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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160511
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20231026BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20231026BHJP
   B60W 30/14 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
G08G1/16 F
B60W50/14
B60W30/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070927
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3D241
5H181
【Fターム(参考)】
3D241BA01
3D241BA60
3D241BA70
3D241BC01
3D241CC08
3D241CE04
3D241CE05
3D241DC37Z
3D241DC41Z
3D241DC51Z
3D241DD04B
3D241DD04Z
5H181AA01
5H181BB03
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF04
5H181FF21
5H181FF22
5H181FF27
5H181FF33
5H181LL01
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL09
5H181LL20
(57)【要約】
【課題】乗員の感情の種類に応じた適切な運転支援を行う運転支援装置を提供する。
【解決手段】走行状態検出部310,320,330及び乗員モニタリング部401,402の出力に基づいて、乗員Pの感情を判別する感情判別部400と、自車両周辺の環境を認識する環境認識部100と、走行状態検出部、感情判別部、環境認識部の少なくとも一つの出力に応じて乗員への情報提示と車両の走行支援制御との少なくとも一方を含む運転支援制御を行う運転支援制御部200とを備える運転支援装置を、感情判別部は、通常時よりも運転への適性が低下した複数種類の感情を判別し、運転支援制御部は、感情判別部が判別した感情の種類に応じて、運転支援制御の内容を異ならせる構成とする。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の走行状態を検出する走行状態検出部と、
前記車両の乗員の状態をモニタリングする乗員モニタリング部と、
前記走行状態検出部及び前記乗員モニタリング部の出力に基づいて、前記乗員の感情を判別する感情判別部と、
自車両周辺の環境を認識する環境認識部と、
前記走行状態検出部、前記感情判別部、前記環境認識部の少なくとも一つの出力に応じて前記乗員への情報提示と前記車両の走行支援制御との少なくとも一方を含む運転支援制御を行う運転支援制御部と
を備える運転支援装置であって、
前記感情判別部は、通常時よりも運転への適性が低下した複数種類の感情を判別し、
前記運転支援制御部は、前記感情判別部が判別した前記感情の種類に応じて、前記運転支援制御の内容を異ならせること
を特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
前記運転支援制御部は、前記走行状態検出部が検出した前記車両の走行状態に応じて走行支援を行う走行支援制御と、前記環境認識部が検出した自車両周辺の環境変化に関する情報を提示する環境情報提示制御との少なくとも一方を行う機能を有し、
前記感情判別部は、前記乗員の注意力散漫状態を判別する機能を有し、
前記運転支援制御部は、前記注意力散漫状態の判別に応じて、前記走行支援制御と前記環境情報提示制御との少なくとも一方が、前記注意力散漫状態が判別されない場合に対して、制御介入しやすくなるよう前記運転支援制御の内容を変化させること
を特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記運転支援制御部は、前記環境認識部が検出した自車両周辺の環境変化に応じて走行支援を行う環境対応走行支援制御と、自車両の走行ラインに関する情報を提示する走行ライン情報提示制御との少なくとも一方を行う機能を有し、
前記感情判別部は、前記乗員の不安混迷状態を判別する機能を有し、
前記運転支援制御部は、前記不安混迷状態の判別に応じて、前記環境対応走行支援制御と前記走行ライン情報提示制御との少なくとも一方が、前記不安混迷状態が判別されない場合に対して、制御介入しやすくなるよう前記運転支援制御の内容を変化させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記運転支援制御部は、自車両の走行予定経路において所定以上遠方の情報を提示する経路環境情報提示制御を行う機能を有し、
前記感情判別部は、前記乗員の焦燥憤怒状態を判別する機能を有し、
前記運転支援制御部は、前記焦燥憤怒状態の判別に応じて、前記経路環境情報提示制御以外の情報を提示する頻度を、前記焦燥憤怒状態が判別されない場合に対して低下させること
を特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項5】
前記感情判別部は、前記乗員の運転不能状態を判別する機能を有し、
前記運転支援制御部は、前記運転不能状態の判別に応じて、前記車両の停止を促す情報の提示と、前記車両の自動停止との少なくとも一方を行うこと
を特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両に設けられる運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両の運転支援に関する技術として、例えば、特許文献1には、車両の乗員の生体情報を取得する生体情報取得部を備える車両制御装置が記載されている。
また、乗員の脈拍、体温、発汗等の生体情報、乗員カメラの画像、音声マイクが採取した乗員の声に基づいて、乗員の感情を推定する感情推定部が記載されている。
車両制御装置は、推定された感情、障害物情報、安全行動推定部が推定した安全行動に係る安全行動情報、及び、回避指示情報取得部から取得した回避指示情報を用いて、乗員の不安を軽減させる回避行動を計画し、自車両の制御を行うことが記載されている。
特許文献2には、ドライバの状態を示す生体情報を取得する生体情報取得部を有する運転支援装置が記載されている。
また、車両情報取得部が取得した車両情報、及び、生体情報取得部が取得した生体情報をそれぞれ入力し、ドライバの認知力、つまり外界の状況への対応力を推定する認知力推定装置を備え、眠気、疲労、及び注意力の3つの指標に分けて、認知力の程度を推定することが記載されている。
また、認知力の回復が期待できない場合に、自動運転に切り換えることにより、より高い安全性を確保することが記載されている。
特許文献3には、運転者の生体情報を取得する生体情報取得部を有する運転支援装置が記載されている。
また、運転支援装置は、環境情報取得部と、制御部とを備えること、環境情報取得部は、車両が走行する走行環境情報を取得することが記載されている。
また、制御部は、車両の運転において、運転支援を行う運転制御部、走行環境情報に基づいて走行の安全度合いを算出する安全度合い算出部、運転制御部により運転を自動化する程度の決定において、安全度合いに生体情報を加味した決定を行い。運転を自動化する程度を高くする支援程度決定部を有することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-125089号公報
【特許文献2】特開2019-200544号公報
【特許文献3】特開2020-135698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば車両の走行状態や自車両周囲のリスク対象物に応じて、各種の情報を提示したり、車両の走行状態を制御する運転支援制御は、通常は乗員(ユーザ)にとってメリットとなるものではあるが、乗員の感情状態によっては、むしろ煩わしさを感じさせる場合がある。
このため、単純に乗員の感情状態が通常時に対して運転への適性が低下する方向に変化した場合に、画一的な制御をするのでは、例えば乗員が焦燥状態や憤怒状態にある場合には、感情状態をさらに悪化させてしまうことが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、乗員の感情の種類に応じた適切な運転支援を行う運転支援装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の運転支援装置は、車両の走行状態を検出する走行状態検出部と、前記車両の乗員の状態をモニタリングする乗員モニタリング部と、前記走行状態検出部及び前記乗員モニタリング部の出力に基づいて、前記乗員の感情を判別する感情判別部と、自車両周辺の環境を認識する環境認識部と、前記走行状態検出部、前記感情判別部、前記環境認識部の少なくとも一つの出力に応じて前記乗員への情報提示と前記車両の走行支援制御との少なくとも一方を含む運転支援制御を行う運転支援制御部とを備える運転支援装置であって、前記感情判別部は、通常時よりも運転への適性が低下した複数種類の感情を判別し、前記運転支援制御部は、前記感情判別部が判別した前記感情の種類に応じて、前記運転支援制御の内容を異ならせることを特徴とする。
これによれば、乗員の複数種類の感情を判別し、感情の種類に応じて運転支援制御の内容を異ならせることにより、乗員が制御の介入を煩わしく感じることを抑制して適切な運転支援制御を行うことができる。
【0006】
本発明において、前記運転支援制御部は、前記走行状態検出部が検出した前記車両の走行状態に応じて走行支援を行う走行支援制御と、前記環境認識部が検出した自車両周辺の環境変化に関する情報を提示する環境情報提示制御との少なくとも一方を行う機能を有し、前記感情判別部は、前記乗員の注意力散漫状態を判別する機能を有し、前記運転支援制御部は、前記注意力散漫状態の判別に応じて、前記走行支援制御と前記環境情報提示制御との少なくとも一方が、前記注意力散漫状態が判別されない場合に対して、制御介入しやすくなるよう前記運転支援制御の内容を変化させる構成とすることができる。
これによれば、乗員が注意力散漫状態にある場合には、このことを乗員に積極的に知らしめることが好ましいため、運転支援制御の介入頻度を増加させることにより、早期に乗員の注意力散漫状態を改善することができる。
【0007】
本発明において、前記運転支援制御部は、前記環境認識部が検出した自車両周辺の環境変化に応じて走行支援を行う環境対応走行支援制御と、自車両の走行ラインに関する情報を提示する走行ライン情報提示制御との少なくとも一方を行う機能を有し、前記感情判別部は、前記乗員の不安混迷状態を判別する機能を有し、前記運転支援制御部は、前記不安混迷状態の判別に応じて、前記環境対応走行支援制御と前記走行ライン情報提示制御との少なくとも一方が、前記不安混迷状態が判別されない場合に対して、制御介入しやすくなるよう前記運転支援制御の内容を変化させる構成とすることができる。
これによれば、乗員が不安混迷状態にある場合には、自車両周辺の環境変化に応じて走行支援を行う環境対応走行支援制御の介入頻度を高めることにより、リスク対象物の見落とし等によって危険な状態に陥ることを防止できる。
また、自車両の走行ラインに関する情報の提示を積極的に行うことにより、乗員が不安混迷状態にある場合であっても、車両が安定して走行するよう支援することができる。
【0008】
本発明において、前記運転支援制御部は、自車両の走行予定経路において所定以上遠方の情報を提示する経路環境情報提示制御を行う機能を有し、前記感情判別部は、前記乗員の焦燥憤怒状態を判別する機能を有し、前記運転支援制御部は、前記焦燥憤怒状態の判別に応じて、前記経路環境情報提示制御以外の情報を提示する頻度を、前記焦燥憤怒状態が判別されない場合に対して低下させる構成とすることができる。
これによれば、乗員が焦燥憤怒状態にある場合には、運転支援制御による各種情報の提示を抑制することで、乗員に煩わしさを感じさせ、焦燥憤怒状態をさらに悪化させることを防止するとともに、焦燥憤怒状態であっても比較的乗員が受け入れやすい経路環境情報を重点的に提示することにより、車両の利便性を確保することができる。
【0009】
本発明において、前記感情判別部は、前記乗員の運転不能状態を判別する機能を有し、
前記運転支援制御部は、前記運転不能状態の判別に応じて、前記車両の停止を促す情報の提示と、前記車両の自動停止との少なくとも一方を行う構成とすることができる。
これによれば、乗員が運転不能状態である場合には、車両を停止させることにより、危険な状態や事故の発生を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、乗員の感情の種類に応じた適切な運転支援を行う運転支援装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明を適用した運転支援装置の実施形態を有する車両のシステム構成を模式的に示す図である。
図2】実施形態の運転支援装置におけるドライバモニタリングカメラ、座面圧センサの配置を模式的に示す図である。
図3】実施形態の運転支援装置における乗員の感情判別の基本的な構成を示すフローチャートである。
図4】ステアリングホイールを保持する乗員の手指の状態の一例を示す図である。
図5】実施形態の運転支援装置における基本的な制御の内容を示すフローチャートである。
図6】実施形態の運転支援装置における乗員の感情状態に応じた運転支援制御の内容変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を適用した運転支援装置の実施形態について説明する。
実施形態の運転支援装置は、例えば、乗用車等の4輪の自動車に設けられるものである。
図1は、実施形態の運転支援装置を有する車両のシステム構成を模式的に示す図である。
【0013】
車両1は、環境認識ユニット100、運転支援制御ユニット200、電動パワーステアリング(EPS)制御ユニット310、パワーユニット制御ユニット320、ブレーキ制御ユニット330、乗員状態判別ユニット400等を備えている。
これらの各ユニットは、例えばCPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有するマイコンとして構成することができる。
また、各ユニットは、例えばCAN通信システムなどの車載LANを介して、あるいは、直接に、相互に通信可能となっている。
【0014】
環境認識ユニット100は、各種センサ等の出力に基づいて、自車両周囲の環境を認識するものである。
認識の対象となる自車両周囲の環境は、例えば、車両1が走行する道路の車線形状や、各種障害物の自車両に対する相対位置、相対速度、さらに、車両1が今後走行する経路の道順や、事故、渋滞、規制等に関する情報を含む。
環境認識センサ100には、可視光カメラ110、ミリ波レーダ装置120、レーザスキャナ装置130、高精度地図データベース140、測位装置150等が接続されている。
【0015】
可視光カメラ装置110は、自車両の周囲(前方、後方、側方等)をステレオカメラ、単願カメラなどの可視光カメラで撮像する撮像装置である。
可視光カメラ装置110は、撮像画像に画像処理を施し、自車両周囲の物体の有無及び自車両に対する物体の相対位置、相対速度や、車線形状等を検出する機能を備えている。
ミリ波レーダ装置120は、例えば30乃至300GHzの周波数帯域の電波を用いたレーダ装置であって、物体の有無及び自車両に対する物体の相対位置を検出する機能を備えている。
レーザスキャナ装置130は、例えば近赤外レーザ光をパルス状に照射して車両周辺を走査し、反射光の有無及び反射光が戻るまでの時間差に基づいて、物体の有無、車両に対する物体の相対位置、物体の形状等を検出する機能を備えている。
【0016】
高精度地図データベース140は、車両1の走行が想定される範囲内の高精度3次元地図データ(HDマップ)に係るデータを蓄積するものである。
このデータは、例えば、車線、路肩縁、車線区分線(いわゆる白線)などを、例えばcm単位の分解能で、緯度、経度、高度の情報を含む3次元データとしている。
測位装置150は、例えばGPS等の準天頂衛星システムの受信機や、路車間通信装置、自律航法用のジャイロセンサ等を有し、車両1の現在位置を検出するものである。
高精度地図データベース140、測位装置150は、環境認識ユニット100、運転支援制御ユニット200と協働して、所定の目的地への経路案内や、これに伴う車線変更、右左折などの情報提示を行うナビゲーションシステムとして機能する。
このようなナビゲーションシステムとしての機能も、本発明における運転支援制御(情報提示制御)に含まれる。
【0017】
運転支援制御ユニット200は、環境認識ユニット100が認識した自車両周囲の環境や、後述する各ユニット、センサの出力に基づいて認識される車両1の走行状態、乗員Pの感情状態に基づいて、運転支援制御を行うものである。
運転支援制御として、例えば、乗員Pに対する画像、音声、振動などによる情報の提示を行う情報提示制御、及び、制動力の制御、走行用動力源の出力制御、操舵制御などの車両の走行支援制御が含まれる。
【0018】
運転支援制御ユニット200には、入出力装置210、通信装置220が接続されている。
入出力装置210は、例えば、タッチパネルディスプレイ等の入力装置を兼ねた画像表示装置や、音声スピーカ、シート等乗員と接触する部位に設けられた振動発生装置などの出力装置と、物理スイッチ、音声マイクロフォンなどの入力装置を有する。
乗員Pは、入出力装置210を用いて、運転支援制御に関する各種設定を行うことが可能となっている。
通信装置220は、例えば、無線通信回線を用いて、車外に設けられた基地局と通信し、各種データの送受信を行うものである。
【0019】
電動パワーステアリング制御ユニット310は、車両1の操向輪(典型的には前輪)を操舵する図示しない操舵装置に、乗員Pの操舵操作に応じたアシスト力や、自動操舵時における操舵力を与える制御を行うものである。
電動パワーステアリング制御ユニット310には、舵角センサ311、トルクセンサ312、モータ313等が接続されている。
【0020】
舵角センサ311は、操舵装置における操舵角を検出するセンサ(舵角検出部)である。
トルクセンサ312は、乗員Pが操舵操作を行う図示しないステアリングホイールが接続されたステアリングシャフトに負荷されるトルクを検出するセンサである。
電動パワーステアリング制御ユニット310は、トルクセンサ312が検出したトルクに応じて、アシスト力の発生を行う。
モータ313は、操舵装置にアシスト力、操舵力を与え、ラック推力を発生させる電動アクチュエータである。
モータ313の出力は、電動パワーステアリング制御ユニット310により制御される。
【0021】
パワーユニット制御ユニット320は、車両1の走行用動力源及びその補機類を統括的に制御するものである。
走行用動力源として、例えば、内燃エンジン(ICE)、電動モータ、エンジン-電動モータのハイブリッドシステム等を用いることができる。
パワーユニット制御ユニット320は、例えば図示しないアクセルペダルの操作量等に基づいて要求トルクを設定し、走行用動力源が発生する実際のトルクが要求トルクと一致するよう、走行用動力源を制御する。
【0022】
ブレーキ制御ユニット330は、車両の前後左右の車輪にそれぞれ設けられるブレーキ装置の制動力を、個別に(車輪ごとに)制御するものである。
ブレーキ装置として、例えば、液圧式ディスクブレーキを有する構成とすることができる。
ブレーキ制御ユニット330には、ハイドロリックコントロールユニット331、車速センサ332、加速度センサ333、ヨーレートセンサ334等が接続されている。
【0023】
ハイドロリックコントロールユニット331は、各車輪の図示しないホイルシリンダのブレーキフルード液圧を個別に調節する液圧制御装置である。
ハイドロリックコントロールユニット331は、ブレーキフルードを加圧する電動ポンプ、及び、各ホイルシリンダのブレーキフルード液圧を制御する増圧弁、減圧弁、圧力保持弁などを備えている。
【0024】
ハイドロリックコントロールユニット331には、ブレーキフルード配管を介して、図示しないマスタシリンダ、ホイルシリンダ等が接続されている。
マスタシリンダは、ドライバがブレーキ操作を行う図示しないブレーキペダルの操作に応じて、ブレーキフルードを加圧するものである。
マスタシリンダが発生したブレーキフルード液圧は、ハイドロリックコントロールユニット331を経由して、ホイルシリンダに伝達されるようになっている。
ハイドロリックコントロールユニット331は、マスタシリンダが発生するブレーキフルード液圧にオーバライドして、各ホイルシリンダのブレーキフルード液圧を増減する機能を有する。
ホイルシリンダは、各車輪に設けられ、例えばディスクロータにブレーキパッドを押圧し、ブレーキフルード液圧に応じた摩擦力(制動力)を発生させるものである。
【0025】
車速センサ332は、各車輪を回転可能に支持するハブ部に設けられ、各車輪の回転速度に応じた車速信号を発生するセンサである。
加速度センサ333は、車体に作用する前後方向、及び、左右方向(車幅方向)の加速度を検出するセンサ(加減速検出部)である。
ヨーレートセンサ334は、車体の鉛直軸回りにおける回転(自転)角速度であるヨーレートを検出するセンサである。
以上説明した電動パワーステアリング制御ユニット310、パワーユニット制御ユニット320、ブレーキ制御ユニット330は、環境認識ユニット100と協働して、車両1の走行状態を検出する走行状態検出部として機能する。
【0026】
乗員状態判別ユニット400は、乗員P(典型的にはドライバ)の意識状態、感情状態、健康状態等を判別するものである。
乗員状態班別ユニット400には、ドライバモニタリングカメラ401、座面圧センサ402等が接続されている。
ドライバモニタリングカメラ401、座面圧センサ402は、乗員状態判別ユニット400と協働して、乗員モニタリング部として機能する。
【0027】
図2は、実施形態の運転支援装置におけるドライバモニタリングカメラ401、座面圧センサ402の配置を模式的に示す図である。
車両1は、乗員Pが着座するシートSを有する。
シートSは、シートクッションS1、バックレストS2、ヘッドレストS3等を有する。
シートクッションS1は、乗員Pの大腿部、臀部等が載せられる座面部である。
バックレストS2は、乗員の背部と当接し、乗員の上体を保持する部分である。
バックレストS2は、シートクッションS1の後部近傍から、上方かつ斜め後方側に突出している。
ヘッドレストS3は、乗員の頭部後方側に配置され、頭部が後退した際に頭部を保持する部分である。
ヘッドレストS3は、バックレストS2の上端部から上方へ張り出して配置されている。
【0028】
ドライバモニタリングカメラ401は、乗員Pを車両前方側から撮像する撮像装置である。
ドライバモニタリングカメラ401は、乗員Pの顔面、及び、ステアリングホイールSWを把持した状態における手を撮像画角内に含むよう配置されている。
ドライバモニタリングカメラ401は、例えば、CMOSやCCD等の固体撮像素子、固体撮像素子に被写体像を結像させるレンズ群などの光学系、固体撮像素子の駆動回路、出力処理回路などを有する。
【0029】
座面圧センサ402は、シートクッションS1に設けられ、乗員PからシートクッションS1の上面部が受ける面圧の分布を測定するセンサである。
また、乗員状態判別ユニット400は、これら以外のセンサを有する構成としてもよい。
例えば、乗員の心拍数、体温、血圧、血中酸素飽和濃度などの各種生体情報(いわゆるバイタルサイン)を取得するセンサを設けてもよい。
【0030】
乗員状態判別ユニット400は、環境認識ユニット100が認識した自車両周囲の環境に関する情報や、各種センサが検出した情報などの車両1の走行状態、ドライバモニタリングカメラ401、座面圧センサ402等が検出する乗員状態等に基づいて、乗員Pの感情を判別する機能を有する。この点について、以下詳細に説明する。
具体的には、乗員状態判別ユニット400は、運転に適さない運転不適感情として、例えば、注意力散漫状態、不安混迷状態、焦燥憤怒状態を判別する機能を有する。
図3は、実施形態の運転支援装置における乗員の感情判別の基本的な構成を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0031】
<ステップS101:走行状態・乗員状態モニタリング開始>
乗員状態判別ユニット400は、所定のイニシャライズ処理後に、上述した走行状態、乗員状態のモニタリングを開始する。
イニシャライズ処理は、乗員の感情判別に用いられる各種パラメータを初期化する処理であって、通常は、車両1のドライビングサイクル(車両1の主電源投入、走行開始、目的地到達、主電源切断に至るまでの一連の期間)の開始時に行われる。
例えば、乗員状態判別ユニット400は、車両1の主電源が投入(イグニッションオン)され、乗員Pがシートベルトを着用し、車両が走行可能な状態となったこと(例えば、変速機の走行レンジへのシフト)に応じて、ドライビングサイクルの開始を判別することができる。
【0032】
例えば、乗員状態判別ユニット400は、座面圧センサ402が検出する座面圧の分布や、ドライバモニタリングカメラ401が撮像する画像から画像処理によって得られるステアリングホイールSWと乗員の手指との間隔g(図4参照)等の、感情判別に用いられるパラメータのイニシャライズ値を、例えば車速が10km/h以下の低速走行あるいは停車時における所定期間(一例として5分間)の平均値に基づいて設定する。
また、感情判別に用いるパラメータとして、例えば、通常時における視線の移動量や、顔(頭部)の向きの移動量なども用いられる。これらについても、同様にイニシャライズ処理(イニシャライズ値の取得)が行われる。
ここで設定されたイニシャライズ値は、乗員の身体状態を示すパラメータの基準値となる。以下説明する感情判別は、基本的に、各パラメータのイニシャライズ値(基準値)と、閾値との差分を、所定の閾値と比較することによって行う。
【0033】
ここで、所定期間内に所定のデータ量が収集できなかった場合や、車両が水平面にあるときに計測できなかった場合には、所定の条件が充足した場合に、精度向上のためのイニシャライズ値の補正あるいは再取得を行う。
所定の条件として、例えば、自車両前方の信号機が停止(赤点灯)であること、車速が0km/hであること(車速検出が不可能な微低速も含む)、舵角センサ311が検出する舵角が略0であること、加速度センサ333が検出する前後方向、左右方向の加速度が0であること(水平面に停車中であること)などがあげられる。
なお、このようなパラメータのイニシャライズは、単一のドライビングサイクル中に複数回行ってもよい。
走行状態、乗員状態のモニタリングの開始後、ステップS02に進む。
【0034】
<ステップS102:注意力散漫状態警戒>
乗員状態判別ユニット400は、乗員Pの注意力散漫状態の判別に用いられるパラメータを重点的に監視する注意力散漫状態警戒を開始する。重点的に監視するとは、例えば、通常時(非警戒時)に対してデータ取得の時間分解能を向上することなどで、データ量を増加することを含む。
注意力散漫状態の判別は、例えば、乗員Pの視野の固着、前走(先行)車両との車間距離の変動(ブレ)などに基づいて行うことが可能である。
視野の固着は、例えば、ドライバモニタリングカメラ401の撮像画像等から検出されるドライバの視線方向に基づいて判別することができる。
【0035】
例えば、視線方向が所定以上変化しない状態(典型的には、視線方向の変位量が微小に設定された閾値以下である状態)が所定時間以上継続した場合に、注意力散漫状態であると判別することができる。
前走車両との車間距離の変動は、例えば、環境認識ユニット100が検出した前走車両の自車両に対する相対距離の推移に基づいて判別することができる。
例えば、所定期間内に、所定値以上の車間距離変動があった場合に、注意力散漫状態であると判別することができる。
その後、ステップS103に進む。
【0036】
<ステップS103:注意力散漫状態判別>
乗員状態判別ユニット400は、予め設定された所定の注意力散漫状態警戒期間内(一例として10分間以内)に、上述した判別手法のうち少なくとも一つにより、乗員Pの注意力散漫状態が判別されたか否かを検知する。
注意力散漫状態であるか否か、判別を行った後に、ステップS104に進む。
【0037】
<ステップS104:不安混迷状態警戒条件判断>
乗員状態判別ユニット400は、注意力散漫状態警戒中に、乗員Pの不安混迷状態を判別すべき所定の条件を充足したか否かを判別する。
不安混迷状態を判別すべき条件(不安混迷状態である可能性が高いと推定される事象)として、例えば、乗員Pの頭部(顔の向き)の上下運動(揺れ)頻度、視線方向の変動などに基づいて判別することができる。
【0038】
頭部の上下運動頻度が高い場合には、乗員Pは、例えばナビゲーション装置の画面やミラー類などを頻繁に視認していると考えられ、周囲の状況を十分に把握できていないか、周囲の状況に不安感をもっているものと推定される。
例えば、所定時間(一例として3秒)以内に、所定回数(一例として3回)以上、頭部の揺れ(例えば移動方向の反転)が生じた場合に、不安混迷状態を判別すべきとする。
同様に、視線方向の変動が多い場合にも、乗員は周囲の状況を十分に把握できていないか、周囲の状況に不安感をもっているものと推定される。
例えば、中心視野のブレ(中心視野がスキャンする範囲)が、直近の信号待ち時に対して3倍以上に拡散している場合に、不安混迷状態を判別すべきとする。
【0039】
また、不安混迷状態を判別すべき条件を、走行状態に基づいて判別することができる。
例えば、環境認識ユニット100が認識した自車両の車線内横位置の推移に基づいて、運転支援制御ユニット200が蛇行走行を判別した場合、前走車両との車間距離変動が所定期間内に、所定値以上あった場合などにも、不安混迷状態を判別すべきとする。
不安混迷状態を判別すべきと判断した場合は、ステップS105に進み、その他の場合はステップS107に進む。
【0040】
<ステップS105:不安混迷状態警戒>
乗員状態判別ユニット400は、乗員Pの不安混迷状態の判別に用いられるパラメータを重点的に監視する不安混迷状態警戒を開始する。
不安混迷状態の判別は、例えば、座面圧センサ402によって検出されるシートクッションS1の座面圧分布(乗員Pの着座姿勢を示すパラメータである)、ドライバモニタリングカメラ401が撮像する画像に基づいて検出されるステアリングホイールSWのリムと乗員Pの手指との間隔に基づいて行うことが可能である。
座面圧に関しては、例えば、座面圧分布の所定以上の変動(着座姿勢の変化)が所定以上の頻度(例えば、10分間に3回以上)あった場合に、不安混迷状態であると判別することができる。
また、乗員の重心位置の後方移動が所定量以上(例えば、直近のイニシャライズ値に対して2%以上)あった場合も、緊張状態であり、一種の不安混迷状態であると判別することができる。
【0041】
図4は、ステアリングホイールを保持する乗員の手指の状態の一例を示す図である。
図4(a)は、乗員が緊張状態にない場合を示している。
一般に、緊張状態になく、リラックスした状態においては、乗員PはステアリングホイールSWのリムを強く握りこむことがない。
このような場合には、ステアリングホイールSWと、親指Tとの間に、間隔gがみられることが多い。
なお、ここでは親指Tを用いているが、他の指とステアリングホイールSWとの間隔をパラメータとしてもよい。
【0042】
図4(b)は、乗員が緊張状態にある場合を示している。
一般に、緊張状態にある場合(不安混迷状態や焦燥憤怒状態を含む)では、乗員PはステアリングホイールSWのリムを強く握りこむため、間隔gは緊張状態でない場合に対して小さくなり、あるいは、無くなる。
乗員状態判別ユニット400は、ドライバモニタリングカメラ401の撮像画像に基づいて検出した隙間gの現在値と、イニシャライズ値との差分が、予め設定された閾値を超過するまで隙間gが小さくなった場合に、乗員Pが強くステアリングホイールSWを握り込んでおり、不安混迷状態であると判別することができる。
その後、ステップS106に進む。
【0043】
<ステップS106:不安混迷状態判別>
乗員状態判別ユニット400は、予め設定された所定の不安混迷状態警戒期間内(一例として10分間以内)に、上述した判別手法の少なくとも一つにより、乗員Pの不安混迷状態が判別されたか否かを判別する。
不安混迷状態であるか否か、判別を行った後に、ステップS107に進む。
【0044】
<ステップS107:焦燥憤怒状態警戒条件判断>
乗員状態判別ユニット400は、不安混迷状態警戒中に、乗員Pの焦燥憤怒状態を判別すべき所定の条件を充足したか否かを判別する。
例えば、上述したステアリングホイールSWと親指Tとの隙間gが所定値以下となった場合には、焦燥憤怒状態を判別すべきとしてステップS108に進み、その他の場合には一連の処理を終了する。
【0045】
<ステップS108:焦燥憤怒状態警戒>
乗員状態判別ユニット400は、乗員Pの焦燥憤怒状態の判別に用いられるパラメータを重点的に監視する焦燥憤怒状態警戒を開始する。
焦燥憤怒状態の判別は、例えば、車両1の所定以上の急激な加減速操作、及び、操舵操作が同時に行われること(乱暴な運転の典型)に基づいて行うことができる。
乗員状態判別ユニット400は、例えば、舵角センサ311が所定の閾値以上の舵角変化を検出し、かつ、同時に加速度センサ333が所定の閾値以上の前後加速度変化(急加速又は急減速)を検出した場合に、焦燥憤怒状態であると判別することができる。
その後、ステップS109に進む。
【0046】
<ステップS109:焦燥憤怒状態判別>
乗員状態判別ユニット400は、予め設定された所定の不安混迷状態警戒期間内(一例として10分間以内)に、上述した判別手法により、乗員Pの焦燥憤怒状態が判別されたか否かを判別する。
焦燥憤怒状態であるか否か、判別を行った後に、一連の処理を終了する。
なお、実施形態の感情判別においては、注意力散漫状態、不安混迷状態、焦燥憤怒状態のうち複数の感情状態が同時に判別される場合もあり得る。
【0047】
一般に、人間の集中力が持続するのは、例えば、約15分程度であると言われている。
複合能力を用いた操作を必要とする自動車の運転では、例えば一般道で約5kmの移動に相当する10分間の走行を行えば、感情状態に何らかの変化が生じることが多い。
特に、高ストレス時には、注意力が散漫となって見落としの多い運転になるか、運転の破綻により事故が発生することが懸念される。
これに対し、乗員状態判別ユニット400は、所定の警戒期間(一例として10分)を1単位としてセンシングシステムを管理している。
【0048】
具体的には、注意力散漫状態の警戒を所定の警戒期間(一例として10分間)にわたって行っている際に、不安混迷状態の疑いが生じた場合には、不安混迷状態の警戒を新たな警戒期間(一例として10分間)にわたって開始する。その後、焦燥憤怒状態の疑いが生じた場合には、焦燥憤怒状態の警戒を新たな警戒期間(一例として10分間)にわたって開始する。
これにより、乗員Pの感情が逐次運転操作により適さない方向へ推移する場合であっても、適切に感情状態の判別(推定)を行うことができる。
【0049】
また、上述した感情判別とは別に、乗員状態判別ユニット400は、ブレーキ制御ユニット330が検出するドライバのブレーキ操作の頻度が所定値以下であり極度に少ない場合、加速度センサ333が検出する車両1の減速度が所定値以下であり、減速操作が実質的に行われていない場合には、乗員Pの運転能力が著しく低下しているものとして、運転支援制御ユニット200に、車両1を、自動運転により路肩等の安全な箇所に停止させる強制停止制御を実行させる。
【0050】
さらに、状態判別ユニット400は、以下の事象が検出された場合には、乗員Pの体調異常による運転不能状態(意識レベルが低下する程度の体調悪化、飲酒・薬物等による酩酊状態等)が疑われるものとして、上述した強制停止制御を実行させるとともに、通信装置220を用いて、警察、救急、医療関係などの所定の機関等が有するサーバに通報する。
(a)乗員Pの視野の固着(例えば、3秒以上)
(b)ドライバモニタリングカメラ401の撮像画像に基づいて、乗員Pの閉眼判定が成立した場合(意識がないものと認められる)
(c)運転支援制御ユニット200が所定の蛇行走行を判別した場合
(d)前走車両との車間距離変動が所定の体調不良判別閾値以上である場合
(e)座面圧センサ402が検出する乗員Pの重心位置の後方又は下方への移動量が所定の体調不良判別閾値以上である場合
【0051】
次に、上述した乗員Pの感情判別(推定)の結果に応じた運転支援制御の内容について説明する。
図5は、実施形態の運転支援装置における基本的な制御の内容を示すフローチャートである。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0052】
<ステップS201:感情判別パラメータイニシャライズ>
乗員状態判別ユニット400は、車両1のドライビングサイクルの開始(例えば、車両1の主電源投入(イグニッションオン))に応じて、感情判別(推定)に用いられる各パラメータをイニシャライズする。
その後、ステップS202に進む。
【0053】
<ステップS202:走行状態・感情状態モニタリング開始>
運転支援制御ユニット200は、車両1の車速、前後加速度、前走車両との車間距離、車線内横位置、障害物の有無及び障害物がある場合には車両1に対する相対位置と速度などの、車両1の走行状態のモニタリングを開始する。
乗員状態判別ユニット400は、上述した乗員P(ドライバ)の感情状態のモニタリングを開始する。
その後、ステップS203に進む。
【0054】
<ステップS203:走行状態センシング判断>
運転支援制御ユニット200は、走行状態に関して運転支援を必要とするイベントをセンシングし、かつ、乗員状態判別ユニット400が感情状態に関するイベント(注意力散漫状態、不安混迷状態、焦燥憤怒状態の少なくとも一つの判別)をセンシングしなかったか否かを判断する。
走行状態に関して運転支援を必要とするイベントとして、例えば、以下のものが挙げられる。
(a)車両1の蛇行、ふらつき(車線内横位置の所定以上の変動)
(b)車両1の車線逸脱
(c)車両1と前走車両との車間距離の所定値以下への接近
(d)自車両周囲の障害物(リスク対象物)の検出
ここで、リスク対象物として、例えば、他車両、歩行者、自転車、その他車両1の通行の支障となる各種物体が含まれる構成とすることができる。
また、リスク対象物は、車線変更時に後側方に存在する他車両を含む。
(e)車速の制限速度超過
(f)車両1の走行が予定される経路上の渋滞、規制、事故等に関する各種情報
走行状態に関してのみ運転支援を必要とするイベントが発生した場合はステップS210に進み、その他の場合はステップS204に進む。
【0055】
<ステップS204:感情状態センシング判断>
運転支援制御ユニット200は、乗員状態判別ユニット400が感情状態に関するイベント(注意力散漫状態、不安混迷状態、焦燥憤怒状態の少なくとも一つ)をセンシングし、かつ、走行状態に関して運転支援を必要とするイベントをセンシングしなかったか否かを判断する。
感情状態に関するイベントのみがセンシングされた場合はステップS220に進み、その他の場合はステップS205に進む。
【0056】
<ステップS205:走行状態・感情状態センシング判断>
運転支援制御ユニット200は、走行状態に起因して運転支援を必要とするイベントをセンシングし、かつ、乗員状態判別ユニット400が運転に不適な感情状態に関するイベント(注意力散漫状態、不安混迷状態、焦燥憤怒状態)をセンシングしたか否かを判断する。
走行状態及び感情状態に関するイベントがともにセンシングされた場合はステップS230に進み、その他の場合は一連の処理を終了(リターン)する。
【0057】
<ステップS210:注意喚起表示出力>
運転支援制御ユニット200は、入出力装置210に、走行条件に関して運転支援を必要とする上記したイベントのうち、判別されたものに関して、乗員Pに対して注意喚起する表示を出力させる。
その後、一連の処理を終了する。
【0058】
<ステップS220:センシング閾値更新・注意喚起表示出力>
運転支援制御ユニット200は、走行状態に関して運転支援を必要とするイベントをセンシングするための閾値を、判定が成立しやすくなる方向に更新(閾値下げ)する。
また、運転支援制御ユニット200は、入出力装置210に、走行条件に関して運転支援を必要とする上記したイベントのうち、判別されたものに関して、乗員Pに対して注意喚起する表示を出力させる。
その後、ステップS221に進む。
【0059】
<ステップS221:更新閾値による再センシング判断>
運転支援制御ユニット200は、ステップS220において更新された閾値により、走行状態に関して運転支援を必要とするイベントが再度センシングされたか否かを判断する。
走行状態に関して運転支援を必要とするイベントが再度センシングされた場合はステップS222に進み、その他の場合は一連の処理を終了する。
【0060】
<ステップS222:強制停止警告表示出力>
運転支援制御ユニット200は、入出力装置210に、感情状態及び走行状態が悪化しており、車両1を停車させるべき旨の警告を、乗員Pに対して出力(提示)する。
その後、ステップS223に進む。
【0061】
<ステップS223:再更新閾値による再センシング判断>
運転支援制御ユニット200は、ステップS220において更新された閾値を、さらに判定が成立しやすくなる方向に再更新(閾値下げ)した閾値により、走行状態に関して運転支援を必要とするイベントが再度センシングされたか否かを判断する。
走行状態に関して運転支援を必要とするイベントが再度センシングされた場合はステップS224に進み、その他の場合は一連の処理を終了する。
【0062】
<ステップS224:強制停車制御実行>
運転支援制御ユニット200は、車両1を、運転支援制御ユニット200が操舵及び加減速を制御する自動運転により、路肩等の安全な箇所に停止させる強制停止制御を実行する。
その後、一連の処理を終了する。
【0063】
<ステップS230:センシング閾値更新・強制停止警告表示出力>
運転支援制御ユニット200は、走行状態に起因して運転支援を必要とするイベントをセンシングするための閾値を、判定が成立しやすくなる方向に更新(閾値下げ)する。
また、運転支援制御ユニット200は、入出力装置210に、感情状態及び走行状態が悪化しており、車両1を停車させるべき旨の警告を、乗員Pに対して出力(提示)する。
その後、ステップS231に進む。
【0064】
<ステップS231:更新閾値による再センシング判断>
運転支援制御ユニット200は、ステップS220において更新された閾値により、走行状態に関して運転支援制御の介入を必要とするイベントが再度センシングされたか否かを判断する。
走行状態に関して運転支援制御の介入を必要とするイベントが再度センシングされた場合はステップS232に進み、その他の場合は一連の処理を終了する。
【0065】
<ステップS232:強制停車制御実行>
運転支援制御ユニット200は、自動運転により車両1を路肩等の安全な箇所に停止させる強制停止制御を実行する。
その後、一連の処理を終了する。
【0066】
上述した強制停止警告に応じて、乗員Pが車両1を停止させた場合、運転支援制御ユニット200は、乗員Pの感情状態が運転に適した状態となる程度に回復したと推定するまでは車両1の運転を禁止し、その後車両1の運転を許可する。
例えば、車速が0km/hであり、かつ、ドア又はサイドドアガラスの開扉、シートSのリクライニング、トランスミッションの非走行レンジでの所定時間(一例として5分間)以上の維持の少なくとも一つを検出した場合には、乗員Pが所定期間以上にわたって休憩をとり、乗員Pの感情状態が回復(リフレッシュ)されたものとして、車両1の運転を許可する。
【0067】
また、運転支援制御ユニット200が車両1を強制的に停車(自動停車)させた場合にも、同様の処理を行う。
さらに、感情状態が所定以上に悪化している場合には、通信装置220を用いて、家族、医療機関、専門機関などの関係者へ通報する。
【0068】
また、実施形態の運転支援装置においては、判別された感情状態の種類に応じて、異なった運転支援を行う。
図6は、実施形態の運転支援装置における乗員の感情状態に応じた運転支援制御の内容変化を示す図である。
以下、ステップ毎に順を追って説明する。
【0069】
<ステップS301:イニシャライズ値によるモニタリングスタート>
乗員状態判別ユニット400は、乗員Pの感情判別に係るパラメータを、上述した通りイニシャライズした後に、各パラメータのモニタリングを開始する。
その後、ステップS302に進む。
【0070】
<ステップS302:注意力散漫状態判断>
運転支援制御ユニット200は、乗員状態判別ユニット400が乗員Pの注意力散漫状態を判別(ステップS103)したか否かを判断する。
注意力散漫状態が判別された場合はステップS310に進み、その他の場合はステップS303に進む。
【0071】
<ステップS303:不安混迷状態判断>
運転支援制御ユニット200は、乗員状態判別ユニット400が乗員Pの不安混迷状態を判別(ステップS106)したか否かを判断する。
注意力散漫状態が判別された場合はステップS320に進み、その他の場合はステップS304に進む。
【0072】
<ステップS304:焦燥憤怒状態判断>
運転支援制御ユニット200は、乗員状態判別ユニット400が乗員Pの焦燥憤怒状態を判別(ステップS106)したか否かを判断する。
注意力散漫状態が判別された場合はステップS330に進み、その他の場合はステップS305に進む。
【0073】
<ステップS305:通常制御>
運転支援制御ユニット200は、乗員Pの感情状態が正常(運転に適した状態)であることを前提とした、通常の運転支援制御を行う。
その後、一連の処理を終了する。
【0074】
<ステップS310:情報提示制御・飛び出し情報に特化>
運転支援制御ユニット200は、入出力装置210により、乗員に対して各種情報を提示する情報提示制御を実行する。
乗員に対して提示される情報として、例えば、以下のものが含まれる。
(a)前走車両との車間距離警報(車間距離が過度に小さい場合、変動している場合の警報)
(b)速度管理警報(速度超過の場合の警報)
(c)走行ライン情報(蛇行又は車線逸脱の場合の警報、及び、車線変更を促す案内)
(d)飛び出し情報(自車両前方に、衝突可能性が所定以上のリスク対象物が出現した場合の警報)
(e)経路環境情報(自車両の走行が予定される経路上の道路の曲率、勾配、太陽の位置、気温低下を含む路面状況等に関する情報)
運転支援制御ユニット200は、(a)乃至(c)、(e)に係る情報の出力頻度を通常時に対して低下させ、(d)に係る情報を重点的に出力(自車両前方の環境に係る飛び出し情報に特化・環境情報提示制御)する。
その後、ステップS311に進む。
【0075】
<ステップS311:走行支援制御・自車両挙動に関する介入閾値低下>
運転支援制御ユニット200は、環境認識ユニット100が検出した自車両周囲の環境、及び、センサ類により検出した自車両の走行状態に応じて、車両の操舵装置、パワーユニット、ブレーキ装置の制御に介入する走行支援制御を行う。
走行支援制御の内容として、例えば、以下のものが含まれる。
(a)自車両前方に衝突可能性が所定以上のリスク対象物が出現した場合の衝突被害軽減ブレーキ制御
(b)車線を逸脱した場合あるいは車線を逸脱する可能性が高い場合に、復元方向へのヨーモーメントを発生させる車線逸脱防止制御
運転支援制御ユニット200は、主に自車両の挙動に起因する制御である、車線逸脱防止制御の制御介入閾値を低下させる。(車線逸脱防止制御が早期に介入する方向に閾値を変更する)
その後、一連の処理を終了(リターン)する。
【0076】
<ステップS320:情報提示制御・走行ライン情報に特化>
運転支援制御ユニット200は、上述したステップS310において説明した(a)乃至(d)に係る情報のうち、(a)、(b)、(d)に係る情報の出力頻度を通常時に対して低下させ、(c)に係る情報を重点的に表示(走行ライン情報に特化)する。
その後、ステップS321に進む。
【0077】
<ステップS321:走行支援制御・周辺環境に対する制御介入閾値低下>
運転支援制御ユニット200は、上述したステップS311において説明した(a)、(b)に係る制御のうち、主に自車両周辺環境の変化に起因する制御(環境対応走行支援制御)である、(a)の衝突被害軽減ブレーキ制御の介入閾値を低下させる。(衝突被害軽減ブレーキ制御が早期に介入する方向に閾値を変更する)
その後、一連の処理を終了する。
【0078】
<ステップS330:情報提示制御・経路環境情報に特化>
運転支援制御ユニット200は、上述したステップS310において説明した(a)乃至(e)に係る情報のうち、(a)乃至(c)に係る情報の出力頻度を通常時に対して低下させ、(e)に係る経路環境情報(典型的には、1km以上前方の遠方の状況)を、通常時に対して高い頻度で重点的に出力(経路環境情報に特化)する。
また、(d)の飛び出し情報に関しては、通常時と同様に出力する。
なお、この場合には、走行支援制御は、通常時と同様に行われる。
その後、一連の処理を終了する。
【0079】
以上説明した実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)注意力散漫状態、不安混迷状態、焦燥憤怒状態を含む複数種類の感情を判別し、感情の種類に応じて運転支援制御の内容を異ならせることにより、乗員Pが制御の介入を煩わしく感じることを抑制して適切な運転支援制御を行うことができる。
(2)乗員Pが注意力散漫状態にある場合には、このことを乗員Pに積極的に知らしめることが好ましいため、運転支援制御の介入頻度を増加させることにより、早期に乗員Pの注意力散漫状態を改善することができる。
(3)乗員Pが不安混迷状態にある場合には、自車両周辺の環境変化に応じて走行支援を行う環境対応走行支援制御の介入頻度を高めることにより、リスク対象物の見落とし等によって危険な状態に陥ることを防止できる。
また、自車両の走行ラインに関する情報の提示を積極的に行うことにより、乗員が不安混迷状態にある場合であっても、車両が安定して走行するよう支援することができる。
(4)乗員Pが焦燥憤怒状態にある場合には、運転支援制御による各種情報の提示を抑制することで、乗員Pに煩わしさを感じさせ、焦燥憤怒状態をさらに悪化させることを防止するとともに、焦燥憤怒状態であっても比較的乗員Pが受け入れやすい経路環境情報を重点的に提示することにより、車両の利便性を確保することができる。
特に、焦燥憤怒状態にある場合には、乗員Pが早期に目的地に到達するよう焦り、急いでいる場合が多いと考えられ、経路環境情報にはありがたみを覚える可能性が高い。
(5)乗員Pが運転不能状態である場合には、車両1を停止させることにより、危険な状態や事故の発生を未然に防止することができる。
【0080】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)運転支援装置、及び、これが搭載される車両の構成は、上述した実施形態に限定されることなく、適宜変更することができる。
例えば、各ユニットの機能や、設けられるセンサの種類、センシングすべきイベントの対象等は特に限定されず、適宜変更することができる。
(2)運転支援制御の具体的内容は、実施形態の内容に限らず、他の機能を追加してもよい。また、実施形態における一部の機能を省略してもよい。
(3)乗員の感情状態の判別に用いられるパラメータや、判別ロジックは、実施形態の構成に限らず、適宜変更することができる。
例えば、実施形態では乗員の親指とステアリングホイールのリムとの間隔に基づいて不安混迷状態、焦燥憤怒状態を判別しているが、間隔を測定する基準となる手指は親指に限らず、他の指であってもよい。また、掌とリムとの間隔によって代用してもよい。
また、このような間隔に代えて、ステアリングホイールのリムに接触圧センサを設けて、乗員の手指、掌による把持力(接触圧)に基づいて、乗員によるステアリングホイールの握り込みの程度を推定してもよい。
(4)実施形態では、焦燥憤怒状態を判別するための車両の加減速を、加速度センサを用いて検出しているが、これ以外の手法により車両の加減速を検出又は推定してもよい。
例えば、減速度に代えて、ブレーキ操作力、ブレーキ操作量、液圧式ブレーキのフルード液圧、回生発電ブレーキの吸収トルク、車速の低下量、低下率などのパラメータを用いてもよい。
また、例えば、加速度に代えて、アクセル操作量、走行用動力源の目標トルク又は推定実トルクなどのパラメータを用いてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1 車両 100 環境認識ユニット
110 ステレオカメラ装置 120 ミリ波レーダ装置
130 レーザスキャナ装置 140 高精度地図データベース
150 測位装置 200 運転支援制御ユニット
210 入出力装置 220 通信装置
310 電動パワーステアリング制御ユニット
311 舵角センサ 312 舵角センサ
313 モータ 320 パワーユニット制御ユニット
330 ブレーキ制御ユニット
331 ハイドロリックコントロールユニット
332 車速センサ 333 加速度センサ
334 ヨーレートセンサ 400 乗員状態判別ユニット
401 ドライバモニタリングカメラ 402 座面圧センサ
P 乗員 T 親指
SW ステアリングホイール g 間隔
S シート S1 シートクッション
S2 バックレスト S3 ヘッドレスト

図1
図2
図3
図4
図5
図6