(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023160513
(43)【公開日】2023-11-02
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/42 20060101AFI20231026BHJP
B60N 2/18 20060101ALI20231026BHJP
B60N 2/22 20060101ALI20231026BHJP
A47C 1/024 20060101ALI20231026BHJP
【FI】
B60N2/42
B60N2/18
B60N2/22
A47C1/024
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022070929
(22)【出願日】2022-04-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100123696
【弁理士】
【氏名又は名称】稲田 弘明
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【弁理士】
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】長澤 勇
【テーマコード(参考)】
3B087
3B099
【Fターム(参考)】
3B087BD03
3B087BD14
3B087CD04
3B087DB05
3B099AA05
3B099BA09
(57)【要約】
【課題】後面衝突時の乗員保護性能を向上した車両用シートを提供する。
【解決手段】座面部20、及び、バックレスト部30を有する車両用シート1を、車両の衝突を検知又は予測する衝突検出部101,200と、座面部の少なくとも後部を降下させる座面降下部110と、バックレスト部を上端部が前進する方向へ回動させるバックレスト回動部120と、衝突検出部による前記衝突の検知又は予測に応じて、座面降下部及びバックレスト回動部を作動させる乗員保護制御部100とを備える構成とする。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗員の大腿部及び臀部が載せられる座面部、及び、前記座面部の後部から上方へ張り出し、前記乗員の背部と接するバックレスト部を有する車両用シートであって、
車両の衝突を検知又は予測する衝突検出部と、
前記座面部の少なくとも後部を降下させる座面降下部と、
前記バックレスト部を上端部が前進する方向へ回動させるバックレスト回動部と、
前記衝突検出部による前記衝突の検知又は予測に応じて、前記座面降下部及び前記バックレスト回動部を作動させる乗員保護制御部と
を備えることを特徴とする車両用シート。
【請求項2】
前記乗員保護制御部は、前記座面降下部に前記座面部の少なくとも後部を降下させた後に、前記バックレスト回動部に前記バックレスト部の回動を行わせること
を特徴とする請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記座面部は、硬質材料により形成されたシートパンと、前記シートパンの上部に設けられ弾性体を有するクッションとを有し、
前記座面降下部は、前記シートパンの後部を支持する支持機構を無効化することで前記シートパンの少なくとも後部を降下させること
を特徴とする請求項1又は請求項2に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記シートパンは、前後方向における中間部に、前記シートパンの前部と後部との相対回動を許容する回動許容部を有し、
前記座面降下部は、前記シートパンの前記後部を前記回動許容部回りに回動させることで前記後部を降下させること
を特徴とする請求項3に記載の車両用シート。
【請求項5】
前記座面降下部の作動時に、前記クッションの前記回動許容部に隣接する箇所を破断させるクッション破断部を有すること
を特徴とする請求項4に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両用のシートに関する従来技術として、例えば、特許文献1には、車両に追突事故が発生すると、クッション部の前部が軸と軸受けによって回動自在に軸支されている一方、後部においてクッション部を支持していた両ロッドが瞬時に退出させられることによって、クッション部の後部が乗員の重力とコイルバネの張力を受けてガイドレールに沿って瞬時に下方に回動する構成が記載されている。
特許文献2には、車両用シートにおいて、乗員が着座するシートクッションと、シートクッションを支持するシートフレームと、シートクッションの下方側かつ中央より車両前方側に、収縮した状態で収容されたエアバッグと、シートクッションに設けられエアバッグの上方への膨張展開に応じて破断する破断部と、シートフレームに固定され、エアバッグに膨張ガスを供給するインフレータとを備えることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平 6-183292号公報
【特許文献2】特開2009-143283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両が乗員の背部側から衝突を受ける後面衝突においては、乗員がシートのバックレスト部に強く押しつけられる。衝突のエネルギが大きい場合、乗員はさらに座席シートのバックレストを押し込もうとする。
しかし、バックレストを後方側へ押込み可能な量には、シートの構造上限界がある。限界に達した後は、バックレスト部が後傾する方向に倒れ込む挙動が生じ、乗員はバックレスト部の傾斜に沿って上方側かつ斜め後方側へずり上がる挙動を示す。
このようなずり上がり挙動は、後面衝突時に乗員傷害を軽減する安全装置であるヘッドレストから、乗員の頭部及び頸部が離脱する原因となる。
乗員の頭部及び頸部がヘッドレストから離脱すると、頸部や脳幹への傷害が悪化することが懸念される。
上述した問題に鑑み、本発明の課題は、後面衝突時の乗員保護性能を向上した車両用シートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するため、本発明の車両用シートは、乗員の大腿部及び臀部が載せられる座面部、及び、前記座面部の後部から上方へ張り出し、前記乗員の背部と接するバックレスト部を有する車両用シートであって、車両の衝突を検知又は予測する衝突検出部と、前記座面部の少なくとも後部を降下させる座面降下部と、前記バックレスト部を上端部が前進する方向へ回動させるバックレスト回動部と、前記衝突検出部による前記衝突の検知又は予測に応じて、前記座面降下部及び前記バックレスト回動部を作動させる乗員保護制御部とを備えることを特徴とする。
これによれば、衝突時に座面部を降下させて乗員の臀部を降下させることができる。
このとき、バックレスト部を上端部が前進する方向に回動させることにより、乗員の骨盤部を座面部とバックレスト部との間で拘束し、乗員の上体がバックレスト部をずり上がって頭部や頸部がヘッドレストから離脱することを防止し、脳幹や頸部等への傷害を抑制することができる。
【0006】
本発明において、前記乗員保護制御部は、前記座面降下部に前記座面部の少なくとも後部を降下させた後に、前記バックレスト回動部に前記バックレスト部の回動を行わせる構成とすることができる。
乗員の臀部(骨盤部)が降下した場合、乗員がバックレスト部の傾斜にそってずり下がる。バックレスト部の下部は、側方から見たときに通常前方側が凸となる凸面状となっていることから、乗員の上体には、バックレスト部にもたれかかって後傾した状態から、前傾方向へ回動する挙動が発生する。
本発明によれば、このような挙動に応じてバックレスト部の回動を行うことにより、比較的小さい駆動力によってバックレスト部を適切な位置まで回動させることができる。
これにより、バックレスト回動部の構成を簡素化することができる。
【0007】
本発明において、前記座面部は、硬質材料により形成されたシートパンと、前記シートパンの上部に設けられ弾性体を有するクッションとを有し、前記座面降下部は、前記シートパンの後部を支持する支持機構を無効化することで前記シートパンの少なくとも後部を降下させる構成とすることができる。
これによれば、乗員の自重を利用して簡単な構成により確実に座面部を降下させることができる。
【0008】
本発明において、前記シートパンは、前後方向における中間部に、前記シートパンの前部と後部との相対回動を許容する回動許容部を有し、前記座面降下部は、前記シートパンの前記後部を前記回動許容部回りに回動させることで前記後部を降下させる構成とすることができる。
これによれば、座面部の後部を前部に対して降下させることにより、大腿部に対して臀部が下がるよう乗員の下半身を傾斜させることが可能となり、乗員の前屈姿勢が強くなって骨盤等を拘束する効果を高めることができる。
【0009】
本発明において、前記座面降下部の作動時に、前記クッションの前記回動許容部に隣接する箇所を破断させるクッション破断部を有する構成とすることができる。
これによれば、座面降下部の作動時にクッションを破断させることにより、クッションが乗員の臀部の降下を妨げることがなく、上述した効果を確実に得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、後面衝突時の乗員保護性能を向上した車両用シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明を適用した車両用シートの第1実施形態の模式的側面視図であって、非衝突時の状態を示す図である。
【
図2】
図1のII-II部矢視模式的断面図である。
【
図3】第1実施形態の車両用シートの制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
【
図4】第1実施形態の車両用シートに設けられるシートパンロック機構の構成を示す模式的斜視図である。
【
図5】第1実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、後面衝突時の状態を示す図である。
【
図6】本発明を適用した車両用シートの第2実施形態の模式的側面視図であって、非衝突時の状態を示す図である。
【
図8】第2実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、後面衝突時の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明を適用した車両用シートの第1実施形態について説明する。
第1実施形態の車両用シートは、例えば、乗用車等の自動車の車室内に設けられる。
図1は、第1実施形態の車両用シート(以下「シート」と称する)を側方から見た状態を示す模式図であって、通常時(非衝突時)の状態を示す図である。
【0013】
図1に示すように、乗員Pは、頭部H、頸部N、上体UB、腕A、脚L、大腿部F、臀部B等を有する。
乗員Pは、一例として、車両前方側に上体UBの正面を向けて着座するものとする。
シート1は、ベース部10、シートクッション20、バックレスト30、ヘッドレスト40等を有する。
ベース部10は、シート1の下部に設けられる基部である。
ベース部10は、車室の床面部を構成する図示しないフロアパネルに、図示しないシートレールを介して、前後方向にスライド可能に取り付けられる。
【0014】
シートクッション20は、乗員Pの臀部B及び大腿部Fが載せられる座面部である。
シートクッション20は、ベース部10の上部に取り付けられる。
シートクッション20は、乗員Pの前後方向及び肩幅方向に沿って延在する上面部を有する。
乗員Pの脚Lのうち下肢部分は、シートクッション20の前端部から前方側へ投げ出された状態となる。
【0015】
シートクッション20は、シートパン21、クッション部22を有する。
シートパン21は、シートクッション20の下部に設けられ、乗員の大腿部、臀部の下面に対向するパネル状の部材である。
シートパン21は、クッション部22に対して硬質の材料(例えば金属やエンジニアリングプラスティック等)によって構成されている。
【0016】
シートパン21は、前部21a、後部21b、回動許容部21cを有する。
回動許容部21cは、シートパン21の前後方向における中間部に設けられている。
回動許容部21cは、後部21bを、前部21aに対して、乗員Pの肩幅方向(典型的には車両の車幅方向)に沿った軸回りに回動可能に支持するヒンジ状の部分である。
前部21aは、シートパン21における回動許容部21cよりも前方側の部分である。
全部21aは、ベース部10に固定されている。
【0017】
後部21bは、シートパン21における回動許容部21cよりも後方側の部分である。
後部21bは、後述するシートパンロック機構110の解除に応じて、後端部が降下する方向にベース部10に対して回動し、降下可能となっている。
後部21bの後端部は、シートパンロック機構110を介してベース部10に取り付けられている。
シートパンロック機構110の構成については、後に詳しく説明する。
【0018】
クッション部22は、シートパン21の上部に設けられている。
クッション部22は、例えば多孔質のウレタンフォーム等の弾性を有する材料によって構成されている。
クッション部22の表面には、例えば織物、編物、天然又は人工皮革などのシート表皮が被せられている。
【0019】
クッション部22の内部であって、回動許容部21cに隣接する領域には、ワイヤWが配置されている。
図2は、
図1のII-II部矢視断面図である。
ワイヤWは、クッション部22の内部を、乗員Pの肩幅方向(典型的には車両の車幅方向)に沿って延在するとともに、上下方向にジグザグ状に配置されている。
クッション部22は、例えば、成型用の金型内にワイヤWを予め設置した状態でウレタン樹脂を注入、発泡させるインサート成型によって製造することができる。
ワイヤWは、一方の端部を、後述するワイヤ牽引機構130が牽引することによって、クッション部22の材料を切断しつつ直線に近づくよう変位し、クッション部22が前後にほぼ二分されるよう分割する機能を有する。
ワイヤWのワイヤ牽引機構130側とは反対側の端部は、ベース部10に固定されている。
【0020】
バックレスト30は、乗員Pの上体UBの背部と対向して設けられた背もたれ部分である。
バックレスト30は、シートクッション20の後端部近傍から、上方側かつ斜め後方側へ張り出している。
バックレスト30の上端部は、車両の通常使用時において、乗員Pの肩部の後方側に配置されている。
バックレスト30は、下端部近傍に設けられた図示しない支軸回りに、ベース部10及びシートクッション20に対して、バックレスト30の上端部が前後する方向に回動可能となっている。
バックレスト30が乗員Pと接する面部における下方側の領域は、車幅方向から見たときに車両前方が凸となる凸面状となっている。
この凸面部は、後述する後面衝突乗員保護制御において、乗員Pの上体UBを起立させる機能を有する。
【0021】
ヘッドレスト40は、乗員Pの頭部Hの後方側に設けられ、頭部Hがシート1に対して後傾方向に回動した際に、頭部Hを拘束する部分である。
ヘッドレスト40は、バックレスト30の上端部から上方側へ突出して設けられている。
バックレスト30、ヘッドレスト40は、それぞれ例えば鋼などの金属材料等からなるフレームの周囲に、例えば多孔質体であるウレタンフォーム等の弾性を有する材料を設けて、衝撃吸収性(クッション性)を有するよう構成されている。
ヘッドレスト30、バックレスト40における乗員Pと接する面部には、シートクッション20と同様のシート表皮が設けられている。
【0022】
図3は、第1実施形態の車両用シートの制御システムの構成を模式的に示すブロック図である。
第1実施形態の車両用シートであるシート1には、以下説明する制御システムが設けられる。
制御システムは、シート制御ユニット100、環境認識ユニット200を有する。
シート制御ユニット100は、車両の衝突の検知、又は、車両の衝突の予測(衝突の前兆の検知)に応じて、以下説明するシートパンロック機構110、バックレスト回動機構120、ワイヤ牽引機構130等に作動指令を与える乗員保護制御部である。
環境認識ユニット200は、各種センサの出力に基づいて、自車両周囲の環境を認識するものである。
【0023】
シート制御ユニット100、環境認識ユニット200は、例えば、CPU等の情報処理部、RAMやROMなどの記憶部、入出力インターフェイス、及び、これらを接続するバス等を有して構成されている。
シート制御ユニット100と、環境認識ユニット200とは、例えばCAN通信システム等の車載LANを介して、あるいは直接に、通信可能となっている。
【0024】
シート制御ユニット100は、衝突センサ101を有する。
衝突センサ101は、車体に作用する前後方向、車幅方向等の加速度を検出する加速度センサを有する衝突検出部である。
シート制御ユニット100は、衝突センサ101が衝突時に特有の著大な加速度を検出した場合に、衝突判定を成立(衝突を検知)させるとともに衝突態様を判別する。
【0025】
衝突態様として、例えば、車両の前方から衝突を受ける前面衝突、車両の後方から衝突(典型的には追突)を受ける後面衝突、車両の側方から衝突を受ける側面衝突などがある。
これらの衝突態様は、衝突センサ101が検出した主な加速度の方向に基づいて判別することができる。
なお、シート制御ユニット100は、例えば、エアバッグ装置を統括的に制御するエアバッグ制御ユニットと共用する構成としてもよい。
【0026】
シートパンロック機構110は、車両の通常使用時(非衝突時)には、シートパン21の後部21bの後端部を、ベース部10に対して所定の高さにロックするとともに、シート制御ユニット100からの指令に応じて、ロックを解除して後部21bを脱落させるである。
シートパンロック機構110は、本発明の支持機構、座面降下部として機能する。
図4は、第1実施形態の車両用シートに設けられるシートパンロック機構の構成を示す模式的斜視図である。
【0027】
シートパンロック機構110は、シリンダ111、プランジャ112等を有する。
シリンダ111は、円筒状の部材であって、シートパン21の後部21bの後縁部に沿って、乗員Pの肩幅方向(車幅方向)に沿って延在している。
プランジャ112は、シリンダ111の両端部から、シリンダ111の中心軸方向に沿って突出した円柱状の部材である。
プランジャ112は、車両の通常使用時においては、シートパン21の後部21bに設けられた被係合部21dに挿入された状態となっている。
シリンダ111の内部には、プランジャ112を引き込む方向に駆動する例えば化薬(火薬)式などのアクチュエータが設けられている。
シートパンロック機構110は、シート制御ユニット100からの指令に応じて、プランジャ112をシリンダ111に引き込み、プランジャ112と被係合部21dとの係合を解除させ、シートパン21の後部21bをベース部10から脱落させる。
シートパンロック機構110は、本発明の座面降下部として機能する。
【0028】
バックレスト回動機構120は、シート制御ユニット100からの指令に応じて、バックレスト30を、上端部が前進する方向に所定の角度回動させるものである。
バックレスト回動機構120は、バックレスト30の下端部近傍において、ベース部10に取り付けられている。
バックレスト回動機構120は、例えば、化薬式のガス発生装置が発生するガスの圧力を駆動力とするガス式アクチュエータを有する構成とすることができる。
【0029】
ワイヤ牽引機構130は、シート制御ユニット100からの指令に応じて、シートクッション20のクッション部22に設けられたワイヤWを牽引し、クッション部22を切断するクッション破断部である。
ワイヤ牽引機構130は、例えば、化薬式のガス発生装置が発生するガスの圧力を駆動力とするガス式アクチュエータを有する構成とすることができる。
【0030】
第1実施形態のシート1を有する車両において、シート制御ユニット100が衝突センサ101の出力に基づいて衝突を検知(衝突判定を成立)しかつ衝突態様が後面衝突であると判別された場合、及び、環境認識ユニット200が衝突を予測(プリクラッシュ判定を成立)しかつ衝突態様が後面衝突であると判別された場合には、シート制御ユニット100は、以下説明する後面衝突乗員保護制御を実行する。
【0031】
先ず、シート制御ユニット100は、シートパンロック機構110のロックを解除する。
また、これと同時に、シート制御ユニット100は、ワイヤ牽引機構130にワイヤWを牽引させ、クッション部22を前後方向における中間部で切断する。
これにより、シートパン21の後部21bは、乗員Pの自重により、ベース部10に対して、後端部21bが落下する方向へ回動する。
このとき、乗員の臀部B(骨盤部分)は降下する。この降下に応じて、乗員Pの上体UBは、バックレスト30の傾斜に沿ってずり下がりつつ後傾状態から頭部Hが前進する方向に起立する。
【0032】
シートパンロック機構110とワイヤ牽引機構130との作動後、所定の遅延時間が経過した後に、シート制御ユニット100は、バックレスト回動機構120に指令を与え、バックレスト30を上端部が前進する方向に回動させる。
遅延時間は、乗員Pの上体UBが起立するまでの時間を考慮して設定することができる。
【0033】
図5は、第1実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、後面衝突時の状態を示す図である。
衝突後には、上述した後面衝突乗員保護制御を実行することにより、シートクッション20の座面部の後半部が降下する。このため、乗員Pの臀部Bは、座面部をずり下がるように後退しつつ降下する。
この臀部Bの挙動に応じて、乗員Pの上体UBはバックレスト30の斜面をずりさがりつつ、起立する(頭部Hが臀部Bに対して前進する)方向に回動する。
この上体UBの回動に応じて、バックレスト30が、上端部が前進する方向に回動する。
その結果、乗員の臀部B(骨盤部分)は、シートクッション20とバックレスト30との間に挟み込まれるようにして拘束され、後面衝突の衝撃によって乗員Pの上体UBがバックレスト30の斜面をずり上がる挙動が抑制される。
【0034】
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)後面衝突の検知又は予測に応じて、シートクッション20のシートパン21及びシートクッション22の後部(以下シートクッション20の後部と総称する)を降下させて乗員Pの臀部Bを降下させ、バックレスト30を上端部が前進する方向に回動させることにより、乗員Pの骨盤部をシートクッション20とバックレスト30との間で拘束し、乗員Pの上体UBがバックレスト30をずり上がって頭部Hや頸部Nがヘッドレスト40から離脱することを防止し、脳幹や頸部等への傷害を抑制することができる。
(2)乗員Pの臀部B(骨盤部)が降下した場合、乗員Pがバックレスト30の傾斜にそってずり下がることにより、乗員Pの上体UBには、バックレスト30にもたれかかって後傾した状態から、前傾方向へ回動する挙動が発生する。
本実施形態によれば、シートクッション20の後部の降下を行った後、所定の遅延時間の経過後に、このような挙動に応じてバックレスト30の回動を行うことにより、比較的小さい駆動力によってバックレスト30を適切な位置まで回動させることができる。
(3)シートクッション20の後部の降下を、シートパン21の後部21bの後端部のロックを解除するシートパンロック機構110によって行うことにより、乗員Pの自重を利用して簡単な構成により確実にシートクッション20の下部を降下させることができる。
(4)シートパン21は、前後方向における中間部に、前部21aと後部21bとの相対回動を許容する回動許容部21cを設け、シートパン21の後部21bを回動許容部21c回りに回動させることで後部21bを降下させることにより、シートクッション20の後部を前部に対して降下させることにより、大腿部Fに対して臀部Bが下がるよう乗員Pの下半身を傾斜させることが可能となり、乗員Pの前屈姿勢が強くなって骨盤等を拘束する効果を高めることができる。
(5)シートクッション20の後部を降下させる際に、クッション部22の回動許容部21cに隣接する箇所を破断させることにより、クッション部22が乗員Pの臀部Bの降下を妨げることがなく、上述した効果を確実に得ることができる。
【0035】
<第2実施形態>
次に、本発明を適用した車両用シートの第2実施形態について説明する。
第2実施形態において、上述した第1実施形態と同様の箇所には同じ符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
図6は、第2実施形態の車両用シートを側方から見た状態を示す模式図であって、通常時(非衝突時)の状態を示す図である。
図7は、
図6のVII-VII部矢視図である。
【0036】
第2実施形態のシート1Aは、第1実施形態のバックレスト回動機構120に代えて、以下説明する連動レバー50を用いてバックレスト30を回動させるものである。
連動レバー50は、バックレスト締結部51、アーム部52等を備えている。
バックレスト締結部51は、バックレスト30の側縁部における下部において、バックレスト30のフレームに締結される部分である。
バックレスト締結部51は、バックレスト30の側面視における長手方向に沿って延在するプレート状に形成されている。
バックレスト締結部51の下端部(シートクッション20と隣接する側の端部)は、バックレスト30の下端部と隣接して配置されている。
図7に示すように、連動レバー50は、例えばシート1Aの左右に一対設けられている。
【0037】
アーム部52は、バックレスト締結部51の下端部から前方側へ突出したレバー状の部分である。
図6に示す衝突前の状態においては、アーム部52の突端部(前端部)は、シートパン21の後部21bの下側に配置されている。
アーム部52の突端部には、シートパン21の後部21bが降下する際に、後部21bと係合して下方に押圧される図示しない係合部が設けられている。
【0038】
図8は、第2実施形態の車両用シートの模式的側面視図であって、後面衝突時の状態を示す図である。
第2実施形態においては、後面衝突の検知及び予測に応じて、シート制御ユニット100が、シートパンロック機構110を作動させてシートパン21の後部21bを降下させると、連動レバー50のアーム部52の突端部が押し下げられる。
これにより、バックレスト30を上述した支軸回りに上端部が前進する方向に回動させるモーメントが発生し、バックレスト30は回動する。
以上説明した第2実施形態によれば、上述した第1実施形態の効果と同様の効果((2)項に記載した効果を除く)と同様の効果に加えて、さらに、バックレストの回動が乗員Pの自重によるシートパン21の後部21bの降下と連動して行われるため、バックレスト30を回動させるために専用のアクチュエータを必要とすることがなく、装置構成を簡素化することができる。
【0039】
(変形例)
本発明は、以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の技術的範囲内である。
(1)車両用シート、車両用シートの制御システム、及び、車両の構成は、上述した各実施形態に限定されず、適宜変更することができる。車両用シートを構成する各構成要素の形状、構造、材質、製法、配置、個数や、その制御システムを構成する各ユニットの機能、センサの種類などは、適宜変更することができる。
(2)第1実施形態においては、座面部の降下(ロック解除)、クッションの切断(ワイヤ牽引)、バックレスト部の回動を、それぞれ独立したアクチュエータによって行っているが、複数の動作を単一のアクチュエータを用いて連動して行う構成としてもよい。また、アクチュエータの種類も化薬式(火薬式)のものに限らず、例えば電動アクチュエータなど他種のアクチュエータを用いてもよい。
【符号の説明】
【0040】
1 シート(第1実施形態) 1A シート(第2実施形態)
10 ベース部 20 シートクッション
21 シートパン 21a 前部
21b 後部 21c 回動許容部
21d 被係合部 22 クッション部
30 バックレスト 40 ヘッドレスト
100 シート制御ユニット 101 衝突センサ
110 シートパンロック機構 111 シリンダ
112 プランジャ 120 バックレスト回動機構
130 ワイヤ牽引機構 W ワイヤ
200 環境認識ユニット 210 可視光カメラ装置
220 ミリ波レーダ装置 230 レーザスキャナ装置
P 乗員 H 頭部
N 頸部 UB 上体
A 腕 L 脚
B 臀部 F 大腿部