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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160509
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】乗員保護装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/2338 20110101AFI20231026BHJP
   B60N 2/427 20060101ALI20231026BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B60R21/2338
B60N2/427
B60R21/207
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070925
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3B087
3D054
【Fターム(参考)】
3B087BA01
3B087CD04
3B087CD05
3D054AA02
3D054AA03
3D054AA04
3D054AA07
3D054AA21
3D054CC04
3D054CC11
3D054DD07
3D054EE19
3D054EE20
3D054EE21
3D054FF16
(57)【要約】
【課題】シートに着座した乗員の保護性能を向上した乗員保護装置を提供する。
【解決手段】大腿部F及び臀部Bが載せられる座面部10、及び、乗員の背部と接するバックレスト20を有するシート1に設けられる乗員保護装置を、シートの側部において、座面部とバックレストの上部との間にわたして展開される側部バッグ41と、側部バッグに設けられ他部に対して引張強度が大きい張力負担部50と、車両の衝突を検知又は予測する衝突検出部101,200と、衝突検出部による衝突の検知又は予測に応じて、側部バッグを展開させかつ張力負担部に張力を発生させる乗員保護制御部100とを備える構成とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の大腿部及び臀部が載せられる座面部、及び、前記座面部の後部から上方へ張り出し、前記乗員の背部と接するバックレストを有するシートに設けられる乗員保護装置であって、
前記シートの側部において、前記座面部と前記バックレストの上部との間にわたして展開される側部バッグと、
前記側部バッグに設けられ前記座面部と前記バックレストの上部との間を連結するとともに、前記側部バッグの他部に対して引張強度が大きい張力負担部と、
車両の衝突を検知又は予測する衝突検出部と、
前記衝突検出部による前記衝突の検知又は予測に応じて、前記側部バッグを展開させかつ前記張力負担部に張力を発生させる乗員保護制御部と
を備えることを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
前記側部バッグは筒状に形成され、
前記張力負担部は、前記側部バッグの長手方向に沿って延在しかつ前記バッグに接合されたテザーを有すること
を特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
前記側部バッグの展開時に、前記側部バッグ及び前記張力負担部を牽引する牽引部を備えること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
前記側部バッグは前記乗員の左右に設けられ、
左右の前記側部バッグの上部にわたして設けられ前記乗員の頸部の後方側に配置された上部バッグを備えること
を特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
前記衝突検出部は、衝突態様が側面衝突であるか否かを判別し、
前記側面衝突と判別された場合は、前記側部エアバッグの前記座面部との接続箇所を、前記側面衝突以外の衝突態様の場合に対して後方側に配置させる接続箇所移動部を備えること
を特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに着座した乗員を保護する乗員保護装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両における乗員保護に関する技術として、例えば、特許文献1には、衝突事故の際に座席における背もたれが、その上部から座席クッションの前部まで延びている締付けベルトによって後ろへの倒れ込み運動を阻止される衝撃防護装置が記載されている。背もたれは、締付けベルトに基づいて位置を保持され、締付けベルトによって座席横に位置づけされた防護要素は、衝突事故の際も方向を整えて固定されることが記載されている。また、防護要素である捕捉網にエアバッグが設けられることが記載されている。
特許文献2には、後面衝突発生時に、シートベルトのインナーバックルが引き込まれ、シートベルトのショルダーベルト及びラップベルト両方共に張力を発生させることにより、比較的相対速度が高い後面衝突時の乗員のずり上がり挙動が抑制されることが記載されている。
特許文献3には、環状のエアバッグが、乗員の頭部後方から、肩部前方および大腿部側方を通って、下肢部下部を連結して、逆V字状に乗員を取り囲むように展開する乗員保護装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10- 71883号公報
【特許文献2】特開2001-322532号公報
【特許文献3】特開2020-164131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が乗員の背部側から衝突を受ける後面衝突においては、乗員がシートのバックレストに強く押しつけられる。衝突のエネルギが大きい場合、乗員はさらに座席シートのバックレストを押し込もうとする。
しかし、バックレストを後方側へ押込み可能な量には、シートの構造上限界がある。限界に達した後は、バックレストが後傾する方向に倒れ込む挙動が生じ、乗員はバックレストの傾斜に沿って上方側かつ斜め後方側へずり上がる挙動を示す。
このようなずり上がり挙動は、後面衝突時に乗員傷害を軽減する安全装置であるヘッドレストから、乗員の頭部及び頸部が離脱する原因となる。
乗員の頭部及び頸部がヘッドレストから離脱すると、頸部や脳幹への傷害が悪化することが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、シートに着座した乗員の保護性能を向上した乗員保護装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の一態様に係る乗員保護装置は、乗員の大腿部及び臀部が載せられる座面部、及び、前記座面部の後部から上方へ張り出し、前記乗員の背部と接するバックレストを有するシートに設けられる乗員保護装置であって、前記シートの側部において、前記座面部と前記バックレストの上部との間にわたして展開される側部バッグと、前記側部バッグに設けられ前記座面部と前記バックレストの上部との間を連結するとともに、前記側部バッグの他部に対して引張強度が大きい張力負担部と、車両の衝突を検知又は予測する衝突検出部と、前記衝突検出部による前記衝突の検知又は予測に応じて、前記側部バッグを展開させかつ前記張力負担部に張力を発生させる乗員保護制御部とを備えることを特徴とする。
これによれば、座面部とバックレスト部の上部との間にわたして展開される側部バッグに設けられた張力負担部が、バックレスト部の後傾方向への回動を拘束するため、乗員の後方側から衝突を受ける後面衝突時に、バックレスト部が後方へ倒れて、乗員がバックレスト部の傾斜に沿ってずり上がる挙動を抑制することができる。
このため、乗員の頭部、頸部がヘッドレストから離脱することによる頸部や脳幹への傷害を抑制できる。
また、乗員の前方側から衝突を受ける前面衝突時においても、側部バッグが乗員の上体の前方側への移動を抑制しつつ衝突エネルギを吸収することにより、乗員の傷害を抑制できる。
さらに、乗員の側方側から衝突を受ける側面衝突時においても、側部バッグがエネルギを吸収しつつ、衝突を受けた側とは反対側へ乗員を押圧し、移動させることにより、乗員の傷害を抑制できる。
【0006】
本発明において、前記側部バッグは筒状に形成され、前記張力負担部は、前記側部バッグの長手方向に沿って延在しかつ前記バッグに接合されたテザーを有する構成とすることができる。
これによれば、張力負担部を簡単かつ信頼性の高い構成とすることができる。
【0007】
本発明において、前記側部バッグの展開時に、前記側部バッグ及び前記張力負担部を牽引する牽引部を備える構成とすることができる。
これによれば、張力負担部に確実に張力を発生させて上述した効果を適切に得ることができる。
【0008】
本発明において、前記側部バッグは前記乗員の左右に設けられ、左右の前記側部バッグの上部にわたして設けられ前記乗員の頸部の後方側に配置された上部バッグを備える構成とすることができる。
これによれば、後面衝突時に乗員の頸部を拘束し、頸部や頭部の傷害を抑制するとともに、乗員がバックレスト部の斜面に沿ってずり上がることをより効果的に防止できる。
【0009】
本発明において、前記衝突検出部は、衝突態様が側面衝突であるか否かを判別し、前記側面衝突と判別された場合は、前記側部バッグの前記座面部との接続箇所を、前記側面衝突以外の衝突態様の場合に対して後方側に配置させる接続箇所移動部を備える構成とすることができる。
これによれば、後面衝突時においては、側部バッグの座面部との接続箇所を側面衝突の場合より前方(典型的には座面部の前端部近傍)に配置することにより、バックレスト部の後傾を拘束する効果を高めることができる。
また、前面衝突時においては、同様に側部バッグの座面部との接続箇所を側面衝突の場合より前方に配置することにより、側部バッグが乗員の肩部を乗り越えて上体の前面を拘束しやすくし、乗員の前進を抑制する効果を高めることができる。
一方、側面衝突時においては、側部バッグの座面部との接続箇所を後面衝突、前面衝突に対して後方に配置することにより、側部バッグを乗員の体側部に沿わせて展開させることが可能となり、側面衝突時の乗員保護性能を高めることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、シートに着座した乗員の保護性能を向上した乗員保護装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用した乗員保護装置の第1実施形態が設けられる車両用シートを側方から見た状態を示す模式図であって、環状エアバッグ展開後の状態を示す図である。
図2図1のII-II部矢視図である。
図3図1のIII-III部矢視図である。
図4】第1実施形態の乗員保護装置における側部エアバッグの断面図(図1のIV-IV部矢視断面図)である。
図5】第1実施形態の乗員保護装置のシステム構成を模式的に示すブロック図である。
図6】本発明を適用した乗員保護装置の第2実施形態が設けられる車両用シートを側方から見た状態を示す模式図であって、環状エアバッグ展開後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した乗員保護装置の第1実施形態について説明する。
第1実施形態の乗員保護装置は、例えば、乗用車等の自動車の車室内に設けられるシートに設けられ、衝突時にシートに着座する乗員を保護するものである。
図1は、第1実施形態の乗員保護装置が設けられる車両用シートを側方から見た状態を示す模式図であって、環状エアバッグ展開後の状態を示す図である。
図2は、図1のII-II部矢視図である。
図3は、図1のIII-III部矢視図である。
【0013】
図1に示すように、乗員Pは、頭部H、頸部N、上体UB、腕A、脚L、大腿部F、臀部B等を有する。
乗員Pは、一例として、車両前方側に向いて着座するものとする。
シート1は、シートクッション10、バックレスト20、ヘッドレスト30等を有する。
【0014】
シートクッション10は、乗員Pの臀部B及び大腿部Fが載せられる座面部である。
シートクッション10は、図示しないベース部を介して、車室の床面部を構成する図示しないフロアパネルに取り付けられる。
ベース部は、シート1を車体に対して前後方向にスライド可能に支持するシートレール等を有する。
シートクッション10は、乗員Pの前後方向及び肩幅方向に沿って延在する上面部を有する。
乗員Pの脚Lのうち下肢部分は、シートクッション10の前端部から前方側へ投げ出された状態となる。
【0015】
バックレスト(シートバック)20は、乗員Pの上体UBの背部と対向して設けられた背もたれ部分である。
バックレスト20は、シートクッション10の後端部近傍から、上方側かつ斜め後方側へ張り出している。
バックレスト20の上端部は、車両の通常使用時において、乗員Pの肩部の後方側に配置されている。
【0016】
ヘッドレスト30は、乗員Pの頭部Hの後方側に設けられ、頭部Hがシート1に対して後傾方向に回動した際に、頭部Hを拘束する部分である。
ヘッドレスト30は、バックレスト20の上端部から上方側へ突出して設けられている。
シートクッション10、バックレスト20、ヘッドレスト30は、それぞれ例えば鋼などの金属材料等からなるフレームの周囲に、例えば多孔質体であるウレタンフォーム等の弾性を有する材料を設けて、衝撃吸収性(クッション性)を有するよう構成されている。
【0017】
また、シート1には、後述するエアバッグ制御ユニット100等と協働して第1実施形態の乗員保護装置を構成する環状エアバッグ40、テザー50、展開装置60等を有する。
【0018】
環状エアバッグ40は、衝突の検知又は予測に応じて、展開用ガスを導入されて展開する袋状体である。
環状エアバッグ40は、例えば、ナイロン繊維の織物等によって形成された基布パネルを、筒状に縫製して形成した側部エアバッグ41、上部エアバッグ42、下部エアバッグ43等を有する。
環状エアバッグ40は、これらの側部エアバッグ(側部バッグ)41、上部エアバッグ(上部バッグ)42、下部エアバッグ(下部バッグ)43を順次連結することによって、図2に示すように、乗員Pの正面側(典型的には車両前方側)から見たときに、環状となるよう構成されている。
なお、環状エアバッグ40等は、実際には化薬式のガス発生装置が発生する展開用ガスによって展開されるが、一般的名称である「エアバッグ」と称して説明する。
【0019】
側部エアバッグ41の一方の端部(下端部・前端部)は、シートクッション10の側部における前端部近傍において、下部エアバッグ43の側端部に接続されている。
側部エアバッグ41の他方の端部(上端部・後端部)は、バックレスト20の側部における上端部近傍において、上部エアバッグ42の側端部に接続されている。
図1に示すように、側部エアバッグ41は、乗員Pの幅方向(典型的には、乗員が車両前方に向いて着座した場合の車幅方向)から見たときに、乗員Pの肩部(上体UBの上部)、腕A、大腿部Fと重畳するように配置されている。
図2に示すように、側部エアバッグ41の上部は、乗員Pの前方から見たときに、乗員Pの肩部と重畳するように配置されている。
図3に示すように、側部エアバッグ41の上部は、上方から見たときに乗員Pの肩部と重畳するように配置されている。
【0020】
上部エアバッグ42は、バックレスト20の上縁部に沿って、乗員Pの肩幅方向に延在する。
上部エアバッグ42の両端部は、左右の側部エアバッグ41の上端部(後端部)と、展開用ガスが連通可能に接続されている。
側部エアバッグ41の上端部は、上部エアバッグ42によって拘束される。
上部エアバッグ42は、乗員Pの頸部Nの後方側に配置され、例えば乗員Pの背部側から車両が衝突を受ける後面衝突時において、乗員Pの上体UB、頭部H等がバックレスト20を押し込みながら後退した際に、頸部Nと当接して衝撃を吸収するとともに、頸部Nが上下方向にずれにくくなるよう拘束する機能を有する。
【0021】
下部エアバッグ43は、シートクッション10の前縁部近傍の下部において、乗員Pの肩幅方向に沿って延在する。
下部エアバッグ43の両端部は、左右の側部エアバッグ41の下端部(前端部)と、展開用ガスが連通可能に接続されている。
下部エアバッグ43は、前後方向における位置が、シートクッション10の前端部近傍において拘束されている。
側部エアバッグ41の下端部は、下部エアバッグ43によって拘束される。
【0022】
テザー50は、側部エアバッグ41等に設けられ、シートクッション10とバックレスト20の上部との間を連結するとともに、側部エアバッグ40が引張力を受けた際に張力を負担する張力負担部である。
テザー50は、例えばポリエステル繊維の織物によって構成された帯状のウェビングにより構成されている。
テザー50は、環状エアバッグ40を構成する側部エアバッグ41、下部エアバッグ43の外周面に長手方向に沿って配置され、例えば縫合や接着等により固定されている。
テザー50は、側部エアバッグ41に対して、引張強度が高く、かつ、引張力に対する伸び変形量が側部エアバッグ41に対して小さくなっている。
図2に示すように、テザー50は、左右一方の側部エアバッグ41から、下部エアバッグ43、さらに他方の側部エアバッグ41にかけて、連続して設けられている。
テザー50の端部51は、展開装置60に内蔵された図示しないボビンに巻き掛けられた状態で接続されている。
【0023】
図4は、第1実施形態の乗員保護装置における側部エアバッグの断面図(図1のIV-IV部矢視断面図)である。
側部エアバッグ41は、例えば一対の帯状の基布パネルP1,P2を、側端部において糸S1により縫合して構成されている。
側部エアバッグ41は、展開用ガスを導入されることにより、円筒状に展開する。
テザー50は、例えば一方の基布パネルP1の幅方向における中央部に添付されている。
テザー50の幅方向における両端部は、基布パネルP1に糸S2により縫合される。
【0024】
環状エアバッグ40及びテザー50は、車両の通常使用時(非衝突時)においては、シートクッション10、バックレスト20の側部に沿って折り畳まれた状態で、図示しないシート表皮の内側に収容される。
環状エアバッグ40及びテザー50は、衝突時には、シート表皮を部分的に破断させて展開する。
シート表皮には、環状エアバッグ40及びテザー50の展開時に破断される脆弱部が設けられる。
【0025】
展開装置60は、車両の衝突の検知(衝突判定の成立)、又は、衝突の予測(プリクラッシュ判定の成立)に応じて、環状エアバッグ40を展開させるとともに、テザー50を牽引してテザー50に張力を発生させるものである。
展開装置60は、例えば、バックレスト20の上部に内蔵される構成とすることができる。
展開装置60は、テザー50を牽引する牽引機構を有する。
展開装置60は、回転可能な図示しないボビンを有し、テザー50の端部は、ボビンに巻き掛けられている。
テザー50を牽引する機構として、例えば、化薬式のシートベルトプリテンショナと同様の構成を適用することができる。
展開装置60には、テザー50の牽引及び環状エアバッグ40の展開のため、後述する環状エアバッグ用ガス発生装置130が設けられている。
【0026】
図5は、第1実施形態の乗員保護装置のシステム構成を模式的に示すブロック図である。
第1実施形態の車両は、エアバッグ制御ユニット100、環境認識ユニット200を有する。
エアバッグ制御ユニット100は、車両の衝突、又は、衝突の前兆の検出に応じて、車両に設けられた各種エアバッグの展開や、テザー50の牽引を制御するものである。
環境認識ユニット200は、各種センサの出力に基づいて、自車両周囲の環境を認識するものである。
エアバッグ制御ユニット100、環境認識ユニット200は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有して構成されている。
エアバッグ制御ユニット100と、環境認識ユニット200とは、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して、あるいは直接に、通信可能となっている。
【0027】
エアバッグ制御ユニット100は、衝突の検知又は予測に応じて、乗員保護装置に設けられた各ガス発生装置の作動を制御する乗員保護制御部である。
エアバッグ制御ユニット100は、衝突センサ101を有する。
衝突センサ101は、車体に作用する前後方向、車幅方向等の加速度を検出する加速度センサを有する衝突検出部である。
エアバッグ制御ユニット100は、衝突センサ101が衝突時に特有の著大な加速度を検出した場合に、衝突判定を成立(衝突を検知)させるとともに衝突態様を判別し、対応するエアバッグの展開を決定する。
衝突態様として、例えば、車両の前方から衝突を受ける前面衝突、車両の後方から衝突(典型的には追突)を受ける後面衝突、車両の側方から衝突を受ける側面衝突などがある。
これらの衝突態様は、衝突センサ101が検出した主な加速度の方向に基づいて判別することができる。
【0028】
エアバッグ制御ユニット100は、前面衝突エアバッグ用ガス発生装置110、カーテンエアバッグ用ガス発生装置120、環状エアバッグ用ガス発生装置130に作動指令を与え、展開用ガスの発生を開始させる機能を有する。
各ガス発生装置(インフレータ)は、例えば化薬(火薬)を用いて展開用ガスを発生させるものである。
前面衝突エアバッグ用ガス発生装置110は、例えば、ステアリングホイールのセンターパッドから展開する運転者エアバッグ、インストルメントパネルの前面から展開する助手席エアバッグ等に展開用ガスを供給するものである。
カーテンエアバッグ用ガス発生装置120は、車室のサイドドアガラスの上部から、サイドドアガラスに沿って展開するカーテンエアバッグに展開用ガスを供給するものである。
【0029】
環状エアバッグ用ガス発生装置130は、上述した展開装置60に設けられ、図示しないガス供給流路を介して環状エアバッグ40に展開用ガスを供給するものである。
また、環状エアバッグ用ガス発生装置130が発生する展開用ガスの一部は、テザー50の端部が巻き掛けられたボビンの回転駆動用の動力として用いられる。
【0030】
環境認識ユニット200には、可視光カメラ装置210、ミリ波レーダ装置220、レーザスキャナ装置230等が接続されている。
可視光カメラ装置210は、自車両の周囲(前方、後方、側方等)をステレオカメラ、単願カメラなどの可視光カメラで撮像する撮像装置である。
可視光カメラ装置210は、撮像画像に画像処理を施し、自車両周囲の物体の有無及び自車両に対する物体の相対位置、相対速度や、車線形状等を検出する機能を備えている。
ミリ波レーダ装置220は、例えば30乃至300GHzの周波数帯域の電波を用いたレーダ装置であって、物体の有無及び自車両に対する物体の相対位置を検出する機能を備えている。
レーザスキャナ装置230は、例えば近赤外レーザ光をパルス状に照射して車両周辺を走査し、反射光の有無及び反射光が戻るまでの時間差に基づいて、物体の有無、車両に対する物体の相対位置、物体の形状等を検出する機能を備えている。
環境認識ユニット200は、これらの各センサの出力等に基づいて、例えば他車両等の物体との衝突が不可避である場合に、プリクラッシュ判定(衝突予測)を成立させる。
プリクラッシュ判定が成立した場合、環境認識ユニット200は、各センサの出力に基づいて、衝突態様(前面衝突、後面衝突、側面衝突等)を判別する。
環境認識ユニット200は、本発明の他の衝突検出部として機能する。
【0031】
エアバッグ制御ユニット100は、衝突センサ101の出力に基づいて衝突判定が成立した場合、あるいは、環境認識ユニット200がプリクラッシュ判定を成立させた場合に、環状エアバッグ用ガス発生装置130に作動指令を与え、展開用ガスの発生を開始させる。
これによって、展開装置60は、環状エアバッグ40を展開させるとともに、テザー50の牽引(巻き上げ)を開始する。
【0032】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)シートクッション10とバックレスト20の上部との間にわたして展開される側部エアバッグ41に設けられたテザー50が、バックレスト20の後傾方向への回動を拘束するため、乗員Pの後方側から衝突を受ける後面衝突時に、バックレスト20が後方へ倒れて、乗員Pがバックレスト20の傾斜に沿ってずり上がる挙動を抑制することができる。
このため、乗員Pの頭部H、頸部Nがヘッドレスト30から離脱することによる頸部や脳幹への傷害を抑制できる。
また、乗員Pの前方側から衝突を受ける前面衝突時においても、側部エアバッグ41が乗員Pの上体UBの前方側への移動を抑制しつつ、衝突エネルギを吸収することにより、乗員Pの傷害を抑制できる。
さらに、乗員Pの側方側から衝突を受ける側面衝突時においても、側部エアバッグ41がエネルギを吸収しつつ衝突を受けた側とは反対側へ乗員Pを押圧し、移動させることにより、乗員Pの傷害を抑制できる。
(2)筒状に形成された側部エアバッグ41の長手方向に沿って、帯状のテザー50を接合することにより、簡単かつ信頼性の高い構成により上述した効果を得ることができる。
(3)単に環状エアバッグ40を展開させるだけでも、テザー50に張力を発生させることは可能であるが、展開装置60が側部エアバッグ41を含む環状エアバッグ40の展開時にテザー50を牽引する牽引機構を有することにより、テザー50に確実に張力を発生させて上述した効果を適切に得ることができる。
(4)左右の側部エアバッグ41の上部にわたして設けられ、乗員Pの頸部Nの後方側に配置された上部エアバッグ42を備えることにより、後面衝突時に乗員Pの頸部Nを拘束し、頸部Nや脳幹の傷害を抑制するとともに、乗員Pがバックレスト20の斜面に沿ってずり上がることをより効果的に防止できる。
【0033】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した乗員保護装置の第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、第1実施形態と同様の箇所については同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図6は、第2実施形態の乗員保護装置が設けられる車両用シートを側方から見た状態を示す模式図であって、環状エアバッグ展開後の状態を示す図である。
【0034】
第2実施形態の乗員保護装置は、第1実施形態の展開装置60に代えて、以下説明する展開装置70を有する。
展開装置70は、例えば、シートクッション10の下部に設けられる。
展開装置70は、環状エアバッグ用ガス発生装置130、及び、テザー50を牽引する牽引機構に加えて、以下説明するスライド機構71を備える。
スライド機構71は、環状エアバッグ40の下部である側部エアバッグ41の下端部、及び、下部エアバッグ43を、シートクッション10に対して拘束するとともに、拘束箇所(側部エアバッグ41のシートクッション10への接続箇所)を車両前後方向に変位させるものである。
【0035】
スライド機構71は、エアバッグ制御ユニット100からの指令に応じて、例えば、電動アクチュエータや、化薬式のアクチュエータ等を用い、下部エアバッグ43が取り付けられる基部を、シートクッション10の前後方向に駆動する駆動装置を有する。
スライド機構71は、側部エアバッグ41のシートクッション10との接続箇所を前後方向に変位させる、本発明の接続箇所移動部として機能する。
【0036】
図6において、破線で図示した側部エアバッグ41、下部エアバッグ43は、側面衝突時の状態を示している。なお、この状態でのテザー50は図示を省略している。
また、実線で図示した側部エアバッグ41、下部エアバッグ43は、前面衝突時及び後面衝突時の状態を示している。
スライド機構71は、車両の通常使用時(非衝突時)においては、側部エアバッグ41の下端部、及び、下部エアバッグ43を、シートクッション10の前後方向における中間部付近(初期位置)に保持する。
【0037】
前面衝突時及び後面衝突の検知又は予測に応じて、環状エアバッグ40が展開される場合には、スライド機構71は、側部エアバッグ41の下端部(シートクッション10との接続箇所)、及び、下部エアバッグ43を、初期位置に対して車両前方側へ移動させる。
このとき、環状エアバッグ40は、図6に実線で示す態様(第1実施形態と同様の態様)で展開する。
【0038】
一方、側面衝突の検知又は予測に応じて、環状エアバッグ40が展開される場合には、スライド機構71は、側部エアバッグ41の下端部、及び、下部エアバッグ43を、初期位置に維持する。
このとき、環状エアバッグ40は、図6に破線で示す態様で展開する。
【0039】
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果に加えて、後面衝突時においては、側部エアバッグ41のシートクッション10との接続箇所を側面衝突の場合より前方(典型的には座面部の前端部近傍)に配置することにより、バックレスト20の後傾を拘束する効果を高めることができる。
また、前面衝突時においては、同様に側部エアバッグ41のシートクッション10との接続箇所を、側面衝突の場合より前方に配置することにより、側部エアバッグ41が乗員Pの肩部を乗り越えて上体UBの前面を拘束しやすくし、乗員Pの前進を抑制する効果を高めることができる。
一方、側面衝突時においては、側部エアバッグ41のシートクッション10との接続箇所を後面衝突、前面衝突に対して後方に配置することにより、側部エアバッグ41を乗員Pの体側部に沿わせて展開させることが可能となり、側面衝突時の乗員保護性能を高めることができる。
【0040】
(変形例)
本発明は、以上説明した各実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)乗員保護装置、シート、及び、車両の構成は、上述した実施形態に限定されず、適宜変更することができる。
(2)実施形態における衝突の検知又は予測を行う手法や、これに用いられるハードウェアの構成は一例であって、適宜変更することができる。
例えば、自車両に搭載するセンサの種類は実施形態に限定されず、適宜追加あるいは省略することができる。
また、自車両に搭載されたセンサによる検知、予測に限らず、例えば路車間通信や車車間通信を利用して衝突を予測してもよい。
(3)側部エアバッグ(側部バッグ)に設けられる張力負担部の構成は、各実施形態のように側部バッグを構成する基布の表面に別部品からなるテザーを添付する構成に限らず、適宜変更することができる。
例えば、テザーが側部バッグの一部を構成するようにしてもよい。また、バッグを構成する基布の周辺に、例えばケブラー(登録商標)等のアラミド繊維からなるチューブ等の補強部材を設ける構成としてもよい。
(4)第2実施形態においては、前面衝突時及び後面衝突時に、側部バッグと座面部との接続箇所を、側面衝突時の位置(初期位置)に対して前進させる構成としているが、これに限らず、側面衝突時に前面衝突時及び後面衝突時の位置(初期位置)に対して後退させる構成としてもよい。
(5)各実施形態においては、側部エアバッグ等を有する環状エアバッグの展開と、テザー(張力付与部)の牽引とを同一のガス発生装置を用いて行っているが、テザー等の牽引をバッグの展開とは別の動力源を用いて行ってもよい。
【符号の説明】
【0041】
1 シート 10 シートクッション
20 バックレスト 30 ヘッドレスト
40 環状エアバッグ 41 側部エアバッグ
42 上部エアバッグ 43 下部エアバッグ
P1,P2 基布パネル S1,S2 糸
50 テザー 60 展開装置
70 展開装置 71 スライド機構
100 エアバッグ制御ユニット 101 衝突センサ
110 前面衝突エアバッグ用ガス発生装置
120 カーテンエアバッグ用ガス発生装置
130 環状エアバッグ用ガス発生装置
140 テザー用ガス発生装置
200 環境認識ユニット 210 可視光カメラ装置
220 ミリ波レーダ装置 230 レーザスキャナ装置
P 乗員 H 頭部
N 頸部 UB 上体
A 腕 L 脚
F 大腿部 B 臀部
D サイドドア
図1
図2
図3
図4
図5
図6