。
また、リトラクタ242は、車両の衝突時にボビンをロックしてウェビング241の引き出しを制限するELR機構、及び、ウェビング241を牽引するプリテンショナ機構を備えている。
【0040】
ショルダアンカ243は、乗員Pの肩部後方に設けられ、ウェビング241が自在に通過可能に挿通される部材である。
ショルダアンカ243は、リトラクタ242から引き出されたウェビング241を、ショルダベルト241a側へ折り返す。
ショルダアンカ242は、例えば、車体のセンターピラーの上部に取り付けられる。
ラップアンカ244は、ウェビング241におけるラップベルト部241bのタング側(バックル側)とは反対側の端部を、シートクッションフレーム110や車体構造部材に連結するものである。
【0041】
次に、第1実施形態の車両用シートにおいて、乗員Pの後方側(車両後方側)から衝突を受ける後面衝突の場合の動作について説明する。
図3は、第1実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、後面衝突時の状態を示す図である。
車両が後面衝突を受けた場合、車体には前進方向の速度が急激に増加する加速度が発生し、乗員Pの背部は、慣性力によってバックレスト20を、車両の通常使用時に対して大きな力で後方側へ押圧する。
この押圧により、背板123は、バックレストフレーム120に対して後方側へ変位し、連結プレート134を押圧する。
押圧された連結プレート134は、背板123に対してずり上がり、ショルダサポート131を、リテーナ132から繰り出され、待機位置から拘束位置へ変位される方向に駆動する。
【0042】
ショルダサポート131は、拘束位置において、凹部131aが乗員Pの肩部Sの上方となる状態となる。
乗員Pは、慣性力によってバックレスト20に押圧された場合、上体UB等がバックレスト20の表面の傾斜に沿ってずり上がる挙動を示す。
第1実施形態のシート1においては、乗員Pの上体UBがずり上がり、肩部Sがショルダサポート131に当接して凹部131aに収容されると、肩部Sが拘束され、上体UBのさらなる上昇は抑制される。
【0043】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)後面衝突の場合に、乗員Pの身体が慣性力によりバックレスト20に押し込まれる挙動を利用し、背板123への押圧に応じて、ショルダサポート131を乗員Pの肩部S上方へ張り出した拘束位置へ展開することにより、乗員Pの身体がバックレスト20に沿ってずり上がる挙動を抑制し、乗員Pの頭部H、頸部などがヘッドレスト30から離脱して傷害が悪化することを防止できる。
(2)ショルダサポート131を前転方向に回動させながら待機位置から拘束位置へ案内するガイドレール133を備えることにより、ショルダサポート131を乗員Pの肩部S越しに上方側かつ前方側へ繰り出すことが可能となり、上述した効果を促進することができる。
(3)弾性を有する材料により下方が凸となるV字状に形成された連結プレート134を背板123で押圧することでショルダサポート131を待機位置から拘束位置へ変位させることにより、乗員Pが背板123を押し込む力を利用して、簡単な構成によりショルダサポート131を待機位置から拘束位置へ駆動することができる。
(4)待機位置にある際のショルダサポート131がバックレスト20側部のサイドサポート部に収容されることにより、ショルダサポート131が待機位置にある車両の通常の使用時において、ショルダサポート131が車両の使い勝手を損なうことがなく、車両の利便性を向上することができる。
【0044】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した車両用シートの第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、上述した第1実施形態と同様の箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
第2実施形態の車両用シートでは、衝突の検知又は予測に応じて、アクチュエータを用いて肩部拘束部を待機位置から拘束位置へ変位させる。
【0045】
図4は、本発明を適用した車両用シートの第2実施形態における肩部拘束部の制御システムの構成を模式的に示す図である。
図4に示すように、制御システムは、乗員保護制御ユニット300、環境認識ユニット400等を有する。
【0046】
乗員保護制御ユニット300は、車両の衝突、又は、衝突の前兆の検出に応じて、エアバッグ230の展開や、ショルダサポート131の展開、脱落を制御するものである。
環境認識ユニット400は、各種センサの出力に基づいて、自車両周囲の環境を認識するものである。
乗員保護制御ユニット300、環境認識ユニット400は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有して構成されている。
乗員保護制御ユニット300と、環境認識ユニット400とは、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して、あるいは直接に、通信可能となっている。
【0047】
乗員保護制御ユニット300は、衝突の検知又は予測に応じて、エアバッグ230のガス発生装置、及び、ショルダサポート131のアクチュエータを用いた駆動機構を制御するものである。
乗員保護制御ユニット300は、衝突センサ301を有する。
衝突センサ301は、車体に作用する前後方向、車幅方向等の加速度を検出する加速度センサを有する衝突検出部である。
乗員保護制御ユニット300は、衝突センサ301が衝突時に特有の著大な加速度を検出した場合に、衝突判定を成立(衝突を検知)させるとともに衝突態様を判別する。
衝突態様として、例えば、車両の前方から衝突を受ける前面衝突、車両の後方から衝突(典型的には追突)を受ける後面衝突、車両の側方から衝突を受ける側面衝突などがある。
これらの衝突態様は、衝突センサ301が検出した主な加速度の方向に基づいて判別することができる。
【0048】
乗員保護制御ユニット300は、エアバッグ用ガス発生装置310、ショルダサポート駆動装置320、ショルダサポート退避装置330に作動指令を与え、作動させる機能を有する。
エアバッグ用ガス発生装置(インフレータ)310は、例えば化薬(火薬)を用いて、エアバッグ230を展開させる展開用ガスを発生させるものである。
【0049】
ショルダサポート駆動装置320は、例えば化薬(火薬)式のアクチュエータを用いて、ショルダサポート131を、待機位置から拘束位置へ変位させるものである。
ショルダサポート駆動装置330は、例えば化薬(火薬)式のアクチュエータを用いて、拘束位置にあるショルダサポート131を、待機位置側へ退避(引き込み)方向に変位させるものである。
【0050】
環境認識ユニット400には、可視光カメラ装置410、ミリ波レーダ装置420、レーザスキャナ装置430等が接続されている。
可視光カメラ装置410は、自車両の周囲(前方、後方、側方等)をステレオカメラ、単願カメラなどの可視光カメラで撮像する撮像装置である。
可視光カメラ装置410は、撮像画像に画像処理を施し、自車両周囲の物体の有無及び自車両に対する物体の相対位置、相対速度や、車線形状等を検出する機能を備えている。
ミリ波レーダ装置420は、例えば30乃至300GHzの周波数帯域の電波を用いたレーダ装置であって、物体の有無及び自車両に対する物体の相対位置を検出する機能を備えている。
レーザスキャナ装置430は、例えば近赤外レーザ光をパルス状に照射して車両周辺を走査し、反射光の有無及び反射光が戻るまでの時間差に基づいて、物体の有無、車両に対する物体の相対位置、物体の形状等を検出する機能を備えている。
【0051】
環境認識ユニット400は、これらの各センサの出力等に基づいて、例えば他車両等の物体との衝突が不可避である場合に、プリクラッシュ判定(衝突予測)を成立させる。
プリクラッシュ判定が成立した場合、環境認識ユニット400は、各センサの出力に基づいて、衝突態様(前面衝突、後面衝突、側面衝突等)を判別する。
環境認識ユニット400は、本発明の他の衝突検出部として機能する。
【0052】
第2実施形態においては、衝突センサ301によって、乗員Pの前方側から車両が衝突を受ける前面衝突が検知された場合(衝突判定が成立した場合)、又は、環境認識ユニット400が前面衝突の予測をした場合(プリクラッシュ判定が成立した場合)に、乗員保護制御ユニット300は、以下説明する対前面衝突制御を開始する。
【0053】
図5は、第2実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、前面衝突直後の状態を示す図である。
先ず、乗員保護制御ユニット300は、エアバッグ用ガス発生装置310に展開用ガスの発生を開始させ、エアバッグ230を展開させる。
また、乗員保護制御ユニット300は、ショルダサポート駆動装置320に、ショルダサポート131を待機位置から拘束位置へ変位させる。
【0054】
前面衝突においては、乗員Pの上体UBは、慣性力によってシートベルト装置240のウェビング241を引きつつ、インストルメントパネル210に接近する方向へ前進する。
このとき、ショルダサポート131は、凹部131a等が乗員Pの肩部Sと係合し、拘束することにより、上体UBの前進量、前進速度を抑制することができる。
【0055】
次に、乗員保護制御ユニット300は、衝突の発生から所定の遅延時間が経過した後、ショルダサポート退避装置330に、ショルダサポート131を、再び待機位置側へ変位させる。
図6は、第2実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、前面衝突後運転席エアバッグにより衝撃吸収が行われている状態を示す図である。
ここで、遅延時間は、衝突後、乗員Pの頭部H、上体UB等が、展開後のエアバッグ230に衝突し、エアバッグ230によるエネルギ吸収が完了するまでの時間を考慮し、この時間より短く設定される。
【0056】
エアバッグ230によるエネルギ吸収が完了すると、乗員Pの上体UBは、エアバッグ230の反発力等によって、前傾状態から起き上がる方向(後傾方向)の回動を開始する。
このとき、ショルダサポート131を退避させることにより、乗員Pの身体とショルダサポート131とが干渉して二次被害が発生することを防止できる。
【0057】
なお、第2実施形態において、後面衝突時には、第1実施形態と同様に、背板123(受圧部材)への押圧と連動してショルダサポート131を待機位置から拘束位置へ変位(展開)させるパッシブな構成としてもよいが、これに代えて、あるいは、これと併用して、前面衝突時と同様にショルダサポート駆動装置320を用いて展開させてもよい。
【0058】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、前面衝突の場合であってもショルダサポート131を拘束位置へ変位させることにより、乗員Pの上体UBの前進を抑制し、乗員Pの傷害を抑制することができる。
さらに、衝突後所定時間の経過後にショルダサポート131を退避させることにより、乗員Pの上体UBが前傾状態から復元する際に、身体にショルダサポート131が衝突することによる二次被害を防止することができる。
【0059】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車両用シート及び車両の構成は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することが可能である。
例えば、車両用シートを構成する各部材の形状、構造、材質、製法、配置、数量などは適宜変更することができる。
(2)バックレスト部に設けられる受圧部材と、肩部拘束部(ショルダサポート)との連動機構の構成は、第1実施形態のような弾性を有するプレートを用いたものに限らず、適宜変更することが可能である。
例えば、肩部拘束部を予め拘束位置側へばね要素で付勢するとともに、通常時はロック機構によって待機位置に保持し、受圧部材への押圧に応じてロック機構が解除され、ばね力によって肩部拘束部が拘束位置へ変位するようにしてもよい。
(3)第2実施形態における制御システムの構成は一例であり、本発明はこれに限定されず、制御システムの構成は適宜変更することができる。
例えば、プリクラッシュ判定に応じた作動を行わない場合(衝突検知時にのみ作動させる場合)には、環境認識ユニット等を持たない構成とすることができる。
(4)第2実施形態においては、前面衝突後、所定時間経過後に、肩部拘束部(ショルダサポート)を、再び待機位置側へ戻す構成としているが、肩部拘束部と乗員との干渉による二次被害を防止する手法はこれに限らず、適宜変更することができる。
例えば、肩部拘束部を初期の待機位置とは異なった位置へ退避させ、あるいは、肩部拘束部をバックレストから脱落させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0060】
1 シート 10 シートクッション
20 バックレスト 30 ヘッドレスト
100 シートフレーム 110 シートクッションフレーム
111 枠体 112 支軸
113 シートレール 114 スプリング
115 シートパン 120 バックレストフレーム
121 枠体 122 スプリング
123 背板 124 ヘッドレストブラケット
130 肩部拘束装置 131 ショルダサポート
131a 凹部 132 リテーナ
133 ガイドレール 134 連結プレート
210 インストルメントパネル 220 ステアリングホイール
221 ステアリングコラム 230 エアバッグ
240 シートベルト装置 241 ウェビング
241a ショルダベルト部 241b ラップベルト部
242 リトラクタ 243 ショルダアンカ
244 ラップアンカ
300 乗員保護制御ユニット 301 衝突センサ
310 エアバッグ展開用ガス発生装置
320 ショルダサポート駆動装置 330 ショルダサポート退避装置
400 環境認識ユニット 401 可視光カメラ装置
402 ミリ波レーダ装置 403 レーザスキャナ装置
P 乗員 H 頭部
N 頸部 UB 上体
S 肩部 A 腕
B 臀部 F 大腿部
L 脚部